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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 C08J 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C08J 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C08J 審判 全部申し立て 2項進歩性 C08J |
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管理番号 | 1353210 |
異議申立番号 | 異議2019-700294 |
総通号数 | 236 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2019-08-30 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2019-04-16 |
確定日 | 2019-07-11 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6405349号発明「熱処理ポリマー粉末」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6405349号の請求項1ないし10に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6405349号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし10に係る特許についての出願は、2011年(平成23年)9月27日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2010年9月27日 アメリカ合衆国)を国際出願日とする特願2013-530411号の一部を平成28年9月9日に新たな特許出願(特願2016-176899号)としたものであって、平成30年9月21日にその特許権の設定登録(請求項の数10)がされ、同年10月17日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、平成31年4月16日に特許異議申立人 エボニック デグサ ゲーエムベーハー(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし10)がされたものである。 第2 本件特許発明 本件特許の請求項1ないし10に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいい、総称して「本件特許発明」という。)は、それぞれ、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 少なくとも2つの異なる融点を有する少なくとも2種の半結晶性の又は結晶形成可能なポリエーテルケトンケトン多形体を含み、選択的レーザー焼結、回転成形又は粉末コーティングに適した被熱処理ポリマー粉末組成物を製造する方法であって、 (a)最も高い融解結晶性多形体の融点より20℃未満低く、かつ、その他の結晶性多形体の融点以上の温度を選択することによって熱処理条件を決定し、 (b)前記の最も高い融解結晶性多形体の融点より20℃未満低く、かつ、前記のその他の結晶性多形体の融点以上の温度で、ポリマー組成物において最も高い融解結晶性多形体の含量をその他の結晶性多形体に対して増加させる時間にわたり、ポリマー組成物を熱処理するステップを少なくとも含み、 前記ポリエーテルケトンケトンが式I又はII: -A-C(=O)-B-C(=O)- I(異性体T) -A-C(=O)-D-C(=O)- II(異性体I) (式中、Aは、p,p’-Ph-O-Ph-基であり、Phは、フェニレン基であり、Bはp-フェニレンであり、Dは、m-フェニレンである)によって表される反復単位を含み、T:I異性体比が、60/40?80/20の範囲である、前記方法。 【請求項2】 熱処理したポリマー組成物を粉末に粉砕するステップであって、結晶度を低下させないステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。 【請求項3】 前記半結晶性の又は結晶形成可能な多形体が、熱処理前及び/又は熱処理後に、15?150μmの重量平均粒度を有する粒子の形態である、請求項1に記載の方法。 【請求項4】 熱処理の温度が、最も高い融解結晶性多形体の融点より15℃未満低い、請求項1に記載の方法。 【請求項5】 熱処理の温度が、最も高い融解結晶性多形体の融点より10℃未満低い、請求項1に記載の方法。 【請求項6】 熱処理の温度が、最も高い融解結晶性多形体の融点より5℃未満低い、請求項1に記載の方法。 【請求項7】 前記ポリマー組成物が、非多形ポリマー、充填剤、及び繊維からなる群から選択される1つ以上の他の成分をさらに含む、請求項1に記載の方法。 【請求項8】 前記熱処理温度が、230℃?300℃の範囲である、請求項1に記載の方法。 【請求項9】 前記熱処理温度が、270℃?375℃の範囲である、請求項1に記載の方法。 【請求項10】 得られた被熱処理ポリマー組成物が、ポリエーテルケトンケトン中のI型及びII型の総量に基づき、90%以上のI型ポリエーテルケトンケトンを含む、請求項1に記載の方法。」 第3 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要 平成31年4月16日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。 1 申立ての理由1(甲第1号証に基づく新規性) 本件特許の請求項1ないし3及び7に係る発明は、下記の本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明であり、特許法第29条第1号第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし3及び7に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 2 申立ての理由2(甲第1号証を主引用文献とする進歩性) 本件特許の請求項1ないし10に係る発明は、下記の本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし10に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 3 申立ての理由3(請求項1、5及び6に係る発明のサポート要件及び実施可能要件) 本件特許の請求項1、5及び6に係る特許は、以下の(1)ないし(4)の点で特許法第36条第6項第1号及び同法同条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 <請求項1について> (1)本件特許の請求項1には、「被熱処理ポリマー粉末組成物」を得るために、使用される原料となる材料について「ポリマー組成物」としか記載されておらず、本件特許明細書の発明の詳細な記載を参酌しても、どのような成分の材料を使用して熱処理することにより、特定の成分の「ポリエーテルケトンケトン」を含む「被熱処理ポリマー組成物」を得ることができるのか当業者であっても理解できない。 また、本件特許明細書は、当業者が実施できる程度に十分に記載されていない。 (2)本件特許明細書には、実施例として、「T:I異性体比が、60/40」の製品OXPEKK(商用)SPポリエーテルケトンケトン粉末及びペレットについて、熱処理して、多形性の変化の様子を確認しているのみであり、「T:I異性体比が、60/40?80/20の範囲」のポリエーテルケトンケトンについて、本件特許発明の実施例からでは、得られた「被熱処理ポリマー粉末組成物」を、「選択的レーザー焼結、回転成形又は粉末コーティング」に使用した場合にどのような優れた効果を有するのか理解できない。 また、本件特許明細書には、実施例が開示されておらず、当業者が実施できる程度に十分に記載されていない。 (3)本件特許明細書には、全PEKK結晶(100%)をI型に転換することのみが開示されており、本件特許の請求項1の「少なくとも2つの異なる融点を有する少なくとも2種の半結晶性の又は結晶形成可能なポリエーテルケトンケトン多形体」と整合しておらず、矛盾する。 また、本件特許明細書は、当業者が実施できる程度に十分に記載されていない。 <請求項5及び6について> (4)本件特許の実施例では、「熱処理の温度」と「最も高い融解結晶性多形体の融点」との差として、297-285=12℃が開示されているのみであり、請求項5の「熱処理の温度が、最も高い融解結晶性多形体の融点より10℃未満低い」及び請求項6の「熱処理の温度が、最も高い融解結晶性多形体の融点より5℃未満低い」については開示されていない。 また、本件特許明細書は、当業者が実施できる程度に十分に記載されていない。 4 申立ての理由4(請求項10に係る発明の明確性) 本件特許の請求項10に係る特許は、以下の(1)の点で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 (1)請求項10には、「得られた被熱処理ポリマー組成物が、ポリエーテルケトンケトン中のI型及びII型の総量に基づき、90%以上のI型ポリエーテルケトンケトンを含む」とあるが、請求項1の「前記ポリエーテルケトンケトンが式I又はII: ・・・(略)・・・を含み、T:I異性体比が、60/40?80/20の範囲である」という記載の範囲に含まれず、矛盾する。 5 証拠方法 甲第1号証:特開2010-6057号公報 甲第2号証:POLYMER,1992,Volume 33,Number 12 2483-2495 甲第3号証:POLYMER,1994,Volume 35,Number 11 2290-2295 甲第4号証:M.Dosiere(ed.),Crystallization of Polymers,443-448,1993 以下、順に「甲1」のようにいう。 第4 当審の判断 1 申立ての理由1(甲第1号証に基づく新規性)及び申立ての理由2(甲第1号証を主引用文献とする進歩性)について (1)甲1ないし4に記載された事項等 ア 甲1に記載された事項及び甲1発明 (ア)甲1に記載された事項 甲1には、「構造修飾されたポリマーの選択的焼結」に関して、おおむね次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付したものである。他の文献についても同様。 ・「【技術分野】 【0001】 本発明は、粉末の電磁放射を用いた選択的焼結によって粉末から三次元物体を製造する方法であって、粉末が、ポリマー又はコポリマーを含む、方法に関する。さらに、本発明は、上記方法により製造される三次元物体、上記方法により三次元物体を製造する装置、及び上記方法における事前選択されたポリマー粉末の使用に関する。」 ・「【0160】 さらに、粉末は、それぞれのポリマー、コポリマー又は配合物のマトリクスの他に1つ又は複数のフィラー及び/又は添加剤を含む複合粉末であってもよい。フィラーは、製造される物体の機械特性をさらに改善するのに使用され得る。例えば、炭素繊維、ガラス繊維、Kevlar(ケブラー(登録商標))繊維、カーボンナノチューブ、又は好ましくは低いアスペクト比を有するフィラー(ガラスビーズ、アルミニウム顆粒等)又は二酸化チタン等の鉱物フィラー等のフィラーを、少なくとも1つのポリマー又はコポリマーを含む粉末中に組み込んでもよい。さらに、粉末の加工性を改善するプロセス(processing)添加物、例えば、Aerosilシリーズの1つ(例えばAerosil R974、Aerosil R812、Aerosil 200)等の易流動性剤、又は熱安定剤、酸化安定剤、顔料(カーボンブラック、グラファイト等))のような他の機能性添加剤を使用してもよい。」 ・「【0189】 実施例7(本発明による) 少なくとも1つの1,4-フェニレン単位をそれぞれ含有する繰り返し単位と、少なくとも1つの1,3-フェニレン単位をそれぞれ含有する繰り返し単位との比率が60:40であり、融点が297℃であり、且つ平均粒径d_(50)=60μmである、熱処理したPEKK粉末(Typ PEKK-SP、OPM社(Enfield, CT, USA)から購入)を、高温利用のためEOSによって改良したレーザー焼結装置タイプP700において加工した。プロセスチャンバの温度は286℃であった。286℃?250℃における平均冷却速度は、0.3K/分よりも速かった。250℃?Tgでは、自然な熱損失により平均冷却速度を定めた。 【0190】 レーザー焼結した成型品は平均して以下の特性を有していた。 【0191】 密度:1.285g/cm^(3) 引張強度(ISO 527-2): ヤング係数:3900MPa 引張強度:69MPa 破断伸び:1.9%」 (イ)甲1発明 甲1に記載された事項を、実施例7に関して整理すると、甲1には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。 <甲1発明> 「高温利用のためEOSによって改良したレーザー焼結装置タイプP700における加工に用いるために、少なくとも1つの1,4-フェニレン単位をそれぞれ含有する繰り返し単位と、少なくとも1つの1,3-フェニレン単位をそれぞれ含有する繰り返し単位との比率が60:40であるPEKK粉末を熱処理する方法。」 イ 甲2に記載された事項 甲2には、おおむね次の事項が記載されている。なお、原文の摘記は省略し、訳文を示す。甲3及び4についても同様。 ・「ジフェニルエーテル(DPE)、テレフタル酸(T)およびイソフタル酸(I)から製造され且つ種々のT/I比を有するポリ(アリールエーテルケトンケトン)(PEKK)の構造、結晶化およびモフォロジーを調査した。製造された時点で、それらのコポリマーは-DPE-T-DPE-T-(TT)および/または-DPE-T-DPE-I-(TI)を含有する「フタレートダイアド」からなると考えられる。」(2483ページ abstract1ないし4行) ・「表1 ポリ(アリールエーテルケトン)ファミリーの構成要素の化学構造およびそれらのケトン合有率 (表略)」(2484ページ Table 1) ・「実験 材料および製造 使用されたPEKK試料は、Du Pont製の開発段階のポリマーであった。前記ポリマーはジフェニルエーテル(DPE)、テレフタル酸(T)およびイソフタル酸(I)から、2段階の工程で製造され且つ以下のとおりの一般化された化学構造を有するが、パラ/メタフェニル異性体比、つまりT/I比によって互いに異なる:(構造式略)この研究のために6つのT/I比:100/0、90/10、80/20、70/30、60/40および50/50を製造した。」(2484ページ右欄15行ないし2485ページ4行) ・「(図略) 図6 形態1および形態2における鎖充填モードの模式図」(2487ページ Figure 6) ・「PEKK(50/50)の場合、形態2はより低い融点(約280℃)を有し、且つ溶融後に形態1に変化され得る。この場合、形態2は熱力学的に形態1よりも安定性が低く、且つ形成のためにより少ない移動度を必要とする。」(2494ページ右欄15ないし19行) ・「結論 多くのPEKKの特徴、例えば形態1の構造、T_(g)およびT_(m)は、ポリ(アリールエーテルケトン)のファミリーに特有であるとして理解できる。我々は種々のパラ/メタ異性体比を有するPEKKの結晶化、溶融およびモフォロジーを調査した。