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審決分類 審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  C08F
審判 一部申し立て 2項進歩性  C08F
管理番号 1353199
異議申立番号 異議2019-700331  
総通号数 236 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-08-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-04-24 
確定日 2019-07-08 
異議申立件数
事件の表示 特許第6409177号発明「光硬化樹脂組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6409177号の請求項1?2に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第6409177号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?4に係る特許についての出願は、平成25年9月26日を出願日とする特許出願(特願2013-199686号)の一部を、平成30年5月31日に新たな出願とした特許出願(特願2018-104711号)に係るものであって、平成30年10月5日にその特許権の設定登録がされ、平成30年10月24日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、平成31年4月24日に、本件特許の請求項1?2に係る特許に対して、特許異議申立人である藤江桂子(以下、「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされた。


第2 本件発明

本件特許の請求項1?4に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、そのうち請求項1?2に係る発明は、以下のとおりのものである。(以下、請求項1?2に係る発明を、それぞれ、「本件発明1」?「本件発明2」といい、これらをまとめて、「本件発明」ともいう。)

「【請求項1】
ポリイソプレン、ポリブタジエン及びポリウレタンからなる群から選択される少なくとも1種を骨格に含む(メタ)アクリレートオリゴマーと、400nm?480nmに極大吸収波長を有する色材と、水酸基含有(メタ)アクリレートの少なくとも1種及び脂環式(メタ)アクリレートの少なくとも1種を含む(メタ)アクリレートモノマーとを含む光硬化樹脂組成物であって、前記水酸基含有(メタ)アクリレートが、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、ポリオール(メタ)アクリレート及びアルキレンオキサイド付加ポリオール(メタ)アクリレートからなる群から選択される1種以上であり、前記ポリオール(メタ)アクリレートが、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンモノ(メタ)アクリレート及びジトリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレートからなる群から選択される1種以上である、光硬化樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1記載の光硬化樹脂組成物からなるコーティング剤。」


第3 申立理由の概要

申立人は、証拠として下記甲第1号証?甲第6号証を提示し、以下の申立理由1?4を主張する。

<申立理由1>本件発明1?2は、甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は同法第113条第2号の規定により取り消すべきものである。
<申立理由2>本件発明1?2は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は同法113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
<申立理由3>本件発明1?2は、甲第3号証に記載された発明、甲第5号証に記載された事項及び甲第6号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は同法113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
<申立理由4>本件発明1?2は、甲第4号証に記載された発明、甲第5号証に記載された事項及び甲第6号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は同法113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

甲第1号証:特開2006-257155号公報
甲第2号証:国際公開第2016/158863号
甲第3号証:特開2009-029976号公報
甲第4号証:特開2000-072833号公報
甲第5号証:登録実用新案第3183062号公報
甲第6号証:特開2007-093927号公報

以下、申立人提示の甲第1号証?甲第6号証を、「甲1」?「甲6」という。


第4 当審の判断

1 各甲号証に記載された事項及び各甲号証に記載された発明

(1)甲1に記載された事項

甲1には、以下の事項が記載されている。


「【請求項2】
色材、単官能アクリレートモノマー、3官能以上のウレタンアクリレートオリゴマーおよび光重合開始剤を含むエネルギー線硬化型インクジェット用インク組成物であって、インク組成物全体中、上記の単官能アクリレートモノマーの量が30?90重量%、上記の3官能以上のウレタンアクリレートオリゴマーの量が5?60重量%、光重合開始剤の量が6?20重量%であり、インク組成物全体の粘度が25℃で3?20mPa・sであることを特徴とするエネルギー線硬化型インクジェット用インク組成物。」


「【0022】
粘度が25℃で0.5?6mPa・sである単官能アクリレートモノマーには、以下のような(メタ)アクリル酸エステル系モノマーが用いられる。

具体的には、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート類が挙げられる。

その他、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル-ジグリコール(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等も使用できる。
・・・
【0024】
これらの(メタ)アクリル酸エステル系モノマーの中から、その1種を単独で使用するか、2種以上を混合して使用できる。これらの中でも、イソオクチルアクリレート、イソノニルアクリレート等が、特に好ましく用いられる。

本発明において、このような単官能アクリレートモノマーの使用量は、インク組成物全体中、30?90重量%、好ましくは40?80重量%とするのがよい。30重量%未満となると、インク組成物の粘度を十分に低下させにくく、また90重量%を超えると、紫外線等のエネルギー線の照射による硬化性を満足させにくい。」


「【0027】
本発明において、色材には、公知の各種染料も使用できるが、耐光性の観点より、無機顔料または/および有機顔料からなる顔料を使用するのが望ましい。
・・・
【0028】
・・・
有機顔料には、アゾ系、アゾメチン系、ポリアゾ系、フタロシアニン系、キナクリドン系、アントラキノン系、インジゴ系、チオインジゴ系、キノフタロン系、ベンズイミダゾロン系、イソインドリン系の顔料等が用いられる。また、酸性、中性または塩基性カーボンからなるカーボンブラックも用いられる。さらに、架橋したアクリル樹脂の中空粒子等も顔料として使用することができる。」


「【実施例1】
【0044】
100ccのプラスチック製ビンに、「HOSTAPERM BLUE P-BFS」(クラリアント社製、銅フタロシアニンブルー顔料)20.0部、顔料分散剤として「DISPERBYK168」(ビックケミー社製、アミン系高分子分散剤)33.3部、単官能アクリレートモノマーとして「IOAA」(大阪有機化学工業株式会社、イソオクチルアクリレート、25℃の粘度が2.0mPa・s)46.7部、直径0.3mmのジルコニアビーズ100部を計り取り、ペイントコンディショナー(東洋精機社製)により、2時間分散した。

