• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H05K
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H05K
管理番号 1352569
審判番号 不服2018-2691  
総通号数 236 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-08-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-02-26 
確定日 2019-06-13 
事件の表示 特願2013-221236「電子機器」拒絶査定不服審判事件〔平成27年4月27日出願公開、特開2015-82638〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年10月24日の出願であって、平成29年3月23日付け拒絶理由通知に対して同年5月23日に手続補正がなされたが、同年11月30日付けで拒絶査定がなされた。これに対し、平成30年2月26日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに手続補正がなされたものである。

第2 平成30年2月26日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成30年2月26日にされた手続補正を却下する。

[理由]
1.補正の内容
平成30年2月26日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲についてするもので、
本件補正前に、
「【請求項1】
機器本体と、
前記機器本体に対向して該機器本体に装着されたカバーと、
前記カバーにおける前記機器本体側に設けられ、且つ、前記機器本体に対する前記カバーの対向方向と直交する直交方向の一端側に配置された当接部と、
前記機器本体における前記直交方向の一端側に設けられ、前記カバーの前記一端側が前記機器本体から離間する離間方向へ前記カバーを移動させると前記当接部に当接して前記カバーの開放を制限し、前記カバーにおける前記直交方向の他端側が前記機器本体から離間するように前記カバーの前記一端を支点にして前記カバーを回転させる場合には前記カバーの開放を許容する制限部と、
を備え、
前記当接部は、
前記離間方向を向く当接面を有し、
前記制限部は、
前記当接面に対して隙間を有する状態で対向し且つ離間方向から見て前記当接面と重なる対向面を有する電子機器。
【請求項2】
前記機器本体における前記直交方向の前記一端側から前記カバーの前記一端側へ接続された配線を備える請求項1に記載の電子機器。
【請求項3】
前記カバーにおける前記一端を支点にした前記回転の際に、前記当接部が前記制限部にガイドされて、前記カバーが開放される請求項1又は2に記載の電子機器。
【請求項4】
前記機器本体及び前記カバーの一方に設けられ、前記カバーを前記機器本体に対して前記直交方向へ移動させると、前記機器本体及び前記カバーの他方に当接して前記カバーの前記移動を規制する規制部
を備える請求項1?3のいずれか1項に記載の電子機器。
【請求項5】
前記規制部が当接する当接部分と前記規制部との隙間よりも、前記当接面と前記対向面との重なる量が大きい請求項4に記載の電子機器。
【請求項6】
前記機器本体に配置された部品を保持するフレームを備え、
前記制限部には、前記フレームを係止する係止部が設けられている請求項1?5のいずか1項に記載の電子機器。」
とあったところを、
本件補正により、
「【請求項1】
機器本体と、
前記機器本体に対向して該機器本体に装着されたカバーと、
前記カバーにおける前記機器本体側に設けられ、且つ、前記機器本体に対する前記カバーの対向方向と直交する直交方向の一端側に配置された当接部と、
前記機器本体における前記直交方向の一端側に設けられ、前記カバーの前記一端側が前記機器本体から離間する離間方向へ前記カバーを移動させると前記当接部に当接して前記カバーの開放を制限し、前記カバーにおける前記直交方向の他端側が前記機器本体から離間するように前記カバーの前記一端を支点にして前記カバーを回転させる場合には前記カバーの開放を許容する制限部と、
前記機器本体及び前記カバーの一方に設けられ、前記カバーを前記機器本体に対して前記直交方向へ移動させると、前記機器本体及び前記カバーの他方に当接して前記カバーの前記移動を規制する規制部と、
を備え、
前記当接部は、
前記離間方向を向く当接面を有し、
前記制限部は、
前記当接面に対して隙間を有する状態で対向し且つ離間方向から見て前記当接面と重なる対向面を有し、
前記規制部が当接する当接部分と前記規制部との隙間よりも、前記当接面と前記対向面との重なる量が大きい電子機器。
【請求項2】
前記機器本体における前記直交方向の前記一端側から前記カバーの前記一端側へ接続された配線を備える請求項1に記載の電子機器。
【請求項3】
前記カバーにおける前記一端を支点にした前記回転の際に、前記当接部が前記制限部にガイドされて、前記カバーが開放される請求項1又は2に記載の電子機器。
【請求項4】
前記機器本体に配置された部品を保持するフレームを備え、
前記制限部には、前記フレームを係止する係止部が設けられている請求項1?3のいずれか1項に記載の電子機器。」
とするものである。(下線部は、補正箇所である。)

