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審決分類 審判 全部申し立て 特29条の2  C09K
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C09K
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C09K
審判 全部申し立て 2項進歩性  C09K
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C09K
管理番号 1353130
異議申立番号 異議2017-701174  
総通号数 236 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-08-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-12-13 
確定日 2019-05-22 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6146452号発明「HFCとHFOとを含有する組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6146452号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?4〕について訂正することを認める。 特許第6146452号の請求項1及び3に係る特許を維持する。 特許第6146452号の請求項2及び4に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第6146452号の請求項1?4に係る特許(以下、各請求項に係る特許を項番号に合わせて「本件特許1」などといい、まとめて「本件特許」という。)についての出願は、平成27年6月1日(優先権主張 平成26年9月25日)に出願された特願2015-111628号の一部を、同年10月23日に新たな特許出願としたものであって、平成29年5月26日にその特許権の設定登録がされ、同年6月14日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、本件特許1?4に対して、同年12月13日に特許異議申立人である鈴木愛子により特許異議の申立てがなされた。
本件特許異議申立事件における手続の経緯は、以下のとおりである。
平成30年 2月16日付け:(当審)取消理由通知
同年 4月20日 :(特許権者)意見書及び訂正請求書の提出
同年 4月27日付け:(当審)訂正拒絶理由通知
同年 6月 1日 :(特許権者)意見書の提出
同年 8月 9日付け:(当審)取消理由通知(決定の予告) 同年10月 9日 :(特許権者)意見書及び訂正請求書の提出
同年11月21日 :(特許異議申立人)意見書の提出
同年12月17日 :(特許権者)上申書の提出
平成31年 1月15日付け:(当審)取消理由通知
同年 2月 4日 :(特許権者)意見書及び訂正請求書の提出
なお、平成30年4月20日及び同年10月9日になされた訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。また、平成31年2月4日になされた訂正の請求(その訂正を、以下、「本件訂正」という。)に対して特許異議申立人に意見書を提出する機会を与えたが応答はなかった。

第2 本件訂正の適否についての判断

1 本件訂正の内容(訂正事項)
本件訂正は、特許法第120条の5第3項及び第4項の規定に従い、一群の請求項を構成する請求項1?4について訂正することを求めるものであり、その内容(訂正事項)は、次のとおりである。
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「HFCとHFOとを含有する組成物であって、
1)HFCとしてHFC-32及びHFC-125、
2)HFOとしてHFO-1234yf及びHFO-1234zeの少なくとも一種、並びに、
3)第三成分としてHCC-40、HCFC-22、CFC-115及び3,3,3-トリフルオロプロピンからなる群から選択される少なくとも一種を含有し、
4)前記HFCと前記HFOとの総量が、前記HFC、前記HFO及び前記第三成分の合計量を100質量%として95質量%以上である、
ことを特徴とする組成物。」
とあるのを、
「HFCとHFOと第三成分とからなる冷媒混合物であって、
1)HFCがHFC-32及びHFC-125、
2)HFOがHFO-1234yf及びHFO-1234zeの少なくとも一種、並びに、
3)第三成分がHCC-40、HCFC-22及びCFC-115であり、
4)前記HFC-32及びHFC-125と前記HFO-1234yf及びHFO-1234zeの少なくとも一種との総量が、前記HFC-32及びHFC-125、前記HFO-1234yf及びHFO-1234zeの少なくとも一種、並びに、前記HCC-40、HCFC-22及びCFC-115の合計量を100質量%として99. 5質量%以上であり、
5)前記HFC-32及びHFC-125、前記HFO-1234yf及びHFO-1234zeの少なくとも一種、並びに、前記HCC-40、HCFC-22及びCFC-115の合計量を100質量%として、前記HCC-40の含有量が0.1質量%以下、前記HCFC-22の含有量が0.1質量%以下、及び前記CFC-115の含有量が0.3質量%以下である、
ことを特徴とする冷媒混合物。」
に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項3についても同様に訂正する。)。
(2) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。
(3) 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に、
「更に冷凍機油を含有し、前記冷凍機油の含有量が組成物中10?50質量%である、請求項1又は2に記載の組成物。」
とあるのを、
「請求項1に記載の冷媒混合物と冷凍機油とを含有する冷媒組成物であって、前記冷凍機油の含有量が前記冷媒組成物中10?50質量%である、冷媒組成物。」
に訂正する。
(4) 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4を削除する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1) 訂正事項1について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載された「HFCとHFOとを含有する組成物」を「HFCとHFOと第三成分とからなる冷媒混合物」として、組成物の構成成分及び用途を限定し、また、「1)HFCとしてHFC-32及びHFC-125、2)HFOとしてHFO-1234yf及びHFO-1234zeの少なくとも一種、並びに、3)第三成分としてHCC-40、HCFC-22、CFC-115及び3,3,3-トリフルオロプロピンからなる群から選択される少なくとも一種を含有し」としていたものを、「1)HFCがHFC-32及びHFC-125、2)HFOがHFO-1234yf及びHFO-1234zeの少なくとも一種、並びに、3)第三成分がHCC-40、HCFC-22及びCFC-115であり」として、各構成成分の範ちゅう(種類)について限定するものである。
さらに、訂正事項1は、各構成成分の配合割合についても、「4)前記HFCと前記HFOとの総量が、前記HFC、前記HFO及び前記第三成分の合計量を100質量%として95質量%以上である」としていたものを、「4)前記HFC-32及びHFC-125と前記HFO-1234yf及びHFO-1234zeの少なくとも一種との総量が、前記HFC-32及びHFC-125、前記HFO-1234yf及びHFO-1234zeの少なくとも一種、並びに、前記HCC-40、HCFC-22及びCFC-115の合計量を100質量%として99. 5質量%以上であり、5)前記HFC-32及びHFC-125、前記HFO-1234yf及びHFO-1234zeの少なくとも一種、並びに、前記HCC-40、HCFC-22及びCFC-115の合計量を100質量%として、前記HCC-40の含有量が0.1質量%以下、前記HCFC-22の含有量が0.1質量%以下、及び前記CFC-115の含有量が0.3質量%以下である」として限定するものである。
このように訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載された組成物の構成成分及び用途、並びに、当該構成成分の範ちゅう(種類)及び配合割合を限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
なお、訂正事項1は、上記構成成分の範ちゅうの明瞭化を図るものと捉えて、その目的を、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明と解することもできる。
イ 新規事項の有無
上記のとおり、訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載された組成物の構成成分及び用途、並びに、当該構成成分の範ちゅう(種類)及び配合割合を限定するものであるところ、当該限定は、本件特許明細書の【0033】?【0037】に記載された実施形態4の組成物に関する記載事項、及び、【0063】?【0077】に記載された実施例4(実施形態4の冷媒組成物)に関する記載事項に基づくものであり、特に【0064】【表8】に記載された、HFC-32(30重量%)、HFC-125(30重量%)、HFO-1234ze(39.5重量%)、HCC-40(0.1重量%)、HCFC-22(0.1重量%)及びCFC-115(0.3重量%)から構成される冷媒組成物(【0005】の記載からみて冷媒混合物と同意と解される。)からみて、当業者によって、「願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面」(本件特許明細書、特許請求の範囲又は図面)のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであると認められる。
したがって、訂正事項1は、願書に添付した明細書等に記載した事項の範囲内においてするものということができるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記アのとおり、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮(又は明瞭でない記載の釈明)を目的とするものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
(2) 訂正事項2、4について
訂正事項2、4は、訂正前の請求項2、4を削除するものであるから、これらの訂正事項は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえるとともに、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないから、同法同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものと認められる。
(3) 訂正事項3について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項3に係る請求項3の訂正は、訂正事項2による請求項2の削除に伴い、請求項2の引用をやめ(引用請求項の一部の削除。請求項2をいまだ引用しているという不明瞭な状態の解消とも解することができる。)、併せて、「組成物」を「冷媒組成物」に限定するものである(この点も、訂正事項1に係る「冷媒混合物」という用語との異同を明瞭化したものということができる。)。
したがって、当該訂正事項4は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮ないし同第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものと認められる。
イ 新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記のとおり、訂正事項3は、特許請求の範囲の減縮、あるいは、訂正事項1及び訂正事項2に伴ってなされた請求項3の記載の明瞭化にすぎないものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものと認められる。

