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この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
異議2021700519 審決 特許
不服201913877 審決 特許
不服20189244 審決 特許
異議2019700446 審決 特許
異議2019700917 審決 特許

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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C12N
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C12N
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C12N
審判 全部申し立て 2項進歩性  C12N
審判 全部申し立て 発明同一  C12N
管理番号 1353136
異議申立番号 異議2017-700219  
総通号数 236 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-08-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-03-03 
確定日 2019-06-03 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5984217号発明「少量の末梢血からの人工多能性幹細胞の作製」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5984217号の明細書及び特許請求の範囲を平成31年1月15日付け訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1?15]、[16、17]及び18について訂正することを認める。 特許第5984217号の請求項1及び3?17に係る特許を維持する。 特許第5984217号の請求項2及び18に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5984217号の請求項1?18に係る特許についての出願は、平成23年6月14日(パリ条約による優先権主張 2010年6月15日米国、2010年10月1日米国)を国際出願日とする出願であって、平成28年8月12日にその特許権の設定登録がされ、平成28年9月6日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
平成29年 3月 3日付け 特許異議申立人谷口真魚(以下、「特許異
議申立人1」という。)による請求項1?
18に係る特許に対する特許異議の申立
平成29年 3月 6日付け 特許異議申立人新井誠一(以下、「特許異
議申立人2」という。)による請求項1?
18に係る特許に対する特許異議の申立
平成29年 3月 6日付け 特許異議申立人田中眞喜子(以下、「特許
異議申立人3」という。)による請求項1
?18に係る特許に対する特許異議の申立
平成29年 3月 6日付け 特許異議申立人ロンザ ウォーカーズヴィ
ル,インコーポレイテッド(以下、「特許
異議申立人4」という。)による請求項1
?18に係る特許に対する特許異議の申立
平成29年 3月 6日付け 特許異議申立人大橋直人(以下、「特許異
議申立人5」という。)による請求項1?
18に係る特許に対する特許異議の申立
平成29年 3月 6日付け 特許異議申立人矢田啓悟(以下、「特許異
議申立人6」という。)による請求項1?
18に係る特許に対する特許異議の申立
平成29年10月31日付け 取消理由通知書
平成30年 3月30日付け 特許権者による意見書及び訂正請求書
平成30年 4月27日付け 訂正拒絶理由通知書
平成30年 6月27日付け 特許権者による意見書及び手続補正書
平成30年 8月 9日付け 特許異議申立人1による意見書
平成30年 8月13日付け 特許異議申立人2による意見書
平成30年 8月13日付け 特許異議申立人3による意見書
平成30年 8月13日付け 特許異議申立人5による意見書
平成30年 8月13日付け 特許異議申立人6による意見書
平成30年10月11日付け 取消理由通知(決定の予告)
平成31年 1月15日付け 特許権者による意見書及び訂正請求書
平成31年 3月20日付け 特許異議申立人1による意見書

第2 訂正の適否
1 訂正の内容
平成31年1月15日付け訂正請求書において特許権者が請求する訂正(以下、「本件訂正」又は単に「訂正」という。)は、一群の請求項[1?15]について訂正事項1?18、一群の請求項[16、17]について訂正事項19?21、及び請求項18について訂正事項22、それぞれの訂正を求める、次のとおりのものである。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1において「造血前駆細胞を含むヒト末梢血細胞の細胞集団を提供し」と記載されているのを、「ヒト末梢血単核細胞の細胞集団から、CD34発現細胞である造血前駆細胞が濃縮された細胞集団を分離精製し」に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1において「フィーダー非依存性培養」と記載されているのを、「既知組成またはゼノフリーの細胞外マトリックスの存在下、かつ血清代替物、FGF、MEK阻害剤、GSK3阻害剤、TGF-β受容体阻害剤、及びROCK阻害剤の全てを含む培地中におけるフィーダー非依存性培養」に訂正する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1において「カセットを含む」と記載されているのを、「カセットを含み、前記ヒト末梢血単核細胞の細胞集団が、外部から加えられた顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)又は顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)で細胞が動員されていない1以上の対象由来である」に訂正する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項2を削除する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項3において「請求項1または請求項2」と記載されているのを、「請求項1」に訂正する。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項4において「請求項1から請求項3の何れか」と記載されているのを、「請求項1または3」に訂正する。

(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項5において「請求項1から請求項4の何れか」と記載されているのを、「請求項1、3及び4の何れか」に訂正する。

(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項6において「請求項1から請求項5の何れか」と記載されているのを、「請求項1及び請求項3から5の何れか」に訂正する。

(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項7において「請求項1から請求項5の何れか」と記載されているのを、「請求項1及び請求項3から5の何れか」に訂正する。

(10)訂正事項10
特許請求の範囲の請求項8において「請求項1から請求項7の何れか」と記載されているのを、「請求項1及び請求項3から7の何れか」に訂正する。

(11)訂正事項11
特許請求の範囲の請求項9において「請求項1から請求項8の何れか」と記載されているのを、「請求項1及び請求項3から8の何れか」に訂正する。

(12)訂正事項12
特許請求の範囲の請求項10において「請求項1から請求項9の何れか」と記載されているのを、「請求項1及び請求項3から9の何れか」に訂正する。

(13)訂正事項13
特許請求の範囲の請求項11において「請求項1から請求項10の何れか」と記載されているのを、「請求項1及び請求項3から10の何れか」に訂正する。

(14)訂正事項14
特許請求の範囲の請求項12において「請求項1から請求項11の何れか」と記載されているのを、「請求項1及び請求項3から11の何れか」に訂正する。

(15)訂正事項15
特許請求の範囲の請求項13において「請求項1から請求項12の何れか」と記載されているのを、「請求項12」に訂正する。

(16)訂正事項16
特許請求の範囲の請求項14において「請求項1から請求項13の何れか」と記載されているのを、「請求項12」に訂正する。

(17)訂正事項17
特許請求の範囲の請求項15において「請求項1から請求項14の何れか」と記載されているのを、「請求項1及び請求項3から14の何れか」に訂正する。

(18)訂正事項18
明細書の段落【0052】において「「末梢血細胞」は、赤血球細胞、白血球細胞及び血小板を含み、血液の循環プール内で見出される、血液の細胞成分を指す。」と記載されているのを、「「末梢血細胞」は、赤血球細胞、白血球細胞及び血小板を含む、細胞成分を指す。」に訂正する。

(19)訂正事項19
特許請求の範囲の請求項16において「体積が10mL以下である、造血前駆細胞を含む末梢血試料を提供し」と記載されているのを、「体積が10mL以下である末梢血試料から、CD34発現細胞である造血前駆細胞が濃縮された細胞集団を分離精製し」に訂正する。

(20)訂正事項20
特許請求の範囲の請求項16において「フィーダー非依存性培養」と記載されているのを、「既知組成またはゼノフリーの細胞外マトリックスの存在下、かつ血清代替物、FGF、MEK阻害剤、GSK3阻害剤、TGF-β受容体阻害剤、及びROCK阻害剤の全てを含む培地中におけるフィーダー非依存性培養」に訂正する。

(21)訂正事項21
特許請求の範囲の請求項16において「カセットを含む」と記載されているのを、「カセットを含み、前記末梢血試料が、外部から加えられた顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)又は顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)で細胞が動員されていない1以上の対象由来である」に訂正する。

(22)訂正事項22
特許請求の範囲の請求項18を削除する。

2 訂正の適否
(1)一群の請求項
訂正前の請求項2?15は、請求項1を引用するものであって、訂正事項1?3により訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、請求項[1?15]は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
また、訂正前の請求項17は、請求項16を引用するものであって、訂正事項19?21により訂正される請求項16に連動して訂正されるものであるから、請求項[16、17]は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。

(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア 訂正事項1
訂正事項1は、訂正前請求項1に記載された「造血前駆細胞」を発明の詳細な説明の段落【0068】等に記載された「CD34発現細胞」に特定し、訂正前請求項1に記載された「細胞集団を提供」することを段落【0069】、【0074】?【0077】、【0081】、【0083】、【0244】、【0246】及び【0266】等に記載された「ヒト末梢血単核細胞の細胞集団から、造血前駆細胞が濃縮された細胞集団を分離精製」することに特定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とし、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
イ 訂正事項2
訂正事項2は、訂正前請求項1に記載された「フィーダー非依存性培養」を、発明の詳細な説明の段落【0023】、【0036】、【0106】、【0121】?【0124】、【0257】、【0258】に記載された「既知組成またはゼノフリーの細胞外マトリックスの存在下、かつ血清代替物、FGF、MEK阻害剤、GSK3阻害剤、TGF-β受容体阻害剤、及びROCK阻害剤の全てを含む培地中」で行うことに特定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とし、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
ウ 訂正事項3
訂正事項3は、訂正事項1により請求項1に記載された「ヒト末梢血単核細胞の細胞集団」を、訂正前の請求項2に記載された「外部から加えられた顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)又は顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)で細胞が動員されていない1以上の対象由来である」ものに特定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とし、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
エ 訂正事項4
訂正事項4は、訂正前請求項2を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とし、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
オ 訂正事項5
訂正事項5は、訂正前請求項3が引用する請求項である「請求項1または請求項2」から訂正事項4により削除された請求項2を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とし、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
カ 訂正事項6
訂正事項6は、訂正前請求項4が引用する請求項である「請求項1から請求項3の何れか」から訂正事項4により削除された請求項2を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とし、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
キ 訂正事項7
訂正事項7は、訂正前請求項5が引用する請求項である「請求項1から請求項4の何れか」から訂正事項4により削除された請求項2を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とし、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
ク 訂正事項8
訂正事項8は、訂正前請求項6が引用する請求項である「請求項1から請求項5の何れか」から訂正事項4により削除された請求項2を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とし、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
ケ 訂正事項9
訂正事項9は、訂正前請求項7が引用する請求項である「請求項1から請求項5の何れか」から訂正事項4により削除された請求項2を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とし、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
コ 訂正事項10
訂正事項10は、訂正前請求項8が引用する請求項である「請求項1から請求項7の何れか」から訂正事項4により削除された請求項2を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とし、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
サ 訂正事項11
訂正事項11は、訂正前請求項9が引用する請求項である「請求項1から請求項8の何れか」から訂正事項4により削除された請求項2を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とし、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
シ 訂正事項12
訂正事項12は、訂正前請求項10が引用する請求項である「請求項1から請求項9の何れか」から訂正事項4により削除された請求項2を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とし、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
ス 訂正事項13
訂正事項13は、訂正前請求項11が引用する請求項である「請求項1から請求項10の何れか」から訂正事項4により削除された請求項2を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とし、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
セ 訂正事項14
訂正事項14は、訂正前請求項12が引用する請求項である「請求項1から請求項11の何れか」から訂正事項4により削除された請求項2を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とし、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
ソ 訂正事項15
訂正事項15は、訂正前請求項13が引用する請求項である「請求項1から請求項12の何れか」を「請求項12」に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とし、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
タ 訂正事項16
訂正事項16は、訂正前請求項14が引用する請求項である「請求項1から請求項13の何れか」を「請求項12」に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とし、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
チ 訂正事項17
訂正事項17は、訂正前請求項15が引用する請求項である「請求項1から請求項14の何れか」から訂正事項4により削除された請求項2を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とし、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
ツ 訂正事項18
訂正事項18は、訂正前の発明の詳細な説明の段落【0052】の「末梢血細胞」の定義を不明瞭にする「血液の循環プール内で見出される、血液の」を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とし、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
テ 訂正事項19
訂正事項19は、訂正前請求項16に記載された「末梢血試料を提供」する工程に、発明の詳細な説明の段落【0069】、【0074】?【0077】、【0083】、【0084】、【0244】、【0246】、【0266】に記載されたように、当該末梢血試料から「CD34発現細胞である造血前駆細胞が濃縮された細胞集団を分離精製」する工程を加えたものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とし、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
ト 訂正事項20
訂正事項20は、訂正前請求項16に記載された「フィーダー非依存性培養」を、発明の詳細な説明の段落【0023】、【0036】、【0106】、【0121】?【0124】、【0257】、【0258】に記載された「既知組成またはゼノフリーの細胞外マトリックスの存在下、かつ血清代替物、FGF、MEK阻害剤、GSK3阻害剤、TGF-β受容体阻害剤、及びROCK阻害剤の全てを含む培地中」で行うことに特定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とし、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
ナ 訂正事項21
訂正事項21は、訂正前請求項16に記載された「末梢血試料」を、訂正前の請求項2に記載された「外部から加えられた顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)又は顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)で細胞が動員されていない1以上の対象由来である」ものに特定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とし、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
ニ 訂正事項22
訂正事項22は、訂正前請求項18を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とし、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。したがって、訂正後の請求項[1?15]、[16、17]及び18について訂正を認める。

第3 本件訂正発明
本件特許の請求項1及び3?17に係る発明は、本件訂正特許請求の範囲の請求項1及び3?17に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。(なお、上記第2のとおり、請求項2及び18は削除された。)
「【請求項1】
a)ヒト末梢血単核細胞の細胞集団から、CD34発現細胞である造血前駆細胞が濃縮された細胞集団を分離精製し、
b)その造血前駆細胞の増殖を促進するための増殖条件下でその集団を培養し、
c)iPS再プログラミング因子を発現する1以上の発現カセットを含む1以上の染色体外で複製するエピソーム性ベクターをその増殖造血前駆細胞に導入し、
d)既知組成またはゼノフリーの細胞外マトリックスの存在下、かつ血清代替物、FGF、MEK阻害剤、GSK3阻害剤、TGF-β受容体阻害剤、及びROCK阻害剤の全てを含む培地中におけるフィーダー非依存性培養においてその造血前駆細胞を培養し、それにより造血前駆細胞からヒトiPS細胞を作製させ、
e)iPS細胞について選択する、
段階を含む、造血前駆細胞からヒトiPS細胞を作製するためのインビトロの方法であって、前記1以上の発現カセットが、1以上のポリシストロニックなカセットを含み、
前記ヒト末梢血単核細胞の細胞集団が、外部から加えられた顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)又は顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)で細胞が動員されていない1以上の対象由来である、方法。
【請求項3】
前記細胞集団が、体積約10mL以下の血液試料中に含まれる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記増殖条件が、幹細胞因子(SCF)、Flt-3リガンド(Flt3L)、トロンボポエチン(TPO)、インターロイキン3(IL-3)又はインターロイキン6(IL-6)を含む1以上のサイトカインを含む増殖培地を含む、請求項1または3に記載の方法。
【請求項5】
前記増殖条件がNotch-1リガンドを含まない、請求項1、3及び4の何れかに記載の方法。
【請求項6】
段階b)の前記増殖条件が、既知組成の細胞外マトリクスを含む、請求項1及び請求項3から5の何れかに記載の方法。
【請求項7】
段階b)の前記増殖条件がマトリクスを含まない、請求項1及び請求項3から5の何れかに記載の方法。
【請求項8】
段階b)における条件の又は段階d)の培養の酸素分圧が7%以下である、請求項1及び請求項3から7の何れかに記載の方法。
【請求項9】
前記再プログラミング因子が、Sox、Oct、Nanog、Lin-28、Klf4、C-myc(又はL-myc)、SV40ラージT抗原又はそれらの組み合わせである、請求項1及び請求項3から8の何れかに記載の方法。
【請求項10】
前記段階c)が、前記増殖段階b)の第3、4、5又は6日前後に行われる、請求項1及び請求項3から9の何れかに記載の方法。
【請求項11】
前記段階c)の増殖造血前駆細胞の出発数が、約10^(4)個から約10^(5)個である、請求項1及び請求項3から10の何れかに記載の方法。
【請求項12】
前記段階d)の培養が、既知組成の細胞外マトリクスを含む、請求項1及び請求項3から11の何れかに記載の方法。
【請求項13】
前記既知組成の細胞外マトリクスが、単一タイプの細胞外マトリクスペプチドを有する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記既知組成の細胞外マトリクスがヒトフィブロネクチン断片である、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記段階の1以上における培地が化学的に既知組成である、請求項1及び請求項3から14の何れかに記載の方法。
【請求項16】
a)体積が10mL以下である末梢血試料から、CD34発現細胞である造血前駆細胞が濃縮された細胞集団を分離精製し;
b)iPS再プログラミング因子を発現する1以上の発現カセットを含む1以上の染色体外で複製するエピソーム性ベクターをその造血前駆細胞に導入し;
c)既知組成またはゼノフリーの細胞外マトリックスの存在下、かつ血清代替物、FGF、MEK阻害剤、GSK3阻害剤、TGF-β受容体阻害剤、及びROCK阻害剤の全てを含む培地中におけるフィーダー非依存性培養においてその造血前駆細胞を培養し、それによってその末梢血試料からヒトiPS細胞を生成させる、
段階を含む、末梢血試料からヒトiPS細胞を作製するためのインビトロでの方法であって、前記1以上の発現カセットが、1以上のポリシストロニックなカセットを含み、
前記末梢血試料が、外部から加えられた顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)又は顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)で細胞が動員されていない1以上の対象由来である、方法。
【請求項17】
前記段階b)の前に前記造血前駆細胞の増殖を促進するための増殖条件下でその造血前駆細胞を培養することをさらに含む、請求項16に記載の方法。」
(以下、それぞれ「本件訂正発明1」、「本件訂正発明3」等という。)

第4 特許異議申立理由及び取消理由の概要
1 特許異議申立人1が申し立てた特許異議申立理由の概要
特許異議申立人1が訂正前請求項1?18に係る特許に対して申し立てた特許異議申立理由の概要及び主たる証拠方法は、次のとおりである。(以下、訂正前請求項1?18に係る発明を「本件発明1」等という。また、特許異議申立理由については、異議申立人番号と理由番号により「異議1理由1」等といい、証拠方法についても同様に、異議申立人番号と証拠番号により「異議1甲1」等という。)

(1)異議1理由1(異議1甲1を主引用例とする進歩性欠如)
本件発明1?18は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された刊行物である異議1甲1に記載された発明及び異議1甲4?9に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2項の規定により取り消されるべきものである。

(2)異議1理由2(異議1甲2を主引用例とする進歩性欠如)
本件発明1?18は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された刊行物である異議1甲2に記載された発明及び異議1甲4?9に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2項の規定により取り消されるべきものである。

(3)異議1理由3(異議1甲3を主引用例とする進歩性欠如)
本件発明1?18は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された刊行物である異議1甲3に記載された発明及び異議1甲4?9に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2項の規定により取り消されるべきものである。

(4)異議1理由4(実施可能要件違反)
本件特許は、発明の詳細な説明の記載が下記ア?ウの点で当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものということができないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第2項の規定により取り消されるべきものである。
ア 請求項1及び17の「造血前駆細胞の増殖を促進するための増殖条件」の点。
イ 請求項3の「体積約10mL以下の血液試料」及び請求項16の「体積が10mL以下である、造血前駆細胞を含む末梢血試料」の点。
ウ 請求項18の「フィーダー非依存性細胞外マトリクス」の点。

(5)異議1理由5(サポート要件違反)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記アの点で発明の詳細な説明に記載したものということができないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第2項の規定により取り消されるべきものである。
ア 請求項16の「体積が10mL以下である、造血前駆細胞を含む末梢血試料」の点。

(6)異議1理由6(明確性要件違反)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記ア?ウの点で明確でないから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第2項の規定により取り消されるべきものである。
ア 請求項1及び17の「造血前駆細胞の増殖を促進するための増殖条件」の点。
イ 請求項13及び14の「前記既知組成の細胞外マトリクス」の点。
ウ 請求項18の「フィーダー非依存性細胞外マトリクス」の点。

(7)主たる証拠方法
異議1甲1:国際公開第2009/148057号
異議1甲2:Blood, vol.113, pp.5476-5479 (2009)及びその補充データ(http://www.bloodjournal.org/content/113/22/5476/tab-figures-only)
異議1甲3:Blood, vol.114, pp.5473-5480 (2009)
異議1甲4:国際公開第2009/149233号
異議1甲5:Science, vol.324, pp.797-801 (2009)
異議1甲6:Int.J.Dev.Biol.,vol.54, pp.877-886 (2010) Epub 2009 Oct.2
異議1甲7:国際公開第2008/118820号
異議1甲8:Nature Biotech., vol.28, pp.611-615 (2010) Epub 2010 May 30
異議1甲9:FEBS Letters, vol.441, pp.39-42 (1998)

2 特許異議申立人2が申し立てた特許異議申立理由の概要
特許異議申立人2が訂正前請求項1?18に係る特許に対して申し立てた特許異議申立理由の概要及び主たる証拠方法は、次のとおりである。

(1)異議2理由1(異議2甲1を引用例とする新規性欠如)
本件発明1?18は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された刊行物である異議2甲1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2項の規定により取り消されるべきものである。

(2)異議2理由2(異議2甲2を引用例とする新規性欠如)
本件発明1?12、15?18は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された刊行物である異議2甲2に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2項の規定により取り消されるべきものである。

(3)異議2理由3(異議2甲1を主引用例とする進歩性欠如)
本件発明1?18は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された刊行物である異議2甲1に記載された発明及び異議2甲2?5、13、14に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2項の規定により取り消されるべきものである。

(4)異議2理由4(異議2甲6を主引用例とする進歩性欠如)
本件発明1?18は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された刊行物である異議2甲6に記載された発明及び異議2甲7?14に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2項の規定により取り消されるべきものである。

(5)異議2理由5(実施可能要件違反及びサポート要件違反)
本件特許は、発明の詳細な説明の記載が下記ア?ウの点で当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものということができず、特許請求の範囲の記載が下記の点で発明の詳細な説明に記載したものということができないから、特許法第36条第4項第1号及び第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第2項の規定により取り消されるべきものである。
ア 請求項1?18の「フィーダー非依存性培養」の点。
イ 請求項1?18の「造血前駆細胞」の点。
ウ 請求項1?18の「造血前駆細胞の増殖を促進するための増殖条件」の点。

(6)主たる証拠方法
異議2甲1:国際公開第2010/141801号
異議2甲2:国際公開第2011/032166号
異議2甲3:PLoS ONE, vol.6, pp.e17557 (2011)
異議2甲4:国際公開第2011/016588号
異議2甲5:Cell Res., vol.21, pp.518-529 (2011)
異議2甲6:国際公開第2009/148057号
異議2甲7:国際公開第2010/048567号
異議2甲8:Science, vol.324, pp.797-801 (2009)
異議2甲9:米国特許公開第2009/203545号公報
異議2甲10:Stem Cells Dev., vol.20, pp.159-168 (2011)
異議2甲11:国際公開第2010/013845号
異議2甲12:Blood, vol.113, pp.5476-5479 (2009)
異議2甲13:生化学,第81巻第5号,第349頁(2009)
異議2甲14:特許第3351471号公報
異議2甲15:Stem Cells Dev., vol.19, pp.229-238 (2010)

3 特許異議申立人3が申し立てた特許異議申立理由の概要
特許異議申立人3が訂正前請求項1?18に係る特許に対して申し立てた特許異議申立理由の概要及び主たる証拠方法は、次のとおりである。

(1)異議3理由1(異議3甲1を主引用例とする進歩性欠如)
本件発明1?18は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された刊行物である異議3甲1に記載された発明及び異議3甲2又は4に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2項の規定により取り消されるべきものである。

(2)異議3理由2(異議3甲28に基づく拡大先願)
本件発明1?18は、その出願の日前の特許出願であって、その出願後に出願公開がされた特願2012-523493号(公表公報は、異議3甲28)の願書に最初に添付された明細書又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2項の規定により取り消されるべきものである。

(3)異議3理由3(実施可能要件違反及びサポート要件違反)
本件特許は、発明の詳細な説明の記載が下記ア及びイの点で当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものということができず、特許請求の範囲の記載が下記の点で発明の詳細な説明に記載したものということができないから、特許法第36条第4項第1号及び第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第2項の規定により取り消されるべきものである。
ア 請求項1?18の「造血前駆細胞」の点。
イ 請求項1?18の「フィーダー非依存性培養」の点。

(4)異議3理由4(明確性要件違反)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記アの点で明確でないから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第2項の規定により取り消されるべきものである。
ア 請求項13及び14の「前記既知組成の細胞外マトリクス」の点。

(5)主たる証拠方法
異議3甲1:国際公開第2009/148057号
異議3甲2:Science, vol.324, pp.797-801 (2009)及びSupporting Online Material
異議3甲4:国際公開第2010/048567号
異議3甲28:特表2013-501505号公報

4 特許異議申立人4が申し立てた特許異議申立理由の概要
特許異議申立人4が訂正前請求項1?18に係る特許に対して申し立てた特許異議申立理由の概要及び主たる証拠方法は、次のとおりである。

(1)異議4理由1(異議4甲1を引用例とする新規性欠如)
本件発明1、6、9、12?15、18は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された刊行物である異議4甲1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2項の規定により取り消されるべきものである。

(2)異議4理由2(異議4甲2を引用例とする新規性欠如)
本件発明1?4、6、9、10、12、14、16?18は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された刊行物である異議4甲2に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2項の規定により取り消されるべきものである。

(3)異議4理由3(異議4甲1を主引用例とする進歩性欠如)
本件発明1?18は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された刊行物である異議4甲1に記載された発明及び異議4甲2?6に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2項の規定により取り消されるべきものである。

(4)異議4理由4(異議4甲2を主引用例とする進歩性欠如)
本件発明1?18は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された刊行物である異議4甲2に記載された発明及び異議4甲1、3?6に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2項の規定により取り消されるべきものである。

(5)主たる証拠方法
異議4甲1:国際公開第2011/056971号
異議4甲2:国際公開第2010/141801号
異議4甲3:国際公開第2011/016588号
異議4甲4:国際公開第2011/032166号
異議4甲5:Cell Res. Vol.21, pp.518-529 (2011)
異議4甲6:PLoS ONE, vol.6, pp.e17557 (2011)

5 特許異議申立人5が申し立てた特許異議申立理由の概要
特許異議申立人5が訂正前請求項1?18に係る特許に対して申し立てた特許異議申立理由の概要及び主たる証拠方法は、次のとおりである。

(1)異議5理由1(異議5甲1を主引用例とする進歩性欠如)
本件発明1?18は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された刊行物である異議5甲1に記載された発明及び異議5甲4、5、8に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2項の規定により取り消されるべきものである。

(2)異議5理由2(異議5甲2を主引用例とする進歩性欠如)
本件発明1?18は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された刊行物である異議5甲2に記載された発明及び異議5甲4、5、8に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2項の規定により取り消されるべきものである。

(3)異議5理由3(異議5甲3を主引用例とする進歩性欠如)
本件発明1?18は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された刊行物である異議5甲3に記載された発明及び異議5甲4、5、8に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2項の規定により取り消されるべきものである。

(4)異議5理由4(実施可能要件違反及びサポート要件違反)
本件特許は、発明の詳細な説明の記載が下記ア?エの点で当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものということができず、特許請求の範囲の記載が下記の点で発明の詳細な説明に記載したものということができないから、特許法第36条第4項第1号及び第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第2項の規定により取り消されるべきものである。
ア 請求項1?18の「フィーダー非依存性培養」の点。
イ 請求項1?18の「造血前駆細胞」の点。
ウ 請求項1?18の投入細胞数の点。
エ 請求項1?18の「再プログラミング因子」の点。

(5)異議5理由5(明確性要件違反)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で明確でないから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第2項の規定により取り消されるべきものである。
ア 請求項1?15、18の「末梢血細胞」の点。
イ 請求項1?18の「造血前駆細胞」の点。
ウ 請求項10の「第3、4、5又は6日前後」の点。

(6)主たる証拠方法
異議5甲1:国際公開第2009/148057号
異議5甲2:Blood, vol.113, pp.5476-5479 (2009)
異議5甲3:Cell Stem Cell, vol.5, pp.353-357 (2009)
異議5甲4:Science, vol.324, pp.797-801 (2009)
異議5甲5:Int.J.Dev.Biol., vol.54, pp.877-886 (2010)
異議5甲8:Cell Stem Cell, vol.5, pp.434-441 (2009)

6 特許異議申立人6が申し立てた特許異議申立理由の概要
特許異議申立人6が訂正前請求項1?18に係る特許に対して申し立てた特許異議申立理由の概要及び主たる証拠方法は、次のとおりである。

(1)異議6理由1(異議6甲1を引用例とする新規性欠如)
本件発明1?10、12?18は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された刊行物である異議6甲1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2項の規定により取り消されるべきものである。

(2)異議6理由2(異議6甲1を主引用例とする進歩性欠如)
本件発明1?18は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された刊行物である異議6甲1に記載された発明及び異議6甲2?7、13?15に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2項の規定により取り消されるべきものである。

(3)異議6理由3(異議6甲1に基づく拡大先願)
本件発明1?10、12?18は、その出願の日前の特許出願であって、その出願後に出願公開がされた特願2012-523493号(公表公報は、異議6甲1)の願書に最初に添付された明細書又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2項の規定により取り消されるべきものである。

(4)異議6理由4(実施可能要件違反及びサポート要件違反)
本件特許は、発明の詳細な説明の記載が下記ア?ウの点で当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものということができず、特許請求の範囲の記載が下記の点で発明の詳細な説明に記載したものということができないから、特許法第36条第4項第1号及び第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第2項の規定により取り消されるべきものである。
ア 請求項1?18の「造血前駆細胞」の点。
イ 請求項1?18の「再プログラミング因子」の点。
ウ 請求項1?18の「フィーダー非依存性培養」の点。

(5)主たる証拠方法
異議6甲1:特表2013-501505号公報
異議6甲2:国際公開第1997/33592号
異議6甲3:日本造血細胞移植学会、日本輸血・細胞治療学会「造血細胞移植 同種末梢血幹細胞移植のための健常人ドナーからの末梢血幹細胞動員・採取に関するガイドライン(改訂第4版)」(2010年6月30日)
異議6甲4:Cell Stem Cell, vol.7, pp.11-14 (2010)
異議6甲5:日産婦誌,第53巻第9号,N305-N309(2001年9月)
異議6甲6:Blood, vol.91, pp.3263-3272 (1998)
異議6甲7:タカラバイオ株式会社「ヒトiPS細胞作製用試薬を新発売」(平成21年3月3日)
異議6甲13:国際公開第2009/148057号
異議6甲14:Blood, vol.75, pp.1941-1946 (1990)
異議6甲15:STEMCELL TECHNOLOGIES "Frequencies of Cell Types in Human Peripheral Blood"

7 当審が平成29年10月31日付け取消理由通知で通知した取消理由の概要
当審が、訂正前請求項1?18に係る特許に対して平成29年10月31日付け取消理由通知で通知した取消理由の概要は、次のとおりである。

(1)取消理由1(引用文献1を主引用例とする進歩性欠如/異議1理由1、異議2理由4、異議3理由1、異議5理由1に対応)
本件発明1?18は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された刊行物である引用文献1に記載された発明、引用文献4?7に記載された発明及び技術常識に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2項の規定により取り消されるべきものである。

(2)取消理由2(引用文献2を主引用例とする進歩性欠如/異議1理由2、異議5理由2に対応)
本件発明1?18は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された刊行物である引用文献2に記載された発明、引用文献4?7に記載された発明及び技術常識に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2項の規定により取り消されるべきものである。

(3)取消理由3(引用文献3を主引用例とする進歩性欠如/異議1理由3に対応)
本件発明1?18は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された刊行物である引用文献3に記載された発明、引用文献4?7に記載された発明及び技術常識に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2項の規定により取り消されるべきものである。

(4)取消理由4(実施可能要件違反及びサポート要件違反)
本件特許は、発明の詳細な説明の記載が下記ア及びイの点で当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものということができず、特許請求の範囲の記載が下記の点で発明の詳細な説明に記載したものということができないから、特許法第36条第4項第1号及び第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第2項の規定により取り消されるべきものである。
ア 請求項1?18の「造血前駆細胞」の点。(異議2理由5イ、異議3理由3ア、異議5理由4イ、異議6理由4アに対応)
イ 請求項1?18の「フィーダー非依存性培養」の点。(異議2理由5ア、異議3理由3イ、異議5理由4ア、異議6理由4ウに対応)

(5)取消理由5(明確性要件違反)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記ア?ウの点で明確でないから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第2項の規定により取り消されるべきものである。
ア 請求項1?15、18の「末梢血細胞」及び請求項16、17の「末梢血試料」の点。(異議5理由5アに対応)
イ 請求項13及び14の「前記既知組成の細胞外マトリクス」の点。(異議1理由6イ、異議3理由4アに対応)
ウ 請求項18の「フィーダー非依存性細胞外マトリクス」の点。(異議1理由6ウに対応)

(6)引用文献
引用文献1:国際公開第2009/148057号(異議1甲1、異議2甲6、異議3甲1、異議5甲1)
引用文献2:Blood, vol.113, pp.5476-5479 (2009)及びその補充データ(http://www.bloodjournal.org/content/113/22/5476/tab-figures-only)(異議1甲2、異議5甲2)
引用文献3:Blood, vol.114, pp.5473-5480 (2009)(異議1甲3)
引用文献4:国際公開第2009/149233号(異議1甲4、異議3甲6のファミリー)
引用文献5:国際公開第2010/048567号(異議2甲7)
引用文献6:Science, vol.324, pp.797-801 (2009)(異議1甲5、異議2甲8、異議3甲2、異議5甲4、異議6甲16)
引用文献7:Int.J.Dev.Biol., vol.54, pp.877-886 (2010)(ePub.2009.10.2)(異議1甲6、異議5甲5)

8 当審が平成30年10月11日付け取消理由通知(決定の予告)で通知した取消理由の概要
当審が、平成30年6月27日付け手続補正書により補正された平成30年3月30日付け訂正請求書により訂正された請求項1?17に係る特許に対して平成30年10月11日付け取消理由通知(決定の予告)で通知した取消理由の概要は、次のとおりである。なお、請求項18は、上記訂正請求により削除された。

(1) 取消理由1(引用文献1を主引用例とする進歩性欠如)
上記7(1)と同趣旨である。

(2)取消理由2(引用文献2を主引用例とする進歩性欠如)
上記7(2)と同趣旨である。

(3)取消理由3(引用文献3を主引用例とする進歩性欠如)
上記7(3)と同趣旨である。

(4)取消理由4(実施可能要件違反及びサポート要件違反)
上記7(4)イと同趣旨である。

第5 当審の判断
1 引用文献の記載事項
(1)引用文献1(国際公開第2009/148057号)
本件第1優先日前に頒布された刊行物である引用文献1は、「血球細胞の初期化法」の発明を開示する国際公開公報であって、次の事項が記載されている。
ア 請求の範囲
「[請求項1] 体細胞から多能性幹細胞を製造する方法であって、
(a)体細胞を、
(i)IL-6シグナル伝達因子刺激因子もしくはこれと同等の活性を示す物質、
(ii)SCFもしくはこれと同等の活性を示す物質、
(iii)TPOもしくはこれと同等の活性を示す物質、
(iv)IL-3もしくはこれと同等の活性を示す物質、および
(v)Flt-3リガンドもしくはこれと同等の活性を示す物質 から選択される少なくとも2種のサイトカイン類を含む細胞培養培地中で培養する工程、ならびに
(b)体細胞を脱分化させる工程
を含んでなり、工程(a)の後に工程(b)が行われるか、または工程(a)と工程(b)が同時に行われるか、または工程(a)と工程(b)が同時に行われた後に工程(a)が行われる、方法。」
「[請求項8] 工程(b)における体細胞の脱分化が、該体細胞の核初期化処理によって行われる、請求項1に記載の方法。」
「[請求項9] 体細胞の核初期化処理が、Octファミリー遺伝子、Klfファミリー遺伝子、Soxファミリー遺伝子、およびMycファミリー遺伝子からなる群から選択される少なくとも1種の遺伝子を、発現可能な形で体細胞に導入することを含む、請求項8に記載の方法。」
イ 発明の分野
「[0002] 本発明は、分化した体細胞、特に血球系細胞を初期化または脱分化することにより多能性幹細胞を製造するための方法およびキットに関する。」
ウ 発明の概要
「[0010] 本発明者らは、IL-6シグナル伝達因子(IL6ST)刺激因子とサイトカインカクテルとの存在下での培養と、細胞の脱分化とを組み合わせることにより、体細胞から多能性幹細胞を効率的に樹立できることを見出した。」
エ 発明の具体的説明
「[0047] 培養に用いるフィーダー細胞としては、マウス胚性線維芽細胞(MEF)、SNL細胞(A.P.McMahon and A.Bradley, Cell, 62, pp-1073-1085, 1990)、STO細胞などを用いることができる。フィーダー細胞の増殖を抑える方法としては、マイトマイシンC処理や放射線照射などの方法を用いることができる。また、フィーダー細胞に替えて、BDマトリゲル(BDバイオサイエンス社)などのマトリゲル、あるいはコラーゲン、ラミニン、フィブロネクチンなどの細胞外マトリックス蛋白質、あるいはゼラチンなどにより培養基材をコーティングする方法を用いることもできる。」
「[0055] さらに、核初期化因子としては、Lin28遺伝子、Nanog遺伝子、UTF1遺伝子、Esrr遺伝子ファミリーを使用することもできる。」
「[0062] 本発明の好ましい実施態様によれば、前記体細胞は血球細胞とされる。・・・さらに、本明細書において、血液(特に末梢血)由来の単核球細胞を用いることにより、同様に多能性幹細胞を樹立できることが見出されている。よって、本発明の好ましい実施態様によれば、前記血球細胞は血液(特に末梢血)由来単核球細胞とされる。」
「[0064] 本発明の他の好ましい実施態様によれば、前記体細胞(特に血球細胞)は、IL6STを発現する細胞とされる。具体的には、IL6STはいずれの血球細胞においても発現しているが、中でも発現の高いT細胞、単球(Monocyte)、DC細胞、CD34陽性細胞などを用いることが考えられる。」
「[0073] 本発明に従って製造された多能性幹細胞は、各種分化細胞に誘導することが可能であるため、細胞再生医療に利用することができる。」
オ 実施例
「[0076] 例1:ヒト骨髄由来単核球細胞からの多能性細胞の誘導(1)
A.ヒト骨髄由来単核球細胞の培養
凍結保存されたヒト骨髄由来単核球細胞(hBMMNCs)2.5×10^(6)細胞(Allcells社)を100mmペトリディッシュ2枚に播種し、37℃、5% CO_(2) 下、10%FBS入りDMEM培地で培養を開始した。一方のディッシュには、ヒトSCF(100ng/ml)、ヒトTPO(100ng/ml)、およびヒトIL-3(100ng/ml)を添加し、他方のディッシュにはSCF、TPOおよびIL-3に加えてFP6(20ng/ml)を添加した。ここで、SCF、TPOおよびIL-3からなるサイトカインカクテルを「ST3」と呼び、ST3にFP6を加えたカクテルを「ST3FP6」と呼ぶ(以下同様)。培養開始24時間後に、それぞれのディッシュにそれぞれのサイトカインカクテルを同濃度で再び添加した。培養開始48時間後にそれぞれの細胞を回収し、10%FBS入りDMEM培地500μlで懸濁した。ST3存在下で培養した細胞懸濁液にはST3を各300ng/mlの濃度で添加し、ST3FP6存在下で培養した細胞懸濁液には、ST3(各300ng/ml)に加えてFP6を60ng/mlの濃度で添加した。調製したhBMMNCsを次のウィルス感染実験に用いた。
[0077] B.核初期化遺伝子を含む組換えレトロウィルスベクターの作製
・・・用いた核初期化遺伝子は、ヒトOct3/4、ヒトSox2、ヒトKlf4、およびヒトc-mycの4種類であった。核初期化遺伝子発現レトロウィルスベクター:pMXshOct3/4、pMXshSox2、pMXshKlf4、およびpMXshc-mycの構築は、山中らの方法に従って行った(K. Takahashi, S. Yamanaka, Cell, 131, pp.861-872, 2007)。・・・
[0078] C.ヒト骨髄由来単核球細胞のウィルス感染処理
[0079] ・・・ウィルス感染開始から約48時間後にトリプシンEDTA液(GIBCO社)で各ウェルの細胞を回収し、予め5×10^(5)個/ディッシュのマウス胚性線維芽細胞をフィーダー細胞としたゼラチンコート100mmディッシュに10%FBS入りDMEM培地を用いて細胞を播き直した。それぞれのディッシュにはサイトカインを再び添加した。さらに、約24時間後および約72時間後に、サイトカイン入りの10%FBS入りDMEM培地で培地交換を実施した。その後、ウィルス感染開始から6日後からは、ST3またはST3FP6を含まないヒトES細胞培養用の培地に交換した。用いた培地の組成は、DMEM-F12培地(SIGMA社)500ml、非必須アミノ酸液(SIGMA社)5ml、200mM L-Glutamine(SIGMA社)6.25ml、KNOCKOUT^(TM) Serum Replacement(KSR)(Invitorgen社)125ml、2-メルカプトエタノール(SIGMA社)5μl、5N NaOH 638μl、Human bFGF(UBI社)終濃度5ng/mlであった。
[0080] その後、毎日培地交換を実施した。ウィルス感染開始から10日後には、両方のディッシュでいくつかのコロニーを確認した(図1B)。・・・以上より、ST3FP6存在下で培養したhBMMNCsを用いた場合、多能性幹細胞の出現時期、細胞数において、ST3存在下で培養したhBMMNCsを用いた場合を顕著に上回っていることが明らかとなった。」
「[0119] 例11:ヒト末梢血由来単核球細胞からの多能性細胞の誘導
凍結保存されたヒト末梢血由来単核球細胞(hPBMNCs)(Allcells社)に対して、例1および例2と同様にウイルス感染前の前培養を実施した。その際添加したサイトカインは表5に記載し、サイトカインの組合せおよび各濃度は例1のST3、ST3FP、例4のGM培養系、TB培養系あるいはGM培養系からFP6を除いたGM-FP培養系を用いた。DNAメチル化阻害剤である5-Azacytidine 500nM(5AzaC)を添加した場合も表5に記載した。核初期化遺伝子発現レトロウイルスの調製および感染方法は例1、例2と同様に実施した。但し、感染前培養時のhPBMNCsの細胞数および感染時の細胞数については表5に記載の通りとした。ウイルス感染後の培養は、例1、例2と同様に実施し、いずれの誘導もウイルス感染開始6日後からはいずれのサイトカインも含まないヒトES細胞培養用の培地に交換し、以後毎日培地交換を実施した。ウイルス感染開始から20日後頃までに出現、ピックアップしたES細胞様コロニー数を表5に示す。ウイルス感染効率は例3と同様に評価し、感染2日後のウイルス感染細胞の割合を表5に示した。解析の結果、ST3FP存在下での培養を組み合わせることで、高い頻度かつ短期間に多能性幹細胞が誘導できることが明らかとなった。ただし、ST3FPを含む場合でもTB培養系のような組合せでは逆に多能性幹細胞が誘導されにくくなることも判明した。
[0120] 本実験の結果取得した多能性幹細胞クローンあるいはサブクローンについて、幹細胞特異的遺伝子のmRNAの発現を例6と同様にRT-PCR法を用いて解析した(図17)。但し、例6と異なるPCR用プライマーは桜田らの報告(H. Masaki et al., Stem Cell Res., 1, pp.105-115, 2008)を参照し、各プライマーの塩基配列を表6に示す。各PCR反応は各遺伝子についてフォワード(Fw)プライマーとリバース(Rv)プライマーとの組合せを用いて実施した。また、アニーリング温度については、Oct3/4、Sox2、Klf4、c-myc、Nanog、hTERTについては65℃、TDGF、Dnmt3b、FoxD3、CYP26A1については60℃でPCR反応を実施した。解析の結果、多くのクローン、サブクローンで幹細胞マーカー遺伝子が発現していることを確認した。」

