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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 取り消して特許、登録 G02F
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G02F
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G02F
管理番号 1352745
審判番号 不服2017-9762  
総通号数 236 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-08-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-07-03 
確定日 2019-07-10 
事件の表示 特願2014-524286「光透過を制御するための層配列」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 2月14日国際公開、WO2013/020629、平成26年 9月 8日国内公表、特表2014-523007、請求項の数(12)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2012年7月13日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2011年8月8日、2011年8月24 欧州特許庁)を国際出願日とする出願であり、その手続の経緯は、概略、以下のとおりである。

平成26年 4月 7日:国際出願翻訳文提出書の提出
平成27年 7月13日:出願審査請求書の提出
同年12月 1日:拒絶理由通知(12月3日発送)
平成28年 3月 3日:期間延長請求書の提出
同年 4月 4日:期間延長請求書の提出
同年 5月 6日:期間延長請求書の提出
同年 5月31日:手続補正書・意見書の提出
同年 7月 1日:拒絶理由通知(7月7日発送)
同年10月 7日:期間延長請求書の提出
同年12月 7日:期間延長請求書の提出
平成29年 1月10日:意見書の提出
同年 3月 1日:拒絶査定(3月3日送達)
同年 7月 3日:審判請求書・手続補正書の提出
平成30年 2月20日:上申書の提出
同年 9月26日:拒絶理由通知(9月27日発送)
同年12月26日:期間延長請求書の提出
平成31年 1月28日:期間延長請求書の提出
同年 2月27日:期間延長請求書の提出
同年 3月27日:誤訳訂正書・手続補正書・意見書の提出

第2 原査定の概要
平成29年3月1日付け拒絶査定の概要は、次のとおりである。

「発明の詳細な説明において『スイッチング層』について、具体的な液晶層厚(d)や、具体的な液晶材料(Δn)、その他配向膜などの構成、スイッチングする臨界温度は何度なのかといった、請求項1に記載された上記機
能を実現するための具体的な説明が記載されていない。
よって、この出願の発明の詳細な説明の記載は、スイッチング層をどのような構成にすれば上記請求項1に記載された機能を実現できるのか把握できないので、当業者が請求項1に係る発明を実施できる程度に十分かつ明確に記載したものでない。従属する請求項2-12についても同様である。」

第3 当審拒絶理由の概要
平成30年9月26日に当審が通知した拒絶理由の概要は、次のとおりである。

1 【理由1】(明確性要件)
本件出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。


請求項1においては、「第一次の最小値」、「第二次の最小値」及び「高次の最小値」とVIS領域との関係が特定されている。
ここで、「第一次の最小値」、「第二次の最小値」及び「高次の最小値」の単位は「レタデーション」であると解され、VIS領域の単位は「波長」であるから、技術的概念の異なる数値の関係により「ねじれネマチック液晶層」を特定していることになる。
したがって、該「ねじれネマチック液晶層」が、どのようなものであるのか理解できない。

2 【理由2】(サポート要件及び実施可能要件)
本件出願は、特許請求の範囲の記載及び発明の詳細な説明の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号及び同条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。


層配列の暗い状態と透明状態との間で、エネルギー透過に大きな差が生じる「スイッチング層(2)」を、どのようにすれば得られるのか理解できない。

3 【理由3】(進歩性要件)
本願発明1ないし本願発明12は、当業者が下記の引用文献に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献:米国特許公開第2011/0102878号明細書

第4 本願発明
本願請求項1ないし12に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明12」という。)は、平成31年3月27日付の手続補正(以下「本件補正」という。)により補正された特許請求の範囲1ないし12に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1ないし本願発明12は、以下のとおりの発明である(なお、下線は、当審で付した。以下同じ。)。

