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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1353481
審判番号 不服2018-11714  
総通号数 237 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-09-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-08-31 
確定日 2019-07-11 
事件の表示 特願2014-168363「研磨方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 4月 4日出願公開、特開2016- 46341〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成26年8月21日の出願であって,その手続の経緯は以下のとおりである。
平成30年 1月23日付け 拒絶理由通知書
平成30年 3月13日 意見書・手続補正書の提出
平成30年 6月15日付け 拒絶査定
平成30年 8月31日 審判請求書の提出

第2 本願発明
本願の請求項に係る発明は,平成30年3月13日にされた手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定されるものであるところ,その請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,その請求項1に記載された事項により特定される,以下のとおりのものである。

「ポリイミドからなる基材フィルムと、ポリイミドからなるバインダと、前記バインダにより保持された砥粒とを有する研磨テープを用いた研磨方法であって、
炭化ケイ素膜が表面に形成されたシリコン基板を回転させ、
前記研磨テープを、前記シリコン基板の周縁部上の前記炭化ケイ素膜に3N?10Nの力で押し付けて、前記シリコン基板の周縁部から前記炭化ケイ素膜を除去することを特徴とする研磨方法。」

第3 原査定の拒絶の理由
原査定(平成30年6月15日付け)の理由は,この出願の請求項1ないし5に係る発明は,本願の出願の日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明並びに引用文献2及び3に記載された事項に基づいて,その出願日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない,というものである。

引用文献1:特開2014-24128号公報
引用文献2:特開2006-147980号公報
引用文献3:特開2011-171647号公報

第4 引用文献
1 引用文献1
(1)原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1には,図面とともに次の記載がある。(下線は当審で付加した。以下同じ。)

「【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
研磨フィルムを用いて研磨を行う研磨技術が広く知られている。かかる研磨フィルムは、基材フィルム(例えば、樹脂フィルム、樹脂繊維を織り込んだ織布、樹脂繊維からなる不織布、紙等)の表面に、研磨層を形成することによって製造される。研磨層は、基材フィルムに塗料を塗工し、乾燥によって塗料を硬化・定着させることによって形成される。塗料には、砥粒とバインダ樹脂(接着材、粘着材)とを混合し、砥粒を分散させたものを使用する。かかる研磨フィルムは、研磨の目的や、被研磨物の形状に合わせて、テープ状、ディスク状、帯状(ベルト状)に加工され、使用される。
【0003】
かかる研磨フィルムの用途は、脆性材料(例えば、ガラス、セラミック等)の平らな広い面積の仕上研磨や、材質の均一なベアシリコンウェハの端部の研磨、ハードディスクの微小溝(テクスチャ)を形成するための研磨などに限定されることがある。製品性能を左右する部品やデバイスの研磨、例えば、半導体基板の表面研磨、エッジ部の鏡面研磨、磁気ヘッドや光学レンズ等の表面仕上研磨等においては、均一かつ平坦な研磨面が要求される一方で、これらの研磨に対して、研磨フィルムの使用が適さない場合があるためである。」

