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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61B
審判 全部申し立て 2項進歩性  A61B
審判 全部申し立て 特29条の2  A61B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A61B
管理番号 1353121
異議申立番号 異議2018-700768  
総通号数 236 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-08-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-09-25 
確定日 2019-05-27 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6301969号発明「生体信号検出衣料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6301969号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-29〕、30について訂正することを認める。 特許第6301969号の請求項1ないし30に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6301969号の請求項1ないし30に係る特許についての出願は、2015年(平成27年)1月27日(優先権主張 2014年1月28日)を国際出願日とする出願であって、平成30年3月9日にその特許権の設定登録がされ、同月28日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について、同年9月25日に特許異議申立人 谷川康治(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審は、同年12月3日付けで取消理由を通知した。それに対し、特許権者は、その指定期間内である平成31年2月4日に意見書の提出及び訂正の請求を行い、当審よりその意見書及び訂正の請求に対して申立人に意見を求めたが、申立人から意見書の提出はなかったものである。

第2 訂正の適否

1 訂正の内容
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、「樹脂層が積層」と記載されているのを、「PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)多孔膜、親水性のポリエステル樹脂エラストマーもしくは親水性のポリウレタン樹脂エラストマーからなる無孔膜、ポリウレタン樹脂微多孔膜から選択される透湿層がラミネートにより積層接着、または親水性のポリエステル樹脂エラストマーもしくは親水性のポリウレタン樹脂エラストマーからなる無孔膜から選択される透湿層がコーティングにより積層接着」に訂正する(請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2?29も同様に訂正する)。なお、下線は当審が付与したものであり、訂正箇所を示す(訂正事項に係る記載において以下同様)。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項7に、「溶媒中に前記導電性高分子とバインダとを分散した分散液を前記繊維構造物に塗布することにより、前記繊維構造物に前記導電性高分子を含浸させる」と記載されているのを、「前記導電性高分子およびバインダを含浸させた繊維構造物である」に訂正する(請求項7の記載を直接又は間接的に引用する請求項8?29も同様に訂正する)。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項21に、「前記配線部は導電性樹脂から形成され、防水性の電気的絶縁性部材からなるシートの片面の一部に前記導電性樹脂を連続的に積層し、前記防水性の電気的絶縁性部材の前記導電性樹脂が積層された面を前記衣料本体部と張り合わせることにより、前記配線部が形成される」と記載されているのを、「前記配線部は、防水性の電気的絶縁性部材からなるシートと、前記シートの片面の一部に連続的に積層された導電性樹脂と、からなり、前記防水性の電気的絶縁性部材の前記導電性樹脂が積層された面が前記衣料本体部と張り合わされている」に訂正する(請求項21の記載を直接又は間接的に引用する請求項22?29も同様に訂正する)。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項30に、「樹脂層が積層」と記載されているのを、「PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)多孔膜、親水性のポリエステル樹脂エラストマーもしくは親水性のポリウレタン樹脂エラストマーからなる無孔膜、ポリウレタン樹脂微多孔膜から選択される透湿層がラミネートにより積層接着、または親水性のポリエステル樹脂エラストマーもしくは親水性のポリウレタン樹脂エラストマーからなる無孔膜から選択される透湿層がコーティングにより積層接着」に訂正する。

(5)訂正の単位について
訂正事項1は、訂正前に引用関係を有する請求項1?29に対して、訂正事項2は、訂正前に引用関係を有する請求項7?29に対して、訂正事項3は、訂正前に引用関係を有する請求項21?29に対して請求されたものであり、訂正事項1?3に係る訂正は、一群の請求項〔1-29〕について請求されたものである。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否

(1)訂正事項1及び4について
訂正事項1及び4は、訂正前の「樹脂層」を特定の透湿層に限定するとともに、当該透湿層が導電性繊維構造物の肌側と接する面の裏面側に積層接着されたものに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また、訂正事項1及び4は、本件特許明細書の段落【0058】「透湿層としては、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)多孔膜、親水性のポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂など親水性エラストマーからなる無孔膜、ポリウレタン樹脂微多孔膜など、既知の膜、フィルム、積層物、樹脂などをコーティング、ラミネート方式で積層した形態が挙げられる」との記載に基づく構成であるから、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の「製造方法により特定された導電性繊維構造物」を、いわゆるPBPであり不明確であるとの取消理由を受け、構造についての発明特定事項としたことから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(3)訂正事項3について
訂正事項3は、訂正前の「製造方法により特定された配線部」を、いわゆるPBPであり不明確であるとの取消理由を受け、構造についての発明特定事項としたことから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

3 小括
上記のとおり、訂正事項1?4に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?29〕、30について訂正することを認める。

第3 訂正後の本件発明
上記のとおり訂正が認められるから、本件特許の請求項1?30に係る発明(以下、それぞれ請求項の番号に応じて「本件発明1」などという。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1?30に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

