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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  H01M
審判 一部申し立て 特174条1項  H01M
審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  H01M
審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01M
審判 一部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  H01M
管理番号 1353138
異議申立番号 異議2018-700475  
総通号数 236 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-08-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-06-11 
確定日 2019-05-30 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6244936号発明「炭素触媒及びその製造方法、及び該炭素触媒を用いた触媒インキ並びに燃料電池」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6244936号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?7〕について訂正することを認める。 特許第6244936号の請求項1、2、6、7に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6244936号の請求項1?7に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、平成26年1月23日(優先権主張平成25年1月30日、平成25年3月21日)を出願日とする出願であって、平成29年11月24日にその特許権の設定登録がなされ、同年12月13日にその特許掲載公報が発行された。
本件は、その後、その特許について、平成30年6月11日に特許異議申立人奥村一正(以下、「申立人」という。)により請求項1、2、6、7に対して特許異議の申立てがなされ、同年8月29日付けで取消理由が通知され、これに対して、同年10月25日に特許権者より意見書が提出されるとともに訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)がなされ、その後、同年12月13日に特許権者に対して審尋がなされ、これに対して、平成31年1月15日に特許権者より回答書が提出されたものである。
なお、本件訂正請求がなされた後に、申立人に対して期間を指定して意見を求めたが、指定期間内に申立人から意見書は提出されなかった。

第2 訂正請求について
1 訂正の趣旨、及び、訂正の内容
(1)訂正の趣旨
本件訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)は、特許第6244936号の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?7について訂正を求めるものであり、その訂正の内容は以下のとおりである。

(2)訂正の内容
ア 訂正事項1
請求項1について、本件訂正前の「グラフェン骨格中に窒素原子が存在する炭素触媒であって、」を「グラフェンナノプレートレットの表面上に、金属-N4構造が存在し、かつ、グラフェンナノプレートレットの窒素を吸着種としたBET比表面積(BET_(N2))が、260m^(2)/g?2000m^(2)/gであり、かつ、前記金属-N4構造は、金属フタロシアニンの金属-N4構造が分解しない温度で不活性ガス雰囲気中で金属フタロシアニンを炭素化してなるものである炭素触媒であって、」と訂正する。
請求項1を引用する請求項2?7についても、同様に訂正する。

2 当審の判断
(1)訂正の目的、特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否、及び、新規事項追加の有無
ア 訂正事項1について
訂正事項1は、本件訂正前の請求項1について、本件訂正前の「炭素触媒」に関し、本件訂正前は、単に「グラフェン骨格中に窒素原子が存在する」との特定事項であったものを、願書に添付された明細書(以下、「本件明細書」という。)の【0018】、【0023】、【0025】、【0033】の記載を根拠として、「グラフェンナノプレートレットの表面上に、金属-N4構造が存在し、かつ、グラフェンナノプレートレットの窒素を吸着種としたBET比表面積(BET_(N2))が、260m^(2)/g?2000m^(2)/gであり、かつ、前記金属-N4構造は、金属フタロシアニンの金属-N4構造が分解しない温度で不活性ガス雰囲気中で金属フタロシアニンを炭素化してなるものである」との特定事項へと訂正するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当しないし、願書に添付された明細書、特許請求の範囲及び図面に記載された範囲内の訂正である。

(参考)本件明細書の記載(下線は当審で付した。以下、同じ。)
「【0018】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明するが、本発明は以下の例に限定されるものではない。
本発明における炭素触媒は、グラフェンナノプレートレットからなる炭素担体と、炭素担体表面に担持された、金属フタロシアニンとを備えている。また、本発明は、上記材料を乾式混合して混合物を作製する工程と、この混合物を不活性ガス雰囲気中で熱処理し、炭素化する工程とを有するものである。前記炭素化工程は、500?1000℃で行うことが好ましい。」
「【0023】
グラフェンナノプレートレットのBET比表面積(BET_(N2))は、260m^(2)/g?2000m^(2)/gであると原料である金属フタロシアニン、例えば鉄フタロシアニンまたはコバルトフタロシアニンとの反応場(炭素触媒の活性点と考えられるFe-N4構造またはCo-N4構造の形成場)が多くなりやすく、好ましい。
本明細書において、比表面積とは試料単位あたりの表面積のことであり、ガス(N_(2)又はH_(2)O)吸着法によって求めることができる。解析法はBET法を用い、相対圧(P/P0=0.05?0.3)とガス吸着量のプロットより得られる直線の切片と勾配から、単分子吸着量を求めることで、BET比表面積を算出できる。」
「【0025】
<金属フタロシアニン>
本発明において、使用される金属フタロシアニン、大環状金属錯体の一種であり、フタロシアニン構造の中心に金属イオンが配位した分子構造である。中心の金属イオンには、窒素原子が平面上に4配位しており、この構造は一般的に「金属-N4構造」と呼ばれる。同構造は酸素還元触媒の活性点として作用することが知られており、本発明における炭素触媒においても、担体となるグラフェンナノプレートレットの表面上に金属-N4構造が高密度に存在することが、高い触媒活性の発現に有利となる。そのため、炭素触媒の合成における熱処理工程においては、金属-N4構造が分解しない温度以下で行う必要がある。」
「【0033】
第二に、水を吸着種としたBET比表面積(BET_(H2O))と、窒素を吸着種としたBET比表面積(BET_(N2))の比(BET_(H2O) /BET_(N2))で示される親水度が、0.1?2.5であることが好ましい。」

以上によれば、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当しないから、同法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものであり、また、願書に添付した明細書等に記載した範囲内の訂正であるから、同法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。

(2)独立特許要件
請求項1を引用する請求項3?5は、特許異議申立がなされていないところ、本件訂正後において、特許出願の際独立して特許を受けることができないとする理由は見いだせないから、上記請求項に係る本件訂正は、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項に適合するものである。
また、特許異議申立がなされている請求項1、2、6、7に係る本件訂正には、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項は適用されない。

(3)一群の請求項について
本件訂正前の請求項2?7は、請求項1を引用するものであるから、本件訂正前の請求項1?7は、一群の請求項であるところ、本件訂正請求は、そのような一群の請求項ごとにされたものであるから、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。
そして、本件訂正は、請求項間の引用関係の解消を目的とするものではなく、特定の請求項に係る訂正事項について別の訂正単位とする求めもないから、本件訂正請求は、訂正後の請求項〔1?7〕を訂正単位とする訂正の請求をするものである。

5 本件訂正請求のむすび
以上のとおり、平成30年10月25日に特許権者が行った本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号を目的とするものであり、同法第120条の5第4項の規定に適合し、同法第120条の5第9項で準用する第126条第5項、第6項及び第7項に適合するものであるから、特許請求の範囲の請求項1?7について、結論のとおり訂正することを認める。

第3 特許異議申立について
1 本件発明
平成30年10月25日に特許権者が行った請求項1?7についての訂正は、上記第2で検討したとおり、適法なものであるから、本件特許の特許請求の範囲の請求項1?7(以下、請求項1?7に係る発明を、それぞれ「本件発明1」?「本件発明7」という。また、これらをまとめて「本件発明」という。)は、本件訂正に係る訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?7に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】
グラフェンナノプレートレットの表面上に、金属-N4構造が存在し、かつ、グラフェンナノプレートレットの窒素を吸着種としたBET比表面積(BET_(N2))が、260m^(2)/g?2000m^(2)/gであり、かつ、前記金属-N4構造は、金属フタロシアニンの金属-N4構造が分解しない温度で不活性ガス雰囲気中で金属フタロシアニンを炭素化してなるものである炭素触媒であって、
X線光電子分光法(XPS)によって測定した、材料表面の全元素に対する窒素原子のモル比を(N)とし、材料表面の全窒素量に対する、XPSのN1sスペクトルのピーク分離により求めたN1型窒素原子量の割合とN2型窒素原子量の割合の合計(%)を(N_(1)+N_(2))としたときの、表面末端窒素量{N×(N_(1)+N_(2))}が1.0?13.0であることを特徴とする炭素触媒。
【請求項2】
水を吸着種としたBET比表面積(BET_(H2O))と、窒素を吸着種としたBET比表面積(BET_(N2))の比(BET_(H2O) /BET_(N2))で示される親水度が、0.1?2.5であることを特徴とする請求項1記載の炭素触媒。
【請求項3】
グラフェンナノプレートレットと、金属フタロシアニンとを乾式混合して混合物を得る工程と、前記混合物を不活性ガス雰囲気中、500?1000℃で熱処理し、炭素化する工程とを含む請求項1または2記載の炭素触媒の製造方法。
【請求項4】
前記乾式混合は、グラフェンナノプレートレットに対する金属フタロシアニンの重量比(金属フタロシアニン/グラフェンナノプレートレット)が、0.3/1?2/1であり、前記熱処理は、700?1000℃で行われることを特徴とする請求項3記載の炭素触媒の製造方法。
【請求項5】
前記金属フタロシアニンは、鉄フタロシアニンまたはコバルトフタロシアニンであり、前記鉄フタロシアニンは、平均一次粒子径が10?100nm、且つ平均二次粒子径が0.1?10μmであり、前記コバルトフタロシアニンは、平均一次粒子径が10?500nm、且つ平均二次粒子径が0.1?10μmである請求項3または4記載の炭素触媒の製造方法。
【請求項6】
請求項1または2記載の炭素触媒と、バインダーと、溶剤とを含有する触媒インキ。
【請求項7】
請求項1または2記載の炭素触媒を、固体高分子電解質膜の一方、又は双方の面に配置させた電極触媒を有する燃料電池。」