「【0009】
また、従来の研磨フィルムの用途は、比較的柔らかい性状や、平坦な形状を有する被研磨物に限られる。例えば、半導体製造工程における、ウェハ端部の仕上研磨においては、被加工物(ウェハのエッジ部)の形状は鋭角なエッジを有するので、加工範囲が狭く、加工圧力が局所に集中する。このため、研磨フィルムの砥粒や塗工面を剥そうとする力が働く。また、ウェハの材質は、硬度の高い脆性材料(単結晶Si等)に、高硬度の、窒化膜や酸化膜が形成されたものであり、膜厚も不均一である。このため、砥粒(切れ刃)が、加工時の衝突によって欠けたり、脱落したりしやすい。このようなことから、研磨速度を上げると、あるいは、連続的な加工を行うと、砥粒の脱落やバインダ樹脂の剥離が生じ、ウェハ面に傷やスクラッチが生じることとなる。かかるウェハ端部の仕上研磨プロセスでは、エッジの直線性、平面との境界でのスクラッチの防止、エッジの面取り角度や面取り幅等の加工寸法、面粗さ、形状の再現性、安定性が高い精度で要求される。これらの要求は、ウェハ端部の仕上研磨プロセスに限られるものではない。このため、研磨フィルムの品質の向上が求められる。品質が向上すれば、研磨フィルムの用途も拡大できる。
【0010】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、例えば、以下の形態として実現することが可能である。
【0011】
本発明の第1の形態は、研磨フィルムの製造方法として提供される。この製造方法は、基材フィルムを用意し、基材フィルムに、砥粒を含まない第1の塗料であって、バインダ樹脂を含む第1の塗料を塗工し、乾燥させて、第1の層を形成する第1の工程と、第1の層の上に、砥粒とバインダ樹脂とを含む第2の塗料を塗工し、乾燥させて、第2の層を形成する第2の工程と、第1の層および第2の層を加熱によってイミド化する第3の工程とを備える。
【0012】
かかる研磨フィルムの製造方法によれば、第1の層および第2の層のイミド化の過程で、砥粒の突出高さが揃った研磨フィルムを製造できる。かかる方法で製造された研磨フィルムは、研磨ムラやスクラッチの発生を抑制できる。しかも、かかる製造方法によれば、研磨フィルムの表面近くに砥粒が集中するので、研磨を好適に行える。また、砥粒が研磨フィルムの厚み方向に多層に積み重なることがないので、砥粒の量を低減できる。その結果、低コスト化、省資源化に資する。さらに、砥粒を上下からバインダ樹脂で挟み込んだ状態で、第1の層および第2の層がイミド化されるので、砥粒の保持強度が高く、また、第1の層および第2の層の強度も増す。このため、比較的硬い被研磨物を研磨可能になる。あるいは、加工圧力が集中する形状を有する被研磨物も好適に研磨できる。その結果、研磨フィルムの用途が拡大する。あるいは、研磨レートを向上できる。」

「【0015】
本発明の第4の形態として、用意される基材フィルムは、ポリイミドからなるものであってもよい。かかる方法によれば、PETなどを基材フィルムとして使用する従来の研磨フィルムよりも強度が高い研磨フィルムを製造できる。」

「【0017】
本発明の第6の形態として、バインダ樹脂は、ポリイミドを含んでいてもよい。かかる方法によれば、第1の層および第2の層を好適にイミド化できる。」

「【発明を実施するための形態】
【0026】
A.実施例:
A-1.研磨フィルム20の構成:
図1は、本発明の実施例としての研磨フィルム20の断面構成を示す。研磨フィルム20は、基材フィルム30と、第1の層40と、第2の層50とを備えている。第1の層40は、基材フィルム30の一方の面上に形成されている。第2の層50は、第1の層40の上に形成されている。第2の層50は、砥粒60を含んでいる。砥粒60の大部分は、第2の層50の内部に位置している。一部の砥粒60、より具体的には、粒径が相対的に大きい砥粒60の一部分は、第1の層40に沈み込んでいる。砥粒60の表面は、第2の層50に完全に被覆されていてもよいし、一部が第2の層50の表面から露出していてもよい。
【0027】
基材フィルム30は、研磨フィルム20に所要の強度を付与するとともに、研磨フィルム20の取り扱い性を向上させる。本実施例では、基材フィルム30は、ポリイミドからなる。ポリイミドを使用すれば、PETなどを基材フィルムとした従来の研磨フィルムよりも強度を高めることができる。」