ポリ(アリールエーテルケトン)に関するのとは対照的に、PEKKは2つの異なる結晶構造、つまり、PEEKおよびPEKにおいて観察されるものと同じであり、通常は溶融結晶化から発現する従来の形態1の構造と、溶媒結晶化または冷結晶化から発現され得る新規の形態2の構造とを有する。形態1は2つの鎖の斜方晶の単位格子(a=0.769nm、b=0.606nmおよび繊維軸c=1.016nm)を有する一方で、形態2は1つの鎖の(測量的に)斜方晶の単位格子(a=0.786nm、b=0.575nmおよび繊維軸c=1.016nm)を有する。形態2の構造は、溶融後に形態1に変換されることができる。」(2494ページ右欄20ないし36行) ウ 甲3に記載された事項 甲3には、おおむね次の事項が記載されている。 ・「ポリ(アリールエーテルケトン)(PEK)における多形性を、化学構造および結晶化条件に関して、X線回折によって調査した。2種類の化学的な変化形を調査した:(1)ケト/エーテル結合のモル比(ケトン結合の%として示す)を、完全に1,4-置換形のポリ(アリールエーテルエーテルケトン)(PEEK)、PEK、ポリ(アリールエーテルケトンエーテルケトンケトン)(PEKEKK)およびポリ(アリールエーテルケトンケトン)(PEKK)を使用して、33%から67%まで変化させる、および(2)PEKKおよびPEKEKKの1,4-置換フェニル基を、その1,3-置換フェニル基により部分的に置換する。重合された時点のポリマー、および溶融結晶化、冷結晶化および塩化メチレンへの曝露によって誘導される結晶化(溶媒結晶化)によって製造された材料を使用した。調査されたポリマーの全てについて、形態1として知られる従来の構造が、溶融結晶化によって製造された試料中で観察された。これに対し、他の条件の1つの下で結晶化されたポリマーについては、場合により、形態2として知られる第2の多形が観察された。形態2の発生は、1,3-置換/1,4-置換の異性体比を変化させることによっておよび/またはエーテル/ケト結合比を変化させることによって系統的に変更された鎖の剛性、および結晶化の間の分子の移動度に依存することが判明した。」(2483ページ abstract1ないし13行) ・「我々は最近、ポリ(アリールエーテルケトンケトン)および他のポリ(アリールエーテルケトン)において、非結晶の試料の溶媒誘導結晶化または冷結晶化により、第2の結晶多形(形態2)が得られることを報告した。形態2の構造は、より安定な形態1の構造(通常は溶融結晶化により誘導される)とは、鎖の相対的な配置、ひいては鎖間の相互作用において異なる。鎖の配座における変化が多形性と関連することを示す証拠はない。2つの単位格子の投影図(鎖軸を見下ろす)を図1に示す。」(2290ページ左下欄8ないし19行) ・「(図略) 図1 PEKKの2つの多形についての単位格子および鎖充填の投影図(引用文献9から再現された図)」(2291ページ左上欄 Figure 1) ・「表2 PEKKの3つのホモポリマーについてのモノマー繰り返し単位内の化学構造および1,3-置換基の量 (表略)」(2291ページ Table 2) エ 甲4に記載された事項 甲4には、おおむね次の事項が記載されている。 ・「要約 高いケトン含有率を有するポリ(アリールエーテルケトン)、例えばPEKKにおける2つの結晶多形が観察された。ポリ(アリールエーテルケトン)における多形性を、化学構造および結晶化条件に関して、X線回折によって調査した。」(443ページ ABSTRACT 1ないし3行) ・「溶融物から結晶化されたポリマーについては、従来の構造である形態1が常に観察された。これに対し、第2の多形である形態2の発生は、1,3-結合/1,4-結合の異性体比を変化させることによって、および/またはエーテル/ケトン結合の比を変化させることによって変更され得る鎖の剛性、および結晶化の間の分子の移動度に依存することが判明した。」(443ページ ABSTRACT8ないし13行) ・「1. 序文 最近、非結晶の試料の溶媒結晶化または冷結晶化により、ポリ(アリールエーテルケトンケトン)、PEKK、および他のポリ(アリールエーテルケトン)における第2の結晶多形(形態2)が得られることが示された[1-6]。形態2の構造は、鎖の相対的な配置、ひいては鎖間の相互作用において、より安定な形態1(通常は溶融結晶化により誘導)とは異なる。2つの単位格子の投影図(鎖軸を見下ろす)を図1に示す。形態1は、単位格子の角と中心に位置する鎖を有し、edge-to-faceフェニル相互作用を特徴とする、2つの鎖の斜方晶の単位格子を有する。これとは対照的に、形態2は、face-to-faceのフェニル相互作用を有する、1つの鎖の(測量的に)斜方晶の単位格子が割り当てられる[5]。(Blunde11およびNewton[4]により、交互の単位格子が提案された。)前記の多形は異なる融点を有し、形態2の構造は、溶融後に形態1に変換されることができる。」(443ページ INTRODUCTION1ないし11行) ・「形態1の構造が特定の条件下で熱力学的に安定な結晶形である一方で、ポリマーはより安定度が低い形態2に捕らえられることがあるように思われる。」(444ページ10ないし12行) ・「(図略) 図1.PEKKにおいて見いだされた2つの多形の投影図;形態1(左)、形態(右)」(447ページ Figure 1) (2)本件特許発明1について ア 対比 本件特許発明1と甲1発明を対比する。 甲1発明における「少なくとも1つの1,4-フェニレン単位をそれぞれ含有する繰り返し単位」及び「少なくとも1つの1,3-フェニレン単位をそれぞれ含有する繰り返し単位」は、本件特許発明1における「-A-C(=O)-B-C(=O)- I(異性体T)」という「式I」の「ポリエーテルケトンケトン」及び「-A-C(=O)-D-C(=O)- II(異性体I)」という「式II」の「ポリエーテルケトンケトン」(式中、Aは、p,p’-Ph-O-Ph-基であり、Phは、フェニレン基であり、Bはp-フェニレンであり、Dは、m-フェニレンである)に、それぞれ相当する。 また、甲1発明における「少なくとも1つの1,4-フェニレン単位をそれぞれ含有する繰り返し単位」及び「少なくとも1つの1,3-フェニレン単位をそれぞれ含有する繰り返し単位」の融点は異なることは明らかであるし、それぞれの「繰り返し単位」が半結晶性の又は結晶形成可能なポリエーテルケトンケトン多形体を含むものであることも明らかである。 さらに、甲1発明における「PEKK粉末」は「高温利用のためEOSによって改良したレーザー焼結装置タイプP700における加工に用いるため」のものであるから、本件特許発明1における「選択的レーザー焼結、回転成形又は粉末コーティングに適した被熱処理粉末組成物」に相当する。 さらにまた、甲1発明における「比率が60:40である」は、本件特許発明1における「T:I異性体比が、60/40?80/20の範囲である」に相当する。 したがって、両者は次の点で一致する。 <一致点> 「少なくとも2つの異なる融点を有する少なくとも2種の半結晶性の又は結晶形成可能なポリエーテルケトンケトン多形体を含み、選択的レーザー焼結、回転成形又は粉末コーティングに適した被熱処理ポリマー粉末組成物を製造する方法であって、 前記ポリエーテルケトンケトンが式I又はII: -A-C(=O)-B-C(=O)- I(異性体T) -A-C(=O)-D-C(=O)- II(異性体I) (式中、Aは、p,p’-Ph-O-Ph-基であり、Phは、フェニレン基であり、Bはp-フェニレンであり、Dは、m-フェニレンである)によって表される反復単位を含み、T:I異性体比が、60/40?80/20の範囲である、前記方法。」 そして、両者は次の点で相違する。 <相違点> 本件特許発明1においては、「(a)最も高い融解結晶性多形体の融点より20℃未満低く、かつ、その他の結晶性多形体の融点以上の温度を選択することによって熱処理条件を決定し、 (b)前記の最も高い融解結晶性多形体の融点より20℃未満低く、かつ、前記のその他の結晶性多形体の融点以上の温度で、ポリマー組成物において最も高い融解結晶性多形体の含量をその他の結晶性多形体に対して増加させる時間にわたり、ポリマー組成物を熱処理するステップを少なくとも含み」と特定されているのに対して、甲1発明においては、そのようには特定されていない点。 イ 相違点についての判断 (ア)甲1に記載された事項によると、甲1発明において、熱処理を行う温度で不明であるし、また、熱処理を行う目的も不明である。 また、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)に関し、甲2ないし4には、形態1及び形態1より融点が低い形態2があり、形態2は溶融後に、熱力学的に安定な結晶形である形態1に変換させることができること(以下、「甲2ないし4記載の技術」という。)が記載されている。 ところで、本件特許の発明の詳細な説明の【0005】、【0006】、【0023】ないし【0034】、【0036】及び【0056】(後記2(1)イ参照。)によると、本件特許発明1において、熱処理を行うのは、ポリエーテルケトンケトンの形態を変換するためであるが、甲2ないし4には、形態の変換のために形態2の溶融を形態1の融点より20℃未満低い温度で行うことは記載されていないし、形態の変換のために形態2の溶融を形態1の融点より20℃未満低い温度で行うことが本件特許の優先日時の技術常識であったともいえない。 してみると、相違点に係る本件特許発明1の発明特定事項は、甲2ないし4に記載された事項及び技術常識を考慮しても、甲1発明が当然有していることが当業者に自明な事項であるとはいえないから、相違点は、実質的な相違点である。 (イ)上記(ア)のとおり、甲1発明において、熱処理を行う温度及び熱処理を行う目的は不明であり、また、甲2ないし4には、形態の変換のために形態2の溶融を形態1の融点より20℃未満低い温度で行うことは記載されていないし、形態の変換のために形態2の溶融を形態1の融点より20℃未満低い温度で行うことが本件特許の優先日時の技術常識であったともいえない。 したがって、甲1発明において、熱処理を行う温度及び熱処理を行う目的が不明である以上、相違点に係る本件特許発明1の発明特定事項は容易に想到し得たことであるとはいえない。 また、甲2ないし4記載の技術に接した当業者が、甲1発明において、甲2ないし4記載の技術を適用することを想到し得たとしても、甲2ないし4には、相違点に係る本件特許発明1の発明特定事項は無いから、相違点に係る本件特許発明1の発明特定事項には至らない。 そして、本件特許発明1は、相違点に係る本件特許発明1の発明特定事項を有することにより、「最も高い融解結晶形の含量を最大にする材料が製造される」という甲1発明及び甲2ないし4記載の技術からみて格別顕著な効果を奏するものである。 ウ まとめ したがって、本件特許発明1は、甲1発明、すなわち甲第1号証に記載された発明であるとはいえない。 また、本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2ないし4号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 (3)本件特許発明2、3及び7について 請求項2、3及び7は請求項1を直接引用するものであり、本件特許発明2、3及び7は、本件特許発明1をさらに限定したものであるから、本件特許発明1と同様に、甲第1号証に記載された発明であるとはいえないし、甲第1号証に記載された発明及び甲第2ないし4号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 (4)本件特許発明4ないし6及び8ないし10について 請求項4ないし6及び8ないし10は請求項1を直接引用するものであり、本件特許発明4ないし6及び8ないし10は、本件特許発明1をさらに限定したものであるから、本件特許発明1と同様に、甲第1号証に記載された発明及び甲第2ないし4号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (5)申立ての理由1及び2についてのまとめ したがって、申立ての理由1及び2は理由がない。 2 申立ての理由3(請求項1、5及び6に係る発明についてのサポート要件及び実施可能要件) (1)請求項1、5及び6に係る発明についてのサポート要件 ア サポート要件の判断基準 特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 イ 発明の詳細な説明の記載 本件特許の発明の詳細な説明には、次の記載がある。 ・「【技術分野】 【0001】 本発明は、高温での粉体処理及び熱処理工程により製造されるポリマー粉末を必要とする用途において、より均質の融解をもたらし、粉体流動性を改善すると共に、摩耗速度を低下させるための、多形半結晶性ポリマーの熱処理に関する。本発明はまた、熱処理によって形成されるポリマー材料にも関する。 【背景技術】 【0002】 1つ以上の結晶形を有する多形材料は、当該技術分野では公知である。以下のような複数の研究によって、交互ポリケトン及びポリ(アリールエーテルケトンケトン)において結晶性構造が見出されている:Cheng,Z.D.et al,“Polymorphism and crystal structure identification in poly(aryl ether ketone ketone)s”,Macromol.Chem Phys.197,185-213(1996);及びKlop.E.A.,et.al.,“Polymorphism in Alternating Polyketones Studied by X-ray Diffraction and Calorimetry”,Journal of Polymer Science:Part B:Polymer Physics,Vol.33,315-326(1995)。 【0003】 多くの半結晶性ポリマーにおいて結晶性の発現を促すのにアニールが知られている。こうした方法は、ポリマー処理及びポリマー及び金属製品の二次成形処理において用いられる。典型的なアニール方法では、材料をポリマーのガラス転移より高い温度に維持する。これらの処理は、結晶性を高めるが、潜在的レベルの結晶性を十分に発現せず、結晶-結晶転移を促進しない。 【0004】 米国特許出願第2008/0258330号明細書は、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)粉末の典型的なアニール方法を記載している。この方法は、狭い融点範囲を有する高度に結晶性の材料の利点をもたらさないと考えられる。記載されている方法では、一般的には、「Tgより20℃以上高い温度」でアニールを行うが、これは、アニール工程の温度が、粉末の融点より30℃低くなければならないことを示している。 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0005】 本発明者らは、通常のアニール方法とは異なり、低融解結晶形の融点より高いが、最も高い結晶融点より低い温度で、半結晶性又は結晶形成多形ポリマーを熱処理することによって、最も高い融解結晶形の含量を最大にする材料が製造されることを見出した。得られるポリマー粉末は、より均一な融解範囲を有し、さらには、粉体流動性及び耐久性が改善されている。いくつかの用途、例えば、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)粉末では、驚くことに、粉末に発現した結晶性は、物品の製造工程を通じて保たれるため、製造後アニールで発現することができるものより物理的性質が改善され、しかも変形が減少する。 