• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B65F
管理番号 1353001
審判番号 不服2018-9141  
総通号数 236 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-08-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-07-03 
確定日 2019-07-23 
事件の表示 特願2015-517127号「悪臭封止袋」拒絶査定不服審判事件〔平成26年11月20日国際公開,WO2014/185482,請求項の数(9)〕について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 
理由 第1 経緯の概略
本願は,2014年5月15日(優先権主張:2013年5月15日,日本国)を国際出願日とする出願であって,平成29年5月15日に手続補正書が提出され,平成29年8月30日付けで拒絶の理由が通知され,平成29年11月6日に意見書及び手続補正書が提出されたが,平成30年3月29日付けで拒絶査定がなされた。
これに対し,平成30年7月3日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1?9に係る発明(以下,請求項の番号に従って「本願発明1」などという。)は,特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定される発明であり,以下のとおりの発明である。
【請求項1】
ポリエチレンないしエチレン系共重合体(以後,エチレン(共)重合体という)からなる内層と外層と,
バリア樹脂からなる中間層とからなり,かつ内外層にはアンチブロッキング剤と界面活性剤が含まれてなり内層および外層に含まれるアンチブロッキング剤量が,各々6500ppm以上にあり,界面活性剤が,1000?8000ppmの範囲で含まれてなり,
該中間層の厚さが,0.8?5.0μmの範囲にあり,全層厚みが10?30μmの範囲にあり,共押出インフレーションで製造されたものであり,底部が溶着されて封されてなる悪臭物封止袋であり,
使用する場合に,溶着されていない開口部を結び合わせて,内容物を封止することを特徴とする悪臭物封止袋。
【請求項2】
前記エチレン(共)重合体が,直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)であることを特徴とする請求項1に記載の悪臭物封止袋。
【請求項3】
バリア樹脂が,ポリアミド,エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH),ポリブチレンテレフタレートから選ばれる少なくとも1種からなることを特徴とする請求項1または2に記載の悪臭物封止袋。
【請求項4】
バリア樹脂が,非晶性ポリアミドを70重量%以上含有するポリアミドであることを特徴とする請求項3に記載の悪臭物封止袋。
【請求項5】
アンチブロッキング剤が,ゼオライト,タルク,カオリン,シリカ,炭酸カルシウム,ガラス粉末から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の悪臭物封止袋。
【請求項6】
前記中間層に脂肪族ポリアミドまたはポリオレフィンを含むことを特徴とする請求項4に記載の悪臭物封止袋。
【請求項7】
中間層が,接着性樹脂層を介して前記内層・外層と接合されていることを特徴とする請求項1に記載の悪臭物封止袋。
【請求項8】
界面活性剤が,アルキルスルホン酸塩,アルキルベンゼンスルホン酸塩,アルキルホスフェート,テトラアルキルアンモニウム塩,トリアルキルベンジルアンモニウム塩,グリセリン脂肪酸エステル,ポリオキシアルキレンアルキルエーテル,ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル,N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)アルキルアミン[アルキルジエタノールアミン],N-2-ヒドロキシエチル-N-2-ヒドロキシアルキルアミン[ヒドロキシアルキルモノエタノールアミン],ポリオキシエチレンアルキルアミン,ポリオキシエチレンアルキルアミン脂肪酸エステル,アルキルジエタノールマイド,アルキルベタイン,アルキルイミダゾリウムベタインから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の悪臭物封止袋。
【請求項9】