このように分散して得られた分散体25.0部に、単官能アクリレートモノマーとして「IOAA」40.0部、3官能以上のウレタンアクリレートオリゴマーとして「UA-510H」〔共栄社化学株式会社製、ジペンタエリスリトールペンタアクリレートへキサメチレンジイソシアネートウレタンプレポリマー(10官能)〕25.0部、光重合開始剤として「IRGACURE907」{チバ・スペシャルティー・ケミカルズ株式会社製、2-メチル-1〔4-(メチルチオ)フェニル〕-2-モリホリノプロパン-1-オン}10.0部を加え、マグネチックスターラーにより、30分撹拌後、グラスフィルター(桐山製作所製)を用いて、吸引ろ過を行い、紫外線硬化型インクジェット用インク組成物Aを調製した。」


「【実施例3】
【0046】
100ccのプラスチック製ビンに、「E4GN-GT」(LANXS社製、含ニッケルアゾ顔料)20.0部、顔料分散剤として「DISPERBYK168」26.6部、単官能アクリレートモノマーとして「IOAA」53.4部、直径0.3mmのジルコニアビーズ100部を計り取り、ペイントコンディショナーにより、2時間分散した。

このように分散して得られた分散体を使用し、以下、実施例1と同様にして、紫外線硬化型インクジェット用インク組成物Cを調製した。」

(2)甲1に記載された発明

上記記載事項(1)エ、オの実施例3より、甲1には、以下の発明が記載されていると認められる。

「「E4GN-GT」(含ニッケルアゾ顔料)20.0部、顔料分散剤として「DISPERBYK168」26.6部、単官能アクリレートモノマーとして「IOAA」(イソオクチルアクリレート)53.4部、直径0.3mmのジルコニアビーズ100部を分散して得られた分散体25.0部に、「IOAA」40.0部、3官能以上のウレタンアクリレートオリゴマーとして「UA-510H」25.0部、光重合開始剤として「IRGACURE907」10.0部を加えた紫外線硬化型インクジェット用インク組成物C。」(以下、「甲1-1発明」という。)

また、上記記載事項(1)アより、甲1には、以下の発明が記載されていると認められる。

「色材、単官能アクリレートモノマー、3官能以上のウレタンアクリレートオリゴマーおよび光重合開始剤を含むエネルギー線硬化型インクジェット用インク組成物であって、インク組成物全体中、上記の単官能アクリレートモノマーの量が30?90重量%、上記の3官能以上のウレタンアクリレートオリゴマーの量が5?60重量%、光重合開始剤の量が6?20重量%であり、インク組成物全体の粘度が25℃で3?20mPa・sであることを特徴とするエネルギー線硬化型インクジェット用インク組成物。」(以下、「甲1-2発明」という。)

(3)甲2に記載された事項

甲2には、以下の事項が記載されている。


「[0268] (実施例20)
化合物(c)としてPlast Yellow8070の代わりにピグメントイエロー150(商品名E4GNGT、ランクセス(株)製)(吸収極大波長425nm)0.15gを用いた以外は実施例5と同様にして感光性着色樹脂組成物のワニスを得た。このワニスを用いてプリベーク膜を作製し、感度を測定したところ、感度105mJ/cm^(2)であった。また加熱処理後の光透過率を測定したところ、400?450nmの光透過率が60%以下であった。」

(4)甲3に記載された事項

甲3には、以下の事項が記載されている。


「【請求項1】
(A)分子内に(メタ)アクリロイル基を有するポリイソプレン、(B)(メタ)アクリレートモノマー、(C)ラジカル重合開始剤および(D)分子内に第二級アミノ基を有さないヒンダードアミン系化合物からなり、前記(メタ)アクリロイル基を有するポリイソプレン(A)と(メタ)アクリレートモノマー(B)の質量比が1/99?99/1の範囲であって、両者の合計量100質量部に対してラジカル重合開始剤(C)0.01?20質量部およびヒンダードアミン系化合物(D)0.01?10質量部を含むことを特徴とする耐熱安定性に優れた硬化性樹脂組成物。」


「【0020】
次に、本発明の硬化性組成物を構成する第2成分である(メタ)アクリレートモノマー(B)としては、ラジカル重合開始剤(C)により硬化可能なものであれば特に制限はなく、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ブチルエトキシ(メタ)アクリレート、ブチルエチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニロキシエチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、フェノキシヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、モルフォリン(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシジプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートなどの単官能モノマー;1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ジメチロールトリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートなどの二官能モノマー;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレートなどの多官能モノマーなどが挙げられる。これらの(メタ)アクリレートモノマーは1種類を単独で使用してもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。」


「【0022】
また、本発明の硬化性組成物を構成する第3成分であるラジカル重合開始剤(C)としては、例えば、紫外線などの活性エネルギー線により分解してラジカルを発生するラジカル系光重合開始剤、加熱により分解してラジカルを発生する加熱分解型ラジカル重合開始剤などが挙げられる。
【0023】
ラジカル系光重合開始剤としては、例えば、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、・・・(中略)・・・などが挙げられる。これらのうち、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンなどのケトン類、および2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイドなどのアシルホスフィンオキサイド類が好ましく用いられる。」


「【0029】
・・・
本発明の硬化性樹脂組成物または上記硬化性樹脂組成物は、その特性を損なわない範囲において、硬化促進剤、粘着付与剤、可塑剤、老化防止剤、紫外線吸収剤、軟化剤、消泡剤、顔料、染料、有機充填剤、香料などを配合することが可能である。」


「【0032】
本発明の硬化性樹脂組成物は、引張り弾性率が低く柔軟な硬化物が得られ、かつ耐熱性、色相安定性に優れるため、硬化物の割れ、剥がれなどが低減され、接着剤、粘着剤(接着剤および粘着剤を粘接着剤ということがある)、コーティング剤、封止材、インキなどの用途に好適に用いることができる。粘接着剤の用途としては、例えばデジタルバーサティルディスク(DVD)などの光ディスクの貼り合せ用途、液晶ディスプレイやプラズマディスプレイなどのフラットパネルディスプレイに使用される光学フィルムの張り合わせ用途、カメラやDVD、コンパクトディスク(CD)再生用光ヘッドに用いられる光学レンズの接着用途、光ファイバなど光学部材の接着用途、半導体などの精密部品とプリント配線板との接着用途、半導体製造のダイシング工程においてウェハーを保持するダイシングテープとしての用途などが挙げられる。」


