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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F02B
管理番号 1352932
審判番号 不服2017-15693  
総通号数 236 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-08-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-10-24 
確定日 2019-06-26 
事件の表示 特願2015-526573「排気ガスターボチャージャのコンプレッサのコンプレッサホイール」拒絶査定不服審判事件〔平成26年2月20日国際公開、WO2014/028214、平成27年8月24日国内公表、特表2015-524540〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2013年7月31日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2012年8月13日、ドイツ連邦共和国)を国際出願日とする出願であって、平成28年10月25日付け(発送日:同年11月1日)で拒絶理由が通知され、平成29年1月30日に意見書が提出されたが、同年6月16日付け(発送日:同年6月27日)で拒絶査定がされ、これに対して同年10月24日に拒絶査定不服審判が請求され、平成30年6月5日付け(発送日:同年6月12日)で当審より拒絶の理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、その指定期間内の同年12月12日に手続補正がされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成30年12月12日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された、次のとおりのものである。

「【請求項1】
排気ガスターボチャージャ(6)のコンプレッサ(6A)のコンプレッサホイール(1)であって、
-ハブ(2)を有し、
-前記ハブ(2)に配置されかつ各々の場合にブレード前縁(3A)とブレード後縁(3B)とを有する多数の凹設されていないブレード(3)を有し、
・前記ブレード前縁(3A)が、前記コンプレッサホイール(1)が回転するときに前記ブレード前縁(3A)によって掃引される領域である入口領域(A1)を画定し、
・前記ブレード後縁(3B)が、前記コンプレッサホイール(1)が回転するときに前記ブレード後縁(3B)によって掃引される領域である出口領域(A2)を画定し、
・前記ブレード前縁(3A)によって、前記入口領域(A1)は回転軸線RAに対して直角に形成され、前記ブレード後縁(3B)によって、前記出口領域(A2)は前記回転軸線RAに対して標準化されたブレード高さの円筒面に形成され、
-比率A2/A1が>60%である、コンプレッサホイール(1)。」

第3 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由の概要は以下のとおりである。

(進歩性)本願の請求項1ないし4に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

請求項1及び4に係る発明に対して:引用文献1ないし3
請求項2及び3に係る発明に対して:引用文献1ないし4

引用文献等一覧
1.特開2005-23901号公報
2.国際公開第2010/142287号(周知技術を示す文献)
3.米国特許出願公開第2011/0020152号明細書(周知技術を示す文献)
4.特開2012-140890号公報(周知技術を示す文献)

第4 引用文献、引用発明
1 引用文献1
当審拒絶理由に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である、特開2005-23901号公報(以下、「引用文献1」という。)には、「遠心式羽根車」に関して、図面(特に、図2、4及び6(d)を参照。)とともに以下の記載がある(なお、下線は、理解の一助のために当審が付与したものである。以下同様。)。
(1)「【請求項2】
平面視円状の基部と、該基部上に中心部から外周方向に設けられ、周方向に等間隔を隔てて配設される複数の羽根とを有する遠心式羽根車において、前記羽根によって形成される流路の流体通過面積を、流体の吸入面から吐出面にかけて一定としたことを特徴とする遠心式羽根車。」

(2)「【0001】
本発明は、圧縮機や送風機に用いられる遠心式羽根車及びその設計方法に関する。」

(3)「【0009】
また、図33に示すような、自動車のターボ加速器やジェットエンジンに使用されるタイプのインペラ121においては、吐出側の吸入側に対する流体通過面積の比は約1/2となっており、その吸入側から吐出側にかけての面積変化率も略一定となっている。しかし、この場合も翼間ピッチが吸入側から吐出側にかけて広くなっているため、上述したような高速回転時における翼車内誘起速度などの現象が発生するので、分子の流れの加速が遅れたり、吸入側と吐出側との静圧の差があると流体の流れが滞ったりする。つまり、動圧圧縮はできても静圧圧縮はできないということである。」

