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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H04L
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H04L
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 取り消して特許、登録 H04L
管理番号 1353451
審判番号 不服2018-3589  
総通号数 237 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-09-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-03-13 
確定日 2019-07-30 
事件の表示 特願2013-246295「サーバ装置」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 6月 8日出願公開、特開2015-106728、請求項の数(2)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯

本願は,平成25年11月28日の出願であって,平成29年6月16日付けで拒絶の理由が通知され,同年8月7日に意見書とともに手続補正書が提出され,平成30年1月10日付けで拒絶査定(謄本送達日同年1月16日)がなされ,これに対して同年3月13日に審判請求がなされると共に手続補正がなされ,同年5月2日付けで審査官により特許法164条3項の規定に基づく報告がなされ,同年11月28日付けで当審より拒絶の理由が通知され,平成31年1月24日に意見書が提出されたものである。


第2 原査定の概要

原査定(平成30年1月10日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

4.(新規性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
5.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

●理由4(特許法第29条第1項第3号)、理由5(同条第2項)について
・請求項 1
・引用文献等 3

・請求項 3-4
・引用文献等 1,2,3

●理由5(特許法第29条第2項)について
・請求項 2
・引用文献等 3

<引用文献等一覧>
1.韓国公開特許第10-2007-0074971号公報
2.特開2005-44054号公報
3.特開2001-142396号公報


第3 本願発明

本願請求項1乃至2に係る発明(以下「本願発明1」乃至「本願発明2」という。)は,平成30年3月13日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1乃至2に記載された,次のとおりのものと認める。

「 【請求項1】
端末装置から送信され、前記端末装置の利用者により入力された真正なデータおよび前記端末装置によって生成された、前記真正なデータと同じ属性の偽のデータを受信するデータ受信部と、
前記データ受信部により受信された真正なデータおよび偽のデータから、特定の送信順序により真正なデータを選択するデータ選択部と、
を有するサーバ装置。
【請求項2】
前記データ選択部は、真正なデータおよび複数の前記偽のデータから、真正なデータを選択する請求項1に記載のサーバ装置。」


第4 引用例

1 引用例1に記載された事項
原査定の拒絶の理由において引用した,本願の出願前に既に公知である,韓国公開特許第10-2007-0074971号公報(2007年7月18日公開。以下,これを「引用例1」という。)の3ページ11行乃至4ページ26行には,「ユーザからパスワードが入力された際には,入力されたパスワードにダミーパスワードを付加して,前記ダミーパスワードが付加された前記入力されたパスワードを暗号化してサーバ100に送信する端末100と,端末100から受信したデータを復号して,復号したデータから前記ダミーパスワードを除去して,前記ダミーパスワードが除去されたデータ即ち前記入力されたパスワードと予め記憶するパスワードとを比較するサーバ200とを備えたシステム」が記載されているといえる。(下線は当審で付加。以下同様。)

2 引用例2に記載された事項
原査定の拒絶の理由において引用した,本願の出願前に既に公知である,特開2005-44054号公報(平成17年2月17日公開。以下,これを「引用例2」という。)には,関連する図面と共に,次の事項が記載されている。

A 「【0019】
センター装置としてパスワード認証サーバ2がネットワーク3に接続される。このサーバ2は、利用者毎にパスワード管理のために必要な情報を格納するデータベース(DB)201を備えると共に、本実施例に特徴的な処理機能を実行する。DB201の構成については、図4を参照して後述する。
認証サーバ2は、個人認証に際してパスワードを入力させるための符号列を生成して端末装置1に送信する他に、端末装置1から送信された利用者によって入力されたパスワードを予め定めた規則に従って照合することによりパスワードの認証を行う機能を備える。また、本実施例に特徴的な、入力パスワードにダミー情報を挿入させるための桁を確保すること、ダミー桁の変更、及び入力されたパスワードからダミー桁を除去する等の処理機能を有する。これらの処理機能については、フローチャートを参照して後述する。
【0020】
認証サーバ2は、パスワードを入力させるために符号列、例えば0から9までの数字からなる(4×4)の数列を生成する。数字の生成、及び生成された数字を(4×4)のマトリックスのどこに配列するかは、サーバ2に備えられた乱数発生用のプログラムの実行により行われる。
認証サーバ2で生成された数列は、ネットワーク3を介して端末装置1に送信され、表示部12に表示される。尚、数列の表示処理は、端末装置1で受信された数列の情報を演算部13で編集処理することにより行われる。」