2.補正の適否
請求項1についての本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された「電子機器」について、「前記機器本体及び前記カバーの一方に設けられ、前記カバーを前記機器本体に対して前記直交方向へ移動させると、前記機器本体及び前記カバーの他方に当接して前記カバーの前記移動を規制する規制部」という構成を付加し限定するものであり、さらに、本件補正前の請求項1に記載された「当接面」、「対向面」について、「前記規制部が当接する当接部分と前記規制部との隙間よりも、前記当接面と前記対向面との重なる量が大きい」と限定を付加するものであって、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正による請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正による請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1.に本件補正による請求項1として記載したとおりのものである。

(2)引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由に引用文献1として引用された特開2013-033110号公報には、「表示装置キャビネット」に関して、図面とともに以下の事項が記載されている。

ア.「【0026】
図1は本発明の実施形態に係る表示装置キャビネットAを背方から見た概略斜視図、図2は同キャビネットAを一部破断して示した側面図である。
【0027】
キャビネットAは、縦置き式の薄型液晶テレビジョン受像機のキャビネットを構成していて、枠形のフロントパネル10と、このフロントパネル10に合わされたリアパネル50と、を備えている。そして、両方のパネル10,50が、後述する取付けビスを用いる第1固定機構と取付けビスを用いない第2固定機構との組合せでなる固定手段によって結合されている。」

イ.「【0031】
図3は図2のIII部を拡大して示した縦断側面図である。同図は、フロントパネル10を下側にしてキャビネットAを倒伏姿勢にした状態を示している。
【0032】
同図のように、フロントパネル10は、縁枠部11を一体に備えた樹脂成形体でなり、この縁枠部11が、フロントパネル10に収容されている正面視矩形の表示モジュール30の外枠部32に一定の間隔を隔てて対向している。図例では、縁枠部11に対峙している外枠部32の外面が平坦面になっている。そして、縁枠部11に内向きの突起81が突設されている。この突起81は、フロントパネル10と共に樹脂で一体成形されている。
【0033】
これに対し、フロントパネル10に合わされたリアパネル50には、フロントパネル10の縁枠部11の内側に重なり状に嵌め込まれた嵌合片82が備わっていて、この嵌合片82に設けられた係合孔部83が上記突起81に嵌合している。そして、係合孔部83や突起81のサイズは、両者の嵌合箇所で、許容することのできない大きながたつきが生じない程度に定められている。
【0034】
また、リアパネル50には、リブ状の板片でなるストッパ要素84が樹脂で一体成形されている。ストッパ要素84を形成しているリブ状の板片は、リアパネル50だけでなく、上記嵌合片82にも連設されている。そのため、このストッパ要素84は、嵌合片82やフロントパネル50を補強する補強リブとして役立っている。」

