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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 B29B 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 B29B 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 B29B |
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管理番号 | 1353168 |
異議申立番号 | 異議2018-700770 |
総通号数 | 236 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2019-08-30 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2018-09-25 |
確定日 | 2019-05-31 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6317223号発明「樹脂ペレット製造方法及び樹脂ペレット製造装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 1 特許第6317223号の特許請求の範囲を,訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項[1?6],[7,8]について,訂正することを認める。 2 特許第6317223号の請求項1?8に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 主な手続の経緯等 特許第6317223号(請求項の数は8。以下「本件特許」という。)は,平成26年9月22日にされた特許出願に係るものであって,平成30年4月6日にその特許権の設定登録がされた(特許公報発行日 同年同月25日)。 その後,平成30年9月25日に特許異議申立人松川哲広(以下,単に「異議申立人」という。)より本件特許の請求項1?8に係る発明についての特許に対して特許異議の申立てがされ,平成30年12月28日付けで取消理由(以下「当審取消理由」という。)が通知され,平成31年3月4日に特許権者より意見書が提出されるとともに訂正請求書が提出されることで特許請求の範囲の訂正(以下「本件訂正」という。)が請求がされ,同年4月9日に異議申立人より意見書が提出された。 第2 本件訂正の可否 1 特許権者の請求の趣旨 結論第1項に同旨。 2 訂正の内容 訂正請求書及びそれに添付された訂正特許請求の範囲によれば,特許権者の求める訂正は,実質的に,以下のとおりである。なお,当審において,訂正箇所に下線を付与した。 【訂正事項1】 特許請求の範囲の請求項1を以下のとおり訂正する。請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2ないし6についても同様に訂正する。 ・ 本件訂正前 「【請求項1】 押出成形用ダイから樹脂を押し出す樹脂ペレット製造方法であって, 前記押出成形用ダイは,溶融した樹脂が流入する流入口と,前記樹脂が吐出し所定の間隔で配置される20個以上60個以下のダイノズルと,前記流入口と前記ダイノズルとの間における前記ダイノズルと隣接する位置に形成され前記樹脂が流れる方向に向かって進むにつれ前記ダイノズルが配列される方向に樹脂流路が広がり前記ダイノズルの手前では前記樹脂流路の広がりが抑えられる拡幅部と有し, 前記拡幅部の入り口から前記ダイノズルの入り口までの体積をVcm^(3)とし,前記樹脂が前記ダイノズルから吐出する単位時間当たりの量をQcm^(3)/秒とする場合に, 1.0Q≦V≦3.0Q を満たす ことを特徴とする樹脂ペレット製造方法。」 ・ 本件訂正後 「【請求項1】 押出成形用ダイから樹脂を押し出す樹脂ペレット製造方法であって, 前記押出成形用ダイは,溶融した樹脂が流入する流入口と,前記樹脂が吐出し所定の間隔で配置される20個以上60個以下のダイノズルと,前記流入口と前記ダイノズルとの間における前記ダイノズルと隣接する位置に形成され前記樹脂が流れる方向に向かって進むにつれ前記ダイノズルが配列される方向に樹脂流路が広がり前記ダイノズルの手前では前記樹脂流路の広がりが抑えられる拡幅部と有し, 前記拡幅部における前記樹脂の流れる方向及び前記ダイノズルの吐出口の配列方向に垂直な方向の流路高は概ね一定であり, 前記拡幅部の入り口から前記ダイノズルの入り口までの体積をVcm^(3)とし,前記樹脂が前記ダイノズルから吐出する単位時間当たりの量をQcm^(3)/秒とする場合に, 1.0Q≦V≦3.0Q を満たす ことを特徴とする樹脂ペレット製造方法。」 