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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08B
審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  C08B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08B
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08B
審判 全部申し立て ただし書き2号誤記又は誤訳の訂正  C08B
管理番号 1353160
異議申立番号 異議2018-700531  
総通号数 236 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-08-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-07-03 
確定日 2019-06-07 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6262131号発明「グアーヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロリドおよびヘアトリートメント組成物でのその使用」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6262131号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1?10]について訂正することを認める。 特許第6262131号の請求項1?10に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6262131号の請求項1?10に係る特許についての出願は、2012年7月20日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理2011年7月21日(US)アメリカ合衆国)を国際出願日として特許出願され、平成29年12月22日に特許権の設定登録がされ、平成30年1月17日にその特許公報が発行され、平成30年7月3日に、その請求項1?10に係る発明の特許に対し、特許異議申立人 中谷 浩美(以下「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。
その後の手続の経緯は以下のとおりである。
平成30年 9月27日付け 取消理由通知
平成31年 1月21日 意見書・訂正請求書(特許権者)
同年 3月26日付け 通知書
同年 4月26日 意見書(特許異議申立人)

第2 訂正の適否

1 訂正の内容
特許権者は、特許法第120条の5第1項の規定により審判長が指定した期間内である平成31年1月21日に訂正請求書を提出し、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?10について訂正することを求めた(以下「本件訂正」という。)。その訂正内容は、以下のとおりである。

(1)訂正事項1
請求項1の「100,000g/モルから1,000,000g/モル」を、「300,000g/モルから1,000,000g/モル」と訂正する。(審決注:下線は訂正箇所を示す。以下同様。)

(2)訂正事項2
請求項1の「算術平均分子量(Mw)」を、「重量平均分子量(Mw)」と訂正する。

(3)訂正事項3
請求項2の「150,000g/モルから800,000g/モル」を、「300,000g/モルから800,000g/モル」と訂正する。

(4)訂正事項4
請求項3の「200,000g/モルから600,000g/モル」を、「300,000g/モルから600,000g/モル」と訂正する。

(5)訂正事項5
請求項2の「算術平均分子量(Mw)」を、「重量平均分子量(Mw)」と訂正する。

(6)訂正事項6
請求項3の「算術平均分子量(Mw)」を、「重量平均分子量(Mw)」と訂正する。

2 訂正の適否

(1)一群の請求項ごとに訂正を請求することについて
訂正事項1?6に係る訂正前の請求項1?10について、訂正事項1及び2は、請求項1の記載を訂正するものであるところ、請求項2?10は請求項1を直接又は間接的に引用しており、請求項1についての訂正事項1及び2により内容が訂正されるものであるから、請求項2?10についての訂正を含むものであるといえる。
また、訂正事項3及び5は、請求項2の記載を訂正するものであるところ、請求項3?10は請求項2を直接又は間接的に引用しており、請求項2についての訂正事項3及び5により内容が訂正されるものであるから、請求項3?10についての訂正を含むものであるといえる。
さらに、訂正事項4及び6は、請求項3の記載を訂正するものであるところ、請求項4?10は請求項3を直接又は間接的に引用しており、請求項3についての訂正事項4及び6により内容が訂正されるものであるから、請求項4?10についての訂正を含むものであるといえる。
したがって、訂正事項1?6に係る訂正前の請求項1?10は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項であり、本件訂正は、一群の請求項ごとにされたものである。

(2)訂正事項1、3及び4について

ア 訂正の目的の適否
訂正事項1の「300,000g/モルから1,000,000g/モル」とする事項は、請求項1の「平均分子量(Mw)」の範囲の下限値である「100,000g/モル」を、「300,000g/モル」と限定するものであり、訂正事項3の「300,000g/モルから800,000g/モル」とする事項は、請求項2の「平均分子量(Mw)」の範囲の下限値である「150,000g/モル」を、「300,000g/モル」と限定するものであり、及び、訂正事項4の「300,000g/モルから600,000g/モル」とする事項は、請求項3の「平均分子量(Mw)」の範囲の下限値である「200,000g/モル」を、「300,000g/モル」と限定するものである。
したがって、訂正事項1、3及び4は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

新規事項の追加の有無
訂正事項1の「300,000g/モルから1,000,000g/モル」とする事項、訂正事項3の「300,000g/モルから800,000g/モル」とする事項、及び、訂正事項4の「300,000g/モルから600,000g/モル」とする事項については、願書に添付した明細書に「【0013】・・非セルロース多糖類誘導体は好ましくはグアーまたはグアー誘導体である。【0014】・・本明細書における非セルロース多糖類誘導体の平均分子量は・・さらにより好ましくは1,000,000g/モルよりも低い。【0015】・・前記多糖類の平均分子量は、約250,000g/モル?約800,000g/モル、より特に約300,000g/モル?約600,000g/モルからなる」と記載されている。
それ故、訂正事項1、3及び4は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でなされたものといえる。
したがって、訂正事項1、3及び4は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でなされたものであって、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 実質上特許請求の範囲の拡張又は変更の存否
前記ア及びイで述べたとおり、訂正事項1、3及び4は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載の範囲で特許請求の範囲の減縮するものであって、実質上特許請求の範囲の拡張又は変更するものではない。
したがって、訂正事項1、3及び4は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。

(3)訂正事項2、5及び6について

ア 訂正の目的の適否

(ア)訂正事項2の、請求項1に記載の「算術平均分子量(Mw)」を「重量平均分子量(Mw)」とする事項について

a 請求項1に記載の「算術平均分子量(Mw)」について、一般に、算術平均分子量である数平均分子量の表記は「Mn」であり、重量平均分子量の表記は「Mw」であることは、本願出願当時、技術常識である。
[化学大辞典編集委員会編「化学大辞典8 縮刷版」共立出版株式会社発行(1989年8月15日)224頁 平均分子量の項参照。]
そうすると、請求項1に記載の「算術平均分子量(Mw)」は、当該技術常識に照らし、その用語「算術平均分子量」と表記「(Mw)」に齟齬があるから、当業者は、請求項1の「算術平均分子量(Mw)」という記載の用語「算術平均分子量」と表記「(Mw)」のいずれかに誤記があることに気付くものと認められる。

b 願書に添付した明細書には「【0013】・・非セルロース多糖類誘導体は・・グアー誘導体である。・・【0017】本明細書で用いるところでは、非セルロース多糖類誘導体の「平均分子量」は、前記多糖類の重量平均分子質量を意味する。【0018】非セルロース多糖類誘導体の平均分子量は・・。平均分子量は重量で表される。」と記載されていることから、非セルロース多糖類誘導体であるグアー誘導体の平均分子量の記載については、重量平均分子量の表記「(Mw)」は正しく、用語「算術平均分子量」に誤記があることが分かると認められる。
そして、当業者であれば、当該明細書の記載から「重量平均分子量(Mw)」が本来の意味であることを理解し、これが正しい記載であることを当然に認識すると解するのが合理的である。
したがって、当業者は、平均分子量の用語の誤記である「算術平均分子量」の正しい記載が「重量平均分子量」であると分かるといえるから、請求項1に記載の「算術平均分子量(Mw)」の正しい記載は「重量平均分子量(Mw)」であるといえる。

c 以上によると、当該明細書に接した当業者であれば、訂正事項2に係る訂正前の請求項1の「算術平均分子量(Mw)」の記載が誤りで、訂正後の「重量平均分子量(Mw)」という記載が正しいことが、当該明細書、特許請求の範囲若しくは図面の記載又は当業者の技術常識などから明らかで、当業者であればそのことに気付いて訂正後の「重量平均分子量(Mw)」に理解するのが当然であるということができる。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書き第2号に掲げる「誤記又は誤訳の訂正」を目的とするものに該当する。

