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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
管理番号 1352547
審判番号 不服2016-18907  
総通号数 236 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-08-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-12-16 
確定日 2019-06-12 
事件の表示 特願2014-221016「フェムト秒レーザ及びプラズマエッチングを用いたウェハダイシング」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 3月26日出願公開、特開2015- 57840〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成23年6月20日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2010年6月22日(以下「本願優先日」という。),米国,2011年6月15日,米国)を国際出願日とする特願2013-516658号の一部を平成26年10月30日に新たに特許出願したものであって,平成27年10月15日付けで拒絶理由の通知がなされ,平成28年4月4日付けで意見書の提出がなされ,同年9月13日付けで拒絶査定がなされた。これに対して平成28年12月16日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに手続補正書の提出がなされ,当審において平成30年5月8日付けで平成28年12月16日付け手続補正に対して補正の却下の決定がなされるとともに拒絶理由の通知がなされ,同年11月15日付けで意見書及び手続補正書(以下「本件補正」という。)の提出がなされたものである。

第2 本願発明
本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりである。

「複数の集積回路を含む半導体ウェハのダイシング方法であって、
前記半導体ウェハ上にマスクを形成するステップであって、前記マスクが前記集積回路を被覆し、保護する層を含むステップと、
前記マスク及び半導体ウェハの一部をフェムト秒ベースのレーザスクライビング工程でパターニングし、これによってパターニングされたマスクを提供し、前記集積回路間において前記半導体ウェハを貫通しないで部分的にトレンチを形成するステップであって、前記トレンチの各々は前記半導体ウェハ内で幅を有する端部を有するステップと、
前記トレンチを貫通して前記半導体ウェハをプラズマエッチングし、これによって対応するトレンチ延長部を形成し、前記集積回路を個片化するステップであって、前記対応するトレンチ延長部の各々は前記幅を有するステップとを含む方法。」

第3 拒絶の理由
平成30年5月8日付けで当審が通知した拒絶理由は、次のとおりのものである。
本願発明は、本願優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献1?3に記載された発明に基づいて、本願優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
1 特開2006-253402号公報
2 特開2002-324768号公報
3 特開2004-28912号公報

第4 引用文献
1 引用文献1の記載と引用発明
引用文献1には,次の事項が記載されている。

「【発明の効果】
【0014】
以上説明したように本発明によれば、素子形成面の上部に保護膜を設け、保護膜にレーザ光を照射し、保護膜から半導体基板の内部にわたる溝部を設けた後、溝部の底部から、半導体基板を深さ方向に選択的に除去し、溝部が設けられた箇所において半導体基板を分離して、半導体基板を個片化することにより、半導体ウェハのダイシングの加工幅を小さくすることができる。」

「【0020】
以下、各製造工程をさらに詳細に説明する。
まず、図3に示したように、シリコンウェハ101の素子形成面に所定の素子、拡散層、配線層103を有するLSIを形成する。加工前のシリコンウェハ101の厚さに特に制限はないが、たとえば500?800μm程度とする。そして、LSIを形成したシリコンウェハ101の素子形成面の全面に保護膜105を設ける(図1(a))。保護膜105は、LSIのパッド汚染防止膜として機能する。
【0021】
つづいて、保護膜105が設けられたシリコンウェハ101の素子形成面のダイシング線120(図3)上にレーザ光を照射して、溝部107を形成し、溝部107の形成領域のシリコンウェハ101、配線層103および保護膜105を取り除く。この溝部107は、保護膜105および配線層103を貫通するとともに、シリコンウェハ101の内部にわたる。
【0022】
次に、溝部107の底部から、シリコンウェハ101を深さ方向にさらに除去する(図1(c))。このとき、溝部107におけるシリコンウェハ101の露出部から、ドライエッチングを用いてシリコンウェハ101を深さ方向に異方性エッチングする。
【0023】
そして、保護膜を除去した後(図2(a))、シリコンウェハ101の素子形成面全面に粘着テープ109を貼付する。粘着テープ109としては、たとえば既知のダイシングテープを用いる。つづいて、機械的研磨等を用いてシリコンウェハ101を裏面から研削して薄化する(図2(b))。研削工程による薄化後のシリコンウェハ101の厚さは、たとえば数10?100μm程度の厚さである。薄化により、溝部107がシリコンウェハ101を貫通する。その後、粘着テープ109を除去することにより、シリコンウェハ101が個片化されて、複数の半導体装置100が得られる。
【0024】
保護膜105は、ステップ102におけるレーザ光照射およびステップ103におけるエッチングにおいて、配線層103の上面を保護できる材料であればよく、また、ステップ106において、比較的容易に除去可能であって、除去時に配線層103やシリコンウェハ101を汚染しない材料とすることが好ましい。
・・・中略・・・
【0031】
ステップ102において、レーザ加工に用いられるレーザ光としては、たとえばYAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネット)レーザのSHG(第二高周波)またはTHG(第三高周波)を用いる。また、ArFエキシマレーザ等のエキシマレーザを用いてもよい。」