ポリエチレンないしエチレン系共重合体(以後,エチレン(共)重合体という)からなる内層と外層と,
バリア樹脂からなる中間層とからなり,
内外層にはアンチブロッキング剤と界面活性剤が含まれてなり,
内層および外層に含まれるアンチブロッキング剤量が,各々6500ppm以上にあり,界面活性剤が,1000?8000ppmの範囲で含まれてなり,
該中間層の厚さが,0.8?5.0μmの範囲にあり,全層厚みが10?30μmの範囲にあり,共押出インフレーションで製造されたものであり,底部が溶着されて封されてなる悪臭物封止袋内部に,
悪臭物を収納し,
封止袋の溶着されていない開口部を結び合わせて,内容物を封止することを特徴とする家庭用悪臭物の廃棄方法。

第3 原査定の概要
原査定(平成30年3月29日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。すなわち,本願発明1?9は,下記引用文献1,2に記載された発明に基いて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
(引用文献)
1 特開2006-281651号公報
2 特開2004-268940号公報

第4 原査定についての判断
1 引用文献,引用発明等
(1) 引用文献1
ア 引用文献1には,以下の事項が記載されている(下線は,当審にて付与した。以下同様。)。
・「【請求項1】
非晶性ポリアミドを70重量%以上含有する非晶性ポリアミド層(A)とポリオレフィン層(B)とからなる便臭遮断フィルム。
【請求項2】
前記非晶性ポリアミド層(A)とポリオレフィン層(B)とが,層(B)/層(A)/層(B)の順で接合されていることを特徴とする請求項1に記載の便臭遮断フィルム。
【請求項3】
前記非晶性ポリアミド層(A)が,接着性樹脂層(C)を介して前記ポリオレフィン層(B)と接合されていることを特徴とする請求項1または2に記載の便臭遮断フィルム。
・・・
【請求項5】
非晶性ポリアミドを70重量%以上含有する非晶性ポリアミド層(A)と接着性樹脂層(C)とからなる便臭遮断フィルム。
【請求項6】
共押出法により製造されたフィルムであることを特徴とする請求項1?5のいずれかに記載の便臭遮断フィルム。
・・・
【請求項13】
請求項1?6のいずれかに記載の便臭遮断フィルムからなる便臭遮断用バッグ。
【請求項14】
請求項13に記載の便臭遮断用バッグからなるオムツ回収バッグ。
【請求項15】
請求項13に記載の便臭遮断用バッグからなるペット排泄物処理用バッグ。
【請求項16】
請求項13に記載の便臭遮断用バッグからなる便臭遮断用外袋。」
・「【0001】
本発明は,少なくとも,非晶性ポリアミドを含有する層とポリオレフィン層とからなる,排泄物とりわけ大便が発する臭気(以下,「便臭」という)を遮断する便臭遮断性能をもつ,排泄物の処理,廃棄用多層フィルム(以下,「便臭遮断フィルム」という)およびその用途に関する。」
・「【0002】
人体或いは動物から排泄された大便などの汚物を受包,回収,廃棄するなどの目的で汚物を包装するためにプラスチックフィルムが使用されている。例えば,建設工事現場や観光地などで使用される屋外仮設トイレや介護用として屋内で使用される携帯トイレなどの簡易トイレでは,排泄された大便などの汚物を排泄時に受包して廃棄を簡便に行う目的でチューブ状のプラスチックフィルム(以下,「簡易トイレ用筒状フィルム」という)が使用されている。また,乳幼児や老人,病人などが使用したオムツを回収し廃棄するためのオムツ回収バッグにおいてもプラスチックフィルム袋(以下,「オムツ回収バッグ」という)が用いられている。さらに,犬猫などのペットの排泄物の処理,廃棄用バッグとしてもプラスチックフィルム袋(以下,「ペット排泄物処理バッグ」という)が用いられている。従来,これらの排泄物汚物処理の目的に使用されるバッグのプラスチックフィルム素材としてポリエチレンフィルムが多用されてきた。」
・「【0009】
本発明は,上記のような従来技術に伴う問題を解決しようとするものであって,排泄物とりわけ大便が発する臭気(便臭)を遮断する便臭遮断性能をもち,かつ,柔軟性や耐ピンホール性などに優れた便臭遮断フィルムを提供することを目的としている。また,本発明は,前記便臭遮断フィルムからなる簡易トイレ用筒状フィルム,オムツ回収バッグおよびペット排泄物処理バッグを提供することを目的としている。」
・「【0010】
本発明者は,上記問題点を解決すべく鋭意研究した結果,少なくとも非晶性ポリアミドを70重量%以上含有する非晶性ポリアミド層(A)とポリオレフィン層(B)とを含む多層フィルムが便臭に対する遮断性に優れ,かつ柔軟性,耐ピンホール性に優れていることを見出し,発明を完成するに至った。」