(イ)訂正事項5及び6の、請求項2及び3に記載の「算術平均分子量」を「重量平均分子量」とする事項について
訂正事項5及び6は、訂正事項2と同じ訂正であり、その点は、前記(ア)で述べたとおりであるから、訂正事項5及び6は、いずれも特許法第120条の5第2項ただし書き第2号に掲げる「誤記又は誤訳の訂正」を目的とするものに該当する。

新規事項の追加の有無
訂正事項2、5及び6の「重量平均分子量」とする事項については、前記ア(ア)bに記載したように、願書に添付した明細書に記載されている。
それ故、訂正事項2、5及び6は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でなされたものといえる。
したがって、訂正事項2、5及び6は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でなされたものであって、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 実質上特許請求の範囲の拡張又は変更の存否
前記ア及びイで述べたとおり、訂正事項2、5及び6は、いずれも誤記を訂正するものであるから、実質上特許請求の範囲の拡張又は変更するものではない。
したがって、訂正事項2、5及び6は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。

3 まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1及び2号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ同条第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合するので、訂正後の請求項[1?10]についての訂正を認める。

第3 本件発明
本件訂正により訂正された特許の請求項1?10に係る発明(以下「本件発明1」?「本件発明10」といい、まとめて「本件発明」ということがある。)は、その特許請求の範囲の請求項1?10に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】i)300,000g/モルから1,000,000g/モルよりも低い重量平均分子量(Mw)を有し;そして
ii)0.20?0.30の、カチオン置換度(DS_(cat))_(extraction)の、2-ヒドロキシ-3-トリメチルアミノ-プロピル基を含有する
グアー誘導体。
【請求項2】前記重量平均分子量が300,000g/モル?800,000g/モルである、請求項1に記載のグアー誘導体。
【請求項3】前記重量平均分子量が300,000g/モル?600,000g/モルである、請求項1または2に記載のグアー誘導体。
【請求項4】前記(DS_(cat))_(extraction)が0.20?0.25である、請求項1?3のいずれか一項に記載のグアー誘導体。
【請求項5】前記(DS_(cat))_(extraction)が0.25?0.30である、請求項1?3のいずれか一項に記載のグアー誘導体。
【請求項6】i)コンディショニング効果を髪に提供する;および/または
ii)ケアを髪および/または頭皮に提供する;および/または
iii)良好なドライヘア外観を提供する
ための方法であって、それを必要としている前記髪を請求項1?5のいずれか一項に記載のグアー誘導体で処理することを含む方法。
【請求項7】それを必要としている前記髪が傷んだ髪である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】請求項1?5のいずれか一項に記載の少なくとも1つのグアー誘導体を含むシャンプー組成物。
【請求項9】シリコーンを含む、請求項8に記載のシャンプー組成物。
【請求項10】ふけ防止剤を含む、請求項9に記載のシャンプー組成物。」

第4 取消理由の概要
訂正前の請求項1?10に係る発明に対して、特許異議申立人が申し立てた取消理由の概要、及び、平成30年9月27日付けで当審が特許権者に通知した取消理由の概要は、以下のとおりである。

理由1:訂正前の請求項1?4、6?10(当審の取消理由通知においては、訂正前の請求項1?4、6、8)に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、訂正前の請求項1?4、6?10(当審の取消理由通知においては、訂正前の請求項1?4、6、8)に係る特許は、同法第29条の規定に違反してなされたものであるから、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

甲第1号証:特開2007-297380号公報(以下「甲1」という。)

理由2:訂正前の請求項1?10に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の甲第1号証に記載された発明、甲第2?4号証に記載の技術的事項に基いて、本件出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、訂正前の請求項1?10に係る特許は、同法第29条の規定に違反してなされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

甲第1号証:理由1で示したとおりである。
甲第2号証:特開2007-176895号公報(以下「甲2」という。)
甲第3号証:特開2008-184422号公報(以下「甲3」という。)
甲第4号証:特開2007-119350号公報(以下「甲4」という。)

理由3:訂正前の請求項1?10に係る発明は、下記の点で、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に適合するものではないから、訂正前の請求項1?10に係る特許は、同法第36条第6項に規定する要件を満たさない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。

本件発明1に記載の「算術平均分子量(Mw)」について、一般に、算術平均分子量である数平均分子量の表記は「Mn」であり、重量平均分子量の表記は「Mw」であることは、本願出願当時、技術常識であるから、本件発明1に記載の「算術平均分子量(Mw)」は、その用語と表記に齟齬があり、どのような分子量を意味するのか分からず不明確である。
したがって、本件発明1は、明確でなく、本件発明1を直接又は間接に引用して特定されている本件発明2?10も、同様に明確でない。

第5 当審の判断
当審は、本件発明1?10は、特許異議申立人が申し立てた取消理由及び当審の通知した取消理由によっては、取り消すことはできないと判断する。理由は以下のとおりである。
事案に鑑み、理由3、並びに、理由1及び2の順に判断する。

1 理由3(特許法第36条第6項第2号)に対して

取消理由で、本件訂正前の請求項1に記載の「算術平均分子量(Mw)」について、一般に、算術平均分子量である数平均分子量の表記は「Mn」であり、重量平均分子量の表記は「Mw」であることは、本願出願当時、技術常識であるから、請求項1に記載の「算術平均分子量(Mw)」は、その用語と表記に齟齬があり、どのような分子量を意味するのか分からず不明確であるので、請求項1及びこれを直接又は間接に引用して特定されている請求項2?10の特許を受けようとする発明は明確でないと通知したところ、本件訂正により、請求項1に記載の「算術平均分子量(Mw)」、並びに、請求項2及び3に記載の「算術平均分子量」は、本件明細書に記載され合理的に認識できる「重量平均分子量(Mw)」及び「重量平均分子量」に訂正されているので、不明確な点はなくなった。

したがって、本件発明1は、明確であるといえ、本件発明1を直接又は間接に引用して特定されている本件発明2?10も、同様に明確であるといえるから、本件発明は、特許法第36条第6項第2号を満たすものである。
よって、本件発明1?10に係る特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではないから、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものではない。

2 理由1及び2(特許法第29条第1項第3号及び同条第2項)に対して

(1)刊行物の記載について

ア 刊行物1(甲1)

1a「【請求項1】(A)陰イオン界面活性剤、
(B)ヒドロキシピリドン誘導体、
(C)水膨潤性化合物、
(D)カチオン化セルロース及びカチオン化グァーガムから選ばれる1種又は2種以上のカチオン化ポリマー、
(E)多価アルコール
を含有する組成物であって、25℃におけるpHが3.0?5.5である毛髪洗浄剤組成物。」