ウ.「【0035】
また、リブ状の板片によって形成されているストッパ要素84は、フロントパネル10の縁枠部11と表示モジュール30の外枠部32と相互間空間Sに配備されている。そして、ストッパ要素84を形成しているリブ状の板片の幅方向Wの一端縁が当り部85として形成されていて、その当り部83が、表示モジュール30の外枠部32に近接位置で対峙している。
【0036】
ここで、フロントパネル10側の突起81とリアパネル50側の嵌合片82の係合孔部83との嵌合箇所での係合幅(掛り代)と、ストッパ要素84の当り部85と表示モジュール30の外枠部32と間隔を対比すると、上記係合幅よりも当り部85と外枠部32との間隔が短くなっている。そのため、上記した第1固定機構70(図1又は図2参照)によってフロントパネル10とリアパネル50とが結合されていない状態で、フロントパネル10とリアパネル50とが、それらの高さ方向(図3では水平方向が相当していて、上記した板片の幅方向Wに一致する)Hに相対的に位置ずれしたとしても、その位置ずれ幅は、当り部85と外枠部32との間隔よりも大きくなることはない。言い換えると、外枠部32に当り部85が当接することにより、位置ずれ幅が上記嵌合箇所での係合幅よりも短く抑えられる。したがって、そのようなフロントパネル10とリアパネル50との位置ずれが生じたとしても、突起81から係合孔部83が抜け出て第2固定機構80による結合状態が解除されてしまうという事態は起こり得ない。」

エ.「【0043】
リワークなどに際してキャビネットAのリアパネル50をフロントパネル10から取り外して分解するときには、第1固定機構70の取付けビスを取り外した後、リアパネル50の下端部を持ち上げて、図5のように突起81から係合孔部83を抜き出し、その後、リアパネル50を引き上げてフロントパネル10から嵌合片82を引き出す、という作業が行われる。
【0044】
上記した実施形態のキャビネットの組立工程は、フロントパネル10の縁枠部11に設けられている突起81に、リアパネル50側の嵌合片82に設けられている係合孔部83を斜め方向から嵌合させることが行われる。また、分解工程では、リアパネル50を斜めに傾斜させることを通じて嵌合片82の係合孔部83を突起81から抜き出すことが行われる。そのため、組立工程及び分解工程で、突起81や係合孔部83に無理な力が加えられることがなくなり、突起81や係合孔部83の破損が未然が防止される。」

(ア)上記アによれば、表示装置キャビネットAは、フロントパネル10と、当該フロントパネル10に固定手段によって結合されたリアパネル50とを備えている。
また、図2及び図3によれば、フロントパネル10に対してリアパネル50は対向している。

(イ)上記イ及び図3によれば、フロントパネル10は、表示モジュール30の外枠部32を収容している。
さらに、上記イによれば、フロントパネル10は、縁枠部11を備えて、当該縁枠部11に突起81が突設されている。また、図2及び図3によれば、当該縁枠部11は、フロントパネル10の高さ方向Hの上端側に形成されている。

(ウ)上記イによれば、リアパネル50には、ストッパ要素84が一体成形されいる。
そして、上記イによれば、リアパネル50は嵌合片82を備え、当該嵌合片82に係合孔部83が設けられている。また、図2及び図3によれば、当該嵌合片82は、リアパネル50の高さ方向Hの上端側に形成されており、さらに、フロントパネル10側に形成されている。

(エ)上記イ及び図3によれば、フロントパネル10にリアパネル50が結合された状態では、嵌合片82に設けられた係合孔部83が突起81に嵌合している。また、係合孔部83及び突起81のサイズは、両者の嵌合箇所で、許容することのできない大きながたつきが生じない程度に定められている。

(オ)上記ウ及び図3によれば、リアパネル50のストッパ要素84を形成しているリブ状の板片の高さ方向Hの下端縁に当り部85が形成され、該当り部85が表示モジュール30の外枠部32に近接位置で対峙しており、そして、上記ウによれば、突起81と係合孔部83との嵌合箇所での係合幅(掛り代)と、ストッパ要素84の当り部85と表示モジュール30の外枠部32との間隔を対比すると、当該係合幅よりも当該間隔が短い。
また、フロントパネル10とリアパネル50とが、それらの高さ方向Hに相対的に位置ずれしたとしても外枠部32に当り部85が当接することによって、突起81から係合孔部83が抜け出て第2固定機構80による結合状態が解除されてしまうという事態は起こり得ない。

(カ)上記エによれば、リアパネル50をフロントパネル10から取り外して分解するときには、リアパネル50の高さ方向Hの下端部を持ち上げて、リアパネル50を斜めに傾斜させることを通じて突起81から嵌合片82の係合孔部83を抜き出すことが行われる。