・「【0013】
本発明に係る便臭遮断フィルムは,便臭に対する遮断性に優れ,簡易トイレ用バッグ,使用後のオムツ回収用バッグ,ペットの排泄物処理用バッグなど各種汚物処理用バッグに使用することができ,また,バッグを被包物とする外袋として使用することができる。その結果,周囲の人々の不快感を低減することができる。」
・「【0014】
・・・
(A)非晶性ポリアミド層:
非晶性ポリアミド層(A)は,便臭遮断性能の観点から,非晶性ポリアミドを70重量%以上,好ましくは80重量%以上,より好ましくは90重量%以上,かつ100重量%以下の量で含有することが好ましく,特に非晶性ポリアミドのみからなることが好ましい。ただし,便臭遮断性能を維持して非晶性ポリアミド層(A)に柔軟性を付与するために,脂肪族ポリアミドを1重量%を超えて30重量%未満,好ましくは3重量%を超えて20重量%未満,より好ましくは5重量%を超えて10重量%未満の量で含有してもよく,このとき,非晶性ポリアミドを70以上重量%99重量%以下,好ましくは80以上重量%97重量%以下,より好ましくは90以上重量%95重量%以下の量で含有することが望ましい。非晶性ポリアミドの量が上記下限未満になると便臭に対する遮断性が急激に低下し,便臭遮断フィルムとして実用に供する上での好適性が著しく損なわれる。
・・・
【0020】
このような非晶性ポリアミド層(A)は,便臭遮断性能に優れており,非晶性ポリアミド層(A)の厚さを従来の臭気遮断層より薄くすることができる。非晶性ポリアミド層(A)の厚みは,通常1?30μm,好ましくは1?15μm,より好ましくは1.5?10μmである。このような厚さの薄い非晶性ポリアミド層(A)は,優れた便臭遮断性能とともに,優れた柔軟性を有している。」
・「【0021】
(B)ポリオレフィン層:
ポリオレフィン層(B)を形成する樹脂としては,低密度ポリエチレン(LDPE),直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE),中密度ポリエチレン(MDPE),高密度ポリエチレン(HDPE),ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン樹脂;エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA),エチレン-メチルメタアクリレート共重合体(EMMA),エチレン-メチルアクリレート共重合体(EMA),エチレン-エチルアクリレート共重合体(EEA),エチレン-エチルアクリレート-無水マレイン酸共重合体(E-EA-MAH),エチレン-アクリル酸共重合体(EAA),エチレン-メタクリル酸共重合体(EMAA),アイオノマー(ION)などが挙げられる。これらのうち,ヒートシール性,強度,触感,柔軟性に優れている点で,メタロセン触媒により重合された密度が0.89?0.93の直鎖状低密度ポリエチレンが好ましく用いられる。」
・「【0022】
(C)接着性樹脂層:
接着性樹脂層(C)に用いられる樹脂は,ポリアミド層とポリオレフィン層とを接着できる樹脂であれば特に限定されないが,無水マレイン酸等の酸により変性されたポリオレフィン樹脂が好ましい。酸変性ポリオレフィン樹脂のうち,無水マレイン酸変性ポリエチレンが好ましく,特に,接着性に優れる点で無水マレイン酸変性低密度直鎖状ポリエチレンが好適に用いられる。」
・「【0024】
上記各層には,必要に応じて公知の脱臭剤を添加することができる。これにより,臭気遮断効果をより向上させることができる。
〔便臭遮断フィルム〕
本発明に係る便臭遮断フィルムは,上記非晶性ポリアミド層(A)と上記ポリオレフィン層(B)および/または接着性樹脂層(C)とを有し,必要に応じて,上記脂肪族ポリアミド層(D)を有する。この便臭遮断フィルムは,これら各層を後述する順に積層して製造してもよいし,各層を構成する原料を共押出して製造してもよい。これらのうち,共押出法が好ましく,特に水冷式の共押出インフレーション装置を使用することが好ましい。水冷式の共押出法により製造された便臭遮断フィルムは,より優れた柔軟性を示すため,簡易トイレ用筒状フィルムなどの用途に好適に使用できる。また,共押出し法で製造した便臭遮断フィルムにさらに他のフィルムをラミネート法で貼合することができる。
【0025】
便臭遮断フィルムの厚さは用途により適宜設定されるが,通常20?100μm,好ましくは20?80μm,より好ましくは20?70μmである。膜厚が上記下限未満になるとフィルムの強度が低下することがあり,上記上限を超えるとフィルムの柔軟性が低下することがある。」