B 「【0030】
利用者iは、表示された符号列を見ながら、入力部11からパスワードを入力する(404)。尚、利用者iは、自分が予め設定した位置パスワードXの位置,固定パスワードY、及び2ヶ所(即ち、2桁目と9桁目)に指定したダミーの位置を知っているものとする。利用者iは、図3(c)、図2(2)に示すように、10桁からなるパスワードを入力する。もし、正当な本人でない者が入力操作して、これらのパスワードの桁の1つでも誤ると、後述する認証サーバ2で正当な認証を受けられないことになる。」

C 「【0032】
認証サーバ2では、受信したユーザIDをキーとして、DB201を検索し、ユーザID「2657」に関連して記憶されている情報を読出す。そして、当該利用者i用に記憶されているダミー位置を特定する(406)。この利用者のダミー情報の桁は、2桁目と9桁目である。そして、10桁の文字列から2桁目「4」と9桁目「9」のダミー桁を除去する(407)。この結果、8桁の、本来のパスワードを構成する文字列になる。」

D 「【0036】
このように、位置パスワード及び固定パスワードの任意に桁に、利用者の指定によりダミー桁を挿入することにより、位置パスワード及び固定パスワードが他人に解読されることが一層難しくなる。」

3 引用例3に記載された事項及び引用発明
原査定の拒絶の理由において引用した,本願の出願前に既に公知である,特開2001-142396号公報(平成13年5月25日公開。以下,これを「引用例3」という。)には,関連する図面と共に,次の事項が記載されている。

E 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、所望のデータを機密性を保持して伝送する場合などに適用して好適な、暗号化装置とその方法および暗号復号化装置とその方法、および、その暗号化装置と暗号復号化装置とを有する通信システムに関する。」

F 「【0011】
【発明の実施の形態】本発明の一実施の形態について図1?図3を参照して説明する。本実施の形態においては、所望のデータを任意の伝送路を介して伝送する送信装置および受信装置を有する通信システムを例示して本発明を説明する。図1は、その通信システム1の構成を示すブロック図である。通信システム1は、送信装置10と受信装置30とが伝送路20を介して接続された構成である。
【0012】送信装置10は、送信対象の所望のデータに対して、後述する種々の処理を施して所定の形式に変換し、伝送路20に送出する。まず、その送信装置10の構成について説明する。送信装置10は、ファイル符号化部11、ファイル分割部12、ダミーファイル付加部13、並び替え部14、暗号化部15、送信部16およびICカード処理部17を有する。」

G 「【0015】ダミーファイル付加部13は、ファイル分割部12で生成された複数のファイルに対して、それらのファイルと同様の形式で、送信対象の元のデータとは何ら関わりの無い内容を有するファイルを付加し、それら全体を送信対象のデータとして並び替え部14に出力する。付加するダミーファイルは、予め記憶しておいてもよいし、任意の方法で生成してもよい。また、付加する位置も任意の位置に付加してよい。本実施の形態においては、予め容易されたダミーデータの列を用いてファイル分割部12で生成されたファイルとほぼサイズの等しいダミーデータのファイルを生成し、後段に並び替え部14が具備されているので、それら生成されたファイルの最後に付加するものとする。」

