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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02C
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G02C
管理番号 1353005
審判番号 不服2018-6680  
総通号数 236 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-08-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-05-16 
確定日 2019-07-03 
事件の表示 特願2013-157442「近視制御光学素子及びムスカリン様作用薬を組み込むレンズ」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 2月20日出願公開、特開2014- 32404〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年7月30日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2012年7月31日 米国)の出願であって、平成29年2月20日付けで拒絶理由が通知され、同年5月17日に意見書の提出とともに手続補正がなされ、同年10月27日付けで拒絶理由が通知され、平成30年1月16日に意見書の提出とともに手続補正がなされ、平成30年1月16日になされた手続補正について同年1月24日付けで補正の却下の決定がなされるとともに同日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、これに対し、同年5月16日に拒絶査定不服審判の請求と同時に手続補正(以下、「本件補正」という。)がなされたものである。その後、同年8月30日に上申書が提出された。


第2 本件補正の補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成30年5月16日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲を補正するものであって、平成29年5月17日付けの手続補正の特許請求の範囲の請求項1
「 【請求項1】
近視の進行の抑制、防止、及び/又は制御のうちの少なくとも1つのための眼用レンズであって、
第1の材料から形成され、かつ近視制御光学素子を組み込む、コンタクトレンズと、
前記コンタクトレンズを形成する前記第1の材料に添加されるか又は組み込まれるかの少なくとも一方である混合物中に組み込まれた抗ムスカリン剤と、を含み、前記抗ムスカリン剤が、既定の期間にわたって眼の中に溶出するように構成され、前記抗ムスカリン剤が、硫酸アトロピン一水和物と緩衝生理食塩水の溶液を含み、前記コンタクトレンズが、0.25mgより少ない硫酸アトロピン一水和物を含む、眼用レンズ。」(以下、「本件発明」という。)を、
「 【請求項1】
近視の進行の抑制、防止、及び/又は制御のうちの少なくとも1つのための眼用レンズであって、
第1の材料から形成され、かつ近視制御光学素子を組み込む、コンタクトレンズと、
前記コンタクトレンズを形成する前記第1の材料に添加されるか又は組み込まれるかの少なくとも一方である混合物中に組み込まれた抗ムスカリン剤と、を含み、前記抗ムスカリン剤が、既定の期間にわたって眼の中に溶出するように構成され、前記抗ムスカリン剤が、硫酸アトロピン一水和物と緩衝生理食塩水の溶液を含み、前記コンタクトレンズが、0.25mgより少ない初期重量の硫酸アトロピン一水和物を含む、眼用レンズ。」(以下、「本件補正発明」という。また、下線部は補正箇所を示す。)と補正するものである。

2 補正の目的
本件補正は、発明特定事項である硫酸アトロピン一水和物の「0.25mgより少ない」とされていた値について、「初期重量」であるとするものである。当該補正事項は、特許請求の範囲を減縮するものであって、本件補正の前後において産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるといえる。したがって、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について、以下に検討する。

3 引用文献の記載事項及び引用文献に記載された発明
(1)引用例1
ア 引用例1の記載事項
本願優先権主張の日前に頒布された刊行物であって、平成29年2月20日付けの拒絶理由で引用文献1として引用されると共に原査定の拒絶の理由にも引用文献2として引用された刊行物である特表2005-523299号公報(以下、「引用例1」という。)には、以下の記載事項がある。なお、下線は合議体が発明の認定等に用いた箇所を示す。以下同様である。

(ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
CFR、ポリマー性担体および薬学的に有効な薬物を含んでなる組成物。

(中略)

【請求項5】
薬物が、抗血管形成薬、抗炎症薬、抗アレルギー薬、緑内障処置薬、抗感染症薬、抗真菌薬、抗ウイルス薬、麻酔薬、近視予防/阻害薬、縮瞳薬、炭酸脱水酵素インヒビター、アルファブロック剤、抗酸化剤および/またはビタミンから選択される、請求項1に記載の組成物。

(中略)

【請求項8】
ドラッグデリバリーシステムである、請求項1?7に記載の組成物。
【請求項9】
桿状体、棒状体、カプセル、角膜シールド、角膜リング、インプラント、インサート、眼内レンズ、治療コンタクトレンズ、およびミニディスクから、そして
さらに好ましくは、角膜シールド、角膜リング、インプラント、インサート、眼内レンズ治療コンタクトレンズ、およびミニディスク
からなる群から選択される、請求項8に記載のドラッグデリバリーシステム。」

(イ)「【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、とりわけ、シクロフルクタン、薬物および少なくとも1つの担体を含んでなる、ドラッグデリバリーシステムに関する。
【0002】
薬物の局所投与に伴う問題は、組織を通過する薬物透過性および局所許容性である。典型的には、眼および粘膜について、透過性および許容性は、活性および不活性成分の両方に関して重要な役割を果たす。
【0003】
この問題は、今回、驚くべきことに、シクロフルクタン(CFR)、薬物、ならびに生物崩壊性(bioerodible)ポリマーおよび生物接着性(bioadhesive)ポリマーから選択される少なくとも1つの担体を含んでなるドラッグデリバリーシステムを提供することにより解決された。本明細書において後記した組成物中のCFRは、組織、特に眼および粘膜を通過する薬物透過性の上昇を提供する。
【0004】
薬物は、しばしば目および粘膜組織から洗い流されるので、この追加的な問題も本発明において取り扱われる。これは、今回、持続的および延長された薬物送達を可能にするドラッグデリバリーシステム(このドラッグデリバリーシステムは、生物崩壊性ポリマーおよび/または生物接着性ポリマーから選択されるポリマー性担体を含有する。)を提供することにより解決された。
【0005】
したがって、本発明は、シクロフルクタン(CFR)、薬物ならびに生物崩壊性ポリマーおよび生物接着性ポリマーから選択される少なくとも1つの担体を含んでなる組成物に関する。本明細書において使用されるように、かかる組成物は、ドラッグデリバリーシステムを表す。
【0006】
シクロフルクタン(CFR)は、医薬品と連係的に知られている。JP 5310805(Mitsubishi)は、クラスレート機能を提供する医薬調製物におけるCFRの使用を記載している。同様に、JP 6298807(Mitsubishi)は、薬学的に有効な薬物の溶解性を増大させるためのCFRの使用を記載している。
【0007】
第1の態様において、本発明は、組織を通過する薬物透過を促進するためのCFRの使用、および組織への薬物透過を促進するためのCFRの使用に関し、ここで前記組織は、好ましくは眼組織および粘膜組織から選択され、そして前記薬物は、典型的には、前記組織に局所的に投与される。当該使用は、好ましくは、さらに、好ましくは局所的処置により処置可能な疾患のためのテーラーメードである当該CFRを含有するドラッグデリバリーシステムの製造の文脈の範囲内である。