「【0042】
(B)(メタ)アクリレートモノマー
B-1:日立化成工業株式会社製、商品名「ファンクリルFA-513A」(ジシクロペンタニルアクリレート)
B-2:大阪有機化学工業株式会社製、商品名「IBXA」(イソボルニルアクリレート)
【0043】
(C)ラジカル重合開始剤
C-1:チバ・スペシャルティ・ケミカルズ株式会社製、商品名「DAROCUR 1173」(2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン)」


「【0045】
実施例1?3
参考例1で得られたメタクリロイル基を有するポリイソプレン(M-IR-1)、(メタ)アクリレートモノマー(B-1またはB-2)、ラジカル重合開始剤(C-1)およびヒンダードアミン系化合物(D-1またはD-2)を、表1に示す配合に従ってステンレス製300mL容器に投入し、室温下、攪拌翼を用いて20分混合することによって硬化性樹脂組成物を調製した。得られた硬化性樹脂組成物を上記の方法により評価した結果を表1に併せて示す。」


「【0051】
【表1】



(5)甲3に記載された発明

上記記載事項(4)アより、甲3には、以下の発明が記載されていると認められる。

「(A)分子内に(メタ)アクリロイル基を有するポリイソプレン、(B)(メタ)アクリレートモノマー、(C)ラジカル重合開始剤および(D)分子内に第二級アミノ基を有さないヒンダードアミン系化合物からなり、前記(メタ)アクリロイル基を有するポリイソプレン(A)と(メタ)アクリレートモノマー(B)の質量比が1/99?99/1の範囲であって、両者の合計量100質量部に対してラジカル重合開始剤(C)0.01?20質量部およびヒンダードアミン系化合物(D)0.01?10質量部を含むことを特徴とする耐熱安定性に優れた硬化性樹脂組成物。」(以下、「甲3発明」という。)

(6)甲4に記載された事項

甲4には、以下の事項が記載されている。


「【請求項1】ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー10?30重量部、ガラス転移温度が40℃以上の重合体1?20重量部及び前記ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー以外のラジカル重合性不飽和二重結合を有する化合物50?89重量部からなる液晶高分子フィルムの接着用又は表面被覆用活性エネルギー線硬化型組成物。」


「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、電子線又は紫外線等の活性エネルギー線の照射により容易に硬化し、液晶表示素子用色補償板、液晶表示素子用視野角拡大板、光学位相差板及び旋光性光学素子等の光学素子の製造で使用される液晶高分子フィルムにおける接着剤又は/及び表面保護層として有用な活性エネルギー線硬化型組成物に関するものであり、液晶高分子フィルムを製造又は使用する技術分野において賞用され得るものである。」


「【0014】○ラジカル重合性不飽和二重結合を有する化合物
本発明の組成物において、上記ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー及び重合体と共に併用されるラジカル重合性不飽和二重結合を有する化合物(以下ラジカル重合性化合物という)は、単量体でもオリゴマーでも使用可能である。
【0015】単量体としては、N-ビニルピロリドン、N-ビニルカプロラクタム及び(メタ)アクリロイルモルホリン等の不飽和アミド化合物;ヘキサヒドロフタルイミドエチル(メタ)アクリレート及びコハクイミドエチル(メタ)アクリレート等のイミド(メタ)アクリレート;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート及び2-ヒドロキシ-3-フェニルプロピルアクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;フェノキシエチル(メタ)アクリレート等のフェノールのアルキレンオキシド付加物のアクリレート類及びそのハロゲン核置換体;エチレングリコールのモノ又はジ(メタ)アクリレート、メトキシエチレングリコールのモノ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールのモノ又はジ(メタ)アクリレート及びトリプロピレングリコールのモノ又はジ(メタ)アクリレート等のグリコールのモノ又はジ(メタ)アクリレート;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート及びジペンタエリスリトールヘキサアクリレート等のポリオールポリ(メタ)アクリレート;前記ポリオールのアルキレンオキサイド付加物のポリ(メタ)アクリレート;イソシアヌル酸のアルキレンオキサイド付加物のジ又はトリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。前記アルキレンオキサイドとしては、エチレンオキサイド及びプロプレンオキサイド等が挙げられる。」


「【0019】本発明では、ラジカル重合性化合物として、その硬化物のTgが40℃以上であるものが好ましく、より好ましくは40?200℃のである。当該Tgが40℃より低いものを使用すると、組成物の硬化膜の耐久性が不十分になる場合がある。その硬化物のTgが40℃以上であるラジカル重合性化合物の配合割合としては、10?70重量部が好ましく、より好ましくは20?70重量部である。当該ラジカル重合性化合物の具体例としては、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルモルホリン、N-ビニルピロリドン、N-ビニルカプロラクタム、ヘキサヒドロフタルイミドエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフタルイミドエチル(メタ)アクリレート、コハクイミドエチル(メタ)アクリレート及びトリシクロデカニル(メタ)アクリレート等が挙げられる。」


「【0022】又、本発明の組成物には、硫酸バリウム、酸化珪素、タルク、クレー及び炭酸カルシウム等の充填剤、フタロシアニン・ブルー、フタロシアニン・グリーン、酸化チタン及びカーボンブラック等の着色用顔料・染料、密着性付与剤、レベリング剤、消泡剤、光安定剤、紫外線吸収剤、並びにハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、フェノチアジンン及びN-ニトロソフェニルヒドロキシルアミンアルミニウム塩等の重合禁止剤を配合することもできる。」


「【0029】
【実施例】以下に、実施例及び比較例を挙げ、本発明をより具体的に説明する。尚、各例において、「部」とは重量部を意味する。
◎実施例
○活性エネルギー線硬化型組成物の製造
表1に示すウレタンアクリレートオリゴマー及びラジカル重合性化合物を50℃で加熱撹拌し、混合溶解させた。これに、さらにアクリル系重合体を添加し、80℃で加熱撹拌し、混合溶解させた。尚、使用するアクリル系重合体が有機溶剤の溶液になっているものは、あらかじめ減圧により溶剤を留去させたものを用いた。アクリル系重合体が溶解したことを確認した後、これに光重合開始剤を添加し、40℃で撹拌混合し溶解させ、活性エネルギー線硬化型組成物を得た。
【0030】
【表1】