【訂正事項2】 特許請求の範囲の請求項7を以下のとおり訂正する。請求項7を直接に引用する請求項8についても同様に訂正する。 ・ 本件訂正前 「【請求項7】 押出成形用ダイから樹脂を押し出す樹脂ペレット製造装置であって, 前記押出成形用ダイは,溶融した樹脂が流入する流入口と,前記樹脂が吐出し所定の間隔で配置される20個以上60個以下のダイノズルと,前記流入口と前記ダイノズルとの間における前記ダイノズルと隣接する位置に形成され前記樹脂が流れる方向に向かって進むにつれ前記ダイノズルが配列される方向に樹脂流路が広がる拡幅部と有し, 前記拡幅部の入り口から前記ダイノズルの入り口までの体積をVcm^(3)とし,前記樹脂が前記ダイノズルから吐出する単位時間当たりの量をQcm^(3)/秒とする場合に, 1.0Q≦V≦3.0Q を満たす ことを特徴とする樹脂ペレット製造装置。」 ・ 本件訂正後 「【請求項7】 押出成形用ダイと押出機とを備え前記押出成形用ダイから樹脂を押し出す樹脂ペレット製造装置であって, 前記押出成形用ダイは,溶融した樹脂が流入する流入口と,前記樹脂が吐出し所定の間隔で配置される20個以上60個以下のダイノズルと,前記流入口と前記ダイノズルとの間における前記ダイノズルと隣接する位置に形成され前記樹脂が流れる方向に向かって進むにつれ前記ダイノズルが配列される方向に樹脂流路が広がる拡幅部と有し, 前記拡幅部における前記樹脂の流れる方向及び前記ダイノズルの吐出口の配列方向に垂直な方法の流路高は概ね一定であり, 前記拡幅部の入り口から前記ダイノズルの入り口までの体積をVcm^(3)とし,前記樹脂が前記ダイノズルから吐出する単位時間当たりの量をQcm^(3)/秒とする場合に,前記押出機は前記流入口に前記樹脂を推し進めて, 1.0Q≦V≦3.0Q とする ことを特徴とする樹脂ペレット製造装置。」 3 本件訂正の可否についての判断 (1) 訂正事項1について 訂正事項1は,請求項1に係る発明である「樹脂ペレット製造方法」を構成する「押出ダイ」の「拡幅部」について,「前記拡幅部における前記樹脂の流れる方向及び前記ダイノズルの吐出口の配列方向に垂直な方法の流路高は概ね一定であり」とすることで,訂正前において「押出ダイ」の「拡幅部」における流路高が特定されていなかったものを限定するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえる。よって,訂正事項1は,特許法(以下,単に「法」という場合がある。)120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項を目的とするものであるといえる。また,願書に添付した明細書の段落【0012】,【0023】,【0025】,【0039】及び【0042】の記載からみて,願書に添付した明細書又は特許請求の範囲等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものではないと判断されるから,明細書及び特許請求の範囲等に記載した事項の範囲内においてするものであって,同条9項で準用する法126条5項で規定する要件を満たす。さらに,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでもないから,同126条6項で規定する要件を満たすと判断される。 異議申立人は,平成31年4月9日付け意見書において,訂正後の特許請求の範囲の請求項1に新たに特定された「前記拡幅部における前記樹脂の流れる方向及び前記ダイノズルの吐出口の配列方向に垂直な方法の流路高は概ね一定であり,」における「概ね一定」について,「概ね」の意味するところの範囲が明細書に記載されていないから,明確でない旨主張する。 しかし,上記「概ね一定」とは,本件特許明細書の「一般的な押出成形用ダイの拡幅部では,樹脂の流れる方向及び吐出口の配列方向に垂直な方向の流路高の変動が抑えられている。従って,V/Lは,概ね,拡幅部における流路高と,拡幅部における樹脂が流れる長さである流路長との積を表す。上記のようにダイノズルの数が20個?60個である規模の押出成形用ダイでは,流路長が相応に長い。従って,V/Lが上記式を満たすことで,拡幅部における樹脂の流速をより適切な範囲とすることができ,拡幅部における焼けをより抑制することができる。」(段落【0012】)の記載からみて,一般的な押出成形用ダイの拡幅部における流路高と同様な範囲での「概ね一定」と理解できるから,第三者に不測の不利益を与えるほどに不明確であるとはいえない。 