H 「【0023】受信装置30は、前述したように送信装置10において所定の形式に変換されて伝送路20を介して伝送されるデータを受信し、元の形式のデータファイルを復元して出力する。したがって、受信装置30は、前述した送信装置10の各構成部に対応した構成を有する。受信装置30のその構成について説明する。受信装置30は、ICカード処理部31、受信部32、暗号復号化部33、並び替え部34、ダミーファイル除去部35、ファイル統合部36およびファイル復号化部37を有する。
【0024】ICカード処理部31は、送信装置10より受信装置30にデータを暗号化して送信する際に用いられる公開鍵および秘密鍵などの情報、データの伝送に先立って装着されるICカード21より読み出し、暗号復号化部33に出力する。
【0025】受信部32は、受信装置30が接続されている伝送路20に応じたインターフェイスおよびプロトコル制御手段などを有しており、伝送路20を介して送信装置10より送信される暗号化された複数のファイルを順次受信し、暗号復号化部33に出力する。
【0026】暗号復号化部33は、受信部32で順次受信された複数のファイルに対して、暗号復号化処理を施し、暗号化が解除された複数のデータファイルを生成し、並び替え部34に出力する。前述したように、送信装置10の暗号化部15においては、複数のファイルの各々に対して、同一の暗号化アルゴリズムを用いて、鍵を各ファイルごとに変えて暗号化処理を行なっている。したがって、暗号復号化部33においても、受信部32より入力される複数のファイルの各々に対して、同一の暗号解読アルゴリズムを用いて、鍵を各ファイルごとに変えて暗号復号化処理を行なう。なお、この時に用いる鍵は、前述したようにICカード処理部31を介して予め入力され記憶されているものである。
【0027】並び替え部34は、前述したように送信装置10の並び替え部14で行なわれた並び替えの処理の反対の処理を行い、暗号が復号化された複数のファイルを元の順番に並び替えて、ダミーファイル除去部35に出力する。
【0028】ダミーファイル除去部35は、並び替え部34において並び替えられた複数のファイルより、ダミーファイルを検出してこれを除去し、残りの複数のファイルをファイル統合部36に出力する。なお、本実施の形態においては、前述したように、送信装置10のダミーファイル付加部13では単にダミーファイルを実ファイルの最後尾に付加しているだけなので、ダミーファイル除去部35においても、最後のファイルを除去することによりダミーファイルを除去し実ファイルを検出する。」

以上,上記記載事項E乃至Hより,引用例3には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。

「所望のデータを機密性を保持して伝送する場合などに適用して好適な,送信装置10と受信装置30とからなる通信システムであって,
前記送信装置10は,ダミーファイル付加部13,並び替え部14,を有し,
前記ダミーファイル付加部13は,ファイル分割部12で生成された複数のファイルに対して,それらのファイルと同様の形式で,送信対象の元のデータとは何ら関わりの無い内容を有するダミーファイルを付加し,それら全体を送信対象のデータとして並び替え部14に出力し,
前記受信装置30は,前記送信装置10において所定の形式に変換され,伝送されるデータを受信し,元の形式のデータファイルを復元して出力するものであって,受信部32,並び替え部34,ダミーファイル除去部35,を有し,
前記並び替え部34は,前記送信装置10の並び替え部14で行なわれた並び替えの処理の反対の処理を行い,複数のファイルを元の順番に並び替えて,ダミーファイル除去部35に出力し,
前記ダミーファイル除去部35は,並び替え部34において並び替えられた複数のファイルより,ダミーファイルを検出してこれを除去し,実ファイルを検出する
通信システム。」


第5 対比・判断

1 本願発明1について
(1) 対比
本願発明1と引用発明とを対比する。

(あ)引用発明の「送信装置10」は,本願発明1の「端末装置」に相当する。

(い)引用発明の「受信装置30」は,本願発明1の「サーバ装置」と,データを受信する装置である点で一致するといえ,当該「受信装置30」の「受信部32」は,本願発明1の「データ受信部」に対応する。

(う)引用発明の「受信装置30」は,「送信装置10において所定の形式に変換され,伝送されるデータを受信し,元の形式のデータファイルを復元して出力するもの」であるが,当該「送信装置10」では,「ダミーファイル付加部13」によって,「ファイル分割部12で生成された複数のファイルに対して,それらのファイルと同様の形式で,送信対象の元のデータとは何ら関わりの無い内容を有するダミーファイルを付加し,それら全体を送信対象のデータとして並び替え部14に出力」して,送信されることから,当該「受信装置30」が受信するデータは,「送信装置10」の「ファイル分割部12」で生成された「複数のファイル」に対して,「それらのファイルと同様の形式で,送信対象の元のデータとは何ら関わりの無い内容を有するダミーファイル」が「付加」されたものであることから,本願発明1の「端末装置から送信され、前記端末装置の利用者により入力された真正なデータおよび前記端末装置によって生成された、前記真正なデータと同じ属性の偽のデータ」とは,下記の点(相違点1)で相違するものの,“端末装置から送信され,真正なデータおよび前記端末装置によって生成されたデータ”である点で一致するといえるから,上記(あ)及び(い)の認定も踏まえ,引用発明と本願発明1とは,“端末装置から送信され,真正なデータおよび前記端末装置によって生成されたデータを受信するデータ受信部”を有する点で一致するといえる。

