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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01N
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G01N
管理番号 1352680
審判番号 不服2018-8058  
総通号数 236 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-08-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-06-12 
確定日 2019-06-14 
事件の表示 特願2015-219990「ガスセンサ素子およびガスセンサ」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 6月23日出願公開、特開2016-114593〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成27年11月10日(国内優先権主張 平成26年12月16日)の出願であって、平成29年8月15日付けで拒絶理由が通知され、同年10月26日付けで意見書が提出され、平成30年3月26日付けで拒絶査定されたところ、同年6月12日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に手続補正がなされたものである。

第2 平成30年6月12日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成30年6月12日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。(下線部は、補正箇所である。)

「 【請求項1】
長手方向に延びる板状のガスセンサ素子であって、
貫通孔を前記長手方向先端側に有する絶縁部、及び、前記貫通孔内に配置された固体電解質部、を有する板状の複合セラミック層と、
前記複合セラミック層の一方の主面側に前記固体電解質部に接触して配置された電極部と、
前記複合セラミック層の前記一方の主面側において前記絶縁部のみに接触すると共に、自身の先端が前記貫通孔よりも前記長手方向後端側に引き下がって配置され、前記電極部に電気的に接続されて前記長手方向後端側に延びるリード部と、
を備え、
前記電極部の後端部は、前記複合セラミック層の前記一方の主面側の前記絶縁部上において、前記リード部の先端部と重ね合わされてなり、
前記リード部の先端部上に前記電極部の後端部が重ね合わされてなり、
前記電極部の後端部は、前記複合セラミック層の前記一方の主面側の前記絶縁部上のみにおいて、前記固体電解質部上に配置された前記電極部の先端部よりも厚みが大きくなることを特徴とするガスセンサ素子。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。

「【請求項1】
長手方向に延びる板状のガスセンサ素子であって、
貫通孔を前記長手方向先端側に有する絶縁部、及び、前記貫通孔内に配置された固体電解質部、を有する板状の複合セラミック層と、
前記複合セラミック層の一方の主面側に前記固体電解質部に接触して配置された電極部と、
前記複合セラミック層の前記一方の主面側において前記絶縁部のみに接触すると共に、自身の先端が前記貫通孔よりも前記長手方向後端側に引き下がって配置され、前記電極部に電気的に接続されて前記長手方向後端側に延びるリード部と、
を備え、
前記電極部の後端部は、前記複合セラミック層の前記一方の主面側の前記絶縁部上において、前記リード部の先端部と重ね合わされてなる
ことを特徴とするガスセンサ素子。」

2 補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「前記電極部の後端部」と、「前記リード部の先端部」との「重ね合わ」せが、「前記リード部の先端部上に前記電極部の後端部が重ね合わされてなり、前記電極部の後端部は、前記複合セラミック層の前記一方の主面側の前記絶縁部上のみにおいて、前記固体電解質部上に配置された前記電極部の先端部よりも厚みが大きくなる」との限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。

(2)引用文献の記載事項
ア 引用文献1
(ア)引用文献1に記載された事項
原査定の拒絶の理由で引用された本願の優先日前に頒布された引用文献である、特開2007-278941号公報(平成19年10月25日出願公開。以下「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の記載がある。

(引1a)「【0028】
図1は、本発明を適用した実施形態のセンサ素子4を備える酸素センサ2の全体構成を示す断面図である。
酸素センサ2は、排気管に固定するためのネジ部103が外表面に形成された筒状の主体金具102と、軸線方向(図中上下方向)に延びる板状形状をなすセンサ素子4と、センサ素子4の径方向周囲を取り囲むように配置される筒状のセラミックスリーブ6と、軸線方向に貫通するコンタクト挿通孔84の内壁面がセンサ素子4の後端部の周囲を取り囲む状態で配置される絶縁コンタクト部材82と、センサ素子4と絶縁コンタクト部材82との間に配置される4個のリードフレーム10(図1では、2個のみを図示)と、を備えている。」