2 平成30年8月29日付けで通知された取消理由の概要
(1)特許法第17条の2第3項(新規事項の追加)について
ア 平成29年6月28日付けでした手続補正は、本件発明1、2、6、7に、金属-N4構造が存在すること、及び、炭素触媒の担体としてグラフェンナノプレートレットを用いることが、いずれも特定されていないから、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでなく、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていないから、本件特許は、取り消されるべきものである。

(2)特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について
ア 本件発明1、2、6、7には、担体となるグラフェンナノプレートレットの表面上に、金属-N4構造が存在し、かつ、グラフェンナノプレートレットのBET比表面積(BET_(N2))が、260m^(2)/g?2000m^(2)/gであることが特定されておらず、その特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、本件特許は、取り消されるべきものである。

(3)特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)について
ア 本件発明1、2、6、7において、グラフェンナノプレートレットと、金属フタロシアニンとを乾式混合する工程と、前記混合物を不活性ガス雰囲気中で熱処理し、炭素化する工程によって得られる炭素触媒以外のものについて、その明細書の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、本件特許は、取り消されるべきものである。

(4)特許法第29条第1項第3号及び同条第2項(新規性進歩性)について
ア 本件特許の下記の請求項に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
イ 本件特許の下記の請求項に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

・請求項1について
理由ア、イ:刊行物1?6
・請求項2について
理由ア、イ:刊行物1?6
・請求項6について
理由ア:刊行物3
理由イ:刊行物1?6
・請求項7について
理由ア:刊行物3?5
理由イ:刊行物1?6

<刊行物>
下記3の<刊行物>欄の1?6参照。

3 上記2以外の特許異議申立理由
(1)特許法第29条第1項第3号及び同条第2項(新規性進歩性)について
ア 本件特許の下記の請求項に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
イ 本件特許の下記の請求項に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

・請求項2について
理由イ:刊行物1?7
・請求項6について
理由ア:刊行物1
理由イ:刊行物1?9
・請求項7について
理由イ:刊行物1?9

<刊行物>
1 Shin-Yi Yang et al.,"A powerful approach to fabricate nitrogen-doped graphene sheets with high specific surface area",Electrochemistry Communications, 14 (2012) 39-42
2 CHEN Chunlin et al.,"Preparation and Quantitative Characterization of Nitrogen-Functionalized Multiwalled Carbon Nanotubes",Chinese Journal of Catalysis, Volume 31,Issue 8,2010,948-954
3 Linfei Lai et al.,"Exploration of the active center structure of nitrogen-doped graphene-based catalysts for oxygen reduction reaction",Energy & Environmental Science, 2012,5,7936-7942
4 Yuanjian Zhang et al.,"Wet chemical synthesis of nitrogen-doped graphene towards oxygen reduction electrocatalysts without high-temperature pyrolysis",Journal of Materials Chemistry, 2012,22,6575-6580
5 Mitsuyoshi Muraoka et al.,"Iron addition to Vietnam anthracite coal and its nitrogen doping as a PEFC non-platinum cathode catalyst",Fuel, 102 (2012) 359-365
6 Qing Liu et al.,"N-doped graphene/carbon composite as non-precious metal electrocatalyst for oxygen reduction reaction",Electrochimica Acta, 81 (2012) 313-320
7 Ajna Toth et al.,"Morphology and adsorption properties of chemically modified MWCNT probed by nitrogen, n-propane and water vapor",Carbon, 50 (2012) 577-585
8 Vijayadurga Nallathambi et al.,"Development of high performance carbon composite catalyst for oxygen reduction reaction in PEM proton Exchange Membrane fuel cells",Journal of Power Sources, 183 (2008) 34-42
9 Elizabeth J. Biddinger et al.,"Nitrogen-Containing Carbon Nanostructures as Oxygen-Reduction Catalysts", Top Catal, (2009) 52 1566-1574
なお、上記刊行物1?9は、それぞれ申立人が提出した甲第1?9号証である。以下、これらをそれぞれ「甲1」?「甲9」という。

4 本件明細書の記載
本件明細書には、次の記載がある。
「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、コスト、資源量などの観点より使用量低減が求められる貴金属触媒の代替として、高い電子伝導性及び比表面積の大きい炭素担体を含む安価な炭素触媒、及び該炭素触媒を用いた触媒インキ並びに燃料電池を提供することにある。」

