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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C09D 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 C09D 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C09D 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C09D |
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管理番号 | 1353115 |
異議申立番号 | 異議2018-700622 |
総通号数 | 236 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2019-08-30 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2018-07-27 |
確定日 | 2019-05-17 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6268962号発明「インクジェット捺染用インク及び捺染方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6268962号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?7〕について訂正することを認める。 特許第6268962号の請求項1?7に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6268962号の請求項1?7に係る特許についての出願(以下、各請求項に係る特許を項番号に合わせて「本件特許1」などといい、まとめて「本件特許」という。)についての出願は、平成25年11月15日に出願され、平成30年1月12日にその特許権の設定登録がされ、同年同月31日にその特許掲載公報が発行された。その後、当該発行日から6月以内にあたる同年7月27日に、本件特許1?7に対して、特許異議申立人(柏木里実)により特許異議の申立てがされ、当審は、同年10月29日付けで取消理由を通知した。これに対して、その指定期間内である同年12月27日に、特許権者は意見書の提出及び訂正の請求を行い(以下、当該訂正を「本件訂正」という。)、その訂正の請求に対して、平成31年2月4日に、特許異議申立人は意見書を提出した。 第2 本件訂正の適否についての当審の判断 1 本件訂正の内容(訂正事項1) 本件訂正は、特許法第120条の5第3項及び第4項の規定に従い、一群の請求項を構成する請求項1?7を訂正の単位として訂正することを求めるものであり、その内容(訂正事項1)は、次のとおりである。 ・訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に「pHが5以上9以下であり、」と記載されているのを、「pHが7以上9以下であり、」に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2?7も同様に訂正する。)。 2 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 訂正事項1は、本件特許明細書の【0049】に記載された「本実施の形態に係るインクジェット捺染用インクのpHは、5以上9以下であることが好ましく、7以上8以下であることがより好ましい。インクのpHが上記範囲にあると、インク中の分散染料の分散性や保存安定性が格段に良好となる。」との記載に基づいて、訂正前の請求項1に記載されていたpHの範囲を限定するものであるから、当該訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるとともに、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてなされものであるといえる。また、当該訂正事項1が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことも明らかである。 3 小括 上記1、2のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第3項及び第4項の規定に従い、一群の請求項を構成する請求項1?7について訂正を求めるものであるところ、その訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものに該当し、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?7〕について訂正することを認める。 第3 本件特許請求の範囲の記載 (本件発明) 上記第2のとおり、本件訂正は認容し得るものであるから、本件特許の特許請求の範囲の記載は、本件訂正後の、次のとおりのものである(以下、各請求項に係る発明を「本件発明1」などといい、まとめて「本件発明」という。)。 「【請求項1】 水と、下記一般式(1)で示される構造を有する分散染料2種以上と、を少なくとも含有し、 前記一般式(1)で示される構造を有する分散染料の合計量が染料固形分全体の15質量%以上50質量%未満を占め、かつ、pHが7以上9以下であり、 前記一般式(1)で示される構造を有する2種以上の分散染料のそれぞれが、R^(1)?R^(5)のうちの少なくとも1つをシアノ基又はシアノ基で置換された炭素数1?10のアルキル基とする、インクジェット捺染用インク。 【化4】 ![]() (式(1)中、R^(1)?R^(5)はそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、ヒドロキシ基、シアノ基で置換されていてもよいアルコキシ基、シアノ基及び/又はアルコキシ基で置換されていてもよい炭素数1?10のアルキル基、エステル結合又はアミド結合を有する基である。) 【請求項2】 前記一般式(1)で示される構造を有する分散染料の合計量が染料固形分全体の20質量%以上40質量%以下を占める、請求項1に記載のインクジェット捺染用インク。 【請求項3】 pHが7以上8以下である、請求項1または請求項2に記載のインクジェット捺染用インク。 【請求項4】 前記一般式(1)で示される構造を有する分散染料が、C.I.ディスパースブルー165およびC.I.ディスパースイエロー163の2種であり、 さらに、C.I.ディスパースレッド92、C.I.ディスパースレッド152、C.I.ディスパースレッド154、C.I.ディスパースブルー60およびC.I.ディスパースイエロー114よりなる群から選択される少なくとも1種の分散染料を含有する、請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載のインクジェット捺染用インク。 【請求項5】 ブラックを発色させるためのインクジェット捺染用インクであって、 前記C.I.ディスパースブルー165の含有量が染料固形分全体の2質量%以上10質量%以下を占め、 前記C.I.ディスパースイエロー163の含有量が染料固形分全体の18質量%以上29質量%以下を占め、 前記C.I.ディスパースレッド92の含有量が染料固形分全体の40質量%以上50質量%以下を占める、請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載のインクジェット捺染用インク。 【請求項6】 インクジェット記録装置を用いて、請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載のインクジェット捺染用インクを布帛に吐出して付与するインク付与工程を備えることを特徴とする捺染方法。 【請求項7】 前記インク付与工程に先立って前記布帛に前処理剤を付与する前処理剤付与工程と、前記インク付与工程の後に前記布帛を加熱する熱処理工程と、前記熱処理工程の後に前記布帛を洗浄する洗浄工程と、を備えることを特徴とする請求項6に記載の捺染方法。」 