(引1b)「【0037】
ここで、センサ素子4の概略構造を表す分解斜視図を、図2に示す。なお、図2では、先端側が図における左側となり、後端側が図における右側となるように、センサ素子4を図示している。図に示すように、センサ素子4は、センサ部600と、ヒータ500と、を備えて構成されている。
【0038】
センサ部600は、酸素濃度検出セル430および保護層407を備えて構成されている。
センサ部600の酸素濃度検出セル430は、絶縁性材料(アルミナなど)からなる絶縁部材405と、部分安定化ジルコニア焼結体からなる固体電解質体435と、白金(Pt)からなる第1電極404および第2電極406と、を備えて構成されている。
【0039】
絶縁部材405は、厚さ方向に貫通する貫通孔433を有する板型形状に形成されている。また、絶縁部材405は、後端側に厚さ方向に貫通する第1スルーホール461を備えている。
【0040】
固体電解質体435は、絶縁部材405における貫通孔433の内部に配置されている。この固体電解質体435は、ジルコニア(ZrO_(2) )に安定化剤としてイットリア(Y_(2)0_(3))又はカルシア(CaO)を添加してなる部分安定化ジルコニア焼結体で構成されている。
【0041】
第1電極404は、固体電解質体435の一部を覆う第1電極部451と、第1電極部451から絶縁部材405の長手方向の後端側に延びる第1リード部453と、を備えて形成されている。
【0042】
第2電極406は、固体電解質体435の一部を覆う第2電極部447と、第2電極部447から絶縁部材405の長手方向の後端側に延びる第2リード部449と、を備えて形成されている。」

(引1c)「【0088】
さらに、固体電解質体435および絶縁部材405の上に、未焼成第1電極404および未焼成第2電極406をスクリーン印刷法により形成する。なお、未焼成第1電極404および未焼成第2電極406は、白金90質量%及びジルコニア粉末10質量%の白金ペーストからなる。この白金ペーストを用いたスクリーン印刷法により、未焼成第1電極404および未焼成第2電極406を成形する。」

(引1d)「【0093】
未焼成固体電解質体435は、焼成工程により、固体電解質体435となる。未焼成絶縁部材405は、焼成工程により、絶縁部材405となる。
未焼成第2電極406は、焼成工程により、第2電極部447と第2リード部449とからなる第2電極406となる。」

(引1e)「【図2】



(イ)引用文献1に記載された発明
a 上記(引1b)より「図2では、先端側が図における左側となり」、上記(引1e)より、「絶縁部材405」の「貫通孔433」は、「絶縁部材405」の長手方向の左側に配置されている点が見て取れるから、前記「貫通孔433」は、「絶縁部材405」の長手方向の先端側に配置されていると認められる。また、上記(引1e)より、「第2電極部447」と、「第2リード部449」とからなる、「第2電極406」は、「絶縁部材405」及び「貫通孔433の内部に配置され」た「固体電解質体435」とからなるものの一方の主面側に配置されている点が見て取れる。

b すると、上記(引1a)?(引1e)から、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「酸素センサ2に備えられる板状形状をなすセンサ素子4において、
センサ素子4は、センサ部600と、ヒータ500と、を備え、
センサ部600は、酸素濃度検出セル430および保護層407を備え、
酸素濃度検出セル430は、絶縁性材料からなる絶縁部材405と、部分安定化ジルコニア焼結体からなる固体電解質体435と、第1電極404および第2電極406と、を備え、
絶縁部材405は、厚さ方向に貫通する貫通孔433を有する板型形状に形成され、
前記貫通孔433は、絶縁部材405の長手方向の先端側に配置され、
固体電解質体435は、絶縁部材405における貫通孔433の内部に配置され、
第2電極406は、固体電解質体435の一部を覆う第2電極部447と、第2電極部447から絶縁部材405の長手方向の後端側に延びる第2リード部449と、を備え、
第2電極部447と、第2リード部449とからなる、第2電極406は、絶縁部材405及び貫通孔433の内部に配置された固体電解質体435とからなるものの一方の主面側に配置され、
固体電解質体435および絶縁部材405の上に、未焼成第2電極406をスクリーン印刷法により形成し、
未焼成第2電極406は、焼成工程により、第2電極部447と第2リード部449とからなる第2電極406となる
センサ素子4。」