(え)引用発明の「受信装置30」は,「受信部32,並び替え部34,ダミーファイル除去部35,を有」し,「前記並び替え部34」は,「前記送信装置10の並び替え部14で行なわれた並び替えの処理の反対の処理を行い,複数のファイルを元の順番に並び替えて,ダミーファイル除去部35に出力」し,「前記ダミーファイル除去部35」は,「並び替え部34において並び替えられた複数のファイルより,ダミーファイルを検出してこれを除去し,実ファイルを検出する」ことから,「送信装置10」から送信されたデータの中から,「ダミーファイルを検出してこれを除去」し,「実ファイル」を選択しているといえ,上記(う)の認定も踏まえ,引用発明と本願発明1とは,下記の点(相違点2)で相違するものの,“前記データ受信部により受信された真正なデータおよび偽のデータから,真正なデータを選択するデータ選択部”を有する点で一致するといえる。

(お)以上,(あ)乃至(え)の検討から,引用発明と本願発明1とは,次の一致点及び相違点を有する。

〈一致点〉
端末装置から送信され,真正なデータおよび前記端末装置によって生成された、前記真正なデータと同じ属性の偽のデータを受信するデータ受信部と,
前記データ受信部により受信された真正なデータおよび偽のデータから,真正なデータを選択するデータ選択部と,
を有する装置。

〈相違点1〉
本願発明1は,「真正なデータ」が「前記端末装置の利用者により入力された」ものであると共に,「データ受信部」が受信するデータが,「前記真正なデータと同じ属性の偽のデータ」であるのに対し,引用発明は,「ファイル分割部12で生成された複数のファイル」がどのようにして得られたかが特定されておらず,また「ダミーファイル」は,「複数のファイルに対して,それらのファイルと同様の形式で,送信対象の元のデータとは何ら関わりの無い内容を有する」ものであるものの,同じ属性のものであることが特定されていない点。

〈相違点2〉
本願発明1の「データ選択部」が,「真正なデータを選択する」にあたり,「特定の送信順序により」これを行うのに対し,引用発明は,「ダミーファイル除去部35」が,「ダミーファイルを検出してこれを除去し,実ファイルを検出する」ものである点。

〈相違点3〉
本願発明1は,「データ受信部」と「データ選択部」とを有する,「サーバ装置」であるのに対し,引用発明は,「送信装置10と受信装置30とからなる通信システム」である点。

(2) 相違点についての判断

相違点1について検討する。
は,
本願発明1の背景及び課題に関し,本件明細書の段落1乃至6に次のような記載が認められる。
本願発明は,中間者攻撃などに対して耐性を有する通信システムを構成するサーバおよび端末などに関し(段落1),インターネットなどの通信技術が発達し,実際に遠隔地に赴かなくてもサービスの提供を受けられるようになってきており,例えば,インターネットバンキングが利用可能となり,預金者などは実際に銀行の支店に赴かなくても,残高照会,振込,振替,各種サービスの申し込みがインターネットバンキングを用いて自宅などから行えるようになってきている一方(段落2),インターネットなどによる通信に関与し,不正を行う手法も発達してきていて,例えば,Man in the Browser攻撃やMan in the Middle攻撃などの中間者攻撃が知られており,中間者攻撃は,通信の途中に割り込み,通信に関するデータを改ざんしてサーバや端末に転送する手法であって,例えば,利用者がインターネットバンキングを利用している場合,利用者が振込先として指定した口座番号などを改ざんし,不正な振込先に書き換えてインターネットバンキングのサーバに転送する(段落3)といった中間者攻撃がされるようになってきたことを背景とし,従来,中間者攻撃の存在が検出できたとしても,安全な通信を行うことができなかったことなどの課題に対し,中間者攻撃が存在したとしても,より安全に通信を行う技術を提供する(段落6)ことを目的としたものであると認められる。
一方,引用発明の背景及び課題は,引用例1の段落1乃至5に,次のように記載されている。

