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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A61J
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61J
管理番号 1353171
異議申立番号 異議2018-700902  
総通号数 236 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-08-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-11-09 
確定日 2019-06-06 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6325699号発明「錠剤印刷装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6325699号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-4〕について訂正することを認める。 特許第6325699号の請求項1、3ないし4に係る特許を維持する。 特許第6325699号の請求項2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 I 手続の経緯
特許第6325699号の請求項1?4に係る特許についての出願は、平成26年5月28日に出願した特願2014-109859号の一部を平成29年1月11日に新たな特許出願としたものであって、平成30年4月20日にその特許権の設定登録がされ、平成30年5月16日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について、平成30年11月9日に特許異議申立人早房長隆により特許異議の申立てがされ、当審は、平成31年1月31日付けで取消理由を通知した。特許権者は、その指定期間内である平成31年3月13日に意見書の提出及び訂正の請求を行った。その訂正の請求に対して、当審は、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、特許異議申立人は応答しなかった。

II 訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下のア?クのとおりである(下線は訂正箇所を示す。)。
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「複数の錠剤を搬送する搬送機構と、
前記搬送機構によって搬送される前記複数の錠剤の一方面を撮像する第1撮像部と、
前記搬送機構によって搬送される前記複数の錠剤の他方面を撮像する第2撮像部と、
前記搬送機構による搬送方向に沿って前記第1撮像部および前記第2撮像部よりも下流に設けられ、前記複数の錠剤の他方面に印刷処理を行う第1印刷部と、
前記搬送機構による搬送方向に沿って前記第1撮像部および前記第2撮像部よりも下流に設けられ、前記複数の錠剤の一方面に印刷処理を行う第2印刷部と、
前記第1撮像部および前記第2撮像部によって取得された画像データに基づいて前記第1印刷部および前記第2印刷部を制御する印刷制御部と、
を備え、
前記印刷制御部は、前記画像データに基づいて前記複数の錠剤のそれぞれにおける前記割線の方向を特定し、前記複数の錠剤の裏面に対して前記割線に対する所定方向に沿って印刷処理を行うように前記第1印刷部および前記第2印刷部を制御する」
と記載されているのを、
「搬送方向と垂直な方向の複数の錠剤を搬送する搬送機構と、
前記搬送機構によって搬送される搬送方向と垂直な方向の前記複数の錠剤の一方面を撮像する第1撮像部と、
前記搬送機構によって搬送される搬送方向と垂直な方向の前記複数の錠剤の他方面を撮像する第2撮像部と、
前記搬送機構による搬送方向に沿って前記第1撮像部および前記第2撮像部よりも下流に設けられ、搬送方向と垂直な方向の前記複数の錠剤の他方面に印刷処理を行う第1印刷部と、
前記搬送機構による搬送方向に沿って前記第1撮像部および前記第2撮像部よりも下流に設けられ、搬送方向と垂直な方向の前記複数の錠剤の一方面に印刷処理を行う第2印刷部と、
前記第1撮像部および前記第2撮像部によって取得された画像データに基づいて前記第1印刷部および前記第2印刷部を制御する印刷制御部と、
を備え、
前記印刷制御部は、前記画像データに基づいて搬送方向と垂直な方向の前記複数の錠剤のそれぞれにおける前記割線の方向を特定し、搬送方向と垂直な方向の前記複数の錠剤の裏面に対して前記割線に対する所定方向に沿って印刷処理を行うように前記第1印刷部および前記第2印刷部を制御し、
前記印刷制御部は、前記画像データに基づいて搬送方向と垂直な方向の前記複数の錠剤のそれぞれにおける前記割線の方向を特定し、搬送方向と垂直な方向の前記複数の錠剤の表面に対して前記所定方向と同一方向に沿って印刷処理を行うように前記第1印刷部および前記第2印刷部を制御する」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項3および請求項4も同様に訂正する)。

イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。

ウ 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に
「請求項1または請求項2に記載の錠剤印刷装置において、」
と記載されているのを、
「請求項1に記載の錠剤印刷装置において、」
に訂正する(請求項3の記載を引用する請求項4も同様に訂正する)。

エ 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に
「請求項1から請求項3のいずれかに記載の錠剤印刷装置において、
前記搬送機構による搬送方向に沿って前記第1印刷部と前記第2印刷部との間に設けられ、前記搬送機構によって搬送される前記複数の錠剤の位置ずれを検出する第3撮像部をさらに備え、
前記印刷制御部は、前記第3撮像部によって検出された前記位置ずれに基づいて前記第2印刷部による前記複数の錠剤のそれぞれに対する印刷位置を調整する」
と記載されているのを、
「請求項1または請求項3に記載の錠剤印刷装置において、
前記搬送機構による搬送方向に沿って前記第1印刷部と前記第2印刷部との間に設けられ、前記搬送機構によって搬送される搬送方向と垂直な方向の前記複数の錠剤の位置ずれを検出する第3撮像部をさらに備え、
前記印刷制御部は、前記第3撮像部によって検出された前記位置ずれに基づいて前記第2印刷部による搬送方向と垂直な方向の前記複数の錠剤のそれぞれに対する印刷位置を調整する」
に訂正する。

オ 訂正事項5
願書に添付した明細書の段落【0009】に
「上記課題を解決するため、請求項1の発明は、表面に割線が刻設された錠剤に対して印刷処理を行う錠剤印刷装置において、複数の錠剤を搬送する搬送機構と、前記搬送機構によって搬送される前記複数の錠剤の一方面を撮像する第1撮像部と、前記搬送機構によって搬送される前記複数の錠剤の他方面を撮像する第2撮像部と、前記搬送機構による搬送方向に沿って前記第1撮像部および前記第2撮像部よりも下流に設けられ、前記複数の錠剤の他方面に印刷処理を行う第1印刷部と、前記搬送機構による搬送方向に沿って前記第1撮像部および前記第2撮像部よりも下流に設けられ、前記複数の錠剤の一方面に印刷処理を行う第2印刷部と、前記第1撮像部および前記第2撮像部によって取得された画像データに基づいて前記第1印刷部および前記第2印刷部を制御する印刷制御部と、を備え、前記印刷制御部は、前記画像データに基づいて前記複数の錠剤のそれぞれにおける前記割線の方向を特定し、前記複数の錠剤の裏面に対して前記割線に対する所定方向に沿って印刷処理を行うように前記第1印刷部および前記第2印刷部を制御することを特徴とする。」
と記載されているのを、
「上記課題を解決するため、請求項1の発明は、表面に割線が刻設された錠剤に対して印刷処理を行う錠剤印刷装置において、搬送方向と垂直な方向の複数の錠剤を搬送する搬送機構と、前記搬送機構によって搬送される搬送方向と垂直な方向の前記複数の錠剤の一方面を撮像する第1撮像部と、前記搬送機構によって搬送される搬送方向と垂直な方向の前記複数の錠剤の他方面を撮像する第2撮像部と、前記搬送機構による搬送方向に沿って前記第1撮像部および前記第2撮像部よりも下流に設けられ、搬送方向と垂直な方向の前記複数の錠剤の他方面に印刷処理を行う第1印刷部と、前記搬送機構による搬送方向に沿って前記第1撮像部および前記第2撮像部よりも下流に設けられ、搬送方向と垂直な方向の前記複数の錠剤の一方面に印刷処理を行う第2印刷部と、前記第1撮像部および前記第2撮像部によって取得された画像データに基づいて前記第1印刷部および前記第2印刷部を制御する印刷制御部と、を備え、前記印刷制御部は、前記画像データに基づいて搬送方向と垂直な方向の前記複数の錠剤のそれぞれにおける前記割線の方向を特定し、搬送方向と垂直な方向の前記複数の錠剤の裏面に対して前記割線に対する所定方向に沿って印刷処理を行うように前記第1印刷部および前記第2印刷部を制御し、前記印刷制御部は、前記画像データに基づいて搬送方向と垂直な方向の前記複数の錠剤のそれぞれにおける前記割線の方向を特定し、搬送方向と垂直な方向の前記複数の錠剤の表面に対して前記所定方向と同一方向に沿って印刷処理を行うように前記第1印刷部および前記第2印刷部を制御することを特徴とする。」
に訂正する。

カ 訂正事項6
願書に添付した明細書の段落【0010】の記載を削除する。

キ 訂正事項7
願書に添付した明細書の段落【0011】に
「また、請求項3の発明は、請求項1または請求項2の発明に係る錠剤印刷装置において、前記所定方向は前記割線に対して平行な方向であることを特徴とする。
また、請求項4の発明は、請求項1から請求項3のいずれかの発明に係る錠剤印刷装置において、前記搬送機構による搬送方向に沿って前記第1印刷部と前記第2印刷部との間に設けられ、前記搬送機構によって搬送される前記複数の錠剤の位置ずれを検出する第3撮像部をさらに備え、前記印刷制御部は、前記第3撮像部によって検出された前記位置ずれに基づいて前記第2印刷部による前記複数の錠剤のそれぞれに対する印刷位置を調整することを特徴とする。」
と記載されているのを、
「また、請求項3の発明は、請求項1の発明に係る錠剤印刷装置において、前記所定方向は前記割線に対して平行な方向であることを特徴とする。
また、請求項4の発明は、請求項1または請求項3の発明に係る錠剤印刷装置において、前記搬送機構による搬送方向に沿って前記第1印刷部と前記第2印刷部との間に設けられ、前記搬送機構によって搬送される搬送方向と垂直な方向の前記複数の錠剤の位置ずれを検出する第3撮像部をさらに備え、前記印刷制御部は、前記第3撮像部によって検出された前記位置ずれに基づいて前記第2印刷部による搬送方向と垂直な方向の前記複数の錠剤のそれぞれに対する印刷位置を調整することを特徴とする。」
に訂正する。

ク 訂正事項8
願書に添付した明細書の段落【0012】に
「請求項1から請求項4の発明によれば、複数の錠剤の一方面を撮像する第1撮像部および複数の錠剤の他方面を撮像する第2撮像部によって取得された画像データに基づいて前記複数の錠剤のそれぞれにおける前記割線の方向を特定し、複数の錠剤の裏面に対して割線に対する所定方向に沿って印刷処理を行うため、割線が刻設された錠剤の裏面に対しても印刷処理を行うことができる。」
と記載されているのを、
「請求項1、請求項3および請求項4の発明によれば、搬送方向と垂直な方向の複数の錠剤の一方面を撮像する第1撮像部および搬送方向と垂直な方向の複数の錠剤の他方面を撮像する第2撮像部によって取得された画像データに基づいて搬送方向と垂直な方向の前記複数の錠剤のそれぞれにおける前記割線の方向を特定し、搬送方向と垂直な方向の複数の錠剤の裏面に対して割線に対する所定方向に沿って印刷処理を行うため、割線が刻設された錠剤の裏面に対しても印刷処理を行うことができる。」
に訂正する。

本件訂正請求は、一群の請求項〔1?4〕に対して請求されたものである。また、明細書に係る訂正は、一群の請求項〔1?4〕について請求されたものである。

(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア 訂正事項1について
訂正事項1は、請求項1における、方向について特定されていない「複数の錠剤」(7か所)について「搬送方向と垂直な方向の複数の錠剤」と限定するとともに、複数の錠剤の表面に対する印刷処理について特定されていない「印刷制御部」について、「前記印刷制御部は、前記画像データに基づいて搬送方向と垂直な方向の前記複数の錠剤のそれぞれにおける前記割線の方向を特定し、搬送方向と垂直な方向の前記複数の錠剤の表面に対して前記所定方向と同一方向に沿って印刷処理を行うように前記第1印刷部および前記第2印刷部を制御する」と限定するものである。したがって、訂正事項1は特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、「搬送方向と垂直な方向の複数の錠剤」及び「前記印刷制御部は、前記画像データに基づいて搬送方向と垂直な方向の前記複数の錠剤のそれぞれにおける前記割線の方向を特定し、搬送方向と垂直な方向の前記複数の錠剤の表面に対して前記所定方向と同一方向に沿って印刷処理を行うように前記第1印刷部および前記第2印刷部を制御する」は、明細書において図1?10に係る実施例として記載されているから、訂正事項1は、明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

イ 訂正事項2について
訂正事項2は、請求項2を削除するものであるから、訂正事項2は特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項2は、明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。

ウ 訂正事項3について
訂正事項3は、請求項3の記載を、請求項1または請求項2の記載を引用するものから請求項2の記載を引用しないものとするものであるから、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。
そして、訂正事項3は、明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。

エ 訂正事項4について
訂正事項4は、請求項4の記載を、請求項1から請求項3のいずれかの記載を引用するものから請求項2の記載を引用しないものとするとともに、方向について特定されていない「複数の錠剤」(2か所)について「搬送方向と垂直な方向の複数の錠剤」と限定するものである。したがって、訂正事項4は、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることと、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、上記アに記載したとおり、「搬送方向と垂直な方向の複数の錠剤」は、明細書に記載されているから、訂正事項4は、明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

オ 訂正事項5?8について
訂正事項5?8は、それぞれ、発明の詳細な説明の記載を上記訂正事項1?4に係る訂正に伴い特許請求の範囲の記載と整合させるためのものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、訂正事項5?8は、明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、明細書、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-4〕について訂正することを認める。

III 訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1?4に係る発明(以下、「本件発明1?4」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1?4に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
表面に割線が刻設された錠剤に対して印刷処理を行う錠剤印刷装置であって、
搬送方向と垂直な方向の複数の錠剤を搬送する搬送機構と、
前記搬送機構によって搬送される搬送方向と垂直な方向の前記複数の錠剤の一方面を撮像する第1撮像部と、
前記搬送機構によって搬送される搬送方向と垂直な方向の前記複数の錠剤の他方面を撮像する第2撮像部と、
前記搬送機構による搬送方向に沿って前記第1撮像部および前記第2撮像部よりも下流に設けられ、搬送方向と垂直な方向の前記複数の錠剤の他方面に印刷処理を行う第1印刷部と、
前記搬送機構による搬送方向に沿って前記第1撮像部および前記第2撮像部よりも下流に設けられ、搬送方向と垂直な方向の前記複数の錠剤の一方面に印刷処理を行う第2印刷部と、
前記第1撮像部および前記第2撮像部によって取得された画像データに基づいて前記第1印刷部および前記第2印刷部を制御する印刷制御部と、
を備え、
前記印刷制御部は、前記画像データに基づいて搬送方向と垂直な方向の前記複数の錠剤のそれぞれにおける前記割線の方向を特定し、搬送方向と垂直な方向の前記複数の錠剤の裏面に対して前記割線に対する所定方向に沿って印刷処理を行うように前記第1印刷部および前記第2印刷部を制御し、
前記印刷制御部は、前記画像データに基づいて搬送方向と垂直な方向の前記複数の錠剤のそれぞれにおける前記割線の方向を特定し、搬送方向と垂直な方向の前記複数の錠剤の表面に対して前記所定方向と同一方向に沿って印刷処理を行うように前記第1印刷部および前記第2印刷部を制御することを特徴とする錠剤印刷装置。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
請求項1に記載の錠剤印刷装置において、
前記所定方向は前記割線に対して平行な方向であることを特徴とする錠剤印刷装置。
【請求項4】
請求項1または請求項3に記載の錠剤印刷装置において、
前記搬送機構による搬送方向に沿って前記第1印刷部と前記第2印刷部との間に設けられ、前記搬送機構によって搬送される搬送方向と垂直な方向の前記複数の錠剤の位置ずれを検出する第3撮像部をさらに備え、
前記印刷制御部は、前記第3撮像部によって検出された前記位置ずれに基づいて前記第2印刷部による搬送方向と垂直な方向の前記複数の錠剤のそれぞれに対する印刷位置を調整することを特徴とする錠剤印刷装置。」

IV 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
訂正前の請求項1?4に係る特許に対して、当審が平成31年1月31日付けで特許権者に通知した取消理由(以下、単に「取消理由」という。)の要旨は、次のとおりである。

理由1:(サポート要件)請求項1?4に係る特許は、特許請求の範囲の記載が「複数の錠剤」に関して不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
理由2:(進歩性)請求項1に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、また、請求項3に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲第1号証、甲第2号証及び甲第3号証に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1及び3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

2 甲号証の記載
(1)甲第1号証(国際公開第2014/013973号)
取消理由において引用した文献である甲第1号証には、次のとおり記載されている。
(1-1)「[0002] 本発明は、錠剤に印刷する印刷機に関するものである。また、本発明は、当該印刷機で製造される錠剤に関するものである。」

(1-2)「[0006]・・・本発明は、・・・搬送されている錠剤の両方側の面に印刷したり、搬送されている錠剤の一方側の面及び他方側の面のうち、所望の一方の面に印刷したりできる印刷機を提供することを課題とする。
[0007] また、本発明は、一方側の面及び他方側の面の少なくとも一方に印刷された錠剤を提供することを課題とする。」

(1-3)「[0013] また、前記錠剤が、前記一方側を向いた面及び前記他方側を向いた面の何れか一方に前記割線を有する場合がある。この場合、前記印刷機は、前記第1の撮像装置によって撮像された画像に基づいて、前記錠剤の一方側を向いた面の溝状の割線の有無を判定する第1の割線判定部と、前記第2の撮像装置によって撮像された画像に基づいて、前記割線の有無を判定する第2の割線判定部とを備える。そして、前記第1の印刷判定部は、前記第1の割線判定部が割線有りと判定した際に、当該錠剤の一方側を向いた面に印刷しないと判定し、前記第2の印刷判定部は、前記第2の割線判定部が割線有りと判定した際に、当該錠剤の他方側を向いた面に印刷しないと判定することが好ましい。
[0014] かかる構成によれば、搬送装置は、前記一方側を向いた面及び前記他方側を向いた面の何れか一方の面に、分割するための割線を有する錠剤を搬送する。また、第1の割線判定部は、第1の撮像装置で撮像された画像に基づいて、割線の有無を判定する。そして、第1の割線判定部が、割線有りと判定した際に、第1の印刷判定部は、当該錠剤の前記一方側を向いた面に印刷しないと判定する。
[0015] また、第2の割線判定部は、第2の撮像装置で撮像された画像に基づいて、割線の有無を判定する。そして、第2の割線判定部が、割線有りと判定した際に、第2の印刷判定部は、当該錠剤の前記他方側を向いた面に印刷しないと判定する。これにより、印刷機は、搬送されている錠剤のうち、割線を有する側の面に印刷することを防止でき、割線を有していない側の面に印刷することができる。」

