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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 F16H
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 F16H
管理番号 1353059
審判番号 不服2018-8236  
総通号数 236 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-08-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-06-15 
確定日 2019-07-23 
事件の表示 特願2013-119619号「バックラッシュ調整方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年12月18日出願公開、特開2014-238106号、請求項の数(1)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年6月6日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成28年11月10日付け:拒絶理由の通知
平成29年1月9日 :意見書、手続補正書の提出
平成29年6月2日付け :拒絶理由(最後の拒絶理由)の通知
平成29年7月27日 :意見書、手続補正書の提出
平成29年12月19日付け:拒絶理由の通知
平成30年2月9日 :意見書、手続補正書の提出
平成30年3月28日付け :拒絶査定(以下、「原査定」という。)
平成30年6月15日 :審判請求書の提出
令和1年5月27日付け :拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という
。)の通知
令和1年5月31日 :意見書、手続補正書の提出

第2 原査定の概要
原査定の概要は次のとおりである。
本願の請求項1に係る発明は、以下の引用文献1及び2に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1:米国特許出願公開第2008/0053259号明細書
引用文献2:米国特許出願公開第2010/0275709号明細書

第3 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由の概要は次のとおりである。
本願の請求項1に係る発明は明確でないから、本願の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

第4 本願発明
本願の請求項1に係る発明は、令和1年5月31日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下、「本願発明1」という。)。
「第1ギヤ及び第2ギヤに対し、アイドラギヤが非噛合位置にあるときに、ポリエステル(PET)、ポリカーボネード(PC)、延伸ポリプロピレン(OPP)、ポリエチレン(PE)、トリアセテート(TAC)、ポリイミド(PI)の樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種の材料からなるものであって前記第1ギヤ及び前記第2ギヤの歯面に沿って変形可能なフレキシブル性のフィルムが、前記第1ギヤ及び前記第2ギヤと前記アイドラギヤとの離間空間に差し入れられ、続いて、前記フィルムが、噛合位置に向かう前記アイドラギヤに押動されて各ギヤの歯間に沿って変形させられ、前記アイドラギヤが前記噛合位置に至ることによって前記第1ギヤ及び第2ギヤと前記アイドラギヤとの間に挟持され、その後、前記フィルムが抜き取られることを特徴とするバックラッシュ調整方法。」

第5 引用発明
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1(米国特許出願公開第2008/0053259号明細書)の請求項17には、「第1及び第2ギヤの歯面の間にスペーサを配設すること、並びに、第2の歯車を第1の歯車に対して移動させ、両歯車を各歯面に沿って噛み合わせるとともに (to mesh the gear wheels along their respective tooth faces)、両歯車の歯面間に両歯車のバックラッシュ調整のため前記スペーサを除去可能かつ遊びなく配置するようにすること」より成る方法が記載され、また、段落[0019]?[0022]には、ハウジングに固定された軸を中心に回転可能な第1ギヤ3、第2ギヤ5及び第3ギヤ8からなるギヤセットのバックラッシュの調整するための方法が実施例とともに記載されているところ、段落[0022]には、スペーサ9を構成するエラストマーまたは金属フィルムでなるストリップ11は、手動で又はロボットにより導入され、ギヤ5及び8の噛み合い領域 (the meshing zone) 並びにギヤ5及び3の噛み合い領域において同時にバックラッシュ調整をすることができる長さを有している、との記載がなされている。
上記、引用文献1の請求項17に記載の方法、及び、段落[0019]?[0022]の記載並びに第1図の記載内容からすれば、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。
[引用発明]
「ハウジングに固定された軸を中心に回転可能な第1ギヤ3、第2ギヤ5及び第3ギヤ8からなるギヤセットのバックラッシュの調整するための方法であって、
第1ギヤ3及び第2ギヤ5並びに第2ギヤ5及び第3ギヤ8の歯面間にエラストマー材料のストリップ11から構成されるスペーサ9を導入し、
組立中にその軸と平行な方向に移動することができる第2ギヤ5を、第1ギヤ3及び第3ギヤ8に対して移動させ、第1ギヤ3、第2ギヤ5及び第3ギヤ8の歯面間に遊びなしにスペーサ9を配置し、
その後、スペーサ9を除去することによって、
ギヤセットのバックラッシュを調整するための方法。」