(中略)

【0032】
本明細書において使用されるように、薬物は、特に
- 抗血管形成薬、たとえばVEGF-インヒビター、PKC-インヒビターなど、たとえばN-ベンゾイルスタウロスポリン、1-(3-クロロアニリノ)-4-(4-ピリジルメチル)フタラジン、
- 抗炎症薬、たとえばステロイド、たとえばデキサメタゾン、フルオロメトロン、ヒドロコルチゾン、プレドニゾロン;またはいわゆる非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)、たとえばCOX-インヒビター、たとえばジクロフェナク、バルデコキシブ、ルミラコキシブ、ケトロラック、またはインドメタシン;
- 抗アレルギー薬、たとえばFK506、33-エピ-クロロ-33-デスオキシ-アスコマイシン、クロモリン、エマジン(emadine)、ケトチフェン、レボカルバスチン、ロドキサミド、ノルケトチフェン、オロパタジン、およびリザベンから選択されるもの;
- 緑内障処置薬(特に眼内圧処置)、たとえばラタノプロスト、15-ケト-ラタノプロスト、イソプロピルウノプロストン、ベタキソロール、クロニジン、レボブノロールおよびチモロールから選択されるもの;
- 抗感染症薬、たとえばシプロフロキサシン、クロラムフェニコール、クロルテトラサイクリン、ゲンタマイシン、ロメフロキサシン、ネオマイシン、オフロキサシン、ポリミキシンBおよびトブラマイシンから選択されるもの;
- 抗真菌薬、たとえばアムホテリシンB、フルコナゾールおよびナタマイシンから選択されるもの;
- 抗ウイルス薬、たとえばアシクロビル、ホミビルセン、ガンシクロビル、およびトリフルリジン;
- 麻酔薬、たとえば塩酸コカイン、リドカイン、オキシブルポカインおよび塩酸テトラカインから選択されるもの;
- 近視予防/阻害薬、たとえばピレンゼピン、アトロピンなど;
- 縮瞳薬、たとえばカルバコール、ピロカルピンおよびフィゾスチグミンから選択されるもの;
- 炭酸脱水酵素インヒビター、たとえばアセタゾラミドおよびドルゾラミドから選択されるもの;
- アルファブロック剤、たとえばアプラクロニジンおよびブリモニジンから選択されるもの;ならびに
- 抗酸化剤および/またはビタミン、たとえばアスコルビン酸、α-トコフェロール、α-トコフェロールアセテート、レチノール、レチノールアセテート、およびレチノールパルミテート
からなる群から選択される。

(中略)

【0035】
別の態様において、そしてポリマー性担体に依存して、本発明のドラッグデリバリーシステムは、室温(約22?25℃)にて固体状態であり得、そして特に錠剤、フィルム、桿状体(rod)、棒状体(bar)、カプセル、角膜シールド(corneal shield)、角膜リング(corneal ring)、インプラント(implant)、インサート(insert)、眼内レンズ(intra-ocular lens)、治療コンタクトレンズ(therapeutic contact lens)、ミニタブレット(mini tablet)、ミニディスク(mini-disc)およびペレット(pellet)から選択される。好ましくは、当該ドラッグデリバリーシステムは、桿状体、棒状体、カプセル、角膜シールド、角膜リング、インプラント、インサート、眼内レンズ、治療コンタクトレンズ、およびミニディスクから、そしてさらに好ましくは、角膜シールド、角膜リング、インプラント、インサート、眼内レンズ治療コンタクトレンズ、およびミニディスクから選択される。

(中略)

【0038】
ポリマー性担体およびシクロフルクタンとの連係的な薬物の使用は、典型的には、持続的な薬物送達の相乗効果に改善された医薬透過性を提供する。」

(ウ)「【0042】
本発明のドラッグデリバリーシステムは、さらに、張度上昇剤を含み得る。
【0043】
張度上昇剤は、たとえば、イオン性化合物、たとえばアルカリ金属またはアルカリ土類金属ハライド、たとえば、CaCl_(2)、KBr、KCl、LiCl、NaI、NaBrまたはNaCl、またはボロン酸である。非イオン性張度上昇剤は、たとえばウレア、グリセロール、ソルビトール、マンニトール、プロピレングリコールまたはデキストロースである。たとえば、十分な張度上昇剤を添加して、約50?1000mOsmolの浸透圧を得る。
【0044】
好ましくは生理的pHへの、pHの調節のために、バッファーがとりわけ有用であり得る。バッファー物質の例は、酢酸塩、アスコルビン酸塩、ホウ酸塩、重炭酸/炭酸塩、クエン酸塩、グルコン酸塩、乳酸塩、リン酸塩、プロピオン酸塩およびTRIS(トロメタミン)バッファーである。トロメタミンおよびホウ酸塩バッファーが好適なバッファーである。添加されるバッファー物質の量は、典型的には、生理学的に許容されるpH範囲を保証かつ維持するのに必要な量である。そのpH範囲は、一般に、4?9、好ましくは4.5?8.5およびさらに好ましくは5.0?8.2の範囲である。」