3 小括
上記1、2のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第3項及び第4項の規定に従い、一群の請求項を構成する請求項1?4について訂正を求めるものであり、その訂正事項はいずれも、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものに該当し、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?4〕について訂正することを認める。

第3 本件特許請求の範囲の記載

上記第2のとおり、本件訂正は認容し得るものであるから、本件特許の特許請求の範囲の記載は、本件訂正後の、次のとおりのものである(以下、各請求項に係る発明を「本件発明1」などといい、まとめて「本件発明」という。)。
「【請求項1】
HFCとHFOと第三成分とからなる冷媒混合物であって、
1)HFCがHFC-32及びHFC-125、
2)HFOがHFO-1234yf及びHFO-1234zeの少なくとも一種、並びに、
3)第三成分がHCC-40、HCFC-22及びCFC-115であり、
4)前記HFC-32及びHFC-125と前記HFO-1234yf及びHFO-1234zeの少なくとも一種との総量が、前記HFC-32及びHFC-125、前記HFO-1234yf及びHFO-1234zeの少なくとも一種、並びに、前記HCC-40、HCFC-22及びCFC-115の合計量を100質量%として99. 5質量%以上であり、
5)前記HFC-32及びHFC-125、前記HFO-1234yf及びHFO-1234zeの少なくとも一種、並びに、前記HCC-40、HCFC-22及びCFC-115の合計量を100質量%として、前記HCC-40の含有量が0.1質量%以下、前記HCFC-22の含有量が0.1質量%以下、及び前記CFC-115の含有量が0.3質量%以下である、
ことを特徴とする冷媒混合物。」
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
請求項1に記載の冷媒混合物と冷凍機油とを含有する冷媒組成物であって、前記冷凍機油の含有量が前記冷媒組成物中10?50質量%である、冷媒組成物。
【請求項4】
(削除)」

第4 平成30年8月9日付けの取消理由通知(決定の予告)及び平成31年1月11日付けの取消理由通知で通知した取消理由についての判断

1 標記取消理由の概要
本件訂正前の請求項1?4に係る本件特許に対して通知した標記取消理由の要旨は、次のとおりである。
(1) (明確性要件)本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである(特許法第113条第4号に該当)。
(2) (サポート要件)本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである(特許法第113条第4号に該当)。
(3) (新規性)本件発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するものであるから、本件特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものである(特許法第113条第2号に該当)。
(4) (進歩性)本件発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものである(特許法第113条第2号に該当)。
(5) (拡大先願)本件発明1?3は、本件特許の優先日前の外国語特許出願(特許法第184条の4第3項の規定により取り下げられたものとみなされたものを除く。)であって、その優先日後に国際公開がされた下記の外国語特許出願の国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の外国語特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記外国語特許出願の出願人と同一でもないので、本件特許1?3は、特許法第29条の2の規定(同法第184条の13参照)に違反してされたものである(特許法第113条第2号に該当)。

2 取消理由(1)(明確性要件)について
取消理由(1)において指摘した明確性要件違反は、要するに、本件訂正前の請求項に係る組成物は、その構成成分の範ちゅうが不明瞭であるというものである(例えば、「HFC」は「HFC-32及びHFC-125」のみから構成されるものであるのかなど)。
しかしながら、本件訂正後の請求項に係る組成物は、例えば、請求項1において、「HFC」が「HFC-32及びHFC-125」である点が特定されるなど、その構成成分の範ちゅうは明確に把握できるものとなっており、上記の不明瞭な点は解消されているということができる。
したがって、本件訂正後の本件特許に、取消理由(1)は存しない。

3 取消理由(2)(サポート要件)について
取消理由(2)において指摘したサポート要件違反は、要するに、本件訂正前の請求項に係る組成物は、その構成成分の範ちゅうが不明瞭であることも相まって、例えば、特定のHFC、HFO以外のものが大半を占める態様など、多様な組成物を包含するものと解し得るところ、本件特許明細書の発明の詳細な説明において、実際に、本件発明の課題(潤滑性能の向上)が解決できることが検証されている具体例は、実施例4に係る特定の態様しかなく、また、上記の多様な組成物の全般にわたって、本件発明の課題を解決することができることを類推するに足りる根拠(作用機序に関する説明や技術常識)も見当たらないから、上記本件訂正前の請求項に係る組成物の範囲(特許請求の範囲)は、発明の詳細な説明の記載から当業者が課題解決できると認識できる範囲(上記実施例4に記載された特定の態様か、これに類似する場合)に対して、広範にすぎるというものである。
しかしながら、本件訂正により、請求項に係る組成物は、その構成成分やそれらの配合割合が十分特定され、さらに、発明の詳細な説明に記載された上記実施例4、すなわち、HFC-32(30重量%)、HFC-125(30重量%)、HFO-1234ze(39.5重量%)、HCC-40(0.1重量%)、HCFC-22(0.1重量%)及びCFC-115(0.3重量%)から構成される冷媒組成物、に対応する範囲に限定されたということができる。
そうすると、本件訂正後の請求項に係る組成物の範囲、すなわち、特許請求の範囲は、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載及び技術常識を参酌して、当業者において、本件発明の課題が解決できると認識できる範囲、すなわち、上記実施例4に記載された特定の態様か、これに類似する場合に対して、もはや広範にすぎるものではなくなったと解するのが相当である。
したがって、本件特許に、取消理由(2)は存しない。