「【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明するが、本発明は以下の例に限定されるものではない。
本発明における炭素触媒は、グラフェンナノプレートレットからなる炭素担体と、炭素担体表面に担持された、金属フタロシアニンとを備えている。また、本発明は、上記材料を乾式混合して混合物を作製する工程と、この混合物を不活性ガス雰囲気中で熱処理し、炭素化する工程とを有するものである。前記炭素化工程は、500?1000℃で行うことが好ましい。
【0019】
<グラフェンナノプレートレット>
本発明において、使用される炭素担体であるグラフェンナノプレートレットとは、炭素原子が6角形をなす平面構造を有するグラフェンシートが、ファンデルワールス力により弱く結合した複層構造を有している。グラフェンナノプレートレットは、欠陥の少ない平面構造を有しているため、高い電子伝導性、高い熱伝導性や高い機械的強度を示す。
複層構造のグラフェンナノプレートレットの厚みは特に限定されないが0.335nm(単層)以上、20nm以下であることが好ましい。厚すぎると、電子伝導性や比表面積などが低くなり好ましくない場合がある。」
「【0023】
グラフェンナノプレートレットのBET比表面積(BET_(N2))は、260m^(2)/g?2000m^(2)/gであると原料である金属フタロシアニン、例えば鉄フタロシアニンまたはコバルトフタロシアニンとの反応場(炭素触媒の活性点と考えられるFe-N4構造またはCo-N4構造の形成場)が多くなりやすく、好ましい。
本明細書において、比表面積とは試料単位あたりの表面積のことであり、ガス(N_(2)又はH_(2)O)吸着法によって求めることができる。解析法はBET法を用い、相対圧(P/P0=0.05?0.3)とガス吸着量のプロットより得られる直線の切片と勾配から、単分子吸着量を求めることで、BET比表面積を算出できる。
【0024】
市販のグラフェンナノプレートレットとしては、例えば、XGSciences社製xGnP-C-グレード、xGnP-T-グレード、xGnP-M-グレード、xGnP-H-グレードなどが挙げられる。その中では特に、最も層が薄く、粒子が小さく、大きい比表面積を有するxGnP-C-750を原料に使用すると、大きい比表面積且つ高い電子伝導性を有する炭素触媒を得られやすく、好ましい場合が多い。
【0025】
<金属フタロシアニン>
本発明において、使用される金属フタロシアニン、大環状金属錯体の一種であり、フタロシアニン構造の中心に金属イオンが配位した分子構造である。中心の金属イオンには、窒素原子が平面上に4配位しており、この構造は一般的に「金属-N4構造」と呼ばれる。同構造は酸素還元触媒の活性点として作用することが知られており、本発明における炭素触媒においても、担体となるグラフェンナノプレートレットの表面上に金属-N4構造が高密度に存在することが、高い触媒活性の発現に有利となる。そのため、炭素触媒の合成における熱処理工程においては、金属-N4構造が分解しない温度以下で行う必要がある。
【0026】
前記フタロシアニンの中心金属としては、アルミニウム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛などが挙げられ、中心金属が鉄またはコバルトで形成される「Fe-N4構造またはCo-N4構造」は、熱に対する構造安定性や酸素分子の吸着能が優れているなどの特性より、高い触媒活性を示すため好ましい。」
「【0039】
<炭素触媒の製造方法>
炭素触媒の製造方法としては、グラフェンナノプレートレットと、金属フタロシアニンとを乾式混合する工程と、前記混合物を不活性ガス雰囲気中で熱処理し、炭素化する工程が好ましい。」
「【0054】
<熱処理し炭素化する工程>
グラフェンナノプレートレットと、金属フタロシアニンとを含有する材料の混合物を熱処理する方法においては、加熱温度はグラフェンナノプレートレットと、金属フタロシアニンの重量比によって異なるものであるが、500?1000℃が好ましく、700?1000℃であることがより好ましい。
加熱時間は特に限定されないが、通常は1時間から5時間であることが好ましい。
【0055】
熱処理工程における加熱温度が500℃を下回る場合、金属フタロシアニンの熱分解が生じにくく、触媒活性が低いことがある。また、高い酸素還元活性を示す触媒であっても、酸化耐性の低い触媒表面であると、実用的な電池の利用に向かない場合がある。触媒表面の活性点が不安定な構造であると、過酷な酸化条件下での使用により、構造が徐々に分解し、性能が著しく低下する恐れがある。この場合、ある程度高温で熱処理することで、活性点の構造が安定化し、実用的な電池運転条件に耐え得る触媒表面となることが多い。このときの温度は700℃以上であることが好ましい。
一方、加熱温度が1000℃を超える場合、金属フタロシアニンの熱分解や昇華が激しくなり、グラフェンナノプレートレット表面に触媒活性サイトとして考えられている金属-N4構造部位が残存しにくくなり、触媒活性が低いことがある。
【0056】
更に、熱処理工程における雰囲気に関しては、金属フタロシアニンをできるだけ不完全燃焼により炭化させ、窒素元素や鉄元素またはコバルト元素などをグラフェンナノプレートレット表面に残存させる必要性があるため、窒素やアルゴンなどの不活性ガス雰囲気や、窒素やアルゴンに水素が混合された還元性ガス雰囲気などが好ましい。また、熱処理時の炭素触媒中の窒素元素量低減を抑制するために、窒素元素を多量に含むアンモニアガス雰囲気下で熱処理を行なうことも可能である。
【0057】
また、熱処理工程に関しては、一定の雰囲気及び温度下で、1段階で処理を行う方法だけでなく、一度、不活性ガス雰囲気下、500℃程度の比較的低温で熱処理し、その後、還元雰囲気下で、1段階目を超える温度で熱処理することも可能である。そうすることで、触媒活性サイトとして考えられている金属-N4構造部位を、より効率的に多量に残存させられることがある。
【0058】
更に、本発明における炭素触媒の製造方法において、前記熱処理品を酸で洗浄、及び乾燥し、酸洗浄品を得る工程を含む方法が挙げられる。ここで用いる酸に関しては、少なくとも熱処理品表面に存在する金属鉄または金属コバルト成分を溶出させることができれば、どのような酸でも問題ないが、熱処理品との反応性が低く、金属鉄または金属コバルト成分の溶解力が強い濃塩酸や希硫酸などが好ましい。具体的な洗浄方法としては、ガラス容器内に酸を加え、熱処理品を添加し、分散させながら数時間撹拌させた後、静置させ上澄みを除去する方法を取る。そして、上澄み液の着色が確認されなくなるまで上記方法を繰り返し行い、最後に、ろ過、水洗により酸を除去し、乾燥する方法が挙げられる。
ちなみに、酸洗浄により表面の金属成分が除去されることで、重量あたりの触媒活性が向上する場合があるが、これは、活性点と考えられる金属-N4構造の絶対数が増加するためではなく本質的に触媒活性が増加しているわけではない。
【0059】
更に、本発明における炭素触媒の製造方法において、前記酸洗浄品を再度熱処理し、熱処理品を得る工程を含む方法が挙げられる。ここでの熱処理に関しても、先に行った熱処理条件と大きく変わるものではなく、加熱温度は500?1000℃、好ましくは700?1000℃であることが好ましい。また、雰囲気に関しても、分解により表面の窒素元素などが大幅に低減しないように、窒素やアルゴンなどの不活性ガス雰囲気や、窒素やアルゴンに水素が混合された還元性ガス雰囲気、窒素元素を多量に含むアンモニアガス雰囲気下などが好ましい。」
「【0083】
[実施例1;炭素触媒(1)]
グラフェンナノプレートレットと鉄フタロシアニンを、重量比1/0.5で秤量し、粒子複合化装置メカノフュージョン(ホソカワミクロン社製)にて乾式混合を行い、混合物を得た。上記混合物を、アルミナ製るつぼに充填し、電気炉にて窒素雰囲気下、600℃で2時間熱処理を行い、炭素触媒(1)を得た。
【0084】
炭素触媒(1)は、表面末端窒素量が、5.6であり、親水度が、0.56である。
【0085】
[実施例2;炭素触媒(2)]
グラフェンナノプレートレットと上記鉄フタロシアニン微粒子(1)を、重量比1/0.5で秤量し、粒子複合化装置メカノフュージョン(ホソカワミクロン社製)にて乾式混合を行い、混合物を得た。上記混合物を、アルミナ製るつぼに充填し、電気炉にて窒素雰囲気下、600℃で2時間熱処理を行い、炭素触媒(2)を得た。
【0086】
炭素触媒(2)は、表面末端窒素量が、5.0であり、親水度が、0.53である。
【0087】
[実施例3;炭素触媒(3)]
グラフェンナノプレートレットと上記鉄フタロシアニン微粒子(2)を、重量比1/0.5で秤量し、粒子複合化装置メカノフュージョン(ホソカワミクロン社製)にて乾式混合を行い、混合物を得た。上記混合物を、アルミナ製るつぼに充填し、電気炉にて窒素雰囲気下、600℃で2時間熱処理を行い、炭素触媒(3)を得た。
【0088】
炭素触媒(3)は、表面末端窒素量が5.7であり、親水度が0.60である。
【0089】
[実施例4;炭素触媒(4)]
グラフェンナノプレートレットと鉄フタロシアニンを、重量比1/0.5で秤量し、粒子複合化装置メカノフュージョン(ホソカワミクロン社製)にて乾式混合を行い、混合物を得た。上記混合物を、アルミナ製るつぼに充填し、電気炉にて窒素雰囲気下、800℃で2時間熱処理を行い、炭素触媒(4)を得た。
【0090】
炭素触媒(4)は、表面末端窒素量が、1.5であり、親水度が、0.39である。
【0091】
[実施例5;炭素触媒(5)]
グラフェンナノプレートレットと鉄フタロシアニンを、重量比1/0.5で秤量し、粒子複合化装置メカノフュージョン(ホソカワミクロン社製)にて乾式混合を行い、混合物を得た。上記混合物を、アルミナ製るつぼに充填し、電気炉にて窒素雰囲気下、500℃で5時間熱処理を行い、乳鉢で粉砕後、電気炉にてアンモニア雰囲気下、800℃、15分熱処理を行い、炭素触媒(5)を得た。
【0092】
炭素触媒(5)は、表面末端窒素量が、1.8であり、親水度が、0.34である。
【0093】
[実施例6;炭素触媒(6)]
グラフェンナノプレートレットとコバルトフタロシアニンを、重量比1/1で秤量し、粒子複合化装置メカノフュージョン(ホソカワミクロン社製)にて乾式混合し、混合物を得た。上記混合物を、アルミナ製るつぼに充填し、電気炉にて窒素雰囲気下、800℃で2時間熱処理を行い、炭素触媒(6)を得た。
【0094】
炭素触媒(6)は、表面末端窒素量が、3.8であり、親水度が、1.7である。
【0095】
[実施例7;炭素触媒(7)]
グラフェンナノプレートレットと上記コバルトフタロシアニン微粒子(1)を、重量比1/1で秤量し、粒子複合化装置メカノフュージョン(ホソカワミクロン社製)にて乾式混合し、混合物を得た。上記混合物を、アルミナ製るつぼに充填し、電気炉にて窒素雰囲気下、800℃で2時間熱処理を行い、炭素触媒(7)を得た。
【0096】
炭素触媒(7)は、表面末端窒素量が、4.0であり、親水度が、1.8である。
【0097】
[実施例8;炭素触媒(8)]
グラフェンナノプレートレットとコバルトフタロシアニンを、重量比1/1で秤量し、粒子複合化装置メカノフュージョン(ホソカワミクロン社製)にて乾式混合し、混合物を得た。上記混合物を、アルミナ製るつぼに充填し、電気炉にて窒素雰囲気下、1000℃で2時間熱処理を行い、炭素触媒(8)を得た。
【0098】
炭素触媒(8)は、表面末端窒素量が2.4であり、親水度が1.1である。
【0099】
[実施例9;炭素触媒(9)]
グラフェンナノプレートレットとコバルトフタロシアニンを、重量比1/1で秤量し、粒子複合化装置メカノフュージョン(ホソカワミクロン社製)にて乾式混合し、混合物を得た。上記混合物を、アルミナ製るつぼに充填し、電気炉にて窒素雰囲気下、500℃で5時間熱処理を行い、乳鉢で粉砕後、電気炉にてアンモニア雰囲気下、800℃、15分熱処理を行い、炭素触媒(9)を得た。
【0100】
炭素触媒(9)は、表面末端窒素量が、4.0であり、親水度が、1.4である。
【0101】
[実施例10;炭素触媒(10)]
グラフェンナノプレートレットと銅フタロシアニンを、重量比1/1で秤量し、粒子複合化装置メカノフュージョン(ホソカワミクロン社製)にて乾式混合し、混合物を得た。上記混合物を、アルミナ製るつぼに充填し、電気炉にて窒素雰囲気下、900℃で2時間熱処理を行い、炭素触媒(10)を得た。
【0102】
炭素触媒(10)は、表面末端窒素量が、3.6であり、親水度が、1.2である。
【0103】
[実施例11;炭素触媒(11)]
グラフェンナノプレートレットとニッケルフタロシアニンを、重量比1/1で秤量し、粒子複合化装置メカノフュージョン(ホソカワミクロン社製)にて乾式混合し、混合物を得た。上記混合物を、アルミナ製るつぼに充填し、電気炉にて窒素雰囲気下、900℃で2時間熱処理を行い、炭素触媒(11)を得た。
【0104】
炭素触媒(11)は、表面末端窒素量が、4.2であり、親水度が、2.4である。」
「【0115】
【表1】



5 刊行物の記載及び刊行物に記載された発明
(1)甲1の記載
甲1には、次の記載がある。
なお、英文の後の日本語は、当審による翻訳文である。以下、同じ。
ア 「This study develops a powerful strategy for fabricating the nitrogen-doped graphene sheets with good crystallinity, high specific surface area, and high percentages of pyridinic/graphitic-nitrogen structures. Due to the specified N-doping structures and high specific surface area of 719 m^(2)g^(-1) our N-doped graphene sheets show an excellent electrocatalytic activity for the oxygen reduction reaction (ORR).」
(第39頁「ABSTRACT」)
「この研究は、優れた結晶性、高い比表面積、及び高い割合のピリジン/黒鉛-窒素構造を有する窒素ドープグラフェンシートを作製するための強力な方策を開発するものである。特定の窒素ドープ構造及び719m^(2)g^(-1)という高い比表面積によって、我々の窒素ドープグラフェンシートは、酸素還元反応(ORR)の優れた電極触媒活性を示す。」