(1-4)「[0032] 本実施形態に係る印刷機は、図1に示すように、錠剤1を搬送する搬送ユニット2と、・・・搬送される錠剤1における搬送方向(図1では右側)と直交する方向(図1では上下方向)の一方側を向いた面(本実施形態では下方側の面)を撮像及び印刷する第1の撮像印刷ユニット4と、搬送される錠剤1における前記直交する方向の他方側を向いた面(本実施形態では上方側を向いた面)を撮像及び印刷する第2の撮像印刷ユニット5とを備える。また、印刷機は、当該印刷機の各構成を制御し且つ錠剤1を検査する制御ユニット(制御部)6を備える。
[0033] 搬送ユニット2は、図1に示すように、上流側から供給された錠剤1を貯留する貯留装置21と、貯留装置21で貯留された錠剤1を整列させて搬入する搬入装置22と、搬入された錠剤1を搬送する搬送装置23と、搬送された錠剤1を下流側に搬出する搬出装置26とを備える。・・・
[0034]・・・搬入装置22は、錠剤1を搬送する方向(以下「搬送方向」という)Xに沿う部位を上部に有して無端回転する搬入ベルト221と、搬入ベルト221に載置される錠剤1を複数列(本実施形態において4列)に整列させる整列部222とを備える。これにより、搬入装置22は、複数列に整列した状態の錠剤1を搬送装置23に供給できる。
[0035] 搬送装置23は、錠剤1の上方側に接した状態で錠剤1を搬送方向Xに搬送する第1の搬送部24と、第1の搬送部24の下流側に配置され、錠剤1の下方側に接した状態で錠剤1を搬送方向Xに搬送する第2の搬送部25と、を備える。なお、図示していないが、搬送装置23は、搬入装置22で整列させた錠剤1の列数に応じて、複数(本実施形態では、例えば4つ)並列されている。それに伴って、各撮像印刷ユニット4,5も、搬送装置23の数に応じて、複数(本実施形態では、例えば4つずつ)並列されている。」

(1-5)「[0036] 第1の搬送部24は、図1及び図2に示すように、搬送方向Xに沿う部位を下部に有して無端回転する第1の搬送ベルト241と、・・・を備える。また、第1の搬送部24は、錠剤1を吸引するための吸引部243と、・・・を備える。
[0037] これにより、吸引部243が錠剤1を吸引することで、第1の搬送部24は、第1の搬送ベルト241の下部に錠剤1を吸着させる。そして、第1の搬送部24は、錠剤1の下方側の面を露出するようにして、錠剤1を搬送している。
[0038]
また、第1の搬送部24は、上流側の端部を搬入装置22の下流側の端部と上下方向に重なるように配置される。これにより、第1の搬送部24は、搬入ベルト221に載置されている錠剤1を、第1の搬送ベルト241の下部に吸着させる。・・・」

(1-6)「[0041] 第2の搬送部25は、図1及び図5に示すように、搬送方向Xに沿う部位を上部に有して無端回転する第2の搬送ベルト251と、・・・を備える。また、第2の搬送部25は、錠剤1を吸引するための吸引部253と、・・・を備える。
[0042] 吸引部253が錠剤1を吸引することにより、第2の搬送部25が第2の搬送ベルト251の上部に錠剤1を吸着させる。これにより、第2の搬送部25は、錠剤1の上方側の面を露出するようにして錠剤1を搬送する。
[0043]
また、第2の搬送部25は、上流側を第1の搬送部24の下流側と上下方向に重なるように配置される。これにより、第2の搬送部25は、第1の搬送ベルト241の下部に吸着されている錠剤1を、第2の搬送ベルト251の上部に吸着させる。・・・」

(1-7)「[0045] 第1の撮像印刷ユニット4は、図2に示すように、第1の搬送部24に搬送されている錠剤1を検出する第1の検出部41と、錠剤1の変位量を測定する第1の変位測定部42とを備える。そして、第1の撮像印刷ユニット4は、錠剤1の下方側の面を撮像する下方撮像装置(「第1の撮像装置」ともいう)43と、錠剤1の下方側の面に印刷する下方印刷装置(「第1の印刷装置」ともいう)44と・・・を備える。
[0046] 第1の検出部41は、錠剤1が第1の搬送部24の所定の基準位置に到達したことを検出する。例えば、第1の検出部41は、光電センサ等である。また、第1の変位測定部42は、第1の搬送部24の走行量を測定することにより、錠剤1の変位量を測定する。例えば、第1の変位測定部42は、第1の搬送部24の回転体242に取り付けられるエンコーダ等である。したがって、錠剤1が基準位置に到達したことを第1の検出部41が検出すると共に、第1の変位測定部42が基準位置からの変位量を測定することにより、第1の搬送部24における錠剤1の位置が検出される。
[0047] 下方撮像装置43は、第1の検出部41よりも下流側に配置されると共に、第1の搬送部24よりも下方側に配置される。そして、下方撮像装置43は、制御ユニット6の制御に基づいて、錠剤1の下方側の面を撮像する。・・・
[0048] 下方印刷装置44は、下方撮像装置43よりも下流側に配置されると共に、第1の搬送部24よりも下方側に配置される。そして、下方印刷装置44は、制御ユニット6の制御に基づいて、錠剤1の下方側の面に印刷する。・・・」

(1-8)「[0050] 第2の撮像印刷ユニット5は、第2の搬送部25に搬送されている錠剤1を検出する第2の検出部51と、錠剤1の変位量を測定する第2の変位測定部52とを備える。そして、第2の撮像印刷ユニット5は、・・・錠剤1の上方側の面を撮像する上方撮像装置(「第2の撮像装置」ともいう)54と、錠剤1の上方側の面に印刷する上方印刷装置(「第2の印刷装置」ともいう)55と、・・・を備える。
[0051] 第2の検出部51は、錠剤1が第2の搬送部25の所定の基準位置に到達したことを検出する。また、第2の変位測定部52は、第2の搬送部25の走行量を測定することで、錠剤1の変位量を測定する。このように、錠剤1が基準位置に到達したのを第2の検出部51が検出すると共に、第2の変位測定部52が基準位置からの変位量を測定することにより、第2の搬送部25における錠剤1の位置が検出される。・・・
[0053] 上方撮像装置54は、側方撮像装置53よりも下流側に配置されると共に、第2の搬送部25よりも上方側に配置される。そして、上方撮像装置54は、制御ユニット6の制御に基づいて、錠剤1の上方側の面を撮像する。・・・
[0054] 上方印刷装置55は、上方撮像装置54よりも下流側に配置されると共に、第2の搬送部25よりも上方側に配置される。そして、上方印刷装置55は、制御ユニット6の制御に基づいて、錠剤1の上方側の面に印刷する。・・・」

(1-9)「[0056] 制御ユニット6は、図6に示すように、各情報を入力する入力装置61と、各装置を制御する制御装置62と、各情報を出力する出力装置63とを備える。
[0057] 入力装置61は、検査及び印刷する錠剤1の情報を制御装置62に入力する。・・・そして、錠剤1の情報(種類に応じた番号等)が入力装置61を経由して制御装置62に入力されることで、制御装置62は、対象となる錠剤1の情報(割線11の有無、形状等)を認識する。 制御装置62は、錠剤1の位置を演算する位置演算部621と、下方印刷装置44を制御する下方印刷制御部(「第1の印刷制御部」ともいう)622と、・・・を備える。・・・
[0058] そして、制御装置62は、上方印刷装置55を制御する上方印刷制御部(「第2の印刷制御部」ともいう)626と、・・・を備える。さらに、制御装置62は、割線11の判定結果を検査する割線検査部629を備える。
[0059] 位置演算部621は、各検出部41,51及び各変位測定部42,52からの情報に基づいて、錠剤1の位置を演算する。そして、制御装置62は、位置演算部621で演算された結果に基づいて、所定のタイミングで各撮像装置43,45,53,54,56により錠剤1を撮像させると共に、所定のタイミングで各印刷装置44,55に錠剤1へ印刷させる。」

(1-10)「[0113] 上記実施形態に係る印刷機において、各印刷装置44、45及び各印刷制御部622、626は、錠剤1の割線11の向きに関わらず、割線11が設けられた面と反対側の面に印刷する構成である。しかしながら、本発明に係る印刷機は、かかる構成に限られない。例えば、印刷機は、割線11がさまざまな位置(向き)の状態で、錠剤1が搬送されていても、割線11が設けられた面と反対側の面において割線11と対応する部位110を避けた状態で、当該部位110を基準として同じように印刷できる構成であってもよい。かかる構成の印刷機の5つの具体例が、以下に説明されている。」

(1-11)「[0114] まず、割線11と対応する部位110を基準として同じように印刷できる印刷機の第1の具体例が、図15?図20を参酌して、以下に説明されている。
[0115] この印刷機では、上方撮像装置54が搬送装置23の上流側(例えば搬入装置22等)に配置されている。
[0116] また、かかる印刷機の制御装置62において、図15に示すように、下方印刷制御部622は、上方割線判定部1622a、上方印刷判定部1622b及び印刷情報記憶部1622cを備える。また、下方印刷制御部622は、上方撮像装置54によって撮像された画像に基づいて割線11の位置を演算する割線位置演算部1622dと、割線位置演算部1622dにおいて演算された結果に基づいて、下方印刷装置45によって印刷する情報を演算する印刷情報演算部1622eと、をさらに備える。
[0117] また、上方印刷制御部626は、下方割線判定部1626a、下方印刷判定部1626b及び印刷情報記憶部1626cを備える。また、上方印刷制御部626は、下方撮像装置43によって撮像された画像に基づいて割線11の位置を演算する割線位置演算部1626dと、割線位置演算部1626dにおいて演算された結果に基づいて、下方印刷装置45によって印刷する情報を演算する印刷情報演算部1626eと、をさらに備える。」

(1-12)「[0119] まず、上方撮像装置54は、例えば、搬入装置22で搬送されている錠剤1の上方側の面を撮像する(ステップ101a)。その後、上方割線判定部1622aは、上方撮像装置54によって撮像された画像に基づいて、割線11の有無を判定する(ステップ102a)。・・・
[0121] まず、上方割線判定部1622aは、上方撮像装置54によって撮像された画像に基づいて、割線11の有無を判定する(ステップ105b)。そして、錠剤1の上方側の面に割線11が有る場合(ステップ105bの「Y」)、割線位置演算部1622dは、上方撮像装置54によって撮像された画像に基づいて、割線11が所定の位置に対して何度回転した角度であるかを演算する(ステップ105c)。その後、印刷情報演算部1622eは、印刷情報記憶部1622cに記憶されている印刷情報を呼び出し、呼び出した情報を、割線位置演算部1622dによって演算した角度だけ回転させるように演算する(ステップ105d)。そして、下方印刷装置44は、印刷情報演算部622eにおいて演算した情報に基づいて、錠剤1の下方側の面に印刷する。
[0122] 反対に、錠剤1の上方側の面に割線11が無い場合(ステップ105bの「N」)、下方印刷が終了する。
[0123] また、かかる印刷機においては、下方撮像装置43は、第1の搬送部24で搬送されている錠剤1の下方側の面を撮像する(ステップ110a)。その後、下方割線判定部1626aは、下方撮像装置43で撮像した画像に基づいて、割線11の有無を判定する(ステップ111a)。・・・
[0124] まず、下方割線判定部1626aは、下方撮像装置43によって撮像された画像に基づいて、割線11の有無を判定する(ステップ114b)。そして、錠剤1の下方側の面に割線11が有る場合(ステップ114bの「Y」)、割線位置演算部1626dは、下方撮像装置43によって撮像された画像に基づいて、割線11が所定の位置に対して何度回転した角度であるかを演算する(ステップ114c)。その後、印刷情報演算部1626eは、印刷情報記憶部1626cに記憶されている印刷情報を呼び出し、呼び出した情報を、割線位置演算部1626dにおいて演算した角度だけ回転させるように演算する(ステップ114d)。上方印刷装置55は、印刷情報演算部1626eにおいて演算した情報に基づいて、錠剤1の上方側の面に印刷する。
[0125] 反対に、錠剤1の下方側の面に割線11が有る場合(ステップ114bの「N」)、上方印刷が終了する。
[0126] かかる構成によれば、割線11がさまざまな位置(向き)の状態で、錠剤1が搬送ベルト241によって搬送されていても、図19及び図20に示すように、下方印刷装置44は、割線11と対応する部位110を避けた状態で当該部位110を基準として、同じように印刷できる。例えば、印刷部位(符号)12は、錠剤1の割線11と対応する部位110に沿って印字されたものでもよい。具体的には、下方印刷装置44は、錠剤1における割線11の設けられた面と反対側の面102において、割線11と対応する部位110に対して一方側の領域113に第1の符号121を印刷すると共に、他方側の領域114に第2の符号122を印刷してもよい。
[0127] 同様に、割線11がさまざまな位置(向き)の状態で、錠剤1が搬送ベルト251によって搬送されていても、上方印刷装置55は、割線11と対応する部位110を避けた状態で当該部位110を基準として、同じように印刷できる。」

(1-13)図19の記載から、錠剤1は、一方側の面に割線を有し、下方印刷装置44は、錠剤1の割線を有しない面に向き合っていることが窺える。

(1-14)図20の記載から、第1の符号121である「ABC」と第2の符号122である「DEF」は、割線と対応する部位110に沿って錠剤1に印刷されていることが窺える。

以上の記載から、次の事項が認められる。
(認定事項1)
摘記事項(1-11)と図示内容(1-13)とを併せてみて、図15?20に係る印刷機は、「上方側の面または下方側の面のいずれか一方側の面に割線11を有する錠剤1に対して印刷する印刷機」といえる。

(認定事項2)
摘記事項(1-4)の「本実施形態に係る印刷機は、図1に示すように、錠剤1を搬送する搬送ユニット2と、・・・」との記載からみて、印刷機は、「錠剤1を搬送する搬送ユニット2」を備えるといえる。

(認定事項3)
摘記事項(1-11)の「この印刷機では、上方撮像装置54が搬送装置23の上流側(例えば搬入装置22等)に配置されている。」との記載からみて、印刷機は、「搬送ユニット2によって搬送される錠剤1の上方側の面を撮像する「搬送装置23の上流側に配置された上方撮像装置54」」を備えるといえる。

(認定事項4)
摘記事項(1-4)の「本実施形態に係る印刷機は、図1に示すように、錠剤1を搬送する搬送ユニット2と、・・・搬送される錠剤1における搬送方向(図1では右側)と直交する方向(図1では上下方向)の一方側を向いた面(本実施形態では下方側の面)を撮像及び印刷する第1の撮像印刷ユニット4と、・・・を備える。」との記載と、摘記事項(1-7)の「第1の撮像印刷ユニット4は、錠剤1の下方側の面を撮像する下方撮像装置(「第1の撮像装置」ともいう)43と、・・・を備える。」との記載とを併せてみて、印刷機は、「搬送ユニット2によって搬送される錠剤1の下方側の面を撮像する下方撮像装置43」を備えるといえる。

(認定事項5)
摘記事項(1-7)の「下方印刷装置44は、下方撮像装置43よりも下流側に配置されると共に、第1の搬送部24よりも下方側に配置される。そして、下方印刷装置44は、制御ユニット6の制御に基づいて、錠剤1の下方側の面に印刷する。」との記載と、上記認定事項3とを併せてみると、印刷機は、「搬送ユニット2による搬送方向に沿って「搬送装置23の上流側に配置された上方撮像装置54」および下方撮像装置43よりも下流に設けられ、錠剤1の下方側の面に印刷する下方印刷装置44」を備えるといえる。

(認定事項6)
摘記事項(1-4)の「本実施形態に係る印刷機は、・・・搬送される錠剤1における前記直交する方向の他方側を向いた面(本実施形態では上方側を向いた面)を撮像及び印刷する第2の撮像印刷ユニット5とを備える。」との記載と、摘記事項(1-8)の「第2の撮像印刷ユニット5は、・・・錠剤1の上方側の面に印刷する上方印刷装置(「第2の印刷装置」ともいう)55と、・・・を備える。・・・上方印刷装置55は、上方撮像装置54よりも下流側に配置されると共に、第2の搬送部25よりも上方側に配置される。そして、上方印刷装置55は、制御ユニット6の制御に基づいて、錠剤1の上方側の面に印刷する。」との記載と、摘記事項(1-6)の「第2の搬送部25は、上流側を第1の搬送部24の下流側と上下方向に重なるように配置される。」との記載と、上記認定事項3及び5とを総合してみて、印刷機は、「搬送ユニット2による搬送方向に沿って「搬送装置23の上流側に配置された上方撮像装置54」および下方撮像装置43よりも下流に設けられ、錠剤1の上方側の面に印刷する上方印刷装置55」を備えるといえる。

(認定事項7)
摘記事項(1-2)及び摘記事項(1-3)の記載からみて、本発明の課題は、錠剤が一方側の面及び他方側の面の何れか一方に割線を有する場合には、錠剤の両面に印刷するのではなく、割線を有しない面に印刷し、割線を有する面に印刷しないということであることは明らかである。
また、摘記事項(1-11)の「下方印刷制御部622は、上方割線判定部1622a、上方印刷判定部1622b及び印刷情報記憶部1622cを備える。また、下方印刷制御部622は、上方撮像装置54によって撮像された画像に基づいて割線11の位置を演算する割線位置演算部1622dと、割線位置演算部1622dにおいて演算された結果に基づいて、下方印刷装置45(注:「下方印刷装置44」の誤記と認める。)によって印刷する情報を演算する印刷情報演算部1622eと、をさらに備える。」との記載と、摘記事項(1-12)の「上方割線判定部1622aは、上方撮像装置54によって撮像された画像に基づいて、割線11の有無を判定する(ステップ105b)。そして、錠剤1の上方側の面に割線11が有る場合(ステップ105bの「Y」)、割線位置演算部1622dは、上方撮像装置54によって撮像された画像に基づいて、割線11が所定の位置に対して何度回転した角度であるかを演算する(ステップ105c)。その後、印刷情報演算部1622eは、印刷情報記憶部1622cに記憶されている印刷情報を呼び出し、呼び出した情報を、割線位置演算部1622dによって演算した角度だけ回転させるように演算する(ステップ105d)。そして、下方印刷装置44は、印刷情報演算部622eにおいて演算した情報に基づいて、錠剤1の下方側の面に印刷する。・・・反対に、錠剤1の上方側の面に割線11が無い場合(ステップ105bの「N」)、下方印刷が終了する。」の記載からみて、「下方印刷制御部622は、(a1)上方割線判定部1622aにおいて、「搬送装置23の上流側に配置された上方撮像装置54」によって撮像された画像に基づいて前記錠剤1の上方側の面の割線11の有無を判定し、(a2)前記錠剤1の上方側の面の割線11が有る場合、割線位置演算部1622dにおいて、前記画像に基づいて前記錠剤1の割線11が所定の位置に対して何度回転した角度であるかを演算し、その後、印刷情報演算部1622eにおいて、印刷情報記憶部1622cに記憶されている印刷情報を呼び出し、呼び出した情報を、割線位置演算部1622dによって演算した角度だけ回転させるように演算し、演算した情報に基づいて、前記錠剤1の下方側の面に印刷し、(a3)前記錠剤1の上方側の面の割線11が無い場合、前記錠剤1の下方側の面に印刷しないように下方印刷装置44を制御する」といえる。