したがって、上記アないしエの記載事項及び図面並びに上記(ア)ないし(カ)の事項を総合勘案すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「フロントパネル10と、当該フロントパネル10に固定手段によって結合されたリアパネル50とを備えた表示装置キャビネットAであって、
フロントパネル10に対してリアパネル50は対向しており、
フロントパネル10は、表示モジュール30の外枠部32を収容し、フロントパネル10の高さ方向Hの上端側には縁枠部11が形成され、当該縁枠部11に突起81が突設されており、
リアパネル50は、ストッパ要素84が一体成形され、リアパネル50の高さ方向Hの上端側、かつ、フロントパネル10側には嵌合片82が形成され、当該嵌合片82に係合孔部83が設けられ、
フロントパネル10にリアパネル50が結合された状態では、嵌合片82に設けられた係合孔部83が突起81に嵌合するものであり、
係合孔部83及び突起81のサイズは、両者の嵌合箇所で、許容することのできない大きながたつきが生じない程度に定められており、
リアパネル50のストッパ要素84を形成しているリブ状の板片の高さ方向Hの下端縁に当り部85が形成され、該当り部85が表示モジュール30の外枠部32に近接位置で対峙し、突起81と係合孔部83との嵌合箇所での係合幅(掛り代)と、ストッパ要素84の当り部85と表示モジュール30の外枠部32との間隔を対比すると、当該係合幅よりも当該間隔が短く、
フロントパネル10とリアパネル50とが、それらの高さ方向Hに相対的に位置ずれしたとしても外枠部32に当り部85が当接することによって、突起81から係合孔部83が抜け出て第2固定機構80による結合状態が解除されてしまうという事態は起こり得ず、
リアパネル50をフロントパネル10から取り外して分解するときには、リアパネル50の高さ方向Hの下端部を持ち上げて、リアパネル50を斜めに傾斜させることを通じて突起81から嵌合片82の係合孔部83を抜き出すことが行われる
表示装置キャビネットA。」

(3)対比
本件補正発明と引用発明とを対比する。

ア.引用発明は、フロントパネル10に対してリアパネル50が対向するものであって、フロントパネル10にリアパネル50を固定手段によって結合されたものであり、リアパネル50はフロントパネル10に装着されているといえるから、引用発明の「フロントパネル10」及び「リアパネル50」は、それぞれ本件補正発明の「機器本体」及び「機器本体に対向して該機器本体に装着されたカバー」に相当する。

イ.引用発明の「嵌合片82」は、リアパネル50のフロントパネル10側に設けられている。
また、引用発明において、フロントパネル10に対するリアパネル50の対向する方向を「対向方向」とすると、「リアパネル50の高さ方向Hの上端側」に形成した「嵌合片82」は、引用文献1の図3を参酌すると、フロントパネル10に対するリアパネル50の「対向方向」と直交する「高さ方向H」に配置されている。
してみると、引用発明の「高さ方向H」、「上端側」は、本件補正発明の「対向方向と直交する直交方向」、「一端側」に相当する。そして、本件補正発明の「当接部」と、引用発明の「係合孔部83」を設けた「嵌合片82」は、「カバーにおける前記機器本体側に設けられ、且つ、前記機器本体に対する前記カバーの対向方向と直交する直交方向の一端側に配置され」ている点で共通している。
また、引用発明の「突起81」は、フロントパネル10の高さ方向Hの上端側に突設されるものである。そして、引用発明は、フロントパネル10にリアパネル50が結合された状態では、嵌合片82に設けられた係合孔部83が突起81に嵌合するものであって、フロントパネル10とリアパネル50とが、それらの高さ方向に相対的に位置ずれしたとしても、突起81から係合孔部83が抜け出て結合状態が解除されてしまうという事態は起こり得ないものであるから、引用文献1の図3も参酌すると、リアパネル50の上端を対向するフロントパネル10から離間する離間方向に移動させても、突起81から係合孔部83が抜け出ることはなく、突起81が係合孔部83に当接して、リアパネル50の開放を制限するものと認められる。
してみると、本件補正発明の「制限部」と引用発明の「突起81」は、「機器本体における前記直交方向の一端側に設けられ、前記カバーの前記一端側が前記機器本体から離間する離間方向へ前記カバーを移動させると前記当接部に当接して前記カバーの開放を制限し」ている点で共通している。