「【請求項1】
入射光の透過をその温度に応じて変化させる層配列(1)であって、該層配列(1)が、第一の偏光層(5a)、前記温度に応じて光の偏光特性に影響を与えるスイッチング層(2)および第二の偏光層(5b)を有し、第一の偏光層(5a)および第二の偏光層(b)の両方が、VIS領域およびNIR領域の両方で、光を偏光するように構成されたものであることを特徴とし、かつ、スイッチング層(2)は、dΔn>0.75(μm)であって、透過の第一次の最小値に対応する波長がVIS領域においては存在しないが、dΔn>0.75(μm)であって透過の第二次またはより高次の最小値に対応する波長がVISまたはより短波長領域において存在し、層配列(1)が暗い状態と透明な状態との間をスイッチングするように構成されたねじれネマチック液晶層であることを特徴とする、前記層配列。
【請求項2】
第一の偏光層(5a)が、VIS領域において光を偏光する偏光層(3a)およびNIR領域において光を偏光する偏光層(4a)を含むことを特徴とする、請求項1に記載の層配列。
【請求項3】
第二の偏光層(5b)が、VIS領域において光を偏光する偏光層(3b)およびNIR領域において光を偏光する偏光層(4b)を含むことを特徴とする、請求項1に記載の層配列。
【請求項4】
第一の偏光層(5a)が、VIS領域において光を偏光する偏光層(3a)およびNIR領域において光を偏光する偏光層(4a)を含み、第二の偏光層(5b)が、VIS領域において光を偏光する偏光層(3b)およびNIR領域において光を偏光する偏光層(4b)を含むことを特徴とする、請求項1に記載の層配列。
【請求項5】
第一の偏光層(5a)および/または第二の偏光層(5b)が一つの偏光層で、VIS領域偏光特性およびNIR領域偏光特性を組みあわせることを特徴とする、請求項1に記載の層配列。
【請求項6】
一つの偏光層で、VIS領域偏光特性およびNIR領域偏光特性を組みあわせる偏光層が、異なる屈折率を有する複数の層(7)から作られるものであることを特徴とする、請求項5に記載の層配列。
【請求項7】
一つの偏光層で、VIS領域偏光特性およびNIR領域偏光特性を組みあわせる偏光層が、好ましい配向を提供する材料(8)中に分散した二色性染料を含むことを特徴とする、請求項5に記載の層配列。
【請求項8】
第一の偏光層(5a)が、VIS領域において光を偏光する偏光層(3a)およびNIR領域において光を偏光する偏光層(4a)を含み、第二の偏光層(5b)が、一つの偏光層で、VIS領域偏光特性およびNIR領域偏光特性を組みあわせることを特徴とする、請求項1に記載の層配列。
【請求項9】
第一の偏光層(5a)が、一つの偏光層で、VIS領域偏光特性およびNIR領域偏光特性を組みあわせ、第二の偏光層(5b)が、VIS領域において光を偏光する偏光層(3b)およびNIR領域において光を偏光する偏光層(4b)を含むことを特徴とする、請求項1に記載の層配列。
【請求項10】
第一の偏光層(5a)および/または第二の偏光層(5b)がVIS領域において光を偏光するさらなる偏光層(9a、9b)を含むことを特徴とする、請求項1?9のいずれか一項に記載の層配列。
【請求項11】
窓ガラス(6)に適用することを特徴とする、請求項1?10のいずれか一項に記載の層配列。
【請求項12】
外側から室内のスペースへの光および熱の透過を制御するための請求項1?11のいずれか一項に記載の層配列の使用。」

第5 引用文献の記載及び引用発明
1 引用文献の記載
引用文献(米国特許公開第2011/0102878号明細書)には、図面とともに、以下の事項が記載されている。
(1)「ABSTRACT
Thermochromic filters use combinations of absorptive, reflective, thermoabsorptive, and thermoreflective elements covering different portions of the solar spectrum, to achieve different levels of energy savings, throw, shading, visible light transmission, and comfort. Embodiments include stopband filters in the near-infrared spectrum.」(フロントページ)
(訳:
要約
サーモクロミック・フィルタは、太陽スペクトルの異なる部分をカバーする吸収性、反射性、サーモアブソープティブ、およびサーモリフレクティブ性を有する要素の組み合わせを使用して、エネルギーが節約でき、また、シェーディング、可視光透過性、及び快適性のレベルを達成する。この実施形態は、近赤外スペクトルにおけるストップバンドフィルタを含む。)