1b「【技術分野】【0001】本発明は、デオドラント効果及びその持続効果、ならびにフケ、かゆみ防止効果に優れ、かつ使用感に優れた毛髪洗浄剤組成物に関するものである。
【背景技術】【0002】従来より、フケ防止の目的でシャンプーやリンス等の毛髪化粧料にフケ防止効果を有する成分を配合することが知られている。例えば、ピリチオン系化合物、1-ヒドロキシ-2-ピリドン、及びコロイドイオウを有効成分として配合したフケ防止効果に優れた毛髪化粧料(特許文献1:特開昭63-165308号公報参照)、イオウ、ピロクトンオラミン、アクリル酸ポリマー、ポリビニルアルコール、セルロース系高分子、及びキサンタンガムを含有する毛髪化粧料(特許文献2:特開2001-261529号公報参照)等が提案されている。さらにピロクトンオラミンに加え、水膨潤性粘土鉱物を配合することで殺菌効果の持続性を図る皮膚化粧料での試みも行われている(特許文献3:特開平10-265408号公報参照)。」

1c「【発明が解決しようとする課題】【0005】本発明は上記事情に鑑みなされたもので、デオドラント効果が長時間持続し、フケ、かゆみ防止効果に優れ、かつすすぎ時のきしみがなく使用感に優れた毛髪洗浄剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】【0006】本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、(A)陰イオン界面活性剤からなる毛髪洗浄剤基剤に、(B)ヒドロキシピリドン誘導体と、(C)水膨潤性化合物と、(D)カチオン化セルロース及びカチオン化グァーガムから選ばれる1種又は2種以上のカチオン化ポリマーと、(E)多価アルコールとを配合し、さらに組成物の25℃におけるpHを3.0?5.5に調整することで、デオドラント効果の持続性を高め、フケ、かゆみ防止効果に優れ、かつすすぎ時のきしみがなく、髪のなめらかさ等の使用感が良好な毛髪洗浄剤組成物が得られることを知見し、本発明をなすに至ったものである。
・・・・・
【発明の効果】【0008】本発明によれば、デオドラント効果が長時間持続し、フケ、かゆみ防止効果に優れ、かつすすぎ時のきしみがなく使用感に優れた毛髪洗浄剤組成物を提供することができる。」

1d「【0012】本発明の(B)成分はヒドロキシピリドン誘導体であり、1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。ヒドロキシピリドン誘導体としては、例えば、ピロクトンオラミン[別名:1-ヒドロキシ-4-メチル-6-(2,4,4-トリメチルペンチル)-2(1H)-ピリドンモノエタノールアミン塩](商品名「オクトピロックス」、クラリアント社製、以下同様)、1-ヒドロキシ-4-メチル-ピリドン、1-ヒドロキシ-4,6-ジメチル-2-ピリドン・・・等が挙げられるが、濃度対効果の面からピロクトンオラミンが好ましい。
・・・・・
【0024】カチオン化グァーガムはグァーガムにカチオン性官能基を付加したものである。カチオン基の付加の程度によって、カチオン化グァーガムのカチオン度が異なる。カチオン化度は、0.1meq/g?3.0meq/gの範囲が好ましく、より好ましくは0.5meq/g?3.0meq/gであり、さらに好ましくは1.0meq/g?2.4meq/gである。カチオン化度が0.1meq/g未満だと、泡をすすいだ時の指通りが悪くなる場合があり、かつ乾燥後の髪がパサついた感触になる場合がある。一方、カチオン化度が3.0meq/gを超えると、洗浄剤組成物の保存安定性に劣る場合がある。
【0025】カチオン化グァーガムの分子量は、10万?300万の範囲が好ましく、20万?200万がより好ましい。10万未満だと泡をすすいだ時の指通りが悪くなる場合があり、かつ乾燥後の髪がパサついた感触になる場合がある。一方、300万を超えると洗浄剤組成物の保存安定性に劣ると共に、洗浄剤組成物中への溶解が困難になる場合がある。具体的な例としては、ラポールガムCG-M、CG-M7、CG-M8M(商品名、大日本製薬(株)製)、N-Hance3000(商品名、ハーキュレス・ジャパン製)、JAGUAR C-13S、C-14S、C-17、EXCEL(商品名、ローディア製)等が挙げられる。
・・・・・
【0027】(D)成分のカチオン化ポリマーのカチオン度は、化学構造が明瞭であれば簡単に計算することができるが、モノマー比率等の構造が不明な場合であっても、ケルダール法等のN含量の測定値から計算することができる。なお本発明で用いたカチオン度はケルダール法である化粧品原料基準の一般試験法の窒素定量法第2法で測定した値を基に算出している。なお、カチオン度の単位であるmeq/gとは試料1g当たりのNカチオン基のミリ当量数を示す。
・・・・・
【0039】本発明の毛髪洗浄剤組成物には、さらに仕上がり性能を向上させるために、シリコーン化合物を配合することもできる。シリコーン化合物としては、その種類が特に制限されるものではなく、通常シャンプー組成物に使用されているものを用いることが可能である。例えば、ジメチルポリシロキサン(高重合ジメチルポリシロキサン、シリコーンゴムを含む)、メチルフェニルポリシロキサン、ポリエーテル変性シリコーン、ポリアミノ変性シリコーン、べタイン変性シリコーン、アルコール変性シリコーン、フッ素変性シリコーン、エポキシ変性シリコーン、メルカプト変性シリコーン、カルボキシ変性シリコーン、脂肪酸変性シリコーン、シリコーングラフトポリマー、環状シリコーン、アルキル変性シリコーン、トリメチルシリル基末端ジメチルポリシロキサン、シラノール基末端ジメチルポリシロキサン等を挙げることができ、これらは1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて使用することができる。これらの中でも、ジメチルポリシロキサン、ポリエーテル変性シリコーン、ポリアミノ変性シリコーンが特に好適に使用される。また、上記シリコーン化合物としては、上記シリコーン化合物を界面活性剤により乳化し、エマルション化したものも使用することができる。なお、このようなエマルションは、乳化剤や乳化方法に特に制限はなく、種々使用することができる。」

1e「【実施例】【0046】・・・
【0047】[実施例1?14、比較例1?10]
表1?5に示す組成の毛髪洗浄剤組成物を製造し、評価を行った。評価は、20?50才の女性10名が1日1回、適量を7日間使用し、「すすぎ時のなめらかさ」、「すすぎ時のきしみのなさ」、「デオドラント効果の持続性」、「フケ防止効果」及び「かゆみ防止効果」の項目について、官能評価した。結果を下記基準に従って示す。なお、デオドラント効果の持続性は、洗髪後の翌日の夕方に評価した。
<基準>
◎:10名中8?10名が良いと回答
○:10名中5?7名が良いと回答
△:10名中3?4名が良いと回答
×:10名中0?2名が良いと回答
・・・・・
【0049】

