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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B29C
審判 全部申し立て 2項進歩性  B29C
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B29C
管理番号 1353116
異議申立番号 異議2018-700716  
総通号数 236 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-08-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-09-05 
確定日 2019-05-20 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6289503号発明「熱可塑性強化複合部品の製作」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6289503号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1-3、5、7、8]、[4]、[6]及び[9-13]について訂正することを認める。 特許第6289503号の請求項1-6、8-10、12及び13に係る特許を維持する。 特許第6289503号の請求項7及び11に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 主な手続の経緯等

特許第6289503号(設定登録時の請求項の数は13。以下、「本件特許」という。)は、2013年(平成25年)11月18日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2013年1月2日(US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする特許出願である特願2015-550387号に係るものであって、平成30年2月16日に設定登録され、特許掲載公報が同年3月7日に発行された。
特許異議申立人 西村竜平(以下、単に「申立人」という。)は、平成30年9月5日に本件特許の請求項1ないし13に係る発明についての特許に対して特許異議の申立てをした。
当審において、平成30年11月15日付けで取消理由を通知したところ、特許権者から、平成31年2月15日に訂正請求書(以下、当該訂正請求書による訂正請求を「本件訂正請求」という。)及び意見書が提出され、申立人に対して特許法第120条の5第5項に基づく通知をしたところ、申立人は、同年3月27日に意見書を提出した。

第2 訂正の適否についての判断

1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下の訂正事項1ないし6である。ここで、訂正事項1ないし4は、訂正前の請求項1?8という一群の請求項を訂正するものであり、訂正事項5及び6は、訂正前の請求項9?13という一群の請求項を訂正するものである。また、下線については訂正箇所に当審が付したものである。

訂正事項1
訂正前の特許請求の範囲の請求項1に

「熱可塑性強化複合部品を製作する方法であって、
熱可塑性母材に埋設された強化用繊維の積層板(106)を、加熱ステーション(130)と、次いで成形ステーション(140)とを通る連続工程のために移動させることを含み、
加熱ステーション(130)において前記積層板(106)の一部分における前記熱可塑性母材を軟化し、同時に、前記成形ステーション(140)において、熱可塑性母材が軟化された前記積層板(106)の部分を成形し、
前記軟化させること及び成形することが前記積層板(106)の異なる部分に対して同時に実行され、
前記成形することが、多段式ツーリングを使用して前記積層板(106)に異なる形状を付与することを含み、
前記成形することがマルチショットスタンピング工程として実行され、前記積層板(106)の部分は一のステーションから次のステーションへ前進させられ、前記加熱ステーション(130)及び前記成形ステーション(140)での工程が完了するまで停止させられる、
方法。」

とあるのを、

「熱可塑性強化複合部品を製作する方法であって、
熱可塑性母材に埋設された強化用繊維の積層板(106)を、加熱ステーション(130)と、次いで成形ステーション(140)とを通る連続工程のために移動させることを含み、
加熱ステーション(130)において前記積層板(106)の一部分における前記熱可塑性母材を軟化し、同時に、前記成形ステーション(140)において、熱可塑性母材が軟化された前記積層板(106)の部分を成形し、
前記軟化させること及び成形することが前記積層板(106)の異なる部分に対して同時に実行され、
前記成形することが、多段式ツーリングを使用して前記積層板(106)に異なる形状を付与することを含み、
前記成形することがマルチショットスタンピング工程として実行され、前記積層板(106)の部分は一のステーションから次のステーションへ前進させられ、前記加熱ステーション(130)及び前記成形ステーション(140)での工程が完了するまで停止させられ、
前記積層板(106)を支持するコンベアベルト(342)が連続工程のために使用される、方法。」

に訂正する。
請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2、3、5及び8についても同様の訂正を行う。

訂正事項2
訂正前の特許請求の範囲の請求項4に

「前記成形ステーションが前記マルチショットスタンピング工程を実行するための第1のツールセット(332)と第2のツールセット(334)とを含み、前記成形することが、一体的に加熱される前記第1のツールセット(332)と前記第2のツールセット(334)とを用いて実行される、請求項1に記載の方法。」

とあるのを、独立形式に改め、

「熱可塑性強化複合部品を製作する方法であって、
熱可塑性母材に埋設された強化用繊維の積層板(106)を、加熱ステーション(130)と、次いで成形ステーション(140)とを通る連続工程のために移動させることを含み、
加熱ステーション(130)において前記積層板(106)の一部分における前記熱可塑性母材を軟化し、同時に、前記成形ステーション(140)において、熱可塑性母材が軟化された前記積層板(106)の部分を成形し、
前記軟化させること及び成形することが前記積層板(106)の異なる部分に対して同時に実行され、
前記成形することが、多段式ツーリングを使用して前記積層板(106)に異なる形状を付与することを含み、
前記成形することがマルチショットスタンピング工程として実行され、前記積層板(106)の部分は一のステーションから次のステーションへ前進させられ、前記加熱ステーション(130)及び前記成形ステーション(140)での工程が完了するまで停止させられ、
前記成形ステーションが前記マルチショットスタンピング工程を実行するための第1のツールセット(332)と第2のツールセット(334)とを含み、前記成形することが、一体的に加熱される前記第1のツールセット(332)と前記第2のツールセット(334)とを用いて実行される、方法。」

に訂正する。

訂正事項3
訂正前の特許請求の範囲の請求項6に

「前記積層板(106)を支持するためのコンベヤベルト(342)として柔軟性のポリマーフィルムが使用され、前記部品が成形された後で前記フィルムが前記部品から剥がされる、請求項1に記載の方法。」