(2)「[0029] FIG. 1 is a schematic representation of an exemplary thermoreflective filter 105 laminated to a sheet of glass 104 in its cold or transparent state. The thermoreflective filter 105 is composed of an outer polarizer layer 101 , and inner polarizer layer 103 with a polarity generally perpendicular to the outer polarizer 101 , and a liquid crystal layer 102 with a low clearing point temperature between 0℃. and 40 ℃. When unpolarized light enters the device, it passes through the outer polarizer 101 , where up to 50% of the light is reflected because it is of perpendicular polarity to the polarizer 101 . The remaining light, with the same polarity as the polarizer, is transmitted through the twisted nematic liquid crystal layer 102 , where its polarity is rotated by approximately 90 degrees to match the polarity of the inner polarizer 103 . The light is therefore able to propagate through the inner polarizer 103 and thus approximately 50% of the incident light is able to pass through the glass substrate 104 . The same principles apply to thermoabsorptive/thermodarkening filters made from absorptive rather than reflective polarizers.」
(訳:
図1は、その低温状態で透過ガラス104のシートに積層して、例示的なサーモリフレクティブ・フィルタ105の概略図である。このサーモリフレクティブ・フィルタ105は、非偏光光が装置に入ると、外側偏光子101に対して一般的に垂直の極性を有する外側偏光子層101、内面偏光子層103、および0℃と40℃との間の低い透明化点温度を有する液晶層102から構成されている、外側偏光子101が光の50%までが反射されて、偏光板101に直交する極性のためである。残りの光は、偏光板と同様の極性では、ツイステッド・ネマチック液晶層102は、その極性は約90度回転させ、内部偏光子103の極性に適合するようにされて送信される。光は、従って、内部偏光板103を通って伝播することができ、従って、入射光の約50%であるガラス基板104を通過することができる。同じ原理は、反射型偏光子、吸収性ではなく、からなるサーモアブソープティブ/サーモダークニンクフィルタにも適用される。)

(3)「[0030] FIG. 2 is a schematic representation of the thermoreflective filter 105 laminated to a sheet of glass 104 in its hot or reflective state. When unpolarized light enters the device, it passes through the outer polarizer 101 where approximately 50% of it is reflected because it is of perpendicular polarity to the outer polarizer 101 . The remaining light, with the same polarity as the outer polarizer 101 , is transmitted through the liquid crystal layer 102 . However, because the liquid crystal 102 is above its clearing point temperature, it is in an isotropic or disorganized state rather than an organized state and does not affect the polarity of the light passing through it. The transmitted light is therefore of perpendicular polarity to the inner polarizer 103 and is reflected by the inner polarizer 103 , which has a polarity perpendicular to that of the outer polarizer 101 . Thus, very little of the incident light is able to pass through the glass substrate 104 . Again, the same principles apply to thermoabsorptive/thermodarkening filters made from absorptive rather than reflective polarizers. 」
(訳:
図2は、高温状態すなわち反射状態においてガラス104のシートに積層して、サーモリフレクティブ・フィルタ105の概略図である。非偏光の光が入射した場合、偏光板101に対して垂直の極性であるので、約50%は反射され、偏光子101を通過する。残りの光は、外側のポラライザ101と同極性では、液晶層102を透過する。しかし、液晶102は、それのクリアリング・ポイントより高温であるため、組織化された状態ではなく、等方性または無秩序状態であり、これを通過する光の極性に影響を与えない。透過した光は、偏光板103に対して垂直の極性のために、偏光子103と、偏光子101と直交する極性を有し、それによって反射される。このようにして、きわめてわずかの入射光がガラス基板104を通過することができる。この場合も、同じ原理は、反射型偏光子、吸収性ではなく、からなるサーモアブソープティブ/サーモダークニンクフィルタにも適用される。)