「【請求項1】
導電性繊維構造物からなる少なくとも2つ以上の電極と、
生体と接触する前記電極が取得した生体電気信号を検出処理する測定装置と、
前記電極と前記測定装置とを導通接続する配線部と、
前記電極、前記測定装置、および前記配線部が所定の位置に配置される衣料本体部と、
を具備し、前記電極に用いる導電性繊維構造物の肌側と接する面の裏面側にPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)多孔膜、親水性のポリエステル樹脂エラストマーもしくは親水性のポリウレタン樹脂エラストマーからなる無孔膜、ポリウレタン樹脂微多孔膜から選択される透湿層がラミネートにより積層接着、または親水性のポリエステル樹脂エラストマーもしくは親水性のポリウレタン樹脂エラストマーからなる無孔膜から選択される透湿層がコーティングにより積層接着されたことを特徴とする生体信号検出衣料。
【請求項2】
前記測定装置は心電図測定装置であって、
前記電極のいずれか1つを関電極とし、前記関電極以外の電極を不関電極(生体基準電位電極)として、前記関電極と前記不関電極との電位差を心電図波形として検出することを特徴とする請求項1に記載の生体信号検出衣料。
【請求項3】
前記測定装置は心電図測定装置であって、
前記導電性繊維構造物からなる少なくとも3つ以上の電極を有し、前記電極のいずれか2つを関電極とし、前記関電極以外の電極を不関電極(生体基準電位電極)として、2つの前記関電極の電位差を心電図波形として検出することを特徴とする請求項1に記載の生体信号検出衣料。
【請求項4】
前記測定装置は心電図測定装置であって、
前記電極のうちの2つは、前記衣料本体部の左右の側胸部あるいは側腹部近傍にそれぞれ配置され、
前記電極を3つ以上具備する場合、残りの電極は、前記衣料本体部の左右の側胸部あるいは側腹部近傍に配された電極から離間して配置されることを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載の生体信号検出衣料。
【請求項5】
前記衣料本体部の左右の側胸部あるいは側腹部近傍にそれぞれ配置された前記電極を2つの関電極とし、これら以外を不関電極(生体基準電位電極)として、2つの前記関電極の電位差を心電図波形として検出することを特徴とする請求項4に記載の生体信号検出衣料。
【請求項6】
前記導電性繊維構造物は、導電性高分子を含浸させた繊維構造物であることを特徴とする請求項1?5のいずれかに記載の生体信号検出衣料。
【請求項7】
前記導電性繊維構造物は、前記導電性高分子およびバインダを含浸させた繊維構造物であることを特徴とする請求項6に記載の生体信号検出衣料。
【請求項8】
前記導電性高分子は、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホン酸との混合物であることを特徴とする請求項6または7に記載の生体信号検出衣料。
【請求項9】
前記電極は、繊維構造物の織編物からなり、前記織編物の目付けが50g/m^(2)以上、300g/m^(2)以下であることを特徴とする請求項1?8のいずれかに記載の生体信号検出衣料。
【請求項10】
前記電極に用いる織編物が合成繊維マルチフィラメントからなり、前記織編物に使用する合成繊維マルチフィラメントの少なくとも一部が、繊度が30dtex以上400dtex以下で、かつ単糸繊度が0.2dtex以下である合成繊維マルチフィラメントであることを特徴とする請求項1?9のいずれかに記載の生体信号検出衣料。
【請求項11】
前記電極に用いる織編物が合成繊維マルチフィラメントからなり、前記織編物に使用する合成繊維マルチフィラメントの少なくとも一部が、単糸繊維径が10nm以上5000nm以下である合成繊維マルチフィラメントを含むことを特徴とする請求項1?10のいずれかに記載の生体信号検出衣料。
【請求項12】
前記電極に用いる織編物が合成繊維マルチフィラメントからなり、前記織編物に使用する合成繊維マルチフィラメントの少なくとも一部が、単糸繊維径が10nm以上1000nm以下である合成繊維マルチフィラメントを含むことを特徴とする請求項1?11のいずれかに記載の生体信号検出衣料。
【請求項13】
前記樹脂層がポリウレタン系透湿層からなることを特徴とする請求項1?12のいずれかに記載の生体信号検出衣料。
【請求項14】
前記配線部は、導電性樹脂のプリント、導電性樹脂フィルムのラミネート、導電性繊維または金属線により形成されることを特徴とする請求項1?13のいずれかに記載の生体信号検出衣料。
【請求項15】
前記配線部は導電性繊維の縫込みにより形成され、
前記導電性繊維は金属類によりコーティングされた繊維からなることを特徴とする請求項1?14のいずれかに記載の生体信号検出衣料。
【請求項16】
前記導電性繊維にコーティングされる金属類は、銀、アルミあるいはステンレス鋼を含むことを特徴とする請求項15に記載の生体信号検出衣料。
【請求項17】
前記配線部は、前記衣料本体部の表面側に配置されることを特徴とする請求項1?16のいずれかに記載の生体信号検出衣料。
【請求項18】
前記配線部は導電性繊維の縫込みにより形成され、
前記導電性繊維が主に前記衣料本体部の表面側に露出するように、ミシンの片糸に用いて縫製により縫い込まれたことを特徴とする請求項1?17のいずれかに記載の生体信号検出衣料。
【請求項19】
前記配線部は、前記衣料本体部の表面側に配置され、
前記配線部の前記衣料本体部の表面側に露出する部分が、防水性の電気的絶縁性部材で被覆されていることを特徴とする請求項1?18のいずれかに記載の生体信号検出衣料。
【請求項20】
前記電気的絶縁性部材がポリウレタン系フィルムであることを特徴とする請求項19に記載の生体信号検出衣料。
【請求項21】
前記配線部は、
防水性の電気的絶縁性部材からなるシートと、
前記シートの片面の一部に連続的に積層された導電性樹脂と、
からなり、前記防水性の電気的絶縁性部材の前記導電性樹脂が積層された面が前記衣料本体部と張り合わされていることを特徴とする請求項1?14、17および20のいずれかに記載の生体信号検出衣料。
【請求項22】
前記生体信号検出衣料は、1つの前記電極、前記測定装置、および前記電極と前記測定装置を導通接続する前記配線部によって構成される導通接続系統を少なくとも2つ有し、前記導通接続系統の少なくとも衣料本体部上に形成される部分が、撥水性かつ絶縁性の構造で互いに分離されることを特徴とする請求項1?21のいずれかに記載の生体信号検出衣料。
【請求項23】
前記衣料本体部は織編物からなり、前記織編物のタテ方向あるいはヨコ方向のどちらか一方の60%伸長時の応力が0.5N以上15N以下であることを特徴とする請求項1?22のいずれかに記載の生体信号検出衣料。
【請求項24】
前記衣料本体部は弾性糸と非弾性糸からなる織編物であることを特徴とする請求項1?23のいずれかに記載の生体信号検出衣料。
【請求項25】
前記弾性糸はポリウレタン系弾性繊維であることを特徴とする請求項24に記載の生体信号検出衣料。
【請求項26】
前記衣料本体部が編物であることを特徴とする請求項1?27のいずれかに記載の生体信号検出衣料。
【請求項27】
前記測定装置は、コネクタを介して前記衣料本体部と着脱かつ接続することができることを特徴とする請求項1?26のいずれかに記載の生体信号検出衣料。
【請求項28】
前記測定装置は、モバイル端末やパーソナルコンピュータと通信し、データを転送する機能を有することを特徴とする請求項1?27のいずれかに記載の生体信号検出衣料。
【請求項29】
前記測定装置は、モバイル端末やパーソナルコンピュータと無線通信し、データを転送する機能を有することを特徴とする請求項1?28のいずれかに記載の生体信号検出衣料。
【請求項30】
導電性繊維構造物からなる少なくとも2つ以上の電極と、
生体と接触する前記電極が取得した生体電気信号を検出処理する測定装置を着脱かつ接続可能なコネクタと、
前記電極と前記コネクタとを導通接続する配線部と、
前記電極、前記コネクタ、および前記配線部が所定の位置に配置される衣料本体部と、
を具備し、前記電極に用いる導電性繊維構造物の肌側と接する面の裏面側に前記電極の湿度コントロールが可能なPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)多孔膜、親水性のポリエステル樹脂エラストマーもしくは親水性のポリウレタン樹脂エラストマーからなる無孔膜、ポリウレタン樹脂微多孔膜から選択される透湿層がラミネートにより積層接着、または親水性のポリエステル樹脂エラストマーもしくは親水性のポリウレタン樹脂エラストマーからなる無孔膜から選択される透湿層がコーティングにより積層接着されたことを特徴とする生体信号検出衣料。」

第4 申立人が提出した証拠
申立人が提出した証拠は、次の甲第1号証?甲第7号証(以下、それぞれ、「甲1」?「甲7」という。)である。

甲1:国際公開第2013/073673号
甲2:米国特許出願公開第2010/0198043号明細書
甲3:米国特許出願公開第2013/0066168号明細書
甲4:特表2002-507131号公報
甲5:特開2014-226367号公報(特願2013-108935号)
甲6:国際公開第2012/146066号
甲7:特開2011-32595号公報

第5 甲各号証の記載

1 甲1について
(1)甲1の記載事項
本件特許出願の優先権主張の日前に頒布された甲1には、次の事項が記載されている。(下線は当審による。以下同様。)

(甲1ア)
「[0226][第三の態様の第二実施形態]
第二実施形態の生体電極330を図24A?24Bに示す。生体電極330においては、導電性複合繊維によって構成された紐状の複数の接触子331が平面状に配列された接触部(電極面)332と、接触部332を支持するシート状の基板333とが備えられている。接触部332と基板333を合わせた構成を電極パッドと呼ぶ。各接触子331と電気的に接続された信号ケーブル334が備えられている。さらに、前記電極パッドの接触部332を皮膚Sに押し当てる手段として、伸縮性の材料で構成されたホルダー335を備えている。
・・・
[0228] シート状の基板332を用いることにより、生体電極の皮膚接触面の平面性を確保し、さらに皮膚との安定した接着を促すことができる。前記基板の素材やサイズや形状は任意に選択できる。例えば基板として、厚さ0.2mmのPVC(ポリ塩化ビニール)シートまたはシリコーン製の平面シート(厚さ1mm)が挙げられる。前記基板の素材はこれらに限定されず、柔軟な膜状(シート状)の材料であって、基板の平面性が容易に保たれ、皮膚との密着性が良好な材料が、好適に使用される。
・・・
[0231] 基板333と接触部332との重なり位置において、基板333には開口部336が設けられている。開口部336は換気口(通気口)として機能する。つまり、接触部332及び基板333からなる電極パッドを皮膚に押し当てた際に、皮膚からの蒸気又は汗を開口部336から電極パッドの外部へ排出することができる。開口部336の形状は、基板333を通過して気体が流通可能な形状であれば特に制限されず、円形、矩形等のいかなる形状であっても構わない。基板333の表面に配置された接触子331が開口部336を通して基板333の裏面に露出しても構わない。」