(2)引用文献2(Blood, vol.113, pp.5476-5479 (2009)及びその補充データ(http://www.bloodjournal.org/content/113/22/5476/tab-figures-only))
本件第1優先日前に頒布された刊行物である引用文献2は、「ヒト血液からの人工多能性幹細胞の樹立」と題する学術論文であって、次の事項が記載されている。(なお、英語で記載されているので、当審による翻訳文で示す。)
ア 要約
「ここに、私たちは、OCT4/SOX2/KLF4/MYCのレトロウイルスによる導入法を用いて、動員されたヒト末梢血のCD34発現細胞から人工多能性幹細胞を作製したことを記載する。」(第5476頁要約左欄第5行?中欄第1行)
イ 方法
「簡潔にいえば、Allcells(エメリービル、CA)から入手した動員された末梢血細胞は、26才の男性ドナーから得られたもので、CD34発現細胞(mPB014F)が単離された。」(第5476頁右欄第1?6行)
ウ 結果と考察
「形質導入の3日後、細胞を回収し、フィーダーMEF細胞上に播種した(図1A)。10ng/mLの塩基性線維芽細胞増殖因子を補充したヒトES細胞培地を5日目に添加した(図1A)。私たちは、形質導入の約14日後に初めてコロニーを検出した。ほとんどがヒトES細胞特性を有さない顆粒化細胞クラスターに発達したが(図1C)、一方で、他の細胞はヒトES細胞に特徴的な明瞭な丸いエッジを有する、明らかに平坦でコンパクトな形態を示した(図1D)。3回の独立した実験で、常に、5×10^(4)個のCD34発現細胞から約5-10個のヒトES細胞様コロニーが観察された。レトロウイルス導入遺伝子はGfpマーカーを有しているため、導入細胞は当初GFP陽性であったが、以前記載されたとおり、私たちは再プログラムに成功したコロニーにおいてはGFPが消えるのを観察した(図S2)。私たちは8つの独立したGFP陰性コロニーを選択して増殖し、CD34iPS1およびCD34iPS2という2系統について十分に特徴付けをした。」(第5477頁左欄第1行?右欄第4行)
「動員した末梢血は、造血移植、免疫治療及び遺伝子治療のための細胞の主要な供給源である。私たちの研究は、iPS細胞作製における、動員された末梢血の新たな応用について述べている。」(第5478頁右欄第17?20行)
エ 補充データ
「動員された末梢血CD34発現細胞(AllCells、mPB014F)は、15%ウシ胎児血清(StemCell Technologies)を含み、ヒトSCF(100ng/ml)、ヒトFlt3L(100ng/ml)およびインターロイキンー3(20ng/ml)(Peprotech)を添加したIMDM(Invitrogen)中で維持した。4日間の培養で増殖されたCD34発現細胞がレトロウイルス導入に用いられた。」(補充データの「細胞培養」の第1?4行)
「ヒトOCT4、SOX2、KLF4およびMYCレトロウイルスベクターは、以前、線維芽細胞の再プログラミングに用いられたものである。・・・フィブロネクチン断片CH-296(レトロネクチン:タカラ酒造、大津、日本)で被覆した6?マルチウェルプレートにおいてCD34発現細胞への導入が行われた。ウイルスは5のMOI(感染多重度)で添加され、12時間後に感染が繰り返された。・・・感染の3日後、細胞は、予めマウス胚性線維芽細胞(MEFs)を播種したプレートに分割された。感染の5日後に培地をヒトES培地に交換した。」(補充データの「レトロウイルス産生およびヒトiPS細胞導入」の第1?12行)

(3)引用文献3(Blood, vol.114, pp.5473-5480 (2009))
本件第1優先日前に頒布された刊行物である引用文献3は、「健常ドナー及び後天性血液疾患患者の血液細胞由来のヒト人工多能性幹細胞」と題する学術論文であって、次の事項が記載されている。(なお、英語で記載されているので、当審による翻訳文で示す。)
ア 要約
「体細胞に由来するヒト誘導多能性幹(iPS)細胞は、患者に特異的な細胞療法や遺伝性及び後天性の疾患のための研究モデルを開発する見込みがある。・・・今回、私たちは、出生後ヒト血液細胞からのiPS細胞作製及びこれらの多能性細胞の疾患モデルとしての可能性を報告する。冷凍された臍帯血又は健常ドナーの成人CD34発現細胞から複数のiPS細胞株が作製され、造血系へと再び分化させることができた。血液細胞にJAK2-V617F体細胞変異を有する骨髄増殖性疾患(MPDs)の患者2人の末梢血CD34発現細胞からも複数のiPS細胞株が作製された。変異を有するMPDに由来するiPS細胞は、表現型、核型、及び多能性の点で正常に見えた。造血系へ分化させた後、MPD-iPS細胞に由来する造血系前駆細胞(CD34^(+)CD45^(+))は、そのiPS細胞が由来する対応患者の一次CD34+細胞の特徴を再現するように、赤血球形成及び特定の遺伝子発現の増加を示した。これらのiPS細胞は、MPDの病因を研究するための再生可能な細胞供給源と将来の造血モデルを提供する。」(第5473頁要約)
イ 方法
「山中博士の研究室によって構築された(マウス)再プログラミング因子をコードする4つの古典的レトロウイルスベクターpMXs-Oct4、pMXs-Sox2、pMXs-Klf4及びpMXs-c-Mycをアドジーン社から入手した。・・・CD34発現細胞は、解凍後、サイトカイン類SCF100ng/ml、Flt-3リガンド50-100ng/ml、及びTPO20ng/mlとともに2?4日間培養した後、レトロウイルス導入を行った。刺激したCD34発現細胞(2×10^(5)個)を4ng/mlポリブレンを添加したレトロウイルス上清と混合し、同じ培地及び上記3つのサイトカインを用いて培養した。導入の2-3日後および培養後、導入5日後の導入細胞を4×10^(5)細胞/ウェル密度で6ウェルプレートに播種した。それらは、予め播種しておいた胚性線維芽フィーダー細胞上で我々が以前記述したのと同様のプログラミングのための培養に供した。」(第5474頁左欄第22?37行)
ウ 結果
「臍帯血及び成人CD34発現細胞の再プログラミング
出生後のヒト血液細胞が通常の4つの再プログラミング因子で再プログラム化できるかどうかを試験するために、培養における広範囲な増殖能を示す臍帯血および成人骨髄から精製したCD34発現細胞を用いた。解凍後、CD34発現細胞を2?4日間、培養および活性化して細胞増殖を刺激した後、4つの標準的なレトロウイルスベクターで遺伝子導入した、臍帯血試料では遺伝子導入から約16日後に、成人骨髄CD34発現細胞では約21日後に、ヒトES/iPS細胞様コロニーが現れた。1週間後、全培養物を未分化ヒトES細胞およびiPS細胞の細胞表面エピトープを認識するTRA-1-60抗体で生きたまま染色した(図1A)。また、TRA-1-60染色がヒト血液細胞由来のiPS候補のコロニーを同定するために便利で信頼性のある方法であることがわかった(図1B)。増殖後、選択したTRA-1-60陽性コロニーは、特徴的なヒトES/iPS細胞形態およびTRA-1-60以外の多能性マーカーの発現を示した。」(第5475頁左欄第3?19行)
「MPD患者のPB細胞から作製したヒトiPS細胞株
次に、2人の骨髄増殖性疾患患者の末梢血(G-CSF動員なし)から単離したCD34陽性細胞を用いた。・・・健常ヒトCD34陽性細胞に用いたのと同じ再プログラミングプロトコールを適用して、2人の患者のそれぞれから複数のiPS細胞コロニーを誘導した。」(第5475頁右欄第12行?第5476頁右欄第1行)
エ 考察
「現在のiPS技術についての大きな懸念の一つは、レトロウイルスの使用及びゲノムへの組み込みである。私たちは、永続的なゲノム変化を伴わないヒト繊維芽細胞の再プログラミングを達成する改良方法が、おそらくヒト血液細胞にも適用できると予測する。これらの方法により、後天的または遺伝的変異を伴う様々な血液疾患の研究のために、血液細胞から適切な患者又は疾患特異的なiPS細胞を誘導することが可能になるはずである。」(第54789頁左欄第29?33行)

(4)引用文献7(Int.J.Dev.Biol., vol.54, pp.877-886 (2010)(ePub.2009.10.2))
本件第1優先日前に頒布された刊行物である引用文献7は、「フィーダー及び血清非依存性のヒト人工多能性幹細胞の作製及び増殖」と題する学術論文であって、次の事項が記載されている。(なお、英語で記載されているので、当審による翻訳文で示す。)
ア 要約
「ヒト人工多能性幹細胞(hiPSCs)は、治療に非常に影響する分化細胞の原料として非常に有望であるが、これが現実のものとなり得るまでには多くの障害を乗り越える必要がある。その障害の一つは、hiPSCsを作製し、増殖するための頑強なフィーダー及び血清非依存性のhiPSCsの培養系が未だ得られていないことである。今回、私たちは、初めて、血清及びフィーダー非依存性条件下でKlf4、Oct4、Sox2及びc-Mycの4因子を導入することによりヒト皮膚繊維芽細胞からhiPSCsを作製する、新しい作製および維持培養技術を記述する。私たちは、マトリゲルの非存在下または存在下で、血清代替物、馴化培地(CM)、又は高濃度の塩基性線維芽細胞増殖因子を添加した無フィーダー培地(FEM)を用いた。私たちのマトリゲル存在下のFEM系は、フィーダー細胞上の従来法よりも少なくとも10倍高い頻度でアルカリホスファターゼ陽性コロニーの効率を増大させた。作製したhiPSCsは、形態、継代、表面及び多能性マーカー、正常な核型、遺伝子発現、超微細構造、及びin vitroでの分化を含む多くの点でES細胞と同様である。」(第877頁要約)
イ 序論
「しかし、iPS細胞由来の細胞又は組織の将来の応用のためには、ヒトiPS細胞のいくつかの生物学的側面を評価しなくてはならない。例えば、未分化状態でヒトiPS細胞をルーティンで大規模に増殖させる条件を特定しなくてはならず、ヒト移植に適した無フィーダー培養を得る必要があり、とりわけ、そのようなそのような細胞株の長期安定性を決定する必要がある。」(第878頁左欄第10?17行)
「フィーダー細胞無しでヒトiPS細胞を誘導したとの報告は未だなく、それは依然として動物製品の使用を避けるための臨床的に意義のある目標である。」(第878頁左欄第24?27行)
ウ 結果
「血清及びフィーダー非依存性条件下でのhiPSCsの作製
・・・CMを用いると、フィーダー細胞存在下(FC)の場合と比較して、5×10^(4)個の線維芽細胞から、より多くのALP活性を有するhESC様コロニーを観察した(図1)。しかし、ALP陽性コロニーの数は、CM又はFEMを用いるとより増加した。CMとFEMの両方において、ディッシュをマトリゲルで被覆するとALP陽性コロニーの数が有意に増加した(FCに対して10倍超、被覆していないディッシュに対して2倍。少なくともP<0.01。図1)」(第878頁左欄第37?53行)
エ 考察
「ESC条件は多くの細胞タイプからiPSCsを得るのに十分であるので、ESC作製を促進するのに用いられた条件はiPSCs作製をも促進するであろうと推測される。例えば、牛胎児血清の替わりにノックアウト血清代替物を用いると、マウスESC作製が大きく促進され(Chengら,2004)、マウス線維芽細胞の再プログラミングが改善されること(Blellochら,2007)が報告されている。・・・重要なことに、血清のような未知組成の培地成分を使用するとバッチごとに変動し、再現性のある効果を導き出せないおそれがある。」(第882頁右欄第3?15行)
「マトリゲルは非ヒト由来成分を含むので、臨床目的でこれらの細胞の培養に使用する可能性が制限される。マトリゲルを代替物に置換するために、いくつかのグループは、ヒトES細胞培養におけるフィーダー細胞の代替物としてラミニン(Beattieら、2005;・・・)、フィブロネクチン(Amitら,2004)及びヒト血清被覆(Stojkovicら,2005)を使用した。これらのより規定された被覆マトリックスも、バッチ毎の変動の課題を有しており、それにより、多能性幹細胞の長期間培養のためにこれらの材料を使用する試みの失敗が部分的に説明される。より最近では、化学的に規定されたゼノフリーな培地やそれとの組み合わせを用いて、Harbら(Harbら,2008)は、単一の合成マトリックス(ポリ-D-リジン)、牛血清アルブミンの使用以外は全動物非含有培地と同等である規定培地mTeSR(Luら,2006)、及びROCK阻害剤の組み合わせが、動物由来マトリックスに依存しないhESCの自己再生を完全に保証したことを報告した。マトリゲル、ノックアウト血清代替物、及びGMP品質グレードのhiPSCsの動物由来物の課題の最適な解決策は、既知組成の細胞外マトリックス又は精製されたヒトマトリックス成分と、精製されたヒトまたはヒト組み換え成分を含む規定された血清代替物とを使用することであろう。」(第882頁右欄第19行?第883頁左欄第19行)
オ 材料と方法
「成人HDFsからのhiPSCsの作製
・・・6ウェルプレートの1ウェルあたり約80×10^(3)個の線維芽細胞を48時間にわたって、2回形質導入した(毎日更新)。それらをFP培地中で3日間培養し、次いで5日目に形質導入した細胞をマトリゲル(Sigma,E1270,1:30)で被覆した又は被覆していないディッシュ上に(60mmあたり5×10^(4)細胞)、フィーダー細胞の非存在下で、トリプシン処理により継代し、FP培地中で培養した。・・・6日目に、FP培地は、(i)MEFで馴化した、100ng/ml塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF,Royan Institute)を補充したhESC支持培地(CM)、(ii)無血清及び無フィーダー層培養培地(FEM)、すなわち100ng/mlbFGFを補充した単なるhESC培地で置換した。培地は一日おきに交換した。
hESC培地は、20%ノックアウト血清代替物(KOSR,Gibco,10828-028)、2mML-グルタミン(Gibco,25030-024)、0.1mMβ-メルカプトエタノール(Sigma;M7522)、1%非必須アミノ酸(Bibco,11140-035)、100ユニット/mlペニシリン、100μg/mlストレプトマイシン、及びインスリン-トランスフェリン-セレン(ITS,Gibco,41400-045)を補充したDMEM/F12培地(Gibco,21331-020)である。馴化培地は、hESC培地をコンフルエントなMEFフィーダー層(マイトマイシンC(Sigma,M0503)により不活性化したNMRI株に由来する)で一晩インキュベートすることで調整した。」(第883頁右欄第5?40行)

2 当審が通知した取消理由についての判断
(1)取消理由1(引用文献1を主引用例とする進歩性欠如)についての判断
ア 本件訂正発明1についての判断
(ア)引用発明1の認定
上記1(1)、特にオの例11によれば、引用文献1には、次のとおりの発明が記載されていると認められる。
「A)ヒト末梢血由来単核球細胞を提供し、
B)その単核球細胞を、SCF、TPO及びIL-3を含む培地を用いて培養し、
C)核初期化因子であるヒトOct3/4、Sox2、Klf4及びc-mycをそれぞれ発現するレトロウイルスベクターの混合物をその単核球細胞に導入し、
D)フィーダー細胞上、かつKNOCKOUT^(TM) Serum Replacement(KSR)(Invitorgen社)及びHuman bFGF(UBI社)を含む培地中でその単核球細胞を培養し、それによりその単核球細胞からヒトiPS細胞を作製させ、
E)ES細胞様コロニーをピックアップする、
段階を含む、単核球細胞からヒトiPS細胞を作製するためのインビトロの方法。」 (以下、「引用発明1」という。)
(イ)対比
本件訂正発明1と引用発明1とを対比すると、引用発明1の段階B)で用いる「SCF、TPO及びIL-3」は、本件訂正発明1においてCD34発現細胞である造血前駆細胞の増殖を促進するための培養で用いるサイトカイン類と同様であること(本件訂正後の本件特許明細書(以下、単に「本件特許明細書」という。)の請求項4、実施例1)に照らすと、引用発明1の段階B)は本件訂正発明1の段階b)に相当する。また、引用発明1の「ヒト末梢血由来単核球細胞」、「核初期化因子」、「KNOCKOUT^(TM) Serum Replacement(KSR)(Invitorgen社)」及び「Human bFGF(UBI社)」は、それぞれ本件訂正発明1の「ヒト末梢血単核細胞」、「iPS再プログラミング因子」、「血清代替物」及び「FGF」に相当するから、本件訂正発明1と引用発明1との一致点及び相違点は次のとおりのものとなる。
一致点: ヒト末梢血単核細胞を、それに含まれる造血前駆細胞の増殖を促進するための増殖条件下で培養し、iPS再プログラミング因子を発現するベクターをその培養後の細胞に導入し、血清代替物及びFGFを含む培地中における培養においてその細胞を培養し、それによりヒトiPS細胞を作製させ、iPS細胞について選択する、段階を含む、ヒト末梢血単核細胞からヒトiPS細胞を作製するためのインビトロの方法。
相違点1: iPS細胞を作製する出発材料が、本件訂正発明1では、「a)ヒト末梢血単核細胞の細胞集団から、CD34発現細胞である造血前駆細胞が濃縮された細胞集団を分離精製し」たものであって、「前記ヒト末梢血単核細胞の細胞集団が、外部から加えられた顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)又は顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)で細胞が動員されていない1以上の対象由来である」ものであるのに対して、引用発明1では、「ヒト末梢血由来単核球細胞」である点。
相違点2: iPS再プログラミング因子を発現するベクターが、本件訂正発明1では、「1以上のポリシストロニックな発現カセットを含む」、「1以上の染色体外で複製するエピソーム性ベクター」であるのに対して、引用発明1では、「再プログラミング因子であるヒトOct3/4、Sox2、Klf4及びc-mycをそれぞれ発現するレトロウイルスベクターの混合物」である点。
相違点3: iPS再プログラミング因子を発現するベクターを導入した細胞からiPS細胞を作製するための培養が、本件訂正発明1では、「既知組成またはゼノフリーの細胞外マトリックスの存在下、かつ血清代替物、FGF、MEK阻害剤、GSK3阻害剤、TGF-β受容体阻害剤、及びROCK阻害剤の全てを含む培地中におけるフィーダー非依存性培養」であるのに対して、引用発明1では「フィーダー細胞上、かつKNOCKOUT^(TM) Serum Replacement(KSR)(Invitorgen社)及びHuman bFGF(UBI社)を含む培地中」における培養である点。
(ウ)判断
a 相違点1について
引用文献1は、血球系細胞のような分化した体細胞を初期化するにあたって、初期化を、IL-6シグナル伝達因子(IL6ST)刺激因子とサイトカインカクテルとの存在下での培養と組み合わせることで効率を向上させることができるという知見に基づく発明を開示するものであって(上記1(1)ア?ウ)、本件訂正発明1に最も近い実施例であって引用発明の認定の基礎とした例11は、出発細胞として「ヒト末梢血由来単核球細胞」を用いたものである(上記1(1)オ)。末梢血単核球細胞は、好ましい出発細胞として記載されているものであり(上記1(1)エ)、これからあえてCD34発現細胞を濃縮して用いることの動機付けは見いだせない。
一方、引用文献1には、好ましい出発材料であるIL6ST高発現細胞としてCD34陽性細胞も一応挙げられてはいるものの、T細胞、単球及びDC細胞といったその他のヒト末梢血単核球細胞成分と同列に記載されているにすぎず(上記1(1)エ)、これらの中からとりわけCD34陽性細胞に着目する理由はない。仮に、この記載に基づいて出発材料としてCD34陽性細胞を用いることにしたとしても、末梢血中にCD34陽性細胞はわずか0.5%以下しか含まれておらず、それを得るためには顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)又は顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)で動員して増加させるのが通常であるから(例えば、「南山堂医学大辞典 第19版」(2006年南山堂発行)第1059頁、第2391頁、Clin.Immunol.Immunopathol., vol.70, pp.10-18 (1994)、J.Translational Medicine, vol.5, 37 (2007))、本件訂正発明1のようにあえて「前記ヒト末梢血単核細胞の細胞集団が、外部から加えられた顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)又は顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)で細胞が動員されていない1以上の対象由来である」ものとすることまで、当業者が容易に導き出すことができたとは認められない。
以上のとおりであるから、相違点1に係る本件訂正発明1の構成は、当業者が容易に想到することができたものであるということはできない。
b 相違点3について
引用文献1には、iPS再プログラミング因子を発現するベクターを導入した細胞からiPS細胞を作製するための培養を行うのに、フィーダー細胞に替えて、コラーゲン、ラミニン、フィブロネクチンなどの細胞外マトリックス蛋白質(本件訂正発明1の「既知組成又はゼノフリーの細胞外マトリックス」に該当する。)を用いることができることが一般的に記載されているが(上記1(1)エ[0047])、その際にどのような成分の培地を用いればよいかについては記載がない。また、引用文献7には、臨床での使用を念頭において、フィーダー細胞を用いずに、マトリゲルの存在下でbFGF及び血清代替物を含む培地を用いてヒトiPS細胞を作製したことが具体的データとともに記載され(上記1(4)ア?ウ、オ)、考察部分には、マトリゲルに替えて既知組成またはヒト由来のマトリクスを用いればよいことが記載され、iPS細胞作製に利用できる可能性のある情報として、特定の組成の培地にROCK阻害剤を補充するとヒトES細胞の自己再生が保証できたことが記載されている(上記1(4)エ)が、血清代替物、FGF、MEK阻害剤、GSK3阻害剤、TGF-β受容体阻害剤、及びROCK阻害剤の全てを含む培地を用いることを示唆する記載はない。
iPS再プログラミング因子を発現するベクターを導入した細胞からiPS細胞を作製するための培養の条件がiPS細胞作製の成否や効率に大きく影響することは技術常識であって、本件優先日当時、フィーダー細胞を用いることが通常で(例えば、引用文献2、3)、フィーダー非依存性培養の報告はごく限られていたこと(引用文献7)、及びフィーダー細胞はiPS細胞が接着する足場を提供するのみならず、その生存、増殖及び未分化性維持のための液性因子を提供する役割も果たすものであることに照らすと、フィーダー細胞を用いなくともiPS細胞を作製できる培地組成を決定することには、一定以上の創意工夫が必要であると認められる。この点、本件訂正発明1は、「血清代替物、FGF、MEK阻害剤、GSK3阻害剤、TGF-β受容体阻害剤、及びROCK阻害剤の全てを含む培地」を用いることにより、高い効率でiPS細胞を作製することができたものである(図5D)。
それに対して、引用発明1はフィーダー細胞を用いるものであるうえ、培地には、シグナル伝達阻害剤が1種類も添加されていない。本件優先日当時、培地にMEK阻害剤やTGF-β受容体阻害剤を添加することでiPS細胞作製効率を向上できるとの報告はあったものの(Nature Methods, vol.6, pp.805-808 (2009)、Cell Stem Cell, vol.4, pp.301-312 (2009))、GSK阻害剤及びROCK阻害剤も合わせて添加したうえでフィーダー非依存性培養を採用することは、引用文献7も考慮に入れたとしても、当業者にとって容易に推考しうることとは認められない。
したがって、相違点3に係る本件訂正発明1の構成は、引用文献1に記載された発明及び引用文献7に記載された発明に基づき当業者が容易に想到することができたものであるということはできない。
c 取消理由1で引用した引用文献4?6は相違点2に係る本件訂正発明1の構成に関するものであるところ、相違点1及び3についての判断は上記a及びbのとおりであるから、相違点2について検討するまでもなく、本件訂正発明1は、当業者といえども、引用文献1に記載された発明、引用文献4?7に記載された発明及び技術常識に基づいて容易に発明をすることができたものとは認めることができない。
イ 本件訂正発明3?17についての判断
本件訂正発明3?17も、上記相違点1及び3に係る本件訂正発明1の構成を備えるものであるから、上記アと同様の理由により、当業者といえども、引用文献1に記載された発明、引用文献4?7に記載された発明及び技術常識に基づいて容易に発明をすることができたものとは認めることができない。
ウ 以上のとおりであるから、本件訂正発明1及び3?17に係る特許は、取消理由1によって取り消されるべきものではない。

(2)取消理由2(引用文献2を主引用例とする進歩性欠如)についての判断
ア 本件訂正発明1についての判断
(ア)引用発明2の認定
上記1(2)によれば、引用文献2には、次のとおりの発明が記載されていると認められる。
「A)動員されたヒト由来末梢血からCD34発現細胞を単離し、
B)そのCD34発現細胞を、SCF、Flt3リガンドおよびIL-3を含む培地で培養して増殖し、
C)再プログラミング因子であるヒトOCT4、SOX2、KLF4およびMYCをそれぞれ発現するレトロウイルスベクターの混合物をその増殖CD34発現細胞に導入し、
D)フィーダー細胞上、かつ塩基性線維芽細胞増殖因子を補充したヒトES細胞培地中でその増殖CD34発現細胞を培養し、それによりそのCD34発現細胞からヒトiPS細胞を作製させ、
E)GFP陰性のヒトES細胞様コロニーを選択する、
段階を含む、CD34発現細胞からヒトiPS細胞を作製するためのインビトロの方法。」(以下、「引用発明2」という。)
(イ)対比
本件訂正発明1と引用発明2とを対比すると、本件特許明細書(段落【0015】、【0030】等)の記載に照らすと、引用発明2の段階B)は本件訂正発明1の段階b)に相当する。また、引用発明2の「塩基性線維芽細胞増殖因子」は本件訂正発明1の「FGF」に該当するから、本件訂正発明1と引用発明2との一致点及び相違点は次のとおりのものとなる。
一致点: ヒト末梢血細胞の細胞集団から、CD34発現細胞である造血前駆細胞が濃縮された細胞集団を分離精製し、その造血前駆細胞の増殖を促進するための増殖条件下でその集団を培養し、iPS再プログラミング因子を発現する1以上の発現カセットを含む1以上のベクターをその増殖造血前駆細胞に導入し、FGFを含む培地中における培養においてその造血前駆細胞を培養し、それにより造血前駆細胞からヒトiPS細胞を作製させ、iPS細胞について選択する、段階を含む、造血前駆細胞からヒトiPS細胞を作製するためのインビトロの方法。
相違点1: CD34発現細胞である造血前駆細胞が濃縮された細胞集団が、本件訂正発明1では「外部から加えられた顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)又は顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)で細胞が動員されていない1以上の対象由来である」「ヒト末梢血単核細胞の細胞集団」から分離精製されるのに対して、引用発明2では「動員されたヒト由来末梢血」から分離精製される点。
相違点2: iPS再プログラミング因子を発現するベクターが、本件訂正発明1では、「1以上のポリシストロニックな発現カセットを含む」、「1以上の染色体外で複製するエピソーム性ベクター」であるのに対して、引用発明2では、「再プログラミング因子であるヒトOCT4、SOX2、KLF4およびMYCをそれぞれ発現するレトロウイルスベクターの混合物」である点。
相違点3: iPS再プログラミング因子を発現するベクターを導入した細胞からiPS細胞を作製するための培養が、本件訂正発明1では、「既知組成またはゼノフリーの細胞外マトリックスの存在下、かつ血清代替物、FGF、MEK阻害剤、GSK3阻害剤、TGF-β受容体阻害剤、及びROCK阻害剤の全てを含む培地中におけるフィーダー非依存性培養」であるのに対して、引用発明2では「フィーダー細胞上、かつ塩基性線維芽細胞増殖因子を補充したヒトES細胞培地中」における培養である点。
(ウ)判断
a 相違点1について
引用文献2は、それまで造血移植、免疫治療及び遺伝子治療のために用いられてきた動員されたヒト末梢血由来のCD34発現細胞を、iPS細胞作製という新たな用途に適用できることを示した学術論文であって(上記1(2)ア、ウ)、出発材料を動員していない末梢血由来のものにする動機付けはない。むしろ、末梢血中にCD34発現細胞はわずか0.5%以下しか含まれていないことから、それを得るためには顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)又は顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)で動員して増加させるのが通常であることに照らすと(例えば、「南山堂医学大辞典 第19版」(2006年南山堂発行)第1059頁、第2391頁、Clin.Immunol.Immunopathol., vol.70, pp.10-18 (1994) J.Translational Medicine, vol.5, 37 (2007))、引用発明2において、動員は必須と考えるのが自然で、それを行わないことは予定していないというべきである。また、動員の有無により末梢血細胞の生物学的性質が変化しうることが知られているから(例えば、Curr.Opin.Hematol., vol.16, pp.35-40 (2009)、British J.Hamatol., vol.97, pp.146-152 (1997)、)、この点からも、首尾よくiPS細胞が作製できた引用発明2において出発材料をあえて変更することには動機付けがないといえる。
したがって、相違点1に係る本件訂正発明1の構成は、当業者が容易に想到することができたものであるということはできない。
b 相違点3について
引用文献2は、動員されたヒト末梢血由来のCD34発現細胞をiPS細胞作製という新たな用途に適用できることを示した学術論文であって、再プログラミング工程自体は、従前から線維芽細胞の再プログラミングに日常的に用いられていたフィーダー細胞上でのプロトコールを踏襲するにすぎず(上記1(2)ウ、エ)、それをことさらフィーダー細胞を用いないことに変更する動機付けを与えるものではない。また、引用文献7には、臨床での使用を念頭において、フィーダー細胞を用いずに、マトリゲルの存在下でbFGF及び血清代替物を含む培地を用いてヒトiPS細胞を作製したことが具体的データとともに記載され(上記1(4)ア?ウ、オ)、考察部分には、マトリゲルに替えて既知組成またはヒト由来のマトリクスを用いればよいことが記載され、iPS細胞作製に利用できる可能性のある情報として、特定の組成の培地にROCK阻害剤を補充するとヒトES細胞の自己再生が保証できたことが記載されている(上記1(4)エ)が、血清代替物、FGF、MEK阻害剤、GSK3阻害剤、TGF-β受容体阻害剤、及びROCK阻害剤の全てを含む培地を用いることを示唆する記載はない。
仮に、作製したiPS細胞を臨床治療に用いることを念頭において、フィーダー細胞に替えて「既知組成またはゼノフリーの細胞外マトリックス」を用いることを想起したとしても、iPS再プログラミング因子を発現するベクターを導入した細胞からiPS細胞を作製するための培養の条件がiPS細胞作製の成否や効率に大きく影響することは技術常識であって、本件優先日当時、フィーダー細胞を用いることが通常で(例えば、引用文献1、3)、フィーダー非依存性培養の報告はごく限られていたこと(引用文献7)、及びフィーダー細胞はiPS細胞が接着する足場を提供するのみならず、その生存、増殖及び未分化性維持のための液性因子を提供する役割も果たすものであることに照らすと、フィーダー細胞を用いなくともiPS細胞を作製できる培地組成を決定することには、一定以上の創意工夫が必要であると認められる。この点、本件訂正発明1は、「血清代替物、FGF、MEK阻害剤、GSK3阻害剤、TGF-β受容体阻害剤、及びROCK阻害剤の全てを含む培地」を用いることにより、高い効率でiPS細胞を作製することができたものである(図5D)。
それに対して、引用発明2はフィーダー細胞を用いるものであるうえ、培地には、シグナル伝達阻害剤が1種類も添加されていない。本件優先日当時、培地にMEK阻害剤やTGF-β受容体阻害剤を添加することでiPS細胞作製効率を向上できるとの報告はあったものの(Nature Methods, vol.6, pp.805-808 (2009)、Cell Stem Cell, vol.4, pp.301-312 (2009))、GSK阻害剤及びROCK阻害剤も合わせて添加したうえでフィーダー非依存性培養を採用することは、引用文献7も考慮に入れたとしても、当業者にとって容易に推考しうることとは認められない。
したがって、相違点3に係る本件訂正発明1の構成は、引用文献2に記載された発明及び引用文献7に記載された発明に基づき当業者が容易に想到することができたものであるということはできない。
c 取消理由1で引用した引用文献4?6は相違点2に係る本件訂正発明1の構成に関するものであるところ、相違点1及び3についての判断は上記a及びbのとおりであるから、相違点2について検討するまでもなく、本件訂正発明1は、当業者といえども、引用文献2に記載された発明、引用文献4?7に記載された発明及び技術常識に基づいて容易に発明をすることができたものとは認めることができない。
イ 本件訂正発明3?17についての判断
本件訂正発明3?17も、上記相違点1及び3に係る本件訂正発明1の構成を備えるものであるから、上記アと同様の理由により、当業者といえども、引用文献2に記載された発明、引用文献4?7に記載された発明及び技術常識に基づいて容易に発明をすることができたものとは認めることができない。
ウ 以上のとおりであるから、本件訂正発明1及び3?17に係る特許は、取消理由2によって取り消されるべきものではない。

