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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B29C
管理番号 1352525
審判番号 不服2019-3623  
総通号数 236 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-08-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-03-15 
確定日 2019-06-18 
事件の表示 特願2018- 8631「造形用粉末」拒絶査定不服審判事件〔、請求項の数(6)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成30年1月23日の出願であって、同年9月26日付けで拒絶理由通知がされ、同年11月30日付けで手続補正書及び意見書の提出がされ、同年12月10日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、平成31年3月15日に拒絶査定不服審判の請求がされ、同年3月22日付けで審判請求書についての手続補正書(方式)が提出されたものである。

第2 原査定の概要
原査定の概要は次のとおりである。

本願請求項1-6に係る発明は、以下の引用文献1-3に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

<引用文献>
1.特表2006-508217号公報
2.特開2016-862号公報(周知事項を示す文献)
3.特開2015-182435号公報(周知事項を示す文献)

第3 本願発明
本願請求項1-6に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明6」という。)は、平成30年11月30日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-6に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1-6は以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
フッ素樹脂の粉体を含む粉末床溶融結合法用の造形材料であって、
前記フッ素樹脂の粉体の静嵩密度が、0.3g/ml以上1.5g/ml以下であり、
前記フッ素樹脂の粉体の粒径が、D50で、10μm以上300μm以下である、
造形材料。
【請求項2】
前記フッ素樹脂の粉体のハウズナー比が、1.10以上1.30以下である、請求項1に記載の造形材料。
【請求項3】
前記フッ素樹脂の粉体の真球度が、0.60以上である、請求項1または2に記載の造形材料。
【請求項4】
前記フッ素樹脂の粉体の真球度が、0.70以上0.95以下である、請求項1?3のいずれか1項に記載の造形材料。
【請求項5】
前記フッ素樹脂が、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルコキシエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、またはエチレン-テトラフルオロエチレン共重合体である、請求項1?4のいずれか1項に記載の造形材料。
【請求項6】
さらにシリカ粒子を含む、請求項1?5のいずれか1項に記載の造形材料。」

第4 引用文献の記載、引用発明等
1.引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献1には、以下の記載がある。(下線は、合議体が付した。以下、この審決中において同様である。)

「【請求項2】
レーザ焼結により三次元物体を製造するためのポリマー粉末であって、前記粉末は、BET面積が6m^(2)/gより小さく、同時に粒状物上限が100μm未満であり、D_(0.9)値が90μm未満であり、D_(0.5)値が60μm未満であり、前記粉末の粒子が基本的に球形をしていることを特徴とするポリマー粉末。」

「【0011】
製造する物体の表面の細かい部分および品質の点で高い精度を持たせるために、プラスチック粉末は、100μmの粒径の上限を有し、その90%の部分(D_(0.9)値)は90μm未満でなければならない。さらに、層を安定して塗布するために、粉末の10%の部分(D_(0.1)値)は32μmより小さくなければならない。さらに、粒子の粒状物の形は球形でなければならない。この粒状物の形も、平滑で平らな表面を形成するために必要なものである。」

「【0019】
図1を見れば分かるように、レーザ焼結方法を行うためのデバイスは、円周方向に閉じている側壁だけで形成されているコンテナ1を備える。側壁またはコンテナ1の上縁部2により動作面6が画定される。コンテナ1内には、形成する物体3をサポートするためのキャリア4が位置する。物体は、キャリア4の上面上に位置していて、電磁放射線により凝固することができ、キャリア4の上面に平行に延びる微粉状の積層材料の複数の層から形成されている。高さ調整デバイスにより、キャリア4は垂直方向に、すなわちコンテナ1の側壁に平行に移動することができる。それにより、動作面6に対するキャリア4の位置を調整することができる。
【0020】
コンテナ1および動作面6のそれぞれの上には、キャリア面5または前に凝固した層の上に凝固する粉末材料11を供給するための供給デバイス10が位置する。さらに、動作面6上には、レーザ7の形をしている照射装置が配置されていて、例えば、回転可能なミラーのような偏向デバイス9による偏向ビーム8’として、動作面6の方向に偏向しているある方向を向いた光ビーム8を照射する。
【0021】
三次元物体3を製造する際に、粉末材料11は、物体に対応する各粉末層の位置に、キャリア4上または前に凝固した層上に各層毎に供給され、レーザ・ビーム8’により凝固する。それにより、キャリア4は層の高さだけ下降する。」