とあるのを、独立形式に改め、
「熱可塑性強化複合部品を製作する方法であって、
熱可塑性母材に埋設された強化用繊維の積層板(106)を、加熱ステーション(130)と、次いで成形ステーション(140)とを通る連続工程のために移動させることを含み、
加熱ステーション(130)において前記積層板(106)の一部分における前記熱可塑性母材を軟化し、同時に、前記成形ステーション(140)において、熱可塑性母材が軟化された前記積層板(106)の部分を成形し、
前記軟化させること及び成形することが前記積層板(106)の異なる部分に対して同時に実行され、
前記成形することが、多段式ツーリングを使用して前記積層板(106)に異なる形状を付与することを含み、
前記成形することがマルチショットスタンピング工程として実行され、前記積層板(106)の部分は一のステーションから次のステーションへ前進させられ、前記加熱ステーション(130)及び前記成形ステーション(140)での工程が完了するまで停止させられ、
前記積層板(106)を支持するためのコンベヤベルト(342)として柔軟性のポリマーフィルムが使用され、前記部品が成形された後で前記フィルムが前記部品から剥がされる、方法。」

に訂正する。

訂正事項4
訂正前の特許請求の範囲の請求項7を削除する。

訂正事項5
訂正前の特許請求の範囲の請求項9において、

「前記コンベヤ(340)が脈動式に動き、前記積層板(106)の部分を一のステーションから次のステーションへ前進させ、前記加熱ステーション(130)及び前記成形ステーション(140)での工程が完了するまで停止させるように構成されている、」

とあるのを、

「前記コンベヤ(340)が脈動式に動き、前記積層板(106)の部分を一のステーションから次のステーションへ前進させ、前記加熱ステーション(320)及び前記成形ステーション(330)での工程が完了するまで停止させるように構成されている、」

に訂正する。
請求項9を直接又は間接的に引用する請求項10、12及び13についても同様の訂正を行う。

訂正事項6
訂正前の特許請求の範囲の請求項11を削除する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1) 訂正事項1について
ア 訂正事項1は、訂正前の請求項1の方法に、「前記積層板(106)を支持するコンベアベルト(342)が連続工程のために使用される」ことを追加することにより、方法をより具体的に特定し、更に、限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 訂正事項1で追加された「前記積層板(106)を支持するコンベアベルト(342)が連続工程のために使用される」ことについて、願書に添付した明細書の段落【0007】の記載に基づくものであるから、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、新規事項の追加に該当しない。

ウ そして、当該訂正事項1は、上記で明らかなように、訂正前の請求項1の方法をさらに限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

エ よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号を目的とし、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に適合するものである。

(2) 訂正事項2について
ア 訂正事項2は、訂正前の請求項4の記載が訂正前の請求項1の記載を引用する記載であったものを、請求項間の引用関係を解消して、請求項1の記載を引用しないものとし、独立形式請求項へ改めるための訂正であって、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。

イ そして、当該訂正事項2は、上記で明らかなように、何ら実質的な内容の変更を伴うものではないから、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

ウ よって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第4号を目的とし、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に適合するものである。

(3) 訂正事項3について
ア 訂正事項3は、訂正前の請求項6の記載が訂正前の請求項1の記載を引用する記載であったものを、請求項間の引用関係を解消し、請求項1の記載を引用しないものとし、独立形式請求項へ改めるための訂正であって、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。

イ そして、当該訂正事項3は、上記で明らかなように、何ら実質的な内容の変更を伴うものではないから、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

ウ よって、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第4号を目的とし、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に適合するものである。

(4) 訂正事項4及び6について
ア 訂正事項4及び6は、それぞれ、訂正前の請求項7及び11を削除するものであるから、特許請求の範囲を減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

イ よって、訂正事項4及び6は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号を目的とし、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に適合するものである。

(5) 訂正事項5について
ア 訂正事項5は、訂正前の請求項9において、「前記加熱ステーション」の符号が「(130)」、「前記成形ステーション」の符号が「(140)」とあったのを、「前記加熱ステーション」の符号を「(320)」、「前記成形ステーション」の符号を「(330)」と訂正するものである。
この符号の訂正は、訂正前の請求項9においてこれらの記載に先行して、「熱可塑性強化複合積層板(106)の熱可塑性母材を軟化させるための加熱ステーション(320)」、「多段式ツーリングを含み、熱可塑性母材が軟化された前記積層板の部分を成形するための成形ステーション(330)」となっていることに合わせて、「前記加熱ステーション(320)」及び「前記成形ステーション(330)」とするものである。
よって、当該箇所における訂正前の記載が当然に訂正後の記載と同一の意味を表示するものと当業者その他一般第三者が理解するものであるから、当該訂正事項は、誤記の訂正を目的とするものである。

イ 訂正事項5は、上記のとおり当該箇所における訂正前の記載が当然に訂正後の記載と同一の意味を表示するものと当業者その他一般第三者が理解するものであるから、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

ウ よって、訂正事項5は、特許法第120条の5第2項ただし書第2号を目的とし、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に適合するものである。

(6) 特許権者から、訂正後の請求項4及び6については、当該請求項についての訂正が認められる場合には、一群の請求項の他の請求項とは別途訂正することの求めがあった。

3 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第2号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり訂正が認められる。
そして、特許権者から、訂正が認められる場合には、請求項4及び6について別の訂正単位とすることの求めがあったから、訂正後の請求項[1-3、5、7、8]、[4]、[6]及び[9-13]について訂正することを認める。

第3 本件発明

上記第2のとおり、本件訂正請求による訂正は認められるので、本件特許の請求項1ないし13に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明13」のようにいう。)は、平成31年2月15日付け訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし13に記載された事項により特定される以下に記載のとおりのものである。