(3)取消理由3(引用文献3を主引用例とする進歩性欠如)についての判断
ア 本件訂正発明1についての判断
(ア)引用発明3の認定
上記1(3)によれば、引用文献3には、次のとおりの発明が記載されていると認められる。
「A)動員されていない、血液細胞にJAK2-V617F体細胞変異を有するヒト骨髄増殖性疾患(MPDs)患者由来末梢血から、CD34発現細胞を単離し、
B)そのCD34発現細胞を、SCF、Flt-3リガンド及びTPOを含む培地で培養して増殖し、
C)再プログラミング因子であるOct4、Sox2、Klf4及びc-Mycをそれぞれ発現するレトロウイルスベクターの混合物をその増殖CD34発現細胞に導入し、
D)フィーダー細胞上における引用文献3の著者らが以前記述したのと同様のプログラミングのための培養に供し、それによりそのCD34発現細胞からヒトiPS細胞を作製させ、
E)ヒトES/iPS細胞様の形態を示し、TRA-1陽性のコロニーを選別する、
段階を含む、CD34発現細胞からヒトiPS細胞を作製するためのインビトロの方法。」(以下、「引用発明3」という。)
(イ)対比
本件訂正発明1と引用発明3とを対比すると、本件特許明細書(段落【0015】、【0030】等)の記載に照らせば、引用発明3の段階B)は本件訂正発明1の段階b)に相当するから、本件訂正発明1と引用発明3との一致点及び相違点は次のとおりのものとなる。
一致点: 動員されていない対象由来のヒト末梢血細胞の細胞集団から、CD34発現細胞である造血前駆細胞が濃縮された細胞集団を分離精製し、その造血前駆細胞の増殖を促進するための増殖条件下でその集団を培養し、iPS再プログラミング因子を発現する1以上の発現カセットを含む1以上のベクターをその増殖造血前駆細胞に導入し、その造血前駆細胞を培養し、それにより造血前駆細胞からヒトiPS細胞を作製させ、iPS細胞について選択する、段階を含む、造血前駆細胞からヒトiPS細胞を作製するためのインビトロの方法。
相違点1: iPS再プログラミング因子を発現するベクターが、本件訂正発明1では、「1以上のポリシストロニックな発現カセットを含む」、「1以上の染色体外で複製するエピソーム性ベクター」であるのに対して、引用発明3では、「再プログラミング因子であるOct4、Sox2、Klf4及びc-Mycをそれぞれ発現するレトロウイルスベクターの混合物」である点。
相違点2: iPS再プログラミング因子を発現するベクターを導入した細胞からiPS細胞を作製するための培養が、本件訂正発明1では、「既知組成またはゼノフリーの細胞外マトリックスの存在下、かつ血清代替物、FGF、MEK阻害剤、GSK3阻害剤、TGF-β受容体阻害剤、及びROCK阻害剤の全てを含む培地中におけるフィーダー非依存性培養」であるのに対して、引用発明3では「フィーダー細胞上における引用文献3の著者らが以前記述したのと同様のプログラミングのための培養」である点。
(ウ)判断
a 相違点2について
本件優先日当時、iPS細胞の作製にはフィーダー細胞上での培養が通常であって(例えば、引用文献1、2)、動物由来成分や未知成分の混入を避けるべき治療用途においてはフィーダー非依存性培養の必要性が認識されていたものの、フィーダー細胞は、iPS細胞が接着する足場を提供するのみならず、その生存、増殖及び未分化性維持のための液性因子を提供する重要な役割を果たしていることから、それに代わる培養条件を決定することには一定以上の創意工夫が必要であり、フィーダー非依存性培養の報告はごく限られているという技術水準にあった(引用文献7)。
一方、引用発明3は、骨髄増殖性疾患(MPDs)の体細胞変異を有する血液細胞からiPS細胞を作製する方法であって、これはもっぱらMPDの病因等を研究するための造血モデルを提供するという有用性を有するものである(上記1(3)ア、エ)。それに加えて、一般に、疾患の体細胞変異を有するiPS細胞を治療用途に用いることは考えられないことに照らしても、上述のとおりの技術水準の下で、引用発明3においてあえて困難なフィーダー非依存性培養を採用することに動機付けは見いだせない。まして、「既知組成またはゼノフリーの細胞外マトリックスの存在下、かつ血清代替物、FGF、MEK阻害剤、GSK3阻害剤、TGF-β受容体阻害剤、及びROCK阻害剤の全てを含む培地中におけるフィーダー非依存性培養」という特定の細胞外マトリックス及び培地を用いることが当業者にとって容易であるということはできない。
したがって、相違点2に係る本件訂正発明1の構成は、引用文献3に記載された発明及び引用文献7に記載された発明に基づき当業者が容易に想到することができたものであるということはできない。
b 取消理由3で引用した引用文献4?6は相違点1に係る本件訂正発明1の構成に関するものであるところ、相違点2についての判断は上記aのとおりであるから、相違点1について検討するまでもなく、本件訂正発明1は、当業者といえども、引用文献3に記載された発明、引用文献4?7に記載された発明及び技術常識に基づいて容易に発明をすることができたものとは認めることができない。
イ 本件訂正発明3?17についての判断
本件訂正発明3?17も、上記相違点2に係る本件訂正発明1の構成を備えるものであるから、上記アと同様の理由により、当業者といえども、引用文献3に記載された発明、引用文献4?7に記載された発明及び技術常識に基づいて容易に発明をすることができたものとは認めることができない。
ウ 以上のとおりであるから、本件訂正発明1及び3?17に係る特許は、取消理由3によって取り消されるべきものではない。

(4)取消理由4(実施可能要件違反及びサポート要件違反)についての判断
ア 訂正前請求項1?18の「造血前駆細胞」の点
(ア)取消理由の具体的内容
訂正前請求項1は、「a)造血前駆細胞を含むヒト末梢血細胞の細胞集団を提供し、 b)その造血前駆細胞の増殖を促進するための増殖条件下でその集団を培養し」た後に、「その増殖造血前駆細胞」を再プログラミングするものである。ここで「造血前駆細胞」には造血系に分化可能な様々な種類の細胞が包含されるにもかかわらず、発明の詳細な説明において具体的な結果が示されているのは、CD34発現細胞のみである。また、上記工程a)及びb)として具体的に記載されているのは、ヒト末梢血細胞からCD34発現細胞を純度20?96%まで精製してなる細胞集団を提供し、CD34発現細胞の増殖条件下で培養した場合のみである。ヒト末梢血中にCD34発現細胞はわずか0.5%以下しか含まれておらず(例えば、「南山堂医学大辞典 第19版」(2006年南山堂発行)第1059頁)、他のリンパ球が存在すると増殖しにくいとの報告もあることに照らすと、再プログラミングに供するのに足りる量のCD34発現細胞を入手するには、増殖工程の前に分離精製工程が必要であると考えられる。
したがって、訂正前請求項1には、造血前駆細胞がCD34発現細胞であること、及び増殖する前に末梢血細胞の細胞集団からCD34発現細胞を分離精製すること、という課題解決のための手段が反映されていない。また、CD34発現細胞以外の造血前駆細胞を用いる場合や、CD34発現細胞を用いるとしても末梢血から分離精製しないで増殖する場合については、再プログラミングのための条件設定をすることは当業者にとって過度な負担を強いることと認められる。訂正前請求項2?18についても同様である。
(イ)判断
本件訂正により、請求項1、3?15の工程a)は「a)ヒト末梢血単核細胞の細胞集団から、CD34発現細胞である造血前駆細胞が濃縮された細胞集団を分離精製し、」と、請求項16及び17の工程a)は「a)体積が10mL以下である末梢血試料から、CD34発現細胞である造血前駆細胞が濃縮された細胞集団を分離精製し」と訂正され、造血前駆細胞が「CD34発現細胞」であり、その増殖前に「分離精製」されることが特定されたため、本取消理由は解消した。
イ 訂正前請求項1?18の「フィーダー非依存性培養」の点
(ア)取消理由の具体的内容
訂正前請求項1の「フィーダー非依存性培養」には、フィーダー細胞を用いない限度であらゆる条件の培養が包含されるのに対して、発明の詳細な説明において具体的な結果が示されているのは、レトロネクチン(登録商標)又はビトロネクチンといった細胞外マトリクスで被覆したプレート上で表2記載の組成の再プログラミング培地を用いて培養した場合のみである。本件出願日当時、再プログラミング因子を導入した体細胞からiPS細胞を生じさせるには、フィーダー細胞上で血清代替物や増殖因子を含むES細胞用培地中で培養するのが一般的であったところ、訂正前請求項1ではフィーダー細胞のない条件下で培養を行うのだから、フィーダー細胞存在下で用いる培地以上に増殖因子やサイトカイン等の補充が必要であると考えられる。細胞外マトリックス及び培地組成について限定のない訂正前請求項1は、発明の詳細な説明においてヒトiPS細胞を作製することができると当業者が認識できるように記載された範囲を超えている。また、フィーダー非依存性培養の条件を決定することは当業者にとって過度な負担を強いることである。訂正前請求項2?18についても同様である。
(イ)判断
本件訂正により、請求項1、3?17「フィーダー非依存性培養」は「既知組成またはゼノフリーの細胞外マトリックスの存在下、かつ血清代替物、FGF、MEK阻害剤、GSK3阻害剤、TGF-β受容体阻害剤、及びROCK阻害剤の全てを含む培地中におけるフィーダー非依存性培養」と訂正され(請求項2及び18は削除された。)、用いる細胞外マトリックス及び培地添加剤が特定されたため、本取消理由は解消した。
ウ 以上のとおり、本件特許は、「造血前駆細胞」の点及び「フィーダー非依存性培養」の点で、発明の詳細な説明及び特許請求の範囲の記載に不備はなく、特許法第36条第4項第1号及び第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるということはできない。
したがって、本件訂正発明1及び3?17に係る特許は、取消理由4によって取り消されるべきものではない。

(5)取消理由5(明確性要件違反)についての判断
ア 訂正前請求項1?15、18の「末梢血細胞」及び訂正前請求項16、17の「末梢血試料」の点
(ア)取消理由の具体的内容
訂正前請求項1?18の「末梢血細胞」について、発明の詳細な説明の「II.定義」の項には「「末梢血細胞」は、赤血球細胞、白血球細胞及び血小板を含み、血液の循環プール内で見出される、血液の細胞成分を指す。」(段落[0052])と定義されており、臍静脈や臍動脈も「血液の循環プール」に包含され、「末梢血細胞」に臍帯血細胞も包含されると解釈する余地がある。
しかし、「末梢血細胞」は臍帯血細胞とは別の細胞として区別されるのが技術常識であって、発明の詳細な説明の上記定義は技術常識と整合しないといえるから、訂正前請求項1?15、18の「末梢血細胞」及び訂正前請求項16、17の「末梢血試料」が指す範囲が不明確になっている。
(イ)判断
本件訂正により、発明の詳細な説明の段落[0052]の上記記載は、「「末梢血細胞」は、赤血球細胞、白血球細胞及び血小板を含む、細胞成分を指す。」と訂正され、臍帯血細胞を含むとは解されないものとなったため、本取消理由は解消した。
イ 訂正前請求項13及び14の「前記既知組成の細胞外マトリクス」の点
(ア)取消理由の具体的内容
訂正前請求項13及び14に「前記既知組成の細胞外マトリクス」と記載されているが、先行する請求項に「既知組成の細胞外マトリクス」は記載されていないから、上記記載は不明確である。
(イ)判断
本件訂正により、請求項13及び14が引用する請求項12に「既知組成の細胞外マトリクス」が記載されたから、本取消理由は解消した。
ウ 訂正前請求項18の「フィーダー非依存性細胞外マトリクス」の点
(ア)取消理由の具体的内容
「細胞外マトリクス」という成分は、フィーダーとの依存関係により特定できるものではないから、「フィーダー非依存性細胞外マトリクス」がどのようなものを意味するのかが明らかでない。
(イ)判断
本件訂正により請求項18は削除されたため、本取消理由は解消した。
エ 以上のとおり、本件特許は、「末梢血細胞」の点、「前記既知組成の細胞外マトリクス」の点及び「フィーダー非依存性培養」の点で、特許請求の範囲の記載に不備はなく、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるということはできない。
したがって、本件訂正発明1及び3?17に係る特許は、取消理由5によって取り消されるべきものではない。

3 取消理由で採用しなかった特許異議申立理由についての判断
(1)本件の優先権主張が無効であることを前提とする特許異議申立理由(異議2理由1?3、異議4理由1?4、異議6理由1、2)についての判断
異議2理由1?3、異議4理由1?4、異議6理由1、2は、本件の優先権主張が無効であるとの前提のもと、本件優先日後かつ出願日前に公開された刊行物を主引用例として、訂正前請求項1?18に係る発明の新規性欠如及び/又は進歩性欠如を主張するものである。なお、異議6理由1、2の主引用例である異議6甲1(特表2013-501505号公報)は本件国際出願日(2011年6月14日)よりも後の平成25年1月17日に公表されたものであるが、その国際公開公報(国際公開第2011/016588号)は本件国際出願日よりも前の2011年2月10日に公開されたものであるから、念のため、ここで合わせて検討することにする。
そこで、本件の優先権主張の成否について検討する。まず、第1優先明細書(2010年6月15日出願のUS61/355,046)には、図5(その説明は段落[0040])として本件発明の再プログラミングプロセスの概略が記載され、これは本件当初明細書(本件特許明細書も同様である。以下も同じ。)の図1に一致する。また、第1優先明細書には、上記再プログラミングプロセスを具体的に行った実施例1において、再プログラミングの結果が、図3、4(iPSコロニーの出現を示す写真)及びそれらの説明の記載(段落[0038]、[0039])により開示されている。それに対して、本件当初明細書の実施例1は、図3及び4が記載されておらず、段落【0259】の第8?13行に文章で再プログラミングの結果が記載されている点でのみ第1優先明細書の実施例1と異なるが、これらの実験結果は同等のものであるから、第1優先明細書にも本件当初明細書にも、実施例1として、ヒト非動員化末梢血から回収した単核細胞からCD34発現細胞を濃縮し、サイトカイン富化培地においてそれを増殖し、oriP-レプリコンとポリシストロニックなカセットを有するプラスミド組み合わせ(第1優先明細書の図2、本件当初明細書の図3)を用いて再プログラミング因子を導入し、レトロネクチン(登録商標)で被覆したプレート上かつ表2に記載された組成の再プログラミング培地中におけるフィーダー非依存性培養においてヒトiPS細胞を作製したことが、具体的な手順及び結果を伴って記載されているといえる。そして、これは、訂正前及び訂正後の特許請求の範囲に記載された発明の構成要件をすべて備えたものであるから、第1優先明細書には、訂正前及び訂正後の特許請求の範囲に記載された発明が開示されているといえる。
また、第2優先明細書(2010年10月1日出願のUS61/388,949)にも第1優先明細書と同様の記載がある。
以上のとおり、訂正前及び訂正後の特許請求の範囲に記載された発明は、第1優先明細書に記載された技術的事項の範囲内のものであり、第2優先明細書に記載された技術的事項の範囲内のものでもあるから、第1及び第2優先権主張の効果を享受することができ、新規性及び進歩性判断の基準日は第1優先日である2010年6月15日とすべきである。
そうすると、異議2理由1?3、異議4理由1?4、異議6理由1、2は、いずれもその前提を欠くものであるから、本件訂正発明1及び3?17に係る特許は、これらの理由によって取り消されるべきものではない。

(2)異議3甲28(異議6甲1)に基づく拡大先願(異議3理由2、異議6理由3)についての判断
異議3甲28(異議6甲1でもある。特願2012-523493号の当初明細書等である公表公報)は、外来核酸因子をゲノムに組み込まず、ウイルスおよび異種成分を用いることなく、高い効率でiPS細胞を作製することを目的とした発明を開示するものであって(段落【0008】)、【発明を実施するための形態】には、出発材料である体細胞、核初期化物質の体細胞への導入方法、培養条件等それぞれについて、多岐に及ぶ記載がされているところ、本件訂正発明の構成要件に対応するものとして、出発材料として造血幹細胞を用いることができること(段落【0020】)、核初期化に先立って細胞の種類に応じた前培養をしてもよいこと(段落【0023】)、2種類以上の核初期化遺伝子を組み込んだ発現ベクター、好ましくはエピソーマルベクターを用いること(段落【0038】、【0045】)、iPS細胞作製をフィーダー細胞を用いず、ゼノフリーなコーティング剤でコートした容器内で行うことができること(段落【0098】)が、それぞれ断片的に記載されている。しかしながら、これら多岐にわたる記載の中から、ことさら本件訂正発明の構成要件に対応するものを積極的あるいは優先的に選択して組み合わせる事情は見いだせない。また、異議3甲28(異議6甲1)には、iPS細胞作製のための培地として、本件訂正発明1及び3?17で用いる特定の成分を有する培地を用いることや、出発細胞がG-CSF又はGM-CSFで動員されていない対象由来であることは記載も示唆もされていない。
したがって、本件訂正発明1及び3?17は、特願2012-523493号の当初明細書等に記載された発明と同一であるとはいえないから、本件訂正発明1及び3?17に係る特許は、異議3理由2及び異議6理由3によって取り消されるべきものではない。

(3)異議5甲3を主引用例とする進歩性欠如(異議5理由3)についての判断
異議5甲3(Cell Stem Cell, vol.5, pp.353-357 (2009))は、臍帯血からiPS細胞を作製したことを報告する学術論文であって、具体的には、臍帯血細胞からCD133発現細胞を精製し、SCF、TPO、FLT-3及びIL-6を含む培地で増殖した後、ポリシストロニックな発現カセットを有するレトロウイルスベクターで再プログラミング因子を導入し、フィーダー細胞上かつヒトES細胞用培地中での培養でiPS細胞を作製したことが記載されている。
しかしながら、異議5甲3には、臍帯血由来細胞は、動員や生検などをせずにすぐに利用可能である、遺伝的変異の可能性が低い、免疫的情報とともにバンク化されているなどの点で、iPS細胞作製の出発材料として、末梢血細胞よりも優れていることが記載されているから(第356頁左欄第37行?中欄第37行)、異議5甲3に記載された発明において、出発材料を臍帯血由来CD133発現細胞から末梢血細胞由来細胞に変更することに動機付けがあるとはいえない。また、特許異議申立で提出されたいずれの証拠からも、本件訂正発明1及び3?17の「既知組成またはゼノフリーの細胞外マトリックスの存在下、かつ血清代替物、FGF、MEK阻害剤、GSK3阻害剤、TGF-β受容体阻害剤、及びROCK阻害剤の全てを含む培地中におけるフィーダー非依存性培養」という発明構成要件を導き出すことができないことは、上記2(1)?(3)で判断したとおりである。
したがって、本件訂正発明1及び3?17は、異議5甲3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、本件訂正発明1及び3?17に係る特許は、異議5理由3によって取り消されるべきものではない。

(4)実施可能要件違反及びサポート要件違反についての判断
ア 訂正前請求項1及び17の「造血前駆細胞の増殖を促進するための増殖条件」の点(異議1理由4ア、異議2理由5ウ)
(ア)異議申立理由の具体的内容
訂正前請求項1及び17において、「造血前駆細胞の増殖を促進するための増殖条件」は具体的に特定されていない。それに対して、発明の詳細な説明において具体的に増殖が確認されたのは、TPO、Flt3、SCF、IL6及びIL3を含む培地を用いてヒトフィブロネクチン断片上で3?6日培養した場合のみであって、それ以外の条件を特定することは当業者に過度の試行錯誤を要求することである。
(イ)判断
発明の詳細な説明(段落【0015】?【0017】、【0030】、【0088】?【0097】)には、造血前駆細胞の増殖を促進するための培養条件として、培地添加物、培養容器、培養様式、温度、酸素濃度、培養期間、細胞濃度等について、当業者にとって十分な情報が記載されている。
イ 訂正前請求項3の「体積約10mL以下の血液試料」及び請求項16の「体積が10mL以下である、造血前駆細胞を含む末梢血試料」の点(異議1理由4イ、異議1理由5ア)
(ア)異議申立理由の具体的内容
訂正前請求項3及び16では、体積が約10mL以下という少ない量の試料からiPS細胞を作製することが特定されている。それに対して、発明の詳細な説明の実施例では、10mL以下という少量の血液試料から実際にiPS細胞を作製できることは明らかにされておらず、そのための条件を決定することは当業者にとって過度な負担である。
(イ)判断
実施例1には、出発試料について「ヒト全血をバキュテナー中で回収した(ここで含まれるべき体積の範囲は1から50mL)。」(段落【0245】)と記載されているから、発明の詳細な説明に10mL以下の場合について記載されていないということはできない。また、本件訂正により、請求項3が引用する請求項1には「a)ヒト末梢血単核細胞の細胞集団から、CD34発現細胞である造血前駆細胞が濃縮された細胞集団を分離精製し」、請求項16には「a)体積が10mL以下である末梢血試料から、CD34発現細胞である造血前駆細胞が濃縮された細胞集団を分離精製し」という工程が加えられ、いずれの場合もCD34発現細胞である造血前駆細胞が濃縮された細胞集団を再プログラミングに供することが特定された。そして、CD34発現細胞の純度が高められた細胞集団において再プログラミングを行えば、CD34発現細胞から相当程度のiPS細胞を作製できると考えられるから、訂正後請求項3及び17に係る発明に特有の条件設定のために当業者が過度な負担を強いられるとは認められない。
ウ 訂正前請求項1?18の投入細胞数の点(異議5理由4ウ)
(ア)異議申立理由の具体的内容
訂正前請求項1?18においては、投入細胞数(ベクター導入に供する細胞の数)が特定されていない。それに対して、実施例2の図5EからはiPS細胞作製効率には投入細胞数が重要な要素であることが見て取れる。よって、請求項1?18は、発明の詳細な説明により裏付けられ、当業者が容易に実施をすることができる程度に記載された範囲を超えている。
(イ)判断
iPS細胞作製効率は、再プログラミング因子の種類や数、原料となる細胞の種類、ベクターの種類や送達方法、細胞とベクターの数比等に応じて変化するものであり、それらを最適化することは当業者が適宜行う程度のことにすぎないから、特許請求の範囲において投入細胞数を特定する必要があるとまではいえない。
エ 訂正前請求項1?18の「再プログラミング因子」の点(異議5理由4エ、異議6理由4イ)
(ア)異議申立理由の具体的内容
訂正前請求項1?18において、再プログラミング因子の種類及び組み合わせは特定されていない。それに対して、発明の詳細な説明によれば、発明が解決しようとする課題は、末梢血細胞を再プログラミングするためのより効率的な方法を開発することにあり、実施例において高効率でiPS細胞を作製できることが示されたのは、図4右のプラスミドセット2、すなわち、再プログラミング因子としてOct4、Sox2、T-抗原、Klf4、Nanog、L-myc、及びLin28の7因子を用いた場合のみである。再プログラミング因子の種類や組み合わせがiPS細胞作製効率に重要であることが知られているから、訂正前請求項1?18は、上記課題を解決することができるように発明の詳細な説明により裏付けられた範囲を超えている。
(イ)判断
発明の詳細な説明に、課題解決手段として明記され(段落【0009】)、実施例でも示されたとおり、本件発明は末梢血からのCD34発現細胞を増加させることにより増加させない場合よりも高い効率でiPS細胞を作製できたというものである。本件優先日当時、既に様々な再プログラミング因子の種類及び組み合わせが知られていたうえ、CD34発現細胞を増加させることによる効果が、用いる再プログラミング因子の種類及び組み合わせによっては失われるとする理由は見いだせないから、再プログラミング因子の種類及び組み合わせが実施例のもの以外では課題が解決できなくなるとまではいえない。
オ 訂正前請求項18の「フィーダー非依存性細胞外マトリクス」の点(異議1理由4ウ)
(ア)異議申立理由の具体的内容
発明の詳細な説明の記載を参酌しても、「フィーダー非依存性細胞外マトリクス」がどのようなものを指すのか理解できないから、発明の詳細な説明は訂正前請求項18に係る発明を実施することができる程度に記載したものとはいえない。
(イ)判断
本件訂正により請求項18は削除されたため、本異議申立理由は対象となる請求項が存在しないこととなった。
カ 以上のとおり、本件訂正発明1及び3?17に係る特許は、実施可能要件違反及びサポート要件違反を指摘するいずれの異議申立理由(取消理由で採用しなかったもの)によっても、取り消されるべきものではない。

(5)明確性要件違反についての判断
ア 訂正前請求項1及び17の「造血前駆細胞の増殖を促進するための増殖条件」の点(異議1理由6ア)
(ア)異議申立理由の具体的内容
訂正前請求項1及び17の「造血前駆細胞の増殖を促進するための増殖条件」は所望の結果を記載したにすぎず、技術内容が明らかでない。
(イ)判断
細胞の増殖について最も大きな影響を与える条件の一つは培地組成であるところ、発明の詳細な説明(段落【0091】)に米国特許第5,728,581号を例示して記載されている通り、造血前駆細胞の増殖を促進するための培地組成は周知であるし、増殖に適したその他の培養条件(温度や細胞密度など)の最適化は当業者が通常なし得る程度のことであるから、当業者であれば「造血前駆細胞の増殖を促進するための増殖条件」の技術内容を理解することができる。
イ 訂正前請求項1?18の「造血前駆細胞」の点(異議5理由5イ)
(ア)異議申立理由の具体的内容
訂正前請求項1?18の「造血前駆細胞」について、発明の詳細な説明の定義(段落【0053】)を参照しても、造血系に拘束されているがさらなる造血系分化が可能であるあらゆる細胞を指すのか、それともCD34発現細胞を指すのかが明確でない。
(イ)判断
本件訂正により、請求項1?17における「造血前駆細胞」は「CD34発現細胞である」ことが明確になった。
ウ 訂正前請求項10の「第3、4、5又は6日前後」の点(異議5理由5ウ)
(ア)異議申立理由の具体的内容
訂正前請求項10の「第3、4、5又は6日前後」とあるが、第何日目を意味するのか明確でない。
(イ)判断
請求項10が引用する請求項1のb)の培養を始めた3?6日目頃のことを意味すると解され、当業者にとって不明確とまではいえない。
エ 以上のとおり、本件訂正発明1及び3?17に係る特許は、明確性要件違反を指摘するいずれの異議申立理由(取消理由で採用しなかったもの)によっても、取り消されるべきものではない。