第6 対比・判断
1.対比
本願発明1と引用発明と引用発明とを対比する。
(1)引用発明の「第1ギヤ3」、「第2ギヤ5」及び「第3ギヤ8」は、第2ギヤ5が第1ギヤ3及び第3ギヤ8に噛合していることから、それぞれ本願発明1の「第1ギヤ」、「アイドラギヤ」及び「第2ギヤ」に相当する。
(2)引用発明の「エラストマー材料のストリップ11から構成されるスペーサ9」は、その材質、形状からみるとフレキシブル性があるフィルムであるといえ、本願発明1の「フレキシブル性のフィルム」ないし「フィルム」に相当する。そして、引用発明の「エラストマー材料のストリップ11から構成されるスペーサ9」は、「第1ギヤ3及び第2ギヤ5並びに第2ギヤ5及び第3ギヤ8の歯面間に」「導入され」、「第1ギヤ3、第2ギヤ5及び第3ギヤ8の歯面間に遊びなしに」「配置される」ものであるから、第1ギヤ3及び第2ギヤ5並びに第2ギヤ5及び第3ギヤ8の歯面に沿って変形可能であるといえる。
また、引用発明の「組立中にその軸と平行な方向に移動することができる第2ギヤ5を、第1ギヤ3及び第3ギヤ8に対して移動させ、第1ギヤ3、第2ギヤ5及び第3ギヤ8の歯面間に遊びなしにスペーサ9を配置」することで、スペーサ9は、組立中にその軸と平行な方向に移動することによって噛合位置に向かう第2ギヤ5に押動されて第1ギヤ3及び第3ギヤ8の歯間に沿って変形させられ、第2ギヤ5が噛合位置に至ることによって第1ギヤ3及び第3ギヤ8と第2ギヤ5との間に挟持されるといえる。
(3)上記(1)及び(2)を踏まえると、引用発明の「第1ギヤ3及び第2ギヤ5第2ギヤ5及び第3ギヤ8の歯面間にエラストマー材料のストリップ11から構成されるスペーサ9を導入し、組立中にその軸と平行な方向に移動することができる第2ギヤ5を、第1ギヤ3及び第3ギヤ8に対して移動させ、第1ギヤ3、第2ギヤ5及び第3ギヤ8の歯面間に遊びなしにスペーサ9を配置」することは、本願発明1の「前記第1ギヤ及び前記第2ギヤの歯面に沿って変形可能なフレキシブル性のフィルムが、前記第1ギヤ及び前記第2ギヤと前記アイドラギヤとの離間空間に差し入れられ、続いて、前記フィルムが噛合位置に向かう前記アイドラギヤに押動されて各ギヤの歯間に沿って変形させられ、前記アイドラギヤが前記噛合位置に至ることによって前記第1ギヤ及び第2ギヤと前記アイドラギヤとの間に挟持され」ることとの対比において、「前記第1ギヤ及び前記第2ギヤの歯面に沿って変形可能なフレキシブル性のフィルムが、前記第1ギヤ及び前記第2ギヤと前記アイドラギヤとの間に差し入れられ、続いて、前記フィルムが噛合位置に向かう前記アイドラギヤに押動されて各ギヤの歯間に沿って変形させられ、前記アイドラギヤが前記噛合位置に至ることによって前記第1ギヤ及び第2ギヤと前記アイドラギヤとの間に挟持され」るとの限度で共通する。
(4)引用発明の「その後、スペーサ9を除去すること」は、本願発明1の「その後、前記フィルムが抜き取られること」に相当する。
(5)引用発明の「ハウジングに固定された軸を中心に回転可能な第1ギヤ3、第2ギヤ5及び第3ギヤ8からなるギヤセットのバックラッシュの調整するための方法」ないし「ギヤセットのバックラッシュを調整するための方法」は、本願発明1の「バックラッシュ調整方向」に相当する。
(6)以上のとおりであるから、本願発明1と引用発明との一致点及び相違点は次のとおりとなる。
[一致点]
「第1ギヤ及び第2ギヤに対し、前記第1ギヤ及び前記第2ギヤの歯面に沿って変形可能なフレキシブル性のフィルムが、前記第1ギヤ及び前記第2ギヤと前記アイドラギヤとの間に差し入れられ、続いて、前記フィルムが、噛合位置に向かう前記アイドラギヤに押動されて各ギヤの歯間に沿って変形させられ、前記アイドラギヤが前記噛合位置に至ることによって前記第1ギヤ及び第2ギヤと前記アイドラギヤとの間に挟持され、その後、前記フィルムが抜き取られるバックラッシュ調整方法。」
[相違点1]
本願発明1が、「第1ギヤおよび第2ギヤに対し、アイドラギヤが非噛合位置にあるときに」、「フレキシブル性のフィルムが、前記第1ギヤ及び前記第2ギヤと前記アイドラギヤとの離間空間に差し入れられ」るものであるのに対し、引用発明の、エラストマー材料のストリップ11から構成されるスペーサ9が、第1ギヤ3及び第3ギヤ8と第2ギヤ5との間に差し入れられるときに、第1ギヤ3と第3ギヤ8に対し、第2ギヤ5が非噛合位置にあるか否か特定されていない点。
[相違点2]
本願発明1の「フレキシブル性のフィルム」が、「ポリエステル(PET)、ポリカーボネード(PC)、延伸ポリプロピレン(OPP)、ポリエチレン(PE)、トリアセテート(TAC)、ポリイミド(PI)の樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種の材料からなるもの」であるのに対し、引用発明の「エラストマー材料のストリップ11から構成されるスペーサ9」の材質は、具体的には特定されていない点。

