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審決分類 |
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C23C 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C23C |
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管理番号 | 1353463 |
審判番号 | 不服2017-14954 |
総通号数 | 237 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2019-09-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2017-10-06 |
確定日 | 2019-07-10 |
事件の表示 | 特願2015-134106「プラズマ源、及びプラズマ強化化学蒸着を利用して薄膜被覆を堆積させる方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 1月14日出願公開、特開2016- 6772〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1 手続の経緯 本願は、2009年(平成21年)8月4日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2008年8月4日(US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする特願2011-522159号の一部を平成27年7月3日に新たな特許出願としたものであって、平成28年8月24日付けで拒絶理由が通知され、平成29年1月6日付けで意見書が提出され、同年5月31日付けで拒絶査定がされ、同年10月6日付けで拒絶査定不服審判の請求がされたものであり、平成30年8月27日付けで当審からの拒絶理由が通知され、同年12月27日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。 2 本願発明 本願の請求項1?32に係る発明は、平成30年12月27日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?32に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。 「【請求項1】 基板と 前記基板上に蒸着させた被膜と を含んだ製品であって、 前記被膜は a)線状であり、ホール電流が実質的に存在しない状態でその長さにわたって略均一に作られるプラズマを第一の中空陰極と第二の中空陰極との間に提供することであって、 前記第一の中空陰極と前記第二の中空陰極は、10ボルトから1000ボルトの電圧差で、10^(3)Hzから10^(7)Hzの周波数帯で位相が互いにずれるように電気的に接続され、 前記第一の中空陰極と前記第二の中空陰極間のプラズマ電流は、長さ25mm当たり1から2アンペアの範囲であり、 前記第一の中空陰極と前記第二の中空陰極間の距離は、約1mmから約0.5メートルの間であり、 作動圧力は、1ミリバールから10^(-3)ミリバールである、ことと、 b)前記プラズマに近接して前駆体及び反応ガスを提供することと、 c)被覆されるべき前記基板の少なくとも一つの表面を前記プラズマに近接して、前記基板を提供することと、 d)前記前駆体ガスを活性化し、部分的に分解しあるいは完全に分解することと、 e)PECVDを用いて前記基板の前記少なくとも一つの表面上に被膜を蒸着させることと を含むステップを備えるプラズマ強化化学蒸着(PECVD)を用いて被膜を形成し、 前記蒸着させることは、前記前駆体ガスの化学元素を前記基板の前記少なくとも一つの表面上に結合又は凝結することを含み、 前記蒸着の堆積率は、少なくとも0.2μm/秒以上である 製品。」 3 当審で通知した拒絶理由の概要 当審で通知した平成30年8月27日付けの拒絶理由の概要は、次のとおりである。 (1)この出願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。