ウ.引用発明の「リアパネル50の高さ方向Hの下端部」は、本件補正発明の「カバーにおける前記直交方向の他端側」に相当する。
そして、引用発明において「リアパネル50の高さ方向Hの下端部を持ち上げて、リアパネル50を斜めに傾斜させる」ことは、リアパネル50における前記「直交方向」の「他端側」がフロントパネル10に対して離間することであり、離間させた場合、引用文献1の図3ないし5を参酌すると、リアパネル50の前記「直交方向」の一端が、リアパネル50の「支点」となってリアパネル50が回転することは明らかである。そして、リアパネル50が回転すると、引用発明の「突起81」はその突起81から係合孔部83が抜き出るから、リアパネル50の開放を許容しているといえる。
これらのことから、上記イで説示したことに加え、本件補正発明の「制限部」と引用発明の「突起81」は、「前記カバーにおける前記直交方向の他端側が前記機器本体から離間するように前記カバーの前記一端を支点にして前記カバーを回転させる場合には前記カバーの開放を許容する」点でも共通している。

エ.引用発明の「当たり部85」は、フロントパネル10とリアパネル50とが、それらの高さ方向Hに相対的に位置ずれしたとしても外枠部32に当接するものであることから、リアパネル50の移動を規制するものともいえる。ここで、「当たり部85」とは、リアパネル50と一体に成形したストッパ要素84の当たり部のことであるから、「当たり部85」はリアパネル50に設けられている。
これらのことから、本件補正発明の「規制部」と引用発明の「当たり部85」は、「記カバーに設けられ、前記カバーを前記機器本体に対して前記直交方向へ移動させると、前記機器本体に当接して前記カバーの前記移動を規制する」点で共通する。

オ.引用発明において、上記イで説示した離間方向へリアパネル50を離間させる場合に、引用発明の「嵌合片82」における「係合孔部83」と「突起81」が当接する部分とは、引用発明の「嵌合片82」の「係合孔部83」における離間方向と反対側の部分と、「突起81」における離間方向と反対側の部分である。
そうすると、引用発明の「嵌合片82」の「係合孔部83」における離間方向と反対側の部分は、本件補正発明の「前記当接面」に相当する。
また、引用発明の「突起81」における離間方向と反対側の部分については、本願補正発明の「当接面と重なる対向面」に相当するものである。
ただし、上記対向面は、本件補正発明では、当接面に対して隙間を有する状態で対向しているのに対し、引用発明では、そのような状態で対向していることが特定されていない点で相違する。

カ.引用発明の「外枠部32」は、フロントパネル10とリアパネル50とが高さ方向Hに相対的に位置ずれした時に「当り部85」が当接するから、本件補正発明の「規制部が当接する当接部分」に相当する。そして、引用発明の「外枠部32」と「当り部85」との「間隔」とは、本件補正発明の「規制部が当接する当接部分と前記規制部との隙間」に相当する。
一方、引用発明の「掛り代」とは、一般に重なり合った部分の幅のことを意味していることから、引用発明の「突起81と係合孔部83との嵌合箇所での係合幅(掛り代)」とは、突起81と係合孔部83の重なり合った部分の幅を指している。してみると、引用発明の「突起81と係合孔部83との嵌合箇所での係合幅(掛り代)」は、本件補正発明の「当接面と前記対向面との重なる量」に相当する。
そうすると、引用発明の当該「係合幅」よりも当該「間隔」が短いことは、本件補正発明の「規制部が当接する当接部分と前記規制部との隙間よりも、前記当接面と前記対向面との重なる量が大きい」ことに相当する。