イ 引用例1に記載された発明
前記記載事項(イ)に基づけば、引用例1には、段落【0001】に、シクロフルクタン、薬物および少なくとも1つの担体を含んでなる、ドラッグデリバリーシステムに関する発明が記載されており、段落【0032】に、上記ドラッグデリバリーシステムに用いられる薬物が、アトロピンなどの近視予防/阻害薬から選択されること、段落【0035】に上記ドラッグデリバリースステムが、治療コンタクトレンズから選択されることが記載されており、段落【0038】に、ドラッグデリバリーシステムによって、持続的な薬物送達の相乗効果に改善された医薬透過性を提供することが記載されているといえる。
したがって、上記記載事項(イ)に基づけば、引用例1には、実施態様の一つとして、以下の発明が記載されていると認められる。
「シクロフルクタン、薬物および少なくとも1つの担体を含んでなる、ドラッグデリバリーシステムであって、薬物が、近視予防/阻害薬であるアトロピンであり、ドラッグデリバリーシステムが治療コンタクトレンズであり、持続的な薬物送達の相乗効果に改善された医薬透過性を提供するドラッグデリバリーシステム。」(以下、「引用発明」という。)

(2)引用例2の記載事項
本願優先権主張の日前に頒布された刊行物であって、平成29年2月20日付けの拒絶理由で引用文献2として引用されると共に原査定の拒絶の理由にも引用文献3として引用された刊行物である特表2010-528339号公報(以下、「引用例2」という。)には、図面とともに、以下の記載事項がある。

ア 「【0001】
〔技術分野〕
本発明は眼科レンズに関する。特に本発明は、近視進行の予防又は遅延に対して有用な眼科レンズを提供する。
【0002】
〔背景技術〕
近視、又は近眼は、米国人口の最大25%及び世界の一部の地域では人口の最大75%に影響を及ぼしている。近視眼では、眼球の形状が細長いため、目に入る光線が網膜の前方でフォーカスしてしまう。近視に対する従来の治療は、補正レンズを処方することである。しかし典型的な補正レンズでは、近視の進行は防止されない。
【0003】
近視進行を遅らせることを、特に子供らにおいて行なう多くの方法が提案されている。これらの方法としては、多焦点レンズを用いること、収差を取り入れたレンズ又は収差を抑えたレンズを用いること、軸外し屈折レンズを用いること、角膜を再形成すること、目を運動させること、及び薬理療法を用いることが挙げられる。
【0004】
〔発明の概要〕
〔発明が解決しようとする課題〕
多焦点レンズ及び収差があるレンズを用いることは、レンズによって装用者の遠方視力が弱まるという不都合さがあることが分かっている。他の方法も、不快感(角膜の再形成と同様)及び望ましくない副作用(薬物療法と同様)などの不都合さを被る。

(中略)

【発明を実施するための形態】
【0006】
本発明は、眼科レンズと、それらのデザイン及び製造に対する方法とを提供する。レンズは近視進行を実質的に防止するものである。本発明の発見は、近視進行は、光学ゾーンの中央にある遠用視力度数の範囲と、それを囲む正の球面縦収差を与える少なくとも1つの領域とを有する多焦点レンズを提供することによって実質的に防止することができるということである。
【0007】
「眼科レンズ」が意味するのは、コンタクト、眼内、アンレー・レンズなどである。好ましくは、本発明のレンズはコンタクトレンズである。「遠用光学度数」「遠用視力度数」、及び「遠用度数」が意味するのは、装用者の遠方視力を所望の程度まで補正するために必要な屈折力の量である。「球面縦収差」が意味するのは、レンズの中央と周囲との間でのフォーカスの屈折の違いであり、周辺光線のフォーカスの屈折値-近軸光線のフォーカスの屈折値として計算されるものである。「正の球面縦収差」が意味するのは、周辺光線と近軸光線との間での屈折の違いが正の値であるということである。」

イ 「【0008】
本発明の第1の実施形態においては、光学ゾーンを有する眼科レンズであって、光学ゾーンが、実質的に一定の遠用視力度数を有する中央ゾーンと、中央ゾーンと同心で正の球面縦収差を有する少なくとも第1の環状ゾーンとを含み、実質的にこれらからなり、またこれらからなる眼科レンズが提供される。代替的な実施形態においては、第1の環状ゾーンと同心である第2の環状ゾーンであって、一定の度数又は次第に減少する度数の一方を与えることができる第2のゾーンを提供しても良い。更に他の実施形態においては、光学ゾーンを有するレンズであって、光学ゾーンが、光学ゾーンの真ん中の部分における実質的に一定の遠用視力度数と、遠用視力度数の周辺にある正の球面縦収差を有する少なくとも1つの領域とを含み、実質的にこれらからなり、またこれらからなるレンズが提供される。
【0009】
図1において分かるように、レンズ10は、光学ゾーン11と非光学のレンズ状ゾーン14とを有する。光学ゾーン11は中央ゾーン12と周辺ゾーン13とからなる。中央ゾーン12は、レンズの光軸の中心に置かれ、レンズの光軸中心から測定した半径は、約0.5?2mm、好ましくは約1?1.5mmである。中央ゾーン12内の度数は、実質的に一定の遠用視力度数であり、約+12.00ジオプター?約-12.00ジオプターである。周辺ゾーン内に正の度数を付加する結果、中央ゾーンにおいて、遠用視力度数に対する過剰補正を与えること、すなわち、装用者の遠方視力を補正するために必要なものに加えて度数を与えることが望ましい場合がある。過剰補正の量は、中央ゾーン12の直径と与えられた正の球面収差の大きさとに依存する。しかし通常、過剰補正は約0.25?約1.00ジオプターである。
【0010】
周辺ゾーン13は、最も内側の境界14(又はレンズの光軸中心に最も近い境界)からゾーン13の周囲の最も外側の境界15へ移動するにつれて連続的かつ次第に増加する正の球面縦収差を与える。周辺ゾーン13における球面縦収差の増加は、レンズの光軸中心から約2.5mmの半径において、約0.25?約2ジオプターであっても良く、好ましくは約0.5?約1.50ジオプターである。周辺ゾーン13の幅は、約0.5?約3.5mm、好ましくは約1?約2mmであっても良い。
【0011】
図1に示すように、中央ゾーン12及び周辺ゾーン13は、それらの間に別個の接合部があるゾーンである。代替的な実施形態においては、別個の接合部は、実質的に一定の遠用視力度数と正の球面縦収差との間に存在せず、実質的に一定の遠用視力度数と正の球面縦収差との両方によって1つのゾーンが形成されている。
【0012】
本発明のレンズをデザインする際に、正の球面縦収差に、正味の装用者の眼球の収差を与える。したがって、本発明の目的上、好ましくはレンズ装用者の球面収差を最初に決定し、次にその収差の補正に必要な球面収差を与える。あるいは、母集団平均(例えば0.1D/mm^(2))を球面収差に対して用いても良い。球面収差の測定は、任意の既知で便利な方法によって、例えば、限定することなく、市販の収差測定器を用いることによって行なっても良い。」
なお、図1は、以下のとおりのものである。