「【請求項1】
熱可塑性強化複合部品を製作する方法であって、
熱可塑性母材に埋設された強化用繊維の積層板(106)を、加熱ステーション(130)と、次いで成形ステーション(140)とを通る連続工程のために移動させることを含み、
加熱ステーション(130)において前記積層板(106)の一部分における前記熱可塑性母材を軟化し、同時に、前記成形ステーション(140)において、熱可塑性母材が軟化された前記積層板(106)の部分を成形し、
前記軟化させること及び成形することが前記積層板(106)の異なる部分に対して同時に実行され、
前記成形することが、多段式ツーリングを使用して前記積層板(106)に異なる形状を付与することを含み、
前記成形することがマルチショットスタンピング工程として実行され、前記積層板(106)の部分は一のステーションから次のステーションへ前進させられ、前記加熱ステーション(130)及び前記成形ステーション(140)での工程が完了するまで停止させられ、
前記積層板(106)を支持するコンベアベルト(342)が連続工程のために使用される、方法。
【請求項2】
前記加熱ステーション(130)及び前記成形ステーション(140)を通して移動させる前に、事前に熱可塑性樹脂を含浸させた強化用繊維のプライスタックを、圧密化ステーション(120)を通して移動させ、前記プライを前記積層板(106)へと圧密化することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記プライを圧密化し、前記熱可塑性母材を軟化させるために、赤外線エネルギーが使用される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
熱可塑性強化複合部品を製作する方法であって、
熱可塑性母材に埋設された強化用繊維の積層板(106)を、加熱ステーション(130)と、次いで成形ステーション(140)とを通る連続工程のために移動させることを含み、
加熱ステーション(130)において前記積層板(106)の一部分における前記熱可塑性母材を軟化し、同時に、前記成形ステーション(140)において、熱可塑性母材が軟化された前記積層板(106)の部分を成形し、
前記軟化させること及び成形することが前記積層板(106)の異なる部分に対して同時に実行され、
前記成形することが、多段式ツーリングを使用して前記積層板(106)に異なる形状を付与することを含み、
前記成形することがマルチショットスタンピング工程として実行され、前記積層板(106)の部分は一のステーションから次のステーションへ前進させられ、前記加熱ステーション(130)及び前記成形ステーション(140)での工程が完了するまで停止させられ、
前記成形ステーションが前記マルチショットスタンピング工程を実行するための第1のツールセット(332)と第2のツールセット(334)とを含み、前記成形することが、一体的に加熱される前記第1のツールセット(332)と前記第2のツールセット(334)とを用いて実行される、方法。
【請求項5】
前記積層板(106)の成形された部分に取付フィーチャを付加することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
熱可塑性強化複合部品を製作する方法であって、
熱可塑性母材に埋設された強化用繊維の積層板(106)を、加熱ステーション(130)と、次いで成形ステーション(140)とを通る連続工程のために移動させることを含み、
加熱ステーション(130)において前記積層板(106)の一部分における前記熱可塑性母材を軟化し、同時に、前記成形ステーション(140)において、熱可塑性母材が軟化された前記積層板(106)の部分を成形し、
前記軟化させること及び成形することが前記積層板(106)の異なる部分に対して同時に実行され、
前記成形することが、多段式ツーリングを使用して前記積層板(106)に異なる形状を付与することを含み、
前記成形することがマルチショットスタンピング工程として実行され、前記積層板(106)の部分は一のステーションから次のステーションへ前進させられ、前記加熱ステーション(130)及び前記成形ステーション(140)での工程が完了するまで停止させられ、
前記積層板(106)を支持するためのコンベヤベルト(342)として柔軟性のポリマーフィルムが使用され、前記部品が成形された後で前記フィルムが前記部品から剥がされる、方法。
【請求項7】(削除)
【請求項8】
前記積層板(106)が、連続的な又はストレッチブロークンの繊維強化材を有する一体的に補強された部品へと成形される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
熱可塑性強化複合積層板(106)の熱可塑性母材を軟化させるための加熱ステーション(320)、
多段式ツーリングを含み、熱可塑性母材が軟化された前記積層板の部分を成形するための成形ステーション(330)であってマルチショットスタンピング工程を実行するように構成された成形ステーション(330)、並びに
前記軟化及び成形が前記積層板の異なる部分に対して同時に実行されるように、前記積層板を前記ステーションを連続して通って移動させるためのコンベヤ(340)
を備え、
前記コンベヤ(340)が脈動式に動き、前記積層板(106)の部分を一のステーションから次のステーションへ前進させ、前記加熱ステーション(320)及び前記成形ステーション(330)での工程が完了するまで停止させるように構成されている、製作システム(310)。
【請求項10】
事前に熱可塑性物質を含浸させた強化用繊維の未圧密化プライスタックを、前記積層板へと圧密化するための圧密化ステーションを更に備え、前記コンベヤ(340)は、前記未圧密化プライスタックを前記圧密化ステーションへと移動させ、次いで前記積層板を前記加熱ステーション(320)へと移動させる、請求項9に記載のシステム。
【請求項11】(削除)
【請求項12】
前記加熱ステーション(320)が上部及び下部予熱ゾーン(322、324)と上部及び下部加熱ゾーン(326、328)とを含んでいる、請求項9に記載のシステム。
【請求項13】
前記成形ステーション(330)が、初期部品形状を成形するための第1のツールセット(332)と、初期形状を変更して部品の剛性を向上させるための第2のツールセット(334)とを含む、請求項9に記載のシステム。」

第4 取消理由の概要

平成30年11月15日付けで通知した取消理由は、
「1(明確性)本件特許の請求項7についての特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
2(サポート要件)本件特許の請求項7及び11についての特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
3(新規性)本件特許の請求項1、2、5、8に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
4(進歩性)本件特許の請求項1?3、5、8に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。」

であって、そのうち、理由3及び4は、概略、以下のとおりである。

「(理由3及び4)新規性及び進歩性について
・・・
(1)刊行物
刊行物1:特許第5063707号公報(申立人が提出した甲第1号証、以下「甲1」という。)
刊行物2:特開2010-143001号公報(申立人が提出した甲第2号証、以下「甲2」という。)
刊行物3:特開2011-25439号公報(申立人が提出した甲第3号証、以下「甲3」という。)
刊行物4:特開2002-240068号公報(申立人が提出した甲第4号証、以下「甲4」という。)
刊行物5:特開平6-335934号公報(申立人が提出した甲第5号証、以下「甲5」という。)
刊行物6:特開昭60-250920号公報(申立人が提出した甲第6号証、以下「甲6」という。)
刊行物7:特開昭58-155916号公報(申立人が提出した甲第7号証、以下「甲7」という。)
刊行物8:特開平7-329089号公報(申立人が提出した甲第8号証、以下「甲8」という。)
刊行物9:特開2005-66967号公報(申立人が提出した甲第9号証、以下「甲9」という。)
刊行物10:特開2011-104893号公報(申立人が提出した甲第10号証、以下「甲10」という。)
・・・
以上のとおり、本件発明1、2、5、8は、甲1に記載された発明である。仮に、そうでなくとも、甲1に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
また、本件発明3は、甲1に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。」