・「【0026】
・・・
<便臭遮断フィルム(i)>
便臭遮断フィルム(i)は,ポリオレフィン層(B)と非晶性ポリアミド層(A)とポリオレフィン層(B)とが,この順で接合されたフィルムである(図1参照)。ポリオレフィン層(B)は,層(B)を構成するポリオレフィンに,上記接着剤樹脂層(C)で例示した酸変性ポリオレフィン樹脂を添加して形成することが望ましい。酸変性ポリオレフィン樹脂を添加することにより,非晶性ポリアミド層(A)とポリオレフィン層(B)との接着強度が向上し,フィルムの変形による層間剥離がより起こりにくくなる。
【0027】
この便臭遮断フィルム(i)は,層(A)の厚さと残りの層の厚さ(2つの層(B)の厚さの合計)との比(A/B)が,フィルム厚全体を100%として,通常3?30%/70?97%,好ましくは5?15%/85?95%である。この便臭遮断フィルム(i)は,上述したように,非晶性ポリアミド層(A)の厚さが薄く,柔軟性に優れている。さらに,上記比(A/B)が上記範囲にあると,便臭遮断フィルム(i)は,強度が高く,かつ優れた柔軟性を示す。」
・「【0030】
<便臭遮断フィルム(iii)および(iv)>
便臭遮断フィルム(iii)は,上記便臭遮断フィルム(ii)の非晶性ポリアミド層(A)上に接着剤樹脂層(C)を介してポリオレフィン層(B)を接合したフィルムである(図3参照)。また,便臭遮断フィルム(iv)は,上記便臭遮断フィルム(ii)の非晶性ポリアミド層(A)上に接着剤樹脂層(C)を介して脂肪族ポリアミド層(D)を接合したフィルムである(図4参照)。
【0031】
これらの便臭遮断フィルムは,上記便臭遮断フィルム(ii)の非晶性ポリアミド層(A)上に接着剤樹脂層(C)を積層し,さらにこの上にポリオレフィン層(B)または脂肪族ポリアミド層(D)を積層してもよいし,各層を構成する5つの原料を共押出して製造してもよい。これらのうち,共押出法により製造することが好ましい。」
・「【0046】
〔各種便臭遮断用バッグ〕
本発明に係る便臭遮断フィルムは,種々の形状で製造して各種便臭遮断用途に使用することができる。このような用途としては,オムツ回収バッグ,ペット排泄物処理用バッグ,便臭遮断用外袋などが挙げられる。
【0047】
オムツ回収バッグは,乳幼児や老人,病人などが使用したオムツを回収処理するための個袋である。通常,オムツ回収バッグには,回収したオムツを複数収納され,一定個数に達すると廃棄や再利用などの処理が施されるが,単数で処理してもよい。ペット排泄物処理バッグは,犬やネコなどのペットが屋外や屋内で排泄した大便を回収処理するための個袋である。便臭遮断用外袋は,便臭を発する内容物を包装した包装体を被包するための包装袋である。
【0048】
本発明に係る便臭遮断用バッグは,たとえば,上記便臭遮断フィルムを袋状に成形して製造することができる。このとき,筒状に成形したフィルムの底部をシールして袋状に成形してもよいし,2枚のフィルムを重ね合わせてその3辺をシールしてが袋状に成形してもよいが,前者が好ましく用いられる。
【0049】
本発明に係る便臭遮断用バッグは,具体的には下記のような層構成で製造される。
・・・
(2)外側から,ポリオレフィン層(B)/非晶性ポリアミド層(A)/ポリオレフィン層(B)の順で接合された便臭遮断用バッグ。
・・・
【0050】
これらの便臭遮断用バッグは,柔軟性,耐ピンホール性に優れている。また,最内層がポリオレフィン層(B)であるため,ヒートシール性に優れており,密封性にも優れている。
・・・
【0052】
これらの便臭遮断用バッグは共押出し法で製造することが望ましく,特に水冷式の共押出インフレーション装置を使用することが好ましい。水冷式の共押出法により製造された便臭遮断用バッグは,より優れた柔軟性を示す。また,これらの便臭遮断用バッグの外表面や内表面にさらに他のフィルムをラミネート法で貼合してもよい。
【0053】
本発明係るオムツ回収バッグやペット排泄物処理バッグ,便臭遮断用外袋では,回収したオムツやペット排泄物,便臭を発する内容物を包装した包装体を袋に入れやすく,収納後に臭気が外部に漏れないように,袋の形状や封緘方法などを適宜選択することができる。」
イ 上記の記載及び図面の記載からすると,次のことがわかる。
(ア) 便臭遮断用バッグは,非晶性ポリアミド層(A)とポリオレフィン層(B)とが,層(B)/層(A)/層(B)の順で接合されてなるものである(【請求項2】,【請求項13】?【請求項16】,【0049】)。