(3)引用例3の記載事項
本願優先権主張の日前に頒布された刊行物であって、平成29年2月20日付けの拒絶理由で引用文献3として引用されると共に原査定の拒絶の理由にも引用文献4として引用された刊行物である特表2008-529606号公報(以下、「引用例3」という。)には、以下の記載事項がある。

ア 「【技術分野】
【0002】
本発明は、薬物送達システムに関するものである。より詳しくは、コンタクトレンズを用いた眼科用薬物送達システム及び眼科用薬物送達方法に関する。
【背景技術】
【0003】
コンタクトレンズを介した薬物送達は、目の表面における親水性の架橋性高分子ゲルの使用を発端として、以来広く行われている技術である。事実、1965年のOtto Wichterleによる当該技術分野における最初の特許に、抗生物質のような細菌発育抑制作用、殺菌作用、又はその他の薬効作用を有する医薬活性物質を、ヒドロゲルの水性構成要素に中で溶解することによって、拡散を介して伸展されたペリオ上に薬物を供給するということが記述されている。しかし、それより以前から、水性構成要素に溶解された成分に関する概念が普及していたことを示す証拠が存在する。その証拠とは、古代ローマにおいて、精油に浸された蜂蜜が病気の治療のために、眼病用の包帯剤として使用されていたというものである。
【0004】
高分子ゲルの水性部分で伴出される流体を用いることに伴い、最も大きい障害となるものは、流体内において治療効果を発揮するための有意な薬物濃度を維持することであり、それは結局のところ薬物の溶解度によって制限される。このことが、コンタクトレンズからの薬物放出技術が臨床的ないしは商業的成功に至らなかった理由であった。また同程度に、薬物送達プロフィールと薬物放出延長プロフィールに関するコントロールが、臨床的な成功にとって重要であり、これらの制御方法を使った薬物送達技術が出現することはなかった。従来の(すなわち、現在利用できる)ソフトコンタクトレンズによる薬物摂取及び放出では、非常に短時間で薬物を適度な眼内濃度につなげることはできるものの、ソフトコンタクトレンズに十分な薬物を負荷させることができず、また良好な薬物放出制御の性質を欠くために、効果的には作用しないものである。ここで説明する、生体模倣のソフトコンタクトレンズキャリアー(すなわち認識多因子ヒドロゲル)は、薬物放出を延長及び維持させて眼組織での炎症発生を減らすと共に、生体有効利用性を向上させ、目に対する又は全身的な副作用を減少させるだけでなく、キャリアー内に負荷される薬物量を増加させるように設計可能にすることによって、眼科用薬物送達を高める潜在性を有するものである。

(中略)

【0013】
この明細書で提案されている新規な生体模倣ソフトコンタクトレンズは、薬物の放出延長や放出維持を可能にすることができるだけでなく、ゲル内における薬物負荷量の有意な増加をもたらすことを可能にする。このことは、薬物活性の延長や、生体有効利用能の向上、全身的吸収の減少、局所的かつ全身的な副作用の減少、また薬物投与回数を減らすと共に、不規則な薬物濃度管理負担を減らすことが可能で(すなわち、点眼角度やしぼり力等に起因する変化する点眼薬濃度の管理であって、この点眼角度やしぼり力等によって実験的に非常に高い変化があることが証明されている)、またこれに伴う服薬コンプライアンスの向上をもたらすことが可能となる。また、これらのレンズは、視力障害を矯正するための使用である無しに関わらず、容易に取り外すことができるだけでなく、容易に装着することができる。さらにまた、これらレンズは、角膜上に置かれるので、角膜透過性の向上にも繋がる。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、薬物送達システム及び方法に関する。この薬物送達システムは、生体組織に接触することによって薬物を送達される認識重合ヒドロゲルを有している。認識重合ヒドロゲルは、薬物もしくは薬物と構造的に類似したバイオテンプレート、好ましくは錯体形成部位を有する機能性モノマー、及び架橋性モノマーを、以下で説明する適当な重合開始剤を用いて共重合させて形成される。形成された認識重合ヒドロゲルの錯体形成部位は、標的生体組織や生物学的認識、生物学的作用メカニズムの受容体部位に類似していることが好ましい。この薬物送達システムは、生体模倣認識重合ヒドロゲルに一体化して説明する。
【0015】
本実施形態に係るシステムは、眼科用薬物に関するシステムである。この眼科用薬物システムは生体模倣認識重合ヒドロゲルから形成されたソフトコンタクトレンズを有し、このコンタクトレンズには、眼に接触している間、持続的に放出される薬物が含浸されている。本発明は、矯正用又は屈折したコンタクトレンズ及び非矯正用又は非屈折のコンタクトレンズの両方に適用される。ここで説明されている発明は、主に、眼科用薬物システムに関するものであるが、本発明は、その他にも多くの異なった接触型薬物送達システムに適用性を有するものである。例えば、この生体模倣認識重合ヒドロゲルは、包帯材や、外傷用医薬材、パッチ型の薬物送達システムに用いることが可能である。
【0016】
本実施形態によれば、シリコーンベースの架橋性モノマーや、カーボンベース又は有機材料ベースのモノマー、マクロマー又はそれらの混合材料から、ヒドロゲルマトリックスが形成される。適当な架橋性モノマーとしては、ポリエチレングリコール(200)ジメタクリレート(PEG200DMA)、エチレングリコールジメタクリレート(EGDMA)、ジメタクリル酸テトラエチレングリコール(TEGDMA)、N,N'‐メチレンビスアクリルアミドとポリエチレングリコール(600)ジメタクリレート(PEG600DMA)等を用いることができるが、これらに限定されるものではない。また、適当なシリコーンベースの架橋性モノマーとしては、トリス(トリメチルシロキシ)シリルプロピルメタクリル酸エステル(トリス)と親水性のトリス誘導体(例えばトリス(トリメチルシロキシ)シリルプロピルカルバミン酸ビニル(TPVC)、トリス(トリメチルシロキシ)シリルプロピルグリセロールメタクリル酸エステル(シグマ体)、トリス(トリメチルシロキシ)シリルプロピルメタクリロキシエチレンカーボネート(TSMC)やポリメチルシロキサン(PDMS)及びメタクリレートエンドキャップフルオログラフトPDMS架橋剤のようなPDMS誘導体、メタクリレートエンドキャップウレタンシロキサンコポリマー架橋剤、そしてポリエチレンオキシド及びポリエチレンオキシドブロックを含有したスチレンシロキサンポリマー等を用いることができるが、当然これらに限られるものではない。これらのモノマーの分子構造は、アミノ酸残基や他の生物学的分子に適合する部分を含有するように変更することができる。上記したモノマーにおいて、親水性モノマーがポリマー化されるときには、可溶化するための溶解補助剤として、ジメチルスルホキシド(DMSO)、イソプロパノール等が用いられ、又は保護剤/非保護剤が場合によっては用いられる。」

