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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A23L
管理番号 1352756
審判番号 不服2018-10397  
総通号数 236 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-08-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-07-31 
確定日 2019-07-11 
事件の表示 特願2013- 91482「加工米飯の製造方法、加工米飯製品の製造方法、加工米飯の食感改善剤、並びに、加工米飯の食感改善方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年12月 5日出願公開、特開2013-240322、請求項の数(6)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年4月24日(優先権主張 平成24年4月24日 日本国)を出願日とする出願であって、平成29年9月21日付けの拒絶理由に対し同年11月24日に意見書及び手続補正書が提出され、平成30年4月24日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年7月31日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

第2 原査定の拒絶理由の概要
原査定の拒絶の理由は、平成29年9月21日付けの拒絶理由通知における理由1であり、その理由1の概要は、この出願の請求項1?6に係る発明は、その優先権主張の日前に日本国内又は外国において、頒布された引用文献1?3に記載された発明に基いて、その優先権主張の日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができないものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。

引用文献1 特開昭60-164446号公報
引用文献2 特開2001-178384号公報
引用文献3 特開平10-234320号公報

第3 本願発明
この出願の請求項1?6に係る発明(以下「本願発明1」?「本願発明6」という。)は、平成29年11月24日になされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項によって特定された以下のとおりのものである。

「 【請求項1】
常時は冷蔵保存又は常温保存され、使用時に加熱される加工米飯の製造方法であって、米麹である黄麹と米麹である白麹を、白麹1に対して黄麹1.5?4の重量比で米に添加して炊飯し、得られた米飯を冷蔵加工することを特徴とする加工米飯の製造方法。
【請求項2】
炊飯時において、デンプンをさらに添加することを特徴とする請求項1に記載の加工米飯の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の方法で製造された加工米飯を、マイクロ波加熱が可能な耐熱性材料からなる容器又は包装材に収容又は包装することを特徴とする加工米飯製品の製造方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の方法で加工米飯を製造する際の炊飯時において米に添加されるものであり、米麹である黄麹と米麹である白麹を有効成分として含有し、黄麹と白麹の重量比が、白麹1に対して黄麹1.5?4であることを特徴とする加工米飯の食感改善剤。
【請求項5】
デンプンをさらに含有することを特徴とする請求項4に記載の加工米飯の食感改善剤。
【請求項6】
常時は冷蔵保存又は常温保存され、使用時に加熱される加工米飯の食感改善方法であって、
請求項4又は5に記載の加工米飯の食感改善剤を米に添加して炊飯する工程を包含することを特徴とする加工米飯の食感改善方法。」

第4 引用文献、引用発明等
1 引用文献
(1)引用文献1について
引用文献1には、次の事項が記載されている。

(1a)「2.特許請求の範囲
1. 米麹を米に添加して炊飯することを特徴とする米飯の風味改良法。
2. 米麹の量が、米に対して1?8重量%である特許請求の範囲第1項記載の米飯の風味改良法。」(第1頁左下欄第4行?第9行)

(1b)「〔発明の目的〕
本発明は、前記した従来技術の現状にかんがみてなされたものであり、その目的は米麹が醸造物製造で果す役割を米の炊飯時に生かした、米麹の各種の酵素作用並びに米麹由来の各種の風味物質の供給とから構成される米飯の風味改良法を提供することにある。」(第2頁右上欄第4行?第10行)

(1c)「米麹による米飯の風味改良は、米麹のアミラーゼ、プロテアーゼ等の各種の酵素作用が浸漬工程と加熱工程の初期において、飯米と米麹自身に作用し、飯米の組織がほど良く軟化され好ましいテクスチャーを与えると共に飯米から風味物質が溶出される。更に米麹自身の自己消化が炊飯中に進行し、このほか、加熱工程中の非酵素的な分解も行われる結果、米麹の代謝産物及びそれらの分解生成物更には米麹中の米部分からの成分が関与し、飯米に風味や幅のある旨味を付与する。これらの総合作用により米飯の物性と香味を主体とする風味改良に効果がもたらされるものと推定される。
以下本発明方法について具体的に説明する。まず、本発明で使用する米麹の例にはアスペルギルス・オリゼー(Aspergillus oryzae)、同・ソーヤ(sojae)、同・ウサミ(Usami)、同・カワチ(Kawachi)等の醸造用麹菌を蒸米あるいはα化米に接種し、常法により固体製麹したものがある。米の形状としては丸米、砕米、米粉を用いた麹のいずれでも使用できる。炊飯に使用する米麹の形態は生のものでも水分を減らして保存性を増した乾燥米麹でもよい。」(第3頁左上欄下から4行?右上欄最下行)

