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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G07D
管理番号 1352770
審判番号 不服2018-12223  
総通号数 236 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-08-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-09-11 
確定日 2019-07-09 
事件の表示 特願2013-212286号「自動取引装置、その処理方法、及びその処理プログラム」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 4月20日出願公開、特開2015- 75962号、請求項の数(6)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成25年10月9日を出願日とする出願であって、平成28年7月26日付けで拒絶理由が通知され、同年9月28日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成29年1月19日付けで拒絶理由が通知され、同年3月28日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年12月1日付けで最後の拒絶理由が通知され、平成30年2月7日付けで意見書が提出され、同年6月20日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)がされ、これに対し、同年9月11日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正書が提出されたものである。



第2 原査定の概要

この出願については、平成29年12月1日付け拒絶理由通知書に記載した以下の理由によって、拒絶をすべきものである。


この出願の請求項1?6に係る発明は、引用文献1?4に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

<引用文献等一覧>
1.特開2009-157592号公報
2.特開2011-130996号公報
3.特開2006-167425号公報
4.特開2010-097240号公報



第3 審判請求時の補正について

審判請求時の補正は、特許法第17条の2第3項から第6項までの要件に違反しているものとはいえない。

そして、「第5 当審の判断」に示すように、補正後の請求項1?6に係る発明は、独立特許要件を満たすものである。



第4 本願発明

本願の請求項1?6に係る発明(以下「本願発明1?6」という。)は、平成30年9月11日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定される次のとおりのものである(下線は補正箇所を示すものとして、審判請求人が付したものである。)。

「【請求項1】
自動取引装置であって、
顧客が前記自動取引装置を操作する際に、該顧客の顔を撮像して顔画像を得る撮像部と、
前記顧客の識別情報を取得する取得部と、
前記撮像部により得られた顔画像から前記顧客の脈拍を検出すると共に前記顧客の脈拍数を計測して分析を行い、前記顧客が操作の支援を必要としているか否かを判定する分析部と、
前記分析部により前記顧客が操作の支援を必要としていると判定された場合に、前記顧客が操作の支援を必要としている顧客であることを、前記自動取引装置の操作を支援する操作支援者に通知する通知部と、
前記分析部により過去に計測された各顧客の脈拍数の平均脈拍数、又は、前記分析部により過去に計測された各顧客の脈拍数が、前記識別情報と対応付けされて記憶される記憶部と、
を備え、
前記分析部は、計測した前記顧客の脈拍数が急激に上昇したか否か、計測した前記顧客の脈拍数と前記記憶部に記憶されている前記顧客の識別情報に対応する過去の平均脈拍数との差が所定値を超えたか否か、又は、計測した前記顧客の脈拍数が前記記憶部に記憶されている前記顧客の識別情報に対応する過去の脈拍数を越えたか否かを判定する分析を行って、前記顧客が操作の支援を必要としているか否かを判定する、
ことを特徴とする自動取引装置。

【請求項2】
前記分析部は、計測された前記顧客の脈拍数が急激に上昇したと判定する分析を行った場合、計測された前記顧客の脈拍数と前記記憶部に記憶されている前記顧客の識別情報に対応する過去の平均脈拍数との差が所定値を超えたと判定する分析を行た場合、又は、計測された前記顧客の脈拍数が前記記憶部に記憶されている前記顧客の識別情報に対応する過去の脈拍数を越えたと判定する分析を行った場合に、前記顧客が操作の支援を必要としていると判定する、
ことを特徴とする請求項1記載の自動取引装置。

【請求項3】
前記通知部による前記通知は、前記操作支援者の携帯型情報端末装置に対して行われる、
ことを特徴とする請求項1又は2記載の自動取引装置。

【請求項4】
前記通知部が前記通知を行う場合、
前記通知部は、更に、前記顧客に対して表示及び又は音声により、前記顧客をリラックスさせるためのメッセージを通知する、
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の自動取引装置。