よって,異議申立人の上記主張は採用できない。 (2) 訂正事項2について 訂正事項2は,訂正前の請求項7の「前記拡幅部の入り口から前記ダイノズルの入り口までの体積をVcm^(3)とし,前記樹脂が前記ダイノズルから吐出する単位時間当たりの量をQcm^(3)/秒とする場合に,1.0Q≦V≦3.0Qを満たす」との記載が,「物」である「樹脂ペレット装置」において,如何なることを特定しているのかわからず不明確であったものを,訂正前の「押出成形用ダイから樹脂を押し出す樹脂ペレット製造装置であって」を「押出成形用ダイと押出機とを備え前記押出成形用ダイから樹脂を押し出す樹脂ペレット製造装置であって」と訂正するとともに,訂正前の「1.0Q≦V≦3.0Q を満たす」を「前記押出機は前記流入口に前記樹脂を推し進めて,1.0Q≦V≦3.0Q とする」と訂正することで,樹脂ペレット製造装置が1.0Q≦V≦3.0Qとする押出機を備えることを明らかにするものといえるから,当該訂正事項は,明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるといえる。 そして,当該訂正事項に関しては,願書に添付した明細書の段落【0018】,【0019】,【0020】,【0033】,【0035】及び【0072】に記載からみて,願書に添付した明細書又は特許請求の範囲等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものではないと判断されるから,明細書及び特許請求の範囲等に記載した事項の範囲内においてするものであって,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでもない。 また,訂正事項2における樹脂ペレット製造装置に関する押出成形用ダイの「拡幅部」に関しての上記訂正事項1と同様の訂正については,訂正事項1と同様に,特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって,明細書及び特許請求の範囲等に記載した事項の範囲内においてするものであり,さらに,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでもない。 よって,訂正事項2は,法120条の5第2項ただし書1号及び3号に掲げる事項を目的とするものであり,また,同条9項で準用する法126条5項及び6項で規定する要件を満たすと判断される。 4 小括 以上のとおりであるから,本件訂正は,法120条の5第2項ただし書1号及び3号に掲げる事項を目的とするものであり,同条9項で準用する法126条5及び6項で規定する要件を満たす。 よって,結論の第1項のとおり,本件訂正を認める。 第3 本件発明 上記第2で検討のとおり本件訂正は認められるので,本件特許の請求項1?8に係る発明は,訂正特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下,請求項の番号に応じて各発明を「本件発明1」などといい,これらを併せて「本件発明」という場合がある。)。 「【請求項1】 押出成形用ダイから樹脂を押し出す樹脂ペレット製造方法であって, 前記押出成形用ダイは,溶融した樹脂が流入する流入口と,前記樹脂が吐出し所定の間隔で配置される20個以上60個以下のダイノズルと,前記流入口と前記ダイノズルとの間における前記ダイノズルと隣接する位置に形成され前記樹脂が流れる方向に向かって進むにつれ前記ダイノズルが配列される方向に樹脂流路が広がり前記ダイノズルの手前では前記樹脂流路の広がりが抑えられる拡幅部と有し, 前記拡幅部における前記樹脂の流れる方向及び前記ダイノズルの吐出口の配列方向に垂直な方向の流路高は概ね一定であり, 前記拡幅部の入り口から前記ダイノズルの入り口までの体積をVcm^(3)とし,前記樹脂が前記ダイノズルから吐出する単位時間当たりの量をQcm^(3)/秒とする場合に, 1.0Q≦V≦3.0Q を満たす ことを特徴とする樹脂ペレット製造方法。 【請求項2】 互いに隣り合う前記ダイノズルの吐出口の中心間距離の総和をLcmとする場合, 2cm^(2)≦V/L≦6cm^(2) を満たす ことを特徴とする請求項1に記載の樹脂ペレット製造方法。 【請求項3】 前記樹脂がエンジニアリングプラスチックスである ことを特徴とする請求項1または2に記載の樹脂ペレット製造方法。 【請求項4】 前記エンジニアリングプラスチックスがポリブチレンテレフタレート樹脂である ことを特徴とする請求項3に記載の樹脂ペレット製造方法。 【請求項5】 前記樹脂は,0.1mol/kg以下のエポキシ基を含有する ことを特徴とする請求項3または4に記載の樹脂ペレット製造方法。 