• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B60G
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B60G
管理番号 1353464
審判番号 不服2018-50  
総通号数 237 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-09-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-01-04 
確定日 2019-07-10 
事件の表示 特願2015-516011号「ボールジョイントおよび三角形型サスペンションアームの組立て」拒絶査定不服審判事件〔平成25年12月12日国際公開、WO2013/184221、平成27年 9月10日国内公表、特表2015-526325号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2013年3月15日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2012年6月6日 (US)米国)を国際出願日とするものであって、平成28年12月13日付けで拒絶理由が通知され、平成29年3月17日に意見書及び手続補正書が提出され、同年8月31日付けで拒絶査定がされ、平成30年1月4日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出されたものである。

第2 平成30年1月4日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成30年1月4日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 補正の内容
平成30年1月4日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲について補正をするものであって、補正前と補正後の特許請求の範囲を示すと以下のとおりである(下線は補正箇所を示す。)。
〔補正前〕
「【請求項1】
車両サスペンションのためのコントロールアームであって、
コントロールアーム本体を備え、前記コントロールアーム本体は、ホイールアセンブリに装着するためのコネクタと、長手方向に延在し前記コントロールアーム本体を車両フレームと結合するための水平ブッシングとを有し、
前記コントロールアーム本体の開口に圧入されたハウジングを備え、前記ハウジングは鉛直軸に沿って第1の開放端と第2の開放端との間に延在し、前記ハウジングは前記第1の開放端と前記第2の開放端との間に延在する内部ボアを有し、
前記ハウジングの前記内部ボアの中に配置された軸受を備え、前記軸受は湾曲した内面を有し、
前記軸受および前記ハウジングと係合し前記軸受を前記ハウジングの前記内部ボアの中で保持する保持部材と、
前記ハウジングの前記内部ボアの中を通って前記第1の開放端と第2の開放端を超えて延在し前記ハウジングの両側において前記車両フレームと係合するためのスタッドとを備え、前記スタッドは、前記スタッドおよび前記車両フレームに対して前記ハウジングおよび前記コントロールアーム本体が回転運動できるよう、前記軸受の前記湾曲した内面と滑り係合する湾曲した外面を有し、コントロールアームはさらに、
軸方向において前記軸受と前記保持部材との間に配置されたばねを備える、コントロールアーム。
【請求項2】
前記ハウジングの一端は径方向内側に曲げられて前記保持部材と係合する、請求項1に記載のコントロールアーム。
【請求項3】
前記スタッドの前記湾曲した外面は半球形状である、請求項1に記載のコントロールアーム。
【請求項4】
前記スタッドは通路を有し、前記通路は、前記スタッドの中を軸方向に延在し、前記スタッドを前記車両フレームと結合するための固定具を収容する、請求項1に記載のコントロールアーム。
【請求項5】
前記固定具はボルトである、請求項4に記載のコントロールアーム。
【請求項6】
前記ハウジングは金属からなる、請求項1に記載のコントロールアーム。
【請求項7】
前記金属のハウジングを実質的に周方向に囲むエラストマー材料のクッションと、前記ラバークッションを実質的に周方向に囲む金属のケーシングとをさらに備える、請求項1に記載のコントロールアーム。
【請求項8】
前記保持部材は、前記スタッドに対する前記ハウジングの前記回転運動を促進するために前記軸受の反対側における側面が面取りされ、前記保持部材の反対側にある、前記ハウジングの前記開放端のうちの一方が、前記スタッドに対する前記ハウジングの前記回転運動をさらに促進するために面取りされる、請求項1に記載のコントロールアーム。
【請求項9】
前記ハウジングは、少なくとも部分的に湾曲しかつ前記スタッドの前記湾曲した外面と滑り接触する内面を有する、請求項1に記載のコントロールアーム。
【請求項10】
車両サスペンションのためのコントロールアームの製造方法であって、
軸受の湾曲した内面を、軸方向に延在するスタッドの湾曲した外面と滑動可能に結合することによって前記スタッドに対して前記軸受が回転運動できるようにすることと、
軸方向において間隔を開けられた開放端を有するハウジングの内部ボアの中に前記軸受を位置決めして、前記スタッドが、対向する前記開放端を通って前記ハウジングを超えて延在することにより、前記スタッドに対して前記ハウジングが回転運動できるようにすることと、
保持部材を前記ハウジングと前記軸受に係合させて前記軸受を前記ハウジングの内部ボアの中で保持することと、
前記ハウジングを、コントロールアーム本体の開口に圧入することにより前記スタッドに対して前記コントロールアーム本体が回転運動できるようにすることと、
前記ハウジングの前記内部ボアの中において前記軸受と前記保持部材との間にばねを配置することを含む、方法。
【請求項11】
前記ハウジングの一部を変形させて前記保持部材と係合させるステップをさらに含む、請求項10に記載の方法。」