第6 むすび
上記第5のとおり、請求項1及び3?17に係る特許は、当審が通知した取消理由及び特許異議申立人1?6が申し立てた特許異議申立理由によっては取り消すことができない。
また、他に請求項1及び3?17に係る特許を取り消すべき理由も発見しない。
さらに、請求項2及び18は本件訂正により削除され、それらに対して特許異議申立人1?6がした特許異議申立てについては、対象となる請求項が存在しないこととなったため、却下する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
少量の末梢血からの人工多能性幹細胞の作製
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2010年6月15日出願の米国出願第61/355,046号及び2010年10月1日出願の米国出願第61/388,949号(これらの開示全体が、権利放棄なく、それらの全体において参照により本明細書中に具体的に組み込まれる。)の優先権を主張する。本願はまた、2009年6月5日出願の米国出願第61/184,546号、2009年9月4日出願の米国出願第61/240,116号及び2010年6月4日出願のPCT出願第PCT/US10/37376号にも関する(これらの開示全体が、権利放棄なく、それらの全体において参照により本明細書中に具体的に組み込まれる。)。
【0002】
1.発明の分野
本発明は、全般的には分子生物学及び幹細胞の分野に関する。より具体的には、本発明は、体細胞、特に造血前駆細胞の再プログラミングに関する。
【背景技術】
【0003】
2.関連技術の説明
一般に、幹細胞は、一連の成熟した機能的細胞を生じさせ得る未分化細胞である。例えば、造血幹細胞は、最終分化したあらゆる様々なタイプの血液細胞を生じさせ得る。胚性幹(ES)細胞は胚由来で多能性であり、従って何れかの臓器もしくは組織型へ又は少なくとも潜在的には完全な胚へと発生する能力を保持している。
【0004】
一般にiPS細胞又はiPSCと略記される人工多能性幹細胞は、非多能性細胞、一般には成体体細胞から、人工的に導かれる多能性幹細胞の一種である。人工多能性幹細胞は、ある種の幹細胞遺伝子及びタンパク質の発現、クロマチンメチル化パターン、倍加時間、胚様体形成、奇形腫形成、生存可能なキメラの形成及び潜在能及び分化能の点など、多くの点で胚性幹細胞などの天然の多能性幹細胞と同一であると考えられているが、天然の多能性幹細胞とそれらの関係は未だ評価の途上にある。
【0005】
IPS細胞は、2006年に最初にマウス細胞から作製され(非特許文献1)、2007年にヒト細胞から作製された(非特許文献2;非特許文献3)。これは、論争の的となっている胚を使用することなく、研究において重要であり、治療において使用できる可能性がある多能性幹細胞を研究者が得ることを可能にし得るため、幹細胞研究における重要な進歩として挙げられている。
【0006】
ヒトにおいて、iPS細胞は一般には真皮繊維芽細胞から作製される。しかし、皮膚生検を必要とし、インビトロで繊維芽細胞を数回継代して増殖させる必要があることから、皮膚は患者特異的な幹細胞を作製するには煩雑な供給源である。さらに、ヒト体細胞の再プログラミングのための先行方法は、体細胞をヒト対象から直接得るか又は大きな労力を要する細胞培養系で細胞を維持する必要があるため、不利である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Takahashiら、Cell,2006.126(4):663-676
【非特許文献2】Takahashiら、Cell,2007.131:861
【非特許文献3】Yuら、Science,2007.318:1917
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、単純で使い易く、容易に利用可能な代替供給源から多能性幹細胞を誘導するための方法を開発する必要がある。本発明の開発において、血液は、患者又は健常者から回収し、保管するか又は、例えば中央流通ユニットから1以上の遠隔地へ移送することができるので、発明者らは血液細胞がこのような供給源になり得ると考えた。しかし、血液細胞、特に末梢血細胞を再プログラミングするためのより効率的な方法を開発することが依然として必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の態様は、末梢血細胞を再プログラミングする全体的なプロセス効率(iPS系統の産生数に対する血液細胞投入数の変換効率)を向上させ、例えば標準的な血液試料(約8から10mLの体積中)から妥当な数のiPSコロニー(例えば少なくとも5個)を得るために必要とされる投入血液体積を減少させることである。本発明のある実施態様は、非動員末梢血から得ることができるCD34^(+)出発細胞数が少ないという欠点を克服するために、末梢血からのCD34^(+)出発細胞数を増加させることができることを活用するという点で新規である。CD34^(+)細胞を増殖させることにより、本質的にそれらの分化も引き起こすので、当業者は細胞が再プログラミングされにくくなり得ると考えるかもしれない。本発明の実施例は、増殖させた細胞から再プログラミングに十分な数が得られ、増殖させずに基本的に同一の条件で行った場合よりもかなり高い、予想外に良好な全体的プロセス効率を達成することを示す。この進歩により、本発明のある態様は、少量の末梢血から、特に動員処置していない対象からiPS細胞を作製することが可能となる。
【0010】
一方、本発明のある態様は、組成が不明確なフィーダー細胞により生じる問題及び異種由来物混入の可能性を回避するために、既知組成の細胞外マトリクス上で末梢血細胞からiPS細胞を作製するという利点を有する。さらなる態様において、本発明はまた、再プログラミングのためにベクター組み込みを使用することに関する問題も克服する。
【0011】
従って、第一の実施態様において、a)造血前駆細胞を含むヒト末梢血細胞の細胞集団を提供し;b)造血前駆細胞の増殖を促進するための条件下でその集団を培養し;c)iPS再プログラミング因子を発現する外来性エピソーム性遺伝因子又は外来性RNA遺伝因子を、増殖させた造血前駆細胞に導入し;d)基本的にフィーダー細胞不含の培養又はフィーダー細胞-馴化培地において又はゼノフリー培養において、増殖させたエピソーム含有造血前駆細胞を培養し、それにより造血前駆細胞からヒトiPS細胞を生成させる段階、の1以上を含む、造血前駆細胞からヒトiPS細胞を作製するための方法が提供される。特定の態様において、少量の血液試料、例えば10mL以下から、上記の1以上の段階を用いてiPS細胞が作製され得る。増殖段階は必ずしも必要でないことがあるが、特に血液体積が小さい場合、予想外に再プログラミング効率を大きく向上させる。
【0012】
ある態様において、細胞集団の供給源は、外部から加えた顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)又は顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)によって細胞が動員されていない1以上の対象由来である。細胞集団の供給源は、血液試料又は血液成分であり得る。適切な血液試料体積は、約1から約5mL、約1から10mL、約1から15mL又はより具体的には約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、25、30、40、50mL又はそれらにおいて導き出せる何らかの範囲であり得る。この細胞集団は、凍結保存血液試料から得ることができるか又は、細胞集団の供給源又は細胞集団は凍結保存されているものであり得る。
【0013】
例えば、本細胞集団は、少なくとも、約又は最大で1x10^(3)、2x10^(3)、3x10^(3)、4x10^(3)、5x10^(3)、6x10^(3)、7x10^(3)、8x10^(3)、9x10^(3)、1x10^(4)、2x10^(4)、3x10^(4)、4x10^(3)、5x10^(4)、6x10^(4)、7x10^(4)、8x10^(4)、9x10^(4)、1x10^(5)、2x10^(5)、3x10^(5)、4x10^(5)、5x10^(5)、6x10^(5)、7x10^(5)、8x10^(5)、9x10^(5)、1x10^(6)、2x10^(6)個の造血前駆細胞又はそれらにおいて導き出せる何らかの範囲を含み得る。ある態様において、増殖又は再プログラミング前の出発細胞は、少なくとも又は約10^(3)、10^(4)、10^(5)、10^(6)、10^(7)、10^(8)、10^(9)、10^(10)、10^(11)、10^(12)、10^(13)個の細胞又はそれらにおいて導き出せる何らかの範囲を含み得る。この出発細胞集団の播種密度は、少なくとも又は約10、10^(1)、10^(2)、10^(3)、10^(4)、10^(5)、10^(6)、10^(7)、10^(8)個/mL又はそれらにおいて導き出せる何らかの範囲であり得る。8から10mLの標準的な血液試料には6から12,000個のCD34^(+)細胞が含まれ得、通常これはiPS細胞コロニーを得るための再プログラミングに十分ではない。しかし、本発明のあるいくつかの態様は、十分な数まで前駆細胞を増殖させ、iPS細胞作製を成功させるために増殖細胞を再プログラミングするための方法を提供する。特定の態様において、本細胞集団は、基本的にT細胞又はB細胞のような最終分化した血液細胞の何れも含み得ず、従ってこれら由来のiPS細胞は、遺伝子再配列なく完全なゲノムを有し得る。
【0014】
本方法の段階a)において、造血前駆細胞を単離するために有用なあらゆる方法を使用し得る。例えば、このような単離は、表面マーカー発現に基づき得、これにはCD34発現の陽性選択及び/又は系統特異的マーカー発現の陰性選択が含まれ得る。選択方法には、磁気活性化細胞分類(Magnetic-activated cell sorting、MACS(登録商標))又は蛍光活性化細胞分類(FACS(商標)、即ちフローサイトメトリー)が含まれ得る。
【0015】
造血前駆細胞の増殖又は最初の回復段階における再プログラム化造血前駆細胞の培養に対して、幹細胞因子(SCF)、Flt-3リガンド(Flt3L)、トロンボポエチン(TPO)、インターロイキン3(IL-3)又はインターロイキン6(IL-6)を含む1以上のサイトカインを含む増殖培地を含む条件下で細胞を培養し得る。増殖条件には、固定化した改変NotchリガンドなどのNotch-1リガンドをさらに含んでもよいし(Delta 1 ext-IgG;Delaneyら、2010)又は、目的に対して末梢性であることが明示される場合はこのようなNotch-1リガンドを含まなくてもよい。再プログラミング段階前に、約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25日間又はそれらにおいて導き出せる何らかの範囲にわたり細胞を増殖させ得る。例えば、増殖相の第3、4、5又は6日前後に再プログラミング因子を細胞に導入し得る。
【0016】
造血前駆細胞に対する増殖条件は、マトリクス成分を基本的に何ら含まなくてもよいし、又は、あるいはレトロネクチン(登録商標)のようなヒトフィブロネクチン断片などの、既知組成であるか又はゼノフリーの細胞外マトリクスを含んでもよい。
【0017】
造血前駆細胞のインビボでの微小環境を模倣することによって造血前駆細胞のインビトロ増殖を促進するために、造血前駆細胞の増殖又は最初の回復段階における再プログラム化造血前駆細胞の培養のための条件は、低酸素条件、例えば約1から7%酸素分圧、特に約2から5%酸素であり得る。
【0018】
本発明のまたさらなる態様において、エレクトロポレーション又は脂質介在性遺伝子送達など、外来性遺伝因子を細胞に導入するために何らかの方法を使用することができる。
【0019】
ある態様において、エピソーム性遺伝因子は、再プログラミング因子の発現のための複製開始点及び1以上の発現カセットを含み得る。このような1以上の発現カセットは、染色体外鋳型を複製するための複製開始点に結合するトランス作用因子をコードするヌクレオチド配列をさらに含み得る。あるいは、末梢血細胞がこのようなトランス作用因子を発現し得る。
【0020】
代表的な実施態様において、複製開始点は、リンパ球向性ヘルペスウイルス又はガンマヘルペスウイルス、アデノウイルス、SV40、ウシ乳頭腫ウイルス又は酵母の複製開始点、例えば、EBVのoriPに対応する、リンパ球向性ヘルペスウイルス又はガンマヘルペスウイルスの複製開始点などであり得る。さらなる態様において、リンパ球向性ヘルペスウイルスは、エプスタインバーウイルス(EBV)、カポジ肉腫ヘルペスウイルス(KSHV)、リスザルヘルペスウイルス(HS)又はマレック病ウイルス(MDV)であり得る。
【0021】
外来性エピソーム性遺伝因子の複製及び一過性の維持のために、トランス作用因子は、好ましくはEBVのOriPに対応する複製開始点の存在下で、EBVのEBNA-1(EBV核抗原1)の野生型タンパク質に対応するポリペプチド又はその誘導体であり得る。誘導体は、野生型EBNA-1と比較した場合に、組み込まれた鋳型からの転写に対する活性化能が低下しており、従って染色体遺伝子を異所性に活性化して癌化を引き起こす確率が低下しているものであり得る。その一方、誘導体は、その誘導体が複製開始点に結合した後、対応する野生型タンパク質の少なくとも5%、染色体外鋳型からの転写を活性化し得る。
【0022】
造血前駆細胞の再プログラミングに対して、本発明の方法のある態様は、Sox、Oct、Nanog、Lin-28、Klf4及びC-mycもしくはL-mycの何れか又はそれらの組み合わせからなる群から選択される1以上、例えばSox、Oct、Nanog及び場合によってはLin-28のセット、Sox、Oct、Klf4及び場合によってはC-mycもしくはL-mycのセット又はこれらの6因子の組み合わせを含み得る再プログラミング因子を使用することを含み得る。ある態様において、C-myc発現の毒性作用の可能性を低下させるために、SV40ラージT遺伝子(SV40LT)がC-mycとともに含まれ得る。特定の態様において、外来性エレメントはDNA又はRNAの何れでも、同じ転写制御エレメント下で、2以上の再プログラミング因子遺伝子など、1以上のポリシストロニックなカセットを含み得る。
【0023】
いくつかのさらなる態様において、外来性再プログラミング因子が導入されている造血前駆細胞をゼノフリー細胞外マトリクスの存在下で培養し得る。ヒト細胞の場合、ゼノフリーマトリクスは、ヒトではない動物の成分を基本的に含まない細胞外マトリクスとして定義される。特定の態様において、このマトリクスは、例えば、ヒトフィブロネクチン断片、例えばレトロネクチン(登録商標)など、単一タイプの細胞外マトリクスペプチドを有するものとされ得る。
【0024】
さらに、再プログラミングのための外来性遺伝因子導入後の段階d)において、複数の異なる条件下で細胞を培養し得る。再プログラミング因子導入直後の第一のサブ段階において、上述のような造血前駆細胞増殖培地又は再プログラミング培地、それらの組み合わせ又はそれらの同等物中で細胞を培養し得る。例えば、造血前駆細胞の回復のために、幹細胞因子(SCF)、Flt-3リガンド(Flt3L)、トロンボポエチン(TPO)、インターロイキン3(IL-3)又はインターロイキン6(IL-6)を含む1以上のサイトカインを含む培地を含む条件下で細胞を培養し得る。このサブ段階は、約、短くても又は長くても2、4、8、12、16、24、32、48、96時間又はそれらにおいて導き出せる何らかの範囲にわたり続き得る。このサブ段階において、マトリクス成分は任意であり得る。このサブ段階後、マトリクス上にない場合は細胞をマトリクスに移し得る。
【0025】
増殖培地;再プログラミング培地、例えば再プログラミングを効率的に促進するためにGSK-3阻害剤、MEK阻害剤、TGF-β受容体阻害剤、ミオシンII ATPase阻害剤及び/又はRho結合キナーゼ(ROCK)シグナル伝達阻害剤を含む培地など;それらの組み合わせ又はそれらの同等物を含む条件下で細胞をさらに培養し、続いて100%再プログラミング培地に移し得る。例えばGSK-3阻害剤はCHIR99021であり得;MEK阻害剤はPD0325901であり得;TGF-β受容体阻害剤はA-83-01であり得;ミオシンII ATPase阻害剤はブレビスタチンであり得;ROCK阻害剤はHA-100又はH1152であり得る。このサブ段階は、約、短くても又は長くても、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20日間又はそれらにおいて導き出せる何らかの範囲にわたり続き得る。いくつかの態様において、この再プログラミング培地は、化学的に既知組成でもよいし、TeSR培地、ヒト胚細胞培養液又はN2B27培地に基づいていてもよい。さらなる態様において、好ましくは徐々に、基本的にGSK-3阻害剤、MEK阻害剤、ミオシンII ATPase阻害剤及びTGF-β受容体阻害剤などの外部から加えられたシグナル伝達阻害剤を含まない培地に細胞を移し得る。このような培地は、TeSR2又はその他の幹細胞培地であり得、好ましくは化学的に既知組成であり得る。
【0026】
何れかの段階もしくはサブ段階に対するか又はプロセス全体にわたる何れの培地、培養物又はマトリクスも、ゼノフリー又は既知組成のものであり得る。培地は、TeSR(商標)培地など、化学的に既知組成であり得る。
【0027】
ある態様において、本方法は、例えば、ES細胞様の形態など、1以上の胚細胞の特徴に基づきiPS細胞を選択することをさらに含み得る。さらなる態様において、本方法は、GSK-3阻害剤、MEK阻害剤、ミオシンII ATPase阻害剤、TGF-β受容体阻害剤、Rho結合キナーゼ(ROCK)シグナル伝達阻害剤、場合によっては白血病抑制因子(LIF)又はそれらの組み合わせからなる群から選択される1以上のものを含むiPS細胞増殖培地中で、選択したiPS細胞を培養することを含み得る。
【0028】
上記方法に従い作製されるiPS細胞の集団も提供し得る。
【0029】
造血前駆細胞を含むヒト末梢血細胞の細胞集団及びその子孫細胞、ゼノフリー細胞外マトリクス及び培地を含む細胞培養組成物も提供され得、この造血前駆細胞には、再プログラミング因子を発現する1以上の外来性エピソーム性又はRNA遺伝因子が含まれる。特に、マトリクスは既知組成のものであり得る。例えば、本マトリクスは、組み換えフィブロネクチン断片など、単一タイプの細胞外マトリクスペプチドを有し得る。組み換えフィブロネクチン断片はレトロネクチン(登録商標)であり得る。さらなる態様において、本細胞培養組成物はゼノフリー又は既知組成であり得る。本培養組成物に含まれる培地はゼノフリー又は化学的に既知組成であり得る。このような培地は、再プログラム化造血前駆細胞の初期段階のための、幹細胞因子(SCF)、Flt-3リガンド(Flt3L)、トロンボポエチン(TPO)、インターロイキン3(IL-3)又はインターロイキン6(IL-6)を含む1以上のサイトカインを含み得る。この培養組成物はまた、固定化改変Notchリガンド(Delta 1 ext-IgG;Delaneyら、2010)などのNotch-1リガンドも含み得る。再プログラミング効率を向上させるために、培地には、GSK-3阻害剤、MEK阻害剤、TGF-β受容体阻害剤、ミオシンII ATPase阻害剤及び/又はRho結合キナーゼ(ROCK)シグナル伝達阻害剤が含まれ得る。
【0030】
細胞培養組成物中で、ヒト末梢血細胞の細胞集団は、外部から加えられる顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)又は顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)で細胞が動員されていない1以上の対象由来であり得る。造血前駆細胞は、インビトロで、例えば幹細胞因子(SCF)、Flt-3リガンド(Flt3L)、トロンボポエチン(TPO)、インターロイキン3(IL-3)又はインターロイキン6(IL-6)を含む1以上のサイトカインの存在下で増殖させたものであり得る。増殖培養は浮遊細胞培養であり得、上述のような何れの基質又はマトリクスも使用する必要がない場合がある。本細胞集団の供給源は、血液試料又は血液成分であり得る。血液試料の適切な体積は、約1から約5mL、約1から10mL、約1から15mL又はより具体的には約3,4,5,6,7,8、9、10mL又はそれらにおいて導き出せる何らかの範囲であり得る。本細胞集団は凍結保存血液試料から得られ得るか又は、細胞集団の供給源もしくは本細胞集団は凍結保存されたものであり得る。
【0031】
本発明の方法及び/又は組成物に関して論じる実施態様は、本明細書中に記載の何らかのその他の方法又は組成物に対して使用され得る。従って、ある方法又は組成物に関する実施態様は、本発明の他の方法及び組成物にも同様に適用され得る。
【0032】
本明細書中で使用される場合、核酸に関して「コードする(「encode」又は「encoding」)」という用語は、本発明を当業者により容易に理解可能とするために使用するが、これらの用語は、それぞれ「を含む(「comprise」又は「comprising」)」とともに交換可能に使用され得る。
【0033】
本明細書中で使用される場合、「a」又は「an」という指定は1以上を意味し得る。特許請求の範囲において本明細書中で使用される場合、「を含む」という語と組み合わせて使用される場合、「a」又は「an」は、1であるか又は1より大きいことを意味し得る。
【0034】
特許請求の範囲における「又は」という用語の使用は、代替物のみに言及することが明確に示されない限り又は代替物が相互に排他的でない限り、「及び/又は」という意味のために使用されるが、本開示は、代替物のみ及び「及び/又は」を指す定義を支持する。本明細書中で使用される場合、「別の」は、少なくとも2番目又はそれ以降を意味し得る。
【0035】
本願を通じて、「約」という用語は、値が、値を測定するために使用される装置、方法に対する固有の誤差変動又は研究対象物の間に存在する変動を含むことを指すために使用される。
【0036】
本発明のその他の目的、特性及び長所は、続く詳細な説明から明らかになろう。しかし、詳細な説明及び具体例は本発明の好ましい実施態様を示してはいるが、この詳細な説明から本発明の精神及び範囲内の様々な変更及び改変が当業者にとって明らかとなろうから、単なる例示に過ぎないことを理解されたい。
例えば、本願発明は以下の項目を提供する。
(項目1)
a)造血前駆細胞を含むヒト末梢血細胞の細胞集団を提供し、
b)その造血前駆細胞の増殖を促進するための増殖条件下でその集団を培養し、
c)iPS再プログラミング因子を発現する外来性エピソーム性遺伝因子又は外来性RNA遺伝因子をその増殖造血前駆細胞に導入し、
d)ゼノフリー培養においてその増殖造血前駆細胞を培養し、それによりその造血前駆細胞からヒトiPS細胞を作製させる、
段階を含む、造血前駆細胞からヒトiPS細胞を作製するためのインビトロの方法。
(項目2)
前記細胞集団が、外部から加えられた顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)又は顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)で細胞が動員されていない1以上の対象由来である、項目1に記載の方法。
(項目3)
前記細胞集団が、体積約10mL以下の血液試料中に含まれる、項目1から項目2の何れかに記載の方法。
(項目4)
前記増殖条件が、幹細胞因子(SCF)、Flt-3リガンド(Flt3L)、トロンボポエチン(TPO)、インターロイキン3(IL-3)又はインターロイキン6(IL-6)を含む1以上のサイトカインを含む増殖培地を含む、項目1から項目3の何れかに記載の方法。
(項目5)
前記増殖条件がNotch-1リガンドを含まない、項目1から項目4の何れかに記載の方法。
(項目6)
段階b)の前記増殖条件が、既知組成の細胞外マトリクスを含む、項目1から項目5の何れかに記載の方法。
(項目7)
段階b)の前記増殖条件がマトリクスを含まない、項目1から項目5の何れかに記載の方法。
(項目8)
段階b)における条件の又は段階d)の培養の酸素分圧が7%以下である、項目1から項目7の何れかに記載の方法。
(項目9)
前記再プログラミング因子が、Sox、Oct、Nanog、Lin-28、Klf4、C-myc(又はL-myc)、SV40ラージT抗原又はそれらの組み合わせである、項目1から項目8の何れかに記載の方法。
(項目10)
前記外来性エピソーム性遺伝因子又は外来性RNA遺伝因子が、1以上のポリシストロニックなカセットを有する、項目1から項目9の何れかに記載の方法。
(項目11)
前記段階c)が、前記増殖段階b)の第3、4、5又は6日前後に行われる、項目1から項目10の何れかに記載の方法。
(項目12)
前記段階c)の増殖造血前駆細胞の出発数が、約10^(4)個から約10^(5)個である、項目1から項目11の何れかに記載の方法。
(項目13)
前記段階d)の培養が、既知組成の細胞外マトリクスを含む、項目1から項目12の何れかに記載の方法。
(項目14)
前記既知組成の細胞外マトリクスが、単一タイプの細胞外マトリクスペプチドを有する、項目1から項目13の何れかに記載の方法。
(項目15)
前記既知組成の細胞外マトリクスがヒトフィブロネクチン断片である、項目1から項目14の何れかに記載の方法。
(項目16)
前記段階の1以上における培地が化学的に既知組成である、項目1から項目15の何れかに記載の方法。
(項目17)
e)iPS細胞について選択することをさらに含む、項目1から項目16の何れかに記載の方法。
(項目18)
a)体積が10mL以下である、造血前駆細胞を含む末梢血試料を提供し;
b)iPS再プログラミング因子を発現する外来性エピソーム性遺伝因子又は外来性RNA遺伝因子をその造血前駆細胞に導入し;
c)ゼノフリー培養においてその造血前駆細胞を培養し、それによってその末梢血試料からヒトiPS細胞を生成させる、
段階を含む、末梢血試料からヒトiPS細胞を作製するためのインビトロでの方法。
(項目19)
前記段階b)の前に前記造血前駆細胞の増殖を促進するための増殖条件下でその造血前駆細胞を培養することをさらに含む、項目18に記載の方法。
(項目20)
造血前駆細胞を含むヒト末梢血細胞の細胞集団及びその子孫細胞と、ゼノフリー細胞外マトリクスと、ゼノフリー培地と、を含み、その造血前駆細胞が、再プログラミング因子を発現する1以上の外来性エピソーム性遺伝因子又は外来性RNA遺伝因子を含む、インビトロ細胞培養組成物。
【0037】
次の図面は本明細書の一部をなすものであり、本発明のある態様をさらに明らかにするために含まれる。本明細書中で与えられる具体的な実施態様の詳細な説明と合わせてこれらの図面の1以上を参照することによって、本発明がより詳細に理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】典型的な再プログラミングプロセスの概略図。標準的な方式において、8mLバイアルの全血を処理してPBMCを得て、これを凍結するか又はCD34発現細胞を濃縮するために新鮮血を精製する。次に、形質移入のための最適数の細胞を得るため、増殖期用にこれらの細胞を播種する。次いで、100%新鮮増殖培地中で又は低分子物と混合した再プログラミング培地と組み合わせて、形質移入細胞を再懸濁する。少なくとも48時間内に、細胞を既知組成のフィーダーフリーマトリクスに移し、低分子物と混合した100%再プログラミング培地を1日おきに供給する。形質移入からおよそ9から14日後(dpt)、培養物に低分子不含の既知組成の多能性幹細胞培地(即ちTeSR2)を供給する。次に、iPSコロニーを同定するために、Tra1-81で18から25dptまでにコロニーを染色する。
【図2A】造血前駆細胞(HP)は、非動員血液ドナーから増殖可能である。図2Aは、3種類の試験条件を用いた、単一の非動員血液ドナーからのHPの増殖を示す。各条件は、サイトカイン富化培地に依存する一方、マトリクスは、マトリクス-不含、フィブロネクチン被覆(Notch-)及びフィブロネクチン/DLL-1被覆(Notch+)と様々であった。図2Bは、前駆細胞がより分化した細胞型へと変化していく際に起こるCD34発現の自然減少を示す。CD45発現は一般に造血系細胞の指標である。増殖中に10日目に採取した同じドナーからの細胞は、B、T及びNKマーカーの発現がごく僅かであるか又はない(データを示さず。)という、本質的に主に骨髄である発現プロファイルを示した(図2C)。さらに、本明細書中で、増殖が複数のドナーにわたり一致するが、その増殖の度合いは、患者試料間で変動があることが分かった(図2D)。複数の再プログラミング実験を行うためにより多数の細胞を確立するために、5名のドナーのプールを作った。このプールに対して増殖能を2回調べた(複製物1及び2、R1及びR2)(
図2E)。
【図2B】造血前駆細胞(HP)は、非動員血液ドナーから増殖可能である。図2Aは、3種類の試験条件を用いた、単一の非動員血液ドナーからのHPの増殖を示す。各条件は、サイトカイン富化培地に依存する一方、マトリクスは、マトリクス-不含、フィブロネクチン被覆(Notch-)及びフィブロネクチン/DLL-1被覆(Notch+)と様々であった。図2Bは、前駆細胞がより分化した細胞型へと変化していく際に起こるCD34発現の自然減少を示す。CD45発現は一般に造血系細胞の指標である。増殖中に10日目に採取した同じドナーからの細胞は、B、T及びNKマーカーの発現がごく僅かであるか又はない(データを示さず。)という、本質的に主に骨髄である発現プロファイルを示した(図2C)。さらに、本明細書中で、増殖が複数のドナーにわたり一致するが、その増殖の度合いは、患者試料間で変動があることが分かった(図2D)。複数の再プログラミング実験を行うためにより多数の細胞を確立するために、5名のドナーのプールを作った。このプールに対して増殖能を2回調べた(複製物1及び2、R1及びR2)(図2E)。
【図2C】造血前駆細胞(HP)は、非動員血液ドナーから増殖可能である。図2Aは、3種類の試験条件を用いた、単一の非動員血液ドナーからのHPの増殖を示す。各条件は、サイトカイン富化培地に依存する一方、マトリクスは、マトリクス-不含、フィブロネクチン被覆(Notch-)及びフィブロネクチン/DLL-1被覆(Notch+)と様々であった。図2Bは、前駆細胞がより分化した細胞型へと変化していく際に起こるCD34発現の自然減少を示す。CD45発現は一般に造血系細胞の指標である。増殖中に10日目に採取した同じドナーからの細胞は、B、T及びNKマーカーの発現がごく僅かであるか又はない(データを示さず。)という、本質的に主に骨髄である発現プロファイルを示した(図2C)。さらに、本明細書中で、増殖が複数のドナーにわたり一致するが、その増殖の度合いは、患者試料間で変動があることが分かった(図2D)。複数の再プログラミング実験を行うためにより多数の細胞を確立するために、5名のドナーのプールを作った。このプールに対して増殖能を2回調べた(複製物1及び2、R1及びR2)(図2E)。
【図2D】造血前駆細胞(HP)は、非動員血液ドナーから増殖可能である。図2Aは、3種類の試験条件を用いた、単一の非動員血液ドナーからのHPの増殖を示す。各条件は、サイトカイン富化培地に依存する一方、マトリクスは、マトリクス-不含、フィブロネクチン被覆(Notch-)及びフィブロネクチン/DLL-1被覆(Notch+)と様々であった。図2Bは、前駆細胞がより分化した細胞型へと変化していく際に起こるCD34発現の自然減少を示す。CD45発現は一般に造血系細胞の指標である。増殖中に10日目に採取した同じドナーからの細胞は、B、T及びNKマーカーの発現がごく僅かであるか又はない(データを示さず。)という、本質的に主に骨髄である発現プロファイルを示した(図2C)。さらに、本明細書中で、増殖が複数のドナーにわたり一致するが、その増殖の度合いは、患者試料間で変動があることが分かった(図2D)。複数の再プログラミング実験を行うためにより多数の細胞を確立するために、5名のドナーのプールを作った。このプールに対して増殖能を2回調べた(複製物1及び2、R1及びR2)(図2E)。
【図2E】造血前駆細胞(HP)は、非動員血液ドナーから増殖可能である。図2Aは、3種類の試験条件を用いた、単一の非動員血液ドナーからのHPの増殖を示す。各条件は、サイトカイン富化培地に依存する一方、マトリクスは、マトリクス-不含、フィブロネクチン被覆(Notch-)及びフィブロネクチン/DLL-1被覆(Notch+)と様々であった。図2Bは、前駆細胞がより分化した細胞型へと変化していく際に起こるCD34発現の自然減少を示す。CD45発現は一般に造血系細胞の指標である。増殖中に10日目に採取した同じドナーからの細胞は、B、T及びNKマーカーの発現がごく僅かであるか又はない(データを示さず。)という、本質的に主に骨髄である発現プロファイルを示した(図2C)。さらに、本明細書中で、増殖が複数のドナーにわたり一致するが、その増殖の度合いは、患者試料間で変動があることが分かった(図2D)。複数の再プ
ログラミング実験を行うためにより多数の細胞を確立するために、5名のドナーのプールを作った。このプールに対して増殖能を2回調べた(複製物1及び2、R1及びR2)(図2E)。
【図3】造血前駆細胞(HP)の形質移入のためのベクター。細胞の再プログラミングを成功させるために、GFP発現対照プラスミド又は再プログラミングのための因子を発現するプラスミドの組み合わせの何れかを用いてHPに対してエレクトロポレーションにより形質移入を行う。首尾よく使用されてきた再プログラミング因子の様々な組み合わせを発現させるために使用することができるプラスミドの組み合わせは複数あり、このようなプラスミドの例を本明細書中で示す。各プラスミドは、oriP及び、形質移入細胞内にプラスミドが確実に保持されるようにするためにEBNA1を発現するカセットを有する。
【図4】ポリシストロニックなベクターに対するベクターマップ-セット1及びセット2。
【図5A】再プログラミングのための投入細胞数及び形質移入効率の最適化。図5A.ドナーGG(ロイコパックソース)由来のPBMCからの精製細胞を6日間増殖させた。GFPを発現する、対照のoriP/EBNA1-ベースのプラスミドを用いて、一連の細胞数に対して形質移入を行った。フローサイトメトリーにより検出されるGFPを発現する生存細胞の%を計算することによって、形質移入効率を求めた。図5B.PBMC(ドナーA2389)からの精製細胞を3日又は6日間増殖させ、対照のGFP-発現プラスミドを用いて6x10^(4)から1x10^(5)個の細胞に対して形質移入を行った。このグラフは、GFP-陽性である集団全体の%及び総細胞の絶対数を示す。図5C.このグラフは、増殖3日又は6日で形質移入した場合のGFP及びCD34も共発現するbの細胞分画を表す。図5D.形質移入のために組み合わせプラスミドセット2を用いた新鮮採血血液(ドナー3002)からの代表的な再プログラミング試験。アルカリホスファターゼ活性(i)に対する陽性染色コロニーを含有する6ウェルプレートから、1つのウェルを示す。白矢印は、パネルiiで拡大したコロニーを示すが、これはまたパネルiiiでTra1-81発現について陽性染色されている。図5E.6日間にわたり増殖させた一連の投入細胞数に対して、プラスミドセット2を用いて再プログラミング試験を行った(ドナーGG)。図5F.4名の異なるドナーから精製したCD34発現細胞を6日間にわたり増殖させ、比較するためにC-myc(セット1)又はL-myc(セット2)を発現するプラスミドの組み合わせを用いて形質移入を行い、iPSCの総数を比較した。
【図5B】再プログラミングのための投入細胞数及び形質移入効率の最適化。図5A.ドナーGG(ロイコパックソース)由来のPBMCからの精製細胞を6日間増殖させた。GFPを発現する、対照のoriP/EBNA1-ベースのプラスミドを用いて、一連の細胞数に対して形質移入を行った。フローサイトメトリーにより検出されるGFPを発現する生存細胞の%を計算することによって、形質移入効率を求めた。図5B.PBMC(ドナーA2389)からの精製細胞を3日又は6日間増殖させ、対照のGFP-発現プラスミドを用いて6x10^(4)から1x10^(5)個の細胞に対して形質移入を行った。このグラフは、GFP-陽性である集団全体の%及び総細胞の絶対数を示す。図5C.このグラフは、増殖3日又は6日で形質移入した場合のGFP及びCD34も共発現するbの細胞分画を表す。図5D.形質移入のために組み合わせプラスミドセット2を用いた新鮮採血血液(ドナー3002)からの代表的な再プログラミング試験。アルカリホスファターゼ活性(i)に対する陽性染色コロニーを含有する6ウェルプレートから、1つのウェルを示す。白矢印は、パネルiiで拡大したコロニーを示すが、これはまたパネルiiiでTra1-81発現について陽性染色されている。図5E.6日間にわたり増殖させた一連の投入細胞数に対して、プラスミドセット2を用いて再プログラミング試験を行った(ドナーGG)。図5F.4名の異なるドナーから精製したCD34発現細胞を6日間にわたり増殖させ、比較するためにC-myc(セット1)又はL-myc(セット2)を発現するプラスミドの組み合わせを用いて形質移入を行い、iPSCの総数を比較した。
【図5C】再プログラミングのための投入細胞数及び形質移入効率の最適化。図5A.ド
ナーGG(ロイコパックソース)由来のPBMCからの精製細胞を6日間増殖させた。GFPを発現する、対照のoriP/EBNA1-ベースのプラスミドを用いて、一連の細胞数に対して形質移入を行った。フローサイトメトリーにより検出されるGFPを発現する生存細胞の%を計算することによって、形質移入効率を求めた。図5B.PBMC(ドナーA2389)からの精製細胞を3日又は6日間増殖させ、対照のGFP-発現プラスミドを用いて6x10^(4)から1x10^(5)個の細胞に対して形質移入を行った。このグラフは、GFP-陽性である集団全体の%及び総細胞の絶対数を示す。図5C.このグラフは、増殖3日又は6日で形質移入した場合のGFP及びCD34も共発現するbの細胞分画を表す。図5D.形質移入のために組み合わせプラスミドセット2を用いた新鮮採血血液(ドナー3002)からの代表的な再プログラミング試験。アルカリホスファターゼ活性(i)に対する陽性染色コロニーを含有する6ウェルプレートから、1つのウェルを示す。白矢印は、パネルiiで拡大したコロニーを示すが、これはまたパネルiiiでTra1-81発現について陽性染色されている。図5E.6日間にわたり増殖させた一連の投入細胞数に対して、プラスミドセット2を用いて再プログラミング試験を行った(ドナーGG)。図5F.4名の異なるドナーから精製したCD34発現細胞を6日間にわたり増殖させ、比較するためにC-myc(セット1)又はL-myc(セット2)を発現するプラスミドの組み合わせを用いて形質移入を行い、iPSCの総数を比較した。
【図5D】再プログラミングのための投入細胞数及び形質移入効率の最適化。図5A.ドナーGG(ロイコパックソース)由来のPBMCからの精製細胞を6日間増殖させた。GFPを発現する、対照のoriP/EBNA1-ベースのプラスミドを用いて、一連の細胞数に対して形質移入を行った。フローサイトメトリーにより検出されるGFPを発現する生存細胞の%を計算することによって、形質移入効率を求めた。図5B.PBMC(ドナーA2389)からの精製細胞を3日又は6日間増殖させ、対照のGFP-発現プラスミドを用いて6x10^(4)から1x10^(5)個の細胞に対して形質移入を行った。このグラフは、GFP-陽性である集団全体の%及び総細胞の絶対数を示す。図5C.このグラフは、増殖3日又は6日で形質移入した場合のGFP及びCD34も共発現するbの細胞分画を表す。図5D.形質移入のために組み合わせプラスミドセット2を用いた新鮮採血血液(ドナー3002)からの代表的な再プログラミング試験。アルカリホスファターゼ活性(i)に対する陽性染色コロニーを含有する6ウェルプレートから、1つのウェルを示す。白矢印は、パネルiiで拡大したコロニーを示すが、これはまたパネルiiiでTra1-81発現について陽性染色されている。図5E.6日間にわたり増殖させた一連の投入細胞数に対して、プラスミドセット2を用いて再プログラミング試験を行った(ドナーGG)。図5F.4名の異なるドナーから精製したCD34発現細胞を6日間にわたり増殖させ、比較するためにC-myc(セット1)又はL-myc(セット2)を発現するプラスミドの組み合わせを用いて形質移入を行い、iPSCの総数を比較した。
【図5E】再プログラミングのための投入細胞数及び形質移入効率の最適化。図5A.ドナーGG(ロイコパックソース)由来のPBMCからの精製細胞を6日間増殖させた。GFPを発現する、対照のoriP/EBNA1-ベースのプラスミドを用いて、一連の細胞数に対して形質移入を行った。フローサイトメトリーにより検出されるGFPを発現する生存細胞の%を計算することによって、形質移入効率を求めた。図5B.PBMC(ドナーA2389)からの精製細胞を3日又は6日間増殖させ、対照のGFP-発現プラスミドを用いて6x10^(4)から1x10^(5)個の細胞に対して形質移入を行った。このグラフは、GFP-陽性である集団全体の%及び総細胞の絶対数を示す。図5C.このグラフは、増殖3日又は6日で形質移入した場合のGFP及びCD34も共発現するbの細胞分画を表す。図5D.形質移入のために組み合わせプラスミドセット2を用いた新鮮採血血液(ドナー3002)からの代表的な再プログラミング試験。アルカリホスファターゼ活性(i)に対する陽性染色コロニーを含有する6ウェルプレートから、1つのウェルを示す。白矢印は、パネルiiで拡大したコロニーを示すが、これはまたパネルiiiでTra1-81発現について陽性染色されている。図5E.6日間にわたり増殖させた一連の投入細胞数に対して、プラスミドセット2を用いて再プログラミング試験を行った(ドナー
GG)。図5F.4名の異なるドナーから精製したCD34発現細胞を6日間にわたり増殖させ、比較するためにC-myc(セット1)又はL-myc(セット2)を発現するプラスミドの組み合わせを用いて形質移入を行い、iPSCの総数を比較した。
【図5F】再プログラミングのための投入細胞数及び形質移入効率の最適化。図5A.ドナーGG(ロイコパックソース)由来のPBMCからの精製細胞を6日間増殖させた。GFPを発現する、対照のoriP/EBNA1-ベースのプラスミドを用いて、一連の細胞数に対して形質移入を行った。フローサイトメトリーにより検出されるGFPを発現する生存細胞の%を計算することによって、形質移入効率を求めた。図5B.PBMC(ドナーA2389)からの精製細胞を3日又は6日間増殖させ、対照のGFP-発現プラスミドを用いて6x10^(4)から1x10^(5)個の細胞に対して形質移入を行った。このグラフは、GFP-陽性である集団全体の%及び総細胞の絶対数を示す。図5C.このグラフは、増殖3日又は6日で形質移入した場合のGFP及びCD34も共発現するbの細胞分画を表す。図5D.形質移入のために組み合わせプラスミドセット2を用いた新鮮採血血液(ドナー3002)からの代表的な再プログラミング試験。アルカリホスファターゼ活性(i)に対する陽性染色コロニーを含有する6ウェルプレートから、1つのウェルを示す。白矢印は、パネルiiで拡大したコロニーを示すが、これはまたパネルiiiでTra1-81発現について陽性染色されている。図5E.6日間にわたり増殖させた一連の投入細胞数に対して、プラスミドセット2を用いて再プログラミング試験を行った(ドナーGG)。図5F.4名の異なるドナーから精製したCD34発現細胞を6日間にわたり増殖させ、比較するためにC-myc(セット1)又はL-myc(セット2)を発現するプラスミドの組み合わせを用いて形質移入を行い、iPSCの総数を比較した。
【図6】BSA-含有サプリメントB27の非存在下でiPSCの生成が起こる。
【図7A】CD34発現量は再プログラミング効率と相関する。図7A.代表的な再プログラミング試験であり、再プログラミングのために精製後のCD34陽性(i)及び陰性(ii)分画の両方を使用した。パネル(i)は、コロニーがアルカリホスファターゼ(AP染色、青色)を発現する能力に基づく、ドナー2939からの再プログラム化コロニーを首尾よく含有する6ウェルプレートの1つのウェルを示す。ドナー2939からのCD34枯渇分画は、精製集団パネルiiと並行して行った際にAP染色されないことにより示されるようにコロニーを形成することができなかった。パネルiii及びivは白矢印により目印を付けたパネル(i)のコロニーの拡大写真であり、Tra1-81(緑色)の発現を示す。図7B.4名の異なる血液ドナーから精製した細胞を3、6、9又は13日間にわたり増殖させた。フィーダーフリーの再プログラミングプロトコールにおいて、L-myc発現プラスミドDNAの組み合わせセット2を用いて、全時間点又は時間点の一部からの細胞集団を試験した。ES細胞の特徴である形態特性及びTra1-81に対する陽性染色能を示すiPSCの総数を形質移入に使用される細胞総数により除したものとして、再プログラミング効率を計算した。黒四角は、指示された時間点でのCD34発現集団の%を示す。
【図7B】CD34発現量は再プログラミング効率と相関する。図7A.代表的な再プログラミング試験であり、再プログラミングのために精製後のCD34陽性(i)及び陰性(ii)分画の両方を使用した。パネル(i)は、コロニーがアルカリホスファターゼ(AP染色、青色)を発現する能力に基づく、ドナー2939からの再プログラム化コロニーを首尾よく含有する6ウェルプレートの1つのウェルを示す。ドナー2939からのCD34枯渇分画は、精製集団パネルiiと並行して行った際にAP染色されないことにより示されるようにコロニーを形成することができなかった。パネルiii及びivは白矢印により目印を付けたパネル(i)のコロニーの拡大写真であり、Tra1-81(緑色)の発現を示す。図7B.4名の異なる血液ドナーから精製した細胞を3、6、9又は13日間にわたり増殖させた。フィーダーフリーの再プログラミングプロトコールにおいて、L-myc発現プラスミドDNAの組み合わせセット2を用いて、全時間点又は時間点の一部からの細胞集団を試験した。ES細胞の特徴である形態特性及びTra1-81に対する陽性染色能を示すiPSCの総数を形質移入に使用される細胞総数により除したも
のとして、再プログラミング効率を計算した。黒四角は、指示された時間点でのCD34発現集団の%を示す。
【図8】完全既知組成の試薬(動物由来物質不含)を用いた血液細胞由来iPSC。図8A.増殖6日後の、標準的な(n=13)及び完全既知組成の動物由来物質不含培地(n=2)中での、複数のドナーから集めたCD34発現細胞の倍単位の増殖。第6日の細胞総数を精製翌日の細胞数で除して、倍単位の増殖を計算した。%は、集団全体中のCD34発現細胞の分画を示す。図8B.この画像は、完全既知組成の動物由来物質不含試薬を用いてCD34発現について濃縮させた増殖細胞を再プログラミングした後の、アルカリホスファターゼに対して陽性染色されたコロニーを含有する6ウェルプレートのうち1つのウェルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0039】
I.導入
本発明は、末梢血細胞の再プログラミングの全体的プロセス効率を改善するための方法及び組成物に関する。このような再プログラミングは、ゼノフリー又は既知組成条件下であり得、基本的に外来性レトロウイルス遺伝因子不含であり得、従ってより臨床的に意義のあるiPS細胞が作製される。
【0040】
iPS細胞は、不明確な系及び染色体組み込みに依存するウイルスを利用した方法を含む方法を用いて誘導されることにより、その完全な臨床的関連の評価が阻まれている。例えば、マウス胚繊維芽細胞(MEF)は、MEFの存在下で馴化された再プログラミング培地とともにiPS発生を促進するための支持層として頻繁に使用されてきた。発明者らは、使用MEFの品質がバッチ間で変動し得ることにより再プログラミング効率が幾分影響を受けることを見出した。従って、MEFの再プログラミングに対する寄与は不明確であるため、その変動性を調節し、定量することは困難である。従って、結果がより予測可能となるように、組成がより明確でMEFに依存しない、操作に適した系を確立することが好ましい。複数の研究室が、マトリゲル(商標)(マウス起源)又はその誘導体(Aasen及びBelmonte、2010;Sunら、2009)などのフィーダーフリー基質を用いたiPS細胞の作製に成功しているが、末梢血細胞又はゼノフリーマトリクスを用いた研究グループはない。
【0041】
