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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 H04L
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H04L
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H04L
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 取り消して特許、登録 H04L
管理番号 1352947
審判番号 不服2018-3989  
総通号数 236 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-08-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-03-22 
確定日 2019-07-17 
事件の表示 特願2014-244837「データ利用制御システム及び方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 6月20日出願公開,特開2016-111420,請求項の数(2)〕について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 
理由 第1.手続の経緯
本願は,平成26年12月3日の出願であって,
平成29年1月5日付けで審査請求がなされ,平成29年10月18日付けで審査官により拒絶理由が通知され,これに対して平成29年12月20日付けで意見書が提出されると共に手続補正がなされたが,平成29年12月27日付けで審査官により拒絶査定がなされ,これに対して平成30年3月22日付けで審判請求がなされると共に手続補正がなされ,平成30年6月28日付けで審査官により特許法第164条第3項の規定に基づく報告がなされ,平成30年8月30日付けで上申書が提出され,平成31年4月17日付けで当審により拒絶理由が通知され,これに対して平成31年4月25日付けで意見書が提出されると共に手続補正がなされたものである。

第2.本願発明について
本願の請求項1及び本願の請求項2に係る発明(以下,これを「本願発明1及び本願発明2」という)は,平成31年4月25日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1及び請求項2に記載された次の事項により特定されるものである。

「 【請求項1】
関数型暗号方式を用いたデータ利用制御システムにおいて,
上記関数型暗号方式に基づくデータの復号をするデータ復号部と,
上記関数型暗号方式により暗号化されたデータを復号するための復号条件が格納されるデータ制御部と,属性情報を取得する環境属性収集部と,上記属性情報がデータ制御部に格納された上記復号条件を満たすかどうかを定期的に判定する条件判定部と,を含み,
当該復号条件を満たさないと判定された場合には,上記データ制御部は,当該復号条件に対応する復号化済みのデータを削除する,
データ利用制御システム。
【請求項2】
関数型暗号方式を用いたデータ利用制御方法において,
データ復号部が,上記関数型暗号方式に基づくデータの復号をするデータ復号ステップと,
環境属性収集部が,属性情報を収集する環境属性収集ステップと,
条件判定部が,上記属性情報がデータ制御部から読み込んだ上記関数型暗号方式により暗号化されたデータを復号するための復号条件を満たすかどうかを定期的に判定する条件判定ステップと,を含み,
当該復号条件を満たさないと判定された場合には,上記データ制御部は,当該復号条件に対応する復号化済みのデータを削除する,
データ利用制御方法。」

第3.引用文献に記載の事項及び引用文献に記載の発明
1.引用文献に記載の事項
(1)原審における平成29年10月18日付け拒絶理由(以下,これを「原審拒絶理由」という)に引用された,「青柳真紀子ほか,関数型暗号を適用したスマートデバイス機能制御機構の実装,マルチメディア,分散,協調とモバイル(DICOMO2014)シンポジウム論文集,日本,一般社団法人情報処理学会,2014年7月2日,p.758-764,情報処理学会シンポジウムシリーズ,Vol.2014,No.1」(以下,これを「引用文献1」という)には,関連する図面と共に,次の事項が記載されている。

A.「環境情報管理機能は,先の例に示したSSIDなどの利用環境にあたる情報を監視し,最新状態に保つ.環境情報としてはSSIDのようにOSから取得できる情報に加え,外部アプリや外部サーバと連携して情報を取得することも可能である.」(762頁左欄26行?30行)

B.「暗号化データ復号可否判定機能は,暗号化データの復号を行う前に,事前に取得した暗号化ファイルの復号条件と環境情報管理機能が保持する現在の利用環境を照合し,復号可能か否かを判定する機能である.機能制御アプリが新たな機能制御ファイルを取得した場合や,環境情報管理機能が監視している環境情報を更新した場合に当該機能制御ファイルの復号可否判定を行う.暗号化データ復号機能は,暗号化されたデータを関数型暗号を用いて復号する機能である.」(762頁左欄34行?37行)

C.「暗号化データ復号機能は,暗号化されたデータを関数型暗号を用いて復号する機能である.」(762頁左欄41行?42行)

D.「・機能制御ファイルやコンテンツファイルを暗号化して保護し,利用可能な状況でのみ端末側で復号し利用できること」(762頁右欄16行?18行)

(2)原審拒絶理由に引用された,特開2010-039568号公報(平成22年2月18日公開,以下,これを「引用文献2」という)には,関連する図面と共に,次の事項が記載されている。