・・・・・
【0058】使用原料一覧を下記表に示す。
【0059】



イ 刊行物2
2a「【0001】本発明は、アニオン性界面活性剤、カチオン化ポリマー、及び水不溶性のシリコーンを含む水性毛髪洗浄剤に関する。」

2b「【0016】本発明の成分(C)は、電荷密度が1.3meq/g以上3.0meq/g未満の水溶性カチオン化ポリマーであり、すすぎ時の滑らかさの点から、特に糖骨格を主鎖とする水溶性カチオン化ポリマーが好ましい。
電荷密度が1.3meq/g以上3.0meq/g未満のカチオン化ポリマーとしては、例えば重量平均分子量100,000?2,000,000のカチオン化グアーガム・・などが挙げられる。具体的には・・ラボールガム CG-M、・・(以上、大日本製薬(株))等のカチオン化グアーガム・・等の市販品が使用できる。」(当審注:下線は当審が付与。以下同様。)

ウ 刊行物3
3a「【0001】本発明は、加齢の進行に伴い増加する毛髪のうねりを改善できる毛髪うねり改善剤に関する。」

3b「【0018】<水溶性高分子>
頭皮外用剤の粘度を所望の範囲にするためには、合成又は天然の水溶性高分子を用いることができる。
【0019】合成又は天然の水溶性高分子としては・・塩化o-[2-ヒドロキシ-3-(トリメチルアンモニオ)プロピル]グアーガム(例えば、大日本住友製薬社;ラボールガムCG-M、ラボールガムCG-6L、ラボールガムCG-M7、ラボールガムCG-M8M・・)・・等が挙げられる。」

エ 刊行物4
4a「【0001】本発明は使用感と安定性に優れた化粧料組成物に関するものであり、更に詳細には複合塩の凝集を防ぐことで剤型の安定性に優れ、繰り返し使用した場合の蓄積を防ぐことで使用感が良好で、かつ従来のコンディショニング剤と同等以上のコンディショニング効果を有する、特定粘度のカチオン変性ガラクトマンナン多糖を含む毛髪処理組成物及び皮膚化粧料組成物に関する。」

4b「【0019】なお、低粘度カチオン変性ガラクトマンナン多糖の第4級窒素含有基由来のカチオン電荷量とは、低粘度カチオン変性ガラクトマンナン多糖1g当たりに含まれる化学式(1)で示された第4級窒素含有基の当量数である。通常は第4級窒素含有基由来の窒素分をケルダ-ル法(旧化粧品原料基準、一般試験方法、窒素定量法、第2法)により求め、測定値から算出できる。具体的に説明すると、化学式(1)で示された第4級窒素含有基のR_(1)、R_(2)、R_(3)はメチル、X^(-)は塩素イオンの第4級窒素含有基であり、ガラクトマンナン多糖として低粘度グア-ガム(商品名:サンファイバ-(太陽化学株式会社製))をカチオン変性することで得られた本発明品の窒素分をケルダ-ル法により測定した結果、0.93%であった場合、この物質のカチオン電荷量は以下の式にて求められる。本発明で用いられるサンファイバ-中には、通常窒素分を0.06%前後含有している。



(2)刊行物に記載された発明

ア 刊行物1に記載された発明
刊行物1は、「デオドラント効果が長時間持続し、フケ、かゆみ防止効果に優れ、かつすすぎ時のきしみがなく使用感に優れた毛髪洗浄剤組成物」(1b【0001】、【0005】、【0008】)である「(A)陰イオン界面活性剤、(B)ヒドロキシピリドン誘導体、(C)水膨潤性化合物、(D)カチオン化セルロース及びカチオン化グァーガムから選ばれる1種又は2種以上のカチオン化ポリマー、(E)多価アルコールを含有する組成物であって、25℃におけるpHが3.0?5.5である毛髪洗浄剤組成物」(1a 請求項1)に関し記載するものであって、この「毛髪洗浄剤組成物」の具体例の1つとして、実施例8(1e)が記載されており、その実施例8の毛髪洗浄剤組成物の(D)成分として「カチオン化グアーガム(1)」(1e)を用いており、該「カチオン化グアーガム(1)」が、大日本住友製薬(株)の商品名「ラポールガムCG-M」で「カチオン化度:1.2meq/g、分子量:25万」のものであること(1e)が記載されている。

そうすると、実施例8の(D)成分「カチオン化グアーガム(1)」に着目すると、刊行物1には、
「カチオン化度:1.2meq/g、分子量:25万、大日本住友製薬(株)の商品名「ラポールガムCG-M」である、カチオン化グアーガム」
の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

また、刊行物1には、請求項1に記載の「毛髪洗浄剤組成物」の具体例の1つである、実施例8の毛髪洗浄剤組成物(1e【0047】、【0049】)として【表2】(1e【0049】)に組成が示されており、当該組成を書き表す[(D)カチオン化グアーガム(1)については、前記引用発明1を併せ記載する)と、
「(A)POEアルキル(C_(12-14))エーテル硫酸ナトリウム(3E.O.)15%、(B)ピロクトンオラミン0.3%、(C)ベントナイト0.1%、(D)カチオン化グアーガム(1)[カチオン化度:1.2meq/g、分子量:25万、大日本住友製薬(株)の商品名「ラポールガムCG-M」である、カチオン化グアーガム]0.2%、(E)ポリエチレングリコール300 2%、ラウリン酸アミドプロピルベタイン2.5%、POE(2)ラウリン酸モノエタノールアミド4%、POE(20)硬化ヒマシ油1%、ラウリルジメチルアミンオキサイド0.4%、塩化ジメチルジアリルアンモニウム・アクリルアミド共重合体0.3%、N-メタクリロイルオキシエチルN、N-ジメチルアンモニウム-α-N-メチルカルボキシベタイン・メタクリル酸アルキルエステル共重合体0.1%、安息香酸ナトリウム0.7%、香料A 0.5%、無水硫酸ナトリウム0.5%、クエン酸適量、精製水バランス、合計100.00%組成の毛髪洗浄剤組成物」
の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。

さらに、刊行物1には、実施例8の毛髪洗浄剤組成物の官能評価をするため、20?50才の女性10名が1日1回、適量を7日間を使用し、「すすぎ時のなめらかさ」、「すすぎ時のきしみのなさ」、「デオドラント効果の持続性」、「フケ防止効果」及び「かゆみ防止効果」を評価したところ、いずれの項目も10名中少なくとも5?7名が良いと回答した結果であったことが記載されている(1e【0047】、【0049】)。
この官能評価は、実施例8の毛髪洗浄剤組成物の評価であるから、髪を当該毛髪洗浄剤組成物で処理したといえ、「すすぎ時のなめらかさ」、「すすぎ時のきしみのなさ」、「デオドラント効果の持続性」、「フケ防止効果」及び「かゆみ防止効果」がいずれも良いことから、この処理方法は、「すすぎ時のなめらかさ」、「すすぎ時のきしみのなさ」、「デオドラント効果の持続性」、「フケ防止効果」及び「かゆみ防止効果」を良くするための方法といえる。

