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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C09D
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C09D
審判 全部申し立て 2項進歩性  C09D
管理番号 1353133
異議申立番号 異議2018-700667  
総通号数 236 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-08-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-08-10 
確定日 2019-05-23 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6281391号発明「紫外線硬化型インクジェット組成物及び収容体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6281391号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?14〕について訂正することを認める。 特許第6281391号の請求項1?7、9?14に係る特許を維持する。 特許第6281391号の請求項8に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第6281391号の請求項1?14に係る特許(以下、各請求項に係る特許を項番号に合わせて「本件特許1」などといい、まとめて「本件特許」という。)についての出願は、平成26年4月11日に出願され、平成30年2月2日にその特許権の設定登録がされ、同年2月21日にその特許掲載公報が発行された。
その後、当該発行日から6月以内にあたる、同年8月10日に本件特許1?14に対して渋谷都(以下、「申立人A」という。)により、同年8月20日に本件特許1?7、13、14に対して藤江桂子(以下、「申立人B」という。)により、同年8月21日に本件特許1?14に対して鈴木弘之(以下、「申立人C」という。)により、それぞれ特許異議の申立てがされ、当審は、同年11月14日付けで取消理由を通知した。これに対して、その指定期間内である平成31年1月18日に特許権者は意見書の提出及び訂正の請求を行い(以下、当該訂正を「本件訂正」という。)、その訂正の請求に対して、同年2月25日に申立人Cは意見書を提出した(なお、申立人A、Bからの意見書の提出はなかった。)。

第2 本件訂正の適否についての判断

1 本件訂正の内容(訂正事項1)
本件訂正は、特許法第120条の5第3項及び第4項の規定に従い、一群の請求項を構成する請求項1?14を訂正の単位として訂正することを求めるものであり、その内容(訂正事項1?6)は、次のとおりである。
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「前記顔料分散剤の酸価とアミン価の少なくともいずれかが10mgKOH/g以上である、ラジカル重合型の紫外線硬化型インクジェット組成物。」とあるのを、「前記顔料分散剤の酸価とアミン価の少なくともいずれかが10mgKOH/g以上であり、前記ラジカル重合性化合物として、ビニルエーテル基と(メタ)アクリレート基とを有するラジカル重合性化合物を含有する、ラジカル重合型の紫外線硬化型インクジェット組成物。」に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2?7、9?14も同様に訂正する。)。
(2) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項8を削除する。
(3) 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項9に「請求項8記載のラジカル重合型の紫外線硬化型インクジェット組成物。」とあるのを、「請求項1?7のいずれか1項に記載のラジカル重合型の紫外線硬化型インクジェット組成物。」に訂正する。
(4) 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項10に「請求項8又は9に記載のラジカル重合型の紫外線硬化型インクジェット組成物。」とあるのを、「請求項1?7および9のいずれか1項に記載のラジカル重合型の紫外線硬化型インクジェット組成物。」に訂正する。
(5) 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項11に「請求項8?10のいずれか1項に記載のラジカル重合型の紫外線硬化型インクジェット組成物。」とあるのを、「請求項1?7,9および10のいずれか1項に記載のラジカル重合型の紫外線硬化型インクジェット組成物。」に訂正する。
(6) 訂正事項6
特許請求の範囲の請求項13に「請求項1?12のいずれか1項に記載のラジカル重合型の紫外線硬化型インクジェット組成物を収容した収容体。」とあるのを、「請求項1?7および9?12のいずれか1項に記載のラジカル重合型の紫外線硬化型インクジェット組成物を収容した収容体。」に訂正する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1) 訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項8における「前記ラジカル重合性化合物として、ビニルエーテル基と(メタ)アクリレート基とを有するラジカル重合性化合物を含有する」との記載に基づいて、訂正前の請求項1に記載されていたラジカル重合型の紫外線硬化型インクジェット組成物に含まれるラジカル重合性化合物を、ビニルエーテル基と(メタ)アクリレート基とを有するラジカル重合性化合物を含有するものに限定するものである。
したがって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものであるとともに、同法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえる。
また、訂正事項1は、上記のとおり、訂正前の請求項1に記載されていたラジカル重合性化合物を、訂正前の請求項8において特定されていたものに限定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
(2) 訂正事項2?6
訂正事項2は、訂正前の請求項8を削除するものであり、訂正事項3?6は、訂正事項2により削除された請求項8をいまだ引用した状態にある不明瞭な請求項の記載を明瞭化したもの、あるいは、引用請求項の一部を削除するものということができるから、これらの訂正事項は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるか、同項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものと認められる。また、これらの訂正事項が、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ、実質上特許請求の範囲を変更し又は拡張するものではないことは明らかであるから、当該訂正事項は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に適合するものである。

3 小括
上記1、2のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第3項及び第4項の規定に従い、一群の請求項を構成する請求項1?14について訂正を求めるものであり、その訂正事項は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものに該当し、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?14〕について訂正することを認める。

第3 本件特許請求の範囲の記載 (本件発明)

上記第2のとおり、本件訂正は認容し得るものであるから、本件特許の特許請求の範囲の記載は、本件訂正後の、次のとおりのものである(以下、各請求項に係る発明を「本件発明1」などといい、まとめて「本件発明」という。)。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料、顔料分散剤、ラジカル重合性化合物、及び光重合開始剤を含有し、収容体に収容されたラジカル重合型の紫外線硬化型インクジェット組成物であって、
ラジカル重合型の紫外線硬化型インクジェット組成物の全量に対して、水分量が0.05質量%以上0.2質量%以下であり、前記顔料分散剤の酸価が50mgKOH/g以下であり、前記顔料分散剤のアミン価が17mgKOH/g以下であり、前記顔料分散剤の酸価とアミン価の少なくともいずれかが10mgKOH/g以上であり、
前記ラジカル重合性化合物として、ビニルエーテル基と(メタ)アクリレート基とを有するラジカル重合性化合物を含有する、
ラジカル重合型の紫外線硬化型インクジェット組成物。
【請求項2】
前記顔料分散剤のアミン価が5mgKOH/g以下である、請求項1記載のラジカル重合型の紫外線硬化型インクジェット組成物。
【請求項3】
前記顔料分散剤の酸価が12mgKOH/g以下である、請求項1又は2に記載のラジカル重合型の紫外線硬化型インクジェット組成物。
【請求項4】
前記顔料分散剤の酸価とアミン価の合計量が、15mgKOH/g以上90mgKOH/g以下である、請求項1?3のいずれか1項に記載のラジカル重合型の紫外線硬化型インクジェット組成物。
【請求項5】
前記顔料分散剤の酸価とアミン価の合計量が、34mgKOH/g以下である、請求項1?4のいずれか1項に記載のラジカル重合型の紫外線硬化型インクジェット組成物。
【請求項6】
前記ラジカル重合性化合物の含有量が、ラジカル重合型の紫外線硬化型インクジェット組成物の全量に対して、45質量%以上である、請求項1?5のいずれか1項に記載のラジカル重合型の紫外線硬化型インクジェット組成物。
【請求項7】
前記光重合開始剤としてアシルホスフィンオキサイド系化合物を含有する、請求項1?6のいずれか1項に記載のラジカル重合型の紫外線硬化型インクジェット組成物。
【請求項8】(削除)
【請求項9】
前記ビニルエーテル基と(メタ)アクリレート基とを有するラジカル重合性化合物を、前記紫外線硬化型組成物の全量に対して、10?70質量%含有する、請求項1?7のいずれか1項に記載のラジカル重合型の紫外線硬化型インクジェット組成物。
【請求項10】
前記ビニルエーテル基と(メタ)アクリレート基とを有するラジカル重合性化合物を、前記紫外線硬化型組成物の全量に対して、20質量%以下含有する、請求項1?7および9のいずれか1項に記載のラジカル重合型の紫外線硬化型インクジェット組成物。
【請求項11】
前記ビニルエーテル基と(メタ)アクリレート基とを有するラジカル重合性化合物として、下記一般式(1):
CH_(2)=CR^(1)-COOR^(2)-O-CH=CH-R^(3) ・・・(1)
(式中、R^(1)は水素原子又はメチル基であり、R^(2)は炭素数2?20の2価の有機残基であり、R^(3)は水素原子又は炭素数1?11の1価の有機残基である。)
で表されるビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類を含有する、請求項1?7,9および10のいずれか1項に記載のラジカル重合型の紫外線硬化型インクジェット組成物。
【請求項12】
前記ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類がアクリル酸2-(ビニロキシエトキシ)エチルである、請求項11に記載のラジカル重合型の紫外線硬化型インクジェット組成物。
【請求項13】
請求項1?7および9?12のいずれか1項に記載のラジカル重合型の紫外線硬化型インクジェット組成物を収容した収容体。
【請求項14】
前記収容体は、酸素透過度が、23℃且つ湿度65%において、0.01cc?5.0cc・20μm/(m^(2)・day・atm)である部材からなる容器に前記ラジカル重合型の紫外線硬化型インクジェット組成物が充填されたものであるか、少なくとも前記ラジカル重合型の紫外線硬化型インクジェット組成物を充填した容器を、酸素透過度が、23℃且つ湿度65%において、0.01cc?5.0cc・20μm/(m^(2)・day・atm)である部材からなる包装体により密封したものであるか、の少なくとも何れかである、請求項13に記載の収容体。」