イ 「【0028】
また、本実施形態の眼科用薬物送達システム及びその方法においては、例えば、トリフルリジンやビダラジン等の抗ウイルス剤;例えば、デキサメタゾンや5‐フルオロウラシル(5FU)等の抗癌剤;例えば、テトラカイン、塩酸プロパラカイン、塩酸ベノキシネート等の局所麻酔剤;例えば、硫酸アトロピン、塩酸フェニレフリン、塩酸シクロペントレート、臭化水素酸スコポラミン、臭化水素酸ホマトロピン、トロピカミド、臭化水素酸ヒドロキシアンフェタミン等の毛様体筋麻痺剤や瞳孔拡大剤;例えば、ヒアルロン酸又はヒアルロナン(分子量MWを変更可能)、ヒドロキシプロピルセルロース(MWを変更可能)、ゲファルナート、ヒドロキシエイコサテトラエン酸(15(S)‐HETE)、リン脂質‐HETE誘導体、リン酸コリン又は他の極性脂質、カルボキシメチルセルロース(MWを変更可能)、ポリエチレングリコール(MWを変更可能)、ポリビニルアルコール(MWを変更可能)、レバミピド、ピメクロリムス、エカベトナトリウム、親水性ポリマー等の乾性角結膜炎(ドライアイ)を治療するための薬剤成分(一般的に、粘滑剤といわれる);例えば、シクロスポリン、タクロリムス、抗IgE抗体、サイトカイン拮抗剤等の免疫抑制薬と免疫修飾剤;そして、例えば、塩酸ベタキソロール、塩酸レボブノロール、塩酸メチプラノロール、マレイン酸チモロール又はその半水塩、塩酸カルテオロール、カルバコール、塩酸ピロカルピン、ラタノプロスト、ビマトプロスト、トラボプロスト、酒石酸ブリモニジン、塩酸アプラクロニジン、ブリゾラミド、塩酸ドルゾラミド等のβ受容体遮断剤、ピロカルピン、縮瞳薬、プロスタグランジン、αアドレナリン拮抗剤、炭酸脱水酵素阻害剤を含む抗緑内障治療剤;例えば、エピネフリンやプソイドエフェドリン等の鬱血除去剤及び血管収縮剤を送達するために用いることができるが、以上にそれぞれ列挙した薬物に当然限られるものではない。」

(4)引用例4の記載事項
本願優先権主張の日前に頒布された刊行物であって、平成29年2月20日付けの拒絶理由で引用文献4として引用されると共に原査定の拒絶の理由にも引用文献1として引用された刊行物である特開2009-132671号公報(以下、「引用例4」という。)には、以下の記載事項がある。

ア 「【0040】
本発明のコンタクトレンズ用装着点眼液は、種々の成分(薬理活性成分や生理活性成分を含む)を組み合わせて含有するのに適している。眼科組成物に通常用いられる充血除去成分、眼筋調節薬成分、抗炎症薬成分または収斂薬成分、抗ヒスタミン薬成分又は抗アレルギー薬成分、ビタミン類、酸性ムコ多糖類、局所麻酔薬成分などが例示できる。具体的には、以下に挙げる成分が例示できる。
【0041】
充血除去成分:例えば、α-アドレナリン作動薬、具体的にはエピネフリン、塩酸エピネフリン、塩酸エフェドリン、塩酸オキシメタゾリン、塩酸テトラヒドロゾリン、塩酸ナファゾリン、塩酸フェニレフリン、塩酸メチルエフェドリン、酒石酸水素エピネフリン、硝酸ナファゾリンなど。これらはd体、l体又はdl体のいずれでもよい。
眼筋調節薬成分:例えば、アセチルコリンと類似した活性中心を有するコリンエステラーゼ阻害剤、具体的にはメチル硫酸ネオスチグミン、トロピカミド、ヘレニエン硫酸アトロピンなど。」