そうすると、刊行物1には、
「すすぎ時のなめらかさ、すすぎ時のきしみのなさ、デオドラント効果の持続性、フケ防止効果及びかゆみ防止効果を良くするための方法で、髪を、(A)POEアルキル(C_(12-14))エーテル硫酸ナトリウム(3E.O.)15%、(B)ピロクトンオラミン0.3%、(C)ベントナイト0.1%、(D)カチオン化グアーガム(1)[カチオン化度:1.2meq/g、分子量:25万、大日本住友製薬(株)の商品名「ラポールガムCG-M」である、カチオン化グアーガム]0.2%、(E)ポリエチレングリコール300 2%、ラウリン酸アミドプロピルベタイン2.5%、POE(2)ラウリン酸モノエタノールアミド4%、POE(20)硬化ヒマシ油1%、ラウリルジメチルアミンオキサイド0.4%、塩化ジメチルジアリルアンモニウム・アクリルアミド共重合体0.3%、N-メタクリロイルオキシエチルN、N-ジメチルアンモニウム-α-N-メチルカルボキシベタイン・メタクリル酸アルキルエステル共重合体0.1%、安息香酸ナトリウム0.7%、香料A 0.5%、無水硫酸ナトリウム0.5%、クエン酸適量、精製水バランス、合計100.00%組成の毛髪洗浄剤組成物で処理する方法」の発明(以下「引用発明3」という。)も記載されていると認められる。

(3)対比・判断

ア 本件発明1について

(ア)引用発明1との対比

a 引用発明1の「大日本住友製薬(株)の商品名「ラポールガムCG-M」」について、刊行物2及び3の記載(2b、3b)より、大日本住友製薬(株)のカチオン化グアーガムの商品名は全て「ラボールガムCG-M」であることから、引用発明1の「ラポールガムCG-M」は「ラボールガムCG-M」の誤記であると認める。(以下、「ラボールガムCG-M」と表示する。)

b 引用発明1の「分子量:25万」について、刊行物2の記載(2b)より、大日本製薬(株)等のカチオン化グアーガム「ラボールガム CG-M」の重量平均分子量は100,000?2,000,000といえることから、引用発明1の「分子量:25万」は重量平均分子量が25万g/モルであると理解される。
そうすると、本件発明1の「i)300,000g/モルから1,000,000g/モルよりも低い重量平均分子量(Mw)を有し」と、引用発明1の「分子量:25万」とは、特定の重量平均分子量(Mw)を有する点で共通する。

c 引用発明1の「カチオン化グアーガム」について、刊行物3より、大日本住友製薬(株)の「ラボールガムCG-M」は、「塩化o-[2-ヒドロキシ-3-(トリメチルアンモニオ)プロピル]グアーガム」(3b)であることから、2-ヒドロキシ-3-(トリメチルアンモニオ)プロピル基(カチオン)を含有する、グアーガム誘導体であることが分かる。
また、本件発明1の「グアー」は、本件明細書の「【0013】・・本発明に使用される好ましい非セルロース多糖類出発原料は、グアーとしても知られる、グアーガムなどの、ガラクトマンナンである」という記載より、「グアーガム」を意味するものといえる。
そうすると、引用発明1の「カチオン化グアーガム」は、本件発明1の「2-ヒドロキシ-3-トリメチルアミノ-プロピル基を含有するグアー誘導体」に相当する。

d 引用発明1の「カチオン化度:1.2meq/g」について、刊行物4の記載「【0019】・・低粘度カチオン変性ガラクトマンナン多糖の第4級窒素含有基由来のカチオン電荷量とは、低粘度カチオン変性ガラクトマンナン多糖1g当たりに含まれる化学式(1)で示された第4級窒素含有基の当量数である・・カチオン電荷量(meq/g)=・・」(4b)より、引用発明1の「カチオン化度:1.2meq/g」は、前記cで述べたことを踏まえると、カチオン変性ガラクトマンナン多糖(引用発明1では、カチオン化グアーガム)の第4級窒素含有基[引用発明1では、2-ヒドロキシ-3-(トリメチルアンモニオ)プロピル基]由来のカチオン電荷量(meq/g)であり、カチオン変性ガラクトマンナン多糖(カチオン化グアーガム)1g当たりに含まれるカチオン基である第4級窒素含有基[2-ヒドロキシ-3-(トリメチルアンモニオ)プロピル基]の当量数と理解される。
それ故、引用発明1の「カチオン化度:1.2meq/g」は、カチオン化グアーガムにおけるカチオン[2-ヒドロキシ-3-(トリメチルアンモニオ)プロピル基]の置換度に関係するものといえる。
そうすると、本件発明1の「ii)0.20?0.30の、カチオン置換度(DS_(cat))_(extraction)」と、引用発明1の「カチオン化度:1.2meq/g」とは、2-ヒドロキシ-3-(トリメチルアンモニオ)プロピル基」とは、前記cで述べたことを踏まえると、特定のカチオン置換度の2-ヒドロキシ-3-トリメチルアミノ-プロピル基を含有するグアー誘導体である点で共通する。

したがって、本件発明1と引用発明1とは、
「i)特定の重量平均分子量(Mw)を有し;そして
ii)特定のカチオン置換度の、2-ヒドロキシ-3-トリメチルアミノ-プロピル基を含有する
グアー誘導体」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1:本件発明1は、0.20?0.30のカチオン置換度(DS_(cat))_(extraction)であるのに対し、引用発明1は、カチオン化度1.2meq/gである点

相違点2:本件発明1は、300,000g/モルから1,000,000g/モルよりも低い重量平均分子量(Mw)を有するものであるのに対し、引用発明1は、25万g/モルの重量平均分子量(Mw)を有するものである点

(イ)判断

a 相違点について

(a)相違点1について

本件発明1の「カチオン置換度(DS_(cat))_(extraction)」について、本件明細書には「【0043】・・表現「カチオン置換度」(DS_(cat))または(DS_(cat))_(extraction)は、酸性メタノール抽出後に測定されたカチオン置換度に関する。【0044】・・表現「カチオン置換度」(DS_(cat))または(DS_(cat))_(extraction)は、糖単位の1モル当たりのカチオン性基の平均モル数を意味する」と記載されている。
それ故、本件発明1の「カチオン置換度(DS_(cat))_(extraction)」は、酸性メタノール抽出後に測定されたカチオン置換度で、糖単位の1モル当たりのカチオン性基の平均モル数を意味するものといえる。
この酸性メタノール抽出後について、本件明細書には「【0040】・・酸性メタノール抽出は、残存カチオン化試薬または反応しなかったカチオン化剤の副生物である、反応の終わりに存在する他の第四級アンモニウム化合物の除去を可能にする、洗浄工程と考えられてもよい」と記載されていることから、酸性メタノール抽出後とは、反応生成物の洗浄工程後、すなわち、反応生成物から残存カチオン化試薬または反応しなかったカチオン化剤の副生物が除去された後、を意味するものと理解される。

