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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 B65D 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 B65D |
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管理番号 | 1353209 |
異議申立番号 | 異議2019-700298 |
総通号数 | 236 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2019-08-30 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2019-04-17 |
確定日 | 2019-07-11 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6408416号発明「吐出容器」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6408416号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。 |
理由 |
1.手続の経緯 特許第6408416号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?8に係る特許についての出願は、平成23年7月11日(優先権主張平成23年2月28日)に特許出願された特願2011-153262号の一部を、平成27年4月3日に新たな特許出願としたものであって、平成30年9月28日にその特許権の設定登録がされた(平成30年10月17日に特許掲載公報の発行)。 その後、平成31年4月17日に、請求項1?8に係る特許について、特許異議申立人新井紀子(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがなされたものである。 2.本件発明 本件特許の請求項1?8の特許に係る発明(以下、「本件発明1?8」といい、これらをまとめて「本件発明」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。 【請求項1】 内容物が収容されるとともに内容物の減少に伴いしぼみ変形する可撓性に富む内容器、および該内容器が内装されるとともに該内容器との間に外気を吸入する吸気孔が形成された外容器を有する容器本体と、 該容器本体の口部に装着され、内容物を吐出する吐出口が形成された吐出キャップと、 前記吸気孔を開閉する空気弁部と、を備える吐出容器であって、 前記吐出キャップは、前記口部を閉塞する中栓部材と、該中栓部材を覆うとともに前記吐出口が形成された有頂筒状の本体筒部材と、を備え、 前記中栓部材には、前記吐出口と前記内容器内とを連通する連通孔が形成され、 前記連通孔内には、当該連通孔の軸線方向に沿って弾性変位して当該連通孔を開閉するとともに、前記吐出口側に突出する突出部が中央部に形成された弁体部が配設され、 前記弁体部の弁座のうち当該弁体部と接触する部位の一部に、内容物の流通を許容する流通許容溝が形成されており、 前記流通許容溝は、前記弁体部が前記弁座に着座した後、内空間に残留した前記内容物を前記内容器内に戻し、且つ、表面張力により該内容物が該流通許容溝を閉塞する大きさに設定されていることを特徴とする吐出容器。 【請求項2】 請求項1記載の吐出容器であって、 前記中栓部材は、 外周縁部が前記口部の開口端上に配置されるとともに、前記内容器内に開口する貫通孔が貫設された栓本体と、 該栓本体から立設されるとともに、内部に前記貫通孔が開口し該内部が前記連通孔とされた連通筒部と、を備え、 前記連通孔内には、当該連通孔の軸線方向に沿って弁体部が摺動可能に嵌合され、 前記貫通孔は、前記連通孔よりも小径であることを特徴とする吐出容器。 【請求項3】 前記弁体部が、弾性変形する弾性連結片によって、前記連通筒部と同軸上に配置された筒状部材に連結されていることを特徴とする、請求項2に記載の吐出容器。 