(以下、「明確性要件違反」という。) (2)この出願の請求項1?32に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において頒布された引用文献1(特開2003-193239号公報)、引用文献2(特開2002-121670号公報)、及び、引用文献3(特開昭63-297560号公報)に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。(以下、「新規性要件違反」という。) 4 当審の判断 (1)明確性要件違反について ア 本願発明は、「製品」との物の発明の「被膜」を、 「a)線状であり、ホール電流が実質的に存在しない状態でその長さにわたって略均一に作られるプラズマを第一の中空陰極と第二の中空陰極との間に提供することであって、 前記第一の中空陰極と前記第二の中空陰極は、10ボルトから1000ボルトの電圧差で、10^(3)Hzから10^(7)Hzの周波数帯で位相が互いにずれるように電気的に接続され、 前記第一の中空陰極と前記第二の中空陰極間のプラズマ電流は、長さ25mm当たり1から2アンペアの範囲であり、 前記第一の中空陰極と前記第二の中空陰極間の距離は、約1mmから約0.5メートルの間であり、 作動圧力は、1ミリバールから10^(-3)ミリバールである、ことと、 b)前記プラズマに近接して前駆体及び反応ガスを提供することと、 c)被覆されるべき前記基板の少なくとも一つの表面を前記プラズマに近接して、前記基板を提供することと、 d)前記前駆体ガスを活性化し、部分的に分解しあるいは完全に分解することと、 e)PECVDを用いて前記基板の前記少なくとも一つの表面上に被膜を蒸着させることと を含むステップを備えるプラズマ強化化学蒸着(PECVD)を用いて被膜を形成し、 前記蒸着させることは、前記前駆体ガスの化学元素を前記基板の前記少なくとも一つの表面上に結合又は凝結することを含み、 前記蒸着の堆積率は、少なくとも0.2μm/秒以上である」 との製造方法(以下、「本願被膜製造方法」という。)により特定している。 しかしながら、本願明細書の段落【0052】に「ガラス基板は、1)誘電体薄膜、2)透明導電性薄膜、3)半導体薄膜、及び4)太陽熱制御(solar control)薄膜を含む薄膜で被覆される・・・。前述の被覆グループに関して、結晶性、引張り応力及び多孔性などの特性は、本発明によるプラズマ源のある堆積パラメータを調整することによって状況に合わせた性質にすることができる。」と記載されているように、被膜の特性は、被覆しようとする物質毎に、前駆体ガスや反応ガスの種類や供給量、中空陰極間に印加する電力や周波数等の堆積パラメータによって異なるものであるし、さらに、被膜を形成する基板の物質によっても変化するものであるところ、本願被膜製造方法では、基板の物質や当該被膜を形成するための前駆体ガスや反応ガスの種類や供給量などを特定していないため、本願被膜製造方法により特定された本願発明の被膜は、基板の物質毎に、あるいは、当該被膜を形成するための前駆体ガスや反応ガスの種類や供給量などの堆積パラメータ毎に、多種多様な特性を取り得ることとなり、共通した固有の特性を有しているものといえない。 また、本願明細書のその他の記載や技術常識を考慮しても、本願被膜製造方法により特定された本願発明の被膜が共通した固有の特性を有していると認識できない。 したがって、本願被膜製造方法により特定された本願発明の被膜は明確なものでない。 イ 請求人は平成30年12月27日付けの意見書において、「このような堆積パラメータを採用することによって、1)二次電子表面間の高い二次電子流、2)広域被覆の高い堆積率、3)数ミクロンの厚さが可能であるが低応力である広域被覆、4)数ミクロンの厚さが可能であるが平滑な広域被覆、及び5)数ミクロンの厚さがあるが低ヘイズを有する広域被覆を導くことができます(出願当初の明細書の段落[0032])。従いまして、上記製造方法が、被膜の平滑度、ヘイズ度、あるいは、引張り応力を特定するものであると思料します。」と主張している(同意見書の「(4-1)理由1(明確性)について」参照)。 しかしながら、平滑度等の特性は、本願明細書の段落【0101】?【0103】の実施例1に記載されているように、前駆体ガスや反応ガス、さらに基板の物質が特定された結果、認識できるものであって、本願被膜製造方法により当然に得られる物性といえない。