さらに、ウイルスを利用した再プログラミング法は、今まで、非組み込み法よりも効率的であることが証明されており、従ってiPS細胞を作製するためにより一貫して使用されている。残念ながら、C-myc及びT-抗原などの既知の癌遺伝子をコードする組み込みDNA保有発現カセットが存在することは、少なくとも2つの理由のために許容できない。それらが存在すると必ず、それらの遺伝子の再活性化及び発現の脅威を引き起こすが、これは臨床応用の制限のある基準内で認めることはできない。ウイルスを利用した方法により発生する組み込みが複数の、多くの場合は予測できない位置で起こり得るが、これらは、増殖又は重大な細胞プロセスを調節するために非常に重要であり得る宿主DNA内に存在する内在遺伝子の発現を混乱させ、下流分析においてこれらの細胞性能を変動させる可能性がある。従って、既知組成の条件を用いたiPS細胞作製のための非組み込みストラテジーによって、この潜在的な変動性が軽減される。
【0042】
臨床応用に対する厳しい基準に合致させるために患者特異的な細胞を提供するため、iPSクローンは、標的細胞の高い分画を含有するか又は少なくとも増殖に適している扱い易い供給源から作製され、フィーダーフリー条件又は化学的に既知組成の条件から生成され、何百もの試料にわたりスケーラブルなプロセスを介して再プログラミング可能でなければならない。血液は、世界中で日常的に患者から採取される、非常に入手し易い組織供給源であり、ウイルス性ベクターを組み込むことにより、動員及び非動員血液ドナー由来の細胞を再プログラミングすることに成功している(Lohら、2009;Yeら、2009)(PloS、印刷中)。CD34発現に対して濃縮された細胞は特に、繊維芽細胞よりも効率的に再プログラミングすることが示されている。
【0043】
しかし、CD34^(+)細胞を再プログラミングするための最新の方法は、臨床応用に必要な厳密なゼノフリー基準を満たすものではない。第一に、CD34^(+)細胞が占めるのは、非動員化末梢血の小規模な分画(0.1%)(血液1mLあたり僅か1000個の細胞)に過ぎない。第二に、研究者らは、染色体DNAへの組み込みを必要とするウイルスベースの方法に依存してきた。第三に、公開されている方法はMEF及び馴化培地を含み、従って組成不明確であり、異種性混入物を含有する。
【0044】
本発明は、末梢血からiPS細胞を作製するための完全既知組成プロセスの発見に一部基づく。実施例で示されるように、10mL未満の血液からCD34発現細胞の集団を増殖させるための及び、組み込まれて最終的に染色体外となるDNAを含まないフィーダーフリー条件下でiPS細胞を作製するための方法が提供される。
【0045】
本発明のさらなる実施態様及び長所を下記で説明する。
II.定義
【0046】
「再プログラミング」は、培養又はインビボの何れかにおいて、再プログラミングなしで同じ条件下にある場合よりも、測定可能な程度に少なくとも1つの新しい細胞型の子孫を細胞が形成する能力を向上させるプロセスである。より具体的には、再プログラミングは、体細胞に対して多能性を与えるプロセスである。これは、基本的にこのような子孫が再プログラミング前に形成され得ない場合、十分な増殖後に、測定可能な割合の、新しい細胞型の表現型の特徴を有する子孫が形成され得、新しい細胞型の特長を有するものの割合が、再プログラミング前よりも、測定可能な程度に多くなることを意味する。ある一定の条件下で、新しい細胞型の特徴がある子孫の割合は、少なくとも約1%、5%、25%以上(後出のものほど好ましい。)であり得る。
【0047】
「ゼノフリー(XF)」又は「動物由来成分不含(ACF)」又は「動物由来物質不含」という用語は、培地に関連して使用される場合、細胞外マトリクス又は培養条件が、基本的に異種の動物由来成分不含である、培地、細胞外マトリクス又は培養条件を指す。ヒト細胞を培養する場合、マウスなどの非ヒト動物のあらゆるタンパク質が異種性成分である。ある態様において、ゼノフリーマトリクスは、基本的にあらゆる非ヒト動物由来成分不含であり得、従ってマウスフィーダー細胞又はマトリゲル(商標)は除外される。マトリゲル(商標)は、ラミニン(主要成分)、コラーゲンIV、ヘパラン硫酸プロテオグリカン及びエンタクチン/ナイドジェンを含むようにエンゲルブレス-ホルム-スワム(EHS)マウス肉腫という細胞外マトリクスタンパク質が豊富な腫瘍から抽出された可溶化基底膜標品である。
【0048】
「既知組成の」という用語は、培地、細胞外マトリクス又は培養条件に関して使用される場合、ほぼ全ての構成成分の性質及び量が既知である、培地、細胞外マトリクス又は培養条件を指す。
【0049】
「化学的に既知組成の培地」は、ほぼ全ての成分の化学的性質及びそれらの量が既知である培地を指す。これらの培地は合成培地とも呼ばれる。化学的に既知組成の培地の例としてはTeSR(商標)が挙げられる。
【0050】
本明細書中で使用される場合、細胞は、それらが有する外来性遺伝因子又はベクターエレメントが10%未満であるときは外来性遺伝因子又はベクターエレメントについて「実質的に不含」であり、それらが有する外来性遺伝因子又はベクターエレメントが1%未満であるときは外来性遺伝因子又はベクターエレメントについて「基本的に不含」である。しかし、外来性遺伝因子又はベクターエレメントを含むものが総細胞集団の0.5%未満又は0.1%未満である細胞集団がさらにより望ましい。
【0051】
培養物、マトリクス又は培地は、シグナル伝達阻害剤、動物成分又はフィーダー細胞などのある一定の物質について、その培養物、マトリクス又は培地が有するこれらの物質のレベルがそれぞれ、当業者にとって公知の従来の検出方法を用いて検出可能なレベルよりも低いレベルであるか、又はこれらの物質がその培養物、マトリクス又は培地に外来的に添加されていない場合、「基本的に不含」である。
【0052】
「末梢血細胞」は、赤血球細胞、白血球細胞及び血小板を含む、細胞成分を指す。
【0053】
「造血前駆細胞」又は「造血系前駆細胞」は、造血系に拘束されているが、さらなる造血系分化が可能である細胞を指し、造血幹細胞、多能性造血幹細胞(血球母細胞)、骨髄前駆細胞、巨核球前駆細胞、赤血球前駆細胞及びリンパ球前駆細胞を含む。造血幹細胞(HSC)は、骨髄(単球及びマクロファージ、好中球、好塩基球、好酸球、赤血球、巨核球/血小板、樹状細胞)及びリンパ球系統(T細胞、B細胞、NK細胞)を含む全ての血液細胞型を生じさせる多能性幹細胞である。造血前駆細胞はCD34を発現してもよいし又はしなくてもよい。造血前駆細胞は、CD133を同時発現し得、CD38発現について陰性であり得る。ある実施態様において、ある一定のヒト造血前駆細胞は、CD34を発現しなくてもよいが、これらの細胞は、それでもなお、本明細書中で開示される方法を介してiPS細胞に変換され得る。造血系前駆細胞としては、CD34^(+)/CD45^(+)造血前駆細胞及びCD34^(+)/CD45^(+)/CD43^(+)造血系前駆細胞が挙げられる。このCD34^(+)/CD43^(+)/CD45^(+)造血系前駆細胞は、骨髄前駆細胞が非常に豊富であり得る。CD34^(+)/CD43^(+)/CD45^(+)造血前駆細胞などの造血前駆細胞の様々な系統は、本明細書中で開示される方法を介してiPS細胞へと変換され得る。造血前駆細胞はまた、CD34^(-)/CD133^(+)/CD38^(-)(原始造血前駆細胞)、CD43(+)CD235a(+)CD41a(+/-)(赤血球-巨核球形成性)、lin(-)CD34(+)CD43(+)CD45(-)(多能性)及びlin(-)CD34(+)CD43(+)CD45(+)(骨髄偏向(myeloid-skewed))細胞、CD133+/ALDH+(アルデヒドデヒドロゲナーゼ)をはじめとした様々な原始造血細胞のサブセットも含む(例えば、Hessら.2004;Christら、2007)。これらの原始造血系細胞型又は造血前駆細胞の何れも、本明細書中で記載のようにiPS細胞に変換され得ることが予測される。
【0054】
「ベクター」又は「コンストラクト」(遺伝子送達又は遺伝子移入「ビヒクル」と呼ばれることがある。)は、インビトロ又はインビボの何れかで宿主細胞に送達させようとするポリヌクレオチドを含む巨大分子又は分子複合体を指す。ベクターは線状でもよいし又は環状分子でもよい。
【0055】
「プラスミド」は、一般的なタイプのベクターであり、染色体DNAとは独立に複製可能である、染色体DNAから離れた染色体外DNA分子である。ある場合において、これは環状及び2本鎖である。
【0056】
「発現コンストラクト」又は「発現カセット」とは、転写を指示することが可能な核酸分子を意味する。発現コンストラクトには、少なくとも、プロモーター又はプロモーターと機能的に同等な構造が含まれる。エンハンサー及び/又は、転写終結シグナルなどのさらなるエレメントも含まれ得る。
【0057】
「外来性」という用語は、細胞又は生物におけるタンパク質、遺伝子、核酸又はポリヌクレオチドに関して使用される場合、人工的な手段によって細胞又は生物に導入されたタンパク質、遺伝子、核酸又はポリヌクレオチドを指すか、又は細胞に関する場合、単離され、続いて他の細胞又は生物に人工的な手段によって導入された細胞を指す。外来性核酸は、異なる生物もしくは細胞由来であり得るか又は生物又は細胞内で天然に生じる核酸の1以上のさらなるコピーであり得る。外来性細胞は、異なる生物由来であり得るか又は同じ生物由来であり得る。非限定例として、外来性核酸は、天然細胞での位置とは異なる染色体位置にあるか又はそうでなければ天然で見られるものとは異なる核酸配列に隣接される。
【0058】
「に対応する」という用語は、本明細書中では、ポリヌクレオチド配列が、参照ポリヌクレオチド配列の全て又は一部と相同である(即ち同一であるが、厳密には進化的に関連はない。)か又はポリペプチド配列が参照ポリペプチド配列と同一であることを意味するために使用される。対照的に、「に相補的」という用語は、本明細書中では、相補的配列が、参照ポリヌクレオチド配列の全て又は一部と相同であることを意味するために使用される。例示としては、ヌクレオチド配列「TATAC」は、参照配列「TATAC」に対応し、参照配列「GTATA」と相補的である。
【0059】
特定のタンパク質を「コードする」、「遺伝子」、「ポリヌクレオチド」、「コード領域」、「配列」、「セグメント」、「断片」又は「導入遺伝子」は、適切な制御配列の調節下に置かれた場合、インビトロ又はインビボで、転写され、場合によってはまた遺伝子産物、例えばポリペプチドに翻訳もされる核酸分子である。コード領域はcDNA、ゲノムDNA又はRNA形態の何れかで存在し得る。DNA形態で存在する場合、この核酸分子は、1本鎖(即ちセンス鎖)又は2本鎖であり得る。コード領域の境界は、5’(アミノ)末端の開始コドン及び3’(カルボキシ)末端の翻訳停止コドンにより定められる。遺伝子としては、原核又は真核mRNAからのcDNA、原核又は真核DNAからのゲノムDNA配列及び合成DNA配列を挙げることができるが、これらに限定されない。転写終結配列は通常、遺伝子配列に対して3’に位置する。
【0060】
「細胞」という用語は、本明細書中で当技術分野においてその最も広い意味で使用され、多細胞生物の組織の構造単位である生体を指し、外側から細胞を隔離する膜構造により囲まれ、自己複製能を有し、遺伝情報を有し、それを発現するための機構を持つ。本明細書中で使用される細胞は、天然の細胞又は人工的に改変された細胞(例えば融合細胞、遺伝子改変細胞など)であり得る。
【0061】
本明細書中で使用される場合、「幹細胞」という用語は、自己複製可能であり、多能性を有する細胞を指す。一般に、幹細胞は損傷組織を再生することができる。本明細書中での幹細胞は、胚性幹(ES)細胞又は組織幹細胞(組織特異的幹細胞又は体性幹細胞とも呼ばれる。)であり得るが、これらに限定されない。上述の能力を有し得る人工的に作製された何れの細胞(例えば、本明細書中で使用される、融合細胞、再プログラム化細胞など)も幹細胞であり得る。
【0062】
「胚性幹(ES)細胞」は、初期胚由来の多能性幹細胞である。ES細胞は、1981年に初めて樹立され、1989年からノックアウトマウスの作製にも適用されてきた。1998年にヒトES細胞が樹立され、これは現在、再生医療に対して利用可能になりつつある。
【0063】
ES細胞とは異なり、組織幹細胞の分化能は限定的である。組織幹細胞は、組織の特定の位置に存在し、未分化の細胞内構造を有する。従って組織幹細胞の多能性は一般に低い。組織幹細胞では核/細胞質比がより高く、細胞内小器官が少ししかない。殆どの組織幹細胞は多能性が低く、細胞周期が長く、個体の寿命を超える増殖能を有する。組織幹細胞は、真皮系、消化器系、骨髄系,神経系の組織幹細胞など、その細胞が由来する部位に基づいてカテゴリーに分類される。真皮系における組織幹細胞としては、表皮幹細胞、毛包幹細胞などが挙げられる。消化器系における組織幹細胞としては、膵臓(共通)幹細胞、肝臓幹細胞などが挙げられる。骨髄系における組織幹細胞としては、造血幹細胞、間充織幹細胞などが挙げられる。神経系における組織幹細胞としては、神経幹細胞、網膜幹細胞などが挙げられる。
【0064】
一般にiPS細胞又はiPSCと略称される「人工多能性幹細胞」は、再プログラミング因子と呼ばれるある一定の因子を導入することにより、非多能性細胞、一般に成体の体細胞又は最終分化細胞、例えば繊維芽細胞、造血細胞、筋細胞、神経細胞、表皮細胞などから人工的に調製された、あるタイプの多能性幹細胞を指す。
【0065】
「多能性」とは、1以上の組織又は器官又は特に、3種類の胚葉:内胚葉(胃の内壁、消化管、肺)、中胚葉(筋肉、骨、血液、泌尿生殖器)又は外胚葉(表皮組織及び神経系)の何れかを構成する全ての細胞に分化する潜在能力を有する幹細胞を指す。本明細書中で使用される「多能性幹細胞」は、3種類の胚葉の何れか由来の細胞に分化することができる細胞、例えば全能性細胞又は人工多能性細胞の直接の子孫を指す。
【0066】
核酸分子に関して「操作可能に連結される」とは、2以上の核酸分子(例えば転写しようとする核酸分子、プロモーター及びエンハンサーエレメント)がその核酸分子の転写を可能にするように連結されることを意味する。ペプチド及び/又はポリペプチド分子に関して「操作可能に連結される」とは、2以上のペプチド及び/又ポリペプチド分子が、1本のポリペプチド鎖、即ち、融合体の各ペプチド及び/又はポリペプチド成分の少なくとも1つの特性を有する融合ポリペプチドが得られるように連結されることを意味する。この融合ポリペプチドは特にキメラ、即ち異種分子から構成される。
III.血液細胞の再プログラミング
【0067】
現在、当技術分野で一般に使用される真皮繊維芽細胞に加えて、代替的な供給源からiPS細胞を提供するために、末梢血細胞を含む細胞集団を再プログラミングするための方法が提供され得る。利用し易く、環境変異原への曝露がより少ない血液細胞を再プログラミングすることも非常に望まれている。例えば、血液バンクで回収され保管される末梢血細胞は、自己又は同種異系であるが組織適合性のiPS細胞株の供給源として使用することができる。より重要なことに、後天性血液疾患の発症機序を調べるために、血液細胞に限定され、その後天性血液疾患においてのみ見られる体細胞変異を含有するiPS細胞を作製したい場合、血液細胞を再プログラミングできることが不可欠である。ある実施態様において、再プログラミング用に大量の出発細胞を提供するために、末梢血細胞集団中の造血前駆細胞を増殖させる。従って、本発明におけるヒト血液細胞からの再プログラミングは、培養での操作にあまり時間を要しないドナー細胞からiPS細胞を樹立する新規方法に相当する。ヒト血液から細胞を再プログラミングできれば、患者特異的幹細胞を作製するための、信頼性の高い方法の開発が促進されよう。
A.造血前駆細胞
【0068】
造血幹細胞及び前駆細胞の医療上の潜在能力は非常に高いので、胚性幹細胞から造血前駆細胞を分化させるための方法を改善しようと相当な努力が積み重ねられてきた。成人において、骨髄に主に存在する造血幹細胞は、血液系の全細胞に分化する、活発に分裂する造血(CD34^(+))前駆細胞の異種集団を生成させる。CD34^(+)内皮細胞がiPS細胞に変換され得ると予測される一方で、ある実施態様において、内皮細胞ではない造血細胞を使用することが望まれ得、例えば、一部の例においてCD31又はVE-カドヘリンを発現しない造血前駆細胞又は造血系前駆細胞を使用することが望まれ得る。造血前駆細胞を同定し易くするためにCD43及び/又はCD45マーカーなどの他のマーカーも使用され得る(例えばKadaja-Saarepuuら、2008;Vodyanikら、2006)。造血前駆細胞には、CD43(+)CD235a(+)CD41a(+/-)(赤血球-巨核球形成性)、lin(-)CD34(+)CD43(+)CD45(-)(多能性)及びlin(-)CD34(+)CD43(+)CD45(+)(骨髄偏向(myeloid-skewed))細胞を含む原始造血細胞の様々なサブセットが含まれる。成人において、血球系前駆細胞は増殖し、分化し、その結果、1日に数千億の成熟血液細胞が生成する。造血前駆細胞はまた臍帯血中にも存在する。インビトロで、ヒト胚性幹細胞を造血前駆細胞に分化させ得る。造血前駆細胞はまた、下記のように末梢血の試料から増殖又は濃縮させることもできる。造血細胞は、ヒト由来、マウス由来又は何らかの他の哺乳動物種由来のものであり得る。
【0069】
造血前駆細胞の単離としては、細胞選別機、抗体被覆磁気ビーズを用いた磁気分離、充填カラム;アフィニティークロマトグラフィー;モノクローナル抗体と連結されるか又はモノクローナル抗体と一緒に使用される細胞毒性薬(以下に限定されないが補体及び細胞毒を含む。);及び固体マトリクス、例えばプレートに連結される抗体を用いた「パニング」又は何らかの他の従来技術を含む何らかの選択方法が挙げられる。
【0070】
分離又は単離技術の使用には、物理的な相違に基づくもの(密度勾配遠心及び対向流遠心溶出法)、細胞表面(レクチン及び抗体アフィニティー)及び生体染色特性(ミトコンドリア-結合色素rho123及びDNA-結合色素Hoechst33342)が含まれるがこれらに限定されない。的確に分離する技術としては、FACS(蛍光活性化細胞選別)又はMACS(磁気活性化細胞選別)(これらは、例えば複数のカラーチャネル、低角度及び鈍角光散乱検出チャネル、インピーダンスチャネルなど、様々な程度の改善があり得る。)が挙げられるがこれらに限定されない。
【0071】
先行技術又は細胞型純度を評価するために使用される技術(フローサイトメトリーなど)で使用される抗体は、酵素、磁気ビーズ、コロイド磁気ビーズ、ハプテン、蛍光色素、金属化合物、放射性化合物、薬物又はハプテンを含むが限定されない、同定可能な物質に結合され得る。抗体に結合され得る酵素としては、アルカリホスファターゼ、ペルオキシダーゼ、ウレアーゼ及びβ-ガラクトシダーゼが挙げられるが、これらに限定されない。抗体に結合され得る蛍光色素としては、フルオレセインイソチオシアネート、テトラメチルローダミンイソチオシアネート、フィコエリスリン、アロフィコシアニン及びテキサスレッドが挙げられるが、これらに限定されない。抗体に結合され得るさらなる蛍光色素については、Haugland,Molecular Probes:Handbook of Fluorescent Probes and Research Chemicals(1992-1994)を参照のこと。抗体に結合され得る金属化合物としては、フェリチン、金コロイド及び特にコロイド超常磁性ビーズが挙げられるが、これらに限定されない。抗体に結合され得るハプテンとしては、ビオチン、ジゴキシゲニン、オキサザロン及びニトロフェノールが挙げられるが、これらに限定されない。抗体に結合され得るか又は組み込まれ得る放射性化合物は当技術分野にとって公知であり、テクネチウム^(99)m(^(99)TC)、^(125)I及び、^(14)C、^(3)H及び^(35)Sを含むが限定されない何らかの放射性核種を含むアミノ酸が挙げられるがこれらに限定されない。
【0072】
アフィニティーカラムなど、的確な選択を可能にする、正の選択のためのその他の技術を用いることができる。この方法により、非標的細胞集団の残存量が約20%未満、好ましくは約5%未満になるように除去できるはずである。
【0073】
光散乱特性ならびに様々な細胞表面抗原のそれらの発現に基づいて細胞を選択し得る。精製した幹細胞は、FACS分析によると、側方散乱が低く、前方散乱が低から中のプロファイルを有する。サイトスピン標本から、濃縮された幹細胞が、成熟リンパ球細胞と成熟顆粒球との間のサイズを有することが示される。
【0074】
例えばSutherlandら(1992)の方法及び米国特許第4,714,680号に記載の方法を用いて、培養前にCD34^(+)細胞に対して播種集団を濃縮することも可能である。例えば、この細胞は、系統特異的マーカーを発現する細胞を除去するための負の選択に対する対象である。例示的な実施態様において、非CD34^(+)造血細胞及び/又は特定の造血細胞サブセットの枯渇のために細胞集団を負の選択に供し得る。T細胞マーカー、例えばCD2、CD4及びCD8など;B細胞マーカー、例えばCD10、CD19及びCD20など;単球マーカーCD14;NK細胞マーカーCD2、CD16及びCD56又は何らかの系統特異的マーカーを含む、様々な分子の細胞表面発現に基づいて負の選択が行われ得る。例えばMACS又はカラム分離を介して、他の細胞型の分離のために使用され得る抗体のカクテル(例えばCD2、CD3、CD11b、CD14、CD15、CD16、CD19、CD56、CD123及びCD235a)などの様々な分子の細胞表面発現に基づいて負の選択を行い得る。
【0075】
本明細書中で使用される場合、系統マーカー陰性(LIN^(-))は、系統コミット細胞に付随する少なくとも1つのマーカー、例えばT細胞(CD2、3、4及び8など)、B細胞(CD10、19及び20など)、骨髄性細胞(CD14、15、16及び33など)、ナチュラルキラー(”NK”)細胞(CD2、16及び56など)、RBC(グリコホリンAなど)、巨核球細胞(CD41)、肥満細胞、好酸球もしくは好塩基球に付随するマーカー又は、CD38、CD71及びHLA-DRなどの他のマーカーを欠く細胞を指す。好ましくは、系統特異的マーカーとしては、CD2、CD14、CD15、CD16、CD19、CD20、CD33、CD38、HLA-DR及びCD71のうち少なくとも1つが挙げられるが、これらに限定されない。より好ましくは、LIN^(-)には、少なくともCD14及びCD15が含まれよう。例えばc-kit^(+)又はThy-1^(+)に対する正の選択によって、さらなる精製を遂行することができる。当技術分野で公知の方法により、ミトコンドリア結合色素ローダミン123を使用し、ローダミン^(+)細胞について選択することによって、さらなる濃縮を行うことができる。CD34^(+)、好ましくはCD34^(+)LIN^(-)及び最も好ましくはCD34^(+)Thy-1^(+)LIN^(-)である細胞の選択的単離によって、高度に濃縮された組成物を得ることができる。幹細胞が高度に濃縮された集団及びそれらを得るための方法は当業者にとって周知であり、例えばPCT/US94/09760;PCT/US94/08574及びPCT/US94/10501に記載の方法を参照のこと。
【0076】
特定の系統の細胞を最初に除去することによって細胞を分離するために、様々な技術を使用することができる。モノクローナル抗体は、特定の細胞系統及び/又は分化段階に付随するマーカーを同定するために特に有用である。粗分離を可能にするために、固体支持体に抗体を連結し得る。使用される分離技術により、回収しようとする分画の生存能が最大限に保持されるはずである。「比較的粗精の」分離を行うために、様々な効率の様々な技術を使用し得る。このような分離では、維持しようとする細胞集団とともに残存する不要な細胞は、存在する全細胞の10%以下、通常は、最大で約5%、好ましくは最大で約1%である。使用する特定の技術は、分離効率、関連する細胞毒性、実行し易さ及び実行のスピードならびに高機能装置の必要性及び/又は技術的熟練に依存する。
【0077】
造血前駆細胞の選択は、細胞に特異的なマーカーのみで達成する必要はない。負の選択及び正の選択の併用によって濃縮細胞集団を得ることができる。
【0078】
B.血液細胞の供給源
造血幹細胞(HSC)は通常骨髄に存在するが、血液へと送り込まれ得、これは、末梢血中の多くのHSCを採取するために臨床的に使用される動員と呼ばれるプロセスである。最適な動員物質の1つは顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)である。
【0079】
非かく乱状態又はG-CSFのような造血成長因子の外部からの投与を受けて動員化した後の何れかでのアフェレーシス技術によって、末梢血中を循環するCD34^(+)造血幹細胞又は前駆細胞を回収することができる。動員後に回収される幹細胞又は前駆細胞の数は、非かく乱状態でのアフェレーシス後に得られるものよりも多い。本発明の特定の態様において、細胞集団の供給源は、インビボで造血幹細胞又は前駆細胞を濃縮する必要がないので、細胞が外部から加えられた因子により動員化されていない対象である。
【0080】
本明細書中に記載の方法での使用のための細胞の集団は、ヒト細胞、非ヒト霊長類細胞、げっ歯類細胞(例えばマウス又はラット)、ウシ細胞、ヒツジ(Ovine)細胞、ブタ細胞、ウマ細胞、ヒツジ(sheep)細胞、イヌ細胞及びネコ細胞又はそれらの混合物など、哺乳動物細胞であり得る。非ヒト霊長類細胞としてはアカゲザル細胞が挙げられる。動物、例えばヒト患者から細胞を得てもよいし、又は細胞株由来であってもよい。動物から細胞を得る場合、それらの細胞は、例えば未分離細胞(即ち混合集団)などとして使用し得るか;例えば形質転換により、最初に培養において樹立されているものであり得るか;又は予備精製法に供されたものであり得る。例えば、細胞表面マーカーの発現に基づき正又は負の選択によって細胞集団を操作し得るか、インビトロもしくはインビボで1以上の抗原で刺激得るか、インビトロもしくはインビボで1以上の生物学的修飾物質で処理し得るか又はこれらの何れかもしくは全ての組み合わせを行い得る。
【0081】
細胞集団には、末梢血単核細胞(PBMC)、全血又は混合集団を含有するその分画、脾臓細胞、骨髄細胞、腫瘍浸潤リンパ球、白血球除去輸血により得られる細胞、生検組織、リンパ節、例えば腫瘍から排出するリンパ節が含まれる。適切なドナーとしては、免疫付与ドナー、非免疫付与(ナイーブ)ドナー、処置又は未処置ドナーが挙げられる。「処置を受ける」ドナーは、1以上の生物学的修飾物質に曝露されたことがあるドナーである。「未処置」ドナーは1以上の生物学的修飾物質に曝露されたことがない。
【0082】
例えば、当技術分野で公知の方法に従い、記載のように末梢血液単核細胞(PBMC)を得ることができる。このような方法の例は、Kimら(1992);Biswasら(1990);Biswasら(1991)により論じられている。
【0083】
細胞集団から造血前駆細胞を得る方法も当技術分野で周知である。hSCF、hFLT3及び/又はIL-3(Akkinaら、1996)などの様々なサイトカインを用いて造血前駆細胞を増殖させることができるか、又はMACS又はFACSを用いてCD34^(+)細胞を濃縮することができる。上述のように、CD34^(+)細胞を濃縮するために負の選択技術も使用することができる。
【0084】
対象から細胞試料を得て、次いで望ましい細胞型について濃縮することもできる。例えば、PBMC及び/又はCD34^(+)造血細胞を本明細書中で記載のように血液から単離することができる。望ましい細胞型の細胞表面上のエピトープへの抗体結合を用いた単離及び/又は活性化など、様々な技術を用いて、細胞を他の細胞から単離することもできる。使用することができる別の方法には、受容体結合により細胞を活性化することなく特異的な細胞型について選択的に濃縮するための、細胞表面マーカーに対する抗体を用いた負の選択が含まれる。
【0085】
腸骨稜、大腿骨、脛骨、脊椎、肋骨又はその他の髄腔から骨髄細胞を得ることができる。患者から骨髄を採取し、様々な分離及び洗浄手順を通じて単離し得る。骨髄細胞の単離のための典型的な手順には、次の段階:a)3分画における骨髄懸濁液の遠心分離及び中間分画又はバフィーコートの回収;b)段階(a)のバフィーコート分画を分離液、一般的にはFicoll(Pharmacia Fine Chemicals ABの商標)中でもう1回遠心し、骨髄細胞を含有する中間分画を回収し;c)再輸血可能な骨髄細胞の回収のために段階(b)の回収分画を洗浄することが含まれる。
【0086】
IV.培養条件
ヒト多能性幹細胞研究は、現代の生物学において最もダイナミックな分野の1つである。ヒトES細胞のようなヒトiPS細胞は殆どが、マウス胚繊維芽細胞(MEF)のフィーダー層下で得られ、培養されてきた。例えば、ヒト多能性幹細胞の治療可能性は、1種類の細胞型の喪失もしくは機能不全から生じる、パーキンソン病及び糖尿病などの疾病に対する分化細胞型の移植にある。しかし、これらの臨床応用は現在のところ、インビトロ誘導及び増殖相中の異種由来物質混入により限定的である。従来使用されてきたようなマウスフィーダー又は馴化培地は、非ヒト病原体を導入するリスクを有し、将来的な移植が不可能となる。従って、研究モデルと臨床応用との間のギャップを埋めるためには、ゼノフリープロセスの計画及び実施が必要である。従ってゼノフリー培地及びゼノフリー細胞外マトリクスなどのゼノフリー(XF;又は動物成分不含、ACF;又は動物由来物質不含)培養条件は、ヒトでの移植が望まれる再生幹細胞療法の開発において必須要素である。さらに、再プログラミング効率は、使用するMEFフィーダー細胞の違い又は何らかの動物由来製品により影響を受け得る。
【0087】
末梢血中の造血前駆細胞からの全体的再プログラミング効率を向上させ、変動性を減少させるために、様々なフィーダーフリー、ゼノフリー又は既知組成の培養条件、造血前駆細胞増殖用のマトリクス又は培地ならびにこのような細胞の再プログラム化が提供され得る。
A.造血前駆細胞増殖条件
【0088】
本発明の増殖方法は、細胞密度が少なくとも約5,000、好ましくは7,000から約200,000個/mL(培地)及びより好ましくは約10,000から約150,000個/mL(培地)であり、初期酸素濃度が約1から20%及び好ましくは8%未満となるように、造血前駆細胞が実質的に濃縮され、実質的に間質細胞不含である細胞集団を適切な培地体積中で増殖容器に接種することを含み得る。ある1つの実施態様において、初期酸素濃度は、約1、2、3、4、5、6、7%からの範囲又はそれらにおいて導き出せる何らかの範囲であり得る。
【0089】
ある1つの態様において、接種細胞集団は成体骨髄由来であり、細胞約7,000個/mLから約20,000個/mL、好ましくは約20,000個/mLである。別個の態様において、接種細胞集団は動員化した末梢血由来であり、細胞約20,000個/mLから約50,000個/mL、好ましくは50,000個/mLである。別の態様において、接種細胞集団は非動員化末梢血液由来であり、細胞約7,000個/mLから約50,000個/mL、好ましくは約20,000個/mLである。
【0090】
本発明の方法において、24ウェルプレート、12.5cm^(2)のTフラスコ又はガス透過性バッグなどの何れかの適切な増殖容器、フラスコ又は適切なチューブを使用することができる。このような培養容器はFalcon、Corning又はCostarから市販されている。本明細書中で使用される場合、「増殖容器」はまた、自立型であるにしろ自立型でないにしろ、又は本明細書中に記載のバイオリアクターなどの増殖装置に組み込まれているにしろそうではないにしろ、細胞を増殖させるための何らかのチャンバー又は容器を含むものとする。ある1つの実施態様において、増殖容器は、陥凹面と残りの細胞支持面が正しい位置に置かれる平面により形成される体積空間が小さいチャンバーである。
【0091】
造血前駆細胞の増殖のために様々な培地を使用することができる。例示的な培地としては、様々な異なる栄養素、成長因子、サイトカインなどが補給され得る、ダルベッコMEM、IMDM及びRPMI-1640が挙げられる。培地は、血清不含であってもよいし、又はウシ胎仔血清又は自己血清など、適切な量の血清が補給されてもよい。好ましくは、ヒトの治療で使用するためには、培地は血清不含であるか又は自己血清が培地に補給される。ある適切な培地は、IMDM、ペプトン、プロテアーゼ阻害剤及び下垂体抽出物のうち少なくとも1つの有効量及びヒト血清アルブミン又は血漿タンパク質分画、ヘパリン、還元剤、インスリン、トランスフェリン及びエタノールアミンのうち少なくとも1つの有効量を含有するものである。さらなる実施態様において、適切な増殖培地は、少なくともIMDM及び1から15%ウシ胎仔血清を含有する。その他の適切な培地処方物は当業者にとって周知であり、例えば、米国特許第5,728,581号を参照のこと。
【0092】
何れかの所定の造血前駆細胞増殖で使用されている具体的な培地にかかわらず、使用培地には、好ましくは、約0.1ng/mLから約500ng/mL、より一般的には10ng/mLから100ng/mLの濃度の少なくとも1つのサイトカインが補給される。適切なサイトカインとしては、c-kitリガンド(KL)(スティール因子(StI)、肥満細胞増殖因子(MGF)及び幹細胞因子(SCF)とも呼ばれる。)、IL-6、G-CSF、IL-3、GM-CSF、IL-1α、IL-11、MIP-1α、LIF、c-mplリガンド/TPO及びflk2/flk3リガンド(Flt2L又はFlt3L)が挙げられるがこれらに限定されない(Nicolaら、1979;Goldeら、1980;Lusis、1981;Abboudら、1981;Okabe、1982;Fauserら、1981)。特に、培養には、SCF、Flt3L及びTPOのうち少なくとも1つが含まれる。より具体的には、培養にはSCF、Flt3L及びTPOが含まれる。
【0093】
ある実施態様において、サイトカインが培地に含有され、培地かん流により補充される。あるいは、バイオリアクター系を使用する場合、個別の入口を通る濃縮溶液として、培地かん流なしでサイトカインを個別に添加し得る。かん流なしでサイトカインを添加する場合、これらは一般に、新鮮サイトカインがおよそ2から4日ごとに添加されているバイオリアクターの体積の1/10から1/100と等しい量で、10xから100x溶液として添加される。さらに、かん流培地中のサイトカインに新鮮濃縮サイトカインをさらに個別に添加することもできる。
【0094】
次に、細胞が培地を馴化するように、適切な条件下で細胞を培養し得る。培養液を交換しない場合、例えば培養の最初の数日間はかん流を行わない場合、精製造血前駆細胞の増殖が向上し得る。
【0095】
ある態様において、適切な条件は、造血前駆細胞増殖を実質的に阻害するのに十分な老廃物を放出することなく、自己分泌因子が細胞から放出されるようになるように、33から39及び好ましくは37℃前後で(初期酸素濃度は好ましくは4から8%及び最も好ましくは約5%)、少なくとも6日間、好ましくは約7から約10日間、培養することを含む。その後、全部で10日から28日となり得る残りの培養期間にわたり、段階的に又は徐々に酸素濃度を約20%に上昇させ得る。骨髄幹細胞、動員化末梢血細胞又は非動員化末梢血細胞を1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25日前後又はそれらにおいて導き出せる何らかの範囲にわたり増殖させ得る。
【0096】
培地交換を行わない初期培養期間後、造血前駆細胞の増殖を可能とする速度で培養液を交換し得る。体積を変化させない系において、第7日(動員化末梢血液幹細胞の場合)又は第10日(骨髄細胞の場合)に培地を交換し得る。かん流系における新鮮培地の交換は例えば層流であり得る。この一様な乱れのない流れにより、細胞が所々で培地に曝露されない「デッドスペース」の形成を防ぐ。約0.10/日から0.50/日又は1日あたり1/10から1/2体積を交換する速度で培地を交換し得る。例えば、かん流速度は約0.25/日から0.40/日であり得る。最も好ましくは、骨髄幹細胞の場合、かん流は、第14日前後から開始して0.27/日の速度であり、動員化又は非動員化末梢血細胞の場合、かん流は、第10日前後に0.25/日で開始し、第12日前後に0.40/日に向上させる。
【0097】
特に、増殖の間中、細胞濃度を最適に維持し得る。例えば、前駆細胞は、?10から20倍しか増殖しない単核細胞(MNC)集団に対して、?1500倍まで増殖し得る。前駆細胞は高い増殖能を有し、そのため、この場合培養は閉鎖系で行われ、このような系は、全体的な細胞増殖に十分な体積を提供しなければならない。しかし、前駆細胞はまた、比較的高い接種密度を有し得る。最適接種密度及び増殖条件は、米国特許第5,728,581号に記載のものなどのバイオリアクター中で細胞を増加させることにより達成することができる。凹部で適切な細胞密度で細胞を播種し得、適切な細胞密度が得られたら、さらなる培地を添加する。この器具の形態により、細胞に対する酸素移動効率を顕著に低下させずに培地体積を最大で3倍大きくすることが可能になり得る。
【0098】
B.再プログラミング中及び再プログラミング後の培養条件
出発細胞(つまり、再プログラミングしようとする増殖造血前駆細胞)及び最終的な再プログラム化細胞は、一般に、培養液及び条件について異なる要件を有する。細胞の再プログラミングが起こるようにしながら同時にこれを可能にするために、1以上の過渡的な培養条件が必要とされ得る。再プログラミングプロセスを開始させるために、播種から少なくとも、約又は最長0、1、2、3、4、5、6、7、8もしくは9日後、とりわけ播種から3、4、5又は6日後、典型的な実施態様においては播種から6日後、増殖させた造血前駆細胞に対して形質移入を行い得る。代替的な実施態様において、増殖段階は必ずしも必要でないことがある。例えば、非動員化末梢血からの精製から十分な造血前駆細胞が直接得られる場合、増殖段階なしで再プログラミングを開始することができる。しかし、例えば体積10mL以下の、体積が小さい末梢血を扱う場合、造血前駆細胞数を増加させ、従って再プログラミング効率を向上させるために増殖段階を使用し得る。
【0099】
形質移入直後及び形質移入後に細胞を安定化させる手段として、上述のような造血前駆細胞増殖培地又は再プログラム化細胞の培養に有利に働く1以上のサイトカイン及びシグナル伝達阻害剤を含む培地中又はこれら2種類の条件を合わせて(等しく又はその他)(これらは全て最適にはゼノフリーである。)、細胞を培養し得る。使用培地にかかわらず、この条件は、基本的にマトリクス成分不含であってもよいし、又は好ましくはフィブロネクチン断片などのゼノフリーマトリクスタンパク質であるマトリクスを含んでもよい。このような培養条件は、少なくとも、約又は最長で形質移入後の最初の0、1、2、4、6、8、10、12、24時間又はそれらにおいて導き出せる何らかの範囲にわたり得る。次に、細胞がマトリクス上に置かれていない場合は細胞をマトリクスに移し、上述のような造血前駆細胞増殖培地中又は細胞の再プログラミングに有利に働く培地中で又はこれら2種類の条件を合わせて(等しく又はその他)(これらは全て最適にはゼノフリーである。)培養し得る。使用培地にかかわらず、各培地を新たにして100パーセントの再プログラミング培地へと1又は2日にわたり細胞を徐々に移し、形質移入安定化インキュベーション後、このような再プログラミング条件を少なくとも、約又は最長1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15日間継続し得る。
【0100】
開示される方法を用いて再プログラミング因子を細胞に導入し、上述のように培養した後、得られた細胞を、TeSR2など、細胞の多能性を維持するのに十分な培地に移し得る。このような条件は、好ましくは、培地を除去せずに再プログラミング培地にTeSR2(又は類似の多能性細胞培養液)を添加し、その後細胞が100%多能性細胞培養液中で培養されるように完全に置き換えることにより、再プログラミング条件の後半の間に徐々に得られ得る。漸進的な移行期間を含む多能性細胞培養液中での細胞の培養は、100%再プログラミング条件後、少なくとも、約又は最長1、2、3、4、5、6、7、8、9、10日間継続し得る。多能性幹細胞は接着細胞なので、この多能性細胞培養条件には細胞外マトリクスが含まれ得る。
【0101】
従来、MEFフィーダー上で血清含有培地が使用されてきた。ある態様において、本発明は、血清又はMEFフィーダー細胞を不要にし、細胞の再プログラミングのための既知組成のプロセス及び条件を提供する。
【0102】
本発明において作製された人工多能性幹(iPS)細胞の培養は、米国特許出願第20070238170号及び米国特許出願第20030211603号に記載のような霊長類多能性幹細胞、より具体的には胚性幹細胞を培養するために開発された様々な培地及び技術を使用することができる。当然のことながら、当業者にとって公知であるような、ヒト多能性幹細胞の培養及び維持のためのさらなる方法を本発明とともに使用し得る。
【0103】
好ましくは、既知組成ではない条件は使用してはならず、例えば、繊維芽フィーダー細胞又は、繊維芽フィーダー細胞、特にマウスフィーダー細胞に曝露した培地において再プログラム化細胞を培養してはならない。例えば、TeSR培地など、既知組成のフィーダー非依存性の培養系を用いて基本的に未分化の状態で多能性細胞を培養し、維持し得る(Ludwigら、2006;Ludwigら、2006)。再プログラム化細胞を培養するために、フィーダー非依存性の培養系及び培地を使用し得る。これらのアプローチによって、マウス繊維芽「フィーダー層」を必要とせずに、基本的に未分化の状態で再プログラム化細胞を増殖させることが可能になる。本明細書中で記載のように、必要に応じて費用を削減するためにこれらの方法に対して様々な変更を行い得る。
【0104】
TeSR、BME、BGJb、CMRL1066、Glasgow MEM、Improved MEM Zinc Option、IMDM、Medium199、イーグルMEM、αMEM、DMEM、Ham、RPMI1640及びフィッシャー培地の何れかならびにそれらの何らかの組み合わせなど、その基礎培地として動物細胞を培養するために使用される培地を用いて、本発明のある態様に従う培地を調製することができるが、培地は、動物細胞を培養するために使用できる限り、それらに特に限定されない。特に培地はゼノフリー又は化学的に既知組成であり得る。
【0105】
本発明による培地は、血清含有又は血清不含培地であり得る。血清不含培地とは未処理又は未精製血清を含まない培地を指し、従って精製した血液由来成分又は動物組織由来成分(増殖因子など)を含む培地が含まれ得る。異種動物由来成分の混入を防ぐ態様から、血清は幹細胞と同じ動物由来であり得る。
【0106】
本発明による培地は、血清に対する何らかの代替物を含有してもよいし、又はしなくてもよい。血清に対する代替物としては、アルブミン(脂質に富むアルブミン、アルブミン代替物、例えば組み換えアルブミン、植物性デンプン、デキストラン及びタンパク質加水分解物)、トランスフェリン(又はその他の鉄輸送体)、脂肪酸、インスリン、コラーゲン前駆体、微量元素、2-メルカプトエタノール、3’-チオグリセロール又はそれらの同等物を適切に含有する材料が挙げられ得る。例えば国際公開第98/30679号に開示の方法により血清に対する代替物を調製することができる。あるいは、さらに好都合にするために、何らかの市販の材料を使用することができる。市販の材料としては、ノックアウト血清リプレースメント(KSR)、化学的に既知組成の脂質濃縮液(Gibco)
及びGlutamax(Gibco)が挙げられる。
【0107】
本発明の培地はまた、脂肪酸又は脂質、アミノ酸(非必須アミノ酸など)、ビタミン、成長因子、サイトカイン、抗酸化物質、2-メルカプトエタノール、ピルビン酸、緩衝剤及び無機塩も含有し得る。2-メルカプトエタノールの濃度は例えば約0.05から1.0mM、特に約0.1から0.5mMであり得るが、この濃度は、幹細胞を培養するのに適切である限り、これらに特に限定されない。
【0108】
細胞を培養するために使用する培養容器としては、フラスコ、組織培養用フラスコ、皿、ペトリ皿、組織培養皿、マルチディッシュ、マイクロプレート、マイクロウェルプレート、マルチプレート、マルチウェルプレート、マイクロスライド、チャンバースライド、チューブ、トレー、CellSTACK(登録商標)チャンバー、培養バッグ及びローラーボトルを挙げることができるが、それらの中で幹細胞を培養することができる限り、特にこれらに限定されない。培養物の必要性に応じて、少なくとも又は約0.2、0.5、1、2、5、10、20、30、40、50mL、100mL、150mL、200mL、250mL、300mL、350mL、400mL、450mL、500mL、550mL、600mL、800mL、1000mL、1500mL又はそれらにおいて導き出せる何らかの範囲の体積で細胞を培養し得る。ある実施態様において、培養容器は、バイオリアクターであり得、これは、生物学的に活性のある環境を補助する何らかの装置又は系を指し得る。バイオリアクターの体積は、少なくとも又は約2、4、5、6、8、10、15、20、25、50、75、100、150、200、500リットル、1、2、4、6、8、10、15立方メートル又はそれらにおいて導き出せる何らかの範囲であり得る。
【0109】
培養容器は細胞接着性又は非接着性であり得、目的に応じて選択され得る。細胞への容器表面の接着性を向上させるために、細胞外マトリクス(ECM)など、細胞接着のための何らかの基質で細胞接着性培養容器を被覆することができる。細胞接着のための基質は、細胞を付着させることを目的とする何らかの材料であり得る。細胞接着のための基質としては、コラーゲン、ゼラチン、ポリL-リジン、ポリD-リジン、ラミニン及びフィブロネクチン、それらの断片又は混合物が挙げられる。
【0110】
その他の培養条件を適切に定めることができる。例えば、培養温度は、約30から40℃例えば、少なくとも又は約31、32、33、34、35、36、37、38、39℃であり得るが、特にそれらに限定されない。CO_(2)濃度は、約1から10%、例えば、約2から5%又はそれらにおいて導き出せる何らかの範囲であり得る。酸素分圧は、少なくとも、最大又は約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、20%又はそれらにおいて導き出せる何らかの範囲であり得る。
【0111】
本発明の方法は、担体上での懸濁培養(Fernandesら、2004)又はゲル/生体ポリマーカプセル化(米国公開第2007/0116680号)を含め、再プログラム化細胞又は幹細胞などの細胞の懸濁培養物に対しても使用することができる。細胞の懸濁培養という用語は、培地中で培養容器又はフィーダー細胞(使用する場合)に対して非接着条件下で細胞を培養することを意味する。細胞の懸濁培養には、細胞の解離培養及び細胞の凝集懸濁培養が含まれる。細胞の解離培養という用語は、懸濁した幹細胞を培養することを意味し、幹細胞の解離培養には、1個の細胞の培養又は複数の細胞(例えば細胞約2から400個)からなる小さな細胞凝集物の培養が含まれる。上述の解離培養を継続する場合、培養し、解離した幹細胞は、より大きな細胞凝集物を形成し得、その後、凝集懸濁培養を行うことができる。凝集懸濁培養には、胚様体培養法(Kellerら、1995参照)及びSFEB法(Watanabeら、2005;国際公開第2005/123902号)が含まれる。
【0112】
C.マトリクス成分
末梢血細胞の再プログラミングにおいて、接着細胞培養に対する基質とするために様々な既知組成のマトリクス成分を使用し得る。例えば、多能性細胞増殖に対する固体支持体を提供する手段として、培養表面を被覆するために、Ludwigら(2006a;2006b)(その全体において参照により組み込まれる。)に記載されるように、組み換えコラーゲンIV、フィブロネクチン、ラミニン及びビトロネクチンを組み合わせて使用し得る。
【0113】
細胞に対する支持を与えるために、マトリクス組成物を表面に固定化し得る。マトリクス組成物には、1以上の細胞外マトリクス(ECM)タンパク質及び水性溶媒が含まれ得る。「細胞外マトリクス」という用語は当技術分野で認識されている。その構成成分には、次のタンパク質:フィブロネクチン、ラミニン、ビトロネクチン、テネイシン、エンタクチン、トロンボスポンジン、エラスチン、ゼラチン、コラーゲン、フィブリリン、メロシン、アンコリン、コンドロネクチン、リンクタンパク質、骨シアロタンパク質、オステオカルシン、オステオポンチン、エピネクチン、ヒアルロネクチン、アンジュリン(undulin)、エピリグリン及びカリニンのうち1以上が含まれる。その他の細胞外マトリクスタンパク質は、参照により本明細書中に組み込まれるKleinmanら(1993)に記載されている。「細胞外マトリクス」という用語は、細胞外マトリクスとしてのその特徴が当業者により容易に調べられるので、将来的に発見され得る現在のところ未知の細胞外マトリクスを包含するものとする。
【0114】