【課題を解決するための手段】 【0006】 本発明は、高温での粉体流動性が求められる用途のための、ポリマー粉末が、一貫した、均一の融解範囲を有し、しかも、粉体流動性及び粉末粒度の耐久性が改善されるように、最も高い融解結晶形の含量を増加及び/又は最大にすると共に、ポリマーの結晶相の融点を高めることを目的とする、多形半結晶性又は結晶形成ポリマーの熱処理に関する。改善された粉末特性に加えて、上記の粉末から製造された物品は、外観及び機械的性質の両方における優れた物理的性質も呈示する。」 ・「【0014】 ポリマー ポリマー組成物に最も有用なポリマーは、多形半結晶性ポリマー及び/又はポリマーのガラス転移温度を超える温度に付すと半結晶性になることができるポリマーである。本明細書で用いる「半結晶性又は結晶性多形ポリマー」とは、ポリマーが、1つ以上の結晶形で存在することができること、また、ポリマーが、結晶性である、及び/又は熱処理すると、1つ以上の結晶性領域を形成することができることを意味する。こうしたポリマーの例として、限定するものではないが、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)若しくは交互ポリケトン又はこれらの混合物を含む。ポリアリールエーテルケトン(PAEK)は、非常に高い融点を有し、多くの場合、様々な形状に結晶化する。これらの両特性により、本発明の熱処理は、粉末化材料が長期間にわたって高温にさらされる用途に用いる場合、特にPAEKポリマーに有用となる。 【0015】 本発明は、特に、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)に有用である。ポリエーテルケトンケトンは、当該技術分野では公知であり、あらゆる好適な重合方法を用いて調製することができ、このような方法として、以下の特許明細書に記載されている方法がある(各々、あらゆる目的のためにその全文を参照として本明細書に組み込むものとする):米国特許第3,065,205号明細書;同第3,441,538号明細書;同第3,442,857号明細書;同第3,516,966号明細書;同第4,704,448号明細書;同第4,816,556号明細書;及び同第6,177,518号明細書。PEKKポリマーは、多くが、反復単位として2つの異なるケトン-ケトンの異性体型を含む点で、PAEKの一般クラスと相違する。これらの反復単位は、以下の式I及びIIによって表すことができる: -A-C(=O)-B-C(=O)- I -A-C(=O)-D-C(=O)- II (式中、Aは、p,p’-Ph-O-Ph-基であり、Phは、フェニレン基であり、Bはp-フェニレンであり、Dは、m-フェニレンである)。ポリエーテルケトンケトンにおける式I:式II異性体の比(一般に、T:I比と呼ばれる)を選択することにより、ポリマーの総結晶度を変える。T/I比は、一般に、50:50から90:10まで変動し、いくつかの実施形態では、60/40?80/20である。高いT:I比(例えば、80:20)ほど、低いT:I比(例えば、60:40)と比べて、高い結晶化度をもたらす。 【0016】 PEKKのホモポリマーの結晶構造、多形性及び形態学は、研究されており、例えば、以下の文献に記載されている:Cheng,Z.D.et al,“Polymorphism and crystal structure identification in poly(aryl ether ketone ketone)s”,Macromol.Chem Phys.197,185-213(1996)(この開示内容は、その全文を参照として本明細書に組み込む)。上記の論文は、全パラ-フェニレン結合[PEKK(T)]、1つのメタ-フェニレン結合[PEKK(I)]又は交互T及びI異性体[PEKK(T/I)]を有するPEKKホモポリマーについて研究しており、PEKK(T)およびPEKK(T/I)は、結晶化条件及び方法に応じて異なる結晶多形性を明らかにしている。 【0017】 PEKK(T)では、2つの結晶形、I型及びII型が観察されている。I型は、サンプルが、低い過冷却で融液から結晶化されるとき生成されるのに対し、II型は、一般に、溶媒誘導結晶化により、又は比較的高い過冷却で、ガラス状態からの冷結晶化によって得られる。PEKK(I)は、PEKK(T)におけるI型構造と同じカテゴリーに属する結晶単位格子を1つだけ有する。この単位格子のc軸次元は、ジグザグ形状の3つのフェニレンとして決定されており、バックボーン平面にはメタ-フェニレンが存在する。PEKK(T/I)は、結晶形I型及びII型を示し(PEKK(T)と同様に)、また、ある条件下では、III型を示す。 【0018】 好適なポリエーテルケトンケトンは、様々な商標で、複数の商業的供給源から入手可能である。例えば、ポリエーテルケトンケトンは、商標名OXPEKK(商標)ポリマーで、Oxford Performance Materials(Enfield,Connecticut)から販売されており、OXPEKK(商標)-C、OXPEKK(商標)-CE、OXPEKK(商標)-D及びOXPEKK(商標)-SPポリマーなどがある。ポリエーテルケトンケトンポリマーは、Arkemaによっても製造及び販売されている。特定のT:I比を有するポリマーを用いる以外に、ポリエーテルケトンケトンの混合物を用いてもよい。」 ・「【0023】 熱処理工程 本発明に従い、結晶の融点を高めることにより、高温での粉体流動性が求められる用途において、より優れた粉体処理及び耐久性をもたらすような方法で、様々な構造を有する多形半結晶性又は結晶形成ポリマーを熱処理する。 【0024】 いくつかの実施形態では、熱処理の間、ポリマーを、低融解結晶性多形の少なくとも1つ又は全部の融解範囲内又はそれより高く、かつ、最も高い融解結晶形の融点より低い温度に付す。別の実施形態では、低融解結晶性多形の少なくとも1つ又は全部の融点以上、かつ、最も高い融解結晶形の融点より低い温度に、ポリマーを付すのが望ましい。本明細書で用いる「融解範囲」とは、ポリマーの特定の結晶形が、融解を開始する温度で始まり、その結晶形の融点(Tm)で終わり、これを含む温度範囲を意味する。ポリマーの結晶形の融解範囲及び融点(Tm)は、当業者には公知の各種分析技法、例えば、DSC及びX線回析によって決定することができる。好ましくは、ポリマーの融点は、X線回析によって決定する。 【0025】 別の実施形態では、熱処理は、2番目に高い融解結晶相の融解範囲内又はそれより高いが、最も高い融解結晶形より低い範囲で実施するのが望ましい。いくつかの実施形態では、熱処理温度は、2番目に高い融解結晶相の融点以上で、かつ、最も高い融解結晶形の融点より低いことが望ましい。ただし、この場合、熱処理温度が、最も高い融解結晶相の融点に近すぎると、材料は軟化し、互いに粘着することになる。いくつかの実施形態では、熱処理は、最も高い融解結晶形のTmより15℃以下低い、さらに好ましくは、最も高い融解結晶形のTmより1℃?10℃低い温度で実施する。別の実施形態では、熱処理温度は、最も高い融解結晶形のTmより20℃未満、又は10℃未満、又は5℃未満低い。 【0026】 ポリマーは、最も高い融解結晶形の総量を増加させる、またいくつかの実施形態では、最大にする時間にわたり、上記の範囲内の1つ以上の温度でポリマーを維持する、及び/又はこれに付す。いくつかの実施形態では、熱処理後、組成物中の最も高い融解結晶形の量は、熱処理後の結晶の総数に基づき、少なくとも40%又はそれを上回り、別の実施形態では、最も高い融解結晶形の量は、熱処理後の結晶の総数に基づき、少なくとも90%又はそれを上回る。いくつかの実施形態では、すべての結晶(100%)を最も高い融解結晶形に転換することが望ましい。 