【請求項6】 前記樹脂は,0.1mol/kg以下のカルボン酸無水物を含有する ことを特徴とする請求項3から5のいずれか1項に記載の樹脂ペレット製造方法。 【請求項7】 押出成形用ダイと押出機とを備え前記押出成形用ダイから樹脂を押し出す樹脂ペレット製造装置であって, 前記押出成形用ダイは,溶融した樹脂が流入する流入口と,前記樹脂が吐出し所定の間隔で配置される20個以上60個以下のダイノズルと,前記流入口と前記ダイノズルとの間における前記ダイノズルと隣接する位置に形成され前記樹脂が流れる方向に向かって進むにつれ前記ダイノズルが配列される方向に樹脂流路が広がる拡幅部と有し, 前記拡幅部における前記樹脂の流れる方向及び前記ダイノズルの吐出口の配列方向に垂直な方法の流路高は概ね一定であり, 前記拡幅部の入り口から前記ダイノズルの入り口までの体積をVcm^(3)とし,前記樹脂が前記ダイノズルから吐出する単位時間当たりの量をQcm^(3)/秒とする場合に,前記押出機は前記流入口に前記樹脂を推し進めて, 1.0Q≦V≦3.0Q とする ことを特徴とする樹脂ペレット製造装置。 【請求項8】 互いに隣り合う前記ダイノズルの吐出口の中心間距離の総和をLcmとする場合, 2cm^(2)≦V/L≦6cm^(2) を満たす ことを特徴とする請求項7に記載の樹脂ペレット製造装置。」 第4 異議申立人の主張に係る申立理由の概要 異議申立人の主張は,概略,次のとおりである。 1 本件発明1及び7は,法29条1項3号に該当し特許を受けることができない発明である。すなわち,これら発明は,甲1に記載された発明である(以下「申立理由1」という。)。 2 本件発明1?4,7,8は,法29条2項の規定により特許を受けることができない発明である。すなわち,本件発明1?4,7,8は,甲1に記載された発明を主たる引用発明とし,引用発明及び甲2に記載の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである(以下「申立理由2」という。)。 3 本件特許に係る特許請求の範囲の請求項1及び7の記載は,法36条6項1号に規定する要件に適合しない(以下「申立理由3」という。)。 4 本件特許に係る特許請求の範囲の請求項5及び6の記載は,法36条6項1号に規定する要件に適合しない(以下「申立理由4」という。)。 5 そして,上記申立理由1?4にはいずれも理由があるから,本件の請求項1?8に係る発明についての特許は,法113条2号及び4号に該当し,取り消されるべきものである。 6 また,証拠方法として書証を申出,以下の文書(甲1及び2)を提出する。 ・甲1: 特開2006-1015号公報 ・甲2: 特開2007-320056号公報 第5 当合議体の判断 当合議体は,以下述べるように,申立理由1?4にはいずれも理由はないと判断する。 1 申立理由1について 異議申立人は,概略,甲1の比較例1の押出ダイを利用した樹脂ペレット製造方法及び装置が本件発明1及び7と同一であるから,本件発明1及び7は甲1に記載された発明である旨主張するので,当該主張の当否について検討する。 (1) 甲1に記載された発明 甲1の【0018】?【0025】,【0061】?【0066】,【0076】?【0079】及び図1ないし5の記載から,比較例1のダイノズルを利用した樹脂ペレットの製造方法として,以下の発明(以下,「甲1発明A」という。)が記載されていると認める。 「以下の押出ダイを脱揮押出機の先端に取り付け,アニオン重合法で得たスチレン-ブタジエンブロック共重合体を,250℃の樹脂温度で,2.7トン/時間で押し出してカッティングした,ペレット製造方法。 押出ダイが,1/2だけピッチをずらせた上下2列で,1列の数は90孔であるダイノズル3を有し,円筒形のダイ入口部1からダイノズル3に至る溶融樹脂流路が,ダイ入口部1に連なり,ダイ入口部1から溶融樹脂の流れ方向に沿って上下対称に高さが徐々に縮小しかつ左右対称に幅が徐々に拡大する縮高拡幅部4と,この縮高拡幅部4に連なり,高さが一定でかつ縮高拡幅部4と同じ比率で左右対称に幅が徐々に拡大する定高拡幅部5及び定高拡幅部5の先端に連なる定高定幅部6とを有するものであって,下記のディメンジョンであるもの。 ダイ入口部1の直径D_(in):245mm 定高拡幅部5の先端幅D_(out):920mm (D_(out)-D_(in))/2=Δd:337.5mm 縮高拡幅部4の長さL_(1):105mm 定高拡幅部5の長さL_(2):59.6mm L_(1)とL_(2)を合わせた拡幅部長さL_(0):164.6mm ダイ入口部1の長さL_(3)=10mm 定高定幅部6の長さL_(4)=60mm 縮高傾斜角α°:90° 拡幅傾斜角β°:26° L_(0)/Δd=tanβ:0.49 中央部のダイノズル3のランド長w:10mm 削り代t:2.5mm t/w=0.25 ダイノズル3の直径d:4mm ダイノズル3のピッチp:10mm」 また,以下の樹脂ペレットの製造装置も記載されていると認める。 