「【0030】
第1の層40および第2の層50は、砥粒60を保持する機能を有する。第1の層40は、第2の層50の下地層としても機能する。本実施例では、第1の層40および第2の層50は、ポリイミドからなる。ただし、第1の層40および第2の層50には、イミド化が可能な任意の樹脂材質を用いることができる。例えば、第1の層40および第2の層50には、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミドイミドなど、種々の熱硬化性樹脂を使用してもよい。第1の層40と第2の層50とには、密着性の観点から、同一の樹脂材料を使用することが望ましい。あるいは、同一の樹脂材料を含んでいるものを使用することが望ましい。例えば、第1の層40は、ポリイミドからなり、第2の層50は、ポリイミドおよびフィラーからなってもよい。フィラーは、ポリイミドと砥粒60との親和性を向上させる。フィラーとしては、例えば、シリカ粒子を用いることができる。また、第1の層40に、基材フィルム30と同一の材質を使用することによって、第1の層40と基材フィルム30との密着性を向上できる。」

「【0035】
図1に示すように、研磨フィルム20において、砥粒60の全ては、表層70の厚み(約13μm)方向のうちの、基材フィルム30と反対側の半分、つまり、表面側の半分の範囲に位置する。砥粒60は、表層70の表面付近に保持されている。つまり、複数個の砥粒60が基材フィルム30の厚み方向に積み重なった状態ではない。このため、砥粒60の各々は、その表面の全て、または、ほぼ全てが、表層70の樹脂材料と接触した状態で保持されている。したがって、研磨フィルム20は、砥粒60の保持強度が高く、比較的硬い被研磨物や、加工圧が大きくなる形状を有する被研磨物を研磨可能である。つまり、研磨フィルムの用途が拡大する。あるいは、研磨レートを向上できる。例えば、研磨フィルム20は、ウェハのベベル部やノッチ部の研磨にも好適に使用できる。しかも、表層70は、主にポリイミドで形成されるので、ポリエステルなどを用いた場合と比べて、砥粒60の保持強度がいっそう向上する。」

「【0037】
また、研磨フィルム20は、強度の高いポリイミドを基材フィルム30の材質として使用しているので、基材自体の引張り強度や破断強度が高い。このため、研磨フィルム20は、汎用的に使用されてきたPET、PEN、PP、PEを基材とする場合と比べて、加工中に研磨テープが伸びる、あるいは、プロセスが安定しない、といった問題が生じることを抑制できる。かかる問題は、研磨フィルムの幅が小さいとき、例えば、10mm以下の場合に生じやすい。」

「【0039】
基材フィルム30には、本実施例では、ポリイミドの一種としてのポミランN38(荒川化学製)を使用する。基材フィルム30には、予め完全にイミド化されたフィルムを使用することが望ましい。こうすれば、強度が高い基材フィルム30を扱うことになるので、基材フィルム30の取り扱い性が向上する。完全にイミド化されていることは、基材フィルム30を再度、イミド化して、その前後の重量を比較することによって行うことができる。例えば、基材フィルム30から、サンプルとして5cm^(2)の領域を切り出し、加熱温度300℃、加熱時間1時間の条件でイミド化する。その結果、重量変化およびイミド化の過程で生成される副生水の量から算出したイミド化率が70%以上のサンプルは、完全にイミド化しているといえる。
【0040】
第1の塗料80は、溶剤と、バインダ樹脂とを含む。このバインダ樹脂の樹脂固形分は、最終的に第1の層40の成分となる。バインダ樹脂は、そのままでは高粘度であるが、溶剤を添加することによって、第1の塗料80は、塗布に適した粘度に調整される。本実施例では、バインダ樹脂として、ポリイミド・シリカハイブリットワニスHBI-58(荒川化学製)を使用する。溶剤には、例えば、アルキルアミド溶媒を使用することができる。アルキルアミド溶媒は、極性が高いので、有機物、無機物を問わず、溶質を好適に分散できる。本実施例では、アルキルアミド溶媒として、DMAc(ジメチルアセトアミド)を使用する。ただし、DMF(ジメチルホルムアミド)などを用いてもよい。」