【0031】※表1における略号は、以下の意味を示す。又表1における数字は、部数を意味する。
・M1310:アロニックスM1310、東亞合成(株)製、ウレタンアクリレートオリゴマー、数平均分子量約3,000
・UN9200A:アートレジンUN9200A、根上工業(株)製、ウレタンアクリレートオリゴマー、数平均分子量約3,000
・S-1005:アロンS-1005、東亞合成(株)製、アクリル系重合体(Tg=85℃)
・BR60:ダイヤナールBR60、三菱レーヨン(株)製、アクリル系重合体(Tg=75℃)
・S-1500:アロンS-1500、東亞合成(株)製、アクリル系重合体(Tg=30℃)
・S-1001:アロンS-1001、東亞合成(株)製、アクリル系重合体(Tg=36℃)
・M150:アロニックスM150、東亞合成(株)製、N-ビニルピロリドン(硬化物のTg=150℃)
・M156:アロニックスM156、東亞合成(株)製、イソボロニルアクリレート(硬化物のTg=94℃)
・TO1429:アロニックスTO1429、東亞合成(株)製、ヘキサヒドロフタルイミドエチルアクリレート(硬化物のTg=58℃)
・V150:ビスコート#150、大阪有機(株)製、テトラヒドロフルフリルアクリレート(硬化物のTg=-12℃)
・M5700:アロニックスM5700、東亞合成(株)製、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピルアクリレート(硬化物のTg=17℃)
・M101:アロニックスM101、東亞合成(株)製、フェノキシエトキシエチルアクリレート(硬化物のTg=-8℃)
・Irg184:イルガキュア184、チバスペシャリティーケミカルズ(株)製
・TPO:ルシリンTPO、BASF社製
・Irg1800:イルガキュア1800、チバスペシャリティーケミカルズ(株)製」


「【0042】
【発明の効果】本発明の組成物により製造された液晶高分子フィルムは、高温及び高湿下での優れた耐久性を示し、種々の光学素子用の液晶高分子フィルムの製造に有用なものである。」

(7)甲4に記載された発明

上記記載事項(6)カの実施例3より、甲4には、以下の発明が記載されていると認められる。

「「アロニックスM1310」(ウレタンアクリレートオリゴマー)15部、「ダイヤナールBR60」(アクリル系重合体)10部、「アロニックスM150」(N-ビニルピロリドン)20部、「アロニックスM156」(イソボロニルアクリレート)20部、「ビスコート#150」(テトラヒドロフルフリルアクリレート)15部、「アロニックスM5700」(2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピルアクリレート)20部、「ルシリンTPO」5部からなる活性エネルギー線硬化型組成物。」(以下、「甲4発明」という。)

(8)甲5に記載された事項

甲5には、以下の事項が記載されている。


「【請求項1】
液晶画面に加圧貼着して用いる保護シート材の構造であって、
透明なシート状の合成樹脂製の基材(2)と、該基材(2)の一側面(2A)に、その一側面(3A)が担持されたシリコーン層(3)と、から成り、
前記シリコーン層(3)が、200ミクロンから500ミクロンの厚みに構成され、且つ、
前記基材(2)が、反射防止処理、低反射光沢処理、ブルーライトカット処理、ハードコート処理、抗菌処理の何れか一つの表面処理又は少なくとも二つを組み合わせて表面処理されたPET樹脂からなる、
ことを特徴とする液晶画面用保護シート材の構造。」


「【0008】
本考案は、液晶画面に貼着して画面を保護するための保護シートの製造コストを大幅に低減でき、且つ、従来のウレタン系樹脂層を有する保護シートと同等又はそれ以上の衝撃吸収力を発揮できると共に基材の表面処理による見易さ或いは抗菌機能も発揮できるところの液晶画面用保護シート材の構造を提供することを目的とする。」


「【0013】
加えて、基材が、反射防止処理、低反射光沢処理、ブルーライトカット処理、ハードコート処理、抗菌処理の何れか一つの表面処理又は少なくとも二つを組み合わせて表面処理されたPET樹脂かなるので、液晶画面が見易く、或いは抗菌機能を発揮できる利点がある。」


「【0025】
前記基材2が、反射防止処理されたもので構成されている。この反射防止処理は、光拡散をする特殊なポリマーを用いるものであるが、既に公知の技術であるので、ここでは詳細説明を省く。こうした表面処理としては、他に、低反射光沢処理、ブルーライトカット処理、ハードコート処理、抗菌処理などがある。低反射光沢処理は偏光フィルター機能をもつシートであり、やはり、公知の技術である。同様に、ブルーライトカットは、青の波長の光に焦点を当ててカットするように開発されたフィルム、シートであり、既に公知のものである。」

(9)甲6に記載された事項

甲6には、以下の事項が記載されている。


「【請求項1】
青色光の吸収成分としてフラーレン類を含有することを特徴とする光学物品。」


「【0007】
しかし最近の研究によれば、紫外線ほどではないにしても、可視光線のうちの380?500nmが目に有害であることが徐々に知られてきた。これをブルーハザードといい、サングラスや防眩メガネでは、この部分の波長をカットすることが好ましいといわれている。」


「【0009】
かくして、本発明の目的は、ブルーハザードを軽減し、かつ交通信号を視認できるサングラスや防眩メガネに適するレンズを提供することにある。
また、本発明のもう1つの目的は、380?500nmの可視光線の少なくとも一部をカットできる光学フィルターなどの光学物品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明者らは青色光吸収成分としてのフラーレンに着色することにより、本発明を完成するに至った。」


