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審決分類 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B24C
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B24C
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B24C
管理番号 1352546
審判番号 不服2016-18698  
総通号数 236 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-08-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-12-13 
確定日 2019-06-12 
事件の表示 特願2012-180695「円筒形物体のサンドブラストを容易にするための固定治具」拒絶査定不服審判事件〔平成25年3月4日出願公開、特開2013-43281〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年8月17日(パリ条約による優先権主張2011年8月25日(US)アメリカ合衆国)の出願であって、その手続の主な経緯は以下のとおりである。
平成27年 8月10日 :手続補正書の提出
平成28年 4月19日付け:拒絶理由通知書
同 年 7月20日 :意見書、手続補正書の提出
同 年 8月10日付け:拒絶査定
同 年12月13日 :審判請求書の提出
平成30年 4月25日付け:拒絶理由通知書
同 年 7月26日 :意見書、手続補正書の提出
同 年 8月15日付け:拒絶理由通知書(最後)
同 年11月15日 :意見書、手続補正書の提出

第2 平成30年11月15日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成30年11月15日にされた手続補正(以下「本件補正」という)を却下する。

[理由]
1 補正の内容
(1)本件補正後の特許請求の範囲
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された(下線は補正箇所を示す)。
「 【請求項1】
略円筒形物体のサンドブラストを容易にするための固定治具であって、
フレームと、
前記フレーム上に装着され、略円筒形物体を堅固に保持するように動作可能な取付システムを含み且つ該円筒形物体を選択的に回転させるよう構成された回転テーブルと、
を備え、
前記取付システムは、複数の取付ユニットを備え、
前記複数の取付ユニットは、該複数の取付ユニット間の略円筒形物体を係合するよう動作し、
前記複数の取付ユニットは、前記複数の取付ユニットから選択的に延伸して、前記物体と係合して保持するように動作するフィンガを備え、
前記固定治具は、さらに、
前記フレーム上に装着されたブラストヘッド移動ユニットと、
前記ブラストヘッド移動ユニット上に装着されたブラストヘッドと、
前記フレームの底面に装着された複数のホイールと、
を備え、
前記ブラストヘッド移動ユニットが、垂直方向と回転方向に前記ブラストヘッドを移動して周期的振動させるよう構成されており、
前記ブラストヘッドを垂直方向と回転方向に移動する駆動源が、前記フレームの外側に配置され、
前記ブラストヘッドが、グリット供給システムに取り付けられるよう構成され、
前記ブラストヘッド移動ユニットは、垂直方向に移動可能な延長アームと、前記フレームの外側から前記延長アーム内を通って前記ブラストヘッドに結合するグリッド供給パイプとを有する、
固定治具。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、平成30年7月26日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである。
「 【請求項1】
略円筒形物体のサンドブラストを容易にするための固定治具であって、
フレームと、
前記フレーム上に装着され、略円筒形物体を堅固に保持するように動作可能な取付システムを含み且つ該円筒形物体を選択的に回転させるよう構成された回転テーブルと、
を備え、
前記取付システムは、複数の取付ユニットを備え、
前記複数の取付ユニットは、該複数の取付ユニット間の略円筒形物体を係合するよう動作し、
前記複数の取付ユニットは、前記複数の取付ユニットから選択的に延伸して、前記物体と係合して保持するように動作するフィンガを備え、
前記固定治具は、さらに、
前記フレーム上に装着されたブラストヘッド移動ユニットと、
前記ブラストヘッド移動ユニット上に装着されたブラストヘッドと、
前記フレームの底面に装着された複数のホイールと、
を備え、
前記ブラストヘッド移動ユニットが、垂直方向と回転方向に前記ブラストヘッドを移動して周期的振動させるよう構成されており、
前記前記ブラストヘッドを垂直方向と回転方向に移動する駆動源が、前記フレームの外側に配置され、
前記ブラストヘッドが、グリット供給システムに取り付けられるよう構成されている、
固定治具。」