「【0047】
第2の塗料90は、溶剤と、砥粒60と、バインダ樹脂とを含む。このバインダ樹脂の樹脂固形分は、最終的に第2の層50の成分となる。本実施例では、第2の塗料90に使用するバインダ樹脂は、第1の塗料80に使用するバインダ樹脂と同一種類である。本実施例では、溶剤およびバインダ樹脂として、第1の塗料80と同じものを用いる。また、第2の塗料90は、第1の塗料80と同様に、粘度を調整され、また、撹拌し、真空容器内で脱泡および脱気して、作製される。本実施例では、第2の塗料90の砥粒60の割合は、第2の塗料90の樹脂固形分に対して15wt%である。また、第2の塗料90に占めるバインダ樹脂の樹脂固形分の割合は、18wt%である。」

「【0065】
図10は、図8に示したサンプルについての研磨試験の結果を示す。この研磨試験では、直径200mmのシリコンウェハの外周(端面)部を研磨し、研磨レート(直径変化量)と、表面粗さ指標値とを測定した。研磨試験は、以下のようにして行った。まず、研磨装置にウェハを水平に配置し、回転するテーブルに吸着・保持させる。次に、研磨フィルムを鉛直方向に微小送りさせながら、研磨フィルムをその後方からゴムパッドで押圧し、ウェハの端部に対して垂直に研磨フィルムを一定時間、押付けて、研磨する。そして、加工(研磨)前後のウェハ直径の変化と、加工時間とから研磨レートを求めた。
【0066】
かかる研磨試験の研磨条件は、以下のとおりである。
(1)研磨荷重(ゴムパッドの押付圧):12N
(2)ウェハ回転数:500rpm
(3)研磨時間:150秒
(4)シート送り速度:1mm/min、5mm/min、15mm/min」

【図1】

(2) 上記記載から,引用文献1には以下の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されている。

「シリコンウェハの端部の研磨をする際に,
ポミランN38(荒川化学製)を使用し形成したポリイミドからなる基材フィルム30と,
砥粒60を保持する機能を有する,バインダ樹脂として、ポリイミド・シリカハイブリットワニスHBI-58(荒川化学製)を使用し形成した第1の層40と,第1の層40と同じバインダ樹脂と砥粒を使用し形成した第2の層50を有し,
砥粒60の保持強度が高く、比較的硬い被研磨物や、加工圧が大きくなる形状を有する被研磨物を研磨可能な,研磨フィルム20であって,
前記研磨フィルム20を使用し,直径200mmのシリコンウェハの外周(端面)部を研磨する際に,
(1)研磨荷重(ゴムパッドの押付圧):12N
(2)ウェハ回転数:500rpm
とする,研磨方法。」

2 引用文献2
(1)原査定の拒絶の理由で引用された引用文献2には,図面とともに次の記載がある。

「【技術分野】
【0001】
本発明は研磨方法に関するものであり、特に、CMP(化学機械研磨)法を用いてウェハのベベル加工する際に、オーバーポリッシュを防ぐとともに精度良く研磨量を制御するための研磨終点検出方法に特徴のある研磨方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の製造工程においては、半導体ウェハ上に、層間絶縁膜や配線やビアを形成するための導電膜を多層に形成しているが、この堆積工程において、半導体ウェハの端部の所謂ベベル(Bevel)部にも層間絶縁膜や導電膜のダレが形成される。
【0003】
このダレはその上に形成する膜の密着性を低減して剥離の原因になったり、或いは、ウェハ周辺部においてダレが厚膜になった場合には応力によりクラックが入りやすくなり、クラックにより塵埃が発生したりすることになる。
【0004】
この様な剥離や塵埃が発生した場合、この剥離物や塵埃が半導体ウェハの配線構造等に付着すると設計通りの性能を発揮することが困難になるため、従来においては、半導体ウェハのベベル部を研磨して半導体ウェハのベベル部に堆積したダレを除去していた(例えば、特許文献1乃至特許文献3参照)。」