(イ) ポリオレフィン層(B)を形成する樹脂としては,低密度ポリエチレン(LDPE),直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE),中密度ポリエチレン(MDPE),高密度ポリエチレン(HDPE)や,エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA),エチレン-メチルメタアクリレート共重合体(EMMA),エチレン-メチルアクリレート共重合体(EMA),エチレン-エチルアクリレート共重合体(EEA),エチレン-エチルアクリレート-無水マレイン酸共重合体(E-EA-MAH),エチレン-アクリル酸共重合体(EAA),エチレン-メタクリル酸共重合体(EMAA),など,ポリエチレンないしエチレン系共重合体を利用することができる(【0021】)。
(ウ) 非晶性ポリアミド層(A)の厚みは,好ましくは1.5?10μmであり(【0020】),全層の厚みは,好ましくは20?70μmである(【0025】)。
(エ) 便臭遮断用バッグは,共押出インフレーション装置で製造されたものであり(【0024】,【0031】,【0052】),底部がヒートシールされて密封されている(【0048】,【0050】)。
(オ) 使用する場合に,ヒートシールされていない開口部を適宜の方法で封緘するものである(【0053】)。
(カ) 便臭遮断用バッグは,オムツ,ペット排泄物,便臭を発する内容物を包装した包装体などを収納し,廃棄するものである(【請求項13】?【請求項16】,【0002】,【0046】,【0047】)。
(キ) そうすると,引用文献1には,次の発明(以下,それぞれ「引用発明1の1」,「引用発明1の2」という。)が記載されているといえる。
(引用発明1の1)
「ポリエチレンないしエチレン系共重合体からなる内外層のポリオレフィン層(B)と,
非晶性ポリアミド層(A)とからなり,
該非晶性ポリアミド層(A)の厚さが,1.5?10μmの範囲にあり,全層厚みが20?70μmの範囲にあり,共押出インフレーションで製造されたものであり,底部がヒートシールされて密封されてなる便臭遮断用バッグであり,
使用する場合に,溶着されていない開口部を適宜の方法で封緘して,内容物を封止する便臭遮断用バッグ。」
(引用発明1の2)
「ポリエチレンないしエチレン系共重合体からなる内外層のポリオレフィン層(B)と,
非晶性ポリアミド層(A)とからなり,
該非晶性ポリアミド層(A)の厚さが,1.5?10μmの範囲にあり,全層厚みが20?70μmの範囲にあり,共押出インフレーションで製造されたものであり,底部がヒートシールされて密封されてなる便臭遮断用バッグ内部に,
オムツ,ペット排泄物,便臭を発する内容物を包装した包装体などを収納し,
便臭遮断用バッグの溶着されていない開口部を適宜の方法で封緘して,内容物を封止する,オムツ,ペット排泄物,便臭を発する内容物を包装した包装体などの廃棄方法。」

(2) 引用文献2
引用文献2には,以下の事項が記載されている。
・「【請求項1】
芳香族ポリエステル樹脂100重量部及び滑剤0.05?6重量部を含み,10%伸長時応力が1200?2000N/cm^(2),剥離応力が2N/30cm以下,厚みが5?100μmであるフィルムから形成された生分解性袋。
【請求項2】
滑剤が,脂肪酸金属塩,脂肪酸アミド及び液状滑剤から選ばれた少なくとも1種の化合物である請求項1記載の生分解性袋。
【請求項3】
界面活性剤0.05?2重量部を含む請求項1記載の生分解性袋。
【請求項4】
無機粒状体0.05?3重量部を含む請求項1記載の生分解性袋。」
・「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は,生分解性袋に関する。詳しくは,芳香族ポリエステル樹脂及び滑剤を含む生分解性樹脂組成物のフィルムから形成した,優れた伸び特性と易剥離性を有する生分解性袋に関する。」
・「【0008】
・・・しかし,芳香族ポリエステルフィルムは,ベタツキ易い性質を有するが,該発明は,剥離性,巻物の繰り出し性等の諸物性を改善するために,界面活性剤,滑剤などの添加量を如何にすればよいかについては,具体的に言及していない。」
・「【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は,上記問題に鑑み,生分解性及び土中崩壊性に優れた袋であり,フィルム成形性に優れ,且つ,優れた伸び特性と易剥離性を有する生分解性袋を提供することにある。」
・「【0014】
本発明に係わる生分解性袋は,優れた伸び特性,易剥離性を有する。そのため,例えば,ゴミ袋などとして使用したとき,多数堆積された状態で高温下に放置されても,ゴミ袋同士がブロッキングを起こすことがない。また,優れた伸び特性有するので,収納物を充填,排出,輸送などする際に破れることがない。その上,従来の生分解性成形物と同等の生分解性及び土中崩壊性を有する。そのため,主として,生ゴミ袋,レジ袋,食品保存袋などの使い捨て用の袋,家庭廃棄物として処理されるゴミを処理する際の袋などとして極めて有用である。」
