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この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
不服20185437 審決 特許
異議2017701044 審決 特許
無効2017800007 審決 特許

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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C07K
管理番号 1353455
審判番号 不服2018-6287  
総通号数 237 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-09-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-05-08 
確定日 2019-07-10 
事件の表示 特願2016- 14716「CNSにおけるイズロン酸2-スルファターゼ活性を増加させるための方法および組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 9月 1日出願公開、特開2016-155805〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯、本願発明
本願は、平成28年1月28日の出願であって、平成22年10月8日を国際出願日とする特願2012-533375号(パリ条約による優先権主張 平成21年10月9日 米国、平成21年10月29日 米国)の一部を特許法第44条第1項の規定に基づいて分割出願したものであり、 平成29年12月4日付けで拒絶査定がなされ、平成30年5月8日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに同日付の手続補正書が提出されたものである。
本願の請求項1?27に係る発明は、平成30年5月8日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?27に記載の事項により特定される発明であり、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、請求項1に記載される以下のとおりのものと認める。(なお、上記手続補正では請求項1は補正されなかった。)

「【請求項1】
(a)免疫グロブリン重鎖およびイズロン酸-2-スルファターゼ(IDS)のアミノ酸配列を含む融合タンパク質であって、イズロン酸-2-スルファターゼのアミノ酸配列が配列番号9と少なくとも90%同一であり、免疫グロブリン重鎖のアミノ酸配列のカルボキシ末端と共有結合している融合タンパク質;ならびに 免疫グロブリン軽鎖を含む融合抗体であって、血液脳関門(BBB)を通過し、デルマタン硫酸、ヘパラン硫酸、またはヘパリンのL-イズロン酸 2-硫酸単位の2-硫酸基の加水分解を触媒し、
イズロン酸-2-スルファターゼおよび免疫グロブリンが独立体としてのそれらの活性と比較してそれらの活性の少なくとも30%をそれぞれ保持している、融合抗体。」


第2 原査定の拒絶の理由
平成29年12月4日付け拒絶査定は、この出願の請求項1?27に係る発明は、その出願前に頒布された引用例1?5及び周知技術(引用例7)に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。


第3 当審の判断
1.引用例
(1)拒絶査定において引用された、Bioconjugate Chemistry,2008年,Vol.19,No.7,p.1327-1338(以下、「引用例1」という。)には、以下の事項が記載されている。なお、英文であるから、当審による翻訳文を記載する。引用例2以降も同様である。また、下線は当審が付した。

(1-ア)「組換えタンパク質、モノクローナル抗体治療薬、およびアンチセンスまたはRNA干渉薬を含むバイオ医薬は、これらの大きな分子が血液脳関門(BBB)を通過しないため、脳に対する薬物として開発することができない。・・・・・BBB薬物送達のための分子トロイの木馬の開発は、BBB問題のためにヒトの脳のための新しい薬物として開発することができなかった生物医薬品の再設計を可能にする。」(1327頁、要約)

(1-イ)「血管脳関門分子トロイの木馬
BBB内の内因性RMT系、例えばインスリン受容体またはTfR[審決注:トランスフェリン受容体]の発見は、分子トロイの木馬仮説の発展をもたらした。インスリンまたはTfなどの特定の内因性ペプチドは、内因性インスリンまたはTfへ薬物を結合させて、薬物をBBBを通過して運ぶためのトロイの木馬として使用することができる。さらに、内因性BBB RMT系に対するある種のペプチド模倣MAbも、トロイの木馬として使用することができる。図2に示すように、マウス、ラット、アカゲザルおよびヒトについて、種特異的分子トロイの木馬のパネルが開発されている。マウスTfRに対するラットmAbは、マウスにおける薬物送達のためのトロイの木馬として使用される(13)。このmAbは、ラットまたは他の種において活性ではない。ヒトインスリン受容体(HIR)に対するマウスmAbは、アカゲザルなどの旧世界の霊長類のインスリン受容体と交差反応する(15)。マウスHIRMAbはリスザルのような新世界の霊長類には活性がない。マウスHIRMAbは、マウスタンパク質に対する免疫反応のために、ヒトにおける薬物送達に使用することができない。したがって、ヒトにおける薬物送達のために、キメラHIRMAbおよびヒト化HIRMAbの両方が開発されている(16)。遺伝子操作されたTfRMAbを、ヒトBBBを介する薬物送達に使用することができる。しかし、HIRMAbは、BBB薬物送達のベクターとして、ヒトTfRに対するいずれの既知のmAbよりも900%活性が高い(17)。ラットまたはマウスのインスリン受容体に対する既知のmAbが存在しないため、TfRMAbは、これらの種の薬物送達のための分子トロイの木馬として使用することができる。
遺伝子操作されたHIRMAbの重鎖(HC)および軽鎖(LC)をコードする遺伝子の利用可能性は、組換えタンパク質およびMAbのヒトBBBを通過する薬物送達のためのIgG融合タンパク質のバイオエンジニアリングを可能にする(16)。組換えタンパク質または一本鎖Fv(ScFv)モノクローナル抗体は、HIRMAbの重鎖または軽鎖に融合される。治療用タンパク質が二量体として機能する場合、HIRMAbの重鎖カルボキシル末端への治療用タンパク質のアミノ末端の融合は、治療用タンパク質の天然の二量体配置を回復させる。ニュートロフィン、ScFv抗体またはアビジンのような多くのタンパク質は、好ましい二量体配置を有する。高発現哺乳動物宿主細胞系の単離を容易にするために、重鎖融合遺伝子および軽鎖遺伝子ならびにジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)のような選択マーカーをコードする遺伝子が、単一ピースのタンデムベクターに置かれる(図3A)。」(1328頁右欄29行?1329頁左欄29行)