〔補正後〕
「【請求項1】
車両サスペンションのためのコントロールアームであって、
コントロールアーム本体を備え、前記コントロールアーム本体は、ホイールアセンブリに装着するためのコネクタと、長手方向に延在し前記コントロールアーム本体を車両フレームと結合するための水平ブッシングとを有し、
前記コントロールアーム本体の開口に圧入されたハウジングを備え、前記ハウジングは鉛直軸に沿って第1の開放端と第2の開放端との間に延在し、前記ハウジングは前記第1の開放端と前記第2の開放端との間に延在する内部ボアを有し、
前記ハウジングの前記内部ボアの中に配置された軸受を備え、前記軸受は湾曲した内面を有し、
前記軸受および前記ハウジングと係合し前記軸受を前記ハウジングの前記内部ボアの中で保持する保持部材と、
前記ハウジングの前記内部ボアの中を通って前記第1の開放端と第2の開放端を超えて延在し前記ハウジングの両側において前記車両フレームと係合するためのスタッドとを備え、前記スタッドは、前記スタッドおよび前記車両フレームに対して前記ハウジングおよび前記コントロールアーム本体が回転運動できるよう、前記軸受の前記湾曲した内面と滑り係合する湾曲した外面を有し、コントロールアームはさらに、
軸方向において前記軸受と前記保持部材との間に配置されたばねを備え、
前記保持部材と、前記保持部材の反対側の端部である前記ハウジングの前記開放端はいずれも面取りされている、コントロールアーム。
【請求項2】
前記ハウジングの一端は径方向内側に曲げられて前記保持部材と係合する、請求項1に記載のコントロールアーム。
【請求項3】
前記スタッドの前記湾曲した外面は半球形状である、請求項1に記載のコントロールアーム。
【請求項4】
前記スタッドは通路を有し、前記通路は、前記スタッドの中を軸方向に延在し、前記スタッドを前記車両フレームと結合するための固定具を収容する、請求項1に記載のコントロールアーム。
【請求項5】
前記固定具はボルトである、請求項4に記載のコントロールアーム。
【請求項6】
前記ハウジングは金属からなる、請求項1に記載のコントロールアーム。
【請求項7】
前記金属のハウジングを実質的に周方向に囲むエラストマー材料のクッションと、前記ラバークッションを実質的に周方向に囲む金属のケーシングとをさらに備える、請求項1に記載のコントロールアーム。
【請求項8】
前記保持部材は、前記スタッドに対する前記ハウジングの前記回転運動を促進するために前記軸受の反対側における側面が面取りされ、前記保持部材の反対側にある、前記ハウジングの前記開放端のうちの一方が、前記スタッドに対する前記ハウジングの前記回転運動をさらに促進するために面取りされる、請求項1に記載のコントロールアーム。
【請求項9】
前記ハウジングは、少なくとも部分的に湾曲しかつ前記スタッドの前記湾曲した外面と滑り接触する内面を有する、請求項1に記載のコントロールアーム。
【請求項10】
車両サスペンションのためのコントロールアームの製造方法であって、
軸受の湾曲した内面を、軸方向に延在するスタッドの湾曲した外面と滑動可能に結合することによって前記スタッドに対して前記軸受が回転運動できるようにすることと、
軸方向において間隔を開けられた開放端を有するハウジングの内部ボアの中に前記軸受を位置決めして、前記スタッドが、対向する前記開放端を通って前記ハウジングを超えて延在することにより、前記スタッドに対して前記ハウジングが回転運動できるようにすることと、
保持部材を前記ハウジングと前記軸受に係合させて前記軸受を前記ハウジングの内部ボアの中で保持することと、
前記ハウジングを、コントロールアーム本体の開口に圧入することにより前記スタッドに対して前記コントロールアーム本体が回転運動できるようにすることと、
前記ハウジングの前記内部ボアの中において前記軸受と前記保持部材との間にばねを配置することを含み、
前記保持部材と、前記保持部材の反対側の端部であるハ前記ウジングの前記開放端をいずれも面取りすることを含む、方法。
【請求項11】
前記ハウジングの一部を変形させて前記保持部材と係合させるステップをさらに含む、請求項10に記載の方法。」

2 補正の適否
(1)新規事項の追加の有無及び補正の目的の適否について
上記補正は、明細書の翻訳文の段落【0015】の記載に基いて、請求項1の「保持部材」及び「ハウジング」について、「前記保持部材と、前記保持部材の反対側の端部である前記ハウジングの前記開放端はいずれも面取りされている」ものであることを限定するものであり、請求項10においても同様の限定(なお、請求項10に対する補正事項のうち「ハ前記ウジング」は「前記ハウジング」の誤記であることは明らかである。)をするものであるから、発明特定事項を限定するものであって新規事項を追加するものではない。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に適合するものであり、また、その補正前の請求項1に記載された発明とその補正後の請求項1に記載される発明の属する産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げられた特許請求の範囲を減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて以下検討する。

(2)独立特許要件
ア 引用文献の記載事項等
(ア)引用文献1
a 記載事項
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された米国特許出願公開第2012/0007329号明細書(以下、原査定と同様に「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている。(当審で作成した翻訳文を併記する。また、下線は当審で付加した。以下同様。)
(a)「【0001】 The embodiments of the present invention relate to ball joints usable for connecting a lower control arm to a sub-frame of a vehicle.」
「【0001】 本発明の実施形態は、車両のサブフレームに下部コントロールアームを連結するために使用可能なボールジョイントに関するものである。」