2 補正の適否
(1)新規事項
本件補正は、補正前に発明特定事項であった「ブラストヘッド移動ユニット」について、「垂直方向に移動可能な延長アーム」及び「前記フレームの外側から前記延長アーム内を通って前記ブラストヘッドに結合するグリッド供給パイプ」を有するという発明特定事項を付加するものである。
そして、本件明細書の段落【0016】には、「延長アーム242は、ブラストヘッド移動ユニット240において移動可能に装着される。」と記載され、段落【0018】には、「延長アーム242は、ブラストヘッド移動ユニット240によって矢印280で示されるように垂直方向上向き及び下向きに移動することができる。」と記載されているから、「ブラストヘッド移動ユニット」が「垂直方向に移動可能な延長アーム」を有していることは、本件明細書に開示されている。
また、本件明細書の段落【0016】には、「グリット供給パイプ243は、延長アーム242の長さに下方に延びて、ブラストヘッド244にグリットを供給する。」と記載され、段落【0017】には、「延長アーム242の上端では、カップリングユニット246を用いて、グリット供給パイプ243を外部グリット供給システムホース248に結合する。」と記載され、図2には、延長アーム242の上端のカップリングユニット246がフレーム210の外側にあることが示されているから、「ブラストヘッド移動ユニット」が「前記フレームの外側から前記延長アーム内を通って前記ブラストヘッドに結合するグリッド供給パイプ」を有していることは、本件明細書に開示されている。
よって、本件補正は、本件明細書の記載からみて新規事項を追加するものではないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしている。

(2)目的要件
本件補正は、「垂直方向に移動可能な延長アーム」及び「前記フレームの外側から前記延長アーム内を通って前記ブラストヘッドに結合するグリッド供給パイプ」という発明特定事項を直列的に付加する補正であるから、特許請求の範囲を減縮する補正に該当する。
そして、補正前の請求項1は、「前記フレーム上に装着されたブラストヘッド移動ユニットと、前記ブラストヘッド移動ユニット上に装着されたブラストヘッドと、」「を備え、前記ブラストヘッド移動ユニットが、垂直方向と回転方向に前記ブラストヘッドを移動して周期的振動させるよう構成されており、」という発明特定事項を有しており、本件補正により、当該ブラストヘッド移動ユニットが、装着されたブラストヘッドを垂直方向に移動して周期的振動させる具体的手段として、「垂直方向に移動可能な延長アーム」を有するようにすることは、補正前の請求項における発明特定事項の一つ以上を、概念的に、より下位の発明特定事項とする補正に該当するものと認められる。
また、補正前の請求項1は、「前記ブラストヘッド移動ユニット上に装着されたブラストヘッドと、」「を備え、」「前記ブラストヘッドが、グリット供給システムに取り付けられるよう構成されている」という発明特定事項を有しており、本件補正により、「前記ブラストヘッドがグリット供給システムに取り付けられ」てグリット供給システムからブラストヘッドにグリットを供給する具体的手段として、「前記フレームの外側から前記延長アーム内を通って前記ブラストヘッドに結合するグリッド供給パイプ」を有するようにすることは、補正前の請求項における発明特定事項の一つ以上を、概念的に、より下位の発明特定事項とする補正に該当するものと認められる。
さらに、補正前の請求項1に記載された発明と、補正後の請求項1に係る発明とは、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一である。
よって、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものに該当する。

(3)独立特許要件
本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正発明」という)が、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

ア 本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。

イ 引用文献の記載事項
(ア)引用文献1
当審の最後の拒絶の理由で引用された、本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特開2010-274354号公報(以下「引用文献1」という)には、以下の事項及び発明が記載されている(下線は理解の便のため当審で付した。以下同様)。
a 「【0013】
本発明の湿式ブラスト洗浄装置および方法を、タイヤ加硫用モールドを洗浄する場合を例にして、図に示した実施形態に基づいて説明する。
【0014】
図7、図8に例示するように、このタイヤ加硫用モールドは、環状に組み付けられるそれぞれのセクター19が、半径方向に移動可能に加硫装置に設置されて拡縮するセクショナルタイプである。図7および図8に記載されているC矢印、R矢印、W矢印は、それぞれ、モールドに挿入して加硫するタイヤの周方向、半径方向、幅方向を示している。」

