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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B60K
管理番号 1353495
審判番号 不服2018-2206  
総通号数 237 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-09-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-02-16 
確定日 2019-07-09 
事件の表示 特願2016-532040「室内ディスプレイシステム及び室内ディスプレイ方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年5月21日国際公開、WO2015/073950、平成28年12月28日国内公表、特表2016-540680〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2014年(平成26年)11月17日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2013年11月18日(US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、その手続は以下のとおりである。
平成29年4月17日(発送日) :拒絶理由通知書
平成29年7月14日 :意見書、手続補正書の提出
平成29年10月16日(発送日):拒絶査定
平成30年2月16日 :審判請求書の提出
平成30年9月10日(発送日) :拒絶理由通知書(以下、「当審拒絶理由」という。)
平成30年12月10日 :意見書の提出

第2 本願発明
本願の請求項1ないし18に係る発明は、平成29年7月14日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし18に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

「車両用室内ディスプレイ装置において、
投影装置とコントローラとが設けられており、
前記コントローラは、
・複数の車両パラメータを受信し、
・該複数の車両パラメータに基づき、車両室内の予想ロケーションを決定し、該予想ロケーションは、運転者が見ると予想される車両室内エリアに該当し、
・前記複数の車両パラメータに基づき画像を選択し、
・前記投影装置を操作して、前記予想ロケーションに前記画像を投影させる、
ように構成されており、
前記コントローラはさらに、
・前記車両の運転者から信号を受信し、
・該信号の受信に応答して、前記投影装置を操作して、前記予想ロケーションにおける画像表示を停止する、
ように構成されている、
車両用室内ディスプレイ装置。」

第3 当審における拒絶の理由
当審が通知した拒絶理由のうち、理由2は次のとおりのものである。

(進歩性)本願の請求項1ないし18に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

1 特開2012-192791号公報
2 特開2000-71877号公報
3 特開2007-104538号公報(周知技術を示す文献)
4 特開2011-93454号公報(周知技術を示す文献)
5 特開2003-341383号公報

第4 引用文献の記載事項
1 引用文献1
平成30年9月5日付け(発送日:平成30年9月10日)の当審拒絶理由に引用された、本願の優先日前に頒布された引用文献1(特開2012-192791号公報)には、「車載表示装置」に関して、図面(特に図1ないし図7を参照。)とともに以下の事項が記載されている(下線は、理解の一助のために当審が付与したものである。以下同様。)。

ア 「【0005】
本発明は、上述したような事情に鑑みてなされたものであり、小型で簡素な機構により、プロジェクタによる画像の投影箇所を広い範囲に変更することができる車載表示装置を提供することを目的とする。」

イ 「【0012】
本発明によれば、プロジェクタの姿勢を変更するための小型で簡素な姿勢変更機構を駆動制御することにより、プロジェクタによる画像の投影箇所を広い範囲に変更することができる車載表示装置が提供される。」

