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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  G08B
審判 一部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  G08B
審判 一部申し立て 4項(134条6項)独立特許用件  G08B
審判 一部申し立て 判示事項別分類コード:857  G08B
管理番号 1353134
異議申立番号 異議2018-700781  
総通号数 236 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-08-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-09-27 
確定日 2019-05-24 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6304659号発明「防犯管理システム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6304659号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?10〕、11、12について訂正することを認める。 特許第6304659号の請求項2?7、10?12に係る特許を維持する。 特許第6304659号の請求項1に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1.手続の経緯
特許第6304659号の請求項1?12に係る特許についての出願は、平成26年9月29日に出願され、平成30年3月16日にその特許権の設定登録がされ、平成30年4月4日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について、平成30年9月27日に特許異議申立人目黒 茂により、請求項1?7,10?12に係る特許に対する特許異議の申立てがされ、当審は、平成31年1月4日付けで取消理由を通知した。これに対し、特許権者により、その指定期間内である平成31年3月5日に意見書の提出及び訂正の請求がされたものである。

なお、特許異議申立人は、特許異議申立書において特許法第120条の5第5項に係る意見書の提出を希望している。
しかしながら、本件訂正の請求における訂正事項1?5は、いずれも、訂正前の請求項1を削除することに伴って、引用する請求項の数を減らす、または、引用関係を解消する、ことを目的とするものであり、実質的な内容の変更を伴うものではない(「訂正事項1?5」は、下記第2.1を参照。)。
また、訂正事項6,7は、それぞれ訂正前の請求項11,12について、異議申立てに係る請求項ではあるが、取消理由を通知しなかった請求項である、訂正前の請求項2の発明特定事項と実質上同様の事項により限定するものであるから、実質的な判断に影響を与えるものではない(「訂正事項6,7」は、下記第2.1を参照。)。
したがって、本件訂正の請求の内容は実質的な判断に影響を与えるものではないから、特許法第120条の5第5項ただし書の特許異議申立人に意見書を提出する機会を与える必要がないと認められる特別の事情があるといえ、迅速かつ効率的な審理の観点から、特許異議申立人に意見書を提出する機会を与えることなく、以下検討する。


第2.訂正の適否について
1 訂正の内容
本件訂正の請求による訂正の内容は、以下のとおりである。
(1)請求項1?10からなる一群の請求項に係る訂正
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を削除する。
イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を独立形式に改め、「一地域内の複数の住宅各々における消費電力の測定結果を取得する取得部と、前記取得部により取得された測定結果に基づいて前記地域において防犯対策を必要とする程度である防犯必要度を決定する決定部と、前記決定部により決定された防犯必要度に応じて防犯に関する情報を出力する出力部とを備え、前記取得部が前記複数の住宅各々について取得する前記測定結果は、当該住宅における消費電力の経時的変化を示し、前記決定部は、各住宅についての前記測定結果から当該住宅における住人の生活パターンを推定し、推定した生活パターンに応じて、前記決定を行う防犯管理システム。」に訂正する。
ウ 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項5に、「請求項1?4のいずれか一項に記載の防犯管理システム。」とあるのを、「請求項2?4のいずれか一項に記載の防犯管理システム。」に訂正する。
エ 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項6に、「請求項1?4のいずれか一項に記載の防犯管理システム。」とあるのを、「請求項2?4のいずれか一項に記載の防犯管理システム。」に訂正する。
オ 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項9のうち請求項1を引用するものについて、独立形式に改め、「一地域内の複数の住宅各々における消費電力の測定結果を取得する取得部と、前記取得部により取得された測定結果に基づいて前記地域において防犯対策を必要とする程度である防犯必要度を決定する決定部と、前記決定部により決定された防犯必要度に応じて防犯に関する情報を出力する出力部とを備え、前記防犯管理システムは更に、前記地域内で過去に発生した防犯対策を要する事象を示す犯罪情報を記憶する記憶部を備え、前記出力部は、前記決定部により決定された防犯必要度と前記犯罪情報とに基づいて防犯対策を選定し、選定した防犯対策を示す防犯対策情報を出力する防犯管理システム。」に訂正する。
カ 一群の請求項について
訂正前の請求項1?10は、請求項1を直接的または間接的に引用するものであるから、一群の請求項を構成し、上記ア?オの訂正事項1?5は、当該一群の請求項に対して請求されたものである。

(2)請求項11に係る訂正
ア 訂正事項6(平成31年3月5日に提出された訂正請求書における、8/13ページ?10/13ページの(2)イ、ウにおける「訂正事項1」)
特許請求の範囲の請求項11に、「提示する提示ステップとを含む防犯管理方法。」とあるのを、「提示する提示ステップとを含み、前記取得ステップにおいて前記複数の住宅各々について取得される前記測定結果は、当該住宅における消費電力の経時的変化を示し、前記決定ステップにおいては、各住宅についての前記測定結果から当該住宅における住人の生活パターンを推定し、推定した生活パターンに応じて、前記決定を行う防犯管理方法。」に訂正する。

(3)請求項12に係る訂正
ア 訂正事項7(平成31年3月5日に提出された訂正請求書における、10/13ページ?13/13ページの(3)イ、ウにおける「訂正事項1」)
特許請求の範囲の請求項12に、「送信する送信ステップとを含む制御プログラム。」とあるのを、「送信する送信ステップとを含み、前記取得ステップにおいて前記複数の住宅各々について取得される前記測定結果は、当該住宅における消費電力の経時的変化を示し、前記決定ステップにおいては、各住宅についての前記測定結果から当該住宅における住人の生活パターンを推定し、推定した生活パターンに応じて、前記決定を行う制御プログラム。」に訂正する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否、独立特許要件について
(1)請求項1?10からなる一群の請求項に係る訂正
ア 訂正事項1
訂正事項1は、請求項1を削除するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
また、当該訂正事項1は、請求項を削除するのみのものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものであること、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは、明らかである。
イ 訂正事項2
訂正事項2は、訂正前の請求項2が訂正前の請求項1を引用する記載であったものを、独立形式に改めるものであって、「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものである。
また、当該訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものであること、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは、明らかである。
ウ 訂正事項3
訂正事項3は、訂正前の請求項5で引用する請求項の数を減少させる訂正であるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。また、請求項1との引用関係を解消する訂正であることから、「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものである。
また、当該訂正事項3は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものであること、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは、明らかである。
エ 訂正事項4
訂正事項4は、訂正前の請求項6で引用する請求項の数を減少させる訂正であるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。また、請求項1との引用関係を解消する訂正であることから、「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものである。
また、当該訂正事項4は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものであること、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは、明らかである。
オ 訂正事項5
訂正事項5は、訂正前の請求項9で引用する請求項を請求項1のみとして、その記載を独立形式に改めるものである。したがって、引用する請求項の数を減少させる訂正であるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とし、また、請求項1、あるいは請求項2?5との引用関係を解消する訂正であるから、「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とする訂正である。
また、当該訂正事項5は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものであること、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは、明らかである。
訂正事項5は、上記するように特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正を含み、訂正前の特許請求の範囲の請求項9は、本件特許異議の申立てがされていない請求項であることから、特許法第120条の5第9項で読み替えられて準用される第126条第7項の「独立して特許を受けることができるものでなければならない」との規定が課されるものである。
当該独立特許要件について検討すると、訂正事項5に係る訂正後の請求項9は、「請求項1?5のいずれか一項」を引用する、訂正前の請求項9について、請求項1のみを引用する構成を独立形式で記載するものであり、実質的に、特許異議の申立てがされていない請求項9の構成を独立形式による記載に訂正するものである。
よって、本件特許異議の申立ての理由により、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。また他に、訂正後の請求項9に係る発明が、独立特許要件を充足しないとする理由もない。

(2)請求項11に係る訂正
ア 訂正事項6
訂正事項6は、訂正前の請求項11の、「前記取得ステップにおいて取得された測定結果」について、「当該住宅における消費電力の経時的変化を示し」と限定し、さらに、「決定ステップ」について、「前記決定ステップにおいては、各住宅についての前記測定結果から当該住宅における住人の生活パターンを推定し、推定した生活パターンに応じて、前記決定を行う」と限定するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
また、上記訂正事項6は、訂正前の特許請求の範囲の請求項2、明細書の【0041】、【0044】、【0066】の記載から導き出される事項であるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものである。
そして、上記訂正事項6に係る訂正が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは、明らかである。