第4 平成30年11月14日付けで通知した取消理由についての判断

1 標記取消理由の概要
本件訂正前の請求項1?14に係る本件特許(本件発明)に対して通知した標記取消理由の要旨は、次のとおりである。
(1) (進歩性)本件発明1?14は、下記引用文献に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許1?14は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである(特許法第113条第2号)。
(2) (サポート要件)特許請求の範囲の請求項1?7、13、14の記載は下記の点で特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、本件特許1?7、13、14は、同号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである(特許法第113条第4号)。

2 取消理由(1)(進歩性)について
(1) 引用文献
取消理由(1)において採用した引用文献は、以下のとおりである。
なお、本件特許異議申立事件は、申立人A、B、Cの三者から申し立てられたものであるところ、いずれの申立人から提出された証拠であるのかを、各引用文献の後ろに記載した(例えば、申立人Aが提出した甲第1号証を「甲A1」などとした。)。
ア 主たる証拠
・引用文献1:国際公開第2013/118735号(甲B1、甲C2)
・引用文献1':特開2013-177580号公報(甲A2)
・引用文献1'':特開2013-159716号公報(甲A1)
・引用文献1''':特開2005-187725号公報(甲A3)
なお、引用文献1は、引用文献1'のパテントファミリーであり、また引用文献1''及び引用文献1'''と類似する文献であるから、以下では、当該引用文献1を主たる証拠とした場合について詳述することとし(後記(2)?(6))、引用文献1'、引用文献1''及び引用文献1'''を主たる証拠とした場合については、後記(7)において略述することとした。
イ 従たる証拠
(ア) 水分量に関する文献
・引用文献2:特開2003-292855号公報(甲A4)
・引用文献3:特開2003-306622号公報(甲A5、甲B2)
・引用文献4:特開2014-181281号公報(甲A6)
・引用文献5:特開2010-143982号公報(甲C1)
・引用文献6:特開2011-16889号公報(甲A7)
・引用文献7:特開2011-16890号公報(甲A8)
(イ) 特定の重合性化合物や収容体に関する文献
・引用文献8:特開2013-177525号公報
(甲C3。甲B3の特開2014-5438号公報と類似)
(2) 主たる証拠とした引用文献1の記載事項
・「[請求項1]
顔料と、顔料分散剤と、エチレン性不飽和二重結合を有する化合物とを含有し、前記顔料分散剤が、アミン価が20mgKOH/g以下、且つ、酸価が10mgKOH/g以下であって、スチレン由来の繰り返し単位と、炭素数が12以上の不飽和脂肪酸由来の繰り返し単位と、エチレン性不飽和二重結合を有するポリアルキレンオキシド由来の繰り返し単位とを有する共重合体、前記共重合体のアルカリ金属塩、前記共重合体のアルカリ土類金属塩、前記共重合体のアンモニウム塩、及び前記共重合体のアミン誘導体よりなる群から選択される1種以上を含む、インクジェットインク用顔料分散液。」
・「[請求項4]
請求の範囲第項1項乃至第3項のいずれか一項に記載のインクジェットインク用顔料分散液と、光重合開始剤とを含有する、活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物。」
・「[発明が解決しようとする課題]
[0010]
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、常温保管時のみならず高温下においても長期間安定で、インク吐出面に対する撥液性を向上するインクジェットインク用顔料分散液、常温保管時のみならず高温下においても長期間安定で、インク吐出面に対する撥液性が良好で、インクジェットの目詰まりが生じにくい活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物、並びに、当該活性エネルギー線硬化型インクジェット組成物を用いることにより、均質で再現性の高いインク層を有する印刷物を提供することを目的とする。」
・「[0030]
[顔料分散剤のアミン価及び酸価]
本発明の顔料分散剤は、アミン価が20mgKOH/g以下、且つ、酸価が10mgKOH/g以下である。このような顔料分散剤を用いることにより、保存安定性、及びインクジェット吐出面に対する撥液性に優れた顔料分散液を得ることができる。2種以上の顔料分散剤を組み合わせて用いる場合には、当該顔料分散剤全体としてアミン価及び酸価が上記範囲内にあればよい。
顔料分散剤のアミン価は、保存安定性及びインクジェット吐出面に対する撥液性に優れる点から、中でも、17mgKOH/g以下であることが好ましい。また、顔料分散剤の酸価は、保存安定性及びインクジェット吐出面に対する撥液性に優れる点から、中でも、7mgKOH/g以下であることが好ましい。
なお、本発明においてアミン価とは、固形分1gを中和するのに必要な塩酸量に対して当量となる水酸化カリウムの質量(mg)を表し、JIS K7237に記載の方法により測定することができる。
また、本発明において酸価とは、固形分1gを中和するのに要するKOHの質量(mg)を表し、JIS K0070に記載の方法により測定することができる。
なお、本発明において固形分とは、溶媒や分散剤を除く成分を意味する。」
・「[0051]
上記共重合体等として、例えば、ビックケミー社製のBYKJET-9150等を用いることができる。」
・「[0060]
単官能(メタ)アクリレートは特に限定されない。例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、sec-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、n-ペンチル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、n-デシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、tert-ブチルシクロへキシル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、1-アダマンチル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、2,2’-オキシビス(メチレン)ビス-2-プロペノエート、エチルカルビトール(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシルエチル(メタ)アクリレート、2-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、アクリロイルモルフォリン、N-アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタルイミド、ステアリル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
[0061]
中でも、硬化収縮が小さく、密着性が良好な点から、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等の芳香族炭化水素単官能(メタ)アクリレート、及び、イソボルニル(メタ)アクリレート、シクロへキシル(メタ)アクリレート、3,3,5-トリメチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、4-t-ブチルシクロへキシル(メタ)アクリレート、ノルボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート等の脂環式炭化水素単官能(メタ)アクリレートが好ましい。
[0062]
二官能(メタ)アクリレートは特に限定されない。例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、長鎖脂肪族ジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ステアリン酸変性ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、グリセロールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレンジ(メタ)アクリレート、トリグリセロールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコール変性トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、アリル化シクロヘキシルジ(メタ)アクリレート、メトキシ化シクロヘキシルジ(メタ)アクリレート、アクリル化イソシアヌレート、ビス(アクリロキシネオペンチルグリコール)アジペート、ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、テトラブロモビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールSジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、フタル酸ジ(メタ)アクリレート、リン酸ジ(メタ)アクリレート、亜鉛ジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。」
・「[0079]
(光重合開始剤)
本発明の活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物において用いられる光重合開始剤は、活性エネルギー線の照射により前記エチレン性不飽和二重結合を有する化合物の重合反応を促進するものであれば特に限定されず、従来公知の光重合開始剤を用いることができる。
[0080]
光重合開始剤としては、例えば、チオキサントン等を含む芳香族ケトン類、α-アミノアルキルフェノン類、α-ヒドロキシケトン類、アシルフォスフィンオキサイド類、芳香族オニウム塩類、有機過酸化物、チオ化合物、ヘキサアリールビイミダゾール化合物、ケトオキシムエステル化合物、ボレート化合物、アジニウム化合物、メタロセン化合物、活性エステル化合物、炭素ハロゲン結合を有する化合物、及びアルキルアミン化合物等が挙げられる。
[0081]
本発明において、光重合開始剤としては、重合反応を促進し、硬化性を向上する点から、中でも、アシルフォスフィンオキサイド類、α-ヒドロキシケトン類、及びα-アミノアルキルフェノン類よりなる群から選択される1種以上を用いることが好ましい。」
・「[0098]
重合禁止剤としてフェノチアジン類重合禁止剤とニトロソアミン類重合禁止剤とを組み合わせて用いることにより、無酸素雰囲気下、及び酸素存在下のいずれの場合においても長期間安定で、粘度変化を抑え、加熱時にもゲル化や増粘を防止することができ、且つ、硬化性に優れた、活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物が得られる。
[0099]
なお、重合禁止剤としてフェノチアジン類重合禁止剤とニトロソアミン類重合禁止剤とを組み合わせて用いることにより、上記のような効果を発揮する作用としては、未解明であるが以下のように推定される。