「【0031】
・・・粉末の粒径分布は、レーザ・ビーム内の光の散乱および窒素の吸着によるBET面積によりそれぞれ測定した。D_(0.1)は、レーザ散乱によるそれに対するミクロン単位での直径を示し、粉末容量の10%は全粒状物分布内のこの直径より小さく、D_(0.5)は、レーザ散乱によるそれに対するミクロン単位での直径を示し、粉末容量の50%は全粒状物分布内のこの直径より小さく、D_(0.9)は、レーザ散乱によるそれに対するミクロン単位での直径を示し、粉末容量の90%は全粒状物分布内のこの直径より小さい。」






2.引用発明
引用文献1の上記1.の記載によれば、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。(なお、上記1.の請求項2の「粒状物上限」は、同【0011】及び【0031】の記載からみて、「粒状物粒子の粒径の上限」を意味すると解されるし、また、同請求項2の「粒子」は「粒状物粒子」と解される。)

「以下のレーザ焼結による三次元物体の製造方法に使用するためのポリマー粉末であって、BET面積が6m^(2)/gより小さく、同時に粒状物粒子の粒径の上限が100μm未満であり、D_(0.9)値が90μm未満であり、D_(0.5)値が60μm未満であり、前記粉末の粒状物粒子が基本的に球形をしているポリマー粉末。
<レーザ焼結による三次元物体の製造方法>
・三次元物体は、キャリアの上面上に位置し、レーザ・ビームにより凝固することができ、キャリアの上面に平行に延びる粉末状の積層材料の複数の層から形成されている。
・三次元物体を製造する際に、粉末は、三次元物体に対応する各粉末層の位置に、キャリア上または前に凝固した層上に各層毎に供給され、レーザ・ビームにより凝固するキャリア面または前に凝固した層の上に凝固する粉末が供給される。」

3.引用文献2-3について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献2-3には、以下の技術的事項が記載されている。

(1)引用文献2
ア 引用文献2には、以下の記載がある。
「【請求項1】
多孔質基体材料
および多孔質焼結ナノ粒子材料の層を含み、
前記多孔質焼結ナノ粒子材料の層は、前記多孔質基体の1つまたは複数の表面上にあり、前記多孔質基体材料の一部分に侵入しており、前記多孔質焼結ナノ粒子材料は、前記多孔質基体材料における細孔よりも小さい細孔を有する、焼結多孔質コンポジット材料。」

「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
機械的に強く、広い表面積の、小さな細孔を持つ材料を持つことが望ましい。さらに、異なる材料でかつ様々な形状およびサイズにおいてこれらの性質を持つ目的物を作製することができることが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の1実施形態は、多孔質基体材料と粉末ナノ粒子材料とから構成される多孔質コンポジット材料である。多孔質基体材料は、多孔質基体材料の一部分に侵入している粉末ナノ粒子材料を有する。多孔質基体材料に侵入する粉末ナノ粒子は、次いで、多孔質基体材料の細孔内で多孔質焼結ナノ粒子材料を形成するために、相互溶融によって互いに相互結合しても良く、あるいは焼結され得る。好ましくは、この焼結多孔質コンポジット材料は、その中を通過する流体の流動を可能とし、好ましくは、篩分によって流体から粒子を除去する、焼結ナノ粒子コンポジット材料の厚さ全体にわたりナノメートルおよびサブナノメートルサイズの細孔を含む。多孔質焼結ナノ粒子材料の細孔は、基体材料よりも小さく、多孔質焼結ナノ粒子材料を通して流体の流動を可能とし、かつ約5000ナノメートル未満、好ましくは、1000ナノメートル未満、さらに好ましくは200ナノメートル未満、なおさらに好ましくは50ナノメートル未満の最大寸法を有し得る。・・・」