(3)請求項12に係る訂正
ア 訂正事項7
訂正事項7は、訂正前の請求項12の、「前記取得ステップにおいて取得された測定結果」について、「当該住宅における消費電力の経時的変化を示し」と限定し、さらに、「決定ステップ」について、「前記決定ステップにおいては、各住宅についての前記測定結果から当該住宅における住人の生活パターンを推定し、推定した生活パターンに応じて、前記決定を行う」と限定するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
また、上記訂正事項7は、訂正前の特許請求の範囲の請求項2、明細書の【0041】、【0044】、【0066】の記載から導き出される事項であるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものである。
そして、上記訂正事項7に係る訂正が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは、明らかである。

3 小活
以上のとおりであるから、本件訂正の請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項?第7項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?10〕,11,12について訂正することを認める。


第3.訂正後の本件発明
本件訂正の請求により訂正された請求項1?12に係る発明(以下、「本件発明1?12」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1?12に記載された次の事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】(削除)
【請求項2】
一地域内の複数の住宅各々における消費電力の測定結果を取得する取得部と、
前記取得部により取得された測定結果に基づいて前記地域において防犯対策を必要とする程度である防犯必要度を決定する決定部と、
前記決定部により決定された防犯必要度に応じて防犯に関する情報を出力する出力部とを備え、
前記取得部が前記複数の住宅各々について取得する前記測定結果は、当該住宅における消費電力の経時的変化を示し、
前記決定部は、各住宅についての前記測定結果から当該住宅における住人の生活パターンを推定し、推定した生活パターンに応じて、前記決定を行う
防犯管理システム。
【請求項3】
前記決定部は、所定の単位時間毎に防犯必要度の前記決定を行い、
前記出力部は、前記所定の単位時間毎の防犯必要度を示す情報を表示装置に表示させる
請求項2記載の防犯管理システム。
【請求項4】
前記決定部は、1以上の特定期間における防犯必要度の前記決定を行い、
前記出力部は、前記特定期間毎の防犯必要度を示す情報を表示する
請求項2記載の防犯管理システム。
【請求項5】
前記取得部は更に、前記地域内の住宅の分布状況を示す分布情報を取得し、
前記決定部は前記取得部により取得された分布情報にも基づいて前記決定を行う
請求項2?4のいずれか一項に記載の防犯管理システム。
【請求項6】
前記決定部は更に、前記地域内の個別の住宅において防犯対策を必要とする程度である防犯必要度を決定し、
前記出力部は、前記決定部により決定された地域及び住宅についての防犯必要度に応じて防犯に関する情報を出力する
請求項2?4のいずれか一項に記載の防犯管理システム。
【請求項7】
前記取得部は更に、前記地域内の住宅の分布状況を示す分布情報を取得し、
前記決定部は前記取得部により取得された分布情報にも基づいて住宅についての防犯必要度の前記決定を行う
請求項6記載の防犯管理システム。
【請求項8】
前記決定部は、前記地域において防犯対策を要する事象が発生した1以上の各住宅における住人の生活パターンと当該事象とに基づいて定められた、生活パターンと防犯必要度との対応関係を示す対応関係情報に基づいて、前記決定を行う
請求項2?4のいずれか一項に記載の防犯管理システム。
【請求項9】
一地域内の複数の住宅各々における消費電力の測定結果を取得する取得部と、
前記取得部により取得された測定結果に基づいて前記地域において防犯対策を必要とする程度である防犯必要度を決定する決定部と、
前記決定部により決定された防犯必要度に応じて防犯に関する情報を出力する出力部とを備え、
前記防犯管理システムは更に、前記地域内で過去に発生した防犯対策を要する事象を示す犯罪情報を記憶する記憶部を備え、
前記出力部は、前記決定部により決定された防犯必要度と前記犯罪情報とに基づいて防犯対策を選定し、選定した防犯対策を示す防犯対策情報を出力する
防犯管理システム。
【請求項10】
前記防犯管理システムは更に、前記決定部により決定された防犯必要度に応じて防犯機器を制御する機器制御部を備える
請求項2?4のいずれか一項に記載の防犯管理システム。
【請求項11】
一地域内の複数の住宅各々における消費電力の測定結果を受信することにより取得する取得ステップと、
前記取得ステップにおいて取得された測定結果に基づいて前記地域において防犯対策を必要とする程度である防犯必要度を決定する決定ステップと、
前記決定ステップにおいて決定された防犯必要度に応じて防犯に関する情報を提示する提示ステップとを含み、
前記取得ステップにおいて前記複数の住宅各々について取得される前記測定結果は、当該住宅における消費電力の経時的変化を示し、
前記決定ステップにおいては、各住宅についての前記測定結果から当該住宅における住人の生活パターンを推定し、推定した生活パターンに応じて、前記決定を行う
防犯管理方法。
【請求項12】
コンピュータに所定処理を実行させるための制御プログラムであって、
前記所定処理は、
一地域内の複数の住宅各々における消費電力の測定結果を受信することにより取得する取得ステップと、
前記取得ステップにおいて取得された測定結果に基づいて前記地域において防犯対策を必要とする程度である防犯必要度を決定する決定ステップと、
前記決定ステップにおいて決定された防犯必要度に応じて防犯に関する情報を送信する送信ステップとを含み、
前記取得ステップにおいて前記複数の住宅各々について取得される前記測定結果は、当該住宅における消費電力の経時的変化を示し、
前記決定ステップにおいては、各住宅についての前記測定結果から当該住宅における住人の生活パターンを推定し、推定した生活パターンに応じて、前記決定を行う
制御プログラム。」


第4.取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
訂正前の請求項1、5,6,7,11,12に係る特許に対して、当審が平成31年1月4日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

(1)請求項1、6に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。よって、請求項1、6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
(2)請求項5、7に係る発明は、甲第1号証に記載された発明、及び甲第7号証、甲第8号証に記載される周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。よって、請求項5、7に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
(3)請求項11に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。よって、請求項11に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
(4)請求項12に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。よって、請求項12に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。