(1d)「下記表2に各種の米麹を使用した結果を示す。
表 2


飯米と米麹の総量を200gにして、洗米後米麹10gを添加し、2時間浸漬後常法により炊飯した。
(注1)無添加と比較して-:同程度、+:わずかに良くなった、++:良くなった、+++:非常に良くなった
(注2)水分10?12重量%に調節」(第3頁左下欄第1行?最下行)

(1e)
「実施例4
飯米(精白後20℃で2か年貯蔵した古々米)と米麹の総量を400gにして、下記表7に示す添加率でアスペルギルス・オリゼーを接種した乾燥砕米麹(水分10.5重量%)を洗米前に添加して炊飯した。浸漬水は650ml用いた。その他の条件は実施例1と同じである。その官能評価の結果を表7に示す。
表 7


表7に示すように、古々米の場合、米麹添加の効果はより顕著であったが、新米に比べると米麹の添加量を多くする必要があった。
実施例5
実施例4で炊飯した米飯をプラスチックの容器に入れて密閉し、-20℃の冷凍庫で1か月貯蔵後、電子レンジを使用して米飯に戻し食味した。その官能評価の結果を下記表8に示す。
表 8


表8に示すように、米麹5%添加の米飯は冷凍貯蔵中の老化が防止されており、炊飯直後の風味をほぼ保持していた。」(第4頁右下欄下から4行?第5頁右上欄第3行)

(2)引用文献2について
引用文献2には、次の事項が記載されている。

(2a)「【請求項1】 大豆多糖類及びトレハロースを含有することを特徴とする米飯食品。
【請求項2】 さらに食品用酵素を含有することを特徴とする請求項1の米飯食品。」

(2b)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、低温で流通可能な米飯食品に関する。具体的には低温で流通・保存しても食感の劣化がなく、室温解凍に伴う衛生上の問題のない米飯食品に関する。更に詳しくは、チルド流通あるいは冷凍流通後チルド解凍により喫食状態に戻した時にも食感の劣化がなくかつ室温解凍に伴う衛生上の問題のない米飯食品に関する。本発明において、「チルド流通」とは5℃以下で凍結しない程度の温度帯で流通、保存することを意味し、「冷凍流通」とは凍結温度帯で流通、保存することを意味し、さらに「チルド解凍」とは10℃以下で凍結しない程度の温度帯で解凍することを意味する。」

(2c)「【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、チルド流通あるいは冷凍流通した後、さらに衛生上好ましいチルド解凍により喫食可能な状態にしたときも食味、食感、風味の劣化がない米飯食品を提供することを目的とする。」

(2d)「【0012】本発明の好ましい態様においては、さらに食品用酵素を添加すると食味、食感、風味等の点で改質効果がより顕著となる。使用される食品用酵素には米飯食品に使用しうるものであれば特に限定されるものではないが、例えば、α-アミラーゼ、β-アミラーゼ、グルコアミラーゼ、ぺクチナーゼ、プロテアーゼあるいはパパイン等が挙げられる。アミラーゼ、プロテアーゼ、パパイン等の酵素の混合物を含む種々の食品用酵素製剤が市販されており、例えば、酵素製剤ミオラ(大塚薬品工業社製商品名)等を使用することができる。これらの食品用酵素は原料米に対して0.0001?1重量%、好ましくは0.0002?0.5重量%、更に好ましくは0.0005?0.1重量%添加される。これらの食品用酵素は、米の胚乳細胞壁や細胞膜及びアミロプラスト膜、あるいはデンプン粒結合蛋白質の水解を促進する事でデンプン粒の糊化、膨潤を促進し、炊飯米の加水量の増大に寄与するものと考えられる。」