(b)「【0012】 In the embodiment shown in FIGS. 1-4, ball joint 10 is mounted on a front lower control arm 14 of an independent suspension of a vehicle. The joint 10 is mounted substantially laterally of the portion 14k of the control arm at which the wheel knuckle (not shown) is attached, and connects the front lower control arm 14 to the vehicle sub-frame 16. In the attachment position shown in FIG. 1, joint 10 is configured so as to have a relatively high stiffness responsive to lateral loads. This enhances vehicle handling characteristics.」
「【0012】 図1-4に示す実施形態において、ボールジョイント10は、車両の独立懸架装置の前側下部コントロールアーム14に取り付けられている。ジョイント10は、ホイールナックル(図示せず)が取り付けられるコントロールアームの一部14kの実質的に横方向に装着され、前側下部コントロールアーム14を車両サブフレーム16に接続されている。図1に示す取付位置では、ジョイント10は、横方向の荷重に応答する相対的に高い剛性を有するように構成されている。これは、自動車のハンドリング特性を向上させる。」

(c)「【0013】 In this embodiment, ball joint 10 is employed as a cross axis joint designed to carry loads in a radial direction and to transfer the loads from the front lower control arm 14 to the vehicle sub-frame 16. Ball joint 10 is secured in an opening 20 formed in the lower control arm 14. Sub-frame 16 has an opening 22 formed therein for receiving a bolt or other suitable member (not shown) therethrough for connecting the ball joint 10 to the sub-frame. The connecting member passes through an opening 24 of the ball joint 10.A bushing 100 or other suitable mechanism may be used to connect another portion of the front lower control arm to another portion of the sub-frame.」
「【0013】 この実施形態では、ボールジョイント10は、半径方向の負荷を支持し、前側ロアアーム14からの荷重を伝達する車両サブフレーム16に交差軸継手として使用される。ボールジョイント10は、下部コントロールアーム14に形成された開口20内に保持されている。サブフレーム16は、ボールジョイント10をフレームに連結するためのボルト又は他の適当な部材(図示せず)を受けるために形成された開口22とを有している。連結部材は、ボールジョイント10の開口24を通過する。ブッシング100またはその他の適切な機構は、前側下部コントロールアームの他の部分を接続するためのサブ・フレームの別の部分に使用することができる。」

(d)「【0014】 In the embodiment shown in FIGS. 1-4, the ball joint 10 has central portion (generally designated 60), an elastomeric portion 52, and a mounting portion 50. Central portion 60 may comprise (or be constructed as) a conventional ball joint or swivel joint. ・・・」
「【0014】 図1-4に示す実施形態において、ボールジョイント10は、中央部(一般に60に示される)、弾性部52と、取付部50を有している。中央部60は、従来の玉継手またはスイベル継手(または構成)を含むことができる。・・・」

(d)「【0015】 Referring to FIG. 1, central portion 60 includes an annular housing 18. Housing 18 may be metallic or may be formed from any suitable material. Housing 18 supports a bearing shell 30 in a cavity formed in the housing. The bearing shell 30 is secured in place within housing 18 by a first ring 32 positioned on a first side of the bearing shell and a second ring 36 positioned on a second side of the bearing shell opposite the first side. The rings 36 and 38 are held in position by deformation of the material forming the ends of housing 18. The housing material is deformed over flanges 32a and 36a formed along respective ones of rings 32 and 36, so as to enclose the flanges and secure the rings to the housing 18.」
「【0015】 図1を参照すると、中央部60は、環状のハウジング18を含む。ハウジング18は、金属であってもよく、または任意の適切な材料から形成することができる。ハウジング18は、ハウジング内に形成されたキャビティ内に軸受シェル30を支持している。軸受シェル30は軸受シェルの第1の側に配置された第1のリング32と、軸受シェルの第1の側の反対側の第2の側に配置された第2のリング36によって、ハウジング18内の所定位置に固定されている。リング36及び38は、ハウジング18の端部を形成する材料の変形によって所定位置に保持される。ハウジング材料は、リング32および36のそれぞれに沿って形成されたフランジ32a,36aが変形し、フランジを包囲し、リングをハウジング18に固定するようにする。」

(e)「【0016】 A ball sleeve 40 is secured within the bearing shell 30. Ball sleeve 40 has a generally spherical center 40a and a pair of projecting portions 40b and 40c extending from opposite sides of center 40a. Center 40a has a ball sleeve bearing surface 46 in contact with the bearing shell 30. Inner through opening 24 extends through projecting portion 40b, center 40a, and projecting portion 40c. The ball sleeve 40 also has a first end face 41 and a second end face 43.」
「【0016】 ボールスリーブ40は、軸受シェル30内に固定されている。ボールスリーブ40は、球状のセンター40a及び中央部40aの両側から延在する一対の突出部40b,40cを有している。中央部40aは、軸受シェル30に当接するボールスリーブ軸受面46を有している。内部を貫通する開口24は、突出部40b、中央部40aと、突出部40cを通って延びている。ボールスリーブ40はまた、第1端面41と第2端面43を有している。」