第5 取消理由についての当審の判断

1 取消理由1(明確性)及び取消理由2(サポート要件)について
取消理由の対象となった請求項7及び11が、本件訂正請求により削除されたので、当該取消理由1及び2には、理由がない。

2 取消理由3(新規性)及び取消理由4(進歩性)について
(1) 甲1に記載された発明
甲1には、請求項1及び4?8、段落【0006】、【0012】?【0014】、【0016】、【0017】、【0031】並びに図4などの記載からみて、次のとおりの発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認める。

「少なくとも一つの一体式金属製結合金具を有する熱可塑性複合積層体の製造方法であって、
(A)熱可塑性複合材料からなる多プライスタックと、少なくとも一つの金属製結合金具とを含むレイアップを形成するステップ、
(B)少なくとも二つの工具の間に前記レイアップを配置するステップ、
(C)適切な形状の積層体に前記レイアップを予備成形し、プレス機に前記工具及び予備成形された前記レイアップを供給するステップ、及び
(D)プレス機を用いてプライと金属製結合金具とを圧密するステップ
を含み、
ステップ(D)が、予備成形された前記レイアップに対して前記工具をプレスすることにより、予備成形された前記レイアップの厚さを部分的に変化させることを含み、
熱可塑性複合材料からなる多プライスタックは、一方向繊維を有するプライを多層化させたものであり、
予備成形されたレイアップ(84)を予備成形ゾーン(80)から漸次前進させる脈動構造(106)を有し、レイアップ(84)は、前進するにつれて、多プライスタック(74、76)及び塊(26)のマトリックス樹脂(40、42)のポリマー成分の自由流れを可能にする温度まで当該レイアップを加熱する加熱ゾーン(108)に進入し、次に、レイアップ(84)は、プレスゾーン(112)に向かって進み、当該プレスゾーンにおいて、固定された多プライスタック(74、76)の種々のプライ(32、32)及び塊(26)を圧密して(つまり、マトリックス樹脂の自由流れを可能にして)所望の形状及び厚みにするのに十分な所定の力(圧力)で標準金型(104)が集合的に又は個別に適用されるものである、方法。」

(2) 本件発明1について
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「少なくとも一つの一体式金属製結合金具を有する熱可塑性複合積層体」は、本件発明1の「熱可塑性強化複合部品」に相当する。
また、甲1発明の「熱可塑性複合材料からなる多プライスタックと、少なくとも一つの金属製結合金具とを含むレイアップ」は、その多プライスタックが、甲1の段落【0012】の記載からみて、熱可塑性材料からなり一方向繊維を有するプライを多層化させたものであって、その多プライスタックを含む積層体といえるから、本件発明1の「熱可塑性母材に埋設された強化用繊維の積層板」に相当する。
さらに、甲1発明の「加熱ゾーン(108)」、「プレスゾーン(112)」は、それぞれ、本件発明1の「加熱ステーション(130)」、「成形ステーション(140)」に相当する。
そして、甲1発明の「予備成形ゾーン(80)から漸次前進させる脈動構造(106)を有し」、「前進するにつれて」、「加熱ゾーン(108)に進入し」、「次に」「プレスゾーン(112)に向かって進み、当該ゾーンにおいて」「所望の形状及び厚みに」「標準金型(104)が集合的に又は個別に適用される」ことは、甲1発明の「レイアップ」(積層板)を、本件発明1と同様に「加熱ステーションと、次いで成形ステーションとを通る連続工程のために移動させ」ているといえるし、「加熱ステーション(130)において前記積層板(106)の一部分における前記熱可塑性母材を軟化し、同時に、前記成形ステーション(140)において、熱可塑性母材が軟化された前記積層板(106)の部分を成形し」ているといえる。
さらに、図4の工程図からみて、甲1発明の前記の事項は、本件発明1の「前記軟化させること及び成形することが前記積層板(106)の異なる部分に対して同時に実行され」るものといえる。
加えて、甲1発明の「予備成形ゾーン80から漸次前進させる脈動構造106を有」することは、漸次前進させる脈動構造が、前進と停止を繰り返しながら移動させることであるから、当該構成を有する甲1発明は、本件発明1の「一のステーションから次のステーションへ前進させられ、前記加熱ステーション(130)及び前記成形ステーション(140)での工程が完了するまで停止させられる」構成を有しているといえる。
そうすると、本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点はそれぞれ次のとおりである。

・ 一致点

「熱可塑性強化複合部品を製作する方法であって、
熱可塑性母材に埋設された強化用繊維の積層板(106)を、加熱ステーション(130)と、次いで成形ステーション(140)とを通る連続工程のために移動させることを含み、
加熱ステーション(130)において前記積層板(106)の一部分における前記熱可塑性母材を軟化し、同時に、前記成形ステーション(140)において、熱可塑性母材が軟化された前記積層板(106)の部分を成形し、
前記軟化させること及び成形することが前記積層板(106)の異なる部分に対して同時に実行され、
前記積層板(106)の部分は一のステーションから次のステーションへ前進させられ、前記加熱ステーション(130)及び前記成形ステーション(140)での工程が完了するまで停止させられる、
方法。」である点。

・ 相違点1

成形工程に関し、本件発明1は、「前記成形することが、多段式ツーリングを使用して前記積層板(106)に異なる形状を付与することを含み、前記成形することがマルチショットスタンピング工程として実行され」と特定するのに対し、甲1発明の成形工程は、「所望の形状及び厚みにするのに十分な所定の力(圧力)で標準金型(104)が集合的に又は個別に適用されるものであ」る点。

・ 相違点2

連続工程のための移動手段に関し、本件発明1は、「前記積層板(106)を支持するコンベアベルト(342)が連続工程のために使用される」と特定するのに対し、甲1発明には、コンベアベルトに相当するものがない点。なお、申立人は、平成31年3月27日付け意見書において、甲1の「シート部材92」が本件発明1の「コンベアベルト」である旨主張するが、甲1において「シート部材92」とは、正確には「側方仕上げ用シート部材92」であって、コンベアベルトとは異なるものであるから、申立人の主張は失当であって採用できない。