(2e)「【0020】[実施例1]カリフォルニア米400gを水洗いして水切りした後、脱気水830cc(米に対して2.08倍量の水量)を加え浸漬する。この浸漬水に大豆多糖類としてソヤファイブ-S(不二製油社製商品)8g(同2重量%)、トレハロース8g(同2重量%)、食品酵素製剤としてミオラ(大塚薬品工業社商品)1g(同0.2重量%)、酢8cc(同2重量%)及びサラダオイル2cc(同0.5重量%)を添加して家庭用炊飯器にて炊飯を行った。このように炊きあがって得られた米飯に寿司酢105cc(同26重量%)を加えた。その後、冷却器にて35℃まで冷却して寿司形に成形した。この成形した寿司飯をマイナス20℃で冷凍保存した。24時間冷凍した後、4℃で24時間チルド解凍し、喫食した。寿司飯は、製造直後と同様な食味、食感を有していた。
【0021】[実施例2]カリフォルニア米400gを水洗いして水切りした後、脱気水720cc(米に対して1.8倍量の水量)を加え浸漬する。この浸漬水に大豆多糖類としてソヤファイブ-S(不二製油社製商品)6g(同1.5重量%)、トレハロース8g(同2重量%)、食品酵素製剤としてミオラ(大塚薬品工業社商品)1g(同0.2重量%)、酢8cc(同2重量%)及びサラダオイル2cc(同0.5重量%)を添加して1時間浸漬させた後、家庭用炊飯器にて炊飯を行った。このように炊きあがって得られた米飯を真空冷却器にて35℃まで冷却しておにぎり形に成形した。この成形したおにぎり飯を4℃でチルド状態で保存した。
【0022】その状態で48時間経過後、喫食した。おにぎり飯は、製造直後と同様な食味、食感を有していた。」

(3)引用文献3について
引用文献3には、次の事項が記載されている。

(3a)「【請求項1】米飯特許関係トレハロースとアミラーゼを含有することを特長とする米飯用改良剤
【請求項2】トレハロースとアミラーゼと共にプロテアーゼ、リパーゼ、ヤルラーゼのいずれか一つ又は複数を含有することを特長とする米飯用改良剤」

(3b)「【0002】
【従来の技術】米には品質、産地等により食味の悪い低質米があり、しかも、長期保存でさらに品質が悪化するので、その品質向上が長年の研究課題となっている。また近年、米飯は大量生産され長距離へ流通されたり、長時間保存されるケースが多くなり、益々米飯の劣化、老化防止対策が必要となってきている。」

(3c)「【0004】すなわち、本発明の米飯食品の食味及び食感の改良剤は、トレハロースとアミラーゼの混合系を含有することを特長とする。アミラーゼとともに他の種類の酵素、例えば、プロテアーゼ、リパーゼ、セルラーゼ等が含有されていても良い。また、本発明の米飯食品の製造方法は生米を浸漬するときにトレハロースとアミラーゼの混合系を添加した後、炊飯することを特長とする。
・・・
【0006】トレハロースとアミラーゼの添加方法は、特に限定されないが浸漬水に直接添加させるか、洗米後の水に添加するかの方法等が挙げられる。トレハロースとアミラーゼの混合系を添加した米類は常法に従い炊飯加工され、常温、チルド等の方法で保存後供される。以下実施例により説明する。」

(3d)「【0007】
【実施例1】米700gを水洗いして水切りし、水を米に対して1.2?1.4倍量加え浸漬する。この浸漬水にトレハロースとアミラーゼの混合系を対米3重量%添加溶解し30分間浸漬させた後、家庭用炊飯器にて炊飯を行った。炊き上がって得られたご飯を、炊飯1時間後と3時間後に官能検査により無添加のものと比較を行った。この結果は、表1に示す。尚、表中、○は良好、△は普通、×は不良を意味している。
【0008】
【表1】