イ 「【0054】
本発明のコンタクトレンズ用装着点眼液は、必要に応じて、生体に許容される範囲内の浸透圧に調整して用いる。浸透圧は、生理食塩液に対する浸透圧比として、通常、0.3?4.1、好ましくは0.4?4.1、より好ましくは0.3?2.1、特に好ましくは0.5?1.4である。浸透圧比の測定方法は、第15改正日本薬局方 一般試験法 浸透圧測定法を参考にする。
【0055】
本発明のコンタクトレンズ用装着点眼液は、必要に応じて、生体に適用可能な範囲内のpHに調整して用いる。pHは、通常、pH4.0?9.0、好ましくは5.0?8.5、特に好ましくは5.5?8.5である。pHの調整は、前記緩衝剤、pH調整剤などを用いて行うことができる。」

4 対比
本件補正発明と引用発明とを対比する。

(1)引用発明の「ドラッグデリバリーシステム」は「治療コンタクトレンズ」として用いられるものであるから、眼用のレンズであってコンタクトレンズを含むものといえる。そして、コンタクトレンズは、技術的にみて、コンタクトレンズとしての物性を満たす特定の範囲の材料から形成されているといえる。
したがって、引用発明の「ドラッグデリバリーシステム」は、本件補正発明の「眼用レンズ」に相当し、引用発明の「ドラッグデリバリーシステム」は、本件補正発明の「第1の材料から形成され」た「コンタクトレンズ」を含むとする要件を満たしている。

(2)引用発明の「ドラッグデリバリーシステム」は、「治療コンタクトレンズ」であって、「薬物が、近視予防/阻害薬であるアトロピン」とされるものである。そうすると、引用発明は、治療のために用いられるものであって、その治療が、近視の進行の予防つまり防止又は抑制を目的とするものといえる。
したがって、引用発明の「ドラッグデリバリーシステム」は、本件補正発明の「近視の進行の抑制、防止、及び/又は制御のうちの少なくとも1つのための眼用レンズ」であるとする要件を満たしている。

(3)引用発明に薬物として含まれる「アトロピン」は、生理学的にみて、抗ムスカリン剤であるといえる。したがって、引用発明の「薬物」である「アトロピン」は、本件補正発明の「抗ムスカリン剤」に相当する。
また、引用発明の「シクロフルクタン」は、「組織を通過する薬物透過を促進するため」及び「組織への薬物透過を促進するため」(引用例1の記載事項(イ)の段落【0007】)に使用されるものである。そうすると、引用発明の「シクロフルクタン」及び「薬物」は、技術的にみて、本件補正発明の「混合物」を構成しているといえる。
そして、引用発明の「シクロフルクタン」及び「薬物」は、「ドラッグデリバリーシステム」である「治療コンタクトレンズ」に含まれるものであるから、引用発明は、本件補正発明の「前記コンタクトレンズを形成する前記第1の材料に添加されるか又は組み込まれるかの少なくとも一方である混合物中に組み込まれた抗ムスカリン剤と、を含み」とする要件を満たしている。

(4)引用発明の「ドラッグデリバリーシステム」は、「持続的な薬物送達の相乗効果に改善された医薬透過性を提供する」ものである。そして、治療のために薬物を送達するに際し、「持続的な薬物送達」とは、当然、定められた期間にわたっての薬物送達を意味するといえる。
したがって、引用発明の「ドラッグデリバリーシステム」は、本件補正発明の「前記抗ムスカリン剤が、既定の期間にわたって眼の中に溶出するように構成され」たとする要件を満たしている。

(5)以上より、本件補正発明と引用発明とは、
「近視の進行の抑制、防止、及び/又は制御のうちの少なくとも1つのための眼用レンズであって、第1の材料から形成されたコンタクトレンズと、前記コンタクトレンズを形成する前記第1の材料に添加されるか又は組み込まれるかの少なくとも一方である混合物中に組み込まれた抗ムスカリン剤と、を含み、前記抗ムスカリン剤が、既定の期間にわたって眼の中に溶出するように構成された眼用レンズ。」である点で一致し、以下の点で相違する。
[相違点1]コンタクトレンズが、本件補正発明は、近視制御光学素子を組み込むのに対し、引用発明は、近視抑制光学素子を組み込んでいない点。
[相違点2]本件補正発明は、抗ムスカリン剤が、硫酸アトロピン一水和物と緩衝生理食塩水の溶液を含み、コンタクトレンズが、0.25mgより少ない初期重量の硫酸アトロピン一水和物を含むのに対し、引用発明は、アトロピンが硫酸アトロピン一水和物と緩衝生理食塩水の溶液を含むとされておらず、治療コンタクトレンズに対するアトロピンの初期重量も特定されていない点。

5 判断
(1)[相違点1]について
引用例2の記載事項アには、「近視進行の予防又は遅延に対して有用な眼科レンズ」(段落【0001】)として、「光学ゾーンの中央にある遠用視力度数の範囲と、それを囲む正の球面縦収差を与える少なくとも1つの領域とを有する多焦点レンズ」(段落【0006】)を用いることが記載されている。引用例2の記載事項アに基づけば、本願優先権主張の日前に、近視進行の予防又は遅延に対して有用な眼科レンズとして、近視を抑制する光学素子を用いた眼科レンズが知られていたといえる。また、引用例3の記載事項アには「この眼科用薬物システムは生体模倣認識重合ヒドロゲルから形成されたソフトコンタクトレンズを有し、このコンタクトレンズには、眼に接触している間、持続的に放出される薬物が含浸されている。本発明は、矯正用又は屈折したコンタクトレンズ・・・に適用される。」(段落【0015】)と記載されており、治療用の薬物と光学素子の両方を備えるコンタクトレンズも知られている。
引用発明と引用例2に記載された上記眼科レンズは、いずれも、近視進行の予防や抑制を目的とした眼科レンズである点で共通し、特にコンタクトレンズに用いられるものである点でも共通するものである。そして、治療用の薬物と光学素子を併用することも、従来より知られていたことである。そうすると、近視予防/阻害を目的とした引用発明において、同じ治療目的で従来よりコンタクトレンズに採用されていた、引用例2の近視を抑制する光学素子を採用すること、すなわち、相違点1に係る本件補正発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たものといえる。