【請求項4】 複数の前記弾性連結片が、前記連通孔の軸線方向を中心として周方向に等間隔に配置されていることを特徴とする請求項3に記載の吐出容器。 【請求項5】 前記弾性連結片は周方向に沿って湾曲していることを特徴とする請求項4に記載の吐出容器。 【請求項6】 前記軸線方向に沿って摺動可能な前記弁体部に当接して当該弁体部の弾性変位量を規制する変位量規制部が、前記本体筒部材に形成されていることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の吐出容器。 【請求項7】 請求項1から6のいずれか一項に記載の吐出容器であって、 前記吐出キャップに着脱可能に装着されたオーバーキャップを備え、 該オーバーキャップには、前記吐出口内に着脱可能に嵌合するシール部が設けられていることを特徴とする吐出容器。 【請求項8】 前記シール部は、前記オーバーキャップを閉じた被蓋状態のときに前記弁体部の弾性変位を抑える抑え部として機能することを特徴とする請求項7に記載の吐出容器。 3.申立理由の概要 申立人は、以下の理由により、本件発明1?8に係る特許を取り消すべきである旨を主張している。 《理由1》 (進歩性)本件発明1?8は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記1の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、本件発明1?8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、同法113条第2号に該当し、取り消すべきである。 《理由2》 (サポート要件)本件特許に係る出願は、特許請求の範囲の記載が下記2の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、本件発明1?8に係る特許は、同法113条第4号に該当し、取り消すべきである。 記1 《引用例一覧》 甲1.特開2007-320596号公報 甲2.実願平5-38618号(実開平7-4362号)のCD-ROM 甲3.特開2002-186886号公報 甲4.特開2011-31921号公報 甲5.特開2002-263166号公報 甲6.岡達,“技術解説 プラスチック射出成形の基礎 (射出成形金型編)<その8>”,技能と技術,社団法人雇用問題研究会,平成13年11月1日,Vol.36,6/2001,p.58-66 ここで、甲1?6は、特許異議申立書(以下、「申立書」という。)に添付された甲第1号証?甲第6号証である。 記2 本件発明1?8は、平成30年8月3日に提出された意見書における主張によれば、内シール筒部の下端部と弁体部の突出部とが近接または当接することにより、「キャップ裏面の突起(例えば「内シール筒部(シール部)37」)をある程度の長さとしておけば、オーバーキャップ(16)を閉めたとき、内シール筒部(37)の下端部(37a)と弁体部(44)の突出部(44b)とを近接または当接させて弁体部(44)(の動き)を抑えることも可能となる」という作用効果が得られるものであるにも関わらず、このことが本件の特許請求の範囲には記載されていない。 ゆえに、本件発明1?8は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許請求するものであるから、本件特許に係る出願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 4.理由1について (1)甲1?6の記載 甲1?6の各々に記載された事項を甲1記載事項?甲6記載事項という。 ア.甲1記載事項 (ア)「【特許請求の範囲】 【請求項1】 外容器体2の口頭部外面へ、ノズル付き等の流出部材11の装着筒12を螺合させた、デラミボトル1において、 上記外容器体の口頸部4を、胴部上端から肩部5を介して起立させると共に、口頸部4の上部を雄ねじ筒として、該雄ねじ筒下方の口頸部部分に、上下両面を当接するスリット6を横設し、 上記装着筒12を口頸部へ螺合させて下限まで締付したとき、装着筒12下端面が肩部5上面へ圧接すると共に、装着筒12内面の雌ねじが雄ねじ筒を引上げすることで、上記スリットが口頸部4の弾性に抗して開口して、該開口7内を通って外気が外容器体と内袋3との間へ流入可能とした ことを特徴とする流出部材付きデラミボトル。」 (イ)「【技術分野】 【0001】 本発明は流出部材付きデラミボトルに関する。 【背景技術】 【0002】 容器体内液体が減少して置換用空気が容器体内へ流入すると、容器体内液体に悪影響を及ぼすため、このような外気流入を防止するため、外容器体内へ内袋を装着させ、液体を注出すると、外容器体に設けた外気流入孔から外容器と内袋との間に外気が入って、外容器体胴部は弾性復元するが、内袋は収納液体流出のまま体積を縮小して内袋内液体には外気が触れないよう設けたデラミボトルが知られている(特許資料1)。 【特許文献1】公表特許雄公報第2000-513683号 【発明の開示】 【発明が解決しようとする課題】 【0003】 上記デラミボトルは、外容器体に穿設した外気吸入孔部分において、内袋内液体成分がその外気吸入孔内方の内袋部分を透過して外気吸入孔から散失することがあった。該欠点は、デラミボトルにレフィールキャップを嵌合させたままで保存し、液体使用時にノズル付きキャップ等に交換する場合に、レフィールキャップ嵌合のまま保存する期間が長くなるため特に問題となるものであった。 【0004】 本発明は、上記レフィールキャップで使用時には外気吸入孔が閉塞されており、ノズル付きキャップ、櫛付きキャップ等に交換したときその外気吸入孔が開口するよう設けて、上記レフィールキャプ使用時における、外気吸入孔内方の内袋部分からの液体成分散失を防止できるよう設けたものである。」 (ウ)「【0009】 以下図面について説明すると、1はデラミボトルで、該デラミボトルは公知のように外容器体2と該外容器体内へ収納された内袋3とからなり、内袋の口部上端は外容器体口頸部4の上端上面へ気密に接合させてある。外容器体は胴部上端から肩部5を介して口頸部を起立しており、該口頸部の上部は雄ねじ筒としており、該雄ねじ筒下方の口頸部部分には図3が示すように、任意に定めた前後両部に一対の第1、第2スリット6aを、かつこれ等両スリットやや下方の左右両部に一対の第3、第4スリット6bを、それぞれ穿設し、かつ上方からみて第1、第2スリットの各左右両部と第3、第4スリットの各前後両部とは上下に重なる位置へ設けている。」 (エ)「【0014】 該図示の流出部材11は、装着筒12上端から内向きフランジ13を介して上部小径のノズル14を起立し、又該ノズルの中間部内面からは延長筒15を垂下させている。装着筒12の上部内面は小内径として該小内径部分へ、弁孔16を中心部に有する底板17外周から内筒18を起立し、該内筒の中間部外面から外向きフランジ19を突出させ、該外向きフランジ外周から嵌合筒20を起立させて弁座形成部材21を嵌合させ、又該部材内へ弁部材22を嵌合させ、該弁部材周壁下端から上記弁孔上面を開閉自在に閉塞する第1弁板23を突出させている。又弁部材周壁内へは上記延長筒15を嵌合させ、かつその周壁上端からフランジ状の第2弁板24を外方突出させて上記内向きフランジの内周部下面へ当接させて外気吸入弁25を形成し、かつノズル14の下端周壁部分に外気導入孔26を穿設させると共に上記嵌合筒下端に設けた透孔27を通って外容器体口頸部外面と装着筒12内面との間へ外気が入るよう設けている。 【0015】 図1は、外容器体口頸部に対してノズル付き流出部材の装着筒12を螺合させ、該装着筒を下限まで螺合し、締付けた状態を示すもので、該状態では装着筒12下端面は外容器体の肩部5上面へ圧接し、又口頸部上部の雄ねじ筒は、装着筒12内面の雌ねじとの螺合締付けにより口頸部の弾性に抗して上方へ引上げられ、よって既述スリット6は図示のように開口7する。尚31はノズル上端へ嵌合させた口キャップである。 【0016】 図1状態から口キャップ31を外し、デラミボトルを傾け、外容器体の胴部を弾性に抗して圧搾すれば弁孔16を通ってノズル14からデラミボトル内液体が注出され、注出終了と同時に第1弁板23が閉じ、するとデラミボトルの外容器体内は負圧化するため、外気導入孔26、外気吸入弁25、口頸部4と装着筒12との間、又開口状態にあるスリット6を通って外気が流入して外容器体内の負圧状態を解消し、又内袋は液体減少部分だけ収縮する。」 (オ)「【図1】 」 (カ)【図1】に図示されたものからは、第1弁板23には、延長筒15側に突出する突出部が中央部に形成されていることが看取される。 イ.甲2記載事項 (ア)「【実用新案登録請求の範囲】 【請求項1】 可撓性の容器に装着可能に設けられ、注出ノズルが形成されたキャップ本体部と、上記注出ノズルを覆うようにして上記キャップ本体部に係脱可能に設けられた上蓋と、を有するキャップにおいて、上記キャップ本体部には、上記注出ノズルに連通する流路に熱可塑性樹脂製の可動弁が配設され、この可動弁は、前記容器内が所定圧以上になったときに開弁するよう構成されたことを特徴とするキャップ。」 (イ)「【0001】 【産業上の利用分野】 この考案はキャップに係り、特に、スクイズ可能な容器に装着されるキャップに関する。」 (ウ)「【0018】 さて、上記可動弁14は、リング形状の支持部30とポペット31とが、複数条のスプリング33により一体化されて、軸方向に伸縮可能に構成される。この可動弁14の支持部30が、中栓13の開口25に圧入されて、可動弁14が中栓13に固着される。また、中栓13の流路筒26における底部34には弁座35が開口され、可動弁14のポペット31は、この弁座35を開閉可能とする。 【0019】 ポペット31は、スプリング33の付勢力によって、弁座35を常時閉状態とし、可動弁14を閉弁作動させる。また、容器1をスクイズして、容器1内が加圧されたときには、この加圧力Fが所定圧以上になったときにスプリング33が圧縮され、ポペット31は弁座35を開状態とし、可動弁14が開作動される。 【0020】 更に、可動弁14のポペット31には空気置換孔36が穿設される。この空気置換孔36は、キャップ10が容器1に装着された状態で、容器1内と中栓13の流路筒26内とを連通する。この空気置換孔36は、例えば約0.5mmの小径に形成され、このため、内壁面に容器1内の内容液が表面張力によって常時付着し、閉じ状態にある。容器1のスクイズ後にこの容器1内が負圧になるので、上蓋12の開蓋状態下で大気圧Pが注出ノズル18から中栓13の流路筒26内へ作用したとき、空気置換孔36内の内容物が大気圧Pにより除去され、空気置換孔36が連通状態となって大気圧Pが容器1内へ導入され、この容器1の形状が復元される。」 (エ)「【図2】 」 ウ.甲3記載事項 (ア)「【特許請求の範囲】 【請求項1】 液体が充填された容器本体の口部に装着され、ピストン・シリンダ機構をトリガーレバーの揺動操作で往復させて一定量ずつ吐出させるトリガーディスペンサであって、 吸入管路と連通する前記ピストン・シリンダ機構のシリンダ室内に吸入時に開き吐出時に閉じる吸入弁を設ける一方、前記ピストン・シリンダ機構と連通する吐出管路の先端部に吸入時に閉じ吐出時に開く吐出弁を設けたことを特徴とするトリガーディスペンサ。」 (イ)「【0001】 【発明の属する技術分野】この発明はトリガーディスペンサに関し、液体洗剤など比較的粘度が高く、しかも一回の使用量が多い液体でも確実に一定量を吐出させることができ、液だれや乾燥固化による吐出不良を防止できるようにしたものである。」 (ウ)「【0036】一方、このトリガーディスペンサ20では、ピストン・シリンダ機構35のシリンダ室37と排出孔32を介して連通する吐出管路29の先端部であるディスペンサ本体21の水平円筒部48の先端部に吐出弁49が設けてあり、吸入時に閉じ、吐出時に開くようにしてある。」 (エ)「【0038】また、この吐出弁49の弁座54の円錐面には、微小溝で構成された吸戻溝59が形成してあり、通常の吸入行程では吸入弁38からの吸入のみが行われて何等機能せず、遮断バルブ44が吸入行程の終了前に閉じられた後、残りの吸入行程で残存液を吸い戻す場合の流路となるような大きさとされ、吐出弁49の前方の残存液を極力残さないように吸い戻す。」 (オ)「【図2】 」 エ.