2 引用文献に記載された発明
(1)引用文献2に記載された発明
引用文献2には、大豆多糖類、トレハロース及び食品用酵素を含有する米飯食品が記載され(摘記(2a))、食品用酵素としては、α-アミラーゼ、β-アミラーゼ、グルコアミラーゼ、ぺクチナーゼ、プロテアーゼあるいはパパイン等が挙げられ、アミラーゼ、プロテアーゼ、パパイン等の酵素の混合物を含む種々の食品用酵素製剤が市販されており、例えば、酵素製剤ミオラ(大塚薬品工業社製商品名)等を使用することができることが記載されている(摘記(2d))。
そして、実施例2では、大豆多糖類としてソヤファイブ-S、トレハロース、食品酵素製剤としてミオラを米に添加して炊飯して米飯を製造し、さらに米飯をおにぎり形に成形し、4℃でチルド状態で保存し、48時間経過後、喫食したことが記載されている(摘記(2e))。

そうすると、引用文献2には、
「大豆多糖類、トレハロース、アミラーゼ、プロテアーゼ、パパイン等の酵素の混合物を含む食品酵素製剤を米に添加して炊飯し、得られた米飯をチルド保存される米飯の製造方法」の発明が記載されている(以下「引用発明2」という。)。

(2)引用文献3に記載された発明
引用文献3には、米飯特許関係トレハロースとアミラーゼを含有する米飯用改良剤であって、トレハロースとアミラーゼと共にプロテアーゼ、リパーゼ、ヤルラーゼのいずれか一つ又は複数を含有する米飯用改良剤が記載されている(摘記(3a))。
また、アミラーゼとともに他の種類の酵素、例えば、プロテアーゼ、リパーゼ、セルラーゼ等が含有されていても良いことが記載され、トレハロースとアミラーゼの混合系を添加した米類は常法に従い炊飯加工され、常温、チルド等の方法で保存後供されることが記載されている(摘記(3c))。
そして、実施例1には、トレハロースとアミラーゼの混合系を米に添加して炊飯して米飯を製造したことが記載されている(摘記(3d))。

そうすると、引用文献3には、
「トレハロースとアミラーゼと共にプロテアーゼ、リパーゼ、ヤルラーゼのいずれか一つ又は複数を含有する米飯用改良剤を米に添加して炊飯する、米飯の製造方法であって、チルド保存される米飯の製造方法」の発明が記載されている(以下「引用発明3」という。)。

(3)引用文献1に記載された発明
引用文献1には、米麹を米に添加して炊飯する米飯の風味改良法が記載され(摘記(1a))、使用する米麹としては、アスペルギルス・オリゼー(Aspergillus oryzae)、同・ソーヤ(sojae)、同・ウサミ(Usami)、同・カワチ(Kawachi)等の醸造用麹菌が記載されている(摘記(1c))。そして、実施例4では、米麹のアスペルギルス・オリゼーを米に添加して炊飯して米飯を製造したことが記載されている(摘記(1e))。また、引用文献1には、米飯をプラスチックの容器に入れて密閉し、-20℃の冷凍庫で1か月貯蔵後、電子レンジを使用して米飯に戻したことが記載されていることから(摘記(1e))、使用時に加熱される加工米飯が記載されているといえる。

そうすると、引用文献1には、
「米麹であるアスペルギルス・オリゼーを米に添加して炊飯する、風味が改良された米飯の製造方法であって、米飯は冷凍庫で貯蔵後に電子レンジで加熱されるものである、上記方法」の発明が記載されている(以下「引用発明1」という。)。

第5 対比・判断
1 本願発明1について
(1)引用発明2との対比
本願発明1のうち、冷蔵保存の場合の発明と引用発明2を対比する。
引用発明2の「アミラーゼ、プロテアーゼ、パパイン等の酵素の混合物を含む食品酵素製剤を米に添加して炊飯する」、「米飯の製造方法」は、本願発明1の「米麹である黄麹と米麹である白麹を、白麹1に対して黄麹1.5?4の重量比で米に添加して炊飯し、米飯の製造方法」と、「混合物を米に添加して炊飯する、米飯の製造方法」である点で共通し、引用発明2の「チルド保存」は、本願発明1の「冷蔵保存」に相当し、「得られた米飯を冷蔵加工」しているといえる。