第4 平成30年10月29日付けで通知した取消理由についての当審の判断 1 標記取消理由の概要 本件訂正前の請求項1?7に係る本件特許(本件発明)に対して通知した標記取消理由の要旨は、次のとおりである。 (1) (新規性)本件発明1、2、6、7は、甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するものであるから、本件特許1、2、6、7は、特許法第29条の規定に違反してされたものである(特許法第113条第2号)。 (2) (進歩性)本件発明1?7は、甲第1?5号証に記載された発明及び甲第1?9号証に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許1?7は、特許法第29条の規定に違反してされたものである(特許法第113条第2号)。 (3) (サポート要件)特許請求の範囲の請求項1?3、6、7の記載は特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、本件特許1?3、6、7は、同号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである(特許法第113条第4号)。 (4) (実施可能要件)発明の詳細な説明の記載は特許法第36条第4項第1号に適合するものではないから、本件特許5は、同号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである(特許法第113条第4号)。 2 取消理由(1)、(2)(新規性、進歩性)について (1) 証拠一覧 取消理由(1)、(2)において採用した、特許異議申立人提出の証拠は、以下のとおりである(以下、甲第1号証などを単に「甲1」などという。)。 <主引例> ・甲1:特表2010-513636号公報 ・甲2:特開平11-158402公報 ・甲3:特開平9-176509号公報 ・甲4:特開平10-88049号公報 ・甲5:特開平11-158403号公報 <その他> ・甲6:特開2010-65177号公報 ・甲7:国際公開第2012/067027号 ・甲8:C.I.ディスパースブルー165のJ-GLOBAL検索結果 ・甲9:C.I.ディスパースイエロー163のJ-GLOBAL検索結 果 (2) 主引例とした甲1?5の記載事項 ア 甲1の記載事項 ・「【請求項1】 分散染料混合物であって、 (a)2種以上の式(I)の分散染料 【化1】 ![]() [式中、・・・である] 又は (b)上で定義された式(I)の1種又は複数の分散染料及び1種又は複数の他の分散染料、 を含む分散染料混合物。」 ・「【請求項11】 請求項1?8のいずれか一項に記載の分散染料混合物を含む、インクジェット捺染のためのインキ。」 ・「【0033】 【表1】 ![]() 」 ・「【0035】 【表3】 ![]() 」 ・「【0089】 本発明の分散染料混合物は、上述の材料を、優れたレベルの湿潤堅牢性を有するディープブラックの色調に着色する。 本発明の分散染料混合物は、合成織物材料又は繊維ブレンドに、そのような材料や繊維ブレンドに分散染料を適用する際に従来から使用されているプロセスを用いて、適用することができる。好適なプロセス条件は下記のものから選択することができる: (i)吸尽染色では、pH4?6.5、温度125℃?140℃で10?120分、圧力1?2バール、場合によっては金属イオン封鎖剤を添加; (ii)連続染色では、pH4?6.5、温度190℃?225℃で15秒?5分、場合によっては移染防止剤を添加; (iii)直接捺染では、pH4?6.5、温度160℃?185℃で4?15分間の高温蒸熱処理、又は、温度190℃?225℃で15秒?5分間の乾熱ベーク固着、又は温度120℃?140℃、1?2バールで10?45分間の加圧蒸熱処理で、場合によっては、湿潤剤及び増粘剤(たとえばアルギネート)を染料の5?100重量%添加: (iv)抜染(織物材料の上に染料をパジングし、乾燥し、そしてオーバープリントすることによる)では、pH4?6.5、場合によっては移染防止剤及び増粘剤を添加; (v)キャリヤー染色では、pH4?6.5、温度95℃?100℃で、キャリヤーとしてたとえばメチルナフタレン、ジフェニルアミン又は2-フェニルフェノールを使用し、場合によっては金属イオン封鎖剤(sequestrants)を添加;そして、 (vi)アセテート、トリアセテート及びナイロンの常圧染色では、pH4?6.5、アセテートの場合は温度85℃、トリアセテート及びナイロンの場合には温度90℃で15?90分、場合によっては金属イオン封鎖剤を添加する。 【0090】 上述のプロセスのすべてにおいて、染料混合物は、水性媒体中に本発明の分散染料混合物を0.001重量%?20重量%、好ましくは0.005重量%?16重量%含む分散体として適用する。 上述の適用プロセスに加えて、上記染料混合物は、合成織物材料及び繊維ブレンドに対するインクジェット捺染に適用することもできる。インクジェット染着の場合、その染着媒体には、水、分散剤、殺生物剤、及び水溶性有機溶媒を、重量比で、好ましくは1:99から99:1まで、より好ましくは1:95から50:50まで、特に10:90から40:60までの範囲で含んでいてもよい。好ましい水溶性有機溶媒としては、C_(1?4)-アルカノール、特にメタノール又はエタノール、ケトン、特にアセトン又はメチルエチルケトン、2-ピロリドン又はN-メチルピロリドン、グリコール、特にエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、ブタン-2,3-ジオール、チオジグリコール又はジエチレングリコール、グリコールエーテル、特にエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル又はジエチレングリコールモノメチルエーテル、尿素、スルホン、特にビス-(2-ヒドロキシエチル)スルホン、又はそれらの混合物などが挙げられる。 【0091】 慣用の織物捺染とは対照的に、インクジェット捺染においては、助剤は、別の前処理工程において織物基材に適用しなければならない。織物基材の前処理は、捺染インキを適用したときにモティーフの流動を防止するための、増粘剤、たとえばアルギン酸ナトリウム、変性ポリアクリレート又は高度にエーテル化されたガラクトマンナンを用いて実施される。」 ・「【0104】 実施例5 ポリエステルの織布を、水中に50g/Lの8%アルギン酸ナトリウム溶液、100g/Lの8?12%ガラクトマンナン溶液及び5g/Lのリン酸二水素ナトリウムを含む液を用いて前処理してから、乾燥させた。湿時ピックアップは70%である。 このようにして前処理した織物を、ドロップ・オン・デマンド(バブルジェット(登録商標))インクジェット印刷ヘッドを使用して、 6%の、表7中実施例6による染料混合物 1.5%の分散剤ディスパービク(Disperbyk)190 10%の2-プロパノール 20%のポリエチレングリコール200 0.01%の殺生物剤(biocide)マーガル(Mergal)K9N 62.49%の水 を含む水性インキで捺染する。捺染物は完全に乾燥させる。飽和水蒸気の手段を用い175℃で7分間の加熱により固着させる。 その捺染物を次いで温水洗いをし、95℃の熱水で堅牢洗い(fastness wash)にかけ、温水洗いをし、乾燥させる。 得られたのは、優れた使用堅牢性を有するブラックの色調の捺染物である。 【0105】 表7の染料を混合することによってさらなる本発明の染料混合物が得られたが、表の中の量は重量%である。 【0106】 【表14】 (省略) 【0107】 【表15】 ![]() 」 イ 甲2の記載事項 ・「【請求項1】下記a)黄色系分散染料、b)赤色系分散染料及びc)青色系分散染料の中の少なくとも2種を含有してなる分散染料組成物。 a)黄色系分散染料:下記一般式(I)で示される黄色系化合物群から選ばれる一種以上の化合物および下記一般式(II)で示される化合物群から選ばれる一種以上の化合物の組合せ 一般式(I) 【化1】 ![]() 〔式中、R^(1) 及びR^(2) は、互いに独立に、水素原子又は置換されていてもよい低級アルキル基を表し、R^(3) は、水素原子、ハロゲン原子、置換されていてもよいアミノ基、又は置換されていてもよい低級アルキル基を表し、X^(1) 及びX^(2) は、互いに独立に、水素原子又はハロゲン原子を表す。