甲4記載事項 (ア)「【特許請求の範囲】 【請求項1】 外層体の口部に装着される装着部を有し前記口部に形成された貫通孔を通して内層体との間に空気が導入される二重容器に装着される注出キャップであって、 当該キャップの内側には、内層体の内側に形成された内容物を充填する空間を外界に通じさせる注出路が形成されていると共に、この注出路には、当該注出路を開閉する逆止弁が設けられ、更に、キャップの内側には、外層体の貫通孔を外界に通じさせる通気路が形成されていることを特徴とする二重容器用注出キャップ。」 (イ)「【技術分野】 【0001】 本発明は、内容物を充填する内層体と、この内層体を収納する外層体からなる二重容器に装着される注出キャップ及び、当該注出キャップ付き二重容器に関するものである。」 (ウ)「【0040】 図6は、本発明の第3の形態である、注出キャップ30付きデラミボトル1である。本形態は、第2の形態の変形例であり、他の形態と同一の部分は、同一の符号をもって、その説明を省略する。 【0041】 本形態の注出キャップ30では、のピン状の部位11gが注出路R_(1)の天面から注出路R_(2)に向かって一体に垂下している。ピン状の部位11gは、その下端が弁体13dの上昇を抑えることで、当該注出路R_(1)、R_(2)の開閉を司る弁体13dを備える逆止弁(3点弁)の開放動作を規制する。こうした構成によれば、当該逆止弁に係る弁体13dのストロークを短く抑えることができるので、注出に際して内層体2に外気が入り込む現象を更に効果的に抑制することができる。」 (エ)「【図6】 」 オ.甲5記載事項 (ア)「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、無菌点眼容器や保存剤不使用の化粧液容器などに好適に利用できる分与容器の口栓構造に関する。」 (イ)「【0009】 【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、液体を収容した各種容器の口部に装着して、容器内圧が大気圧の状態では閉弁し、容器内圧が所定圧を超えると開弁する分与弁を有する分与容器の口栓構造であって、上記従来構造の種々の問題点を解消し得る口栓構造を提供することを目的とする。」 (ウ)「【0055】バルブヘッド82は、平面視円形状であってボトル内面側に向けて凸状に湾曲する球面上に成形されており、その中央部には、十字状の切り込みからなるオリフィス82aが設けられている。このオリフィス82aは、ヘッド82の内面に予め定められた分与圧力が作用すると内層22内部の流体(内容液)の流れを許容するように開き、その予め定められた分与圧力が除去されると、すなわち、ヘッド82の内面に作用する圧力が上記分与圧力未満になると流体の流れを遮断するように閉じる。又、バルブヘッド82の中央下面は略平坦に形成されており、上記オリフィス82aは、この平坦面が形成された範囲内に設けられている。このバルブヘッド82の平坦面は、通常の状態においては、上記支持壁部31dの上面に面接している。 【0056】コネクタスリーブ83は、略円筒状であって、軸方向一端側はバルブフランジ81の内周縁に一体的に接続され、軸方向他端側はバルブヘッド82の外周縁に一体的に接続されている。また、コネクタスリーブ83は容易に変形し得るように比較的薄肉の柔軟な構造となっている。これにより、上記予め定められた分与圧力よりも小さい所定の圧力がバルブヘッド82内面に作用すると、オリフィス82aが閉じた状態を維持したままでバルブヘッド82が下流側(先端側)へ変位し、その結果、コネクタスリーブ83は捲れるように弾性変形する。また、上記小さい所定の圧力が除去されると、コネクタスリーブ83は復元変形し、オリフィス82aが閉じた状態でバルブヘッド82が上流側(基端側)へ変位し、その結果、ノズル内流路に残存する流体をフィルターの上流側へ吸い戻す。なお、この流体の吸い込み力は、上記コネクタスリーブ83の復元力によって得られるものであってもよく、また、ヘッド82の内面の負圧によって得られるものであってもよい。 【0057】上記キャップ40は、第2の栓部材32の先端外周部に着脱自在に螺着され、容器1の不使用時にはキャップ40によりノズル部3a周囲を外気から密閉して、埃や細菌類の付着を防止する。また、キャップ40の天板部中央の下面には、キャップ40を第2の栓部材32に螺着したときにノズル内流路に内嵌して、該流路を埋める突起41が下方突出状に設けられている。」 (エ)「【図3】 」 カ.甲6記載事項 (ア)「(3)スプルーロック(Spurue Lock) 成形過程において,射出成形機のノズルから射出された溶融樹脂は、スプルー,ランナー,ゲートを通過して各キャビティへと充填される。」(58頁左欄1?4行) (イ)「(丸1:当審注:原文は丸数字の1)ゲートの種類 ゲートは非制限ゲートと制限ゲートに大別できる。 非制限ゲートは,溶融樹脂を何等制限することなく,スプルーから直接キャビティに注入させる方式で,ダイレクトゲートまたはスプルーゲートともいう。」(60頁右欄10?14行) (ウ)「(丸3)非制限ゲートの特徴 非制限ゲートは,スプルーゲートまたはダイレクトゲートとも呼ばれ,スプルーから直接キャビティに注入させる方式である。 そのため,成形品には大きなゲートがあり,その処理に手間がかかるばかりでなく,大きなゲート痕が残り,製品の外観不良をきたす,という大きな欠点がある。(図69,写真13,14) しかし,大型成形品の1個取り方式では,その威力を十分発揮し,そのような場合には非制限ゲートが断然有利である。」(61頁左欄11?21行) (2)判断 ア.本件発明1について (ア)甲1発明 甲1記載事項(上記(1)ア.(ア)?(カ)を参照)からみて、甲1には以下の甲1発明が記載されているといえる。 《甲1発明》 外容器体2と該外容器体内へ収納された内袋3とからなり、外容器体2の口頭部外面へ、ノズル14付き流出部材11の装着筒12を螺合させた、デラミボトル1において、 流出部材11は、装着筒12上端から内向きフランジ13を介して上部小径のノズル14を起立し、又該ノズル14の中間部内面からは延長筒15を垂下させ、前記装着筒12の上部内面は小内径として該小内径部分へ、弁孔16を中心部に有する底板17外周から内筒18を起立し、該内筒の中間部外面から外向きフランジ19を突出させ、該外向きフランジ外周から嵌合筒20を起立させて弁座形成部材21を嵌合させ、又該部材内へ弁部材22を嵌合させ、該弁部材22周壁下端から上記弁孔16上面を開閉自在に閉塞し、前記延長筒15側に突出する突出部が中央部に形成された第1弁板23を突出させ、又弁部材22周壁内へは上記延長筒15を嵌合させ、かつその周壁上端からフランジ状の第2弁板24を外方突出させて上記内向きフランジの内周部下面へ当接させて外気吸入弁25を形成し、かつ上記ノズル14の下端周壁部分に外気導入孔26を穿設させると共に上記嵌合筒20下端に透孔27を設けており、 上記外容器2の口頸部4に横設されたスリット6が開口7することで、外気吸入弁25、前記開口7内を通って外気が外容器体と内袋3との間へ流入可能とした、デラミボトル1。 (イ)甲1発明との対比、一致点、相違点 甲1発明の「内袋3」、「開口7」、「外容器体2」、「流出部材11」、「外気吸入弁25」、「弁座形成部材21」、「装着筒12」、「弁孔16」、「第1弁板23」は、各々、本件発明1の「内容器」、「吸気孔」、「外容器」、「吐出キャップ」、「空気弁部」、「中栓部材」、「本体筒部材」、「連通孔」、「弁体部」に相当する。 してみると、本件発明1と甲1発明とは、少なくとも以下の点で相違点する。 《相違点》 本件発明1では、「弁体部」が、「連通孔の軸線方向に沿って弾性変位して当該連通孔を開閉する」ものであり、「弁体部の弁座のうち当該弁体部と接触する部位の一部に、内容物の流通を許容する流通許容溝が形成されており」、「前記流通許容溝は、前記弁体部が前記弁座に着座した後、内空間に残留した前記内容物を前記内容器内に戻し、且つ、表面張力により該内容物が該流通許容溝を閉塞する大きさに設定されている」のに対し、甲1発明では、「第1弁板23」が弁孔16の軸線方向に沿って弾性変形し前記弁孔16を開閉するとは特定されておらず、また、本件発明1の「流通許容溝」に対応する構造や機能を有するものを具備していない点。 (ウ)相違点の判断 上記相違点について検討する。 上記相違点のうち、特に、「弁体部の弁座のうち当該弁体部と接触する部位の一部に、内容物の流通を許容する流通許容溝が形成されており」、「前記流通許容溝は、前記弁体部が前記弁座に着座した後、内空間に残留した前記内容物を前記内容器内に戻し、且つ、表面張力により該内容物が該流通許容溝を閉塞する大きさに設定されている」点は、甲1?