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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B29C
管理番号 1352998
審判番号 不服2018-11721  
総通号数 236 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-08-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-08-31 
確定日 2019-07-23 
事件の表示 特願2016- 77737「タンクの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年10月12日出願公開、特開2017-185742、請求項の数(6)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成28年4月8日の出願であって、平成30年3月16日付けで拒絶理由が通知され、同年5月22日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年同月31日付けで拒絶査定がされ、同年8月31日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。

第2 原査定の概要
原査定(平成30年5月31日付け拒絶査定)の概要は、次のとおりである。

(進歩性)この出願の請求項1ないし6に係る発明は、その出願前に日本国内において、頒布された下記の刊行物に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
<引用文献等一覧>
1.特開2012-149739号公報
2.特開平4-23772号公報
(以下、順に、「引用文献1」のようにいう。)

第3 本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1ないし6に係る発明(以下、順に「本願発明1」のようにいう。)は、平成30年5月22日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された次の事項により特定されるとおりのものであると認められる。

「【請求項1】
タンクの製造方法であって、
前記タンクの基材であるライナにフープ巻により繊維を巻き付けることにより、前記ライナの外周面に近い側から遠い側に向かって前記繊維からなる繊維層を順次積層する繊維巻き付け工程を備え、
前記繊維巻き付け工程は、
前記ライナの外周面に近い側から数えて第N+1(Nは1以上の整数)番目の前記繊維層である第N+1層を形成する際に、第N番目の前記繊維層である第N層において前記ライナの軸線方向に沿った端から前記軸線方向に沿って第1の所定距離だけ前記ライナの中心に向かった位置が、前記第N+1層における前記軸線方向に沿った端の位置に、前記軸線方向と垂直な方向において対応するように、前記第N+1層を形成し、
前記第N+1層に含まれることとなる1周回分の前記繊維を巻き付ける際に、該繊維によって前記第N層が前記軸線方向に沿って押出される押出力が、前記第N層において該繊維の巻き付け位置よりも前記軸線方向に沿って端側の領域の合計摩擦力以下となるように、該繊維を前記第N層上に巻き付ける、工程を含む、
タンクの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のタンクの製造方法において、
前記押出力が前記合計摩擦力以下となるように前記繊維を前記第N層上に巻き付ける工程は、前記第N+1層を形成することとなる繊維のうち、第1層の端から前記軸線方向に沿って第2の所定距離だけ前記ライナの中心に向かった位置までの各前記繊維層からなる領域である端部領域に含まれる前記繊維を対象に実行される、
タンクの製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載のタンクの製造方法において、
前記繊維巻き付け工程は、前記端部領域に含まれる前記第N+1層の前記繊維を、いずれも同じ力で前記第N層上に巻き付ける工程を含む、
タンクの製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載のタンクの製造方法において、
前記繊維巻き付け工程は、前記第N+1層を形成する前記繊維のうち、前記端部領域よりも前記軸線方向に沿って前記ライナの中心側の中心領域に含まれる前記繊維を、前記端部領域に含まれる前記繊維よりも大きな力で前記第N層上に巻き付ける工程を含む、
タンクの製造方法。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載のタンクの製造方法において、
前記繊維巻き付け工程は、前記第N+1層に含まれることとなる1周回分の前記繊維を巻き付ける際に、該繊維に対して前記軸線方向と垂直な方向において対応する前記第N層における前記繊維が巻き付けられた際の力よりも小さな力で、該繊維を前記第N層上に巻き付ける工程を含む、
タンクの製造方法。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載のタンクの製造方法において、
前記繊維巻き付け工程は、前記第N+1層に含まれることとなる1周回分の前記繊維を巻き付ける際の該繊維の巻き付け張力T(N+1)を、式(E)を満たす張力となるように調整する工程を含み、
前記式(E)は、
T(N+1)≦2×μ×T(N)×a/b ・・・(E)
であり、
前記式(E)において、μは摩擦係数を示し、T(N)は前記第N層に含まれることとなる1周回分の前記繊維を巻き付ける際の該繊維の巻き付け張力を示し、aは前記第1の所定距離を示し、bは前記繊維の直径を示す、
タンクの製造方法。」