〕 一般式(II) 【化2】 ![]() 〔式中、R^(4 )及びR^(5) は、互いに独立に水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、低級アルコキシ基、置換されていてもよいスルホニルオキシ基、又は置換されていてもよいカルボニル基を表し、R^(6) は、水素原子又はアルキル基を表す。〕 b)赤色系分散染料:下記一般式(III)で示される赤色系化合物群から選ばれる一種以上の化合物及び下記一般式(IV)で示される化合物群から選ばれる一種以上の化合物の組合せ 一般式(III) 【化3】 ![]() 〔式中、R^(7) 及びR^(8 )は互いに独立に、水素原子又は置換されていてもよい低級アルキル基を表し、R^(9 )は、水素原子、ハロゲン原子、置換されていてもよいアミノ基、又は置換されていてもよい低級アルキル基を表し、X^(3) 及びX^(4) は、互いに独立に、水素原子、ハロゲン原子又はシアノ基を表す。〕 一般式(IV) 【化4】 ![]() 〔式中、R^(10)は、水素原子又は低級アルキル基を表し、R^(11)は水素原子、ハロゲン原子、水酸基、アルキルカルボニルオキシ基、アルキル基、アルコキシ基、スルホニル基、又は-SH基を表すが、アルキル基、アルコキシ基、スルホニル基及び-SH基は置換されていてもよい。〕 c)次に示す(c-1)、(c-2)又は(c-3)の青色系分散染料: (c-1);下記一般式(V)で示される青色系化合物群から選ばれる一種以上の化合物、下記一般式(VI)で示される化合物群から選ばれる一種以上の化合物及び下記一般式(VII) で示される化合物群から選ばれる一種以上の化合物の組合せ (c-2);下記一般式(V)で示される青色系化合物群から選ばれる一種以上の化合物及び下記一般式(VII) で示される化合物群から選ばれる一種以上の化合物の組合せ (c-3);下記一般式(V)で示される青色系化合物群から選ばれる一種以上の化合物及び下記一般式(VI)で示される化合物群から選ばれる一種以上の化合物の組合せ 一般式(V) 【化5】 ![]() 〔式中、R^(12)及びR^(13)は、互いに独立に、水素原子又は置換されていてもよい低級アルキル基を表し、R^(14)は水素原子、ハロゲン原子、置換されていてもよいアミノ基、又は置換されていてもよい低級アルキル基を表し、X^(5) はハロゲン原子を表す。〕 一般式(VI) 【化6】 ![]() 〔式中、Yは、酸素原子又は-NH基を表し、R^(15)は置換されていてもよい低級アルキル基を表す。〕 一般式(VII ) 【化7】 ![]() 〔式中、R^(16)は置換されていてもよいアミノ基を表し、R^(17)、R^(18)及びR^(19)は、互いに独立に、水酸基、アミノ基又はニトロ基を表し、R^(20)は、水素原子、ハロゲン原子又は置換されていてもよいフェニル基を表す。〕」 ・「【請求項2】請求項1に記載の組成物を用いることを特徴とする疎水性材料の着色方法。」 ・「【0041】本発明組成物は、疎水性材料の着色に用いられ、例えば、疎水性繊維材料を染色又は捺染する分散染料として有用である。該疎水性繊維材料としては、例えば、ポリエステル、ジアセテート、トリアセテート、ポリアミド又はポリカーボネート等の疎水性繊維材料、これらの混紡品や交織品、さらには、セルロース系繊維、羊毛及び絹等の天然繊維と、先に例示した材料或いは混紡品や交織品との混紡交織品等が挙げられる。」 ・「【0045】また、染料分散液を布にパディングした後、100℃以上でスミーミングや乾熱処理する染色方法も可能である。捺染の場合は、染色分散液を適当な糊剤と共に練り合わせ、これを布に印捺した後、スチーミングまたは乾熱処理を行う。また、インクジェット方式によって捺染することもできる。」 ・「【0063】 【化21】 ![]() 」 ・「【0068】 【化25】 ![]() 」 ・「【0070】 【化26】 ![]() 」 ・「【0071】 【化27】 ![]() 」 ・「【0073】実施例4?7 下記表1に記載の配合割合で、化合物(7) 、(8) 及び(9) からなる黄色分散染料、化合物(10)、(11)及び(4) からなる赤色分散染料、並びに、化合物(12)、(13)及び(6) からなる青色分散染料の各分散染料30%と、アニオン系分散剤からなるビルダー70%とからなる調合物を各染浴中に配合し、各々、水1000部中に分散させ、酢酸と酢酸ソーダを添加してpH5に調整した染浴を作製し、この各染浴に極細繊維トレシー〔東レ(株)製〕100 部を浸し、実施例1と同様に染色した。得られた染色物は、各色相において、斑のない均一で、濃色のものであった。又、湿潤堅牢度及び耐光堅牢度は良好なものであった。 【0074】 【表1】 ![]() 」 ウ 甲3の記載事項 ・「【請求項1】下記黄色系分散染料、青色系分散染料および赤色系分散染料とを含有してなる分散染料組成物。 黄色系分散染料:下記一般式(I)で示される化合物群から選ばれる一種以上の化合物および下記一般式(II)で示される化合物群から選ばれる一種以上の化合物の組合せ 一般式(I) 【化1】 ![]() 〔式中、X^(1) およびX^(2 )は、互いに独立にハロゲン原子を表し、R^(1) およびR^(2)は、互いに独立に水素原子、シアノ基、アセトキシ基またはフェノキシ基を表す。〕 一般式(II) 【化2】 ![]() 〔式中、R^(3) およびR^(4) は、互いに独立に水素原子、C_(1-4) アルキル基またはフェニル基を表し、R^(5) は水素原子またはC_(1-4 )アルキル基を表す。〕 青色系分散染料:下記一般式(III)で示される化合物群から選ばれる一種以上の化合物及び下記一般式(IV)で示される化合物群から選ばれる一種以上の化合物の組合せ 一般式(III) 【化3】 ![]() 〔式中、Y^(1) およびY^(2 )の一方はOH、他方はNHR^(6) を表し、R^(6 )は、ハロゲン原子、ヒドロキシC_(1-3) アルキル基、C_(1-3) アルキルスルホニル基、C_(1-3 )アルキルカルボニルオキシ基またはフェニルカルボニルオキシ基で置換されていてもよいフェニル基を表す。〕 一般式(IV) 【化4】 ![]() 〔式中、Y^(3 )は、メチル基またはNHCOR^(9 )を表し、ここにR^(9) はC_(1-3) のアルキル基を表し、R^(7 )およびR^(8 )は、互いに独立にフェニル基で置換されていてもよいC_(1-4 )アルキル基を表す。〕 赤色系分散染料:下記一般式(V)で示される化合物群から選ばれる一種以上の化合物および下記一般式(VI)で示される化合物群から選ばれる一種以上の化合物の組合せ 一般式(V) 【化5】 ![]() 〔式中、R^(10)は、ヒドロキシ基、フェノキシカルボニル基若しくはC_(1-3) アルコキシカルボニルC_(1-3) アルキル基で置換されていてもよいC_(1-4) アルキル基、またはC_(1-3 )アルキル基、C_(1-3)アルコキシ基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、C_(1-3 )アルキルカルボニルオキシ基、C_(1-3) アルコキシカルボニルC_(1-3) アルコキシ基若しくはC_(1-3 )アルコキシC_(1-3) アルキルアミノスルホニル基で置換されていてもよいフェニル基を表す。〕 一般式(VI) 【化6】 ![]() 〔式中、Z^(1) は、ハロゲン原子を表し、R^(11)はC_(1-4) アルキル基またはフェニル基を表し、R^(12)およびR^(13)は、互いに独立にアセトキシ基、シアノ基、C_(1-4 )アルコキシC_(1-4 )アルコキシカルボニル基またはC_(1-4 )アルコキシC_(1-4 )アルコキシ基を表す。〕」 ・「【請求項2】請求項1記載の組成物を用いることを特徴とする疎水性材料の着色方法。」 ・「【0041】また、染料分散液を布にパディングした後、100℃以上でスミーミングや乾熱処理する染色方法も可能である。