(4)[0036] FIG. 6 is a graph representing the reflection spectrum of an exemplary broadband thermoreflective device, in its hot and cold states. The solid line represents the device in its cold (transparent) state, and the dashed line represents the device in its hot (reflective) state. In this case, because the bandwidth of the device extends past 2200 nm, the throw of the device is much larger than for the exemplary devices of FIGS. 4 and 5 . In addition, because the filter is thermoreflective rather than thermoabsorptive, it is generally more efficient at rejecting heat (e.g., when applied to windows in a building or vehicle). A device matching these specifications can be constructed using wire grid polarizers of the type manufactured by Moxtek, Inc.」
(訳:
図6は、例示的な広帯域サーモリフレクティブ・デバイスの反射スペクトルを表すグラフであり、ホット状態及びコールド状態にある。実線は、低温(透過)状態における装置を示しており、破線は、ホット(反射)状態の装置を示している。この場合、デバイスの帯域幅は2200nmを越えて延びているため、装置の透過は、図4および図5の例示的な装置の場合よりもかなり大きい、サーモアブソープティブではなくサーモリフレクティブであるので、一般に熱除去(例えば、建物または車両の窓に適用される場合)でより効果的となる。これらの仕様に合致する装置はMoxtek,Inc.によって製造されたタイプのワイヤグリッド偏光子を用いて構成することができる。)

(5)図1及び図2は、以下のものである。

(6)図5は、以下のものである。


(7)図6は、以下のものである。


2 引用文献に記載された発明
(1)上記1(1)ないし(3)の記載、図1及び図2からして、以下のことが理解できる。
ア 「サーモリフレクティブ・フィルタ105」は、「外側偏光子層101」、「ツイステッド・ネマチック液晶層102」及び「内面偏光子層103」から構成されていること。

イ 「外側偏光子層101」の極性(透過軸)と「内面偏光子層103」の極性(透過軸)は、直交関係(クロスニコル)で配置されていること。

ウ 「ツイステッド・ネマチック液晶層102」は、0℃と40℃との間の低い透明化点温度を有し、低温状態においては、組織化された状態となって、入射光の直線偏光を約90°旋回させ、高温状態においては、等方性または無秩序状態となり、入射光の直線偏光に対して無作用になること。

(2)上記1(4)の記載を踏まえて、図5及び図6を見ると、以下のことが理解できる。
ア 図5に示された「狭帯域サーモリフレクティブ・デバイス」の反射スペクトルからして、800nm以上の赤外領域においては、低温状態と高温状態で変化はなく、「外側偏光子層101」及び「内面偏光子層103」は、可視領域に対応し、赤外領域には対応していないこと。

イ 図6に示された「広帯域サーモリフレクティブ・デバイス」の反射スペクトルからして、800nm以上の赤外領域において、低温状態と高温状態に変化が生じていることから、「外側偏光子層101」及び「内面偏光子層103」は、可視領域及び赤外領域に対応していること。

ウ 図6に示された「広帯域サーモリフレクティブ・デバイス」は、建物の窓ガラス等に好適であること。

(3)さらに、図6に示された反射スペクトルを見ると、以下のことが理解できる。
「広帯域サーモリフレクティブ・デバイス」は、
低温状態において、可視領域の入射光の約50%を反射させるとともに、800nm以上の赤外領域の入射光の約60ないし70%を反射させ、
高温状態において、可視領域の入射光の約80%を反射させるとともに、800nm以上の赤外領域の入射光の約90%を反射させること。

(4)上記(1)ないし(3)からして、引用文献には、図6に示された「広帯域サーモリフレクティブ・デバイス」に関する次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「建物の窓カラスにサーモリフレクティブ・フィルタ105を積層した広帯域サーモリフレクティブ・デバイスであって、
前記サーモリフレクティブ・フィルタ105は、
外側偏光子層101、ツイステッド・ネマチック液晶層102及び内面偏光子層103から構成され
前記外側偏光子層101及び前記内面偏光子層103は、可視領域の光及び赤外領域の光に対応するものであり、
前記ツイステッド・ネマチック液晶層102は、0℃と40℃との間の低い透明化点温度を有し、
低温状態において、可視領域の入射光の約50%を反射させるとともに、800nm以上の赤外領域の入射光の約60ないし70%を反射させ、
高温状態において、可視領域の入射光の約80%を反射させるとともに、800nm以上の赤外領域の入射光の約90%を反射させる、広帯域サーモリフレクティブ・デバイス。」