【0027】 別の実施形態では、ポリマーを上記の温度範囲に付して、ポリマーの融解温度を高める、また、いくつかの実施形態では、最大にする。必要な時間の量は、各ポリマーによって異なり、熱処理温度が、最も高い結晶形の融点に近いほど、短くなる。しかし、熱処理温度が、最も高いTmに近すぎると、粉末又はペレットは互いに融合する可能性があり、恐らく、その本来の形態に戻すためにポリマー組成物の後処理が必要になる。 【0028】 熱処理は、多形半結晶性又は結晶形成ポリマーに特に有用である。というのは、これらのポリマーから製造した粉末の物理的性質は、これら結晶形のいくつかの融点付近、又はそれを超える高温に維持すると、変化する傾向があるからである。例えば、低融解結晶形の全融解範囲内又はそれより高く、かつ、最も高い融解結晶形の融点より低い温度に多形半結晶性又は結晶形成ポリマーを付すと、低融解結晶は、少なくとも部分的に、より高い融解結晶形に転換するであろう。こうした変化は、粉末の処理、並びに最終製品の物理的性質及び/又は外観の変化として表れる。 【0029】 一実施形態では、ポリマー組成物は、少なくとも2つの結晶形を有することができるポリエーテルケトンケトン(PEKK)を含む。この実施形態では、PEKKは初め非晶質であるが、熱処理を受けると、PEKKの少なくとも一部が少なくとも1つの結晶形に転換することが可能であり、その結晶形は、少なくともその一部を、より高い融解結晶形に転換することができる。次に、熱処理ステップは、ポリマー組成物において最も高い融解結晶形の含量がその他の結晶形に対して増加する時間にわたり、最も高い融解結晶形の融点より低く、かつ、その他の結晶形の融解範囲内又はそれより高い温度にポリマー組成物を付すことにより、より高い融解結晶形の含量を増加させることができる。 【0030】 いくつかの実施形態では、より高い融解結晶形は、I型ポリエーテルケトンケトンであり、その他の結晶形は、II型ポリエーテルケトンケトンである。約60:40のT:I比を有するPEKKについてのいくつかの実施形態では、熱処理温度は、例えば、約230℃?約300℃の範囲でよく、別の実施形態では、約275℃?約290℃であってよい。約80:20のT:I比を有するPEKKについてのいくつかの実施形態では、熱処理温度は、例えば、約270℃?約375℃の範囲でよく、別の実施形態では、約330℃?約370℃であってよい。 【0031】 また別の実施形態では、I型ポリエーテルケトンケトンの含量を増加させるための方法が提供され、この方法は、II型ポリエーテルケトンケトンの融解範囲内又はそれより高く、かつ、I型ポリエーテルケトンケトンの融点より低い温度で、II型ポリエーテルケトンケトンを含むポリマー組成物を熱処理するステップを少なくとも含む。上記の実施形態でも、出発ポリエーテルケトンケトンは、初め非晶質であるが、熱処理を受けると、ポリエーテルケトンケトンの少なくとも一部がII型に転換することが可能である。いくつかの実施形態では、熱処理後、組成物中のI型ポリエーテルケトンケトンの量は、熱処理後のPEKK結晶の総数に基づき、少なくとも40%又はそれを上回り、別の実施形態では、I型の量は、熱処理後のPEKK結晶の総数に基づき、少なくとも90%又はそれを上回る。いくつかの実施形態では、全PEKK結晶(100%)をI型に転換することが望ましい。」 ・「【0035】 処理粉末の特性 T:I比が、60:40のように比較的低い場合、結晶化の速度は、非常に遅いため、ポリマーをそのガラス転移温度より高い温度で一定時間維持することにより、材料を熱処理するか、又はアニールしない限り、一般に、溶融処理ポリマー中に結晶は形成されない。従って、これらのポリマーは、本来半結晶性であっても、非晶質ポリマーと呼ばれることが多い。本発明の目的のための非晶質ポリマーは、X線回析によって結晶相を示さないポリマーを意味する。PEKKの市販のOXPEKK(商標)-SPポリマーグレードは、初め非晶質であるが、ガラス転移温度より高い温度で熱処理すると、部分的に結晶性になる組成物の一例である。 【0036】 OXPEKK(商標)-SPポリエーテルケトンケトン(T:I=60:40)の場合、Tgは約155℃であるが、最も低い融解多形のTmは約272℃である。最も高い融解多形のTmは約297℃である。このポリマーについて、形成された結晶のタイプへの影響及び熱処理温度に対する感受性を表1に示す。結晶度(%)は、196℃(Tgより40℃高い)での8時間のアニール後にほぼ最大になったが、これらの温度では、高融解結晶の量にはほとんど又は全く変化がなかった。表1に示すように、高温結晶の量は、熱処理温度が、低融解結晶形の融点の温度に近づいたとき、変化し始める。高融解結晶形のへの転換は、熱処理温度が、低融解結晶形の融点を超えたとき、99%までほぼ最大になる。 【0037】 【表1】 ![]() 【0038】 本発明は、OXPEKK-SPポリエーテルケトンケトンのような低結晶化速度のポリ(アリールエーテルケトン)に特に有用であるが、この処理は、より結晶性の多形ポリマー、例えば、OXPEKK-C、又はMwがより高いOXPEKK CEポリエーテルケトンケトン(いずれも、T:I比は約80:20である)でも有用である。これらのポリエーテルケトンケトンポリマーは、より高いTgを有し、多数の微結晶が存在するために広い融点範囲を有する。一般的には、T:I比が80:20のこれらのポリマーは、約270℃?約375℃の融解範囲、及び約330℃?約370℃の融点を呈示し、160℃に近いTgを有する。ガラス転移温度より20℃高い温度での加熱は、全結晶性を発現する助けとなりうるが、結晶のタイプを有意に改変しない、又は融点範囲を有意に狭めない。これらの作用は、熱処理温度を、低融解多形の融解範囲内又はこれより高く、かつ、高融解多形の融点より低くなるように設計するとき、最も効率的にもたらされ、これは、本発明の一実施形態である。」 ・「【0042】 使用 高温で良好な粉体流動性から利益を得られる用途の例として、回転成形、選択的レーザー焼結及び粉末コーティングがあるが、本発明の熱処理方法で製造された粉末の使用はこれらの用途に限定されるわけではない。熱処理を受ける粉末は、粉末の良好な流動性、はっきりとした融点及び耐久性が要求されるあらゆる用途で有用である。驚くことに、これらの熱処理粉末は、最終製品の優れた特性及び優れた外観を提供するだけではなく、この粉末から形成される最終製品の物理的性質を改善することもできることが見出された。」 ・「【実施例】 【0049】 表1の知見をさらに詳しく調べるため、T:I比が60:40のOXPEKK(商標)SPポリエーテルケトンケトン粉末及びペレットを、200℃、250℃及び285℃の温度で、1?16時間の範囲の時間にわたって強制通風炉内で熱処理した。 【0050】 形態及び結晶度を決定するために、以下の条件で、サンプルを標準ステージ上でθ-θ平行ビームジオメトリでのX線回析によって分析した: 管電流=40mA、管電圧=40kV、Cu K-α線 発散スリット=1mm、平行スリットアナライザー(0.011°) 2θ範囲=5°?80°、滞留時間=5秒、増分=0.02° 発散Hスリット=10mm、平行ビーム光学系、ソーラースリット=5° 散乱スリット=受光スリット=開 【0051】 表2は、PEKK粉末についての結果を示し、表3はPEKKペレットについての結果を示す。両方の表で、I型は、主単位格子、すなわち(110)の主要結晶面の強度によって定量する。同様に、II型の量も、主単位格子、すなわち(020)の主要結晶面の強度によって定量する。 【0052】 【表2】 ![]() 【0053】 【表3】 ![]() 【0054】 表2及び3に示すように、加熱温度とは関係なく、粉末の結晶度の値の方が、ペレットの値より高い。表3から分かるように、出発ペレットは、非晶質であるが、熱処理により、結晶性が回復する。