「【0009】
コンポジットを作り上げている粉末ナノ粒子材料は、約1000ナノメートル未満の寸法を有し得る。多孔質基体材料と同様に、これらのナノ粒子材料は、金属、金属合金、セラミック、熱可塑性プラスチックまたはこれらの材料の混合物であっ得る。最初のナノ粒子は、多孔質基体材料中に侵入できるものでなければならず、球状、樹状、繊維状またはこれらの粒子の混合物を含むがこれらに限定されない形状を有し得る。好ましい粉末ナノ粒子材料としては、ニッケルの樹枝状結晶またはニッケルを含む合金が挙げられる。
【0010】
焼結多孔質コンポジット材料は、電極要素、触媒要素またはフィルター要素に作られ得る。要素はハウジングまたは、焼結多孔質コンポジット材料の一体性を維持し、機械的支持を与えかつ流体系への要素の接続を可能とするその他の適当な構造体に結合され得る。」

「【0017】
形成された焼結多孔質コンポジット材料は、流体をろ過して、懸濁した粒子または汚染物質を流体から除去するために使用され得る。焼結多孔質コンポジット材料は、また、材料の細孔内に超臨界流体を含み得る。流体をろ過する方法は、多孔質基体と、基体の細孔に侵入している焼結多孔質ナノ粒子材料とを含む焼結多孔質コンポジット要素を提供する工程および基体の1つまたは複数の表面上に多孔質層を形成する工程、および粒子のような汚染物質を伴う流体を要素に通して流体から1種または複数種の粒子を除去する工程を含む。好ましくは、粒子は篩分ろ過によって除去される。焼結多孔質コンポジット要素は、小さな粒子のための篩分ろ過を提供し得、超臨界流体のろ過の場合に都合が良い。要素の多孔質基体は、機械的支持を提供して、基体の1つまたは複数の表面上の焼結ナノ粒子材料の多孔質層が超臨界流体系における高圧に耐えることを可能にする。基体の細孔内および基体の表面上における焼結多孔質ナノ粒子材料は、様々な流体に対する篩分ろ過を提供し得る。超臨界流体の低い粘性および表面張力は、そのようなフィルター要素全体にわたる圧力損失を最小にすることができる。焼結多孔質コンポジット材料の広い表面積は、高い粒子保持性および収容能力、低減された圧力損失を提供し、小さなフートプリントの構成要素の作製を可能とする。小さな直径の構成要素は、あらゆる加圧流体系にとって機械的に都合が良い。なぜならば、系全体の圧力が増加するにつれて、構成要素の壁厚はそのような圧力に耐えなければならないからである。これは、材料コストならびに構成要素のサイズを増加させる。」

「【0028】
・・・ナノ粒子の組成は、金属または金属合金であり得る。・・・多孔質コンポジット材料を作製するのに有用なセラミックまたは金属酸化物粉末としては、アルミナ、シリカ・・・挙げられるがこれらに限定されない。例えば、0.16ミクロンの名目直径を持つテフロン(Teflon)(登録商標)307 AのようなPFTE材料も使用され得、水性分散体の形態でデュポン社(Dupont)から市販されている。超高分子量ポリエチレンのような熱可塑性プラスチック、ポリ(テトラフルオロエチレン-コ-ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)、(ポリ(PTFE-コ-PFVAE))またはポリ(テトラフルオロエチレン-コ-ヘキサフルオロプロピレン)またはこれらの材料のブレンド(デュポン社から市販されている)も使用され得る。・・・」

イ 上記記載によれば、引用文献2には、多孔質基体材料と前記多孔質基体材料における細孔よりも小さい細孔を有する粉末ナノ粒子材料とから構成される、懸濁した粒子または汚染物質を流体から除去するためのフィルター要素等の用途に使用される、焼結多孔質コンポジット材料が開示されており、当該焼結多孔質コンポジット材料を構成するナノ粒子の材料として、PFTE(ポリテトレフルオロエチレン)材料、ポリ(テトラフルオロエチレン-コ-ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)、ポリ(テトラフルオロエチレン-コ-ヘキサフルオロプロピレン)、又はこれらの材料のブレンドが使用可能であることも開示されていると認められる。