第6 当審の判断
1 【理由1】(明確性要件)及び 【理由2】(サポート要件及び実施可能要件)について
下記の理由により、上記【理由1】及び【理由2】は、解消されたものと判断する。

(1)本件補正により、補正後の請求項1の「スイッチング層(2)」は、「dΔn>0.75(μm)であって、透過の第一次の最小値に対応する波長がVIS領域においては存在しないが、dΔn>0.75(μm)であって透過の第二次またはより高次の最小値に対応する波長がVISまたはより短波長領域において存在し、層配列(1)が暗い状態と透明な状態との間をスイッチングするように構成されたねじれネマチック液晶層である」と補正された。
このように、「透過の第一次の最小値に対応する波長」、「透過の第二次またはより高次の最小値に対応する波長」、「VIS領域」及び「短波長領域」の関係が特定されたことから、技術的概念の異なる数値の関係ではなく、技術的概念が同じ(波長)である数値の関係により特定されたことになる。
よって、【理由1】(明確性要件)は、解消した。

(2)本願発明1の配列層は、「第一の偏光層(5a)」、「温度に応じて光の偏光特性に影響を与えるスイッチング層(2)」及び「第二の偏光層(5b)」を有するものであって、該「スイッチング層(2)」について、「層配列(1)が暗い状態と透明な状態との間をスイッチングするように構成されたねじれネマチック液晶層」であると特定されている。
ここで、「層配列(1)が暗い状態と透明な状態との間をスイッチングする」とは、人が感じる可視領域の光の増減、つまり、可視領域の光が非透過状態となるか、透過状態となるのかをスイッチングすることを意味するものと解される。
そして、「ねじれネマチック液晶層」は、高温環境下で暗い状態を、低温環境下で透明な状態を作り出すものと解される。
この解釈は、本願明細書の 【0015】ないし【0017】及び【0055】ないし【0058】の記載内容に沿うものである。
よって、本願発明1においては、低温環境下(例えば、室温)で可視領域の光が「ねじれマチック液晶層」内で旋回して「第二の偏光層(5b)」を透過できるように、「ねじれネマチック液晶層」のdΔnが設定されているものと理解できる。

(3)そして、意見書の説明及び意見書に添付された論文の内容によれば、本願の最先の優先日時点において、
透過率(T)、波長(λ)及びレタデーション(dΔn)の関係が下記の式(1)及び式(2)で表されることが、技術常識であったものと認められる。

・透過率(T)は極大(mが大きくなるにつれ、極大値は低下)
2×(dΔn)/λ=m(mは、奇数)…(1)
・透過率(T)はゼロ
2×(dΔn)/λ=m(mは、偶数)…(2)

(4)本願発明1の「ねじれネマチック液晶層」のdΔnは、「dΔn>0.75(μm)」であると特定されていることから、例えば、上記式(1)及び式(2)において、dΔn=0.75とすると、以下のように透過率が周期的に変化することが分かる。

m=1では、λ=1500nm(透過率極大)
m=2では、λ=750nm (透過率ゼロ)
m=3では、λ=500nm (透過率極大)
m=4では、λ=375nm (透過率ゼロ)
m=5では、λ=300nm (透過率極大)
m=6では、λ=250nm (透過率ゼロ)
m=7では、λ=214nm (透過率極大)
・ ・ ・
上記結果から、
赤外領域及び可視領域において、透過率(T)が極大となることが理解できる。