したがって、両者は、
「混合物を米に添加して炊飯し、得られた米飯を冷蔵加工することを特徴とする加工米飯の製造方法」である点で一致し、以下の点で相違すると認められる。

(相違点1)
添加される混合物について、本願発明1では白麹1に対して黄麹1.5?4の重量比の白麹と黄麹の混合物が用いられるのに対して、引用発明2では、酵素の混合物である点。
(相違点2)
使用時について、本願発明1では、「使用時に加熱される」と特定されているのに対して、引用発明2では、使用時に加熱されることは特段明らかにされていない点。

(2)判断
上記相違点1について検討する。
風味が改良された米飯の製造方法の発明について記載されている引用文献1には、米麹による米飯の風味改良は、米麹のアミラーゼ、プロテアーゼ等の各種の酵素作用と米麹自身の自己消化が炊飯中に進行することや、加熱工程中の非酵素的な分解等の様々な作用によっては、風味改良の効果がもたらされることが記載されている(摘記(1c))。
引用文献2には、発明の目的がチルド流通あるいは冷凍流通した後、さらに衛生上好ましいチルド解凍により喫食可能な状態にしたときも食味、食感、風味の劣化がない米飯食品を提供することであると記載されている(摘記(2c))。
一方、引用文献1には、発明の目的が米麹が醸造物製造で果す役割を米の炊飯時に生かした、米麹の各種の酵素作用並びに米麹由来の各種の風味物質の供給とから構成される米飯の風味改良法を提供することであると記載されている(摘記(1b))。
両者は、米飯の風味の改良であることを課題とする点は共通しているものの、引用文献2に記載されている食品用酵素として、引用文献1のアスペルギルス・オリゼーとアスペルギルス・カワチを組み合わせて、かつ特定の重量比で用いることは容易であるとはいえない。
また、アスペルギルス・オリゼー、同・ソーヤは黄麹であり、アスペルギルス・カワチは、白麹であることは技術常識ではあるものの、引用文献1には、「米麹のアミラーゼ、プロテアーゼ等の各種の酵素作用」と記載されるのみであって、「黄麹」または「白麹」のアミラーゼ又はプロテアーゼの働きが期待できることは記載されていない。
そして、引用発明2において、食品酵素製剤は大豆多糖類及びトレハロースに加えて追加的に用いられており、実施例で用いられている酵素製剤ミオラの中には、アミラーゼ、プロテアーゼ、パパイン等の酵素の混合物が含まれており(摘記(2d))、この中から、アミラーゼとプロテアーゼのみに着目するという積極的な理由があるとはいえない。
仮に米飯の風味の改良のためにアミラーゼとプロテアーゼを用いることに着目しても、酵素であるアミラーゼとプロテアーゼに代えて微生物である米麹を用いるという動機付けがあるとはいえない。加えて、引用文献1には、「米麹の例にはアスペルギルス・オリゼー(Aspergillus oryzae)、同・ソーヤ(sojae)、同・ウサミ(Usami)、同・カワチ(Kawachi)等の醸造用麹菌を蒸米あるいはα化米に接種し、常法により固体製麹したものがある。」と様々な種類の米麹が用いられることが記載されているものの(摘記(1c))、引用文献1には、異なる種類の米麹を併用することが示唆されているとはいえない。実際、引用文献1には、米麹を複数用いることの記載はない。
そして、引用文献1には、米麹を炊飯時に用いることが記載されているものの、当該記載に従って、引用発明2において、米麹を複数用いるという動機付けとなるということができず、他に米麹を複数用いるという動機付けも見出すことができない。