引用発明1の「カチオン化度(:1.2meq/g)」について、酸性メタノール抽出後に測定されたカチオン置換度であるのかは明らかではない。
しかし、引用発明1の「カチオン化度:1.2meq/g」のカチオン化グアーガムは、大日本住友製薬(株)の商品名「ラボールガムCG-M」という市販されている商品であるから、カチオン化反応後、反応生成物の洗浄等をし、反応生成物から残存カチオン化試薬または反応しなかったカチオン化剤の副生物が除去されたものであると理解するのが自然である。
それ故、引用発明1の「カチオン化度(:1.2meq/g)」は、カチオン化反応後、反応生成物の洗浄等をし、反応生成物から残存カチオン化試薬または反応しなかったカチオン化剤の副生物が除去された後に測定されたカチオン化度を意味すると理解される。

この引用発明1の「カチオン化度(:1.2meq/g)」と、本件発明1の「カチオン置換度(DS_(cat))_(extraction)」との関係について検討すると、本件明細書には「【0051】グアーガムを3-クロロ-2-ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロリドまたは2、3-エポキシプロピルトリメチルアンモニウムクロリドと反応させることによって得られるカチオン性グアーについては、カチオン電荷密度は、次の方程式:
1グラム当たりのミリ当量単位でのカチオン電荷密度(meq/g)=DS_(cat)/(162+151×DS_(cat))×1000
を用いてカチオン置換度から計算されてもよい。」と記載されている。
ここで、グアーガムを3-クロロ-2-ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロリドまたは2、3-エポキシプロピルトリメチルアンモニウムクロリドとを反応させることによって得られるカチオン性グアーガムが、2-ヒドロキシ-3-(トリメチルアンモニオ)プロピル基(カチオン)を含有するグアーガム誘導体であることは、技術常識である。
そこで、前記(ア)cで述べたように、引用発明1は2-ヒドロキシ-3-(トリメチルアンモニオ)プロピル基(カチオン)を含有するグアーガム誘導体であることから、前記方程式より、引用発明1の「カチオン化度:1.2meq/g」をカチオン置換度(DS_(cat))_(extraction)に換算すると、
1.2meq/g=(DS_(cat))_(extraction)/[162+151×(DS_(cat))_(extraction)]×1000
(DS_(cat))_(extraction)=0.24

そうすると、引用発明1のカチオン化度1.2meq/gは、0.20?0.30のカチオン置換度(DS_(cat))_(extraction)の範囲内といえるから、相違点1は実質的な相違点とは認められない。

(b)相違点2について

i 分子量に関し、本件発明1は、300,000g/モルから1,000,000g/モルよりも低い重量平均分子量(Mw)を有するものであるのに対し、引用発明1は、25万g/モルの重量平均分子量(Mw)を有するもので、本件発明1の上記重量平均分子量(Mw)の範囲外であり、実質的な相違点となる。

ii 次に、相違点2について、当業者が容易に想到し得たか検討する。

刊行物1には、重量平均分子量について、「カチオン化グァーガムの分子量は、10万?300万の範囲が好ましく、20万?200万がより好ましい。10万未満だと泡をすすいだ時の指通りが悪くなる場合があり、かつ乾燥後の髪がパサついた感触になる場合がある。一方、300万を超えると洗浄剤組成物の保存安定性に劣ると共に、洗浄剤組成物中への溶解が困難になる場合がある。」(1d【0025】)との記載が認められ、これは、カチオン化グァーガムとは異なるカチオンセルロースに関する記載と同じ(必要なら、刊行物1の【0022】参照)であり、単に一般的な範囲を示す記載に過ぎず、カチオン化グァーガムとして具体的に洗浄剤組成物に用いられているものは、分子量25万の「ラボールガムCG-M」のみである。
また、刊行物2の記載も一般的な記載に過ぎず、刊行物3及び4には、具体的に重量平均分子量に関する記載もない。
そうすると、刊行物1には、カチオン化グァーガムとして分子量25万のものが記載されているにとどまり、刊行物2?4を参酌しても、カチオン化グァーガムの分子量を積極的に大きくしていくという記載もないことから、相違点2における分子量を「300,000」の範囲で下限を特定することは、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。

b そして、本件発明1は、上記相違点1及び2を有するカチオン化グァーガムを用いることにより、デオドラント効果が長時間持続し、フケ、かゆみ防止効果に優れ、かつすすぎ時のきしみがなく、使用感に優れた毛髪洗浄剤組成物を提供するという効果を奏するものと認められる(1c【0008】)。

c 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、平成31年4月26日付け意見書の「3意見の内容」の「(4)重量平均分子量の相違について」において、「重量平均分子量を本願訂正請求項1に記載の数値範囲に最適化することは、当業者が極めて当たり前になし得る程度のものに過ぎない」と主張している。
しかし、この点は上記a(b)iiで検討したとおりであり、特許異議申立人の主張は採用できない。

(ウ)小括
以上より、本件発明1は、刊行物1に記載された発明であるとはいえないし、また、刊行物1に記載された発明及び刊行物2?4に記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

イ 本件発明2及び3について
本件発明2及び3は、本件発明1を引用し、「前記重量平均分子量」を、それぞれ「300,000g/モル?800,000g/モルである」、「300,000g/モル?600,000g/モルである」と、さらに限定したものである。
そして、本件発明1が、刊行物1に記載された発明であるとはいえないし、また、刊行物1に記載された発明及び刊行物2?4に記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない以上、重量平均分子量がさらに限定された特定事項を含む本件発明2及び3も、同様に、刊行物1に記載された発明であるとはいえないし、また、刊行物1に記載された発明及び刊行物2?4に記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

ウ 本件発明4について
本件発明4は、本件発明1を引用し、「前記(DS_(cat))_(extraction)」を「0.20?0.25である」と、さらに限定したものである。
この点、前記ア(イ)a(a)で述べたように、引用発明1の「カチオン化度:1.2meq/g」をカチオン置換度(DS_(cat))_(extraction)に換算すると、(DS_(cat))_(extraction)=0.24 であるから、本件発明4の「前記(DS_(cat))_(extraction)が0.20?0.25である」に相当する。
しかしながら、前記ア(イ)a(b)で述べたように、本件発明1の相違点2が実質的な相違点といえるから、本件発明1は、刊行物1に記載された発明であるとはいえないし、また、刊行物1に記載された発明及び刊行物2?4に記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない以上、本件発明4も、同様に、刊行物1に記載された発明であるとはいえないし、また、刊行物1に記載された発明及び刊行物2?4に記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

エ 本件発明5について
本件発明5は、本件発明1を引用し、「前記(DS_(cat))_(extraction)」を「0.25?0.30である」と、さらに限定したものである。
前記ア(イ)a(a)で述べたように、引用発明1の「カチオン化度:1.2meq/g」をカチオン置換度(DS_(cat))_(extraction)に換算すると、(DS_(cat))_(extraction)=0.24 であるから、本件発明5の「前記(DS_(cat))_(extraction)が0.25?0.30である」の範囲外である。
さらに、前記ア(イ)a(b)で述べたように、本件発明1の相違点2が実質的な相違点といえ、本件発明1が刊行物1に記載された発明及び刊行物2?4に記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、本件発明5も、同様に、刊行物1に記載された発明及び刊行物2?4に記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