「【実施例1】
【0026】
ここで、図5乃至図9を参照して、本発明の実施例1のウェハ端面研磨方法を説明する。
図5参照
図5は、本発明の実施例1のウェハ端面研磨方法を示す概念的構成図であり、半導体基板21を載置固定する基板ホルダ23、基板ホルダ23を回転させるスピンドルモータ24、半導体基板21のベベル部22を研磨するための研磨パッド26を周囲に固定した円筒状の研磨ドラム25、研磨したベベル部22における水滴の状態を検出するCCDカメラ27、CCDカメラ27による撮像画像を画像処理するとともに、その結果により研磨ドラム25による研磨を制御する画像認識コントローラ28によって構成される。
・・・ 中 略 ・・・
【0028】
図7参照
図7は、研磨前の半導体基板の概略的断面図であり、ここでは、シリコン基板31上に低誘電率のSiC膜32、SiOC膜33、及び、TEOS(Tetra-Ethyl-Ortho-Silicate)膜34を順次積層した構造とする。
・・・ 中 略 ・・・
【0030】
次に、研磨ドラム25を半導体基板21のベベル部22に押しつけて2000rpm(回転/分)の回転速度で回転させた状態で、半導体基板21をスピンドルモータ24により2rpmの回転速度で回転させ、研磨パッド26の当接部近傍にスラリーを供給しながら研磨を行う。
・・・ 中 略 ・・・
【0034】
図9参照
図9は、研磨後の半導体基板の概略的断面図であり、ベベル部22においてシリコン基板31が露出し、シリコン基板31の表面に付着した液滴36は、シリコンの撥水性によりサブミリオーダの小さな液滴となっている。」

「【0049】
また、研磨手段は研磨ドラムに限られるものではなく、上記特許文献3に記載されたような研磨用エンドレスベルトを用いても良いものである。」

【図9】

(2) 上記記載から,以下のことが言える。
ア 上記記載では,シリコン基板31上に低誘電率のSiC膜32、SiOC膜33、及び、TEOS膜34を順次積層した構造の半導体基板21のベベル部22のシリコン基板31を研磨することにより露出させているから,このことは,半導体基板21の端部の,シリコン基板31の表面に積層したSiC膜32を研磨し除去していると認められる。

そうすると,引用文献2には以下の事項(以下,「引用文献2記載事項」という。)が記載されていると認められる。

「半導体基板の端部の,シリコン基板の表面に積層したSiC膜を研磨し除去すること。」

3 引用文献3
(1)原査定の拒絶の理由で引用された引用文献3には,図面とともに次の記載がある。

「【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置の製造方法に関し、特に、2枚のシリコン基板(半導体素子が形成された基板(デバイス基板)と支持基板)を熱処理等で貼合せる、いわゆる貼合せ法を用いて、SOI(Silicon On Insulator)基板を製造するのに使用される半導体装置の製造方法に関する。」

「【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、研磨テープを用いてデバイス基板外周部の堆積物除去及びシリコン研削を行うことで、例えばダイヤモンドディスクを使用して研磨する時に比べて、被研磨部が研磨テープにソフトに当たるようにして、デバイス基板に欠けや欠陥等が生じることを防止することができる。しかも、ウェット環境での研磨処理を可能となし、これによって、デバイス配線を覆う堆積膜表面を水でカバーして研磨を行うことで、堆積膜表面に汚れが付着することを防止することができる。更に、ダイヤモンドディスクを使用した研磨では同じディスクを長時間使用するため、ダイヤモンド粒子が脱落したり目潰れしたりするが、研磨テープを使用した研磨は、研磨中も研磨テープを徐々に送っているため研磨速度は一定であり、ダイヤモンド粒子の脱落や目潰れ等は考慮してなくて良くなる。」