したがって、引用文献1,2には、米麹を複数用いることを動機付ける記載や示唆がないことから、当業者であっても、本願発明1を容易に想到し得るものとはいえない。
そして、本願発明1は、米麹である黄麹と米麹である白麹を、白麹1に対して黄麹1.5?4の重量比で米に添加することによって、保存の日数が長くなっても、加熱後において優れた柔らかさと粘りを保持するという効果を奏しているといえる。
したがって、本願発明1は、相違点2を検討するまでもなく、引用文献2,3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(3)引用発明3との対比
引用発明3の「トレハロースとアミラーゼと共にプロテアーゼ、リパーゼ、ヤルラーゼのいずれか一つ又は複数を含有する米飯用改良剤を米に添加して炊飯する」、「米飯の製造方法」は、本願発明1の「米麹である黄麹と米麹である白麹を、白麹1に対して黄麹1.5?4の重量比で米に添加して炊飯し、米飯の製造方法」と、「混合物を米に添加して炊飯する、米飯の製造方法」である点で共通し、引用発明3の「チルド保存」は、本願発明1の「冷蔵保存」に相当し、「得られた米飯を冷蔵加工」しているといえる。

したがって、両者は、
「混合物を米に添加して炊飯し、冷蔵保存される米飯の製造方法」である点で一致し、以下の点で相違すると認められる。

(相違点3)
添加される混合物について、本願発明1では白麹1に対して黄麹1.5?4の重量比の白麹と黄麹の混合物が用いられるのに対して、引用発明3では、酵素の混合物である点。
(相違点4)
使用時について、本願発明1では、「使用時に加熱される」と特定されているのに対して、引用発明3では、使用時に加熱されることは特段明らかにされていない点。

(4)判断
上記相違点3について検討する。
風味が改良された米飯の製造方法の発明である引用文献1には、米麹による米飯の風味改良は、米麹のアミラーゼ、プロテアーゼ等の各種の酵素作用と米麹自身の自己消化が炊飯中に進行することや、加熱工程中の非酵素的な分解等の様々な作用によっては、風味改良の効果がもたらされることが記載されている(摘記(1c))。
引用発明3において、プロテアーゼはトレハロースとアミラーゼに加えて追加的に用いられており、実施例ではプロテアーゼは用いられておらず、アミラーゼのみが用いられていることから、アミラーゼとプロテアーゼの組み合わせに着目するという積極的な理由があるとはいえない。
仮に米飯の風味の改良のためにアミラーゼとプロテアーゼを用いることに着目しても、酵素であるアミラーゼとプロテアーゼに代えて微生物である米麹を用いるという動機付けがあるとはいえない。加えて、引用文献1には、「米麹の例にはアスペルギルス・オリゼー(Aspergillus oryzae)、同・ソーヤ(sojae)、同・ウサミ(Usami)、同・カワチ(Kawachi)等の醸造用麹菌を蒸米あるいはα化米に接種し、常法により固体製麹したものがある。」と様々な種類の米麹が用いられることが記載されているものの(摘記(1c))、引用文献1には、異なる種類の米麹を併用することが示唆されているとはいえない。実際、引用文献1には、米麹を複数用いることの記載はない。
そして、引用文献1には、米麹を炊飯時に用いることが記載されているものの、当該記載に従って、引用発明3において、米麹を複数用いるという動機付けとなるということができず、他に米麹を複数用いるという動機付けも見出すことができない。

したがって、引用文献1,3には、米麹を複数用いる動機付ける記載や示唆がないことから、当業者であっても、本願発明1を容易に想到し得るものとはいえない。
そして、本願発明1は、米麹である黄麹と米麹である白麹を、白麹1に対して黄麹1.5?4の重量比で米に添加することによって、保存の日数が長くなっても、加熱後において優れた柔らかさと粘りを保持するという効果を奏しているといえる。
したがって、本願発明1は、相違点4を検討するまでもなく、引用文献1、3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

2 本願発明2?6について
本願発明2?6は、本願発明1を直接あるいは間接的に引用し、さらにデンプンをさらに添加することなどを特定したものであるから、本願発明1と同様の理由により、当業者であっても、引用文献1?3に記載された発明に基いて容易に発明することができたものとはいえない。