重合禁止剤としてフェノチアジン類重合禁止剤とニトロソアミン類重合禁止剤とを含有する活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物は、フェノチアジン類重合禁止剤とニトロソアミン類重合禁止剤との相乗効果により、無酸素雰囲気下、及び酸素存在下のいずれの場合においてもインク組成物中のラジカルの発生を抑え、或いは発生したラジカルを補足し、エチレン性不飽和二重結合の重合反応を充分に抑制することができる。また、インク組成物を加熱する場合、ラジカルがより発生しやすくなり、ゲル化や増粘が起きやすくなる。フェノチアジン類重合禁止剤とニトロソアミン類重合禁止剤を組み合わせて用いることにより、加熱時であってもエチレン性不飽和二重結合の重合反応を充分に抑制することができる。このため、無酸素雰囲気下の保管中、酸素が存在する使用時、加熱時等、いずれの場合においても、インク組成物中のエチレン性不飽和二重結合は重合反応が抑制され、長期間安定で、粘度変化を抑えることができる。また、上述のような相乗効果により、重合禁止剤としてフェノチアジン類重合禁止剤とニトロソアミン類重合禁止剤とを含有するインク組成物は、当該インク組成物中の重合禁止剤の含有割合を従来よりも低くした場合であっても、重合反応を充分に抑制することができる。このため、活性エネルギー線を照射した際には、光重合開始剤が効率よく機能するため、エチレン性不飽和二重結合の重合反応が充分に進行し、硬化性にも優れている。
重合禁止剤としてフェノチアジン類重合禁止剤とニトロソアミン類重合禁止剤とを含有する活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物は、上記のように酸素存在下及び無酸素雰囲気下のいずれの場合においても長期間安定しているため、インク使用時に流路内やヘッド内で、目詰まりを起こすことなく、吐出安定性に優れる。活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物を使用する場合は、インクジェットヘッド等を30?50℃に加熱し、該インクジェットインク組成物の粘度を下げて吐出性を向上させることがよく行なわれるが、重合禁止剤としてフェノチアジン類重合禁止剤とニトロソアミン類重合禁止剤とを含有する活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物は加熱時の安定性にも優れるため、このような手法を用いても、目詰まりを生ずることがない。これらのことから、当該インク組成物を用いて得られた印刷物はインク層が均質で、高品質な印刷物となる。」
・「[0106]
(活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物中の各成分の含有割合)
本発明に係る活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物において、顔料の含有量は、分散性と着色力を両立する点から、インクジェットインク組成物全量に対して0.1?40質量%が好ましく、0.2?20質量%がより好ましい。有機顔料の場合、中でも、0.1?20質量%が好ましく、0.2?10質量%がより好ましい。また、分散性と着色力を両立する点から、無機顔料の場合、中でも、1?40質量%が好ましく、5?20質量%がより好ましい。
インクジェットインク組成物において分散剤の含有割合は、特に限定されず、顔料の種類によっても異なるが、顔料100質量部に対して、顔料分散剤は、通常20?60質量部であり、分散性及び分散安定性の点から、25?55質量部が好ましく、30?50質量部がより好ましい。
また、インクジェットインク組成物におけるエチレン性不飽和二重結合を有する化合物の含有量は、特に限定されない。中でも、硬化性の点から、本発明のインクジェットインク組成物全体における上記エチレン性不飽和二重結合を有する化合物の含有量が、30?95質量%であることが好ましく、45?95質量%であることがより好ましく、60?90質量%であることが特に好ましい。
インクジェットインク組成物における顔料分散剤の含有量は特に限定されない。インクジェットインク組成物全体における顔料分散剤の含有量は、0.02?24質量%であることが好ましく、中でも0.03?20質量%であることが好ましく、0.06?10質量%であることがより好ましい。顔料分散剤の含有量が少ないと立体保護層が形成されず顔料が凝集する恐れがある。また、含有量が多すぎると粘度が高くなる場合があり、吐出性が悪くなる恐れがある。
本発明のインクジェットインク組成物において、スチレン由来の繰り返し単位と、炭素数が12以上の不飽和脂肪酸由来の繰り返し単位と、エチレン性不飽和二重結合を有するポリアルキレンオキシド由来の繰り返し単位とを有する共重合体、前記共重合体のアルカリ金属塩、前記共重合体のアルカリ土類金属塩、前記共重合体のアンモニウム塩、及び前記共重合体のアミン誘導体よりなる群から選択される1種以上を含む顔料分散剤の含有量は特に限定されない。インクジェットインク組成物全体における当該共重合体等の含有量は、0.02?24質量%であることが好ましく、中でも0.03?20質量%であることが好ましく、0.06?10質量%であることがより好ましい。該共重合体等の含有量が少ないと立体保護層が形成されず顔料が凝集する恐れがある。また、含有量が多すぎると粘度が高くなる場合があり、吐出性が悪くなる恐れがある。但し、上記顔料分散剤及び上記共重合体等の含有量は固形分換算である。」
・「[0110]
(印刷物の製造方法)
上記印刷物の製造方法は特に限定されないが、被記録媒体上に、前記本発明に係るインクジェットインク組成物を吐出する工程、及び、吐出されたインクジェットインク組成物に活性エネルギー線を照射して、該インクジェットインク組成物を硬化させる工程を含む、インクジェット記録方法を用いることが好ましい。
以下、上記各工程について説明する。
[0111]
(1)被記録媒体上に、インクジェットインク組成物を吐出する工程
本工程では、通常、インクジェット方式により被記録媒体上に、インクジェットインク組成物を吐出する。インクジェット組成物を吐出して、所望の像を描画してもよいし、比較的広範囲にクリア層を形成してもよい。本発明においては、安定性に優れ、粘度の変化が少ない前記本発明に係るインクジェットインク組成物を用いるため、吐出安定性に優れる。
[0112]
(2)活性エネルギー線を照射して、インクジェットインク組成物を硬化させる工程
活性エネルギー線の線種は、上記光重合開始剤との組み合わせで、適宜選択されるものであり、特に制限されない。例えば、波長365nmの紫外線等が好適に用いられる。
活性エネルギー線の光源としては、紫外線を照射する場合には、例えば、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、低圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、紫外線レーザー、発光ダイオード(LED)等を用いることができ、特に制限されない。
インクジェットインク組成物が、被記録媒体に着弾後、直ちに活性エネルギー線を照射することが好ましい。」
・「[実施例]
[0113]
以下、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。なお、実施例中、「部」は「質量部」を表す。また、固形分の含有割合を記載していない顔料分散剤は、固形分100質量%である。
[0114]
(実施例1:黄色顔料分散液の調製)
ジプロピレングリコールジアクリレート(SR508、sartomer製、不飽和二重結合当量121g/eq、酸価0.05質量%(アクリル酸換算))74.2部に、スチレン由来の繰り返し単位と、炭素数が16及び18の不飽和脂肪酸由来の繰り返し単位と、エチレン性不飽和二重結合を有し不飽和脂肪酸由来の繰り返し単位1モルに対して10?60モルのポリアルキレンオキシド由来の繰り返し単位とを有する共重合体、前記共重合体のアルカリ金属塩、前記共重合体のアルカリ土類金属塩、前記共重合体のアンモニウム塩、及び前記共重合体のアミン誘導体よりなる群から選択される1種以上を含む顔料分散剤(BYKJET-9150、ビックケミー社製、アミン価12mgKOH/g、酸価5mgKOH/g、固形分約70質量%)10.7部を溶解させ、PigmentYellow155(PY155、クラリアント社製 イエロー顔料)15部、フェノチアジン(TDP、川口化学薬品社製)0.1部を加え、ペイントシェイカーで、1mm直径のジルコニアビーズを用いて顔料粒子径(メジアン径)が200nm以下となるように分散し、実施例1の黄色顔料分散液を得た。粒子径は、大塚電子製 FPAR-1000によって測定した。」
・「[0177]
<安定性評価>
上記参考例1?5、比較参考例1?12、及び実施例30並びに31で得られた活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物の粘度を、AntonPaar製AMVn粘度計を用いて40℃の条件下で測定した。
また、上記参考例1?5、比較参考例1?12、及び実施例30並びに31の活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物を下記の2つの条件でそれぞれ保管し、保管後のインク組成物の粘度を上記と同様の方法で測定し、保管後の粘度の保管前の粘度に対する変化率を求め、安定性の評価を行った。評価結果を表7に示す。なお下記保管条件1は、上記経時安定性評価(2)と同一の条件である。
[0178]
[保管条件]
保管条件1(酸素存在下):50ccのガラス瓶にインク組成物を40cc充填し、60℃で4週間保管した。
保管条件2(無酸素雰囲気下):アルミパックにインク組成物を40cc充填し、脱気した後密封して、60℃で4週間保管した。
[0179]
[安定性評価基準]
A:変化率が5%未満であった。
B:変化率が5%以上10%未満であった。
C:変化率が10%以上50%未満であった。
D:変化率が50%以上であった。
安定性評価がAであれば、当該インクジェットインク組成物は安定性が特に優れている。また、安定性評価がBであれば、当該インクジェットインク組成物は実用上問題なく使用できる。
[0180]
<硬化性評価>
上記参考例1?5、比較参考例1?12、及び実施例30の活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物をそれぞれ、インクジェットヘッド(KM512MHヘッド:コニカミノルタ製)を用いて360dpiになるようにPET原反(東洋紡績製A4300)に印字した。その後、UVランプ(LightHammer6:フュージョンUVシステムズ・ジャパン製)により積算光量30mJ/cm^(2)、ピーク照度90mW/cm^(2)となるように紫外線照射し、塗膜を得た。結果は下記評価基準に従って判断した。評価結果を表7に示す。
[0181]
[硬化性評価基準]
○:指触により、タックが確認されなかった。
×:指触により、タックが確認された。」
(3) 引用文献1に記載された発明(引1インク」、「引1収容体」)
ア 引用文献1の[請求項1]を引用する[請求項4]には、活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物に関する、次の発明が記載されているといえる。
「顔料と、顔料分散剤と、エチレン性不飽和二重結合を有する化合物とを含有し、前記顔料分散剤が、アミン価が20mgKOH/g以下、且つ、酸価が10mgKOH/g以下であって、スチレン由来の繰り返し単位と、炭素数が12以上の不飽和脂肪酸由来の繰り返し単位と、エチレン性不飽和二重結合を有するポリアルキレンオキシド由来の繰り返し単位とを有する共重合体、前記共重合体のアルカリ金属塩、前記共重合体のアルカリ土類金属塩、前記共重合体のアンモニウム塩、及び前記共重合体のアミン誘導体よりなる群から選択される1種以上を含む、インクジェットインク用顔料分散液と、光重合開始剤とを含有する、活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物。」
イ また、一般に、活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物を取り扱うにあたっては、これを収容するための、なにがしかの収容体が必要であり、実際、引用文献1にも、[0178]のとおり、安定性評価に際し、当該インク組成物を、ガラス瓶やアルミパックに収容した旨記載されている。