捺染の場合は、染色分散液を適当な糊剤と共に練り合わせ、これを布に印捺した後、スチーミングまたは乾熱処理を行う。また、インクジェット方式によって捺染することもできる。」 ・「【0048】 【化26】 ![]() 」 ・「【0052】 【化27】 ![]() 」 ・「【0059】実施例4?7 下記表4に記載の配合割合で化合物(1)と化合物(2)からなる黄色分散染料組成物、化合物(3)と化合物(4)からなる青色分散染料組成物および化合物(5)と化合物(6)からなる赤色分散染料組成物の各染料原体30%とアニオン系分散剤からなるビルターを含む分散染料調合物を各染浴中に配合し、各々水1000mlに分散させ、酢酸と酢酸ナトリウムを添加して、pH5に調整し、染浴を作成した。この各染浴にテトロントロピカル(ポリエステル布東レ(株)製品)100gを浸し、実施例1と同様に染色した。各染色物はすべて斑のない均一でそれぞれの色相で濃色の染色物として得られ、それらの耐光性は実施例1と同じ方法で判定した。その結果を表4に示す。 【0060】 【表4】 ![]() 」 ・「【0070】実施例15?23 実施例4中の式(5)および(6)の染料の代わりに表7に示す染料調合物(化合物として30%含有)を用い、更に下記式(9) 【0071】 【化31】(省略) 【0072】に示す紫外線吸収剤分散液2g(紫外線吸収剤40%、アニオン系分散剤40%、水20%から成る混合物)を併用し、実施例1と同様の方法で染色し、エンジ色の染色物を得た。実施例1と同様に耐光堅牢度試験をしたところ、表7に示すように実施例15?23の染色布の耐光堅牢度は、優れたものであった。 【0073】 【表7】 ![]() 」 エ 甲4の記載事項 ・「【請求項1】 水性媒体、並びに下記一般式〔I〕及び/又は〔II〕で示される染料の1種以上、及び〔III 〕で示される染料の1種以上を含む疎水性繊維用のインクジェットプリント用インク組成物。 【化1】 ![]() (式中、X^(1) はニトロ基又は、シアノ基を表わし、Y^(1 )はハロゲン原子を表わし、Z^(1) は水素原子又は、炭素数1?4のアルコキシ基を表わし、W^(1) は炭素数1?4のアルコキシ基又は、炭素数1?5のアシルアミノ基を表わし、R^(1 )及びR^(2) は互に独立に炭素数1?4のアルコキシ基で置換されていてもよい炭素数1?4のアルキル基を表わす。) 【化2】 ![]() (式中、X^(2 )及びY^(2 )はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1?4のアルキル基、炭素数1?4のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、又はシアノ基を表わす。Z^(2 )及びW^(2 )はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1?4のアルキル基、炭素数1?4のアルコキシ基、又は炭素数1?5のアシルアミノ基を表わす。R^(3) 及びR^(4) はそれぞれ独立にハロゲン原子、シアノ基、炭素数1?4のアルコキシ基、炭素数2?8のアルコキシアルコキシ基もしくは炭素数1?9のアシルオキシ基で置換されていてもよい炭素数1?4のアルキル基、または水素原子を表わす。) 【化3】 ![]() (式中、Pはニトロ基又はシアノ基を表わし、Q^(1) 及びQ^(2) はそれぞれ独立に炭素数1?4のアルキル基、又はハロゲン原子を表わし、W^(3) 及びZ^(3) はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1?4のアルキル基、又はハロゲン原子を表わす。R^(5) 及びR^(6 )はそれぞれ独立にハロゲン原子、シアノ基、炭素数1?4のアルコキシ基、炭素数2?8のアルコキシアルコキシ基、又は炭素数2?8のアシルオキシ基で置換されていてもよい炭素数1?4のアルキル基を表わす。)」 ・「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明はインクジェットプリント用インク組成物に関するものである。特にポリエステル、アセテート、ポリアミド等の疎水性繊維からなる織布や不織布、あるいはこれらの繊維と他の繊維からなる混紡織布を濃い黒色の染色(特には捺染)するのに適したインクジェットプリント用インク組成物に関する。」 ・「【0013】 【化8】 ![]() 」 ・「【0016】 【化11】 ![]() 」 ・「【0021】本発明のインク組成物に、その全量に対して0.1?10重量%、好ましくは0.5?5重量%の尿素、チオ尿素、ビウレット、セミカルバジドから選ばれる化合物を添加してもよく、又0.001?5.0重量%の界面活性剤を添加することによってインク組成物の安定性が向上する。又、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースのような水溶性樹脂等の粘度調整剤を含有させることにより、繊維を染色した際のにじみ等を調整することも可能である。その他、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等の表面張力調整剤、緩衝液等のpH調整剤、消泡剤、防カビ剤も含んでいてよい。インク組成物の23℃における粘度としては1.5?8cps(センチポイズ)、好ましくは2?6cpsの範囲が挙げられ、表面張力としては、30?60dyn/cm、好ましくは35?55dyn/cmの範囲が挙げられ、pHは4?9の範囲が挙げられる。」 ・「【0023】本発明のインク組成物を用いて、繊維にインクジェット記録する方法としては、従来公知のビエゾ圧電素子を用いた方法あるいは熱エネルギーの作用による方法等の、オンデマンド型のインクジェット記録方法がよい。又、繊維上に付与されたインク組成物は、インクジェット記録方式により繊維に付着させた後、引き続き繊維への染料の固着、発色及び未染着色素の除去を目的とした処理を施す必要がある。」 オ 甲5の記載事項 ・「【請求項1】下記のa)黄色系分散染料及びc)青色系分散染料の中の少なくとも1種と 、b)赤色系分散染料とを含有してなる分散染料組成物。 a)黄色系分散染料:下記一般式(I)で示される黄色系化合物群から選ばれる一種以上の化合物および下記一般式(II)で示される化合物群から選ばれる一種以上の化合物の組合せ 一般式(I) 【化1】 ![]() 〔式中、R^(1) 及びR^(2) は、互いに独立に、水素原子又は置換されていてもよい低級アルキル基を表し、R^(3) は、水素原子、ハロゲン原子、置換されていてもよいアミノ基、又は置換されていてもよい低級アルキル基を表し、X^(1 )及びX^(2) は、互いに独立に、水素原子又はハロゲン原子を表す。〕 一般式(II) 【化2】 ![]() 〔式中、R^(4 )及びR^(5 )は、互いに独立に水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、低級アルコキシ基、置換されていてもよいスルホニルオキシ基、又は置換されていてもよいカルボニル基を表し、R^(6) は、水素原子又はアルキル基を表す。〕 b)赤色系分散染料:下記一般式(III)で示される赤色系化合物群から選ばれる一種以上の化合物及び下記一般式(IV)で示される化合物群から選ばれる一種以上の化合物の組合せ 一般式(III) 【化3】 ![]() 〔式中、R^(7 )は水酸基、低級アルコキシ基及び低級アルキルカルボニルオキシ基からなる群より選ばれる置換基で置換されていてもよいメチレン基或いは直鎖又は分岐状のアルキレン基を表し、Qは置換されていてもよい5員もしくは6員の飽和又は不飽和の複素環残基を表す。〕 一般式(IV) 【化4】 ![]() 〔式中、R^(10)は、水素原子又は低級アルキル基を表し、R^(11)は水素原子、ハロゲン原子、水酸基、アルキルカルボニルオキシ基、アルキル基、アルコキシ基、スルホニル基、又は-SH基を表すが、アルキル基、アルコキシ基、スルホニル基及び-SH基は置換されていてもよい。