事案に鑑み、相違点2から検討する。
甲1発明の「一体式金属製結合金具を有する熱可塑性複合積層体」は、甲1の段落【0004】、【0009】、【0014】及び具体的な実施例の記載及び図4からみて、多プライスタックと少なくとも一つの金属製結合金具とを含むレイアップが予備成形された積層体を、ガイドローラ上において、予備成形ゾーン、加熱ゾーン、プレスゾーンをへて単一の一体化された熱可塑性複合積層体が形成されるものといえるから、当該熱可塑性複合積層体は一体として移動するものであり、コンベアベルトが利用されていないのは明らかであって、その移動手段としては、ピンチローラ等の複数の移動手段が取り得るものである。
そうすると、相違点2は実質上の相違点であるから、本件発明1と引用発明と同一ではなく、本件発明1は、甲1に記載された発明ということはできない。

そして、申立人が提示するいずれの文献にも、単一の一体化された熱可塑性複合積層体の移動手段としてコンベアベルトを利用する構成のものは提示されていない。
また、甲1発明の「一体式金属製結合金具を有する熱可塑性複合積層体」の移動手段として、周知のコンベアベルトを利用する動機もないことから、相違点2は当業者が容易に想到し得たものということはできない。
よって、相違点1について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3) 本件発明2、3、5、8について
本件発明2、3、5及び8は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであるから、本件発明1と同様に、上記(2)での検討のとおりであって、甲1に記載された発明とはいえず、また、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(4) まとめ
取消理由3及び4には、理由がない。

第6 申立人の主張する申立理由の概要

申立人の主張する申立理由は、概略、次のとおりである。

(1) 請求項1の「前記成形することが、多段式ツーリングを使用して前記積層板(106)に異なる形状を付与することを含み」に関し、「異なる形状」とは何と何の形状を対比して異なるか不明であるから、明確でなく、本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、特許法第36条第6項第2号の要件を満足しない特許出願に対してされたものであるから、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである(以下、「申立理由1」という。)。

(2) 請求項1の「前記成形することが、多段式ツーリングを使用して前記積層板(106)に異なる形状を付与することを含み」に関し、「異なる形状」とは何と何の形状を対比して異なるか、発明の詳細な説明に記載されていないから、本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、特許法第36条第6項第1号の要件を満足しない特許出願に対してされたものであるから、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである(以下、「申立理由2-1」という。)。

(3) 請求項1を引用する請求項7には「前記成形することが、前記積層板と共に移動させられるツールを用いて実行される」と記載されている。しかしながら、いかにしてツールを積層板と共に移動させるかについて発明の詳細な説明には記載がなく、そもそも、成形ステーションでの工程が完了するまで積層体は停止させられるのであるから(請求項1)、あえてツールを積層板と共に移動させる効果は見出せず、本件特許の請求項7に係る特許は、特許法第36条第6項第1号の要件を満足しない特許出願に対してされたものであるから、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである(以下、「申立理由2-2」という。)。なお、申立理由2-2は、当審からの取消理由2と同旨である。

(4) 請求項11には「別の部分が圧密化されているときに前記プライスタックの一部分を成形するためのステーションを更に備える」との特定事項が記載されているが、発明の詳細な説明には、別の部分が圧密化されているときに前記プライスタックの一部分を成形するためのステーションを更に備えるものが記載されておらず、記載されているに等しい事項ともいえないから、本件特許の請求項11に係る特許は、特許法第36条第6項第1号の要件を満足しない特許出願に対してされたものであるから、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである(以下、「申立理由2-3」という。)。なお、申立理由2-3は、当審からの取消理由2と同旨である。

(5) 本件特許の訂正前の請求項1、2及び5に係る発明は、甲1に記載された発明と同一であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない発明であるから、それらの特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである(以下、「申立理由3」という。)。なお、申立理由3は、当審からの取消理由3と同旨である。

(6) 本件特許の請求項1?13に係る発明は、甲1に記載された発明を主たる引用発明とし、引用発明に甲2ないし甲10に記載の周知技術又は公知技術を適宜参照することにより当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない発明であるから、それらの特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである(以下「申立理由4」という。)。

(7) 証拠方法として、上記第4に記載の甲1?甲10を提出した。

第7 取消理由に採用しなかった申立理由についての当審の判断

1 申立理由1について
請求項1の「前記成形することが、多段式ツーリングを使用して前記積層板(106)に異なる形状を付与することを含み」における「異なる形状」とは、第1段ツーリングで形成する形状(初期形状)と第2段ツーリングで形成する形状(最終形状)が異なるとの意味であることは明らかである。
してみれば、請求項1の「前記成形することが、多段式ツーリングを使用して前記積層板(106)に異なる形状を付与することを含み」における「異なる形状」は、明確であるから、申立理由1には、理由がない。

2 申立理由2-1について
申立人は、本件特許明細書の段落【0009】及び【0017】の記載と段落【0018】との記載が矛盾することをもって「異なる形状」が不明確であり、発明の詳細な説明に記載されていない旨主張するが、「異なる形状」の意味は、段落【0009】及び【0017】に記載から上記1のとおりであることは明らかであって、段落【0018】の記載内容は本件発明に関わるものでないするのが相当である。
そうすると、「異なる形状」については、発明の詳細な説明の段落【0009】及び【0017】に記載されているといえるから、申立人の主張は失当であって、申立理由2-1には、理由がない。

3 申立理由4について
(1)申立理由4に係る本件発明1ないし3、5、8については、上記第4 2において判断したとおりであるから、理由がない。
なお、申立人は、平成31年3月27日付け意見書において、甲1の「シート部材92」が本件発明1の「コンベアベルト」である旨主張するが、甲1において「シート部材92」とは、正確には「側方仕上げ用シート部材92」であって、コンベアベルトとは異なるものであるから、申立人の主張は失当であって採用できない。

(2)申立理由4に係る本件発明4について
ア 甲1に記載された発明
甲1には、上記第4 2(1)のとおりの甲1発明が記載されている。
イ 本件発明4と甲1発明との対比
本件発明4と甲1発明とを対比すると、上記第4 2(2)における対比のとおりであるから、本件発明4と甲1発明との一致点及び相違点はそれぞれ次のとおりである。