また、摘記事項(1-11)の「上方印刷制御部626は、下方割線判定部1626a、下方印刷判定部1626b及び印刷情報記憶部1626cを備える。また、上方印刷制御部626は、下方撮像装置43によって撮像された画像に基づいて割線11の位置を演算する割線位置演算部1626dと、割線位置演算部1626dにおいて演算された結果に基づいて、下方印刷装置45(注:「上方印刷装置55」の誤記と認める。)によって印刷する情報を演算する印刷情報演算部1626eと、をさらに備える。」との記載と、摘記事項(1-12)の「下方撮像装置43は、第1の搬送部24で搬送されている錠剤1の下方側の面を撮像する(ステップ110a)。・・・下方割線判定部1626aは、下方撮像装置43によって撮像された画像に基づいて、割線11の有無を判定する(ステップ114b)。そして、錠剤1の下方側の面に割線11が有る場合(ステップ114bの「Y」)、割線位置演算部1626dは、下方撮像装置43によって撮像された画像に基づいて、割線11が所定の位置に対して何度回転した角度であるかを演算する(ステップ114c)。その後、印刷情報演算部1626eは、印刷情報記憶部1626cに記憶されている印刷情報を呼び出し、呼び出した情報を、割線位置演算部1626dにおいて演算した角度だけ回転させるように演算する(ステップ114d)。上方印刷装置55は、印刷情報演算部1626eにおいて演算した情報に基づいて、錠剤1の上方側の面に印刷する。・・・反対に、錠剤1の下方側の面に割線11が有る場合(ステップ114bの「N」)、上方印刷が終了する。」の記載からみて、「上方印刷制御部626は、(b1)下方割線判定部1626aにおいて、下方撮像装置43によって撮像された画像に基づいて前記錠剤1の下方側の面の割線11の有無を判定し、(b2)前記錠剤1の下方側の面の割線11が有る場合、割線位置演算部1626dにおいて、前記画像に基づいて前記錠剤1の割線11が所定の位置に対して何度回転した角度であるかを演算し、その後、印刷情報演算部1626eにおいて、印刷情報記憶部1626cに記憶されている印刷情報を呼び出し、呼び出した情報を、割線位置演算部1626dによって演算した角度だけ回転させるように演算し、演算した情報に基づいて、前記錠剤1の上方側の面に印刷し、(b3)前記錠剤1の下方側の面の割線11が無い場合、前記錠剤1の上方側の面に印刷しないように上方印刷装置55を制御する」といえる。

ところで、上記認定事項1に記載したとおり、図15?20に係る印刷機は、「上方側の面または下方側の面のいずれか一方側の面に割線11を有する錠剤1に対して印刷する印刷機」である。
したがって、搬送される一方側の面に割線11を有する錠剤1に対して、当該印刷機は、下方印刷制御部622に係る「(a1)上方割線判定部1622aにおいて、「搬送装置23の上流側に配置された上方撮像装置54」によって撮像された画像に基づいて前記錠剤1の上方側の面の割線11の有無を判定し、(a2)前記錠剤1の上方側の面の割線11が有る場合、割線位置演算部1622dにおいて、前記画像に基づいて前記錠剤1の割線11が所定の位置に対して何度回転した角度であるかを演算し、その後、印刷情報演算部1622eにおいて、印刷情報記憶部1622cに記憶されている印刷情報を呼び出し、呼び出した情報を、割線位置演算部1622dによって演算した角度だけ回転させるように演算し、演算した情報に基づいて、前記錠剤1の下方側の面に印刷し、(a3)前記錠剤1の上方側の面の割線11が無い場合、前記錠剤1の下方側の面に印刷しないように下方印刷装置44を制御する」ことと、上方印刷制御部626に係る「(b1)下方割線判定部1626aにおいて、下方撮像装置43によって撮像された画像に基づいて前記錠剤1の下方側の面の割線11の有無を判定し、(b2)前記錠剤1の下方側の面の割線11が有る場合、割線位置演算部1626dにおいて、前記画像に基づいて前記錠剤1の割線11が所定の位置に対して何度回転した角度であるかを演算し、その後、印刷情報演算部1626eにおいて、印刷情報記憶部1626cに記憶されている印刷情報を呼び出し、呼び出した情報を、割線位置演算部1626dによって演算した角度だけ回転させるように演算し、演算した情報に基づいて、前記錠剤1の上方側の面に印刷し、(b3)前記錠剤1の下方側の面の割線11が無い場合、前記錠剤1の上方側の面に印刷しないように上方印刷装置55を制御する」こととを択一的に行うものといえる。

そして、摘記事項(1-9)の「制御装置62は、・・・下方印刷装置44を制御する下方印刷制御部(「第1の印刷制御部」ともいう)622と、・・・を備える。・・・そして、制御装置62は、上方印刷装置55を制御する上方印刷制御部(「第2の印刷制御部」ともいう)626と、・・・を備える。」との記載からみて、「制御装置62は下方印刷制御部622と上方印刷制御部626を有する」といえる。

以上から、上方側の面または下方側の面のいずれか一方側の面に割線11を有する錠剤1に対して、制御装置62は、「上方割線判定部1622aまたは下方割線判定部1626aにおいて、「搬送装置23の上流側に配置された上方撮像装置54」または下方撮像装置43によって撮像された画像に基づいて割線11が前記錠剤1の上方側の面と下方側の面との何れに有るかを判定し、
上方の割線位置演算部1622dまたは下方の割線位置演算部1626dにおいて、前記画像に基づいて前記錠剤1の割線11が所定の位置に対して何度回転した角度であるかを演算し、その後、上方の印刷情報演算部1622eまたは下方の印刷情報演算部1626eにおいて、上方の印刷情報記憶部1622cまたは下方の印刷情報記憶部1626cに記憶されている印刷情報を呼び出し、呼び出した情報を、上方の割線位置演算部1622dまたは下方の割線位置演算部1626dによって演算した角度だけ回転させるように演算し、演算した情報に基づいて、前記錠剤1の割線11の無い面に印刷し、前記錠剤1の割線11の有る面に印刷しないように下方印刷装置44および上方印刷装置55を制御する」といえる。

(認定事項8)
摘記事項(1-4)の「印刷機は、当該印刷機の各構成を制御し且つ錠剤1を検査する制御ユニット(制御部)6を備える。」との記載と、摘記事項(1-9)の「制御ユニット6は、図6に示すように、・・・各装置を制御する制御装置62と、・・・を備える。」との記載と、上記認定事項7を総合してみて、印刷機は、「「搬送装置23の上流側に配置された上方撮像装置54」または下方撮像装置43によって撮像された画像に基づいて下方印刷装置44および上方印刷装置55を制御する制御装置62」を備えるといえる。

以上から、甲第1号証には、次の発明が記載されている(以下、「甲第1号証発明」という。)。
「上方側の面または下方側の面のいずれか一方側の面に割線11を有する錠剤1に対して印刷する印刷機であって、
錠剤1を搬送する搬送ユニット2と、
搬送ユニット2によって搬送される前記錠剤1の上方側の面を撮像する「搬送装置23の上流側に配置された上方撮像装置54」と、
搬送ユニット2によって搬送される前記錠剤1の下方側の面を撮像する下方撮像装置43と、
搬送ユニット2による搬送方向に沿って「搬送装置23の上流側に配置された上方撮像装置54」および下方撮像装置43よりも下流に設けられ、前記錠剤1の下方側の面に印刷する下方印刷装置44と、
搬送ユニット2による搬送方向に沿って「搬送装置23の上流側に配置された上方撮像装置54」および下方撮像装置43よりも下流に設けられ、前記錠剤1の上方側の面に印刷する上方印刷装置55と、
「搬送装置23の上流側に配置された上方撮像装置54」または下方撮像装置43によって撮像された画像に基づいて下方印刷装置44および上方印刷装置55を制御する制御装置62とを備え、
制御装置62は、上方割線判定部1622aまたは下方割線判定部1626aにおいて、「搬送装置23の上流側に配置された上方撮像装置54」または下方撮像装置43によって撮像された画像に基づいて割線11が前記錠剤1の上方側の面と下方側の面との何れに有るかを判定し、
上方の割線位置演算部1622dまたは下方の割線位置演算部1626dにおいて、前記画像に基づいて前記錠剤1の割線11が所定の位置に対して何度回転した角度であるかを演算し、その後、上方の印刷情報演算部1622eまたは下方の印刷情報演算部1626eにおいて、上方の印刷情報記憶部1622cまたは下方の印刷情報記憶部1626cに記憶されている印刷情報を呼び出し、呼び出した情報を、上方の割線位置演算部1622dまたは下方の割線位置演算部1626dによって演算した角度だけ回転させるように演算し、演算した情報に基づいて、前記錠剤1の割線11の無い面に印刷し、前記錠剤1の割線11の有る面に印刷しないように下方印刷装置44および上方印刷装置55を制御する印刷機。」

また、上記認定事項5と上記(1-13)及び(1-14)の図示内容とを総合してみて、甲第1号証には、次の技術事項が記載されている(以下、「甲第1号証に記載された技術事項」という。)。
「一方の面に割線11を有する錠剤1において、割線11を有しない面の印刷を割線11に対して平行な方向とすること。」

(2)甲第2号証(特開2013-13711号公報)
同じく取消理由において引用した文献である甲第2号証には、次のとおり記載されている。
(2-1)「【請求項1】
錠剤に印刷を行う錠剤印刷装置であって、
錠剤を供給する錠剤供給部と、
前記錠剤供給部により供給された多数の錠剤を所定列数の複数列に振り分ける複数列振分けユニットと、
前記複数列振分けユニットにより振り分けられた各錠剤を複数列のままランダムに搬送する錠剤搬送部と、
前記錠剤搬送部による搬送中に各錠剤を検出する錠剤検出部と、
前記錠剤検出部で検出された各錠剤の検出データに基づいて搬送中の各錠剤に非接触で印刷を行う印刷部と、
前記印刷部による各錠剤への印刷状態を検査する錠剤検査部と、
前記錠剤検査部での検査結果に基づいた印刷不良を含む不良品を各錠剤の複数列での搬送中に排出する不良品排出部と、
を備えた錠剤印刷装置。」

(2-2)「【0001】
本発明は、連続してランダムに供給される錠剤に印刷を行う錠剤印刷装置および錠剤印刷方法に関し、詳細には、多数の錠剤を所定列数の複数列で供給しつつ、各錠剤に対して非接触で印刷を行うものに関する。」

(2-3)「【0039】
<全体構成の説明>
図1は、本発明の一実施例による錠剤印刷装置の概略構成を示している。
同図に示すように、この錠剤印刷装置1は、錠剤を供給するホッパ2と、ホッパ2から供給されてきた多数の錠剤を所定列数の複数列に振り分ける複数列振分けユニット3と、複数列振分けユニット3により振り分けられた各錠剤を複数列のまま矢印方向(第1の方向)にランダムに搬送する第1の搬送コンベア4と、第1の搬送コンベア4による搬送中に各錠剤を検出するための第1の検出用ラインセンサカメラ5と、第1の検出用ラインセンサカメラ5で検出された各錠剤の検出データに基づいて搬送中の各錠剤に印刷を行う第1のインクジェットプリンタ部6と、・・・を備えている。
【0040】
また、錠剤印刷装置1は、第1の搬送コンベア4の下流端に設けられ、当該第1の搬送コンベア4上の各錠剤の表裏を反転させるための反転ローラ80を有する反転装置8と、第1の搬送コンベア4の下方に配設され、反転装置8により反転された各錠剤を複数列のまま矢印方向(前記第1の方向と逆方向の第2の方向)にランダムに搬送する第2の搬送コンベア4’と、第2の搬送コンベア4’による搬送中に各錠剤を検出するための第2の検出用ラインセンサカメラ5’と、第2の検出用ラインセンサカメラ5’で検出された各錠剤の検出データに基づいて搬送中の各錠剤に印刷を行う第2のインクジェットプリンタ部6’と、・・・を備えている。」

(2-4)「【0109】
<制御部>
次に、錠剤印刷装置1の制御部について、図29を用いて説明する。
同図に示すように、制御部200の入力ポートには、第1、第2の搬送ベルト4、4’の移動位置をそれぞれ検出するためのロータリーエンコーダ42、42’と、第1、第2の検出用ラインセンサカメラ5、5’と、第1、第2の検査用ラインセンサカメラ7、7’と、第1、第2の検出用ラインセンサカメラ5、5’で検出された各錠剤の検出データに基づいて各錠剤に印刷すべき印刷パターンを作成する画像処理装置150と、不良品位置検出用のセンサ91sと、不良品位置確認用のセンサ91’sと、キーボード等のその他の入力部151とが接続されている。
【0110】
制御部200の出力ポートには、第1の搬送コンベア4を駆動するサーボモータ85および第2の搬送コンベア4’を駆動するサーボモータと、第1、第2のインクジェット(IJP)ヘッド60、60’と、これらを駆動するIJPコントローラ152と、不良品排出ユニット9と、不良品排出ダンパー17と、振動フィーダ20a、33と、モニター等の他の出力部153とが接続されている。
【0111】
<錠剤に対する検出・印刷・検査処理>
次に、第1、第2の搬送コンベア4、4’上の各錠剤Tに対する検出処理、印刷処理および検査処理について、図30ないし図35を用いて説明する。・・・
【0112】
各図においては、図示の便宜上、第1、第2の搬送コンベア4、4’上の各錠剤Tが、搬送方向と直交する幅方向に整列した状態を示している。実際の運転においては、第1、第2の搬送コンベア4、4’上の各錠剤Tは、搬送方向と直交する幅方向に整列しておらず、ランダムに配置されている。しかしながら、この場合でも、第1、第2の搬送コンベア4、4’の幅方向に隣り合う各錠剤Tの間隔は一定に維持されている。また、図示の簡略化のために、錠剤Tが幅方向に7列ではなく、4列で搬送される状態を示している。なお、錠剤Tとしては、一方の面に割線が形成された割線錠を例にとって示しており、ここでは、割線の形成されていない側の面にのみ印刷処理を施す場合を例にとって説明する。
【0113】
また、各図中、「検出」と記された一点鎖線の位置は、第1、第2の検出用ラインセンサカメラ5、5’による検出位置を示し、「IJP」と記された一点鎖線の位置は、第1のインクジェットプリンタ部6、6’による印刷位置を示し、「検査」と記された一点鎖線の位置は、第1、第2の検査用ラインセンサカメラ7、7’による検査位置を示している。
【0114】
ホッパ2(図1)から供給され、複数列振分けユニット3(図1)により所定列数の複数列に振り分けられた多数の錠剤Tは、図30に示すように、第1の搬送コンベア4により、複数列のまま図示矢印方向(第1の搬送方向)にランダムに搬送されてくる(図13参照)。このとき、各錠剤Tは、表裏がばらばらになっており、割線の向きもランダムであるが、上述したように、搬送方向と直交する幅方向において隣り合う各錠剤Tの間隔は一定である。
【0115】
各錠剤Tは、図30に示す検出位置において、第1の検出用ラインセンサカメラ5により検出される。このとき、各錠剤Tは、第1の検出用ラインセンサカメラ5のカメラレンズ51により撮影され、撮影された画像データがラインセンサ50により検出される。ラインセンサ50により検出された各錠剤Tの検出データには、錠剤Tの種別や位置、姿勢(向き)、表裏の情報等を含んでいる。また、第1の検出用ラインセンサカメラ5による撮影は、錠剤Tの移動速度(第1の搬送コンベア4の搬送速度)と同期して行われる。
【0116】
第1の検出用ラインセンサカメラ5により検出された各錠剤Tは、図31に示すように、印刷位置において、第1のインクジェットプリンタ部6により印刷処理を受ける。このとき、第1のインクジェットプリンタ部6は、第1の検出用ラインセンサカメラ5で検出された各錠剤Tの検出データに基づいて、搬送中の各錠剤Tに印刷を行う。この例では、割線が形成された側の面には印刷処理が行われず、割線が形成されていない側の面にのみ印刷処理が行われる。また、印刷時には、第1のインクジェットプリンタ部6による印字タイミングは、錠剤Tの移動速度(第1の搬送コンベア4の搬送速度)と同期しており、これにより、移動中の錠剤Tに正確に印刷処理を施すことができる。」

(2-5)「【0120】
このように、第1の搬送コンベア4上で検出・印刷・検査処理を受けた各錠剤Tは、反転装置8(図1)により表裏を反転されて、第2の搬送コンベア4’上に受け渡される。受け渡された各錠剤Tは、図33に示すように、第2の搬送コンベア4’により、複数列のまま図示矢印方向(第2の搬送方向)にランダムに搬送されてくる。このとき、各錠剤Tの表裏は、第1の搬送コンベア4上での表裏の状態と逆になっている。また、この場合でも、搬送方向と直交する幅方向において隣り合う各錠剤Tの間隔は一定である。
【0121】
各錠剤Tは、図33に示す検出位置において、第2の検出用ラインセンサカメラ5’により検出される。このとき、各錠剤Tは、第2の検出用ラインセンサカメラ5’のカメラレンズ51’により撮影され、撮影された画像データがラインセンサ50’により検出される。ラインセンサ50’により検出された各錠剤Tの検出データには、錠剤Tの位置や姿勢(向き)、表裏の情報等を含んでいる。また、第2の検出用ラインセンサカメラ5’による撮影は、錠剤Tの移動速度(第2の搬送コンベア4’の搬送速度)と同期して行われる。
【0122】
第2の検出用ラインセンサカメラ5’により検出された各錠剤Tは、図34に示すように、印刷位置において、第2のインクジェットプリンタ部6’により印刷処理を受ける。このとき、第2のインクジェットプリンタ部6’は、第2の検出用ラインセンサカメラ5’で検出された各錠剤Tの検出データに基づいて、搬送中の各錠剤Tに印刷を行う。この例では、割線が形成された側の面には印刷処理が行われず、割線が形成されていない側の面にのみ印刷処理が行われる。また、印刷時には、第2のインクジェットプリンタ部6’による印字タイミングは、錠剤Tの移動速度(第2の搬送コンベア4’の搬送速度)と同期しており、これにより、移動中の錠剤Tに正確に印刷処理を施すことができる。」

以上の記載から、次の事項が認められる。
摘記事項(2-4)の「【0112】・・・各図においては、図示の便宜上、第1、第2の搬送コンベア4、4’上の各錠剤Tが、搬送方向と直交する幅方向に整列した状態を示している。実際の運転においては、第1、第2の搬送コンベア4、4’上の各錠剤Tは、搬送方向と直交する幅方向に整列しておらず、ランダムに配置されている。しかしながら、この場合でも、第1、第2の搬送コンベア4、4’の幅方向に隣り合う各錠剤Tの間隔は一定に維持されている。・・・
【0114】・・・ホッパ2(図1)から供給され、複数列振分けユニット3(図1)により所定列数の複数列に振り分けられた多数の錠剤Tは、図30に示すように、第1の搬送コンベア4により、複数列のまま図示矢印方向(第1の搬送方向)にランダムに搬送されてくる(図13参照)。このとき、各錠剤Tは、表裏がばらばらになっており、割線の向きもランダムであるが、上述したように、搬送方向と直交する幅方向において隣り合う各錠剤Tの間隔は一定である。」との記載と、摘記事項(2-5)の「【0120】・・・第1の搬送コンベア4上で検出・印刷・検査処理を受けた各錠剤Tは、反転装置8(図1)により表裏を反転されて、第2の搬送コンベア4’上に受け渡される。受け渡された各錠剤Tは、図33に示すように、第2の搬送コンベア4’により、複数列のまま図示矢印方向(第2の搬送方向)にランダムに搬送されてくる。このとき、各錠剤Tの表裏は、第1の搬送コンベア4上での表裏の状態と逆になっている。また、この場合でも、搬送方向と直交する幅方向において隣り合う各錠剤Tの間隔は一定である。」との記載とを併せてみて、「錠剤印刷装置1は、搬送方向と直交する方向の複数の錠剤Tを搬送する第1の搬送コンベア4と第2の搬送コンベア4’とを備える」といえる。