・「【0044】
上記の滑剤以外に,芳香族ポリエステル樹脂の特徴であるブロッキングを防止するために無機粒状体を添加することが好ましい。無機粒状体の添加量は,芳香族ポリエステル樹脂100重量部に対し,0.05?3重量部が好ましい。更に好ましくは0.1?2重量部であり,最も好ましくは0.5?1重量部である。0.05重量部未満であると,芳香族系ポリエステル樹脂特有のフィルム同士のブロッキング防止効果が不十分であり,3重量部を超えるとブロッキング防止には効果的であるが,微粉末がフィルム表面に浮出し製品外観を悪化させることがある。芳香族ポリエステル樹脂の一部が脂肪族ポリエステル,澱粉,又はそれらの混合物により代替された場合は,全樹脂の総量に対し,上記量の無機粒状体を添加する。無機粒状体としては微粉末シリカが好ましい。湿式法で作られるシリカや高温加水分解により製造されるシリカでも良い。粒径は,溶融成形時の粒子凝集を極力抑えることを考慮すると,50μm以下が好ましい。
【0045】
更に,上記液状滑剤とほぼ同様の目的で,界面活性剤を添加することが好ましい。界面活性剤の添加量は,芳香族ポリエステル樹脂100重量部に対し,0.05?2重量部が好ましい。更に好ましくは0.1?1.5重量部,最も好ましくは0.5?1重量部である。0.05重量部未満であると溶融時の成形性や製膜性が劣り,更には配合時にアンチブロッキング防止として使用する無機粒状体等が芳香族系ポリエステル樹脂ペレットに付着せず均一な配合ができないことがある。2重量部を超えると,配合添加時にブレンダー内にベタツキを生じることがあり,安定的な配合が出来ないことがある。芳香族ポリエステル樹脂の一部が脂肪族ポリエステル,澱粉,又はそれらの混合物により代替された場合は,全樹脂の総量に対し,上記量の界面活性剤を添加する。」

2 本願発明1について
(1) 対比
ア 本願発明1と引用発明1の1とを,その有する機能に照らして対比してみるに,引用発明1の1の「ポリエチレンないしエチレン系共重合体からなる内外層のポリオレフィン層(B)」は,本願発明1の「ポリエチレンないしエチレン系共重合体(以後,エチレン(共)重合体という)からなる内層と外層」に相当する。
イ 引用発明1の1の「非晶性ポリアミド層(A)」を構成する「非晶性ポリアミド」は,便臭遮断性能を有し,バリア樹脂であるから,引用発明1の1の「非晶性ポリアミド層(A)」は,本願発明1の「バリア樹脂からなる中間層」に相当する。
ウ 引用発明1の1は,共押出インフレーションで製造されたものであり,底部がヒートシールされて密封されてなるものであるから,本願発明1と同様に,共押出インフレーションで製造されたものであり,底部が溶着されて封されてなるものであり,引用発明1の1は「便臭遮断用バッグ」であるから,本願発明1と同様に,「悪臭物封止袋」である。
エ 引用発明1の1は,使用する場合に,溶着されていない開口部を適宜の方法で封緘して,内容物を封止するものであるから,本願発明1と,使用する場合に,溶着されていない開口部を閉じて,内容物を封止するものである点で共通する。
オ そうすると,本願発明1と引用発明1の1とは,次の点で一致し,相違する。
(一致点1)
「ポリエチレンないしエチレン系共重合体(以後,エチレン(共)重合体という)からなる内層と外層と,
バリア樹脂からなる中間層とからなり,
共押出インフレーションで製造されたものであり,底部が溶着されて封されてなる悪臭物封止袋であり,
使用する場合に,溶着されていない開口部を閉じて,内容物を封止する悪臭物封止袋。」
(相違点1)
本願発明1は,「内外層にはアンチブロッキング剤と界面活性剤が含まれてなり内層および外層に含まれるアンチブロッキング剤量が,各々6500ppm以上にあり,界面活性剤が,1000?8000ppmの範囲で含まれてな(る)」のに対し,引用発明1の1は,内外層にアンチブロッキング剤,界面活性剤が含まれていない点。
(相違点2)
本願発明1は,「中間層の厚さ」が「0.8?5.0μmの範囲」にあり,「全層厚み」が「10?30μmの範囲」にあるのに対し,引用発明1の1は,「非晶性ポリアミド層(A)の厚さ」が「1.5?10μm」の範囲にあり,「全層厚み」が「20?70μm」の範囲にある点。
(相違点3)
本願発明1は,「使用する場合に,溶着されていない開口部を結び合わせて,内容物を封止する」のに対し,引用発明1の1は,「使用する場合に,溶着されていない開口部を適宜の方法で封緘して,内容物を封止する」ものであるが,結び合わせて封止するものであるか明らかでない点。