ウ そうすると、引用文献1には、次の発明が記載されているといえる。
・「顔料と、顔料分散剤と、エチレン性不飽和二重結合を有する化合物とを含有し、前記顔料分散剤が、アミン価が20mgKOH/g以下、且つ、酸価が10mgKOH/g以下であって、スチレン由来の繰り返し単位と、炭素数が12以上の不飽和脂肪酸由来の繰り返し単位と、エチレン性不飽和二重結合を有するポリアルキレンオキシド由来の繰り返し単位とを有する共重合体、前記共重合体のアルカリ金属塩、前記共重合体のアルカリ土類金属塩、前記共重合体のアンモニウム塩、及び前記共重合体のアミン誘導体よりなる群から選択される1種以上を含む、インクジェットインク用顔料分散液と、光重合開始剤とを含有する、活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物であって、収容体に収容されたもの。」(以下、「引1インク」という。)
・「「引1インク」を収容した収容体。」(以下、「引1収容体」という。)
(4) 本件発明1について(「引1インク」との対比・検討)
ア 顔料分散剤の酸価及びアミン価について
(ア) 「引1インク」における顔料分散剤は、アミン価が20mgKOH/g以下、且つ、酸価が10mgKOH/g以下であるから、本件発明1の顔料分散剤のアミン価及び酸価の数値と重複するものである。
(イ) また、引用文献1の[0030]には、保存安定性などの観点から、中でも、アミン価は17mgKOH/g以下であり、酸価は7mgKOH/g以下であることが好ましい旨記載され、[0051]及び[0114]には、具体例として、アミン価12mgKOH/g、酸価5mgKOH/gの「BYKJET-9150」が記載されている。
(ウ) 以上の点を踏まえると、「引1インク」の顔料分散剤は、本件発明1が規定する酸価及びアミン価の数値を満足するものを実質的に内包するというべきであるから、本件発明1と「引1インク」の顔料分散剤は、酸価及びアミン価において実質的な相違はないといえる。
イ 重合の形態などについて
(ア) 「引1インク」は、活性エネルギー線により硬化させるものであるところ、引用文献1の[0112]、[0180]には、具体例として、紫外線により硬化させることが記載されている。
(イ) また、「引1インク」のエチレン性不飽和二重結合を有する化合物の具体例として、引用文献1の[0060]、[0062]などには、単官能及び二官能アクリレートであるフェノキシエチルアクリレート及びジプロピレングリコールジアクリレート(これらは、本件発明1の実施例において、重合性化合物として使用されているものである。)が例示され、「引1インク」の光重合開始剤の具体例として、引用文献1の[0080]、[0081]などには、アシルフォスフィンオキサイド類(本件発明7の光重合開始剤にあたるものであり、本件特許明細書【0042】において好適な光ラジカル重合開始剤として記載されたものである。)が挙げられ、さらに、引用文献1の[0099]には、重合禁止剤の効果として、インク組成物中のラジカルの発生を抑え、或いは発生したラジカルを補足し、エチレン性不飽和二重結合の重合反応を充分に抑制することができる旨記載されていることを考え合わせると、「引1インク」のエチレン性不飽和二重結合を有する化合物は、本件発明1のラジカル重合性化合物に相当するものであり、当該「引1インク」は、ラジカル重合型であるということができる。
(ウ) 以上の点を踏まえると、「引1インク」は、紫外線による硬化を予定したものであるとともに、ラジカル重合性化合物を有するラジカル重合型の組成物であると認められるから、「本件発明1」と「引1インク」は、ラジカル重合型の紫外線硬化型インクジェット組成物であり、ラジカル重合性化合物を有する点において共通するといえる。
ウ 本件発明1と「引1インク」との対比(一致点・相違点)
そうすると、両者は、次の一致点及び相違点を有するものと認められる。
・一致点:「顔料、顔料分散剤、ラジカル重合性化合物、及び光重合開始剤を含有し、収容体に収容されたラジカル重合型の紫外線硬化型インクジェット組成物であって、
前記顔料分散剤の酸価が50mgKOH/g以下であり、前記顔料分散剤のアミン価が17mgKOH/g以下であり、前記顔料分散剤の酸価とアミン価の少なくともいずれかが10mgKOH/g以上である、
ラジカル重合型の紫外線硬化型インクジェット組成物。」
・相違点1:水分量について、本件発明1は、「ラジカル重合型の紫外線硬化型インクジェット組成物の全量に対して、水分量が0.05質量%以上0.2質量%以下」と特定しているのに対して、「引1インク」には、水分量に関する特定がない点。
・相違点2:ラジカル重合性化合物について、本件発明1は、「ラジカル重合性化合物として、ビニルエーテル基と(メタ)アクリレート基とを有するラジカル重合性化合物を含有する」と特定しているのに対して、「引1インク」には、そのような具体的な特定はない点。
エ 相違点1、2についての検討
(ア) 引用文献2?7の記載事項(水分量に関連する技術常識の整理)
はじめに、引用文献2?7における水分(水分量)に関連する記載に着目しながら、紫外線硬化型インクジェット組成物における水分(水分量)についての当業者間の認識(技術常識)について整理しておく。
引用文献2?5には、インク中の水分量(含水率)は、(i)支持体への密着性の改善、形成後の画像耐久性(耐水性)の改善、インクの長期保存性(ノズル内に滞在するインクの保存性)の改善、長期にわたるノズルの詰まりの防止の観点から、0.02?2.0質量%とすること(引用文献2の【0065】参照)、あるいは、0.01?2.5質量%とすること(引用文献3の【0063】【0064】参照)、(ii)インク保存安定性、射出特性改善の観点から、0.8質量%以下とすること(引用文献4の【0020】参照)、(iii)光硬化性インクジェット用インクの粘度変化が少なく保存安定性に優れるとの観点から、10000ppm以下(1質量%以下)、さらには5000ppm以下(0.5質量%以下)とすること(引用文献5の【0109】参照)、がそれぞれ記載されている。
また、引用文献6、7には、キナクリドン系顔料あるいはフタロシアニン系顔料に含まれるイオン性不純物は、水分によりインク中に溶解して塩を形成し、それによって析出物が発生することが記載されている(引用文献6の【0015】、引用文献7の【0015】参照)。
そうすると、紫外線硬化型インクジェット組成物における水分は、支持体への密着性、形成後の画像耐久性(耐水性)、インクの長期保存性(ノズル内に滞在するインクの保存性)、ノズルの詰まり、射出特性、インクの粘度変化、顔料中のイオン性不純物に起因する異物析出などに影響を与えること、そのため、当該水分量は低く抑えるべきであることが、本件特許の出願時における技術常識であったと理解することができる。そして、上記引用文献2?5に記載された水分量の数値範囲(0.02?2.0質量%、0.01?2.5質量%、0.8質量%以下、1質量%以下など)は、本件発明1が規定する水分量の数値範囲を包含するものであることが分かる(ただし、引用文献2?5に記載された水分量の数値範囲は、本件発明1が規定する水分量の数値範囲に比してかなり広い。)。
さらに、当該水分量を低減するためには、当然のことながら、そのためのコストや労力、過大な工程や時間が必要となることから、当業者は、水分量低減により期待する効果と、コスト等との兼ね合いで(費用対効果を考えて)、最終的な水分量を設定することになるものと解するのが合理的である。
(イ) 引用文献8の記載事項(ビニルエーテル基と(メタ)アクリレート基とを有するラジカル重合性化合物について)
次に、ビニルエーテル基と(メタ)アクリレート基とを有するラジカル重合性化合物について記載された引用文献8の記載をみてみる。
引用文献8の【0017】?【0027】には、重合性化合物として、ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類が挙げられ、特に、同【0023】には、アクリル酸2-(2-ビニロキシエトキシ)エチル(当該化合物は、本件特許明細書【0071】に、実施例の重合性化合物として記載されたものである。)が好適な例の一つであることが、同【0025】には、ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類、特に(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシエトキシ)エチルの含有量は、インク組成物の総質量に対して、10?70質量%が好ましいことが、それぞれ記載されている。
(ウ) 本件発明1において、相違点1に係る水分量を規定した意義について
ここで、本件発明1において、相違点1に係る水分量を規定した意義について確認しておくと、本件特許明細書の【0038】には、次の記載を認めることができる。
「【0038】
(水分)
本実施形態の組成物は水分を含有し、その水分量は、組成物の全量(100質量%)に対して0.05質量%以上1.0質量%以下である。水分量は、組成物の製造効率を更に高める観点、組成物がビニルエーテル基と(メタ)アクリレート基とを有する重合性化合物を含有する場合に組成物の保存安定性をより高める観点から、0.05質量%以上であると好ましく、0.1質量%以上であるとより好ましく、0.15%以上であるとさらに好ましい。水分は、ビニルエーテル基と(メタ)アクリレート基とを有する重合性化合物の重合禁止作用をもつからである。また、水分量は、組成物の硬化性の低下を抑制する観点、及び、異物の析出を抑制する観点から、1.0質量%以下であると好ましく、0.8質量%以下であるとより好ましく、0.5質量%以下であるとさらに好ましい。上述したように、水分は、ビニルエーテル基と(メタ)アクリレート基とを有する重合性化合物の重合を阻害する作用を有し、組成物の硬化性を低下させる傾向がある。また、水分は、顔料の凝集の要因となり、顔料凝集により異物が析出すると考えられる。」
当該記載によれば、本件発明1において水分量の下限値を規定するのは、「組成物の製造効率を更に高める観点、組成物がビニルエーテル基と(メタ)アクリレート基とを有する重合性化合物を含有する場合に組成物の保存安定性をより高める観点」からであり、上限値を規定するのは、「組成物の硬化性の低下を抑制する観点、及び、異物の析出を抑制する観点」からであることが分かる。そして、当該下限値の設定理由として挙げられた、「組成物がビニルエーテル基と(メタ)アクリレート基とを有する重合性化合物を含有する場合に組成物の保存安定性をより高める」観点とは、水分が有する、ビニルエーテル基と(メタ)アクリレート基とを有する重合性化合物の重合禁止作用、すなわち、水分は、ビニルエーテル基と(メタ)アクリレート基とを有する重合性化合物の重合を阻害する作用を有し、組成物の硬化性を低下させる傾向があるという知見に基づくものであり、当該上限値の設定理由として挙げられた、「組成物の硬化性の低下を抑制する観点」も、同様の知見に基づくものであることを理解することができる。そして、実際、本件特許明細書の【0073】【表1】及び【0074】【表2】に記載された実施例1、5と比較例1、8の実験結果を比べると、ビニルエーテル基と(メタ)アクリレート基とを有する重合性化合物であるVEEAの存在下にあっては、水分量が本件発明1の規定する下限値(0.05重量%)を下回る比較例1(水分量は0.02重量%)の場合、水分量が0.2重量%あるいは0.05重量%の実施例1、5よりも、保存安定性の指標である「重合ゲル化(増粘)」の評価が低くなっているし、水分量が本件発明1の規定する上限値(0.2重量%)を上回る比較例8(水分量は1.2重量%)の場合、「硬化性」の評価が低くなっていることを看取することができる。
(エ) 上記(ア)?(ウ)の点を踏まえて、上記相違点1、2について検討をする。
上記(ア)のとおり、水分は、長期保存性などの特性に影響するところ、当該特性は、概して、インクに求められる特性というべきものであって、そのような要求は「引1インク」においても同じである。実際、引用文献1の[0010]の記載によれば、「引1インク」が長期保存性などを課題としていることが分かる。