いくつかの態様において、マトリクス組成物中の総タンパク質濃度は約1ng/mLから約1mg/mLであり得る。いくつかの好ましい実施態様において、マトリクス組成物中の総タンパク質濃度は約1μg/mLから約300μg/mLである。より好ましい実施態様において、マトリクス組成物中の総タンパク質濃度は約5μg/mLから約200μg/mLである。
【0115】
細胞外マトリクス(ECM)タンパク質は、天然起源のものであり、ヒト又は動物組織から精製され得る。あるいは、ECMタンパク質は、遺伝子操作した組み換えタンパク質又は事実上合成物であり得る。ECMタンパク質は、タンパク質全体又はペプチド断片、ネイティブ又は改変体の形態であり得る。細胞培養のためのマトリクスにおいて有用であり得るECMタンパク質の例としては、ラミニン、コラーゲンI、コラーゲンIV、フィブロネクチン及びビトロネクチンが挙げられる。いくつかの実施態様において、マトリクス組成物には、合成により作製されるフィブロネクチンペプチド断片又は組み換えフィブロネクチンが含まれる。
【0116】
またさらなる実施態様において、マトリクス組成物には、少なくともフィブロネクチン及びビトロネクチンの混合物が含まれる。
【0117】
いくつかの他の実施態様において、マトリクス組成物には、好ましくはラミニンが含まれる。
【0118】
マトリクス組成物には、好ましくは単一型の細胞外マトリクスタンパク質が含まれる。いくつかの好ましい実施態様において、マトリクス組成物には、特に再プログラム化細胞又は造血前駆細胞の培養とともに使用するためのフィブロネクチンが含まれる。例えば、5μg/mLから約200μg/mLのタンパク質濃度になるようにダルベッコリン酸緩衝食塩水(DPBS)中で、Becton、Dickinson & Co.,Franklin Lakes,N.J(BD)から販売されるヒトフィブロネクチン(カタログ番号354008)などのヒトフィブロネクチンを希釈することによって、適切なマトリクス組成物を調製し得る。特定の例において、マトリクス組成物にはレトロネクチン(登録商標)などのフィブロネクチン断片が含まれる。レトロネクチン(登録商標)は、中央の細胞-結合ドメイン(タイプIIIリピート、8、9、10)、高親和性ヘパリン-結合ドメインII(タイプIIIリピート、12、13、14)及びヒトフィブロネクチンのオルタナティブスプライシングIIICS領域内のCS1部位を含有する(574アミノ酸の)?63kDaタンパク質である。
【0119】
いくつかの他の実施態様において、マトリクス組成物には、好ましくはラミニンが含まれる。例えば、5μg/mLから約200μg/mLのタンパク質濃度になるようにダルベッコリン酸緩衝食塩水(DPBS)中でラミニン(Sigma-Aldrich(St.Louis、Mo.);カタログ番号L6274及びL2020)を希釈することによって、適切なマトリクス組成物を調製し得る。
【0120】
いくつかの実施態様において、マトリクス組成物はゼノフリーであり、即ちマトリクス又はその成分タンパク質はヒト起源のもののみである。これは、ある一定の研究用途に対して望ましいものであり得る。例えばヒト細胞を培養するためのゼノフリーマトリクスにおいて、ヒト起源のマトリクス成分を使用し得、何らかの非ヒト動物成分が排除され得る。ある態様において、マトリゲル(商標)は、ヒトiPS細胞への再プログラミングのための基質として排除され得る。マトリゲル(商標)は、マウス腫瘍細胞により分泌されるゼラチン状タンパク質混合物であり、BD Biosciences(New Jersey、USA)から市販されている。この混合物は、多くの組織で見られる複雑な細胞外環境に類似しており、細胞培養のための基質として細胞生物学者により使用されることが多いが、望ましくないゼノ抗原又は混入物を導入し得る。
【0121】
D.再プログラミングのためのシグナル伝達阻害剤
本発明のある態様において、再プログラミングプロセスの少なくとも一部の間、シグナル伝達カスケードに関与するシグナルトランスデューサーを阻害する1以上のシグナル伝達阻害剤の存在下又は非存在下で、例えばMEK阻害剤、GSK3阻害剤、TGF-β受容体阻害剤及び/又はミオシンII ATPase阻害剤又はこれらの同じ経路内のその他のシグナルトランスデューサーの阻害剤の存在下で、細胞を維持し得る。ある態様において、再プログラム化細胞及び得られるiPS細胞のクローン増殖を促進するために、HA-100又はH1152などのROCK阻害剤を使用し得る。再プログラミング効率を向上させるために、馴化ヒトES細胞培養液又は血清不含N2B27培地などの特異的再プログラミング培地と組み合わせて高濃度のFGFを使用することもできる。好ましい態様において、培地は既知組成又はゼノフリーである。
【0122】
ある実施態様において、外来性エピソーム性遺伝因子により再プログラミング因子(例えば本明細書中で記載のように2、3以上)を細胞に導入することに加えて、MEK阻害剤、TGF-β受容体阻害剤、GSK3阻害剤、ミオシンII ATPase阻害剤及び/又はLIFを含む再プログラミング培地で細胞を処理するが、これは再プログラミング効率及び反応速度を向上させ、初代再プログラミング培養におけるiPS細胞の同定を促進し、従ってiPS細胞のクローン性を保持するなどの長所がある。
【0123】
当然のことながら、これらの態様及び実施態様において、望ましい場合、MEK阻害剤の代わりに、同じシグナル伝達経路(例えばERK1又はERK2カスケード)のシグナル伝達成分を阻害する他のシグナル伝達阻害剤で置き換え得る。これには、特にFGF受容体を通じたMAPK経路の上流刺激の阻害が含まれ得る(Ying、2008)。同様に、望ましい場合は、GSK3阻害剤をインスリン合成及びWnt/β-カテニンシグナル伝達などのGSK3関連シグナル伝達経路の他の阻害剤に置き換えることができ;LIFは、望ましい場合は、Stat3又はgp130シグナル伝達の他の活性化因子に置き換えることができる。
【0124】
このようなシグナル伝達阻害剤、例えばMEK阻害剤、GSK3阻害剤、TGF-β受容体阻害剤は、少なくとも又は約0.02、0.05、0.1、0.2、0.5、1、2、3、4、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、100、150、200、500から約1000μM又はそれらにおいて導き出せる何らかの範囲の有効濃度で使用し得る。
【0125】
阻害剤は、従来の手段によって当業者により、又は従来の供給源から、提供され得るか又は得られ得る(WO2007113505も参照)。
【0126】
1.グリコーゲンシンターゼキナーゼ3阻害剤
グリコーゲンシンターゼキナーゼ3(GSK-3)は、ある種のセリン及びスレオニンアミノ酸上での、特に細胞基質における、リン酸分子の付加を媒介するセリン/スレオニンタンパク質キナーゼである。GSK-3によるこれらの他のタンパク質のリン酸化は通常、標的タンパク質(「基質」とも呼ばれる。)を阻害する。述べられているように、GSK-3は、グリコーゲンシンターゼをリン酸化し、従って不活性化することについて知られている。これは、損傷を受けたDNA及びWntシグナル伝達に対する細胞応答の調節にも関連付けられている。GSK-3は、Ciをタンパク質分解して不活性化型にすることを標的としたヘッジホッグ(Hh)経路においてCiもリン酸化する。グリコーゲンシンターゼに加えて、GSK-3は他に多くの基質を有する。しかし、GSK-3は、基質を最初にリン酸化するための「プライミングキナーゼ」を通常必要とするという点でキナーゼの中では稀なものである。
【0127】
GSK-3リン酸化の結果、通常、基質の阻害が起こる。例えば、GSK-3がその基質のうち別のもの、転写因子のNFATファミリー、をリン酸化する場合、これらの転写因子は核に移行することができず、従って阻害される。発現中の組織パターン形成を確立するために必要とされるWntシグナル伝達経路でのその重要な役割に加えて、GSK-3は、骨格筋肥大などの状況下で誘導されるタンパク質合成に対しても非常に重要である。NFATキナーゼとしてのその役割から、GSK-3は分化及び細胞増殖両方のキーとなる制御因子としても位置付けられる。
【0128】
GSK3阻害は、1以上のGSK3酵素の阻害を指し得る。GSK3酵素ファミリーは周知であり、多くの変異型が記載されている(例えばSchafferら、2003参照)。具体的な実施態様において、GSK3-βが阻害される。GSK3-α阻害剤も適切であり、ある態様において、本発明での使用のための阻害剤は、GSK3-α及びGSK3-βの両方を阻害する。
【0129】
GSK3の阻害剤としては、GSK3に結合する抗体、GSK3のドミナントネガティブ変異型及びGSK3を標的とするsiRNA及びアンチセンス核酸を挙げることができる。GSK3阻害剤の例はBennettら(2002)及びRingら(2003)に記載されている。
【0130】
GSK3阻害剤の具体例としては、Kenpaullone、1-Azakenpaullone、CHIR99021、CHIR98014、AR-A014418(例えばGouldら、2004参照)、CT99021(例えばWagman、2004参照)、CT20026(Wagman、前出参照)、SB415286、SB216763(例えばMartinら、2005参照)、AR-A014418(例えばNobleら、2005参照)、リチウム(例えばGouldら、2003参照)、SB415286(例えばFrameら、2001参照)及びTDZD-8(例えばChinら、2005参照)が挙げられるが、これらに限定されない。Calbiochemから入手可能なさらなる代表的なGSK3阻害剤(例えば参照により本明細書中に組み込まれるDaltonら、WO2008/094597参照)としては、BIO(2’Z,3’?)-6-ブロモムジルブム(bromomdirubm)-3’-オキシム(GSK3阻害剤IX);BIO-アセトキシム(2’Z,3’E)-6-ブロモインジルビン-3’-アセトキシム(GSK3阻害剤X);(5-メチル-1H-ピラゾール-3-イル)-(2-フェニルキナゾリン-4-イル)アミン(GSK3-阻害剤XIII);ピリドカルバゾール-シクロペナジエニルルテニウム(cyclopenadienylruthenium)錯体(GSK3阻害剤XV);TDZD-8 4-ベンジル-2-メチル-1,2,4-チアジアゾリジン-3,5-ジオン(GSK3β阻害剤I);2-チオ(3-ヨードベンジル)-5-(1-ピリジル)-[1,3,4]-オキサジアゾール(GSK3β阻害剤II);OTDZT2,4-ジベンジル-5-オキソチアジアゾリジン-3-チオン(GSK3β阻害剤III);α-4-ジブロモアセトフェノン(GSK3β阻害剤VII);AR-AO14418N-(4-メトキシベンジル)-N’-(5-ニトロ-1,3-チアゾール-2-イル)尿素(GSK-3β阻害剤VIII);3-(1-(3-ヒドロキシプロピル)-1H-ピロロ[2,3-b]ピリジン-3-イル]-4-ピラジン-2-イル-ピロール-2,5-ジオン(GSK-3β阻害剤XI);TWSl 19ピロロピリミジン化合物(GSK3β阻害剤XII);L803H-KEAPP APPQSpP-NH2又はそのミリストイル化型(GSK3β阻害剤XIII);2-クロロ-1-(4,5-ジブロモ-チオフェン-2-イル)-エタノン(GSK3β阻害剤VI);AR-AO144-18;SB216763;及びSB415286が挙げられるが、これらに限定されない。
【0131】
GSK3阻害剤は、例えばWnt/β-カテニン経路を活性化し得る。β-カテニン下流遺伝子の多くは、多能性遺伝子ネットワークを同時制御する。例えば、GSK阻害剤はcMyc発現を活性化し、同時にそのタンパク質安定性及び転写活性を促進する。従って、いくつかの実施態様において、細胞において内在性Mycポリペプチド発現を刺激するためにGSK3阻害剤を使用することができ、それにより多能性を誘導するためにMycを発現させる必要がなくなる。
【0132】
さらに、GSK3-βの活性部位の構造の特徴が調べられており、特異的及び非特異的阻害剤と相互作用するキーとなる残基が同定されている(Bertrandら、2003)。この構造特性により、さらなるGSK阻害剤を容易に同定することが可能となっている。
【0133】
本明細書中で使用される阻害剤は、好ましくは、標的とすべきキナーゼに特異的である。ある実施態様の阻害剤は、GSK3-β及びGSK3-αに特異的であり、実質的にerk2を阻害せず、実質的にcdc2を阻害しない。好ましくは、阻害剤は、IC_(50)値の比率として測定した場合に、マウスerk2及び/又はヒトcdc2よりもヒトGSK3に対して、少なくとも100倍、より好ましくは少なくとも200倍、非常に好ましくは少なくとも400倍選択的であり;ここで、GSK3 IC_(50)値に対する言及は、ヒトGSK3-β及びGSK3-αに対する平均値を指す。GSK3に特異的であるCHIR99021を用いて良好な結果が得られている。CHIR99021の使用に適切な濃度は、0.01から100、好ましくは0.1から20、より好ましくは0.3から10μMの範囲である。
【0134】
2.MEK阻害剤
マイトジェン活性化タンパク質キナーゼキナーゼ(MAPK/ERKキナーゼ又はMEK)又はMAPKカスケードのようなその関連シグナル伝達経路の阻害剤を含むMEK阻害剤を本発明のある態様で使用し得る。マイトジェン活性化タンパク質キナーゼキナーゼ(sic)は、マイトジェン活性化タンパク質キナーゼをリン酸化するキナーゼ酵素である。これはMAP2Kとしても知られている。細胞外刺激により、MAPキナーゼ、MAPキナーゼキナーゼ(MEK、MKK、MEKK又はMAP2K)及びMAPキナーゼキナーゼキナーゼ(MKKK又はMAP3K)から構成されるシグナル伝達カスケード(「MAPKカスケード」)を介してMAPキナーゼの活性化が導かれる。
【0135】
本明細書中のMEK阻害剤は一般にMEK阻害剤を指す。従って、MEK阻害剤は、MEK1、MEK2及びMEK5を含む、タンパク質キナーゼのMEKファミリーのメンバーの何らかの阻害剤を指す。MEK1、MEK2及びMEK5阻害剤についても述べる。当技術分野で既に公知の適切なMEK阻害剤の例としては、MEK1阻害剤PD184352及びPD98059、MEK1及びMEK2の阻害剤、U0126及びSL327及びDaviesら(2000)により論じられているものが挙げられる。
【0136】
特に、他の既知のMEK阻害剤と比較した場合、PD184352及びPD0325901は特異性及び効力が高いことが分かっている(Bainら、2007)。他のMEK阻害剤及びMEK阻害剤のクラスはZhangら(2000)において記載されている。
【0137】
MEKの阻害剤としては、MEKに対する抗体、MEKのドミナントネガティブ変異型及びMEKの発現を抑制するsiRNA及びアンチセンス核酸を挙げることができる。MEK阻害剤の具体例としては、PD0325901(例えばRinehartら、2004参照)、PD98059(例えばCell Signalling Technoloyから入手可能)、U0126(例えばCell Signalling Technoloyから入手可能)、SL327(例えばSigma-Aldrichから入手可能)、ARRY-162(例えばArray Biopharmaから入手可能)、PD184161(例えばKleinら、2006参照)、PD184352(CI-1040)(例えばMattinglyら、2006参照)、スニチニブ(例えば、参照により本明細書中に組み込まれる、Voss、ら、US2008004287参照)、ソラフェニブ(Voss上出参照)、バンデタニブ(Voss上出参照)、パゾパニブ(例えばVoss上出参照)、アキシチニブ(Voss上出参照)及びPTK787(Voss上出参照)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0138】
現在のところ、いくつかのMEK阻害剤の臨床試験評価が行われている。CI-1040は、癌に対して第I相の及び第II相臨床試験において評価を受けている(例えばRinehartら、2004参照)。臨床試験で評価中の他のMEK阻害剤としては、PD184352(例えばEnglishら、2002参照)、BAY43-9006(例えばChowら、2001参照)、PD-325901(またPD0325901とも)、GSK1120212、ARRY-438162、RDEAl 19、AZD6244(またARRY-142886又はARRY-886も)、RO5126766、XL518及びAZD8330(またARRY-704も)が挙げられる。
【0139】
MEKの阻害は、RNA干渉(RNAi)を用いて都合よく達成することもできる。一般に、MEK遺伝子の全て又は一部に相補的な2本鎖RNA分子を多能性細胞に導入し、こうしてMEKをコードするmRNA分子の特異的分解が促進される。この転写後機構の結果、標的となるMEK遺伝子の発現が低下するか又は消失する。RNAiを用いてMEK阻害を達成するための適切な技術及びプロトコールは既知である。
【0140】
GSK3阻害剤及びMEK阻害剤を含むキナーゼ阻害剤を同定するための多くのアッセイが知られている。例えば、Daviesら(2000)は、ペプチド基質及び放射性標識ATPの存在下でキナーゼをインキュベートするキナーゼアッセイを記載している。キナーゼによる基質のリン酸化の結果、基質に標識が取り込まれる。各反応液の分注液をホスホセルロース紙上に固定し、遊離ATPを除去するためにリン酸中で洗浄する。次に、インキュベート後の基質の活性を測定し、キナーゼ活性の指標を得る。このようなアッセイを用いて、候補キナーゼ阻害剤の存在下又は非存在下での相対的なキナーゼ活性を容易に決定することができる。Downeyら(1996)も、キナーゼ阻害剤を同定するために使用することができるキナーゼ活性に対するアッセイを記載している。
【0141】
3.TGF-β受容体阻害剤
TGF-β受容体阻害剤としては、一般にTGFシグナル伝達の何らかの阻害剤又はTGF-β受容体(例えばALK5)阻害剤に特異的な阻害剤を挙げることができ、これには、TGFβ受容体(例えばALK5)に対する抗体、TGFβ受容体(例えばALK5)のドミナントネガティブ変異型及びTGFβ受容体(例えばALK5)の発現を抑制するsiRNA及びアンチセンス核酸を挙げることができる。典型的なTGFβ受容体/ALK5阻害剤としては、SB431542(例えばInmanら、2002参照)、3-(6-メチル-2-ピリジニル)-N-フェニル-4-(4-キノリニル)-1H-ピラゾール-1-カルボチオアミドとしても知られるA-83-01(例えば、Tojoら、2005参照、例えばToicris Bioscienceから市販されている。);2-(3-(6-メチルピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-4-イル)-1,5-ナフチリジン、Wnt3a/BIO(例えば、参照により本明細書中に組み込まれる、Daltonら、WO2008/094597参照)、BMP4(Dalton、上出参照)、GW788388(-(4-[3-(ピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-4-イル]ピリドム(pyridm)-2-イル}-N-(テトラヒドロ-2H-ピラン-4-イル)ベンズアミド)(例えば、Gellibertら、2006参照)、SM16(例えば、Suzukiら、2007参照)、IN-1130(3-((5-(6-メチルピリジン-2-イル)-4-(キノキサリン-6-イル)-1H-イミダゾール-2-イル)メチル)ベンズアミド)(例えば、Kimら、2008参照)、GW6604(2-フェニル-4-(3-ピリジン-2-イル-1H-ピラゾール-4-イル)ピリジン)(例えば、de Gouvilleら、2006参照)、SB-505124(2-(5-ベンゾ[l,3]ジオキソール-5-イル-2-tert-ブチル-3H-イミダゾール-4-イル)-6-メチルピリジン塩酸塩)(例えばDaCostaら、2004参照)及びピリミジン誘導体(例えば、参照により本明細書中に組み込まれるStieflら、WO2008/006583で列挙されるもの参照)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0142】
さらに、「ALK5阻害剤」は、非特異的キナーゼ阻害剤を包含するものではないが、「ALK5阻害剤」は、例えば、SB-431542など、ALK5に加えてALK4及び/又はALK7を阻害する阻害剤を包含すると理解されたい(例えばInmanら、2002参照)。本発明の範囲を限定するものではないが、ALK5阻害剤は、間充織-上皮転換/移行(MET)プロセスに影響を与えると考えられる。TGFβ/アクチビン経路は、上皮-間充織移行(EMT)に対するドライバーである。発明者らは、TGFβ/アクチビン経路の阻害によりMET(即ち再プログラミング)プロセスを促進することができることを企図する。
【0143】
TGFβ/アクチビン経路の阻害は同様の効果を有すると考えられている。従って、本明細書中で記載のようなTGF-β/ALK5阻害剤と組み合わせて又はこれの代わりに、TGFβ/アクチビン経路の何らかの阻害剤(例えば上流又は下流)を使用することができる。典型的なTGFβ/アクチビン経路阻害剤としては、TGFβ受容体阻害剤、SMAD2/3リン酸化の阻害剤、SMAD2/3及びSMAD4の相互作用の阻害剤及びSMAD6及びSMAD7の活性化因子/アゴニストが挙げられるが、これらに限定されない。さらに、本明細書中に記載の分類は、単に組織化することを目的とするものであり、当業者は、化合物が経路内の1以上の点に影響を与え得、従って化合物が規定のカテゴリーの複数において機能し得ることを知っている。
【0144】
TGFβ受容体阻害剤は、TGFβ受容体に対する抗体、TGFβ受容体のドミナントネガティブ変異型及びTGFβ受容体を標的とするsiRNA又はアンチセンス核酸を含み得る。阻害剤の具体例としては、SU5416;2-(5-ベンゾ[l,3]ジオキソール-5-イル-2-tert-ブチル-3H-イミダゾール-4-イル)-6-メチルピリジン塩酸塩(SB-505124);レルデリムムブ(lerdelimumb)(CAT-152);メテリムマブ(metelimumab)(CAT-192);GC-1008;IDll;AP-12009;AP-11014;LY550410;LY580276;LY364947;LY2109761;SB-505124;SB-431542;SD-208;SM16;NPC-30345;Ki26894;SB-203580;SD-093;グリベック;3,5,7,2’,4’-ペンタヒドロキシフィアボン(fiavone)(Morin);アクチビン-M108A;P144;可溶性TBR2-Fc;及びTGFβ受容体を標的とするアンチセンス形質移入腫瘍細胞(例えば、Wrzesinskiら、2007;Kaminskaら、2005;及びChangら、2007参照)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0145】
4.ROCK阻害剤
多能性幹細胞、特にヒトES細胞及びiPS細胞は、細胞剥離及び解離時にアポトーシスの影響を受け易く、これはクローン単離又は増殖及び分化誘導に重要である。最近、ROCK-関連シグナル伝達経路に対する阻害剤であるRho結合キナーゼ(ROCK)阻害剤、例えばRho特異的阻害剤、ROCK特異的阻害剤又はミオシンII特異的阻害剤など、小さなクラスの分子が、解離した多能性幹細胞のクローン効率及び生存性を向上させることが分かった。本発明のある態様において、多能性幹細胞の培養及び継代及び/又は幹細胞の分化に対してROCK阻害剤を使用し得る。従って、接着培養又は懸濁培養など、多能性幹細胞が増殖し、解離し、凝集物を形成するか又は分化を引き起こす何らかの細胞培養液中にROCK阻害剤が存在し得る。
【0146】
ROCKシグナル伝達経路としては、RhoファミリーGTPase;ROCK、Rhoの主要な下流エフェクターキナーゼ;ミオシンII、ROCKの下流のプレドミナントエフェクター(Harbら、2008);及び何らかの中間、上流又は下流シグナルプロセッサーを挙げることができる。ROCKは、ミオシン調節軽鎖(MRLC)の脱リン酸化を通じてミオシン機能を負の方向に制御するROCKの主要な下流の標的の1つである、ミオシンホスファターゼ標的サブユニット1(MYPT1)をリン酸化し、不活性化し得る。
【0147】
ROCKは、(3種類のアイソフォーム-RhoA、RhoB及びRhoCが存在する)Rhoに対する標的タンパク質となるセリン/スレオニンキナーゼである。これらのキナーゼは、最初にRhoA-誘導性ストレスファイバー及び接着斑の形成に介在するものと位置付けられた。2種類のROCKアイソフォーム、ROCK1(p160ROCK、ROKβとも呼ばれる。)及びROCK2(ROKα)は、N-末端キナーゼドメインと、それに続くRho-結合ドメイン及びプレクストリン相同ドメイン(PH)を含有するコイルドコイルドメインから構成される。両方のROCKとも、細胞骨格制御因子であり、ストレスファイバー形成、平滑筋収縮、細胞接着、膜ラフリング及び細胞運動性においてRhoAの影響に介在する。ROCKは、ミオシンII、ミオシン軽鎖(MLC)、MLCホスファターゼ(MLCP)及びホスファターゼ・テンシンホモローグ(PTEN)などの下流分子を標的とすることによって、その生物学的活性を発揮し得る。
【0148】
ROCK阻害剤の非限定例としては、HA-100、Y-27632、H-1152、ファスジル(HA1077とも呼ばれる。)、Y-30141(米国特許第5,478,838号に記載)、Wf-536、HA-1077、ヒドロキシル-HA-1077、GSK269962A、SB-772077-B及びその誘導体及びROCKに対するアンチセンス核酸、RNA干渉誘導核酸(例えばsiRNA)、競合ペプチド、アンタゴニストペプチド、阻害抗体、抗体-ScFV断片、それらのドミナントネガティブ変異型及び発現ベクターが挙げられる。さらに、他の低分子化合物がROCK阻害剤として知られているので、このような化合物又はその誘導体も実施態様において使用することができる(例えば、参照により本明細書によって組み込まれる米国特許公開第20050209261号、同第20050192304号、同第20040014755号、同第20040002508号、同第20040002507号、同第20030125344号及び同第20030087919号及び国際公開第2003/062227号、同第2003/059913号、同第2003/062225号、同第2002/076976号及び同第2004/039796号参照)。本発明のある態様において、ROCK阻害剤の1又は2以上の組み合わせを使用することもできる。
【0149】
クロストリジウム・ボツリヌム(Clostridium botulinum)C3細胞外酵素及び/又はミオシンII特異的阻害剤などのRho特異的阻害剤も本発明のある態様においてROCK阻害剤として使用し得る。
【0150】
E.低酸素条件
前駆細胞様状態の維持に有利に働くように再プログラミングする前に増殖段階中全体及びおそらくは再プログラミング段階の少なくとも一部において、低酸素を使用し得る。最初に、細胞が増殖する際、細胞はより前駆細胞様の状態からより分化した状態に移行する傾向がある(即ちCD34発現レベルが時間とともに低下する。)。低酸素条件は、造血前駆細胞(HP)の典型的な微小環境を模倣しており、前駆細胞の分化を遅延させると思われる(Eliasson及びJonsson、2010)。本明細書中で使用される低酸素は、約2%のレベルであり得るか又は約1から7%の範囲内であり得る。さらなる態様において、低O_(2)は、iPS形成を促進するために再プログラミング段階中にも使用し得る(Yoshidaら、2009)。
【0151】
V.エピソーム性遺伝因子
本発明のある態様において、再プログラミング因子は、1以上の外来性エピソーム遺伝因子に含まれる発現カセットから発現される(参照により本明細書中に組み込まれる米国特許公開第2010/0003757号及び米国出願第61/258,120号参照)。
【0152】
再プログラミング遺伝子の異所性発現のために、レトロウイルス又はレンチウイルスベクターを用いて、ヒト体細胞から多能性幹細胞への誘導が達成されている。モロニーマウス白血病ウイルスなどの組み換えレトロウイルスは、宿主ゲノムへの安定的な組み込み能を有する。これらは宿主ゲノムへの組み込みを可能にする逆転写酵素を含有する。レンチウイルスはレトロウイルスのサブクラスである。これらは、非分裂細胞ならびに分裂細胞のゲノムに組み込む能力があるので、ベクターとして広く適用されている。RNA型のウイルス性ゲノムは、ウイルスが細胞に侵入したときに逆転写されてDNAを生成し、次いでこれがウイルスインテグラーゼ酵素によりランダムな位置でゲノムに挿入される。従って、再プログラミングを成功させる現在の技術は、組み込みに基づくウイルスによるアプローチに依存している。
【0153】
しかし、現在の技術では、組み込みを標的化すること未だ日常的なものではなく(Bodeら、2000)、従来の選択肢である無作為組み込みは人工多能性幹細胞において挿入変異を引き起こし、結果が予測不能となり得る。同じ理由で、導入遺伝子の発現は、組み込み部位のクロマチン構造に依存するので調節することができない(Baerら、2000)。高レベル発現は、都合のよいゲノム遺伝子座でのみ達成可能であるが、高発現部位への組み込みは人工多能性幹細胞の重要な細胞機能を妨害するという危険がある。
【0154】
さらに、DNAメチル化が付随するプロセスで導入遺伝子を下方制御することにより機能する、外来DNAに対する細胞防御機構の存在に関する証拠が増えつつある(Bingham、1997、Garrickら、1998)。さらに、ウイルス成分は、細胞を形質転換するために他の因子とともに作用し得る。多くのウイルス遺伝子からの連続的発現を伴うので、細胞内でウイルスゲノムの少なくとも一部が存続することにより細胞形質転換が起こり得る。これらの遺伝子は細胞のシグナル伝達経路を妨害し得、それにより、細胞の表現型の変化が観察され、形質転換された細胞の細胞分裂が増加するが、これはウイルスにとって好都合である。
【0155】
従って、ある実施態様において、本発明は、基本的に、例えば先行する方法で使用されるレトロウイルス又はレンチウイルスベクターエレメント由来のものなどの外来性遺伝因子不含である人工多能性幹細胞を作製するための新規方法を開発する。本発明におけるこれらの方法は、最適な再プログラミング効率及び反応速度を得るために、細胞シグナル伝達阻害剤の存在下で再プログラム化細胞を培養することと組み合わせて、染色体外で複製するベクター又はエピソームとして複製可能なベクターを使用する(参照により本明細書中に組み込まれる米国出願第12/478,154号参照)。
【0156】
アデノウイルス、サル空胞ウイルス40(SV40)、ウシ乳頭腫ウイルス(BPV)などの多くのDNAウイルス又は出芽酵母ARS(自律複製配列)含有プラスミドは、哺乳動物細胞において染色体外で複製する。これらのエピソーム性プラスミドは本質的に、ベクターの組み込みに付随するこれらの欠点が全くない(Bodeら、2001)。エプスタインバーウイルス(EBV)を含むリンパ球向性ヘルペスウイルスに基づく系も染色体外で複製し、体細胞への再プログラミング遺伝子の送達に役立ち得る。
【0157】
例えば、本発明で使用されるエピソーム性ベクターに基づくアプローチは、下記で詳細に記載するような臨床背景においてこの系の実行可能性を損なうことなく、EBVエレメントに基づく系の良好な複製及び維持に必要なロバストなエレメントを取り上げる。有用なEBVエレメントは、OriP及びEBNA-1又はそれらの変異型又は機能的同等物である。この系のさらなる長所は、これらの外来性エレメントが、細胞への導入後、時間とともに失われることであり、これらのエレメントを基本的に含まない自立したiPS細胞が得られるようになる。
【0158】
A.エピソーム性ベクター
これらの再プログラミング法は、基本的に外来性ベクター又はウイルス性エレメント不含のiPS細胞を作製するために、エピソームとして複製可能なベクターである、染色体外で複製するベクター(即ちエピソーム性ベクター)を使用し得る(参照により本明細書中に組み込まれる米国出願第61/058,858号;Yuら、2009参照)。アデノウイルス、サル空胞ウイルス40(SV40)もしくはウシ乳頭腫ウイルス(BPV)などの多くのDNAウイルス(BPV)又は出芽酵母ARS(自律複製配列)含有プラスミドは、哺乳動物細胞において染色体外で又はエピソームとして複製する。これらのエピソーム性プラスミドは本質的に、ベクターの組み込みに付随するこれらの欠点が全くない(Bodeら、2001)。例えば、上記で定義されるようなエプスタインバーウイルス(EBV)を含むリンパ球向性ヘルペスウイルスに基づく系又は上記で定義されるようなエプスタインバーウイルス(EBV)は染色体外で複製し、体細胞への再プログラミング遺伝子の送達に役立ち得る。
【0159】
例えば、本発明で使用されるプラスミドに基づくアプローチは、下記で詳細に記載するような臨床背景においてこの系の実行可能性を損なうことなく、EBVエレメントに基づく系の良好な複製及び維持に必要なロバストなエレメントを取り上げ得る。基本的なEBVエレメントはOriP及びEBNA-1又はそれらの変異型又は機能的同等物である。この系のさらなる長所は、これらの外来性エレメントが、細胞への導入後、時間とともに失われることであり、外来性エレメントを基本的に含まない自立したiPS細胞が得られる。
【0160】
プラスミド又はリポソームに基づく染色体外ベクター、例えばoriPに基づくベクター及び/又はEBNA-1誘導体をコードするベクターを使用することにより、DNAの大きな断片を細胞に導入し、染色体外で維持し、細胞周期ごとに1回複製させ、娘細胞に対して効果的に分割し、実質的に免疫応答の誘発をなくすことができるようになる。特に、oriPに基づく発現ベクターの複製に必要とされる唯一のウイルス性タンパク質であるEBNA-1は、MHCクラスI分子におけるその抗原の提示に必要なプロセシングを迂回する効果的な機構を発達させてきたので、細胞性免疫応答を誘導しない(Levitskayaら、1997)。さらに、EBNA-1は、クローン化遺伝子の発現を促進するためにトランスで作用し得、一部の細胞系統では最大で100倍、クローン化遺伝子の発現を誘導する。(Langle-Rouaultら、1998;Evansら、1997)。最後に、このようなoriPに基づく発現ベクターの作製は安価である。
【0161】
他の染色体外ベクターとしては、他のリンパ球向性ヘルペスウイルスに基づくベクターが挙げられる。リンパ球向性ヘルペスウイルスは、リンパ芽球(例えばヒトBリンパ芽球)において複製し、その自然の生活環の一部のためにプラスミドになるヘルペスウイルスである。単純ヘルペスウイルス(HSV)は、「リンパ球向性」ヘルペスウイルスではない。典型的なリンパ球向性ヘルペスウイルスとしては、EBV、カポジ肉腫ヘルペスウイルス(KSHV);リスザルヘルペスウイルス(HS)及びマレック病ウイルス(MDV)が挙げられるが、これらに限定されない。酵母ARS、アデノウイルス、SV40又はBPVなど、エピソームに基づくベクターの他のソースも企図される。
【0162】
B.エプスタインバーウイルス
ヒトヘルペスウイルス4(HHV-4)とも呼ばれるエプスタインバーウイルス(EBV)は、(単純ヘルペスウイルス及びサイトメガロウイルスを含む)ヘルペスファミリーのウイルスであり、ヒトにおいて最も一般的なウイルスの1つである。EBVは、細胞分裂中の細胞内でのその複製及びその保持のための2つの基本的特性にのみ依存して(Yatesら、1985;Yatesら、1984)、そのゲノムを染色体外で維持し、効率的な複製及び維持のために宿主細胞の機構とともに働く(Lindner及びSugden、2007)。一方のエレメントは、一般にoriPと呼ばれ、シスに存在し、複製開始点となる。他方の因子、EBNA-1は、oriP内の配列に結合することによって、トランスで機能してプラスミドDNAの複製及び維持を促進する。非限定例として、本発明のある態様は、これらの2つの特性を取り上げ、従来のプラスミドを上回りこれらの遺伝子の複製及び持続的発現を促進するために、体細胞の再プログラミングに必要な遺伝子を往復させるベクターとの関連で、それらを使用する。
C.複製開始点
【0163】
ある態様において、EBVの複製開始点であるOriPを使用し得る。OriPはDNA複製が開始される部位又はその付近の部位であり、リピートファミリー(FR)及び二重対称(dyad symmetry、DS)として知られるおよそ1キロ塩基対離れた2つのシス作用性配列から構成される。
【0164】
FRは、30bpリピートの21個の不完全コピーから構成され、20個の高親和性EBNA-1結合部位を含有する。FRにEBNA-1が結合すると、これは、プロモーターの転写エンハンサーとして最大で10kb離れてシスで作用し(Reisman及びSugden、1986;Yates、1988;Sugden及びWarren、1989;Wysokenski及びYates、1989;Gahn及びSugden、1995;Kennedy及びSugden、2003;Altmannら、2006)、FR含有プラスミドの核内繋留及び正確な維持に寄与する(Langle-Rouaultら、1998;Kirchmaier及びSugden、1995;Wangら、2006;Nanbo及びSugden、2007)。oriPプラスミドの効率的な分割もFRに起因すると思われる。このウイルスはFRにおいて20個のEBNA-1-結合部位を維持するように進化してきたが、一方で、効率的なプラスミド維持に必要なのはこれらの部位のうち僅か7個であり、全部で12個のEBNA-1結合部位を有する、3コピーのDSのポリマーにより再構成することができる(Wysokenski及びYates、1989)。
【0165】
二重対称(dyad symmetry)エレメント(DS)は、EBNA-1の存在下でDNA合成の開始に十分であり(Aiyarら、1998;Yatesら、2000)、DSで又はその付近の何れかで開始が起こる(Gahn及びSchildkraut、1989;Nillerら、1995)。ウイルス性DNA合成の終結はFRで起こると考えら得るが、これは、2Dゲル電気泳動により観察されるように、FRにEBNA-1が結合した際にそれが複製フォーク障壁として機能するからである(Gahn及びSchildkraut、1989;Ermakovaら、1996;Wangら、2006)。DSからのDNA合成の開始は、細胞周期あたり1回可能であり(Adams、1987;Yates及びGuan、1991)、細胞複製系の構成成分により制御される(Chaudhuriら、2001;Ritziら、2003;Dharら、2001;Schepersら、2001;Zhouら、2005;Julienら、2004)。DSは、FRで見られるものよりも親和性が低いものではあるが、4個のEBNA-1-結合部位を含有する(Reismanら、1985)。DSのトポロジーは、4個の結合部位が2つの部位ペアとして編成され、各ペア間では中心から中心への間隔が21bpであり、ペアではない2個の内部結合部位間の中心から中心への間隔が33bpであるというものである(Baerら、1984;Rawlinsら、1985)。
【0166】
DS内のエレメントの機能的役割は、非効率的にDSを置換し得るエレメントとして同定された、Rep^(*)と呼ばれるEBVのゲノムの別の領域の研究により確認されている(Kirchmaier及びSugden、1998)。Rep^(*)を8回重合させることにより、その複製の支援においてDSと同程度に有効なエレメントが得られた(Wangら、2006)。Rep^(*)の生化学的精査から、その複製機能に非常に重要な21bpの中心-中心間隔を有するEBNA-1結合部位のペアが同定された(同書)。Rep^(*)のポリマーの全フランキング配列をラムダファージ由来の配列で置換した後でも複製機能が維持されたので、Rep^(*)の最小レプリケーターがEBNA-1結合部位のペアであることが分かった。DS及びRep^(*)の比較から、これらのレプリケーターが、EBNA-1により曲げられ、結合される、適切な間隔が空いた部位ペアを介して細胞複製機構を動員することによりDNA合成の開始を支援するという、共通メカニズムが明らかになった。
【0167】
EBVと関連がない哺乳動物細胞において複製し、いくつかの点でEBVのRaji株内の開始ゾーンと同様と思われる、他の染色体外認可プラスミドがある。Hans Lipps及び共同研究者らは、「核骨格/マトリクス結合領域」(S/MAR)及びロバストな転写単位を含有するプラスミドを開発し、研究した(Piechaczekら、1999;Jenkeら、2004)。それらのS/MARは、ヒトインターフェロン-β遺伝子由来であり、A/Tリッチであり、核マトリクスとのその結合及び、低イオン強度で又はスーパーコイルDNAへ埋め込まれた際に優先的に巻き戻されるということにより、機能面で定義される(Bodeら、1992)。これらのプラスミドは、半保存的に複製し、ORCタンパク質に結合し、それらのDNA全体にわたり効率的で無作為にDNA合成の開始を支援する(Schaarschmidtら、2004)。これらは、薬物選択なしで、増殖中のハムスター及びヒト細胞中で効率的に維持され、ブタ胚に導入された場合、胎仔動物の殆どの組織においてGFPの発現を支え得る(Manziniら、2006)。
D.トランス作用因子
【0168】
トランス作用因子の特定の例は、各細胞分裂中の細胞染色体とは独立であるが呼応してoriPのFR及びDS又はRep^(*)に結合して複製及びEBVに基づくベクターと娘細胞との正確な分割を促進する、DNA結合タンパク質であるエプスタインバー核抗原1(EBNA-1)であり得る。
【0169】
EBNA-1の641アミノ酸(AA)は、突然変異誘発及び欠失分析によってその様々な機能と関連付けられたドメインに分類されている。AA40-89とAA329-378との間の2つの領域は、EBNA-1が結合した際に、2個のDNAエレメントにシス又はトランスで連結可能であり、従って連結領域(Linking Region)1及び2(LR1、LR2)と呼ばれている(Middleton及びSugden、1992;Frappier及びO’Donnell、1991;Suら、1991;Mackeyら、1995)。EBNA-1のこれらのドメインをGFPに融合させると、GFPが有糸分裂染色体に誘導される(Marechalら、1999;Kandaら、2001)。LR1及びLR2は複製に対して機能面で重複しており、何れか一方を欠失させた場合、DNA複製を補助することが可能なEBNA-1誘導体が得られる(Mackey及びSugden、1999;Searsら、2004)。LR1及びLR2はアルギニン及びグリシン残基に富み、A/TリッチDNAに結合するAT-フックモチーフと似ている(Aravind及びLandsman、1998)、(Searsら、2004)。EBNA-1のLR1及びLR2のインビトロ分析から、それらのA/TリッチDNAへの結合能が明らかになった(Searsら、2004)。このようなAT-フックを1個含有するLR1をEBNA-1のDNA結合及び二量体化ドメインと融合させた場合、野生型EBNA-1よりも効率が低いが、oriPプラスミドのDNA複製に十分であることが分かった(同書)。
【0170】
しかしLR1及びLR2は異なる。LR1のC-末端側半分は、N-末端側半分のArg-Glyの繰り返し以外のアミノ酸から構成され、ユニーク領域(unique region)1(UR1)と呼ばれる。UR1は、FRを含有する形質移入及び組み込まれたレポーターDNAから転写を効率的に活性化するためにEBNA-1にとって必要である(Wuら、2002;Kennedy及びSugden、2003;Altmannら、2006)。UR1は、EBVが感染したB細胞の効率的な形質転換にも必須である。ウイルス全体に関して、このドメインを欠くEBNA-1の誘導体で野生型タンパク質を置換した場合、これらの誘導体ウイルスの形質転換能は野生型ウイルスの形質転換能の0.1%となる(Altmannら、2006)。
【0171】
LR2は、EBNA-1のoriP複製の支持に必要ではない(Shireら、1999;Mackey及びSugden、1999;Searsら、2004)。さらに、EBNA-1のN-末端側半分をHMGA1aなどのAT-フックモチーフを含有する細胞性タンパク質で置換することができ、これは依然として複製機能を保持している(Hungら、2001;Searsら、2003;Altmannら、2006)。これらの知見から、ヒト細胞におけるoriPの維持に必要なのはLR1及びLR2のAT-フックの活性であると思われることが示唆される
【0172】
EBNA-1の残基の3分の1(AA91-328)は、プロテオソーム分解及び提示を阻害することによるEBNA-1の宿主免疫応答回避能に関与する、グリシン-グリシン-アラニン(GGA)リピートからなる(Levitskayaら、1995;Levitskayaら、1997)。これらのリピートは、インビトロ及びインビボでのEBNA-1の翻訳を阻害することも分かっている(Yinら、2003)。しかし、このドメインの大部分を欠失させても、細胞培養においてEBNA-1の機能に明らかな影響がなく、このため、このドメインが果たす役割の解明は困難なものとなっている。
【0173】
核移行シグナル(NLS)は、細胞核輸入機構とも関連するAA379-386によりコードされる(Kimら、1997;Fischerら、1997)。LR1及びLR2のArg-Glyリッチ領域内の配列は、塩基含量が高いゆえにNLSとしても機能し得る。
【0174】
最後に、C-末端(AA458-607)は、EBNA-1の重複するDNA結合及び二量体化ドメインをコードする。DNAに結合するこれらのドメインの構造は、X線結晶学により解析され、パピローマウイルスのE2タンパク質のDNA結合ドメインと同様であることが分かった(Hegdeら、1992;Kimら、2000;Bochkarevら、1996)。
【0175】
本発明の具体的な実施態様において、再プログラミングベクターは、oriP及び、細胞分裂中のプラスミド複製及びその的確な維持を補助する能力があるタイプのEBNA-1をコードする短縮配列の両方を含有する。野生型EBNA-1のアミノ末端側の3分の1内の高反復配列及び、様々な細胞で毒性を示している25アミノ酸領域の除去は、oriPに付随するEBNA-1のトランス作用の機能に重要ではない(Yatesら、1985;Kennedyら、2003)。従って、ΔUR1として知られるEBNA-1の短縮型は、ある実施態様においてエピソーム性ベクターに基づく系内でoriPと一緒に使用され得る。
【0176】
ある態様において、本発明において使用され得るEBNA-1の誘導体は、対応する野生型ポリペプチドに対してアミノ酸配列が修飾されているポリペプチドである。この修飾には、EBNA-1中のLR1(残基約40から約89)のユニーク領域(残基約65から約89)に対応する領域中の少なくとも1つのアミノ酸残基の欠失、挿入又は置換が含まれ、得られる誘導体が望ましい特性、例えば、二量体化し、oriPに対応するoriを含有するDNAに結合し、核に移行し、細胞毒性がなく、染色体外から転写を活性化するが組み込まれた鋳型からの転写を実質的に活性化しないこと、を有する限り、EBNA-1の他の残基に対応する領域の1以上のアミノ酸残基、例えば約残基1から約残基40、残基約90から約328(「Gly-Gly-Ala」リピート領域)、残基約329から約377(LR2)、残基約379から約386(NLS)、残基約451から約608(DNA結合及び二量体化)又は残基約609から約641、の欠失、挿入及び/又は置換が含まれ得る。
【0177】
E.非残留特性
重要なこととして、oriPに基づくエピソーム性ベクターの複製及び維持は不完全であり、細胞へそれが導入されてから最初の2週間内に細胞から急激に失われるが(細胞分裂1回あたり25%);しかし、プラスミドを保持する細胞ではその喪失はそれほど多くない(細胞分裂1回あたり3%)(Leight及びSugden、2001;Nanbo及びSugden、2007)。プラスミドを有する細胞に対する選択が排除されると、得られる娘細胞内にプラスミドが以前に存在したという痕跡を残すことなく、時間経過とともに各細胞分裂中にプラスミドが失われ、プラスミド全てが排除される。本発明のある態様は、iPS細胞を作製するために遺伝子を送達するための現在のウイルスによるアプローチに代わるものとして、oriPに基づく系の、この痕跡を残存さないという特性を利用する。他の染色体外ベクターもまた宿主細胞の複製及び増殖中に失われ、これも本発明において使用し得る。ある態様において、外来性エピソーム性ベクターエレメントの除去又は基本的に外来性遺伝因子不含であるiPS細胞の選択のための方法が使用され得る。
【0178】
VI.ベクター構築及び送達