(2)[相違点2]について
薬物として使用される「アトロピン」を、硫酸塩として用いることは、周知技術であるといえる。例えば、引用例3の記載事項イには、眼科用の薬剤として「硫酸アトロピン」が記載されており、引用例4の記載事項アにも眼筋調節薬成分として「ヘレニエン硫酸アトロピン」が記載されている(合議体注:「ヘレニエン」は色素であって、視力を向上させる暗順応改善薬「アダプチノール」として使用されるものである。)。また、例えば引用例4の記載事項ア及びイには、薬成分を含有するコンタクトレンズ用装着点眼液において、生理食塩液に対応するよう浸透圧を調整すること及び緩衝剤を用いて生体に適用可能な範囲内のpHに調整することが記載されており、薬物を緩衝生理食塩水の溶液として用いることも周知技術であるといえる。以上のとおり、「アトロピン」を薬物として使用するにあたり、硫酸塩の形態で用いることや、緩衝生理食塩水の溶液とすることは、何れも周知技術である。したがって、引用発明において、アトロピンを硫酸塩及び緩衝生理食塩水の溶液として用いることは、当業者が適宜なし得ることである。なお、引用例1の段落【0043】には、適切な浸透圧となるよう張度を調整するために食塩などの塩類を含めることが記載されており、段落【0044】には、pHの調整のためにバッファーを添加することが記載されている。したがって、引用例1には、薬物について、溶液の浸透圧が生体に適合するように塩類で張度を調整するとともに、pHの緩衝作用を持たせた緩衝生理食塩水とすることが示唆されているともいえる。
また、薬物として使用される「アトロピン」を治療コンタクトレンズに対してどの程度の初期重量で含むものとするかは、治療に必要とされる放出プロファイルが実現されるよう当業者が適宜調整し得ることである。初期重量を多くすれば高濃度で放出され、少なくすれば低濃度で放出されることとなることは自明であり、薬物の放出濃度が高すぎれば副作用が生じ、低すぎれば治療効果が期待できないことも自明である。引用発明における「アトロピン」の治療コンタクトレンズに対する初期重量を、治療に必要とされる放出プロファイルを実現するように、硫酸アトロピン一水和物に換算した際の重量が0.25mgより少ないものとすることは、当業者が適宜なし得ることである。

(3)本件補正発明の効果について
本願明細書の段落【0010】には、「本発明のレンズの具体的な有利点は、光学素子と治療薬との相乗効果による、治療有効性の増大であると共に、これらの治療薬が、眼に適用される0.25mgの治療薬に相当する、溶液中0.5パーセントを超える投与量で利用される場合、瞳孔拡張の結果である視覚的アーチファクトが最小限に抑えられるか又は存在しない、許容可能かつ機能的な調節が維持されることである。」との記載があり、段落【0012】には、「本質的には、近視制御光学素子と共に、近視制御薬剤を低用量で組み合わせることは、その光学素子又は薬剤のいずれかからの潜在的な副作用が個々に低減された、より多大な治療有効性を結果としてもたらす、望ましい効果を生じさせると考えられる。更には、患者は、この装置の光学素子によって提供される、近視の屈折矯正から恩恵を受けるため、アトロピンなどの薬理学的作用剤の局所滴下と比較して、服薬遵守を改善することができる。」との記載がある。上記記載に基づけば、本件補正発明が奏する効果は、光学素子と治療薬との相乗効果による治療有効性の増大、副作用の低減、及び服薬遵守の改善であるといえる。
一方、引用発明は、ドラッグデリバリーシステムとして作用する治療コンタクトレンズであり、薬物が、近視予防/阻害薬であるから、本件補正発明と同様に治療効果を奏するものであって、副作用の低減及び服薬遵守の改善が図られるものといえる。また、引用例2のコンタクトレンズも近視進行の予防又は遅延という効果を奏するものである。そして、本願の明細書には、近視抑制光学素子と治療薬との相乗効果による治療有効性の増大や、コンタクトレンズにおける硫酸アトリピン一水和物の含有量の違いによる治療有効性等について、実施例による効果の確認がなされていないため、相乗効果や数値の臨界的意義を認めることができない。したがって、本件補正発明の効果は、従来知られた効果を足し合わせたものに過ぎず、当業者が予想できない格別なものということはできない。

(4)審判請求人の主張について
審判請求人は、審判請求書の請求の理由において、「近視制御光学素子と0.25mgより少ない初期重量の硫酸アトロピン一水和物との組み合わせは、近視制御光学素子又は硫酸アトロピン一水和物のいずれかからの潜在的な副作用が個々に低減された、より多大な治療有効性を結果としてもたらす、望ましい効果を生じさせることができます(明細書の段落0012を参照)。」とし、「これに対し、引用文献1-7には、近視制御光学素子と少量の硫酸アトロピン一水和物との組み合わせや、その組み合わせがより多大な治療有効性を結果としてもたらすことを開示ないし示唆する記載はありません。」、「本願の請求項1に係る発明と引用文献1-6に記載された発明とでは構成が相違します。その結果、本願の請求項1に係る発明による効果は、引用文献1-6に記載された発明から得ることはできません。」と主張している。また、上申書のB(c)においても「近視制御光学素子と組み合わせて使用するときに最適な硫酸アトロピン一水和物の量は、試行錯誤を繰り返すことにより見出されたものであり、当業者が容易に設定できるものではありません。」と主張している。
上記、審判請求人の主張について検討すると、既に前記(2)に記載したとおり、初期重量をどの程度とするかは、治療に必要とされる放出プロファイルが実現されるよう当業者が適宜調整し得ることである。初期重量を多くすれば高濃度で放出され、少なくすれば低濃度で放出されることとなることは自明であり、治療コンタクトレンズが近視制御光学素子と組み合わせて用いられるものであったとしても、多くの試行錯誤を要するとは考えがたい。また、近視制御光学素子と組み合わせたことにより、当業者の予想を超える格別な効果を奏するとする根拠も見いだせない。