ウ 「【0014】
以下、本発明に係る車載表示装置の実施の形態について図面に基づいて詳述する。
(実施の形態1)
図1は本発明に係る車載表示装置を搭載した自動車を模式的に示す側面図、図2は本発明に係る車載表示装置の実施の形態1を示す自動車の天井部分の側面図、図3は本発明に係る車載表示装置に備えるプロジェクタの光学系の概要を示す図、図4はプロジェクタからの投影箇所を示すフロントガラスの図、図5はプロジェクタからの投影箇所を示すリアガラスの図である。尚、この実施の形態では、電気自動車又はプラグインハイブリッド自動車を例に説明する。
【0015】
車体1は、前側の左右側部に夫々後方を撮像するサイドカメラ2を備えている。車内の左右及び前後の略中央位置の天井3に、姿勢変更機構4を介してプロジェクタ5が吊り下げ支持されている。車内の後部側には後方を撮像するサイドカメラ8を備えている。サイドカメラ2,8はカラーのビデオカメラである。車体1の後部側面には、外部から車体に備えた二次電池に給電するための給電口9が設けてある。
【0016】
姿勢変更機構4は天井3に取り付けた受部4Cと、該受部4Cの下方に伸びる円柱状の部分に縦軸心Y回りに回転自在に保持される直方体状の回転部4Aと、回転部4Aに対して横軸心X回りに回転して傾斜自在な傾斜部4Bとを有している。傾斜部4Bは左右の側板4B2及び底板4B1を有し、正面視で略コの字状をなしている。回転部4Aは首振モータ18を内蔵し、傾斜部4Bは傾斜モータ19を内蔵している。図2に二点鎖線で傾斜部4Bが傾斜した状態を示す。
【0017】
傾斜部4Bの底板4B1に貫通孔4B1aを開けている。プロジェクタ5は上面部にネジ穴5aを有している。底板4B1の貫通孔4B1aに上側から通した止めネジ7をプロジェクタ5の上部のネジ穴5aにネジ止めすることにより、プロジェクタ5が傾斜部4Bの下側に固定される。止めネジ7を緩めると、プロジェクタ5が傾斜部4Bから外れるのでプロジェクタ5を車外に持ち出してプロジェクタ単体として使用できる。
【0018】
プロジェクタ5は、赤色のビーム光を発する半導体レーザ10aと、緑色のビーム光を発する半導体レーザ10bと、青色のビーム光を発する半導体レーザ10cを備えている。各半導体レーザ10a,10b,10cからのビーム光はハーフミラー11a,11bによって同軸に軸合わせされた後、走査用ミラー12によって2次元に走査するように角度が変更され、外部に投射される。
【0019】
フロントガラス13には、運転席の前方下部に横長の半透明のスクリーン13aが張り付けてあり、左右両端部に縦長の半透明のスクリーン13b、13cが張り付けてある。また、リアガラス14には、前記給電口9に近い側の端部に縦長の半透明のスクリーン14aが張り付けてあり、上部の左右中央に横長の半透明のスクリーン14bが張り付けてある。
【0020】
次に、本発明に係る車載表示装置の制御構成について説明する。図6は本発明に係る車載表示装置の制御構成のブロック図である。
【0021】
演算部、記憶部、入出力部等を備えたマイクロコンピュータが内蔵された制御部15が設けられている。制御部15に、サイドカメラ2,8の撮像信号と、給電口9の蓋の開閉を検出する給電口センサ9aの検出信号が入力されている。また、左右のウインカランプの点灯信号を検出するウインカスイッチ16の検出信号、及び、シフトレバーがバック(後進)に操作されたことを検出するバックスイッチ17の検出信号が制御部15に入力されている。尚、図示はしないが、制御部15には、走行速度、エンジン回転数、シフトレバー位置等の各種検出情報が入力され、記憶部に記憶されている。
【0022】
制御部15から、各半導体レーザ10a,10b,10cを駆動する駆動信号と、走査用ミラー12を駆動するミラー駆動部12aに対する制御信号と、姿勢変更機構4の回転部4Aに設けてある首振モータ18に対する回転駆動信号と、姿勢変更機構4の傾斜部4Bに設けてある傾斜モータ19に対する傾斜駆動信号とが出力されている。
【0023】
次に、制御部15の制御作動及びプロジェクタ5による投影画像について説明する。
前進走行時は、制御部15は首振モータ18を駆動してプロジェクタ5の向きを進行方向に対して右向きにし、傾斜モータ19を駆動してプロジェクタ5の向きを下向きにして、フロントガラス13の下部のスクリーン13aに運転者が確認できるアシスト情報を表示する。前進走行時のアシスト情報として、例えば、走行速度、エンジン回転数、シフトレバー位置等の情報を表示する。この場合、3つの半導体レーザ10a,10b,10cによる色を使い分けて、各情報を単色(赤色、青色又は緑色)の画像で表示する。
【0024】
左折時には、左折を示すウインカスイッチ16の検出信号に基づいて、制御部15は首振モータ18を駆動してプロジェクタ5の向きを進行方向に対して左向きにし、フロントガラス13の左側端部スクリーン13bに左側を向いた運転者が確認し易いアシスト情報を表示する。左折時のアシスト情報として、左側のサイドミラー(ドアミラー)では見えない車体左側の状況(死角)を撮像したサイドカメラ2の撮像画像を表示する。この場合、3つの半導体レーザ10a,10b,10cを駆動し、カラーの画像を表示する。
【0025】
同様に、右折時には、右折を示すウインカスイッチ16の検出信号に基づいて、制御部15は首振モータ18を駆動してプロジェクタ5の向きを進行方向に対して右向きにし、フロントガラス13の右側端部スクリーン13cに右側を向いた運転者が確認し易いアシスト情報を表示する。右折時のアシスト情報として、右側のサイドミラー(ドアミラー)では見えない車体右側の状況を撮像した車体右側のサイドカメラ2の撮像画像を表示する。この場合、3つの半導体レーザ10a,10b,10cを駆動し、カラーの画像を表示する。
【0026】
バック運転時は、シフトレバーのバックへの切り替えを示すバックスイッチ17の検出信号に基づいて、制御部15は首振モータ18を駆動してプロジェクタ5の向きを進行方向に対して後方向きにし、運転者から見えにくい車体後方の状況(死角)を撮像する車体後側のカメラ8の撮像画像をリアガラス14の上部のスクリーン14bに後側を向いた運転者が確認し易いアシスト情報として表示する。この場合、3つの半導体レーザ10a,10b,10cを駆動し、カラーの画像を表示する。
【0027】
給電時は、給電口センサ9aの検出信号の検出信号に基づいて、制御部15は首振モータ18を駆動してプロジェクタ5の向きを進行方向に対して左後方向きにし、リアガラス14のスクリーン14aに、給電時のアシスト情報を表示する。図7は表示画像の一例を示す図であり、車外から見たものである。給電時のアシスト情報として、電池残量、充電終了時刻、充電料金(課金情報)等が表示される。この場合、3つの半導体レーザ10a,10b,10cによる色を使い分けて、各情報を単色(赤色、青色又は緑色)の画像で表示する。また、リアガラス14のスクリーン14aに表示される画像は、車内側から確認する場合の画像と異なり、左右を反転した画像であるため、車外側から容易に確認することができる。尚、図示はしないが、制御部15には、時計が内蔵され、充電料金を計算するための課金表が記憶され、また、電池残量、充電速度等の各種検出情報が入力され、記憶部に記憶されている。」