b 「【0018】
本発明の洗浄装置1は、図1、図2に例示するように、所定の洗浄エリアとなるカバー体4の内部に配置されたスラリ噴射ノズル6および水噴射ノズル8と、この洗浄エリアの下方に設置される回収タンク13と、スラリ循環経路と、水排出手段とを備えている。カバー体4の内部には、セクター19(モールド)を載置する回転テーブル3が配置され、回転テーブル3は、移動ベース2の上に配置されている。回転テーブル3は、支軸3aを中心にして回転する。この実施形態では、8個のセクター19が環状に配置されて回転テーブル3に載置されているが、回転テーブル3に載置するセクター19の数は8個に限らず、効率よく洗浄できる数のセクター19を載置すればよい。
【0019】
スラリ噴射ノズル6を有するスラリ噴射ガンユニット5には、スラリ供給ホース5aを介して水Wと研磨材Pとを所定割合で混合したスラリSの供給源が接続されるとともに、圧縮エア供給ホース9を介してスラリSを噴射させる圧縮エアAの供給源が接続されている。スラリ噴射ノズル6は、その噴射幅を噴射すき間に対して5倍?900倍にした幅広仕様になっている。噴射幅は、例えば、5mm?900mm程度である。
【0020】
このスラリ噴射ガンユニット5は、首振り機構12を介して、上下動アーム10aの下端部に取り付けられている。首振り機構12は、スラリ噴射ノズル6の噴射口の向きを上下に変えて噴射方向を変化させるものである。スラリ噴射ノズル6の噴射口の向きを上下および左右に変える首振り機構12を採用することもできる。上下動アーム10aは、水平フレーム11に水平移動および上下移動可能に取り付けられているので、スラリ噴射ノズル6は任意の位置に移動できるようになっている。」

c 「【0023】
回転テーブル3の回転動作、スラリ噴射ノズル6および水噴射ノズル8を任意の位置に移動させる移動機構の動作、それぞれの首振り機構12の動作は、制御装置により制御される構成になっている。」

d 「【0028】
スラリ噴射ノズル6の位置は制御装置により制御して、洗浄対象となるセクター19の内周側表面20の全範囲を網羅するように移動させつつ、スラリを噴射する。例えば、1つのセクター19の内周側表面20の洗浄を完了すると、回転テーブル3を回転させて、別のセクター19をスラリ噴射ノズル6の噴射口に対向させて、このセクター19の内周側表面20を洗浄する。
【0029】
洗浄ムラを抑えるために、スラリ噴射ノズル6の噴射口と、これに対向するセクター19の内周側表面20との間隔がなるべく一定(例えば20mm?50mm)になるように、スラリ噴射ノズル6の移動および噴射方向を制御する。例えば、湾曲した成形面では、スラリ噴射ノズル6を上下移動させつつ、首振り機構12で噴射方向を変えることにより、一定の間隔を保って湾曲した成形面に沿うようにスラリ噴射ノズル6の噴射口を移動させる。」

e 段落【0028】の「1つのセクター19の内周側表面20の洗浄を完了すると、回転テーブル3を回転させて、別のセクター19をスラリ噴射ノズル6の噴射口に対向させて、このセクター19の内周側表面20を洗浄する」との記載からみて、回転テーブル3は、セクター19を選択的に回転させるものと認められる。

f 段落【0020】の「スラリ噴射ノズル6の噴射口の向きを上下及び左右に変える首振り機構12」、段落【0023】の「移動機構の動作、それぞれの首振り機構12の動作は、制御装置により制御される」、段落【0029】の「スラリ噴射ノズル6を上下移動させつつ、首振り機構12で噴射方向を変える」という記載からみて、スラリ噴射ノズル6を垂直方向と回転方向に周期的振動させることも示唆されていると認められる。

g 引用文献1に記載された発明
上記摘記事項a?d及び認定事項e、fを、技術常識を踏まえて整理すると、引用文献1には以下の発明が記載されていると認められる。
「環状に配置されたセクター19の湿式ブラストを容易にするための洗浄装置1であって、
カバー体4と、
前記カバー体4の内部に配置され、該セクター19を載置して選択的に回転させるよう構成された回転テーブル3と、
を備え、
前記洗浄装置1は、さらに、
前記カバー体4上に装着された上下動アーム10a、水平フレーム11及び首振り機構12と、
前記上下動アーム10a上に取り付けられたスラリ噴射ノズル6と、
を備え、
前記上下動アーム10a及び首振り機構12が、垂直方向と回転方向に前記スラリ噴射ノズル6を移動して周期的振動させるように構成されており、
前記スラリ噴射ノズル6が、スラリ供給ホース5aを介して水Wと研磨材Pとを所定割合で混合したスラリSの供給源に接続されるよう構成され、
前記水平フレーム11は、上下移動可能に取り付けられた上下動アーム10aを有する、
洗浄装置1。」(以下「引用発明」という)