6 補正却下の決定のむすび
以上のとおりであるから、本件補正発明は、引用発明、引用例2の記載事項及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本件発明について
1 本件発明
本件補正は、前記第2のとおり却下されることとなったので、本願の請求項1?6に係る発明は、平成29年5月17日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定されるとおりのものであり、その請求項1に係る発明は、前記第2の1に「本件発明」として記載したとおりである。

2 原査定における拒絶の理由
原査定における拒絶の理由の概要は、本願の請求項1?6に係る発明は、その優先権主張の日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である、引用文献1?7に記載された発明に基づいて、その優先権主張の日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1:特開2009-132671号公報
引用文献2:特表2005-523299号公報
引用文献3:特表2010-528339号公報 (周知技術を示す文献)
引用文献4:特表2008-529606号公報 (周知技術を示す文献)
引用文献5:米国特許出願公開第2011/249234号明細書
(周知技術を示す文献)
引用文献6:特開平6-206820号公報 (周知技術を示す文献)
引用文献7:特開2012-45105号公報 (周知技術を示す文献)

3 引用文献の記載事項及び引用文献に記載された発明
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献の記載事項及び引用文献に記載された発明は、前記第2の3に記載したとおりである。

4 対比・判断
本件発明は、本件補正発明における硫酸アトロピン一水和物の「0.25mgより少ない」とされていた値について、「初期重量」であるとする限定を省いたものである。
そうすると、本件発明の構成要件をすべて含み、さらに限定を付したものに相当する本件補正発明が、前記第2の6に記載したとおり、引用発明、引用例2の記載事項及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明も同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものである。

5 審判請求人の上申書における補正案に基づく主張について
審判請求人は、上申書において、請求項1を以下に示すとおり補正する補正案を提示するとともに、「補正案の請求項1に規定された特徴を有する近視制御光学素子と組み合わせて使用するときに最適な硫酸アトロピン一水和物の量については、引用文献1-8から容易に導き出せるものではありません。」と主張している。
「 [請求項1]
近視の進行の抑制、防止、及び/又は制御のうちの少なくとも1つのための眼用レンズであって、
第1の材料から形成され、かつ近視制御光学素子を組み込む、コンタクトレンズであって、光学ゾーンと非光学的レンズ状ゾーンとを有し、前記光学ゾーンは中央ゾーンと周辺ゾーンを含み、前記中央ゾーンは前記コンタクトレンズの光軸に中心が配置され、前記コンタクトレンズの光学中心から測定される0.5mm?2mmの半径を有し、前記中央ゾーンは-0.5ジオプター?-12.00ジオプターの一定の遠方視力屈折力を有し、前記周辺ゾーンは前記コンタクトレンズの前記光学中心に最も近い最も内側の境界から前記周辺ゾーンの最も外側の境界へ連続的かつ漸進的に増大する正の球面縦収差を提供する、コンタクトレンズと、
前記コンタクトレンズを形成する前記第1の材料に添加されるか又は組み込まれるかの少なくとも一方である混合物中に組み込まれた抗ムスカリン剤と、を含み、前記抗ムスカリン剤が、既定の期間にわたって眼の中に溶出するように構成され、前記抗ムスカリン剤が、硫酸アトロピン一水和物と緩衝生理食塩水の溶液を含み、前記コンタクトレンズが、0.0005mg?0.5mgの硫酸アトロピン一水和物を含む、眼用レンズ。」(以下、「補正案発明」という。なお、下線部は補正箇所を示す。)

上記補正案に基づく審判請求人の主張について検討すると、引用例2の記載事項イに示されるように、コンタクトレンズに組み込まれる近視制御光学素子として、「レンズ10は、光学ゾーン11と非光学のレンズ状ゾーン14とを有」し、「光学ゾーン11は中央ゾーン12と周辺ゾーン13とからな」り、「中央ゾーン12は、レンズの光軸の中心に置かれ、レンズの光軸中心から測定した半径は、約0.5?2mm」であり、「中央ゾーン12内の度数は、実質的に一定の遠用視力度数であ」ること、「周辺ゾーン13は、最も内側の境界14(又はレンズの光軸中心に最も近い境界)からゾーン13の周囲の最も外側の境界15へ移動するにつれて連続的かつ次第に増加する正の球面縦収差を与える」ものであることは、本願の優先権主張の日前に当業者において知られていたことである。そして、中央ゾーン内の遠方視力度数とされる遠方視力屈折率をどの程度とするかは、使用者の視力等に応じて当業者が適宜設定すべき事項であるから、その値を-0.5ジオプター?-12.00ジオプターの範囲内の何れかの値とするかは、当業者が適宜設定し得ることである。また、薬物として使用される「アトロピン」を治療コンタクトレンズに対してどの程度の初期重量で含むものとするかは、既に前記第2の5(2)において検討したとおり、治療に必要とされる放出プロファイルを実現されるよう当業者が適宜調整し得ることである。初期重量を多くすれば高濃度で放出され、少なくすれば低濃度で放出されることとなることは自明であり、所望の放出プロファイルとなるように初期重量を調整することに、何ら困難性を認めることができない。

6 むすび
以上のとおり、本件発明は、引用発明、引用例2の記載事項及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その他の請求項について言及するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-01-30 
結審通知日 2019-02-05 
審決日 2019-02-18 
出願番号 特願2013-157442(P2013-157442)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G02C)
P 1 8・ 121- Z (G02C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 吉川 陽吾福村 拓  
特許庁審判長 中田 誠
特許庁審判官 関根 洋之
宮澤 浩
発明の名称 近視制御光学素子及びムスカリン様作用薬を組み込むレンズ  
代理人 加藤 公延  
代理人 大島 孝文  
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