(4)「【0022】
請求項2においては、流体の密度的な偏りの発生を防止でき、加速された動圧分だけ圧縮効果を得ることが可能となり圧縮効果の向上が図れる。」

(5)「【0029】
まず、本発明の遠心式羽根車について図1及び図2を用いて説明する。なお、本実施例においては、図1及び図2に示すような遠心式羽根車の代表的な二種類の形状を用いて説明していく。
まず、図1及び図2を用いて本発明に係る遠心式羽根車(以下、インペラ1)の概略構成について説明する。
本発明に係るインペラ1は、回転軸5に固定される平面視円状の基部2と、該基部2上に中心部から外周方向(径方向)に設けられ、周方向(回転方向)に等間隔を隔てて配設される複数の羽根3とを備え、これら基部2及び複数の羽根3によってその外形が形成されている。
【0030】
前記羽根3は、基部2の中心部から外周部にかけて、該基部2から突設した曲面を形成しており、この中心部から外周部にかけての羽根3の長さを「翼長」とする。また、羽根3は翼長方向において、インペラ1回転方向と逆向き(後退方向)に湾曲しており、この平面視において表れる羽根3の湾曲を「翼長方向のそり」とする。そして、該羽根3は基部2から突設しているが、この羽根3の突設方向の高さ及びその辺を「翼高」とし、羽根3はこの翼高方向に対しても湾曲した形状とすることができる。この翼高方向の湾曲を「翼高方向のそり」とする。なお、この翼高方向のそりを形成する場合は、インペラ1の回転方向(前進方向)に向けて湾曲させる。
また、インペラ1回転方向において羽根3の前側の面を「翼表」、後側の面を「翼裏」とし、隣り合う羽根間の距離、即ち翼表の任意の点における接線に直交する線を引き、この線と回転方向前側の羽根3の裏面との交点と、前記任意の点との距離を「翼間ピッチP」とする。
このような構成のインペラ1が回転軸5を中心に回転駆動することによって、流体がインペラ1の中心部から回転軸方向に吸入され、羽根3によって形成される流路を通過して、該インペラ1の外周部から回転軸と垂直方向に吐出され、その圧力によって圧縮効果を得るしくみとなっている。
【0031】
前記羽根3は、外形線3a、基部2との境界線である内形線3b、吸入面翼高3c及び吐出面翼高3dによってその二次元的な形状が決まり、さらに、翼長と翼長方向のそり、及び翼高方向のそりによって三次元的な形状が決定される。
つまり、上述した遠心式羽根車の代表的な2種類の形状とは、図1及び図22示すような、羽根3の翼高が水平面に対して垂直方向となっているもの(以下、垂直型)と、図2に示すような、羽根3の翼高が水平面に対して平行となっているもの(以下、平行型)である。
【0032】
次に、インペラ1における流体通過面積について図3及び図4を用いて説明する。
ここでいう流体の通過面積とは、羽根3によって形成される流路における流体進行方向に対して垂直な面の面積であり、隣り合う一対の羽根間のものではなく、インペラ1の全周に亘る吸入側から吐出側にかけてのことである。すなわち、前記吸入面翼高3cを回転軸5を中心に回転させた場合の軌跡となる図形を吸入面S1とすると、この吸入面S1の面積が吸入面通過面積となり、同様にして前記吐出面翼高3dを回転軸5を中心に回転させた場合の軌跡となる図形を吐出面S2とすると、この吐出面S2の面積が吐出面通過面積となるのである。
【0033】
よって、垂直型のインペラ1の場合は、図3に示す斜線部のように、吸入面S1及び吐出面S2はそれぞれ略円筒形状の側面となり、吸入面通過面積は、吸入面S1の平面視形状となる円の直径をD1とすると、D1×π×吸入面翼高3cによって求められる。同様にして吐出面通過面積は、吐出面S2の平面視形状となる円の直径をD2とすると、D2×π×吐出面翼高3dによって求められる。
同様に、図4に示す平行型のインペラ1の場合も、図中の斜線部のように、吸入面S1及び吐出面S2は吸入面翼高3c及び吐出面翼高3dを、回転軸5を中心に回転させた場合の軌跡となる形状それぞれの面積が吸入面通過面積及び吐出面通過面積となっている。
また、垂直型及び平行型それぞれのインペラ1において、吸入面S1と吐出面S2との間の流路における途中の通過面積も、その径方向における位置での、基部2の表面に沿った円周の長さと、羽根3の翼高との積によって決まる。
つまり、流体通過面積という面から見ると、羽根3というのは、該羽根3の形状によって決まるインペラ1の流路の仕切りの役割を果たすに過ぎないこととなる。
【0034】
このように定義される流体通過面積において、この流体通過面積の変化、即ち吸入面S1から吐出面S2にかけての流路の面積変化は羽根3の形状によって決まる。そこでこの流体通過面積の変化によって流体が受ける影響について説明する。なお、インペラ1内の流体の分子の流れを概念的に認識しやすくするため、図5に示すように、模式的にインペラ1における流体通過部を円筒状の流路に見立て、この円筒状とした流路において、紙面右側を吸入側、左側を吐出側として流体が流れる方向を設定し、この流体進行方向に垂直な断面積がそれぞれの位置における通過面積として説明する。」