(5)さらに、上記式(1)及び式(2)において、dΔn=1.0とすると、以下のように透過率が周期的に変化することが分かる。

m=1では、λ=2000nm(透過率極大)
m=2では、λ=1000nm(透過率ゼロ)
m=3では、λ=666nm (透過率極大)
m=4では、λ=500nm (透過率ゼロ)
m=5では、λ=400nm (透過率極大)
m=6では、λ=666nm (透過率ゼロ)
m=7では、λ=286nm (透過率極大)
・ ・ ・
上記結果から、
赤外領域及び可視領域において、透過率(T)が極大となることが理解できる。

(6)念のため、dΔn=0.3とすると、以下のように透過率が周期的に変化することが分かる。

m=1では、λ=600nm(透過率極大)
m=2では、λ=300nm(透過率ゼロ)
m=3では、λ=200nm(透過率極大)
m=4では、λ=150nm(透過率ゼロ)
m=5では、λ=120nm(透過率極大)
m=6では、λ=100nm(透過率ゼロ)
m=7では、λ=86nm (透過率極大)
・ ・ ・
上記結果から、
赤外領域では、透過率(T)が極大とならないことが理解できる。

(7)上記結果を総合すると、
dΔn>0.75(μm)とすると、透明な状態において、赤外領域及び可視領域の両方に「透過率(T)の極大」が生じ、暗い状態になった際に、赤外領域で大きな変化(熱透過の差)が生じることが理解できる。

(8)そうすると、請求項1に記載された「透過の第一次の最小値に対応する波長がVIS領域においては存在しないが」及び「透過の第二次またはより高次の最小値に対応する波長がVISまたはより短波長領域において存在し」とは、「ネマチック液晶層」を「dΔn>0.75(μm)」とすることにより、その配列層から出射する光の波長が、自ずとそのような領域になることを明示的に記載したにすぎない事項である解される。

(9)また、「『温度に応じて光の偏光特性に影響を与える』『ねじれネマチック液晶層』」は、本願明細書の【0015】に「US 2009/0015902およびUS 2009/0167971は、…これらの出願は、ねじれネマチックセル(TNセル)を用いる層配列を開示する。この場合、透明状態および暗い状態間のスイッチングは、ねじれネマチックセル中に置かれた液晶媒体の、透明点より下の温度でのネマチック状態から透明点より上の等方状態への相転移によって達成する。」と記載されているように、あるいは、【理由3】で引用文献として引用した「米国特許公開第2011/0102878号明細書」に記載されているように、本願の最先の優先日時点で、公知ないし周知であったと認められ、さらに、dΔnは、液晶の厚みを調節することによっても調製することができることは、当業者にとって自明のことである。

(10)よって、層配列の暗い状態と透明状態との間で、エネルギー透過に大きな差が生じる「スイッチング層(2)」を、どのようにすれば得られるのか理解できることから、【理由2】(サポート要件及び実施可能要件)は、解消した。

(10)まとめ
以上のことから、上記【理由1】及び【理由2】は、解消された。

2 【理由3】(進歩性要件)について
下記の理由により、【理由3】は、解消されたものと判断する。

(1)本願発明1について
ア 対比
本願発明1と引用発明を対比すると、以下のとおりとなる。
(ア)引用発明の「外側偏光子層101」及び「内面偏光子層103」は、それぞれ、本願発明1の「第一の偏光層」及び「第二の偏光層」に相当する。

(イ)引用発明の「『0℃と40℃との間の低い透明化点温度』を有する『ツイステッド・ネマチック液晶層102』」は、本願発明1の「温度に応じて光の偏光特性に影響を与えるスイッチング層」に相当する。

(ウ)引用発明の「外側偏光子層101及び内面偏光子層103」は、可視領域の光及び赤外領域の光に対応するものであって、本願明細書の【0005】における「……VIS光は、とくに、380?780nmの波長を有する光を意味するものとし、NIR光は、とくに780?3000nmの波長を有する光を意味するものとする。」との記載からして、「VIS領域およびNIR領域の両方で、光を偏光するように構成されたものである」といえる。