(1-ウ)「


図3 IGg融合タンパク質の発現のためのタンデムベクター。(A)タンデムベクターは、IgG重鎖(HC)融合遺伝子、IgG軽鎖(LC)遺伝子、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)遺伝子、およびネオマイシン耐性遺伝子(neo)のための別々の発現カセットを含む。 HCおよびLC遺伝子は、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーターおよびウシ成長ホルモン(BGH)ポリA(pA)転写終結配列に隣接している。 DHFR遺伝子はSV40プロモーター(SV40p)およびB型肝炎ウイルスpA配列に隣接している。 ampR =アンピシリン耐性遺伝子。 (B)ヒトα-L-イズロニダーゼ(IDUA)をコードする1.9kbのcDNAのPCR増幅(レーン1)。 DNAサイズ標準はレーン2および3に示されている。参考文献(20)より。」 (1329頁左欄)

(1-エ)「表1 一部の医薬タンパク質のリスト そのタンパク質が血液脳関門を通過できるように医薬の部分に挿入できる



(1329頁右欄、表1には、リソソーム酵素の一つとして「イズロン酸-2-スルファターゼ(iduronate-2-sulfatase IDS)」(2行目)が記載されている。)

(1-オ)「治療用タンパク質に融合したHIRMAbからなる新しい化学物質を作り出すために、HIRMAbと融合することができる治療用タンパク質はほとんど無数に存在する。脳に対する薬物のために開発され得る組換えタンパク質の一部のリストを表1に示す、これらは、組換えタンパク質、組換えモノクローナル抗体、または組換えリソソーム酵素に大まかに分類される。」(1329頁右欄5?12行)

(1-カ)「本レビューでは、最近の遺伝子操作と、脳由来神経栄養因子(BDNF)のような神経栄養因子、グリア由来神経栄養因子(GDNF)、アルツハイマー病(AD)のAβアミロイドペプチドに対するScFv、リソソーム酵素IDUA、アビジン(表2)をコードするHIRMAb融合タンパク質につての試験について論ずる。」(1330頁左欄8?13行)

(1-キ)「HIRMAb-GDNF融合タンパク質のGDNF受容体への結合は、ヒトGDNF受容体(GFR)-α1のECDに対する融合タンパク質の親和性を測定する別個の結合アッセイで実証された。無細胞結合アッセイにおいて、ヒトGDNFは、1.03±0.18nMのED50で組換えGFR-α1に結合した。GFR-α1に対するHIRMAb-GDNF融合タンパク質の親和性も高く、ED50は1.68±0.17nMであった(24)。元のHIRMAbは、GFR-α1に対する親和性を有していなかった。HIRMAb-GDNF融合タンパク質によるヒト神経細胞内のGFR-α1依存性シグナル伝達経路の活性化を、細胞ベースのバイオアッセイで評価した(図6A)。ヒト神経SK-N-MC細胞を、c-retキナーゼをコードするcDNAおよびチロシンヒドロキシラーゼ(TH)プロモーターによって駆動されるルシフェラーゼ遺伝子で二重トランスフェクトした(28)。これらの細胞の培地へのGDNFの添加は、GFR-α1/c-retキナーゼ系を介してTHプロモーターを活性化し、これは細胞ルシフェラーゼ発現の増加をもたらす(図6B)。GDNFは1.03±0.31nMのED50でルシフェラーゼを発現させ、HIRMAb-GDNFも1.68±0.45nMのED50でルシフェラーゼ発現を増加させた(図6B)。元のHIRMAbは、このバイオアッセイにおいて生物学的に不活性であった(図6B)。」(1330頁右欄5行?1331頁左欄5行)
(1-ク)「

図6 融合タンパク質の効力の細胞ベースのバイオアッセイ。(A)c- retキナーゼをトランスフェクトしたヒト神経SK-N-MC細胞の細胞膜上のGFRα1へのGDNFまたはHIRMAb-GDNF融合タンパク質のいずれかによる結合は、チロシンヒドロキシラーゼ(TH)5'-フランキング配列(FS)を活性化する。ルシフェラーゼ遺伝子の発現を促進する。(B)GDNFおよびHIRMAb-GDNF融合タンパク質の両方が、匹敵するED50値で、飽和様式でルシフェラーゼ遺伝子発現を活性化する。HIRMAbによるルシフェラーゼ遺伝子発現の活性化はない。参照文献24より。」(1331頁左欄)