甲第1号証:特開2007-219841号公報
甲第7号証:特開2009-266218号公報
甲第8号証:特開2008-102868号公報

2 取消理由通知に記載した取消理由についての判断
事案に鑑み、本件発明11から検討する。
(1)本件発明11について
ア 甲第1号証(特開2007-219841号公報)に記載された発明
甲第1号証には、次の事項が記載されている(下線は当審が付与。)。
(ア)「【0011】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、セキュリティサービスを提供する際の課金料金をセキュリティリスクに応じた料金設定とするべく、セキュリティリスクが定量的に評価可能なセキュリティシステムを提供することを目的とするものである。又、このように定量的に評価されたセキュリティリスクを用いたセキュリティサービス提供の際の課金料金算出方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するための本発明に係るセキュリティシステムは、監視対象内におけるユーティリティ使用量と所定の関連を有する参照値を記憶する第1記憶部と、前記ユーティリティ使用量と前記参照値とを用いて所定の演算を行うことで、前記監視対象内における人の活動状態を示す指標値を算出する指標値算出部と、前記指標値に基づいて前記監視対象に対するセキュリティリスクを評価するリスク評価部と、を備えてなることを第1の特徴とする。
【0013】
一般的に、在宅率が高い住居等の空間は、不審者侵入に対するリスク(セキュリティリスク)は低く、逆に在宅率が低い空間は、セキュリティリスクが高い。本発明システムの上記第1の特徴構成によれば、在宅率が高いと人間の生活活動の結果としてユーティリティ使用量が高くなるという傾向を利用し、監視対象内における過去のユーティリティ使用量、及び当該ユーティリティ使用量と所定の関連を有する参照値とを用いて所定の演算を行うことで得られる指標値に基づいてリスク評価部がリスク評価を行う構成であるため、リスク評価のために必要な処理は全て所定の演算処理のみで行うことが可能となり、客観的なリスク評価が可能となる。これによって、コンピュータ処理によって監視対象に対するリスク評価を行うことができる。
【0014】
尚、上記ユーティリティとしては、都市ガスの他、電力、水道、LPG、石油等を採用することが可能である。
【0015】
又、本発明に係るセキュリティシステムは、上記第1の特徴構成に加え、前記参照値が、前記監視対象内における過去のユーティリティ使用量実績値であることを第2の特徴とする。
【0016】
本発明システムの上記第2の特徴構成によれば、監視対象の過去のユーティリティ使用量実績値と直近の使用量データとの比較を行うことができる。このとき、例えば過去の使用量実績値と比較して直近の使用量データが著しく少ない場合には、直近の期間における監視対象内に所有者又は関係者が滞在していた時間が過去の比較対象期間と比較して短時間であったと結論付けることができ、即ち高リスク状態と判断することが可能となる。
【0017】
又、本発明に係るセキュリティシステムは、上記第1又は第2の特徴構成に加え、前記参照値が、前記監視対象と同一属性を示すユーティリティ使用者の標準的な過去のユーティリティ使用量実績値であることを第3の特徴とする。
【0018】
尚、前記属性としては、使用者宅家族構成(単身世帯、高齢者夫婦世帯、夫婦のみ世帯、夫婦と子供世帯等)や、延床面積、ガス利用器具種類・数(床暖房設置面積、ガスファンヒータ総出力、ガスコンロサイズ、コンロ数等)を挙げることができる。在宅人数が多くなると、人間の生活活動が増えるため、ユーティリティ使用量が増大するとともに、人目が多くなることからセキュリティリスクが低下する。このため、前記リスク評価部は、使用者宅家族構成に関する情報に基づき、家族を構成する人数が多い使用者宅は、家族を構成する人数が少ない使用者宅と比較してセキュリティリスクが低くなるように評価を行うものとして良い。
【0019】
本発明システムの第3の特徴構成によれば、監視対象と同一属性で構成される標準的なユーティリティ使用量実績値と直近の使用量データとの比較を行うことができる。このとき、例えば、標準的なユーティリティ使用量実績値と比較して直近の使用量データが著しく少ない場合には、直近の期間における監視対象内に所有者又は関係者が滞在していた時間が過去の比較対象期間と比較して短時間であったと結論付けることができ、即ち高リスク状態と判断することが可能となる。更に、監視対象内の過去の実績値と組み合わせることで、より厳密的なリスク評価を行うことが可能となる。
【0020】
又、本発明に係るセキュリティシステムは、上記第1?第3の何れか一の特徴構成に加えて、前記指標値に基づいて所定の演算を行うことで前記監視対象に対して提供するセキュリティサービスに対する課金料金を算出する課金料金算出部を備えてなることを第4の特徴とする。
【0021】
本発明システムの第4の特徴構成によれば、セキュリティサービス提供先に対する課金料金は、セキュリティリスクに応じた料金体系となるため、従来の従量課金制度よりも更に公平な料金設定が可能となる。
【0022】
又、ユーティリティ使用量に基づいてセキュリティサービスに対する課金料金を算出しているため、ユーティリティ提供会社とセキュリティサービス提供会社とが例えば互いに関連のある会社で構成されている場合には、ユーティリティ使用量に対する料金とセキュリティサービス料金とを一体的に請求することができ、料金収集業務の効率化を図ることができる。
【0023】
一方、利用者にとっても、ユーティリティ使用量が多い月は、ユーティリティ使用量に対する料金が上昇する一方で、セキュリティリスクが低下することからセキュリティサービスに対する料金が低下し、逆に、ユーティリティ使用量が少ない月は、セキュリティリスクが上昇することからセキュリティサービスに対する料金は増加するものの、ユーティリティ使用量に対する料金は低下するため、ユーティリティ使用量に対する料金とセキュリティサービス料金の合計料金で鑑みれば料金変動が平準化されるという効果がある。
【0024】
又、本発明に係るセキュリティシステムは、上記第1?第4の何れか一の特徴構成に加えて、前記監視対象内に設置されたユーティリティ使用量測定手段により所定期間毎に測定された当該監視対象における前記ユーティリティ使用量が電気通信回線を介して入力されると、当該ユーティリティ使用量の情報が前記指標値算出部から読み出し可能に格納される第2記憶部を備えることを第5の特徴とする。
【0025】
このとき、ユーティリティ使用量測定手段としては、ガスメータ、電力量計、水道メータ、石油メータ等を利用することができる。又、当該測定手段から電気通信回線を介して本発明システムに使用量に関する情報が入力される構成としても構わないし、当該測定手段によって測定された使用量に関する情報が他の電気通信端末より本発明システムに対して入力される構成としても構わない。
【0026】
又、本発明に係るセキュリティシステムは、上記第5の特徴構成に加えて、複数の前記監視対象内に設置された前記各ユーティリティ使用量測定手段により所定期間毎に測定された前記監視対象夫々における前記ユーティリティ使用量が前記電気通信回線を介して入力されると、前記各ユーティリティ使用量の情報が前記第2記憶部に格納され、前記指標値算出部が、前記監視対象毎に前記ユーティリティ使用量を前記第2記憶部から読み出して前記指標値を算出し、前記リスク評価部が、前記監視対象毎に対応する前記指標値に基づいて前記セキュリティリスクを評価することを第6の特徴とする。
【0027】
本発明システムの第6の特徴構成によれば、複数のセキュリティサービス提供先夫々に対するセキュリティリスクの評価を一のシステムによって実現することが可能である。又、参照値として同一属性の利用者による過去のユーティリティ使用量実績値を用いる場合には、例えば、第1記憶部より対応する全ての提供先の過去の実績値を読み出して平均値を算出し、この算出結果を参照値として利用することで指標値算出部が指標値を算出することができる。このため、逐次与えられる最新の実績値が第1記憶部に格納される構成とすることによって、自動的に第1記憶部に格納される情報が更新され、これによって標準的な使用量実績値を定期的に見直す必要がない。
【0028】
又、本発明に係るセキュリティシステムは、上記第6の特徴構成に加えて、前記リスク評価部より複数の前記監視対象夫々に対する前記各セキュリティリスクを読み出すとともに、読み出された複数の前記セキュリティリスクの大きさに応じて当該複数の監視対象を含む領域の警戒レベルを決定する警戒レベル決定部を備えることを第7の特徴とする。
【0029】
ここで、セキュリティリスクの大きさに応じて警戒レベルを決定する方法としては、例えば、複数の管轄エリアを統合的に監視可能なセキュリティセンターから各管轄エリアに対して個別に監視を行う際の監視時間を、予め定められた基準となるセキュリティリスクの値を超える値を示している提供先の数の割合(以下、「高リスク率」と称する)の比率で分配した時間の長さに応じて決定することや、防犯センサーが作動した場合に派遣する警備員の数を高リスク率の比率に応じて配置することや、或いは各エリアを管轄するセキュリティセンターの要員数を高リスク率の比率に応じて配置すること等が挙げられる。
【0030】
本発明の第7の特徴構成によれば、セキュリティリスクが高いと判断される領域に対して予め警戒レベルを上げる決定をしておくことで、限られた数の警備員を配置する際に、相対的にセキュリティリスクの高いエリアに重点的に配置することができるため、実際に空き巣等が発生した場合の警備員の現場への出動時間を短縮化することができ、検挙率が向上する。
【0031】
又、本発明に係る課金料金算出方法は、監視対象に対して提供するセキュリティサービスに対する課金料金をコンピュータのデータ処理により算出する課金料金算出方法であって、所定期間毎に測定された前記監視対象内におけるユーティリティ使用量の入力ステップと、予め記憶されている前記ユーティリティ使用量と所定の関連を有する参照値の導出ステップと、前記参照値を用いて所定の演算を行うことで前記監視対象内における人の活動状態を示す指標値を算出するステップと、前記指標値に基づいて所定の演算を行うことで前記課金料金を算出するステップと、を有することを特徴とする。
【0032】
本発明方法によれば、セキュリティサービスに対する課金料金をユーティリティ使用量に基づいてコンピュータ処理によって自動算出することができる。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、ユーティリティ使用量に基づいて監視対象に対するセキュリティリスクの高低を評価することができるため、客観的、且つ定量的にリスク評価が可能となる。これによって、例えばセキュリティリスクに応じたサービス提供料金の設定や、リスクに応じた警戒レベルの設定等、公平且つ安全なセキュリティサービスを提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下において、本発明に係るセキュリティシステム(以下、適宜「本発明システム」と呼称する)の各実施形態について図面を参照して説明する。
【0035】
本発明システムは、セキュリティサービス提供先のセキュリティリスクをコンピュータ演算処理によって定量的に評価することを可能にするセキュリティシステムであり、コンピュータのハードウェアとそのハードウェア上で実行されるアプリケーションソフトウェアで構成されている。ここで、リスク評価のための演算を行うに際し、セキュリティサービス提供先のユーティリティ使用量に関する情報を利用する。以下の各実施形態では、ユーティリティとして都市ガスを例に挙げて説明を行うが、都市ガスに限られず、電力、水道、LPG、石油等の他のユーティリティを用いるものとしても構わない。」