(6)「【0038】
続いて示すのは、流体通過面積が吸入面S1から吐出面S2にかけて全て同じになっている場合である。つまり、同図(d)に示すように、模式図で示した場合完全な円筒となり、吸入面S1から途中の流路、そして吐出面S2にかけて同一の通過面積となっている。この場合、流体の密度的な偏りは発生しないため、加速された動圧分だけ圧縮効果を得ることが可能となる。しかし、吐出面S2外部の静圧が上昇してくると、流体密度が不安定になり動圧によるエネルギーを静圧に変換した分しか圧縮しないことがある。」

(7)上記(5)(特に、段落【0032】)及び(6)並びに図6(d)には、羽根3によって形成される流路の流体通過面積が流体の吸入面S1から吐出面S2にかけて一定のものが開示されている。これは、面積比率S2/S1=100%である、といえる。

(8)上記(5)(特に、段落【0031】及び【0033】)及び図2の図示内容から、平行型インペラ1においては、吸入面翼高3cによって、吸入面S1は回転軸5の軸線に対して直角に形成されているといえる。

上記記載事項、認定事項並びに図示内容からみて、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「圧縮機の遠心式羽根車であって、
基部2を有し、
前記基部2に配置されかつ各々の場合に吸入面翼高3cと吐出面翼高3dとを有する多数の羽根3を有し、
前記吸入面翼高3cが、前記遠心式羽根車が回転するときに前記吸入面翼高3cの軌跡となる図形である吸入面S1を画定し、
前記吐出面翼高3dが、前記遠心式羽根車が回転するときに前記吐出面翼高3dの軌跡となる図形である吐出面S2を画定し、
前記吸入面翼高3cによって、前記吸入面S1は回転軸5の軸線に対して直角に形成され、
面積比率S2/S1が100%である遠心式羽根車。」

2 引用文献2
当審拒絶理由に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である、国際公開第2010/142287号(以下、「引用文献2」という。)には、図面(特に、図2及び3を参照。)とともに以下の記載がある(なお、ウムラウトは省略し、エスツェットは「s」と表記した。また、仮訳は関連出願の特表2012-529585号公報による。)。

(1)「Der erfindungsgemase Abgasturbolader weist eine Abgasturbine (nicht gezeigt), die eingangsseitig an ein Abgassystem einer als Dieselmotor ausgebildeten Brennkraftmaschine (nicht gezeigt) eines Kraftfahrzeugs (nicht gezeigt) angeschlossen ist, und einen einstufigen Radialverdichter 1 (in Fig.2 und Fig.3 gezeigt) auf, der uber eine nicht dargestellte Triebwelle mit der Abgasturbine drehanthebsverbunden ist.」(第12ページ第7ないし12行)
(仮訳)
本発明に係る排ガスターボチャージャーは、ディーゼル機関として形成された、自動車(図示せず)の内燃機関(図示せず)の排ガスシステムに入口側で接続されている排ガスタービン(図示せず)と、図示しない駆動シャフトを介して排ガスタービンに回転駆動可能に接続されている単段式遠心圧縮機1(図2と図3とに示す)と、を備えている。

(2)「Das Verdichterlaufrad 20 weist eine auf der Triebwelle drehfest befestigte Laufradnabe 21 mit einem Ausenumfang 21 a und eine Mehrzahl von Laufrad seh auf ein 22 auf, die entlang des Ausenumfangs 21 a der Laufradnabe 21 in Umfangsrichtung gleichmasig verteilt auf der Laufradnabe 21 angeordnet sind und die jeweils zwei seitliche Schaufelflachen 22a und 22b und einen sich zwischen den beiden Schaufelflachen 22a, 22b erstreckenden radial auseren Rand 22c haben.」(第13ページ第21ないし27行)
(仮訳)
圧縮機インペラ20は、駆動シャフトに回転不能に固定されていると共に外周21aと複数のインペラブレード22とを有している、インペラハブ21を備えており、当該インペラブレードは、インペラハブ21の外周21aに沿って周方向に均等に分散配置された状態でインペラハブ21に設けられており、それぞれ2つの横方向に延在しているブレード側面22a、22bと、両ブレード側面22a、22bの間に延伸する径方向外縁部22cとを有している。