(1-ケ)「インビボでのアカゲザルにおけるBBBを横切るHIRMAb-BDNF融合タンパク質の輸送を、[^(3)H]-HIRMAb-BDNF融合タンパク質の静脈内注射後に測定した(18)。融合タンパク質は、元のマウスHIRMAbのクリアランス速度に匹敵する速度で血液から急速に除去された(図9A)。HIRMAb-BDNF融合タンパク質、およびHIRMAbの同程度のクリアランスは、BDNFなどのカチオン性の高いタンパク質のHIRMAbへの融合が血流からのIgGの除去の促進を引き起こさないことを実証する。対照的に、カチオン性の高いBDNFは急速に血液から除去され、静脈内投与後に急速に分解される(33)。インビボでのBDNFの代謝安定性は、ニューロトロフィンのIgGへの融合後に増加する。放射性標識HIRMAb-BDNF融合タンパク質および天然BDNFの血清放射能の示差的トリクロロ酢酸(TCA)沈殿性を図9Bに示す。BDNFと比較して、HIRMAb-BDNF融合タンパク質のはるかに高いTCA沈殿性は、IgG融合タンパク質としてのニューロトロフィンの再操作後に、BDNFの代謝安定性が増加することを示す。治療量以下の用量の融合タンパク質の静脈内投与後の霊長類脳におけるHIRMAb-BDNF融合タンパク質の濃度は、内因性BDNFの濃度より何倍も大きい(図9C)。これは、脳のBDNFがHIRMAb-BDNF融合タンパク質の投与によって上昇し得ることを実証する。HIRMAb-BDNFの脳内取り込みの増加は、微小血管関門を通過して脳実質への実際の輸送によるものである。これは、毛細管除去技術を用いて実証された(図9D)。全脳ホモジネート中の標識融合タンパク質の血管分布後の上清に対する分布体積(VD)の等価性(図9D)は、HIRMAb-BDNF融合タンパク質が脳の微小血管区画内に隔離されていないことを示している(18)。」(1332頁左欄18行?右欄19行)

(1-コ)「


図9 アカゲザルにおける融合タンパク質の薬物動態および脳への取り込み。成体アカゲザルにおけるHIRMAb-BDNF融合タンパク質の薬物動態と脳内取り込み。(A)麻酔した成体アカゲザルにおけるいずれかのタンパク質の単回静脈内注射後の時間に対する[^(3)H]-HIRMAb- BDNF、または[^(125)I]- マウスHIRMAbの血清濃度をプロットする。(B)麻酔された成体アカゲザルにおける[^(3)H]-HIRMAb-BDNF、または麻酔された生体ラットにおける[^(3)H]-BDNFのいずれかの単回静脈内注射後のトリクロロ酢酸(TCA)によって沈殿し得る血清放射能を時間に対してプロットする。(C)成体霊長類脳における内因性濃度のBDNFと比較した、70μg/kgの融合タンパク質の静脈内注射の180分後のHIRMAb-BDNF融合タンパク質の霊長類脳濃度。(D)麻酔した成体アカゲザルにおける[^(3)H]-HIRMAb-BDNF融合タンパク質の単回静脈内注射の180分後の脳内分布体積(VD)の毛細血管枯渇分析。VDは、全脳ホモジネートおよび血管後上清について示される。参照文献18より。 」(1333頁)

(1-サ)「Aβペプチドのアミノ末端部分に対するマウスmAbをリンカーペプチドと一緒にスプライスしてScFv分子を形成した(26)。この抗AβScFvのアミノ末端部分をHIRMAbのCH3領域のカルボキシル末端に融合させて、図11に示す融合抗体を作製した。融合抗体は三機能性分子であり、BBB上のHIRに結合して血液から脳への流入を仲介し、CH2-CH3界面でBBB FcRnに結合して脳から血液への流出を媒介し、そしてADのAβアミロイドプラークに結合して分解する。融合抗体のこれら3つの機能性はすべて、異なる動物モデルにおいてインビボで実証された(26)。融合抗体を125-ヨウ素で放射能標識し、[^(3)H]- 標識抗AβmAbを用いて成体アカゲザルに静脈内同時注射した(26)。図9Aに示すHIRMAb-BDNF融合タンパク質の血液からの迅速な除去と同様に、HIRMAb-ScFv融合抗体は血液から迅速に除去された。対照的に、従来の抗Aβ mAbは非常に長い血液滞留時間を有し、実験期間中に測定可能なほどに血液から除去されなかった(26)。予想通り、抗AβmAbは脳に取り込まれなかった(26)。対照的に、霊長類BBBの内因性インスリン受容体上の脳への輸送のために、融合抗体の高い脳内取り込みが観察された(26)。ラットインスリン受容体はHIRMAbを認識しないが、ラットFcRnはヒトIgGを認識する(17)。それ故、成体ラット脳への融合抗体の脳内注射後の脳流出指数法によって、脳から血液区画への融合抗体の急速な流出を証明することができた(26)。 Aβ1-40ペプチドへの融合抗体の結合は、インビトロでのイムノラジオメトリックアッセイにより確認された(26)。Aβアミロイドプラークへの融合抗体の結合は、ADの二重トランスジェニックマウスモデルの脳への融合抗体の脳内注射後にインビボで実証された(26)。トランスジェニックマウス脳への20 pmolの融合抗体の単回脳内注射は、48時間以内に海馬および皮質の両方においてアミロイド斑の40%の減少をもたらした。」(1333頁右欄21行?1334頁左欄20行)