(f)「【0019】 In the embodiment shown in FIGS. 1-4, mounting portion 50 comprises a ring radially spaced apart from housing 18. Mounting portion 50 is used for mounting the ball joint 10 in an opening formed in front lower control arm 14, using an interference fit or any other suitable mounting method. Mounting portion 50 may be metallic or may be formed from any suitable material.」
「【0019】 図1-4に示す実施形態において、ハウジング18から半径方向に離間したリングから構成されている取付部50は、ボールジョイント10を前側下部制御アーム14に形成された開口部に、締まり嵌め、または他の任意の取付方法のために用いられる。取付部50は、金属製であってもよく、または任意の適切な材料から形成することができる。」

(g)「【0021】 In the embodiment shown in FIG. 2, a front lower control arm assembly is formed in which the ball joint 10 has a cross-axis orientation wherein the central axis X of the joint 10 is oriented substantially perpendicularly to a plane including a central axis Y of bushing 100, rather than substantially parallel to the central axis of the bushing 100. Central axis X is also oriented substantially perpendicularly to an axis of rotation of the front lower control arm 14 with respect to vehicle sub-frame 16 during up and down motion of a vehicle wheel (not shown) attached to the control arm. In the embodiment shown in FIG. 2, axis X is also oriented substantially vertically or substantially perpendicular to a horizontal plane. Central axis X is also oriented substantially perpendicularly to a plane including a longitudinal or fore-aft axis of the vehicle (not shown).」
「【0021】 図2に示す実施形態において、前側下部コントロールアームアセンブリは、ジョイント10の中心軸Xが、ブッシング100の中心軸に実質的に平行に向いているのではなく、ブッシング100の中心軸Yを含む平面に垂直に向くような交差軸の配置をボールジョイント10が有するように形成されている。中心軸Xは、コントロールアームに取り付けられた車輪(図示せず)の上下動の際の、車両のサブフレーム16に対する前側下部コントロールアーム14の回転軸に対しても実質的に垂直とされている。図2に示された実施形態において、軸Xは、同様に、実質的に鉛直、あるいは、実質的に水平面に対して垂直に向いている。軸Xは、同様に、車両(図示せず)の長手方向、あるいは、前後方向の軸を含む平面に対しても、実質的に垂直な方向を向いている。」

(h)FIG-1は次のとおりである。


(i)FIG-2は次のとおりである。


b 記載された発明
上記a(h)より、「第1のリング32」及び「第2のリング36」は、それらの開放端が拡開していることが看取できる。
上記a(g)及び(i)より、「ジョイント10の中心軸X」が、「ブッシング100の中心軸Yを含む平面に垂直に向くような交差軸の配置をボールジョイント10が有するように形成され」、「軸Xは、実質的に鉛直、あるいは、実質的に水平面に対して垂直に向いている」ことから、ブッシング100の中心軸Yは水平面に対して平行であるから、ブッシング100は水平に配向されているといえ、特に(i)のブッシング100の形状を考慮すると、ブッシング100は長手方向に延在しているといえる。

以上のことと、上記aより、引用文献1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認める。(なお、引用文献1において、符号52は「elastomeric portion (弾性部)ないしelastomeric material (弾性材料)」と「sealing member (シール部材)」の異なる二部材に対して用いられているが、引用発明においては弾性部材に対して用いている。)
「車両のサブフレーム16にボールジョイント10により連結される前側下部コントロールアーム14であって、
ボールジョイント10は、車両の独立懸架装置の前側下部コントロールアーム14に取り付けられ、ボールジョイント10は、ホイールナックルが取り付けられるコントロールアームの一部14kの実質的に横方向に装着され、前側下部コントロールアーム14を車両サブフレーム16に接続し、長手方向に延在し水平に配向されたブッシング100は、前側下部コントロールアーム14の他の部分を接続するためのサブ・フレーム16の別の部分に使用するものであり、
ボールジョイント10は、下部コントロールアーム14に形成された開口20内に保持され、
取付部50は、ボールジョイント10を前側下部制御アーム14に形成された開口20に、締まり嵌めするために用いられ、サブフレーム16は、ボールジョイント10をフレームに連結するためのボルトを受けるために形成された開口22とを有し、ボルトは、ボールジョイント10の開口24を通過するものであり、
ボールジョイント10は、中央部60、弾性部52と、取付部50を有し、
中央部60は、環状のハウジング18を含み、ハウジング18は、ハウジング18内に形成されたキャビティ内に軸受シェル30を支持し、軸受シェル30は軸受シェル30の第1の側に配置された第1のリング32と、軸受シェル30の第1の側の反対側の第2の側に配置された第2のリング36によって、ハウジング18内の所定位置に固定され、
ボールスリーブ40は、軸受シェル30内に固定され、ボールスリーブ40は、球状のセンター40a及び中央部40aの両側から延在する一対の突出部40b,40cを有し、中央部40aは、軸受シェル30に当接するボールスリーブ軸受面46を有し、内部を貫通する開口24は、突出部40b、中央部40aと、突出部40cを通って延び、ボールスリーブ40は、第1端面41と第2端面43を有しており、
第1のリング32及び第2のリング36は、それらの開放端が拡開している、前側下部コントロールアーム14。」