〕 c)次に示す(c-1)、(c-2)又は(c-3)の青色系分散染料: (c-1);下記一般式(V)で示される青色系化合物群から選ばれる一種以上の化合物、下記一般式(VI)で示される化合物群から選ばれる一種以上の化合物及び下記一般式(VII) で示される化合物群から選ばれる一種以上の化合物の組合せ (c-2);下記一般式(V)で示される青色系化合物群から選ばれる一種以上の化合物及び下記一般式(VII) で示される化合物群から選ばれる一種以上の化合物の組合せ (c-3);下記一般式(V)で示される青色系化合物群から選ばれる一種以上の化合物及び下記一般式(VI)で示される化合物群から選ばれる一種以上の化合物の組合せ 一般式(V) 【化5】 ![]() 〔式中、R^(12)及びR^(13)は、互いに独立に、水素原子又は置換されていてもよい低級アルキル基を表し、R^(14)は水素原子、ハロゲン原子、置換されていてもよいアミノ基、又は置換されていてもよい低級アルキル基を表し、X^(5) はハロゲン原子を表す。〕 一般式(VI) 【化6】 ![]() 〔式中、Yは、酸素原子又は-NH基を表し、R^(15)は置換されていてもよい低級アルキル基を表す。〕 一般式(VII ) 【化7】 ![]() 〔式中、R^(16)は置換されていてもよいアミノ基を表し、R^(17)、R^(18)及びR^(19)は、互いに独立に、水酸基、アミノ基又はニトロ基を表し、R^(20)は、水素原子、ハロゲン原子又は置換されていてもよいフェニル基を表す。〕」 ・「【請求項2】請求項1に記載の組成物を用いることを特徴とする疎水性材料の着色方法。」 ・「【0044】疎水性繊維材料を染色するにあたっては、本発明組成物を水性媒体中に分散させた染色浴に、必要に応じてpH調整剤、分散均染剤などを加えた後、繊維材料を浸漬して、加圧下105℃以上、好ましくは110?140℃で30?60分間染色する。この染色時間は染着の状態により短縮または延長することができる。また、o-フェニルフェノールやメチルナフタレンなどのキャリヤーの存在下で比較的低温、たとえば水の沸騰状態で染色することもできる。 【0045】また、染料分散液を布にパディングした後、100℃以上でスミーミングや乾熱処理する染色方法も可能である。捺染の場合は、染色分散液を適当な糊剤と共に練り合わせ、これを布に印捺した後、スチーミングまたは乾熱処理を行う。また、インクジェット方式によって捺染することもできる。」 ・「【0063】 【化21】 ![]() 」 ・「【0069】 【化25】 ![]() 」 ・「【0070】 【化26】 ![]() 」 ・「【0072】実施例4?7 下記表1に記載の配合割合で、化合物(7) 、(8) 及び(9) からなる黄色分散染料、化合物(10)及び(4) からなる赤色分散染料、並びに、化合物(12)、(13)及び(6) からなる青色分散染料の各分散染料30%と、アニオン系分散剤からなるビルダー70%とからなる調合物を各染浴中に配合し、各々、水1000部中に分散させ、酢酸と酢酸ソーダを添加してpH5に調整した染浴を作製し、この各染浴に極細繊維トレシー〔東レ(株)製〕100 部を浸し、実施例1と同様に染色した。得られた染色物は、各色相において、斑のない均一で、濃色のものであった。又、湿潤堅牢度及び耐光堅牢度は良好なものであった。 【0073】 【表1】 ![]() 」 (3) 甲1を主引例とする新規性・進歩性の判断(本件発明1、2、6、7に対して) ア 甲1発明 甲1の【0107】【表15】(表7のつづき)には、実施例37として、「染料I-2」及び「染料I?22」(これらの化合物の詳細は、【請求項1】の式(I)、【0033】【表1】及び【0035】【表3】を参酌のこと)を、それぞれ29重量%及び10重量%含有する染料混合物が記載されており、当該染料混合物は、【0104】に記載された実施例5と同様の、インクジェット印刷ヘッドを使用した捺染方法(具体的には、実施例5の「実施例6による染料混合物」に代えて、「実施例37による染料混合物」を用いる捺染方法)に供されるものと解される。 そうすると、甲1には、次の発明(まとめて、「甲1発明」ということがある。)が記載されているといえる。 ・上記実施例37による染料混合物を用いて、上記実施例5と同様に調合された水性インキ(以下、「甲1インキ」という。) ・「甲1インキ」を用いて、上記実施例5と同様に、インクジェット印刷ヘッドを使用して捺染する捺染方法(以下、「甲1捺染方法」という。) イ 本件発明1、2について(「甲1インキ」との対比・検討) 本件発明1と「甲1インキ」とを対比すると、「甲1インキ」における「染料I-2」及び「染料I?22」は、いずれも本件発明1における一般式(1)の構造を有するものであり、それらの含有量についても、本件発明1の規定を満たすものである。 そうすると、両者は、分散染料の種類及び含有量において一致し、また、インクジェット方式による捺染に使用可能である点で共通するものの、本件発明1は、pHが7以上9以下であるのに対して、「甲1インキ」は、pHが不明である点で相違する。 そこで、当該相違点について検討すると、甲1は、pHについて、その【0089】の(iii)に、「直接捺染では、pH4?6.5」と記載しており、pHが7以上9以下となる蓋然性は低く、さらに、「甲1インキ」のpHとして、本件発明1が規定する数値範囲を選択することを動機付ける記載は見当たらない。 そして、本件発明1は、pHを最適化することにより、分散性及び保存安定性が課題とされていた(本件特許明細書の【0006】参照)、上記一般式(1)で示される構造を有する分散染料を用いた場合にあっても、当該分散染料のインク中における分散性および保存安定性が良好となるという有意な効果(本件特許明細書の【0049】参照)を奏するものである。 したがって、上記pHに関する相違点は実質的な相違点であり、また、当該相違点に係る本件発明1の構成は、当業者が容易に想到し得るものとは認められないから、本件発明1は、「甲1インキ」に対して新規性及び進歩性を有するものである。 さらに、本件発明2は、本件発明1の発明特定事項をすべて具備するものであるから、本件発明1と同様の理由により、「甲1インキ」に対して新規性及び進歩性を有するものである。 なお、本件発明1の発明特定事項をすべて具備する本件発明3?5についても同様である。 ウ 本件発明6、7について(「甲1捺染方法」との対比・検討) 上記イにおいて検討したとおり、本件発明6、7に係る捺染方法において用いるインクジェット捺染用インク、すなわち、本件発明1は、「甲1捺染方法」において用いる「甲1インキ」に対して新規性及び進歩性を有するのであるから、本件発明6、7も、「甲1捺染方法」に対して、新規性又は進歩性を有するものである。 (4) 甲2を主引例とする進歩性(本件発明1?3、6、7に対して) ア 甲2発明 甲2の【請求項1】、【請求項2】には、「a)黄色系分散染料、b)赤色系分散染料及びc)青色系分散染料の中の少なくとも2種を含有してなる分散染料組成物。」(各分散染料の詳細は省略)、及び、「請求項1に記載の組成物を用いることを特徴とする疎水性材料の着色方法。」が記載され、【0041】、【0045】には、「本発明組成物は、疎水性材料の着色に用いられ、例えば、疎水性繊維材料を染色又は捺染する分散染料として有用である。」、及び、「インクジェット方式によって捺染することもできる。」との記載がある。 そして、【0074】【表1】には、染色の実施例ではあるが、実施例4として、「化合物(7)」、「化合物(11)」、「化合物(12)」、「化合物(13)」などを配合した分散染料が、また、実施例7として、「化合物(7)」、「化合物(11)」などを配合した分散染料が、それぞれ記載されている(特に、化合物(7)、(11)?(13)の詳細については、【0063】、【0068】、【0070】及び【0071】参照)。 そうすると、甲2には、次の発明(まとめて、「甲2発明」ということがある。)が記載されているといえる。 ・特定の黄色系分散染料、赤色系分散染料及び青色系分散染料の中の少なくとも2種を含有してなる分散染料組成物であって、インクジェット方式による捺染にも使用可能であり、具体例として、上記実施例4又は実施例7のとおり配合した分散染料を含むもの(以下、「甲2分散染料組成物」という。) ・「甲2分散染料組成物」を用いることを特徴とする疎水性材料の着色方法であって、具体例として、インクジェット方式によって捺染することを含むもの(以下、「甲2着色方法」という。 