(イ)「【0068】
<第4の実施形態>
本発明システムの第4の実施形態(以下、適宜「本実施形態」と呼称する)について、図4を参照して説明する。尚、本実施形態における本発明システムは、第2の実施形態における本発明システムと比較して、更に警戒レベル決定部15を備える構成である点が異なり、他の構成要素については第2の実施形態と同一である。
【0069】
図4は、本実施形態における本発明システムの概略構成を示すブロック図である。図4に示されるように、本実施形態における本発明システム1bは、複数のセキュリティサービス提供先を含む領域の警戒レベルを決定する警戒レベル決定部15を備える。
【0070】
尚、本実施形態においては、各ガスメータ21a、21b、・・・は、所定の時間帯毎にガス使用量を計測して、電気通信回線3を介して本発明システム1に当該使用量を送信する構成とするのが好ましい。このとき、1日を24時間に分割して、毎時使用量を測定して送信するものとしても構わないし、1日を2時間以上の複数時間を1パターンとする複数パターンに分割するとともに、当該パターン毎に使用量を測定して本発明システム1に送信するものとしても構わない。以下では、毎時間毎に計測して送信するものとして説明を行う。
【0071】
本発明システム1は、複数のセキュリティサービス提供先2a、2b、・・・より毎時間毎のガス使用量実績が電気通信回線3を介して送信される。送信されたガス使用量に関する情報は、測定情報記憶部11Aに格納される。又、前日以前の時間帯別ガス使用量に関する情報は実績情報記憶部11Bに格納されている。実績情報記憶部11Bは、第2の実施形態と同様、各提供先毎に情報が格納されており、これらがデータベース形式で保持されるものとして構わない。又、実績情報記憶部11Bに格納される情報は、情報量を縮小するために所定の期間経過後に廃棄或いは圧縮処理を行うものとしても良い。
【0072】
指標値算出部12は、直近のガス使用量と、同一属性を示す使用者の標準的なガス使用量に基づいて、上述の各実施形態と同様の方法により指標値を算出する。そして、リスク評価部13が、サービス提供先毎に算出された指標値に基づく各時間帯別のリスク評価を行う。尚、この時間帯別のセキュリティリスクの結果は、実績情報記憶部11Bにおいて保持される。
【0073】
図5は、或るセキュリティサービス提供領域における時間帯別のセキュリティリスクの結果を表す一例であり、時間帯毎にリスク評価部13によって算出された結果を実績情報記憶部11Bより読み出して編集表示したものである。対象領域として、全提供先を含む領域を複数のサービス提供先を含む所定の管轄エリア毎に分割し、各管轄エリアに属するサービス提供先の総数に対する、予め定められた基準となるセキュリティリスクを超える値を示している提供先の数の割合(以下、「高リスク率」と称する)が図5において%表示されている。
【0074】
例えば、図5によれば、0時から1時の間は、地区全体で見ればX1地区に比べてX2地区の方がセキュリティリスクが高く、逆に13時から14時の間はX2地区に比べてX1地区の方がセキュリティリスクが高い。
【0075】
このように各管轄エリアごとに時間帯別の高リスク率を算出することで、エリア別時間帯別のセキュリティリスクの高低を把握することができる。
【0076】
警戒レベル決定部15は、上記図5に示したように、実績情報記憶部11Bよりリスク評価部13によって評価されたリスク評価結果を読み出すとともに、全提供先を含む領域を複数のサービス提供先を含む所定の管轄エリア毎に分割し、各管轄エリア毎に、時間帯別の高リスク率を算出する。そして、エリア別時間帯別のセキュリティリスクの高低の結果に基づいて、予め分割された時間帯毎にセキュリティリスクが高いエリアの監視レベルを強化する決定を行う。監視レベルの強化方法としては、例えば、複数の管轄エリアを統合的に監視可能なセキュリティセンターから各管轄エリアに対して個別に監視を行う際の監視時間を、高リスク率の比率で分配した時間の長さに応じて決定することや、防犯センサーが作動した場合に派遣する警備員の数を高リスク率の比率に応じて配置することや、或いは各エリアを管轄するセキュリティセンターの要員数を高リスク率の比率に応じて配置すること等が挙げられる。
【0077】
このように構成されることで、限られた数の警備員を配置する際に、相対的にセキュリティリスクの高いエリアに重点的に配置することができるため、実際に空き巣等が発生した場合の警備員の現場への出動時間を短縮化することができ、検挙率が向上する。
【0078】
尚、図5では、時間帯別の高リスク率によって警戒レベルを決定するものとしたが、例えば平日と休日とを区別することで更に細かく高リスク率を算出して、警戒レベルを決定するものとしても構わない。又、警戒レベルの決定要因は、セキュリティリスクが高レベルである割合に限定されず、例えば高レベルを示す提供先の絶対数が多い領域に対して警戒レベルを上げる判断を行うものとしても構わない。」

上記の記載事項、及び図4,5を参照すると、甲第1号証には、以下の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。
「複数のセキュリティサービス提供先より送信された電力使用量を格納するステップと、格納された電力使用量に基づいて、セキュリティサービス提供先を含む領域毎の高リスク率を算出し、算出した高リスク率に基づいて警戒レベルを決定するステップを含み、警戒レベルを決定するステップにおいて、監視時間の分配や警備員の数の配置により監視レベルの強化を行わせ、複数のセキュリティサービス提供先より送信される前記電力使用量は、毎時間毎の電力使用量である、セキュリティシステムの方法。」

イ 本件発明11と引用発明2を対比する。
(ア)引用発明2の「セキュリティサービス提供先」、「領域」、「セキュリティシステムの方法」は、それぞれ、本件発明11の「住宅」、「地域」、「防犯管理方法」に相当する。
(イ)引用発明2の「電力使用量」は、本件発明11の「消費電力の測定結果」に相当する。
(ウ)引用発明2の「格納」は、本件発明11の「取得」に相当する。また、引用発明2は、送信された電力使用量を格納することから、当該「格納」する際に、送信された電力使用量を受信していることは明らかである。
(エ)一般にリスクが高ければより防犯対策を必要とするから、リスクの大きさと防犯対策を必要とする程度は対応するものであり、引用発明2の「高リスク率」は、本件発明11の「防犯対策を必要とする程度」である「防犯必要度」に相当し、引用発明2の「高リスク率を算出」は、本件発明11の「防犯必要度を決定」することに相当する。
(オ)引用発明2の「算出した高リスク率に基づいて」決定される「警戒レベル」は、本件発明11の「防犯必要度」に応じて決定される「防犯に関する情報」に相当する。
(カ)引用発明2の「警戒レベルを決定するステップ」は、「監視時間の分配や警備員の数の配置により監視レベルの強化を行わせる」ことから、外部に対して、決定した警戒レベルを提示しているといえる。
(キ)引用発明2の「高リスク率を算出し、」「警戒レベルを決定するステップ」と、本件発明11の「防犯必要度を決定する決定ステップ」、「防犯に関する情報を提示する提示ステップ」は、個別のステップであるか否かを除き、「防犯必要度を決定し、」「防犯に関する情報を提示する決定提示ステップ」である点で一致する。

そうしてみると、本件発明11と引用発明2は、以下の点で一致し、相違する。
一致点:「一地域内の複数の住宅各々における消費電力の測定結果を受信することにより取得する取得ステップと、前記取得ステップにおいて取得された測定結果に基づいて前記地域において防犯対策を必要とする程度である防犯必要度を決定し、決定された防犯必要度に応じて防犯に関する情報を提示する決定提示ステップとを含む防犯管理方法。」

相違点1:「決定提示ステップ」について、本件発明11は、「防犯必要度を決定する決定ステップ」と「防犯に関する情報を提示する提示ステップ」からなる別のステップであるのに対し、引用発明2は、「警戒レベルを決定するステップ」において、「高リスク率の算出」と「警戒レベルを提示する」点。
相違点2:本件発明11において取得する測定結果は、「消費電力の経時的変化を示」すものであるのに対して、引用発明2において取得する測定結果は、「毎時間毎の電力使用量」であって、「経時的変化を示」すか否か明確でない点。
相違点3:本件発明11は、「前記決定ステップにおいては、各住宅についての前記測定結果から当該住宅における住人の生活パターンを推定し、推定した生活パターンに応じて、前記決定を行う」のに対して、引用発明2は、当該構成を有していない点。