4 取消理由(3)、(4)(新規性進歩性)について
(1) 証拠一覧
取消理由(3)、(4)において採用した、特許異議申立人が提出した証拠は以下のとおりである(以下、甲第1号証などを単に「甲1」という。)。
・主引用例として提示された刊行物
甲1:特表2013-529703号公報
甲2:国際公開第2013/192069号
(訳文として特表2015-522672号公報参照)
・周知技術に関する文献
甲3:特開2011-84652号公報
甲4:国際公開第2014/102479号
(訳文として特表2016-505685号公報参照)
甲5:特開2014-114214号公報
甲6:国際公開第2013/154059号
甲7:特開2010-37343号公報
甲8:特表2013-544896号公報
甲9:特表2013-529717号公報
(2) 甲1の記載事項
・「【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジフルオロメタンと、ペンタフルオロエタンと、1,1,1,2-テトラフルオロエタンと、2,3,3,3-テトラフルオロプロペンとを含む、熱伝達組成物。」
・「【技術分野】
【0001】
本発明は、冷凍、空調、ヒートポンプシステム及び他の熱伝達利用分野において使用するための、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、ジフルオロメタン、ペンタフルオロエタン、及び1,1,1,2-テトラフルオロエタンを含む熱伝達組成物に関する。発明的な熱伝達組成物は、優れた能力及び性能を提供する一方で、低い地球温暖化ポテンシャルを有することができる。
【背景技術】
【0002】
規制上の継続的な圧力に伴って、オゾン層破壊ポテンシャル及び地球温暖化ポテンシャルがより低い冷媒、熱伝達流体、発泡剤、溶媒及びエアロゾルのための環境的により持続可能な代替品を特定する必要性が高まってきている。これらの利用分野のために広く使用されているクロロフルオロカーボン(CFC)とヒドロクロロフルオロカーボン(HCFC)は、オゾン層破壊性物質であり、モントリオール議定書のガイドラインにしたがって廃止されつつある。ヒドロフルオロカーボン(HFC)は、多くの利用分野におけるCFC及びHCFCの主要な代替品である。これはオゾン層に「優しい」ものとみなされているが、それでも一般に高い地球温暖化ポテンシャルを有する。」
・「【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明においては、低いGWPのみならず能力と性能の間の予想外に優れた平衡を有する熱伝達組成物が発見された。好ましくは、本発明の熱伝達組成物は低い可燃性を有し、より好ましくは本発明の熱伝達組成物は不燃性であり、さらに一層好ましくは、本発明の熱伝達組成物は不燃性でかつさまざまな漏洩シナリオの後でも不燃性であり続け、さらに一層好ましくは、ASHRAE SSPC34にしたがった不燃性を有する。本発明の別の実施形態は、R-422Dなどの少量の炭化水素を取込んだものを含め、熱伝達装置内においてHFC冷媒に比べ改善された油の戻り特性を有する冷媒組成物である。いかなる形であれ本発明の範囲を限定することは意図されていないものの、本発明の熱伝達組成物は、新規の冷凍、空調、ヒートポンプ又は他の熱伝達装置において有用である。別の実施形態において、本発明の熱伝達組成物は、R-22、R-407C、R-427A、R-404A、R-407A、R-417A、R-422D他を含む(ただしこれらに限定されない)既存の装置内の冷媒のためのレトロフィットとして有用である。」
・「【発明を実施するための形態】
【0012】
規制上の継続的な圧力に伴って、オゾン層破壊ポテンシャル及び地球温暖化ポテンシャルがより低い冷媒、熱伝達流体、発泡剤、溶媒及びエアロゾルのための環境的により持続可能な代替品を特定する必要性が高まってきている。これらの利用分野のために広く使用されているクロロフルオロカーボン(CFC)とヒドロクロロフルオロカーボン(HCF
C)は、オゾン層破壊性物質であり、モントリオール議定書のガイドラインにしたがって廃止されつつある。ヒドロフルオロカーボン(HFC)は、多くの利用分野におけるCFC及びHCFCの主要な代替品であるが;これはオゾン層に「優しい」ものとみなされているものの、それでも一般に高い地球温暖化ポテンシャルを有する。オゾン層破壊物質又は高地球温暖化物質の代替品となるものとして特定された1つの新しい部類の化合物は、ハロゲン化オレフィン、例えばヒドロフルオロオレフィン(HFO)そしてヒドロクロロフルオロオレフィン(HCFO)である。
【0013】
本発明の熱伝達組成物は、ジフルオロメタン(R-32)、ペンタフルオロエタン(R-125)、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(R-1234yf)及び1,1,1,2-テトラフルオロエタン(R-134a)で構成されている。
【0014】
本発明の一実施形態において、本発明の熱伝達組成物は、約1重量%?97重量%のR-32、約1重量%?97重量%のR-125、約1重量%?97重量%のR-1234yf、そして約1重量%?97重量%のR-134aで構成されている。本発明の別の実施形態において、本発明の熱伝達組成物は、重量ベースで約10%?35%のR-32、約10%?35%のR-125、約10%?60%のR-1234yf及び約10%?60%のR-134aを含む。本発明の別の実施形態において、本発明の熱伝達組成物は、重量ベースで約15%?30%のR-32、約15%?30%のR-125、約15%?40%のR-1234yf及び約15%?40%のR-134aを含む。」
・「【0019】
本発明の熱伝達組成物は、既存の冷媒、特により高いオゾン層破壊ポテンシャル(ODP)又はより高い地球温暖化ポテンシャル(GWP)を有する冷媒の代替品として使用することができる。一実施形態において、本発明の熱伝達組成物は、R-134aの代替品として使用でき、好ましくはここで本発明の熱伝達組成物は、約20wt%未満のR-32、より好ましくは約15wt%未満のR-32、より好ましくは約10%未満のR-32そしてさらに一層好ましくは約2wt%?10wt%のR-32と;約20wt%未満のR-125、より好ましくは約15wt%未満のR-125、より好ましくは約10%未満のR-125、そしてさらに一層好ましくは約2wt%?10wt%のR-125とを含む。一実施形態において、本発明の熱伝達組成物はR-410Aの代替品として使用でき、好ましくはここで、本発明の熱伝達組成物は、約40wt%超のR-32、より好ましくは約50wt%超のR-32、より好ましくは約60%超のR-32そしてさらに一層好ましくは、約80wt%超のR-32を含む。一実施形態において、本発明の熱伝達組成物はR-22又はR-404Aの代替品として使用でき、好ましくはここで本発明の熱伝達組成物は、約10wt%?50wt%のR-32、より好ましくは約10wt%?30wt%のR-32を含む。」
・「【0026】
本発明の範囲を何らかの形で限定することが意図されているわけではないが、R-22及びR-404Aの代替品として使用するための本発明の熱伝達組成物の実施例が表1に示されている。
【0027】
【表1】

【0028】
本発明の範囲を何らかの形で限定することが意図されているわけではないが、R-22の代替品として使用するための本発明の熱伝達組成物の実施例が表2に示されている。
【0029】
【表2-1】

【0030】
【表2-2】

【0031】
【表2-3】

【0032】
本発明の範囲を何らかの形で限定することが意図されているわけではないが、R-134aの代替品として使用するための本発明の熱伝達組成物の実施例が表3に示されている。
【0033】
【表3】

【0034】
本発明の範囲を何らかの形で限定することが意図されているわけではないが、R-410Aの代替品として使用するための本発明の熱伝達組成物の実施例が表4に示されている。
【0035】
【表4】