(2)引用文献3
ア 引用文献3には、以下の記載がある。
「【0066】
以下、各成分について詳細に説明する。
≪三次元造形用粉末≫
三次元造形用粉末は、複数個の粒子で構成されている。
【0067】
粒子としては、いかなる粒子を用いることができるが、多孔質の粒子(多孔質粒子)で構成されていることが好ましい。これにより、三次元造形物を製造する際に、結合液中の結合剤を空孔内に好適に侵入させることができ、結果として、機械的強度に優れた三次元造形物の製造に好適に用いることができる。
【0068】
三次元造形用粉末を構成する多孔質粒子の構成材料としては、例えば、無機材料や有機材料、これらの複合体等が挙げられる。
【0069】
多孔質粒子を構成する無機材料としては、例えば、各種金属や金属化合物等が挙げられる。・・・
【0070】
多孔質粒子を構成する有機材料としては、例えば、合成樹脂、天然高分子等が挙げられ、より具体的には、ポリエチレン樹脂;ポリプロピレン;ポリエチレンオキサイド;ポリプロピレンオキサイド、ポリエチレンイミン;ポリスチレン;ポリウレタン;ポリウレア;ポリエステル;シリコーン樹脂;アクリルシリコーン樹脂;ポリメタクリル酸メチル等の(メタ)アクリル酸エステルを構成モノマーとする重合体;メタクリル酸メチルクロスポリマー等の(メタ)アクリル酸エステルを構成モノマーとするクロスポリマー(エチレンアクリル酸共重合樹脂等);ナイロン12、ナイロン6、共重合ナイロン等のポリアミド樹脂;ポリイミド;カルボキシメチルセルロールス;ゼラチン;デンプン;キチン;キトサン等が挙げられる。
【0071】
中でも、多孔質粒子は、無機材料で構成されたものであるのが好ましく、金属酸化物で構成されたものであるのがより好ましく、シリカで構成されたものであるのがさらに好ましい。これにより、三次元造形物の機械的強度、耐光性等の特性を特に優れたものとすることができる。また、特に、多孔質粒子がシリカで構成されたものであると、前述した効果がより顕著に発揮される。また、シリカは、流動性にも優れているため、厚さの均一性がより高い層1の形成に有利であるとともに、三次元造形物の生産性、寸法精度を特に優れたものとすることができる。」