イ 本件発明1?3について(「甲2分散染料組成物」との対比・検討) 本件発明1と「甲2分散染料組成物」とを対比すると、「甲2分散染料組成物」の「具体例として、上記実施例4又は実施例7のとおり配合した分散染料」における「化合物(7)」、「化合物(11)」、「化合物(12)」、「化合物(13)」は、いずれも本件発明1における一般式(1)の構造を有するものであり、また、それらの含有量は、本件発明1の規定を満たすものである。 そうすると、両者は、分散染料の種類及び含有量において一致し、また、インクジェット方式による捺染に使用可能である点で共通するものの、本件発明1は、pHが7以上9以下であるのに対して、「甲2分散染料組成物」は、pHが不明である点で相違する。 そこで、当該相違点について検討すると、捺染の場合のインクのpHに関し、甲1の【0089】、甲4の【0021】には、4?6.5あるいは4?9という、一部、本件発明1のpHの範囲に重複する数値範囲が記載されている。しかしながら、その数値範囲の中から本件発明1が規定する数値範囲を選択することを動機付ける記載は見当たらない。 そして、本件発明1は、上述したように、pHを最適化することにより、分散性及び保存安定性が課題とされていた(本件特許明細書の【0006】参照)、上記一般式(1)で示される構造を有する分散染料を用いた場合にあっても、当該分散染料のインク中における分散性および保存安定性が良好となるという有意な効果(本件特許明細書の【0049】参照)を奏するものである。 したがって、上記相違点に係る本件発明1の構成は、当業者が容易に想到し得るものとは認められないから、本件発明1は、「甲2分散染料組成物」に対して進歩性を有するものである。 さらに、本件発明2、3は、本件発明1の発明特定事項をすべて具備するものであるから、本件発明1と同様の理由により、「甲2分散染料組成物」に対して進歩性を有するものである。 なお、本件発明1の発明特定事項をすべて具備する本件発明4、5についても同様である。 ウ 本件発明6、7について(「甲2着色方法」との対比・検討) 上記イにおいて検討したとおり、本件発明6、7に係る捺染方法において用いるインクジェット捺染用インク、すなわち、本件発明1は、「甲2着色方法」において用いる「甲2分散染料組成物」に対して進歩性を有するのであるから、本件発明6、7も、「甲2着色方法」に対して進歩性を有するものである。 (5) 甲3又は甲5を主引例とする進歩性(甲3は本件発明1?7に対して、甲5は本件発明1?3、6、7に対して) ア 甲3発明及び甲5発明 甲3及び甲5は、いずれも上記甲2と類似する文献であるところ、甲3の【請求項1】、【請求項2】には、「黄色系分散染料、青色系分散染料および赤色系分散染料とを含有してなる分散染料組成物。」(各分散染料の詳細は省略)、及び、「請求項1に記載の組成物を用いることを特徴とする疎水性材料の着色方法。」が記載され、【0041】には、「インクジェット方式によって捺染することもできる。」との記載がある。そして、甲3の【0060】【表4】には、染色の実施例ではあるが、実施例5、6として、「化合物(1)」及び「化合物(4)」などを配合した分散染料が記載されている(各化合物の詳細については、【0048】及び【0052】参酌)。 また、甲5の【請求項1】、【請求項2】には、「黄色系分散染料及び青色系分散染料の中の少なくとも1種と、赤色系分散染料とを含有してなる分散染料組成物。」(各分散染料の詳細は省略)、及び、「請求項1に記載の組成物を用いることを特徴とする疎水性材料の着色方法。」が記載され、【0045】には、「インクジェット方式によって捺染することもできる。」との記載がある。そして、甲5の【0073】【表1】には、染色の実施例ではあるが、実施例5、6として、「化合物(7)」、「化合物(12)」及び「化合物(13)」などを配合した分散染料が記載されている(各化合物の詳細については、【0063】、【0069】及び【0070】参酌)。 そうすると、甲3には、次の発明(まとめて、「甲3発明」ということがある。)が記載されているといえる。 ・特定の黄色系分散染料、青色系分散染料および赤色系分散染料とを含有してなる分散染料組成物であって、インクジェット方式による捺染にも使用可能であり、具体例として、上記実施例5又は実施例6のとおり配合した分散染料を含むもの(以下、「甲3分散染料組成物」という。) ・「甲3分散染料組成物」を用いることを特徴とする疎水性材料の着色方法であって、具体例として、インクジェット方式によって捺染することを含むもの(以下、「甲3着色方法」という。 また、甲5には、次の発明(まとめて、「甲5発明」ということがある。)が記載されているといえる。 ・特定の黄色系分散染料及び青色系分散染料の中の少なくとも1種と、赤色系分散染料とを含有してなる分散染料組成物であって、インクジェット方式による捺染にも使用可能であり、具体例として、上記実施例5又は実施例6のとおり配合した分散染料を含むもの(以下、「甲5分散染料組成物」という。) ・「甲5分散染料組成物」を用いることを特徴とする疎水性材料の着色方法であって、具体例として、インクジェット方式によって捺染することを含むもの(以下、「甲5着色方法」という。 イ 本件発明1?5について(「甲3分散染料組成物」又は「甲5分散染料組成物」との対比・検討) 本件発明1と「甲3分散染料組成物」又は「甲5分散染料組成物」とを対比すると、「甲3分散染料組成物」の「具体例として、上記実施例5又は実施例6のとおり配合した分散染料」における「化合物(1)」及び「化合物(4)」、並びに、「甲5分散染料組成物」の「具体例として、上記実施例5又は実施例6のとおり配合した分散染料」における「化合物(7)」「化合物(12)」及び「化合物(13)」は、いずれも本件発明1における一般式(1)の構造を有するものであり、それらの含有量は、本件発明1の規定を満たすものである。 そうすると、両者は、分散染料の種類及び含有量において一致し、また、インクジェット方式による捺染に使用可能である点で共通するものの、本件発明1は、pHが7以上9以下であるのに対して、「甲3分散染料組成物」又は「甲5分散染料組成物」は、pHが不明である点で相違する。 そこで、当該相違点について検討すると、上述したように、甲1及び甲4には、本件発明1が規定する数値範囲を選択することを動機付ける記載は見当たらない。 そして、本件発明1は、上述したように、pHを最適化することにより、分散性及び保存安定性が課題とされていた(本件特許明細書の【0006】参照)、上記一般式(1)で示される構造を有する分散染料を用いた場合にあっても、当該分散染料のインク中における分散性および保存安定性が良好となるという有意な効果(本件特許明細書の【0049】参照)を奏するものである。 したがって、上記相違点に係る本件発明1の構成は、当業者が容易に想到し得るものとは認められないから、本件発明1は、「甲3分散染料組成物」又は「甲5分散染料組成物」に対して進歩性を有するものである。 さらに、本件発明2?5は、本件発明1の発明特定事項をすべて具備するものであるから、本件発明1と同様の理由により、「甲3分散染料組成物」又は「甲5分散染料組成物」に対して進歩性を有するものである。 ウ 本件発明6、7について(「甲3着色方法」又は「甲5着色方法」との対比・検討) 上記イにおいて検討したとおり、本件発明6、7に係る捺染方法において用いるインクジェット捺染用インク、すなわち、本件発明1は、「甲3着色方法」又は「甲5着色方法」において用いる「甲3分散染料組成物」又は「甲5分散染料組成物」に対して進歩性を有するのであるから、本件発明6、7も、「甲3着色方法」又は「甲5着色方法」に対して進歩性を有するものである。 (6) 甲4を主引例とする進歩性(本件発明1?3、6、7に対して) ア 甲4発明 甲4の【請求項1】には、「水性媒体、並びに一般式〔I〕及び/又は〔II〕で示される染料の1種以上、及び〔III 〕で示される染料の1種以上を含む疎水性繊維用のインクジェットプリント用インク組成物。」(一般式の構造は省略)が記載され、当該一般式〔I〕で示される染料として「I-5の化合物」(【0013】)が、また、〔III〕で示される染料として、「III?1の化合物」(【0016】)が、それぞれ例示され、pHについても「4?9の範囲が挙げられる。」