(甲1イ)
「[0233] 図25Bに示すように、接触部332とは反対の基板333の面(裏面)に調湿用パッド337を備えても良い。開口部336を通過した蒸気又は汗を調湿用パッド337で吸い取ることができる。調湿用パッド337の材料は吸水性を有する材料であれば特に制限されない。
また調湿用パッド337を覆う又は固定するための調湿用カバー338を設けても構わない。
・・・
[0235] 基板333に開口部336を設けることにより、夏季、若年者、運動時などの発汗量が多く蒸れやすい状況から、冬季、高齢者、安静時など乾燥した状況まで、さまざまな皮膚の状態に対応することができる。開口部336は、電極パッドにより閉鎖された(覆われた)皮膚を開放して、湿気を放散する目的のためだけに設けられるのではなく、皮膚に対して積極的に水分を供給する目的のために設けても構わない。つまり、開口部336の上に吸水性のパッド(スポンジ等)337を設置することにより、汗の除去や湿度調節を図ることができる。乾燥しやすい環境においては、前記調湿用のパッド337に、水、グリセロール、保湿成分を含有させることにより、パッド337から接触子331及び皮膚へ、前記含有物を補給することができる。乾燥時の保湿の目的においては、さらに前記調湿用パッド37の外側をPVC等のカバーで覆うことが好ましい。接触子331を構成する導電性複合繊維は適度な吸湿性を有し、接触子331を構成する微細な繊維による毛細管現象により水分が移動及び拡散するため、開口部336やパッド337を設置することにより、接触部332周辺における円滑な湿度調整が可能である。
・・・
[0241] 生体電極330の電極パッドを皮膚表面に設置する方法は、生体電極を安定に固定できる方法であれば特に制限されず、例えば前述した導電性複合繊維が有する粘着性、又はシート状の基板333の粘着性を利用して、電極パッドを単独で自立的に皮膚に貼り付けることが可能である。接触子331を配列した接触部332を体表面(皮膚表面)に接触させると、接触子331が皮膚表面にすみやかに貼り付き、接触子331と皮膚表面との間で導通が得られ、生体信号を取得できる。生体信号は接触子331に結線された信号ケーブル334(金属導線)を経て、生体アンプ等の外部装置に送られる。」

(甲1ウ)
「[0244] 例えば図26A?26Bに示すように、ホルダー335は、例えば下着(シャツ)Tの内側に設置することができる。電極パッド338及びホルダー335の一部が下着Tの内側に固定されている。ホルダー335と電極パッド338とは構造的に独立しており、ホルダー335は、電極パッド338の上を横方向に移動可能なように、即ち身体Bの表面に沿う方向に移動可能(シフト可能)とされている。したがって、電極パッド338とホルダー336とが互いに離れることが可能なように配置されていることが好ましく、電極パッド338とホルダー335とが完全には固定されていないことが好ましい。このように電極パッド338とホルダー335とが構造的に独立して、電極パッド338とホルダー335の接触部位が固定されておらず、前記接触部位において電極パッド338の上をホルダー335が摺動可能とされていることにより、身体Bと下着Tのズレによる電極パッド338の脱落、生体信号の喪失、及び電極のズレに伴うノイズの発生を抑えることができる。また、必要に応じて、ホルダー335を積極的に身体Bから離して、電極パッド338を取り外したり、交換したりすることもできる。ホルダー335は電極パッド338を安定に保持する役割とともに、生体電極の付属品(ケーブル、コネクター、アンプ339等)の保持にも活用される。
[0245] ホルダー335を構成する生地(材料)は特に制限されない。例えば布、シート、メッシュ、ゴムバンド等のうち、伸縮性のある生地を用いることが好ましい。具体的には、帯状の2方向伸縮性の布、ライクラ(登録商標)(一般名:スパンデックス)(東レ株式会社製)を、下着のシャツの内側に、心臓の高さに合わせて15cm幅(縦の長さ)で縫い付けて用いることができる(図25A,25B参照)。このホルダーは例えばホルター心電図用電極のホルダー(CC5誘導用)として好適である。CC5の場合、電極パッド338が前胸部の左右に設置され、これを電極ホルダー335が覆う構成を採用することができる。」

(甲1エ)図24A,B


(甲1オ)図25B


(甲1カ)図26A,B


(2)甲1に記載された発明

ア 図26A,Bの「下着T」は、(甲1ア)の[0226]及び(甲1ウ)の記載を踏まえると、「生体電極330」を「固定」することが理解できる。

イ 上記アを含め上記(1)の記載事項及び図面を総合すると、甲1には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

「導電性複合繊維によって構成された紐状の複数の接触子331が平面状に配列された接触部(電極面)332と、接触部332を支持するシート状の基板333とが備えられ、接触部332と基板333を合わせた構成を電極パッドと呼び、各接触子331と電気的に接続された信号ケーブル334が備えられ、さらに、前記電極パッドの接触部332を皮膚Sに押し当てる手段として、伸縮性の材料で構成されたホルダー335を備えている生体電極330を固定する下着Tであって、
シート状の基板333として、厚さ0.2mmのPVC(ポリ塩化ビニール)シートまたはシリコーン製の平面シート(厚さ1mm)が挙げられ、
基板333と接触部332との重なり位置において、基板333には開口部336が設けられ、開口部336は換気口(通気口)として機能し、
接触部332とは反対の基板333の面(裏面)に調湿用パッド(スポンジ等)337を備えても良く、開口部336を通過した蒸気又は汗を調湿用パッド337で吸い取ることができ、
接触子331を配列した接触部332を体表面(皮膚表面)に接触させると、接触子331が皮膚表面にすみやかに貼り付き、接触子331と皮膚表面との間で導通が得られ、生体信号を取得でき、生体信号は接触子331に結線された信号ケーブル334(金属導線)を経て、生体アンプ等の外部装置に送られ、
ホルダー335は、下着(シャツ)Tの内側に設置することができ、電極パッド338及びホルダー335の一部が下着Tの内側に固定され、電極パッド338を安定に保持する役割とともに、生体電極の付属品(ケーブル、コネクター、アンプ339等)の保持にも活用され、下着のシャツの内側に、心臓の高さに合わせて15cm幅(縦の長さ)で縫い付けて用いることができ、ホルター心電図用電極のホルダー(CC5誘導用)として電極パッド338が前胸部の左右に設置される、
下着T。」

2 甲2について
(1)甲2の記載事項
本件特許出願の優先権主張の日前に頒布された甲2には、次の事項が記載されている。

(甲2ア)
「[0039] FIGS. 1a to 1c show an exemplary garment 100 for monitoring physiological properties. Principles of the present invention shall be explained exemplarily by means of measuring the heart rate. However, as mentioned above, other physiological properties can also be monitored and evaluated by means of suitable sensors and measuring electronic.
[0040]According to an embodiment in FIG. 1a, the device for monitoring physiological properties is integrated into a T-shirt worn by the athlete during exercising the sport. Of course, the device for monitoring physiological properties can, as stated above, also be integrated into other garments, such as pullovers or tank tops.
[0041] FIG. 1a shows a garment 100 for measuring the heart rate of the wearer in a side view. The auxiliary line 102 divides the garment 100 into the front side and the rear side. According to an embodiment of the present invention, the electrodes contacting the skin of the wearer form the measuring sensors for monitoring the heart rate.」
(日本語訳)
「[0039] 図1a?1cは、生理的特性のモニタのための典型的な衣料100を示す。本発明の原理は、心拍数を測定することによって例示的に説明されるものとする。しかしながら、上述するように、他の生理的特性も適切なセンサおよび測定電子機器によってモニタし評価することができる。
[0040] 図1aの中の実施態様によれば、生理的特性のモニタ用装置は、スポーツ中にスポーツ選手によって着用されるTシャツに一体化される。もちろん、上述したように、生理的特性のモニタ用装置はまた、他の衣料(セーターまたはタンクトップ)に一体化され得る。
[0041] 図1aは、着用者の心拍数を測定するための衣料100を示す側面図である。補助線102により、衣料100は正面側および背面側に分割される。本発明の実施態様によれば、着用者の皮膚と接触する電極は、心拍数のモニタするための測定センサを構成する。」