ウ 各相違点について検討する。
(ア)相違点1について
1つのステップにおける処理を、複数のステップに分割することは常套手段であり、引用発明2の「警戒レベルを決定するステップ」において「高リスク率を算出」する処理と「警戒レベルを提示する」処理を、それぞれ別のステップにより実行される処理とすることは、当業者が容易になし得る事項である。
(イ)相違点2、3について
甲第4号証(特開2011-155713号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。
・「【0031】
図1に示すように、局所電力管理システム1は、電力管理装置11、及び管理対象ブロック12を含む。電力管理装置11は、局所電力管理システム1の内部に設けられた機器、蓄電手段、発電手段、給電手段等を管理する役割を担う。例えば、電力管理装置11は、各機器に対する電力の供給を許可したり、禁止したりする。また、電力管理装置11は、各機器を特定したり、各機器の正当性を確認したりするために各機器に対する認証を実施する。そして、電力管理装置11は、各機器から消費電力量等の情報を収集する。」
・「【0118】
管理対象ブロック12の消費電力パターンは、ユーザの生活パターンを反映してしまう。例えば、図18に例示した消費電力パターンは、一日を通して満遍なくピークが現れている。そのため、この消費電力パターンからユーザが一日中在宅していたことが分かる。また、午前0時前後に消費電力のピークがほぼ消滅していることから、ユーザが午前0時前後に就寝したことが分かる。一方、図19に例示した消費電力パターンは、午前7時前後、午後21時前後に大きなピークが現れているものの、その他の時間帯はほとんどピークが立っていない。この消費電力パターンは、ユーザが午前7時前後に家を出た後、午後21時近くまで家を不在にすることを示唆している。
【0119】
このように、消費電力パターンは、ユーザの生活パターンを反映したものになる。そのため、この消費電力パターンが悪意ある第三者に知られると、その第三者により消費電力パターンが悪用されてしまう。例えば、ユーザが不在にする時間帯を狙って空き巣に入られたり、ユーザが在宅している時間を狙って押し売りが訪問してきたり、就寝時を狙って強盗が入る可能性がある。
【0120】
こうした理由から、消費電力量の情報を厳重に管理するか、消費電力パターンを秘匿する仕組みを設ける必要がある。先に述べたように、電力供給者システム5から供給される電力量の情報は、電力供給者が管理する電力情報収集装置4によって収集されてしまう。そのため、少なくとも電力供給者には、管理対象ブロック12における電力消費量の時系列パターンが露呈してしまう。」

以上の記載から、甲第4号証には、次の事項が記載されていると認められる。
「収集した各機器からの消費電力パターンが、ユーザの生活パターンを反映していること」(以下、「甲4技術」という。)。

引用発明2において決定される高リスク率は、直近の使用量と標準的な使用量に基づいた指標値が、予め定められた基準となるセキュリティリスクを越える値を示している提供先の数の割合(甲第1号証【0072】?【0073】)であって、毎時間毎の電力使用量に基づいて毎時間毎に決定される値であり、セキュリティサービス提供先の生活パターンに応じて決定されるものではない。
また、引用発明2において、上記甲4技術を適用して、毎時間毎の電力使用量から提供先の住人の生活パターンを推定できるとしても、引用発明2において、セキュリティサービス提供先の住人の生活パターンに応じて高リスク率を決定することまでが、容易とはいえない。
さらに、引用発明2の「毎時間毎の電力使用量」が「消費電力の経時的変化を示」すことについても、甲第1号証、甲第4号証に記載されるものでなく、当業者に自明なことともいえない。
また、特許異議の申立てにおける証拠である、甲第2号証(特開2007-114846号公報)、甲第3号証(特開2004-295408号公報)、甲第5号証(特開2006-243990号公報)、甲第6号証(特開平10-284262号公報)、甲第7号証(特開2009-266218号公報)、甲第8号証(特開2008-102868号公報)の記載から、容易になし得るということもできない。

エ 以上のとおりであるから、本件発明11は、甲第1号証に記載された引用発明2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたということはできない。

(2)本件発明12について
ア 甲第1号証(特開2007-219841号公報)に記載された発明
甲第1号証の記載事項は、上記(1)ア(ア)、(イ)のとおりである。
当該記載事項、及び図4,5を参照すると、甲第1号証には、以下の発明(以下、「引用発明3」という。)が記載されているものと認められる。
「複数のセキュリティサービス提供先より送信された電力使用量を格納するステップと、格納された電力使用量に基づいて、セキュリティサービス提供先を含む領域毎の高リスク率を算出し、算出した高リスク率に基づいて警戒レベルを決定するステップを含み、警戒レベルを決定するステップにおいて、監視時間の分配や警備員の数の配置により監視レベルの強化を行わせ、複数のセキュリティサービス提供先より送信される前記電力使用量は、毎時間毎の電力使用量である、セキュリティシステムのプログラム。」

イ 本件発明12と引用発明3を対比する。
(ア)引用発明3の「セキュリティサービス提供先」、「領域」、「セキュリティシステムのプログラム」は、それぞれ、本件発明12の「住宅」、「地域」、「制御プログラム」に相当する。
(イ)引用発明3の「電力使用量」は、本件発明12の「消費電力の測定結果」に相当する。
(ウ)引用発明3の「格納」は、本件発明12の「取得」に相当する。また、引用発明3は、送信された電力使用量を格納することから、当該「格納」する際に、送信された電力使用量を受信していることは明らかである。
(エ)一般にリスクが高ければより防犯対策を必要とするから、リスクの大きさと防犯対策を必要とする程度は対応するものであり、引用発明3の「高リスク率」は、本件発明12の「防犯対策を必要とする程度」である「防犯必要度」に相当し、引用発明3の「高リスク率を算出」は、本件発明12の「防犯必要度を決定」することに相当する。
(オ)引用発明3の「算出した高リスク率に基づいて」決定される「警戒レベル」は、本件発明12の「防犯必要度」に応じて決定される「防犯に関する情報」に相当する。
(カ)引用発明3の「警戒レベルを決定するステップ」は、「監視時間の分配や警備員の数の配置により監視レベルの強化を行わせる」ことから、外部に対して、決定した警戒レベルを送信しているといえる。
(キ)引用発明3の「高リスク率を算出し、」「警戒レベルを決定するステップ」と、本件発明12の「防犯必要度を決定する決定ステップ」、「防犯に関する情報を送信する送信ステップ」は、個別のステップであるか否かを除き、「防犯必要度を決定し、」「防犯に関する情報を送信する決定送信ステップ」である点で一致する。

そうしてみると、本件発明12と引用発明3は、以下の点で一致し、相違する。
一致点:「コンピュータに所定処理を実行させるための制御プログラムであって、前記所定処理は、一地域内の複数の住宅各々における消費電力の測定結果を受信することにより取得する取得ステップと、前記取得ステップにおいて取得された測定結果に基づいて前記地域において防犯対策を必要とする程度である防犯必要度を決定し、決定された防犯必要度に応じて防犯に関する情報を送信する決定送信ステップとを含む制御プログラム。」

相違点1:「決定送信ステップ」について、本件発明12は、「防犯必要度を決定する決定ステップ」と「防犯に関する情報を送信する送信ステップ」からなる別のステップであるのに対し、引用発明3は、「警戒レベルを決定するステップ」において、「高リスク率の算出」と「警戒レベルを送信する」点。
相違点2:本件発明12において取得する測定結果は、「消費電力の経時的変化を示」すものであるのに対して、引用発明3において取得する測定結果は、「毎時間毎の電力使用量」であって、「経時的変化を示」すか否か明確でない点。
相違点3:本件発明12は、「前記決定ステップにおいては、各住宅についての前記測定結果から当該住宅における住人の生活パターンを推定し、推定した生活パターンに応じて、前記決定を行う」のに対して、引用発明3は、当該構成を有していない点。

ウ 各相違点について検討する。
(ア)相違点1について
1つのステップにおける処理を、複数のステップに分割することは常套手段であり、引用発明3の「警戒レベルを決定するステップ」において「高リスク率を算出」する処理と「警戒レベルを送信する」処理を、それぞれ別のステップにより実行される処理とすることは、当業者が容易になし得る事項である。
(イ)相違点2、3について
引用発明3において決定される高リスク率は、直近の使用量と標準的な使用量に基づいた指標値が、予め定められた基準となるセキュリティリスクを越える値を示している提供先の数の割合(甲第1号証【0072】?【0073】)であって、毎時間毎の電力使用量に基づいて毎時間毎に決定される値であり、セキュリティサービス提供先の生活パターンに応じて決定されるものではない。
また、引用発明3において、上記(1)ウ(イ)の甲4技術甲4技術を適用して、毎時間毎の電力使用量から提供先の住人の生活パターンを推定できるとしても、引用発明3において、セキュリティサービス提供先の住人の生活パターンに応じて高リスク率を決定することまでが、容易とはいえない。
さらに、引用発明3の「毎時間毎の電力使用量」が「消費電力の経時的変化を示」すことについても、甲第1号証、甲第4号証に記載されるものでなく、当業者に自明なことともいえない。

エ 以上のとおりであるから、本件発明12は、甲第1号証に記載された引用発明3に基いて、当業者が容易に発明をすることができたということはできない。

(3)本件発明5について
ア 甲第1号証(特開2007-219841号公報)に記載された発明
甲第1号証の記載事項は、上記(1)ア(ア)、(イ)のとおりである。
当該記載事項、及び図4,5を参照すると、甲第1号証には、以下の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。
「複数のセキュリティサービス提供先より送信された電力使用量を格納する格納部と、格納部に格納された電力使用量に基づいて、セキュリティサービス提供先を含む領域毎の高リスク率を算出し、算出した高リスク率に基づいて警戒レベルを決定し、監視時間の分配や警備員の数の配置により監視レベルの強化を行わせる警戒レベル決定部、を備え、複数のセキュリティサービス提供先より送信される前記電力使用量は、毎時間毎の電力使用量である、セキュリティシステム。」