ペレットについての最も高い結晶度の値は、250℃での短時間の加熱後に達成される。285℃までさらに加熱すると、結晶度の低下を招くが、これは一部に、I型への多形転移によって、II型が失われるためである。 【0055】 温度200℃及び285℃については時間の関数として結晶度が増加する。結晶度の増加の大部分は、わずか1時間又は2時間の熱処理時間後に見られる。温度が250℃のとき、1時間の経過後も、結晶度はほとんど変化しない。 【0056】 粉末及びペレットのいずれも、200℃での熱処理後、有意な量のII型が残る。250℃では、粉末及びペレットのいずれにおいても、I型の量が増加する。温度が、285℃までさらに上昇すると、粉末及びペレット両方の結晶部分が完全にI型に転換する。また、温度が上昇するにつれ、I型及びII型のいずれも、結晶サイズの増大が観察される。」 ウ 発明の課題 本件特許の発明の詳細な説明の【0001】ないし【0006】によると、本件特許発明の発明が解決しようとする課題(以下、「発明の課題」という。)は、「高温での粉体処理及び熱処理工程により製造されるポリマー粉末を必要とする用途において、より均質の融解をもたらし、粉体流動性を改善すると共に、摩耗速度を低下させるための、多形半結晶性ポリマーの熱処理」方法を提供することである。 エ サポート要件についての判断 (ア)本件特許発明1について a 本件特許の発明の詳細な説明の【0042】には、「高温で良好な粉体流動性から利益を得られる用途の例として、回転成形、選択的レーザー焼結及び粉末コーティングがある」と記載されており、この記載から、「高温で良好な粉体流動性」を有するものは、「選択的レーザー焼結」、「回転成形」又は「粉末コーティング」に適していることが理解できる。 b 本件特許の発明の詳細な説明の【0017】には、「PEKK(T)」では「2つの結晶形、I型及びII型が観察され」ること、「I型は、サンプルが、低い過冷却で融液から結晶化されるとき生成されるのに対し、II型は、一般に、溶媒誘導結晶化により、又は比較的高い過冷却で、ガラス状態からの冷結晶化によって得られる」こと及び「PEKK(I)」は「PEKK(T)におけるI型構造と同じカテゴリーに属する結晶単位格子を1つだけ有する」ことが記載されており、これらの記載から、「PEKK(T)」は、結晶構造が「I型」及び「II型」の2種類であり、「PEKK(I)」は、結晶構造が「I型」だけであることが理解できる。 c 本件特許の発明の詳細な説明の【0030】には、「より高い融解結晶形は、I型ポリエーテルケトンケトンであり、その他の結晶形は、II型ポリエーテルケトンケトンである」ことが記載されており、この記載から、「I型」が「II型」よりも高い融解結晶形であることが理解できる。 d 本件特許の発明の詳細な説明の【0031】には、「II型ポリエーテルケトンケトンの融解範囲内又はそれより高く、かつ、I型ポリエーテルケトンケトンの融点より低い温度で、II型ポリエーテルケトンケトンを含むポリマー組成物を熱処理する」ことにより、「I型ポリエーテルケトンケトンの含量を増加させる」ことができること、「熱処理を受けると、ポリエーテルケトンケトンの少なくとも一部がII型(当審注:「I型」の誤記である。)に転換することが可能である」こと及び「I型の量は、熱処理後のPEKK結晶の総数に基づき、少なくとも90%又はそれを上回る。いくつかの実施形態では、全PEKK結晶(100%)をI型に転換することが望ましい」ことが記載されており、これらの記載から、「II型ポリエーテルケトンケトンの融解範囲内又はそれより高く、かつ、I型ポリエーテルケトンケトンの融点より低い温度で、II型ポリエーテルケトンケトンを含むポリマー組成物を熱処理する」ことにより、「II型」を「I型」に転換することが可能であることが理解できる。 e 本件特許の発明の詳細な説明の【0015】には、「ポリエーテルケトンケトンにおける式I:式II異性体の比(一般に、T:I比と呼ばれる)を選択することにより、ポリマーの総結晶度を変える」こと及び「高いT:I比(例えば、80:20)ほど、低いT:I比(例えば、60:40)と比べて、高い結晶化度をもたらす」ことが記載されている。 f 本件特許の発明の詳細な説明の【0036】には、「OXPEKK(商標)-SPポリエーテルケトンケトン(T:I=60:40)」の「最も低い融解多形のTmは約272℃」であり「最も高い融解多形のTmは約297℃」であることが記載されている。 g 本件特許の発明の詳細な説明の【0036】、【0037】及び【0049】ないし【0056】には、ポリエーテルケトンケトンとして、「OXPEKK(商標)-SPポリエーテルケトンケトン(T:I=60:40)」を用い、200℃、250℃及び285℃の温度で1?16時間の範囲の時間にわたって熱処理した例が示されており、最も高い融解結晶性多形体の融点より20℃未満低く、かつ、前記のその他の結晶性多形体の融点以上の温度で、所定時間熱処理することによって、「II型」を「I型」に転換することができることが、具体的な比較例及び実施例によって示されているといえる。 h 甲2ないし4によると、ポリエーテルケトンケトンには、「形態1」及び「形態2」の2つの形態があること、「形態1」の方が「形態2」よりも安定性が高いこと及び「形態2」は溶融して「形態1」に転換することは、技術常識であるといえる。 そして、本件特許の発明の詳細な説明に記載された「I型」が甲2ないし4における「形態1」であり、同様に「II型」が「形態2」であることは明らかである。 i そうすると、本件特許の発明の詳細な説明の上記記載及び技術常識から、当業者は、本件特許発明1において、熱処理することによって、安定性の高い形態、すなわち「I型」の割合が高くなり、安定性の低い形態、すなわち「II型」の割合が低くなり、全体としては安定性が高くなること及び全体としての安定性が高くなれば、安定性が低いものと比べて、より均質の融解をもたらし、粉末流動性が改善し、摩耗速度が低下することが理解できる。 j よって、本件特許発明1は、本件特許の発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるというべきであり、本件特許発明1に関して、特許請求の範囲の記載は、サポート要件に適合する。 k なお、特許異議申立人は、請求項1には、「被熱処理ポリマー粉末組成物」を得るために、使用される原料となる材料について「ポリマー組成物」としか記載されておらず、本件特許明細書の発明の詳細な記載を参酌しても、どのような成分の材料を使用して熱処理することにより、特定の成分の「ポリエーテルケトンケトン」を含む「被熱処理ポリマー組成物」を得ることができるのか当業者であっても理解できない旨主張する(上記第3 3(1))。 しかし、本件特許の発明の詳細な説明の【0017】の記載からみて、本件特許発明1における「ポリマー組成物」が、何の特定もない「ポリマー組成物」ではなく、「I型」及び「II型」の結晶構造を有するポリエーテルケトンケトンを含むものであることは明らかである。 したがって、特許異議申立人の上記主張は理由がない。 l また、特許異議申立人は、本件特許明細書には、実施例として、「T:I異性体比が、60/40」の製品OXPEKK(商用)SPポリエーテルケトンケトン粉末及びペレットについて、熱処理して、多形性の変化の様子を確認しているのみであり、「T:I異性体比が、60/40?80/20の範囲」のポリエーテルケトンケトンについて、本件特許発明の実施例からでは、得られた「被熱処理ポリマー粉末組成物」を、「選択的レーザー焼結、回転成形又は粉末コーティング」に使用した場合にどのような優れた効果を有するのか理解できない旨主張する(上記第3 3(2))。 