【請求項5】
自動取引装置の処理方法であって、
顧客が前記自動取引装置を操作する際に、該顧客の顔を撮像して顔画像を取得し、
前記顧客の識別情報を取得し、
前記顔画像から前記顧客の脈拍を検出すると共に前記顧客の脈拍数を計測し、計測した前記顧客の脈拍数が急激に上昇したか否か、計測した前記顧客の脈拍数と、過去に計測した各顧客の脈拍数の平均脈拍数が前記識別情報と対応付けされて記憶される記憶部に記憶されている前記顧客の識別情報に対応する過去の平均脈拍数との差が所定値を超えたか否か、又は、計測した前記顧客の脈拍数が、過去に計測した各顧客の脈拍数が前記識別情報と対応付けされて記憶される記憶部に記憶されている前記顧客の識別情報に対応する過去の脈拍数を越えたか否かを判定する分析を行って、前記顧客が操作の支援を必要としているか否かを判定し、
前記顧客が操作の支援を必要としていると判定された場合に、前記顧客が操作の支援を必要としている顧客であることを、前記自動取引装置の操作を支援する操作支援者に通知する、
処理をコンピュータが実行する、
ことを特徴とする処理方法。

【請求項6】
自動取引装置の処理プログラムであって、
顧客が前記自動取引装置を操作する際に、該顧客の顔を撮像して顔画像を取得し、
前記顧客の識別情報を取得し、
前記顔画像から前記顧客の脈拍を検出すると共に前記顧客の脈拍数を計測し、計測した前記顧客の脈拍数が急激に上昇したか否か、計測した前記顧客の脈拍数と、過去に計測した各顧客の脈拍数の平均脈拍数が前記識別情報と対応付けされて記憶される記憶部に記憶されている前記顧客の識別情報に対応する過去の平均脈拍数との差が所定値を超えたか否か、又は、計測した前記顧客の脈拍数が、過去に計測した各顧客の脈拍数が前記識別情報と対応付けされて記憶される記憶部に記憶されている前記顧客の識別情報に対応する過去の脈拍数を越えたか否かを判定する分析を行って、前記顧客が操作の支援を必要としているか否かを判定し、
前記顧客が操作の支援を必要としていると判定された場合に、前記顧客が操作の支援を必要としている顧客であることを、前記自動取引装置の操作を支援する操作支援者に通知する、
処理をコンピュータに実行させる、
ことを特徴とする処理プログラム。」



第5 当審の判断

1 引用文献の記載事項等
(1)引用文献1の記載事項等
a.原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1の記載事項等は、以下のとおりである。

(1a)
「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金融機関等にある現金自動預け払い機を利用してユーザが振込みのための操作を行う際に、いわゆる振込め詐欺等の異常取引を検出し、被害を抑制するための異常取引検出装置、異常取引検出方法及びプログラムに関する。」

(1b)
「【0011】
本発明の目的は、意図的に回避することが困難な異常取引の有無を推定するための条件に基づいて、異常取引を安定して検出できるようにした異常取引検出装置、異常取引検出方法及びプログラムを提供することにある。」

(1c)
「【0019】
この異常取引検出システムでは、金融機関Aと、計算機センタCと、監視センタDとにそれぞれ配置した各種機器の間を、情報通信用のネットワーク190で接続して構成する。金融機関内には、振込指示を行なう者が操作する現金自動預け払い機であるATM102及び金融機関の社員が監視のために利用するクライアント端末180を設置する。

【0020】
監視センタD内には、異常取引を検出するための監視サーバ(異常取引検出装置)130を設置する。計算機センタC内には、実際の振込処理を行う勘定系ホスト150、顧客識別情報(ID)や生年月日をはじめとする顧客個人情報と金融商品情報を管理するCRMサーバ170を設置する。」

(1d)
「【0031】
図3は、本発明の実施の形態に係わる異常取引検出システムで実行する基本的な異常取引検出処理の内容を示すフローチャートである。

・・・

【0033】
ユーザが振込みの取引を開始するため、キャッシュカードをATM102の読み取り装置へ挿入すると、ATM102は、読み取ったキャッシュカードのIDの情報が含まれる取引指示を受け付けたときの情報を、ネットワーク190(勘定系ホスト150を経由しても良い)を介して監視センタD内の監視サーバ130に通知する(ステップS201)。