イ 本件発明5と引用発明1を対比する。
(ア)引用発明1の「セキュリティサービス提供先」、「領域」、「セキュリティシステム」は、それぞれ、本件発明5の「住宅」、「地域」、「防犯管理システム」に相当する。
(イ)引用発明1の「電力使用量」は、本件発明5の「消費電力の測定結果」に相当する。
(ウ)引用発明1の「格納」は、本件発明5の「取得」に相当する。
(エ)一般にリスクが高ければより防犯対策を必要とするから、リスクの大きさと防犯対策を必要とする程度は対応するものであり、引用発明1の「高リスク率」は、本件発明5の「防犯対策を必要とする程度」である「防犯必要度」に相当し、引用発明1の「高リスク率を算出」は、本件発明5の「防犯必要度を決定」することに相当する。
(オ)引用発明1の「算出した高リスク率に基づいて」決定される「警戒レベル」は、本件発明5の「防犯必要度」に応じて決定される「防犯に関する情報」に相当する。
(カ)引用発明1の「警戒レベル決定部」は、「監視時間の分配や警備員の数の配置により監視レベルの強化を行わせる」ことから、外部に対して、決定した警戒レベルを出力しているといえる。
(キ)引用発明1の「高リスク率を算出」する「警戒レベル決定部」と、本件発明5の「防犯必要度を決定する決定部」、「防犯に関する情報を出力する出力部」は、個別の機能部であるか否かを除き、「防犯必要度を決定し、」「防犯に関する情報を出力する決定出力部」である点で一致する。

そうしてみると、本件発明5と引用発明1は、以下の点で一致し、相違する。
一致点:「一地域内の複数の住宅各々における消費電力の測定結果を受信することにより取得する取得部と、前記取得部により取得された測定結果に基づいて前記地域において防犯対策を必要とする程度である防犯必要度を決定し、決定された防犯必要度に応じて防犯に関する情報を出力する決定出力部とを備える防犯管理システム。」

相違点1:「決定出力部」について、本件発明5は、「防犯必要度を決定する決定部」と「防犯に関する情報を出力する出力部」からなる別の機能部であるのに対し、引用発明1は、「警戒レベル決定部」において、「高リスク率の算出」と「警戒レベルを出力する」点。
相違点2:本件発明5において取得する測定結果は、「消費電力の経時的変化を示」すものであるのに対して、引用発明1において取得する測定結果は、「毎時間毎の電力使用量」であって、「経時的変化を示」すか否か明確でない点。
相違点3:本件発明5は、「前記決定部は、各住宅についての前記測定結果から当該住宅における住人の生活パターンを推定し、推定した生活パターンに応じて、前記決定を行う」のに対して、引用発明1は、当該構成を有していない点。
相違点4:本件発明5は、「前記取得部は更に、前記地域内の住宅の分布状況を示す分布情報を取得し、前記決定部は前記取得部により取得された分布情報にも基づいて前記決定を行う」のに対して、引用発明1は、当該構成を有していない点。

ウ 各相違点について検討する。
(ア)相違点1について
1つの機能部を、複数の機能部に分割することは常套手段であり、引用発明1の「警戒レベル決定部」において「高リスク率の算出」と「警戒レベルを出力する」機能を、それぞれ別の機能部が実行することは、当業者が容易になし得る事項である。
(イ)相違点4について
先に、相違点4について検討すると、甲第7号証(段落[0001]?[0006])、甲第8号証(段落[0001]、[0019])の記載からみて、住宅における防犯の必要度が、住宅の数や近隣との関係など、住宅の分布状況の影響を受けることは、周知な事項である。
そうしてみると、引用発明1において、防犯必要度である高リスク率を算出する際に、住宅の分布状況を勘案することは、当業者が容易に想到し得る事項である。
(ウ)相違点2、3について
引用発明1において決定される高リスク率は、直近の使用量と標準的な使用量に基づいた指標値が、予め定められた基準となるセキュリティリスクを越える値を示している提供先の数の割合(甲第1号証【0072】?【0073】)であって、毎時間毎の電力使用量に基づいて毎時間毎に決定される値であり、セキュリティサービス提供先の生活パターンに応じて決定されるものではない。
また、引用発明1において、上記(1)ウ(イ)の甲4技術を適用して、毎時間毎の電力使用量から提供先の住人の生活パターンを推定できるとしても、引用発明1において、セキュリティサービス提供先の住人の生活パターンに応じて高リスク率を決定することまでが、容易とはいえない。
さらに、引用発明1の「毎時間毎の電力使用量」が「消費電力の経時的変化を示す」ことについても、甲第1号証、甲第4号証に記載されるものでなく、当業者に自明なことともいえない。

エ 以上のとおりであるから、本件発明5は、甲第1号証に記載された引用発明1、甲第7号証、甲第8号証に記載される周知な事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたということはできない。

(4)本件発明6について
ア 甲第1号証(特開2007-219841号公報)に記載された発明
甲第1号証の記載事項は、上記(1)ア(ア)、(イ)のとおりである。
また、引用発明1は、上記(3)アのとおりである。

イ 本件発明6と引用発明1を対比する。
(ア)引用発明1の「セキュリティサービス提供先」、「領域」、「セキュリティシステム」は、それぞれ、本件発明6の「住宅」、「地域」、「防犯管理システム」に相当する。
(イ)引用発明1の「電力使用量」は、本件発明6の「消費電力の測定結果」に相当する。
(ウ)引用発明1の「格納」は、本件発明6の「取得」に相当する。
(エ)一般にリスクが高ければより防犯対策を必要とするから、リスクの大きさと防犯対策を必要とする程度は対応するものであり、引用発明1の「高リスク率」は、本件発明6の「防犯対策を必要とする程度」である「防犯必要度」に相当し、引用発明1の「高リスク率を算出」は、本件発明6の「防犯必要度を決定」することに相当する。
(オ)引用発明1の「算出した高リスク率に基づいて」決定される「警戒レベル」は、本件発明6の「防犯必要度」に応じて決定される「防犯に関する情報」に相当する。
(カ)引用発明1の「警戒レベル決定部」は、「監視時間の分配や警備員の数の配置により監視レベルの強化を行わせる」ことから、外部に対して、決定した警戒レベルを出力しているといえる。
(キ)引用発明1の「高リスク率を算出」する「警戒レベル決定部」と、本件発明6の「防犯必要度を決定する決定部」、「防犯に関する情報を出力する出力部」は、個別の機能部であるか否かを除き、「防犯必要度を決定し、」「防犯に関する情報を出力する決定出力部」である点で一致する。

そうしてみると、本件発明6と引用発明1は、以下の点で一致し、相違する。
一致点:「一地域内の複数の住宅各々における消費電力の測定結果を受信することにより取得する取得部と、前記取得部により取得された測定結果に基づいて前記地域において防犯対策を必要とする程度である防犯必要度を決定し、決定された防犯必要度に応じて防犯に関する情報を出力する決定出力部とを備える防犯管理システム。」

相違点1:「決定出力部」について、本件発明6は、「防犯必要度を決定する決定部」と「防犯に関する情報を出力する出力部」からなる別の機能部であるのに対し、引用発明1は、「警戒レベル決定部」において、「高リスク率の算出」と「警戒レベルを出力する」点。
相違点2:本件発明6において取得する測定結果は、「消費電力の経時的変化を示」すものであるのに対して、引用発明1において取得する測定結果は、「毎時間毎の電力使用量」であって、「経時的変化を示」すか否か明確でない点。
相違点3:本件発明6は、「前記決定部は、各住宅についての前記測定結果から当該住宅における住人の生活パターンを推定し、推定した生活パターンに応じて、前記決定を行う」のに対して、引用発明1は、当該構成を有していない点。
相違点5:本件発明6は、「前記決定部は更に、前記地域内の個別の住宅において防犯対策を必要とする程度である防犯必要度を決定し、前記出力部は、前記決定部により決定された地域及び住宅についての防犯必要度に応じて防犯に関する情報を出力する」のに対して、引用発明1は、当該構成を有していない点。