イ 「50mg GO was added into a 100-ml 0.01M melamine aqueous solution. After ultrasonication, the solution was stirred at room temperature for 4h, and then filtered through a PTFE membrane. The resultant composite dried at 40℃ under vacuum was named as assembled MA-GO. Before the thermal exfoliation, GO and MA-GO samples were placed at one-side of the quartz tube. When the center part of this quarts tube was heated to 900℃ under vacuum, the sample holders on the side were quickly inserted into the tube center preheated at 900℃ and kept at this temperature for 2h. The ramping rate of sample temperature is equal to 160℃s^(-1). 」(第39頁右欄第23行-第40頁左欄第4行)
「50mgの酸化グラフェン(GO)を100mlの0.01Mメラミン(MA)水溶液に添加し、超音波処理を施し、室温で4時間撹絆し、PTFE膜でろ過した。真空下40℃で乾燥させて組織化MA-GOを得た。熱剥離前に、GO及びMA-GOサンプルは石英管の一方側に載置された。この石英管の中央部が真空下900℃で加熱されると、サンプルホルダーは、予め900℃に加熱された当該中央部に素早く挿入され、同温度で2時間保持された。昇温速度は160℃/秒であった。)

ウ 「For linear sweep voltammeric(LSV)measureients, the well-dispersed sample ink was dropped onto the graphite surface(1cm^(2)). After drying, 2-μl, 5-wt.% Nafion solution was dropped onto the electrode surface and dried at 100℃. For rotating ring-disk electrode(RRDE) measurements, the sample ink was dropped onto the glassy-carbon disk (0.176cm^(2)). The mass loading of all samples is equal to ca. 0.1mg cm^(-2).」
(第40頁左欄第16行-第22行)
「リニアスイープボルタンメトリー(LSV)測定のために、よく分散されたサンプルインキをグラファイト表面(1cm^(2))に滴下した。乾燥後、2μl、5wt%のナフィオン溶液を電極表面に滴下し、100℃で乾燥させた。回転リングディスク電極(RRDE)測定のために、サンプルインキをグラッシーカーボンディスク(0.176cm^(2))上に滴下した。全てのサンプルの使用量は約0.1mg/cm^(2)であった。」

エ 「In Fig1A, the appearance of Nls peak in the spectrum indicates the successful nitrogen doping into GS(3.7at.%). The Nls spectrum indicates the existence of pyridinic-N(398.4eV,49.8 at.%), pyrrolic- N(400eV,4.3 at.%), graphitic-N(401.3eV,38.2 at.%)、and pyridine-N- oxide(403eV,7.7 at.%)structures.」(第40頁左欄第30行-第34行」
「図1Aに現れているスペクトルのN1sピークは、GS(グラフェンシート)にドープされた窒素(3.7原子%)を示している。このN1sスペクトルは、ピリジン窒素(398eV、49.8原子%)、ピロール窒素(400eV、4.3原子%)、黒鉛窒素(401.3eV、38.2原子%)、及びピリジンN-オキシド(403eV、7.7原子%)構造の存在を示している。」

オ 「The unique mesoporous structures of N-doped GS contribute to high specific surface area(719m^(2)/g)and uniform pore size distribution around 3-5nm.」(第40頁左欄第42行-第44行)
「窒素ドープGSの特徴的なメソ孔構造は高い比表面積(719m^(2)/g)、及び3-5nm付近の均一な孔サイズ分布に貢献する。」

カ 「Fig.1(A)

Fig.1,(A)An XPS N1s core level spectrum of N-doped GS, fitted with four constituents: pyridic-N, pyrrolic-N, graphitic-N, and pyridine-N-oxide.」
「図1(A)窒素ドープGSのXPS N1s殻準位スペクトル、フィッティングされた4つの成分:ピリジン窒素、ピロール窒素、黒鉛窒素、及びピリジンN-オキシド」

(2)甲1発明
ア 上記(1)のア及びエより、甲1には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「酸素還元反応(ORR)の優れた電極触媒活性を示す窒素ドープグラフェンシートであって、
GS(グラフェンシート)にドープされた窒素は3.7原子%であり、
そのうち、ピリジン窒素は49.8原子%、ピロール窒素は4.3原子%、黒鉛窒素は38.2原子%、ピリジンN-オキシドは7.7原子%である窒素ドープグラフェンシート。」

(3)甲2の記載
甲2には、次の記載がある。
ア 「Nitrogen-doped multiwalled carbon nanotubes (MWCNTs) were produced by catalytic chemical vapor deposition. The surface and structural properties were investigated by transmission electron microscopy, nitrogen physisorption, thermogravimetry-differential scanning calorimetry, temperature-programmed oxidation (TPO) and X-ray photoelectron spectroscopy. The surface of the purified sample contained 4.2% nitrogen atoms and comprised pyridine, lactam, pyridine oxide, pyridone and pyrrol functional components. TPO results reveal the combustion kinetics of each nitrogen-containig functional group. The nitrogen atoms are incorporated within the graphitic structure to give a basic surface, which will play an important role in the investigation of catalysis and energy conversion.] (第948頁 「Abstract」第1行?第6行)
「窒素ドープ多層カーボンナノチューブ(MWCNT)が触媒化学蒸着によって製造された。表面及び構造的な特性が、透過電子顕微鏡法、窒素物理吸着法、熱重量-示差走査熱量測定法、昇温脱離法(TPO)、及びX線光電子分光法によって検討された。精製されたサンプルの表面は4.2%の窒素原子を含んでおり、ピリジン、ラクタム、ピリジンオキシド、ビリトン及びピロール機能成分を含んでいた。TPOの結果は、各窒素含有官能基の燃焼動力学を明らかにした。窒素原子は黒鉛構造内に導入されて基礎表面を与え、これは触媒作用やエネルギー変換において重要な役割を果たす。」

イ 「We estimated the chemical composition of the purified sample' s surface using X-ray photoelectron spectroscopy (XPS). As shown in Fig.2(b), the Cls signal is centered at 284.4eV while the Nls signal is centered at 398.4 and 400.5eV indicating that substitution of nitrogen atoms occurred in the graphene sheet. The asymmetric character of the Nls peak suggests the existence of at least four components. The deconvolution in Fig.2(d) reveals four elementary peaks at 398.4, 400.4, 401.1, and 403.5eV, and these are attributed to pyridine (1.53%), pyrrol and pyridone (1.08%), quaternary nitrogen (1.08%), and nitrogen oxides (0.45%), respectively」 (第950頁左欄下から4行-右欄第8行)
「X線光電子分光法(XPS)を用いて、精製されたサンプルの表面の化学組成を評価した。図2(b)に示すように、N1sシグナルの中心は398.4及び400.5eVであったが、C1sシグナルの中心は284.4eVであり、グラフェンシートにおいて窒素原子による置換が起こったことが示された。N1sピークの非対称特性は、少なくとも4つの成分の存在を示した。図2(d)の解析は、398.4、400.4、401.1及び403.5eVにおける4つの成分ピークを示し、これらはそれぞれピリジン(1.53%)、ピロール及びビリドン(1.08%)、四級窒素(1.08%)及び酸化窒素(0.45%)に起因することが示された。」

ウ 「The calculated fraction of all nitrogen atoms on the surface is around 4.2mol% on the basis of Cls, Nls, Ols and Fe2p intensities.」(第950頁右欄第13行-第15行)
「C1s、N1s、O1s及びFe2p強度に基づき算出された、表面における全窒素原子の割合は、4.2モル%であった。」

エ 「To summarize, we employed TEM, XPS, TG-DSC, and TPO methods to investigate a typical nitrogen-doped multiwalled type of carbon nanotube. The nitrogen atoms are tightly incorporated into the graphitic structure, both at the surface and in the bulk. This was possible because of the selection of appropriate carbon and nitrogen precursors. The amount of surface pyridinic nitrogen was around 1.53%, which allows for its application as a basic catalyst for some catalysis reactions in the future.」(第951頁右欄下から8行-第952頁左欄第1行)
「要約すれば、TEM、XPS、TG-DSC及びTPO法を用いて、典型的な窒素ドープ多層型カーボンナノチューブを評価した。その表面及びバルクにおいて、窒素原子は黒鉛構造に強固に導入されていた。これは、適切な炭素及び窒素前駆体の選択により可能であった。表面のピリジン窒素量は約1.53%であり、将来的にいくつかの触媒反応のための基本的な触媒としての応用を許容するものであった。」

オ 「Fig.2


「図2 精製された多層カーボンナノチューブにおける、窒素の物理吸着(a)とXPS(b-d)の結果」

(4)甲2発明
ア 上記(3)のア及びイより、甲2には次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
「窒素原子は黒鉛構造内に導入されて基礎表面を与え、これは触媒作用やエネルギー変換において重要な役割を果たす窒素ドープ多層カーボンナノチューブであって、
グラフェンシートにおいて窒素原子による置換が起こっており、
それらの成分は、ピリジン(1.53%)、ピロール及びビリドン(1.08%)、四級窒素(1.08%)及び酸化窒素(0.45%)である窒素ドープ多層カーボンナノチューブ。」

(5)甲3の記載
甲3には、次の記載がある。
ア 「We present two different ways to fabricate nitrogen-doped graphene (N-graphene) and demonstrate its use as a metal-free catalyst to study the catalytic active center for the oxygen reduction reaction (ORR).」(第7936頁「要約」第1行-第2行)
「2種類の方法で窒素ドープグラフェン(N-グラフェン)を作製し、その酸素還元反応(ORR)の触媒活性中心を検討して、金属フリー触媒としての用途を示した。」