「【0079】
三次元造形用粉末を構成する粒子の平均粒径は、特に限定されないが、1μm以上25μm以下であるのが好ましく、1μm以上15μm以下であるのがより好ましい。これにより、三次元造形物の機械的強度を特に優れたものとすることができるとともに、製造される三次元造形物における不本意な凹凸の発生等をより効果的に防止し、三次元造形物の寸法精度を特に優れたものとすることができる。また、三次元造形用粉末の流動性、三次元造形用粉末を含む三次元造形用組成物の流動性を特に優れたものとし、三次元造形物の生産性を特に優れたものとすることができる。なお、本発明において、平均粒径とは、体積基準の平均粒径を言い、例えば、サンプルをメタノールに添加し、超音波分散器で3分間分散した分散液をコールターカウンター法粒度分布測定器(COULTER ELECTRONICS INS製TA-II型)にて、50μmのアパチャーを用いて測定することにより求めることができる。
【0080】
三次元造形用粉末を構成する粒子のDmaxは、3μm以上40μm以下であるのが好ましく、5μm以上30μm以下であるのがより好ましい。これにより、三次元造形物の機械的強度を特に優れたものとすることができるとともに、製造される三次元造形物における不本意な凹凸の発生等をより効果的に防止し、三次元造形物の寸法精度を特に優れたものとすることができる。また、三次元造形用粉末の流動性、三次元造形用粉末を含む三次元造形用組成物の流動性を特に優れたものとし、三次元造形物の生産性を特に優れたものとすることができる。また、製造される三次元造形物の表面における、粒子による光の散乱をより効果的に防止することができる。
【0081】
粒子が多孔質粒子の場合、多孔質粒子の空孔率は、50%以上であるのが好ましく、55%以上90%以下であるのがより好ましい。これにより、結合剤が入り込む空間(空孔)を十分に有するとともに、多孔質粒子自体の機械的強度を優れたものとすることができ、結果として、空孔内に結合樹脂が侵入してなる三次元造形物の機械的強度を特に優れたものとすることができる。なお、本発明において、粒子の空孔率とは、粒子の見かけ体積中に対する、粒子の内部に存在する空孔の割合(体積率)のことを言い、粒子の密度をρ[g/cm^(3)]、粒子の構成材料の真密度ρ_(0)[g/cm^(3)]としたときに、{(ρ_(0)-ρ)/ρ_(0)}×100で表される値である。
【0082】
粒子が多孔質粒子の場合、多孔質粒子の平均空孔径(細孔直径)が10nm以上であるのが好ましく、50nm以上300nm以下であるのがより好ましい。これにより、最終的に得られる三次元造形物の機械的強度を特に優れたものとすることができる。また、三次元造形物の製造に、顔料を含む着色結合液を用いる場合において、顔料を多孔質粒子の空孔内に好適に保持することができる。このため、不本意な顔料の拡散を防止することができ、高精細な画像をより確実に形成することができる。
【0083】
三次元造形用粉末を構成する粒子は、いかなる形状を有するものであってもよいが、球形状をなすものであるのが好ましい。これにより、三次元造形用粉末の流動性、三次元造形用粉末を含む三次元造形用組成物の流動性を特に優れたものとし、三次元造形物の生産性を特に優れたものとすることができるとともに、製造される三次元造形物における不本意な凹凸の発生等をより効果的に防止し、三次元造形物の寸法精度を特に優れたものとすることができる。
【0084】
三次元造形用粉末は、前述したような条件(例えば、前記粒子の構成材料、疎水化処理の種類等)が互いに異なる複数種の粒子を含むものであってもよい。
【0085】
三次元造形用粉末の空隙率は、70%以上98%以下であるのが好ましく、75%以上97.7%以下であるのがより好ましい。これにより、三次元造形物の機械的強度を特に優れたものとすることができる。また、三次元造形用粉末の流動性、三次元造形用粉末を含む三次元造形用組成物の流動性を特に優れたものとし、三次元造形物の生産性を特に優れたものとすることができるとともに、製造される三次元造形物における不本意な凹凸の発生等をより効果的に防止し、三次元造形物の寸法精度を特に優れたものとすることができる。なお、本発明において、三次元造形用粉末の空隙率とは、所定容量(例えば、100mL)の容器内を三次元造形用粉末で満たした場合における、前記容器の容量に対する、三次元造形用粉末を構成する全粒子が有する空孔の体積と、粒子間に存在する空隙の体積との和の比率のことを言い、三次元造形用粉末の嵩密度をρ[g/cm^(3)]、三次元造形用粉末の構成材料の真密度ρ_(0)[g/cm^(3)]としたときに、{(ρ_(0)-ρ)/ρ_(0)}×100で表される値である。」

イ 上記記載によれば、引用文献3には、合成樹脂からなっていてもよい平均粒径が1μm以上25μm以下の複数個の多孔質粒子で構成される三次元造形用粉末であって、該粉末の嵩密度をρ[g/cm^(3)]、該粉末の構成材料の真密度ρ_(0)[g/cm^(3)]としたときに、{(ρ_(0)-ρ)/ρ_(0)}×100で表される値である空隙率が、70%以上98%以下である三次元造形用粉末が開示されていると認められる。


第5 対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「<レーザ焼結による三次元物体の製造方法>」は、本願発明1の「粉末床溶融結合法」に相当し、引用発明の「レーザ焼結による三次元物体の製造方法に使用するためのポリマー粉末」は、本願発明1の「粉体を含む粉末床溶融結合法用の造形材料」に相当する。
イ 本願発明1の粉体の粒径「D50」は、本願明細書の【0022】に記載のとおり、「全体積を100%とした累積曲線において、粒径の小さい方からの累積値が・・・50%・・・となる点の粒径を意味する」ところ、引用発明における粒状物粒子の粒径「D_(0.5)値」は、甲1の【0031】に記載のとおり、粉末の粒径分布をレーザ・ビーム内の光の散乱により測定した場合の、粉末容量の50%に相当するミクロン単位での直径を示すものであるから、引用発明の「粉体」についての「D_(0.5)値」は、本願発明1の「粒状物粒子」についての「D50」に相当する。
そして、引用発明の「粒状物粒子の粒径」の「D_(0.5)値」についての「60μm未満」の範囲は、本願発明1の「粉体の粒径」の「D50」についての「10μm以上300μm以下」の範囲と、「粉体の粒径が、(D50で、)300μm以下」である限りにおいて重複一致している。
ウ 本願発明1の(粉体の)「フッ素樹脂」と引用発明の(粉末の)「ポリマー」とは、「有機材料」である限りにおいて一致している。