(イ)引用文献2
当審の最後の拒絶の理由で引用された、本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特開2010-99820号公報(以下「引用文献2」という)には、以下の事項が記載されている。
a 「【0013】
本発明は、上記クランプ装置や旋盤用フレキシブルパワーチャック及び真円から非真円への加工方法における問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、非真円筒の素材ワークを、歪ませることなく把持するとともに歪んだ非真円筒の素材ワークをそのまま把持し最終的に歪みの無い真円筒形や任意形状の非真円筒形に加工可能とするクランプ装置とこれによる新規な加工方法を提供することにある。」

b 「【0031】
上記クランプ機構10は、図2に見るように、流体圧力式のフォームロックチャックが採用されている。その構成は、機体Kの上面における各搭載面2A?2Hの外周面位置2Yに例えば8セット配置され、外径方向に拡縮するクランプ片10A?10Hをシリンダ体21A?21Hに嵌合されている。しかして、圧力制御機構30からの所定圧力に制御された圧力油を各シリンダ体21A?21Hに一斉に供給することにより、各クランプ片10A?10Hは、円筒ワーク1の外周面1B又は大径鍔1B´にその凹凸歪みや非真円に係わりなく中心方向への移動量が各別に微調節され均等圧に制御して付与することができる。尚、横旋盤による円筒ワーク1の加工時には、機体Kの裏面にチャックに把持される保持筒HKを備えている。また、フライス盤による円筒ワーク1の加工時には、保持筒HKを回転テーブル上に配置して加工される。」

c 「【0038】
しかして、上記横旋盤200によると、図1?図4に見る様に、円筒ワーク(被加工材)1の外周面が切削される。まず、円筒ワーク(被加工材)1は、クランプ装置100にその昇降駆動機構20の各搭載面2A?2Hに対して各昇降体20A?20Hが円筒ワーク1の底面1Aにその凹凸歪みに係わりなく上昇量が微調節されて均等圧に制御付与される。また、各クランプ片10A?10Hは、円筒ワーク1の外周面1Bにその凹凸歪みや非真円に係わりなく中心方向への移動量が各別に微調節され均等圧に制御付与され、把持歪み無く保持される。上記クランプ装置100に保持された円筒ワーク(被加工材)1は、機体Kの裏面に設けた保持筒HKを横旋盤200のチャック40に把持される。」

d 図1


(ウ)引用文献3
当審の最後の拒絶の理由で引用された、本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、実願昭57-134062号(実開昭59-39136号)のマイクロフィルム(以下「引用文献3」という)には、以下の事項が記載されている。
a 「置爪台1及びテーブル5は以上のような構成を有するので、立型旋盤のテーブル5上に、置爪台1を装着して所定の加工を行なう場合には、テーブル5上の4組の保持溝5d,5dに、各組に一個充ての台1を、締結ボルト6の頭部6bを、第1図及び第3図に示すように、テーブル外周部から溝5d中に嵌入係合させる形で、設置し、被加工物の保持に適した適当な位置まで中心CT方向に溝5dに沿って移動させる。台1が適宜な位置まできたところで、最寄りの係合穴5eとストッパ11の先端11bを整合させ、その状態でナット10を締結方向に回転させる。すると、ボルト6はナット10の回転と共に、第3図矢印G方向に移動し、ナット頭部6bが保持溝5dの段つき部5fと当接係合して、フレーム2はテーブル表面5cに所定の圧力で押圧される。また、ピン6aの植設されたボルト6がG方向への移動すると、ピン6aを介してストッパ11がピン2cを中心にD方向へ回動し、ストッパ先端11bがフレーム下面2dから第3図下方に突出してテーブル5上の係合穴5e中に嵌入係合し、台1はストッパ11によってテーブル5上に確実に固定される。
こうして、4個の置爪台1のテーブル5上への設置が完了すると、第4図に示すように、ソケットレンチ12の先端の係合部12aを、各台1の送りねじ9の両側面に穿設された係合穴9b,9bの一方に嵌入係合させ、ハンドル12bを持って正逆方向に適宜回転させる。すると、送りねじ9も正逆方向に回転し、爪7はA又はB方向に所定量移動し、被加工物は4個の爪7によってテーブル5上に確実に固定される。
加工に際しては、テーブル5が第1図矢印、E又はF方向に回転駆動される」(明細書5ページ3行-6ページ下から4行)