・「【0043】
本発明の熱伝達組成物は、潤滑油と組合せて使用されてよい。例示的潤滑油には、ポリオールエステル、ポリアルキレングリコール、ポリグリコール、ポリビニルエーテル、鉱油、アルキルベンゼン油、ポリアルファオレフィン及びその混合物が含まれる。本発明の潤滑油は、極低粘度のものから高粘度のものまであり、好ましくは100°Fで15?800cSt、そしてより好ましくは20?100cStの粘度を有する。本発明において使用される典型的な冷凍用潤滑油は、100°Fで15、32、68及び100cStの粘度を有していた。」
・「【0053】
冷媒/潤滑剤混合物の熱安定性/化学安定性は、ANSI/ASHRAE規格97-2007(ASHRAE97)などの当業者にとって公知のさまざまな試験を用いて評価可能である。このような試験において、任意には触媒又は水、空気、金属、金属酸化物、セラミックなどを含めた他の材料の存在下で、冷媒と潤滑剤の混合物が、典型的には高温で規定のエージング期間中、エージングされる。エージングの後、混合物は、混合物の分解又は劣化があった場合それを評価するために分析される。試験のための典型的組成は、冷媒/潤滑剤の50/50wt/wt混合物であるが、他の組成を用いることも可能である。典型的には、エージング条件は約140℃?200℃で1?30日間であるが、175℃で14日間のエージングが非常に典型的である。」
・「【0055】
冷媒/潤滑剤の組合せの安定性に対する水の効果は、非常に乾燥している(水10ppm未満)から非常に湿っている(水10000ppm超)の範囲内のさまざまな水分レベルでエージング試験を実施することにより評価可能である。酸化安定性は、空気の存在下又は不在下のいずれかでエージング試験を実施することによって評価可能である。本発明の熱伝達組成物は、ヒドロフルオロカーボン、ヒドロクロロフルオロカーボン、ヒドロフルオロオレフィン、ヒドロフルオロクロロカーボン、炭水化物、ヒドロフルオロエーテル、フルオロケトン、クロロフルオロカーボン、トランス-1,2-ジクロロエチレン、二酸化炭素、アンモニア、ジメチルエーテル、プロピレン及びその混合物などの他の冷媒と組合せて使用されてよい。」
・「【0056】
例示的ヒドロフルオロカーボン(HFC)としては、ジフルオロメタン(HFC-32);1-フルオロエタン(HFC-161);1,1-ジフルオロエタン(HFC-152a);1,2-ジフルオロエタン(HFC-152);1,1,1-トリフルオロエタン(HFC-143a);1,1,2-トリフルオロエタン(HFC-143);1,1,1,2-テトラフルオロエタン(HFC-134a);1,1,2,2-テトラフルオロエタン(HFC-134);1,1,1,2,2-ペンタフルオロエタン(HFC-125);1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロパン(HFC-245fa);1,1,2,2,3-ペンタフルオロプロパン(HFC-245ca);1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロパン(HFC-245eb);1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン(HFC-236fa);1,1,1,2,3,3,3-ヘプタフルオロプロパン(HFC-227ea);1,1,1,3,3-ペンタフルオロブタン(HFC-365mfc)、1,1,1,2,3,4,4,5,5,5-デカフルオロプロパン(HFC-4310)、及びその混合物が含まれる。好ましいヒドロフルオロカーボンとしては、HFC-134a、HFC-32、HFC-152a、HFC-125及びその混合物が含まれる。」
・「【0057】
例示的ヒドロフルオロオレフィン(HFO)としては、3,3,3-トリフルオロプロペン(HFO-1234zf)、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234ze)、特にE-異性体、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)、1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン(HFO-1255ye)、特にZ-異性体、E-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロブト-2-エン(E-HFO-1336mzz)、Z-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロブト-2-エン(Z-HFO-1336mzz)、1,1,1,4,4,5,5,5-オクタフルオロペント-2-エン(HFO-1438mzz)及びその混合物が含まれる。好ましいヒドロフルオロオレフィンとしては3,3,3-トリフルオルプロペン(HFO-1234zf)、E-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234ze)、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)及びその混合物が含まれる。」
・「【0060】
例示的ヒドロクロロフルオロカーボン(HCFC)としては、クロロ-ジフルオロメタン(HCFC-22)、1-クロロ-1,1-ジフルオロエタン(HCFC-142b)、1,1-ジクロロ-1-フルオロエタン(HCFC-141b)、1,1-ジクロロ-2,2,2-トリフルオロエタン(HCFC-123)及び1-クロロ-1,2,2,2-テトラフルオロエタン(HCFC-124)が含まれる。
【0061】
例示的クロロフルオロカーボン(CFC)としては、トリクロロフルオロメタン(R-11)、ジクロロジフルオロメタン(R-12)、1,1,2-トリフルオロ-1,2,2-トリフルオロエタン(R-113)、1,2-ジクロロ-1,1,2,2-テトラフルオロエタン(R-114)、クロロ-ペンタフルオロエタン(R-115)及びその混合物が含まれる。」
(3) 甲2の記載事項(便宜上、訳文の該当箇所を、段落番号なども含めて、そのまま摘記した。)
・「【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)(1)400未満のOELを有する少なくとも1つの冷媒と、
(2)(i)HFC-134a、
(ii)HFC-32、
(iii)トランス-HFO-1234ze、および任意選択で
(iv)HFC-134およびHFC-125からなる群から選択される少なくとも1つの冷媒
から本質的になるが、ただし、HFC-134aが冷媒成分の約26質量パーセント以下であり、HFC-134aおよびHFC-134の合計が冷媒成分の約20質量パーセント以上であることを条件とする、それぞれが400よりも大きいOELを有する冷媒の組み合わせと
から本質的になる冷媒成分、ならびに任意選択で
(B)非冷媒成分
からなる組成物であって、前記冷媒成分の成分(A)(2)が、少なくとも400である前記冷媒成分の総OELを提供するのに十分な量で存在し、成分(A)(2)(i)および(A)(2)(iv)が、非引火性冷媒成分を提供するのに十分な総量で存在する組成物。」
・「【請求項6】
前記冷媒成分がR-404AまたはR-507Aの代替品として使用するために適切であり、
3?21質量パーセントのHFO-1234yfと、
22?26質量パーセントの134aと、
25?29質量パーセントのHFC-125と、
21?25質量パーセントのHFC-32と、
約5?約23質量パーセントのトランス-HFO-1234zeと
から本質的になる、請求項1に記載の組成物。」
・「【請求項16】
前記冷媒成分がR-404AまたはR-507Aの代替品として使用するために適切であり、
3?21質量パーセントのHFO-1234yfと、
22?26質量パーセントのHFC-134aおよびHFC-134の混合物と、
25?29質量パーセントのHFC-125と、
21?25質量パーセントのHFC-32と、
約5?約23質量パーセントのトランス-HFO-1234zeと
から本質的になる、請求項1に記載の組成物。」
・「【0001】
本開示は冷凍システムで使用するための組成物に関し、本組成物は、テトラフルオロプロペン、ジフルオロメタン、ペンタフルオロエタンおよびテトラフルオロエタンを含む。本発明の組成物は、冷却をもたらすための方法、冷媒を置換するための方法、および冷凍装置において有用である。」
・「【0004】
これまで提案されたHFC冷媒および冷媒ブレンドの代替冷媒としては、HFC-152a、純粋な炭化水素(例えば、ブタンまたはプロパンなど)、または「天然」冷媒(例えば、CO_(2)など)が挙げられる。これらの提案された代替品のそれぞれは毒性、引火性、低エネルギー効率を含む問題を有するか、あるいは大きな装置設計の変更を必要とする。また、とりわけHCFC-22、R-134a、R-404A、R-507A、R-407CおよびR-410Aに対して、新しい代替品も提案されている。GWPに関連して最終的にどんな規制要件が採用されるかについての不確実性によって、産業界は、低GWP、400ppmを超えるOEL、非引火性に対する必要性と現存のシステム性能パラメータとのバランスをとる複数の候補化合物および混合物を考慮することを強いられている。」
・「【0048】
成分(A)(1)は、400未満のOELを有する冷媒化合物から選択される。このような冷媒化合物には、オレフィン系冷媒が含まれる。オレフィン系冷媒は、1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロペン(HFO-1225ye)および2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)を含む。
【0049】
一実施形態では、本組成物の冷媒成分はR-404AまたはR-507Aの代替品として使用するために適切であり、3?21質量パーセントのHFO-1234yfと、22?26質量パーセントの134aと、25?29質量パーセントのHFC-125と、21?25質量パーセントのHFC-32と、約5?約23質量パーセントのトランス-HFO-1234zeとから本質的になる。
【0050】
一実施形態では、成分(A)(1)は、約200以下のOELを有する冷媒から選択される。このような冷媒は、HFO-1225yeおよびHFO-1234yfを含み得る。別の実施形態では、成分(A)(1)は、約100以下のOELを有する冷媒から選択される。このような冷媒は、HFO-1225yeおよびHFO-1234yfを含み得る。」
・「【0059】
潤滑剤を含む本発明の組成物では、潤滑剤は、全組成物の5.0質量パーセント未満の量で存在する。その他の実施形態では、潤滑剤の量は、全組成物の約0.1?3.5質量パーセントの間である。」
・「【0080】
非冷媒成分に適していると上記で言及された添加剤の特定のものが、可能性のある冷媒であると確認されていることは認識されるであろう。しかしながら、本発明によると、これらの添加剤が使用される場合、これらは、本発明の冷媒混合物の新規のおよび基本的な特徴に影響を与え得る量では存在しない。好ましくは、非引火性冷媒混合物およびそれを含有する本発明の組成物は、HFO-1234yf、HFC-32、HFC-125、HFC-134a、およびトランス-HFO-1234ze(存在する場合)以外の冷媒を約0.5質量パーセント以下で含有する。」
・「【0087】
約-40℃?約0℃の間の冷媒蒸発温度のために設計された蒸発器を含む冷凍設備においてR-404AまたはR-507Aを置換するための方法が提供される。一実施形態では、本方法は、前記R-404AまたはR-507Aを、HFO-1234yf、HFC-134a、HFC-125、HFC-32およびトランス-HFO-1234zeからなる本発明の冷媒によって置換することを含む。本方法の別の実施形態では、本発明の組成物の冷媒成分は、HFC-125およびHFC-134を含む。別の実施形態では、本方法は、前記R-404AまたはR-507Aを、HFO-1234yf、HFC-134a、HFC-134、HFC-125、HFC-32およびトランス-HFO-1234zeからなる本発明の冷媒によって置換することを含む。
【0088】
一実施形態では、R-404AまたはR-507Aを冷媒として使用するのに適した冷凍設備において冷凍をもたらすための方法が提供される。一実施形態では、本方法は、前記設備において、HFO-1234yf、HFC-134a、HFC-125、HFC-32およびトランス-HFO-1234zeからなる本発明の冷媒を冷媒として用いて、冷凍をもたらすことを含む。本方法の別の実施形態では、本発明の組成物の冷媒成分は、HFC-125およびHFC-134を含む。別の実施形態では、本方法は、前記設備において、HFO-1234yf、HFC-134a、HFC-134、HFC-125、HFC-32およびトランス-HFO-1234zeからなる本発明の冷媒を冷媒として用いて冷凍をもたらすことを含む。」
・「【0091】
一実施形態では、冷媒組成物を含有し、冷媒組成物を使用するのに適した冷凍装置が提供されており、R-404AまたはR-507Aが前記冷媒組成物の冷媒成分である。本装置は、HFO-1234yf、HFC-134a、HFC-125、HFC-32およびトランス-HFO-1234zeからなる本発明の組成物の冷媒成分を含有することを特徴とする。
【0092】
別の実施形態では、冷媒組成物を含有し、約-40℃?約0℃の間の冷媒蒸発温度のために設計された蒸発器を含む冷媒装置が提供される。本装置は、HFO-1234yf、HFC-134a、HFC-125、HFC-32およびトランス-HFO-1234zeからなる本発明の冷媒組成物を含有することを特徴とする。」
・「【0110】
実施例2
冷却性能
本発明の組成物の冷却性能が決定され、R-404A、R-507A、R-407F、およびR-407Aと比較して表2に示される。圧縮器排出温度、COP(エネルギー効率)および冷却容量(cap)は、以下の特定条件(空調に典型的である)に対する物理特性の測定値から計算される。
蒸発器温度 -30℃
凝縮器温度 40℃
過冷却量 4°K
戻りガス温度 -5℃
圧縮器効率 70%
【0111】
冷却容量には過熱が含まれることに注目されたい。またGWPは、有効な場合にはIPCC AR4値に基づいて計算した。
【0112】
【表2】