「【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
先ず、図1(a)に示すように、シリコン(ベアシリコン)10の表面に、例えば配線膜等の堆積膜12を堆積させたデバイス基板(シリコン基板)14を用意する。この例では、堆積膜(配線膜)12は、シリコン層16と、該シリコン層16の表面に形成したデバイス配線18を覆う酸化膜20と、シリコン層16と酸化膜20の間に形成したチッ化膜(SiN膜)19を有している。
【0027】
次に、図1(b)に示すように、デバイス基板14の外周部に位置する堆積膜12を幅Lに亘って除去して、デバイス基板14の外周部のシリコン10を露出させる。この幅Lは、例えば、0.3?80mmである。この堆積膜12の除去を、例えば図2に示す研磨装置30を用いて行う。この研磨装置30は、表面(デバイス形成面)を上向きにデバイス基板14を保持して回転させる基板保持部(図示せず)と、この基板保持部の上方に配置される研磨ヘッド32とを有しており、この研磨ヘッド32には、研磨テープ34を一方向に走行させる一対のロール36と、このロール36の間を走行する研磨テープ34の背面側に位置して、研磨テープ34をデバイス基板14に向けて押圧する押圧パッド38が備えられている。この押圧パッド38は、押圧シリンダ40のピストンロッド42の下端に連結されている。
【0028】
この研磨装置30を用いて、デバイス基板14の外周部に位置する堆積膜12を除去する時には、表面(デバイス形成面)を上向きにしてデバイス基板14を基板保持部で保持して回転させながら、研磨を開始したい位置に研磨ヘッド32を移動させる。そして、研磨テープ34を一定の速度で走行させながら、押圧パッド38を下降させ、設定した一定圧力で押圧パッド38を介して研磨テープ34をデバイス基板14に押圧し、研磨ヘッド32をデバイス基板14の端部まで移動させる。これにより、研磨距離を任意に変更することができる。そして、デバイス基板14の外周部に位置する堆積膜12を完全に除去した時、この研磨作業を終了する。この研磨時に、純水等でデバイス基板14をウェットな環境にすることで、デバイス基板14の表面(デバイス形成面)をゴミから保護することができる。
・・・ 中 略 ・・・
【0033】
この研磨時における研磨テープ34の走行速度は、例えば1?50mm/minで、デバイス基板14に対する研磨テープ34の押圧荷重は、例えば5?20Nである。また、デバイス基板14の回転速度は、100?400rpmで、研磨テープ34として、砥粒#2000以下(粒子径:9μm以上)のダイヤモンド粒子を固着したダイヤモンド粒子テープ(砥粒#2000以下のダイヤモンド粒子テープ)44が使用される。」

(2) 上記記載から,引用文献3には以下の事項(以下,「引用文献2記載事項」という。)が記載されている。

「研磨テープを用いてデバイス基板外周部の堆積物除去する際に,
被研磨部が研磨テープにソフトに当たる(押圧荷重、5?20N)ようにして、デバイス基板に欠けや欠陥等が生じることを防止すること。」

第5 対比
1 本願発明と引用発明を対比する。
(1) 引用発明の「ポミランN38(荒川化学製)を使用し形成したポリイミドからなる基材フィルム30」は,本願発明の「ポリイミドからなる基材フィルム」に相当する。

(2) 本願明細書段落【0033】に「本実施形態では、バインダとして、ポリイミド・シリカハイブリットワニスHBI-58(荒川化学製)を使用する。」と記載するとともに,段落【0040】に「本実施形態では、第2の塗料192に使用するバインダは、第1の塗料191に使用するバインダと同一種類である。」と記載されており,又,バインダとして他の実施の形態は記載されていないことから,本願明細書に記載された発明は,「バインダ」として「ポリイミド・シリカハイブリットワニスHBI-58(荒川化学製)」を使用している。
それに対して,引用発明の「バインダ」は,「ポリイミド・シリカハイブリットワニスHBI-58(荒川化学製)」を使用しているから,引用発明の「バインダ」は,本願発明と同様の「ポリイミドからなるバインダ」であると認められる。