b 第1図


(エ)引用文献4
当審の最後の拒絶の理由で引用された、本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特開平9-267261号公報(以下「引用文献4」という)には、以下の事項が記載されている。
a 「【0016】架台100は、底板101と天板102と側壁103とドア104とをもって密封箱状に形成されており、底板101の下面には当該ショットブラスト装置を所要の作業現場に移動させるための車輪105と、作業現場において当該ショットブラスト装置を据え付けるためのアンカー106とが取り付けられている。架台100の内部には、側壁103から底板101に至る部分にすり鉢状のショット回収フレーム107が設けられ、その下方にはドア104から出し入れ可能に構成されたごみ回収盤108が収納されている。ショット回収フレーム107は、多数の小透孔が一定ピッチで開設されたメッシュ板をもって構成されており、研摩加工によって発生したごみ109とショット110とを分離して、ショット110のみを再度ショット噴射装置200に導くようになっている。また、天板102の上面には、操作盤111が取り付けられる。」

b 図1


(オ)引用文献5
当審の最後の拒絶の理由で引用された、本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特開2010-36294号公報(以下「引用文献5」という)には、以下の事項が記載されている。
a 「【0012】
そして、容器2内の排気を行うため上部内壁2aの上部に排気口8が形成され、排気口8にはフィルタ9が設置されている。そして、被研磨材101の容器2内への出し入れを行うために容器2の上面に形成され開状態10aが可能な開閉部10と、被研磨材101を容器2内にて把持するため容器2の側壁としての上部内壁2aに形成された把持部11と、コンプレッサ6から分岐し容器2内にて気体を噴射する気体ノズル部12と、容器2内の照明を行うためのランプ13aとこのランプ13aを覆うためのカバー13bにて構成されている照明部13とを備える。さらに、研磨装置1を支持するとともに、容器2を移動するためキャスタが設置されている容器2の底部に形成された支持移動部14と、容器2内に被研磨材101を載置することができ、不使用時には垂直方向に折りたたみ収納状態15aが可能な載置台15とを備えている。尚、コンプレッサ6と、噴射ノズル部5および気体ノズル部12との気体導入の関係は図4に示すように分岐してそれぞれ接続されている。」

b 図1


(カ)引用文献6
当審の最後の拒絶の理由で引用された、本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、実願平5-52287号(実開平7-17462号)のCD-ROM(以下「引用文献6」という)には、以下の事項が記載されている。
a 「1′は本考案のサンドブラスト装置の本体、2′は側壁部の下方が逆錘状に形成され底部が開口したキャビネット、5′は大型の被加工物でも収容できるようにキャビネット前面一杯に開口した跳ね上げ式の前部扉、2a′は前部扉5′に配設された作業用透視窓、2cは作業用透視窓2a′の外側の透明なアクリル板、2dはアクリル板2cの内側に被着された透明なポリ塩化ビニル等の軟質の合成樹脂板、2eはキャビネット2の開口した底部に螺状に形成された係合部、3aは脚部3の端部に回動自在に軸着されたキャスタ、5bは前部扉5′の開閉がスムーズにできるように前部扉5′の両側部に配設したガスダンパ、6′は大型の被加工物でも耐えられるように支持部材(図示せず)を横架して強度重視の設計がされた作業台、7′は重量物でもいろんな角度からブラスト処理ができるようにした脱着自在な大型のターンテーブル、11′はキャビネット2の底部に形成された係合部2eに脱着自在に螺着されたホッパ部を兼ねたカートリッジ式の研磨材収納容器、11cは研磨材送給管16′の端部に挿着された研磨材吸入管、12dは操作パネルに配設された集塵機用コンセント19に電源を供給するための集塵機用スイッチ、12eは集塵機用電源のヒューズ、14′はブラストガン8への圧縮空気を断続するための電磁弁18をON/OFFするためのフットスイッチである。」(明細書10ページ下から11行-11ページ6行)