「【0021】
熱硬化性樹脂の場合、フラーレン類を熱硬化性樹脂のモノマーに混合、分散し、いわゆるキャスト成形法により硬化して、サングラスや防眩メガネのレンズや光学フィルターなどの光学物品を製造することができる。
本発明を偏光レンズに適用する場合は、上記した光学物品の製造過程において偏光子が1枚加えられる。
・・・
【0025】
また、本発明を熱硬化性樹脂で実施する場合は、偏光子のレンズ状に曲げたもの、あるいは、偏光子に1枚の保護シートを貼付した偏光板、あるいは2枚の保護シートでサンドウィッチ構造にした偏光板をレンズ状に曲げたものをキャスト成形用のモールドに挿入し、キャスト成形の常法に従い、熱硬化性樹脂のモノマーを充填し、硬化、成形する。
【0026】
この場合は、フラーレン類を含有させる方法としては、熱硬化性樹脂のモノマーに混合、分散したり、偏光板の保護シートに練りこんだり、偏光子と保護シートを貼付する接着剤に練りこんだりする方法がある。
別法として、レンズ状に予め曲げた偏光板と、熱可塑性樹脂あるいは熱硬化性樹脂のレンズ状成形物とを接着剤によって接着する方法がある。
【0027】
この場合は、フラーレン類を含有させる方法としては、偏光板の保護シートや偏光子と保護シートを貼付する接着剤、熱可塑性樹脂あるいは熱硬化性樹脂モノマー、偏光板とレンズ状成形物とを貼付する接着剤にフラーレン類を練りこむ方法がある。」

2 対比及び判断

(1)本件発明1について

ア 申立理由1及び2について

(ア)本件発明1と甲1-1発明との対比・判断

a 対比
本件発明1と甲1-1発明とを対比する。
甲1-1発明の「3官能以上のウレタンアクリレートオリゴマーとして「UA-510H」」、「紫外線硬化型インクジェットインク組成物」はそれぞれ、本件発明1の「ポリイソプレン、ポリブタジエン及びポリウレタンからなる群から選択される少なくとも1種を骨格に含む(メタ)アクリレートオリゴマー」、「光硬化樹脂組成物」に相当する。また、甲1-1発明の「「E4GN-GT」(LANXS社製、含ニッケルアゾ顔料)」は、上記記載事項1(1)ウからみて、「色材」であるので、本件発明1の「400nm?480nmに極大吸収波長を有する色材」と、「色材」の限りにおいて一致する。そして、甲1-1発明の「単官能アクリレートモノマーとして「IOAA」(イソオクチルアクリレート)」は、本件発明1の「水酸基含有(メタ)アクリレートの少なくとも1種及び脂環式(メタ)アクリレートの少なくとも1種を含む(メタ)アクリレートモノマー」と、「(メタ)アクリレートモノマー」の限りにおいて一致する。

そうすると、本件発明1と甲1-1発明とは、
「ポリイソプレン、ポリブタジエン及びポリウレタンからなる群から選択される少なくとも1種を骨格に含む(メタ)アクリレートオリゴマーと、色材と、(メタ)アクリレートモノマーとを含む光硬化樹脂組成物」である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1>
本件発明1は、「色材」が「400nm?480nmに極大吸収波長を有する」のに対し、甲1-1発明は、そのような特定がない点。

<相違点2>
本件発明1は、「(メタ)アクリレートモノマー」が、「水酸基含有(メタ)アクリレートの少なくとも1種及び脂環式(メタ)アクリレートの少なくとも1種を含」み、「前記水酸基含有(メタ)アクリレートが、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、ポリオール(メタ)アクリレート及びアルキレンオキサイド付加ポリオール(メタ)アクリレートからなる群から選択される1種以上であり、前記ポリオール(メタ)アクリレートが、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンモノ(メタ)アクリレート及びジトリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレートからなる群から選択される1種以上である」のに対し、甲1-1発明は、「(メタ)アクリレートモノマー」が「IOAA」のみを含む点。

b 判断
上記相違点について検討する。

<相違点1>について
甲1-1発明の「「E4GN-GT」(LANXS社製、含ニッケルアゾ顔料)」は、甲2に「ピグメントイエロー150(商品名E4GNGT、ランクセス(株)製)(吸収極大波長425nm)」(記載事項1(3)ア)と記載されていることから、425nmに極大吸収波長を有するものである。してみると、甲1-1発明の「「E4GN-GT」(LANXS社製、含ニッケルアゾ顔料)」は、「「400nm?480nmに極大吸収波長を有する」といえる。
よって、上記相違点1は、実質的な相違点ではない。

<相違点2>について
甲1-1発明の「IOAA」は、明らかに「水酸基含有(メタ)アクリレート」でも「脂環式(メタ)アクリレート」でもない。そして、甲1-1発明は、他に(メタ)アクリレートモノマーとして、水酸基含有(メタ)アクリレートの少なくとも1種及び脂環式(メタ)アクリレートの少なくとも1種を含むものではない。
よって、相違点2は、実質的な相違点である。
したがって、本件発明1は、甲1に記載された発明ではない。

次に、相違点2に係る事項が、当業者が容易に想到し得たものであるか否かについて検討する。
まず、甲1の記載事項からの容易想到性について検討する。
甲1には、単官能アクリレートモノマーとして、数多くの具体的な化合物が記載され、その中には、本件発明の「脂環式(メタ)アクリレート」に相当する「イソボルニル(メタ)アクリレート」や、本件発明の「水酸基含有(メタ)アクリレート」に相当する「2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート」が挙げられ、2種以上を混合して使用できることも記載されている(記載事項1(1)イ)。
しかしながら、記載事項1(1)イには、イソオクチルアクリレート、イソノニルアクリレート等が好ましく用いられる旨記載されているのみで、列挙されている多数のアクリレートモノマーの中から「イソボルニル(メタ)アクリレート」や「2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート」を選択することは記載されていないし、ましてや、本件発明1のように、「水酸基含有(メタ)アクリレート」である「2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート」又は「2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート」と、「脂環式(メタ)アクリレート」である「イソボルニル(メタ)アクリレート」とを組み合わせて用いることは、甲1のいずれの箇所をみても、何らの記載も示唆もない。
さらに、甲2の記載事項からの容易想到性について検討する。
甲2は単に、甲1-1発明の「E4GN-GT」の極大吸収波長を示すものであって、本件発明1のような(メタ)アクリレートオリゴマーと(メタ)アクリレートモノマーとを含む光硬化樹脂組成物でもないから、「水酸基含有(メタ)アクリレート」と「脂環式(メタ)アクリレート」を組み合わせて用いることは、何らの記載も示唆もない。
してみると、甲1-1発明において、単官能アクリレートモノマーとして、「IOAA」に代えて、「水酸基含有(メタ)アクリレート」である「2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート」又は「2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート」と、「脂環式(メタ)アクリレート」である「イソボルニル(メタ)アクリレート」とを組み合わせて用いることに何ら動機付けを見出せない。
したがって、本件発明1は、甲1-1発明及び甲1?2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