(3) 引用発明は「砥粒60を保持する機能を有する,バインダ樹脂として、ポリイミド・シリカハイブリットワニスHBI-58(荒川化学製)を使用し形成した第1の層40と,第1の層40と同じバインダ樹脂と砥粒を使用し形成した第2の層50を有し」ており,このことから,引用発明は,本願発明の「前記バインダにより保持された砥粒とを有する」と同様の「砥粒」を有していると認められる。

(4) 上記(1)ないし(3)から,引用発明の「研磨フィルム20」は,本願発明の「ポリイミドからなる基材フィルムと、ポリイミドからなるバインダと、前記バインダにより保持された砥粒とを有する研磨テープ」に相当する。

(5) そして,引用発明の「前記研磨フィルム20を使用し,直径200mmのシリコンウェハの外周(端面)部を研磨する」ことは,本願発明の「ポリイミドからなる基材フィルムと、ポリイミドからなるバインダと、前記バインダにより保持された砥粒とを有する研磨テープを用いた研磨方法」に相当する。

(6) 引用発明は「直径200mmのシリコンウェハ」を対象とし,「(2)ウェハ回転数:500rpm」としているから,シリコンウェハを回転させており,このことと,本願発明の「炭化ケイ素膜が表面に形成されたシリコン基板を回転させ」ることは,シリコン基板を回転させる点で共通する。

(7) 引用発明は「前記研磨フィルム20を使用し,直径200mmのシリコンウェハの外周(端面)部を研磨」しており,又「(1)研磨荷重(ゴムパッドの押付圧):12N」であるから,このことと,本願発明の「前記研磨テープを、前記シリコン基板の周縁部上の前記炭化ケイ素膜に3N?10Nの力で押し付けて、前記シリコン基板の周縁部から前記炭化ケイ素膜を除去すること」は,前記研磨テープを、前記シリコン基板の周縁部上に押し付けて、前記シリコン基板の周縁部を除去する点で共通する。

(8) そうすると,本願発明と引用発明は以下の点で一致し,又相違する。

[一致点]
「ポリイミドからなる基材フィルムと、ポリイミドからなるバインダと、前記バインダにより保持された砥粒とを有する研磨テープを用いた研磨方法であって、
シリコン基板を回転させ、
前記研磨テープを、前記シリコン基板の周縁部上に押し付けて、前記シリコン基板の周縁部を除去することを特徴とする研磨方法。」

[相違点1]
本願発明は「炭化ケイ素膜が表面に形成されたシリコン基板」を対象としているのに対して,引用発明の「シリコンウェハ」は「炭化ケイ素膜」が表面に形成されていない点。

[相違点2]
本願発明は「前記研磨テープを、前記シリコン基板の周縁部上の前記炭化ケイ素膜に3N?10Nの力で押し付けて」いるのに対して,引用発明は「シリコンウェハ」の表面に「炭化ケイ素膜」が形成されていないために,「研磨フィルム20」を「炭化ケイ素膜」に押しつけておらず,又押しつける力が12Nである点。

[相違点3]
「前記シリコン基板の周縁部を除去する点」について,本願発明は「前記シリコン基板の周縁部から前記炭化ケイ素膜を除去する」のに対して,引用発明はそのようになっていない点。