2.判断
上記相違点1について検討する。
引用文献1には、本件発明1において「第1ギヤ及び第2ギヤに対し、アイドラギヤが非噛合位置にあるときに」、「フィルムが、前記第1ギヤ及び前記第2ギヤと前記アイドラギヤとの離間空間に差し入れられ」る点に相当する構成、すなわち、第1ギヤ3及び第3ギヤ8に対し、第2ギヤ5が非噛合位置にあるときに、エラストマー材料のストリップ11から構成されるスペーサ9が、第1ギヤ3及び第3ギヤ8と第2ギヤ5との離間空間に差し入れられる点については、記載されておらず、示唆されているともいえない。
また、上記引用文献1に記載の実施例において、第1ギヤ3及び第3ギヤ8に対する第2ギヤ5の移動は、当該第2ギヤ5が駆動する役割を担うポンプ7を、組付作業中に限界内で (within limits during assembly) 移動させることによって行うものと認められるところ (段落[0019]参照)、そのような態様を前提とし、第2ギヤ5を、第1ギヤ3及び第3ギヤ8に対する非噛合位置と噛合位置との間で移動させ位置調整することを想到するのには、困難性がある。
さらに、原査定の拒絶の理由で引用された引用文献2(米国特許出願公開第2010/0275709号明細書)にも、本件発明1において「第1ギヤ及び第2ギヤに対し、アイドラギヤが非噛合位置にあるときに」、「フィルムが、前記第1ギヤ及び前記第2ギヤと前記アイドラギヤとの離間空間に差し入れられ」る点に相当する構成は、記載も示唆もされていない。
したがって、引用発明において、相違点1に係る本願発明1の構成を想到することは、引用文献1及び2に記載の発明に基いて当業者が容易になし得たものとはいえない。
よって、相違点2について検討するまでもなく、本願発明1は、引用文献1及び2に記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

第7 原査定についての判断
本願発明1は、「第1ギヤ及び第2ギヤに対し、アイドラギヤが非噛合位置にあるときに」、「フィルムが、前記第1ギヤ及び前記第2ギヤと前記アイドラギヤとの離間空間に差し入れられ」るという発明特定事項を有しているところ、かかる発明特定事項は上記「第6」の「2.」で説示のとおり原査定で引用された引用文献1及び2には記載の示唆もされておらず、また、本願出願日前に既に周知であったということもできない。
したがって、本願発明1は当業者が引用文献1及び2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。
よって、原査定を維持することはできない。

第8 当審拒絶理由についての判断
令和1年5月31日にされた手続補正によって、請求項1において、「前記フィルムが抜き取られる」と補正された結果、当審拒絶理由は解消した。
したがって、当審拒絶理由によっては本願を拒絶することはできない。

第9 むすび
以上のとおりであるから、本願発明1は、当業者が引用文献1及び2に記載の発明に基いて容易に発明をすることができたものとはいえず、また、本願発明1は明確であるといえる。
したがって、原査定の理由及び当審拒絶理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-07-08 
出願番号 特願2013-119619(P2013-119619)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (F16H)
P 1 8・ 121- WY (F16H)
最終処分 成立  
前審関与審査官 西藤 直人  
特許庁審判長 大町 真義
特許庁審判官 内田 博之
尾崎 和寛
発明の名称 バックラッシュ調整方法  
代理人 特許業務法人グランダム特許事務所  

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