・・・

【0041】
次に、監視サーバ130の異常取引判断機能は、取引履歴及び振込み操作の所要時間、操作のやり直し回数(判断力推定結果)に基づいて、異常取引の有無の推定判断(振込み指示が詐欺や窃盗に起因して行なわれたものか否かの推定判断)を行う(ステップS209)。この判断力推定結果は、振込み操作の所要時間と操作のやり直し回数との少なくとも一方を含むものであっても良い。

・・・

【0048】
さらに、ユーザの判断力を評価する手段として、現金自動預け払い機を操作しているユーザの脈拍、脳波、体温又は発汗状態等の身体的興奮度を検出する装置を設け、その検出結果を利用して評価するように構成しても良い。

・・・

【0055】
監視サーバ130の取引中断指示機能は、異常取引であるとの推定結果が得られた場合(ステップS209でYes)には、勘定ホスト150に通知して振込み処理を留保させる(ステップS210)。これと共に、監視サーバ130は、ATM102へ通知して、図4に示すような画面を表示させることにより、お客様に振込み処理を留保したことを知らせる(ステップS210)。

【0056】
さらに、監視サーバ130の取引内容確定入力機能は、金融機関Aのクライアント端末180に通知して図5に示すような画面を表示させることにより、金融機関Aの現地係員Bに、振込指示を行なった者と対話して調査することを促す旨の表示をさせる。」


b.上記記載から、引用文献1には、次の技術的事項が記載されているものと認められる。

(b-1)引用文献1の段落【0019】には「異常取引検出システムでは、金融機関Aと、計算機センタCと、監視センタDとにそれぞれ配置した各種機器の間を、情報通信用のネットワーク190で接続して構成する」と記載されている。
そして、上記(1a)、(1c)における引用文献1の段落【0001】、【0019】、【0020】の記載も踏まえると、引用文献1の「金融機関内」に「設置」された「現金自動預け払い機であるATM102」は、「金融機関内」に「設置」された「クライアント端末180」、「監視センタD内」に「設置」された「監視サーバ(異常取引検出装置)130」、「計算機センタC内」に「設置」された「CRMサーバ170」と「情報通信用のネットワーク190で接続」され、「異常取引検出システム」を構成するものといえるから、以下の事項が示されているといえる。

現金自動預け払い機であるATM102が、金融機関内に設置されたクライアント端末180、監視センタD内に設置された監視サーバ(異常取引検出装置)130、及び、計算機センタC内に設置されたCRMサーバ170と、情報通信用のネットワーク190で接続され、異常取引検出システムを構成すること。

(b-2)引用文献1に記載された技術は、金融機関等にある現金自動預け払い機を利用してユーザが振込みのための操作を行う際に、いわゆる振込め詐欺等の異常取引を検出し、被害を抑制するためのものであり(【0001】)、意図的に回避することが困難な異常取引の有無を推定するための条件に基づいて、異常取引を安定して検出できるようにすることを目的とする(【0011】)。

(b-3)CRMサーバ170は、顧客識別情報(ID)や生年月日をはじめとする顧客個人情報と金融商品情報を管理すること。(【0020】)。

(b-4)キャッシュカードをATM102の読み取り装置へ挿入すると、ATM102は、読み取ったキャッシュカードのIDの情報が含まれる取引指示を受け付けたときの情報を、監視センタD内の監視サーバ130に通知すること(【0033】)。

(b-5)監視サーバ130の異常取引判断機能は、判断力推定結果に基づいて、異常取引の有無の推定判断を行うものであって(【0041】)、ユーザの判断力を評価する手段として、現金自動預け払い機を操作しているユーザの脈拍、脳波、体温又は発汗状態等の身体的興奮度を検出する装置を設け、その検出結果を利用して評価すること(【0048】)。

(b-6)監視サーバ130の取引中断指示機能は、異常取引であるとの推定結果が得られた場合には、勘定ホスト150に通知して振込み処理を留保させ(【0055】)、さらに、監視サーバ130の取引内容確定入力機能は、金融機関Aのクライアント端末180に通知して、金融機関Aの現地係員Bに、振込指示を行なった者と対話して調査することを促す旨の表示をさせること(【0056】)。


c.上記a.及びb.から、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

<引用発明>
「金融機関内に設置されたクライアント端末180、監視センタD内に設置された監視サーバ(異常取引検出装置)130、及び、計算機センタC内に設置されたCRMサーバ170と、情報通信用のネットワーク190で接続され、異常取引検出システムを構成する現金自動預け払い機であるATM102であって、

