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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01M
管理番号 1352976
審判番号 不服2018-5031  
総通号数 236 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-08-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-04-12 
確定日 2019-07-23 
事件の表示 特願2013-266159「非水電解質二次電池の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 7月 2日出願公開、特開2015-122236、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成25年12月24日を出願日とする出願であって、平成29年7月24日付けで拒絶理由が通知され、これに対し、同年9月11日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がなされ、同年10月24日付けで拒絶理由(最後)が通知され、これに対し、同年12月26日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がなされたものの、平成30年1月17日付けで平成29年12月26日付けの手続補正が却下されるとともに、拒絶査定がなされた。
本件は、この拒絶査定を不服として、平成30年4月12日に請求された拒絶査定不服審判であって、その審判の請求と同時に手続補正(以下、「本件手続補正」という。)がなされたものである。

2 本願発明
本願の請求項1?4に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」?「本願発明4」という。)は、平成30年4月12日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

「【請求項1】
少なくとも負極形成に用いる負極スラリーに、SEI形成用添加剤を含み、
前記SEI形成用添加剤が、環状ジスルホン酸エステルであり、
前記SEI形成用添加剤が、負極スラリーの固形分(負極活物質層の構成成分)の総量に対して、0.5?2.0質量%の範囲であることを特徴とする非水電解質二次電池の製造方法。
【請求項2】
電解液及び正極形成に用いる正極スラリーが、いずれもSEI形成用添加剤を含まないことを特徴とする請求項1に記載の非水電解質二次電池の製造方法。
【請求項3】
前記SEI形成用添加剤が、リチウム金属に対して0.2Vより高い電位で還元分解される化合物を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の非水電解質二次電池の製造方法。
【請求項4】
請求項1?3に記載の製造方法であって、
正極活物質を含む正極スラリーを用いた正極形成工程と、
負極活物質を含む負極スラリーを用いた負極形成工程と、
前記正極形成工程と前記負極形成工程で得られた正極と負極と、セパレータとを積層して積層体を形成する工程と、
前記積層体に電解液を注液する工程と、を含み、
前記負極スラリーに、SEI形成用添加剤を含むことを特徴とする非水電解質二次電池の製造方法。」

3 原査定の概要について
原査定は、請求項1?5(本件手続補正後の請求項1?4に対応。)に係る発明について、次の引用文献1?4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、本願は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。

<引用文献>
1 特開2010-199043号公報
2 特開2004-281368号公報
3 国際公開第2011/115247号
4 特開2008-192488号公報