【0113】
データによって、本発明の組成物は、R-404A、R-507A、R-407AおよびR-407Fに対する良好な代替品としての機能を果たし得ることが示される。これらの組成物は、現在の冷媒の約10%以内の冷却容量と、優れたエネルギー効率とを示す。圧縮器排出温度はR-407Fに対して改善される。これらは、低減されたGWPも有する。HFC-134は組成物に添加されると、GWPをさらに低下させる。従って、本発明の組成物は、R-404A、R-507A、R-407FおよびR-407Aに対する代替品としての特性の最良のバランスを提供する。比較組成物A3は、本発明の組成物よりも高い排出温度を有する。そして、比較組成物A6は、より高いGWPと、R-404Aに対する不十分な代替品とされるほど低い容量とを有することに注目されたい。」
(4) 甲1発明
甲1の【特許請求の範囲】の【請求項1】には、次の発明が記載されている(以下、「甲1発明」という。)
「ジフルオロメタンと、ペンタフルオロエタンと、1,1,1,2-テトラフルオロエタンと、2,3,3,3-テトラフルオロプロペンとを含む、熱伝達組成物。」
(5) 甲2発明
甲2には、訳文の【特許請求の範囲】の、【請求項1】を引用する【請求項6】及び【請求項16】の記載からみて、次の発明が記載されているといえる(以下、「甲2発明」という。)。
「(A)(1)400未満のOELを有する少なくとも1つの冷媒と、
(2)(i)HFC-134a、
(ii)HFC-32、
(iii)トランス-HFO-1234ze、および任意選択で
(iv)HFC-134およびHFC-125からなる群から選択される少なくとも1つの冷媒
から本質的になるが、ただし、HFC-134aが冷媒成分の約26質量パーセント以下であり、HFC-134aおよびHFC-134の合計が冷媒成分の約20質量パーセント以上であることを条件とする、それぞれが400よりも大きいOELを有する冷媒の組み合わせと
から本質的になる冷媒成分、ならびに任意選択で
(B)非冷媒成分
からなる組成物であって、前記冷媒成分の成分(A)(2)が、少なくとも400である前記冷媒成分の総OELを提供するのに十分な量で存在し、成分(A)(2)(i)および(A)(2)(iv)が、非引火性冷媒成分を提供するのに十分な総量で存在する組成物であって、
前記冷媒成分がR-404AまたはR-507Aの代替品として使用するために適切であり、
3?21質量パーセントのHFO-1234yfと、
22?26質量パーセントのHFC-134aと、
25?29質量パーセントのHFC-125と、
21?25質量パーセントのHFC-32と、
約5?約23質量パーセントのトランス-HFO-1234zeと
から本質的になる、組成物、
あるいは、
前記冷媒成分がR-404AまたはR-507Aの代替品として使用するために適切であり、
3?21質量パーセントのHFO-1234yfと、
22?26質量パーセントのHFC-134aおよびHFC-134の混合物と、
25?29質量パーセントのHFC-125と、
21?25質量パーセントのHFC-32と、
約5?約23質量パーセントのトランス-HFO-1234zeと
から本質的になる、組成物。」
(6) 甲1発明を主引用発明とする新規性進歩性の判断
ア 本件発明1について
(ア) 対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明における「ジフルオロメタン」、「ペンタフルオロエタン」及び「2,3,3,3-テトラフルオロプロペン」は、それぞれ本件発明1における「HFC-32」、「HFC-125」及び「HFO-1234yf」に相当するものであり、また、甲1の【0010】などの記載からみて、甲1発明の熱伝達組成物が、冷媒組成物(冷媒混合物)を予定することは明らかであるから、両者は、「HFCとHFOとを含有する冷媒混合物であって、HFCとしてHFC-32及びHFC-125、HFOとしてHFO-1234yfを含有するもの」である点で一致し、次の点で相違するといえる。
・相違点1(構成成分について):
構成成分について、本件発明1の冷媒混合物は、
「HFCとHFOと第三成分とからなる冷媒混合物であって、
1)HFCがHFC-32及びHFC-125、
2)HFOがHFO-1234yf及びHFO-1234zeの少なくとも一種、並びに、
3)第三成分がHCC-40、HCFC-22及びCFC-115」
であると特定しているのに対して、
甲1発明は、「ジフルオロメタンと、ペンタフルオロエタンと、1,1,1,2-テトラフルオロエタンと、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン」の四成分を構成成分とするものであり、本件発明1においては構成成分とはなっていない「1,1,1,2-テトラフルオロエタン」を必須成分としている上、本件発明1の第三成分に対応する成分を含有していない点。
・相違点2(各構成成分の配合割合について):
各構成成分の配合割合について、本件発明1の冷媒混合物は、
「4)前記HFC-32及びHFC-125と前記HFO-1234yf及びHFO-1234zeの少なくとも一種との総量が、前記HFC-32及びHFC-125、前記HFO-1234yf及びHFO-1234zeの少なくとも一種、並びに、前記HCC-40、HCFC-22及びCFC-115の合計量を100質量%として99. 5質量%以上であり、
5)前記HFC-32及びHFC-125、前記HFO-1234yf及びHFO-1234zeの少なくとも一種、並びに、前記HCC-40、HCFC-22及びCFC-115の合計量を100質量%として、前記HCC-40の含有量が0.1質量%以下、前記HCFC-22の含有量が0.1質量%以下、及び前記CFC-115の含有量が0.3質量%以下である」
と特定しているのに対して、
甲1発明は、各構成成分の配合割合について特定していない点。
(イ) 相違点1(構成成分について)の検討
甲1には、甲1発明において必須成分となっている「1,1,1,2-テトラフルオロエタン」を、任意成分とする動機付けは存在しない。また、甲2は、本件発明1の特定の構成成分の組合せについて教示するものではないし、周知文献として採用した甲3?9には、HFO-1234yfを製造する際に含有される不純物についての記載は認められるものの、当該動機付けとなるような記載は見当たらない。
したがって、甲1発明の「1,1,1,2-テトラフルオロエタン」を任意成分として、上記相違点1に係る構成を備えることは、当業者が容易に想到し得るものではない。
そして、本件発明1は、当該相違点1に係る構成及び上記相違点2に係る構成を備えることにより、本件特許明細書の【0015】などに記載された「潤滑性能の向上」という甲1発明などからは予測し得ない顕著な作用効果を奏するものである。
よって、上記相違点1は実質的な相違点であるから、本件発明1は甲1に記載された発明(甲1発明)であるとはいえないし、当該相違点1に係る本件発明1の構成、なかでも、構成成分であるHFC及びHFOに関する構成がそもそも容易想到の事項でない以上、上記した第三成分の有無や、各構成成分の配合割合に係る相違点2について判断するまでもなく、本件発明1は、甲1発明に基づいて当業者が容易に想到し得るものでもない。
イ 本件発明3について
本件発明3に係る冷媒組成物は、本件発明1に係る冷媒混合物を含有するものであるから、上記相違点1は、本件発明3と甲1発明の対比においても生じるものである。そして、当該相違点が容易想到の事項でないことは上記のとおりである。
したがって、本件発明3も、甲1に記載された発明(甲1発明)であるとはいえないし、甲1発明から容易に想到し得るものではない。
(7) 甲2発明に基づく新規性及び進歩性の判断
ア 本件発明1について
(ア) 対比
本件発明1と甲2発明とを対比すると、両者は、「HFCとHFOとを含有する冷媒混合物であって、HFCとしてHFC-32及びHFC-125、HFOとしてHFO-1234ze及びHFO-1234yfを含有するもの」である点で一致し、次の点で相違するといえる。
・相違点3(構成成分について):
構成成分について、本件発明1の冷媒混合物は、
「HFCとHFOと第三成分とからなる冷媒混合物であって、
1)HFCがHFC-32及びHFC-125、
2)HFOがHFO-1234yf及びHFO-1234zeの少なくとも一種、並びに、
3)第三成分がHCC-40、HCFC-22及びCFC-115」
であると特定しているのに対して、
甲2発明は、本件発明1においては構成成分とはなっていない「HFC-134a」(あるいは「HFC-134」)を必須成分としている上、本件発明1の第三成分に対応する成分を含有していない点。
・相違点4(各構成成分の配合割合について):
各構成成分の配合割合について、本件発明1の冷媒混合物は、
「4)前記HFC-32及びHFC-125と前記HFO-1234yf及びHFO-1234zeの少なくとも一種との総量が、前記HFC-32及びHFC-125、前記HFO-1234yf及びHFO-1234zeの少なくとも一種、並びに、前記HCC-40、HCFC-22及びCFC-115の合計量を100質量%として99. 5質量%以上であり、
5)前記HFC-32及びHFC-125、前記HFO-1234yf及びHFO-1234zeの少なくとも一種、並びに、前記HCC-40、HCFC-22及びCFC-115の合計量を100質量%として、前記HCC-40の含有量が0.1質量%以下、前記HCFC-22の含有量が0.1質量%以下、及び前記CFC-115の含有量が0.3質量%以下である」
と特定しているのに対して、
甲2発明は、当該第三成分の配合割合などについて特定していない点。
(イ) 相違点3(構成成分について)の検討
甲1には、甲2発明において必須成分となっている「HFC-134a」(あるいは「HFC-134」)を、任意成分とする動機付けは存在しない。また、周知文献として採用した甲3?9には、HFO-1234yfを製造する際に含有される不純物についての記載は認められるものの、当該動機付けとなるような記載は見当たらない。
したがって、甲2発明の「HFC-134a」(あるいは「HFC-134」)を任意成分として、上記相違点3に係る構成を備えることは、当業者が容易に想到し得るものではない。
そして、本件発明1は、当該相違点3に係る構成及び上記相違点4に係る構成を備えることにより、本件特許明細書の【0015】などに記載された「潤滑性能の向上」という甲2発明などからは予測し得ない顕著な作用効果を奏するものである。
よって、上記相違点3は実質的な相違点であるから、本件発明1は甲2に記載された発明(甲2発明)であるとはいえないし、当該相違点3に係る本件発明1の構成、なかでも、構成成分であるHFC及びHFOに関する構成がそもそも容易想到の事項でない以上、上記した第三成分の有無やその配合割合に係る相違点4について判断するまでもなく、本件発明1は、甲2発明に基づいて当業者が容易に想到し得るものでもない。
イ 本件発明3について
本件発明3に係る冷媒組成物は、本件発明1に係る冷媒混合物を含有するものであるから、上記相違点3は、本件発明3と甲2発明の対比においても生じるものである。そして、当該相違点が容易想到の事項でないことは上記のとおりである。
したがって、本件発明3も、甲2に記載された発明(甲2発明)であるとはいえないし、甲2発明から容易に想到し得るものではない。
(8) 小括
以上のとおり、本件特許に、取消理由(3)、(4)は存しない。