CRMサーバ170は、顧客識別情報(ID)や生年月日をはじめとする顧客個人情報と金融商品情報を管理し、

キャッシュカードをATM102の読み取り装置へ挿入すると、ATM102は、読み取ったキャッシュカードのIDの情報が含まれる取引指示を受け付けたときの情報を、監視センタD内の監視サーバ130に通知するものであり、

監視サーバ130の異常取引判断機能は、判断力推定結果に基づいて、異常取引の有無の推定判断を行うものであって、ユーザの判断力を評価する手段として、現金自動預け払い機を操作しているユーザの脈拍、脳波、体温又は発汗状態等の身体的興奮度を検出する装置を設け、その検出結果を利用して評価するものであり、

監視サーバ130の取引中断指示機能は、異常取引であるとの推定結果が得られた場合には、勘定ホスト150に通知して振込み処理を留保させ、さらに、監視サーバ130の取引内容確定入力機能は、金融機関Aのクライアント端末180に通知して、金融機関Aの現地係員Bに、振込指示を行なった者と対話して調査することを促す旨の表示をさせる、

ATM102。」


(2)引用文献2の記載事項等
a.原査定で引用された引用文献2の記載事項等は、以下のとおりである。

(2a)
「【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされており、被験者の顔の撮像画像から呼吸数や心拍数等の生体活動の状態を計測する方法において、被験者の移動や体動の影響を排除して精度よく計測するための技術を提供することを目的とする。」

(2b)
「【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
[心拍数計測装置の構成の説明]
図1に示すように、実施形態の心拍数計測装置は、被験者の顔面を撮像するための撮像装置1と、撮像装置1によって撮影された顔画像を画像処理することによって心拍数を計測するための計測装置2とを備える。」

b.上記a.の記載から、引用文献2には、以下の技術(以下「引用文献2技術」という。)が記載されているといえる。

被験者の顔の撮像画像から呼吸数や心拍数等の生体活動の状態を計測する構成に関して(【0008】)、
顔面を撮像するための撮像装置1と、撮像装置1によって撮影された顔画像を画像処理することによって心拍数を計測するための計測装置2とを備える(【0023】)、技術。


(3)引用文献3の記載事項等
a.原査定で引用された引用文献3の記載事項等は、以下のとおりである。

(3a)
「【0010】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、車両運転者における人為的ミスの発生の起こり易さの指標となる心的資源という新規な概念を提案するとともに、この心的資源を車両運転者の生体指標に基づいて算出し、評価する車両用心的資源評価装置及びその利用を提供することにある。」

(3b)
「【0074】
自動車事故のうち、車両相互の交差点における出会い頭事故は、死亡事故件数の多い事故の1つである。出会い頭事故の原因の一つに、ドライバの認知・判断エラーがある。我々は、ドライバの認知・判断エラー発生の予防を目標に、まずは認知・判断エラーが発生する、あるいは起こる可能性があるドライバの状態の検知手法の開発を試みる。人間の心理状態等を計測する研究としては、心拍などの指標を用いて、精神作業ストレスを評価する研究(下野太海、大須賀美恵子、寺下裕美:心拍・呼吸・血圧を用いた緊張・単調作業ストレスの評価手法の検討、人間工学、Vol.34、No.3、pp.107-115(1998))や、数学問題解法時の思考状態を推定する研究(Taketoshi Kurooka、Ippei Hoshi、Yuh Yamashita and Hirokazu Nishitani :Cascade estimation model for thinking state monitoring using plural physiological signals、Proceedings of XVth Triennial Congress International Ergonomics Association、T846(2003))がある。本明細書では、生理指標としてドライバの心電活動(ECG、electrocardiogram)に着目する。ドライビングシミュレータを用いて出会い頭事故を誘発する実験を行い、事故発生時刻付近の生理指標に特徴がないかを調べ、その特徴と認知・判断エラーとの関係を考察する。」