「甲1発明Aのペレット製造用押出ダイを有する樹脂ペレット製造装置。」(以下,「甲1発明B」という。) なお,異議申立人は,特許異議申立書において,甲1に記載された発明として下記「甲1A発明」及び「甲1B発明」を認定しているが,このような認定には根拠がない。すなわち,甲1の比較例1に係る記載から離れて甲1に記載された発明を認定するものであって採用できない。 <甲1A発明> 「a 押出ダイを用いたペレットの製造方法であって, b 前記押出ダイは,溶融した樹脂が流入するダイ入口部1と, c 樹脂が吐出し所定の間隔で配置される30個以上のダイノズル3と, d ダイ入口部1とダイノズル3との間におけるダイノズル3と隣接する位置に形成され樹脂が流れる方向に向かって進むにつれダイノズル3が配列される方向に樹脂流路が広がりダイノズル3の手前では前記樹脂流路の広がりが抑えられる定高拡幅部5および定高定幅部6とを有し, e 定高拡幅部5の入り口からダイノズル3の入り口までの体積をVcm^(3)とし,前記樹脂がダイノズルから吐出する単位時間当たりの量をQcm^(3)/秒とする場合に,V=2.2Qを満たすペレットの製造方法。」 <甲1B発明> 「a 押出ダイを用いたペレットの製造装置であって, b 前記押出ダイは,溶融した樹脂が流入するダイ入口部1と, c 樹脂が吐出し所定の間隔で配置される30個以上のダイノズル3と, d ダイ入口部1とダイノズル3との間におけるダイノズル3と隣接する位置に形成され樹脂が流れる方向に向かって進むにつれダイノズル3が配列される方向に樹脂流路が広がりダイノズル3の手前では前記樹脂流路の広がりが抑えられる定高拡幅部5と有し, e 定高拡幅部5の入り口からダイノズル3の入り口までの体積をVcm^(3)とし,前記樹脂がダイノズルから吐出する単位時間当たりの量をQcm^(3)/秒とする場合に,V=2.2Qを満たすペレットの製造装置。」 (2) 本件発明1と甲1発明Aとの対比,判断 本件発明1と甲1発明Aを対比すると,甲1発明Aの「押出ダイを脱揮押出機の先端に取り付け」「スチレン-ブタジエンブロック共重合体を」「押し出してカッティングした,ペレット製造方法」は,本件発明1の「押出成形用ダイから樹脂を押し出す樹脂ペレット製造方法」に相当する。 甲1発明Aの「円筒形のダイ入口部1」は,本件発明1の「流入口」に相当する。 甲1発明Aの「1/2だけピッチをずらせた上下2列で」ある「ダイノズル3」は,本件発明1の「樹脂が吐出し所定の間隔で配置されるダイノズル」に相当する。 甲1発明Aの「ダイ入口部1に連なり,ダイ入口部1から溶融樹脂の流れ方向に沿って上下対称に高さが徐々に縮小しかつ左右対称に幅が徐々に拡大する縮高拡幅部4と,この縮高拡幅部4に連なり,高さが一定でかつ縮高拡幅部4と同じ比率で左右対称に幅が徐々に拡大する定高拡幅部5及び定高拡幅部5の先端に連なる定高定幅部6とを有するものであ」る「溶融樹脂流路」における,縮高拡幅部4と定高拡幅部5とを合わせた部分が,本件発明1の「拡幅部」における「樹脂が流れる方向に向かって進むにつれ前記ダイノズルが配列される方向に樹脂流路が広が」る部分に相当し,定高定幅部6の部分が,本件発明1の「拡幅部」における「ダイノズルの手前では前記樹脂流路の広がりが抑えられる」部分に相当するから,結局,甲1発明Aは,本件発明1の「拡幅部」を有しているといえる。 そうすると,本件発明1と甲1発明Aとの一致点及び相違点は,それぞれ次のとおりであると認める。 ・ 一致点 押出成形用ダイから樹脂を押し出す樹脂ペレット製造方法であって, 前記押出成形用ダイは,溶融した樹脂が流入する流入口と,前記樹脂が吐出し所定の間隔で配置されるダイノズルと,ダイノズルと隣接する位置に形成され前記樹脂が流れる方向に向かって進むにつれ前記ダイノズルが配列される方向に樹脂流路が広がり前記ダイノズルの手前では前記樹脂流路の広がりが抑えられる拡幅部と有する, 樹脂ペレット製造方法。 ・ 相違点1 本件発明1は,ダイノズルの数に関し「20個以上60個以下」と特定されており,さらに「前記拡幅部の入り口から前記ダイノズルの入り口までの体積をVcm^(3)とし,前記樹脂が前記ダイノズルから吐出する単位時間当たりの量をQcm^(3)/秒とする場合に,1.0Q≦V≦3.0Qを満たす」と特定するのに対し,甲1発明Aは,ダイノズルの数は「1/2だけピッチをずらせた上下2列で,1列の数は90孔」であって,拡幅部の入り口から前記ダイノズルの入り口までの体積V(cm^(3))と樹脂が前記ダイノズルから吐出する単位時間当たりの量Q(cm^(3)/秒)との関係は特定しない点。 ・ 相違点2 「拡幅部」における「樹脂が流れる方向に向かって進むにつれ前記ダイノズルが配列される方向に樹脂流路が広が」る部分に関し,本件発明1は,「拡幅部における前記樹脂の流れる方向及び前記ダイノズルの吐出口の配列方向に垂直な方向の流路高は概ね一定である」と特定するのに対し,甲1発明Aの拡幅部における該当部分は,縮高拡幅部4及び定高拡幅部5からなるものである点。 以下,相違点について検討する。 相違点1について 甲1発明Aのダイノズルの数は,2(列)×90(孔/列)=180であるから,少なくとも,本件発明1の20個以上60個以下とは相違する。 また,甲1発明Aの縮高拡幅部4,定高拡幅部5及び定高定幅部6を合わせた体積は不明であって,異議申立人が異議申立書おいて主張する計算式が正しいとしても,甲1発明Aの定高拡幅部5のみで体積は1664cm^(3)であって,定高定幅部6の体積は1932cm^(3)(920mm×35mm×60mm)であり,さらに縮高拡幅部4の体積も足されることからすると,甲1発明Aの押出ダイの拡幅部の体積V(縮高拡幅部4+定高拡幅部5+定高定幅部6)は,本件発明1の「1.0Q≦V≦3.0Q」を満たさない。(なお,Qは,樹脂がダイノズルから吐出する単位時間当たりの量であって,甲1発明Aは,2.7トン/時間であるから,スチレン-ブタジエン共重合体の密度を1.0g/mlとして,750cm^(3)/秒とした。) よって,相違点1は,実質上の相違点である。 相違点2について 「拡幅部」における「樹脂が流れる方向に向かって進むにつれ前記ダイノズルが配列される方向に樹脂流路が広が」る部分の形状は,本件発明1と甲1発明Aとで全く異なるから,相違点2は,実質上の相違点である。 以上のことから,本件発明1と甲1発明Aとは,相違点1及び2で実質上相違するから,同一ではなく,甲1に記載された発明であるとはいえない。 (3) 本件発明7と甲1発明Bとの対比,判断 本件発明7と甲1発明Bとを対比すると,上記(2)の対比・判断のとおりであって,本件発明7と甲1発明Bとは,相違点1及び2で実質上相違するから,同一ではなく,甲1に記載された発明であるとはいえない。 (4) まとめ よって,申立理由1は,理由がない。 2 申立理由2について (1) 本件発明1と甲1発明Aとの対比,判断 甲1発明A(甲1に記載された発明),本件発明1との一致点及び相違点は,上記1(2)で認定のとおりである。 そこで,当該相違点について,当業者に想到容易であるかについて,以下検討する。 ア 相違点1についての検討 押出ダイの形状について,甲1には,「1列あたりのダイノズル孔の数が30以上である」(特許請求の範囲の請求項4)との記載があるが,押出ダイに設けられる樹脂流路における「拡幅部」の体積と樹脂の押出量との関係に言及する記載は一切無い。 一方,本件特許明細書には,相違点1に係る構成を備えることで,樹脂(ペレット)の焼けを抑制できるという効果が記載されており(段落【0036】),具体的な実施例及び比較例においてその数値範囲の臨界的な意義も確認されているから,当該効果は格別なものといえる。 そして,異議申立人が提示するいずれの証拠にも,押出ダイのダイノズルの数を所定の数とするとともに,押出ダイに設けられる溶融樹脂流路における「拡幅部」の体積と樹脂の押出量とを所定の関係とすることについての記載はない。 してみれば,甲1発明Aにおいて,ダイノズルの数を180から「20個以上60個以下」とするとともに,樹脂の押出量(Q)を調整することで「1.0Q≦V≦3.0Q」を満たさすようにすること,すなわち,上記相違点1は当業者においても想到容易であるとはいえない。 イ 相違点2についての検討 甲1発明Aは,縮高拡幅部と,この縮高拡幅部に連なる定高拡幅部とを含む押出ダイの樹脂の流路形状でなければならないから,甲1発明Aの「縮高拡幅部4」と,この縮高拡幅部4に連なる「定高拡幅部5」を,樹脂の流れる方向及び前記ダイノズルの吐出口の配列方向に垂直な方向の流路高は概ね一定とすることには阻害要因がある。 よって,相違点2は,想到容易でない。 ウ 本件発明1についてのまとめ 以上のとおりであるから,本件発明1は,甲1に記載された発明を主たる引用発明としたとき,この主たる引用発明から想到容易であるということはできない。 (2) 本件発明2?4について 請求項2?4の記載は請求項1を直接又は間接的に引用するものであるから,請求項2?4に係る本件発明2?4についても本件発明1で検討したことと同様に,甲1に記載された発明から想到容易であるとはいえない。 (3) 本件発明7と甲1発明Bとの対比,判断 本件発明7と甲1発明B(甲1に記載された発明)との相違点は,上記1(3)で認定のとおりである。そして,当該相違点についての判断は,上記(1)ア及びイのとおりであるから,本件発明7は,甲1に記載された発明から想到容易であるとはいえない。 (4) 本件発明8について 請求項8の記載は請求項7を直接に引用するものであるから,本件発明8は,上記(3)で検討したことと同様に,甲1に記載された発明から想到容易であるとはいえない。 (5) まとめ よって,本件発明1?4,7及び8は,甲1に記載された発明から想到容易であって法29条2項の規定により特許を受けることができないとする異議申立人の主張に係る申立理由2は,理由がない。 3 申立理由3について (1) 異議申立人の具体的主張 異議申立人は,要するに,本件発明1及び7の「拡幅部」には,甲1に記載の縮高拡幅部と定高拡幅部とをもつものも包含されているが,本件特許明細書の発明の詳細な説明には,「樹脂の流れ方向に沿って上下方向に高さが縮小し,その後,流路高が一定となるような拡幅部」は記載されておらず,詳細な説明における「拡幅部」は,流路高がほぼ一定のものしか想定されていないから,本件発明1及び7は,サポート要件を満たしていない旨主張する。 (2) 検討 そこで,上記(1)の主張の当否について検討するに,本件訂正請求によって本件発明1及び7の「拡幅部」は,「前記拡幅部における前記樹脂の流れる方向及び前記ダイノズルの吐出口の配列方向に垂直な方法の流路高は概ね一定であり」と特定されることで,流路高がほぼ一定のものに特定されたので,上記異議申立人の主張に係る申立理由3は,理由がない。 4 申立理由4について (1) 異議申立人の具体的主張 異議申立人は,要するに,本件発明5の「樹脂は,0.1mol/kg以下のエポキシ基を含有する」点及び本件発明6の「樹脂は,0.1mol/kg以下のカルボン酸無水物を含有する」点に関し,発明の詳細な説明に記載されている実施例及び比較例のデータにより十分に裏付けされていないから,本件発明5及び6は,サポート要件を満たしていない旨主張する。 (2) 検討 そこで,上記(1)の主張の当否について検討する。 まず,本件発明5及び6の発明が解決しようとする課題は,発明の詳細な説明の段落【0007】のとおり,「焼けペレットを低減することができる樹脂ペレット製造方法」を提供することである。 そして,発明の詳細な説明の記載から,当該課題が,本件発明1として特定される製造方法により,解決されると当業者が理解できるものである。 そうすると,本件発明5及び6は,ともに本件発明1の発明特定事項を全て有する発明であるから,本件発明5及び6についても,当業者は,当該課題が解決できると認識できるといえる。 してみれば,実施例及び比較例のデータにより十分に裏付けられていないことをもってサポート要件を満たしていないということはできない。 よって,異議申立人の主張に係る申立理由4は,理由がない。 第6 当審取消理由について 当審取消理由は, 「1(明確性)本件特許の請求項7及び8についての特許は,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから,同法第113条第4号に該当し,取り消すべきものである。 2(サポート要件)本件特許の請求項1ないし8についての特許は,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから,同法第113条第4号に該当し,取り消すべきものである。 」 であって,その概要は以下のとおりである。 理由1)明確性について 請求項7の「前記拡幅部の入り口から前記ダイノズルの入り口までの体積をVcm^(3)とし,前記樹脂が前記ダイノズルから吐出する単位時間当たりの量をQcm^(3)/秒とする場合に,1.0Q≦V≦3.0Qを満たす」との記載は,「物」である「樹脂ペレット製造装置」において,如何なることを特定しているのかがわからず,不明確である。請求項7を引用する請求項8についても同様である。 理由2)サポート要件について 異議申立人の申立理由3と同旨。 第7 当審取消理由についての判断 1 取消理由1(明確性)について 本件発明7は,本件訂正により,「押出成形用ダイから樹脂を押し出す樹脂ペレット製造装置であって」を「押出成形用ダイと押出機とを備え前記押出成形用ダイから樹脂を押し出す樹脂ペレット製造装置であって」と訂正するとともに,「1.0Q≦V≦3.0Q を満たす」を「前記押出機は前記流入口に前記樹脂を推し進めて,1.0Q≦V≦3.0Q とする」と訂正することで,樹脂ペレット製造装置が1.0Q≦V≦3.0Qとする押出機を備えることが明らかとなったから,上記取消理由1は,理由がない。 