E.「【0011】
なお,権利情報確認部11は,以下のルールに基づいて,コンテンツ鍵22の削除を行う。
1.レンタルコンテンツ等で期限や回数などの条件で再生できない場合は,コンテンツ鍵22を自動的に削除する。
2.上記1に加えてコンテンツ21も削除する。
3.コンテンツ鍵22が複数ある場合は2が適用されず,鍵が最後の1つになった場合は適用される。」

(3)原審拒絶理由に引用された,特開2013-074302号公報(平成25年4月22日公開,以下,これを「引用文献3」という)には,関連する図面と共に,次の事項が記載されている。

F.「【0050】
制御情報取得部126から制御情報適用部127に制御情報が送られた場合,制御情報適用部127は送られた制御情報を用い,端末装置12にインストールされた特定のアプリケーションの実行を実行部128に許可するか否かを決定する。例えば,制御情報適用部127は,端末装置12にインストールされているアプリケーションのうち,制御情報やデフォルト制御情報で「ON」と指定されているものの実行部128による実行を許可し,「OFF」と指定されているものの実行部128による実行を拒否する。」

(4)本願の出願前に既に公知である,特開2010-205185号公報(平成22年9月16日公開,以下,これを「周知文献」という)には,関連する図面と共に,次の事項が記載されている。

G.「【0087】
次いで,このように実行規制されたクーポンデータの利用について説明する。図8に示すように,実行規制が開始されると,現在時間及びユーザーの在圏位置を監視すべく,定期的に位置情報及び時間情報を取得し,利用条件との照合を行い,利用条件(実行条件)が満たされたか否かを判断する。詳述すると,ユーザーが店舗A又はBの敷地(エリアA2又はA3)内に進入すると(S301),その時点の位置情報及び時間情報が取得され,利用条件を参照して,利用条件が満たされているか否かを照合する(S302?S304)。具体的には,店舗内に設置された無線基地局4との通信リンクが形成されるか,或いは,位置情報取得機能23により自機の座標位置が店舗内に移動するかを監視し,実行条件と照合する。ここでは,店舗A内に在圏する限り,実行条件は満たされていることとなる。
【0088】
ステップS304で,例えば,ユーザーが店舗Aから退出するなどして,実行条件が満たされていないと判断された場合(ステップS304における“N”),クーポンの表示はされず,実行規制が継続される(S308)。一方,ステップS304において,利用条件が満たされていると判断した場合には(ステップS304における“Y”),実行条件判定部25aにおいて,実行規制が解除され(S305),クーポンデータの利用が可能となる(S306)。具体的には,チケット表示ソフトがクーポンデータの読み出し,及び復号が可能となり,「激安デー」用のクーポンチケットがユーザー端末2のディスプレイに表示可能となる。ユーザーは,ユーザー端末2に表示されたクーポンチケットを店員に提示することにより,激安デーの割引きサービスを受けることができる。」

2.引用文献1に記載の発明
上記A?上記Dに引用した,引用文献1の記載内容から,引用文献1には,次の発明(以下,これを「引用発明」という)が記載されているものと認める。

「関数型暗号を用いて暗号化されたデータを復号するシステムであって,
SSIDなどの利用環境に当たる情報を監視し,最新状態にたもつ,環境情報管理機能と,
前記暗号化されたデータの復号を行う前に,事前に取得した暗号化ファイルの復号条件と,前記環境情報管理機能が保持する現在の利用環境を照合し,復号可能か否か判定する,暗号化データ復号可否判定機能と,
前記暗号化されたデータを関数型暗号を用いて復号する,暗号化データ復号機能を有する,システム。」

第4.本願発明と引用発明との対比及び相違点についての判断
1.本願発明1と引用発明との対比
(1)引用発明における「暗号化されたデータを関数型暗号を用いて復号する,暗号化データ復号機能」が,
本願発明1における「関数型暗号方式に基づくデータの復号をするデータ復号部」に相当する。

(2)引用発明における「環境情報管理機能」が,
本願発明1における「環境属性収集部」に相当する。

(3)引用発明における「事前に所得した暗号化ファイルの復号条件」が,
本願発明1における「関数型暗号方式により暗号化されたデータを復号するための復号条件」に相当し,
引用発明においても,「暗号化ファイルの復号条件」を格納する格納部を有することは明らかであるから,
引用発明における「事前に所得した暗号化ファイルの復号条件」と,
本願発明1における「関数型暗号方式により暗号化されたデータを復号するための復号条件が格納されるデータ制御部」とは,
“関数型暗号方式により暗号化されたデータを復号するための復号条件が格納される格納部”である点で共通する。