・・・

【0083】
DSでの操作に慣れてもらうため、被験者には最初に別の練習用コースを運転してもらった。その後、走行のみ、副次課題(1桁?3桁の四則演算の暗算を発話で回答)を与えた場合の走行実験を行った。

【0084】
<3.3 実験結果>
今回の実験では、3回(被験者Bが1回、Cが2回)の出会い頭事故が発生した。走行のみの場合でも1回発生している。このことから、開発したDSで出会い頭事故を再現できる見通しがついた。

・・・

【0086】
1回目の事故は、交差点進入時の減速開始が遅れ、交差点手前で止まりきらずに進入してしまい、そこで交差車両と接触を起こしている。また、事故直前の心拍数を見ると、上昇開始時刻が暗算を開始した時刻とほぼ一致している。心拍数の急激な上昇は、精神的負担を表していると考えられる。それゆえ、この事例では暗算を始めたことがきっかけで、減速開始のタイミングが遅れるという認知・判断エラーが発生したと推察される。このような顕著な例は予備実験中の3回の事故のうち1回にすぎないが、ECGの情報が、ドライバの認知・判断エラー検知に役立つ可能性を示唆していると考えられる。」


b.上記a.の記載から、引用文献3には、以下の技術(以下「引用文献3技術」という。)が記載されている。

車両運転者における人為的ミスの発生の起こり易さの指標となる心的資源という新規な概念を提案するとともに、この心的資源を車両運転者の生体指標に基づいて算出し、評価する車両用心的資源評価装置及びその利用を提供する構成において(【0010】)、
ドライビングシミュレータを用いて出会い頭事故を誘発する実験を行い、事故発生時刻付近の生理指標に特徴がないかを調べ、その特徴と認知・判断エラーとの関係を考察したものであって(【0074】)、
副次課題(1桁?3桁の四則演算の暗算を発話で回答)を与えた場合の走行実験を行ったところ(【0083】)、3回の出会い頭事故が発生し(【0084】)、
事故直前の心拍数を見ると、上昇開始時刻が暗算を開始した時刻とほぼ一致し、心拍数の急激な上昇は、精神的負担を表している(【0086】)、こと。


(4)引用文献4の記載事項等
a.原査定で引用された引用文献4の記載事項等は、以下のとおりである。


(4a)
「【0010】
本発明の目的は、絵本原稿作成における対話をより効率的かつ確実に、迅速に実施する手段を提供することである。すなわち、1)絵本原稿作成に要する時間を短縮し、2)依頼者の要望を十分にくみ取り、3)絵本原稿の作成手法が明晰であり、4)絵本原稿の完成度が高く、5)依頼者の心的満足度が得られ、かつ、対話の実施コストが低い技術的手法を提供することを目的とする。」

(4b)
「【0077】
また、依頼者及び支援者の生体情報を表示する場合において、生体情報の表示を、生体情報に特異な反応があった場合にのみ表示する変更も本発明は含んでいる。その時は、依頼者と支援者双方がともに、相手の心的状況の推察が容易になり、対話の充実が図られ、完成度の高い絵本原稿の作成に効果が生ずる可能性が期待できる。

・・・

【0081】
また、心拍における特異な反応とは、被験者が緊張状態となった場合に交感神経活動が上昇し、心拍数が上昇するため、平常時心拍数から125%以上が5秒以上継続した場合とする。

【0082】
平常時心拍数とは、絵本原稿作成を実施する以前に、被験者の安静状態において心拍数計測を行った計測値の平均的な値のことをいう。」


b.上記a.の記載から、引用文献4には、以下の技術(以下「引用文献4技術」という。)が記載されている。

絵本原稿作成における対話をより効率的かつ確実に、迅速に実施する手段を提供するものであって(【0010】)、
依頼者及び支援者の生体情報を表示する場合において、生体情報の表示を、生体情報に特異な反応があった場合にのみ表示した時は、依頼者と支援者双方がともに、相手の心的状況の推察が容易になり、対話の充実が図られ、完成度の高い絵本原稿の作成に効果が生ずる可能性が期待できる(【0077】)構成において、
心拍における特異な反応とは、被験者が緊張状態となった場合に交感神経活動が上昇し、心拍数が上昇するため、平常時心拍数から125%以上が5秒以上継続した場合とし(【0081】)、
平常時心拍数とは、絵本原稿作成を実施する以前に、被験者の安静状態において心拍数計測を行った計測値の平均的な値のことをいう(【0082】)、ものとすること。