しかも、当該実施例1においても、具体的な平滑度、ヘイズ値、あるいは、引張り応力は開示されていない。 したがって、当該主張は採用できない。 ウ 以上のとおり、本願発明は明確でないから、この出願の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 (2)新規性要件違反について ア 引用文献に記載された発明について (ア)引用文献1に記載された発明 引用文献1には、「本発明は、光通信分野等において不可欠な光導波路等を製造する際して平面基板上にガラス膜・・・に関するものである。」(段落【0001】)、「・・・本発明に係るガラス膜形成装置の一つであるプラズマCVD装置・・・である。・・・真空容器・・・の内部上方には、・・・材料ガス(TEOS(テトラエトキシシラン)とO_(2)の混合ガス等)をシャワー状に噴き出す上部シャワー電極板2が設けられている。・・・その上部シャワー電極板2の下部にはこれと対向するように平面基板6を載置するテーブル状の下部電極板3が設けられており、上部シャワー電極板2に接続された高周波電源9から供給される電力によって上部シャワー電極板2間でプラズマを発生するようになっている。」(段落【0012】?【0014】)、及び、「・・・プラズマCVD装置を用い、・・・石英ガラス基板6を下部電極板3上にセットし、・・・上部シャワー電極板2から真空容器1内に材料ガスであるTEOSとO_(2)をそれぞれ20sccm、680sccm導入した。尚、真空容器1内のガス圧は40Paとした。・・・上部シャワー電極板2に700WのRF電力を供給し、上下電極板2,3間にプラズマを発生させて、石英ガラス基板6表面にSiO_(2)膜を15μmの膜厚で形成した。・・・また、本発明方法によって連続して20回(合計膜厚300μm)実施した・・・。」(段落【0024】?【0026】)と記載されている。 これら記載を整理すると、引用文献1には、 「石英ガラス基板と、前記石英ガラス基板上に形成したSiO_(2)膜を有する、導波路を製造するためのガラス膜であって、 前記SiO_(2)膜は、真空容器の内部に上部シャワー電極板と、これに対向する下部電極板が設けられたプラズマCVD装置を用いて、前記下部電極板上に前記石英ガラス基板をセットし、前記上部シャワー電極板からTEOS20sccm及びO_(2)680sccmを導入し、真空容器内のガス圧を40Paとして、前記上部シャワー電極板に700WのRF電力を供給して、上下電極板間にプラズマを発生させて、前記石英ガラス基板表面に形成されたSiO_(2)膜である、 導波路を製造するためのガラス膜。」 の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているといえる。 (イ)引用文献2に記載された発明 引用文献2には、「・・・ガラス板を用いて、SiH_(4)、O_(2)、SnCl_(4)、フロン152aおよび水を主原料として、常圧CVD装置によりSiO_(2)アルカリバリヤ膜0.08μmとフッ素ドープSnO_(2)透明導電膜0.7μmが積層された基板を作製した。・・・次いで、機能膜製膜室において、・・・高周波グロー放電装置により、・・・アモルファスシリコン半導体膜層を順次積層した。・・・前記アモルファスシリコン半導体膜を製膜後、・・・太陽電池モジュール化加工を行い、別の装置を用いてZnO透明導電膜0.8μm、Al電極0.5μmを蒸着法により薄膜上に作製した。・・・太陽電池モジュールを得た。」(段落【0018】?【0021】)と記載されている。 この記載を整理すると、引用文献2には、 「ガラス基板と、前記ガラス基板上に形成したSiO_(2)アルカリバリヤ膜、フッ素ドープSnO_(2)透明導電膜、アモルファスシリコン半導体膜層、ZnO透明導電膜及びAl電極を有する、太陽電池モジュールであって、 前記SiO_(2)アルカリバリヤ膜は、SiH_(4)及びO_(2)を主原料とした常圧CVD装置により、前記ガラス基板上に形成されたSiO_(2)アルカリバリヤ膜である、 太陽電池モジュール。」 の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されているといえる。 (ウ)引用文献3に記載された発明 引用文献3には、「本発明は、磁気記録媒体または磁気記録用ヘッド材料として、用いられることが期待されている炭化鉄・・・に関するものである。」(第1頁右下欄第5?8行)、及び、「第1図は本発明の一実施例の薄膜の製造方法に用いるECR-CVD装置の模式図である。・・・マイクロ波発振機9の周波数は2.54GHzとし、イオン化用ガス導入口10からは水素および窒素を各々0?50SCCM導入し、まず第一の反応ガス導入口4よりビスベンゼンクロム{(C_(6)H_(6))_(2)Cr}を導入し、ガラス製の基板1の上に、クロム膜を堆積し、次に・・・ガラス製の基板1の上のクロム膜の上に、さらに炭化鉄薄膜を作製し、第3図(b)に示すような断面構造の膜にする。」(第2頁左下欄第1?15行)と記載されている。 これら記載を整理すると、引用文献3には、 「ガラス製の基板と、前記基板上に形成したクロム膜及び炭化鉄膜を有する磁気記録媒体または磁気記録用ヘッド材料であって、 前記クロム膜は、周波数2.54GHzのECR-CVD装置を用いて、水素及び窒素を各々0?50SCCM、並びに、ビスベンゼンクロムを導入して、前記基板に堆積したクロム膜である、 磁気記録媒体または磁気記録用ヘッド材料。」 の発明(以下、「引用発明3」という。)が記載されているといえる。 イ 対比・検討 (ア)本願発明と引用発明1の対比・検討 本願発明と引用発明1を対比すると、引用発明1の「石英ガラス基板」、「SiO_(2)膜」、「導波路を製造するためのガラス膜」、「プラズマCVD装置を用い」ること、「TEOS」、「O_(2)」、「ガス圧を40Pa」とすることは、それぞれ、本願発明の「基板」、「被膜」、「製品」、「プラズマ強化化学蒸着(PECVD)を用い」ること、「前駆体ガス」、「反応ガス」、「作動圧力は、1ミリバールから10^(-3)ミリバールである」ことに相当する。 また、引用発明1の「下部電極板上に石英ガラス基板をセットし」て、「上下電極板間にプラズマを発生させ」ることは、本願発明の「被覆されるべき前記基板の少なくとも一つの表面を前記プラズマに近接して、前記基板を提供すること」に相当する。 そして、引用発明1の「TEOS及びO_(2)を導入し」て「プラズマを発生させ」ることは、本願発明の「前記プラズマに近接して前駆体及び反応ガスを提供すること」及び「前記前駆体ガスを活性化し、部分的に分解しあるいは完全に分解すること」に相当する。 さらに、引用発明1の「石英ガラス基板表面」に「SiO_(2)膜」が「形成された」ことは、本願発明の「前記前駆体ガスの化学元素を前記基板の前記少なくとも一つの表面上に結合又は凝結すること」に相当する。 したがって、本願発明は、引用発明1と、 「基板と 前記基板上に蒸着させた被膜と を含んだ製品であって、 前記被膜は、 作動圧力は、1ミリバールから10^(-3)ミリバールである、ことと、 b)前記プラズマに近接して前駆体及び反応ガスを提供することと、 c)被覆されるべき前記基板の少なくとも一つの表面を前記プラズマに近接して、前記基板を提供することと、 d)前記前駆体ガスを活性化し、部分的に分解しあるいは完全に分解することと、 e)PECVDを用いて前記基板の前記少なくとも一つの表面上に被膜を蒸着させることと を含むステップを備えるプラズマ強化化学蒸着(PECVD)を用いて被膜を形成し、 前記蒸着させることは、前記前駆体ガスの化学元素を前記基板の前記少なくとも一つの表面上に結合又は凝結することを含む、 製品」 である点で一致し、 本願発明では、「プラズマ強化化学蒸着(PECVD)を用いて被膜を形成」することに関して、 「a)線状であり、ホール電流が実質的に存在しない状態でその長さにわたって略均一に作られるプラズマを第一の中空陰極と第二の中空陰極との間に提供することであって、 前記第一の中空陰極と前記第二の中空陰極は、10ボルトから1000ボルトの電圧差で、10^(3)Hzから10^(7)Hzの周波数帯で位相が互いにずれるように電気的に接続され、 前記第一の中空陰極と前記第二の中空陰極間のプラズマ電流は、長さ25mm当たり1から2アンペアの範囲であり、 前記第一の中空陰極と前記第二の中空陰極間の距離は、約1mmから約0.5メートルの間であ」ること、及び、 「前記蒸着の堆積率は、少なくとも0.2μm/秒以上である」ことを特定しているのに対して、 引用発明1では、「真空容器の内部に上部シャワー電極板と、これに対向する下部電極板が設けられたプラズマCVD装置を用いて、前記下部電極板上に前記石英ガラス基板をセットし」、「TEOS20sccm及びO_(2)680sccmを導入し」、「前記上部シャワー電極板に700WのRF電力を供給」することにより、「SiO_(2)膜」を形成している点で一応相違している。 