(エ)上記(ア)ないし(ウ)からして、
本願発明1と引用発明は、「入射光の透過をその温度に応じて変化させる層配列であって、該層配列が、第一の偏光層、前記温度に応じて光の偏光特性に影響を与えるスイッチング層および第二の偏光層を有し、第一の偏光層および第二の偏光層の両方が、VIS領域およびNIR領域の両方で、光を偏光するように構成されたものである」点で一致する。

(オ)引用発明の「『0℃と40℃との間の低い透明化点温度』を有する『ツイステッド・ネマチック液晶層102』」は、固有のdΔn(μm)を有することは、当業者にとって明らかである。
また、引用発明の「低温状態(における広帯域サーモリフレクティブ・デバイスの透過特性)」及び「高温状態(における広帯域サーモリフレクティブ・デバイスの透過特性)」は、それぞれ、本願発明の「(層配列が)透明な状態」及び「(層配列が)暗い状態」に相当する。
そうすると、本願発明1と引用発明は、「かつ、スイッチング層は、固有のdΔn(μm)を有し、層配列が暗い状態と透明な状態との間をスイッチングするように構成されたねじれネマチック液晶層である」点で一致する。

(カ)以上のことから、本願発明1と引用発明とは、以下の点で一致する。
<一致点>
「入射光の透過をその温度に応じて変化させる層配列であって、
該層配列が、第一の偏光層、前記温度に応じて光の偏光特性に影響を与えるスイッチング層および第二の偏光層を有し、
第一の偏光層および第二の偏光層の両方が、VIS領域およびNIR領域の両方で、光を偏光するように構成されたものであり、
かつ、スイッチング層は、固有のdΔn(μm)を有し、層配列が暗い状態と透明な状態との間をスイッチングするように構成されたねじれネマチック液晶層である、前記層配列。」

(キ)一方、両者は、以下の点で相違する。
<相違点>
固有のdΔn(μm)に関して、
本願発明1は、「dΔn>0.75(μm)であって、透過の第一次の最小値に対応する波長がVIS領域においては存在しないが、dΔn>0.75(μm)であって透過の第二次またはより高次の最小値に対応する波長がVISまたはより短波長領域において存在する」のに対して、
引用発明は、dΔn(μm)が不明である点。

イ 判断
上記相違点について、判断する。
(ア)本願発明1において、上記<相違点>に係る構成を採用する技術的意義について、本願明細書の記載を参酌して検討する。

a 本願明細書には、以下の記載がある。
【0027】
現在入手でき、経済的に実用にかなう方法で採用することができる偏光層およびスイッチング層の、幾分限りある特性の所為で、相当量のNIR光が実質的に偏光されないままであり、スイッチング層の状態に拘らず、実質的に妨げられずに、従来技術の層配列を通過することができ、その結果、室内に入り、室内を加熱する。
そのようなNIR光を偏光しない標準の偏光板が、例えば、US 2009/0015902およびUS 2009/0167971において、最新の層配列に用いられてきた。
【0028】
本発明によれば、NIR領域の入射光の偏光に影響をさらに与えることが、実質的に層配列の熱透過を制御する可能性を改善することを可能とすることが見出された。偏光されたあとでNIR光は、スイッチング層によって温度依存的にスイッチングすることができ、これは偏光光のみに影響を与えることができ、非偏光光には何の影響も与えない。」

「【0044】
……さらに好ましくは、0.4および0.6の間、最も好ましくは、0.45および0.55の間の値を有するようにして作動させると、透明状態において、NIR領域では著しい透過光の減衰が起き、このことは少なくとも一つの偏光層によってもたらされる偏光と対応する透過光の減衰についての選好性に付け加わることがらである。」

「【0046】
dΔn>0.75である、すなわち第二またはより高い最小値で透明状態であるねじれネマチック液晶層は、NIR領域の入射光透過に著しくは影響を与えない。したがって、ねじれネマチック液晶層が透明状態および暗い状態間をスイッチするとき、NIR領域の透過特性に大きな変化がある。この層配列は、好ましくは、ねじれネマチック液晶層の、透明状態でできるだけ多くの光透過を有すことおよび暗い状態でできるだけ多くの光および熱の透過を減少することが望まれる地域で用いられる。」