イ 引用文献2
(ア)引用文献2に記載された事項
原査定の拒絶の理由で引用された本願の優先日前に頒布された引用文献である、特開2012-177638号公報(平成24年9月13日出願公開。以下「引用文献2」という。)には、図面とともに、次の記載がある。

(引2a)「【0031】
第2の電極部118は、例えば略四角形状とされ、第1の固体電解質層115の他方の主面(図中、上側の主面)上に形成されている。第2の電極部118は、外部からの排ガスを拡散(通過)できる程度に空隙(気孔)を有する。
【0032】
第2のセンサリード部119の先端側(一端側)は、第2の電極部118の後端側(他端側)に接続されている。第2のセンサリード部119は、第1の固体電解質層115の長手方向(ガスセンサ1の軸線方向)に沿って延びている。また、第2のセンサリード部119は、第1のセンサリード部113と同様に、第2の電極部118よりも緻密である。言い換えれば、第2のセンサリード部119は、第2の電極部118よりも気孔率が小さい。さらに言い換えれば、第2のセンサリード部119は、第2の電極部118よりも単位体積当たりの気体透過量が小さい。一般に、同じ組成で形成された導電性部材は、緻密な層ほど電気抵抗は低くなる。よって、第2のセンサリード部119は、第2の電極部118よりも緻密な層にすることで、緻密の程度が第2の電極部118と同じ場合よりも、第2のセンサリード部119を介した信号の伝達を良好に行うことができる。」

(引2b)「【0051】
図3(B)に示すように、絶縁層202は、固体電解質層201上に直接に形成されている。リード部205は、絶縁層202上に直接に形成されており、固体電解質層201上には直接に形成されていない。すなわち、リード部205は絶縁層202を挟んで固体電解質層201上に形成されている。また、長手方向(図3(B)では左右方向)について、リード部205の先端205Yは絶縁層202の先端202Yよりも後端側に配置されている。電極部204は、先端側に位置する先端部204Yが固体電解質層201上に直接に形成され、後端側に位置する後端部204W(「特許請求の範囲の「接続部」に相当する)がリード部205上に直接に重ね合わされている。すなわち、後端部204Wは、絶縁層202とリード部205を挟んで固体電解質層201上に形成されている。さらに言い換えれば、先端部204Yが固体電解質層201の表面に接して配置され、後端部204Wがリード部205上の表面に接して配置され、先端部204Yと後端部204Wを繋ぐ中間部204Pが固体電解質層201から絶縁層202に乗り上げるように配置されている。また、リード部205の厚さは、電極部204の厚さよりも小さい。ここで、上記の厚さの大小関係は各層の部分のうち、最も薄い部分同士を比較した場合の関係である。また、上述のごとく、リード部205は電極部204よりも緻密な層である。なお、図3では図示を省略しているが、長手方向について、リード部205の後端は絶縁層202の後端よりも先端側に配置されている。」

(引2c)「【図3】



(イ)引用文献2に記載された技術事項
a 上記(引2c)より、(引2a)の、「第1の固体電解質層115」、「第2の電極部118」及び「第2のセンサリード部119」は、(引2b)の「固体電解質層201」、「電極部204」及び「リード部205」である点が見て取れる。

b 上記(引2a)?(引2c)より、引用文献2には次の技術事項(以下、「技術事項2」という。)が記載されている。

「第2の電極部118は、第1の固体電解質層115の主面上に形成され、
第2のセンサリード部119の先端側(一端側)は、第2の電極部118の後端側(他端側)に接続され、
第2のセンサリード部119は、第1の固体電解質層115の長手方向に沿って延び、
第2のセンサリード部119は、第2の電極部118よりも緻密な層にすることで、緻密の程度が第2の電極部118と同じ場合よりも、第2のセンサリード部119を介した信号の伝達を良好に行うことができ、
第2の電極部118は、先端側に位置する先端部204Yが第1の固体電解質層115上に直接に形成され、後端側に位置する後端部204Wが第2のセンサリード部119上に直接に重ね合わされた
酸素濃度検出セル110。」