「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、所望のデータを機密性を保持して伝送する場合などに適用して好適な、暗号化装置とその方法および暗号復号化装置とその方法、および、その暗号化装置と暗号復号化装置とを有する通信システムに関する。
【0002】
【従来の技術】情報処理技術や通信技術の進展により、通信網を介した情報の伝送が容易かつ効率的に行えるようになっており、これに伴って、そのような通信網を介して伝送される情報の量も飛躍的に増大している。通信網としては種々の形態のものがあるが、たとえば、複数のコンピュータシステム、ネットワークが世界的規模で接続されたインターネットは、その規模、通信コストの点などから着目されており、広く利用されている。
【0003】ところで、このような通信網を介しては、個人や企業間において種々の機密性を有するデータの通信も行なわれている。しかし、たとえばインターネットのようなオープンなネットワークシステムや無線通信のような通信システムでは、比較的伝送されているデータを傍受し易いという問題がある。これに対処して機密性の必要なデータを伝送する一般的な方法として、伝送データを暗号化して暗号文を伝送する方法があり、広く利用されている。なお、この暗号化方法にも種々の方法が考えられており、たとえば、特開平3-108830号公報には、暗号化した伝送データを複数のデータに分割し、これらを異なる回線を介して伝送することにより、より安全に所望のデータを送信することのできる方法が開示されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、これまでの暗号化方法に対しては種々の解読方法も考えられており、より解読が難しく秘匿性の高い暗号化を行いたいという要望がある。たとえば、電子メールなどの書き出し部分に定型的な文章が用いられることが多いことを利用し、その文章に相当する既知の平文と暗号文の対を元に共通鍵を導き出すような既知の平文攻撃という暗号解読方法がある。この方法により一旦データの一部の暗号が解読されていしまうと、これまでの通常の暗号化方法においては、データの全体についても同様の手法で暗号が破られる危険性が高い。前述した特開平3-108830号公報に記載されている方法においても、データが分割されているためにその集積に多少の困難さがあるものの、データが見つかれば容易に解読されてしまうことにかわりはない。
【0005】したがって本発明の目的は、より秘匿性が高く所望のデータを暗号化することができる、通信に適用して好適な暗号化装置および暗号化方法を提供することにある。また本発明の他の目的は、そのような暗号化装置および暗号化方法により暗号化されたデータを適切に復号化することができる、通信に適用して好適な暗号復号化装置および暗号復号化方法を提供することにある。さらに本発明の他の目的は、所望のデータを、より高い秘匿性で伝送することができる通信システムを提供することにある。」

上記課題に照らすと,本願発明1と引用発明とは,共に通信網を伝送されるデータに対し,高い秘匿性を有し,解読難しくする技術で共通するものであるといえる一方で,引用発明が対象とする通信網へ伝送する対象データは,「ファイル」であって,本願発明1のように,利用者が端末装置を介して,遠隔地にあるサーバ装置において提供されるサービスであるインターネットバンキングを利用する際に入力された,振り込みに関する口座番号等といった情報を対象とするものではなく,引用発明において,当該「ファイル」に代えて,「端末装置の利用者により入力された」データとすることを想起することは,当業者にとって容易とまではいえない。
そして,本願発明1の,「真正なデータと同じ属性の偽のデータ」とは,平成31年1月24日付け意見書による審判請求人の釈明によれば,少なくとも(あ)両者のデータ(「真正なデータ」及び「偽のデータ」。以下、同様。)の各データ項目の並び順は同じで、当該データ項目の並び順どおりに、同じ文字種が使われていること,(い)各データ項目の並び順は関係なく、ただし両者のデータ項目毎に、同じ文字種を用いること,及び(う)両者が表す当該データの情報種別(例えば、振り込みに関する情報であるなど)のことを意味するものであると解されることから,引用発明においてそのような「真正なデータと同じ属性の偽のデータ」を観念することは,当業者にとって容易とまではいうことができない。
なお,端末装置から,当該端末利用者によってデータを入力すること自体は,上記引用例1及び2などにも散見されるとおり,周知な態様に過ぎないものの,上記のとおり,引用発明において,通信網を伝送するデータの種別を「ファイル」から,端末の利用者により入力されたデータとすることは必ずしも容易とはいえない。
したがって,上記その余の相違点について判断するまでもなく,本願発明1は,当業者であっても,引用発明及びその他引用例1及び2に記載された技術的事項に基づいたとしても容易に発明できたものとはいえない。