オ 本件発明6について

(ア)引用発明3との対比

a 本件発明6の「i)コンディショニング効果」について、本願明細書には「i)コンディショニング効果(たとえば改善されたデタングリングの容易さおよび/またはコーミングの容易さ・・)」(【0067】、【0111】)と記載されている。
他方、引用発明3の「すすぎ時のなめらかさ、すすぎ時のきしみのなさ」は、髪のなめらかさを示しており、改善されたデタングリングの容易さやコーミングの容易さ等を良くするものと理解される。
そうすると、引用発明3の「すすぎ時のなめらかさ、すすぎ時のきしみのなさ」「を良くするため」は、本件発明6の「i)コンディショニング効果を髪に提供する」「ため」に相当する。

b 本件発明6の「ii)ケア」について、本願明細書には「ii)ケア(改善されたふけ防止活性など)」(【0067】、【0111】)と記載されている。
そうすると、引用発明3の「デオドラント効果の持続性、フケ防止効果及びかゆみ防止効果を良くするため」は、本件発明6の「ii)ケアを髪およびまたは頭皮に提供する」「ため」に相当する。

c 引用発明3の「(D)カチオン化グアーガム(1)[カチオン化度:1.2meq/g、分子量:25万、大日本住友製薬(株)の商品名「ラボールガムCG-M」である、カチオン化グアーガム]0.2%」は、刊行物1の実施例8の毛髪洗浄剤組成物の(D)成分であり、引用発明1のことである。
そうすると、本件発明6の「請求項1?5のいずれか一項に記載のグアー誘導体」と、引用発明3の「(D)カチオン化グアーガム(1)[カチオン化度:1.2meq/g、分子量:25万、大日本住友製薬(株)の商品名「ラボールガムCG-M」である、カチオン化グアーガム]0.2%」とは、前記ア(ア)で述べたことを踏まえると、本件の請求項1に記載の
「i)特定の重量平均分子量(Mw)を有し;そして
ii)特定のカチオン置換度の、2-ヒドロキシ-3-トリメチルアミノ-プロピル基を含有する
グアー誘導体」である点で共通する。

d 引用発明3の「髪を、・・(D)カチオン化グアーガム(1)[カチオン化度:1.2meq/g、分子量:25万、大日本住友製薬(株)の商品名「ラボールガムCG-M」である、カチオン化グアーガム]0.2%、・・合計100.00%組成の毛髪洗浄剤組成物で処理する方法」について、引用発明3は、「すすぎ時のなめらかさ、すすぎ時のきしみのなさ、デオドラント効果の持続性、フケ防止効果及びかゆみ防止効果を良くするための方法で、髪を、」「処理する方法」であるから、「すすぎ時のなめらかさ、すすぎ時のきしみのなさ、デオドラント効果の持続性、フケ防止効果及びかゆみ防止効果」を必要としている髪を処理する方法といえる。
また、「・・(D)カチオン化グアーガム(1)[カチオン化度:1.2meq/g、分子量:25万、大日本住友製薬(株)の商品名「ラボールガムCG-M」である、カチオン化グアーガム]0.2%・・合計100.00%組成の毛髪洗浄剤組成物で処理する」ことは、当該(D)カチオン化グアーガム(1)で処理することを含むものといえる。
そうすると、引用発明3の「髪を、・・(D)カチオン化グアーガム(1)[カチオン化度:1.2meq/g、分子量:25万、大日本住友製薬(株)の商品名「ラボールガムCG-M」である、カチオン化グアーガム]0.2%、・・合計100.00%組成の毛髪洗浄剤組成物で処理する方法」は、本件発明6の「それを必要としている前記髪を請求項1?5のいずれか一項に記載のグアー誘導体で処理することを含む方法」に相当する。

したがって、両者は、
(a)本件発明6が、請求項1?4のいずれか一項に記載のグアー誘導体で処理している場合;
「 i)コンディショニング効果を髪に提供する;および/または
ii)ケアを髪および/または頭皮に提供する;および/または
iii)良好なドライヘア外観を提供する
ための方法であって、それを必要としている髪を
i)特定の重量平均分子量(Mw)を有し;そして
ii)特定のカチオン置換度の、2-ヒドロキシ-3-トリメチルアミノ-プロピル基を含有するグアー誘導で処理することを含む方法」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点3:本件発明6は、0.20?0.30(請求項1?3を引用する場合)又は0.20?0.25(請求項4を引用する場合)のカチオン置換度(DS_(cat))_(extraction)であるのに対し、引用発明3は、カチオン化度1.2meq/gである点

相違点4:本件発明6は、300,000g/モルから1,000,000g/モルよりも低い重量平均分子量(Mw)を有するものであるのに対し、引用発明3は、25万g/モルの重量平均分子量(Mw)を有するものである点

(b)本件発明6が、請求項5に記載のグアー誘導体で処理している場合;
「 i)コンディショニング効果を髪に提供する;および/または
ii)ケアを髪および/または頭皮に提供する;および/または
iii)良好なドライヘア外観を提供する
ための方法であって、それを必要としている髪を
i)特定の重量平均分子量(Mw)を有し;そして
ii)特定のカチオン置換度の、2-ヒドロキシ-3-トリメチルアミノ-プロピル基を含有するグアー誘導体で処理することを含む方法」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点5:本件発明6は、0.25?0.30のカチオン置換度(DS_(cat))_(extraction)であるのに対し、引用発明3は、カチオン化度1.2meq/gである点

相違点6:本件発明6は、300,000g/モルから1,000,000g/モルよりも低い重量平均分子量(Mw)を有するものであるのに対し、引用発明3は、25万g/モルの重量平均分子量(Mw)を有するものである点

(イ)判断

a 本件発明6が請求項1?4のいずれか一項に記載のグアー誘導体で処理している場合;
相違点3は相違点1と同様であり、相違点4は相違点2と同じであるから、前記ア(イ)、イ及びウで述べたとおりである。
したがって、本件発明6が請求項1?4のいずれか一項に記載のグアー誘導体で処理している場合、本件発明1?4と同様に、刊行物1に記載された発明であるとはいえないし、また、刊行物1に記載された発明及び刊行物2?4に記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

b 本件発明6が請求項5に記載のグアー誘導体で処理している場合;
相違点5については、前記エで述べたとおりであり、相違点6については、相違点2と同じであるから、前記エで述べたとおりである。
したがって、本件発明6が請求項5に記載のグアー誘導体で処理している場合、本件発明5と同様に、刊行物1に記載された発明及び刊行物2?4に記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

c 以上より、本件発明6は、刊行物1に記載された発明であるとはいえないし、また、刊行物1に記載された発明及び刊行物2?4に記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

カ 本件発明7について
本件発明7は、本件発明6を引用し、請求項6に記載の「それを必要としている前記髪」を、「傷んだ髪である」とさらに限定したものである。
そして、前記オで述べたように、本件発明6は、刊行物1に記載された発明であるとはいえないし、また、刊行物1に記載された発明及び刊行物2?4に記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない以上、本件発明7も、同様に、刊行物1に記載された発明及び刊行物2?4に記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