(甲2イ)
「[0044] As may be seen from FIG. 1b, which shows the front side of the garment 100, and FIG. 1c, which shows the rear side of the garment 100 , a further electrode 130 is integrated in the garment 100 symmetrical to the spine of the wearer, said further electrode basically having the same properties as the electrode 120. In an embodiment, the electrode can, however, also be guided along a different space between the ribs of the wearer than the electrode 120. In these embodiments, the electrode 130 is therefore offset vertically with respect to the electrode 120 .
[0045] The electrodes 120 and 130 form an inner surface of the garment 100. In an embodiment they are formed of a conductive stretch material. The stretch material can be a lycra-like material. It can for instance be composed of approx. 92% silver-coated nylon and approx. 8% dorlastan. The surface resistance of such a material in unstretched condition less than 1Ω/sq. The Thickness is approx. 0.5 mm with a weight of approx. 130 g/m^(2).
[0046] In some embodiments, the electrodes 120 and 130 are stitched or glued onto the inner surface of the garment 100. The parts of the garment 100 onto which the electrodes 120 and 130 are stitched or glued on can be composed of non-conductive fibers to insulate the electrodes towards the outside. However, the electrodes 120 and 130 can also be sewed into the garment 100 itself or they can be integrated in a different manner.
[0047] As may further be seen from FIG.1b to 1c, each electrode 120 and 130 contacts a conductive connection 125 and 135, respectively. The conductive connections 125 and 135 are either adhered or stitched onto the electrode 120 or 130 in the longitudinal direction. In some embodiments, the conductive connections are woven into the stretch material that forms the electrodes.
[0048] The conductive connections 125 and 135, respectively, lead from the electrodes 120 or 130 to a device 170 for monitoring physiological properties, which is specified with respect to FIG. 3a and FIG. 3b as well as FIG.4 .
[0049] The conductive connections 125 and 135 can be composed of a conductive yarn or thread that is woven into the non-conductive fibers of the garment 100 or that is sewed/stitched or adhered onto the garment 100 . Such a thread is for instance composed of silver-coated nylon whose resistance is less than 5 Ω/cm.
[0050]The conductive connections are electrically conductively coupled to the device for monitoring the physiological properties. As described above, and as explained further below with reference to FIGS. 3a and 3b as well as FIG. 4 , the device 170 contains a measuring electronics in some embodiments that is required for a heart rate measurement. In some embodiments, the device 170 is fixedly integrated into the garment 100, in other embodiments it is detachable from the garment 100, as explained in detail with reference to FIGS. 2a to 2c. The device 170 is preferably positioned on the rear side 150 of the garment 100 .」
(日本語訳)
「[0044] 図1b(衣料100の正面側を示す)および図1c(衣料100の背面側を示す)から参照できるように、衣料100にさらなる電極130が一体化され、電極130は、電極120と着用者の背骨に対して対称的であり、基本的に電極120と同じ特性を有している。ただし、一実施態様では、電極130は、電極120と比べて着用者の肋骨間で異なるスペースに沿ってガイドされうる。これらの実施態様では、電極130は、電極120に対して縦方向にオフセットされる。
[0045] 電極120および130は、衣料100の内表面に形成される。一実施態様では、電極120および130は導電性の伸縮素材から作られる。伸縮素材はライクラ(当審注:登録商標)のような材料であり得る。導電性の伸縮素材は、例えば、銀コートナイロン約92%およびドルラスタン約8%で構成されうる。そのような材料の表面抵抗は、延伸されていない状態で1Ω/sq.未満である。厚さは約0.5mmで、目付は約130g/m^(2)である。
[0046] いくつかの実施態様では、電極120および130は、衣料100の内表面に縫い付けられるか接着剤で接着される。外部に対して電極を絶縁するために、衣料100のうち、電極120および130が縫い付けられるか、接着剤で接着される部分は、非導電性の繊維からできていてもよい。しかしながら、電極120および130も、衣料100に縫い込まれてもよいし、異なる方式で一体化されてもよい。
[0047] 図1b?1cでさらに説明するように、電極120および130はそれぞれ導通接続部125および135とそれぞれ接触する。導通接続部125および135は縦方向で電極120または130に接着されるか、または縫い付けられる。いくつかの実施態様では、導通接続部は、伸縮素材に編まれて電極を形成する。
[0048] 図3aおよび図3b、図4と同様に、導通接続部125および135は、それぞれ、電極120または130から生理的特性のモニタ用装置170に導通する。
[0049] 導通接続部125および135は、導電性ヤーンまたは糸から形成することができ、これらは、衣料100の非導電性の繊維に織り込まれるか、衣料100上に縫われ/スティッチされるか、または接着される。そのような糸は、例えば銀コートナイロンから形成され、その抵抗は5Ω/cm未満である。
[0050] 導通接続部は、生理的特性のモニタ用装置に、電気的に導電性に連結される。上述したように、および、図4と同様に図3aおよび3bに関してさらに以下の説明されるように、装置170はいくつかの実施態様で測定電子機器を含み、その態様では心拍数測定に必要な電子機器である。いくつかの実施態様では、装置170は衣料100に固定式で一体化され、他の実施態様では、図2a?2cに詳細に説明されるように、装置170は衣料100に対して分離可能である。装置170は、好ましくは衣料100の後ろ側150に配置される。」

(甲2ウ)FIG.1a


(甲2エ)FIG.1b,1c


(2)甲2に記載された発明
上記(1)の記載事項及び図面を総合すると、甲2には、次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。

「着用者の心拍数を測定するための衣料100であって、
着用者の皮膚と接触する電極120および130は、導電性の伸縮素材から作られ、伸縮素材はライクラ(当審注:登録商標)のような材料であり、衣料100の内表面に縫い付けられるか接着剤で接着され、
導通接続部125および135は、それぞれ、電極120または130から生理的特性のモニタ用装置170に導通し、衣料100の非導電性の繊維に織り込まれるか、衣料100上に縫われ/スティッチされるか、または接着され、
モニタ用装置170は、心拍数測定に必要な電子機器であり、衣料100に固定式で一体化され、または、衣料100に対して分離可能である、
衣料100。」

3 甲3について
(1)甲3の記載事項
本件特許出願の優先権主張の日前に頒布された甲3には、次の事項が記載されている。

(甲3ア)
「[0091] In conclusion, the invention relates to method and system for generating physiological signals by using the cloth capacitive sensor. In the system, a capacitance is formed between the electrodes of cloth and human body which are contacted. Under an effect of a signal provided externally, when pressure, tension, pull or strain is applied between the human body and the cloth, which enables to change the capacitance or change the dielectric constant between the human body and the cloth so that the capacitance changes, change of the capacitance is sensed. The change of capacitance is displayed by frequency, voltage or current so that a frequency, voltage or current change will be generated. Change of resonance frequency, voltage or current is used to respond physiological parameters of human body, such as posture, swallowing, coughing, breathing, sweating, even heartbeat etc. The invention makes remarkable progress in technology and has obvious active effect, which is a novel, advanced and practical design.」
(日本語訳)
「[0091] 結論として、本発明は布静電容量センサの使用により生理信号を発生する方法とシステムに関する。前記システムでは、布電極と、布電極が接触する人体の間で静電容量が形成される。人体と布の間で、圧力、引力、引張力、ねじり力が適用されると、外部から得られた信号により、人体と布の間の静電容量または誘電率が変化することが可能となり、その結果静電容量が変化し、静電容量の変化が探知される。周波数、電圧または電流によって静電容量の変化が示され、その結果周波数、電圧または電流の変化が生成される。共振周波数、電圧または電流の変化は、人体の生理的パラメータ、例えば、姿勢、呑み込み、咳、呼吸、発汗、および心臓の鼓動などの生理的パラメータに応答するために使用される。本発明は、技術において著しい進歩であり目を見張る効果があり、新規で高度で実用的な設計である。

(甲3イ)
[0203] Common architecture of the invention refers to FIG. 1 . The articles where the sensors are placed such as clothes, socks, bed sheets, pillows or chairs etc. are contacted directly or indirectly with human body (for example, underwear separates the sensors and the skin). The sensors are arranged at specific positions according to applications and matched with switches according to demand, for example, button switches or crack switches. ・・・
[0204] In order to increase bonding between the sensors and the human that are contacted, a material can be added between the sensors and the cloth or leather to increase the thickness, such as elastic materials: sponge, silicon, rubber, and spring etc. At the same time, in order to prevent incorrect contact or transmit too many signals at the same time, a switch can be further provided between the sensors and the cloth or leather so as to control start of signal sensing according to pressure or tension.」
(日本語訳)
「[0203] 本発明の共通の構造が図1に示される。センサが衣服、ソックス、シーツ、枕または椅子などに配置される物品は、人体と直接または間接的に接触し、間接的な接触では、例えば、下着はセンサと皮膚を分離する。用途に応じて、センサは特定位置で配置され、要求(例えばボタンスイッチ、クリップスイッチ)に応じて、スイッチと一致させられる。・・・
[0204] センサと人間との間の接着性を増加させるために、厚さを増加させるために、センサと、布または皮革との間に材料(弾性材)を加えることができる:そのような弾性材は、例えば、スポンジ、シリコン、ゴム、スプリングなどが含まれる。同時に、正しくない接触や過多の信号を同時に送信するのを防ぐために、スイッチを、センサと、布または皮革との間に備えて、圧力や引っ張りに応じて信号の感知の開始を制御することができる。」