そうすると、「引1インク」においても、長期保存性などの特性の改善が求められていることから、上記(ア)のとおり、水分が長期保存性などの特性に影響を与えることを認知する当業者であれば、当該特性に影響するインクの水分量に着目し、その低減を図ることに、格別の創意は要しないというべきである。加えて、当該水分量をどの程度まで低減するかは、上記(ア)のとおり、水分量低減により期待する効果と、コスト等との兼ね合いで(費用対効果を考えて)決定されるべきものであるということができる。
しかしながら、本件発明1の水分量の規定は、単に、組成物の製造効率を高める観点や、異物の析出を抑制する観点のみから設定されたものではなく、上記(ウ)のとおり、水分が有する、ビニルエーテル基と(メタ)アクリレート基とを有する重合性化合物の重合禁止作用についての知見に基づいてなされたものであって、「組成物がビニルエーテル基と(メタ)アクリレート基とを有する重合性化合物を含有する場合に組成物の保存安定性をより高める観点」及び「組成物の硬化性の低下を抑制する観点」という新たな視点に立って設定されたものである。そして、「引1インク」は、上記相違点2に係るビニルエーテル基と(メタ)アクリレート基とを有する重合性化合物を有するものではないから、「引1インク」において、当該重合性化合物を採用し、その上、上記の新たな視点に立って(従来にない異質な効果を期待して) 、その水分量を最適化すること、すなわち、上記(ア)に記載した、引用文献2?5記載の広範な水分量の数値範囲の中から、本件発明1が規定する水分量の数値範囲を選択することは、当業者にとって容易なこととは認められない。そして、本件発明1は、これにより、当該異質な効果を奏するものである。
以上のとおり、「引1インク」において、本件発明1の上記相違点1に係る構成(水分量の特定)と、上記相違点2に係る構成(ラジカル重合性化合物の特定)をともに規定することは当業者にとって容易なことではなく、また、これらの規定によって、本件発明1は「組成物にビニルエーテル基と(メタ)アクリレート基とを有する重合性化合物を含有する場合に組成物の保存安定性をより高める」、「組成物の硬化性の低下を抑制する」といった、「引1インク」などからは予測し得ない異質な効果をもたらすものであるから、本件発明1は、「引1インク」に対して進歩性を有するものである。
(5) 本件発明2?7、9?12について(「引1インク」との対比・検討)
本件発明2?7、9?12は、本件発明1の発明特定事項をすべて有するラジカル重合型の紫外線硬化型インクジェット組成物であるから、本件発明1と同様の理由により、「引1インク」に対して進歩性を有するものである。
(6) 本件発明13、14について(「引1収容体」との対比・検討)
本件発明13、14は、本件発明1?7、9?12のラジカル重合型の紫外線硬化型インクジェット組成物を収容した収容体であり、他方、「引1収容体」は、「引1インク」を収容した収容体である。
そして、上記(4)、(5)のとおり、本件発明1?7、9?12のラジカル重合型の紫外線硬化型インクジェット組成物は、「引1インク」に対して進歩性を有するのであるから、本件発明13、14についても同様に、「引1収容体」に対して進歩性を有するものである。
(7) 引用文献1'、引用文献1''及び引用文献1'''を主たる証拠とした場合の進歩性について
ア 引用文献1'を主たる証拠とした場合
引用文献1'の記載内容は、上記引用文献1の記載内容と類似するところ(後記引用文献1''、引用文献'''の記載内容についても同じである。)、引用文献1'の【請求項1】、【請求項4】には、次の記載がある。
・「【請求項1】
顔料と、顔料分散剤と、エチレン性不飽和二重結合を有する化合物とを含有し、前記顔料分散剤が、アミン価が20mgKOH/g以下、且つ、酸価が10mgKOH/g以下であって、スチレン由来の繰り返し単位と、炭素数が12以上の不飽和脂肪酸由来の繰り返し単位と、エチレン性不飽和二重結合を有するポリアルキレンオキシド由来の繰り返し単位とを有する共重合体、前記共重合体のアルカリ金属塩、前記共重合体のアルカリ土類金属塩、前記共重合体のアンモニウム塩、及び前記共重合体のアミン誘導体よりなる群から選択される1種以上を含む、インクジェットインク用顔料分散液。」
・「【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載のインクジェットインク用顔料分散液と、光重合開始剤とを含有する、活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物。」
そして、同【0140】には、当該組成物をガラス瓶(収容体)に入れて経時安定性試験を行うことも記載されているから、引用文献1'には、上記「引1インク」及び「引1収容体」と同じ発明が記載されているといえ、本件発明とは、上記相違点1、2と同様の相違点が認められる。そして、当該相違点1、2に係る本件発明の構成が、上記引用文献2?8から容易想到の事項であるといえないことは、上記のとおりであり、また、引用文献1'にも、当該相違点1、2が容易想到の事項であるというに足りる記載は見当たらない。
したがって、本件発明は、引用文献1'に記載された発明に対して、進歩性を有するものといえる。
イ 引用文献1''を主たる証拠とした場合
引用文献1''の【請求項1】、【請求項2】には、次の記載がある。
・「【請求項1】
少なくともエチレン性不飽和二重結合を有する化合物と、重合禁止剤と、光重合開始剤とを含有し、前記重合禁止剤が、フェノチアジン類重合禁止剤とニトロソアミン類重合禁止剤とを含む、活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物。
【請求項2】
更に顔料を含有する、請求項1に記載の活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物。」
さらに、同【0057】には、顔料を用いる場合には、顔料分散剤を組み合わせて用いることが、同【0060】、【0061】には、当該顔料分散剤として、アミン価が20mgKOH/g以下、且つ酸価が20mgKOH/g以下の低極性の分散剤を用いることが、それぞれ好適なものとして記載され、同【0114】、【0115】には、安定性評価に際し、インク組成物を、ガラス瓶やアルミパックに収容した旨記載されているから、引用文献1''には、次の発明が記載されているといえる。
・「少なくともエチレン性不飽和二重結合を有する化合物と、重合禁止剤と、光重合開始剤と、顔料と、顔料分散剤とを含有し、前記重合禁止剤が、フェノチアジン類重合禁止剤とニトロソアミン類重合禁止剤とを含み、前記顔料分散剤のアミン価が20mgKOH/g以下、且つ酸価が20mgKOH/g以下である、活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物であって、収容体に収容されたもの。」(以下、「引1''インク」という。)
・「「引1''インク」を収容した収容体。」(以下、「引1''収容体」という。)
そして、当該「引1''インク」及び「引1''収容体」は、上記引用文献1に記載された「引1インク」及び「引1収容体」と同等のものであり、本件発明とは、上記相違点1、2と同様の相違点が認められる。そして、当該相違点1、2に係る本件発明の構成が、上記引用文献2?8から容易想到の事項であるといえないことは、上記のとおりであり、また、引用文献1''にも、当該相違点1、2が容易想到の事項であるというに足りる記載は見当たらない。
したがって、本件発明は、引用文献1''に記載された発明に対して、進歩性を有するものといえる。
ウ 引用文献1'''を主たる証拠とした場合
引用文献1'''の【請求項1】には、次の記載がある。
・「【請求項1】
光重合性化合物、顔料、分散剤を含有する活性光線硬化型インクジェットインクにおいて、該光重合性化合物がラジカル重合性化合物であって、かつ該分散剤の酸価がアミン価よりも大きいことを特徴とする活性光線硬化型インクジェットインク。」
そして、同【0034】には、ラジカル重合開始剤を用いることが記載され、実施例(【0074】、【0081】、【0083】、【0085】、【0087】)には、顔料分散剤の具体例として、「PB822(味の素ファインテクノ社製、高分子分散剤、酸価18.5mg/gKOH、アミン価15.9mg/gKOH)」、「PB821(味の素ファインテクノ社製、高分子分散剤、酸価30.4mg/gKOH、アミン価10.2mg/gKOH)」、「ディスパロンED-251(楠本化成社製、高分子分散剤、酸価19mg/gKOH、アミン価13.4mg/gKOH)」が記載され、同【0093】には、インクの保存安定性の評価に際し、インクを、ガラス瓶に収容した旨記載されているから、引用文献1'''には、次の発明が記載されているといえる。
・「光重合性化合物、顔料、分散剤、ラジカル重合開始剤を含有する活性光線硬化型インクジェットインクにおいて、該光重合性化合物がラジカル重合性化合物であって、かつ該分散剤の酸価がアミン価よりも大きいことを特徴とする活性光線硬化型インクジェットインクであって、分散剤は、具体例として、PB822、PB821、ディスパロンED-251を内包するものであり、収容体に収容されたもの。」(以下、「引1'''インク」という。)
・「「引1'''インク」を収容した収容体。」(以下、「引1'''収容体」という。)
そして、当該「引1'''インク」及び「引1'''収容体」は、上記引用文献1に記載された「引1インク」及び「引1収容体」と同等のものであり、本件発明とは、上記相違点1、2と同様の相違点が認められる。そして、当該相違点1、2に係る本件発明の構成が、上記引用文献2?8から容易想到の事項であるといえないことは、上記のとおりであり、また、引用文献1'''にも、当該相違点1、2が容易想到の事項であるというに足りる記載は見当たらない。
したがって、本件発明は、引用文献1'''に記載された発明に対して、進歩性を有するものといえる。
(8) 申立人Cの意見書における主張について
申立人Cは意見書において、特許権者の意見書における主張に対して、次のように主張する。
すなわち、特許権者は意見書において、本件発明1では、ラジカル重合性化合物の中でも、特に、ビニルエーテル基と(メタ)アクリレート基とを有するラジカル重合性化合物を使用する場合において、インクジェット組成物に0.05重量%以上の水を含有させることで、水が該重合性化合物の重合禁止作用を持つと推測され、優れた保存安定性の効果が得られる旨主張し、さらに、本件特許明細書の表1に記載された実施例13と19の比較、実施例5と18の比較から、ビニルエーテル基と(メタ)アクリレート基とを有するラジカル重合性化合物であるVEEAを含む方が、重合ゲル化(増粘)が特に課題となることが示されているとも主張するが、同表1の実施例12と13の比較からみて、上記「インクジェット組成物に0.05重量%以上の水を含有させることで、水が該重合性化合物の重合禁止作用を持つと推測され、優れた保存安定性の効果が得られる」との特許権者の主張は、実施例のデータに裏付けられたものとはいえない旨主張する。
そこで、当該主張について検討すると、確かに、上記表1の実施例12と13に照らすと、特許権者が挙げた実施例13と19の比較から、ビニルエーテル基と(メタ)アクリレート基とを有するラジカル重合性化合物であるVEEAを含む方が、重合ゲル化(増粘)が特に課題となることまで看取できるとは言い難い。しかしながら、上記(4)エ(ウ)において検討したとおり、本件発明1の水分量の規定には、有意な意義が認められ、特に、その下限値には、保存安定性に関する意義が存在することを認めることができるのであるから、「インクジェット組成物に0.05重量%以上の水を含有させることで、水が該重合性化合物の重合禁止作用を持つと推測され、優れた保存安定性の効果が得られる」という上記特許権者の主張自体が、実施例等に裏付けがなく採用に値しないものとはいえない。
したがって、上記申立人Cの主張を採用することはできない。