以上から、上記引用文献1には次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

「車載表示装置において、
プロジェクタ5と制御部15とが設けられており、
前記制御部15は、
ウインカスイッチ16及びバックスイッチ17の検出信号が入力され、
該ウインカスイッチ16及びバックスイッチ17の検出信号に基づき、フロントガラス13の左側端部スクリーン13b、右側端部スクリーン13c又はリアガラス14の上部のスクリーン14bを選択し、
前記ウインカスイッチ16及びバックスイッチ17の検出信号に基づき、サイドカメラ2又は車体後側のカメラ8の画像を選択し、
前記プロジェクタ5の向きを変更して、前記フロントガラス13の左側端部クリーン13b、右側端部スクリーン13c又はリアガラス14の上部のスクリーン14bに投影させる、
車載表示装置。」

2 引用文献2
平成30年9月5日付け(発送日:平成30年9月10日)の当審拒絶理由に引用された、本願の優先日前に頒布された引用文献2(特開2000-71877号公報)には、「車両用表示装置」に関して、図面(特に、図8ないし図11、図14及び図15を参照。)とともに次の事項が記載されている。

ア 「【0007】本発明は、このような従来の問題点に鑑みてなされたもので、自車両の実際の死角領域の位置との対応が付けやすい場所にその死角領域の画像を表示してドライバに呈示することができ、しかも通常の運転状態でドライバの視界を妨げることがない車両用表示装置を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】請求項1の発明の車両用表示装置は、車両の死角範囲の情景を撮像する撮像手段と、前記撮像手段によって撮像された前記死角範囲の画像を投影する投影手段と、前記投影手段によって投影される画像を表示するため、拡散板の像を記録したホログラムコンバイナとを備え、ドライバから見て、前記車両に設置された視認装置によって反映される視野と前記撮像手段が撮像する死角範囲との位置関係と同様な位置関係で当該視認装置の反映像と前記死角範囲の画像とが見えるように、前記ホログラムコンバイナの設置場所を車両のフロントガラス、サイドガラス又はリアガラスの適宜の位置に設定したものである。」