(2)甲3に記載された発明
上記(1)の記載事項及び図面を総合すると、甲3には、次の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。

「生理信号を発生する布静電容量センサが配置される衣服であって、
布静電容量センサと人間との間の接着性や厚さを増加させるために、布静電容量センサと衣服との間に弾性材を加えることができ、そのような弾性材は、例えば、スポンジ、シリコン、ゴム、スプリングなどが含まれる、
衣服。」

4 甲4について
(1)甲4の記載事項
本件特許出願の優先権主張の日前に頒布された甲4には、次の事項が記載されている。

(甲4ア)第10頁第20行-第11頁第10行
「 図1と図2を参照すると、この発明の非侵襲モニタリングシャツ(NIMシャツ)10の好ましい実施態様は、導電性プレチスモグラフセンサ20?25を備え、それらのセンサは、モニタされる患者(図示しない)の胴に着せられる長袖衣服15に刺繍されるか、縫い込まれるか、埋め込まれるか、織り込まれるか、又は印刷され、タートルネックに付着又は携帯される。NIMシャツ10は、衣服15の背面の内側に縫い込まれるか、埋め込まれるか、又は接着剤で固定される電子心電計電極センサ26をさらに備える。衣服15は、例えばベルクロのストリップ又はひものような固定具16を用いて人体にぴったりと固定される。
センサ20?26の各々は、衣服15に付着又は携帯されるマイクロコントローラ・ユニット30に接続される。マイクロコントローラ30は、プレスチモグラフ誘導センサ20?25用の発振器-復調器ユニットを備え、各々は多重化能力を有するか、又は各種センサ20?25間のクロストークを除去するために各々異なる周波数に対応する類似した別々の発振器モジュールの形をとる。

マイクロコントローラ・ユニット30は、図に示すように、モニタされる患者の腰に衣服の側面に取付けられるが、それはまた、患者の体の上又は周囲のどのような快適な位置又は部位に付設又は携帯されてもよい。図3に見られるように、マイクロコントローラはセンサ20?26からモニタ信号を収集しワイヤレスの通信リンク35を介して遠隔記録/警告ユニット40へ伝送するが、ユニット40は警告条件を決定すると共にデータ記録機能を与えるプロセッサを備える。」

(甲4イ)第14頁第4行-第12行
「 NIMシャツ10の好ましい実施態様は、電子心電図(ECG)電極センサ26(図2)をさらに備える。ECG電極センサ26は、例えば、衣服15の背面又は後面の壁又はパネルの内側に可撓性接着材料により固定される大きな布切れ状の導電性黒鉛材料を備えてもよい。ECG電極センサ26は、また、他の例として、衣服15の内壁に塗布される導電性黒鉛とシリコンゲルとの混合体を備えてもよい。センサ26は、電極と皮膚表面との間に導電性ゲルを用いることなく直接皮膚に接触する。ECG電極センサ26は図2に示すように衣服15の背面パネルの上部に設置されるが、それらはまた、ECG信号が患者の体から検出されるのであれば、衣服の周囲のいかなる場所に設置されてもよい。」

(甲4ウ)FIG.1


(甲4エ)FIG.2


(2)甲4に記載された発明
上記(1)の記載事項及び図面を総合すると、甲4には、次の発明(以下、「甲4発明」という。)が記載されていると認められる。

「衣服15の背面の内側に接着剤で固定される電子心電計電極センサ26を備える非侵襲モニタリングシャツ(NIMシャツ)10であって、
電子心電計電極センサ26は、衣服15に付着されるマイクロコントローラ・ユニット30に接続され、衣服15の背面の内側に可撓性接着材料により固定される大きな布切れ状の導電性黒鉛材料を備えている、
非侵襲モニタリングシャツ(NIMシャツ)10。」

5 甲5について
(1)甲5先願当初明細書等の記載事項
本件特許出願の優先権主張の日前に出願され、その日後に出願公開された甲5に係る特許出願(特願2013-108935号)の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲及び図面(以下、「甲5先願当初明細書等」という。)には、次の事項が記載されている。

(甲5ア)
「【0020】
[第1の実施の形態]
図1は本発明の第1の実施の形態に係る生体電極の構造を示す断面模式図である。図1に示す生体電極は、導電性の多孔質体、または表面および内部の少なくとも一部に良導性材料若しくは不分極材料が固定された非導電性の多孔質体からなる生体信号受信部10と、生体信号受信部10で受信した生体信号を図示しない生体信号測定装置に伝えるための生体信号伝達ケーブル13と、生体信号受信部10と生体信号伝達ケーブル13とを電気的に接続するためのコネクタ部12と、生体(人体)50と接触する面と反対側の生体信号受信部10の面を覆う水分蒸発抑制用覆い11とから構成される。
・・・
【0026】
[第2の実施の形態]
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。図2は第1の実施の形態で説明した生体電極をシャツ等の衣類51に実装した場合の例を示している。生体電極は、例えば水分蒸発抑制用覆い11を衣類51に縫い付けたり接着したりすることで、衣類51に固定されている。」

(甲5イ)図2


(2)甲5先願当初明細書等に記載された発明
上記(1)の記載事項及び図面を総合すると、甲5先願当初明細書等には、次の発明(以下、「甲5先願発明」という。)が記載されていると認められる。

「生体電極を実装したシャツ等の衣類51であって、
生体電極は、導電性の多孔質体からなる生体信号受信部10と、生体信号受信部10で受信した生体信号を生体信号測定装置に伝えるための生体信号伝達ケーブル13と、生体信号受信部10と生体信号伝達ケーブル13とを電気的に接続するためのコネクタ部12と、生体(人体)50と接触する面と反対側の生体信号受信部10の面を覆う水分蒸発抑制用覆い11とから構成され、
生体電極は、水分蒸発抑制用覆い11を衣類51に縫い付けたり接着したりすることで、衣類51に固定されている、
衣類51。」

6 甲6について
(1)甲6の記載事項
本件特許出願の優先権主張の日前に頒布された甲6には、次の事項が記載されている。

(甲6ア)第3頁第11行-第4頁第32行


(日本語訳)
「人間の日常生活において大部分の時間に衣服や身の回り品を穿き、椅子に腰掛け、またはベッドに横になり、これらはクロース、例えば衣服、ベッドシート、絨毯、椅子、ハンドル、安全ベルト、バックパック、マスク、マフラー、手袋、靴下、帽子、ベルト、冠物などに接触する。人間の生理情報をクロースにより検知することもできるため、知能型紡績及び服飾もより速やかに発展してくる。
各種の電子モジュール(例えば抵抗器、コンデンサ、インダクター、スイッチ、ダイオード、増幅器、アナログ/デジタル、デジタル/アナログコンバーター、プロセッサー、バッテリーまたはセンサー例えば体温、呼吸、心臓拍動、筋電図、加速度計、ジャイロスコープ、マイクロフォン、撮影機など、または他のモジュール例えば温度センサー、化学センサー、生物センサー、力センサー、圧力、音声、電場、磁場、重量が軽く、加速度と/または環境条件、力、熱、電磁輻射と/または音声、赤外線と/または無線発信機と/または受信機、画像形成装置、CCD画像形成、熱電インダクター、冷却器、加熱器と/または発電機、液晶素子、電子発光素子、有機発光素子、OLED、電気泳動元素、LED、圧電素子と/またはセンサー、マイクロフォンスピーカー、声学センサー、抵抗器、プロセッサー、デジタル信号プロセッサー、マイクロプロセッサー、マイクロコントローラー、CPU、アナログ-デジタルコンバーター、デジタル-アナログコンバーター、データ生産設備、データ利用の設備、加工設備、交換機、マンマシンインタフェース設備、個人の入力装置、信号灯と/またはフラッシュ、バッテリー、太陽電池、太陽光発電設備、電源、アドレッシングの設備、例えば治療用の経皮神経電気刺激の器械(TENS)など)はクロースまたはホットメルト粘着膜に固定され、且つ伝送線によりこれらのモジュールの接続点に対しはんだなし接続を行い、例えばニッティング、平織、タッチング、接着、などの方式で電子モジュールをクロースまたはホットメルト粘着膜に固定し、且つ伝送線により導通させる。電子回路と外界の接触を隔離するようにクロースまたはホットメルト粘着膜にもう1つのクロースが設けられるため、外界要素による損壊またはショート、開回路などの状況の発生を防止できる。
本発明の目的は、従来のクロース電子化の製品及び方法に存在する欠陥を克服し、1つの新しいクロース電子化の製品及び方法を提供することであり、解決しようとする技術問題は、従来のクロースと従来の電子モジュール及び現在の導線技術を結合させ、クロースまたはホットメルト粘着膜を回路板とし、且つクロースまたはホットメルト粘着膜に電子モジュール及び伝送線を設置し、その後、クロース電子化のために、さらにそれを紡績品または服飾に設置し、非常に実用に適することである。
本発明のもう1つの目的は、従来のクロース電子化の製品及び方法に存在する欠陥を克服し、1つの新しいクロース電子化の製品及び方法を提供することであり、解決しようとする技術問題は、クロース電子化の過程を簡素化できるようにさせ、クロースと電子モジュールまたは伝送線を先にそれぞれ生産し、その後一体に結合し、且つ先ず電子モジュールと伝送線を結合し、その後クロースに縫い、または伝送線をクロースに縫い、または貼合することにより固定する過程において電子モジュールと伝送線を接続し、続いてこの電子クロースにさらにもう1つのクロースを縫うことにより密封を完成し、且つ絶縁であり、つまり電子回路を先にパッケージ化クロースに置き、さらにこのパッケージ化クロースを衣服や身の回り品に縫い、または電子回路を先に衣服や身の回り品に設け、外界による破損を防止するように、続いてさらに1つのパッケージ化クロースによって被覆することによりパッケージ化、絶縁、防水、組版を完成し、且つ上記いずれの方法を採用しても、クロースに「半田付け」をしないため、環境にも人体にも傷害せず、且つクロースを破壊しないことにより、さらに実用に適することである。」