甲6には記載されていないし、これを示唆する記載もない。 そして本件発明1は、上記の点を発明特定事項としたことにより、本件特許明細書の段落【0005】に記載された「内容物の吐出後、内容器に戻されなかった内容物が吐出口から漏出するのを抑制することができる吐出容器を提供する」という課題を解決し、段落【0021】に記載された「この流通許容溝により、弁体部が弁座に着座した閉塞状態の後も、前記内空間に残留した内容物を内容器内に戻すことができる。また、流通許容溝の大きさは内容物に応じて設定することができ、最終的には表面張力により内容物が該流通許容溝内に留まり、この溝を介した空気の連通を阻止するように設定されている。このため、前記内空間における内容物の残留を少なくすることができ、オーバーキャップを閉じて被蓋状態としてシール部が吐出口に入り込んで嵌合した際にも、当該シール部の体積に応じて内容物を押し出す作用が生じることを回避することができる。したがって、オーバーキャップを閉じて被蓋状態とする際に内容物が溢れてオーバーキャップの内側や吐出キャップが汚れるのを回避することができる。」という格別な作用効果を奏するものである。 したがって、本件発明1は、甲1発明及び甲1記載事項?甲6記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 なお、申立人は、甲2及び甲3のそれぞれに、上記の点が記載されている旨を主張している。 しかし、上記(1)イ.(ア)?(エ)に摘記した甲2記載事項からは、キャップ本体部形成された注出ノズルに連通する流路に配設され、容器内が所定圧以上になったときに開弁する可動弁に、容器内と中栓の流路筒26内とを連通する空気置換孔を穿設し、前記空気置換孔を、例えば約0.5mmの小径に形成することで、「内壁面に容器1内の内容液が表面張力によって常時付着し、閉じ状態にある。容器1のスクイズ後にこの容器1内が負圧になるので、上蓋12の開蓋状態下で大気圧Pが注出ノズル18から中栓13の流路筒26内へ作用したとき、空気置換孔36内の内容物が大気圧Pにより除去され、(下線は当審にて付与。)空気置換孔36が連通状態となって大気圧Pが容器1内へ導入され、この容器1の形状が復元される」ことが把握されるものの、甲2には、可動弁14が弁座35に着座した後、前記空気置換孔36の内部に残留した内容物を内容器内に戻し、且つ、表面張力により該内容物が前記空気置換孔36を閉塞する程度の大きさに、前記空気置換孔36の孔の大きさを設定することは、記載されていないし示唆もされていない。 また、上記(1)ウ.(ア)?(オ)に摘記した甲3記載事項からは、吐出管路29の先端部であるディスペンサ本体21の水平円筒部48の先端部に設けられ、吸入時に閉じ、吐出時に開く吐出弁49の弁座54の円錐面に、微小溝で構成された吸戻溝59を形成することで、「通常の吸入行程では吸入弁38からの吸入のみが行われて何等機能せず、遮断バルブ44が吸入行程の終了前に閉じられた後、残りの吸入行程で残存液を吸い戻す場合の流路となるような大きさとされ、吐出弁49の前方の残存液を極力残さないように吸い戻す」ことが把握されるものの、甲3には、吐出弁49が弁座54に着座し、吐出弁49の前方の残存液を極力残さないように吸い戻す際に、表面張力により前記残存液が前記吸戻溝59を閉塞する程度の大きさに、前記吸戻溝59の大きさを設定することは、記載されていないし示唆もされていない。 ゆえに、申立人の上記主張は当を得ておらず、採用できない。 イ.本件発明2?8について 本件発明2?8は、本件発明1の発明特定事項の全てを含み、さらに、技術的な限定を加える事項を発明特定事項として備えるものであるから、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、甲1発明及び甲1記載事項?甲6技術的事項に基いて、当業者が容易に発明することができたものとはいえない。 (3)理由1のまとめ 以上のとおり、本件発明1?8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではないから、同法第113条第2号の規定に該当することを理由に取り消されるべきものとすることはできない。 