摘記事項(2-4)の「【0115】・・・各錠剤Tは、図30に示す検出位置において、第1の検出用ラインセンサカメラ5により検出される。このとき、各錠剤Tは、第1の検出用ラインセンサカメラ5のカメラレンズ51により撮影され、撮影された画像データがラインセンサ50により検出される。ラインセンサ50により検出された各錠剤Tの検出データには、錠剤Tの種別や位置、姿勢(向き)、表裏の情報等を含んでいる。・・・」との記載から、「錠剤印刷装置1は、第1の搬送コンベア4によって搬送される搬送方向と直交する方向の複数の錠剤Tの第1の面を撮像する第1のラインセンサ50を備える」といえる。

摘記事項(2-5)の「【0121】・・・各錠剤Tは、図33に示す検出位置において、第2の検出用ラインセンサカメラ5’により検出される。このとき、各錠剤Tは、第2の検出用ラインセンサカメラ5’のカメラレンズ51’により撮影され、撮影された画像データがラインセンサ50’により検出される。ラインセンサ50’により検出された各錠剤Tの検出データには、錠剤Tの位置や姿勢(向き)、表裏の情報等を含んでいる。・・・」との記載から、「錠剤印刷装置1は、第2の搬送コンベア4’によって搬送される搬送方向と直交する方向の複数の錠剤Tの第2の面を撮像する第2のラインセンサ50’を備える」といえる。

摘記事項(2-4)の「【0116】・・・第1の検出用ラインセンサカメラ5により検出された各錠剤Tは、図31に示すように、印刷位置において、第1のインクジェットプリンタ部6により印刷処理を受ける。・・・」との記載から、「錠剤印刷装置1は、第1の搬送コンベア4によって搬送される搬送方向と直交する方向の複数の錠剤Tの第1の面に印刷する第1のインクジェットプリンタ部6を備える」といえる。

摘記事項(2-5)の「【0122】・・・第2の検出用ラインセンサカメラ5’により検出された各錠剤Tは、図34に示すように、印刷位置において、第2のインクジェットプリンタ部6’により印刷処理を受ける。・・・」との記載から、「錠剤印刷装置1は、第2の搬送コンベア4’によって搬送される搬送方向と直交する方向の複数の錠剤Tの第2の面に印刷する第2のインクジェットプリンタ部6’を備える」といえる。

摘記事項(2-4)の「【0109】・・・制御部200の入力ポートには、・・・第1、第2の検出用ラインセンサカメラ5、5’で検出された各錠剤の検出データに基づいて各錠剤に印刷すべき印刷パターンを作成する画像処理装置150と、」及び「【0110】・・・制御部200の出力ポートには、・・・第1、第2のインクジェット(IJP)ヘッド60、60’と、これらを駆動するIJPコントローラ152と、・・・が接続されている。」との記載から、「錠剤印刷装置1は、第1の検出用ラインセンサカメラ5及び第2の検出用ラインセンサカメラ5’で検出された各錠剤の検出データに基づいて第1のインクジェットプリンタ部6及び第2のインクジェットプリンタ部6’を制御する制御部200を備える」といえる。

摘記事項(2-4)の「【0116】・・・第1のインクジェットプリンタ部6は、第1の検出用ラインセンサカメラ5で検出された各錠剤Tの検出データに基づいて、搬送中の各錠剤Tに印刷を行う。この例では、割線が形成された側の面には印刷処理が行われず、割線が形成されていない側の面にのみ印刷処理が行われる。・・・」との記載と、摘記事項(2-5)の「【0122】・・・第2のインクジェットプリンタ部6’は、第2の検出用ラインセンサカメラ5’で検出された各錠剤Tの検出データに基づいて、搬送中の各錠剤Tに印刷を行う。この例では、割線が形成された側の面には印刷処理が行われず、割線が形成されていない側の面にのみ印刷処理が行われる。・・・」との記載からみて、「制御部200は、第1の検出用ラインセンサカメラ5および第2の検出用ラインセンサカメラ5’で検出された各錠剤の検出データに基づいて、第1の搬送コンベア4および第2の搬送コンベア4’によって搬送される搬送方向と直交する方向の複数の錠剤Tについて、割線が形成された面の反対の面に対して印刷を行うように、第1のインクジェットプリンタ部6および第2のインクジェットプリンタ部6’を制御する」といえる。

以上から、甲第2号証には、次の発明が記載されている(以下、「甲第2号証発明」という。)。
「一方の面に割線が形成された割線錠に対して印刷処理を行う錠剤印刷装置1であって、
搬送方向と直交する方向の複数の錠剤Tを搬送する第1の搬送コンベア4及び第2の搬送コンベア4’と
第1の搬送コンベア4によって搬送される搬送方向と直交する方向の複数の錠剤Tの第1の面を撮像する第1のラインセンサ50と、
第1の搬送コンベア4によって搬送される搬送方向と直交する方向の複数の錠剤Tの第1の面に印刷する第1のインクジェットプリンタ部6と、
第2の搬送コンベア4’によって搬送される搬送方向と直交する方向の複数の錠剤Tの第2の面を撮像する第2のラインセンサ50’と、
第2の搬送コンベア4’によって搬送される搬送方向と直交する方向の複数の錠剤Tの第2の面に印刷する第2のインクジェットプリンタ部6’と
第1の検出用ラインセンサカメラ5および第2の検出用ラインセンサカメラ5’で検出された各錠剤の検出データに基づいて第1のインクジェットプリンタ部6および第2のインクジェットプリンタ部6’を制御する制御部200を備え、
制御部200は、第1の検出用ラインセンサカメラ5および第2の検出用ラインセンサカメラ5’で検出された各錠剤の検出データに基づいて、第1の搬送コンベア4および第2の搬送コンベア4’によって搬送される搬送方向と直交する方向の複数の錠剤Tについて、割線が形成された面の反対の面に対して印刷を行うように、第1のインクジェットプリンタ部6および第2のインクジェットプリンタ部6’を制御する錠剤印刷装置1。」

(3)甲第3号証(国際公開第2014-013974号)
同じく取消理由において引用した文献である甲第3号証には、次のとおり記載されている。
(3-1)「[0002] 本発明は、錠剤に印刷する印刷機に関するものである。また、本発明は、当該印刷機で製造される錠剤に関するものである。」

(3-2)「[0105] また、上記実施形態に係る印刷機において、各印刷装置44,55及び各印刷制御部622,626は、錠剤1の一方側(上記実施例では下方側)を向いた面及び他方側(上記実施例では上方側)を向いた面のうち、割線11を有する面に、印刷しない構成である。しかしながら、本発明に係る印刷機は、かかる構成に限られない。例えば、各印刷装置44,55及び各印刷制御部622,626は、錠剤1の割線11を有する面にも、印刷する構成でもよい。かかる構成の印刷機の6つの具体例が、以下に説明されている。
[0106] まず、割線11を有する面にも印刷する印刷機の第1の具体例が、図15?図20を参酌して、以下に説明されている。
[0107] かかる印刷機の制御装置62において、図15に示すように、下方印刷制御部622は、下方割線判定部622a、下方印刷判定部622b及び印刷情報記憶部622cを備える。また、下方印刷制御部622は、下方撮像装置43によって撮像された画像に基づいて割線11の位置を演算する割線位置演算部622dと、割線位置演算部622dにおいて演算された結果に基づいて、下方印刷装置44によって印刷する情報を演算する印刷情報演算部622eと、をさらに備える。
[0108] また、上方印刷制御部626は、上方割線判定部626a、上方印刷判定部626b及び印刷情報記憶部626cを備える。また、上方印刷制御部626は、上方撮像装置54によって撮像された画像に基づいて割線11の位置を演算する割線位置演算部626dと、割線位置演算部626dにおいて演算された結果に基づいて、上方印刷装置55によって印刷する情報を演算する印刷情報演算部626eと、をさらに備える。・・・
[0110] かかる印刷機においては、下方検査部623が、錠剤1の下方側の面が正常か異常かを検査した(ステップ103)後に、下方印刷装置44が、錠剤1の下方側の面に印刷する(ステップ105a)。この印刷(ステップ105a)は、以下の通りである。
[0111] まず、下方割線判定部622aは、下方撮像装置43によって撮像された画像に基づいて、割線11の有無を判定する(ステップ105b)。・・・
[0112]・・・錠剤1の下方側の面に割線11が有る場合(ステップ105bの「Y」)、割線位置演算部622dは、下方撮像装置43によって撮像された画像に基づいて、割線11が所定の位置に対して何度回転した角度であるかを演算する(ステップ105c)。その後、印刷情報演算部622eは、印刷情報記憶部622cに記憶されている印刷情報を呼び出し、呼び出した情報を、割線位置演算部622dによって演算した角度だけ回転させるように演算する(ステップ105d)。そして、下方印刷装置44は、印刷情報演算部622eにおいて演算した情報に基づいて、錠剤1の下方側の面に印刷する。
[0113] また、かかる印刷機においては、錠剤1の上方側の面が正常か異常かを上方検査部627が検査した(ステップ112)後、上方印刷装置55が錠剤1の上方側の面に印刷する(ステップ114a)。この印刷(ステップ114a)は、以下の通りである。
[0114] まず、上方割線判定部626aは、上方撮像装置54によって撮像された画像に基づいて、割線11の有無を判定する(ステップ114b)。・・・
[0115] 反対に、錠剤1の上方側の面に割線11が有る場合(ステップ114bの「Y」)、割線位置演算部626dは、上方撮像装置54によって撮像された画像に基づいて、割線11が所定の位置に対して何度回転した角度であるかを演算する(ステップ114c)。その後、印刷情報演算部626eは、印刷情報記憶部626cに記憶されている印刷情報を呼び出し、呼び出した情報を、割線位置演算部626dにおいて演算した角度だけ回転させるように演算する(ステップ114d)。上方印刷装置55は、印刷情報演算部626eにおいて演算した情報に基づいて、錠剤1の上方側の面に印刷する。
[0116] かかる構成によれば、割線11がさまざまな位置の状態で、錠剤1が搬送ベルト241によって搬送されていても、図19及び図20に示すように、下方印刷装置44は、割線11を基準として、同じように印刷できる。したがって、例えば、印刷部位(符号)12は、錠剤1の割線11に沿って印字されたものでもよい。具体的には、下方印刷装置44は、錠剤1における割線11の設けられた面101において、割線11に対して一方側の領域111に第1の符号121を印刷すると共に、他方側の領域112に第2の符号122を印刷してもよい。」

(3-3)「[0143] 次に、割線11を有する面にも印刷する印刷機の第6の具体例が、図32?図34を参酌して、以下に説明されている。尚、本具体例の錠剤1の表面は、図32?図34に示すように、一方側(図34では上側)を向いた面である第1の面101と、他方側(図34では下側)を向いた面である第2の面102と、第1の面101と第2の面102との周縁同士を接続する円筒状の周面103と、によって構成されている。また、本具体例の錠剤1では、割線11が第1の面101に設けられている。
[0144] かかる印刷機において、錠剤1が割線11の設けられた第1の面101を下方に向けて第1の搬送部24によって搬送されている場合には、下方印刷装置45と上方印刷装置55とが錠剤1の各面101、102に対して以下の通りに印刷する。
[0145] 下方印刷装置45は、図32及び図34に示すように、第1の面101において、割線11に対して一方側(図32では左側)の第1領域111に第1の符号121を印刷すると共に、他方側(図32では右側)の第2領域112に第2の符号122を印刷する。この第2の符号122は、第1の符号121と異なる符合である。また、上方印刷装置55は、図33及び図34に示すように、第2の面102において、第1領域111と対応する第3領域(即ち、第1の面101の割線11と対応する部位110に対して一方側(図33では左側)の領域)113に第2の符号122を印刷すると共に、第2領域112と対応する第4領域(即ち、第1の面101の割線11と対応する部位110に対して他方側(図33では右側)の領域)114に第1の符号121を印刷する。
[0146] 一方、錠剤1が割線11のない第2の面102を下方に向けて第1の搬送部24によって搬送されている場合には、下方印刷装置45と上方印刷装置55が錠剤1の各面101、102に対して以下の通りに印刷する。
[0147] 下方印刷装置45は、第2の面102において、第3領域113に第1の符号121を印刷すると共に第4領域114に第2の符号122を印刷する。また、上方印刷装置55は、第1の面101において、第1の領域111に第2の符号122を印刷すると共に第2領域に第1の符号121を印刷する。
[0148] かかる構成によれば、当該印刷機によって印刷された錠剤1は、割線11の位置において分割されたときにいずれの分割片においても第1の符号121と第2の符号122との両符号がそれぞれ印刷されている状態となる。」

(3-4)図32の記載から、第1の符号121である「ABC」と第2の符号122である「DEF」は、錠剤1の割線11を有する面において、割線11に沿って印刷されていることが窺える。

(3-5)図33の記載から、第1の符号121である「ABC」と第2の符号122である「DEF」は、錠剤1の割線11を有しない面において、割線11と対応する部位110に沿って印刷されていることが窺える。

上記摘記事項と図示内容とを総合してみて、甲第3号証には次の技術事項が記載されている(以下、「甲第3号証に記載された技術事項」という。)。
「一方の面に割線11を有する錠剤1において、割線11を有する面の印刷を割線11に沿ったものとすること(特に上記摘記事項(3-2)及び図示内容(3-4)を参照。)、および、割線11を有する面およびその割線11を有しない面の印刷を割線11に対して平行な方向とすること(特に上記摘記事項(3-3)及び図示内容(3-5)を参照。)。」

3 当審の判断
3-1 サポート要件について
(1)訂正前の請求項1?4の記載に対するサポート要件の取消理由は次のとおりである。
「請求項1の「・・・複数の錠剤を搬送する搬送機構と、・・・前記複数の錠剤の一方面を撮像する第1撮像部と、・・・前記複数の錠剤の他方面を撮像する第2撮像部と、・・・前記複数の錠剤の他方面に印刷処理を行う第1印刷部と、・・・前記複数の錠剤の一方面に印刷処理を行う第2印刷部と、・・・前記印刷制御部は、・・・前記複数の錠剤のそれぞれにおける前記割線の方向を特定し、前記複数の錠剤の裏面に対して前記割線に対する所定方向に沿って印刷処理を行う・・・錠剤印刷装置。」(下線を付与した。以下同様。)との記載からみて、発明特定事項としての「複数の錠剤」は、何らの限定もなされていない。
したがって、当該請求項に係る発明は、「複数の錠剤」に関し、錠剤印刷装置における錠剤の搬送方向と直交する方向の複数の錠剤のみならず、例えば搬送方向に沿った複数の錠剤をも含むものである。
一方、発明の詳細な説明には、錠剤印刷装置の第1撮像部及び第2撮像部で撮像する「複数の錠剤」として、あくまでも搬送方向と直交する方向の「複数の錠剤」が記載されているにすぎず・・・、それ以外の「複数の錠剤」・・・の記載はない。・・・
よって、請求項1に係る発明は発明の詳細な説明に記載したものではない。
・・・
請求項2?4は、請求項1を直接あるいは間接的に引用して記載するものであり、一方、これらの請求項の記載は、「複数の錠剤」を特定するものではない。
したがって、請求項2?4に係る発明も、・・・同様の理由により、発明の詳細な説明に記載したものではない。」

(2)これに対して、本件訂正請求による訂正により、請求項1の「複数の錠剤」は「搬送方向と垂直な方向の」「複数の錠剤」に訂正された。これは、明細書の「【0044】・・・搬送ドラム10には、搬送方向(搬送ドラム10の周方向)に垂直な方向、つまり搬送ドラム10の中心軸方向に沿って5列に吸着孔11が形設されている。従って、搬送ドラム10は、搬送方向と垂直な方向に5個の錠剤を整列させた5列にて複数の錠剤2を搬送する。本明細書では、搬送ドラム10の搬送方向と垂直な方向に5個の錠剤を配列した単位を「行」と表記する。」との記載からも明らかなように、発明の詳細な説明に記載された範囲内のものであるといえる。
したがって、請求項1の記載について、上記サポート要件の取消理由は解消した。
また、請求項3及び4は、請求項1を直接あるいは間接的に引用して記載するものであり、また、請求項4の「複数の錠剤」も上記した請求項1についての訂正と同様に「搬送方向と垂直な方向の」「複数の錠剤」に訂正された。
したがって、請求項3及び4の記載についても、上記サポート要件の取消理由は解消した。

(3)小括
以上のとおりであるから、請求項1、3?4に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものである。

3-2 進歩性について
(1)本件発明1について
(1-1)対比
本件発明1と甲第1号証発明とを対比すると、その構造または機能からみて、甲第1号証発明の「印刷機」は、本件発明1の「錠剤印刷装置」に相当し、以下同様に、「上方側の面または下方側の面のいずれか一方側の面」は「表面」に、「割線11」は「割線」に、「錠剤1」は「錠剤」に、それぞれ相当する。
そして、甲第1号証発明の「上方側の面または下方側の面のいずれか一方側の面に割線11を有する錠剤1に対して印刷する印刷機」は、本件発明1の「表面に割線が刻設された錠剤に対して印刷処理を行う錠剤印刷装置」に相当する。
同様に、「搬送ユニット2」は「搬送機構」に、「上方側の面」は「一方面」に、「搬送装置23の上流側に配置された上方撮像装置54」は「第1撮像部」に、「下方側の面」は「他方面」に、「下方撮像装置43」は「第2撮像部」に、「下方印刷装置44」は「第1印刷部」に、「上方印刷装置55」は「第2印刷部」に、「画像」は「画像データ」に、「制御装置62」は「印刷制御部」に、それぞれ相当する。
そして、甲第1号証発明の「「搬送装置23の上流側に配置された上方撮像装置54」または下方撮像装置43によって撮像された画像に基づいて下方印刷装置44および上方印刷装置55を制御する制御装置62」は、本件発明1の「前記第1撮像部および前記第2撮像部によって取得された画像データに基づいて前記第1印刷部および前記第2印刷部を制御する印刷制御部」に相当する。
また、甲第1号証発明の「錠剤1の割線11の無い面」、「錠剤1の割線11の有る面」は、それぞれ、本件発明1の「錠剤の裏面」、「錠剤の表面」に相当する。
甲第1号証発明の「上方の割線位置演算部1622dまたは下方の割線位置演算部1626dにおいて、前記画像に基づいて前記錠剤1の割線11が所定の位置に対して何度回転した角度であるかを演算し、その後、上方の印刷情報演算部1622eまたは下方の印刷情報演算部1626eにおいて、上方の印刷情報記憶部1622cまたは下方の印刷情報記憶部1626cに記憶されている印刷情報を呼び出し、呼び出した情報を、上方の割線位置演算部1622dまたは下方の割線位置演算部1626dによって演算した角度だけ回転させるように演算し、演算した情報に基づいて」「印刷し」は、本件発明1の「画像データに基づいて」「錠剤の」「割線の方向を特定し、」「割線に対する所定方向に沿って印刷処理を行う」に相当し、また、甲第1号証発明の「上方割線判定部1622aまたは下方割線判定部1626aにおいて、「搬送装置23の上流側に配置された上方撮像装置54」または下方撮像装置43によって撮像された画像に基づいて割線11が前記錠剤1の上方側の面と下方側の面との何れに有るかを判定し、」「錠剤1の割線11の無い面に印刷し」は、本件発明1の「錠剤の裏面に対して」「印刷処理を行う」に相当する。