2 取消理由2(サポート要件)について 上記第5 3に記載のとおりであって,取消理由2は,理由がない。 第8 むすび したがって,異議申立人の主張する申立理由及び当審取消理由によっては,請求項1?8に係る特許を取り消すことはできない。また,他に当該特許が法113条各号のいずれかに該当すると認めうる理由もない。 よって,結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 押出成形用ダイから樹脂を押し出す樹脂ペレット製造方法であって、 前記押出成形用ダイは、溶融した樹脂が流入する流入口と、前記樹脂が吐出し所定の間隔で配置される20個以上60個以下のダイノズルと、前記流入口と前記ダイノズルとの間における前記ダイノズルと隣接する位置に形成され前記樹脂が流れる方向に向かって進むにつれ前記ダイノズルが配列される方向に樹脂流路が広がり前記ダイノズルの手前では前記樹脂流路の広がりが抑えられる拡幅部と有し、 前記拡幅部における前記樹脂の流れる方向及び前記ダイノズルの吐出口の配列方向に垂直な方向の流路高は概ね一定であり、 前記拡幅部の入り口から前記ダイノズルの入り口までの体積をVcm^(3)とし、前記樹脂が前記ダイノズルから吐出する単位時間当たりの量をQcm^(3)/秒とする場合に、 1.0Q≦V≦3.0Q を満たす ことを特徴とする樹脂ペレット製造方法。 【請求項2】 互いに隣り合う前記ダイノズルの吐出口の中心間距離の総和をLcmとする場合、 2cm^(2)≦V/L≦6cm^(2) を満たす ことを特徴とする請求項1に記載の樹脂ペレット製造方法。 【請求項3】 前記樹脂がエンジニアリングプラスチックスである ことを特徴とする請求項1または2に記載の樹脂ペレット製造方法。 【請求項4】 前記エンジニアリングプラスチックスがポリブチレンテレフタレート樹脂である ことを特徴とする請求項3に記載の樹脂ペレット製造方法。 【請求項5】 前記樹脂は、0.1mol/kg以下のエポキシ基を含有する ことを特徴とする請求項3または4に記載の樹脂ペレット製造方法。 【請求項6】 前記樹脂は、0.1mol/kg以下のカルボン酸無水物を含有する ことを特徴とする請求項3から5のいずれか1項に記載の樹脂ペレット製造方法。 【請求項7】 押出成形用ダイと押出機とを備え前記押出成形用ダイから樹脂を押し出す樹脂ペレット製造装置であって、 前記押出成形用ダイは、溶融した樹脂が流入する流入口と、前記樹脂が吐出し所定の間隔で配置される20個以上60個以下のダイノズルと、前記流入口と前記ダイノズルとの間における前記ダイノズルと隣接する位置に形成され前記樹脂が流れる方向に向かって進むにつれ前記ダイノズルが配列される方向に樹脂流路が広がる拡幅部と有し、 前記拡幅部における前記樹脂の流れる方向及び前記ダイノズルの吐出口の配列方向に垂直な方向の流路高は概ね一定であり、 前記拡幅部の入り口から前記ダイノズルの入り口までの体積をVcm^(3)とし、前記樹脂が前記ダイノズルから吐出する単位時間当たりの量をQcm^(3)/秒とする場合に、前記押出機は前記流入口に前記樹脂を推し進めて、 1.0Q≦V≦3.0Q とする ことを特徴とする樹脂ペレット製造装置。 【請求項8】 互いに隣り合う前記ダイノズルの吐出口の中心間距離の総和をLcmとする場合、 2cm^(2)≦V/L≦6cm^(2) を満たす ことを特徴とする請求項7に記載の樹脂ペレット製造装置。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2019-05-20 |
出願番号 | 特願2014-193137(P2014-193137) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YAA
(B29B)
P 1 651・ 113- YAA (B29B) P 1 651・ 537- YAA (B29B) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 中山 基志 |
特許庁審判長 |
須藤 康洋 |
特許庁審判官 |
渕野 留香 大島 祥吾 |
登録日 | 2018-04-06 |
登録番号 | 特許第6317223号(P6317223) |
権利者 | 三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社 |
発明の名称 | 樹脂ペレット製造方法及び樹脂ペレット製造装置 |
代理人 | 森村 靖男 |
代理人 | 森村 靖男 |