3 取消理由(2)(サポート要件)について
取消理由(2)は、本件訂正前の請求項1?7、13、14の記載について、おおむね次の事項をサポート要件違反の理由として指摘したものである。
すなわち、本件訂正前の請求項1?7、13、14に係る発明は、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載、中でも【0004】、【0005】の記載によると、特に重合性化合物から水分を除去するのに過大な工程や時間が必要となるため、結果として紫外線硬化型インクジェット組成物を製造するのに効率性が低下してしまうことに鑑みてなされたものであって、製造効率が高い紫外線硬化型インクジェット組成物及びその組成物を充填する収容体を提供することを目的の一つとするものと解されるから、ラジカル重合性化合物として、どのような化合物を使用し、該化合物からいかに製造効率よく水分を除去するのかが重要となるところ、本件特許明細書の発明の詳細な説明における当該化合物についての説明は、ビニルエーテル基と(メタ)アクリレート基とを有するラジカル重合性化合物に始終し、また、実施例・比較例においてもその大部分はこれを含むものが検証の対象とされていることから、当該発明の詳細な説明の記載に接した当業者は、ラジカル重合性化合物についての特定をせず、広範な化合物を包含する、本件訂正前の請求項1?7、13、14に係る発明の全般にわたって、上記課題を解決することができると認識することはできないとした。
そこで、本件訂正後の請求項1?7、9?14の記載について、あらためて上記の点を検討すると、本件訂正後の請求項1?7、9?14に係る発明は、いずれも、ラジカル重合性化合物として、ビニルエーテル基と(メタ)アクリレート基とを有するラジカル重合性化合物を含有するものとなったため、これらの発明は、発明の詳細な説明の記載から、当業者において、上記の課題が解決できると認識できる範囲内のものとなったということができる。
したがって、これらの発明に係る本件特許1?7、9?14は、特許法第36条第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえず、同法第113条第4号には該当しない。