(1-シ)「

図11 3つの機能ドメインを有する抗体融合タンパク質。第一ドメイン、HIRMAbは、BBBを横切る流入を引き起こすためにBBB HIRを結合する。第二のドメイン、CH3領域に融合した抗AβScFvは、ADのAβアミロイドペプチドに結合して、脳内のアミロイドプラークの解離を引き起こす。第3ドメイン、Fc領域のCH2-CH3界面は、BBB FcRnに結合して脳からの血液への融合抗体の流出を誘発し、その結果、脳内のアミロイドプラークの正味の枯渇をもたらす。参照文献26より。」(1334頁右欄)

(1-ス)「ヒトIDUAをコードする1.9KbのcDNAからそのシグナルペプチドを差し引いたPCR増幅(図3B)に続いて、IDUAのcDNAをHIRMAbの重鎖をコードするcDNAの3’-末端に融合させた(20)。HIRMAb-IDUA融合タンパク質をCOS細胞中で発現させ、プロテインAアフィニティークロマトグラフィーを用いて無血清馴化培地から精製した。 HIRMAb-IDUA融合タンパク質をMPS I型線維芽細胞の培地に添加し、24時間後のこれらの細胞内の融合タンパク質の局在化を、共焦点顕微鏡およびヒトIDUA(図13A)またはヒトリソソーム関連膜タンパク質(LAMP)-1(図13B)のいずれかに対する一次抗体で検出した。オーバーレイ研究(図13C)に示されるように、MPS I型線維芽細胞のリソソーム区画中にHIRMAb-IDUA融合タンパク質の局在がある。図13Dはネガティブコントロール一次抗体のオーバーラップ画像である。HIRMAb-IDUA融合タンパク質を125-ヨウ素およびクロラミンTで放射性標識した。[^(125)I]-HIRMAb-IDUA融合タンパク質を成体アカゲザルに静脈内注射した。注射の2時間後、動物を安楽死させ、脳を摘出し、そしてフィルムオートラジオグラフィーのために20μmの凍結切片を調製した。脳オートラジオグラフィー研究は、白質と比較して灰白質におけるより高い取り込みを伴う、静脈内投与後のアカゲザル脳の全ての部分におけるHIRMAb-IDUA融合タンパク質の確実な取り込みを示した(図13E)。・・・・50kgの患者にこの注射量を与え、1グラム当たりの注射量のパーセントとして表した融合タンパク質の脳内取込みを与え、そしてHIRMAb-IDUA融合タンパク質について363単位/μgタンパク質のIDUA酵素特異的活性を与え(20)、治療用量のHIRMAb-IDUA融合タンパク質の静脈内投与後の脳のIDUA酵素活性は、タンパク質1mg当たり1.1単位のIDUA酵素活性であると予測される(20)。このレベルのIDUA酵素活性はヒトの脳にとって正常であり、IDUA酵素活性は0.5?1.5単位/mgタンパク質の範囲である(54)。」(1334頁右欄5?29行)

(1-セ)「HIRMAb-アビジン融合タンパク質の生物学的活性は、ヒト293上皮細胞を用いた細胞培養において証明された。293細胞におけるビオチン-フルオレセインの細胞内分布は、ビオチン - フルオレセインをHIRMAb- AV融合タンパク質に結合させた後の共焦点顕微鏡法によって実証された(図14B)。HIRMAb-AV融合タンパク質の非存在下ではビオチン-フルオレセインの測定可能な細胞取り込みはない(27)。これらの細胞による^(3)H-ビオチンの取り込みは、ビオチン単独と比較して、HIRMAb-AV融合タンパク質へのビオチンの付着後に何倍も増加した(図14C)。」(1336頁左欄7?16行)