(3)「Die Laufradpassagen 23 weisen zwischen ihrem jeweiligen Fluideintrittsende 23a und ihrem jeweiligen Fluidausthttsende 23b jeweils eine Trennwand in Form einer Zusatzschaufel 24 auf, welche in ihrer radialen Erstreckung mit den Laufradschaufein 22 ubereinstimmt, jedoch fluideinthttsendenseitig um ein bestimmtes Mas kurzer als die Laufradschaufeln 22 ausgebildet ist.」(第14ページ第19ないし23行)
(仮訳)
インペラ通路23それぞれは、インペラ通路23それぞれの流体流入端部23aとインペラ通路23それぞれの流体流出端部23bとの間に、補助ブレード24の形状をした1つの分離壁を備え、当該補助ブレードは、その径方向の延伸においてインペラブレード22と一致するが、流体流入端部側23aでは、所定の間隔だけインペラブレード22よりも短く形成されている。

上記記載事項及び図面の図示内容からみて、引用文献2には、次の事項(以下、「引用文献2記載事項」という。)が記載されている。

「インペラブレード22の間に、該インペラブレード22よりも短い補助ブレード24を有している排ガスターボチャージャの遠心圧縮機の圧縮機インペラ20」

3 引用文献3
当審拒絶理由に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である、米国特許出願公開第2011/0020152号明細書(以下、「引用文献3」という。)には、図面(特に、図3及び4を参照。)とともに以下の記載がある。
(1)「[0001] The present invention relates to a compressor in a turbocharger unit for an internal combustion engine.」
(当審仮訳)
本発明は、内燃機関用のターボ過給機の圧縮機に関するものである。

(2)「[0031]Both the low-pressure turbo and the high-pressure turbo have compressors which are configured according to the described invention, i.e. impeller with low diameter ratio between inlet and outlet in combination with hackswept blades with large angle, which will be described below with reference to FIGS. 3 and 4.」
(当審仮訳)
低圧ターボ及び高圧ターボの双方は、本発明にしたがって構成された圧縮機を有している。それは、例えば、入口と出口との間の低い直径比と大きな角度のハックスウェプトブレードとの組み合わせによるものである。図3及び図4を参照して以下で説明する。

(3)「[0032] From FIG. 3 it can be seen that a blade angle βb2, between an imaginary extension of the blade 35 along the center line between root section and tip section in the direction of the outlet tangent and a line 36 (in dash-dot representation) connecting the center axis of the impeller to the outer tip of the blade, is at least about 40°. Turbocompressors available on the market have blade angles βb2 between about 25° and about 40°. (以下省略)」
(当審仮訳)
図3から、ブレード35において、根元部と先端部の間の中心線の出口接線の方向に沿った仮想延長線と、インペラの中心軸線とブレード外端を結ぶ線36(一点鎖線)の間に、ブレード角度βb2が看取できる。この角度は少なくとも40度である。市場で入手可能なターボコンプレッサは、約25°と約40°との間のブレードアングルβb2を有する。

(4)上記(1)ないし(3)から、図3及び4は、ターボ過給機の圧縮機のインペラであることが分かる。そして、図3及び4の図示内容から、該圧縮機のインペラは、ブレード35の間に、該ブレード35よりも短いブレードを有していることが看取できる。