以上から、本件発明1と甲第1号証発明とは、
「表面に割線が刻設された錠剤に対して印刷処理を行う錠剤印刷装置であって、
錠剤を搬送する搬送機構と、
前記搬送機構によって搬送される前記錠剤の一方面を撮像する第1撮像部と、
前記搬送機構によって搬送される前記錠剤の他方面を撮像する第2撮像部と、
前記搬送機構による搬送方向に沿って前記第1撮像部および前記第2撮像部よりも下流に設けられ、前記錠剤の他方面に印刷処理を行う第1印刷部と、
前記搬送機構による搬送方向に沿って前記第1撮像部および前記第2撮像部よりも下流に設けられ、前記錠剤の一方面に印刷処理を行う第2印刷部と、
前記第1撮像部および前記第2撮像部によって取得された画像データに基づいて前記第1印刷部および前記第2印刷部を制御する印刷制御部と、
を備え、
前記印刷制御部は、前記画像データに基づいて前記錠剤の前記割線の方向を特定し、前記錠剤の裏面に対して前記割線に対する所定方向に沿って印刷処理を行うように前記第1印刷部および前記第2印刷部を制御する錠剤印刷装置。」である点で一致し、次の点で相違する。

(相違点1)
本件発明1は、搬送機構が搬送する錠剤が搬送方向と垂直な方向の複数の錠剤であり、第1撮像部及び第2撮像部が前記複数の錠剤を撮像し、第1印刷部及び第2印刷部が前記複数の錠剤に印刷処理し、印刷制御部が前記複数の錠剤について前記第1印刷部および前記第2印刷部を制御するものであるのに対し、甲第1号証発明は、搬送機構が搬送する錠剤が搬送方向と垂直な方向の複数の錠剤であるか不明であり、それゆえ、第1撮像部及び第2撮像部が前記複数の錠剤を撮像し、第1印刷部及び第2印刷部が前記複数の錠剤に印刷処理し、印刷制御部が前記複数の錠剤について前記第1印刷部および前記第2印刷部を制御するかも不明な点。

(相違点2)
印刷制御部の制御について、本件発明1は、画像データに基づいて錠剤の割線の方向を特定し、前記錠剤の表面に対して前記所定方向と同一方向に沿って印刷処理を行うように前記第1印刷部および前記第2印刷部を制御するものであるのに対し、甲第1号証発明は、前記錠剤の表面に対して印刷しないように前記第1印刷部および前記第2印刷部を制御するものである点。

(1-2)判断
最初に、甲第1号証発明において、本件発明1の相違点2に係る発明特定事項を備えることについて動機付けがあるかどうか検討する。
甲第1号証発明は、印刷制御部に関し、「制御装置62は、・・・前記錠剤1の割線11の無い面に印刷し、前記錠剤1の割線11の有る面に印刷しないように下方印刷装置45および上方印刷装置55を制御する」もの、すなわち、錠剤の裏面には印刷するが、その表面に対してはあえて印刷しないようにするものである。
してみると、甲第1号証発明には、そもそも錠剤の表面に割線がある場合においてその錠剤の両面に印刷をするという動機付けがあるとはいえない。

(1-3)小括
以上のとおり、甲第1号証発明において、本件発明1の相違点2に係る発明特定事項を備えるものとすることについての動機付けがあるとはいえないから、本件発明1は、甲第1号証?甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得たものではない。

(2)本件発明3及び4について
本件発明3及び4は、本件発明1を更に減縮したものであるから、上記「(1)本件発明1について」の理由と同様の理由により、甲第1号証?甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得たものではない。

(3)まとめ
以上のとおりであるから、本件発明1、3及び4は、甲第1号証?甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得たものではない。

4 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
本件発明1は、訂正前の請求項2に係る発明をさらに減縮したものである(特許権者の提出した意見書4頁参照。)ところ、訂正前の請求項2に係る発明に対し、特許異議申立人は、「表面(割線のある面)に対して割線に対する所定方向と同一方向に印刷を行う点は甲第3号証に記載されている(以下、「甲3記載事項1」という。)。」とした上で、「甲1発明に甲2記載事項1、及び甲3記載事項1を適用して、本件特許発明2のようにすることは、当業者にとって容易に想到し得ることである。」(特許異議申立書15?17及び19頁参照。)と主張している。

そこで、甲第3号証をみてみる。
(4-1)甲第3号証には、錠剤1の割線11を有する面に印刷する印刷機に関し、6つの具体例が記載されている(段落[0105]の記載を参照。)。そこで、それらの具体例について検討する。
(i)第1の具体例に関し
甲第3号証には、「[0106] まず、割線11を有する面にも印刷する印刷機の第1の具体例が、図15?図20を参酌して、以下に説明されている。・・・
[0111]・・・錠剤1の下方側の面に割線11が無い場合・・・下方印刷装置44が、印刷情報演算部622eによって呼び出された情報を、錠剤1の下方側の面に印刷する。
[0112] 反対に、錠剤1の下方側の面に割線11が有る場合・・・下方撮像装置43によって撮像された画像に基づいて、割線11が所定の位置に対して何度回転した角度であるかを演算する・・・。その後、印刷情報演算部622eは、・・・印刷情報を呼び出し、呼び出した情報を、・・・演算した角度だけ回転させるように演算する・・・。そして、下方印刷装置44は、・・・演算した情報に基づいて、錠剤1の下方側の面に印刷する。・・・
[0114]・・・錠剤1の上方側の面に割線11が無い場合・・・上方印刷装置55は、印刷情報演算部626eによって呼び出された情報を、錠剤1の上方側の面に印刷する。
[0115] 反対に、錠剤1の上方側の面に割線11が有る場合・・・上方撮像装置54によって撮像された画像に基づいて、割線11が所定の位置に対して何度回転した角度であるかを演算する・・・。その後、印刷情報演算部626eは、・・・印刷情報を呼び出し、呼び出した情報を、・・・演算した角度だけ回転させるように演算する・・・。上方印刷装置55は、印刷情報演算部626eにおいて演算した情報に基づいて、錠剤1の上方側の面に印刷する。・・・
[0116] かかる構成によれば、割線11がさまざまな位置の状態で、錠剤1が搬送ベルト241によって搬送されていても、・・・下方印刷装置44は、割線11を基準として、同じように印刷できる。」と記載されている。
したがって、甲第3号証には、第1の具体例に関して「割線が刻設された錠剤に対する印刷処理を、当該錠剤の印刷する側の面に撮像装置を設けることにより、当該錠剤の印刷する側の面に割線が有る場合、印刷情報を当該錠剤の割線を基準として印刷し、一方、当該錠剤の印刷する側の面に割線が無い場合、印刷情報を当該錠剤の割線を基準とせずに印刷する処理とすること。」が記載されていると認められる。

(ii)第2の具体例に関し
甲第3号証には、「[0117] 次に、割線11を有する面にも印刷する印刷機の第2の具体例が、図21?図23を参酌して、以下に説明されている。
[0118]・・・第1の搬送部24は、下方撮像装置43と下方印刷装置44と間に、割線11の位置(即ち、真っ直ぐに延びる溝状の割線11の方向)を揃える割線位置揃え装置245を備える。・・・
[0123]・・・割線位置揃え装置245は、錠剤1を回転させることで、割線11を所定の位置にすることができる。これにより、下方印刷装置44は、割線11を基準として、錠剤1に対して同じように印刷できる。
[0124] なお、第2の搬送部25も、・・・割線位置揃え装置を備えてもよい。・・・」と記載されている。
したがって、甲第3号証には、第2の具体例に関して「割線が刻設された錠剤に対する印刷処理を、錠剤の搬送部に割線位置揃え装置を設けることにより当該錠剤の割線を所定の位置とし、その後当該錠剤に印刷情報を印刷することにより、当該錠剤の印刷を割線を基準とする処理とすること。」が記載されていると認められる。

(iii )第3の具体例に関し
甲第3号証には、「[0125] 次に、割線11を有する面にも印刷する印刷機の第3の具体例が、図24?図26を参酌して、以下に説明されている。
[0126]・・・搬入装置22は、整列部222によって整列させられた錠剤1に対し、割線11の位置を揃える割線位置揃え装置223を備える。・・・
[0130] したがって、割線11がさまざまな位置(向き)の状態で、錠剤1が搬入ベルト221によって搬送されていても、割線位置揃え装置223が錠剤1を揺動させることで、割線11を所定の位置・・・にすることができる。これにより、下方印刷装置44は、割線11を基準として、錠剤1に対して同じように印刷できる。」と記載されている。
したがって、甲第3号証には、第3の具体例に関して「割線が刻設された錠剤に対する印刷処理を、錠剤の搬入装置に割線位置揃え装置を設けることにより当該錠剤の割線を所定の位置とし、その後当該錠剤に印刷情報を印刷することにより、当該錠剤の印刷を割線を基準とする処理とすること。」が記載されていると認められる。

(iv)第4の具体例に関し
甲第3号証には、「[0131] 次に、割線11を有する面にも印刷する印刷機の第4の具体例が、図27?図29を参酌して、以下に説明されている。
[0132]・・・搬入装置22は、整列部222によって整列させられた錠剤1に対して、割線11の位置を揃える割線位置揃え装置223を備える。・・・
[0137] したがって、割線11がさまざまな位置の状態で、錠剤1が搬入ベルト221によって搬送されていても、割線位置揃え装置223は、錠剤1を回転させることで、割線11を所定の位置(具体的には、突条部221aと平行な位置)にすることができる。これにより、下方印刷装置44は、割線11を基準として、錠剤1に対して同じように印刷できる。」と記載されている。
したがって、甲第3号証には、第4の具体例に関して「割線が刻設された錠剤に対する印刷処理を、錠剤の搬入装置に割線位置揃え装置を設けることにより当該錠剤の割線を所定の位置とし、その後当該錠剤に印刷情報を印刷することにより、当該錠剤の印刷を割線を基準とする処理とすること。」が記載されていると認められる。

(v)第5の具体例に関し
甲第3号証には、「[0138] 次に、割線11を有する側にも印刷する印刷機の第5の具体例が、図30及び図31を参酌して、以下に説明されている。
[0139]・・・搬入装置22は、整列部222によって整列させられた錠剤1に対して、割線11の位置を揃える割線位置揃え装置223を備える。・・・
[0142] したがって、割線11がさまざまな位置の状態で、錠剤1が搬送されていても、割線位置揃え装置223は、錠剤1を回転させることで、割線11を所定の位置(具体的には、突条部223jと平行な位置)にすることができる。これにより、下方印刷装置44は、割線11を基準として、錠剤1に対して同じように印刷できる。」と記載されている。
したがって、甲第3号証には、第5の具体例に関して「割線が刻設された錠剤に対する印刷処理を、錠剤の搬入装置に割線位置揃え装置を設けることにより当該錠剤の割線を所定の位置とし、その後当該錠剤に印刷情報を印刷することにより、当該錠剤の印刷を割線を基準とする処理とすること。」が記載されていると認められる。

(vi)第6の具体例に関し
甲第3号証には、「[0143] 次に、割線11を有する面にも印刷する印刷機の第6の具体例が、図32?図34を参酌して、以下に説明されている。尚、本具体例の錠剤1の表面は、図32?図34に示すように、一方側(図34では上側)を向いた面である第1の面101と、他方側(図34では下側)を向いた面である第2の面102と、第1の面101と第2の面102との周縁同士を接続する円筒状の周面103と、によって構成されている。また、本具体例の錠剤1では、割線11が第1の面101に設けられている。
[0144] かかる印刷機において、錠剤1が割線11の設けられた第1の面101を下方に向けて第1の搬送部24によって搬送されている場合には、下方印刷装置45と上方印刷装置55とが錠剤1の各面101、102に対して以下の通りに印刷する。
[0145] 下方印刷装置45は、図32及び図34に示すように、第1の面101において、割線11に対して一方側・・・の第1領域111に第1の符号121を印刷すると共に、他方側・・・の第2領域112に第2の符号122を印刷する。この第2の符号122は、第1の符号121と異なる符合である。また、上方印刷装置55は、図33及び図34に示すように、第2の面102において、第1領域111と対応する第3領域・・・113に第2の符号122を印刷すると共に、第2領域112と対応する第4領域・・・114に第1の符号121を印刷する。
[0146] 一方、錠剤1が割線11のない第2の面102を下方に向けて第1の搬送部24によって搬送されている場合には、下方印刷装置45と上方印刷装置55が錠剤1の各面101、102に対して以下の通りに印刷する。
[0147] 下方印刷装置45は、第2の面102において、第3領域113に第1の符号121を印刷すると共に第4領域114に第2の符号122を印刷する。また、上方印刷装置55は、第1の面101において、第1の領域111に第2の符号122を印刷すると共に第2領域に第1の符号121を印刷する。
[0148] かかる構成によれば、当該印刷機によって印刷された錠剤1は、割線11の位置において分割されたときにいずれの分割片においても第1の符号121と第2の符号122との両符号がそれぞれ印刷されている状態となる。」と記載されている。
したがって、甲第3号証には、第6の具体例に関して「割線が刻設された錠剤に対する印刷処理を、(あ)割線の設けられた第1の面を下方に向けて第1の搬送部によって搬送されている場合には、下方印刷装置は、第1の面において、割線に対して一方側の第1領域に第1の符号、他方側の第2領域に第2の符号を印刷すると共に、上方印刷装置は、第2の面において、第1領域と対応する第3領域に第2の符号、第2領域と対応する第4領域に第1の符号を印刷し、(い)錠剤1が割線のない第2の面を下方に向けて第1の搬送部によって搬送されている場合には、下方印刷装置は、第2の面において、第3領域に第1の符号、第4領域に第2の符号を印刷すると共に、上方印刷装置は、第1の面において、第1の領域に第2の符号、第2領域に第1の符号を印刷する処理とすること」が記載されていると認められる。

(4-3)したがって、甲第3号証には、錠剤1の割線11を有する面に印刷する印刷機について、
(i)具体例1に係る「割線が刻設された錠剤に対する印刷処理を、当該錠剤の印刷する側の面に撮像装置を設けることにより、当該錠剤の印刷する側の面に割線が有る場合、印刷情報を当該錠剤の割線を基準として印刷し、一方、当該錠剤の印刷する側の面に割線が無い場合、印刷情報を当該錠剤の割線を基準とせずに印刷する処理とすること。」(以下、「具体例1に係る技術事項」という。)と、
(ii)具体例2?5に係る「割線が刻設された錠剤に対する印刷処理を、錠剤の搬送部又は搬入装置に割線位置揃え装置を設けることにより当該錠剤の割線を所定の位置とし、その後当該錠剤に印刷情報を印刷することにより、当該錠剤の印刷を割線を基準とする処理とすること。」(以下、「具体例2?5に係る技術事項」という。)と
(iii )具体例6に係る「割線が刻設された錠剤に対する印刷処理を、(あ)割線の設けられた第1の面を下方に向けて第1の搬送部によって搬送されている場合には、下方印刷装置は、第1の面において、割線に対して一方側の第1領域に第1の符号、他方側の第2領域に第2の符号を印刷すると共に、上方印刷装置は、第2の面において、第1領域と対応する第3領域に第2の符号、第2領域と対応する第4領域に第1の符号を印刷し、(い)錠剤1が割線のない第2の面を下方に向けて第1の搬送部によって搬送されている場合には、下方印刷装置は、第2の面において、第3領域に第1の符号、第4領域に第2の符号を印刷すると共に、上方印刷装置は、第1の面において、第1の領域に第2の符号、第2領域に第1の符号を印刷する処理とすること」(以下、「具体例6に係る技術事項」という。)
が記載されている。

(4-4)次に、これらの技術事項を甲第1号証発明に適用することについて検討する。
具体例1に係る技術事項は、「割線が刻設された錠剤に対する印刷処理を、当該錠剤の印刷する側の面に撮像装置を設けることにより、当該錠剤の印刷する側の面に割線が有る場合、印刷情報を当該錠剤の割線を基準として印刷し、一方、当該錠剤の印刷する側の面に割線が無い場合、印刷情報を当該錠剤の割線を基準とせずに印刷する処理とすること」であるから、錠剤の印刷について、割線が有る側の面には割線を基準として印刷し、割線が無い側の面には割線を基準とせずに印刷するものである。したがって、具体例1に係る技術事項を甲第1号証発明に適用することは、甲第1号証発明における、割線が無い面についての錠剤の印刷は、印刷情報を当該錠剤の割線を基準として印刷するものから割線を基準とせずに印刷するものへと変更せざるを得なくなる、すなわち、具体例1に係る技術事項を甲第1号証発明に適用しても、その結果本件発明1とは異なったものとなるので、不適当である。
また、具体例2?5に係る技術事項は、錠剤の割線を基準として印刷するにあたって、予め割線位置揃え装置により錠剤の割線を所定の位置とするものであるから、錠剤の割線の位置を変更することなく錠剤への印刷を行う甲第1号証発明の技術思想とは異なるものであって、具体例2?5に係る技術事項を甲第1号証発明に適用することは、そもそもできないし、仮に適用したとしても割線位置揃え装置を備えることとなるので不適当である。
具体例6に係る技術事項は、割線が刻設された錠剤について、割線が有る側の面を下方に向けて搬送されている場合に、割線が有る側と無い側との両面に、割線を基準として印刷するものとであるが、具体例6には、その印刷をどのような印刷機を用いて行うかについての記載はない。そして、その印刷機が、仮に、具体例1に係る技術事項の印刷機であるとしてみると、上記したとおり具体例1に係る技術事項は割線が無い側の面には割線を基準とせずに印刷するものであるから、具体例6に係る技術事項を実現することができないことは明らかである。また、具体例2?5に係る技術事項の印刷機であるとしてみると、上記したとおり、具体例2?5に係る技術事項は、錠剤の割線を基準として印刷するにあたって、予め割線位置揃え装置により錠剤の割線を所定の位置とするものであるから、そのような印刷機による具体例6に係る技術事項は、甲第1号証発明に適用することができず、仮に適用したとしても不適当といわざるを得ない。
以上のとおりであるから、具体例1に係る技術事項、具体例2?5に係る技術事項、及び、具体例6に係る技術事項のいずれも、甲第1号証発明に適用することができないものである。