4 小括
以上の検討のとおり、平成30年11月14日付けで通知した取消理由は、いずれも理由がない。

第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由についての判断

上記第4において検討した、上記進歩性についての取消理由は、おおむね申立人A?Cが主張する進歩性についての特許異議申立理由と同旨であり(なお、上記引用文献のほかに、申立人Aは、ビニルエーテル基と(メタ)アクリレート基とを有するラジカル重合性化合物に関する文献として、特開2013-202935号公報を、申立人Bは、酸素透過度に関する文献として、特開2014-5438号公報を、それぞれ提出しているが、これらの文献は、上記引用文献8に類似するものであり、上記水分量に関する記載はないため、これらの文献をさらに参酌しても上記の進歩性の判断は変わらない。)、また、上記サポート要件についての取消理由は、申立人Bが主張するサポート要件についての特許異議申立理由と同旨である。
そのほかに、特許異議申立理由として、(i)申立人Aは、甲第10号証として実験成績証明書を提出し、その実験結果を根拠にして、甲第1?3号証(それぞれ上記引用文献1''、引用文献1'、引用文献1'''に対応)に基づく新規性について主張し、(ii)申立人Bは、本件特許請求の範囲に記載された「顔料分散剤」の定義が判然としないことを理由に、明確性要件について主張する。
そこで、これらの主張について、以下検討をする。