上記記載事項、認定事項及び図面の図示内容からみて、引用文献3には、次の事項(以下、「引用文献3記載事項」という。)が記載されている。

「ブレード35の間に、該ブレード35よりも短いブレードを有しているターボ過給機の圧縮機のインペラ。」

4 引用文献4
本願の優先日前に頒布された刊行物である、特開平10-26027号公報(以下、「引用文献4」という。)には、図面(特に、図2及び3を参照。)とともに以下の記載がある。
(1)「【0012】
【発明の実施の形態】
<第1例(図1?図5参照)>本例のエンジンの過給装置は、図1に略示するように、自動車用エンジンの排気タービン過給装置であり、自動車用エンジンの複数のシリンダ1の吸気口に接続した吸気通路2の途中に遠心圧縮機3を介在し、複数のシリンダ1の排気口に接続した排気通路4の途中にガスタービン5を介在し、遠心圧縮機3とガスタービン5を同軸に連結している。
【0013】エンジンの排気通路4を流れる排気ガスでガスタービン5が回転されて遠心圧縮機3が回転され、吸気通路2を流れる空気が遠心圧縮機3で圧縮され、高圧になった空気が各シリンダ1に供給される。
【0014】遠心圧縮機3は、図2に示すように、ケーシング11の中央部に羽根車12を入れ、羽根車12の軸13をケーシング11の後部に軸受し、ケーシング11の前部に円筒形状の空気入口管14を羽根車12と同芯状に設け、ケーシング11の外周部にディフューザ15と渦巻室16を内外に同芯状に設けている。渦巻室16の大径部には、図示しないが、空気出口管を接続している。
【0015】羽根車12は、図3に示すように、円盤形状の主板17の中心部に軸13を貫通して固定し、主板17の前面に湾曲板形状の羽根18を等間隔位置にほぼ径方向に沿って固定している。
【0016】エンジンの吸気通路2を流れる空気は、遠心圧縮機3の空気入口管14から回転中の羽根車12の前面の入口に流入し、羽根車12の羽根18の間の湾曲通路を通って、羽根車12の外周の出口からディフューザ15を経て渦巻室16に流入し、高圧になった空気が渦巻室16の空気出口管から流出し、エンジンのシリンダ1に流入する。」

(2)「【図面の簡単な説明】
(省略)
【図2】同過給装置の遠心圧縮機の縦断面図であって案内羽根が傾斜していない状態の図。
(省略)」

(3)図3の図示内容から、羽根車12は、羽根18の間に該羽根18よりも短い羽根を有していることが看取できる。

(4)図2の図示内容から、羽根18の出口(ディフューザ15)側の縁を示す線が、軸13の軸線と平行であることが看取できる。そして、図2は、軸13の軸線を含む面における断面図と理解できることから、当該「羽根18の出口(ディフューザ15)側の縁を示す線」は「羽根18の出口(ディフューザ15)側の縁を軸13の軸線を含む面に投影した線」ということができる。

上記記載事項、認定事項及び図面の図示内容からみて、引用文献4には、次の事項が記載されている(以下、それぞれ「引用文献4記載事項1」及び「引用文献4記載事項2」という。)。

〔引用文献4記載事項1〕
「羽根18の間に、該羽根18よりも短い羽根を有している排気タービン過給装置の遠心圧縮機の羽根車12。」

〔引用文献4記載事項2〕
「羽根18の出口(ディフューザ15)側の縁を軸13の軸線を含む面に投影した線が、軸13の軸線と平行である排気タービン過給装置の遠心圧縮機の羽根車12。」

5 引用文献5
本願の優先日前に頒布された刊行物である、特開平9-133098号公報(以下、「引用文献5」という。)には、図面(特に、図1及び3を参照。)とともに以下の記載がある。
(1)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は自動車用過給機に好適な遠心圧縮機に関する。
【0002】
【従来の技術】従来のこの種圧縮機の1例が図3に示されている。回転軸3を駆動すると、インペラ1が回転し、ガスが入口11からインペラ1に吸い込まれて付勢されることによってその圧力及び速度エネルギーが増大する。このガスはベーンレスディフューザー2及びスクロール5を流過する過程で速度エネルギーが圧力に変換されることにより更に昇圧して図示しない吐出口から吐出される。」

(2)「【0013】
【発明の実施の形態】本発明の実施形態が図1に示され、(A) は部分的縦断面図、(B) は(A) のB-B線に沿う部分的断面図、(C) は(A) のC-C線に沿う部分的断面図である。抽出孔41は半円r_(1)の円周に沿って等ピッチに複数(n) 個設置され、その直径d_(1)は上記ピッチの1/3(=2πr_(1)/3n)以下とされている。
【0014】シュラウドケーシング4にはインペラ1の後縁13の近傍に開口してインペラ1の出口と再循環流路42とを連通するバイパス孔43が穿設されている。これらバイパス孔43は抽出孔41と同数(n個) で、半径r_(2)の円周上に円周方向に沿って等ピッチに設置され、その直径d_(2)は上記ピッチの1/3(=2πr_(2)/3n)以下とされている。」

(3)図1及び3の図示内容から、インペラ1の後縁13を示す線が、回転軸3の軸線と平行であることが看取できる。そして、図1及び3は、回転軸3の軸線を含む面における断面図と理解できることから、当該「インペラ1の後縁13を示す線」は「インペラ1の後縁13を回転軸3の軸線を含む面に投影した線」ということができる。