2 対比・判断
(1)本願発明1について

本願発明1と引用発明とを対比する。

ア.引用発明の「金融機関内に設置されたクライアント端末180、監視センタD内に設置された監視サーバ(異常取引検出装置)130、及び、計算機センタC内に設置されたCRMサーバ170と、情報通信用のネットワーク190で接続され、異常取引検出システムを構成する現金自動預け払い機であるATM102」は、本願発明1の「自動取引装置」に相当する。

イ.引用発明の「ユーザ」は本願発明1の「顧客」に相当し、引用発明の「キャッシュカードのIDの情報」は本願発明1の「顧客識別情報」に相当する。また、引用発明は「キャッシュカードをATM102の読み取り装置へ挿入すると、ATM102は、読み取ったキャッシュカードのIDの情報が含まれる取引指示を受け付けたときの情報を、監視センタD内の監視サーバ130に通知するものであ」るから、引用発明の「読み取り装置」及び「監視サーバ130」は、本願発明1の「前記顧客の識別情報を取得する取得部」に相当する。

ウ.引用発明の「ユーザの脈拍、脳波、体温又は発汗状態等の身体的興奮度を検出する」ことと、本願発明1の「前記撮像部により得られた顔画像から前記顧客の脈拍を検出する」こととは、「顧客の脈拍を検出する」ことの限度で共通し、引用発明の「ユーザの判断力を評価する手段として、現金自動預け払い機を操作しているユーザの脈拍、脳波、体温又は発汗状態等の身体的興奮度を検出する装置を設け、その検出結果を利用して評価するものであり」、「判断力推定結果に基づいて、異常取引の有無の推定判断を行う」ことと、本願発明1の「前記顧客の脈拍数を計測して分析を行い、前記顧客が操作の支援を必要としているか否かを判定する」こととは、「顧客の脈拍を検出して分析を行い、顧客の状態を判定すること」、の限度で共通する。

そうすると、引用発明の「異常取引判断機能」を有する「監視サーバ130」と、本願発明1の「前記撮像部により得られた顔画像から前記顧客の脈拍を検出すると共に前記顧客の脈拍数を計測して分析を行い、前記顧客が操作の支援を必要としているか否かを判定する分析部」とは、「顧客の脈拍を検出して分析を行い、顧客の状態を判定する分析部」の限度で共通する。

オ.引用発明の「金融機関Aの現地係員B」と、本願発明1の「操作支援者」とは、「顧客への対応者」で共通し、引用発明の「異常取引であるとの推定結果が得られた場合には、勘定ホスト150に通知して振込み処理を留保させ、さらに、監視サーバ130の取引内容確定入力機能は、金融機関Aのクライアント端末180に通知して、金融機関Aの現地係員Bに、振込指示を行なった者と対話して調査することを促す旨の表示をさせる」、「取引中断指示機能」を有する「監視サーバ130」と、本願発明1の「前記分析部により前記顧客が操作の支援を必要としていると判定された場合に、前記顧客が操作の支援を必要としている顧客であることを、前記自動取引装置の操作を支援する操作支援者に通知する通知部」とは、「前記分析部により前記顧客の状態が判定された場合に、顧客の状態を、顧客への対応者に通知する通知部」の限度で共通する。


上記ア.?オ.を踏まえると、本願発明1と引用発明の一致点及び相違点は以下のとおりである。

<一致点>
「自動取引装置であって、
前記顧客の識別情報を取得する取得部と、
前記顧客の脈拍を検出して分析を行い、顧客の状態を判定する分析部と、
前記分析部により前記顧客の状態が判定された場合に、顧客の状態を、顧客への対応者に通知する通知部と、
を備える、
自動取引装置。」