(イ)引用文献2
a 記載事項
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された特開2005-54887号公報(以下、原査定と同様に「引用文献2」という。)には、以下の事項が記載されている。
(a)「【請求項1】
内室およびこの内室に連通する開口部を備えたソケットと、
このソケットの前記内室に摺動可能に保持される球部を備えたボールスタッドと、
前記ソケットの開口部に取り付けられ、前記ボールスタッドを前記ソケットに対して抜け止めする筒状の抜け止め体と、
この抜け止め体を前記ソケットに対してかしめ固定する第1のかしめ部、および、この第1のかしめ部と異なる位置に設けられた第2のかしめ部を備えた固定部と
を具備したことを特徴としたボールジョイント。」

(b)「【0027】
図1において、10はボールジョイントで、このボールジョイント10は、例えば車両用の懸架装置などに用いられる。
【0028】
このボールジョイント10は、金属製などの略円筒状のソケット11、このソケット11に挿通された鋼鉄製などのボールスタッド12、このボールスタッド12を保持する合成樹脂製などの円筒状のボールシート13、これらボールスタッド12およびボールシート13を抜け止めする抜け止め体としてのプラグ14、および、ゴムあるいは軟質合成樹脂などにて略円筒状に形成された第1のダストカバー15と第2のダストカバー16とを備えている。
【0029】
ソケット11は、内室としての断面円形状の空間であるシート嵌着部21が内部に設けられている。また、ソケット11の中心軸Oに沿った方向、すなわち軸方向の一端部には、シート嵌着部21に連通しプラグ14が取り付けられる開口部としての第1の開口部22が開口形成され、軸方向の他端部には、シート嵌着部21に連通する第2の開口部23が開口形成されている。
【0030】
第1の開口部22は、開口方向がソケット11の軸方向に沿って設けられている。また、この第1の開口部22は、シート嵌着部21に連通した内部のソケット11の軸方向の中心寄りの位置に、シート嵌着部21の内周面と連続した段差状のかしめ段部24を備えている。このかしめ段部24は、ソケット11の径方向に沿って平面状に、かつソケット11の全周に亘って円形状に設けられている。
【0031】
また、ソケット11の第1の開口部22の周縁部であるソケット11の軸方向の一端部には、ソケット11と同軸状の円筒状の第1のかしめ部25が形成される。この第1のかしめ部25は、ソケット11を内方に向けてかしめ加工されることで形成されている。
【0032】
さらに、ソケット11の軸方向の一端部には、ソケット11と同軸状の円筒状の第2のかしめ部26が形成される。この第2のかしめ部26は、第1のかしめ部25の一部をソケット11の軸方向に向けてかしめ加工することで、第1のかしめ部25とは異なる位置にこの第1のかしめ部25に連続して形成されている。そして、これらかしめ部25,26により、固定部27が構成され、この固定部27は、プラグ14をかしめ段部24との間で挟持して係止固定する。」

(c)「【0038】
また、ボールシート13の第1の開口44側の外周縁部には、シート段部46が全周に亘って切り欠き形成されている。このシート段部46には、プラグ14との間に、緩衝体としてのクッション材47が嵌着されている。
【0039】
このクッション材47は、ソケット11にプラグ14を取り付けてかしめ固定した状態で、軸方向のシート段部46に当接していない側の面が、かしめ段部24と略面一となっている。また、このクッション材47は、例えばゴムなどの弾性を有する樹脂などにて環状に設けられており、シート嵌着部21の内周面である第1の開口部22の内周縁部、シート段部46およびプラグ14の軸方向のボールシート13に対向した面にそれぞれ当接している。」

(d)「【0060】
また、ボールシート13の一端部とプラグ14との間にクッション材47を取り付けることで、ボールスタッド12およびボールシート13からプラグ14に加わる軸方向の荷重をクッション材47で緩衝し、ボールジョイント10の軸方向への荷重に対する耐久性をより向上できる。」

(e)【図1】は次のとおりである。


b 記載された技術的事項
上記a(e)より、「プラグ14」(図面では「14抜け止め体」と表記)及び「ソケット11」の「第2の開口部23」は、それらの開放端が拡開していることが看取できる。
以上のことと、上記aより、引用文献2には次の技術的事項(以下「引用文献2技術」という。)が記載されているものと認める。
「シート嵌着部21および軸方向の一端部には、シート嵌着部21に連通しプラグ14が取り付けられる第1の開口部22が開口形成され、軸方向の他端部には、シート嵌着部21に連通する第2の開口部23が開口形成されたソケット11と、
このソケット11の前記シート嵌着部21に摺動可能に保持されるボール部31を備えたボールスタッド12と、
前記ソケット11の第1の開口部22に取り付けられ、前記ボールスタッド12を前記ソケット11に対して抜け止めする筒状のプラグ14と、
このプラグ14を前記ソケット11に対してかしめ固定する第1のかしめ部25、および、この第1のかしめ部25と異なる位置に設けられた第2のかしめ部26を備えた固定部27と
を具備し、
ボールシート13の第1の開口44側の外周縁部には、シート段部46が全周に亘って切り欠き形成され、このシート段部46には、プラグ14との間に、ゴムなどの弾性を有する樹脂などにて環状に設けられた緩衝体としてのクッション材47が嵌着され、
プラグ14及びソケット11の第2の開口部23は、それらの開放端が拡開している、車両用の懸架装置に用いられるボールジョイント10。」