上記記載事項、認定事項及び図示内容からみて、引用文献5には、次の事項が記載されている(以下、「引用文献5記載事項」という。)。

「インペラ1の後縁13を回転軸3の軸線を含む面に投影した線が、回転軸3の軸線と平行である自動車用過給機の遠心圧縮機のインペラ1。」

6 引用文献6
本願の優先日前に頒布された刊行物である、特開2009-236068号公報(以下、「引用文献6」という。)には、図面(特に、図1及び4を参照。)とともに以下の記載がある。

(1)「【0013】
以下、図面を参照し、本発明に係る過給機の実施の形態について説明する。
図1は本発明の実施形態である過給機の全体構成を示す側断面図であり、図2は図1における静圧空気軸受付近の拡大図、図3は図1におけるタービンインペラ背面付近の拡大図、図4は図1におけるコンプレッサインペラ背面付近の拡大図である。
【0014】
図1に示すように、過給機1は、ラジアルタービン10とコンプレッサ20とベアリング部30とを備えており、ラジアルタービン10に設けられたタービンインペラ11とコンプレッサ20に設けられたコンプレッサインペラ21とが、ラジアルタービン10、コンプレッサ20及びベアリング部30内を挿通する駆動シャフト31にそれぞれ固定されて軸線O回りに回転される構成とされている。
【0015】
タービンインペラ11及びコンプレッサインペラ21は、軸線O周りに複数のタービン翼13又はコンプレッサ翼23が立設されている。タービンインペラ11は、その外周側から吹き付けられる排気ガスが隣り合うタービン翼13の間を流れて軸線O方向へ抜けることによってトルクを受けて回転する。コンプレッサインペラ21は、回転駆動されることによりコンプレッサ翼23が立設された外周側に軸線O方向から流入する外気を圧縮するようになっている。」

(2)「【0018】
コンプレッサハウジング22には駆動シャフト31と同軸上、即ち軸線O上に配置される吸気口22aが形成されており、コンプレッサインペラ21の回転により吸気口22aから外気が吸引される。これによりコンプレッサ翼23の流体出口Cには圧縮空気が存在することになるため、当該流体出口Cにおける圧力は高いものとなる。
また、コンプレッサハウジング22は、外周側から突出した吐出流路(図示省略)を有している。この吐出流路は、内燃機関の給気口に接続されて、加圧空気を内燃機関へと導く。」

(3)図1及び4の図示内容から、コンプレッサ翼23の流体出口C側の縁を示す線が、駆動シャフト31の軸線Oと平行であることが看取できる。そして、図1及び4は、駆動シャフト31の軸線Oを含む面における断面図と理解できることから、当該「コンプレッサ翼23の流体出口C側の縁を示す線」は「 コンプレッサ翼23の流体出口C側の縁を駆動シャフト31の軸線Oを含む面に投影した線」ということができる。

上記記載事項、認定事項及び図示内容からみて、引用文献6には、次の事項が記載されている(以下、「引用文献6記載事項」という。)。

「コンプレッサ翼23の流体出口C側の縁を駆動シャフト31の軸線Oを含む面に投影した線が、駆動シャフト31の軸線Oと平行である過給機のコンプレッサインペラ21。」

第5 対比・判断
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「圧縮機」は、その機能、構成及び技術的意義から本願発明の「コンプレッサ」に相当し、以下同様に、「遠心式羽根車」は「コンプレッサホイール」に、「基部2」は「ハブ」に、「吸入面高さ3c」は「ブレード前縁」に、「吐出面高さ3d」は「ブレード後縁」に、「羽根3」は「ブレード」に、「吸入面高さ3cの軌跡となる図形」は「ブレード前縁によって掃引される領域」に、「吐出面高さ3dの軌跡となる図形」は「ブレード後縁によって掃引される領域」に、「吸入面S1」は「入口領域A1」に、「吐出面S2」は「出口領域A2」に、「回転軸5の軸線」は「回転軸線RA」に、それぞれ相当する。
また、「面積比率S2/S1が100%」であることは「比率A2/A1が>60%」であることに包含される。
よって、両者は、
「コンプレッサのコンプレッサホイールであって、
ハブを有し、
前記ハブに配置されかつ各々の場合にブレード前縁とブレード後縁とを有する多数のブレードを有し、
前記ブレード前縁が、前記コンプレッサホイールが回転するときに前記ブレード前縁によって掃引される領域である入口領域A1を画定し、
前記ブレード後縁が、前記コンプレッサホイールが回転するときに前記ブレード後縁によって掃引される領域である出口領域A2を画定し、
前記ブレード前縁によって、前記入口領域A1は回転軸線RAに対して直角に形成され、
比率A2/A1が>60%である、コンプレッサホイール」である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点1]
本願発明は「排気ガスターボチャージャ」のコンプレッサのコンプレッサホイールであって、多数の「凹設されていない」ブレードを有するものであるのに対して、引用発明は「排気ガスターボチャージャ」のコンプレッサのコンプレッサホイールであるのか、また、多数の「凹設されていない」ブレードを有するのかが不明な点。