(甲6イ)第16頁第8行-第30行

(日本語訳)
「電子モジュール及び伝送線をホットメルト粘着膜に固定する方法(図25aのように)は、例えば導電縫い糸(または導電布ストリップまたは絶縁導線など)を使用し、ホットメルト薄膜を基板として回路板を製作することである。そのうち、導電縫い糸を使用する時に、直接パソコン化パターン縫いミシンを使用して予め編成した配線図を直接ソーイングの方法によりホットメルト粘着膜に取り付けることによりホットメルト粘着膜PCBを形成し、その後ガングドリルマシンを使用して電子モジュールを相応の位置に置くことによりホットメルト粘着膜PCBAを実現する。もし導電布ストリップを使用すれば、予め配線位置に導線走行位置図を印刷しておく必要があり、その後ホットエアガンなどの加熱工具を使用して粘着膜を局部融けさせ、その後印刷した導線走行位置図に沿って人工で導線を排列する。もし絶縁導線を使用すれば、モジュールの圧接位置に予め絶縁層を抜かすことにより裸出させ、さらにガングドリルマシンを使用して電子モジュールを相応の位置に
置く必要がある。その後、その上、下に耐油紙を敷き、加温してホットメルト粘着膜を少し融かし、その前に置いた電子モジュールと導線をホットメルト粘着膜に接着させ、最後に、耐油紙(図25aのように)を取り除く。また、もし電子モジュールは電子モジュールと導線との導通がより良いことを要求すれば、導線の圧接面を増加するように1層または2層の導線ホットメルト粘着膜を使用することにより、その圧接した電子モジュールと導線との導通がより良いようにさせる(図25b)。また、もし電子モジュールはパッケージ化及び絶縁環境に対する要求が比較的に高ければ、全回路のパッケージ化及び絶縁性能を向上するように、その上または下にさらに1層のホットメルト膜を添加することができる(図25c)。
一、ホットメルト粘着膜の性能、特徴は下記の通りである。
1.各種類の紡績品に対し優良な接着力を有する。
2.水洗、ドライクリーニングに耐え、使用が便利であり、効率が高い。
3.人体環境に汚染がない。
二、ホットメルト粘着膜の種類は下記の通りである。
1、高級製品用:ポリアミドホットメルト粘着膜(PA)、ポリエステルホットメルト粘着膜(PET)、ポリウレタンホットメルト粘着膜(PU)
2、普通製品用:ポリオレフィンホットメルト粘着膜(PO)、エチレン‐エチレン酢酸ビニル共重合体ホットメルト粘着膜(EVA)」

(2)甲6に記載された発明
上記(1)の記載事項及び図面を総合すると、甲6には、次の発明(以下、「甲6発明」という。)が記載されていると認められる。

「ホットメルト粘着膜に電子モジュール(例えば、心臓拍動のモジュール)及び伝送線を設置し、その後、クロース電子化のために、さらにそれを設置した紡績品または服飾であって、
ホットメルト粘着膜の種類は、
1、高級製品用:ポリアミドホットメルト粘着膜(PA)、ポリエステルホットメルト粘着膜(PET)、ポリウレタンホットメルト粘着膜(PU)
2、普通製品用:ポリオレフィンホットメルト粘着膜(PO)、エチレン‐エチレン酢酸ビニル共重合体ホットメルト粘着膜(EVA)
のいずれかである、
紡績品または服飾。」

7 甲7について
(1)甲7の記載事項
本件特許出願の優先権主張の日前に頒布された甲7には、次の事項が記載されている。

(甲7ア)
「【0001】
本発明は、透湿防水性に優れ、防水衣料等に用いられる透湿防水性布帛に関する。」

(甲7イ)
「【0020】
本発明の布帛の生地としては、使用目的等に応じて適宜なものを用いることが可能であるが、例を挙げると、ナイロン繊維やポリエステル繊維、ポリアミド繊維の如き合成繊維、アセテート繊維の如き半合成繊維、綿や麻や羊毛の如き天然繊維を単独でまたは2種以上を混合して、織物や編物、不織布等特に限定することなく用いることが出来る。
【0021】
透湿防水層を形成する樹脂としては、例を挙げると、ポリエステル共重合系、ポリエーテル共重合系、あるいはポリカーボネート共重合系のポリウレタン、ひまし油由来原料を共重合したポリウレタン、シリコーン、フッ素、アミノ酸等を共重合したポリウレタン、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリテトラフルオロエチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂などが挙げられ、これらを単独もしくは混合して用いることができる。
【0022】
これらの樹脂を主成分とした層に透湿性を付与する形態としては、例えば、
(1)ポリウレタンを主成分とする微多孔質膜
(2)透湿性を有するポリウレタンを主成分とする無孔質膜
(3)ポリテトラフルオロエチレンを主成分とする延伸多孔膜
(4)前記樹脂をナノファイバー化して積層した不織布構造を持つ微多孔質膜
などが挙げられる。また、上記(1)のような微多孔質膜に、透湿性を有する無孔質膜をさらに積層することも好ましい。中でも、(1)(2)のようなポリウレタンを主成分として用いた透湿防水膜が製造コストと性能の面から特に好ましい。
【0023】
透湿防水層の形成方法としては、布帛にダイレクトにコーティングしたり、離型基材上にコーティング等で形成した透湿防水層を接着剤を用いて、ドットもしくは全面接着で布帛に接合させた後に離型基材を剥離する方法等があるが、そのいずれかに限定されるものではない。なお、コーティング方式としては、ナイフコーティング、ナイフオーバーロールコーティング、リバースロールコーティングなど各種のコーティング法を採用できる。」

(2)甲7に記載された技術的事項
上記(1)の記載事項及び図面を総合すると、甲7には、次の技術的事項(以下、「甲7技術的事項」という。)が記載されていると認められる。

「防水衣料等に用いられる透湿防水性布帛であって、
透湿防水層である
(1)ポリウレタンを主成分とする微多孔質膜
(2)透湿性を有するポリウレタンを主成分とする無孔質膜
(3)ポリテトラフルオロエチレンを主成分とする延伸多孔膜
などを、布帛にダイレクトにコーティングした、透湿防水性布帛。」

第5 取消理由通知に記載した取消理由について

1 取消理由の概要
訂正前の請求項1ないし30に係る特許に対して、当審が平成30年12月3日に特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

(1)請求項1ないし30に係る発明は、甲2発明(主引用発明)及び甲1発明(副引用発明)に基いて、当業者が容易に想到することができたものである。よって、請求項1ないし30に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。

(2)発明の詳細な説明に記載された具体例を、請求項1ないし30に記載の「樹脂層」の範囲まで、拡張ないし一般化できる理由はないことから、請求項1ないし30に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものとはいえない。よって、請求項1ないし30に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。