b 図1


(キ)引用文献7
当審の最後の拒絶の理由で引用された、本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特開平11-320414号公報(以下「引用文献7」という)には、以下の事項が記載されている。
a 「【0013】図1に示すように、Z方向のトラバーサ11により、ブラストガン1を上下方向に(その軸に沿って)移動することができ、ブラストガン1は、その下端近傍に、ブラスト材2を吹出すためのブラストノズル3を有する。また、ブラストガン1は、その軸回りを自転するように回転可能に設けており、ブラスト材2の吹出しに伴い自転するようにしてある。シリンダブロック4(被加工物)は、そのシリンダ4a?4dの軸方向が上下となるように鉛直方向に立った状態で設置しており、また、その位置は、ブラストガン1が上方からシリンダ内を進行(降下)するようになっている。シリンダブロック4は、キャビネット12により周囲空間と隔離しており、吹出したブラスト材2の拡散を防止している。また、キャビネット12の下方には、ブラスト材回収受け13を設けている。
【0014】ブラストノズル3の吹出し方向は斜め下方であり、図2に示すように、シリンダ内面とブラスト角度θだけ傾いた方向にブラスト材2を吹出す。
【0015】この装置では、図3に示すように、ブラストガン1がブラスト材2を吹出しながら回転下降して、1つのシリンダの内面5をブラスト処理するもので、ブラストノズル3の移動範囲Aは、シリンダ内面5の上端5aから下端5bまでを連続してブラスト処理できるような長さに設定してある。そして、1つのシリンダの処理が終了した後は、シリンダブロック4を(図1中の左方向に)移動して、同様の手順を行うことにより、4つのシリンダ4a?4dすべてについてブラスト処理することができる。」

b 図1及び図2


ウ 引用発明との対比
本件補正発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「環状に配置されたセクター19」及び「カバー体4」は、それぞれ本件補正発明の「略円筒形物体」及び「フレーム」に相当する。
引用発明の「湿式ブラスト」は、本件補正発明の「サンドブラスト」と対比すると、「ブラスト」である点では一致する。
引用発明の「洗浄装置1」は、セクター19の洗浄を行うために、カバー体4内部にセクター19を載置固定しておくものであるから、本件補正発明の「固定治具」に相当するものといえる。
引用発明の「前記カバー体4の内部に配置され、該セクター19を載置して選択的に回転させるよう構成された回転テーブル3」と、本件補正発明の「前記フレーム上に装着され、略円筒形物体を堅固に保持するように動作可能な取付システムを含み且つ該円筒形物体を選択的に回転させるよう構成された回転テーブル」とを対比すると、「前記フレーム上に装着され、略円筒形物体を保持し且つ該円筒形物体を選択的に回転させるよう構成された回転テーブル」という点では一致する。
引用発明の「上下動アーム10a、水平フレーム11及び首振り機構12」を併せたものは、その機能からみて、本件補正発明の「ブラストヘッド移動ユニット」に相当する。
引用発明の「スラリ噴射ノズル6」は、本件補正発明の「ブラストヘッド」に相当する。
引用発明の「前記スラリ噴射ノズル6が、スラリ供給ホース5aを介して水Wと研磨材Pとを所定割合で混合したスラリSの供給源に接続される」ことは、本件補正発明の「前記ブラストヘッドが、グリット供給システムに取り付けられる」ことに相当する。
引用発明の「前記水平フレーム11は、上下移動可能に取り付けられた上下動アーム10aを有する」ことは、本件補正発明の「前記ブラストヘッド移動ユニットは、垂直方向に移動可能な延長アーム」「を有する」ことに相当する。