念のため、引用文献1に記載された発明を主引例とした場合も検討する。

3 本願発明1と引用発明1について
(1)対比
本願発明1のうち、冷蔵保存の場合の発明と引用発明1を対比する。
引用発明1の「米飯は冷凍庫で貯蔵後に電子レンジで加熱される」、「米飯方法」は本願発明1の「常時は冷蔵保存・・・され、使用時に加熱される」、「得られた米飯を冷蔵加工することを特徴とする加工米飯の製造方法」と、「常時は低温状態で保存され、使用時に加熱される」「得られた米飯を低温状態に加工することを特徴とする加工米飯の製造方法」である点で共通する。また、アスペルギルス・オリゼーは黄麹であるから、引用発明1の「米麹であるアスペルギルス・オリゼーを米に添加して炊飯する」は、本願発明1「米麹である黄麹と米麹である白麹を、白麹1に対して黄麹1.5?4の重量比で米に添加して炊飯し」と、「米麹である黄麹を米に添加して炊飯」する点で一致する。

したがって、両者は、「常時は低温状態で保存され、使用時に加熱される、米麹である黄麹を米に添加して炊飯し、得られた米飯を低温状態に加工することを特徴とする加工米飯の製造方法」である点で一致し、以下の点で相違すると認められる。

(相違点5)
添加される米麹について、本願発明1では白麹1に対して黄麹1.5?4の重量比の白麹と黄麹の混合物が用いられるのに対して、引用発明1では、アスペルギルス・オリゼーである点。
(相違点6)
加工・保存の低温状態が、本願発明1では、「冷蔵」であるのに対して、引用発明1では、「冷凍」である点。

(2)判断
上記相違点5について検討する。
引用文献1には、「米麹の例にはアスペルギルス・オリゼー(Aspergillus oryzae)、同・ソーヤ(sojae)、同・ウサミ(Usami)、同・カワチ(Kawachi)等の醸造用麹菌を蒸米あるいはα化米に接種し、常法により固体製麹したものがある。」と様々な種類の米麹が用いられることが記載されている(摘記(1c))。
ここで、アスペルギルス・オリゼー、同・ソーヤは黄麹であり、アスペルギルス・カワチは、白麹であることは技術常識である。
しかし、引用文献1には、米麹を複数用いることの記載はない。
そして、引用文献2,3には、アミラーゼやプロテアーゼ等の酵素を炊飯時に用いることが記載されているものの、当該記載に従って、引用発明1において、米麹を複数用いるという動機付けとなるということができず、他に米麹を複数用いるという動機付けも見出すことができない。
したがって、引用文献1?3には、米麹を複数用いることを動機付ける記載や示唆がないことから、当業者であっても、本願発明1を容易に想到し得るものとはいえない。
そして、本願発明1は、米麹である黄麹と米麹である白麹を、白麹1に対して黄麹1.5?4の重量比で米に添加することによって、保存の日数が長くなっても、加熱後において優れた柔らかさと粘りを保持するという効果を奏しているといえる。
したがって、本願発明1は、相違点6を検討するまでもなく、引用文献1?3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(3)本願発明2?6について
本願発明2?6は、本願発明1を直接あるいは間接的に引用し、さらにデンプンをさらに添加することなどを特定したものであるから、本願発明1と同様の理由により、当業者であっても、引用文献1?3に記載された発明に基いて容易に発明することができたものとはいえない。

4 小括
したがって、本願発明1?6は、当業者が引用文献1?3に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものではない。

第6 原査定について
本願発明1?6は、上記第5で検討したとおり、当業者であっても、拒絶査定において引用された引用文献1?3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明できたものとはいえない。

第7 むすび
以上のとおりであるから、本願発明1?6は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないとすることはできず、原査定の理由によって、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-06-25 
出願番号 特願2013-91482(P2013-91482)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (A23L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 濱田 光浩  
特許庁審判長 中島 庸子
特許庁審判官 菅原 洋平
冨永 保
発明の名称 加工米飯の製造方法、加工米飯製品の製造方法、加工米飯の食感改善剤、並びに、加工米飯の食感改善方法  
代理人 藤田 隆  
代理人 大南 匡史  

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