キ 本件発明8について

(ア)引用発明2との対比

a 引用発明2の「毛髪洗浄剤組成物」は、本件発明8の「シャンプー組成物」に相当する。

b 引用発明2の「(D)カチオン化グアーガム(1)[カチオン化度:1.2meq/g、分子量:25万、大日本住友製薬(株)の商品名「ラボールガムCG-M」である、カチオン化グアーガム]0.2%」は、刊行物1の実施例8の毛髪洗浄剤組成物の(D)成分であり、引用発明1のことである。
そうすると、本件発明8の「請求項1?5のいずれか一項に記載の少なくとも1つのグアー誘導体」と、引用発明2の「(D)カチオン化グアーガム(1)[カチオン化度:1.2meq/g、分子量:25万、大日本住友製薬(株)の商品名「ラボールガムCG-M」である、カチオン化グアーガム]0.2%」とは、本件の請求項1に記載の
「i)特定の重量平均分子量(Mw)を有し;そして
ii)特定のカチオン置換度の、2-ヒドロキシ-3-トリメチルアミノ-プロピル基を含有する
グアー誘導体」である点で共通する。

c 本件発明8の「グアー誘導体を含むシャンプー組成物」と、引用発明2の「・・(D)カチオン化グアーガム(1)[・・カチオン化グアーガム]・・合計100.00%組成の毛髪洗浄剤組成物」とは、「グアー誘導体を含むシャンプー組成物」である点で共通する。

そうすると、両者は、
(a)本件発明8が、請求項1?4のいずれか一項に記載の少なくとも1つのグアー誘導体を含む場合;
「 i)特定の重量平均分子量(Mw)を有し;そして
ii)特定のカチオン置換度の、2-ヒドロキシ-3-トリメチルアミノ-プロピル基を含有するグアー誘導体を含むシャンプー組成物」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点7:本件発明8は、0.20?0.30(請求項1?3を引用する場合)又は0.20?0.25(請求項4を引用する場合)のカチオン置換度(DS_(cat))_(extraction)であるのに対し、引用発明2は、カチオン化度1.2meq/gである点

相違点8:本件発明8は、300,000g/モルから1,000,000g/モルよりも低い重量平均分子量(Mw)を有するものであるのに対し、引用発明2は、25万g/モルの重量平均分子量(Mw)を有するものである点

(b)本件発明8が、請求項5に記載のグアー誘導体を含む場合;
「 i)特定の重量平均分子量(Mw)を有し;そして
ii)特定のカチオン置換度の、2-ヒドロキシ-3-トリメチルアミノ-プロピル基を含有するグアー誘導体を含むシャンプー組成物」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点9:本件発明8は、0.25?0.30のカチオン置換度(DS_(cat))_(extraction)であるのに対し、引用発明2は、カチオン化度1.2meq/gである点

相違点10:本件発明8は、300,000g/モルから1,000,000g/モルよりも低い重量平均分子量(Mw)を有するものであるのに対し、引用発明2は、25万g/モルの重量平均分子量(Mw)を有するものである点

(イ)判断

a 本件発明8が請求項1?4のいずれか一項に記載の少なくとも1つのグアー誘導体で処理している場合;
相違点9は相違点1と同じであり、相違点10は相違点2と同じであるから、前記ア(イ)、イ及びウで述べたとおりである。
したがって、本件発明8は、刊行物1に記載された発明であるとはいえないし、また、刊行物1に記載された発明及び刊行物2?4に記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

b 本件発明8が請求項5に記載のグアー誘導体で処理している場合;
相違点9については、前記エで述べたとおりであり、相違点10については、相違点2と同じであるから、前記エで述べたとおりである。
したがって、本件発明8が請求項5に記載のグアー誘導体で処理している場合、本件発明5と同様に、刊行物1に記載された発明及び刊行物2?4に記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

c 以上より、本件発明8は、刊行物1に記載された発明であるとはいえないし、また、刊行物1に記載された発明及び刊行物2?4に記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

ク 本件発明9及び10について
本件発明9及び10は、本件発明8を引用し、それぞれ「シリコーンを含む」、「ふけ防止剤を含む」と、さらに限定したものである。
そして、前記キで述べたように、本件発明8が、刊行物1に記載された発明であるとはいえないし、また、刊行物1に記載された発明及び刊行物2?4に記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない以上、さらに限定された特定事項を含む本件発明9及び10も、同様に、刊行物1に記載された発明であるとはいえないし、また、刊行物1に記載された発明及び刊行物2?4に記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(4)まとめ
上記のとおり、本件発明1?4、6?10は、本件優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物1(甲1)記載された発明であるとはいえないから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることはできない、ということはできない。
また、本件発明1?10は、本件優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物1(甲1)に記載された発明及び刊行物2?4(甲2?4)に記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることはできない、ということはできない。

よって、本件発明1?10に係る特許は、特許法第29条の規定に違反してなされたものではなく、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものではない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、本件発明1?10に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立ての理由並びに証拠によっては、取り消すことはできない。
また、他に本件発明1?10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
i)300,000g/モルから1,000,000g/モルよりも低い重量平均分子量(Mw)を有し;そして
ii)0.20?0.30の、カチオン置換度(DS_(cat))_(extraction)の、2-ヒドロキシ-3-トリメチルアミノ-プロピル基を含有する
グアー誘導体。
【請求項2】
前記重量平均分子量が300,000g/モル?800,000g/モルである、請求項1に記載のグアー誘導体。
【請求項3】
前記重量平均分子量が300,000g/モル?600,000g/モルである、請求項1または2に記載のグアー誘導体。
【請求項4】
前記(DS_(cat))_(extraction)が0.20?0.25である、請求項1?3のいずれか一項に記載のグアー誘導体。
【請求項5】
前記(DS_(cat))_(extraction)が0.25?0.30である、請求項1?3のいずれか一項に記載のグアー誘導体。
【請求項6】
i)コンディショニング効果を髪に提供する;および/または
ii)ケアを髪および/または頭皮に提供する;および/または
iii)良好なドライヘア外観を提供する
ための方法であって、それを必要としている前記髪を請求項1?5のいずれか一項に記載のグアー誘導体で処理することを含む方法。
【請求項7】
それを必要としている前記髪が傷んだ髪である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
請求項1?5のいずれか一項に記載の少なくとも1つのグアー誘導体を含むシャンプー組成物。
【請求項9】
シリコーンを含む、請求項8に記載のシャンプー組成物。
【請求項10】
ふけ防止剤を含む、請求項9に記載のシャンプー組成物。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-05-29 
出願番号 特願2014-520675(P2014-520675)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (C08B)
P 1 651・ 851- YAA (C08B)
P 1 651・ 537- YAA (C08B)
P 1 651・ 113- YAA (C08B)
P 1 651・ 852- YAA (C08B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 三木 寛  
特許庁審判長 佐々木 秀次
特許庁審判官 瀬下 浩一
齊藤 真由美
登録日 2017-12-22 
登録番号 特許第6262131号(P6262131)
権利者 ローディア オペレーションズ
発明の名称 グアーヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロリドおよびヘアトリートメント組成物でのその使用  
代理人 園田・小林特許業務法人  
代理人 園田・小林特許業務法人  

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