「【0062】
(第二の実施形態)
第一の実施形態においては、ステップ103のドライエッチング工程の後(図1(c))、保護膜105を剥離し(図2(a))、シリコンウェハ101の裏面研削により複数の半導体装置100を得た(図2(b))。本実施形態では、裏面研削に代えて、シリコンウェハ101のドライエッチングをさらに行うことによりシリコンウェハ101を複数の半導体装置100に個片化する。すなわち、ステップ104のシリコンウェハ101を個片化する工程が、溝部107の底部から、エッチングによりシリコンウェハ101を深さ方向にさらに除去する工程を含む。ステップ106の保護膜105を除去する工程は、ステップ104の個片化工程の後に行う。
【0063】
図7(a)?図7(c)および図8(a)?図8(c)は、本実施形態における半導体装置の製造工程を示す断面図である。まず、第一の実施形態と同様に、シリコンウェハ101の素子形成面に所定の素子、拡散層、配線層103を有するLSIを形成する(図3)。そして、LSIを形成したシリコンウェハ101の素子形成面の全面に保護膜105を設け(図7(a))、その後、ダイシング線120(図3)上にレーザ光を照射して、保護膜105および配線層103を貫通するとともに、シリコンウェハ101の内部にわたる溝部107を形成する(図7(b))。
【0064】
次に、シリコンウェハ101の裏面に粘着テープ121を貼付する(図7(c))。粘着テープ121としては、たとえば既知のダイシングテープを用いる。そして、溝部107の底部から、シリコンウェハ101を深さ方向にさらに除去する(図8(a))。この後、本実施形態では、保護膜105を除去せずに、シリコンウェハ101の溝部107を深さ方向にさらにドライエッチングし、溝部107を裏面まで貫通させる(図8(b))。そして、第一の実施形態に記載の方法を用いて保護膜105を除去する(図8(c))。その後、粘着テープ121をシリコンウェハ101の裏面から取り除くことにより、シリコンウェハ101が個片化されて、複数の半導体装置100が得られる。」

上記には,第二の実施形態として,第一の実施形態のドライエッチングを深さ方向にさらにすすめて溝部107を裏面まで貫通させ,機械的研磨等を用いず個片化することが記載されていることから,第二の実施形態のドライエッチングは第一の実施形態と同様にシリコンウェハ101を深さ方向に異方性エッチングすることであると認められる。
よって,引用文献1には,次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「シリコンウェハ101の素子形成面に所定の素子、拡散層、配線層103を有するLSIを形成し,LSIを形成したシリコンウェハ101の素子形成面の全面に保護膜105を設け,保護膜105が設けられたシリコンウェハ101の素子形成面のダイシング線120上にレーザ光を照射して、保護膜105および配線層103を貫通するとともに、シリコンウェハ101の内部にわたる溝部107を形成し、溝部107の底部から、ドライエッチングを用いてシリコンウェハ101を深さ方向に異方性エッチングして溝部107を裏面まで貫通させ,シリコンウェハ101を個片化するダイシング方法。」