・ 一致点

「熱可塑性強化複合部品を製作する方法であって、
熱可塑性母材に埋設された強化用繊維の積層板(106)を、加熱ステーション(130)と、次いで成形ステーション(140)とを通る連続工程のために移動させることを含み、
加熱ステーション(130)において前記積層板(106)の一部分における前記熱可塑性母材を軟化し、同時に、前記成形ステーション(140)において、熱可塑性母材が軟化された前記積層板(106)の部分を成形し、
前記軟化させること及び成形することが前記積層板(106)の異なる部分に対して同時に実行され、
前記積層板(106)の部分は一のステーションから次のステーションへ前進させられ、前記加熱ステーション(130)及び前記成形ステーション(140)での工程が完了するまで停止させられる、
方法。」である点。

・ 相違点1

成形工程に関し、本件発明4は、「前記成形することが、多段式ツーリングを使用して前記積層板(106)に異なる形状を付与することを含み、前記成形することがマルチショットスタンピング工程として実行され」と特定するのに対し、甲1発明の成形工程は、「所望の形状及び厚みにするのに十分な所定の力(圧力)で標準金型(104)が集合的に又は個別に適用されるものであ」る点。

・ 相違点3

成形ステーションに関し、本件発明4は、「前記成形ステーションが前記マルチショットスタンピング工程を実行するための第1のツールセット(332)と第2のツールセット(334)とを含み、前記成形することが、一体的に加熱される前記第1のツールセット(332)と前記第2のツールセット(334)とを用いて実行される」と特定するのに対し、甲1発明は、この点を特定しない点。

ウ 判断
事案に鑑み、相違点3から検討する。
マルチショットスタンピング成形において、第1のツールセットと第2のツールセットで成形することは周知であるといえても、第1のツールセットと第2のツールセットとを一体的に加熱する構成については、申立人の提示するいずれの証拠にも記載されていない。
また、甲1発明の「マルチショットスタンピング成形」においての第1のツールセットと第2のツールセットを一体的に加熱するようにする動機もないことから、相違点3は当業者が容易に想到し得たものということはできない。
よって、相違点1について検討するまでもなく、本件発明4は、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
なお、申立人は、平成31年3月27日付け意見書において、本件発明4の「一体的に加熱される第1のツールセットと第2のツールセット」は、第1のツールセットが一体的に加熱されるとともに、第2のツールセットが一体的に加熱されるという意味に解されるとして進歩性が否定される旨主張するが、本件発明4の「一体的に加熱される第1のツールセットと第2のツールセット」との記載は明確であって、申立人の主張する意味には解されないから、申立人の主張は失当であって採用できない。

(3)申立理由4に係る本件発明6について
ア 甲1に記載された発明
甲1には、上記第4 2(1)のとおりの甲1発明が記載されている。
イ 本件発明6と甲1発明との対比
本件発明6と甲1発明とを対比すると、上記第4 2(2)における対比のとおりであるから、本件発明6と甲1発明との一致点及び相違点はそれぞれ次のとおりである。

・ 一致点

「熱可塑性強化複合部品を製作する方法であって、
熱可塑性母材に埋設された強化用繊維の積層板(106)を、加熱ステーション(130)と、次いで成形ステーション(140)とを通る連続工程のために移動させることを含み、
加熱ステーション(130)において前記積層板(106)の一部分における前記熱可塑性母材を軟化し、同時に、前記成形ステーション(140)において、熱可塑性母材が軟化された前記積層板(106)の部分を成形し、
前記軟化させること及び成形することが前記積層板(106)の異なる部分に対して同時に実行され、
前記積層板(106)の部分は一のステーションから次のステーションへ前進させられ、前記加熱ステーション(130)及び前記成形ステーション(140)での工程が完了するまで停止させられる、
方法。」である点。

・ 相違点1

成形工程に関し、本件発明6は、「前記成形することが、多段式ツーリングを使用して前記積層板(106)に異なる形状を付与することを含み、前記成形することがマルチショットスタンピング工程として実行され」と特定するのに対し、甲1発明の成形工程は、「所望の形状及び厚みにするのに十分な所定の力(圧力)で標準金型(104)が集合的に又は個別に適用されるものであ」る点。

・ 相違点4

積層板を支持する手段に関し、本件発明6は、「前記積層板(106)を支持するためのコンベヤベルト(342)として柔軟性のポリマーフィルムが使用され、前記部品が成形された後で前記フィルムが前記部品から剥がされる」と特定するのに対し、甲1発明は、この点を特定しない点。

ウ 判断
事案に鑑み、相違点4から検討する。
甲1発明の「一体式金属製結合金具を有する熱可塑性複合積層体」は、甲1の段落【0004】、【0009】、【0014】及び具体的な実施例の記載及び図4からみて、多プライスタックと少なくとも一つの金属製結合金具とを含むレイアップが予備成形された積層体を、ガイドローラ上において、予備成形ゾーン、加熱ゾーン、プレスゾーンをへて単一の一体化された熱可塑性複合積層体が形成されるものといえるから、当該熱可塑性複合積層体は一体として移動するものであり、コンベアベルトが利用されていないのは明らかであって、その移動手段としては、ピンチローラ等の複数の移動手段が取り得るものである。
そして、申立人が提示するいずれの文献にも、単一の一体化された熱可塑性複合積層体(積層板)を支持する手段としてコンベアベルト、いわんや、柔軟性のポリマーフィルムを利用する構成のものは提示されていない。
また、甲1発明の「一体式金属製結合金具を有する熱可塑性複合積層体」(積層板)の移動又は支持手段として、柔軟性のポリマーフィルムのコンベアベルトを利用する動機もないことから、相違点4は当業者が容易に想到し得たものということはできない。

よって、相違点1について検討するまでもなく、本件発明6は、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)申立理由4に係る本件発明9、10、12及び13について
ア 甲1に記載された発明
甲1には、請求項1及び4?8、段落【0006】、【0012】?【0014】、【0016】、【0017】、【0031】並びに図4などの記載からみて、次のとおりの発明(以下「甲1発明B」という。)が記載されていると認める。