ある実施態様において、細胞において上述のような再プログラミング因子をコードする核酸配列に加えてさらなるエレメントを含むように再プログラミングベクターを構築し得る。これらのベクターの構成成分及び送達方法の詳細は下記で開示する。
【0179】
A.ベクター
当業者は、標準的な組み換え技術を通じてベクターを構築するために十分な知識を有しているであろう(例えば、両者とも参照により本明細書中に組み込まれるManiatisら、1988及びAusubelら、1994参照)。
【0180】
ベクターは、遺伝子送達及び/又は遺伝子発現をさらに調整するか又はそれ以外では標的とする細胞に有利な特性を与える他の成分又は機能性も含み得る。このような他の成分としては、例えば、細胞への結合又は標的化に影響を与える成分(細胞型又は組織特異的結合を媒介する成分を含む。);細胞によるベクター核酸の取り込みに影響を与える成分;取り込み後に細胞内でのポリヌクレオチドの移行に影響を与える成分(薬剤介在性の核移行など);及びポリヌクレオチドの発現に影響を与える成分が挙げられる。
【0181】
このような成分はまた、ベクターにより送達される核酸を取り込み、発現している細胞を検出するか又は選択するために使用することができる検出可能なマーカー及び/又は選択マーカーなどのマーカーも含み得る。このような成分は、ベクターの天然の特性として提供され得るか(結合及び取り込みに介在する成分又は機能性を有するある種のウイルス性ベクターの使用など)又はベクターはこのような機能性をもたらすために改変され得る。当技術分野において多岐にわたるこのようなベクターが公知であり、一般に入手可能である。ベクターが宿主細胞中に維持される場合、このベクターは自律的構造として有糸分裂中に細胞により安定的に複製され得るか、宿主細胞のゲノム内に組み込まれ得るか又は宿主細胞の核もしくは細胞質中に維持され得る。
【0182】
B.制御エレメント
ベクターに含まれる真核発現カセットは、特に、(5’から3’方向で)タンパク質コード配列に操作可能に連結される真核転写プロモーター、介在配列を含むスプライスシグナル及び転写終結/ポリアデニル化配列を含有する。
【0183】
i.プロモーター/エンハンサー
「プロモーター」は、開始及び転写速度が調節される核酸配列領域である調節配列である。これは、制御タンパク質及び分子がRNAポリメラーゼ及び他の転写因子などに結合して核酸配列の特異的転写を開始させ得る遺伝因子を含有し得る。「操作可能に配置される」、「操作可能に連結される」、「制御下」及び「転写制御下」という句は、プロモーターが、転写開始及び/又はその配列の発現を調節するために核酸配列に対して正しい機能的位置及び/又は向きにあることを意味する。
【0184】
EBNA1-をコードする本発明のベクターでの使用に適切なプロモーターは、EBNA1タンパク質をコードする発現カセットの発現を支配し、その結果、EBV oriP含有ベクターを安定的に維持するのに十分な定常状態レベルのEBNA1タンパク質が得られるものである。プロモーターはまた、再プログラミング因子をコードする発現カセットの効率的な発現のためにも使用される。
【0185】
プロモーターは一般に、RNA合成に対して開始部位の位置を決定するために機能する配列を含む。この例のうち最もよく知られているものはTATAボックスであるが、例えば哺乳動物末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ遺伝子に対するプロモーター及びSV40後期遺伝子に対するプロモーターなど、一部のプロモーターにはTATAボックスがなく、開始部位それ自身を覆う別のエレメントが、開始位置の固定に役立つ。さらなるプロモーターエレメントは、転写開始の頻度を制御する。一般的には、これらは、開始部位上流の領域30から110bpに位置するが、多くのプロモーターが、開始部位の下流にも機能的エレメントを含有することが示されている。コード配列をプロモーターの「調節下」に持っていくために、1つは、選択したプロモーターの「下流」(即ち3’側)の転写リーディングフレームの転写開始部位の5’末端に位置する。「上流」プロモーターは、DNAの転写を刺激し、コードされるRNAの発現を促進する。
【0186】
プロモーターエレメント間の間隔は柔軟であることが多く、そのためエレメントが互いに対して逆転するか又は移動した場合、プロモーター機能が保持される。tkプロモーターにおいて、プロモーターエレメント間の間隔は、活性を低下させることなく50bpまで広げられ得る。プロモーターに依存して、個々のエレメントは、転写を活性化するために、協力的に又は独立して機能し得ると思われる。プロモーターは、核酸配列の転写活性化に関与するシス作用制御配列を指す「エンハンサー」と一緒に使用してもよいし又は使用しなくてもよい。
【0187】
プロモーターは、コードセグメント及び/又はエクソンの上流に位置する5’非コード配列を単離することにより得られ得るような、核酸配列と天然に結合するものであり得る。このようなプロモーターは「内在性」と呼ばれ得る。同様に、エンハンサーは、核酸配列と天然に結合するものであり得、その配列の下流又は上流に位置し得る。あるいは、その天然の環境で核酸配列と通常は結合しないプロモーターを指す、組み換え又は異種プロモーターの調節下にコード核酸セグメントを配置することにより、一定の長所が得られる。組み換え又は異種エンハンサーは、その天然の環境において核酸配列と通常は結合しないエンハンサーも指す。このようなプロモーター又はエンハンサーとしては、他の遺伝子のプロモーター又はエンハンサー及び何らかの他のウイルスもしくは原核細胞もしくは真核細胞から単離されるプロモーター又はエンハンサー及び「天然」ではない、即ち異なる転写制御領域の異なるエレメント及び/又は発現を変化させる突然変異を含有するプロモーター又はエンハンサーを挙げることができる。例えば、組み換えDNA構築で最もよく使用されるプロモーターとしては、β-ラクタマーゼ(ペニシリナーゼ)、ラクトース及びトリプトファン(trp)プロモーター系が挙げられる。プロモーター及びエンハンサーの核酸配列を合成により作製することに加えて、本明細書中で開示される組成物と組み合わせて、PCR(商標)を含む組み換えクローニング及び/又は核酸増幅技術を用いて配列を作製し得る(それぞれ参照により本明細書中に組み込まれる米国特許第4,683,202号及び同第5,928,906号参照)。さらに、ミトコンドリア、葉緑体などの非核小器官内の配列の転写及び/又は発現を支配する調節配列も使用できることが企図される。
【0188】
当然、発現に対して選択される、細胞小器官、細胞型、組織、器官又は生物におけるDNAセグメントの発現を効率的に支配するプロモーター及び/又はエンハンサーを使用することは重要であろう。分子生物学分野の熟練者は、一般に、タンパク質発現に対するプロモーター、エンハンサー及び細胞型の組み合わせの使用を知っている(例えば、参照により本明細書中に組み込まれるSambrookら、1989参照)。使用されるプロモーターは、組み換えタンパク質及び/又はペプチドの大規模生成に有益であるなど、導入されたDNAセグメントの高発現レベルを支配するために適切な条件下で、構成的であり、組織特異的であり、誘導性であり及び/又は有用であり得る。プロモーターは異種性又は内在性であり得る。
【0189】
発現を駆動させるために、さらに何らかのプロモーター/エンハンサーの組み合わせ(例えば、Eukaryotic Promoter Data Base EPDB、world wide web、epd.isb-sib.ch/のとおり)も使用し得る。T3、T7又はSP6細胞質発現系の使用は、別の可能な実施態様である。真核細胞は、適切な細菌ポリメラーゼが送達複合体の一部として又はさらなる遺伝子発現コンストラクトとしての何れかで提供される場合、ある種の細菌プロモーターからの細胞質転写を支持し得る。
【0190】
プロモーターの非限定例としては、初期又は後期ウイルスプロモーター、例えばSV40初期又は後期プロモーター、サイトメガロウイルス(CMV)前初期プロモーター、ラウス肉腫ウイルス(RSV)初期プロモーターなど;真核細胞プロモーター、例えばβアクチンプロモーター(Ng、1989;Quitscheら、1989)、GADPHプロモーター(Alexanderら、1988、Ercolaniら、1988)、メタロチオネインプロモーター(Karinら、1989;Richardsら、1984);及び連鎖状応答エレメントプロモーター(concatenated response element promoter)、例えば環状AMP応答エレメントプロモーター(cre)、血清応答エレメントプロモーター(sre)、ホルボールエステルプロモーター(TPA)及びミニマルTATAボックス付近の応答エレメントプロモーター(tre)が挙げられる。ヒト成長ホルモンプロモーター配列(例えばGenbank、受入番号X05244に記載のヒト成長ホルモンミニマルプロモーター、ヌクレオチド283-341)又はマウス乳房腫瘍プロモーター(ATCC、カタログ番号ATCC45007より入手可能)を使用することも可能である。具体例はホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)プロモーターであり得る。
【0191】
ii.プロテアーゼ切断部位/自己切断ペプチド及び配列内リボソーム結合部位
ある態様において、本発明に従い、プロテアーゼ切断部位(即ちプロテアーゼの認識部位を含む配列)又は少なくとも1つの自己切断ペプチドをコードする配列(複数であり得る。)によって、マーカー又は再プログラミングタンパク質をコードする遺伝子が互いに対して連結され得る。例えば、本発明のある態様において、少なくとも2つの再プログラミング因子遺伝子を含むポリシストロニックなメッセージを使用し得る(参照により本明細書中に組み込まれる米国仮出願第12/539,366号参照)。
【0192】
本発明のある実施態様に従い、ポリシストロニックなメッセージを構成する遺伝子を連結する配列によりコードされる切断部位を切断可能なプロテアーゼが本発明ポリヌクレオチドによりコードされる。とりわけ、プロテアーゼをコードする遺伝子は、ポリシストロニックなメッセージの少なくとも1つの一部である。
【0193】
適切なプロテアーゼは部位を切断し、自己切断ペプチドは当業者にとって公知である(例えばRyanら、1997;Scymczakら、2004参照)。プロテアーゼ切断部位の好ましい例は、ポティウイルスNIaプロテアーゼ(例えばタバコエッチウイルスプロテアーゼ)、ポティウイルスHCプロテアーゼ、ポティウイルスP1(P35)プロテアーゼ、ビオウイルス(byovirus)NIaプロテアーゼ、ビオウイルスRNA-2-コードプロテアーゼ、アフトウイルスLプロテアーゼ、エンテロウイルス2Aプロテアーゼ、リノウイルス2Aプロテアーゼ、ピコルナ3Cプロテアーゼ、コモウイルス24Kプロテアーゼ、ネポウイルス24Kプロテアーゼ、RTSV(イネツングロ球形ウイルス、rice tungro spherical virus)3C-様プロテアーゼ、PY/IF(パースニップ黄色斑点ウイルス)3C-様プロテアーゼ、トロンビン、第Xa因子及びエンテロキナーゼの切断部位である。切断厳密性が高いので、TEV(タバコエッチウイルス)プロテアーゼ切断部位を使用し得る。
【0194】
典型的な自己切断ペプチド(「cis-作用性加水分解エレメント」とも呼ばれる。CHYSEL;deFelipe(2002)参照)は、ポティウイルス及びカルジオウイルス2Aペプチド由来である。FMDV(口蹄疫ウイルス)、ウマ鼻炎Aウイルス、ゾーシー・アシグナウイルス(Thosea asigna virus)及びブタテッショウイルス由来の2Aペプチドから、特定の自己切断ペプチドが選択され得る。
【0195】
ポリシストロニックなメッセージにおけるコード配列の効率的な翻訳のために、特異的開始シグナルも使用し得る。これらのシグナルには、ATG開始コドン又は隣接配列が含まれる。ATG開始コドンを含む外来性翻訳調節シグナルが提供される必要があり得る。当業者は、これを容易に決定して必要なシグナルを与えることが可能である。挿入全体の翻訳を確実にするために、開始コドンが、所望のコード配列の読み枠で「インフレーム」でなければならないことは周知である。外来性翻訳調節シグナル及び開始コドンは、天然又は合成の何れかであり得る。適切な転写エンハンサーエレメントを含むことによって発現効率を向上させ得る。
【0196】
本発明のある実施態様において、多重遺伝子又はポリシストロニックなメッセージを生成させるために配列内リボソーム侵入部位(IRES)エレメントが使用される。IRESエレメントは、5’メチル化Cap依存性翻訳のリボソームスキャニングモデルを迂回し、内部の部位で翻訳を開始することができる(Pelletier及びSonenberg、1988)。ピコルナウイルスファミリーの2種類のメンバー(ポリオ及び脳心筋炎)由来のIRESエレメント(Pelletier及びSonenberg、1988)ならびに哺乳動物メッセージ由来のIRES(Macejak及びSarnow、1991)が記載されている。IRESエレメントは異種オープンリーディングフレームに連結され得る。複数のオープンリーディングフレームを一緒に転写し、それぞれをIRESにより分離し、ポリシストロニックなメッセージを生成させ得る。IRESエレメントにより、各オープンリーディングフレームは、効率的な翻訳のためにリボソームに接近可能である。1個のメッセージを転写するために1個のプロモーター/エンハンサーを用いて、複数の遺伝子を効率的に発現させ得る(それぞれ参照により本明細書中に組み込まれる米国特許第5,925,565号及び同第5,935,819号参照)。
【0197】
iii.マルチクローニング部位
ベクターは、多重制限酵素部位を含有する核酸領域であるマルチクローニング部位(MCS)を含み得、ベクターを消化するためにこれらのうち何れかを標準的な組み換え技術と組み合わせて使用することができる(例えば、参照により本明細書中に組み込まれるCarbonelliら、1999、Levensonら、1998及びCocea、1997参照)。「制限酵素消化」とは、核酸分子の特異的位置でのみ機能する酵素による核酸分子の触媒的開裂を指す。これらの制限酵素の多くは市販されている。このような酵素の使用は当業者により広く理解されている。外来性配列をベクターに連結できるようにするためにMCS内で切断する制限酵素を用いてベクターを直線化するか断片化することが多い。「ライゲーション」とは、互いに近接していてもよいし又は近接していなくてもよい2つの核酸断片の間でホスホジエステル結合を形成するプロセスを指す。制限酵素及びライゲーション反応を含む技術は組み換え技術の分野の熟練者にとって周知である。
【0198】
iv.スプライシング部位
転写された真核RNA分子の殆どはRNAスプライシングを受け、一次転写産物からイントロンが除去される。ゲノム真核配列を含有するベクターは、タンパク質発現に対する転写産物の的確なプロセシングを確実にするために、ドナー及び/又はアクセプタースプライシング部位を必要とし得る(例えば参照により本明細書中に組み込まれるChandlerら、1997参照)。
【0199】
v.終結シグナル
本発明のベクター又はコンストラクトは一般に少なくとも1つの終結シグナルを含む。「終結シグナル」又は「ターミネーター」は、RNAポリメラーゼによるRNA転写の特異的終結に関与するDNA配列からなる。従って、ある実施態様において、RNA転写産物の生成を終了させる終結シグナルが企図される。ターミネーターは、所望のメッセージレベルを達成するためにインビボで必要であり得る。
【0200】
真核系において、ターミネーター領域は、ポリアデニル化部位を露出するように、新しい転写産物の部位特異的切断を可能にする特異的DNA配列も含み得る。これは、特殊化した内在性ポリメラーゼにシグナルを送り、約200A残基(ポリA)のストレッチを転写産物の3’末端に付加する。このポリAテールで修飾されたRNA分子は、より安定であると思われ、より効率的に翻訳される。従って、真核生物を含むその他の実施態様において、ターミネーターがRNAの切断のためのシグナルを含むことが好ましく、ターミネーターシグナルがメッセージのポリアデニル化を促進することがより好ましい。ターミネーター及び/又はポリアデニル化部位エレメントは、メッセージレベルを向上させ、カセットから他の配列への通読を最小限に抑えるために作用し得る。
【0201】
本発明での使用に対して企図されるターミネーターには、本明細書中に記載されているか又は当業者にとって公知の何らかの公知の転写ターミネーターが含まれ、例えば、遺伝子の終結配列、例えばウシ成長ホルモンターミネーターなど、又はウイルス性終結配列、例えばSV40ターミネーターなどが挙げられるが、これらに限定されない。ある実施態様において、終結シグナルは、配列短縮化などによる、転写可能な又は翻訳可能な配列の欠如であり得る。
【0202】
vi.ポリアデニル化シグナル
発現、特に真核発現において、一般に転写産物の的確なポリアデニル化をもたらすためにポリアデニル化シグナルが含まれる。ポリアデニル化シグナルの性質は、本発明を首尾よく実施するためにそれほど重要ではないと考えられるが、何らかのこのような配列が使用され得る。好ましい実施態様には、都合がよく、様々な標的細胞でよく機能することが知られている、SV40ポリアデニル化シグナル又はウシ成長ホルモンポリアデニル化シグナルが含まれる。ポリアデニル化は、転写産物の安定性を向上させ得るか又は細胞質輸送を促進し得る。
【0203】
vii.複製開始点
宿主細胞中でベクターを増殖させるために、ベクターは、複製が開始される特異的核酸配列である、1以上の複製開始部位(「ori」と呼ばれることが多い。)、例えば上述のようなEBVのoriPに対応する核酸配列又は分化プログラム化における機能が同等であるか又は向上している遺伝子改変oriPを含有し得る。あるいは、上述のような他の染色体外複製ウイルスの複製開始点又は自律複製配列(ARS)を使用することができる。
【0204】
viii.選択及びスクリーニング可能マーカー
本発明のある実施態様において、発現ベクター中にマーカーを含むことによって、本発明の核酸コンストラクトを含有する細胞をインビトロ又はインビボで同定し得る。このようなマーカーは同定可能な変化を細胞に与え、これにより発現ベクターを含有する細胞を容易に同定できるようになる。一般に、選択マーカーは、選択を可能にする特性を与えるものである。正の選択マーカーは、マーカーが存在する場合に選択するものとするマーカーであり、一方で負の選択マーカーは、マーカーが存在する場合は選択しないものとするマーカーである。正の選択マーカーの例は薬剤耐性マーカーである。
【0205】
通常、薬剤選択マーカーを含めることは、形質転換体のクローニング及び同定に役立ち、例えばネオマイシン、ピューロマイシン、ハイグロマイシン、DHFR、GPT、ゼオシン及びヒスチジノールに対する耐性を付与する遺伝子は有用な選択マーカーである。条件の実行に基づき形質転換体の識別を可能にする表現型を付与するマーカーに加えて、比色分析に基づくGFPなどのスクリーニング可能マーカーを含む他のタイプのマーカーも企図される。あるいは、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(tk)又はクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)などの負の選択マーカーとしてのスクリーニング可能酵素も使用され得る。FACS分析と組み合わせる可能性がある、免疫学的マーカーの使用方法も当業者にとって公知である。遺伝子産物をコードする核酸と同時に発現可能である限り、使用するマーカーは重要ではないと思われる。選択及びスクリーニング可能マーカーのさらなる例は当業者にとって周知である。本発明のある特性には、分化プログラム因子が細胞において分化状態の望ましい変化をもたらした後に、ベクタ-不含細胞を選択するために選択及びスクリーニング可能マーカーを使用することが含まれる。
【0206】
C.ベクター送達
本発明での体細胞への再プログラミングベクターの導入は、本明細書中で記載のように又は当業者にとって公知のように、細胞の形質転換のための核酸送達に対して何らかの適切な方法を使用し得る。このような方法としては、エクスビボ形質移入(Wilsonら、1989、Nabelら、1989)による、マイクロインジェクション(参照により本明細書中に組み込まれる、Harland及びWeintraub、1985;米国特許第5,789,215号)を含むインジェクション(それぞれ参照により本明細書中に組み込まれる、米国特許第5,994,624号、同第5,981,274号、同第5,945,100号、同第5,780,448号、同第5,736,524号、同第5,702,932号、同第5,656,610号、同第5,589,466号及び同第5,580,859号)による;エレクトロポレーション(参照により本明細書中に組み込まれる米国特許第5,384,253号;Tur-Kaspaら、1986;Potterら、1984)による;リン酸カルシウム沈殿法(Graham及びVan Der Eb、1973;Chen及びOkayama、1987;Rippeら、1990)による;DEAE-デキストランと続いてポリエチレングリコールを使用すること(Gopal、1985)による;直接音波負荷(direct sonic loading)(Fechheimerら、1987)による;リポソーム介在性形質移入(Nicolau及びSene、1982;Fraleyら、1979;Nicolauら、1987;Wongら、1980;Kanedaら、1989;Katoら、1991)及び受容体介在性形質移入(Wu及びWu、1987;Wu及びWu、1988)による;微粒子銃(PCT出願第WO94/09699号及び同第95/06128号;米国特許第5,610,042号、同第5,322,783号、同第5,563,055号、同第5,550,318号、同第5,538,877号及び同第5,538,880号及びそれぞれ参照により本明細書中に組み込まれる。)による;炭化ケイ素繊維との撹拌(それぞれ参照により本明細書中に組み込まれる、Kaepplerら、1990;米国特許第5,302,523号及び同第5,464,765号)による;アグロバクテリウム介在性形質転換(それぞれ参照により本明細書中に組み込まれる、米国特許第5,591,616号及び同第5,563,055号)による;プロトプラストのPEG介在性形質転換(それぞれ参照により本明細書中に組み込まれる、Omirullehら、1993;米国特許第4,684,611号及び同第4,952,500号)による;乾燥/抑制介在性DNA取り込み法(desiccation/inhibition-mediated DNA uptake)(Potrykusら、1985)及びこのような方法の何れかの組み合わせなどによる、DNAの直接送達が挙げられるが、これらに限定されない。これらなどの技術の適用を通じて、細胞小器官、細胞、組織又は生物を安定的に又は一過性に形質転換し得る。
【0207】
i.リポソーム介在性形質移入
本発明のある実施態様において、例えばリポソームなどの脂質複合体中に核酸を封入し得る。リポソームは、リン脂質二重膜及び内部の水媒体を特徴とする小胞構造物である。多重膜リポソームは、水媒体により分離される複数の脂質層を有する。これらは、過剰な水溶液中でリン脂質を懸濁した際に自然に形成される。脂質成分は、閉鎖構造の形成前に自己再編成が起こり、脂質二重層の間に水及び溶解した溶質を捕捉する(Ghosh及びBachhawat、1991)。リポフェクタミン(Gibco BRL)又はSuperfect(Qiagen)と複合体化した核酸も企図される。リポソームの使用量は、リポソームの性質ならびに使用する細胞により変動し得、例えば細胞1,000,000個から10,000,000個あたり約5から約20μgのベクターDNAが企図され得る。
【0208】
インビトロでの外来DNAのリポソーム介在性核酸送達及び発現は非常に首尾よく行われてきた(Nicolau及びSene、1982;Fraleyら、1979;Nicolauら、1987)。培養ニワトリ胚、HeLa及び肝細胞腫細胞における外来DNAのリポソーム介在性送達及び発現の実行可能性も明らかになっている(Wongら、1980)。
【0209】
本発明のある実施態様において、リポソームを血球凝集性ウイルス(HVJ)と複合体化させ得る。これは、細胞膜との融合を促進し、リポソーム封入DNAの細胞への侵入を容易にすることが示されている(Kanedaら、1989)。他の実施態様において、リポソームは、核非ヒストン染色体タンパク質(HMG-1)と複合体化させるか又はこれと一緒に使用することができる(Katoら、1991)。またさらなる実施態様において、リポソームは、HVJ及びHMG-1の両方と複合体化させるか又はこれと一緒に使用することができる。他の実施態様において、送達ビヒクルは、リガンド及びリポソームを含み得る。
【0210】
ii.エレクトロポレーション
本発明のある実施態様において、エレクトロポレーションを介して細胞に核酸を導入する。エレクトロポレーションは、細胞及びDNA懸濁液の高電圧放電への曝露を含む。受容側の細胞は、機械的損傷によってより形質転換し易くなり得る。またベクターの使用量は、使用する細胞の性質により変動し得、例えば細胞1,000,000個から10,000,000個あたり約5から約20μgのベクターが企図され得る。
【0211】
エレクトロポレーションを用いた真核細胞の形質移入は非常に首尾よく行われてきた。この方式で、マウスプレBリンパ球にヒトκ-免疫グロブリン遺伝子が形質移入され(Potterら、1984)、ラット肝細胞にクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ遺伝子が形質移入された(Tur-Kaspaら、1986)。
【0212】
iii.リン酸カルシウム
本発明の他の実施態様において、リン酸カルシウム沈殿法を用いて細胞に核酸を導入する。この技術を用いてヒトKB細胞にアデノウイルス5DNAが形質移入された(Graham及びVan Der Eb、1973)。またこの方式で、マウスL(A9)、マウスC127、CHO、CV-1、BHK、NIH3T3及びHeLa細胞にネオマイシンマーカー遺伝子が形質移入され(Chen及びOkayama、1987)、ラット肝細胞に様々なマーカー遺伝子が形質移入された(Rippeら、1990)。
【0213】
iv.DEAE-デキストラン 別の実施態様において、DEAE-デキストランと、次いでポリエチレングリコールを用いて細胞に核酸を送達する。この方式において、レポータープラスミドがマウス骨髄腫及び赤白血病細胞に導入された(Gopal、1985)。
【0214】
VII.再プログラミング因子
iPS細胞の作製は、誘導のために使用される再プログラミング因子にとって非常に重要である。本発明で開示される方法において、次の因子又はそれらの組み合わせが使用され得る。ある態様において、再プログラミングベクターにSox及びOct(特にOct3/4)をコードする核酸が含まれる。例えば、1以上の再プログラミングベクターが、Sox2、Oct4、Nanog及び場合によってはLin28をコードする発現カセット又はSox2、Oct4、Klf4及び場合によってはC-mycもしくはL-mycをコードする発現カセット又はSox2、Oct4及び場合によってはEsrrbをコードする発現カセット又はSox2、Oct4、Nanog、Lin28、Klf4と、C-myc又はL-mycの何れか及び場合によってはSV40ラージT抗原をコードする発現カセットを含み得る。同じ発現カセット、異なる発現カセット、同じ再プログラミングベクター又は異なる再プログラミングベクター中に、これらの再プログラミング因子をコードする核酸が含まれ得る。
【0215】
Oct4及びSox遺伝子ファミリーのある種のメンバー(Sox1、Sox2、Sox3及びSox15)は、不在であると誘導が不可能になる誘導プロセスに関与する非常に重要な転写制御因子として同定されている。しかし、Klfファミリー(Klf1、Klf2、Klf4及びKlf5)のある種のメンバー、Mycファミリー(C-myc、L-myc及びN-myc)、Nanog及びLin28を含むさらなる遺伝子が誘導効率を向上させることが確認されている。
【0216】
Oct4(Pou5f1)は8量体(「Oct」)転写因子ファミリーの1つであり、多能性を維持することにおいて極めて重要な役割を果たす。卵割球及び胚性幹細胞など、Oct4^(+)細胞にOct4がないと自然発生的なトロホブラスト分化が起こり、従ってOct4が存在すると胚性幹細胞の多能性及び分化能が生じる。Oct4の類縁、Oct1及びOct6を含む「Oct」ファミリーの様々な他の遺伝子は誘導を引き起こすことができず、従って誘導プロセスに対するOct-4の排他性が明らかになる。
【0217】
Soxファミリー遺伝子はOct4と同様に多能性維持に関与するが、多能性幹細胞で排他的に発現されるOct4とは異なり、多能性及び単能性幹細胞に関与する。Sox2は再プログラミング誘導のために使用された最初の遺伝子であり、一方で、Soxファミリーにおける他の遺伝子が誘導プロセスで同様に作用することが分かっている。Sox1は、Sox2と同様の効率でiPS細胞を生じさせ、Sox3、Sox15及びSox18遺伝子も効率は低いがiPS細胞を生じさせる。
【0218】
胚性幹細胞において、Oct4及びSox2とともにNanogは、多能性を推進するために必要である。従って、Thomsonらが因子の1つとしてNanogを用いてiPS細胞を作製することができることを報告したにもかかわらず、Yamanakaらが、Nanogが誘導に不必要であることを報告した際は驚きが起こった。
【0219】
Lin28は、分化及び増殖と関連する、胚性幹細胞及び胚性癌腫細胞で発現されるmRNA結合タンパク質である。Thomsonらは、これがiPS作製における因子であるが、不必要であることを明らかにした。
【0220】
Klfファミリー遺伝子のKlf4は最初にYamanakaらによって同定され、マウスiPS細胞作製のための因子としてJaenischらによって確認され、ヒトiPS細胞作製のための因子であることがYamanakaらによって明らかにされた。しかし、Thompsonらは、Klf4がヒトiPS細胞作製に不要であり、実際にヒトiPS細胞を生成させることができなかったことを報告した。Klf2及びKlf4は、iPS細胞を生成させることが可能な因子であり、効率は低いが関連遺伝子Klfl及びKlf5も同様であることが分かった。
【0221】
遺伝子のMycファミリーは、癌に関与する癌原遺伝子である。Yamanakaら及びJaenischらは、C-mycが、マウスiPS細胞作製に関与する因子であることを明らかにし、Yamanakaらは、それが、ヒトiPS細胞作製に関与する因子であることを明らかにした。しかし、Thomsonら及びYamanakaらは、C-mycがヒトiPS細胞作製に不必要であることを報告した。iPS細胞誘導における「Myc」ファミリー遺伝子の使用は、C-mycで誘導したiPS細胞を移植したマウスの25%で致死性の奇形腫が発生したというように、臨床治療時にiPS細胞が引き起こす不測の事態について問題を抱えている。N-myc及びL-mycは、同様の効率でC-mycの代わりに誘導することが確認されている。
【0222】
C-mycが発現される際に起こり得る細胞毒性を低下させるか又は防ぐために、SV40ラージ抗原を使用し得る。
【0223】
本発明で使用される再プログラミングタンパク質は、ほぼ同じ再プログラミング機能を有するタンパク質ホモローグにより置き換えることができる。それらのホモローグをコードする核酸も再プログラミングのために使用し得る。保存的アミノ酸置換が好ましく、即ち、例えば極性酸性アミノ酸としてのアスパラギン酸-グルタミン酸;極性塩基性アミノ酸としてのリジン/アルギニン/ヒスチジン;非極性又は疎水性アミノ酸としてのロイシン/イソロイシン/メチオニン/バリン/アラニン/グリシン/プロリン;極性又は非電荷親水性アミノ酸としてのセリン/スレオニン置換である。保存的アミノ酸置換はまた、側鎖に基づく分類も含む。例えば、脂肪族側鎖を有するアミノ酸群は、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン及びイソロイシンであり;脂肪族-ヒドロキシル側鎖を有するアミノ酸群はセリン及びスレオニンであり;アミド含有側鎖を有するアミノ酸群はアスパラギン及びグルタミンであり;芳香族側鎖を有するアミノ酸群はフェニルアラニン、チロシン及びトリプトファンであり;塩基性側鎖を有するアミノ酸群はリジン、アルギニン及びヒスチジンであり;硫黄含有側鎖を有するアミノ酸群はシステイン及びメチオニンである。例えば、イソロイシン又はバリンでのロイシンの置換、グルタミン酸でのアスパラギン酸の置換、セリンでのスレオニンの置換又は構造的に関連のあるアミノ酸でのアミノ酸の同様な置換が、結果として得られるポリペプチドの特性に大きな影響を与えないと予想することは理に適っている。アミノ酸の変化の結果、機能的ポリペプチドを得られるか否かは、ポリペプチドの特異的活性をアッセイすることによって容易に決定できる。
【0224】
VIII.iPS細胞の選択及び分化
本発明のある態様において、再プログラミング因子を造血前駆細胞に導入した後、上述のように細胞を培養する(場合によっては、形質移入細胞を濃縮するために、正の選択又はスクリーニング可能マーカーのようなベクターエレメントの存在に対して選択)。再プログラミングベクターは、これらの細胞において再プログラミング因子を発現させ、細胞分裂とともに複製し、分割し得る。あるいは、再プログラミングタンパク質を含有する培地を補充することにより、再プログラミングタンパク質がこれらの細胞及びそれらの子孫に入る。これらの再プログラミング因子は、自律的多能性状態を確立するために体細胞ゲノムを再プログラム化し、ベクターの存在に対する正の選択の解除後、外来性遺伝因子は、追加の再プログラミングタンパク質を添加する必要なく、時間とともに徐々に失われる。
【0225】
これらの人工多能性幹細胞は、多能性胚性幹細胞と実質的に同一であると予想されるので、胚性幹細胞の特徴に基づいてこれらの末梢血細胞由来の子孫から選択され得る。再プログラミングベクターDNAが存在しないことを調べることによって又はレポーターなどの選択マーカーを使用することによって、基本的に外来性遺伝因子不含のiPS細胞の選択を加速するか又は促進するために、さらなる負の選択段階も使用し得る。
【0226】
A.胚性幹細胞の特徴に対する選択
先行研究で作製に成功したiPSCは、次の点において天然に単離された多能性幹細胞(マウス及びヒト胚性幹細胞、それぞれmESC及びhESCなど)と際立って類似しており、従って、天然に単離された多能性幹細胞に対するiPSCの同一性、確実性及び多能性が確認された。従って、本発明で開示される方法から作製される人工多能性幹細胞は、次の胚性幹細胞の特徴の1以上に基づき選択され得る。
【0227】
i.細胞生物学的特性
形態:iPSCは、形態学的にESCと同様である。各細胞は、円形であり、核小体が2個あるか又は核小体が大きく、細胞質が僅かであり得る。iPSCのコロニーもまたESCのコロニーと同様であり得る。ヒトiPSCは、hESCと同様に、縁部が鋭角で、平らで密なコロニーを形成し、マウスiPSCは、mESCと同様のコロニーを形成し、hESCのコロニーよりも隆起し、凝集したコロニーを形成する。
【0228】
増殖特性:幹細胞はその定義の一部として自己複製しなければならないので、倍加時間及び有糸分裂活性はESCで肝要なものである。iPSCは有糸分裂的に活性であり、活発に自己複製し、増殖し、ESCと同等の速度で分裂し得る。
【0229】
幹細胞マーカー:iPSCは、ESC上で発現される細胞表面抗原性マーカーを発現し得る。ヒトiPSCは、SSEA-3、SSEA-4、TRA-1-60、TRA-1-81、TRA-2-49/6E及びNanogを含むが、これらに限定されない、hESCに特異的なマーカーを発現した。マウスiPSCはmESCと同様に、SSEA-1を発現したが、SSEA-3もSSEA-4も発現しなかった。
【0230】
幹細胞遺伝子:iPSCは、Oct4、Sox2、Nanog、GDF3、REX1、FGF4、ESG1、DPPA2、DPPA4及びhTERTをはじめとする、未分化ESCで発現される遺伝子を発現し得る。
【0231】
テロメラーゼ活性:テロメラーゼは、?50回の細胞分裂というヘイフリックの限界により制限されずに細胞分裂を持続するために必要である。hESCは自己複製及び増殖を持続させるために高テロメラーゼ活性を発現し、iPSCも高テロメラーゼ活性を示し、テロメラーゼタンパク質複合体における必要な要素であるhTERT(ヒトテロメラーゼ逆転写酵素)を発現する。
【0232】
多能性:iPSCは、ESCと同様の方式で完全に分化した組織に分化可能である。
【0233】
神経への分化:iPSCをニューロンに分化させ、βIII-チューブリン、チロシンヒドロキシラーゼ、AADC、DAT、ChAT、LMX1B及びMAP2を発現させ得る。カテコールアミン関連酵素が存在することから、hESCのように、iPSCがドーパミン作動性ニューロンに分化可能であり得ることが示され得る。幹細胞関連遺伝子は分化後に下方制御される。
【0234】
心臓への分化:自然に心拍を開始する心筋細胞にiPSCを分化させ得る。心筋細胞は、cTnT、MEF2C、MYL2A、MYHCβ及びNKX2.5を発現する。幹細胞関連遺伝子は分化後に下方制御される。
【0235】
奇形腫形成:免疫不全マウスに注入されたiPSCは、9週間など、ある一定の時間後、奇形腫を自然に形成し得る。奇形腫は、3胚葉、内胚葉、中胚葉及び外胚葉由来の組織を含有する多系統の腫瘍であり、これは、一般的に1種類の細胞型のみである他の腫瘍とは異なる。奇形腫形成は多能性に対する指標となる基準である。
【0236】
胚様体:培養中のhESCは、有糸分裂的に活性があり、hESCを分化させるコアと、全三胚葉から完全に分化した細胞の辺縁部とからなる「胚様体」と呼ばれる球状胚様構造を自然に形成する。iPSCも胚様体を形成し得、辺縁部には分化した細胞がある。
【0237】
胚盤胞注入:hESCは、天然には胚盤胞の内部細胞塊(胚結節)内及び胚結節中に存在し、胚に分化し、一方で胚盤胞の殻(トロホブラスト)は胚外組織に分化する。中空状のトロホブラストは、生きている胚を形成できず、従って、胚結節内の胚性幹細胞が分化し、胚を形成する必要がある。受容側の雌に移す胚盤胞を生成させるためにマイクロピペットによりトロホブラストにiPSCを注入することにより、その結果、生きているキメラ仔マウスを得ることができるが、マウスは、それらの全身にわたり10%-90でiPSC誘導体が組み込まれ、キメラ化している。
【0238】
ii.エピジェネティックな再プログラム化
プロモーター脱メチル化:メチル化は、DNA塩基へのメチル基の移行、一般にはCpG部位(隣接するシトシン/グアニン配列)におけるシトシン分子へのメチル基の移行である。遺伝子の幅広いメチル化は、発現タンパク質の活性を妨げるか又は発現を妨害する酵素を動員することによって、発現を妨害する。従って、遺伝子のメチル化は、転写を妨げることによって効果的に発現を抑制する。Oct4、Rex1及びNanogを含む多能性関連遺伝子のプロモーターはiPSCにおいて脱メチル化され得、それによりiPSCにおいてそれらのプロモーター活性及び多能性関連遺伝子の積極的な促進及び発現を示す。
【0239】
ヒストン脱メチル化:ヒストンは、様々なクロマチン関連修飾を通じてそれらの活性を発揮させ得るDNA配列に構造的に局在する小型のタンパク質である。Oct/4、Sox2及びNanogと会合するH3ヒストンは、脱メチル化されてOct4、Sox2及びNanogの発現を活性化し得る。
【0240】
B.非残留特性に対する選択
本発明におけるoriPに基づくベクターなどの再プログラミングベクターは、染色体外で複製し得、何世代か後に宿主細胞から失われる。しかし、基本的に外来性ベクターエレメント不含である子孫細胞に対するさらなる選択段階により、このプロセスが容易になり得る。例えば、当技術分野で公知のように外来性ベクターエレメントの有無を調べるために、子孫細胞試料を抽出し得る(Leight及びSugden、2001)。
【0241】
再プログラミングベクターは、選択マーカー、より具体的には、チミジンキナーゼをコードする遺伝子などの、このような選択マーカーを基本的に含まない子孫細胞について選択するための負の選択マーカーをさらに含み得る。ヒト単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ1型遺伝子(HSVtk)は、哺乳動物細胞において条件致死マーカーとして働き得る。HSVtkによりコードされる酵素はある種のヌクレオシド類似体(例えばガンシクロビル、抗ヘルペス剤)をリン酸化することができ、従ってそれらを毒性のあるDNA複製阻害剤に変換する。代替的又は補足的なアプローチは、RT-PCR、PCR、FISH(蛍光インシトゥハイブリッド形成)、遺伝子アレイ又はハイブリッド形成(例えばサザンブロット)などの従来の方法を用いて、子孫細胞において外来性遺伝因子がないことを調べることである。
【0242】
C.iPS細胞の分化
造血細胞、筋細胞(例えば心筋細胞)、ニューロン、繊維芽細胞及び表皮細胞及びそれら由来の組織又は器官を含むがこれらに限定されない細胞系統にiPS細胞を分化させるために、本発明とともに様々なアプローチを使用し得る。iPS細胞の造血系分化の典型的な方法には、例えば、両者ともそれらの全体において参照により本明細書中に組み込まれる米国出願第61/088,054号及び同第61/156,304号により開示される方法又は胚様体(EB)に基づく方法(Chadwickら、2003;Ngら、2005)が含まれ得る。Wangら、2007で例示されるように、血液系統分化のためにフィブロネクチン分化方法も使用し得る。iPS細胞の心臓分化の典型的な方法には、胚様体(EB)法(Zhangら、2009)、OP9間質細胞法(Narazakiら、2008)又は増殖因子/化学的手法(全てそれらの全体において参照により本明細書中に組み込まれる、米国特許公開第20080038820号、同第20080226558号、同第20080254003号及び同第20090047739号参照)が含まれ得る。
【実施例】
【0243】
IX.実施例
次の実施例は、本発明の好ましい実施態様を明らかにするために含まれる。当業者にとって当然のことながら、続く実施例で開示される技術は、発明者らにより本発明の実施の際に良好に作用することが分かった技術を表し、従って、その実施に対して好ましい方式を構成すると考えられ得る。しかし、当業者は、本開示に照らして、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、開示される具体的な実施態様において多くの変更をなし得、それでも同様の結果を得ることができることを認識されたい。
【0244】
実施例1
造血前駆細胞からのiPS細胞の作製
図1で示されるように、患者からの正常な非動員化末梢血を処理してPBMCを回収し、CD34を発現する細胞について濃縮するために精製した。次に、これらの細胞を増殖させるために播種し、播種からおよそ1週間以内に形質移入した。次いでこれらを形質移入後1日、インキュベート期間をおき、次いでおよそ1から2日の回復期をおいて、100%再プログラミング培地に移した。細胞が接着し、散開したコロニーが明らかになった時点で、iPS細胞の形成を支援するために培地をTESR2に徐々に移した。
【0245】
ヒト全血をバキュテナー中で回収した(ここで含まれるべき体積の範囲は1から50mL)。
【0246】
ヒト全血からPBMCを分離し、凍結するか又はCD34細胞を単離するためにすぐに処理した。
【0247】
末梢血から処理したPBMCに、CD34に対する抗体を添加し、手作業で又は機械的に分離した。
【0248】
CD34及び、造血前駆細胞全てを検出するためのより一般的なマーカーであるCD45を発現する細胞の%を検出するためにフローサイトメトリーにより純度を測定した(Accuri;Ann Arbor,MI USA)。分離した分画の純度は、CD34発現陽性20から96%の範囲であった。
【0249】
CD34発現について濃縮された細胞を凍結するか又はDNAseI(20U/mL)
とともに37℃で10分間すぐにインキュベートした。この段階によって、解凍、精製などにより高まるストレスから細胞溶解した際に放出されるDNAが確実に除去され、細胞凝集が制限される。細胞を遠心し、DNAseを含有する上清を除去した。次に細胞を一晩回復させた。
【0250】
CD34発現細胞は、サイトカイン富化培地を用いて増殖可能である。この実施例において、少なくとも3回の独立ケースにおいて、総細胞数を増殖させるためにはサイトカイン富化培地のみで十分であることが分かった。
【0251】
サイトカイン富化培地:各300ng/mLのトロンボポエチン(TPO)、Flt3及び幹細胞因子(SCF)。100ng/mLのインターロイキン6(IL6)及び10ng/mLインターロイキン3(IL3)。基本培地は、ウシ血清アルブミン(BSA)、組み換えヒトインスリン、鉄飽和ヒトトランスフェリン、2-メルカプトエタノール、イスコフMDM及びさらなるサプリメント(図2A-2Cでマトリクス不含とされる。)。好ましい実施態様において、BSAを完全に省略し得る。さらにこの培地中で完全に既知組成の成分が使用される。あるいは、上記で詳述した濃度の動物由来物質不含TPO、Flt3、SCF、IL6及びIL3を補給したStemSpan H3000(Stem Cell Technologies、カタログ番号9850)を使用することができる。
【0252】
CD34発現細胞は、フィブロネクチン断片と組み合わせたサイトカイン富化培地を用いて増殖可能である。この実施例において、フィブロネクチンの組み換えヒト断片存在下でCD34^(+)細胞をさらに増殖させることができることが観察された。この断片は574アミノ酸(63kDa)であり、中央の細胞結合ドメイン(タイプIIIリピート、8、9、10)、高親和性ヘパリン-結合ドメインII(タイプIIIリピート12、13、14)及び、ヒトフィブロネクチンのオルタナティブスプライシングを受けるIIICS領域内のCS1部位を含有する(レトロネクチン(登録商標)、Takaraより入手可能)。このフィブロネクチン断片を5μg/mLでPBSと混合し、非処理組織培養プレート上に沈着させた(図2A-2CでNotch-とされる。)。
【0253】
CD34発現細胞は、フィブロネクチン断片及び固定化改変Notch-1リガンド(Delta1^(ext-IgG)、DLL1)と組み合わせたサイトカイン富化培地を用いて増殖可能である。Delaneyらは、Notch-1リガンドを用いて、臍帯血から100倍を超えてCD34^(+)細胞を増殖させたことを明らかにしている(Delaneyら、2010)。この実施例において、同様のアプローチを用いてNotch-1リガンド存在下で末梢血由来のCD34^(+)細胞を増殖させることもできることが分かった(図2A-2CでNotch+とされる。)。このリガンドは、免疫グロブリンGのFc部分にC-末端で融合している、組み換えデルタ様タンパク質1(DLL1;aa1-545)の細胞外ドメインに相当するヒトペプチドである。
【0254】
マトリクス又はNotch-1リガンド非存在下でのCD34^(+)細胞の増殖。基本的に、ウェルあたり6xl0^(3)個(24ウェルプレート)又はウェルあたり1x10^(5)個(6ウェルプレート)になるように細胞を播種し、4日後に補給を行い、増殖から6日後に形質移入を行った。図2A-2Cは、時間経過に伴う倍単位の増殖、集団全体の増殖速度及びその時間枠中のCD34発現の自然減少を示す。
【0255】
増殖後第6日に、マトリクス不含状態から細胞を回収し、oriP-レプリコンを含有するプラスミドの組み合わせを用いて形質移入する。これらのプラスミドから発現される再プログラミング因子には、次のものの何らかの組み合わせが含まれ得る:Oct4、Sox2、Nanog、Lin28、C-myc又はL-myc、klf4及びSV40ラージT抗原(図3)。単一キュベット形質移入用のLonza Nucleofector装置又は96ウェルシャトル型を使用して、2.5xl0^(4)から1.5xl0^(6)個の細胞に対して形質移入を行った。下記の表1は、CD34^(+)細胞を含む血液由来造血前駆細胞における、eGFPをコードするOriPに基づくプラスミドを用いた形質移入後の代表的な結果を示す。この表は、末梢血から増殖させた投入HP数を漸増させて行ったサンプル形質移入から得られた結果を反映する。再プログラミング因子に対する発現カセットを欠く対照プラスミドを用いて、細胞に対して形質移入を行った。ヨウ化プロピジウム(PI)に対して陽性に染色されない集団の%を計算することによって形質移入効率(%GFP+)を調べた。
【表1】