(3)請求項7及び21は、「導電性繊維構造物」及び「配線部」を、製造方法により特定する記載であるため、それぞれの構造が明確であるとはいえない。よって、請求項7及び21、並びに、前記請求項を直接又は間接的に引用する請求項8ないし20及び22ないし29に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。

2 当審の判断

(1)特許法第29条第2項について

ア 本件発明1について

(ア)対比
本件発明1と甲2発明とを対比する。

a 甲2発明の「ライクラ(当審注:登録商標)」は、ポリウレタン弾性繊維の商標名であるから、甲2発明の「導電性の伸縮素材から作られ、伸縮素材はライクラ(当審注:登録商標)のような材料であ」る「電極120および130」は、本件発明1の「導電性繊維構造物からなる少なくとも2つ以上の電極」に相当する。

b 甲2発明の「着用者の皮膚と接触する」「電極120または130から」「導通」する「心拍数測定に必要な電子機器であ」る「生理的特性のモニタ用装置170」は、本件発明1の「生体と接触する前記電極が取得した生体電気信号を検出処理する測定装置」に相当する。

c 甲2発明の「それぞれ、電極120または130から生理的特性のモニタ用装置170に導通」する「導通接続部125および135」は、本件発明1の「前記電極と前記測定装置とを導通接続する配線部」に相当する。

d 甲2発明の「電極120および130は、」「衣料100の内表面に縫い付けられるか接着剤で接着され、」「導通接続部125および135は、」「衣料100の非導電性の繊維に織り込まれるか、衣料100上に縫われ/スティッチされるか、または接着され、」「モニタ用装置170は、」「衣料100に固定式で一体化され、または、衣料100に対して分離可能である、」「衣料100」は、本件発明1の「前記電極、前記測定装置、および前記配線部が所定の位置に配置される衣料本体部」に相当する。

e 上記a?dを踏まえると、甲2発明の「着用者の心拍数を測定するための衣料100」は、本件発明1の「生体信号検出衣料」に相当する。

(イ)一致点・相違点
上記(ア)を踏まえると、本件発明1と甲2発明とは、次の点で一致し、次の点で相違する。

(一致点)
「導電性繊維構造物からなる少なくとも2つ以上の電極と、
生体と接触する前記電極が取得した生体電気信号を検出処理する測定装置と、
前記電極と前記測定装置とを導通接続する配線部と、
前記電極、前記測定装置、および前記配線部が所定の位置に配置される衣料本体部と、
を具備する生体信号検出衣料。」

(相違点1)
本件発明1では、「前記電極に用いる導電性繊維構造物の肌側と接する面の裏面側にPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)多孔膜、親水性のポリエステル樹脂エラストマーもしくは親水性のポリウレタン樹脂エラストマーからなる無孔膜、ポリウレタン樹脂微多孔膜から選択される透湿層がラミネートにより積層接着、または親水性のポリエステル樹脂エラストマーもしくは親水性のポリウレタン樹脂エラストマーからなる無孔膜から選択される透湿層がコーティングにより積層接着され」るのに対し、甲2発明では、この点の特定がない点。

(ウ)判断
上記相違点1について検討する。

a 甲1、3、4及び6発明は、上記第5の1、3、4及び6のとおり、いずれも、本件発明1の「生体信号検出衣料」に関する技術分野に属するものであるが、上記相違点1に係る本件発明1の構成を備えてはいない。

b また、甲7技術的事項の「布帛にダイレクトに」「透湿防水層」を「コーティングした、透湿防水性布帛」は、「衣料」を「透湿防水」とするためのものであるから、甲7に接した当業者であれば、甲2発明の「衣料100」を透湿防水のものとすべく、その「衣料100」を構成する布帛として、甲7技術的事項の上記「透湿防水性布帛」を用いることは、想到し得るかもしれないが、甲7には、衣料を「前記電極、前記測定装置、および前記配線部が所定の位置に配置される」「生体信号検出衣料」とすることについて記載も示唆もされていないことから、甲7に接した当業者であっても、甲2発明の「電極120および130」を透湿防水のものとすべく、「透湿層」を「電極に用いる導電性繊維構造物の肌側と接する面の裏面側に」「コーティングにより積層接着」することは、想到し得ないことである。
そして、本件発明1は、「透湿層」を「電極に用いる導電性繊維構造物の肌側と接する面の裏面側に」「コーティングにより積層接着」することにより、電極自体の湿度をコントロールすることができるという効果を奏するものである。

c また、上記相違点1に係る本件発明1の構成が周知技術であるという証拠もない。

d 以上のことから、上記相違点1に係る本件発明1の構成は、甲2、甲1、3、4及び6、並びに甲7に基づいて当業者が容易に想到し得たことではない。

(エ)小括
したがって、本件発明1は、甲2、甲1、3、4及び6、並びに甲7に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 本件発明2?29について
本件発明2?29は、本件発明1を更に減縮したものであるから、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 本件発明30について
本件発明30は、上記相違点1に係る本件発明1の構成を備えているから、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)特許法第36条第6項第1号について
特許法第36条第6項第1号の取消理由については、「樹脂層が積層された」を、訂正により、「PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)多孔膜、親水性のポリエステル樹脂エラストマーもしくは親水性のポリウレタン樹脂エラストマーからなる無孔膜、ポリウレタン樹脂微多孔膜から選択される透湿層がラミネートにより積層接着、または親水性のポリエステル樹脂エラストマーもしくは親水性のポリウレタン樹脂エラストマーからなる無孔膜から選択される透湿層がコーティングにより積層接着された」にしたことから、特許法第36条第6項第1号についての取消理由は解消した。

(3)特許法第36条第6項第2号について
特許法第36条第6項第2号の取消理由については、「製造方法により特定された導電性繊維構造物」(請求項7)及び「製造方法により特定された配線部」(請求項21)を、訂正により、それぞれ、構造についての発明特定事項としたことから、特許法第36条第6項第2号についての取消理由は解消した。

第6 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について

1 特許法第29条第1項第3号について
申立人は、本件発明1は各甲1?4発明である旨主張するが、上記第5の2(1)のとおり、上記相違点1に係る本件発明1の構成は実質的な相違点であるから、申立人の主張する上記理由は採用できない。

2 特許法第29条第2項について
申立人は、本件発明1は、甲1、3、4、6発明のいずれを主引用発明とし、甲1?4、6、7から当業者が容易に発明をすることができた旨主張するが、上記第5の2(1)のとおり、上記相違点1に係る本件発明1の構成は、甲1?4、6、7の記載事項から導き出せるものでないから、甲1、3、4、6発明のいずれをも主引用発明として出発しても、上記相違点1に係る本件発明1の構成に至らないことは明らかである。よって、申立人の主張する上記理由は採用できない。

3 特許法第29条の2について
申立人は、本件発明1は甲5先願発明と同一発明である旨主張するが、甲5先願発明は、上記相違点1に係る本件発明1の構成を明らかに備えておらず、甲5先願当初明細書等には、そのような構成を示唆する記載もない。よって、本件発明1は、甲5先願発明と同一発明でないから、申立人の主張する上記理由は採用できない。