c 申立人の主張について
申立人は、甲1に記載された発明において、単官能アクリレートモノマーとして「IOAA」に代えて「イソボルニル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等から選択される1種を2種以上混合して使用すること」は、当業者の設計事項にすぎず、実施例及び比較例を検討しても、それによる効果が顕著であるとはいえないから、本件発明1は、当業者が容易に発明をすることができたものである旨主張する。
しかしながら、上記で述べたとおり、甲1に記載された発明において、単官能アクリレートモノマーとして、「水酸基含有(メタ)アクリレート」である「2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート」又は「2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート」と、「脂環式(メタ)アクリレート」である「イソボルニル(メタ)アクリレート」とを組み合わせて用いることには動機付けがなく、そうである以上、それによる効果を検討するまでもなく、本件発明1は、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
よって、かかる主張には理由がない。

(イ)本件発明1と甲1-2発明との対比・判断

a 対比
本件発明1と甲1-2発明とを対比する。
甲1-2発明の「3官能以上のウレタンアクリレートオリゴマー」は、本件発明1の「ポリイソプレン、ポリブタジエン及びポリウレタンからなる群から選択される少なくとも1種を骨格に含む(メタ)アクリレートオリゴマー」に相当する。また、甲1-2発明の「色材」は、本件発明1の「400nm?480nmに極大吸収波長を有する色材」と「色材」の限りにおいて一致し、甲1-2発明の「単官能アクリレートモノマー」は、本件発明1の「水酸基含有(メタ)アクリレートの少なくとも1種及び脂環式(メタ)アクリレートの少なくとも1種を含む(メタ)アクリレートモノマー」と、「(メタ)アクリレートモノマー」の限りにおいて一致する。そして、甲1-2発明の「エネルギー線硬化型インクジェット用インク組成物」は、「光重合開始剤」を含むことから、光硬化するものであり、本件発明1の「光硬化樹脂組成物」に相当する。

そうすると、本件発明1と甲1-2発明とは、
「ポリイソプレン、ポリブタジエン及びポリウレタンからなる群から選択される少なくとも1種を骨格に含む(メタ)アクリレートオリゴマーと、色材と、(メタ)アクリレートモノマーとを含む光硬化樹脂組成物」である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点3>
本件発明1は、「色材」が「400nm?480nmに極大吸収波長を有する」のに対し、甲1-2発明は、そのような特定がない点。

<相違点4>
本件発明1は、「(メタ)アクリレートモノマー」が、「水酸基含有(メタ)アクリレートの少なくとも1種及び脂環式(メタ)アクリレートの少なくとも1種を含」み、「前記水酸基含有(メタ)アクリレートが、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、ポリオール(メタ)アクリレート及びアルキレンオキサイド付加ポリオール(メタ)アクリレートからなる群から選択される1種以上であり、前記ポリオール(メタ)アクリレートが、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンモノ(メタ)アクリレート及びジトリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレートからなる群から選択される1種以上である」のに対し、甲1-2発明は、そのような特定がない点。

b 判断
上記相違点について検討するに、まず、上記相違点4について検討する。

甲1-2発明は、「(メタ)アクリレートモノマー」を何ら特定するものではない。そして、甲1-2発明は、他に(メタ)アクリレートモノマーとして、水酸基含有(メタ)アクリレートの少なくとも1種及び脂環式(メタ)アクリレートの少なくとも1種を含むものではない。
よって、相違点4は、実質的な相違点である。
したがって、本件発明1は、甲1に記載された発明ではない。

次に、相違点4に係る事項が、当業者が容易に想到し得たものであるか否かについて検討する。
甲1の記載事項及び甲2の記載事項からの容易想到性について検討するに、上記(ア)bで述べたのと同様の理由により、甲1-2発明において、単官能アクリレートモノマーとして、「水酸基含有(メタ)アクリレート」である「2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート」又は「2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート」と、「脂環式(メタ)アクリレート」である「イソボルニル(メタ)アクリレート」とを組み合わせて用いることに何ら動機付けを見出せない。
したがって、上記相違点3について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1-2発明及び甲1?2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(ウ)小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲1に記載された発明ではなく、また、甲1に記載された発明及び甲1?2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 申立理由3について

(ア)本件発明1と甲3発明との対比・判断

a 対比
甲3発明の「(A)分子内に(メタ)アクリロイル基を有するポリイソプレン」は、本件発明1の「ポリイソプレン、ポリブタジエン及びポリウレタンからなる群から選択される少なくとも1種を骨格に含む(メタ)アクリレートオリゴマー」に相当する。また、甲3発明の「(B)(メタ)アクリレートモノマー」は、本件発明1の「水酸基含有(メタ)アクリレートの少なくとも1種及び脂環式(メタ)アクリレートの少なくとも1種を含む(メタ)アクリレートモノマー」と、「(メタ)アクリレートモノマー」の限りにおいて一致する。そして、甲3発明の「硬化性樹脂組成物」は、本件発明1の「光硬化樹脂組成物」と「硬化樹脂組成物」の限りにおいて一致する。

そうすると、本件発明1と甲3発明とは、
「ポリイソプレン、ポリブタジエン及びポリウレタンからなる群から選択される少なくとも1種を骨格に含む(メタ)アクリレートオリゴマーと、(メタ)アクリレートモノマーとを含む硬化樹脂組成物」である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点5>
本件発明1は、「400nm?480nmに極大吸収波長を有する色材」を含むことを特定するのに対し、甲3発明は、そのような特定がない点。