(2)拒絶査定において引用された、Biotechnology and Bioengineering,2008年,Vol.99,No.2,p.475-484(以下、「引用例2」という。)には、以下の事項が記載されている。
なお、引用例2は上記(1-ス)において、「(20)」(参照文献20)として引用されている文献((20) Boado,R.J.,Zhang,Y.,Xia,C.,F.,Wang,Y.,and Pardridge,W.,M.(2008) Genetic engneering of lysosomal enzyme fusion protein for targeted delivery across the human blood-brain barrier. Biotechnol. Bioeng. 99, 475-484)である。
(2-ア)「ムコ多糖症I型、ハーラー症候群は、脳に影響するリソソーム蓄積障害である。欠損酵素であるα-L-イズロニダーゼ(IDUA)は、血液脳関門(BBB)を通過しない。酵素のBBB輸送を可能にするために、ヒトIDUAをヒトインスリン受容体(HIR)に対するキメラモノクローナル抗体(MAb)の重鎖カルボキシ末端に融合させた。HIRMAbは内因性インスリン受容体上のBBBを通過し、IDUAを脳内に運ぶためのトロイの木馬として働く。COS細胞の形質転換は、培地中および細胞内の両方で高いレベルのIDUA酵素活性をもたらした。COS細胞のトランスフェクションは、培地中および細胞内の両方において高レベルのIDUA酵素活性をもたらした。・・・・アフィニティー精製したHIRMAb-IDUA酵素比活性は363±37U/μgタンパク質であり、これは組換えIDUAの比活性に匹敵する。・・・・HIRMAb-IDUA融合タンパク質は、HIRに高親和性で結合し、静脈内投与後に成体アカゲザルの脳に迅速に輸送された。HIRMAb-IDUA融合タンパク質は、ヒトBBBを通過するように特異的に設計された、ハーラー症候群の新たな治療薬である。」(475頁右欄、要約)

(2-イ)「討論
この研究結果は、以下の結論と一致する。第1に、・・・・ 第3に、融合タンパク質は二機能性分子であり、キメラHIRMAbと同等の親和性でHIR ECDと結合し(図5)、高レベルのIDUA酵素活性を有し(表II)、融合タンパク質の酵素特異的活性は363±37nmol/h/μgタンパク質 である(結果の項)。」(482頁右欄、討論の項、1?16行)

(3)拒絶査定において引用された、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1993年,Vol.90,pp.11830-11834(以下、「引用例3」という。)には、以下の事項が記載されている。
「ハンター病、またはムコ多糖症(MPS)II型は、リソソームイズロン酸-2-スルファターゼ(IDS;EC3.1.6.13)酵素活性の欠損の結果、グリコサミノグリカン(GAG)基質、ヘパラン硫酸およびデルマタン硫酸が全身に蓄積する結果として生じる、X染色体に刻まれた劣性の先天性代謝異常である(参照文献1-3を参照)。」(11830頁左欄、本文1-7行)

(4)拒絶査定において引用された、Iduronate 2-sulfatase precursor(Alpha-L-iduronate sulfate sulfatase)(Idursulfase),UniProtKB/Swiss-Prot:P22304,[online],2007年 6月12日,検索日2017年12月1日,(以下、「引用例7」という。)には、イズロン酸-2-スルファターゼ(IDS)のアミノ酸配列が記載されている。

2.引用発明
引用例1の図3Aに示されるタンデムベクターにおける「MAb」とはHIRMAbのことであり、図3Aの「drug」は、表1に具体的に示されるような医薬タンパク質を意味し、そして「MAb-HC(抗体の重鎖)」の下流に「drug」が配置されているから、医薬タンパク質は、HIRMAbの重鎖カルボキシル末端に融合されていると認められる。
したがって、上記(1-ア)?(1-オ)の記載より、引用例1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「HIRMAbの重鎖カルボキシル末端に医薬タンパク質を融合させた融合タンパク質と、HIRMAbの軽鎖を含む融合抗体であって、血液脳関門(BBB)を通過する融合抗体。」

3.対比
引用発明の「HIRMAb」は本願発明の「免疫グロブリン」に相当し、引用発明の「医薬タンパク質」と本願発明の「イズロン酸-2-スルファターゼ(IDS)」とは、医薬タンパク質である点で共通すると認められる。 そして、引用発明におけるHIRMAbの重鎖カルボキシル末端と医薬タンパク質との融合は共有結合であると認められる。
したがって、両者は、
「(a)免疫グロブリン重鎖および医薬タンパク質のアミノ酸配列を含む融合タンパク質であって、医薬タンパク質のアミノ酸配列が免疫グロブリン重鎖のアミノ酸配列のカルボキシ末端と共有結合している融合タンパク質;ならびに
免疫グロブリン軽鎖
を含む融合抗体であって、血液脳関門(BBB)を通過する、融合抗体。」である点で一致し、以下の点で相違すると認められる。

(相違点1)医薬タンパク質が、本願発明では「アミノ酸配列が配列番号9と少なくとも90%同一」である「イズロン酸-2-スルファターゼ(IDS)」に特定されているのに対し、引用発明では特定されていない点。