したがって、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

<一致点>
「有機材料粉体を含む粉末床溶融結合法用の造形材料であって、
有機材料粉体の粒径が、D50で、300μm以下である、
造形材料。」

<相違点1>
粉末床溶融結合法用の造形材料に含まれる有機材料粉体について、本願発明1では、「フッ素樹脂」からなり、「静嵩密度が、0.3g/ml以上1.5g/ml以下」と特定されているのに対し、引用発明では、「ポリマー」からなると特定されており、また、静嵩密度についての特定はない点。
<相違点2>
粉末床溶融結合法用の造形材料に含まれる有機材料粉体のD50での粒径について、本願発明1では、「10μm以上(300μm以下)」と特定されているのに対し、引用発明では、下限の特定がない点。

(2)相違点についての判断
まず、上記相違点1について検討する。
引用文献2には、上記第4の3.(1)イに記載の技術的事項が開示されているし、また、引用文献3には、同第4の3.(2)イに記載の技術的事項が開示されているが、これらの引用文献には、「フッ素樹脂」からなる「静嵩密度が、0.3g/ml以上1.5g/ml以下」の粉体については開示されていない上、これらの引用文献には、「静嵩密度が、0.3g/ml以上1.5g/ml以下」の粉体を示唆する記載もない。
そして、レーザ焼結による三次元物体の製造方法に使用するためのポリマー粉末として、「フッ素樹脂」からなる「静嵩密度が、0.3g/ml以上1.5g/ml以下」の粉体を用いることが本願の出願前に周知の技術であったとも認められない。
そうすると、当業者は、引用文献2、3を参酌しても、上記相違点1に係る本願発明1の構成を導き出せないのであるから、引用発明において、三次元物体の製造方法に使用するためのポリマー粉末を、上記相違点1に係る本願発明1の構成を備えたものとすることを当業者が容易に想到し得たことであるということはできない。

したがって、相違点2について検討するまでもなく、本願発明1は、引用発明(引用文献1に記載の発明)及び引用文献2-3に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

なお、原査定の拒絶理由に関し、平成30年9月26日付けの拒絶理由通知書には、本願発明1等と引用発明との相違点に関し、「引用文献2にみられるように、多孔質基体材料は、セラミック、ポリマー材料またはこれらのコンポジットであり、多孔質基体は、焼結され、コンポジット材料を形成するために使用されるナノ粒子は、球状であってよく、・・・PFTE材料も使用され得、・・・ポリ(テトラフルオロエチレン-コ-ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)、(ポリ(PTFE-コ-PFVAE))またはポリ(テトラフルオロエチレン-コ-ヘキサフルオロプロピレン)またはこれらの材料のブレンドも使用され得ることは周知事項であるから、引用文献1に記載の発明において、当該周知事項を適用し、焼結するのであれば、フッ素樹脂の粉体を含み、・・フッ素樹脂の種類を特定することは、当業者であれば適宜になし得る設計的事項にすぎないものである。」と記載されているので検討する。
まず、引用発明は、レーザー焼結による三次元物体の製造方法(つまり、三次元造形)についてのものである一方、引用文献2に開示される技術は、焼結多孔質コンポジット材料の技術に関するものであって(上記第4の3.(1)イ参照。)、三次元造形の技術についてのものではなく、両者は、技術分野が異なる。
また、引用発明は、レーザー焼結に特に適した粉末を提供することを目的とし(引用文献1の【0015】)、その目的を達成するために、ポリマー粉末の「BET面積が6m^(2)/gより小さく」なるようにする点に特徴を有しており、当該特徴により、粉末の多孔性が低くなり粉末床の密度が増大し、レーザー焼結の際の粉末の反応性等が低減され、分解プロセスが起こりにくくなるのであり(同【0012】)、粉末は、多孔性でないものが好ましいとされている(同【0006】)。一方、引用文献2に開示される技術は、フィルター要素等の用途に使用されるもので、焼結多孔質コンポジット材料を形成するためのナノ粒子自体が、「多孔質」である点に特徴を有している(上記第4の3.(1)ア、イ参照。)。
そうすると、引用文献2に開示される多孔質ナノ粒子に関する技術を、粉末の多孔性が低い点(BET面積が6m^(2)/gより小さい点)に特徴を有する引用発明に適用する動機付けはない。
よって、引用発明において、フッ素樹脂の粉体を含むものとすることが、当業者が適宜なし得る設計的事項であるということはできない。