<相違点6>
本件発明1は、「(メタ)アクリレートモノマー」が、「水酸基含有(メタ)アクリレートの少なくとも1種及び脂環式(メタ)アクリレートの少なくとも1種を含」み、「前記水酸基含有(メタ)アクリレートが、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、ポリオール(メタ)アクリレート及びアルキレンオキサイド付加ポリオール(メタ)アクリレートからなる群から選択される1種以上であり、前記ポリオール(メタ)アクリレートが、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンモノ(メタ)アクリレート及びジトリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレートからなる群から選択される1種以上である」ことを特定するのに対し、甲3発明は、そのような特定がない点。

<相違点7>
本件発明1は、「硬化樹脂組成物」が「光」硬化樹脂組成物であることが特定されるのに対し、甲3発明は、そのような特定がない点。

b 判断
上記相違点について検討するに、まず、上記相違点5について検討する。
本件発明1は、本件明細書の段落【0002】、【0004】の記載から、液晶表示装置(LCD)等の表示体のバックライトに用いられるLEDから放射される、人体に対する影響のある青色光を効率よく除去することを課題として、光硬化樹脂組成物に対し、「400nm?480nmに極大吸収波長を有する色材」を含むことを特定したものである。
ここで、甲6には、「最近の研究によれば、紫外線ほどではないにしても、可視光線のうちの380?500nmが目に有害であることが徐々に知られてきた。これをブルーハザードと」いう旨記載され(記載事項1(9)イ)、甲5には、「ブルーライトカットは、青の波長の光に焦点を当ててカットするように開発されたフィルム、シートであり、既に公知のものである」と記載されている(記載事項1(8)エ)ことから、ブルーライトハザード、すなわち、人体に対する影響のある青色光を、何らかの方法で除去するという課題は、本件発明の出願時点において、周知の技術事項であったものといえる。
そして、上記の周知の課題を解決する方法として、甲5には、液晶画面に加圧貼着して用いる保護シート材において、基材をブルーライトカット処理することが記載され(記載事項1(8)ア?ウ)、甲6には、サングラスや防眩メガネに適するレンズ、光学フィルター等の光学物品において、ブルーハザードを軽減するために、青色光の吸収成分としてフラーレン類を含有させることが記載されている(記載事項1(9)ア?ウ)。さらに、甲6には、該フラーレン類を含有させる方法として、熱硬化性樹脂のモノマーに混合、分散したり、偏光板の保護シートや偏光子と保護シートを貼付する接着剤、偏光板とレンズ状成形物とを貼付する接着剤に練りこむ方法がある旨記載されている(記載事項1(9)エ)。
これに対して、甲3には、「硬化性樹脂組成物」の用途として、多種の用途が記載され、その中には、液晶ディスプレイやフラットパネルディスプレイに使用される光学フィルムの張り合わせ用途が挙げられる(記載事項1(4)オ)ものの、色材については、「顔料、染料」「を配合することが可能である」旨記載されている(記載事項1(4)エ)にとどまり、「400nm?480nmに極大吸収波長を有する色材」を配合することについても、人体に対する影響のある青色光を除去するという課題についても、何らの記載も示唆もない。
そして、甲3発明の「硬化性樹脂組成物」は、記載事項1(4)オに列挙されるとおり、その用途が限定されるものではないし、たとえそれが液晶ディスプレイ等に使用される光学フィルムの張り合わせ用途であったとしても、それは、甲5に記載される保護シート材や、甲6に記載されるレンズ、光学フィルター等の光学物品とは、使用形態が異なるものであるから、当該硬化性樹脂組成物において、ブルーハザードを軽減するために青色光を除去するという課題が明らかであるとはいえず、ましてや、青色光吸収成分である色材を配合するという課題を解決する手段が、甲5又は甲6に記載又は示唆されているとはいえない。
してみると、ブルーライトハザードを軽減するために青色光を除去するという課題が周知の技術事項であったとしても、甲3発明の硬化性樹脂組成物が、当該課題を有しているとはいえない。また、甲6に記載されるとおり、レンズ、光学フィルター等において、熱硬化性樹脂のモノマーや、偏光板に使用する接着剤等に青色光を吸収する成分を含有させることが、本件発明の出願時点において公知であったとしても、甲3発明の硬化性樹脂組成物において、青色光吸収成分である色材を配合することを動機付ける根拠はない。
そうしてみると、甲3発明の「硬化性樹脂組成物」において、青色光吸収成分である「400nm?480nmに極大吸収波長を有する色材」を配合することは、甲3、5?6のいずれをみても、何ら動機付けられない。
したがって、上記相違点6?7について検討するまでもなく、本件発明1は、甲3発明及び甲3、5?6に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(イ)小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲3に記載された発明及び甲3、5?6に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 申立理由4について

(ア)本件発明1と甲4発明との対比・判断

a 対比
甲4発明の「ウレタンアクリレートオリゴマーとしてM1310」、「M156(イソボロニルアクリレート)」はそれぞれ、本件発明1の「ポリイソプレン、ポリブタジエン及びポリウレタンからなる群から選択される少なくとも1種を骨格に含む(メタ)アクリレートオリゴマー」、「脂環式(メタ)アクリレート」に相当する。
また、甲4には、「2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート及び2-ヒドロキシ-3-フェニルプロピルアクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート」と記載されている(記載事項1(6)イ)ことから、フェニル基等の置換基を有するアルキル基を有するヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートも「ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート」に包含されるものといえるので、甲4発明の「M5700(2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピルアクリレート)」は、本件発明1の「ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート」である「水酸基含有(メタ)アクリレート」に相当する。
さらに、甲4発明の「活性エネルギー線硬化型組成物」は、光重合開始剤を含有することから、「光硬化」するものであるので、本件発明1の「光硬化樹脂組成物」に相当する。