(相違点2)融合抗体について、本願発明では「デルマタン硫酸、ヘパラン硫酸、またはヘパリンのL-イズロン酸 2-硫酸単位の2-硫酸基の加水分解を触媒し、イズロン酸-2-スルファターゼおよび免疫グロブリンが独立体としてのそれらの活性と比較してそれらの活性の少なくとも30%をそれぞれ保持している」と特定されているのに対し、引用発明では特定されていない点。

4.判断
(1)相違点1について
上記(1-ア)の記載から、引用発明の融合抗体は、医薬タンパク質を血管脳関門(BBB)を通過して送達するための「分子トロイの木馬」として開発されたものと認められる。そして、上記(1-エ)、(1-オ)のとおり、引用例1には、BBBを通過させるべき医薬タンパク質として、「iduronate-2-sulfarase(IDS)」が具体的に挙げられている。
引用例1にはIDSの具体的なアミノ酸配列は記載されていないが、引用例7(2007年6月12日における、IDSのアミノ酸配列のデータベースの登録情報。)に示されるIDSのアミノ酸配列は、本願優先日において周知であったと認められるところ、このアミノ酸配列は本願発明に特定される「アミノ酸配列が配列番号9と少なくとも90%同一」のものに該当するから、引用例1の表1に記載されるIDSは、本願発明に特定される「アミノ酸配列が配列番号9と少なくとも90%同一」の「イズロン酸-2-スルファターゼ」に該当するものと認められる。
そうすると、引用発明の医薬タンパク質として、「アミノ酸配列が配列番号9と少なくとも90%同一」である「イズロン酸-2-スルファターゼ」を用いることは当業者が容易になし得ることである。
したがって、相違点1は、当業者が容易になし得ることである。

(2)相違点2について
引用発明は医薬タンパク質と抗体タンパク質という2つのタンパク質の融合タンパク質に関するが、2つのタンパク質を融合した融合タンパク質の作成は、作成された融合タンパク質が該2つのタンパク質それぞれの活性を併せ持つことを期待して行われるのであるから、融合タンパク質においてそれぞれの活性が保持されることは、当業者が当然に期待することである。
そして、以下のとおり、医薬タンパク質として引用例1の表1に列挙される「GDNF」、「BDNF」、「抗Aβ抗体scFv」、「IDUA」の4つ及び「アビジン」を抗体(HIRMAb)と融合した融合抗体について、以下に述べるように独立体の医薬タンパク質や独立体の抗体の活性が融合後にも保持されたことが示されていると認められる。
ア 医薬タンパク質が「GDNF」である場合
(1-キ)、(1-ク)には、図6Aに示されるGDNF活性のアッセイ系を用いてルシフェラーゼの発現を評価したところ、図6Bに示されるように、GDNFは1.03±0.31nMのED 50でルシフェラーゼ発現を増加させ、HIRMAb - GDNFも1.68±0.45nMのED 50でルシフェラーゼ発現を増加させたことが記載されており、このことから独立体の活性の6割程度の活性が融合後に保持されていることが示されていると認められる。
また、インスリン受容体に対する親和性が抗体の独立体と融合抗体とで同程度であることが示されている(図5、摘記せず。)から、融合抗体の抗体部分の活性が同程度に保持されていることが読み取れる。
さらに、引用例1には融合抗体がラットの脳に取り込まれたことも示されており(図7、摘記せず)融合抗体の脳への取り込みは、融合抗体のインスリン受容体に対する親和性が高いことを示していると認められる。

イ 医薬タンパク質が「BDNF」である場合
(1-ケ)、(1-コ)には、静脈に注射されたHIRMAb-BDNF融合抗体が独立体のHIRMAbに匹敵する速さで血液から除去されたこと、融合抗体が脳へ取り込まれたことが示されており、HIRMAbの活性が保持されたことが読み取れる。
また、融合抗体がBDNF独立体よりも高いTCA沈殿性を示したことが記載されており、このことはBDNFの活性が保持されたことを示すものと認められる。

ウ 医薬タンパク質が「抗Aβ(アミロイドβ)scFv」である場合
(1-サ)、(1-シ)には、HIRMAb-抗AβscFv融合抗体をトランスジェニックマウス脳へ投与すると、融合抗体は脳に取り込まれ、AD(アルツハイマー病)のアミロイドプラークに結合し、アミロイド斑が減少したことが記載されており、融合抗体において抗AβscFv、HIRMAbそれぞれの活性が保持されたことが示されていると認められる。

エ 医薬タンパク質が「IDUA」である場合
(1-ス)には、HIRMAb-IDUA融合抗体がアカゲザルの脳に取り込まれ、IDUA酵素特異的活性を与えたことが記載されている。
また、引用例1において参照文献20とされている引用例2には、HIRMAb-IDUAが組換えIDUAに匹敵する活性を持つこと、HIRMAb-IDUAは、HIRに高親和性で結合し、静脈内投与後に成体アカゲザルの脳に輸送されたことが記載されている(2-ア)。
したがって、融合抗体においてIDUA、HIRMAbの活性が保持されたことが示されていると認められる