5 取消理由(5)(拡大先願)について
(1) 証拠(先願)
標記取消理由において採用した、特許異議申立人が提出した証拠は以下のとおりである。
・先願(甲10に係る出願)
外国語特許出願:PCT/US2014/065610
(国際公開第2015/077134号)
パテントファミリー:特願2016-555452号
(特表2017-503907号公報)
以下、当該外国語特許出願の国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面を「甲10明細書等」という。また、当該「甲10明細書等」に記載された事項については、便宜上、パテントファミリーである特願2016-555452号の公表公報(特表2017-503907号公報)を訳文として使用し、該当箇所(段落番号等)についても、当該公表公報(訳文)の該当箇所をそのまま示すこととする。
(2) 甲10明細書等の記載事項
・「【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジフルオロメタン、ペンタフルオロエタン、1,1,2,2-テトラフルオロエタン、および1,3,3,3-テトラフルオロプロペンを含む、熱伝達組成物。
・・・(中略)・・・
【請求項12】
2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf);1,1,1,2-テトラフルオロエタン(HFC-134a)、およびそれらの混合物から選択される冷媒をさらに含む、請求項1に記載の熱伝達組成物。」
・「【0001】
本発明は、冷凍、空調、ヒートポンプシステム、冷却器、および他の熱伝達利用分野において使用するための、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン、ジフルオロメタン、ペンタフルオロエタン、および1,1,2,2-テトラフルオロエタンを含む熱伝達組成物に関する。発明的な熱伝達組成物は、優れた能力および性能を提供する一方で、低い地球温暖化ポテンシャルを有することができる。」
・「【0011】
本発明においては、低いGWPのみならず能力と性能の間の予想外に優れた平衡を有する熱伝達組成物が発見された。好ましくは、本発明の熱伝達組成物は低い可燃性を有し、より好ましくは本発明の熱伝達組成物は不燃性であり、さらに一層好ましくは、本発明の熱伝達組成物は不燃性でかつさまざまな漏洩シナリオの後でも不燃性であり続け、さらに一層好ましくは、ASHRAE SSPC34にしたがった不燃性を有する。本発明の別の実施形態は、R-422Dなどの少量の炭化水素を取込んだものを含め、熱伝達装置内においてHFC冷媒に比べ改善された油の戻り特性を有する冷媒組成物である。いかなる形であれ本発明の範囲を限定することは意図されていないものの、本発明の熱伝達組成物は、新規の冷凍、空調、ヒートポンプ、冷却器、または他の熱伝達装置において有用である。別の実施形態において、本発明の熱伝達組成物は、R-22、R-407C、R-427A、R-404A、R-507、R-407A、R-407F、R-417A、R-422D他を含む(ただしこれらに限定されない)既存の装置内の冷媒のためのレトロフィットとして有用である。」
・「【0022】
本発明の熱伝達組成物は、例えば以下の冷媒(これらの限定される訳ではない)と組み合わせて使用してもよい:ヒドロフルオロカーボン、ヒドロクロロフルオロカーボン、ヒドロフルオロオレフィン、ヒドロフルオロクロロカーボン、炭化水素、ヒドロフルオロエーテル、フルオロケトン、クロロフルオロカーボン、トランス-1,2-ジクロロエチレン、二酸化炭素、アンモニア、ジメチルエーテル、プロピレンおよびそれらの混合物。
・・・(中略)・・・
【0027】
ヒドロクロロフルオロカーボン(HCFC)の例としては、以下のものが挙げられる:クロロ-ジフルオロメタン(HCFC-22)、1-クロロ-1,1-ジフルオロエタン(HCFC-142b)、1,1-ジクロロ-1-フルオロエタン(HCFC-141b)、1,1-ジクロロ-2,2,2-トリフルオロエタン(HCFC-123)および1-クロロ-1,2,2,2-テトラフルオロエタン(HCFC-124)。
【0028】
クロロフルオロカーボン(CFC)の例としては、以下のものが挙げられる:トリクロロフルオロメタン(R-11)、ジクロロジフルオロメタン(R-12)、1,1,2-トリフルオロ-1,2,2-トリフルオロエタン(R-113)、1,2-ジクロロ-1,1,2,2-テトラフルオロエタン(R-114)、クロロ-ペンタフルオロエタン(R-115)およびそれらの混合物。」
・「【0035】
本発明の範囲を何らかの形で限定することが意図されているわけではないが、R-22、R-407C、R-404A、および/またはR-507の代替品として使用するための本発明の熱伝達組成物の例が表1に示されている。組成における少しの変動、例えば±2重量%以内、好ましくは±1重量%以内(これらの数値に限定される訳ではない)の組成の変動は本発明の範囲内であると考えるべきであるということは理解されたい。
【0036】
【表1】