1 申立人Aの主張について
本件特許明細書の【0039】には、「組成物における水分量を調整する方法として、例えば、組成物の各成分、例えば重合性化合物、中の水分量を低減する方法、組成物から水分を除去する方法、組成物の調製時に混入する水分量を低減させる方法などが挙げられる」ことが記載されている。
そうすると、組成物における水分量は、当該組成物を構成する各成分に含まれる水分量や、組成物の調製時に混入する水分量に影響されることが分かるから、追試実験により、先行文献記載の実施例における水分量を正確に検証するためには、当該実施例の組成物を構成する各成分に含まれる水分量や、当該実施例の組成物の調製時に混入する水分量のデータが必要であるということができる。
この点を踏まえて、申立人Aが提出した実験成績証明書(甲第10号証)を精査すると、そこには、甲第1?3号証に記載された実施例の水分量について追試実験した結果が示されているものの、上記データに配慮した形跡は見当たらない。また、甲第1?3号証の実施例に関する記載を仔細にみても、上記データなどについては何ら記載されていない。
そうすると、上記実験成績証明書記載の実験結果は、上記データを考慮することなくなされたものであって、正確性を欠くものといわざるを得ないから、当該実験結果に基づく、申立人Aの上記主張は採用できない。

2 申立人Bの主張について
本件特許請求の範囲において使用されている「顔料分散剤」なる用語は、上記第4の2に列記した引用文献1などにおいても使用されるとおり、当業者間で普通に使用されている用語と解されるから、当該用語の意味が、当業者において理解できないほど不明瞭であるとは認められない。
したがって、申立人Bが主張する特許異議申立理由を採用することはできない。

第6 結び

以上のとおり、本件特許1?7、9?14は、特許法第29条の規定に違反してされたものであるとも、同法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるともいえず、同法第113条第2号又は第4号のいずれにも該当するものではないから、上記取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことはできない。
また、ほかに本件特許1?7、9?14を取り消すべき理由を発見しない。
そして、上記第2のとおり、本件訂正により、請求項8は削除されたので、当該請求項8を対象とする特許異議の申立てについては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料、顔料分散剤、ラジカル重合性化合物、及び光重合開始剤を含有し、収容体に収容されたラジカル重合型の紫外線硬化型インクジェット組成物であって、
ラジカル重合型の紫外線硬化型インクジェット組成物の全量に対して、水分量が0.05質量%以上0.2質量%以下であり、前記顔料分散剤の酸価が50mgKOH/g以下であり、前記顔料分散剤のアミン価が17mgKOH/g以下であり、前記顔料分散剤の酸価とアミン価の少なくともいずれかが10mgKOH/g以上であり、
前記ラジカル重合性化合物として、ビニルエーテル基と(メタ)アクリレート基とを有するラジカル重合性化合物を含有する、
ラジカル重合型の紫外線硬化型インクジェット組成物。
【請求項2】
前記顔料分散剤のアミン価が5mgKOH/g以下である、請求項1記載のラジカル重合型の紫外線硬化型インクジェット組成物。
【請求項3】
前記顔料分散剤の酸価が12mgKOH/g以下である、請求項1又は2に記載のラジカル重合型の紫外線硬化型インクジェット組成物。
【請求項4】
前記顔料分散剤の酸価とアミン価の合計量が、15mgKOH/g以上90mgKOH/g以下である、請求項1?3のいずれか1項に記載のラジカル重合型の紫外線硬化型インクジェット組成物。
【請求項5】
前記顔料分散剤の酸価とアミン価の合計量が、34mgKOH/g以下である、請求項1?4のいずれか1項に記載のラジカル重合型の紫外線硬化型インクジェット組成物。
【請求項6】
前記ラジカル重合性化合物の含有量が、ラジカル重合型の紫外線硬化型インクジェット組成物の全量に対して、45質量%以上である、請求項1?5のいずれか1項に記載のラジカル重合型の紫外線硬化型インクジェット組成物。
【請求項7】
前記光重合開始剤としてアシルホスフィンオキサイド系化合物を含有する、請求項1?6のいずれか1項に記載のラジカル重合型の紫外線硬化型インクジェット組成物。
【請求項8】(削除)
【請求項9】
前記ビニルエーテル基と(メタ)アクリレート基とを有するラジカル重合性化合物を、前記紫外線硬化型組成物の全量に対して、10?70質量%含有する、請求項1?7のいずれか1項に記載のラジカル重合型の紫外線硬化型インクジェット組成物。
【請求項10】
前記ビニルエーテル基と(メタ)アクリレート基とを有するラジカル重合性化合物を、前記紫外線硬化型組成物の全量に対して、20質量%以下含有する、請求項1?7および9のいずれか1項に記載のラジカル重合型の紫外線硬化型インクジェット組成物。
【請求項11】
前記ビニルエーテル基と(メタ)アクリレート基とを有するラジカル重合性化合物として、下記一般式(1):
CH_(2)=CR^(1)-COOR^(2)-O-CH=CH-R^(3) ・・・(1)
(式中、R^(1)は水素原子又はメチル基であり、R^(2)は炭素数2?20の2価の有機残基であり、R^(3)は水素原子又は炭素数1?11の1価の有機残基である。)で表されるビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類を含有する、請求項1?7,9および10のいずれか1項に記載のラジカル重合型の紫外線硬化型インクジェット組成物。
【請求項12】
前記ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類がアクリル酸2-(ビニロキシエトキシ)エチルである、請求項11に記載のラジカル重合型の紫外線硬化型インクジェット組成物。
【請求項13】
請求項1?7および9?12のいずれか1項に記載のラジカル重合型の紫外線硬化型インクジェット組成物を収容した収容体。
【請求項14】
前記収容体は、酸素透過度が、23℃且つ湿度65%において、0.01cc?5.0cc・20μm/(m^(2)・day・atm)である部材からなる容器に前記ラジカル重合型の紫外線硬化型インクジェット組成物が充填されたものであるか、少なくとも前記ラジカル重合型の紫外線硬化型インクジェット組成物を充填した容器を、酸素透過度が、23℃且つ湿度65%において、0.01cc?5.0cc・20μm/(m^(2)・day・atm)である部材からなる包装体により密封したものであるか、の少なくとも何れかである、請求項13に記載の収容体。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-05-15 
出願番号 特願2014-82334(P2014-82334)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (C09D)
P 1 651・ 113- YAA (C09D)
P 1 651・ 121- YAA (C09D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 菅野 芳男  
特許庁審判長 冨士 良宏
特許庁審判官 日比野 隆治
天野 宏樹
登録日 2018-02-02 
登録番号 特許第6281391号(P6281391)
権利者 セイコーエプソン株式会社
発明の名称 紫外線硬化型インクジェット組成物及び収容体  
代理人 稲葉 良幸  
代理人 田中 克郎  
代理人 田中 克郎  
代理人 稲葉 良幸  
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