(3)対比
本件補正発明と引用発明とを対比する。

ア 引用発明の「酸素センサ2に備えられる板状形状をなすセンサ素子4」は、本件補正発明の「長手方向に延びる板状のガスセンサ素子」に相当する。

イ 引用発明の「貫通孔433」、「絶縁部材405」及び「固体電解質体435」は、それぞれ本件補正発明の「貫通孔」、「絶縁部」及び「固体電解質部」に相当する。そして、引用発明の「前記貫通孔433」が、「長手方向の先端側に配置され」た「絶縁部材405」は、本件補正発明の「貫通孔を前記長手方向先端側に有する絶縁部」に相当し、引用発明の「絶縁部材405における貫通孔433の内部に配置され」た「固体電解質体435」は、本件補正発明の、「前記貫通孔内に配置された固体電解質部」に相当する。また、引用発明の「絶縁部材405」は、「板型形状に形成され」ているから、引用発明の「前記貫通孔433」が、「長手方向の先端側に配置され」た「絶縁部材405」、及び、「絶縁部材405における貫通孔433の内部に配置され」た「固体電解質体435」からなるものも「板型形状」であるから、引用発明の「前記貫通孔433」が、「長手方向の先端側に配置され」た「絶縁部材405」、及び、「絶縁部材405における貫通孔433の内部に配置され」た「固体電解質体435」からなるものは、本件補正発明の「貫通孔を前記長手方向先端側に有する絶縁部、及び、前記貫通孔内に配置された固体電解質部、を有する板状の複合セラミック層」に相当する。

ウ 引用発明の「第2電極部447」及び「第2リード部449」は、それぞれ、本件補正発明の「電極部」及び「リード部」に相当する。そして、引用発明の「第2電極部447と、第2リード部449とからなる、第2電極406は、絶縁部材405及び貫通孔433の内部に配置された固体電解質体435とからなるものの一方の主面側に配置され」、「第2電極部447」は、「固体電解質体435の一部を覆う」ものであるから、引用発明の「第2電極部447」は、本件補正発明の「前記複合セラミック層の一方の主面側に前記固体電解質部に接触して配置された電極部」に相当する。また、引用発明の「第2リード部449」は、「第2電極部447から絶縁部材405の長手方向の後端側に延び」ているから、本件補正発明の「リード部」とは、「前記複合セラミック層の前記一方の主面側において前記絶縁部に接触すると共に、前記電極部に電気的に接続されて前記長手方向後端側に延びる」点で共通する。

エ 上記ア?ウより、本件補正発明と引用発明との間には、以下の一致点及び相違点がある。

(一致点)
「長手方向に延びる板状のガスセンサ素子であって、
貫通孔を前記長手方向先端側に有する絶縁部、及び、前記貫通孔内に配置された固体電解質部、を有する板状の複合セラミック層と、
前記複合セラミック層の一方の主面側に前記固体電解質部に接触して配置された電極部と、
前記複合セラミック層の前記一方の主面側において前記絶縁部に接触すると共に、前記電極部に電気的に接続されて前記長手方向後端側に延びるリード部と、
を備えるガスセンサ素子。」