イ 「Very recently, metal-free N-doped carbons have been reported to exhibit ORR catalytic activities superior to commercial Pt/C catalysts, representing a breakthrough for metal-free, N-containing catalysts and their use in applications such as metal-air batteries and fuel cells.」 (第7936頁右欄第13行-第17行)
「最近、金属フリー窒素ドープカーボンが市販の白金/炭素触媒より優れたORR触媒活性を示すことが報告され、金属フリー窒素含有触媒のブレイクスルー、及びその金属空気電池や燃料電池への応用を示した。」

ウ 「N-doped RG-O was prepared by annealing of G-O powder at temperatures of 550℃, 850℃, and 1000℃ under NH_(3), and is henceforth labeled as N-RG-O 550℃, N-RG-O 850℃, and N-RG-O 1000℃, respectively.」(第7937頁右欄第15行-第18行)
「NドープRG-Oは、G-O(グラフェンオキサイド)粉末を、NH_(3)下、550℃、850℃及び1000℃でアニールすることで調製され、以下、それぞれN-RG-O 550℃、N-RG-O 850℃、及びN-RG-O 1000℃と呼ぶ。)

エ 「The working electrode was fabricated by casting the catalyst ink onto a 5mm diameter glassy carbon electrode. To prepare the catalyst ink,10mg of the N-containing graphene sample was ultrasonically dispersed into 1mL of 2-propanol containing a Nafion solution (5wt%, DuPont). 20μL of the catalyst ink was coated on the glassy carbon electrode and dried at 60℃.」(第7938頁左欄第24行-第30行)
「作用電極を、触媒インキを直径5mmのグラッシーカーボン電極に塗布することにより作製した。触媒インキは、10mgの窒素含有グラフェンサンプルを、ナフィオン溶液(5重量%、デュポン社)を含む1mLの2-プロパノール中に超音波分散して調製した。20μLの触媒インキを、グラッシーカーボン電極に塗布し、60℃で乾燥させた。)

オ 「The binding energy and relative composition ratio of N in the different catalysts are summarized in Table 2.」 (第7939頁左欄第30行-第32行)
「異なる触媒における窒素の結合エネルギーおよび相対組成比を表2にまとめた。」

カ 「

」(Table 2)
「表2 異なるアニール温度下におけるPpy/RG-O,BN-RG-O,N-RG-OサンプルのXPS分析によるN1sスペクトルの詳細な分析であり、窒素種のピーク位置および相対原子比率を示している」

(6)甲3発明
ア 上記(5)のカより、N-RG-O 550℃のサンプルにおける窒素種と相対原子比率は、Pyridinic3.48原子%、Pyrrolic1.29原子%、Quaternary0.63%であって、Pyridine Oxideは確認できず、N-RG-O 1000℃のサンプルにおける窒素種と相対原子比率は、Pyridinic0.96原子%、Pyrrolic2.76原子%、Quaternary1.12%、Pyridine Oxide0.36%であることが読み取れる。

イ 上記(5)のア、イ、及び、上記アより、甲3には次の発明(以下、「甲3発明1」という。)が記載されていると認められる。
「酸素還元反応の触媒活性を示す窒素ドープグラフェンであって、
N-RG-O 550℃のサンプルにおける窒素種と相対原子比率は、Pyridinic3.48原子%、Pyrrolic1.29原子%、Quaternary0.63%であって、Pyridine Oxideは確認できない窒素ドープグラフェン。」

ウ また、上記(5)のア、イ、及び、上記アより、甲3には次の発明(以下、「甲3発明2」という。)が記載されていると認められる。
「酸素還元反応の触媒活性を示す窒素ドープグラフェンであって、
N-RG-O 1000℃のサンプルにおける窒素種と相対原子比率は、Pyridinic0.96原子%、Pyrrolic2.76原子%、Quaternary1.12%、Pyridine Oxide0.36%である窒素ドープグラフェン。」

(7)甲4の記載
甲4には、次の記載がある。
ア 「The oxygen reduction reaction (ORR) is one of the important reactions not only in life processes but also in artificial energy conversion systems, such as fuel cells and metal/air batteries.」 (第6575頁「要約」第1行-第2行)
「酸素還元反応(ORR)は、生命過程のみならず、燃料電池や金属/空気電池といった人工エネルギー変換システムにおいても重要な反応の一つである。」

イ 「Here, we propose that ORR active N-doped carbon catalysts could, in principle, be prepared via a sophisticated wet chemical reaction between a reactive graphitic carbon template (e.g. graphene oxide) and N-containing molecules (e.g. dicyandiamide) at temperatures as low as 180℃. Without any high-temperature treatments, for example, the as- prepared N-doped reduced graphene oxide with additional Fe-containing nanoparticles showed an impressive ORR catalytic activity that was comparable to many previous N-doped carbon from high-temperature pyrolysis.」 (第6575頁「要約」第5行-第11行)
「ここで、我々は、ORR活性な窒素ドープカーボン触媒が、原理的に、反応性の黒鉛炭素テンプレート(例えば、酸化グラフェン)と窒素含有分子(例えば、ジシアンアミド)との、180℃くらいの低い温度における洗練された湿式化学反応によって調製することを提案する。高温処理をせずに、例えば、調製された、追加的な鉄含有ナノ粒子を含む窒素ドープ還元型酸化グラフェンは、高温加熱から得られる多くのこれまでの窒素ドープカーボンに匹敵する印象的なORR触媒活性を示した。」

ウ 「The GO could be exfoliated into a single sheet ・・・(略)・・・, and well dispersed in the aqueous solution of DCDA via an electrostatic interaction (a prerequisite for a successful wet chemical reaction). For N-doped reduced graphene oxide (rGO-N), 10mL of GO aqueous solution (1mg mL^(-1)), 42mg of dicyandiamide (DCDA, 99%, Nacalai), and 10mL of water were mixed as the precursor in an ultrasonic bath. After that the precursor was transferred to a Teflon- lined autoclave (50mL) and heated at 180℃ for 24h. Lastly, rGO-N was obtained by washing the precipitate with water and ethanol thoroughly on a PTFE membrane (0.45μm). Similarly, N-doped reduced graphene oxide containing Fe nanoparticles (rGO-N-Fe) was prepared similarly except with additional 3mg of K_(4)Fe (CN)_(6)・ 3H_(2)0 (Wako, JIS Special Grade) in the precursor. With the same protocol, reduced graphene oxide (rGO) without any N-dopants was prepared only using the GO solution as the precursor.」 (第6576頁左欄下から7行-右欄第10行)
「GO(酸化グラフェン)は単一シートに剥離され・・・(略)・・・、静電相互作用を介してDCDA溶液中に十分に分散された(成功した湿式化学反応のための必要条件)。窒素ドープ還元型酸化グラフェン(rGO-N)については、前駆体として、10mLのGO水溶液(1mg/mL)、42mgのジシアンジアミド(DCDA、99%、ナカライ)、及び10mLの水を超音波浴中で混合した。その後、前駆体はテフロンで裏打ちされたオートクレーブ(50mL)に移され、180℃で24時間加熱された。最後に、沈殿物をPTFE膜(0.45μm)上で水及びエタノールによって十分に洗浄し、rGO-Nを得た。同様に、鉄ナノ粒子を含む窒素ドープ還元型酸化グラフェン(rGO-N-Fe)は、3mgのK_(4)Fe(CN)_(6)・3H_(2)O(Wako、JISスペシャルグレード)が前駆体に追加された以外は同様にして調製された。同様のプロトコールで、Nドーパントを使用せずGO溶液のみを前駆体として使用して、還元型酸化グラフェン(rGO)が調製された。」

エ 「Nevertheless, more distinct evidence of the N-dopants in rGO-N (7.78 at%) and rGO-N-Fe (7.85 at%)could be revealed by the Nls XPS spectra (Fig.2f and S2), while that in rGO was negligible (0.79 at%), confirming the successful incorporation of N-heteroatoms into the graphitic framework. Detailed deconvolution analysis showed that the rGO-N and rGO-N-Fe contained both pyridinic (398.7eV) and pyrrolic (400.leV) N-heteroatoms, which were reported to play an important role in catalytic ORR.」 (第6578頁左欄第2行-第11行)
「にもかかわらず、rGOの窒素ドーパントは無視できる程度であったが(0.79原子%)、rGO-Nの窒素ドーパント(7.78原子%)及びrGO-N-Feの窒素ドーパント(7.85原子%)のより明確な証拠は、N1s XPSスペクトルにより明らかにされ(図2f及びS2)、黒鉛骨格への窒素ヘテロ原子の成功した導入が確認された。詳細な解析によって、rGO-N及びrGO-N-Feはいずれも、ORR触媒活性において重要な役割を果たすと報告されている、ピリジン(398.7eV)及びピロール(400.1eV)の両方の窒素ヘテロ原子を含むことが示された。」

オ 「in comparison with pristine graphene (NOT any kind of rGO), at which the oxygen reduction peak appeared at -0.6V, all rGO, rGO-N, and rGO-N-Fe showed superior ORR catalytical activity.」 (第6578頁左欄下から11行目-8行目)
「もとのグラフェン(rGOではない)に比べて、-0.6Vに現れた酸素還元ピークにおいて、rGO、rGO-N、及びrGO-N-Feの全てが、優れたORR触媒活性を示した。」