オ 医薬タンパク質が「アビジン」である場合
HIRMAb-アビジン融合タンパク質が296細胞に取り込まれ、ビオチンに結合したことが記載されており、ビオチンに結合するというアビジンの活性が保持されたと認められる。

上記のとおり、引用例1には、上記ア?オに示した5つの具体的な医薬タンパク質を含む融合抗体について、医薬タンパク質部分の活性および抗体部分の活性が保持されたことが示されていると認められる。そして、上記アの融合抗体は、「少なくとも30%」の保持率を満足するものと認められる。上記イ?オの融合抗体の具体的な保持率の数値は明らかではないが、「少なくとも30%」はそれほど高い保持率ではないから、活性を有するものとして記載された上記イ?オの融合抗体は、この程度の数値を満足している蓋然性が高い。
さらに、引用例1には、医薬タンパク質が二量体として機能する場合、HIRMAbの重鎖カルボキシル末端に医薬タンパク質を融合することによって、融合後に天然の二量体配置をとることが示されており(1-イ)、このことから、引用発明において融合された医薬タンパク質は、融合前の天然の立体構造が維持され、融合前の活性が融合後に保持されることを前提としたものであると理解される。
加えて、抗体タンパク質部分についても、医薬タンパク質はHIRMAbの重鎖カルボキシル末端に融合され、HIRMAbの軽鎖はそのままであり、HIRMAbの抗原結合部位は抗原であるHIRに結合可能な状態にあるから、抗原結合活性は保持されることが推認される。
したがって、引用例1、2の記載に接した当業者は、引用例1の表1に示されるような医薬タンパク質をHIRMAbとの融合抗体とした場合に、ある程度のの活性、例えば少なくとも30%の活性が保持される蓋然性が高いことを予期するといえる。

上記相違点1について判断したとおり、引用例1には医薬タンパク質としてIDSが例示されているから、引用発明の医薬タンパク質をIDSとした、IDSを含む融合抗体を特定することは当業者が容易になし得ることである。そして、融合抗体が所期の機能を果たすためには、医薬タンパク質部分及び抗体部分の両者の有効な活性が必要なのは明らかであり、上述のとおり、引用例1には5種類の融合抗体について、期待どおり、医薬タンパク質と抗体の両方の活性が保たれていたことが示されているのだから、IDSを含む融合抗体の医薬タンパク質部分及び抗体部分について、融合前の独立体IDSのIDS活性及び独立体抗体の活性を保持しているものであることを保持率の下限値で特定すること、すなわち「イズロン酸-2-スルファターゼおよび免疫グロブリンが独立体としてのそれらの活性と比較してそれらの活性の少なくとも30%をそれぞれ保持している」と特定することも当業者が適宜なし得ることである。
また、引用例3に記載されるように、IDSがデルマタン硫酸、ヘパラン硫酸を基質として分解する酵素であることが知られているから、「デルマタン硫酸、ヘパラン硫酸、・・・・のL-イズロン酸 2-硫酸単位の2-硫酸基の加水分解を触媒する」はIDSが有する活性を記述したものに過ぎない。
したがって、相違点2は当業者が容易になし得ることである。

そして、本願発明において、引用例1?3の記載から予測できない効果が奏されたとは認められない。
本願明細書の実施例には、融合抗体がハンター症候群の繊維芽細胞に取り込まれ、GAG蓄積を減少させたことなどが記載されており、実施例で使用された融合抗体は“HIR Ab”、すなわち抗ヒトインスリン受容体抗体(HIRMAb)を融合したものである。このHIRMAbについて、引用例1には「HIRMAbは、BBB薬物送達のベクターとして、ヒトTfRに対するいずれの既知のmAbよりも900%活性が高い」(1-イ)と記載されており、融合抗体の抗体部分の違いによって融合抗体の奏する効果が異なることが推認され、本願発明の「免疫グロブリン」はHIRMAb(抗ヒトインスリン受容体抗体)に特定されてないから、実施例に示されたHIRMAbを含む融合抗体の効果を本願発明全体の効果として参酌することはできない。

よって、本願発明は、引用例1?3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.審判請求人の主張について
審判請求人は審判請求書において、概ね以下の点を主張している。
(1)本願明細書にβ-グルクロニダーゼ(GUSB)を抗体のカルボキシ末端と融合した場合に活性が>95%減少したことが開示されていることを挙げて、本願発明の融合抗体の活性が少なくとも30%保持されることを予測できないこと。
(2)参考資料1(EMBO reports , Vol.6,No.7,p.655-660(2005))を示し、IDSはスルファターゼ修飾因子1(SUMF1)によって媒介される翻訳後修飾を必要とするが、SUMF1がIDS融合タンパク質を認識するか、融合タンパク質の該翻訳後修飾が可能かどうかは予測できないこと。
(3)平成29年7月31日付け意見書に添付の参考資料1(McGrath,J.Neurosci.,Res.,Vol.47,p.123-133(1997))に、神経成長因子(NGF)とトランスフェリン受容体(TfR)に対するモノクローナル抗体の重鎖のカルボキシ末端の融合が、NGFの生物活性の減少をもたらしたことが開示されており、McGrathは「正しく折りたたまれたNGFの製造に必要な加工のために、完全なNGF前駆体を抗体鎖の1つのアミノ末端に融合させることが必要であった」と結論付けているところ、このMcGrathの教示は、標的化抗体のカルボキシ末端と結合した活性剤からなる融合抗体に想到する阻害要因になること。