(相違点)
電極部及びリード部について、本件補正発明は、「前記リード部」が、「前記絶縁部のみに接触すると共に、自身の先端が前記貫通孔よりも前記長手方向後端側に引き下がって配置され」、「前記電極部の後端部は、前記複合セラミック層の前記一方の主面側の前記絶縁部上において、前記リード部の先端部と重ね合わされてなり、前記リード部の先端部上に前記電極部の後端部が重ね合わされてなり、前記電極部の後端部は、前記複合セラミック層の前記一方の主面側の前記絶縁部上のみにおいて、前記固体電解質部上に配置された前記電極部の先端部よりも厚みが大きくなる」ものであるのに対し、引用発明は、「第2電極部447と第2リード部449とからなる第2電極406」が、「固体電解質体435および絶縁部材405の上に、未焼成第2電極406をスクリーン印刷法により形成」され、「焼成工程により、第2電極部447と第2リード部449とからなる第2電極406と」なったものであることから、「第2電極部447」と「第2リード部449」とは一体的に形成されたものである点。

(4)判断
上記相違点について検討する。

ア 技術事項2から認識される構成
(ア)技術事項2の「第2のセンサリード部119は、第2の電極部118よりも緻密な層にすることで、緻密の程度が第2の電極部118と同じ場合よりも、第2のセンサリード部119を介した信号の伝達を良好に行うことができ」るようにしていることから、技術事項2は、「信号の伝達を良好に行う」ために、「第2のセンサリード部119」を、「第2の電極部118よりも緻密な層にする」ものである。

(イ)技術事項2の「第2の電極部118は、第1の固体電解質層115の主面上に形成され、第2のセンサリード部119の先端側(一端側)は、第2の電極部118の後端側(他端側)に接続され」、「先端側に位置する先端部204Yが第1の固体電解質層115上に直接に形成され、後端側に位置する後端部204Wが第2のセンサリード部119上に直接に重ね合わされ」ているから、技術事項2の「第2のセンサリード部119の先端側(一端側)」上に「第2の電極部118」の「後端部204W」が重ね合わされているものであると認められる。

(ウ)「第2の電極部118」の「後端部204W」を、「第2のセンサリード部119の先端側(一端側)」と重ね合わせた場合、「第2の電極部118」の「後端部204W」の厚さが、「第2のセンサリード部119の先端側(一端側)」に重ね合わせることにより、「第1の固体電解質層115上に直接に形成され」た「第2の電極部118」の「先端側に位置する先端部204Y」の厚さより大きくなることは上記(引2c)の図3(B)を見ても明らかであるから、「第2の電極部118」の「後端部204W」は、「第1の固体電解質層115上に直接に形成され」た「第2の電極部118」の「先端側に位置する先端部204Y」よりも厚みが大きくなると認められる。

(エ)以上(ア)?(ウ)より、技術事項2は、「信号の伝達を良好に行うために、第2のセンサリード部119を、第2の電極部118よりも緻密な層とし、第2のセンサリード部119の先端側(一端側)上に第2の電極部118の後端部204Wを重ね合わせ、第2の電極部118の後端部204Wは、第1の固体電解質層115上に直接に形成された第2の電極部118の先端側に位置する先端部204Yよりも厚みが大きくなる構成」を有していると認められる。

イ 相違点についての判断
(ア)ガスセンサにおいて、センサとして機能する部分の電極は、固体電解質へのガスの供給を考慮して通気性の高いものの方がよいこと、また、リード部の電極は、センサの応答性を考慮して抵抗の低い材料とした方がよいことは当該技術分野において自明事項であって、引用発明の「第2電極406」においても同じことがいえることは明らかである。すると、引用発明の「第2電極406」の「第2電極部447」及び「第2リード部449」において、それぞれの電極に求められる性能を考慮して技術事項2の「信号の伝達を良好に行うために、第2のセンサリード部119を、第2の電極部118よりも緻密な層と」する構成及びその際の「第2のセンサリード部119」と「第2の電極部118」との接続を「第2のセンサリード部119の先端側(一端側)上に第2の電極部118の後端部204Wを重ね合わせ」て接続する構成を適用し、「第2リード部449」を「第2電極部447」よりも緻密な層とし、「第2リード部449」の先端部上に「第2電極部447」の後端部を重ね合わせて接続する構成とすることは、当業者が容易に想到できたことである。