ウ 各相違点について検討する。
(ア)相違点1について
1つの機能部を、複数の機能部に分割することは常套手段であり、引用発明1の「警戒レベル決定部」において「高リスク率の算出」と「警戒レベルを出力する」機能を、それぞれ別の機能部が実行することは、当業者が容易になし得る事項である。
(イ)相違点5について
先に、相違点5について検討する。
甲第1号証の段落[0071]?[0075]には、サービス提供先毎にリスク評価を行ったセキュリティリスクの結果から「高リスク率」を算出することが記載されている。
ここで、「サービス提供先毎にリスク評価を行ったセキュリティリスクの結果」は、「個別の住宅において防犯対策を必要とする程度である防犯必要度」であり、セキュリティリスクの結果を用いるものであるから、セキュリティリスクが決定されているといえる。
そうしてみると、引用発明1において「高リスク率に基づいて」決定される「警戒レベル」は、「個別の住宅において防犯対策を必要とする程度である防犯必要度」にも応じたものといえるから、相違点5は実質的に相違するものではない。
(ウ)相違点2、3について
引用発明1において決定される高リスク率は、直近の使用量と標準的な使用量に基づいた指標値が、予め定められた基準となるセキュリティリスクを越える値を示している提供先の数の割合(甲第1号証【0072】?【0073】)であって、毎時間毎の電力使用量に基づいて毎時間毎に決定される値であり、セキュリティサービス提供先の生活パターンに応じて決定されるものではない。
また、引用発明1において、上記(1)ウ(イ)の甲4技術を適用して、毎時間毎の電力使用量から提供先の住人の生活パターンを推定できるとしても、引用発明1において、セキュリティサービス提供先の住人の生活パターンに応じて高リスク率を決定することまでが、容易とはいえない。
さらに、引用発明1の「毎時間毎の電力使用量」が「消費電力の経時的変化を示す」ことについても、甲第1号証、甲第4号証に記載されるものでなく、当業者に自明なことともいえない。

エ 以上のとおりであるから、本件発明6は、甲第1号証に記載された引用発明1に基いて、当業者が容易に発明をすることができたということはできない。

(5)本件発明7について
ア 甲第1号証(特開2007-219841号公報)に記載された発明
甲第1号証の記載事項は、上記(1)ア(ア)、(イ)のとおりである。
また、引用発明1は、上記(3)アのとおりである。
イ 本件発明7と引用発明1を対比する。
(ア)引用発明1の「セキュリティサービス提供先」、「領域」、「セキュリティシステム」は、それぞれ、本件発明7の「住宅」、「地域」、「防犯管理システム」に相当する。
(イ)引用発明1の「電力使用量」は、本件発明7の「消費電力の測定結果」に相当する。
(ウ)引用発明1の「格納」は、本件発明7の「取得」に相当する。
(エ)一般にリスクが高ければより防犯対策を必要とするから、リスクの大きさと防犯対策を必要とする程度は対応するものであり、引用発明1の「高リスク率」は、本件発明7の「防犯対策を必要とする程度」である「防犯必要度」に相当し、引用発明1の「高リスク率を算出」は、本件発明7の「防犯必要度を決定」することに相当する。
(オ)引用発明1の「算出した高リスク率に基づいて」決定される「警戒レベル」は、本件発明7の「防犯必要度」に応じて決定される「防犯に関する情報」に相当する。
(カ)引用発明1の「警戒レベル決定部」は、「監視時間の分配や警備員の数の配置により監視レベルの強化を行わせる」ことから、外部に対して、決定した警戒レベルを出力しているといえる。
(キ)引用発明1の「高リスク率を算出」する「警戒レベル決定部」と、本件発明7の「防犯必要度を決定する決定部」、「防犯に関する情報を出力する出力部」は、個別の機能部であるか否かを除き、「防犯必要度を決定し、」「防犯に関する情報を出力する決定出力部」である点で一致する。

そうしてみると、本件発明7と引用発明1は、以下の点で一致し、相違する。
一致点:「一地域内の複数の住宅各々における消費電力の測定結果を受信することにより取得する取得部と、前記取得部により取得された測定結果に基づいて前記地域において防犯対策を必要とする程度である防犯必要度を決定し、決定された防犯必要度に応じて防犯に関する情報を出力する決定出力部とを備える防犯管理システム。」

相違点1:「決定出力部」について、本件発明7は、「防犯必要度を決定する決定部」と「防犯に関する情報を出力する出力部」からなる別の機能部であるのに対し、引用発明1は、「警戒レベル決定部」において、「高リスク率の算出」と「警戒レベルを出力する」点。
相違点2:本件発明7において取得する測定結果は、「消費電力の経時的変化を示」すものであるのに対して、引用発明1において取得する測定結果は、「毎時間毎の電力使用量」であって、「経時的変化を示」すか否か明確でない点。
相違点3:本件発明7は、「前記決定部は、各住宅についての前記測定結果から当該住宅における住人の生活パターンを推定し、推定した生活パターンに応じて、前記決定を行う」のに対して、引用発明1は、当該構成を有していない点。
相違点4:本件発明7は、「前記取得部は更に、前記地域内の住宅の分布状況を示す分布情報を取得し、前記決定部は前記取得部により取得された分布情報にも基づいて前記決定を行う」のに対して、引用発明1は、当該構成を有していない点。
相違点5:本件発明7は、「前記決定部は更に、前記地域内の個別の住宅において防犯対策を必要とする程度である防犯必要度を決定し、前記出力部は、前記決定部により決定された地域及び住宅についての防犯必要度に応じて防犯に関する情報を出力する」のに対して、引用発明1は、当該構成を有していない点。

ウ 各相違点について検討する。
(ア)相違点1について
1つの機能部を、複数の機能部に分割することは常套手段であり、引用発明1の「警戒レベル決定部」において「高リスク率の算出」と「警戒レベルを出力する」機能を、それぞれ別の機能部が実行することは、当業者が容易になし得る事項である。
(イ)相違点4について
先に、相違点4について検討すると、上記(3)ウ(イ)で記載したように、甲第7号証(段落[0001]?[0006])、甲第8号証(段落[0001]、[0019])の記載からみて、住宅における防犯の必要度が、住宅の数や近隣との関係など、住宅の分布状況の影響を受けることは、周知な事項である。
そうしてみると、引用発明1において、防犯必要度である高リスク率を算出する際に、住宅の分布状況を勘案することは、当業者が容易に想到し得る事項である。
(ウ)相違点5について
甲第1号証の段落[0071]?[0075]には、サービス提供先毎にリスク評価を行ったセキュリティリスクの結果から「高リスク率」を算出することが記載されている。
ここで、「サービス提供先毎にリスク評価を行ったセキュリティリスクの結果」は、「個別の住宅において防犯対策を必要とする程度である防犯必要度」であり、セキュリティリスクの結果を用いるものであるから、セキュリティリスクが決定されているといえる。
そうしてみると、引用発明1において「高リスク率に基づいて」決定される「警戒レベル」は、「個別の住宅において防犯対策を必要とする程度である防犯必要度」にも応じたものといえるから、相違点5は実質的に相違するものではない。
(エ)相違点2、3について
引用発明1において決定される高リスク率は、直近の使用量と標準的な使用量に基づいた指標値が、予め定められた基準となるセキュリティリスクを越える値を示している提供先の数の割合(甲第1号証【0072】?【0073】)であって、毎時間毎の電力使用量に基づいて毎時間毎に決定される値であり、セキュリティサービス提供先の生活パターンに応じて決定されるものではない。
また、引用発明1において、上記(1)ウ(イ)の甲4技術を適用して、毎時間毎の電力使用量から提供先の住人の生活パターンを推定できるとしても、引用発明1において、セキュリティサービス提供先の住人の生活パターンに応じて高リスク率を決定することまでが、容易とはいえない。
さらに、引用発明1の「毎時間毎の電力使用量」が「消費電力の経時的変化を示す」ことについても、甲第1号証、甲第4号証に記載されるものでなく、当業者に自明なことともいえない。

エ 以上のとおりであるから、本件発明7は、甲第1号証に記載された引用発明1、甲第7号証、甲第8号証に記載される周知な事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたということはできない。


第5.取消理由通知おいて採用しなかった特許異議申立理由について
特許異議申立人は、特許異議申立書において、訂正前の特許請求の範囲の請求項2?4、10、及び、請求項1以外に従属する請求項5?7に関しても、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである旨、主張し、以下の証拠を挙げるものである。
甲第1号証:特開2007-219841号公報
甲第2号証:特開2007-114846号公報
甲第3号証:特開2004-295408号公報
甲第4号証:特開2011-155713号公報
甲第5号証:特開2006-243990号公報
甲第6号証:特開平10-284262号公報
甲第7号証:特開2009-266218号公報
甲第8号証:特開2008-102868号公報

甲第1号証の記載事項は、上記第4.2(1)ア(ア)、(イ)のとおりである。
また、甲第1号証には、上記第4.2(3)アのとおり、以下の引用発明1が記載されているものと認められる。
「複数のセキュリティサービス提供先より送信された電力使用量を格納する格納部と、格納部に格納された電力使用量に基づいて、セキュリティサービス提供先を含む領域毎の高リスク率を算出し、算出した高リスク率に基づいて警戒レベルを決定し、監視時間の分配や警備員の数の配置により監視レベルの強化を行わせる警戒レベル決定部、を備え、複数のセキュリティサービス提供先より送信される前記電力使用量は、毎時間毎の電力使用量である、セキュリティシステム。」