2 引用文献2の記載
引用文献2には,次の事項が記載されている。

「【0016】
【課題を解決するための手段】本発明の請求項1に記載された基板切断方法は、基板に超短パルスレーザを照射して切断することを特徴とするものである。
【0017】図4は超短パルスレーザ装置の構成ブロック図である。ここで、チタンサファイアレーザ出力をそのまま増幅しようとすると、ピーク強度が高くなり過ぎて光学素子が損傷するので、チャープパルス増幅法を用いる。チャープパルス増幅法とは、図5に示すように、上記再生増幅器RAに入射する超短パルスレーザTLのパルス幅を、回折格子対を用いて周波数チャープさせることにより、数千倍以上にパルス幅を広げ(パルス伸張)(1)、ピークパワーを低く保った状態で増幅し(パルス増幅)(2)、その後、再び回折格子対で元のパルス幅に圧縮する(パルス圧縮)(3)技術をいう。最終的に増幅されたパルスは、例えば、エネルギ2mJ、パルス幅130fs、繰り返し率10Hzであり、ピーク強度は15GWまで増幅される。チタンサファイアレーザのピーク強度は107kWであるから、約100,000倍に増幅されたことになる。
【0018】超短パルスレーザを照射する基板切断方法は、ダイアモンドブレードを備えるダイサによる機械的な切断と異なって、切断時にペレットが機械的な力によって飛び散ることがないので、従来の粘着シートは不要であり省略できるため、資材費が節減できるのみならず、貼り付け工程が削減できるため、工程原価が低減できる。また、ドライプロセスであるため、洗浄工程を省略できる。さらに、超短パルスレーザは、従来のCO_(2)レーザやYAGレーザの連続波レーザやパルスレーザLを照射してウェーハWを切断する方法に比較して、レーザのパルス幅が小さいので熱伝導が小さく、レーザ照射部分近傍の基板温度上昇はほとんどないので、基板の温度上昇による熱歪によるクラック発生に起因する収率低下がなくなるし、レーザを照射した部分のみに幅狭の溝を形成できるのでスクライブラインの幅も小さく設計でき、基板1枚当りの素子数を増大できる。しかも溶融した基板材料がレーザ照射部の近傍に飛び散ることも少なくなるので、ペレットの収率を高くできる。
・・・中略・・・
【0021】上記請求項2に記載の基板切断方法によれば、そのパルス幅が1ピコ秒以下である、例えば、チタンサファイアレーザ源のフェムト秒パルス(波長800nm)を照射することによって、図6(A)に示すように基板1にレーザ7を照射したとき、レーザ7の照射部分近傍の温度上昇がほとんどなく、したがって、図6(B)に示すようなレーザ7の照射部分のみに側面が切り立った溝8が形成でき、レーザ7を1kHz?100kHzの繰り返し周波数で照射することによって、図6(C)に示すような傾斜がほとんどない側端面2aを有するペレット2が得られる。したがって、溝8のアスペクト比が高く、基板1のスクライブライン幅を小さく設定することができ、基板1枚当りのペレット2の個数を増大することができ、ペレット2の収率を向上することができる。これを従来のレーザによる基板切断方法である前述した図14(A)?(C)と比較すると、差は歴然としている。また、基板の温度上昇はほとんどなく、溶融した基板材料がレーザ照射部の近傍に堆積したり飛び散ったりすることも少なくなる。」

3 引用文献3の記載
引用文献3には,次の事項が記載されている。

「【0027】
次に、シリコン基板20の主表面側にフォトレジスト層を塗布形成し、このフォトレジスト層を重り部21、ばね部22、支持部23、固定電極24b、固定電極部24、可動電極21aなどを形成するためにパターニングした後、シリコン基板20に対して主表面に直交する方向に貫通させる垂直エッチングを行うことによって図3(d)に示す構造が得られる。ここに誘導結合プラズマ(ICP)を利用したエッチング装置を用いてエッチングを行うことによってシリコン基板20の厚み方向に垂直エッチングを行うことができる。なお、上記シリコン基板20の厚さ寸法tは、固定電極24bと可動電極21aとの対向面積を大きくするという点およびウェハのハンドリングの点から見れば大きい方が望ましいが、上記垂直エッチングに用いるエッチング装置の観点から見れば薄い方が望ましく、50μm?150μmに設定してある。」