しかし、「T:I異性体比が、60/40」のものについて、熱処理して、多形性の変化の様子を確認し、優れた効果を奏することが予想される以上、「T:I異性体比が、80/20」においても、ある程度は同様の変化を示し、ある程度は優れた効果を奏するであろうことは、当業者が予測し得るものである。 したがって、特許異議申立人の上記主張は理由がない。 m さらに、特許異議申立人は、本件特許明細書には、全PEKK結晶(100%)をI型に転換することのみが開示されており、本件特許の請求項1の「少なくとも2つの異なる融点を有する少なくとも2種の半結晶性の又は結晶形成可能なポリエーテルケトンケトン多形体」と整合しておらず、矛盾する旨主張する(上記第3 3(3))。 しかし、本件特許発明1における「ポリエーテルケトンケトン」が「異性体T」及び「異性体I」を含むものであり、熱処理によって「異性体T」と「異性体I」の間で変換が起こるものではないこと及び異性体であれば、融点が異なることは、いずれも技術常識であるから、「全PEKK結晶(100%)をI型に転換すること」と「少なくとも2つの異なる融点を有する少なくとも2種の半結晶性の又は結晶形成可能なポリエーテルケトンケトン多形体」を含むことは矛盾するものではない(「異性体I」と「I型」は異なる概念である。)。 したがって、特許異議申立人の上記主張は理由がない。 (イ)本件特許発明5及び6について a 本件特許発明5及び6における本件特許発明1と共通の発明特定事項に関しては、上記(ア)のとおりである。 b 本件特許の発明の詳細な説明の【0025】には、「熱処理温度は、最も高い融解結晶形のTmより20℃未満、又は10℃未満、又は5℃未満低い。」ことが記載されている。 c したがって、本件特許発明5及び6は、本件特許の発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるというべきであり、本件特許発明5及び6に関して、特許請求の範囲の記載は、サポート要件に適合する。 d なお、特許異議申立人は、本件特許の実施例では、「熱処理の温度」と「最も高い融解結晶性多形体の融点」との差として、297-285=12℃が開示されているのみであり、請求項5の「熱処理の温度が、最も高い融解結晶性多形体の融点より10℃未満低い」及び請求項6の「熱処理の温度が、最も高い融解結晶性多形体の融点より5℃未満低い」については開示されていない旨主張する(上記第3 3(4))。 しかし、本件特許の発明の詳細な説明の【0025】の記載からみて、請求項5の「熱処理の温度が、最も高い融解結晶性多形体の融点より10℃未満低い」及び請求項6の「熱処理の温度が、最も高い融解結晶性多形体の融点より5℃未満低い」は開示されているといえる。 したがって、特許異議申立人の上記主張は理由がない。 (2)請求項1、5及び6に係る発明についての実施可能要件 ア 実施可能要件の判断基準 本件特許発明1、5及び6に係る発明は、「被熱処理ポリマー粉末組成物を製造する方法」という物を生産する方法の発明である。 そして、物を生産する方法の発明について、実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産する方法の使用をし、または、その物を生産する方法により生産した物の使用をすることができる程度の記載を要する。 イ 発明の詳細な説明の記載 本件特許の発明の詳細な説明の記載は、上記(1)イのとおりである。 ウ 実施可能要件の判断 (ア)本件特許の発明の詳細な説明の【0014】ないし【0016】、【0023】ないし【0031】、【0035】ないし【0038】及び【0042】には、本件特許発明1の各発明特定事項について詳細に記載されている。 また、本件特許の発明の詳細な説明の【0049】ないし【0057】には、本件特許発明1の実施例として、「T:I異性体比が、60/40」の製品OXPEKK(商用)SPポリエーテルケトンケトン粉末及びペレットを用い、200℃、250℃及び285℃の温度で1?16時間の範囲の時間にわたって熱処理した例が具体的に記載されている。 したがって、本件特許発明1について、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産する方法の使用をし、または、その物を生産する方法により生産した物の使用をすることができる程度の記載があるといえる。 よって、本件特許発明1に関して、発明の詳細な説明の記載は実施可能要件を充足する。 また、請求項1を引用する本件特許発明5及び6についても同様である。 (イ)なお、特許異議申立人は、本件特許明細書は、当業者が実施できる程度に十分に記載されていない旨主張する(上記第3 3(1)ないし(4))が、実施可能要件の判断は、上記(ア)のとおりであり、特許異議申立人の上記主張は採用できない。 (3)申立ての理由3についてのまとめ したがって、申立ての理由3は理由がない。 4 申立ての理由4(請求項10に係る発明の明確性)について (1)明確性要件の判断基準 特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。 (2)明確性要件の判断 ア 本件特許の請求項10の記載は、上記第2の【請求項10】のとおりであり、それ自体不明確な記載はなく、また、本件特許の発明の詳細な説明の【0026】、【0031】及び【0049】ないし【0056】の記載とも整合している。 イ したがって、本件特許発明10に関して、特許請求の範囲の記載は、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。 ウ なお、特許異議申立人は、本件特許の請求項1の記載と請求項10の記載は矛盾する旨主張する(上記第3 4(1))。 しかし、本件特許の請求項1における「T:I異性体比が、60/40?80/20の範囲である」という記載における「60/40?80/20」は、「異性体T」と「異性体I」の比である。 他方、本件特許の請求項10における「得られた被熱処理ポリマー組成物が、ポリエーテルケトンケトン中のI型及びII型の総量に基づき、90%以上のI型ポリエーテルケトンケトンを含む」という記載における「90%以上」は、「I型」の割合であって、「異性体T」と「異性体I」の比ではない(「異性体I」と「I型」は異なる概念である。)。 したがって、本件特許の請求項1の記載と請求項10の記載は矛盾するものではない。 (3)申立ての理由4についてのまとめ したがって、申立ての理由4は理由がない。 第5 むすび したがって、特許異議申立書に記載した申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし10に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1ないし10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2019-07-01 |
出願番号 | 特願2016-176899(P2016-176899) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(C08J)
P 1 651・ 537- Y (C08J) P 1 651・ 113- Y (C08J) P 1 651・ 536- Y (C08J) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 深草 祐一 |
特許庁審判長 |
大島 祥吾 |
特許庁審判官 |
植前 充司 加藤 友也 |
登録日 | 2018-09-21 |
登録番号 | 特許第6405349号(P6405349) |
権利者 | アーケマ・インコーポレイテッド |
発明の名称 | 熱処理ポリマー粉末 |
代理人 | アインゼル・フェリックス=ラインハルト |
代理人 | 篠 良一 |
代理人 | アクシス国際特許業務法人 |