カ 「

N1s XPS spectra of rGO-N-Fe and rGO」(Fig.2(f))
「rGO-N-Fe と rGOのN1s XPS スペクトル」

(8)甲4発明
ア 甲4の図2(f)には、ピリジン(398.7eV)及びピロール(400.1eV)以外のスペクトルがほとんど読み取れないから、図2(f)のN1sXPSスペクトルから読み取れるピリジン(398.7eV)及びピロール(400.1eV)の存在確率は、合わせてほぼ100%であるということができる。
イ 上記(7)のア?カ、及び、上記アより、甲4には次の発明(以下、「甲4発明」という。)が記載されていると認められる。
「酸素還元反応(ORR)が活性な鉄ナノ粒子を含む窒素ドープ還元型酸化グラフェン(rGO-N-Fe)であって、
rGO-N-Feにおける窒素ドーパントは7.85原子%であり、
窒素ドーパントにおけるピリジン(398.7eV)及びピロール(400.1eV)を合わせた存在確率は、ほぼ100%である、鉄ナノ粒子を含む窒素ドープ還元型酸化グラフェン(rGO-N-Fe)。」

(9)甲5の記載
甲5には、次の記載がある。
ア 「The iron addition to Vietnam anthracite coal, subsequent nitrogen doping at 1073K and its catalyst activity for the oxygen reduction reaction (ORR) were studied for application as an alternative platinum catalyst in a polymer electrolyte fuel cell.」 (第359頁「ABSTRACT」第1行-第3行)
「ベトナム無煙炭への鉄の添加、続く1073Kでの窒素ドープ、及びその酸素還元反応(ORR)の触媒活性を、高分子電解質型燃料電池における白金代替触媒として適用することについて、検討した。」

イ 「Vietnam coal is used as the representative anthracite coal. Its compositions in the JCOAL supply are shown in Table 1. The coal (3.0g) was crushed and ground in 20ml of ethanol using a planet-wheel agate ball mill consisting of a 250ml container with 15 agate balls (Freche Co.) at 300rpm for 0.5h. The coal was ground and left in a dryer at 353K for 12h. The ground coal (0.15g) was packed in a microreactor and raised to the desired temperature (1073K) at a rate of 2K/min in a steam of 60ml NH_(3) and maintained at this temperature for 3h. After nitrogen doping, the ammonia was switched to helium and cooled to room temperature. The addition of iron to the coal was determined using an aqueous solution of FeCl_(3)・6H_(2)O, after the coal was washed with a 5M HCl solution, the iron was added and subsequently nitrogen-doped in a stream of NH_(3).」 (第360頁左欄第24行-第37行目)
「ベトナム炭を代表的な無煙炭として使用した。JCOAL供給の組成を表1に示す。炭(3.0g)を20mlのエタノール中、15瑪瑙ボールを備えた250ml容器を有する遊星ボールミル(フリッチェ社)を用いて、300rpmで0.5時間、粉砕した。粉砕した炭を353Kで12時間乾燥した。粉砕された炭(0.15g)をマイクロリアクターに密閉し、60mlのNH_(3)蒸気中、所望の温度(1073K)まで2K/分で昇温し、該温度で3時間保持した。窒素ドープ後、アンモニアをヘリウムに置換し、室温まで冷却した。炭への鉄の添加は、炭を5M HClで洗浄後、FeCl_(3)・6H_(2)Oの水溶液を用いて、鉄を添加し、続いてNH_(3)蒸気中で窒素ドープすることにより行った。」

ウ 「The catalyst (0.028mg) was dispersed in a 0.02mL suspension of a 35% aqueous solution of ethanol and then sonicated to form 0.142mg/cm^(2) based on the geometric area (disk area, 0.196cm^(2) and ring disk electrode, 0.071cm^(2)). After the application, a 5-μL aliquot of a 2-propanol solution containing a 0.05wt% Nafion (Aldrich) was dropped onto the glassy-carbon disk.」 (第360頁右欄第18行-第23行)
「触媒(0.028mg)をエタノールの35%水溶液の0.02mL懸濁液に分散し、その後、超音波処理して0.142mg/cm^(2)の幾何面積を形成した(ディスク面積0.196cm^(2)、リングディスク電極0.071cm^(2))。適用後、0.05重量%ナフィオン(アルドリッチ)を含む2-プロパノール溶液を5μL、グラッシーカーボンディスクに滴下した。」

エ 「The nitrogen-doped Vietnam coal at 1073K decreased the in-plane length value from 4.1 of the raw coal to 2.8nm, which agreed with 2-7 based on the TEM analysis. It showed that the nitrogen doping broke the graphene layers and exfoliated them to the exposed to more edges of the coal.」
(第362頁右欄第14行-第18行)
「1073Kで窒素ドープしたベトナム炭は、面内長さがもとの4.1nmから2.8nmに低減され、TEM解析に基づく2-7nmと一致した。窒素ドープは、グラフェン層を壊して剥離させ、炭のエッジをより多く露出させた。」

オ 「The XPS N_(ls) binding energy of the Vietnam coal is shown in Fig. 5 before and after the nitrogen doping. The four nitrogen types ((i) pyridine-N; 398.6, (ii) pyrrole-N; 400.5, (iii) quaternary-N; 401.3 and (iv) pyridine-N oxide; 402-405eV) were deconvolved in the XPS N_(ls) spectra. ・・・(略)・・・The pyridine-N and pyrrole-N species were distributed at around 78-81%.」 (第362頁右欄第28行-第35行)
「窒素ドープの前後におけるベトナム炭のXPS N1s結合エネルギーを図5に示す。4つの窒素型((i)ピリジン窒素; 398.6、(ii)ピロール窒素; 400.5、(iii)四級窒素; 401.3、(iv)ピリジン窒素オキシド;402-405eV)がXPS N1sスペクトルから検出された。・・・(略)・・・ピリジン窒素及びピロール窒素は、およそ78?81%分布していた。」

カ 「

」(Table4)
「未処理、及び、1073Kで窒素をドープした、0.1重量%の鉄を含有するベトナム炭の原子比率」

(10)甲5発明
ア 上記(9)のカのTable4より、サンプル「0.1wt% Fe,for 0h」の原子比率がN/Cが0.0428、O/Cが0.0675、Si/Cが0.0106、Al/Cが0.0038、Fe/Cが0.0018であり、サンプル「0.1wt% Fe,for 0.5h」の原子比率がN/Cが0.0617、O/Cが0.0391、Si/Cが0.0088、Al/Cが0.0034、Fe/Cが0.0015であることが読み取れる。

イ 上記(9)のア、エ及びオ、並びに、上記アより、甲5には次の発明(以下、「甲5発明1」という。)が記載されていると認められる。
「酸素還元反応(ORR)の触媒であって、高分子電解質型燃料電池における白金代替触媒である、窒素ドープベトナム炭であって、
原子比率がN/Cが0.0428、O/Cが0.0675、Si/Cが0.0106、Al/Cが0.0038、Fe/Cが0.0018であり、
窒素のうち、ピリジン窒素及びピロール窒素は、およそ78?81%である、ベトナム炭。」

ウ また、上記(9)のア、エ及びオ、並びに、上記アより、甲5には次の発明(以下、「甲5発明2」という。)が記載されていると認められる。
「酸素還元反応(ORR)の触媒活性を、高分子電解質型燃料電池における白金代替触媒である、窒素ドープベトナム炭であって、
原子比率がN/Cが0.0617、O/Cが0.0391、Si/Cが0.0088、Al/Cが0.0034、Fe/Cが0.0015であり、
窒素のうち、ピリジン窒素及びピロール窒素は、およそ78?81%である、ベトナム炭。」

(11)甲6の記載
甲6には、次の記載がある。
ア 「N-doped graphen/carbon composite as non-precious metal electrocaralyst for oxygen reduction reaction」(表題)
「酸素還元反応の非貴金属電極触媒としての窒素ドープグラフェン/カーボン複合体」

イ 「A non-precious metal electrocatalyst based on nitrogen-doped graphene (NG) was synthesized through a single step heat-treatment of a precursor mixture containing graphene oxide , urea, carbon black (CB) and small amount of iron species.」 (第3131「ABSTRACT」第1行-第3行)
「酸化グラフェン、尿素、カーボンブラック(CB)及び少量の鉄種を含む前駆体混合物の1段階加熱処理によって、窒素ドープグラフェン(NG)ベースの非貴金属電極触媒を合成した。」

ウ 「XPS analysis gave a total surface nitrogen concentration of ?4 at.%, with the pyridinic nitrogen being the main component.」 (第313頁「ABSTRACT」第6行-第7行)
「XPS解析によって表面の総窒素濃度は?4原子%であり、主な成分はピリジン窒素であることがわかった。」

エ 「The composite catalyst of Fe/NG/C was prepared by the following procedure: 2g urea and 25mg CB were first mixed with 75ml GO aqueous suspension (1mg/ml). The pH of the suspension was adjusted to 7-8 by few drops of 0.1M ammonia solution, and then 0.5ml ferric ammonium sulfate solution (1mgFe/ml) was added dropwise to the mixture. After the mixture was thoroughly dispersed by ultrasonication for 30min, most of water was removed by using a rotary evaporator at 60℃ under reduced pressure. The resultant slurry was completely dried by the lyophilization to form the precursor mixture. The dried powder was finely grounded and then heated at 1000℃ under Ar atmosphere for a period of 30min, followed by cooling off to room temperature under flowing Ar. To demonstrating the important role of CB in the material, Fe/NG sample catalyst was also synthesized by the procedure described above except for the removal of carbon black from the recipe.」 (第314頁左欄第49行-右欄第4行)
「複合触媒Fe/NG/Cを次の方法で調製した:2gの尿素と25mgのカーボンブラックを最初に75mlのGO水性懸濁液(1mg/m1)に混合した。0.1Mアンモニア溶液を滴下して懸濁液のPHを7-8に調整し、その後、0.5mlの硫酸鉄アンモニウム溶液(1mg Fe/ml)を滴下した。30分の超音波処理で混合物を十分に分散した後、減圧下、60℃でロータリーエバポレーターによって大部分の水を除去した。残ったスラリーを凍結乾燥によって完全に乾燥させ、前駆体混合物を形成した。乾燥した粉末を十分に粉砕し、アルゴン雰囲気下、30分間、1000℃加熱し、その後、アルゴン流通下で室温まで冷却した。CBの重要性を示すために、レシピからカーボンブラックを除外した以外は同様の方法で、Fe/NG試料触媒を合成した。」