以上のことから、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「略円筒形物体のブラストを容易にするための固定治具であって、
フレームと、
前記フレーム上に装着され、略円筒形物体を保持し且つ該円筒形物体を選択的に回転させるよう構成された回転テーブルと、
を備え、
前記固定治具は、さらに、
前記フレーム上に装着されたブラストヘッド移動ユニットと、
前記ブラストヘッド移動ユニット上に装着されたブラストヘッドと、
を備え、
前記ブラストヘッド移動ユニットが、垂直方向と回転方向に前記ブラストヘッドを移動して周期的振動させるよう構成されており、
前記ブラストヘッドが、グリット供給システムに取り付けられるよう構成され、
前記ブラストヘッド移動ユニットは、垂直方向に移動可能な延長アームを有する、
固定治具。」
<相違点1>
本件補正発明のブラストが「サンドブラスト」であるのに対し、引用発明は湿式ブラストである点。
<相違点2>
本件補正発明の回転テーブルが、「略円筒形物体を堅固に保持するように動作可能な取付システムを含み」、「前記取付システムは、複数の取付ユニットを備え、前記複数の取付ユニットは、該複数の取付ユニット間の略円筒形物体を係合するよう動作し、前記複数の取付ユニットは、前記複数の取付ユニットから選択的に延伸して、前記物体と係合して保持するように動作するフィンガを備え」ているのに対し、引用発明の回転テーブル3は、環状に配置されたセクター19を保持する手段については不明である点。
<相違点3>
本件補正発明は「フレームの底面に装着された複数のホイール」を備えているのに対し、引用発明のカバー体4は底面にホイールを備えていない点。
<相違点4>
本件補正発明は「前記ブラストヘッドを垂直方向と回転方向に移動する駆動源が、前記フレームの外側に配置され」ているのに対し、引用発明は、そのようになっていない点。
<相違点5>
本件補正発明のブラストヘッド移動ユニットが、「前記フレームの外側から前記延長アーム内を通って前記ブラストヘッドに結合するグリッド供給パイプ」を有しているのに対し、引用発明のスラリ噴射ノズル6にはスラリ供給ホース5aが直接接続されている点。

エ 判断
(ア)相違点1について
ブラスト技術において、サンドブラストのような乾式ブラストや湿式ブラストは、両方ともに従来周知の手段であって、一般的に加工対象の材質や種類の違いによって適宜使い分けられるものの、本体構造やワークテーブル及びブラストヘッド等の移動機構の構成は、両手段で共通の構成を使用可能なことは技術常識であるから、引用発明の洗浄装置をサンドブラスト用とすることも、当業者であれば容易に想到する事項である。

(イ)相違点2について
引用文献2には、非真円の円筒ワーク1を回転テーブル上にクランプする手段として、複数セット設けたクランプ機構10が記載されており、当該クランプ機構10は、円筒ワーク1に係合するように動作し、中心方向への移動量が各別に調節されるクランプ片10A?10Hを有するものである。そうすると、引用文献2に記載された「クランプ機構10」及び「クランプ片10A?10H」は、それぞれ本件補正発明の「取付ユニット」及び「フィンガ」に相当する。
また、引用文献3には、被加工物を水平面内で回転するテーブル上に保持する手段として、4個の爪7を中心方向に移動させて被加工物を固定する4個の置爪台1が記載されており、当該「置爪台1」及び「爪7」は、それぞれ本件補正発明の「取付ユニット」及び「フィンガ」に相当する。
そして、引用発明の回転テーブル3の被加工物取り付け手段として、同様に回転テーブルへの被加工物取り付け手段である、引用文献2に記載されたクランプ機構10又は引用文献3に記載された置爪台1に示されるような従来周知の被加工物取り付け手段を適用することは、当業者であれば容易に想到する事項である。

(ウ)相違点3について
サンドブラストを行う装置のフレームの底面に複数のホイールを装着して移動可能にする技術は、例えば、引用文献4の段落【0016】に記載された架台100の底板101の下面に取り付けられた車輪5や、引用文献5の段落【0012】に記載された容器2の底部に形成された支持移動部14に設置されたキャスタ、引用文献6の段落【0006】に記載された脚部3の端部に回動自在に軸着されたキャスタとして示されているように、従来周知の事項にすぎず、このような従来周知の事項を、引用発明のカバー体4に適用することも、当業者が容易に想到する事項である。

(エ)相違点4について
ブラストヘッドを垂直方向と回転方向に移動する駆動源を、装置フレームの外側に配置することは、引用文献7に、軸回りに自転可能なブラストガン1を有するZ方向のトラバーサ11を、キャビネット12の上方外部に設ける構成として示されている。そして、このようにノズルを上下移動及び回転移動させてブラスト加工を行うことは従来周知の事項であり、また、ブラスト装置の噴射ノズルの移動機構をどのように構成するかは、当業者が必要に応じて適宜設定する事項にすぎないから、引用発明のスラリ噴射ノズル6の移動機構について、引用文献7に記載されたブラストガン1やトラバーサ11等の移動機構を適用し、相違点4に係る構成とすることは、当業者が容易に想到する事項である。