キ.引用発明の「表示装置キャビネットA」は、「フロントパネル10」と、「リアパネル50」と、「係合孔部83」を設けた「嵌合片82」と、「突起81」と、「当たり部85」とを備えているから、本件補正発明の「電子機器」に相当する。

以上を勘案すると、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は次のとおりである。

<一致点>
「機器本体と、
前記機器本体に対向して該機器本体に装着されたカバーと、
前記カバーにおける前記機器本体側に設けられ、且つ、前記機器本体に対する前記カバーの対向方向と直交する直交方向の一端側に配置された当接部と、
前記機器本体における前記直交方向の一端側に設けられ、前記カバーの前記一端側が前記機器本体から離間する離間方向へ前記カバーを移動させると前記当接部に当接して前記カバーの開放を制限し、前記カバーにおける前記直交方向の他端側が前記機器本体から離間するように前記カバーの前記一端を支点にして前記カバーを回転させる場合には前記カバーの開放を許容する制限部と、
前記機器本体及び前記カバーの一方に設けられ、前記カバーを前記機器本体に対して前記直交方向へ移動させると、前記機器本体及び前記カバーの他方に当接して前記カバーの前記移動を規制する規制部と、
を備え、
前記当接部は、
前記離間方向を向く当接面を有し、
前記制限部は、
離間方向から見て前記当接面と重なる対向面を有し、
前記規制部が当接する当接部分と前記規制部との隙間よりも、前記当接面と前記対向面との重なる量が大きい電子機器。」

<相違点>
対向面は、本件補正発明では、当接面に対して隙間を有する状態で対向しているのに対し、引用発明では、そのような状態で対向していることが特定されていない点。

(4)判断
上記相違点について検討する。
引用発明の係合孔部83及び突起81のサイズは、両者の嵌合箇所で、許容することのできない大きながたつきが生じない程度に定められていることから、係合孔部83と突起81との間には、そのようながたつきが生じない程度の隙間を許容していることを示唆しているものである。
してみれば、引用発明において係合孔部83及び突起81の間に隙間を配置することは、設計事項に過ぎないものであるから、引用発明において、対向面を当接面に対して隙間を有する状態で対向させて上記相違点の構成にすることは、当業者が適宜なし得るものである。
また、本件補正発明の効果も、引用発明から当業者が予測し得る範囲内のものであって、格別のものではない。

以上のとおりであるから、本件補正発明は、引用文献1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(5)補正の適否についてのむすび
以上のとおり、本件補正発明は、引用文献1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1.本願発明
平成30年2月26日にされた手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし6に係る発明は、平成29年5月23日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されたものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記「第2」の「1.」に本件補正前の請求項1として記載したとおりのものである。

2.原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1に係る発明は、引用文献1(特開2013-033110号公報)に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものを含むものである。

3.引用発明
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1及びその記載事項等は、上記「第2」の「2.」の「(2)」に記載したとおりである。

4.対比・判断
本願発明は、上記「第2」で検討した本件補正発明から「前記機器本体及び前記カバーの一方に設けられ、前記カバーを前記機器本体に対して前記直交方向へ移動させると、前記機器本体及び前記カバーの他方に当接して前記カバーの前記移動を規制する規制部」という限定を削除し、さらに、「前記規制部が当接する当接部分と前記規制部との隙間よりも、前記当接面と前記対向面との重なる量が大きい」という限定を削除したものである。
そうすると、本願発明の特定事項を全て含み、さらに他の特定事項を付加したものに相当する本件補正発明が、上記「第2」の「2.」に記載したとおり、引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用文献1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-04-05 
結審通知日 2019-04-09 
審決日 2019-04-24 
出願番号 特願2013-221236(P2013-221236)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H05K)
P 1 8・ 121- Z (H05K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 久松 和之  
特許庁審判長 國分 直樹
特許庁審判官 山澤 宏
鈴木 圭一郎
発明の名称 電子機器  
代理人 田▲崎▼ 聡  
代理人 渡辺 伸一  
代理人 石田 良平  
代理人 武田 雄人  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