(2) 判断
ア 事案に鑑み,まず,相違点1及び3をあわせて検討する。
本願明細書によれば,「従来から例えば赤ちゃんや幼児,寝たきり老人の紙オムツや紙パンツを取り換えたときに,汚物で汚れた紙オムツ等は,ビニール袋に入れたり新聞紙で包んだりして廃棄している。」(【0002】)が,「紙オムツ等の廃棄する汚れた物をビニール袋に入れたり新聞紙で包んだだけでは,嫌な臭いが辺りに漂って周囲環境を悪くする。」(【0003】),「さらに,夜間におむつ交換する場合,大きな音を立てると,就寝中の同居人や同室者の睡眠を邪魔してしまう場合があった。とくに,市販の防臭袋や消臭袋の中には,口を閉じる際に,摩擦音が大きいものが多い。また,縛って口を結ぶ際に,密閉して縛る事が難しく,袋が硬い場合や滑りが悪い場合には,結び難かったり,結び目が密閉されずに,結び目から臭いがもれてしまうなどの問題点もあった。」(【0004】)
本願発明1はこうした事情を踏まえなされたものであって,「悪臭物とりわけ大便が発する臭気(便臭)を遮断する便臭遮断性能を有するとともに,摺れた際の音が少なく,また,口を結ぶのが容易で堅く縛れる悪臭封止袋を提供すること」(【0010】)を解決しようとする課題とし,請求項1に記載された事項を採用することにより,「使用済みの紙オムツやペットの糞,生ごみ,その他悪臭物などを収納する際に,容易に結ぶことが可能であり,結び目の密閉性が高い。このため,一度収納した悪臭物の臭いがもれ出ることもないので,周囲の人々の不快感を低減することができる。また,結ぶときの音も小さいので,夜間や大人数のいる環境でも,他人に気付かれずに悪臭物を封止できる。」(【0012】)といった効果を奏するものである。
そして,本願発明1は,内外層にはアンチブロッキング剤と界面活性剤が含まれており,内層および外層に含まれるアンチブロッキング剤量が,各々6500ppm以上含まれているところ,「内層のアンチブロッキング剤の使用量が少ないと,袋の開口性が劣ることがある。また,アンチブロッキング剤を多くすると,逆に,袋の開口性は良くなるものの,結んだ部分の密閉性が悪くなることがあるが,帯電防止剤を添加しているので,アンチブロッキング剤が多くても密閉性は改善され,結果として,アンチブロッキング剤の量を多くできるので,密閉性と開口性を両立することが可能となる。」(【0023】)というものである。「このようなアンチブロッキング剤を含むことで,触感,柔軟性に優れたまま,摺れたときの摩擦音を低減できる。また本発明の層構成を組み合わせることで,絞って縛りやすくできる上,固く縛ることもできる。」(【0026】)もので,「アンチブロッキング剤が過剰に含まれていると,強度や伸び性が低下しやすくなる。」(【0027】)ものである。
また,「界面活性剤は帯電防止剤として機能し,かかる界面活性剤が含まれていると,結んだ時にほどけ難い袋を得ることができ,袋の密閉性をより向上できる。」(【0028】)もので,界面活性剤は,各層中に1000?8000ppmの範囲で含まれているが,「界面活性剤が少ないと,結び目に隙間が多く,ほどけやすくなる。界面活性剤が多すぎると,ブリードアウトしてしまい,袋自体が粉っぽくなる。」(【0029】)というものである。
このように,本願発明1は,便臭遮断性能だけでなく,「摺れた際の音が少なく,また,口を結ぶのが容易で堅く縛れる」点に着目した発明であって,内外層にはアンチブロッキング剤と界面活性剤を特定量含有させることにより,触感,柔軟性に優れたまま,摺れたときの摩擦音を低減できる,絞って縛りやすくできる上,固く縛ることもできる,結んだ時にほどけ難い袋を得ることができ,袋の密閉性をより向上できる,といった機能を発揮し,よって,上記効果を奏しているものである。
イ これに対し,引用発明1の1は,「摺れた際の音が少なく,また,口を結ぶのが容易で堅く縛れる」点には着目しておらず,引用文献1には,脱臭剤を添加することができる旨の記載はあるが(【0024】),アンチブロッキング剤,界面活性剤に関する記載は特にない。
この点,引用文献2には,生分解性袋に関し,ベタツキ易い性質を有する芳香族ポリエステルに滑剤を添加することで,ゴミ袋などとして使用したとき,多数堆積された状態で高温下に放置されても,ゴミ袋同士がブロッキングを起こすことがない,といった事項が記載され,当該滑剤以外に,無機粒状体(本願発明1のアンチブロッキング剤に相当。)及び界面活性剤をそれぞれ0.5?1%(=5000?10000ppm)含有させることができる旨記載されている(前記1(2))。