「【0062】
……上記第一最少値のdΔn?0.5のスイッチング層(2)の配置は、高い入射光の明るさと、熱透過は常に減衰することが必要である地域において用いるのに適する。これとは対照的に、上記第二またはより高い最少値において暗い状態と透明状態との間をスイッチングするようにスイッチング層(2)が配置されたdΔn>0.75の層配列(1)は、変化なく強い熱透過減少が常に起きるものよりも、透明状態および暗い状態間でエネルギー透過の差がより大きいものを、より好む地域において、好ましくは用いられる。」

b 上記aの記載から、以下のことが理解できる。
(a)dΔn?0.5では、
透明な状態において、NIR領域では著しい透過光の減衰が起きることから、熱透過を常に減衰することが必要である地域に適すること。

(b)dΔn>0.75では、
透明な状態において、NIR領域の透過に著しくは影響を与えないことから、透明な状態および暗い状態間で熱透過の差がより大きいものを、より好む地域に適すること。

c 上記bの理解を踏まえると、
本願発明1において、上記<相違点>に係る構成を採用する技術的意義は、偏光層をVIS領域だけではなく、NIR領域の光にも対応させることを前提に、dΔn>0.75とすることにより、透明な状態におけるNIR領域の光の透過を増やし、透明な状態と暗い状態での熱透過の差を大きくすることにあるものと認められる。
つまり、透明な状態(例えば、冬場のように温度の低いときに生じる状態)では、NIR領域の光の透過を積極的に許容し、暗い状態(例えば、夏場のように温度の高いときに生じる状態)では、NIR領域の光の透過を減少させることにあるものと解される。

(イ)一方、引用発明の「広帯域サーモリフレクティブ・デバイス」は、引用文献の[0036]の記載によれば、図5に示された「狭帯域サーモリフレクティブ・デバイス」よりも、熱除去を優先したものと解される。
そうすると、引用発明においては、「ツイステッド・ネマチック液晶層」の状態に関係なく、赤外領域の光は「建物の窓ガラス」を極力透過しないようにするのが自然であって、透過率を高める動機が生じるものではない。

(ウ)また、意見書に添付された論文に示された関係式は、透過率が周期的に変化する現象が生じることを開示するにとどまり、dΔnを0.75(μm)より大きくすることで、熱除去を可能とすることを示唆するものではないから、仮に、引用発明において、赤外領域の光の透過率を高めるとしても、「ツイステッド・ネマチック液晶層」の「dΔn」を0.75(μm)より大きくする動機が生じるものではない。

(エ)以上の検討によれば、引用発明において、当業者が上記<相違点>に係る本願発明1の構成を採用することが容易になし得たことであるとはいえない。

(2)本願発明2ないし本願発明12について
本願発明2ないし本願発明12は、本願発明1の発明特定事項に、さらに、構成を追加したものに相当するから、本願発明1と同様の理由により、当業者が引用発明に基いて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)まとめ
本願発明1ないし本願発明12は、当業者が引用発明に基いて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

第7 原査定についての判断
原査定の理由(実施可能要件)は、要するに、「ねじれネマチック液晶層」の材料について、本願明細書には具体的に記載されていないというものである。
しかしながら、上記「第6 当審の判断 1」において検討したとおり、
本願明細書に具体的な材料名などの記載がなくとも、当業者が容易に発明を実施できるものと認められる。
したがって、原査定を維持することはできない。

第8 むすび
以上のとおり、原査定の理由によって、本願を拒絶することはできない。
他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-06-28 
出願番号 特願2014-524286(P2014-524286)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (G02F)
P 1 8・ 121- WY (G02F)
P 1 8・ 536- WY (G02F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 小濱 健太  
特許庁審判長 森 竜介
特許庁審判官 星野 浩一
山村 浩
発明の名称 光透過を制御するための層配列  
代理人 葛和 清司  

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