(【0021】)と記載されている。 また、甲4の【0023】(さらに【0001】)の記載からみて、上記インクジェットプリント用インク組成物を用いて捺染する捺染方法についても記載されているといえる。 そうすると、甲4には、次の発明(まとめて、「甲4発明」ということがある。)が記載されているといえる。 ・水性媒体、並びに一般式〔I〕及び/又は〔II〕で示される染料の1種以上、及び〔III 〕で示される染料の1種以上を含む疎水性繊維用のインクジェットプリント用インク組成物であって、一般式〔I〕及び〔III〕で示される染料の具体例として「I-5の化合物」及び「III?1の化合物」を含み、pHが4?9のもの(以下、「甲4インク」という。) ・「甲4インク」を用いて捺染する捺染方法(以下、「甲4捺染方法」という。) イ 本件発明1について(「甲4インク」との対比・検討) 本件発明1と「甲4インク」とを対比すると、「甲4インク」における「I-5の化合物」、「III?1の化合物」は、いずれも本件発明1における一般式(1)の構造を有するものである。 そうすると、両者は、分散染料の種類において一致し、また、インクジェット方式による捺染に使用可能である点で共通するものの、本件発明1は、pHが7以上9以下であるのに対して、「甲4インク」のpHは、4?9である点、及び、本件発明1は、一般式(1)で示される構造を有する分散染料の合計量が染料固形分全体の15質量%以上50質量%未満であるのに対して、「甲4インク」は当該合計量が不明である点で、両者は相違するといえる。 そこで、これらの相違点について検討すると、「甲4インク」のpHに、一部、本件発明1の規定と重複する部分が存在するが、上述したように、甲4及び他の証拠には、本件発明1が規定する数値範囲を選択することを動機付ける記載は見当たらない。また、甲4及び他の証拠を仔細にみても、特定構造の分散染料の合計量を、本件発明1が規定する範囲とすることを想起させる記載ないし示唆を見いだすことはできない。 そして、本件発明1は、上述したように、pHを最適化することにより、分散性及び保存安定性が課題とされていた(本件特許明細書の【0006】参照)、上記一般式(1)で示される構造を有する分散染料を用いた場合にあっても、当該分散染料のインク中における分散性および保存安定性が良好となるという有意な効果(本件特許明細書の【0049】参照)を奏するものであり、また、特定構造の分散染料の合計量を最適化することにより、耐光性に優れた捺染物が得られやすく、白場汚染を効果的に抑制することができるという有意な効果(本件特許明細書の【0038】参照)を奏するものである。 したがって、これらの相違点に係る本件発明1の構成は、当業者が容易に想到し得るものとは認められないから、本件発明1は、「甲4インク」に対して進歩性を有するものである。 さらに、本件発明2、3は、本件発明1の発明特定事項をすべて具備するものであるから、本件発明1と同様の理由により、「甲4インク」に対して進歩性を有するものである。 なお、本件発明1の発明特定事項をすべて具備する本件発明4、5についても同様である。 ウ 本件発明6、7について(「甲4捺染方法」との対比・検討) 上記イにおいて検討したとおり、本件発明6、7に係る捺染方法において用いるインクジェット捺染用インク、すなわち、本件発明1は、「甲4捺染方法」において用いる「甲4インク」に対して進歩性を有するのであるから、本件発明6、7も、「甲4捺染方法」に対して進歩性を有するものである。 (7) 取消理由(1)、(2)についての小括 以上のとおり、本件発明1?7は、甲1発明ないし甲5発明に対して、新規性及び進歩性を有するものであるから、本件特許1?7に、上記取消理由(1)、(2)は存しない。 3 取消理由(3)(サポート要件)についての判断(請求項1?3、6、7に対して) (1) 具体的な指摘事項 標記取消理由において指摘した事項はおおむね次のとおりである。 本件発明1?3、6、7は、一般式(1)で示される構造を有する分散染料を、具体的な化合物にまで特定するものではない。 一方、発明の詳細な説明には、本件発明の課題は「画像の耐光性に優れ、かつ、白場汚染が抑制されると共に、分散染料の分散性及び保存安定性に優れたインクジェット捺染用インクを提供するものである」旨記載され(【0009】)、また、当該一般式(1)で示される構造を有する分散染料として、「D.B.165」と「D.Y.163」を組み合わせたものが、具体例(実施例)として示され、その検証結果をもって当該課題を解決することができた旨説明されている。 しかしながら、発明の詳細な説明の記載を仔細にみても、当該一般式(1)で示される構造と、当該課題に係る特性との因果関係を理解するに足りる記載は見当たらないし、当該因果関係が技術常識であると認めるに足りる事実も存しない。 そのため、当業者は、上記の検証に供された具体例、すなわち、「D.B.165」と「D.Y.163」を組み合わせた分散染料においては、確かに、上記課題を解決することができると認識し得ても、本件発明1?3、6、7が特定する、一般式(1)で示される構造を有する分散染料全般にわたって、同様の結果をもたらし、もって当該課題を解決することができるとまでは認識し得ないと理解するのが合理的である。 したがって、本件発明1?3、6、7を特定した請求項1?3、6、7の記載はサポート要件に適合しない。 (2) 検討 上記(1)の点についてあらためて検討する。 上記のとおり、本件発明の課題は「画像の耐光性に優れ、かつ、白場汚染が抑制されると共に、分散染料の分散性及び保存安定性に優れたインクジェット捺染用インクを提供する」ことにあるところ、当該課題に関し、発明の詳細な説明には、次の記載がある。 ・「【0012】 適用例1のインクジェット捺染用インクによれば、所定のpHとすることにより前記一般式(1)で示される構造を有する分散染料の分散性及び保存安定性が良好となる。また、前記一般式(1)で示される構造を有する分散染料を2種以上用いることで、耐光性が良好な画像が得られる。さらに、これらの分散染料は、還元剤によって容易に分解されるため、還元洗浄時の白場汚染を抑制することができる。」 ・「【0035】 本実施の形態に係るインクジェット捺染用インクは、前記一般式(1)で示される構造を有する2種以上の分散染料のそれぞれが、R1?R5のうちの少なくとも1つをシアノ基又はシアノ基で置換された炭素数1?10のアルキル基とすることが好ましい。このような構造を有する分散染料を2種以上使用することにより、耐光性が良好な捺染物が得られやすく、またこのような分散染料は還元剤によって容易に分解されるため、還元洗浄時の白場汚染を効果的に抑制することができる。」 ・「【0038】 また、前記一般式(1)で示される構造を有する分散染料の合計量が染料固形分全体の15質量%以上50質量%未満、好ましくは20質量%以上40質量%以下を占めると、耐光性に優れた捺染物が得られやすく、白場汚染を効果的に抑制することができる。」 ・「【0049】 本実施の形態に係るインクジェット捺染用インクのpHは、5以上9以下であることが好ましく、7以上8以下であることがより好ましい。インクのpHが上記範囲にあると、インク中の分散染料の分散性や保存安定性が格段に良好となる。特に上記一般式(1)で示される構造を有する分散染料のインク中における分散性および保存安定性が良好となる。」 これらの記載からみて、本件発明は、一般式(1)で示される構造を有する特定構造の分散染料の選択のみに依拠して、上記課題が解決できたわけではなく、pHの最適化、当該分散染料の含有量の最適化などの処置を併せて施すことによって、当該課題を解決したものであることが分かる。そして、当該特定構造の分散染料の選択とその含有量の最適化は、主に、耐候性及び白場汚染に、当該pHの最適化は、主に、当該特定構造の分散染料の分散性および保存安定性に、それぞれ寄与するものであることを理解することができるから、発明の詳細な説明の記載に接した当業者は、本件発明のように、特定構造の分散染料を選択し、pHを最適化し、当該分散染料の含有量を最適化したものであれば、これらが相まって上記課題が解決できると認識できると考えるのが妥当である。 