【0256】
増殖に使用したものと同じサイトカイン富化培地中で次の形質移入細胞を再懸濁し、回復のために一晩インキュベートした。翌日、細胞を遠心して沈降させ、培地をサイトカイン富化培地で更新し、レシピエントプレートを準備した。
【0257】
レシピエント再プログラミングプレート調製。形質移入から24時間後、非処理6ウェルプレートをレトロネクチン(登録商標)(10μg/ウェル)で被覆した。
【0258】
形質移入から48時間後、PBSでプレートを洗浄し、2%BSAでブロッキング処理し、再び洗浄した。場合によっては、動物由来物質不含培養条件のために、2%BSAブロッキング段階を省略し得る。ウェルあたり3x10^(4)から3x10^(5)個の細胞の範囲の密度で調製受容プレート上に2mLの細胞が播種されるように、再プログラミング培地(表2)で形質移入細胞の体積を合わせた。
【表2】

【0259】
再プログラミング培養物への補給。細胞に1日おきに補給する。最初の補給では、2mLの培地を各ウェルに添加し、培地は除去しない。続く補給では、各ウェルから2mLを穏やかに除去し、新鮮培地で置き換える。播種から24時間後に細胞が接着し始め、1週間までに、散開するコロニーが形成され始める。およそ7から10日で低分子物不含のTESR2(StemCell Technologies)に培養物を移す。前の培地が2mL残存するので、これは緩やかな移行である。十分な若いコロニーが形成されたら、存在する培地の殆どが新鮮なものになるように、ウェルからより多くの培地を除去し得る。再プログラム化されていない分化細胞に取り囲まれた円形のiPSCコロニーが形質移入からおよそ20日後に現れた。iPSCコロニーを囲む細胞は、マトリクスに接着している血液細胞又は、分化し始めた部分的に再プログラム化された細胞に相当する。低分子シグナル伝達阻害剤を使用した場合、実際のiPSCコロニー(Tra1-81陽性)は、より散開した非iPSC領域内か又はより分化した細胞の下で入れ子状になることが多かった。
【0260】
実施例2
ポリシストロニックな再プログラミングベクターを用いた造血前駆細胞からのiPS細胞作製の最適化
ポリシストロニックなメッセージを含有するOriPに基づく再プログラミングプラスミドの概略マップを図4で示す(セット1及びセット2の組み合わせ)。PBMCからの精製細胞を3日間又は6日間増殖させた。一連の投入細胞数に対して、GFPを発現する対照、oriP/EBNAlベースのプラスミドを用いて形質移入を行った。3日間及び6日間増殖させたドナーGG由来のPBMCに対して、上述のような再プログラミングプラスミドを用いて形質移入を行った。
【0261】
フローサイトメトリーにより検出されるGFP発現生存細胞の%を計算することによって、白血球分離により回収したPBMC由来のCD34に富むより少数の細胞の形質移入効率を評価した。形質移入翌日のトリパンブルー陰性細胞を投入細胞の総数で除した比を確認することによって生存能も調べたところ、投入細胞1x10^(4)から1x10^(5)個の範囲内で30%であった(データを示さず。)。形質移入効率は、投入細胞数が1x10^(4)から3x10^(4)個の範囲である場合におよそ30%であり、細胞が6x10^(4)から1x10^(5)個の範囲である場合、概ね40%であった(図5A)。PBMC由来の精製細胞を3日間又は6日間増殖させ、6xl0^(4)から1xl0^(5)個の細胞に対して対照GFP-発現プラスミドを用いて形質移入を行った。CD34の発現がより高い場合、6日ではなく3日間増殖させた細胞に対して形質移入を行ったとき、形質移入効率が2倍に高くなった(図5B)。さらに、90%を上回る第3日形質移入細胞がGFP及びCD34を同時発現し、一方で両マーカーを同時発現したのは第6日形質移入集団の僅か18%であった(図5C)。しかし、6日間の増殖によって、形質移入のための細胞数全体は増加した。これらの結果から、このプロトコールに対して選択される条件が、本集団中の他の細胞型よりも、CD34発現細胞の形質移入に有利に働くという考え方が支持される。
【0262】
ヒトフィブロネクチン(レトロネクチン)又はビトロネクチンの活性ドメインを含有する組み換えタンパク質断片は、試験した他のものよりも一貫して良好にiPSC形成を支えた。StemSpan SFEM培地、N2、B27ならびにPD0325901、CHIR99021、A-83-01及びHA-100を含んだ低分子物カクテルと組み合わせて使用した場合、レトロネクチン被覆プレート上でのコロニー形成効率が顕著に向上した(図5D)。アルカリホスファターゼ活性に対して陽性に染色されるコロニーを含有する6ウェルプレートから、1つのウェルを示す(図5D、パネルi)。白矢印は、パネルiiで拡大したコロニーを指し、これはまたパネルiiiでTra1-81発現について陽性に染色されている。
【0263】
投入細胞数を最適化するために、6日間にわたり増殖させた投入細胞数の範囲でプラスミドセット2を用いて再プログラミング試験を行った(ドナーGG)(図5E)。
【0264】
再プログラミング効率がより高い可能性があるC-mycの代わりにL-mycを使用し得る。図5Fで示されるように、4名の異なるドナーから精製したCD34発現細胞を6日間増殖させ、比較としてC-myc(セット1)又はL-myc(セット2)を発現するプラスミドの組み合わせを用いて形質移入を行い、それぞれから得られたiPSCの総数を比較した。
【0265】
B-27サプリメント中に動物由来成分を必要とせずにゼノフリー培養を達成するために、図6のとおり、再プログラミング培地中でB-27サプリメントを完全に省略し得ることが分かった。
【0266】
CD34発現量は、再プログラミング効率と相関することが示された(図7A-7B)。PBMC由来のCD34発現細胞を単離する場合は本プロセスにおいてさらなる段階が生じるので、本明細書中で詳述する方法を用いて、実際にCD34発現と再プログラミング効率との間に相関があるか否かを判定することは重要であった。次のセットの実験によりこの相関が確認された。第一に、宿主細胞集団は、CD3、CD19及びCD56を標的とする抗体を用いたフローサイトメトリーによって増殖の第3日及び第6日に検出可能なレベルのT、B及びNK細胞がないとみなされた(n=9、データを示さず。)。第二に、45%CD3、10%CD19、20%CD56から構成されるCD34-枯渇細胞集団は、本明細書中のフィーダーフリープロトコールを用いてiPSCを生成させることができなかったが(図7A、ii)、同時にCD34発現について精製したものはiPSCを生成させる(n=3、図7A、i)。第三に、さらなるドナーからCD34発現細胞を精製し、CD34発現及び再プログラム化のレベル低下と同期する様々な増殖日数で形質移入を行った。全4名のドナーに対して、CD34発現%が低下するにつれて、再プログラミング効率が低下した(図7B)。例えば、ドナー3096は、CD34発現レベルが3分の1を超えて低下したとき、さらに10日間増殖させた場合は1x10^(5)個あたり1個のiPSCであったのに対して、増殖3日後に形質移入した場合は1x10^(5)個の投入細胞あたり90個を上回るiPSCを示した。この結果は、CD34の割合が高い場合、6日間の増殖と比べて3日間の増殖で形質移入効率がより高いことを示す本明細書中の先行する観察を裏付ける。要するに、これらのデータは、造血細胞の集団内のCD34発現量が、本明細書中で詳述するフィーダーフリー法を用いて再プログラミングするそれらの能力と相関するという概念を裏付ける。
【0267】
標準的条件又は完全既知組成条件の何れかの下で培養したCD34発現細胞の倍単位の増殖を図8Aで詳述する。完全既知組成の再プログラミング法を用いたiPSC生成能によって、変動がさらに小さくなり、臨床グレードのiPSCの生成が促進される。CD34発現細胞の大規模プールを精製し、複数のドナーから混合して複数の試験に必要とされる細胞数を確保した。6日間の増殖後、標準的な条件下の細胞の場合は83+/-32倍であるのに対して、完全既知組成培地中では113+/-11倍の規模で精製細胞を増殖させることに成功した。この2種類の集団間で30倍の差があるものの、CD34発現細胞の絶対数は、フローサイトメトリーによるCD34発現集団の%を乗じた場合、2つの集団間で同様である。例えば、標準的な条件下で増殖させた集団の42+/-13%がCD34を発現し、完全既知組成条件を用いた場合は26+/-16%がCD34を発現した。図8Bの画像は、完全既知組成の、動物由来物質不含試薬を用いてCD34発現に富む増殖細胞の再プログラミングを行った後の、アルカリホスファターゼに対して陽性に染色されるコロニーを含有する6ウェルプレートのうち1ウェルを示す。
【0268】
本明細書中で詳述した方法を用いて複数のiPSクローンを26名のドナーから増殖させ、さらなる特性評価のためにクローンの一部を選択した。これらのクローンは正常の核型を示し、長期にわたるそれらの遺伝的完全性を確認するために一部を複数回継代して評価した。これらのクローンは、一般的な細胞表面マーカーTra1-81及びSSEA-4(フローサイトメトリーにより調べた場合)ならびにDNT3B、REX1、TERT、UTF1、Oct4、Sox2、Nanog、Lin28、Klf4及びC-mycを含む多能性の指標となる内在性遺伝子も発現した。クローンは、組み込まれる及び染色体外プラスミドDNAがないことも確認した。iPSCを様々な継代数で回収することによってoriP-形質移入プラスミドが徐々に失われることを確認し、細胞あたり1コピーの検出限界でPCRによりスクリーニングして、平均7回から10回の範囲の継代内で喪失が検出可能であった。興味深いことに、iPSCをディスパーゼではなくEDTAで分割した場合、oriPの喪失が明らかとなったのは継代が10回を超えた後であった。さらに、試験されるiPSCのサンプルセットにおけるPCRによる分析後、免疫グロブリン重鎖(IgH)遺伝子又はT細胞受容体再配列の指標となる遺伝子セグメントの増幅もなかった。このような再配列がないことから、宿主細胞が造血前駆細胞に由来し、本プロトコールが、より分化したB又はT細胞型ではなく造血前駆細胞からのiPSCの生成に選択的に有利に働くという主張が裏付けられる。ニューロンを形成するための適格性について、1ドナー由来のiPSCクローンをいくつか試験した。さらに、3種類の異なるドナー由来の5種類のiPSクローンも免疫不全(SCID)マウスに注入後に奇形腫を形成した。興味深いことに、2名のドナーからのクローンが、奇形腫研究のためにマウスに注入した後、それぞれ15及び18回の継代までプラスミドDNAを喪失しなかったので、残存する形質移入DNAの存在により、奇形腫形成能が妨げられないと思われた。
【0269】
本明細書中で開示され、主張される方法は全て、本開示に照らして、過度の実験なく為すことができ、実行することができる。本発明の組成物及び方法を好ましい実施態様の観点から記載してきたが、当業者にとって当然のことながら、本発明の概念、精神及び範囲から逸脱することなく、本方法に対して及び本明細書中に記載の方法の段階又は一連の段階において、変更を適用し得る。より具体的には、化学的かつ生理学的に関連のある、ある種の物質を本明細書中に記載の物質の代わりとし得ると同時に、同じ又は類似の結果が達成されることは明らかである。当業者にとって明らかな全てのかかる類似の置き換え及び改変は、添付の特許請求の範囲により定められるとおりの本発明の精神、範囲及び概念内にあるとみなされる。
【0270】
参考文献
次の参考文献は、これらが、本明細書中で記載されるものを補足する、代表的な手順又はその他の詳細を提供する程度に、参照により本明細書中に具体的に組み込まれる。
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米国特許出願公開第2003/0059913号
米国特許出願公開第2003/0087919号
米国特許出願公開第2004/0002507号
米国特許出願公開第2004/0002508号
米国特許出願公開第2004/0014755号
米国特許出願公開第2004/0039796号
米国特許出願公開第2005/0192304号
米国特許出願公開第2005/0209261号
米国特許出願公開第2008/004287号
米国特許出願公開第2007/0116680号
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(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a) ヒト末梢血単核細胞の細胞集団から、CD34発現細胞である造血前駆細胞が濃縮された細胞集団を分離精製し、
b)その造血前駆細胞の増殖を促進するための増殖条件下でその集団を培養し、
c)iPS再プログラミング因子を発現する1以上の発現カセットを含む1以上の染色体外で複製するエピソーム性ベクターをその増殖造血前駆細胞に導入し、
d)既知組成またはゼノフリーの細胞外マトリックスの存在下、かつ血清代替物、FGF、MEK阻害剤、GSK3阻害剤、TGF-β受容体阻害剤、及びROCK阻害剤の全てを含む培地中におけるフィーダー非依存性培養においてその増殖造血前駆細胞を培養し、それによりその造血前駆細胞からヒトiPS細胞を作製させ、
e)iPS細胞について選択する、
段階を含む、造血前駆細胞からヒトiPS細胞を作製するためのインビトロの方法であって、前記1以上の発現カセットが、1以上のポリシストロニックなカセットを含み、
前記ヒト末梢血単核細胞の細胞集団が、外部から加えられた顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)又は顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)で細胞が動員されていない1以上の対象由来である、方法。
【請求項2】(削除)
【請求項3】
前記細胞集団が、体積約10mL以下の血液試料中に含まれる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記増殖条件が、幹細胞因子(SCF)、Flt-3リガンド(Flt3L)、トロンボポエチン(TPO)、インターロイキン3(IL-3)又はインターロイキン6(IL-6)を含む1以上のサイトカインを含む増殖培地を含む、請求項1または3に記載の方法。
【請求項5】
前記増殖条件がNotch-1リガンドを含まない、請求項1、3及び4の何れかに記載の方法。
【請求項6】
段階b)の前記増殖条件が、既知組成の細胞外マトリクスを含む、請求項1及び請求項3から5の何れかに記載の方法。
【請求項7】
段階b)の前記増殖条件がマトリクスを含まない、請求項1及び請求項3から5の何れかに記載の方法。
【請求項8】
段階b)における条件の又は段階d)の培養の酸素分圧が7%以下である、請求項1及び請求項3から7の何れかに記載の方法。
【請求項9】
前記再プログラミング因子が、Sox、Oct、Nanog、Lin-28、Klf4、C-myc(又はL-myc)、SV40ラージT抗原又はそれらの組み合わせである、請求項1及び請求項3から8の何れかに記載の方法。
【請求項10】
前記段階c)が、前記増殖段階b)の第3、4、5又は6日前後に行われる、請求項1及び請求項3から9の何れかに記載の方法。
【請求項11】
前記段階c)の増殖造血前駆細胞の出発数が、約10^(4)個から約10^(5)個である、請求項1及び請求項3から10の何れかに記載の方法。
【請求項12】
前記段階d)の培養が、既知組成の細胞外マトリクスを含む、請求項1及び請求項3から11の何れかに記載の方法。
【請求項13】
前記既知組成の細胞外マトリクスが、単一タイプの細胞外マトリクスペプチドを有する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記既知組成の細胞外マトリクスがヒトフィブロネクチン断片である、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記段階の1以上における培地が化学的に既知組成である、請求項1及び請求項3から14の何れかに記載の方法。
【請求項16】
a)体積が10mL以下である末梢血試料から、CD34発現細胞である造血前駆細胞が濃縮された細胞集団を分離精製し;
b)iPS再プログラミング因子を発現する1以上の発現カセットを含む1以上の染色体外で複製するエピソーム性ベクターをその造血前駆細胞に導入し;
c)既知組成またはゼノフリーの細胞外マトリックスの存在下、かつ血清代替物、FGF、MEK阻害剤、GSK3阻害剤、TGF-β受容体阻害剤、及びROCK阻害剤の全てを含む培地中におけるフィーダー非依存性培養においてその造血前駆細胞を培養し、それによってその末梢血試料からヒトiPS細胞を生成させる、
段階を含む、末梢血試料からヒトiPS細胞を作製するためのインビトロでの方法であって、前記1以上の発現カセットが、1以上のポリシストロニックなカセットを含み、
前記末梢血試料が、外部から加えられた顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)又は顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)で細胞が動員されていない1以上の対象由来である、方法。
【請求項17】
前記段階b)の前に前記造血前駆細胞の増殖を促進するための増殖条件下でその造血前駆細胞を培養することをさらに含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】(削除)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-05-23 
出願番号 特願2013-515431(P2013-515431)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (C12N)
P 1 651・ 536- YAA (C12N)
P 1 651・ 121- YAA (C12N)
P 1 651・ 161- YAA (C12N)
P 1 651・ 537- YAA (C12N)
最終処分 維持  
前審関与審査官 千葉 直紀川口 裕美子  
特許庁審判長 大宅 郁治
特許庁審判官 長井 啓子
小暮 道明
登録日 2016-08-12 
登録番号 特許第5984217号(P5984217)
権利者 セルラー ダイナミクス インターナショナル, インコーポレイテッド
発明の名称 少量の末梢血からの人工多能性幹細胞の作製  
代理人 木元 克輔  
代理人 特許業務法人特許事務所サイクス  
代理人 特許業務法人特許事務所サイクス  
代理人 大野 聖二  
代理人 池田 成人  
代理人 阿部 寛  
代理人 森田 裕  
代理人 松任谷 優子  
代理人 今野 智介  
代理人 梅田 慎介  
代理人 酒巻 順一郎  

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