第4 引用文献に記載された事項等
1 引用文献1に記載された事項及び引用発明
(1)引用文献1に記載された事項
原査定の拒絶の理由で引用され、本願の出願前に日本国内において、頒布された引用文献1には、「高圧タンクの製造方法、および、高圧タンク」に関して、おおむね次の記載(以下、「引用文献1に記載された事項」という。)がある。なお、下線は他の文献を含め当審で付したものである。

・「【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧タンクの製造方法、および、高圧タンクに関するものである。」

・「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記特許文献1に記載された技術では、フィラメントワインディング層の形成と、樹脂の硬化とを複数回に分けて行うため、高圧タンクの製造に要する工程数が多くなり、高圧タンクの高コスト化を招く。
【0007】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、ライナーの外表面に繊維強化プラスチック層を備える高圧タンクの製造工程において、比較的少ない工程数で、フィラメントワインディング法を用いて繊維強化プラスチック層を形成する際の繊維の巻き崩れを抑制することを目的とする。」

・「【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施の形態について、実施例に基づき説明する。
A.高圧タンクの構成:
図1は、本発明の一実施例としての高圧タンク10の概略構成を示す説明図である。図1(a)に、高圧タンク10の断面図を示した。また、図1(b)に、図1(a)の部分拡大図を示した。なお、図1(b)では、後述する繊維強化プラスチック層50の図示は省略している。
【0033】
図1(a)に示したように、高圧タンク10は、ライナー40と、ライナー40の表面を覆う繊維強化プラスチック層50と、2つの口金部14と、を備えている。口金部14は、開口部14aを有している。なお、本実施例では、高圧タンク10は、2つの口金部14を備えるものとしたが、1つの口金部14を備えるものとしてもよい。
【0034】
ライナー40は、高圧タンク10の内殻をなし、内容器とも言われる中空状の部材であり、流体を貯蔵する空間部25を内部に有する。ライナー40は、ガスバリア性を有し、水素ガス等の気体の外部への透過を抑制する。ライナー40は、ナイロン系樹脂、ポリエチレン系樹脂等の合成樹脂や、アルミニウム、ステンレス鋼等の金属を用いて作製される。本実施例では、ライナー40は、ナイロン系樹脂を用いて一体成形されるものとした。ライナー40は、複数の部材を接合して形成するものとしてもよい。