・「【0041】
本発明の一実施形態は、冷凍、空調、冷却器、またはヒートポンプシステムにおいて使用される場合、類似の利用分野において使用されるHFCまたはHCFC系冷媒に比べて類似またはそれ以上の能力、性能またはその両方を提供する熱伝達組成物である。」
・「【0042】
本発明の一実施形態は、R-22またはR-407Cの代替品とするために使用される熱伝達組成物であり、それらの熱伝達組成物は、R-22またはR-407Cを用いて設置されるか、それらを含む既存の装置を手直しするために使用することもできるし、それらの熱伝達組成物はさらに、R-22またはR-407Cのために設計された新規な設備においても使用することができる。」
・「【0048】
本発明の一実施形態において、冷凍、空調、冷却、またはヒートポンプシステムにおいて使用した場合、本発明の熱伝達組成物の質量流量が、R-22の質量流量の20%以内、好ましくは15%以内、より好ましくは10%以内、さらに一層好ましくは5%、そしてさらに一層好ましくは2%以内である。本発明の一実施形態において、冷凍、空調、冷却、またはヒートポンプシステムにおいて使用した場合、本発明の熱伝達組成物の能力は、R-22の能力の80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに一層好ましくは95%以上、そしてさらに一層好ましくは98%以上である。本発明の一実施形態において、冷凍、空調、冷却、またはヒートポンプシステムにおいて使用した場合、本発明の熱伝達組成物を使用したシステムの効率は、R-22を使用したシステムの効率の80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに一層好ましくは95%以上、そしてさらに一層好ましくは98%以上である。本発明の一実施形態において、冷凍、空調、冷却、またはヒートポンプシステムにおいて使用した場合、本発明の熱伝達組成物のCOPは、R-22のCOPの80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに一層好ましくは95%以上、そしてさらに一層好ましくは98%以上である。本発明の一実施形態において、冷凍、空調、冷却、またはヒートポンプシステムにおいて使用した場合、本発明の圧縮機吐出温度は、R-22の圧縮機吐出温度よりも、60゜Fを超えない程度で高く、好ましくは50゜F以下で高く、より好ましくは40゜Fを超えない程度で高く、さらに一層好ましくは30゜Fを超えて高いが、本発明の別の好ましい実施形態においては、そのシステムが液噴射(liquid injection)を使用している。」
・「【0062】
冷媒/潤滑剤混合物の熱安定性/化学安定性は、ANSI/ASHRAE規格97-2007(ASHRAE97)などの当業者にとって公知のさまざまな試験を用いて評価可能である。このような試験において、任意には触媒または水、空気、金属、金属酸化物、セラミックなどを含めた他の材料の存在下で、冷媒と潤滑剤の混合物が、典型的には高温で規定のエージング期間中、エージングされる。エージングの後、混合物は、混合物の分解または劣化があった場合それを評価するために分析される。試験のための典型的組成は、冷媒/潤滑剤の50/50 wt/wt混合物であるが、他の組成を用いることも可能である。典型的には、エージング条件は約140℃?200℃で1?30日間であるが、175℃で14日間のエージングが非常に典型的である。」
(3) 甲10発明
「甲10明細書等」には、訳文の【特許請求の範囲】の、【請求項1】及びこれを引用する【請求項12】の記載からみて、次の発明が記載されているといえる(以下、まとめて「甲10発明」という。)。
・「ジフルオロメタン、ペンタフルオロエタン、1,1,2,2-テトラフルオロエタン、および1,3,3,3-テトラフルオロプロペンを含む、熱伝達組成物。」
・「ジフルオロメタン、ペンタフルオロエタン、1,1,2,2-テトラフルオロエタン、および1,3,3,3-テトラフルオロプロペンを含み、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf);1,1,1,2-テトラフルオロエタン(HFC-134a)、およびそれらの混合物から選択される冷媒をさらに含む、熱伝達組成物。」
(4) 本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲10発明とを対比すると、甲10発明における「ジフルオロメタン」、「ペンタフルオロエタン」、「1,3,3,3-テトラフルオロプロペン」及び「2,3,3,3-テトラフルオロプロペン」は、それぞれ本件発明1における「HFC-32」、「HFC-125」、「HFO-1234ze」及び「HFO-1234yf」に相当するものであり、また、「甲10明細書等」の訳文の【0011】などの記載からみて、甲10発明の熱伝達組成物が、冷媒組成物(冷媒混合物)を予定することは明らかであるから、両者は、「HFCとHFOとを含有する冷媒混合物であって、HFCとしてHFC-32及びHFC-125、HFOとしてHFO-1234ze、又はHFO-1234ze及びHFO-1234yfを含有するもの」である点で一致し、次の点で相違するといえる。
・相違点5(構成成分について):
構成成分について、本件発明1の冷媒混合物は、
「1)HFCがHFC-32及びHFC-125、
2)HFOがHFO-1234yf及びHFO-1234zeの少なくとも一種、並びに、
3)第三成分がHCC-40、HCFC-22及びCFC-115」
であると特定しているのに対して、
甲10発明は、本件発明1において構成成分とはなっていない「1,1,2,2-テトラフルオロエタン」(あるいは「1,1,1,2-テトラフルオロエタン」)を必須成分としている上、本件発明1の第三成分に対応する成分を含有していない点。
・相違点6(各構成成分の配合割合について):
各構成成分の配合割合について、本件発明1の冷媒混合物は、
「4)前記HFC-32及びHFC-125と前記HFO-1234yf及びHFO-1234zeの少なくとも一種との総量が、前記HFC-32及びHFC-125、前記HFO-1234yf及びHFO-1234zeの少なくとも一種、並びに、前記HCC-40、HCFC-22及びCFC-115の合計量を100質量%として99. 5質量%以上であり、
5)前記HFC-32及びHFC-125、前記HFO-1234yf及びHFO-1234zeの少なくとも一種、並びに、前記HCC-40、HCFC-22及びCFC-115の合計量を100質量%として、前記HCC-40の含有量が0.1質量%以下、前記HCFC-22の含有量が0.1質量%以下、及び前記CFC-115の含有量が0.3質量%以下である」
と特定しているのに対して、
甲10発明は、各構成成分の配合割合について特定していない点。
イ 相違点5(構成成分について)の検討
「甲10明細書等」には、甲10発明において必須成分となっている「1,1,2,2-テトラフルオロエタン」(あるいは「1,1,1,2-テトラフルオロエタン」)を、任意成分とすることについては何ら記載されていない。また、当該必須成分を任意成分とすることが、課題解決のための具体化手段における微差であると解するに足りる証拠は見当たらない。
したがって、上記第三成分の有無や、各構成成分の配合割合に係る相違点6について判断するまでもなく、本件発明1は、甲10発明と同一であるとも、実質同一であるともいえない。
(5) 本件発明3について
本件発明3に係る冷媒組成物は、本件発明1に係る冷媒混合物を含有するものであるから、上記相違点5は、本件発明3と甲10発明の対比においても生じるものである。そして、当該相違点が実質的なものであり、課題解決のための具体化手段における微差程度のものでもないことは、上記のとおりである。
したがって、本件発明3も、甲10発明と同一であるとも、実質同一であるともいえない。
(6) 小括
以上のとおり、本件特許に、取消理由(5)は存しない。