そうすると、本件発明1と甲4発明は、
「ポリイソプレン、ポリブタジエン及びポリウレタンからなる群から選択される少なくとも1種を骨格に含む(メタ)アクリレートオリゴマーと、水酸基含有(メタ)アクリレートの少なくとも1種及び脂環式(メタ)アクリレートの少なくとも1種を含む(メタ)アクリレートモノマーとを含む光硬化樹脂組成物であって、前記水酸基含有(メタ)アクリレートが、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、ポリオール(メタ)アクリレート及びアルキレンオキサイド付加ポリオール(メタ)アクリレートからなる群から選択される1種以上であり、前記ポリオール(メタ)アクリレートが、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンモノ(メタ)アクリレート及びジトリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレートからなる群から選択される1種以上である、光硬化樹脂組成物。」である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点8>
本件発明1は、「400nm?480nmに極大吸収波長を有する色材」を含むことが特定されるのに対し、甲4発明は、そのような特定がない点。

b 判断
上記相違点8について検討する。
本件発明1は、本件明細書の段落【0002】、【0004】の記載から、液晶表示装置(LCD)等の表示体のバックライトに用いられるLEDから放射される、人体に対する影響のある青色光を効率よく除去することを課題として、光硬化樹脂組成物に対し、「400nm?480nmに極大吸収波長を有する色材」を含むことを特定したものである。
ここで、甲6には、「最近の研究によれば、紫外線ほどではないにしても、可視光線のうちの380?500nmが目に有害であることが徐々に知られてきた。これをブルーハザードと」いう旨記載され(記載事項1(9)イ)、甲5には、「ブルーライトカットは、青の波長の光に焦点を当ててカットするように開発されたフィルム、シートであり、既に公知のものである」と記載されている(記載事項1(8)エ)ことから、ブルーライトハザード、すなわち、人体に対する影響のある青色光を、何らかの方法で除去するという課題は、本件発明の出願時点において、周知の技術事項であったものといえる。
そして、上記の周知の課題を解決する方法として、甲5には、液晶画面に加圧貼着して用いる保護シート材において、基材をブルーライトカット処理することが記載され(記載事項1(8)ア?ウ)、甲6には、サングラスや防眩メガネに適するレンズ、光学フィルター等の光学物品において、ブルーハザードを軽減するために、青色光の吸収成分としてフラーレン類を含有させることが記載されている(記載事項1(9)ア?ウ)。さらに、甲6には、該フラーレン類を含有させる方法として、熱硬化性樹脂のモノマーに混合、分散したり、偏光板の保護シートや偏光子と保護シートを貼付する接着剤、偏光板とレンズ状成形物とを貼付する接着剤に練りこむ方法がある旨記載されている(記載事項1(9)エ)。
これに対して、甲4には、「フタロシアニン・ブルー、フタロシアニン・グリーン、酸化チタン及びカーボンブラック等の着色用顔料・染料」「を配合することもできる」旨記載されている(記載事項1(6)オ)にとどまり、「400nm?480nmに極大吸収波長を有する色材」を配合することについても、人体に対する影響のある青色光を除去するという課題についても、何らの記載も示唆もない。
そして、甲4発明は、光学素子の製造で使用される液晶高分子フィルムにおける接着剤又は表面保護層に用いられる光硬化樹脂組成物である(記載事項1(6)ア、イ、キ)ところ、当該光硬化樹脂組成物は、甲5に記載される保護シート材や、甲6に記載されるレンズ、光学フィルター等の光学物品とは、使用形態が異なるものであるから、当該光硬化樹脂組成物において、ブルーハザードを軽減するために青色光を除去するという課題が明らかであるとはいえず、ましてや、青色光吸収成分である色材を配合するという課題を解決する手段が、甲5又は甲6に記載又は示唆されているとはいえない。
してみると、ブルーライトハザードを軽減するために青色光を除去するという課題が周知の技術事項であったとしても、甲4発明の、光学素子の製造で使用される液晶高分子フィルムにおける接着剤又は表面保護層に用いられる光硬化樹脂組成物が、当該課題を有しているとはいえない。また、甲6に記載されるとおり、レンズ、光学フィルター等において、熱硬化性樹脂のモノマーや、偏光板に使用する接着剤等に青色光を吸収する成分を含有させることが、本件発明の出願時点において公知であったとしても、甲4発明の光硬化樹脂組成物において、青色光吸収成分である色材を配合することを動機付ける根拠はない。
そうしてみると、甲4発明の「光硬化樹脂組成物」において、青色光吸収成分である「400nm?480nmに極大吸収波長を有する色材」を配合することは、甲4?6のいずれをみても、何ら動機付けられない。
したがって、本件発明1は、甲4発明及び甲4?6に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(イ)小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲4に記載された発明及び甲4?6に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)本件発明2について
本件発明2は、本件発明1を引用するものであり、上記(1)アで述べたのと同様の理由により、甲1に記載された発明ではなく、甲1に記載された発明及び甲1?2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
また、本件発明2は、上記(1)イ、ウで述べたのと同様の理由により、甲3に記載された発明及び甲3、5?6に記載された事項、あるいは、甲4に記載された発明及び甲4?6に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。


第5 むすび

以上のとおりであるから、本件発明1?2は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものではなく、それらの発明に係る特許は同法第113条第2号の規定により取り消すべきものではない。
また、本件発明1?2は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではなく、それらの発明に係る特許は同法113条第2号に該当せず、取り消すべきものではない。
したがって、本件発明1?2に係る特許は、上記申立理由1?4及び証拠によっては、取り消すことはできない。
また、他に本件発明1?2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2019-06-28 
出願番号 特願2018-104711(P2018-104711)
審決分類 P 1 652・ 113- Y (C08F)
P 1 652・ 121- Y (C08F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 佐藤 のぞみ  
特許庁審判長 近野 光知
特許庁審判官 武貞 亜弓
海老原 えい子
登録日 2018-10-05 
登録番号 特許第6409177号(P6409177)
権利者 協立化学産業株式会社
発明の名称 光硬化樹脂組成物  
代理人 特許業務法人 津国  

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