しかしながら、上記相違点は製造装置及び製造条件の差異であるが、製造される被膜において有意な差異になると認められないから、上記相違点を実質的な相違点といえない。 よって、本願発明は、引用文献1に記載された発明といえる。 (イ)本願発明と引用発明2の対比・検討 本願発明と引用発明2を対比すると、引用発明2の「ガラス基板」、「SiO_(2)アルカリバリヤ膜」、「太陽電池モジュール」、「常圧CVD装置」で「形成する」こと、「SiH_(4)」、「O_(2)」は、それぞれ、本願発明の「基板」、「被膜」、「製品」、「蒸着させる」こと、「前駆体ガス」、「反応性ガス」に相当する。 また、引用発明2の「SiH_(4)及びO_(2)を主原料とした常圧CVD装置により、前記ガラス基板上」に「SiO_(2)アルカリバリヤ膜」を形成することは、本願発明の「前記前駆体ガスの化学元素を前記基板の前記少なくとも一つの表面上に結合又は凝結すること」に相当する。 したがって、本願発明は、引用発明2と、 「基板と 前記基板上に蒸着させた被膜と を含んだ製品であって、 前記蒸着させることは、前駆体ガスの化学元素を前記基板の前記少なくとも一つの表面上に結合又は凝結することを含む、 製品」 である点で一致し、 本願発明では、「被膜」の製造方法に関して、 「a)線状であり、ホール電流が実質的に存在しない状態でその長さにわたって略均一に作られるプラズマを第一の中空陰極と第二の中空陰極との間に提供することであって、 前記第一の中空陰極と前記第二の中空陰極は、10ボルトから1000ボルトの電圧差で、10^(3)Hzから10^(7)Hzの周波数帯で位相が互いにずれるように電気的に接続され、 前記第一の中空陰極と前記第二の中空陰極間のプラズマ電流は、長さ25mm当たり1から2アンペアの範囲であり、 前記第一の中空陰極と前記第二の中空陰極間の距離は、約1mmから約0.5メートルの間であり、 作動圧力は、1ミリバールから10^(-3)ミリバールである、ことと、 b)前記プラズマに近接して前駆体及び反応ガスを提供することと、 c)被覆されるべき前記基板の少なくとも一つの表面を前記プラズマに近接して、前記基板を提供することと、 d)前記前駆体ガスを活性化し、部分的に分解しあるいは完全に分解することと、 e)PECVDを用いて前記基板の前記少なくとも一つの表面上に被膜を蒸着させることと を含むステップを備えるプラズマ強化化学蒸着(PECVD)を用いて被膜を形成」すること、及び、 「前記蒸着の堆積率は、少なくとも0.2μm/秒以上である」ことを特定しているのに対して、 引用発明2では、「SiH_(4)及びO_(2)を主原料とした常圧CVD装置」により、「SiO_(2)アルカリバリヤ膜」を形成している点で一応相違している。 しかしながら、上記相違点は製造装置及び製造条件の差異であるが、製造される被膜において有意な差異になると認められないから、上記相違点を実質的な相違点といえない。 よって、本願発明は、引用文献2に記載された発明といえる。 (ウ)本願発明と引用発明3の対比・検討 本願発明と引用発明3を対比すると、引用発明3の「ガラス製の基板」、「クロム膜」、「磁気記録媒体または磁気記録用ヘッド材料」、「ECR-CVD装置を用いる」こと、「ビスベンゼンクロム」は、それぞれ、本願発明の「基板」、「被膜」、「製品」、「プラズマ強化化学蒸着(PECVD)を用い」ること、「前駆体ガス」に相当する。 また、引用発明3の「ECR-CVD装置を用いて、水素及び窒素」、「並びに、ビスベンゼンクロムを導入して、前記基板」に「クロム膜」を堆積堆積することは、「基板」に近接してプラズマが形成され、「ビスベンゼンクロム」が分解して、基板に「クロム膜」が堆積しているといえるから、本願発明の「被覆されるべき前記基板の少なくとも一つの表面を前記プラズマに近接して、前記基板を提供すること」、「前記前駆体ガスを活性化し、部分的に分解しあるいは完全に分解すること」、及び、「前記前駆体ガスの化学元素を前記基板の前記少なくとも一つの表面上に結合又は凝結すること」に相当する。 