<相違点1>
「顧客の脈拍」の「検出」に関し、本願発明1は、「顧客が前記自動取引装置を操作する際に、該顧客の顔を撮像して顔画像を得る撮像部」を備え、「前記撮像部により得られた顔画像」から顧客の脈拍を検出するのに対して、引用発明では具体的な手段が特定されていない点。

<相違点2>
本願発明1は、「分析部」が「判定する」「顧客の状態」が、「操作の支援を必要としているか否か」であり、「前記分析部により過去に計測された各顧客の脈拍数の平均脈拍数、又は、前記分析部により過去に計測された各顧客の脈拍数が、前記識別情報と対応付けされて記憶される記憶部」を備え、「分析部」は「計測した前記顧客の脈拍数が急激に上昇したか否か、計測した前記顧客の脈拍数と前記記憶部に記憶されている前記顧客の識別情報に対応する過去の平均脈拍数との差が所定値を超えたか否か、又は、計測した前記顧客の脈拍数が前記記憶部に記憶されている前記顧客の識別情報に対応する過去の脈拍数を越えたか否かを判定する分析を行って、前記顧客が操作の支援を必要としているか否かを判定」し、「通知部」は、「前記分析部により前記顧客が操作の支援を必要としていると判定された場合に、前記顧客が操作の支援を必要としている顧客であることを、前記自動取引装置の操作を支援する操作支援者に通知する」ものであるのに対して、
引用発明は、「分析部」が「判定する」「顧客の状態」が、「異常取引の有無」であり、かかる「記憶部」の特定がなく、「現金自動預け払い機を操作しているユーザの脈拍、脳波、体温又は発汗状態等の身体的興奮度を検出する装置を設け、その検出結果を利用して」、「判断力を評価する」とともに、「判断力推定結果に基づいて、異常取引の有無の推定判断を行う」ものであり、「異常取引であるとの推定結果が得られた場合」に、「金融機関Aのクライアント端末180に通知して、画面を表示させることにより、金融機関Aの現地係員Bに、振込指示を行なった者と対話して調査することを促す旨の表示をさせる」ものである点。


事案に鑑み、相違点2について検討を行う。

引用発明は、1(1)b.(b-2)に示すように、金融機関等にある現金自動預け払い機を利用してユーザが振込みのための操作を行う際に、いわゆる振込め詐欺等の異常取引を検出し、被害を抑制するためのものであり(【0001】)、意図的に回避することが困難な異常取引の有無を推定するための条件に基づいて、異常取引を安定して検出できるようにすることを目的とする(【0011】)ものであるところ、「異常取引」と「操作」の支援を必要とする「取引」とは異なるタイプの取引であって、「異常取引」において「操作」の支援をすると「異常取引」を助長することになるから阻害要因があるといえ、引用発明において、「異常取引」の際に「操作の支援を必要としているか否かを判定する」よう構成する動機付けを見いだすことはできない。

また、引用発明において、「異常取引判断機能」及び「取引中断指示機能」を有する「監視サーバ130」において、「異常取引」と並列的に「操作の支援を必要としているか否か」を判定する機能を追加することを試みても、
引用文献2技術は、「撮像装置によって撮影された顔画像を画像処理することによって心拍数を計測するための計測装置」を開示する程度に留まり、引用文献3技術は、「心拍数の急激な上昇は、精神的負担を表している」ことを開示する程度に留まり、引用文献4技術は、「緊張状態となった場合」を、「平常時心拍数から所定値以上が所定時間継続した場合」とすることをを開示する程度に留まるところ、
引用文献2?4のいずれにおいても、上記相違点2に係る「前記顧客の脈拍数を計測して分析を行い操作の支援を必要としているか否かを判定する」ことについては記載も示唆もされていない。