・「【0039】
B.高圧タンクの製造方法:
高圧タンク10の製造方法を説明する前に、繊維強化プラスチック層を形成する際に用いられる一般的な繊維の巻き付け方法について説明する。
【0040】
図2は、繊維強化プラスチック層を成形する際に用いられる繊維の種々の巻き付け方法を示す説明図である。本明細書では、フープ巻き、および、ヘリカル巻きについて説明する。なお、ヘリカル巻きについては、後述する低角度ヘリカル巻き、および、高角度ヘリカル巻きについて説明する。
【0041】
図2(a)は、フープ巻きを示す説明図である。フープ巻きによってライナー40に繊維51が巻き付けられていく様子を示した。「フープ巻き」とは、繊維51の巻き付け方向が、ライナー円筒部42の中心軸AXに対して略垂直になるように巻き付けるとともに、中心軸AX方向に巻き付け位置(リール15の位置)を移動させる方法である。すなわち、「フープ巻き」とは、中心軸AXと繊維51の巻き付け方向とがなす角度α(「巻き付け角度α」)が略垂直になるように巻き付ける方法である。なお、「フープ巻きによる繊維51の巻き付け角度が略垂直」とは、90度、および、繊維同士が重ならないように繊維の巻き付け位置をずらすことによって生じ得る90度前後の角度を含む。このフープ巻きによって形成される層を「フープ層」と呼ぶ。
【0042】
図2(b)は、低角度ヘリカル巻き示す説明図である。低角度ヘリカル巻きによってライナー40に繊維51が巻き付けられていく様子を示した。「低角度ヘリカル巻き」とは、ライナー円筒部42において繊維51が中心軸AXを一周する前に、ライナードーム部44において繊維51の巻き付け方向が折り返される比較的小さい巻き付け角度αを有する巻き付け方法である。この低角度ヘリカル巻きによって形成される層を「低角度ヘリカル層」と呼ぶ。
【0043】
図2(c)は、高角度ヘリカル巻きを示す説明図である。高角度ヘリカル巻きによってライナー40に繊維51が巻き付けられていく様子を示した。「高角度ヘリカル巻き」とは、ライナー円筒部42において繊維51が中心軸AXを少なくとも一周した後に、ライナードーム部44において繊維51の巻き付け方向が折り返される比較的大きな巻き付け角度αを有する巻き付け方法である。この高角度ヘリカル巻きによって形成される層を「高角度ヘリカル層」と呼ぶ。
【0044】
図3は、高圧タンク10の製造方法の一部を示す説明図である。図3では、高圧タンク10の部分的な断面図を示した。なお、ライナー円筒部42の中心軸AXの図示は省略しているが、図の左右方向がライナー円筒部42の中心軸AX方向である。
【0045】
まず、先に説明した形状を有するライナー40(図1参照)を用意して、図3(a)に示したように、ライナー円筒部42の外表面のみに、熱硬化性樹脂が含浸された繊維を複数層(本実施例では、5層)フープ巻きすることによって、第1のフープ層54aを形成する(第1フープ層形成工程)。このとき、第1のフープ層54aは、ライナー円筒部42とライナードーム部44との境界部40bに近いほど、第1のフープ層54aの厚さが薄くなるように形成する。本実施例では、第1のフープ層54aを1層形成するごとに、フープ巻きの折り返し位置、すなわち、第1のフープ層54aにおける各層の端部を、境界部40b側から中心軸AX方向(ライナー円筒部42の中央部方向)にずらすものとした。
【0046】
次に、第1のフープ層54aに含まれる熱硬化性樹脂を加熱硬化することなく、図3(b)に示したように、ライナードーム部44の外表面、および、第1のフープ層54aの外表面全体に、熱硬化性樹脂が含浸された繊維を低角度ヘリカル巻きすることによって、低角度ヘリカル層54bを形成する(ヘリカル層形成工程)。なお、本実施例では、低角度ヘリカル層54bの層数は、1層とした。
【0047】
次に、第1のフープ層54aに含まれる熱硬化性樹脂、および、低角度ヘリカル層54bに含まれる熱硬化性樹脂を加熱硬化することなく、図3(c)に示したように、第1のフープ層54a上における低角度ヘリカル層54bの外表面に、熱硬化性樹脂が含浸された繊維を複数層(本実施例では、6層)フープ巻きすることによって、第2のフープ層54cを形成する(第2フープ層形成工程)。このとき、第2のフープ層54cは、ライナー円筒部42とライナードーム部44との境界部40bに近いほど、第2のフープ層54cの厚さが薄くなるように形成する。本実施例では、第1のフープ層54aと同様に、第2のフープ層54cを1層形成するごとに、フープ巻きの折り返し位置、すなわち、第2のフープ層54cにおける各層の端部を、境界部40b側から中心軸AX方向(ライナー円筒部42の中央部方向)にずらすものとした。
【0048】
また、第1のフープ層54aの最外層の端部(折り返し位置)は、第2のフープ層54cの最内層の端部(折り返し位置)よりも境界部40b側に配置される。そして、ライナードーム部44上の低角度ヘリカル層54b、および、第2のフープ層54cの外表面が等張力曲面を成している。
【0049】
次に、図3(d)に示したように、第1のフープ層54aと、低角度ヘリカル層54bと、第2のフープ層54cとからなる内層54の外表面に、外層56を形成する(第2ヘリカル層形成工程を含む外層形成工程)。なお、図3(d)では、外層56の厚さは、図示の都合上、内層54の厚さとの対比において、薄く描かれている。本実施例における外層56の層構成については、後述する。
【0050】
そして、外層56の形成後、内層54、および、外層56に含まれる熱硬化性樹脂を加熱硬化する(加熱硬化工程)。以上の製造工程によって、高圧タンク10は完成する。」