したがって、本願発明は、引用発明3と、 「基板と 前記基板上に蒸着させた被膜と を含んだ製品であって、 前記被膜は、 c)被覆されるべき前記基板の少なくとも一つの表面を前記プラズマに近接して、前記基板を提供することと、 d)前記前駆体ガスを活性化し、部分的に分解しあるいは完全に分解することと、 e)PECVDを用いて前記基板の前記少なくとも一つの表面上に被膜を蒸着させることと を含むステップを備えるプラズマ強化化学蒸着(PECVD)を用いて被膜を形成し、 前記蒸着させることは、前記前駆体ガスの化学元素を前記基板の前記少なくとも一つの表面上に結合又は凝結することを含む、 製品」 である点で一致し、 本願発明では、「プラズマ強化化学蒸着(PECVD)を用いて被膜を形成」することに関して、 「a)線状であり、ホール電流が実質的に存在しない状態でその長さにわたって略均一に作られるプラズマを第一の中空陰極と第二の中空陰極との間に提供することであって、 前記第一の中空陰極と前記第二の中空陰極は、10ボルトから1000ボルトの電圧差で、10^(3)Hzから10^(7)Hzの周波数帯で位相が互いにずれるように電気的に接続され、 前記第一の中空陰極と前記第二の中空陰極間のプラズマ電流は、長さ25mm当たり1から2アンペアの範囲であり、 前記第一の中空陰極と前記第二の中空陰極間の距離は、約1mmから約0.5メートルの間であり、 作動圧力は、1ミリバールから10^(-3)ミリバールである、ことと、 b)前記プラズマに近接して前駆体及び反応ガスを提供すること」、及び、 「前記蒸着の堆積率は、少なくとも0.2μm/秒以上である」ことを特定しているのに対して、 引用発明3では、「周波数2.54GHzのECR-CVD装置を用いて、水素及び窒素を各々0?50SCCM、並びに、ビスベンゼンクロムを導入して」、「クロム膜」を形成している点で一応相違している。 しかしながら、上記相違点は製造装置及び製造条件の差異であるが、製造される被膜において有意な差異になると認められないから、上記相違点を実質的な相違点といえない。 よって、本願発明は、引用文献3に記載された発明といえる。 ウ 請求人は、平成30年12月27日付けの意見書において、引用文献1?3には、本願被膜製造方法に係る構成も、本願被膜製造方法によって特定される被膜の特性(低応力、平滑、低ヘイズ)も記載されていないから、本願発明は、引用文献1?3に記載された発明といえない旨を主張している(同意見書の「(4-2)理由2(新規性)について」参照)。 しかしながら、上記「(1)明確性要件違反について」で検討したとおり、本願被膜製造方法による被膜の特定は、具体的な被膜の特性を示すものでなく、製造方法による差異は実質的な相違点にならないから、当該主張は採用できない。 5 むすび 以上のとおり、本願の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 そして、その結果、本願発明は、引用文献1、引用文献2、及び、引用文献3に記載された発明と区別し得ないから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 したがって、本願は、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
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審理終結日 | 2019-02-05 |
結審通知日 | 2019-02-12 |
審決日 | 2019-02-25 |
出願番号 | 特願2015-134106(P2015-134106) |
審決分類 |
P
1
8・
537-
WZ
(C23C)
P 1 8・ 113- WZ (C23C) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 神▲崎▼ 賢一、今井 淳一 |
特許庁審判長 |
大橋 賢一 |
特許庁審判官 |
宮澤 尚之 山崎 直也 |
発明の名称 | プラズマ源、及びプラズマ強化化学蒸着を利用して薄膜被覆を堆積させる方法 |
代理人 | 一色国際特許業務法人 |
代理人 | 一色国際特許業務法人 |
代理人 | 一色国際特許業務法人 |