イ 対比・判断
(ア)対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
a 後者の「車両の独立懸架装置」は前者の「車両サスペンション」に相当し、以下同様に、「前側下部コントロールアーム14」は、「コントロールアーム」に、「コントロールアームの一部14k」は「ホイールナックルが取り付けられる」ものであるから「コネクタ」に、「水平に配向されたブッシング100」は「水平ブッシング」に、「軸受シェル30」は「軸受」に、「第1のリング32」は「保持部材」に、「ボールスリーブ40」は「スタッド」にそれぞれ相当する。

b 後者の「前側下部コントロールアーム14」は「コントロールアーム本体」といえるものを有していることは明らかである。
そうすると、後者の「下部コントロールアーム14に形成された開口20」は、「コントロールアーム本体の開口」に相当するといえる。

c 後者の「車両のサブフレーム16」は「車両の独立懸架装置」の「前側コントロールアーム14」を連結するものである。
そうすると、上記aをも踏まえると、後者の「車両のサブフレームにボールジョイント10により連結される前側下部コントロールアーム14」は、前者の「車両サスペンションのためのコントロールアーム」に相当するといえる。

d 上記bを踏まえると、後者の「サブ・フレーム16の別の部分」は「ブッシング100」により「前側下部コントロールアーム14の他の部分」に接続されるものであるから、前者の「水平ブッシング」により「コントロールアーム本体」に結合される「車両フレーム」に相当するといえる。
そうすると、上記aをも踏まえると、後者の「ボールジョイント10は、車両の独立懸架装置の前側下部コントロールアーム14に取り付けられ、ボールジョイント10は、ホイールナックルが取り付けられるコントロールアームの一部14kの実質的に横方向に装着され、前側下部コントロールアーム14を車両サブフレーム16に接続し、長手方向に延在し水平に配向されたブッシング100は、前側下部コントロールアーム14の他の部分を接続するためのサブ・フレームの別の部分に使用するものである」という事項は、前者の「コントロールアーム本体を備え、前記コントロールアーム本体は、ホイールアセンブリに装着するためのコネクタと、長手方向に延在し前記コントロールアーム本体を車両フレームと結合するための水平ブッシングとを有し」ているという事項に相当するといえる。

e 後者の「ハウジング18」、「弾性部52」及び「取付部50」からなるものと、前者の「ハウジング」とは、「ハウジング手段」の限度で一致するといえる。また、後者の「ハウジング18」のFIG-1上の上下の端部は「開放端」といえるものである。そして、後者の「ハウジング18内に形成されたキャビティ」は、前者の「内部ボア」に相当するといえる。さらに、後者の「軸受シェル30に当接するボールスリーブ軸受面46」は、前者の「前記軸受の前記湾曲した内面と滑り係合する湾曲した外面」に相当するといえ、「ボールスリーブ40」および「車両サブフレーム16」に対して「ハウジング手段」および「コントロールアーム本体」に相当するものが回転運動できることは明らかである。加えて、後者の「締まり嵌め」は、前者の「圧入」に相当するといえる。
そうすると、上記a、cをも踏まえると、後者の「ボールジョイント10は、下部コントロールアーム14に形成された開口20内に保持され、取付部50は、ボールジョイント10を前側下部制御アーム14に形成された開口20に、締まり嵌めするために用いられ、サブフレーム16は、ボールジョイント10をフレームに連結するためのボルトを受けるために形成された開口22とを有し、ボルトは、ボールジョイント10の開口24を通過するものであり、ボールジョイント10は、中央部60、弾性部52と、取付部50を有し、中央部60は、環状のハウジング18を含み、ハウジング18は、ハウジング18内に形成されたキャビティ内に軸受シェル30を支持し、軸受シェル30は軸受シェル30の第1の側に配置された第1のリング32と、軸受シェル30の第1の側の反対側の第2の側に配置された第2のリング36によって、ハウジング18内の所定位置に固定され、ボールスリーブ40は、軸受シェル30内に固定され、ボールスリーブ40は、球状のセンター40a及び中央部40aの両側から延在する一対の突出部40b,40cを有し、中央部40aは、軸受シェル30に当接するボールスリーブ軸受面46を有し、内部を貫通する開口24は、突出部40b、中央部40aと、突出部40cを通って延び、ボールスリーブ40は、第1端面41と第2端面43を有して」いるという事項と、前者の「前記コントロールアーム本体の開口に圧入されたハウジングを備え、前記ハウジングは鉛直軸に沿って第1の開放端と第2の開放端との間に延在し、前記ハウジングは前記第1の開放端と前記第2の開放端との間に延在する内部ボアを有し、前記ハウジングの前記内部ボアの中に配置された軸受を備え、前記軸受は湾曲した内面を有し、前記軸受および前記ハウジングと係合し前記軸受を前記ハウジングの前記内部ボアの中で保持する保持部材と、前記ハウジングの前記内部ボアの中を通って前記第1の開放端と第2の開放端を超えて延在し前記ハウジングの両側において前記車両フレームと係合するためのスタッドとを備え、前記スタッドは、前記スタッドおよび前記車両フレームに対して前記ハウジングおよび前記コントロールアーム本体が回転運動できるよう、前記軸受の前記湾曲した内面と滑り係合する湾曲した外面を有し」ているという事項とは、「前記コントロールアーム本体の開口に圧入されたハウジング手段を備え、前記ハウジング手段は鉛直軸に沿って第1の開放端と第2の開放端との間に延在し、前記ハウジング手段は前記第1の開放端と前記第2の開放端との間に延在する内部ボアを有し、前記ハウジング手段の前記内部ボアの中に配置された軸受を備え、前記軸受は湾曲した内面を有し、前記軸受および前記ハウジング手段と係合し前記軸受を前記ハウジング手段の前記内部ボアの中で保持する保持部材と、前記ハウジング手段の前記内部ボアの中を通って前記第1の開放端と第2の開放端を超えて延在し前記車両フレームと係合するためのスタッドとを備え、前記スタッドは、前記スタッドおよび前記車両フレームに対して前記ハウジング手段および前記コントロールアーム本体が回転運動できるよう、前記軸受の前記湾曲した内面と滑り係合する湾曲した外面を有し」ているという事項の限度で一致するといえる。