4 引用文献の記載事項及び引用発明並びに周知技術
(1)引用文献1の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(特開2010-199043号公報)には、次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付した。以下、同じ。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池用負極電極の製造方法及び非水電解質二次電池の改良に関するものである。」
「【0004】
しかしながら、このようなリチウム二次電池における充放電の際に電解液が置かれる環境は、負極表面付近においては還元作用が非常に強い環境に、正極表面付近において酸化作用が非常に強い環境となるため、これら電極表面における電解液の還元反応や酸化反応はさけられず、電解液が電極を構成する活物質との間で副反応を起こして分解劣化するために、電池容量低下が促進されるという問題があった。特にこの現象は高温下において顕著であった。
【0005】
従来、このような電極と電解液との副反応を防ぐために、予め電極と電解液との間で積極的に副反応を進行させ、電極活物質表面に副反応物からなる固体電解質界面膜(SEI膜)を形成するエージングといわれる方法等が提案されている。しかしながら、このようなエージング法においては、電極容量を低下させない均一なSEI膜を得ることは難しく、また充放電を繰り返すことによって、このSEI膜上に新たな副産物によるSEI膜が成長するためにその効果は十分なものではなかった。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1の電極の製造方法では、コーティング層を形成する架橋高分子のモノマーを溶解した溶液を調製し、電極の表面で架橋高分子を重合する必要があるため、電池の製造工程が煩雑になるといった問題があった。また、上記他の方法においては、SEI膜を形成する添加剤を含有する非水電解液が高価であり、生産コストが増大してしまうという問題があった。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、内部抵抗が低く、サイクル寿命に優れた二次電池用負極電極を安価に製造することを目的とする。」
「【0017】
・・・(略)・・・本発明を適用した一実施形態であるリチウム二次電池・・・(略)・・・は、いわゆる角型と呼ばれるもので、複数の正極電極(正極)2…と、複数の負極電極(負極)3…と、正極電極2と負極電極3との間にそれぞれ配置されたセパレータ4…と、非水電解液(非水電解質)とを主体として構成されてなるものである。」
「【0020】
・・・(略)・・・負極電極3は、Cu箔等からなる負極集電体3aと、この負極集電体3a上に成膜された負極電極膜3bとから構成されている。・・・(略)・・・負極電極膜3bは、例えば、リチウムを電気化学的に脱挿入する黒鉛等の負極活物質粉末と、ポリフッ化ビニリデン等の結着剤と、負極電極膜3b(負極)の表面にSEI膜を形成する添加剤と、が混合されて形成されている。また、上記添加剤の一部又は全部が反応して、負極活物質の表面にSEI膜が形成されている。尚、負極電極膜3bにカーボンブラック等の導電助材粉末が添加される場合もある。」
「【0023】
負極電極3の添加剤としては、負極電極3bの表面にSEI膜を形成するものであれば特に限定されるものではない。SEI層の形成に使用する添加剤としては、ビニレンカーボネート、トリフルオロプロピレンカーボネート、カテコールカーボネート等のカーボネート類;1,6-ジオキサスピロ[4,4]ノナン-2,7-ジオン等の環状又は鎖状エステル類;12-クラウン-4-エーテル等の環状エーテル;無水グルタル酸、無水コハク酸等の酸無水物;シクロペンタノン、シクロヘキサノン等の環状ケトン;1,3-プロパンスルトン(融点31℃、沸点156℃,14mmHg)、1,4-ブタンスルトン等のスルトン類やチオカーボネート類を含む含硫黄化合物;イミド類を含む含窒素化合物を挙げることができる。より具体的には、例えば、ビニレンカーボネート(VC)、4-メチルビニレンカーボネート、4,5-ジメチルビニレンカーボネート、4-エチルビニレンカーボネート、4,5-ジエチルビニレンカーボネート、4-プロピルビニレンカーボネート、4,5-ジプロピルビニレンカーボネート、4-フェニルビニレンカーボネート、4,5-ジフェニルビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート(VEC;vinyl ethylene carbonate)およびジビニルエチレンカーボネート、下記(1)式に示すリン酸トリス(トリメチルシラン)(略称TMSP,沸点236℃)、ジフェニルカーボネート、ビス(ペンタフルオロフェニル)カーボネートやブタン-1,4-カーボネートジオール、ペンタン-1,5-カーボネートジオール、ヘキサン-1,6-カーボネートジオール等のカーボネートジオール類、ジブチルカーボネート(C_(4)H_(9)OCOOC_(4)H_(9),沸点207℃、96kPa)等のジアルキルカーボネート類等、炭酸4-カルボキシフェニルn-ブチル、アミル4-(4-エトキシフェノキシカルボニル)フェニルカルボナート、エチル4-(4'-エトキシフェノキシカルボニル)フェニルカルボナート等の炭酸エステル類が挙げられる。
【0024】
【化1】


「【0036】
・・・(略)・・・添加剤の添加量は、負極活物質に対して添加剤の割合を0.5?20質量%の範囲が好ましく、1?10質量%の範囲がより好ましい。負極活物質に対する添加剤の添加量が0.5質量%未満であるとSEI層の形成が不十分となり、サイクル寿命対して効果が少なくなるために好ましくない。また、添加剤の添加量が20質量%を越えるとSEI層が厚くなり、電池内部抵抗が大きくなることから入出力特性が悪くなるために好ましくない。」
「【実施例】
【0047】
以下に、実施例を用いて本発明の効果を具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0048】
(負極電極の作成)
まず、負極活物質として天然黒鉛の粉末500gを、予め添加剤であるリン酸トリス(トリメチルシラン)15gと結着剤であるポリフッ化ビニリデン25g(水溶媒に分散されたディスパージョンを使用)及び分散剤であるCMC(カルボキシメチルセルロース)が混合された水分散剤に添加して十分撹拌分散させることでスラリーを形成した。なお、負極活物質に対する添加剤の割合は、3質量%とした。次に、このスラリーを負極集電体であるCu箔にドクターブレード法により塗布した後、80℃で10分間加熱して、更に120℃で20分間乾燥した。最後に、プレスにより圧縮して、負極電極を製造した。
【0049】
(リチウム二次電池の作成)
正極活物質としてニッケルマンガン酸リチウムを用いて、正極電極を製造した。また、セパレータには、多孔質フィルムを用いた。上述の負極電極、正極電極、セパレータを用いてコイン型セルを作成した。なお、電解液には、エチレンカーボネート(EC)-ジメチルカーボネート(DMC)-メチルエチルカーボネート(EMC)の混合有機溶媒と用い、支持塩として1モルのLiPF_(6)を用いた。その後、0.2Cの電流値で4.2Vまでで初期充放電を行ない、実施例のリチウム二次電池を作成した。」