そこで、以下検討する。
(1)について
上記4.で検討したとおり、引用例1、2の記載から、引用発明において医薬タンパク質としてIDSを用いた場合に、融合前の独立体のIDS活性が融合後にある程度保持されることを当業者は予測するといえる。
当業者の予測に反して、引用例1の表1に示される様々な医薬タンパク質の多くのものが活性を失ったことなど具体的に示された訳ではなく、表1に示されていない「GUSB」というただ一例で活性が減少したことが示されたに過ぎないから、この一例のみでは本願発明において予測できない効果が奏されたと認め得る十分な根拠にはならない。

(2)について
本願の発明の詳細な説明には、本願発明の実施例として、IDSを含む融合抗体をCOS細胞で発現させて、IDSの独立体の酵素活性に匹敵する(保持率がかなり高い)IDS活性を有する融合抗体が得られたことが記載されている(実施例2?4、特に段落【0168】)。なお、上記参考資料1の記載からみてCOS細胞は内在性SUMF1を有していると認められる。
これに対して引用例1には、「HIRMAb軽鎖ならびにHIRMAb重鎖およびGDNFの融合遺伝子をコードする別々の発現プラスミドでCOS細胞を二重リポフェクションした(24)。(1333頁左欄20行30?32行) 」、「HIRMAb-IDUA融合タンパク質をCOS細胞中で発現させ(1-ス)」と記載され、COS細胞を用いてGDNFやIDUAを含む融合抗体を発現させたことが示されている。そして、上記4.で述べたように、GDNFを含む融合抗体においてGDNF活性が6割程度保持されたことが示されており、また、引用例1において文献20として引用されている引用例2にも、COS細胞を用いてIDUAを含む融合抗体を発現させ、得られた融合抗体のIDUA活性が独立体の活性に匹敵することが記載されている。
したがって、IDSを含む融合抗体をCOS細胞を用いて作成することは、引用例1の記載から当業者が容易になし得ることであり、そうすることでIDSの独立体に匹敵するIDS活性を有する融合抗体が得られることも予測できるといえる。

審判請求人が主張するように、SUMF1がIDS融合タンパク質を認識するかどうか、融合タンパク質の該翻訳後修飾が可能かどうかは不明であったかもしれないが、引用例1の表1に列挙される医薬タンパク質の中からIDSを選択することを妨げるほどの事情があるとは認められず、上記参考資料1があっても本願発明が容易想到でないとはできない。

(3)について
上記参考資料1には「抗体分子のC末端に成熟NGFを有し、結果的にこれらの前駆体配列を欠いていた(しかし、抗体シグナルペプチドは有していた)融合コンストラクトは、NGF活性が大きく減少していた(Morrisonの未発表結果)」(130頁右欄6行?131頁左欄2行)と記載されているが、本願発明には「活性の少なくとも30%をそれぞれ保持している」と特定されており、ある程度活性が減少した融合抗体も包含するものであるから、引用発明において医薬タンパク質としてNGFを用いた融合抗体が活性の保持要件を満足しないと直ちにいうことはできない。
また、上記参考資料1に記載されているのは、融合抗体の抗体部分が抗トランスフェリン受容体抗体という特定のものであって、引用例1に具体的に記載され、本願の実施例でも使用されている抗インスリン受容体抗体とは異なるものであるし、医薬タンパク質部分もNGFという特定のものであり、NGF以外を融合した融合抗体については記載されていない。そうすると、当業者であっても、上記参考資料1に示された事項について、融合抗体の抗体部分が抗トランスフェリン受容体抗体以外の抗体、特に引用例1で用いられた抗インスリン受容体抗体である場合や、医薬タンパク質部分がNGF以外、特にIDSの場合にも同様であると推認するとはいえない。
したがって、参考資料1に示された事項をもって本願発明が容易想到でないとはできない。

以上のとおり、審判請求人の主張は採用することができない。

6.小活
よって、本願発明は引用例1?3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


第4 むすび
以上のとおり、この出願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明について言及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-02-05 
結審通知日 2019-02-12 
審決日 2019-02-25 
出願番号 特願2016-14716(P2016-14716)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C07K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田中 晴絵  
特許庁審判長 大宅 郁治
特許庁審判官 中島 庸子
長井 啓子
発明の名称 CNSにおけるイズロン酸2-スルファターゼ活性を増加させるための方法および組成物  
代理人 山尾 憲人  
代理人 新田 昌宏  

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