・「【図1】

【図2】

【図3】



(2)引用発明
引用文献1の【0045】及び図3の記載によると、引用文献1に記載されたものにおいては、ライナー40の外周面に近い側から遠い側に向かって繊維51からなる繊維層が順次積層されているといえる。
したがって、引用文献1に記載された事項を整理すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。

「高圧タンク10の製造方法であって、
前記高圧タンク10の基材であるライナー40にフープ巻により繊維51を巻き付けることにより、前記ライナー40の外周面に近い側から遠い側に向かって前記繊維51からなる繊維層を順次積層する繊維巻き付け工程を備え、
前記繊維巻き付け工程は、
第1のフープ層54aを1層形成するごとに、フープ巻きの折り返し位置、すなわち、第1のフープ層54aにおける各層の端部を、境界部40b側から中心軸AX方向(ライナー円筒部42の中央部方向)にずらす工程を含む、
高圧タンク10の製造方法。」

2 引用文献2に記載された事項
原査定の拒絶の理由で引用され、本願の出願前に日本国内において、頒布された引用文献2には、「糸パッケージ形成時の糸張力の設定方法」に関して、おおむね次の記載(以下、「引用文献2に記載された事項」という。)がある。

・「2.特許請求の範囲
糸パッケージを形成する際の糸の巻張力をT_(0)から始めてT_(1)で終わるような巻張力でもって、糸パッケージを形成することを特徴とする糸張力の設定方法。
ただし、T_(0)=(0.07?0.45)g/d
T_(1)=T_(0)×(E_(θ)/E_(r))^(0.5)
Eθ:糸パッケージの円周方向ヤング率
Er:糸パッケージの半径方向ヤング率」(第1ページ左下欄第4ないし12行)

・「〔産業上の利用分野〕
本発明は糸パッケージ形成時の糸張力の設定方法に関する。」(第1ページ左下欄第14ないし16行)

・「〔発明が解決しようとする課題〕
そこで、本発明は巻糸体の特性として最も糸の特性を表すと考えられるヤング率から巻張力の最適な設定方法を考察し、該巻張力にて糸パッケージ形成を行うことにより、内外層での糸特性差や外観形状の不良といった問題を解消するものであり、今後の糸巻量の増大化や特殊繊維の巻取りに際して、内外層での糸特性差や機能破壊を防止することを可能とした糸パッケージ形成時の糸張力の設定方法の提供をその目的とするものである。」(第2ページ左上欄第5ないし14行)

・「第1表は各試料No.のナイロン糸(70デニール、13フィラメント)からなる糸条の糸パッケージを形成したときの条件とその糸パッケージの外観形状や内中外層での糸特性のバラツキを示したものである。
この第1表から明らかなように、本発明による糸張力にて形成した糸パッケージは外観形状が崩れるといったことがなく、また内外層での糸特性の差も従来の糸張力一定で形成した糸パッケージに比べてそのバラツキが小さいことが分かる。これらのことは、本発明によって糸巻量の増大化や特殊繊維などの巻取りに際し、外観形状や内外層での糸特性差のない良好な糸パッケージ形成が可能であることを示すものである。」(第4ページ左上欄第17行ないし右上欄第10行)

・「

」(第4ページ下欄ないし第5ページ上欄)

第5 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明を対比する。

ア 引用発明における「高圧タンク10」は本願発明1における「タンク」に相当し、以下、同様に、「ライナー40」は「ライナ」に、「繊維51」は「繊維」に、それぞれ相当する。