そうである以上、実施例において検証された特定構造の分散染料が、「D.B.165」と「D.Y.163」のみであったとしても、上記のとおり、本件発明は、当該特定構造の分散染料の選択のみが課題解決策ではないのであるから、この実施例に供された分散染料がごく限られたものであることを理由に、直ちに、本件発明が当該実施例に対して広範にすぎると結論付けることは妥当でない。 したがって、本件発明1?3、6、7を特定した請求項1?3、6、7の記載がサポート要件に適合しない、ということはできない。 よって、これらの請求項に係る本件特許1?3、6、7に、上記取消理由(3)は存しない。 4 取消理由(4)(実施可能要件)についての判断(本件発明5に対して) (1) 具体的な指摘事項 標記取消理由において指摘した事項はおおむね次のとおりである。 本件発明5に係るインクジェット捺染用インクは、ブラックを発色させるためのものであるところ、発明の詳細な説明の実施例には、色変化(ΔE)の評価結果は記載されているものの、当該実施例がブラックを発色するものか否かについては示されていない。また、実施例6?15は、本件発明5が規定する成分組成を満足していない。 してみると、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本願発明5を実施するにあたっての十分な情報を与えているとはいえないから、実施可能要件に適合しない。 (2) 検討 上記(1)の点についてあらためて検討する。 確かに、発明の詳細な説明の実施例には、色変化(ΔE)の評価結果は記載されているものの、当該実施例がブラックを発色するものか否かについては示されていない。 しかしながら、減法混色(減色混合)によりブラックを発色させることは、本件出願前に当業者が既によく知る技術的事項であるから、上記実施例がブラックを発色するものか否かについて明示していないことをもって、当業者が、本件発明5に係るインクジェット捺染用インクを実施することができないとはいえない。 また、上記実施例6?15が、本件発明5が規定する成分組成を満足していないことは、本件発明5を当業者が実施することができるか否かとは直接関係しない。 したがって、本件発明5について、発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に適合しない、ということはできない。 よって、本件特許5に、上記取消理由(4)は存しない。 5 取消理由についてのまとめ 以上の検討のとおり、平成30年10月29日付けで通知した取消理由は、いずれも理由がない。 第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について 特許異議申立理由は、新規性、進歩性、サポート要件及び実施可能要件に関するものであるところ、これらの理由は、おおむね上記第4において検討した取消理由と同旨のものと解される。 したがって、当該特許異議申立理由に理由があるとはいえない。 第6 結び 以上のとおりであるから、本件特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであるとも、同法第36条第4項第1号又は第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるともいえず、同法第113条第2号又は第4号に該当するとは認められないから、上記取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立の理由によっては、取り消すことはできない。 また、ほかに本件特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 水と、下記一般式(1)で示される構造を有する分散染料2種以上と、を少なくとも含有し、 前記一般式(1)で示される構造を有する分散染料の合計量が染料固形分全体の15質量%以上50質量%未満を占め、かつ、pHが7以上9以下であり、 前記一般式(1)で示される構造を有する2種以上の分散染料のそれぞれが、R^(1)?R^(5)のうちの少なくとも1つをシアノ基又はシアノ基で置換された炭素数1?10のアルキル基とする、インクジェット捺染用インク。 【化4】 ![]() (式(1)中、R^(1)?R^(5)はそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、ヒドロキシ基、シアノ基で置換されていてもよいアルコキシ基、シアノ基及び/又はアルコキシ基で置換されていてもよい炭素数1?10のアルキル基、エステル結合又はアミド結合を有する基である。) 【請求項2】 前記一般式(1)で示される構造を有する分散染料の合計量が染料固形分全体の20質量%以上40質量%以下を占める、請求項1に記載のインクジェット捺染用インク。 【請求項3】 pHが7以上8以下である、請求項1または請求項2に記載のインクジェット捺染用インク。 【請求項4】 前記一般式(1)で示される構造を有する分散染料が、C.I.ディスパースブルー165およびC.I.ディスパースイエロー163の2種であり、 さらに、C.I.ディスパースレッド92、C.I.ディスパースレッド152、C.I.ディスパースレッド154、C.I.ディスパースブルー60およびC.I.ディスパースイエロー114よりなる群から選択される少なくとも1種の分散染料を含有する、請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載のインクジェット捺染用インク。 【請求項5】 ブラックを発色させるためのインクジェット捺染用インクであって、 前記C.I.ディスパースブルー165の含有量が染料固形分全体の2質量%以上10質量%以下を占め、 前記C.I.ディスパースイエロー163の含有量が染料固形分全体の18質量%以上29質量%以下を占め、 前記C.I.ディスパースレッド92の含有量が染料固形分全体の40質量%以上50質量%以下を占める、請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載のインクジェット捺染用インク。 【請求項6】 インクジェット記録装置を用いて、請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載のインクジェット捺染用インクを布帛に吐出して付与するインク付与工程を備えることを特徴とする捺染方法。 【請求項7】 前記インク付与工程に先立って前記布帛に前処理剤を付与する前処理剤付与工程と、前記インク付与工程の後に前記布帛を加熱する熱処理工程と、前記熱処理工程の後に前記布帛を洗浄する洗浄工程と、を備えることを特徴とする請求項6に記載の捺染方法。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2019-05-07 |
出願番号 | 特願2013-236599(P2013-236599) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YAA
(C09D)
P 1 651・ 537- YAA (C09D) P 1 651・ 113- YAA (C09D) P 1 651・ 536- YAA (C09D) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 櫛引 智子 |
特許庁審判長 |
川端 修 |
特許庁審判官 |
天野 宏樹 日比野 隆治 |
登録日 | 2018-01-12 |
登録番号 | 特許第6268962号(P6268962) |
権利者 | セイコーエプソン株式会社 |
発明の名称 | インクジェット捺染用インク及び捺染方法 |
代理人 | 大渕 美千栄 |
代理人 | 渡辺 和昭 |
代理人 | 布施 行夫 |
代理人 | 川▲崎▼ 通 |
代理人 | 仲井 智至 |
代理人 | 仲井 智至 |
代理人 | 松本 充史 |
代理人 | 松本 充史 |
代理人 | 西田 圭介 |
代理人 | 大渕 美千栄 |
代理人 | 布施 行夫 |
代理人 | 西田 圭介 |
代理人 | 川▲崎▼ 通 |
代理人 | 渡辺 和昭 |