さらに、引用文献2?4のいずれにおいても、
上記相違点2における、「前記顧客が操作の支援を必要としているか否かを判定する」ように、「分析部により過去に計測された各顧客の脈拍数の平均脈拍数、又は、前記分析部により過去に計測された各顧客の脈拍数が、前記識別情報と対応付けされて記憶される記憶部」を具備させ、「前記分析部」を、「計測した前記顧客の脈拍数が急激に上昇したか否か、計測した前記顧客の脈拍数と前記記憶部に記憶されている前記顧客の識別情報に対応する過去の平均脈拍数との差が所定値を超えたか否か、又は、計測した前記顧客の脈拍数が前記記憶部に記憶されている前記顧客の識別情報に対応する過去の脈拍数を越えたか否かを判定する分析を行う」よう構成すること、及び、
上記相違点2における、「通知部」を、「前記分析部により前記顧客が操作の支援を必要としていると判定された場合に、前記顧客が操作の支援を必要としている顧客であることを、前記自動取引装置の操作を支援する操作支援者に通知する」よう構成すること、
についても記載も示唆もされていない。

そうすると、引用発明に引用文献2?4技術を適用しても、引用発明の「監視サーバ130」に上記相違点2に係る本願発明1の機能を有する構成には至らない。

したがって、当業者といえども、引用発明及び引用文献2?4技術から、相違点2に係る本願発明1の事項を容易に想到することはできないものであるから、その余の相違点を検討するまでもなく、本願発明1は、引用文献1?4に記載された発明(引用発明及び引用文献2?4技術)に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。


(2)本願発明2?4について

本願発明2?4は、本願発明1の発明特定事項を全て含み、さらに減縮したものであるから、本願発明1と同様に当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。


(3)本願発明5について

本願発明5は、「自動取引装置の処理方法」に係る発明であるところ、その発明を特定するために必要な事項として、「計測した前記顧客の脈拍数が急激に上昇したか否か、計測した前記顧客の脈拍数と、過去に計測した各顧客の脈拍数の平均脈拍数が前記識別情報と対応付けされて記憶される記憶部に記憶されている前記顧客の識別情報に対応する過去の平均脈拍数との差が所定値を超えたか否か、又は、計測した前記顧客の脈拍数が、過去に計測した各顧客の脈拍数が前記識別情報と対応付けされて記憶される記憶部に記憶されている前記顧客の識別情報に対応する過去の脈拍数を越えたか否かを判定する分析を行って、前記顧客が操作の支援を必要としているか否かを判定し、」との事項を有しているものである。

そして、当該事項は、上記相違点2に係る本願発明1の事項における「前記分析部」について、相違点2と同様に「脈拍数」の分析を行い、「前記顧客が操作の支援を必要としているか否かを判定する」との構成を含むものであるから、上記(1)における相違点の検討と同様の検討により、本願発明5は、当業者であっても引用発明、引用文献2?4技術に基いて容易に発明できたものであるとはいえない。


(4)本願発明6について

本願発明6は、「自動取引装置の処理プログラム」に係る発明であるところ、その発明を特定するために必要な事項として、「計測した前記顧客の脈拍数が急激に上昇したか否か、計測した前記顧客の脈拍数と、過去に計測した各顧客の脈拍数の平均脈拍数が前記識別情報と対応付けされて記憶される記憶部に記憶されている前記顧客の識別情報に対応する過去の平均脈拍数との差が所定値を超えたか否か、又は、計測した前記顧客の脈拍数が、過去に計測した各顧客の脈拍数が前記識別情報と対応付けされて記憶される記憶部に記憶されている前記顧客の識別情報に対応する過去の脈拍数を越えたか否かを判定する分析を行って、前記顧客が操作の支援を必要としているか否かを判定し、」との事項を有しているものである。

そして、当該事項は、上記相違点2に係る本願発明1の事項における「前記分析部」について、相違点2と同様に「脈拍数」の分析を行い、「前記顧客が操作の支援を必要としているか否かを判定する」との構成を含むものであるから、上記(1)における相違点の検討と同様の検討により、本願発明6は、当業者であっても引用発明、引用文献2?4技術に基いて容易に発明できたものであるとはいえない。



第6 むすび

以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。

また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-06-24 
出願番号 特願2013-212286(P2013-212286)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G07D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 井出 和水  
特許庁審判長 島田 信一
特許庁審判官 藤井 昇
岡▲さき▼ 潤
発明の名称 自動取引装置、その処理方法、及びその処理プログラム  
代理人 大菅 義之  

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