(イ)ここで、引用発明に技術事項2を適用した場合の「第2リード部449」と「第2電極部447」との重ね合わせの位置について検討する。
ガスセンサにおいて、センサの測定精度のバラツキの防止という課題は、通常考慮されなければならない課題であって、該課題解決のためには、センサとして機能する部分の電極は、その抵抗値や通気性が一定でなければならず、そのためにセンサ部分の電極は緻密度が同じ材料を一定の厚さで形成しなければならないことは、当技術分野において技術常識であることに鑑みると、「第2リード部449」と「第2電極部447」との重ね合わせの位置は、「第2電極部447」の「固体電解質体435」上にある電極の抵抗値や緻密度への影響がない位置に形成する必要がある。そのためには、「第2リード部449」と「第2電極部447」との重ね合わせの位置を、通気性も抵抗も違う電極である「第2リード部449」が「第2電極部447」の「固体電解質体435」上にある電極と重ね合わせられないだけでなく、「第2リード部449」の先端部上に「第2電極部447」の後端部が重ね合わされることにより形成される「第2電極部447」の厚さの厚い部分が「固体電解質体435」上に形成されない位置としなければならない。
そうすると、引用発明に技術事項2を適用した場合の「第2リード部449」と「第2電極部447」との重ね合わせの位置は、「絶縁部材405」上であって、「第2リード部449」の先端部上に「第2電極部447」の後端部が重ね合わされることにより形成される「第2電極部447」の厚さが厚くなる部分が、「固体電解質体435」上の電極に影響しない程度に「固体電解質体435」と「絶縁部材405」との境界部より離れた位置で重ね合わせることとなり、この場合においては、「第2リード部449」は、「絶縁部材405」のみに接触し、自身の先端が「貫通孔433」よりも前記長手方向後端側に引き下がって配置されることとなり、「第2リード部449」の先端部上に「第2電極部447」の後端部を重ね合わせることにより形成される「第2電極部447」の厚みが厚くなる部分は、「絶縁部材405」上のみに形成されることとなる。

(ウ)よって、引用発明において、「第2電極部447」を通気性の高いものとし、「第2リード部449」を抵抗の低いものとすべく、引用発明に技術事項2を適用し、「第2リード部449」が、「絶縁部材405」のみに接触すると共に、自身の先端が「貫通孔433」よりも前記長手方向後端側に引き下がって配置され、「第2電極部447」の後端部は、「固体電解質体435」及び「絶縁部材405」からなるもの一方の主面側の「絶縁部材405」において、「第2リード部449」の先端部と重ね合わされてなり、「第2リード部449」の先端部上に「第2電極部447」の後端部が重ね合わされてなり、「第2電極部447」の後端部は、「固体電解質体435」及び「絶縁部材405」からなるものの前記一方の主面側の「絶縁部材405」上のみにおいて、「固体電解質体435」上に配置された「第2電極部447」の先端部よりも厚みが大きくなるようにすることは当業者が容易に想到できたことである。

ウ 効果について
本件補正発明の効果は、引用文献1及び2に記載された事項から、当業者が容易に予測できる範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

エ したがって、本件補正発明は、引用発明及び技術事項2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 本件補正についてのむすび
よって、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