(4-5)以上のとおりであるから、特許異議申立人の上記主張は理由がない。

V むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1、3及び4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1、3及び4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、請求項2に係る特許は、上記のとおり、訂正により削除された。これにより、特許異議申立人による特許異議の申立てについて、請求項2に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
錠剤印刷装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面に方向を識別するための割線が刻設された錠剤に対して印刷処理を行う錠剤印刷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、医薬品の錠剤には薬を識別するためのコードが印字されていることが多い。典型的には、錠剤に印字される識別コードは、例えば製造メーカーを表す会社コードや製品を区別するための製品コードなどである。このような識別コードは、主として医療機関や薬局において調剤のために用いられる。また、錠剤の誤飲防止(例えば、降圧剤と昇圧剤との誤飲防止)のために、患者にも明確に認識できるような表示を錠剤に付することもある。さらに、医薬品のトレーサビリティの目的で錠剤に番号を付するという要望もある。
【0003】
このような識別コードなどは錠剤の表面に刻印されることもあるが、視認性に問題があるために印刷によって錠剤に直接印字を行うことへのニーズが増加している。特許文献1,2には、インクジェットプリンタを用いた錠剤への印刷技術が提案されている。
【0004】
特許文献1には、ランダムに供給された複数のワーク(錠剤)を撮像して各ワークの位置および姿勢等の情報を検出し、そのワーク情報に基づいて各ワークに対する印刷パターンを作成することが開示されている。また、特許文献2には、ランダムに供給された複数の錠剤をラインセンサカメラによって撮像し、その画像データに基づいて錠剤の割線の向きに応じた印刷データを作成することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011-20325号公報
【特許文献2】特開2013-121432号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1,2に開示される錠剤への印刷技術では、錠剤の片面(例えば、特許文献2では割線が形成されている面)にのみ印刷処理を行っているが、錠剤の表裏両面に対して印刷処理を行うことも期待されている。錠剤の表裏両面に印刷処理を行う場合には、薬剤の偽造防止等の観点から表面と裏面とで同じ方向に印刷を行うことが望ましい。
【0007】
また、錠剤(特に、コーティングを施していない素錠)には半分に割るための割線が刻設されていることが多い。特許文献2には、割線の向きに合わせた印刷を行うことが開示されているが、錠剤の表面と裏面とで異なる方向に印刷を行っている場合には、錠剤を割線で半分に割ったときに裏面の印刷情報が分断されて情報価値を喪失するという問題が生じる。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、割線が刻設された錠剤の裏面に対しても印刷処理を行うことができる錠剤印刷装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、請求項1の発明は、表面に割線が刻設された錠剤に対して印刷処理を行う錠剤印刷装置において、搬送方向と垂直な方向の複数の錠剤を搬送する搬送機構と、前記搬送機構によって搬送される搬送方向と垂直な方向の前記複数の錠剤の一方面を撮像する第1撮像部と、前記搬送機構によって搬送される搬送方向と垂直な方向の前記複数の錠剤の他方面を撮像する第2撮像部と、前記搬送機構による搬送方向に沿って前記第1撮像部および前記第2撮像部よりも下流に設けられ、搬送方向と垂直な方向の前記複数の錠剤の他方面に印刷処理を行う第1印刷部と、前記搬送機構による搬送方向に沿って前記第1撮像部および前記第2撮像部よりも下流に設けられ、搬送方向と垂直な方向の前記複数の錠剤の一方面に印刷処理を行う第2印刷部と、前記第1撮像部および前記第2撮像部によって取得された画像データに基づいて前記第1印刷部および前記第2印刷部を制御する印刷制御部と、を備え、前記印刷制御部は、前記画像データに基づいて搬送方向と垂直な方向の前記複数の錠剤のそれぞれにおける前記割線の方向を特定し、搬送方向と垂直な方向の前記複数の錠剤の裏面に対して前記割線に対する所定方向に沿って印刷処理を行うように前記第1印刷部および前記第2印刷部を制御し、前記印刷制御部は、前記画像データに基づいて搬送方向と垂直な方向の前記複数の錠剤のそれぞれにおける前記割線の方向を特定し、搬送方向と垂直な方向の前記複数の錠剤の表面に対して前記所定方向と同一方向に沿って印刷処理を行うように前記第1印刷部および前記第2印刷部を制御することを特徴とする。
【0010】
(削除)
【0011】
また、請求項3の発明は、請求項1の発明に係る錠剤印刷装置において、前記所定方向は前記割線に対して平行な方向であることを特徴とする。
また、請求項4の発明は、請求項1または請求項3の発明に係る錠剤印刷装置において、前記搬送機構による搬送方向に沿って前記第1印刷部と前記第2印刷部との間に設けられ、前記搬送機構によって搬送される搬送方向と垂直な方向の前記複数の錠剤の位置ずれを検出する第3撮像部をさらに備え、前記印刷制御部は、前記第3撮像部によって検出された前記位置ずれに基づいて前記第2印刷部による搬送方向と垂直な方向の前記複数の錠剤のそれぞれに対する印刷位置を調整することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1、請求項3および請求項4の発明によれば、搬送方向と垂直な方向の複数の錠剤の一方面を撮像する第1撮像部および搬送方向と垂直な方向の複数の錠剤の他方面を撮像する第2撮像部によって取得された画像データに基づいて搬送方向と垂直な方向の前記複数の錠剤のそれぞれにおける前記割線の方向を特定し、搬送方向と垂直な方向の複数の錠剤の裏面に対して割線に対する所定方向に沿って印刷処理を行うため、割線が刻設された錠剤の裏面に対しても印刷処理を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る錠剤印刷装置の全体概略構成を示す図である。
【図2】搬送ドラムおよび第1搬送ベルトの外観を示す斜視図である。
【図3】図1の錠剤印刷装置における処理動作の手順を示すフローチャートである。
【図4】図1の錠剤印刷装置における処理動作の手順を示すフローチャートである。
【図5】錠剤の平面図である。
【図6】第1割線カメラによる撮像結果の一例を示す図である。
【図7】第2割線カメラによる撮像結果の一例を示す図である。
【図8】第1インクジェットヘッドによる印刷処理結果の一例を示す図である。
【図9】第3割線カメラによる撮像結果の一例を示す図である。
【図10】第2インクジェットヘッドによる印刷処理結果の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0015】
図1は、本発明に係る錠剤印刷装置1の全体概略構成を示す図である。この錠剤印刷装置1は、錠剤の表裏両面に対して印刷処理を行う装置である。なお、図1および図2には、それらの方向関係を明確にするためZ軸方向を鉛直方向とし、XY平面を水平面とするXYZ直交座標系を適宜付している。また、図1および以降の各図においては、理解容易のため、必要に応じて各部の寸法や数を誇張または簡略化して描いている。
【0016】
錠剤印刷装置1は、主たる要素として、ホッパー8、搬送ドラム10、第1搬送ベルト20、第2搬送ベルト30、第3搬送ベルト40、第1割線カメラ51、第2割線カメラ52、第3割線カメラ53、第1インクジェットヘッド61および第2インクジェットヘッド62を備える。また、錠剤印刷装置1は、装置に設けられた各駆動部を制御して錠剤に対する印刷処理を進行させる制御部3を備える。
【0017】
ホッパー8は、錠剤印刷装置1の筐体5の天井部上側に設けられている。ホッパー8は、多数の錠剤を一括して装置内に投入するための投入部である。ホッパー8から投入された複数の錠剤は、スライダー9によって搬送ドラム10に導かれる。なお、ホッパー8を除く他の要素は、錠剤印刷装置1の筐体5の内部に設けられている。
【0018】
図2は、搬送ドラム10および第1搬送ベルト20の外観を示す斜視図である。搬送ドラム(第1搬送部)10は、略円筒形状を有しており、図示省略の回転駆動モータによってY軸方向に沿った中心軸を回転中心として図1の紙面上で時計回りに回転される。図2に示すように、搬送ドラム10の外周面には複数の吸着孔11が形設されている。本実施形態では、搬送ドラム10の中心軸に沿って等間隔で5列に吸着孔11が形設されている。また、5列1組の吸着孔11が搬送ドラム10の外周面の周方向に沿って等間隔で複数行に設けられている。
【0019】
吸着孔11の形状は印刷処理の対象となる錠剤の形状に応じたものとなる。例えば、本実施形態では円盤形状の錠剤を処理するため、吸着孔11の形状も円形としている。吸着孔11のサイズは錠剤の大きさよりもやや大きい。例えば、円盤形状の錠剤の直径が約10mmであれば、吸着孔11の直径は約12mmとされる。
【0020】
複数の吸着孔11の底部には吸着孔11よりも小さな小孔が設けられており、複数の吸着孔11のそれぞれは当該小孔を介して搬送ドラム10の内部に設けられた吸引機構(図示省略)と連通している。その吸引機構を作動させることによって複数の吸着孔11のそれぞれに大気圧よりも低い負圧を作用させることができる。これにより、搬送ドラム10の各吸着孔11は1個の錠剤を吸着保持することができる。
【0021】
また、搬送ドラム10の内部には、第1搬送ベルト20に対向する部位の近傍にブロー機構が設けられている。当該ブロー機構は、吸着孔11の底部に設けられた上記の小孔に向けて加圧されたエアーを吹き付ける。ブロー機構がエアーを吹き付けることによって、吸着孔11には大気圧よりも高い圧力を作用させることができる。これにより、吸着孔11による錠剤の吸着状態を解除することができる。このように、搬送ドラム10に設けられた複数の吸着孔11の全体には吸引機構によって吸引力を作用させつつも、第1搬送ベルト20に対向している5列1行の吸着孔11についてはブロー機構によって吸着を解除することができる。
【0022】
第1搬送ベルト(第2搬送部)20は、複数の保持板22をベルト状につなぎ合わせたものを一対のプーリに掛け渡して構成される。一対のプーリが図示省略の駆動モータによって回転駆動されることにより、複数の保持板22からなるベルト状体が図1の矢印にて示す向きに回走する。第1搬送ベルト20は、複数の保持板22からなるベルト状体の一部が搬送ドラム10の外周面に近接して対向するように設置されている。
【0023】
図2に示すように、複数の保持板22のそれぞれにはベルト幅方向(Y軸方向)に沿って等間隔で複数の吸着孔21が形設されている。本実施形態では、各保持板22にY軸方向に沿って5列に吸着孔21が形設されている。第1搬送ベルト20の吸着孔21自体の形状および大きさは搬送ドラム10の吸着孔11と同じである。また、各保持板22に5列に並べられた吸着孔21の間隔も搬送ドラム10の中心軸に沿って5列に並べられた吸着孔11の間隔と等しい。
【0024】
上記吸着孔11と同様に、複数の吸着孔21の底部には吸着孔21よりも小さな小孔が設けられており、複数の吸着孔21のそれぞれは当該小孔を介して第1搬送ベルト20の内部に設けられた吸引機構と連通している。その吸引機構を作動させることによって複数の吸着孔21のそれぞれに大気圧よりも低い負圧を作用させることができる。これにより、第1搬送ベルト20の各吸着孔21は1個の錠剤を吸着保持することができる。
【0025】
また、第1搬送ベルト20の内部には、後述する第2搬送ベルト30に対向する部位の近傍にブロー機構が設けられている。当該ブロー機構は、吸着孔21の底部に設けられた上記の小孔に向けて加圧されたエアーを吹き付ける。ブロー機構がエアーを吹き付けることによって、吸着孔21には大気圧よりも高い圧力を作用させることができる。これにより、吸着孔21による錠剤の吸着状態を解除することができる。
【0026】
次に、第2搬送ベルト(第3搬送部)30および第3搬送ベルト(第4搬送部)40の構成は、第1搬送ベルト20と概ね同様である。すなわち、第2搬送ベルト30および第3搬送ベルト40はともに、複数の保持板をベルト状につなぎ合わせたものを一対のプーリに掛け渡して構成される。一対のプーリが図示省略の駆動モータによって回転駆動されることにより、第2搬送ベルト30および第3搬送ベルト40はそれぞれ図1の矢印にて示す向きに回走する。第2搬送ベルト30は、複数の保持板からなるベルト状体の一部が第1搬送ベルト20に近接して対向するように設置されている。同様に、第3搬送ベルト40は、複数の保持板からなるベルト状体の一部が第2搬送ベルト30に近接して対向するように設置されている。
【0027】
第2搬送ベルト30および第3搬送ベルト40の各保持板にもベルト幅方向(Y軸方向)に沿って等間隔で複数(本実施形態では5列)の吸着孔が形設されている。上記と同様に、第2搬送ベルト30の吸着孔には、第2搬送ベルト30の内部に設けられた吸引機構によって大気圧よりも低い負圧を作用させることができる。これにより、第2搬送ベルト30の各吸着孔は1個の錠剤を吸着保持することができる。また、第2搬送ベルト30の内部には、第3搬送ベルト40に対向する部位の近傍にブロー機構が設けられている。当該ブロー機構がエアーを吹き付けることによって第2搬送ベルト30の吸着孔に大気圧よりも高い圧力を作用させて当該吸着孔による錠剤の吸着状態を解除することができる。
【0028】
同様に、第3搬送ベルト40の吸着孔には、第3搬送ベルト40の内部に設けられた吸引機構によって大気圧よりも低い負圧を作用させることができる。これにより、第3搬送ベルト40の各吸着孔は1個の錠剤を吸着保持することができる。また、第3搬送ベルト40の内部には、3箇所にわたってブロー機構が設けられている。ブロー機構がエアーを吹き付けることによって第3搬送ベルト40の吸着孔に大気圧よりも高い圧力を作用させて当該吸着孔による錠剤の吸着状態を解除することができる。
【0029】
第3搬送ベルト40の3箇所のブロー機構は、いずれも下方または斜め下方に向けてエアーを吹き付ける。従って、3箇所のブロー機構のうち、良品ダクト48に対向する部位に設けられたブロー機構がエアーを吹き付けることによって、吸着孔による錠剤の吸着状態を解除して当該錠剤を良品ダクト48に放出することができる。良品ダクト48に放出された錠剤は良品回収ボックス58に回収される。また、未検査ダクト47に対向する部位に設けられたブロー機構がエアーを吹き付けることによって、吸着孔による錠剤の吸着状態を解除して当該錠剤を未検査ダクト47に放出することができる。未検査ダクト47に放出された錠剤は未検査ボックス57に回収される。さらに、不良品ダクト46に対向する部位に設けられたブロー機構がエアーを吹き付けることによって、吸着孔による錠剤の吸着状態を解除して当該錠剤を不良品ダクト46に放出することができる。不良品ダクト46に放出された錠剤は不良品ボックス56に回収される。
【0030】
次に、第1割線カメラ(第1撮像部)51、第2割線カメラ(第2撮像部)52および第3割線カメラ(第3撮像部)53は、いずれも所定領域を撮像するための撮像部であり、例えばCCDカメラである。第1割線カメラ51は、撮像エリアが搬送ドラム10の外周面となるように当該外周面に対向して設置されている。また、第1割線カメラ51は、スライダー9よりも搬送ドラム10の搬送方向に沿った下流側を撮像できる位置に設けられている。第1割線カメラ51は、搬送ドラム10の吸着孔11に吸着保持されて搬送される複数の錠剤を撮像する。第1割線カメラ51の撮像エリアの大きさは適宜のものとすることが可能であるが、搬送ドラム10の円筒周面を撮像することとなるため、その円筒周面の広範囲にわたって焦点を合わせることは困難である。このため、第1割線カメラ51の撮像エリアは、少なくとも第1割線カメラ51に対向している5列1行の錠剤を撮像可能な大きさであれば良い。
【0031】
第2割線カメラ52は、撮像エリアが第1搬送ベルト20の搬送面となるように当該搬送面に対向して設置されている。第2割線カメラ52は、第1搬送ベルト20の搬送方向に沿って搬送ドラム10との対向位置よりも下流側であって、かつ、第1インクジェットヘッド61よりも上流側を撮像できる位置に設けられている。第2割線カメラ52は、第1搬送ベルト20によって吸着保持されて搬送される複数の錠剤を撮像する。第2割線カメラ52の撮像エリアの大きさは適宜のものとすることが可能であり、少なくとも第2割線カメラ52に対向している5列1行の錠剤を撮像可能な大きさであれば良い。なお、搬送ドラム10とは異なり、第1搬送ベルト20の搬送面は略平面であるため、第2割線カメラ52の撮像エリアが広くてもその全面について焦点を合わせることも比較的容易である。
【0032】
第3割線カメラ53は、撮像エリアが第2搬送ベルト30の搬送面となるように当該搬送面に対向して設置されている。第3割線カメラ53は、第2搬送ベルト30の搬送方向に沿って第1搬送ベルト20との対向位置よりも下流側であって、かつ、第2インクジェットヘッド62よりも上流側を撮像できる位置に設けられている。第3割線カメラ53は、第2搬送ベルト30よって吸着保持されて搬送される複数の錠剤を撮像する。第3割線カメラ53の撮像エリアの大きさは適宜のものとすることが可能であり、少なくとも第3割線カメラ53に対向している5列1行の錠剤を撮像可能な大きさであれば良い。第2割線カメラ52についてと同様に、第2搬送ベルト30の搬送面は略平面であるため、第3割線カメラ53の撮像エリアが広くてもその全面について焦点を合わせることも比較的容易である。
【0033】
第1インクジェットヘッド61および第2インクジェットヘッド62は、複数の吐出ノズルを備えており、それら吐出ノズルからインクジェット方式によってインクの液滴を吐出する。インクジェットの方式は、ピエゾ素子(圧電素子)に電圧を加えて変形させてインクの液滴を吐出するピエゾ方式であっても良いし、ヒータに通電してインクを加熱することによってインクの液滴を吐出するサーマル方式であっても良い。本実施形態においては、医薬品の錠剤に印刷処理を行うため、第1インクジェットヘッド61および第2インクジェットヘッド62から吐出するインクとしては食品衛生法で認められている原料によって製造された可食性インクを使用する。また、第1インクジェットヘッド61および第2インクジェットヘッド62は、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)および黒(K)の4色のインクを吐出可能であり、これらを混合することによってカラー印刷が可能である。
【0034】