(2)引用文献1に記載された発明
ア 上記(1)の【0001】より、上記(1)には、「非水電解質二次電池の製造方法」について記載されているといえる。
イ 上記(1)の【0048】には、「非水電解質二次電池の製造方法」について、負極活物質として天然黒鉛の粉末500gを、予め添加剤であるリン酸トリス(トリメチルシラン)15gと結着剤であるポリフッ化ビニリデン25g及び分散剤であるCMC(カルボキシメチルセルロース)が混合された水分散剤に添加して十分撹拌分散させることでスラリーを形成することが記載されている。
ウ 上記ア、イより、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「負極活物質として天然黒鉛の粉末500gを、予め添加剤であるリン酸トリス(トリメチルシラン)15gと結着剤であるポリフッ化ビニリデン25g及び分散剤であるCMC(カルボキシメチルセルロース)が混合された水分散剤に添加して十分撹拌分散させることでスラリーを形成する非水電解質二次電池の製造方法。」

(3)引用文献2の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2(特開2004-281368号公報)には、次の事項が記載されている。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
非プロトン性溶媒と、スルホニル基を少なくとも2個有する環式スルホン酸エステルと、を含むことを特徴とする二次電池用電解液。」
「【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池用電解液およびそれを用いた二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
負極に炭素材料、酸化物、リチウム合金またはリチウム金属を用いた非水電解液リチウムイオンまたはリチウム二次電池は、高いエネルギー密度を実現できることから携帯電話、ノートパソコン用などの電源として注目されている。
【0003】
この二次電池において、負極の表面には表面膜、保護膜、SEI(Solid Electrolyte Interface:固体電解質界面)または皮膜等と呼ばれる膜(以下、表面膜)が生成することが知られている。この表面膜は、充放電効率、サイクル寿命、安全性に大きな影響を及ぼすことから負極の高性能化には表面膜の制御が不可欠であることが知られている。炭素材料、酸化物材料についてはその不可逆容量の低減が必要であり、リチウム金属、合金負極においては充放電効率の低下とデンドライト(樹枝状結晶)生成による安全性の問題を解決する必要がある。」
「【0014】
負極表面に生成する表面膜は、その性質によって充放電効率、サイクル寿命、安全性に深く関わっているが、その膜の制御を長期にわたって行える手法はまだ存在していない。たとえば、リチウムやその合金からなる層の上にリチウムハロゲン化物またはガラス状酸化物からなる表面膜を形成した場合、初期使用時にはデンドライトの抑制効果が一定程度得られるものの、繰り返し使用していると、表面膜が劣化して保護膜としての機能が低下する。これは、リチウムやその合金からなる層は、リチウムを吸蔵・放出することにより体積変化する一方、その上部に位置するリチウムハロゲン化物等からなる被膜は体積変化がほとんどないため、これらの層およびこれらの界面に内部応力が発生することが原因と考えられる。このような内部応力が発生することにより、特にリチウムハロゲン化物等からなる表面膜の一部が破損し、デンドライトの抑制機能が低下するものと考えられる。
【0015】
また、黒鉛等の炭素材料に関しては、十分な皮膜効果が得られず、十分な皮膜効果が得られず、溶媒分子またはアニオンの分解による電荷が不可逆容量成分として現れ、初回充放電効率の低下を導く。また、このとき生じた膜の組成、結晶状態、安定性等がその後の効率、サイクル寿命、抵抗および抵抗上昇に大きな影響を及ぼす。さらに黒鉛や非晶質炭素負極に存在する微量の水分による電解液の溶媒の分解を促進していた。黒鉛や非晶質炭素負極を用いる場合には、水分子の除去も行う必要もある。
【0016】
このように負極表面に生成する皮膜は、その性質によって充放電効率、サイクル寿命、抵抗上昇、安全性等に深く関わっているが、その膜の制御を長期にわたって行える手法はまだ存在しておらず、負極に安定で十分な充放電効率を導く皮膜を形成させる電解液の開発が望まれていた。
【0017】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、二次電池の電解液の溶媒の分解を抑制する技術を提供することにある。また、本発明の別の目的は、二次電池のサイクル寿命を向上させる技術を提供することにある。また、本発明の別の目的は、二次電池の抵抗上昇の抑制や、容量維持率の向上等の保存特性を優れたものとする技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明によれば、非プロトン性溶媒と、少なくともスルホニル基を2個有する環式スルホン酸エステルと、を含むことを特徴とする二次電池用電解液が提供される。
【0019】
本発明の二次電池用電解液は、少なくともスルホニル基を2個有する環式スルホン酸エステルを含む。このような環式スルホン酸エステルは、電池の電極界面における不働態皮膜形成に寄与し、結果として溶媒分子の分解を抑制する。また、正極がマンガンを含む酸化物の場合、マンガンの溶出を抑え、また溶出したマンガンが負極に付着することを防ぐ。よって本発明に係る二次電池用電解液を二次電池に用いることにより、負極に皮膜を形成し、またマンガンなどの溶出に対する影響を緩和できるなどの効果より、二次電池のサイクル特性を向上することができる。また、二次電池の抵抗上昇を抑制できる。」