第5 対比
本願発明と引用発明を対比すると、以下のとおりとなる。

引用発明の「LSI」,「シリコンウェハ101」は,本願発明の「集積回路」,「半導体ウェハ」に相当する。そして,引用発明は,「LSIを形成したシリコンウェハ101」を「個片化するダイシング方法」であり,シリコンウェハ101には,複数のLSIが含まれていることは明らかであるから,引用発明は「複数の集積回路を含む半導体ウェハのダイシング方法」であるといえる。

引用発明の「保護膜105」は,「シリコンウェハ101の素子形成面の全面」に設けられており,引用文献1の段落【0024】には,「保護膜105は、ステップ102におけるレーザ光照射およびステップ103におけるエッチングにおいて、配線層103の上面を保護できる材料」であることが記載されている。
そうすると,引用発明の「保護膜105」は,LSIを被覆し,保護するものであると認められるから,本願発明の「マスク」に相当し,引用発明の「LSIを形成したシリコンウェハ101の素子形成面の全面に保護膜105を設け」は,本願発明の「前記半導体ウェハ上にマスクを形成するステップであって、前記マスクが前記集積回路を被覆し、保護する層を含むステップ」に相当する。

引用発明の「レーザ光を照射して,保護膜105および配線層103を貫通するとともに、シリコンウェハ101の内部にわたる溝部107を形成」することは,「レーザスクライビング」と呼び得るものである。
引用発明では,「ダイシング線120上にレーザ光を照射」することでパターニングを施しており,また,レーザ光は,「保護膜105および配線層103を貫通」したとしてもシリコンウェハ101に対しては「内部にわたる溝部107を形成」するだけなので,シリコンウェハ101を貫通せずシリコンウェハ101に溝部すなわちトレンチを形成するものとなっている。また,照射するレーザ光自体に幅があるため,レーザ光照射で形成された溝はある幅を有することは技術常識であるから,引用発明においてもレーザ光を照射することで形成された「シリコンウェハ101の内部にわたる溝部107」の端部(底)はある幅を有していることは明らかである。
そうすると,本願発明と引用発明は,「前記マスク及び半導体ウェハの一部をレーザスクライビング工程でパターニングし、これによってパターニングされたマスクを提供し、前記集積回路間において前記半導体ウェハを貫通しないで部分的にトレンチを形成するステップであって、前記トレンチの各々は前記半導体ウェハ内で幅を有する端部を有するステップ」を含む点で共通している。

ドライエッチングはプラズマを生成して行われるので,引用発明の「ドライエッチング」は本願発明の「プラズマエッチング」に相当している。
また,引用発明では,「溝部107の底部から、ドライエッチングを用いてシリコンウェハ101を深さ方向に異方性エッチングして溝部107を裏面まで貫通させ」ており,溝部107の「底部」から「裏面」までの部分は,異方性エッチングにより形成された溝部の延長部であると認められる。
そうすると,本願発明と引用発明は,「前記トレンチを貫通して前記半導体ウェハをプラズマエッチングし、これによって対応するトレンチ延長部を形成し、前記集積回路を個片化するステップ」を含む点で共通している。

以上から,本願発明と引用発明は,下記の点で一致し,また相違する。
[一致点]
「複数の集積回路を含む半導体ウェハのダイシング方法であって、
前記半導体ウェハ上にマスクを形成するステップであって、前記マスクが前記集積回路を被覆し、保護する層を含むステップと、
前記マスク及び半導体ウェハの一部をレーザスクライビング工程でパターニングし、これによってパターニングされたマスクを提供し、前記集積回路間において前記半導体ウェハを貫通しないで部分的にトレンチを形成するステップであって、前記トレンチの各々は前記半導体ウェハ内で幅を有する端部を有するステップと、
前記トレンチを貫通して前記半導体ウェハをプラズマエッチングし、これによって対応するトレンチ延長部を形成し、前記集積回路を個片化するステップとを含む方法。」

[相違点1]
本願発明では,「レーザスクライビング工程」に「フェムト秒ベース」のレーザを用いるのに対し,引用発明では,「レーザスクライビング工程」に「フェムト秒ベース」のレーザを用いていない点。