第1インクジェットヘッド61は、第1搬送ベルト20の搬送方向に沿って第2割線カメラ52よりも下流側に設けられている。第1インクジェットヘッド61は、第1搬送ベルト20によって吸着保持されて搬送される複数の錠剤に対して印刷処理を行う。また、第2インクジェットヘッド62は、第2搬送ベルト30の搬送方向に沿って第3割線カメラ53よりも下流側に設けられている。第2インクジェットヘッド62は、第2搬送ベルト30によって吸着保持されて搬送される複数の錠剤に対して印刷処理を行う。なお、第1インクジェットヘッド61および第2インクジェットヘッド62は、それぞれ第1搬送ベルト20および第2搬送ベルト30の幅方向全域をカバーするフルラインヘッドであることが好ましい。
【0035】
また、錠剤印刷装置1は、第1検査カメラ71および第2検査カメラ72を備える。第1検査カメラ71および第2検査カメラ72としては、上述した割線カメラと同様に、例えばCCDカメラを用いることができる。第1検査カメラ71は、撮像エリアが第2搬送ベルト30の搬送面となるように当該搬送面に対向して設置されている。第1検査カメラ71は、第2搬送ベルト30の搬送方向に沿って第2インクジェットヘッド62よりも下流側を撮像できる位置に設けられている。第1検査カメラ71は、第2搬送ベルト30によって吸着保持されて搬送される複数の錠剤を撮像する。なお、図1に示すように、第1検査カメラ71は第2搬送ベルト30の下方に設けられているが、第2搬送ベルト30は錠剤を吸着保持して搬送するため、錠剤が下側を向いている(吸着孔が下側に向けて開放されている)状態であっても当該錠剤は落下することなく搬送される。
【0036】
第2検査カメラ72は、撮像エリアが第3搬送ベルト40の搬送面となるように当該搬送面に対向して設置されている。第2検査カメラ72は、第3搬送ベルト40によって吸着保持されて搬送される複数の錠剤を撮像する。
【0037】
また、錠剤印刷装置1は、第1ヒータ76および第2ヒータ77を備える。第1ヒータ76および第2ヒータ77としては、例えば熱風を吹き付けて錠剤を加熱して乾燥させる熱風乾燥式ヒータを用いることができる。第1ヒータ76は、第1搬送ベルト20の搬送方向に沿って第1インクジェットヘッド61よりも下流側に設けられている。第1ヒータ76は、第1インクジェットヘッド61によって印刷処理が行われた錠剤に対して熱風を吹き付けて乾燥させる。
【0038】
第2ヒータ77は、第2搬送ベルト30の搬送方向に沿って第2インクジェットヘッド62よりも下流側に設けられている。第2ヒータ77は、第2インクジェットヘッド62によって印刷処理が行われた錠剤に対して熱風を吹き付けて乾燥させる。なお、第1ヒータ76および第2ヒータ77はそれぞれ第1搬送ベルト20および第2搬送ベルト30の下方に設けられているが、上述したのと同様に第1搬送ベルト20および第2搬送ベルト30は錠剤を吸着保持して搬送するため、錠剤が下側を向いている状態であっても当該錠剤は落下することなく搬送される。
【0039】
さらに、錠剤印刷装置1は、4つの清掃機構81,82,83,84を備える。搬送ドラム10、第1搬送ベルト20、第2搬送ベルト30および第3搬送ベルト40には、錠剤から生じた粉体が付着することがある。清掃機構81,82,83,84は、それぞれ搬送ドラム10、第1搬送ベルト20、第2搬送ベルト30および第3搬送ベルト40に付着した粉体を清掃する。清掃機構81,82,83,84としては、例えばエアーを吹き付けて周辺雰囲気を吸引回収するものを採用することができる。
【0040】
制御部3は、錠剤印刷装置1に設けられた上記の種々の動作機構を制御する。制御部3のハードウェアとしての構成は一般的なコンピュータと同様である。すなわち、制御部3は、各種演算処理を行うCPU、基本プログラムを記憶する読み出し専用のメモリであるROM、各種情報を記憶する読み書き自在のメモリであるRAMおよび制御用ソフトウェアやデータなどを記憶しておく磁気ディスクを備えて構成される。制御部3のCPUが所定の処理プログラムを実行することによって錠剤印刷装置1における錠剤に対する処理が進行する。また、制御部3は、第1割線カメラ51および第2割線カメラ52等によって取得された画像データに基づいて第1インクジェットヘッド61および第2インクジェットヘッド62を制御する印刷制御部としての機能も有している。
【0041】
次に、上記構成を有する錠剤印刷装置1における処理動作について説明する。図3および図4は、錠剤印刷装置1における処理動作の手順を示すフローチャートである。まず、錠剤印刷装置1のホッパー8に複数の錠剤を一括投入する(ステップS1)。錠剤の一括投入は、作業者がバケツなどを用いて手動で行うようにしても良いし、錠剤印刷装置1とは別体の搬送機構などによって自動で行うようにしても良い。但し、一括投入される複数の錠剤は全て同一種のものである。
【0042】
本実施形態では、複数の円盤形状の錠剤2がホッパー8に投入される。図5は、錠剤2の平面図である。錠剤2の片面には半分に割るための割線7が刻設されている。割線7は、円盤形状の錠剤2の径方向に沿って刻まれた溝である。割線7は錠剤2の片面のみに刻設されている。
【0043】
本実施形態では、割線7が設けられている側の面を錠剤2の表面とする。錠剤2の裏面には割線7は刻設されていない。なお、錠剤2の表面と裏面とでは薬剤としての性質に相違があるものではなく、単に区別のための便宜上、割線7が設けられている側の面を表面としているに過ぎない。
【0044】
ホッパー8に投入された複数の錠剤2はスライダー9によって搬送ドラム10に導かれ、複数の錠剤2が1個ずつ搬送ドラム10の吸着孔11に吸着保持される。搬送ドラム10には、搬送方向(搬送ドラム10の周方向)に垂直な方向、つまり搬送ドラム10の中心軸方向に沿って5列に吸着孔11が形設されている。従って、搬送ドラム10は、搬送方向と垂直な方向に5個の錠剤を整列させた5列にて複数の錠剤2を搬送する。本明細書では、搬送ドラム10の搬送方向と垂直な方向に5個の錠剤を配列した単位を「行」と表記する。すなわち、搬送ドラム10は、各吸着孔11に個別に錠剤2を吸着保持し、複数の錠剤2を5列複数行に整列させた状態にて搬送する(ステップS2)。なお、ホッパー8から投入された錠剤2を搬送ドラム10が5個ずつ円滑に吸着保持できるように、ホッパー8に複数の錠剤2を5個ずつ整列させて送給する整列機構を付設するようにしても良い。このような整列機構としては、例えばボールフォルダー方式の機構を採用することができる。
【0045】
次に、搬送ドラム10によって搬送されている複数の錠剤2を第1割線カメラ51が撮像する(ステップS3)。複数の錠剤2は、搬送ドラム10の吸着孔11に保持されて搬送ドラム10の周方向に沿って図1の紙面上で時計回りに搬送される。複数の錠剤2は、5列ずつ整列されて搬送されるものの、各錠剤2の表面が搬送ドラム10の内側(搬送ドラム10の中心側)を向いているか外側を向いているかは全くランダムである。また、円形の吸着孔11によって円形の錠剤2を保持することとなるため、錠剤2の方向性は任意となり、搬送ドラム10によって搬送される各錠剤2の割線7の向きも全くランダムである。第1割線カメラ51は、搬送ドラム10の外側から錠剤2を撮像する。よって、第1割線カメラ51によって撮像される複数の錠剤2には、第1割線カメラ51に対して表面を向けているものと裏面を向けているものとがランダムに含まれている。
【0046】
換言すれば、第1割線カメラ51は、搬送ドラム10によって搬送される複数の錠剤2の一方面を撮像しているのである。ここで、「一方面」とは、錠剤2の表面であるか裏面であるかに関わりなく、搬送ドラム10によって搬送されている錠剤2の外側を向いている面である。
【0047】
また、第1割線カメラ51は、搬送ドラム10の搬送方向と垂直な方向に5個の錠剤を配列した行ごとに撮像を行う。このようにしている理由は、搬送ドラム10の外周面が円筒状であるため、複数行にわたって第1割線カメラ51の焦点を合わせることが困難であるというものである。
【0048】
図6は、第1割線カメラ51による撮像結果の一例を示す図である。第1割線カメラ51は、搬送ドラム10によって搬送される複数の錠剤2の一方面を撮像する。各錠剤2が搬送ドラム10に吸着保持されるときに表面が外側を向くか内側を向くかはランダムであるため、第1割線カメラ51によって撮像される複数の錠剤2の一方面には割線7が形成された表面とその反対面である裏面とがランダムに含まれている。図6の例では、5列に配列された錠剤2のうち、左端と中央の錠剤2については表面が撮像され、その他の錠剤2については裏面が第1割線カメラ51によって撮像されている。第1割線カメラ51によって撮像された結果である図6に示す如き画像データは制御部3に伝達される。
【0049】
次に、第1割線カメラ51によって撮像された5列1行の錠剤2が搬送ドラム10によってさらに搬送されて第1搬送ベルト20に近接対向する位置に到達する。このときに、搬送ドラム10のブロー機構が当該5列1行の錠剤2が吸着保持されている5個の吸着孔11にエアーを吹き付けることによって当該5列1行の錠剤2に対する吸着状態を解除する。一方、搬送ドラム10に近接対向する位置における第1搬送ベルト20の保持板22の吸着孔21には負圧が作用している。従って、搬送ドラム10による吸着状態が解除された5列1行の錠剤2は、搬送ドラム10の吸着孔11から第1搬送ベルト20の吸着孔21に受け渡されて吸着保持されることとなる。このような錠剤2の受け渡しを確実に行うため、制御部3は、搬送ドラム10の搬送速度と第1搬送ベルト20の搬送速度とを等しくするとともに、吸着孔11と吸着孔21とが正確に対向するように双方の搬送部の動作を同期させる制御を行っている。
【0050】
搬送ドラム10から第1搬送ベルト20に錠剤2が受け渡されるとき、その錠剤2は回転等することなくそのまま移動する。すなわち、それぞれの錠剤2は割線7の方向を維持したまま搬送ドラム10から第1搬送ベルト20に受け渡されることとなる。
【0051】
また、搬送ドラム10から第1搬送ベルト20に錠剤2が受け渡されるときに、それぞれの錠剤2は表裏反転することとなる。すなわち、搬送ドラム10では割線7が形成された表面を外側に向けて吸着保持されていた錠剤2は裏面を外側に向けて第1搬送ベルト20の吸着孔21に吸着保持される。逆に、搬送ドラム10では裏面を外側に向けて吸着保持されていた錠剤2は表面を外側に向けて第1搬送ベルト20に吸着保持される。従って、搬送ドラム10によって搬送されていた各錠剤2はその方向を維持したまま表裏反転されて第1搬送ベルト20に受け渡されて搬送されるのである(ステップS4)。
【0052】
続いて、第1搬送ベルト20によって搬送されている複数の錠剤2を第2割線カメラ52が撮像する(ステップS5)。第1搬送ベルト20は、搬送ドラム10から表裏反転させて受け取った複数の錠剤2を搬送方向と垂直な方向に5列ずつ整列させて搬送している。第2割線カメラ52は、第1搬送ベルト20の外側から錠剤2を撮像する。よって、第2割線カメラ52によって撮像される複数の錠剤2にも、第2割線カメラ52に対して表面を向けているものと裏面を向けているものとがランダムに含まれている。但し、搬送ドラム10から第1搬送ベルト20に各錠剤2を受け渡すときに表裏が反転するため、第1割線カメラ51が撮像した各錠剤2の表裏と第2割線カメラ52が撮像した対応する錠剤2の表裏とは完全に逆となる。
【0053】
換言すれば、第2割線カメラ52は、第1搬送ベルト20によって搬送される複数の錠剤2の他方面を撮像しているのである。ここで、「他方面」とは、上述の一方面とは反対側の面という意味であり、錠剤2の表面であるか裏面であるかに関わりなく、第1搬送ベルト20によって搬送されている錠剤2の外側を向いている面である。
【0054】
第1搬送ベルト20の搬送面は略平面であるため、第2割線カメラ52は複数行にわたって錠剤2を撮像することも可能であるが、本実施形態では第1割線カメラ51の撮像範囲と整合するように、第2割線カメラ52も第1搬送ベルト20の搬送方向と垂直な方向に5個の錠剤を配列した行ごとに撮像を行う。
【0055】
図7は、第2割線カメラ52による撮像結果の一例を示す図である。第2割線カメラ52は、第1搬送ベルト20によって搬送される複数の錠剤2の他方面を撮像する。他方面は、第1割線カメラ51によって撮像される複数の錠剤2の一方面とは反対側の面である。よって、第1割線カメラ51によって表面が撮像された錠剤2については第2割線カメラ52で裏面が撮像される。逆に、第1割線カメラ51によって裏面が撮像された錠剤2については第2割線カメラ52で表面が撮像される。
【0056】
図7の例では、図6とは逆に、5列に配列された錠剤2のうち、左端と中央の錠剤2については裏面が撮像され、その他の錠剤2については割線7が形成された表面が第2割線カメラ52によって撮像されている。第2割線カメラ52によって撮像された結果である図7に示す如き画像データは制御部3に伝達される。なお、図7において、点線で示しているのは第1割線カメラ51によって撮像されて認識されている錠剤2の一方面側の割線7であり、第2割線カメラ52によって直接に撮像されるものではない。
【0057】
次に、第2割線カメラ52によって撮像された錠剤2が第1搬送ベルト20によってさらに搬送されて第1インクジェットヘッド61に対向する位置に到達する。そして、第1インクジェットヘッド61が錠剤2に対する印刷処理を行う(ステップS6)。ここで、制御部3は、第1割線カメラ51および第2割線カメラ52によって取得された画像データに基づいて第1インクジェットヘッド61による印刷処理を制御する。図8は、第1インクジェットヘッド61による印刷処理結果の一例を示す図である。
【0058】
上述したように、第1割線カメラ51は、搬送ドラム10によって搬送される複数の錠剤2の一方面を撮像する。搬送ドラム10から第1搬送ベルト20に錠剤2が受け渡されるときに、全ての錠剤2の表裏が反転する。そして、第2割線カメラ52は、第1搬送ベルト20によって搬送される複数の錠剤2の他方面を撮像する。従って、全ての錠剤2について、第1割線カメラ51および第2割線カメラ52によって表裏両面が撮像されて画像データが取得されている。具体的には、第1割線カメラ51によって表面が撮像された錠剤2については第2割線カメラ52によって裏面が撮像される(図6,7の例では左端と中央の錠剤2)。逆に、第1割線カメラ51によって裏面が撮像された錠剤2については第2割線カメラ52によって表面が撮像される(図6,7の例では左から2番目、4番目、5番目の錠剤2)。
【0059】
第1インクジェットヘッド61は、第1搬送ベルト20によって搬送される複数の錠剤2の他方面に対して印刷処理を行うこととなる。制御部3は、第1搬送ベルト20によって搬送される複数の錠剤2のうち他方面が表面である錠剤2(図7,8の例で左から2番目、4番目、5番目の錠剤2)に対しては表面用印刷データに基づいて第1インクジェットヘッド61に表面用印刷処理を行わせる。ここでは、表面用印刷データとして、例えば「ABCD」の文字データとする。
【0060】
また、制御部3は、当該錠剤2の表面に刻設された割線7に対する所定方向に沿って第1インクジェットヘッド61に表面への表面用印刷処理を行わせる。本実施形態では、錠剤2の表面の割線7と平行な方向に沿って第1インクジェットヘッド61が印刷処理を行う。第1搬送ベルト20によって搬送される複数の錠剤2のうち他方面が表面である錠剤2における割線7の方向については、第2割線カメラ52によって取得された画像データに画像処理を施すことによって制御部3が認識することができる(図8の実線で示す割線7の方向)。その結果、図8に示すように、第1搬送ベルト20によって搬送される複数の錠剤2のうち他方面が表面である錠剤2については、表面に刻設された割線7と平行な方向に沿って「ABCD」という文字列が第1インクジェットヘッド61によって錠剤2の表面に印刷されることとなる。
【0061】
一方、制御部3は、第1搬送ベルト20によって搬送される複数の錠剤2のうち他方面が裏面である錠剤2(図7,8の例で左端と中央の錠剤2)に対しては裏面用印刷データに基づいて第1インクジェットヘッド61に裏面用印刷処理を行わせる。ここでは、裏面用印刷データとして、例えば「1234」の文字データとする。
【0062】
また、制御部3は、当該錠剤2の表面に刻設されている割線7に対する上記所定方向と同一方向に沿って第1インクジェットヘッド61に当該錠剤2の裏面にも裏面用印刷処理を行わせる。本実施形態では、錠剤2の表面に対しては割線7と平行な方向に沿って印刷処理が行われており、錠剤2の裏面に対しても表面側の割線7と平行な方向に沿って第1インクジェットヘッド61が印刷処理を行う。第1搬送ベルト20によって搬送される複数の錠剤2のうち他方面が裏面である錠剤2の表面側における割線7の方向については、第1割線カメラ51によって取得された画像データに画像処理を施すことによって制御部3が認識することができる(図8の点線で示す割線7の方向)。その結果、図8に示すように、第1搬送ベルト20によって搬送される複数の錠剤2のうち他方面が裏面である錠剤2については、表面に刻設された割線7と平行な方向に沿って「1234」という文字列が第1インクジェットヘッド61によって錠剤2の裏面に印刷されることとなる。
【0063】
さらに、制御部3は、第2割線カメラ52によって取得された画像データに基づいて、第1インクジェットヘッド61による各錠剤2に対する印刷位置の微調整(修正)を行う。第1搬送ベルト20の吸着孔21のサイズは錠剤2の大きさよりもやや大きいため、搬送ドラム10から第1搬送ベルト20に錠剤2が受け渡されるとき、各錠剤2の方向性は維持されるものの、吸着孔21の範囲内で若干の位置のバラツキが生じる。制御部3は、第2割線カメラ52によって取得された画像データから吸着孔21内における各錠剤2の位置のずれを検出し、その検出結果に基づいて印刷位置の微調整を実行するのである。このようにして、複数の錠剤2の他方面に対する印刷処理が実行される。
【0064】
次に、他方面に対する印刷処理が行われた錠剤2が第1搬送ベルト20によってさらに搬送されて第1ヒータ76に対向する位置に到達する。図1に示す通り、第1ヒータ76は第1搬送ベルト20よりも下方に設置されており、錠剤2が第1ヒータ76に対向する位置に到達したときには、当該錠剤2は第1搬送ベルト20によって下向きに保持されていることとなる。第1搬送ベルト20は吸着孔21に負圧を作用させることによって錠剤2を吸着保持しているため、錠剤2を下向きに保持することも可能である。
【0065】
第1ヒータ76は、第1搬送ベルト20によって搬送される複数の錠剤2の他方面に対して熱風を吹き付けてそれら複数の錠剤2を乾燥させる(ステップS7)。このような乾燥処理を行うことによって、第1インクジェットヘッド61から複数の錠剤2に吐出されたインクを迅速に乾燥させてにじみを防止することができる。
【0066】
次に、第1ヒータ76によって乾燥された5列1行の錠剤2が第1搬送ベルト20によってさらに搬送されて第2搬送ベルト30に近接対向する位置に到達する。このときに、第1搬送ベルト20のブロー機構が当該5列1行の錠剤2が吸着保持されている5個の吸着孔21にエアーを吹き付けることによって当該5列1行の錠剤2に対する吸着状態を解除する。一方、第1搬送ベルト20に近接対向する位置における第2搬送ベルト30の吸着孔には負圧が作用している。従って、第1搬送ベルト20による吸着状態が解除された5列1行の錠剤2は、第1搬送ベルト20の吸着孔21から第2搬送ベルト30の吸着孔に受け渡されて吸着保持されることとなる。このような錠剤2の受け渡しを確実に行うため、制御部3は、第1搬送ベルト20の搬送速度と第2搬送ベルト30の搬送速度とを等しくするとともに、双方の搬送ベルトの吸着孔が正確に対向するように双方の搬送ベルトの動作を同期させる制御を行っている。