(4)引用文献3の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3(国際公開第2011/115247号)には、次の事項が記載されている。
「[0001]本発明は、高容量でサイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池に関する。」
「[0047]また、電解液には、負極表面に良質なSEI皮膜を形成させるために添加剤を加えても良い。SEI皮膜には、電解液との反応性を抑制したり、リチウムイオンの挿入脱離に伴う脱溶媒和反応を円滑にして活物質の構造劣化を防止したりする働きがある。このような添加剤としては、例えば、プロパンスルトン(PS)、ビニレンカーボネート(VC)、環状ジスルホン酸エステルなどが挙げられる。環状ジスルホン酸エステルは緻密で良質なSEI皮膜を形成することができるため、特に好ましい。ここで、環状ジスルホン酸エステルとは、下記式(1)で表される化合物のことである。添加剤の含有量は、例えば、電解液中0.1質量%以上10質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上3質量%以下であることがより好ましい。添加剤の含有量が0.5質量%以上の場合、良質な皮膜を形成し易くなる。添加剤の含有量が10質量%以下の場合、抵抗の増大を抑制し、また、多量のガス発生を抑制することができる。」

(5)引用文献4の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献4(特開2008-192488号公報)には、次の事項が記載されている。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池に関し、特に高容量で充放電サイクル寿命を改善した非水電解質二次電池に関する。」
「【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため本発明による非水電解質二次電池は、負極と正極とリチウムイオン導電性の非水電解質とを有する非水電解質二次電池において、前記負極は、単体ケイ素とケイ素酸化物の混合物の周辺をアモルファス系炭素及び黒鉛系炭素の混合組成からなる炭素で被覆した活物質粒子と、加熱により脱水縮合反応を生じる熱硬化性樹脂の混合物を含み、前記熱硬化性樹脂により前記活物質粒子間、及び前記活物質粒子と集電体とが結着され、前記非水電解質が非水溶媒とスルホン酸エステルとを含むことを特徴とする。また、前記非水溶媒が少なくとも鎖状カーボネート又は環状カーボネートを含有することが好ましく、前記スルホン酸エステルが環状スルホン酸エステル、環状ジスルホン酸エステル又は鎖状ジスルホン酸エステルの少なくとも一種で構成されることが好ましく、前記環状スルホン酸エステルが、1,3-プロパンスルトン又は1,4-ブタンスルトンの少なくとも一種で構成されることが好ましく、さらに、前記環状ジスルホン酸エステルが、メチレンメタンジスルホネート、エチレンメタンジスルホネート及びプロピレンメタンジスルホネートから選ばれる少なくとも一種で構成されることが好ましい。
【0012】
非水電解質にスルホン酸エステルを含有させることにより、初期充電時のガス発生を抑制し、初回充放電での充放電効率が高くかつ、良好なサイクル特性を持つ非水電解質二次電池を提供することができる。初期の充電により有機硫黄化合物が反応し、負極表面に一般的にSEI(Solid Electrolyte Interface)膜と呼ばれる皮膜が形成される。皮膜が形成されることにより、負極活物質と電子との受け渡しがスムーズになる。」