[相違点2]
本願発明では,「対応するトレンチ延長部の各々は前記幅を有する」ものであるのに対し,引用発明では,「対応するトレンチ延長部の各々は前記幅を有する」かは定かではない点。

第6 判断
上記相違点について、判断する。
1 相違点1について
引用文献1には,段落【0014】に「本発明によれば、素子形成面の上部に保護膜を設け、保護膜にレーザ光を照射し、保護膜から半導体基板の内部にわたる溝部を設けた後、溝部の底部から、半導体基板を深さ方向に選択的に除去し、溝部が設けられた箇所において半導体基板を分離して、半導体基板を個片化することにより、半導体ウェハのダイシングの加工幅を小さくすることができる」ことが記載され,段落【0031】にレーザ光としてYAGレーザを用いることが記載されていることから,引用発明は,「半導体ウェハのダイシングの加工幅を小さくすること」を発明の効果とし,レーザ光としてはYAGレーザを用いる態様を含むものと認められる。
これに対して,引用文献2には,超短パルスレーザは,従来のYAGレーザを照射してウェーハWを切断する方法に比較して、基板の温度上昇による熱歪によるクラック発生に起因する収率低下がなくなるし、レーザを照射した部分のみに幅狭の溝を形成できるのでスクライブラインの幅も小さく設計でき、基板1枚当りの素子数を増大でき,レーザ7の照射部分のみに側面が切り立った溝8が形成できることで、傾斜がほとんどない側端面2aを有するペレット2が得られること,そして,超短パルスレーザとしてパルス幅130fsのようなフェムト秒パルスであることが記載されている。
そうすると,引用文献2には,パルス幅130fsのようなフェムト秒パルスの超短パルスレーザを用いることで,引用文献1に記載されたYAGレーザに比較して「スクライブラインの幅も小さく設計」できることが記載されているのであるから,引用発明において,「半導体ウェハのダイシングの加工幅を小さくする」ために,「レーザスクライビング工程」に「フェムト秒ベース」のレーザを用いることは,当業者が容易に想到し得たものである。

2 相違点2について
ダイシングではダイシング幅が狭いことが望まれており,引用発明において深さ方向に異方性エッチングを実施しているのは,側面がなるべく垂直になる溝を形成することでダイシングによる幅を狭くさせるものと認められる。そして,そのような垂直な側面を有する異方性のプラズマエッチングとして誘導結合プラズマ(ICP)のような高密度プラズマエッチングを用いることは引用文献3に記載されているように周知技術であるから,引用発明にプラズマエッチングとして高密度プラズマエッチングを採用して,レーザスクライビング工程でパターニングされたトレンチの幅と同じ幅となるようにトレンチ延長部を形成し,相違点2のステップとすることは,当業者が容易に想到し得たものである。

3 作用効果について
本願発明の「従来の方法では、低い工程品質しかられない。薄いウェハ又は基板からダイを個片化する際に直面しうる課題としては、異なる層間のマイクロクラックの形成又は層剥離、無機誘電体層の欠け、厳格に行う必要のあるカーフ幅制御、又は精密なアブレーション深さ制御などがある。本発明の実施形態は、レーザスクライビングとプラズマエッチングのハイブリッドダイ個片化法を含み、これは上記の課題の1つ又はそれ以上を克服するのに有益となりうる。」(本願明細書段落【0014】)という効果は,引用発明の「レーザスクライビング工程」に「フェムト秒ベース」のレーザを用いること,及び,プラズマエッチングとして高密度プラズマエッチングを採用することにより,当業者が予測できる程度のものである。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、本願優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に記載された発明,引用文献2及び引用文献3に記載された事項に基づいて、その本願優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,他の請求項について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-01-08 
結審通知日 2019-01-16 
審決日 2019-01-29 
出願番号 特願2014-221016(P2014-221016)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 今井 聖和梶尾 誠哉  
特許庁審判長 深沢 正志
特許庁審判官 飯田 清司
小田 浩
発明の名称 フェムト秒レーザ及びプラズマエッチングを用いたウェハダイシング  
代理人 安齋 嘉章  

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