オ 「An ink of the catalyst was prepared by mixing 10mg of finely ground catalyst powder, 40μL of 5wt% Nafion solutions (Aldrich) and 960μL of ethanol. 10μL of this suspension was pipetted onto a glass carbon RDE or RRDE (5mm diameter) and air-dried at 80℃, which resulted in a catalyst loading of ca. 500μgcm^(-2).」 (第314頁右欄第37行-第42行目)
「10mgの十分に粉砕された触媒粉末、40μLの5重量%ナフィオン溶液(アルドリッチ)、及び960μLのエタノールを混合することにより、触媒インキを調製した。10μLの懸濁液をピペットでグラスカーボンRDE又はRRDE(直径5mm)上に塗布し、80℃で風乾して、500μg/cm^(2)の触媒担持を得た。」

カ 「

」(Table1)
「XPSにより測定された表面組成(原子%)」

(12)甲6発明
ア 上記(11)のカのTable1より、サンプル「Fe/NG/C」の表面組成は、窒素合計が3.05原子%であって、そのうち、ピリジン型が1.30原子%、ニトリル型が0.48原子%、ピロール型が0.39原子%、グラファイト型が0.42原子%、オキサイド型が0.46原子%であり、また、サンプル「Fe/NG」の表面組成は、窒素合計が4.13原子%であって、そのうち、ピリジン型が1.95原子%、ニトリル型が0.40原子%、ピロール型が0.57原子%、グラファイト型が0.74原子%、オキサイド型が0.47原子%であることが読み取れる。

イ 上記(11)のア、及び、上記アより、甲6には次の発明(以下、「甲6発明1」という。)が記載されていると認められる。
「酸素還元反応の非貴金属電極触媒としての窒素ドープグラフェン/カーボン複合体である、サンプル「Fe/NG/C」であって、その表面組成は、窒素が3.05原子%であり、そのうち、ピリジン型が1.30原子%、ニトリル型が0.48原子%、ピロール型が0.39原子%、グラファイト型が0.42原子%、オキサイド型が0.46原子%である、
酸素還元反応の非貴金属電極触媒としての窒素ドープグラフェン/カーボン複合体。」

ウ また、上記(11)のア、及び、上記アより、甲6には次の発明(以下、「甲6発明2」という。)が記載されていると認められる。
「酸素還元反応の非貴金属電極触媒としての窒素ドープグラフェンである、サンプル「Fe/NG」であって、その表面組成は、窒素が4.13原子%であり、そのうち、ピリジン型が1.95原子%、ニトリル型が0.40原子%、ピロール型が0.57原子%、グラファイト型が0.74原子%、オキサイド型が0.47原子%である、
酸素還元反応の非貴金属電極触媒としての窒素ドープグラフェン。」

6 当審の判断
(1)特許法第17条の2第3項(新規事項の追加)について(上記2の(1))
ア 本件発明1は、上記1で示したとおりである。
イ 一方、願書に最初に添付された特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、次のとおりのものである。
「グラフェンナノプレートレットと、金属フタロシアニンとを乾式混合する工程と、前記混合物を不活性ガス雰囲気中で熱処理し、炭素化する工程とによって得られ、
X線光電子分光法(XPS)によって測定した、材料表面の全元素に対する窒素原子のモル比を(N)とし、材料表面の全窒素量に対する、XPSのN1sスペクトルのピーク分離により求めたN1型窒素原子量の割合とN2型窒素原子量の割合の合計(%)を(N_(1)+N_(2))としたときの、表面末端窒素量{N×(N_(1)+N_(2))}が1.0?13.0であることを特徴とする炭素触媒。」
ウ また、願書に最初に添付された明細書には、「炭素触媒」について、次の記載がある。
「【0018】
・・・(略)・・・
本発明における炭素触媒は、グラフェンナノプレートレットからなる炭素担体と、炭素担体表面に担持された、金属フタロシアニンとを備えている。また、本発明は、上記材料を乾式混合して混合物を作製する工程と、この混合物を不活性ガス雰囲気中で熱処理し、炭素化する工程とを有するものである。前記炭素化工程は、500?1000℃で行うことが好ましい。」
「【0025】
<金属フタロシアニン>
本発明において、使用される金属フタロシアニン、大環状金属錯体の一種であり、フタロシアニン構造の中心に金属イオンが配位した分子構造である。中心の金属イオンには、窒素原子が平面上に4配位しており、この構造は一般的に「金属-N4構造」と呼ばれる。同構造は酸素還元触媒の活性点として作用することが知られており、本発明における炭素触媒においても、担体となるグラフェンナノプレートレットの表面上に金属-N4構造が高密度に存在することが、高い触媒活性の発現に有利となる。そのため、炭素触媒の合成における熱処理工程においては、金属-N4構造が分解しない温度以下で行う必要がある。
【0026】
前記フタロシアニンの中心金属としては、アルミニウム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛などが挙げられ、中心金属が鉄またはコバルトで形成される「Fe-N4構造またはCo-N4構造」は、熱に対する構造安定性や酸素分子の吸着能が優れているなどの特性より、高い触媒活性を示すため好ましい。」
「【0039】
<炭素触媒の製造方法>
炭素触媒の製造方法としては、グラフェンナノプレートレットと、金属フタロシアニンとを乾式混合する工程と、前記混合物を不活性ガス雰囲気中で熱処理し、炭素化する工程が好ましい。」
エ これらの記載から、願書に最初に添付された特許請求の範囲及び明細書(以下、「当初明細書等」という。)に記載された「炭素触媒」は、上記イによれば、「グラフェンナノプレートレットと、金属フタロシアニンとを乾式混合する工程と、前記混合物を不活性ガス雰囲気中で熱処理し、炭素化する工程とによって得られ」るものであって、上記ウによれば、「グラフェンナノプレートレットからなる炭素担体と、炭素担体表面に担持された、金属フタロシアニンとを備えて」(【0018】)おり、「担体となるグラフェンナノプレートレットの表面上に金属-N4構造が高密度に存在する」(【0025】)ものである。
オ そして、上記ウによれば、「担体となるグラフェンナノプレートレットの表面上に金属-N4構造が高密度に存在することが、高い触媒活性の発現に有利とな」(【0025】)り、「中心金属が鉄またはコバルトで形成される「Fe-N4構造またはCo-N4構造」は、熱に対する構造安定性や酸素分子の吸着能が優れているなどの特性より、高い触媒活性を示す」(【0026】)ものである。
カ すなわち、上記エ及びオより、当初明細書等に記載された「炭素触媒」は、担体となるグラフェンナノプレートレットの表面上に、高い触媒活性を示す金属-N4構造が存在するものであるといえ、該金属-N4構造が高い触媒活性の発現に寄与していると解される。
キ そして、上記1のとおり、本件発明1は、本件訂正により、金属-N4構造が存在すること、及び、炭素触媒の担体としてグラフェンナノプレートレットを用いることが、いずれも特定されることとなったから、本件発明1は、当初明細書等の記載の範囲内のものである。
ク したがって、本件発明1及びそれを引用する本件発明2、6、7は、当初明細書等に記載された事項の範囲内のものである。
ケ よって、平成29年6月28日付けでした手続補正は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たすものである。