第7 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件発明1ないし30に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1ないし30に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性繊維構造物からなる少なくとも2つ以上の電極と、
生体と接触する前記電極が取得した生体電気信号を検出処理する測定装置と、
前記電極と前記測定装置とを導通接続する配線部と、
前記電極、前記測定装置、および前記配線部が所定の位置に配置される衣料本体部と、
を具備し、前記電極に用いる導電性繊維構造物の肌側と接する面の裏面側にPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)多孔膜、親水性のポリエステル樹脂エラストマーもしくは親水性のポリウレタン樹脂エラストマーからなる無孔膜、ポリウレタン樹脂微多孔膜から選択される透湿層がラミネートにより積層接着、または親水性のポリエステル樹脂エラストマーもしくは親水性のポリウレタン樹脂エラストマーからなる無孔膜から選択される透湿層がコーティングにより積層接着されたことを特徴とする生体信号検出衣料。
【請求項2】
前記測定装置は心電図測定装置であって、
前記電極のいずれか1つを関電極とし、前記関電極以外の電極を不関電極(生体基準電位電極)として、前記関電極と前記不関電極との電位差を心電図波形として検出することを特徴とする請求項1に記載の生体信号検出衣料。
【請求項3】
前記測定装置は心電図測定装置であって、
前記導電性繊維構造物からなる少なくとも3つ以上の電極を有し、前記電極のいずれか2つを関電極とし、前記関電極以外の電極を不関電極(生体基準電位電極)として、2つの前記関電極の電位差を心電図波形として検出することを特徴とする請求項1に記載の生体信号検出衣料。
【請求項4】
前記測定装置は心電図測定装置であって、
前記電極のうちの2つは、前記衣料本体部の左右の側胸部あるいは側腹部近傍にそれぞれ配置され、
前記電極を3つ以上具備する場合、残りの電極は、前記衣料本体部の左右の側胸部あるいは側腹部近傍に配された電極から離間して配置されることを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載の生体信号検出衣料。
【請求項5】
前記衣料本体部の左右の側胸部あるいは側腹部近傍にそれぞれ配置された前記電極を2つの関電極とし、これら以外を不関電極(生体基準電位電極)として、2つの前記関電極の電位差を心電図波形として検出することを特徴とする請求項4に記載の生体信号検出衣料。
【請求項6】
前記導電性繊維構造物は、導電性高分子を含浸させた繊維構造物であることを特徴とする請求項1?5のいずれかに記載の生体信号検出衣料。
【請求項7】
前記導電性繊維構造物は、前記導電性高分子およびバインダを含浸させた繊維構造物であることを特徴とする請求項6に記載の生体信号検出衣料。
【請求項8】
前記導電性高分子は、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホン酸との混合物であることを特徴とする請求項6または7に記載の生体信号検出衣料。
【請求項9】
前記電極は、繊維構造物の織編物からなり、前記織編物の目付けが50g/m^(2)以上、300g/m^(2)以下であることを特徴とする請求項1?8のいずれかに記載の生体信号検出衣料。
【請求項10】
前記電極に用いる織編物が合成繊維マルチフィラメントからなり、前記織編物に使用する合成繊維マルチフィラメントの少なくとも一部が、繊度が30dtex以上400dtex以下で、かつ単糸繊度が0.2dtex以下である合成繊維マルチフィラメントであることを特徴とする請求項1?9のいずれかに記載の生体信号検出衣料。
【請求項11】
前記電極に用いる織編物が合成繊維マルチフィラメントからなり、前記織編物に使用する合成繊維マルチフィラメントの少なくとも一部が、単糸繊維径が10nm以上5000nm以下である合成繊維マルチフィラメントを含むことを特徴とする請求項1?10のいずれかに記載の生体信号検出衣料。
【請求項12】
前記電極に用いる織編物が合成繊維マルチフィラメントからなり、前記織編物に使用する合成繊維マルチフィラメントの少なくとも一部が、単糸繊維径が10nm以上1000nm以下である合成繊維マルチフィラメントを含むことを特徴とする請求項1?11のいずれかに記載の生体信号検出衣料。
【請求項13】
前記樹脂層がポリウレタン系透湿層からなることを特徴とする請求項1?12のいずれかに記載の生体信号検出衣料。
【請求項14】
前記配線部は、導電性樹脂のプリント、導電性樹脂フィルムのラミネート、導電性繊維または金属線により形成されることを特徴とする請求項1?13のいずれかに記載の生体信号検出衣料。
【請求項15】
前記配線部は導電性繊維の縫込みにより形成され、
前記導電性繊維は金属類によりコーティングされた繊維からなることを特徴とする請求項1?14のいずれかに記載の生体信号検出衣料。
【請求項16】
前記導電性繊維にコーティングされる金属類は、銀、アルミあるいはステンレス鋼を含むことを特徴とする請求項15に記載の生体信号検出衣料。
【請求項17】
前記配線部は、前記衣料本体部の表面側に配置されることを特徴とする請求項1?16のいずれかに記載の生体信号検出衣料。
【請求項18】
前記配線部は導電性繊維の縫込みにより形成され、
前記導電性繊維が主に前記衣料本体部の表面側に露出するように、ミシンの片糸に用いて縫製により縫い込まれたことを特徴とする請求項1?17のいずれかに記載の生体信号検出衣料。
【請求項19】
前記配線部は、前記衣料本体部の表面側に配置され、
前記配線部の前記衣料本体部の表面側に露出する部分が、防水性の電気的絶縁性部材で被覆されていることを特徴とする請求項1?18のいずれかに記載の生体信号検出衣料。
【請求項20】
前記電気的絶縁性部材がポリウレタン系フィルムであることを特徴とする請求項19に記載の生体信号検出衣料。
【請求項21】
前記配線部は、
防水性の電気的絶縁性部材からなるシートと、
前記シートの片面の一部に連続的に積層された導電性樹脂と、
からなり、前記防水性の電気的絶縁性部材の前記導電性樹脂が積層された面が前記衣料本体部と張り合わされていることを特徴とする請求項1?14、17および20のいずれかに記載の生体信号検出衣料。
【請求項22】
前記生体信号検出衣料は、1つの前記電極、前記測定装置、および前記電極と前記測定装置を導通接続する前記配線部によって構成される導通接続系統を少なくとも2つ有し、前記導通接続系統の少なくとも衣料本体部上に形成される部分が、撥水性かつ絶縁性の構造で互いに分離されることを特徴とする請求項1?21のいずれかに記載の生体信号検出衣料。
【請求項23】
前記衣料本体部は織編物からなり、前記織編物のタテ方向あるいはヨコ方向のどちらか一方の60%伸長時の応力が0.5N以上15N以下であることを特徴とする請求項1?22のいずれかに記載の生体信号検出衣料。
【請求項24】
前記衣料本体部は弾性糸と非弾性糸からなる織編物であることを特徴とする請求項1?23のいずれかに記載の生体信号検出衣料。
【請求項25】
前記弾性糸はポリウレタン系弾性繊維であることを特徴とする請求項24に記載の生体信号検出衣料。
【請求項26】
前記衣料本体部が編物であることを特徴とする請求項1?27のいずれかに記載の生体信号検出衣料。
【請求項27】
前記測定装置は、コネクタを介して前記衣料本体部と着脱かつ接続することができることを特徴とする請求項1?26のいずれかに記載の生体信号検出衣料。
【請求項28】
前記測定装置は、モバイル端末やパーソナルコンピュータと通信し、データを転送する機能を有することを特徴とする請求項1?27のいずれかに記載の生体信号検出衣料。
【請求項29】
前記測定装置は、モバイル端末やパーソナルコンピュータと無線通信し、データを転送する機能を有することを特徴とする請求項1?28のいずれかに記載の生体信号検出衣料。
【請求項30】
導電性繊維構造物からなる少なくとも2つ以上の電極と、
生体と接触する前記電極が取得した生体電気信号を検出処理する測定装置を着脱かつ接続可能なコネクタと、
前記電極と前記コネクタとを導通接続する配線部と、
前記電極、前記コネクタ、および前記配線部が所定の位置に配置される衣料本体部と、
を具備し、前記電極に用いる導電性繊維構造物の肌側と接する面の裏面側に前記電極の湿度コントロールが可能なPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)多孔膜、親水性のポリエステル樹脂エラストマーもしくは親水性のポリウレタン樹脂エラストマーからなる無孔膜、ポリウレタン樹脂微多孔膜から選択される透湿層がラミネートにより積層接着、または親水性のポリエステル樹脂エラストマーもしくは親水性のポリウレタン樹脂エラストマーからなる無孔膜から選択される透湿層がコーティングにより積層接着されたことを特徴とする生体信号検出衣料。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-05-16 
出願番号 特願2015-559954(P2015-559954)
審決分類 P 1 651・ 16- YAA (A61B)
P 1 651・ 121- YAA (A61B)
P 1 651・ 537- YAA (A61B)
P 1 651・ 113- YAA (A61B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 門田 宏  
特許庁審判長 三崎 仁
特許庁審判官 ▲高▼見 重雄
三木 隆
登録日 2018-03-09 
登録番号 特許第6301969号(P6301969)
権利者 日本電信電話株式会社 東レ株式会社
発明の名称 生体信号検出衣料  
代理人 特許業務法人酒井国際特許事務所  
代理人 酒井 宏明  
代理人 特許業務法人酒井国際特許事務所  
代理人 酒井 宏明  
代理人 特許業務法人酒井国際特許事務所  
代理人 特許業務法人酒井国際特許事務所  

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