しかし,これは,悪臭封止袋に関し,「摺れた際の音が少なく,また,口を結ぶのが容易で堅く縛れる」ことに着目したものではない上,引用発明1の1において,引用文献2に記載された事項を採用する事情も特段認められない。
そうすると,引用発明1の1において,アンチブロッキング剤,界面活性剤を特定量含有させることについての動機付けは特段認められない。
そして,本願発明1は,「使用する場合に,溶着されていない開口部を結び合わせて,内容物を封止する」(相違点3)ことを前提に「内外層にはアンチブロッキング剤と界面活性剤が含まれてなり内層および外層に含まれるアンチブロッキング剤量が,各々6500ppm以上にあり,界面活性剤が,1000?8000ppmの範囲で含まれてな(る)」(相違点1)ことにより,上記のような顕著な効果を奏するものである。
よって,引用発明1の1及び引用例2に記載された事項により,相違点1及び3に係る本願発明1の構成とすることは,当業者が容易に想到することができたものとは認められない。
ウ 以上のとおりであるから,本願発明1は,その余の事項を検討するまでもなく,引用発明1の1及び引用文献2に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるとは認められない。

3 本願発明2?8について
本願発明1を特定するための事項をすべて含む本願発明2?8は,その余の事項を検討するまでもなく,本願発明1と同様の理由により,引用発明1の1及び引用文献2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとは認められない。

4 本願発明9について
(1) 対比
本願発明1と引用発明1の1との関係を参考に(前記2(1)),本願発明9と引用発明1の2とを,その有する機能に照らして対比すると,引用発明1の2の「オムツ,ペット排泄物,便臭を発する内容物を包装した包装体など」は,本願発明9の「悪臭物」,「家庭用悪臭物」に相当するから,本願発明9と引用発明1の2とは,次の点で一致し,相違する。
(一致点2)
「ポリエチレンないしエチレン系共重合体(以後,エチレン(共)重合体という)からなる内層と外層と,
バリア樹脂からなる中間層とからなり,
共押出インフレーションで製造されたものであり,底部が溶着されて封されてなる悪臭物封止袋内部に,
悪臭物を収納し,
封止袋の溶着されていない開口部を閉じて,内容物を封止する家庭用悪臭物の廃棄方法。」
(相違点4)
本願発明9は,「内外層にはアンチブロッキング剤と界面活性剤が含まれてなり」,「内層および外層に含まれるアンチブロッキング剤量が,各々6500ppm以上にあり,界面活性剤が,1000?8000ppmの範囲で含まれてな(る)」のに対し,引用発明1の2は,内外層にアンチブロッキング剤,界面活性剤が含まれていない点。
(相違点5)
本願発明9は,「中間層の厚さ」が「0.8?5.0μmの範囲」にあり,「全層厚み」が「10?30μmの範囲」にあるのに対し,引用発明1の2は,「非晶性ポリアミド層(A)の厚さ」が「1.5?10μm」の範囲にあり,「全層厚み」が「20?70μm」の範囲にある点。
(相違点6)
本願発明9は,「封止袋の溶着されていない開口部を結び合わせて,内容物を封止する」のに対し,引用発明1の2は,「溶着されていない開口部を適宜の方法で封緘して,内容物を封止する」ものであるが,結び合わせて封止するものであるか明らかでない点。

(2) 判断
相違点4及び6は,前記相違点1及び3と実質的に同じであるから,同様の理由により,本願発明9は,引用発明1の2及び引用文献2に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるとは認められない。

5 以上のとおりであるから,原査定を維持することはできない。

第6 むすび
以上のとおり,原査定の理由によって,本願を拒絶することはできない。
他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-07-08 
出願番号 特願2015-517127(P2015-517127)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B65F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 渋谷 善弘  
特許庁審判長 佐々木 芳枝
特許庁審判官 窪田 治彦
長馬 望
発明の名称 悪臭封止袋  
代理人 特許業務法人SSINPAT  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