2 本願発明2について
本願発明2は,請求項1を引用するものであって,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用発明及びその他引用例1及び2に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。


第6 当審拒絶理由の概要

<特許法36条6項2号について>
当審より,
「(1)「真正なデータと同じ属性の偽のデータを受信するデータ受信部」
「真正なデータと同じ属性の偽のデータ」との特定事項に関し,特許請求の範囲の記載からは,当該「同じ属性」に係る内容を明確に把握することはできない。」
及び,
「(2)「特定の送信順序により真正なデータを選択するデータ選択部」
「特定の送信順序」との特定事項に関し,特許請求の範囲の記載からは,当該「特定の送信順序」に係る内容を明確に把握することはできない。」
旨の拒絶理由を通知したのに対し,平成31年1月24日付け意見書にて,「「同じ属性」については、本願明細書の段落[0021]に記載のように、その意味するところが例示されており、また、その技術思想に鑑みれば、上記の(あ)?(え)のいずれかを特定するのではなく、いずれも包含する意味であることは明らかである」旨,及び,「「真正なデータ」を選択する具体的手法は、本願明細書の段落[0028]、[0029]、[0048]?[0051]に記載の「真正フィールドデータ選択部109」に関する説明において明らかにされており、「特定の送信順序」によって「真正なデータ」を選択する、という特定事項そのものには不明確な点はない」旨の釈明がなされ,上記(1)の点は,本件明細書段落21に記載された事項を意味し,また,上記(2)の点は,本件明細書段落28,29,及び48乃至51に記載された事項を意味するものであると解されることが明らかとなった。
このうち,(2)の点に関し,本件明細書段落51に記載される,「ハッシュ値などに基づいて並べ替え」る態様については,原審における,平成29年6月16日付けの拒絶理由通知において,その理由2(実施可能要件)において指摘され,同年8月7日の手続補正においてこれを実質的に削除する補正がなされていること,および,当審拒絶理由通知においても同様の指摘を行ったものの,特段の釈明がなされなかったことから,「特定の送信順序により真正なデータを選択する」ことは,実質的に本件明細書段落28,29及び48乃至50に記載された内容によって理解される内容で明確化されたものと解されるので,本拒絶理由は解消した。

<特許法36条4項1号について>
当審より,「特許請求の範囲の請求項1に記載された上記(1)及び(2)の点につき,受信側たる「サーバ装置」の「データ選択部」によって,具体的にどのようにして「真正なデータ」を選択するのか,その具体的な手段が明細書の発明の詳細な説明には記載されておらず,よってこの出願の発明の詳細な説明は,当業者が請求項1及び2に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。」旨の拒絶理由を通知したのに対し,平成31年1月24日付け意見書にて,「本願明細書の段落[0020]?[0024]、[0028]?[0030]の記載によれば、「データ選択部」が「真正なデータ」を選択可能であることは明らかです。また、第三者に秘匿した情報を伝達するにあたって、当該情報の送信側および受信側の双方において同一の情報を保持・使用することは技術常識です。すなわち、明細書の発明の詳細な説明において直接的に記載が無くとも、受信側の「サーバ装置」において送信側の「端末」と同一の情報や関連する情報を持つことによって「真正なデータ」を選択することができることは、上記段落の記載および技術常識を考慮すれば十分に示されている」旨の釈明がなされ,本拒絶理由は解消した。


第7 原査定についての判断

平成30年3月13日付けの手続補正により,補正後の請求項1及びこれを引用する請求項2は,「前記真正なデータと同じ属性の偽のデータを受信する」という技術的事項を有するものとなった。しかしながら,請求項1に特定される,「前記端末装置の利用者により入力された真正なデータ」に関しても,上記第5の1(2)で判断したとおり,原査定における引用文献1乃至3には記載されておらず,本願発明1及び2は,当業者であっても,原査定における引用文献1乃至3に基づいて容易に発明できたものではない。したがって,原査定を維持することはできない。


第8 むすび

以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-07-16 
出願番号 特願2013-246295(P2013-246295)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (H04L)
P 1 8・ 121- WY (H04L)
P 1 8・ 536- WY (H04L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 金沢 史明  
特許庁審判長 仲間 晃
特許庁審判官 山崎 慎一
須田 勝巳
発明の名称 サーバ装置  
代理人 特許業務法人高橋・林アンドパートナーズ  

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