[相違点2]
本願発明は「前記ブレード後縁(3B)によって、前記出口領域(A2)は前記回転軸線RAに対して標準化されたブレード高さの円筒面に形成され」ているのに対して、引用発明はかかる事項を備えていない点。

上記相違点1について検討する。
本願発明の「凹設されていない」ブレードについて、本願明細書の段落【0012】及び【0013】の記載並びに図2の図示内容を参酌すると、「凹設されていない」ブレードとは、前縁3A及び後縁3Bを有するブレードと解される。その理解を踏まえると、引用発明の全ての羽根3は本願発明の「凹設されていない」ブレードに相当するといえる。
したがって、引用発明も、多数の「凹設されていない」ブレードを有するといえるので、この点は実質的な相違点ではない。
そして、引用文献1の段落【0009】には「また、図33に示すような、自動車のターボ加速器やジェットエンジンに使用されるタイプのインペラ121においては、・・・」と記載されていることから、引用発明は、自動車のターボ加速器(の圧縮機の遠心式羽根車)も対象としていると理解できる。ここで、「自動車のターボ加速器」が「排気ガスターボチャージャー」であることは、技術常識から明らかである。
そうしてみると、引用発明において、圧縮機の遠心式羽根車を「排気ガスターボチャージャ」のコンプレッサのコンプレッサホイールとして具体化し、上記相違点1に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。

〔相違点1(凹設されていないブレード)についての予備的な検討〕
本願明細書の段落【0012】には「凹設されていないブレード3の間には、「スプリッターブレード」とも称される凹設されたブレード4が配置される。」との記載があるので、仮に、本願発明の「凹設されていないブレード(3)を有し」を「凹設されていないブレード(3)及び凹設されていないブレード(3)の間に凹設されたブレード(4)を有し」という意味を含んでいるものとして予備的な検討を行う。
引用文献2記載事項は「インペラブレード22の間に、該インペラブレード22よりも短い補助ブレード24を有している排ガスターボチャージャの遠心圧縮機の圧縮機インペラ20」というものである。
引用文献3記載事項は「ブレード35の間に、該ブレード35よりも短いブレードを有しているターボ過給機の圧縮機のインペラ」というものである。
引用文献4記載事項1は「羽根18の間に、該羽根18よりも短い羽根を有している排気タービン過給装置の遠心圧縮機の羽根車12」というものである。
ここで、本願明細書に記載の「凹設されていないブレード(3)」と「凹設されたブレード(4)」の関係(図2を参照)に着目すれば、引用文献2記載事項の「インペラブレード22」及び「補助ブレード24」は、それぞれ、本願発明における「凹設されていないブレード」及び「凹設されたブレード」に相当する。
そして、引用文献2記載事項における「排ガスターボチャージャの遠心圧縮機の圧縮機インペラ20」は、本願発明における「排気ガスターボチャージャのコンプレッサのコンプレッサホイール」に相当する。
そうすると、引用文献2記載事項は、本願発明の用語を用いると、「凹設されていないブレードの間に凹設されたブレードを有する、排気ガスターボチャージャのコンプレッサのコンプレッサホイール」といえる。
引用文献3記載事項及び引用文献4記載事項1についても、引用文献2記載事項と同様に「凹設されていないブレードの間に凹設されたブレードを有する、排気ガスターボチャージャのコンプレッサのコンプレッサホイール」といえる。
よって、これらの記載事項に鑑みれば、「凹設されていないブレードの間に凹設されたブレードを有する排気ガスターボチャージャのコンプレッサのコンプレッサホイール」は、本願の優先日前に周知であったということができる(以下、「周知事項1」という。)
そうしてみると、引用発明において、周知事項1を参酌し「凹設されていないブレードの間に凹設されたブレードを有する」排気ガスターボチャージャのコンプレッサのコンプレッサホイールとして具体化し、上記相違点1に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。