(6)周知技術
ア 上記(3)の【0019】の「電池の電極界面における不働態皮膜」は、上記(3)の【0019】の「負極」に形成される「皮膜」を意味していることは明らかであるから、上記(3)より、引用文献2には、「非水電解液リチウムイオン」「二次電池」(【0002】)において、「負極に皮膜を形成し、」「結果として溶媒分子の分解を抑制」し、「マンガンなどの溶出に対する影響を緩和」(【0019】)するために、「少なくともスルホニル基を2個有する環式スルホン酸エステルを含む」「二次電池用電解液」を採用することが記載されている。
そして、ここでいう「不働態皮膜」及び「皮膜」は、【0003】の記載及び技術常識からみて、「SEI」(【0003】)であるといえる。
イ 上記(4)より、引用文献3には、「リチウムイオン二次電池」([0001])において、「電解液」に、「負極表面に良質なSEI皮膜を形成させるため」の「添加剤」として、「環状ジスルホン酸エステル」「加え」([0047])ることが記載されている。
ウ 上記(5)より、引用文献4には、「負極と正極とリチウムイオン導電性の非水電解質とを有する非水電解質二次電池において、」(【0011】)「初期充電時のガス発生を抑制し、初回充放電での充放電効率が高くかつ、良好なサイクル特性を持つ非水電解質二次電池を提供する」ために、「非水電解質にスルホン酸エステルを含有させ」て、「負極表面に一般的にSEI(Solid Electrolyte Interface)膜と呼ばれる皮膜」を「形成」(【0012】)することが記載されている。
エ 上記ア?ウより、リチウムイオン二次電池において、SEI膜を形成するための電解液への添加剤として、環式スルホン酸エステルを用いることは、本願の出願前に周知技術であったといえる。

5 対比・判断
(1)本願発明1について
本願発明1と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「スラリー」は、「負極活物質」を含むものであるから、本願発明1の「負極スラリー」に相当する。
イ 引用発明の「添加剤であるリン酸トリス(トリメチルシラン)」は、前記4の(1)の【0023】に、「負極電極3の添加剤としては、負極電極3bの表面にSEI膜を形成するものであれば特に限定されるものではない。SEI層の形成に使用する添加剤としては、」「例えば、」「リン酸トリス(トリメチルシラン)」「が挙げられる」と記載されていることから、本願発明1の「SEI形成用添加剤」に相当する。
ウ 引用発明の「負極活物質として天然黒鉛」「を、予め添加剤であるリン酸トリス(トリメチルシラン)」「と結着剤であるポリフッ化ビニリデン」「及び分散剤であるCMC(カルボキシメチルセルロース)が混合された水分散剤に添加して十分撹拌分散させることでスラリーを形成する」事項と、本願発明1の「少なくとも負極形成に用いる負極スラリーに、SEI形成用添加剤を含み、前記SEI形成用添加剤が、環状ジスルホン酸エステルであ」る事項とは、「少なくとも負極形成に用いる負極スラリーに、SEI形成用添加剤を含」む事項で一致する。
エ 引用発明は、「負極活物質として天然黒鉛の粉末500gを、予め添加剤であるリン酸トリス(トリメチルシラン)15gと結着剤であるポリフッ化ビニリデン25g及び分散剤であるCMC(カルボキシメチルセルロース)が混合された水分散剤に添加して十分撹拌分散させることでスラリーを形成する」ものであって、該スラリーにおける固形分は「天然黒鉛の粉末」、「リン酸トリス(トリメチルシラン)」及び「ポリフッ化ビニリデン」の合計である500g+15g+25g=540gとなるから、「添加剤であるリン酸トリス(トリメチルシラン)15g」の割合は、15g÷540g=約2.78%となる。
オ 上記ア?エより、本願発明1と引用発明1とは、
「少なくとも負極形成に用いる負極スラリーに、SEI形成用添加剤を含む非水電解質二次電池の製造方法。」である点で一致し、次のa及びbの点で相違する。