6 まとめ
以上の検討のとおり、平成30年8月9日付けの取消理由通知(決定の予告)及び平成31年1月11日付けの取消理由通知で通知した取消理由については、いずれも理由がない。

第5 平成30年2月16日付け取消理由通知で通知した取消理由についての判断

標記取消理由通知においては、上記第4において検討した取消理由のほかに、(i)新規事項に関する取消理由、並びに、(ii)明確性要件、サポート要件及び実施可能要件に関する取消理由(上記第4で検討した事項とは異なる記載不備に関するもの)を通知した。
以下、これらの取消理由について検討をする(なお、これらの取消理由についての判断は、既に平成30年8月9日付けの取消理由通知(決定の予告)に記載している。)。

1 新規事項に関する取消理由について
当該取消理由は、特許権者が平成29年3月27日付けでした、明細書の段落【0064】に記載された【表8】に係る次の補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「当初明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、新規事項の追加にあたる旨を指摘したものである。
・補正前の【表8】(出願当初のもの)

・補正後の【表8】(本件特許の明細書に記載されたもの)

上記補正は、当初明細書等の同表中には、(HCC-40、HCFC-22、CFC-115)=(0.1質量%、0.1質量%、0.4質量%)と記載され、それらの合計含有量は0.6質量%となり、同表中に記載された「0.5質量%」という合計含有量と整合していなかった記載を、(HCC-40、HCFC-22、CFC-115)=(0.1質量%、0.1質量%、0.3質量%)とすることにより、数値間の整合を図ったものであるところ、特許権者の平成30年6月1日付け意見書における主張(通常、明細書作成の段階において、同一の実施例に記載の数値を2箇所も同時に誤ることなど想定できないため、当該数値の誤りが1箇所で済むことを前提とした上記手続補正は、本来意図する正しい記載に修正するものであって新規事項を追加するものではない旨の主張)や、上記数値間の整合を図るためになされた上記補正による数値の変更は、一般に、実験結果の数値を丸める(数値の端数処理を行う)際に生じる数値の不整合を修正する程度のものであって、当該数値を本質的に大きく変更するものではないことを斟酌すると、当該補正は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものであるとまでは認められない。
したがって、平成29年3月27日付けでした上記手続補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであるというべきであるから、本件特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものとはいえず、同法第113条第1号に該当しないため、当該取消理由に理由があるとはいえない。

2 明確性要件、サポート要件及び実施可能要件に関する取消理由について
当該取消理由は、次の2点に起因するものである。
・本件特許明細書に記載された「摩耗試験」及び「焼き付け試験」の内容が明確でない点。
・本件発明は、第三成分の含有量の下限値についての規定がない点。
しかしながら、特許権者が平成30年4月20日に提出した意見書に添付された乙第4号証(山口英宏ら著「代替冷媒環境下におけるコンプレッサ材の摩擦摩耗特性に及ぼす冷凍機油添加剤の影響」、日本冷凍空調学会論文集、Trans.of the JSRAE、Vol.16、No.3(1999)、pp.229?238)のFig.3に記載された高圧冷媒雰囲気摩擦摩耗試験器などを参酌すると、冷媒(冷凍機油)に関する試験を熟知する当業者であれば、本件特許明細書に記載された「摩耗試験」及び「焼き付け試験」を理解し、これを行うことは可能であると解するのが妥当であるから、これらの試験内容の不明確さを論拠とする実施可能要件違反及びサポート要件違反を認めることはできない。
また、第三成分の含有量の下限値についての規定がないことのみによって、ただちに、本件発明の内容が明確でなくなるわけではないから、明確性要件違反についても認められない。
したがって、当該取消理由に理由があるとはいえない。

第6 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由についての判断

特許異議申立書に記載された特許異議申立理由は、上記第4及び第5において検討した取消理由と重複するものである。
したがって、当該特許異議申立理由に理由があるとはいえない。

第7 結び

以上のとおり、本件特許1、3は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものであるとも、同法第29条又は第29条の2の規定に違反してされたものであるとも、同法第36条第4項第1号又は第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるともいえず、同法第113条第1号、第2号又は第4号のいずれにも該当するものではないから、上記取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことはできない。
また、ほかに本件特許1、3を取り消すべき理由を発見しない。
そして、上記第2のとおり、本件訂正により、請求項2、4は削除されたので、本件特許2、4についての特許異議の申立てについては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
HFCとHFOと第三成分とからなる冷媒混合物であって、
1)HFCがHFC-32及びHFC-125、
2)HFOがHFO-1234yf及びHFO-1234zeの少なくとも一種、並びに、
3)第三成分がHCC-40、HCFC-22及びCFC-115であり、
4)前記HFC-32及びHFC-125と前記HFO-1234yf及びHFO-1234zeの少なくとも一種との総量が、前記HFC-32及びHFC-125、前記HFO-1234yf及びHFO-1234zeの少なくとも一種、並びに、前記HCC-40、HCFC-22及びCFC-115の合計量を100質量%として99.5質量%以上であり、
5)前記HFC-32及びHFC-125、前記HFO-1234yf及びHFO-1234zeの少なくとも一種、並びに、前記HCC-40、HCFC-22及びCFC-115の合計量を100質量%として、前記HCC-40の含有量が0.1質量%以下、前記HCFC-22の含有量が0.1質量%以下、及び前記CFC-115の含有量が0.3質量%以下である、ことを特徴とする冷媒混合物。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
請求項1に記載の冷媒混合物と冷凍機油とを含有する冷媒組成物であって、前記冷凍機油の含有量が前記冷媒組成物中10?50質量%である、冷媒組成物。
【請求項4】
(削除)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-05-10 
出願番号 特願2015-209239(P2015-209239)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (C09K)
P 1 651・ 121- YAA (C09K)
P 1 651・ 16- YAA (C09K)
P 1 651・ 536- YAA (C09K)
P 1 651・ 113- YAA (C09K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 中野 孝一  
特許庁審判長 冨士 良宏
特許庁審判官 日比野 隆治
佐々木 秀次
登録日 2017-05-26 
登録番号 特許第6146452号(P6146452)
権利者 ダイキン工業株式会社
発明の名称 HFCとHFOとを含有する組成物  
代理人 特許業務法人三枝国際特許事務所  
代理人 特許業務法人三枝国際特許事務所  

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