第6 判断
以下,各相違点について検討する。
1 [相違点1]及び[相違点3]について
引用文献1の「半導体製造工程における、ウェハ端部の仕上研磨においては、・・・ 中 略 ・・・ウェハの材質は、硬度の高い脆性材料(単結晶Si等)に、高硬度の、窒化膜や酸化膜が形成されたものであり、膜厚も不均一である。このため、砥粒(切れ刃)が、加工時の衝突によって欠けたり、脱落したりしやすい。・・・ 中 略 ・・・このため、研磨フィルムの品質の向上が求められる。品質が向上すれば、研磨フィルムの用途も拡大できる。」(段落【0009】),「本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、例えば、以下の形態として実現することが可能である。」(段落【0010】)との記載に即して,引用発明は,ウェハ端部の仕上げ研磨において,単結晶Si等の材料からなるウェハの表面に高硬度の膜が形成されたものを研磨する方法に適用することが,予め想定されているものと認められる。
そして,「炭化ケイ素膜」は,シリコン基板の表面に形成される高硬度の膜として周知なものであり,引用文献2記載事項にあるように,半導体基板の端部の,シリコン基板の表面に積層したSiC膜を研磨し除去することは公知の技術といえるから,引用発明の「砥粒60の保持強度が高く、比較的硬い被研磨物や、加工圧が大きくなる形状を有する被研磨物を研磨可能な,研磨フィルム20」を使用する研磨方法において,引用発明の「シリコンウェハ」に代えて,「炭化ケイ素膜が表面に形成されたシリコン基板」を被研磨物とし,「シリコン基板の周縁部から前記炭化ケイ素膜を除去」すること,すなわち,引用発明において,上記[相違点1]及び[相違点3]について本願発明の構成を採用することは,当業者が容易に為し得ることである。

2 [相違点2]について
引用文献3記載事項にあるように,研磨テープを用いてデバイス基板外周部の堆積物を除去する際に,デバイス基板に欠けや欠陥等が生じることを防止するために,被研磨部が研磨テープにソフトに当たるように配慮することは,普通に行われていることである。
そして,研磨荷重を小さくする方がよりシリコンウェハの欠けや欠陥等が生じることを防止できること,又,研磨テープへのダメージも少なくなることは,当業者に取って明らかであるから,引用文献3に記載される押圧荷重5?20Nの範囲の中において,より小さな値を選択して,10N以下とすることは,被研磨対象であるシリコン基板の厚さ等の種々の条件によって適宜決定すべき,設計事項といえる。
したがって,上記[相違点2]について,本願発明の構成を採用することに,格別の困難性は認められない。
また,本願明細書には,[相違点2]に係る押しつけについて,
「【0011】
本発明によれば、機械的強度が高い研磨テープが使用され、さらに低い力(例えば、3N?10Nの範囲内の力)で研磨テープがウェーハの周縁部に押し付けられる。したがって、ウェーハの周縁部に形成されたSiC膜や固化した接着剤などの硬質膜によって研磨テープが損傷を受けることなく、この硬質膜を研磨テープで除去することができる。」
及び,
「【0020】
ウェーハWの研磨中における研磨テープ180のウェーハWの周縁部に対する力は、3N?10Nであることが好ましい。このような低荷重でウェーハWを研磨することにより、ウェーハWに対するストレスが低くなり、また研磨テープ180へのダメージも少なくなる。結果として、研磨テープ180の寿命を伸ばすことができ、研磨テープ180の使用量を減らすことができる。」
としか記載されておらず,ウェーハWの研磨中における研磨テープ180のウェーハWの周縁部に対する力を3N?10Nの力とすることの臨界的意味は記載されていないから,引用文献3記載事項の
「研磨テープを用いてデバイス基板外周部の堆積物除去する際に,
被研磨部が研磨テープにソフトに当たる(押圧荷重、5?20N)ようにして、デバイス基板に欠けや欠陥等が生じることを防止すること。」
における,被研磨部が研磨テープにソフトに当たる(押圧荷重、5?20N)こととの格別な違いが認められない。
そうすると,上記のとおり,引用発明の研磨荷重を[相違点2]に係る値とすることに格別の困難性は認められない。

3 効果について
そして,これらの相違点を総合的に勘案しても,本願発明の奏する作用効果は,引用発明及び引用文献2及び3に記載された技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができないものである。

第7 むすび
以上のとおり,本願発明は,引用文献1に記載された発明及び引用文献2及び3に記載された事項に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-05-08 
結審通知日 2019-05-14 
審決日 2019-05-27 
出願番号 特願2014-168363(P2014-168363)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中田 剛史  
特許庁審判長 加藤 浩一
特許庁審判官 小田 浩
鈴木 和樹
発明の名称 研磨方法  
代理人 廣澤 哲也  
代理人 渡邉 勇  

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