(2)特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について(上記2の(2))
ア 本件発明1の解決しようとする課題は、本件特許明細書の記載によれば、「コスト、資源量などの観点より使用量低減が求められる貴金属触媒の代替として、高い電子伝導性及び比表面積の大きい炭素担体を含む安価な炭素触媒、及び該炭素触媒を用いた触媒インキ並びに燃料電池を提供すること」(【0007】)であると認められる。
イ ここで、上記アの課題のうち、「コスト、資源量などの観点より使用量低減が求められる貴金属触媒の代替として、」「安価な炭素触媒」「を用いた触媒インキ並びに燃料電池を提供すること」については、本件発明1が「貴金属」を用いていないことにより、解決しているといえる。
ウ そこで、上記アの課題のうち、「高い電子伝導性及び比表面積の大きい炭素担体を含む」「炭素触媒、及び該炭素触媒を用いた触媒インキ並びに燃料電池を提供すること」について、以下、検討する。
エ 前記4のとおり、本件明細書には、「炭素触媒」について、【0018】、【0019】、【0023】?【0026】、【0039】の記載がある。
オ これらの記載から、本件特許明細書に記載された「炭素触媒」は、「グラフェンナノプレートレットと、金属フタロシアニンとを乾式混合する工程と、前記混合物を不活性ガス雰囲気中で熱処理し、炭素化する工程」(【0039】)とによって得られるものであって、「グラフェンナノプレートレットからなる炭素担体と、炭素担体表面に担持された、金属フタロシアニンとを備えて」(【0018】)おり、「担体となるグラフェンナノプレートレットの表面上に金属-N4構造が高密度に存在する」(【0025】)ものである。
カ そして、「担体となるグラフェンナノプレートレットの表面上に金属-N4構造が高密度に存在することが、高い触媒活性の発現に有利とな」(【0025】)り、「中心金属が鉄またはコバルトで形成される「Fe-N4構造またはCo-N4構造」は、熱に対する構造安定性や酸素分子の吸着能が優れているなどの特性より、高い触媒活性を示す」(【0026】)ものである。
キ すなわち、上記オ及びカより、本件明細書に記載された「炭素触媒」は、担体となるグラフェンナノプレートレットの表面上に、高い触媒活性を示す金属-N4構造が存在するものであるといえ、該金属-N4構造が高い触媒活性の発現に寄与していると解される。
ク また、本件明細書において、実施例(【0083】?【0104】、上記4参照。)として示された全ての「炭素触媒」は、グラフェンナノプレートレットと金属フタロシアニンを混合し、窒素雰囲気中で熱処理したもの、すなわち、金属-N4構造が存在するものであって、当該「炭素触媒」は、【表1】に示すようにいずれも高い酸素還元活性、高い開放電圧、高い短絡電流密度を示している。
ケ 上記キ及びクからすると、上記ウの課題のうち、「高い電子伝導性」である「炭素担体を含む」「炭素触媒、及び該炭素触媒を用いた触媒インキ並びに燃料電池を提供」し得るためには、担体となるグラフェンナノプレートレットの表面上に、金属-N4構造が存在することが必要であるといえる。
コ また、本件特許明細書の記載によれば、「複層構造のグラフェンナノプレートレットの厚みは特に限定されないが・・・(略)・・・厚すぎると、電子伝導性や比表面積などが低くなり好ましくない」(【0019】)ところ、「グラフェンナノプレートレットのBET比表面積(BET_(N2))は、260m^(2)/g?2000m^(2)/gであると原料である金属フタロシアニン、例えば鉄フタロシアニンまたはコバルトフタロシアニンとの反応場(炭素触媒の活性点と考えられるFe-N4構造またはCo-N4構造の形成場)が多くなりやすく、好ましい」(【0023】)ものである。
サ そうすると、上記コより、上記ウの課題のうち、「比表面積の大きい炭素担体を含む」「炭素触媒、及び該炭素触媒を用いた触媒インキ並びに燃料電池を提供する」ためには、グラフェンナノプレートレットのBET比表面積(BET_(N2))が、260m^(2)/g?2000m^(2)/gであることが必要であるといえる。
シ そして、本件訂正により、本件発明1は、上記ケの「担体となるグラフェンナノプレートレットの表面上に、金属-N4構造が存在すること」、及び、上記サの「グラフェンナノプレートレットのBET比表面積(BET_(N2))が、260m^(2)/g?2000m^(2)/gであること」が特定されることとなった。
ス そうすると、本件発明1は、上記アの課題を解決し得るものであって、発明の詳細な説明に記載されたものといえるから、本件発明1及びそれを引用する本件発明2、6、7に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものである。
ソ よって、本件発明1及びそれを引用する本件発明2,6,7は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものである。

(3)特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)について(上記2の(3))
ア 本件訂正前の請求項1に係る発明は、「グラフェンナノプレートレットの表面上に、金属-N4構造が存在し、」かつ、「前記金属-N4構造は、金属フタロシアニンの金属-N4構造が分解しない温度で不活性ガス雰囲気中で金属フタロシアニンを炭素化してなるものである炭素触媒」であることが特定されていなかった。
イ 一方、 前記4のとおり、本件明細書【0054】?【0059】、【0075】?【0104】には、本件発明1の「グラフェンナノプレートレットの表面上に、金属-N4構造が存在し、」かつ、「前記金属-N4構造は、金属フタロシアニンの金属-N4構造が分解しない温度で不活性ガス雰囲気中で金属フタロシアニンを炭素化してなるものである炭素触媒」の製造方法について記載があるものの、それ以外の「炭素触媒」の製造方法については不明であった。
イ しかしながら、本件訂正により、本件発明1には、「グラフェンナノプレートレットの表面上に、金属-N4構造が存在し、」かつ、「前記金属-N4構造は、金属フタロシアニンの金属-N4構造が分解しない温度で不活性ガス雰囲気中で金属フタロシアニンを炭素化してなるものである炭素触媒」であることが特定された。
ウ したがって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明1及びそれを引用する本件発明2、6、7について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものといえるから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たすものである

(4)特許法第29条第1項第3号及び同条第2項(新規性進歩性)について(上記2の(4)及び上記3)
ア 本件発明1について
(ア)本件発明1と、甲1発明、甲2発明、甲3発明1、甲3発明2、甲4発明、甲5発明1、甲5発明2、甲6発明1、及び、甲6発明2とを対比すると、両者の間には、少なくとも次の相違点がある。

(相違点)
本件発明1は、「グラフェンナノプレートレットの表面上に、金属-N4構造が存在し、」「かつ、前記金属-N4構造は、金属フタロシアニンの金属-N4構造が分解しない温度で不活性ガス雰囲気中で金属フタロシアニンを炭素化してなるもの」であるのに対し、甲1発明、甲2発明、甲3発明1、甲3発明2、甲4発明、甲5発明1、甲5発明2、甲6発明1、及び、甲6発明2は、いずれも、金属-N4構造が存在するか否かが不明である点。

(イ)上記相違点について検討するに、甲1?甲6には、金属-N4構造について記載も示唆もされておらず、グラフェンナノプレートレットの表面上に、金属-N4構造を存在させる動機付けがない。

(ウ)よって、本件発明1は、甲1?甲6に記載された発明であるとはいえないし、また、他の相違点について検討するまでもなく、当該発明から当業者が容易になし得たものともいえない。

イ 本件発明2,6、7について
(ア)本件発明2、6、7は、本件発明1の発明特定事項を全て含むものであり、少なくとも上記アで示した相違点を有するから、上記アで検討した理由と同様の理由により、甲1?甲6に記載された発明であるとはいえないし、また、当該発明から当業者が容易になし得たものともいえない。

7 むすび
以上のとおり、本件の請求項1、2、6、7に係る特許は、平成30年8月29日付けで通知された取消理由に記載した取消理由、及び、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すべき理由を発見しないし、他に本件の請求項1、2、6、7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グラフェンナノプレートレットの表面上に、金属-N4構造が存在し、かつ、グラフェンナノプレートレットの窒素を吸着種としたBET比表面積(BET_(N2))が、260m^(2)/g?2000m^(2)/gであり、かつ、前記金属-N4構造は、金属フタロシアニンの金属-N4構造が分解しない温度で不活性ガス雰囲気中で金属フタロシアニンを炭素化してなるものである炭素触媒であって、
X線光電子分光法(XPS)によって測定した、材料表面の全元素に対する窒素原子のモル比を(N)とし、材料表面の全窒素量に対する、XPSのN1sスペクトルのピーク分離により求めたN1型窒素原子量の割合とN2型窒素原子量の割合の合計(%)を(N_(1)+N_(2))としたときの、表面末端窒素量{N×(N_(1)+N_(2))}が1.0?13.0であることを特徴とする炭素触媒。
【請求項2】
水を吸着種としたBET比表面積(BET_(H2O))と、窒素を吸着種としたBET比表面積(BET_(N2))の比(BET_(H2O)/BET_(N2))で示される親水度が、0.1?2.5であることを特徴とする請求項1記載の炭素触媒。
【請求項3】
グラフェンナノプレートレットと、金属フタロシアニンとを乾式混合して混合物を得る工程と、前記混合物を不活性ガス雰囲気中、500?1000℃で熱処理し、炭素化する工程とを含む請求項1または2記載の炭素触媒の製造方法。
【請求項4】
前記乾式混合は、グラフェンナノプレートレットに対する金属フタロシアニンの重量比(金属フタロシアニン/グラフェンナノプレートレット)が、0.3/1?2/1であり、前記熱処理は、700?1000℃で行われることを特徴とする請求項3記載の炭素触媒の製造方法。
【請求項5】
前記金属フタロシアニンは、鉄フタロシアニンまたはコバルトフタロシアニンであり、前記鉄フタロシアニンは、平均一次粒子径が10?100nm、且つ平均二次粒子径が0.1?10μmであり、前記コバルトフタロシアニンは、平均一次粒子径が10?500nm、且つ平均二次粒子径が0.1?10μmである請求項3または4記載の炭素触媒の製造方法。
【請求項6】
請求項1または2記載の炭素触媒と、バインダーと、溶剤とを含有する触媒インキ。
【請求項7】
請求項1または2記載の炭素触媒を、固体高分子電解質膜の一方、又は双方の面に配置させた電極触媒を有する燃料電池。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-05-21 
出願番号 特願2014-10187(P2014-10187)
審決分類 P 1 652・ 55- YAA (H01M)
P 1 652・ 121- YAA (H01M)
P 1 652・ 113- YAA (H01M)
P 1 652・ 536- YAA (H01M)
P 1 652・ 537- YAA (H01M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 守安 太郎  
特許庁審判長 池渕 立
特許庁審判官 土屋 知久
亀ヶ谷 明久
登録日 2017-11-24 
登録番号 特許第6244936号(P6244936)
権利者 東洋インキSCホールディングス株式会社
発明の名称 炭素触媒及びその製造方法、及び該炭素触媒を用いた触媒インキ並びに燃料電池  

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