f 一般に「面取り」とは「面と面のまじわりの角(かど)に,斜面または丸みをつけることをいう.」(機械工学用語辞典 昭和40年1月30日第7版発行 機械工学用語辞典編集委員会編 株式会社技報堂)ということを示す用語であり、本願においても明細書の翻訳文の段落【0015】に「保持部材58と、保持部材58の反対側の端部であるハウジング36の開放下端40は、いずれも面取りされて、内部ボアの各端部の開口が概ね円錐台形状となるようにしている。」と記載されていることを鑑みると、後者の「第1のリング32」及び「第2のリング36」について、それらの開放端が拡開していることは、面取りされているといい得るものである。
そうすると、後者の「第1のリング32及び第2のリング36は、それらの開放端が拡開している」という事項と、前者の「前記保持部材と、前記保持部材の反対側の端部である前記ハウジングの前記開放端はいずれも面取りされている」という事項とは、「前記保持部材と、前記保持部材の反対側の端部での前記開放端はいずれも面取りされている」という事項の限度で一致するといえる。

g 以上のことから、本願補正発明と引用発明との一致点、相違点は次のとおりと認める。
〔一致点〕
「車両サスペンションのためのコントロールアームであって、
コントロールアーム本体を備え、前記コントロールアーム本体は、ホイールアセンブリに装着するためのコネクタと、長手方向に延在し前記コントロールアーム本体を車両フレームと結合するための水平ブッシングとを有し、
前記コントロールアーム本体の開口に圧入されたハウジング手段を備え、前記ハウジング手段は鉛直軸に沿って第1の開放端と第2の開放端との間に延在し、前記ハウジング手段は前記第1の開放端と前記第2の開放端との間に延在する内部ボアを有し、
前記ハウジング手段の前記内部ボアの中に配置された軸受を備え、前記軸受は湾曲した内面を有し、
前記軸受および前記ハウジング手段と係合し前記軸受を前記ハウジング手段の前記内部ボアの中で保持する保持部材と、
前記ハウジング手段の前記内部ボアの中を通って前記第1の開放端と第2の開放端を超えて延在し前記車両フレームと係合するためのスタッドとを備え、前記スタッドは、前記スタッドおよび前記車両フレームに対して前記ハウジング手段および前記コントロールアーム本体が回転運動できるよう、前記軸受の前記湾曲した内面と滑り係合する湾曲した外面を有し、
前記保持部材と、前記保持部材の反対側の端部での前記開放端はいずれも面取りされている、コントロールアーム。」

〔相違点1〕
「ハウジング手段」及び「保持部材」について、本願補正発明が、前者が「ハウジング」であり、後者に関し「軸方向において前記軸受と前記保持部材との間に配置されたばねを備え」るものであり、また、前者後者に関し、「前記保持部材の反対側の端部である前記ハウジングの前記開放端」が面取りされているのに対し、引用発明は、前者が「ハウジング18」、「弾性部52」及び「取付部50」からなるものであり、後者に関し「ばね」を有さず、また、前者後者に関し、「第2のリング36」の開放端が拡開しているものである点。

〔相違点2〕
「車両フレームと係合するためのスタッド」について、本願補正発明が、「ハウジングの両側において」係合することが特定されているのに対し、引用発明は、「ハウジング18」、「弾性部52」及び「取付部50」(ハウジング手段)の両側で係合することの特定がない点。