「少なくとも一つの一体式金属製結合金具を有する熱可塑性複合積層体の製作システムであって、
熱可塑性複合材料からなる多プライスタックは、一方向繊維を有するプライを多層化させたものであり、
予備成形されたレイアップ(84)を予備成形ゾーン(80)から漸次前進させる脈動構造(106)を有し、レイアップ(84)は、前進するにつれて、多プライスタック(74、76)及び塊(26)のマトリックス樹脂(40、42)のポリマー成分の自由流れを可能にする温度まで当該レイアップを加熱する加熱ゾーン(108)に進入し、次に、レイアップ(84)は、プレスゾーン(112)に向かって進み、当該プレスゾーンにおいて、固定された多プライスタック(74、76)の種々のプライ(32、32)及び塊(26)を圧密して(つまり、マトリックス樹脂の自由流れを可能にして)所望の形状及び厚みにするのに十分な所定の力(圧力)で標準金型(104)が集合的に又は個別に適用されるものである、製作システム。」

イ 本件発明9と甲1発明Bとの対比
本件発明9と甲1発明Bとを対比する。
甲1発明Bの「熱可塑性複合材料からなる多プライスタックと、少なくとも一つの金属製結合金具とを含む」「レイアップ」は、その多プライスタックが、甲1の段落【0012】の記載からみて、熱可塑性材料からなり一方向繊維を有するプライを多層化させたものであって、その多プライスタックを含む積層体といえるから、本件発明9の「熱可塑性強化複合積層板」に相当する。
甲1発明Bの「加熱ゾーン(108)」、「プレスゾーン(112)」は、それぞれ、本件発明9の「加熱ステーション(320)」、「成形ステーション(330)」に相当する。
そして、甲1発明Bの「レイアップ」(積層板)を「予備成形ゾーン(80)から漸次前進させる脈動構造(106)を有し」、「前進するにつれて」、「加熱ゾーン(108)に進入し」、「次に」「プレスゾーン(112)に向かって進み、当該ゾーンにおいて」「所望の形状及び厚みに」「標準金型(104)が集合的に又は個別に適用される」ことは、図4の工程図からみて、甲1発明Bの「レイアップ」(積層板)を、何らかの「移動手段」を介して、本件発明9と同様に「前記軟化及び成形が前記積層板の異なる部分に対して同時に実行されるように、前記積層板を前記ステーションを連続して通って移動させ」、該移動は「脈動」であり、「前記積層板(106)の部分を一のステーションから次のステーションへ前進させ、前記加熱ステーション(320)及び前記成形ステーション(330)での工程が完了するまで停止させるように構成されている」といえる。
そうすると、本件発明9と甲1発明Bとの一致点及び相違点はそれぞれ次のとおりである。

・ 一致点

「熱可塑性強化複合積層板(106)の熱可塑性母材を軟化させるための加熱ステーション(320)、成形ステーション(330)、並びに
前記軟化及び成形が前記積層板の異なる部分に対して同時に実行されるように、前記積層板を前記ステーションを連続して通って移動させる移動手段、を備え、
熱可塑性強化複合積層板が移動手段を介して脈動式に動き、前記積層板(106)の部分を一のステーションから次のステーションへ前進させ、前記加熱ステーション(320)及び前記成形ステーション(330)での工程が完了するまで停止させるように構成されている、製作システム(310)。」である点。

・ 相違点1’

成形ステーションに関し、本件発明9は、「多段式ツーリングを含み、熱可塑性母材が軟化された前記積層板の部分を成形するための成形ステーション(330)であってマルチショットスタンピング工程を実行するように構成された成形ステーション(330)」と特定するのに対し、甲1発明Bの成形工程は、「所望の形状及び厚みにするのに十分な所定の力(圧力)で標準金型(104)が集合的に又は個別に適用されるものであ」る点。

・ 相違点2’

移動手段に関し、本件発明9は、「前記軟化及び成形が前記積層板の異なる部分に対して同時に実行されるように、前記積層板を前記ステーションを連続して通って移動させるためのコンベヤ(340)を備え、」と特定するのに対し、甲1発明Bは、この点を特定しない点。

ウ 判断
事案に鑑み、相違点2’から判断する。
甲1発明Bの「一体式金属製結合金具を有する熱可塑性複合積層体」は、甲1の段落【0004】、【0009】、【0014】及び具体的な実施例の記載及び図4からみて、多プライスタックと少なくとも一つの金属製結合金具とを含むレイアップが予備成形された積層体を、ガイドローラ上において、予備成形ゾーン、加熱ゾーン、プレスゾーンをへて単一の一体化された熱可塑性複合積層体が形成されるものといえるから、当該熱可塑性複合積層体は一体として移動するものであり、コンベアベルトが利用されていないのは明らかであって、その移動手段としては、ピンチローラ等の複数の移動手段が取り得るものである。
そして、申立人が提示するいずれの文献にも、単一の一体化された熱可塑性複合積層体の移動手段としてコンベアベルトを利用する構成のものは提示されていない。
また、甲1発明Bの「一体式金属製結合金具を有する熱可塑性複合積層体」の移動手段として、周知のコンベアベルトを利用する動機もないことから、相違点2’は当業者が容易に想到し得たものということはできない。
よって、相違点1’について検討するまでもなく、本件発明9は、甲1発明Bに基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
なお、申立人は、平成31年3月27日付け意見書において、甲1の「シート部材92」が本件発明9の「コンベアベルト」である旨主張するが、甲1において「シート部材92」とは、正確には「側方仕上げ用シート部材92」であって、コンベアベルトとは異なるものであるから、申立人の主張は失当であって採用できない。

エ 本件発明10、12及び13について
本件発明10、12及び13は、請求項9を直接又は間接的に引用するものであるから、本件発明9と同様に、上記ウでの検討のとおりであって、甲1発明Bに基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

オ まとめ
以上のことから、申立理由4には、理由がない。

第8 むすび

以上のとおりであるから、当審において通知した取消理由及び申立人が主張する申立理由によっては、本件特許の請求項1ないし6、8ないし10、12及び13に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし6、8ないし10、12及び13に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
本件特許の請求項7及び11に係る特許は、上記のとおり、本件訂正請求により削除された。これにより、請求項7及び11に係る特許に対する申立人による特許異議の申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。

よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性強化複合部品を製作する方法であって、
熱可塑性母材に埋設された強化用繊維の積層板(106)を、加熱ステーション(130)と、次いで成形ステーション(140)とを通る連続工程のために移動させることを含み、
加熱ステーション(130)において前記積層板(106)の一部分における前記熱可塑性母材を軟化し、同時に、前記成形ステーション(140)において、熱可塑性母材が軟化された前記積層板(106)の部分を成形し、
前記軟化させること及び成形することが前記積層板(106)の異なる部分に対して同時に実行され、
前記成形することが、多段式ツーリングを使用して前記積層板(106)に異なる形状を付与することを含み、
前記成形することがマルチショットスタンピング工程として実行され、前記積層板(106)の部分は一のステーションから次のステーションへ前進させられ、前記加熱ステーション(130)及び前記成形ステーション(140)での工程が完了するまで停止させられ、
前記積層板(106)を支持するコンベヤベルト(342)が連続工程のために使用される、
方法。
【請求項2】
前記加熱ステーション(130)及び前記成形ステーション(140)を通して移動させる前に、事前に熱可塑性樹脂を含浸させた強化用繊維のプライスタックを、圧密化ステーション(120)を通して移動させ、前記プライを前記積層板(106)へと圧密化することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記プライを圧密化し、前記熱可塑性母材を軟化させるために、赤外線エネルギーが使用される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
熱可塑性強化複合部品を製作する方法であって、
熱可塑性母材に埋設された強化用繊維の積層板(106)を、加熱ステーション(130)と、次いで成形ステーション(140)とを通る連続工程のために移動させることを含み、
加熱ステーション(130)において前記積層板(106)の一部分における前記熱可塑性母材を軟化し、同時に、前記成形ステーション(140)において、熱可塑性母材が軟化された前記積層板(106)の部分を成形し、
前記軟化させること及び成形することが前記積層板(106)の異なる部分に対して同時に実行され、
前記成形することが、多段式ツーリングを使用して前記積層板(106)に異なる形状を付与することを含み、
前記成形することがマルチショットスタンピング工程として実行され、前記積層板(106)の部分は一のステーションから次のステーションへ前進させられ、前記加熱ステーション(130)及び前記成形ステーション(140)での工程が完了するまで停止させられ、
前記成形ステーションが前記マルチショットスタンピング工程を実行するための第1のツールセット(332)と第2のツールセット(334)とを含み、前記成形することが、一体的に加熱される前記第1のツールセット(332)と前記第2のツールセット(334)とを用いて実行される、方法。
【請求項5】
前記積層板(106)の成形された部分に取付フィーチャを付加することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
熱可塑性強化複合部品を製作する方法であって、
熱可塑性母材に埋設された強化用繊維の積層板(106)を、加熱ステーション(130)と、次いで成形ステーション(140)とを通る連続工程のために移動させることを含み、
加熱ステーション(130)において前記積層板(106)の一部分における前記熱可塑性母材を軟化し、同時に、前記成形ステーション(140)において、熱可塑性母材が軟化された前記積層板(106)の部分を成形し、
前記軟化させること及び成形することが前記積層板(106)の異なる部分に対して同時に実行され、
前記成形することが、多段式ツーリングを使用して前記積層板(106)に異なる形状を付与することを含み、
前記成形することがマルチショットスタンピング工程として実行され、前記積層板(106)の部分は一のステーションから次のステーションへ前進させられ、前記加熱ステーション(130)及び前記成形ステーション(140)での工程が完了するまで停止させられ、
前記積層板(106)を支持するためのコンベヤベルト(342)として柔軟性のポリマーフィルムが使用され、前記部品が成形された後で前記フィルムが前記部品から剥がされる、方法。
【請求項7】(削除)
【請求項8】
前記積層板(106)が、連続的な又はストレッチブロークンの繊維強化材を有する一体的に補強された部品へと成形される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
熱可塑性強化複合積層板(106)の熱可塑性母材を軟化させるための加熱ステーション(320)、
多段式ツーリングを含み、熱可塑性母材が軟化された前記積層板の部分を成形するための成形ステーション(330)であってマルチショットスタンピング工程を実行するように構成された成形ステーション(330)、並びに
前記軟化及び成形が前記積層板の異なる部分に対して同時に実行されるように、前記積層板を前記ステーションを連続して通って移動させるためのコンベヤ(340)
を備え、
前記コンベヤ(340)が脈動式に動き、前記積層板(106)の部分を一のステーションから次のステーションへ前進させ、前記加熱ステーション(320)及び前記成形ステーション(330)での工程が完了するまで停止させるように構成されている、製作システム(310)。
【請求項10】
事前に熱可塑性物質を含浸させた強化用繊維の未圧密化プライスタックを、前記積層板へと圧密化するための圧密化ステーションを更に備え、前記コンベヤ(340)は、前記未圧密化プライスタックを前記圧密化ステーションへと移動させ、次いで前記積層板を前記加熱ステーション(320)へと移動させる、請求項9に記載のシステム。
【請求項11】(削除)
【請求項12】
前記加熱ステーション(320)が上部及び下部予熱ゾーン(322、324)と上部及び下部加熱ゾーン(326、328)とを含んでいる、請求項9に記載のシステム。
【請求項13】
前記成形ステーション(330)が、初期部品形状を成形するための第1のツールセット(332)と、初期形状を変更して部品の剛性を向上させるための第2のツールセット(334)とを含む、請求項9に記載のシステム。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-05-09 
出願番号 特願2015-550387(P2015-550387)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (B29C)
P 1 651・ 537- YAA (B29C)
P 1 651・ 113- YAA (B29C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 関口 貴夫  
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 大島 祥吾
渕野 留香
登録日 2018-02-16 
登録番号 特許第6289503号(P6289503)
権利者 ザ・ボーイング・カンパニー
発明の名称 熱可塑性強化複合部品の製作  
代理人 園田・小林特許業務法人  
代理人 園田・小林特許業務法人  

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