イ 引用発明における「第1のフープ層54aを1層形成するごとに、フープ巻きの折り返し位置、すなわち、第1のフープ層54aにおける各層の端部を、境界部40b側から中心軸AX方向(ライナー円筒部42の中央部方向)にずらす工程」は、2層目のフープ層の端部を一層目のフープ層の端部より、軸線方向に沿って第1の所定距離だけライナー円筒部42の中心に向かった位置にずらしているといえるから、本願発明1における「前記ライナの外周面に近い側から数えて第N+1(Nは1以上の整数)番目の前記繊維層である第N+1層を形成する際に、第N番目の前記繊維層である第N層において前記ライナの軸線方向に沿った端から前記軸線方向に沿って第1の所定距離だけ前記ライナの中心に向かった位置が、前記第N+1層における前記軸線方向に沿った端の位置に、前記軸線方向と垂直な方向において対応するように、前記第N+1層を形成」する工程に相当する。

ウ したがって、両者は次の点で一致する。
「タンクの製造方法であって、
前記タンクの基材であるライナにフープ巻により繊維を巻き付けることにより、前記ライナの外周面に近い側から遠い側に向かって前記繊維からなる繊維層を順次積層する繊維巻き付け工程を備え、
前記繊維巻き付け工程は、
前記ライナの外周面に近い側から数えて第N+1(Nは1以上の整数)番目の前記繊維層である第N+1層を形成する際に、第N番目の前記繊維層である第N層において前記ライナの軸線方向に沿った端から前記軸線方向に沿って第1の所定距離だけ前記ライナの中心に向かった位置が、前記第N+1層における前記軸線方向に沿った端の位置に、前記軸線方向と垂直な方向において対応するように、前記第N+1層を形成する、工程を含む、
タンクの製造方法。」

エ そして、両者は次の点で相違する。
<相違点>
本願発明1においては、「前記第N+1層に含まれることとなる1周回分の前記繊維を巻き付ける際に、該繊維によって前記第N層が前記軸線方向に沿って押出される押出力が、前記第N層において該繊維の巻き付け位置よりも前記軸線方向に沿って端側の領域の合計摩擦力以下となるように、該繊維を前記第N層上に巻き付ける、工程」を含むのに対し、引用発明においては、そのようには特定されていない点。

(2)判断
ア 相違点について
相違点について検討する。
引用文献1には、相違点に係る発明特定事項はおろか、繊維を巻き付ける際の張力をどのようにするかについて、何ら記載されていない。
また、引用文献2には、糸を巻き付ける際の張力を巻き初めと巻き終わりで変化させることが記載されているが、引用文献2に記載されたものは、引用文献1に記載されたものとは、技術分野も解決しようとする課題も異なるものであり、また、繊維を巻き付ける際の張力を、巻き付ける繊維によって下の層が押出される押出力が下の層の合計摩擦力以下となるようにすることも記載されていない。
したがって、引用発明において、引用文献2に記載された事項を適用する動機付けはない。
また、仮に、引用発明において、引用文献2に記載された事項を適用したとしても、上記のとおり、引用文献2には、繊維を巻き付ける際の張力を、巻き付ける繊維によって下の層が押出される押出力が下の層の合計摩擦力以下となるようにすることは記載されていないから、相違点に係る本願発明1の発明特定事項とすることには至らない。
よって、引用発明及び引用文献2に記載された事項に基づいて、相違点に係る本願発明1の発明特定事項を想到することは、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。

イ 効果について
そして、本願発明1は、「繊維の巻き付けに起因する第N層を構成する繊維の位置ずれを抑制できる。」及び「繊維の巻き付けに係る制御が複雑になることを抑制できる。」(本願明細書の【0008】参照。)等の引用発明及び引用文献2に記載された事項からは予測し得ない格別顕著な効果を奏するものである。

(3)まとめ
したがって、本願発明1は、引用発明、すなわち引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

2 本願発明2ないし6について
請求項2ないし6は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、本願発明2ないし6は、本願発明1をさらに限定したものといえる。
したがって、本願発明2ないし6は、本願発明1と同様に、引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

第6 むすび
したがって、原査定の拒絶の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-07-08 
出願番号 特願2016-77737(P2016-77737)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B29C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 田代 吉成  
特許庁審判長 大島 祥吾
特許庁審判官 渕野 留香
加藤 友也
発明の名称 タンクの製造方法  
代理人 特許業務法人明成国際特許事務所  

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