上記相違点2について検討する。
引用文献4記載事項2は「羽根18の出口(ディフューザ15)側の縁を軸13を含む面に投影した線が、軸13の軸線と平行である排気タービン過給装置の遠心圧縮機の羽根車12」というものである。
引用文献5記載事項は「インペラ1の後縁13を回転軸3の軸線を含む面に投影した線が、回転軸3の軸線と平行である自動車用過給機の遠心圧縮機のインペラ1」というものである。
引用文献6記載事項は「コンプレッサ翼23の流体出口C側の縁を駆動シャフト31の軸線Oを含む面に投影した線が、駆動シャフト31の軸線Oと平行である過給機のコンプレッサインペラ21」というものである。
ここで、引用文献4記載事項2について検討すると、羽根車12を軸13の軸線回りに回転させたときに、羽根18の出口(ディフューザ15)側の縁が、その縁を軸13を含む面に投影した線が軸13の軸線と平行であるから、当該縁の高さ(引用文献4の図2における左右方向の寸法)の円筒面を形成することは、当業者にとって自明の事項である。
そして、引用文献4記載事項2の「羽根18の出口(ディフューザ15)側の縁」は、本願発明における「ブレード後縁(3B)」に相当し、以下同様に、「軸13の軸線」は「回転軸線RA」に、「排気タービン過給装置の遠心圧縮機の羽根車12」は「排気ガスターボチャージャ(6)のコンプレッサ(6A)のコンプレッサホイール(1)」に、それぞれ相当する。また、引用文献4記載事項2において、「羽根車12を軸13の軸線回りに回転させたときに、羽根18の出口(ディフューザ15)側の縁が形成する円筒面」は、本願発明における「出口領域」に相当するといえる。
そうすると、引用文献4記載事項2は、本願発明の用語を用いると「ブレード後縁によって出口領域は回転軸線に対してブレード高さの円筒面に形成される排気ガスターボチャージャのコンプレッサのコンプレッサホイール」といえる。
引用文献5記載事項及び引用文献6記載事項についても、引用文献4記載事項2と同様に「ブレード後縁によって出口領域は回転軸線に対してブレード高さの円筒面に形成される排気ガスターボチャージャのコンプレッサのコンプレッサホイール」といえる。
よって、これらの記載事項に鑑みれば、「ブレード後縁によって(掃引される領域である)出口領域は回転軸線に対してブレード高さの円筒面に形成される排気ガスターボチャージャのコンプレッサのコンプレッサホイール」は、本願の優先日前に周知であると認められる(以下、「周知事項2」という。)。
ところで、「標準化された」の意味は、請求人によれば「『標準化された』という用語はブレード後縁3Bが投影されることを指し、これによって、『標準化された』ブレード高さを構成する、円筒状の領域A_(2)が画定されます。A_(2)は、ブレード後縁3Bの円筒面に対する配向または角度から独立しているため、『標準化された』と呼ばれています。」とのことである(平成31年1月11日から同年1月16日にかけての応対記録を参照。)。
この理解に基いて周知事項2を検討すると、ブレード後縁によって(掃引される領域である)出口領域は、ブレード後縁が(回転軸線を含む面に)投影されたブレード高さの円筒面に形成されるのであるから、周知事項2は「ブレード後縁によって(掃引される領域である)出口領域は回転軸線に対して標準化されたブレード高さの円筒面に形成される排気ガスターボチャージャのコンプレッサのコンプレッサホイール」といえる。
そうしてみると、引用発明において、周知事項2を参酌し、「ブレード後縁によって、出口領域は回転軸線に対して標準化されたブレード高さの円筒面に形成される」排気ガスターボチャージャのコンプレッサのコンプレッサホイールとして具体化し、上記相違点2に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。

そして、本願発明は、全体としてみても、引用発明及び周知事項2、又は引用発明、周知事項1及び周知事項2から予測し得ない格別な効果を奏するものではない。

したがって、本願発明は、引用発明及び周知事項2、又は引用発明、周知事項1及び周知事項2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知事項2、又は引用発明、周知事項1及び周知事項2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-01-25 
結審通知日 2019-01-29 
審決日 2019-02-12 
出願番号 特願2015-526573(P2015-526573)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (F02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 川口 真一  
特許庁審判長 冨岡 和人
特許庁審判官 金澤 俊郎
鈴木 充
発明の名称 排気ガスターボチャージャのコンプレッサのコンプレッサホイール  
代理人 大賀 眞司  
代理人 百本 宏之  

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