(オ)相違点5について
本件補正発明の相違点5に係る発明特定事項である「延長アーム内を通ってブラストヘッドに結合するグリッド供給パイプ」の構造は、ブラスト技術において、本願の優先日前から従来周知の構造に過ぎない。それは例えば、特開2002-52471号公報(段落【0014】の噴射ノズル22へ研削材を供給する配管23を参照)、特開2009-226508号公報(段落【0019】-【0021】の噴射ノズル16に接合された高圧管15を参照)、実願昭63-97888号(実開平2-19466号)のマイクロフィルム(明細書2ページ10?15行の、上端部に超高圧水スイベル61を設けた内管62と、上端部に研摩材スイベル63を設けた外管64とからなり、下端部にノズル部7が形成された二重管を参照)、特開2003-145426号公報(段落【0015】のブラスト供給部14からブラスト材16が供給されるノズル13を参照)のように多くの文献に記載されていることからも理解される。
そして、当該従来周知の構造を、引用発明のスラリ噴射ノズル6のスラリS及び圧縮エアAの供給源に替えて適用し、カバー体4の外側から上下動アーム10aを通じてスラリS及び圧縮エアAを供給するように構成することも、当業者であれば容易に想到しうるものと認められる。

(カ)効果について
上記の相違点1ないし5を総合的に勘案しても、本件補正発明の奏する効果は、引用発明及び引用文献2ないし7等に記載されたような従来周知の事項が奏する効果から、予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

オ 小結
よって、本件補正発明は、引用発明及び引用文献2ないし7等に記載された従来周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(4)本件補正についてのむすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし5に係る発明は、平成30年7月26日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という)は、上記第2の1(2)に記載されたとおりのものである。
ただし、「前記前記ブラストヘッドを垂直方向と回転方向に移動する駆動源が、」という記載については、「前記前記」が「前記」の誤記であることは明白であるので、「前記ブラストヘッドを垂直方向と回転方向に移動する駆動源が、」という記載であるとみなす。

2 当審の最後の拒絶の理由
当審の最後の拒絶の理由1は、本願の請求項1ないし5に係る発明は、本願出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の文献に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
1.特開2010-274354号公報 (上記引用文献1)
2.特開2010-99820号公報 (上記引用文献2)
3.実願昭57-134062号(実開昭59-39136号)のマイクロフィルム (上記引用文献3)
4.特開2002-137167号公報
5.特開2001-105323号公報
6.特開平9-267261号公報 (上記引用文献4)
7.特開2010-36294号公報 (上記引用文献5)
8.実願平5-52287号(実開平7-17462号)のCD-ROM (上記引用文献6)
9.特開平11-320414号公報 (上記引用文献7)

3 引用文献
当審の最後の拒絶の理由で引用された引用文献1ないし7及びその記載事項は、前記第2の[理由]2(3)イに記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、前記第2の[理由]2で検討した本件補正発明から、「前記ブラストヘッド移動ユニットは、垂直方向に移動可能な延長アームと、前記フレームの外側から前記延長アーム内を通って前記ブラストヘッドに結合するグリッド供給パイプとを有する」に係る限定事項を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2の[理由]2(3)に記載したとおり、引用発明及び引用文献2ないし7等に記載された従来周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明及び引用文献2ないし7等に記載された従来周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2018-12-26 
結審通知日 2019-01-08 
審決日 2019-01-21 
出願番号 特願2012-180695(P2012-180695)
審決分類 P 1 8・ 575- WZ (B24C)
P 1 8・ 121- WZ (B24C)
P 1 8・ 572- WZ (B24C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大山 健  
特許庁審判長 平岩 正一
特許庁審判官 栗田 雅弘
篠原 将之
発明の名称 円筒形物体のサンドブラストを容易にするための固定治具  
代理人 小倉 博  
代理人 荒川 聡志  
代理人 黒川 俊久  
代理人 田中 拓人  

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