(4)引用発明における「暗号化されたデータの復号を行う前に,事前に取得した暗号化ファイルの復号条件と,前記環境情報管理機能が保持する現在の利用環境を照合し,復号可能か否か判定する,暗号化データ復号可否判定機能」と,
本願発明1における「属性情報データがデータ制御部に格納された復号条件を満たすかどうかを定期的に判定する条件判定部」とは,
“属性情報がデータ制御部に格納された復号条件を満たすかどうかを判定する,判定部”である点で共通する。

(5)そして,引用発明も,関数型暗号を用いて暗号化されたデータを利用するためのシステムであるから,
引用発明における「関数型暗号を用いて暗号化されたデータを復号するシステム」が,
本願発明1における「関数型暗号方式を用いたデータ利用制御システム」に相当する。

(6)以上,上記(1)?上記(5)において検討した事項から,本願発明1と,引用発明との一致点,及び,相違点は,次のとおりである。

[一致点]
関数型暗号方式を用いたデータ利用制御システムにおいて,
前記関数型暗号方式に基づくデータの復号をするデータ復号部と,
前記関数型暗号方式により暗号化されたデータを復号するための復号条件が格納される格納部と,
属性情報がデータ制御部に格納された復号条件を満たすかどうかを判定する,判定部とを含む,システム。

[相違点1]
“格納部”に関して,
本願発明1においては,「データ制御部」であるのに対して,
引用発明においては,「データ制御部」に関して,特に,言及されていない点。

[相違点2]
“判定部”に関して,
本願発明1においては,「属性情報がデータ制御部に格納された上記復号条件を満たすかどうかを定期的に判定する条件判定部」であるのに対して,
引用発明においては,「定期的に判断する」ことについては,特に,言及されていない点。

[相違点3]
本願発明1においては,「復号条件を満たさないと判定された場合には,上記データ制御部は,当該復号条件に対応する復号化済みのデータを削除する」ものであるのに対して,
引用発明においては,「復号条件に対応する復号化済みのデータを削除する」ことについての言及がない点。

2.相違点についての当審の判断
事案に鑑み,[相違点3]について先に検討すると,引用文献2,引用文献3,及び,周知文献のいずれにも,“復号条件を満たさないと判定された場合には,当該復号条件に対応する復号化済みのデータを削除する”点についての記載はなく,また,それを示唆する記載もない。
したがって,他の相違点について判断するまでもなく,本願発明1は,当業者であっても引用発明,引用文献2,引用文献3,及び,周知文献に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

3.本願発明2について
本願発明2は,システムの発明である本願発明1を,方法の発明としたものであるから,本願発明1と同じく,当業者であっても引用発明,引用文献2,引用文献3,及び,周知文献に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

第5.原審拒絶査定の概要及び原審拒絶査定についての判断
原審における平成29年12月27日付けの拒絶査定(以下,これを「原審拒絶査定」という)の概要は,
この出願は,発明の詳細な説明の記載に不備があるので,特許法36条4項1号に規定する要件を満たしておらず(以下,これを「理由1」という),
本願の請求項1?請求項4に係る発明は,明確でないので,特許法36条6項2号に規定する要件を満たしておらず(以下,これを「理由2」という),
本願の請求項1,及び,本願の請求項4に係る発明は,引用文献1に記載の発明であるから,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができず(以下,これを「理由3」という),
本願の請求項2,及び,本願の請求項3に係る発明は,引用文献1?引用文献3に記載された発明に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない(以下,これを「理由4」という)。
というものであるが,
理由1,及び,理由2については,平成31年4月25日付けの手続補正(以下,これを「本件手続補正」という)により解消した。
理由3,及び,理由4については,上記「第4.本願発明と引用発明との対比及び相違点についての判断」において検討したとおりであるから,理由3,及び,理由4に関する原審拒絶査定を維持することはできない。

第6.当審拒絶理由について
当審における平成31年4月17日付けの拒絶理由(以下,これを「当審拒絶理由」という)は,
この出願は,発明の詳細な説明の記載に不備があるので,特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない。
本願の請求項1,及び,本願の請求項2に係る発明は,明確でないので,特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない。
というものであるが,本件手続補正により,これらの拒絶理由は解消した。

第7.むすび
以上のとおり,原査定の理由によって,本願を拒絶することはできない。
他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-07-03 
出願番号 特願2014-244837(P2014-244837)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (H04L)
P 1 8・ 536- WY (H04L)
P 1 8・ 113- WY (H04L)
P 1 8・ 121- WY (H04L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 行田 悦資  
特許庁審判長 辻本 泰隆
特許庁審判官 山崎 慎一
石井 茂和
発明の名称 データ利用制御システム及び方法  
代理人 永田 健悟  
代理人 豊田 義元  

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