(相違点)
a 「SEI形成用添加剤」が、本願発明1は、「環状ジスルホン酸エステル」であるのに対し、引用発明は、「リン酸トリス(トリメチルシラン)」である点。
b 「SEI形成用添加剤が、負極スラリーの固形分(負極活物質層の構成成分)の総量に対して、」本願発明1は、「0.5?2.0質量%の範囲である」のに対し、引用発明は、約2.78%である点。

カ まず、事案に鑑み、上記bの相違点について検討する。
キ 前記4の(1)のとおり、引用文献1の【0036】には、「添加剤の添加量は、負極活物質に対して添加剤の割合を0.5?20質量%の範囲が好ましく、1?10質量%の範囲がより好ましい。負極活物質に対する添加剤の添加量が0.5質量%未満であるとSEI層の形成が不十分となり、サイクル寿命対して効果が少なくなるために好ましくない。また、添加剤の添加量が20質量%を越えるとSEI層が厚くなり、電池内部抵抗が大きくなることから入出力特性が悪くなるために好ましくない」と、負極活物質に対する添加剤の割合として0.5?20質量%の範囲が好ましいことが記載されているから、引用発明において、「添加剤であるリン酸トリス(トリメチルシラン)」の添加量を0.5?20質量%の範囲とすることが示唆されているといえる。
ク 一方、本願明細書の【0184】には、「SEI形成用添加剤は、負極スラリーの固形分(負極活物質層の構成成分)の総量に対して、0.5?2.0質量%の範囲であることが望ましい。かかる範囲内であれば、厚さ方向にかかわらず、電極内側の負極集電体近傍の負極活物質表面と、電極(負極活物質層)外側近傍の負極活物質表面とで、形成されるSEIの厚さ等が異なるという課題を生じさせることなく、高品質な(均一な厚さの)SEIを形成することができる」と、SEI形成用添加剤を、負極スラリーの固形分の総量に対して、0.5?2.0質量%の範囲とすることにより、高品質な(均一な厚さの)SEIを形成することができることが記載されている。
ケ そうすると、上記キのように、引用発明において、「添加剤であるリン酸トリス(トリメチルシラン)」の添加量を、本願発明1の範囲である「0.5?2.0質量%」を含む、0.5?20質量%の範囲とすることが示唆されているものの、引用文献1には、添加剤の添加量をより限定された範囲の「0.5?2.0質量%」に調節することによって、上記クの「高品質な(均一な厚さの)SEIを形成することができる」という異質な効果を奏することまでは、記載も示唆もされていないから、引用発明において、添加剤の添加量を「0.5?2.0質量%の範囲」とすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
コ そして、上記ケの検討事項は、前記4の(6)の周知技術を考慮したとしても変わらない。
サ したがって、引用発明において、上記bの相違点に係る本願発明1の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
シ よって、上記aの相違点について検討するまでもなく、本願発明1は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)本願発明2?4について
本願発明2?4は、本願発明1の発明特定事項を全て含むものであって、本願発明2?4と引用発明とは、少なくとも上記a及びbの相違点で相違するものであるから、上記(1)で検討した理由と同様の理由により、本願発明2?4は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

第5 むすび
以上のとおり、本願の請求項1?4に係る発明は、当業者が引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて、容易に発明をすることができたものではない。
したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-07-08 
出願番号 特願2013-266159(P2013-266159)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01M)
最終処分 成立  
前審関与審査官 小川 知宏  
特許庁審判長 池渕 立
特許庁審判官 土屋 知久
亀ヶ谷 明久
発明の名称 非水電解質二次電池の製造方法  
代理人 八田国際特許業務法人  

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