(イ)判断
a 〔相違点1〕について
引用文献2技術の「ソケット11」は、本願補正発明の「ハウジング」に相当し、以下同様に、「ボールシート13」は「軸受」に、「プラグ14」は「保持部材」に、「ボールスタッド12」は「スタッド」にそれぞれ相当する。そして、引用文献2技術の「プラグ14及びソケット11の第2の開口部23は、それらの開放端が拡開している」という事項は、本願補正発明の「前記保持部材と、前記保持部材の反対側の端部である前記ハウジングの前記開放端はいずれも面取りされている」という事項に相当するといえる(「面取り」の解釈については上記(ア)fを参照。)。
そして、引用発明も引用文献2技術も車両サスペンションに係る技術分野に属し、軸受の湾曲した内面と滑り係合する外面を有するスタッドを有するものであって、さらに、保持部材と、保持部材の反対側の端部での開放端はいずれも面取りされているものであるから、引用発明の「ボールジョイント10」における「ハウジング18」、「弾性部52」及び「取付部50」(ハウジング手段)、「「第1のリング32」及び「第2のリング36」、「軸受けシェル30」からなる構成に代えて、引用文献2技術の「ソケット11」、「プラグ14」、「クッション材47」、「ボールシート13」の構成を採用することは、当業者であれば容易に想到し得たことである。
ここで、本願補正発明の「軸方向において前記軸受と前記保持部材との間に配置されたばねを備え」たという事項について検討するに、具体的には、本願の明細書の翻訳文の段落【0014】に「ばね62は、好ましくは皿ばね62(ワッシャーばね62としても知られている)であるが、その代わりに、たとえばO-リングまたはラバークッションを含む任意の適切な種類のばね62を用いてもよい。」と記載されており、下線を付したようなものも含むものであり、そのようなものであるなら、本願補正発明の「ばね」は引用文献2技術の「ゴムなどの弾性を有する樹脂などにて環状に設けられた緩衝体としてのクッション材47」と機能的に格別差異があるとはいえず、当該「クッション材47」を「ばね」に変更することは、上記適用にあたり適宜なし得た慣用技術の転換にすぎない。
また、本願補正発明の「ばね」の効果としては、本願の明細書の翻訳文の段落【0014】に「ばね62により、製造中の交差および鉛直ソケット34の組立ての改善が可能になる。」(なお、「交差」は、対応する原文明細書の段落【0026】に「tolerances」と記載されていることから、「公差」の誤記と認める。)と記載されるものであり、そのような効果が引用文献2に直接的に記載されていないとしても、当業者であれば引用文献2技術の構成から予測し得る程度のことである。

b 〔相違点2〕について
引用発明は、「ボールジョイント10」の「サブフレーム16」への取付けについて「ボールジョイント10をフレームに連結するためのボルト」が「ボールジョイント10の開口24を通過する」ものではあるが、引用文献1に「ハウジング18」の両側において係合していることの明記はない。しかしながら、車両サスペンションの技術常識を参酌すれば、引用発明も実質的に「ハウジング18」の両側において係合しているものと解される。あるいは、そこまでいえないとしても、ハウジングの両側において車両フレームに係合する構成にすることは設計的事項にすぎず、その効果についても格別のものはない。なお、「ハウジング手段」については、上記aで述べたとおりである。
したがって、上記相違点2に係る本願補正発明の発明特定事項は、引用発明に引用文献2技術を適用した際に自ずと得られる構成であるか、あるいは、上記適用にあたり、適宜なし得た設計的事項にすぎない。

c 審判請求書の主張について
請求人は審判請求書において、「引用文献1の図1において上記の構成の内周面は斜めに描かれているが、引用文献1は、これらの構成を面取りして、ハウジングおよびコントロールアームの旋回性の改善するという技術事項を開示または示唆するとはいえない。」と主張するが、引用発明は「ボールスリーブ40」の「球状のセンター40a」の「ボールスリーブ軸受面46」が「軸受シェル30」に当接することにより、「ボールスリーブ40」が「ハウジ「ハウジング18」、「弾性部52」及び「取付部50」(ハウジング手段)、「前側下部コントロールアーム14」(コントロールアーム)に対し相対的な旋回を可能としているものであるから、「第1のリング32及び第2のリング36は、それらの開放端が拡開している」ことにより、拡開しない場合に対して可動域が増していることは、構成上自明のことといえる。したがって、請求人の上記主張は採用できない。
また、引用文献1について、「さらに、ハウジングの開放端を面取りすることは、引用文献1には全く開示または示唆されていない。したがって、少なくとも本日付の補正によって付加した構成は引用文献1の開示との間の明確な相違点となり、当該構成は引用文献2?4にも記載されていない。」とも主張するが、これについては、上記aで説示したとおりであるから、請求人の上記主張も採用できない。

(ウ)まとめ
上記(イ)のとおり、本願補正発明は、引用発明及び引用文献2技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
よって、本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

3 むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?11に係る発明は、平成29年3月17日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?11に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記「第2 1〔補正前〕」の請求項1に記載されたとおりのものである。

第4 引用文献とその記載事項等
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献、その記載事項及び記載された発明ないし技術的事項は、上記「第2 2(2)ア」に記載したとおりである。

第5 当審の判断
本願発明は、上記「第2」で検討した本願補正発明から「前記保持部材と、前記保持部材の反対側の端部である前記ハウジングの前記開放端はいずれも面取りされている」という限定事項を省いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を含み、さらに他の限定を付加したものに相当する本願補正発明が、上記「第2 2(2)イ」で説示したとおり、引用発明及び引用文献2技術(及び周知・慣用技術)に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当該限定事項を有さない本願発明も、上記「第2 2(2)イ」で説示したのと同様の理由により、引用発明及び引用文献2技術に基いて当業者が容易に発明することができたものといえる。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び引用文献2技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-02-07 
結審通知日 2019-02-12 
審決日 2019-02-26 
出願番号 特願2015-516011(P2015-516011)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B60G)
P 1 8・ 575- Z (B60G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田々井 正吾  
特許庁審判長 島田 信一
特許庁審判官 一ノ瀬 覚
仁木 学
発明の名称 ボールジョイントおよび三角形型サスペンションアームの組立て  
代理人 特許業務法人深見特許事務所  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