【0067】
第1搬送ベルト20から第2搬送ベルト30に錠剤2が受け渡されるとき、その錠剤2は回転等することなくそのまま移動する。すなわち、それぞれの錠剤2は割線7の方向を維持したまま第1搬送ベルト20から第2搬送ベルト30に受け渡されることとなる。
【0068】
また、第1搬送ベルト20から第2搬送ベルト30に錠剤2が受け渡されるときに、それぞれの錠剤2は表裏反転することとなる。すなわち、第1搬送ベルト20では割線7が形成された表面を外側に向けて吸着保持されていた錠剤2は裏面を外側に向けて第2搬送ベルト30に吸着保持される。逆に、第1搬送ベルト20では裏面を外側に向けて吸着保持されていた錠剤2は表面を外側に向けて第2搬送ベルト30に吸着保持される。従って、第1搬送ベルト20によって搬送されていた各錠剤2はその方向を維持したまま表裏反転されて第2搬送ベルト30に受け渡されて搬送されるのである(ステップS8)。
【0069】
続いて、第2搬送ベルト30によって搬送されている複数の錠剤2を第3割線カメラ53が撮像する(ステップS9)。第2搬送ベルト30は、第1搬送ベルト20から表裏反転させて受け取った複数の錠剤2を搬送方向と垂直な方向に5列ずつ整列させて搬送している。第3割線カメラ53は、第2搬送ベルト30の外側から錠剤2を撮像する。従って、第3割線カメラ53が撮像した各錠剤2の表裏は、第2割線カメラ52が撮像した対応する錠剤2の表裏とは完全に逆になる一方で、第1割線カメラ51が撮像した対応する錠剤2の表裏とは完全に一致する。すなわち、第3割線カメラ53は、第1割線カメラ51と同じく、第2搬送ベルト30によって搬送される複数の錠剤2の一方面を撮像しているのである。
【0070】
第2搬送ベルト30の搬送面は略平面であるため、第3割線カメラ53は複数行にわたって錠剤2を撮像することも可能であるが、本実施形態では第1割線カメラ51の撮像範囲と整合するように、第3割線カメラ53も第2搬送ベルト30の搬送方向と垂直な方向に5個の錠剤を配列した行ごとに撮像を行う。
【0071】
図9は、第3割線カメラ53による撮像結果の一例を示す図である。第3割線カメラ53は、第1割線カメラ51と同じく、第2搬送ベルト30によって搬送される複数の錠剤2の一方面を撮像する。よって、第3割線カメラ53による撮像結果は、第1割線カメラ51による撮像結果と概ね同じになる。特に、複数の錠剤2のそれぞれの方向性については、第3割線カメラ53による撮像結果と第1割線カメラ51による撮像結果とは完全に一致する。
【0072】
図9の例では、図6と同様に、5列に配列された錠剤2のうち、左端と中央の錠剤2については割線7が形成された表面が撮像され、その他の錠剤2については裏面が第3割線カメラ53によって撮像されている。第3割線カメラ53によって撮像された結果である図9に示す如き画像データは制御部3に伝達される。なお、図9において、点線で示しているのは第2割線カメラ52によって撮像されて認識されている錠剤2の他方面側の割線7であり、第3割線カメラ53によって直接に撮像されるものではない。
【0073】
但し、制御部3は、第3割線カメラ53によって取得された画像データから錠剤2の表面に刻設された割線7の方向についての認識は行わない。これは、一方面が表面である錠剤2については第1割線カメラ51によって取得された画像データから割線7の方向が既に認識されており、改めて行う必要性がないためである。むしろ、第3割線カメラ53によって取得された画像データから制御部3が割線7の方向を認識した場合には、後述する第2インクジェットヘッド62による印刷処理時に180°逆に印刷してしまう可能性がある。
【0074】
第3割線カメラ53による撮像は、第2搬送ベルト30によって吸着保持される複数の錠剤2の位置のバラツキを検出するために行われる。制御部3は、第3割線カメラ53によって取得された画像データから第2搬送ベルト30の吸着孔内における各錠剤2の位置のずれを検出する。
【0075】
次に、第3割線カメラ53によって撮像された錠剤2が第2搬送ベルト30によってさらに搬送されて第2インクジェットヘッド62に対向する位置に到達する。そして、第2インクジェットヘッド62が錠剤2に対する印刷処理を行う(ステップS10)。ここで、制御部3は、第1割線カメラ51および第2割線カメラ52によって取得された画像データに基づいて第2インクジェットヘッド62による印刷処理を制御する。図10は、第2インクジェットヘッド62による印刷処理結果の一例を示す図である。
【0076】
第2インクジェットヘッド62は、第2搬送ベルト30によって搬送される複数の錠剤2の一方面に対して印刷処理を行うこととなる。制御部3は、第2搬送ベルト30によって搬送される複数の錠剤2のうち一方面が表面である錠剤2(図9,10の例で左端と中央の錠剤2)に対しては表面用印刷データに基づいて第2インクジェットヘッド62に表面用印刷処理を行わせる。ここでは、表面用印刷データは、上記と同様の「ABCD」の文字データである。
【0077】
また、制御部3は、当該錠剤2の表面に刻設された割線7に対する上記所定方向に沿って第2インクジェットヘッド62に表面への表面用印刷処理を行わせる。本実施形態では、錠剤2の表面の割線7と平行な方向に沿って第2インクジェットヘッド62が印刷処理を行う。第2搬送ベルト30によって搬送される複数の錠剤2のうち一方面が表面である錠剤2における割線7の方向については、第1割線カメラ51によって取得された画像データに画像処理を施すことによって制御部3が認識することができる(図10の実線で示す割線7の方向)。その結果、図10に示すように、第2搬送ベルト30によって搬送される複数の錠剤2のうち一方面が表面である錠剤2については、表面に刻設された割線7と平行な方向に沿って「ABCD」という文字列が第2インクジェットヘッド62によって錠剤2の表面に印刷されることとなる。
【0078】
一方、制御部3は、第2搬送ベルト30によって搬送される複数の錠剤2のうち一方面が裏面である錠剤2(図9,10の例で左から2番目、4番目、5番目の錠剤2)に対しては裏面用印刷データに基づいて第2インクジェットヘッド62に裏面用印刷処理を行わせる。ここでは、裏面用印刷データは、上記と同様の「1234」の文字データである。
【0079】
また、制御部3は、当該錠剤2の表面に刻設されている割線7に対する上記所定方向と同一方向に沿って第2インクジェットヘッド62に当該錠剤2の裏面にも裏面用印刷処理を行わせる。本実施形態では、錠剤2の表面に対しては割線7と平行な方向に沿って印刷処理が行われており、錠剤2の裏面に対しても表面側の割線7と平行な方向に沿って第2インクジェットヘッド62が印刷処理を行う。第2搬送ベルト30によって搬送される複数の錠剤2のうち一方面が裏面である錠剤2における表面側の割線7の方向については、第2割線カメラ52によって取得された画像データに画像処理を施すことによって制御部3が認識することができる(図10の点線で示す割線7の方向)。その結果、図10に示すように、第2搬送ベルト30によって搬送される複数の錠剤2のうち一方面が裏面である錠剤2については、表面に刻設された割線7と平行な方向に沿って「1234」という文字列が第2インクジェットヘッド62によって錠剤2の裏面に印刷されることとなる。
【0080】
さらに、制御部3は、第3割線カメラ53によって取得された画像データに基づいて、第2インクジェットヘッド62による各錠剤2に対する印刷位置の微調整(修正)を行う。上述したのと同様に、第1搬送ベルト20から第2搬送ベルト30に錠剤2が受け渡されるとき、各錠剤2の方向性は維持されるものの、吸着孔の範囲内で若干の位置のバラツキが生じる。制御部3は、第3割線カメラ53によって取得された画像データから第2搬送ベルト30の吸着孔内における各錠剤2の位置のずれを検出し、その検出結果に基づいて印刷位置の微調整を実行するのである。このようにして、複数の錠剤2の一方面に対する印刷処理が実行される。
【0081】
次に、一方面に対する印刷処理が行われた錠剤2が第2搬送ベルト30によってさらに搬送されて第1検査カメラ71に対向する位置に到達する。第1検査カメラ71は、第2搬送ベルト30によって搬送される複数の錠剤2の一方面を撮像し、第2インクジェットヘッド62による複数の錠剤2の一方面に対する印刷処理の結果を撮像する。第1検査カメラ71は、取得した画像データを制御部3に伝達する。制御部3は、第1検査カメラ71によって取得された画像データに基づいて、複数の錠剤2の一方面に対する第2インクジェットヘッド62の印刷処理結果を確認する(ステップS11)。
【0082】
続いて、一方面の印刷処理結果が検査された錠剤2が第2搬送ベルト30によってさらに搬送されて第2ヒータ77に対向する位置に到達する。第2ヒータ77は、第2搬送ベルト30によって搬送される複数の錠剤2の一方面に対して熱風を吹き付けてそれら複数の錠剤2を乾燥させる(ステップS12)。このような乾燥処理を行うことによって、第2インクジェットヘッド62から複数の錠剤2に吐出されたインクを迅速に乾燥させてにじみを防止することができる。
【0083】
次に、第2ヒータ77によって乾燥された5列1行の錠剤2が第2搬送ベルト30によってさらに搬送されて第3搬送ベルト40に近接対向する位置に到達する。このときに、第2搬送ベルト30のブロー機構が当該5列1行の錠剤2が吸着保持されている5個の吸着孔にエアーを吹き付けることによって当該5列1行の錠剤2に対する吸着状態を解除する。一方、第2搬送ベルト30に近接対向する位置における第3搬送ベルト40の吸着孔には負圧が作用している。従って、第2搬送ベルト30による吸着状態が解除された5列1行の錠剤2は、第2搬送ベルト30の吸着孔から第3搬送ベルト40の吸着孔に受け渡されて吸着保持されることとなる。このような錠剤2の受け渡しを確実に行うため、制御部3は、第2搬送ベルト30の搬送速度と第3搬送ベルト40の搬送速度とを等しくするとともに、双方の搬送ベルトの吸着孔が正確に対向するように双方の搬送ベルトの動作を同期させる制御を行っている。
【0084】
第2搬送ベルト30から第3搬送ベルト40に錠剤2が受け渡されるとき、その錠剤2は回転等することなくそのまま移動する。すなわち、それぞれの錠剤2は割線7の方向を維持したまま第2搬送ベルト30から第3搬送ベルト40に受け渡されることとなる。
【0085】
また、第2搬送ベルト30から第3搬送ベルト40に錠剤2が受け渡されるときに、それぞれの錠剤2は表裏反転することとなる。すなわち、第2搬送ベルト30では割線7が形成された表面を外側に向けて吸着保持されていた錠剤2は裏面を外側に向けて第3搬送ベルト40に吸着保持される。逆に、第2搬送ベルト30では裏面を外側に向けて吸着保持されていた錠剤2は表面を外側に向けて第3搬送ベルト40に吸着保持される。従って、第2搬送ベルト30によって搬送されていた各錠剤2はその方向を維持したまま表裏反転されて第3搬送ベルト40に受け渡されて搬送されるのである(ステップS13)。
【0086】
続いて、第3搬送ベルト40によって搬送されている複数の錠剤2を第2検査カメラ72が撮像する。第3搬送ベルト40は、第1搬送ベルト20と同様に、複数の錠剤2の他方面を外側に向けてそれら複数の錠剤2を吸着保持している。よって、第2検査カメラ72は、第3搬送ベルト40によって搬送される複数の錠剤2の他方面を撮像し、第1インクジェットヘッド61による複数の錠剤2の他方面に対する印刷処理の結果を撮像する。第2検査カメラ72は、取得した画像データを制御部3に伝達する。制御部3は、第2検査カメラ72によって取得された画像データに基づいて、複数の錠剤2の他方面に対する第1インクジェットヘッド61の印刷処理結果を確認する(ステップS14)。
【0087】
最後に、表裏両面の検査が終了した錠剤2の仕分け処理が行われる(ステップS15)。ステップS11およびステップS14における表裏両面の検査結果に問題の無かった錠剤2、つまり良品の錠剤2についてはブロー機構からのエアー吹き付けによって良品ダクト48に投入される。良品ダクト48に放出された錠剤2は良品回収ボックス58に回収される。一方、表裏両面のいずれかの検査結果に問題のあった錠剤2、つまり不良品の錠剤2についてはブロー機構からのエアー吹き付けによって不良品ダクト46に投入される。不良品ダクト46に放出された錠剤2は不良品ボックス56に回収される。以上のようにして、錠剤印刷装置1における錠剤2への印刷処理が終了する。
【0088】
本実施形態においては、第1割線カメラ51および第2割線カメラ52によって取得された複数の錠剤2の表裏両面の画像データに基づいて、錠剤2の表面に対しては表面の割線7に対する所定方向に沿って表面用印刷処理を行うとともに、錠剤2の裏面に対しては裏面の上記所定方向と同一方向に沿って裏面用印刷処理を行っている。このため、錠剤2の表裏両面について、割線7に対して同じ方向に印刷処理を行うことができる。
【0089】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、この発明はその趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。例えば、上記各実施形態においては、錠剤2の割線7と平行な方向に沿って表裏に印刷処理を行っていたが、これに限定されるものではなく、錠剤2の表裏に同一方向に印刷するのであれば割線7に対する任意の方向に印刷処理を行うことが可能である。
【0090】
また、印刷処理方向の基準となるのは割線7に限定されるものではなく、方向を識別するためのマークであれば良く、例えば錠剤2の表面に刻設された矢印のようなものであっても良い。方向を識別することができるマークであれば、そのマークに対する所定方向に沿って上記実施形態と同様の印刷処理を行うことができる。
【0091】
また、上記実施形態においては、錠剤2の表面に割線7を刻設していたが、上述したように単に便宜上割線7が設けられている側の面を表面としているに過ぎず、割線7が設けられている側の面を裏面としても良い。
【0092】
また、錠剤2の形状は円盤形状に限定されるものではなく、例えば略楕円形状や棒状など他の形状であっても良い。この場合、各搬送部の吸着孔は錠剤2の形状に応じたものとなる。
【0093】
また、上記実施形態においては、5列1行の単位で錠剤2を搬送するようにしていたが、これに限定されるものではなく、1列で錠剤2を搬送するようにしても良いし、2列以上の複数列にて錠剤2を搬送するようにしても良い。
【0094】
また、上記実施形態においては、第1割線カメラ51および第2割線カメラ52による検査結果に基づいて、錠剤2を良品または不良品に仕分けするようにしていたが、錠剤印刷装置1では検査を行わずに印刷処理のみを行うというモードを選択することも可能である。このようなモードが選択されているときには、印刷処理が行われた全ての錠剤2について第3搬送ベルト40から未検査ダクト47に投入される。未検査ダクト47に投入された錠剤2は未検査ボックス57に回収される。さらに、未検査の錠剤2についての検査処理のみを行うモードを錠剤印刷装置1に設定するようにしても良い。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明に係る錠剤印刷装置は、割線が刻設された医薬品の錠剤などの表裏両面に印刷を行うのに好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0096】
1 錠剤印刷装置
2 錠剤
3 制御部
7 割線
8 ホッパー
10 搬送ドラム
20 第1搬送ベルト
30 第2搬送ベルト
40 第3搬送ベルト
51 第1割線カメラ
52 第2割線カメラ
53 第3割線カメラ
61 第1インクジェットヘッド
62 第2インクジェットヘッド
71 第1検査カメラ
72 第2検査カメラ
76 第1ヒータ
77 第2ヒータ
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に割線が刻設された錠剤に対して印刷処理を行う錠剤印刷装置であって、
搬送方向と垂直な方向の複数の錠剤を搬送する搬送機構と、
前記搬送機構によって搬送される搬送方向と垂直な方向の前記複数の錠剤の一方面を撮像する第1撮像部と、
前記搬送機構によって搬送される搬送方向と垂直な方向の前記複数の錠剤の他方面を撮像する第2撮像部と、
前記搬送機構による搬送方向に沿って前記第1撮像部および前記第2撮像部よりも下流に設けられ、搬送方向と垂直な方向の前記複数の錠剤の他方面に印刷処理を行う第1印刷部と、
前記搬送機構による搬送方向に沿って前記第1撮像部および前記第2撮像部よりも下流に設けられ、搬送方向と垂直な方向の前記複数の錠剤の一方面に印刷処理を行う第2印刷部と、
前記第1撮像部および前記第2撮像部によって取得された画像データに基づいて前記第1印刷部および前記第2印刷部を制御する印刷制御部と、
を備え、
前記印刷制御部は、前記画像データに基づいて搬送方向と垂直な方向の前記複数の錠剤のそれぞれにおける前記割線の方向を特定し、搬送方向と垂直な方向の前記複数の錠剤の裏面に対して前記割線に対する所定方向に沿って印刷処理を行うように前記第1印刷部および前記第2印刷部を制御し、
前記印刷制御部は、前記画像データに基づいて搬送方向と垂直な方向の前記複数の錠剤のそれぞれにおける前記割線の方向を特定し、搬送方向と垂直な方向の前記複数の錠剤の表面に対して前記所定方向と同一方向に沿って印刷処理を行うように前記第1印刷部および前記第2印刷部を制御することを特徴とする錠剤印刷装置。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
請求項1に記載の錠剤印刷装置において、
前記所定方向は前記割線に対して平行な方向であることを特徴とする錠剤印刷装置。
【請求項4】
請求項1または請求項3に記載の錠剤印刷装置において、
前記搬送機構による搬送方向に沿って前記第1印刷部と前記第2印刷部との間に設けられ、前記搬送機構によって搬送される搬送方向と垂直な方向の前記複数の錠剤の位置ずれを検出する第3撮像部をさらに備え、
前記印刷制御部は、前記第3撮像部によって検出された前記位置ずれに基づいて前記第2印刷部による搬送方向と垂直な方向の前記複数の錠剤のそれぞれに対する印刷位置を調整することを特徴とする錠剤印刷装置。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-05-27 
出願番号 特願2017-2483(P2017-2483)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (A61J)
P 1 651・ 121- YAA (A61J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 今井 貞雄  
特許庁審判長 芦原 康裕
特許庁審判官 高木 彰
莊司 英史
登録日 2018-04-20 
登録番号 特許第6325699号(P6325699)
権利者 株式会社SCREENホールディングス
発明の名称 錠剤印刷装置  
代理人 有田 貴弘  
代理人 吉竹 英俊  
代理人 有田 貴弘  
代理人 吉竹 英俊  

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