また、上記平成30年9月26日付けの拒絶理由通知書には、「静嵩密度を特定する点について、上記文献3の周知事項(段落【0079】乃至段落【0085】)を参照のこと」と記載されている。
しかし、引用文献3の【0079】?【0085】の記載は、上記第4の3.(2)アに摘記したとおりであり、引用文献3には、三次元造形用粉末の嵩密度をρ[g/cm^(3)]、該粉末の構成材料の真密度ρ_(0)[g/cm^(3)]としたときに、{(ρ_(0)-ρ)/ρ_(0)}×100で表される値である空隙率を、70%以上98%以下とした三次元造形用粉末が記載されているのみで、該粉末の嵩密度(これは、本願発明1の「静嵩密度」に相当すると解される。)は「ρ[g/cm^(3)]」であり、具体的な値の記載はない。また、引用文献3には、三次元造形用粉末を構成する材料として多岐にわたる樹脂が記載されている(【0070】)が、「フッ素樹脂」に該当するものは記載されていない。
そうすると、引用文献3の【0079】?【0085】の記載を参酌しても、引用発明のポリマー粉末を本願発明1の相違点に係る構成(特定の静嵩密度のフッ素樹脂粉体とする点)は、導き出せない。

さらに、引用文献3の三次元造形用粉末は、多孔質粒子で構成されていることが好ましく(【0067】)、その場合の空孔率は55%以上90%以下がより好ましい(【0081】)ものであり、多孔性が高いことによって、(三次元造形物とするための)結合剤が入り込む空間(空孔)を十分に有することができるとともに、多孔質粒子自体の機械的強度を優れたものとすることができ、結果として、空孔内に結合樹脂が侵入してなる三次元造形物の機械的強度を特に優れたものとすることができるものである(同【0081】)一方、引用発明の粉末は、レーザ焼結による三次元物体の製造方法に用いられる粉末であって、多孔性でないものが好ましいとされるのであるから、引用発明の粉末の改良にあたり、レーザ焼結の際の分解プロセスがより起こりやすくなることが明らかな、引用文献3に開示される多孔性の粉末材料についての技術を組み合わせて適用する動機付けもない点を付記する。

2.本願発明2-6について
本願発明2-6は、本願請求項1を直接あるいは間接的に引用する請求項に係る発明であるところ、これらの発明はいずれも、本願発明1の上記相違点1及び2に係る構成を備えているから、本願発明2-6と引用発明とは、少なくとも、上記1.(1)で記載した相違点1及び2で相違している。
そして、上記相違点1についての判断は上記1.(2)で記載したとおりである。
そうすると、少なくとも上記の相違点1で引用発明と相違する本願発明2-6について、引用発明(引用文献1に記載の発明)及び引用文献2-3に記載の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。


第6 むすび
以上のとおり、本願発明1-6は、いずれも、当業者が引用文献1に記載の発明及び引用文献2-3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるということはできない。
したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-06-04 
出願番号 特願2018-8631(P2018-8631)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B29C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 田代 吉成  
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 渕野 留香
植前 充司
発明の名称 造形用粉末  
代理人 山田 卓二  
代理人 吉田 環  

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