本件発明2と引用発明1を対比すると、以下の点で一致し、相違する。
一致点:「一地域内の複数の住宅各々における消費電力の測定結果を受信することにより取得する取得部と、前記取得部により取得された測定結果に基づいて前記地域において防犯対策を必要とする程度である防犯必要度を決定し、決定された防犯必要度に応じて防犯に関する情報を出力する決定出力部とを備える防犯管理システム。」

相違点1:「決定出力部」について、本件発明2は、「防犯必要度を決定する決定部」と「防犯に関する情報を出力する出力部」からなる別の機能部であるのに対し、引用発明1は、「警戒レベル決定部」において、「高リスク率の算出」と「警戒レベルを出力する」点。
相違点2:本件発明2において取得する測定結果は、「消費電力の経時的変化を示」すものであるのに対して、引用発明1において取得する測定結果は、「毎時間毎の電力使用量」であって、「経時的変化を示」すか否か明確でない点。
相違点3:本件発明2は、「前記決定部は、各住宅についての前記測定結果から当該住宅における住人の生活パターンを推定し、推定した生活パターンに応じて、前記決定を行う」のに対して、引用発明1は、当該構成を有していない点。

各相違点について検討する。
(ア)相違点1について
1つの機能部を、複数の機能部に分割することは常套手段であり、引用発明1の「警戒レベル決定部」において「高リスク率の算出」と「警戒レベルを出力する」機能を、それぞれ別の機能部が実行することは、当業者が容易になし得る事項である。
(イ)相違点2、3について
引用発明1において決定される高リスク率は、直近の使用量と標準的な使用量に基づいた指標値が、予め定められた基準となるセキュリティリスクを越える値を示している提供先の数の割合(甲第1号証【0072】?【0073】)であって、毎時間毎の電力使用量に基づいて毎時間毎に決定される値であり、セキュリティサービス提供先の生活パターンに応じて決定されるものではない。
また、引用発明1において、甲第4号証に記載される、上記第4.2(1)ウ(イ)の甲4技術を適用して、毎時間毎の電力使用量から提供先の住人の生活パターンを推定できるとしても、引用発明1において、セキュリティサービス提供先の住人の生活パターンに応じて高リスク率を決定することまでが、容易とはいえない。
また、引用発明1の「毎時間毎の電力使用量」が「消費電力の経時的変化を示す」ことについても、甲第1号証、甲第4号証に記載されるものでなく、当業者に自明なことともいえない。
さらに、甲第2号証から甲第3号証、甲第5号証から甲第8号証においても、当該相違点2、3に関する技術は記載されていない。
以上のとおり、本件発明2は、甲第1号証から甲第8号証に基いて、当業者が容易に発明をすることができたということはできない。

また、本件発明3?4、10は、発明特定事項として本件発明2の構成をすべて含むものであるから、引用発明1と上記相違点2、3の点で相違するものであり、同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたということはできない。
本件発明5?7については、それぞれ、上記第4.2(3)?(5)のとおりである。

よって、特許異議申立人の上記主張は理由がない。


第6.むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、本件訂正の請求により訂正された訂正後の請求項2?7,10?12に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件訂正の請求により訂正された訂正後の請求項2?7,10?12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
請求項1に係る特許は、上記のとおり、訂正により削除された。これにより、特許異議申立人による特許異議の申立てについて、請求項1に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。


よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】(削除)
【請求項2】
一地域内の複数の住宅各々における消費電力の測定結果を取得する取得部と、
前記取得部により取得された測定結果に基づいて前記地域において防犯対策を必要とする程度である防犯必要度を決定する決定部と、
前記決定部により決定された防犯必要度に応じて防犯に関する情報を出力する出力部とを備え、
前記取得部が前記複数の住宅各々について取得する前記測定結果は、当該住宅における消費電力の経時的変化を示し、
前記決定部は、各住宅についての前記測定結果から当該住宅における住人の生活パターンを推定し、推定した生活パターンに応じて、前記決定を行う
防犯管理システム。
【請求項3】
前記決定部は、所定の単位時間毎に防犯必要度の前記決定を行い、
前記出力部は、前記所定の単位時間毎の防犯必要度を示す情報を表示装置に表示させる
請求項2記載の防犯管理システム。
【請求項4】
前記決定部は、1以上の特定期間における防犯必要度の前記決定を行い、
前記出力部は、前記特定期間毎の防犯必要度を示す情報を表示する
請求項2記載の防犯管理システム。
【請求項5】
前記取得部は更に、前記地域内の住宅の分布状況を示す分布情報を取得し、
前記決定部は前記取得部により取得された分布情報にも基づいて前記決定を行う
請求項2?4のいずれか一項に記載の防犯管理システム。
【請求項6】
前記決定部は更に、前記地域内の個別の住宅において防犯対策を必要とする程度である防犯必要度を決定し、
前記出力部は、前記決定部により決定された地域及び住宅についての防犯必要度に応じて防犯に関する情報を出力する
請求項2?4のいずれか一項に記載の防犯管理システム。
【請求項7】
前記取得部は更に、前記地域内の住宅の分布状況を示す分布情報を取得し、
前記決定部は前記取得部により取得された分布情報にも基づいて住宅についての防犯必要度の前記決定を行う
請求項6記載の防犯管理システム。
【請求項8】
前記決定部は、前記地域において防犯対策を要する事象が発生した1以上の各住宅における住人の生活パターンと当該事象とに基づいて定められた、生活パターンと防犯必要度との対応関係を示す対応関係情報に基づいて、前記決定を行う
請求項2?4のいずれか一項に記載の防犯管理システム。
【請求項9】
一地域内の複数の住宅各々における消費電力の測定結果を取得する取得部と、
前記取得部により取得された測定結果に基づいて前記地域において防犯対策を必要とする程度である防犯必要度を決定する決定部と、
前記決定部により決定された防犯必要度に応じて防犯に関する情報を出力する出力部とを備え、
前記防犯管理システムは更に、前記地域内で過去に発生した防犯対策を要する事象を示す犯罪情報を記憶する記憶部を備え、
前記出力部は、前記決定部により決定された防犯必要度と前記犯罪情報とに基づいて防犯対策を選定し、選定した防犯対策を示す防犯対策情報を出力する
防犯管理システム。
【請求項10】
前記防犯管理システムは更に、前記決定部により決定された防犯必要度に応じて防犯機器を制御する機器制御部を備える
請求項2?4のいずれか一項に記載の防犯管理システム。
【請求項11】
一地域内の複数の住宅各々における消費電力の測定結果を受信することにより取得する取得ステップと、
前記取得ステップにおいて取得された測定結果に基づいて前記地域において防犯対策を必要とする程度である防犯必要度を決定する決定ステップと、
前記決定ステップにおいて決定された防犯必要度に応じて防犯に関する情報を提示する提示ステップとを含み、
前記取得ステップにおいて前記複数の住宅各々について取得される前記測定結果は、当該住宅における消費電力の経時的変化を示し、
前記決定ステップにおいては、各住宅についての前記測定結果から当該住宅における住人の生活パターンを推定し、推定した生活パターンに応じて、前記決定を行う
防犯管理方法。
【請求項12】
コンピュータに所定処理を実行させるための制御プログラムであって、
前記所定処理は、
一地域内の複数の住宅各々における消費電力の測定結果を受信することにより取得する取得ステップと、
前記取得ステップにおいて取得された測定結果に基づいて前記地域において防犯対策を必要とする程度である防犯必要度を決定する決定ステップと、
前記決定ステップにおいて決定された防犯必要度に応じて防犯に関する情報を送信する送信ステップとを含み、
前記取得ステップにおいて前記複数の住宅各々について取得される前記測定結果は、当該住宅における消費電力の経時的変化を示し、
前記決定ステップにおいては、各住宅についての前記測定結果から当該住宅における住人の生活パターンを推定し、推定した生活パターンに応じて、前記決定を行う
制御プログラム。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-05-15 
出願番号 特願2014-199195(P2014-199195)
審決分類 P 1 652・ 856- YAA (G08B)
P 1 652・ 121- YAA (G08B)
P 1 652・ 857- YAA (G08B)
P 1 652・ 851- YAA (G08B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 山田 倍司  
特許庁審判長 北岡 浩
特許庁審判官 衣鳩 文彦
中野 浩昌
登録日 2018-03-16 
登録番号 特許第6304659号(P6304659)
権利者 パナソニックIPマネジメント株式会社
発明の名称 防犯管理システム  
代理人 道坂 伸一  
代理人 寺谷 英作  
代理人 新居 広守  
代理人 寺谷 英作  
代理人 道坂 伸一  
代理人 新居 広守  

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