5.理由2について 本件発明1及び本件発明1の発明特定事項の全てを含み、さらに、技術的な限定を加える事項を発明特定事項として備える本件発明2?8は、上記4.(2)ア.(ウ)でも示したように、本件特許明細書の段落【0005】に記載された「内容物の吐出後、内容器に戻されなかった内容物が吐出口から漏出するのを抑制することができる吐出容器を提供する」という課題を解決し、段落【0021】に記載された「この流通許容溝により、弁体部が弁座に着座した閉塞状態の後も、前記内空間に残留した内容物を内容器内に戻すことができる。また、流通許容溝の大きさは内容物に応じて設定することができ、最終的には表面張力により内容物が該流通許容溝内に留まり、この溝を介した空気の連通を阻止するように設定されている。このため、前記内空間における内容物の残留を少なくすることができ、オーバーキャップを閉じて被蓋状態としてシール部が吐出口に入り込んで嵌合した際にも、当該シール部の体積に応じて内容物を押し出す作用が生じることを回避することができる。したがって、オーバーキャップを閉じて被蓋状態とする際に内容物が溢れてオーバーキャップの内側や吐出キャップが汚れるのを回避することができる。」という格別な作用効果を奏するものである。 一方、平成30年8月3日に提出された意見書における主張は、同年7月23日付け拒絶理由通知書で通知した、「突出部」の構成が、一意に解釈できず、不明確であることを趣旨とする特許法第36条第6項第2号(明確性)違反に関するものであるところ、「キャップ裏面の突起(例えば「内シール筒部(シール部)37」)をある程度の長さとして」、「オーバーキャップ(16)を閉めたとき、内シール筒部(37)の下端部(37a)と弁体部(44)の突出部(44b)とを近接または当接させ」ることは、「キャップ裏面の突起(例えば「内シール筒部(シール部)37」)をある程度の長さとしておけば、オーバーキャップ(16)を閉めたとき、内シール筒部(37)の下端部(37a)と弁体部(44)の突出部(44b)とを近接または当接させて弁体部(44)(の動き)を抑えることも可能となる」という作用効果を奏するものではあるものの、本件特許明細書の段落【0005】と【0021】に記載された、上記課題を解決し、上記格別な作用効果を奏するために必要な事項とはいえない。 ゆえに、上記のことが、本件の特許請求の範囲には記載されていないことを理由に、本件特許に係る特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないとはいえない。 したがって、本件発明1?8に係る特許は、特許法第36条第6項第1号の規定に違反してされたものではないから、同法第113条第4号の規定に該当することを理由に取り消されるべきものとすることはできない。 6.むすび したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては本件発明1?8に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件発明1?8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2019-07-01 |
出願番号 | 特願2015-76625(P2015-76625) |
審決分類 |
P
1
651・
537-
Y
(B65D)
P 1 651・ 121- Y (B65D) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 高橋 裕一 |
特許庁審判長 |
千壽 哲郎 |
特許庁審判官 |
井上 茂夫 渡邊 豊英 |
登録日 | 2018-09-28 |
登録番号 | 特許第6408416号(P6408416) |
権利者 | キッコーマン株式会社 株式会社吉野工業所 |
発明の名称 | 吐出容器 |
代理人 | 江口 昭彦 |
代理人 | 大貫 敏史 |
代理人 | 稲葉 良幸 |
代理人 | 大貫 敏史 |
代理人 | 江口 昭彦 |
代理人 | 稲葉 良幸 |
代理人 | 内藤 和彦 |
代理人 | 内藤 和彦 |