4 本件補正発明についての請求人の主張について
本件補正発明について請求人は、「・・・引用文献1においては「前記第2電極部447の後端部は、前記複合セラミック層の前記一方の主面側の前記絶縁部材405上において、前記第2リード部449の先端と一体的に連続して形成された構成が、記載されております。仮にこのような構成の引用文献1に対し、引用文献2や3にて記載されている「電極部の後端部をリード部と重ね合わせて接続する構成」を適用することに何ら阻害要因も認められず、容易に適用することが出来たとします。そうすると、引用文献1及び2?3を組み合わせたリード部はその先端を貫通孔よりも長手方向後端側に引き下げる形態の他に、引用文献2のように第2の絶縁層を設け、その上にリード部を設ける構成等種々の構成が考えられます。引用文献2の構成のように、第2の絶縁層を設け、リード部をその上に配置する構成においては、貫通孔との位置は関係ありません。このように種々の構成がある中で、あえてリード部の先端を貫通孔よりも長手方向後端側に引き下がるような構成とする記載や示唆は各引用文献にはなく、要件(d)のような構成をとる動機となるような記載や示唆は存在していません。」と主張しているが、引用発明に技術事項2を適用した場合、リード部の先端を貫通孔よりも長手方向後端側に引き下がるような構成となることは、上記2(4)イで検討したとおりであるから、「要件(d)のような構成をとる動機となるような記載や示唆は存在し」ないとする請求人の主張は採用されない。さらに、請求人が主張するような「絶縁部材405」以外に「引用文献2のように第2の絶縁層を設け、その上にリード部を設ける構成」は、「第2の絶縁層設け、その上にリード部を設ける構成」とすることに何らかの効果が認められない限り採用されることはないから、この点においても請求人の主張は採用されない。

また請求人は審判請求書の請求の理由の中で、
「また、仮に、引用文献1に引用文献2-3を適用し、更に要件(d)を加え、そして、引用文献2より要件(f)を適用した形態に想到することができたとしても、電極部の後端部の厚みが大きくなる箇所について、絶縁部上のみにおいて厚みが大きくなるとは限らず、絶縁部上だけでなく、固体電解質上においても厚みが大きくなる形態もとり得ます。その中で、あえて絶縁部上のみにおいて固体電解質部上に配置された電極部の先端部よりも厚みが大きくなるようにする記載や示唆は当然引用文献1乃至4には無く、容易に想到するとは言えません。
また、本願請求項1に記載の発明は、固体電解質部上に、電極部の後端部の厚みが大きくなった部分が配置されないため、電極厚み差によるガス検出の制度バラつきを低減できる、という優れた効果を有しております。」旨主張しているが、ガスを検出する固体電解質部上の電極の厚みのバラツキがガスの測定精度に影響することは、当該技術分野において自明の事項であって、引用発明の「第2電極部447」と「第2リード部449」との接続部の構成に技術事項2の構成を適用する際に、ガスの測定精度のばらつきを防止するために、電極部の後端部の厚みが大きくなる箇所が絶縁部上のみとなるよう、重ね合わせ部の位置を調整することは、上記2(4)イで検討したとおりであるから、上記請求人の主張は採用されない。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成30年6月12日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、出願当初の特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1ないし4に係る発明は、本願の出願前に頒布された下記の引用文献1に記載された発明及び引用文献2ないし4に記載された事項に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1:特開2007-278941号公報
引用文献2:特開2012-177638号公報
引用文献3:特開2014-194406号公報
引用文献4:特開昭57-137848号公報

3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1ないし2及びその記載事項は、前記第2の[理由]2(2)に記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、前記第2の[理由]2で検討した本件補正発明から、「前記リード部の先端部上に前記電極部の後端部が重ね合わされてなり、前記電極部の後端部は、前記複合セラミック層の前記一方の主面側の前記絶縁部上のみにおいて、前記固体電解質部上に配置された前記電極部の先端部よりも厚みが大きくなる」との限定事項を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2の[理由]2(3)、(4)に記載したとおり、引用発明及び技術事項2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明及び技術事項2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-04-09 
結審通知日 2019-04-10 
審決日 2019-04-23 
出願番号 特願2015-219990(P2015-219990)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01N)
P 1 8・ 575- Z (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 黒田 浩一  
特許庁審判長 三崎 仁
特許庁審判官 信田 昌男
福島 浩司
発明の名称 ガスセンサ素子およびガスセンサ  
代理人 中島 浩貴  

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