イ 「【0033】そして図8のブロック図に示したように、第2の実施の形態の場合には、特に運転状況がドライバ501にとってフェンダーミラー211又は212を見る確率が高い状況であることを感知するセンサ、例えば、ウィンカーレバーの信号が入力されたことを感知するセンサ122が設けられ、制御装置120に接続されている。制御装置120はこのセンサ122が右折を感知した時には右側の投影装置131に動作指令を与え、逆に左折を感知したときには左側の投影装置132に動作指令を与える制御を行う機能を備えている。
【0034】図10、図11に示すように、ホログラムコンバイナ401,402それぞれは、ドライバ501が左右のフェンダーミラー211,212それぞれを注視する視線がフロントガラスと交わる位置の近傍において、それぞれのフェンダーミラー211,212の外側の位置に設置されている。また投影装置131,132それぞれも、これらのホログラムコンバイナ401,402に対して投影できる場所で、ドライバ501の視界を妨げない位置に設置されている。またホログラムコンバイナ401,402の作成方法は第1の実施の形態で説明したものと同じである。
【0035】第2の実施の形態の車両用表示装置では、ドライバ501がウィンカーレバーを右に操作して右折しようとする場合、センサ122が感知して制御装置120に伝え、制御装置120は右側の投影装置131に対して作動指令を与え、右側のCCDカメラ101の撮像した画像を与える。右側の投影装置131はこれを受けて、右側のホログラムコンバイナ401に投影し、ホログラムコンバイナ401からドライバ501へ向けて反射される。したがって、ドライバ501は、右側のフェンダーミラー211によって反映されているミラー反映範囲211Aの情景を確認することができ、さらにその右外側に隣接するように投影されるカメラ範囲(死角範囲)101Aの画像により死角範囲の情景を確認することができる。
【0036】同様に、ウィンカーレバーが左側に操作された場合には、上記とは左右逆の動きにより、ドライバ501は左側のフェンダーミラー212によって反映されているミラー反映範囲212Aの情景を確認することができ、さらにその左外側に隣接するように投影されるカメラ範囲(死角範囲)102Aの画像により左側の死角範囲の情景を確認することができる。
【0037】これにより、第2の実施の形態でも第1の実施の形態と同様の作用効果に加えて、ドライバ501にとって死角領域の確認が本当に必要な場合に限ってそのサイドのフェンダーミラーには反映されない死角領域の情景をフェンダーミラーの外側に広がるようにして見せることができる。
【0038】尚、センサ122は第1の実施の形態においても採用することができ、それによって、ドライバが特に注視する曲がる方向のドアミラーに隣接するようにして死角範囲の情景を表示することができることになる。
【0039】また逆に、この第2の実施の形態においても、センサ122に代えて、あるいはこれと共に第1の実施の形態と同様のスイッチ121を設置する構成としてもよい。」

ウ 「【0042】尚、この第3の実施の形態にあっても、第2の実施の形態と同様にセンサ122を備えた図8の機器構成とすることもできる。そしてこの場合には、特に、センサ122はドライバ501がバックポジションにシフトレバーを入れたことを感知して制御装置120に感知信号を入力し、制御装置120はこの信号を受けると両方の投影装置131,132に投影動作を行わせる構成にする。
【0043】これによって、ドライバ501にとって車両後方の情景を詳しく確認する必要がある運転状況になった場合に限って後方の情景を広角に表示することができるようになり、それ以外ではホログラムコンバイナ401,402に画像が投影されず、不要な場合でも後方の情景が広く表示される煩わしさを軽減することができる。
【0044】次に、本発明の第4の実施の形態の車両用表示装置を図14及び図15に基づいて説明する。第4の実施の形態の車両用表示装置は、リアアンダーミラー311の視野の死角領域をカバーするために、ホログラフィ技術を応用したことを特徴とする。すなわち、車両の後部に取り付けられているリアアンダーミラー311が反映することができるミラー範囲311Aに対して、CCDカメラ111がその死角になる領域をカメラ範囲111Aとして撮像する設定にしている。そして、車両100内のリアガラス505の上部のドライバから見てリアアンダーミラー311が見える領域の周囲にホログラムコンバイナ411を設置し、このホログラムコンバイナ411に記録されている拡散板をスクリーンにして、投影装置131がCCDカメラ111の撮像した画像を投影する構成である。
【0045】尚、CCDカメラ111が撮像する領域はリアアンダーミラー311が反映する領域311Aを含んでいるが、ホログラムコンバイナ411をこのリアアンダーミラー311の部分を除外する形状に設定することにより、リアアンダーミラー311の反映している領域311Aについては投影せず、その周囲の領域111Aのみを投影する設定にしている。
【0046】これによって、第4の実施の形態では、ドライバからリアガラス505を通してリアアンダーミラー311を見るときには死角になる領域111Aの画像がホログラムコンバイナ411によってリアアンダーミラー311の周囲に表示されることになり、表示されている情報が車両のどの位置の情報であるかをドライバに容易に認識させることができる。
【0047】また、上記の各実施の形態と同様に、非投影時にはホログラムコンバイナ411が背景を透過させて見せるために、ドライバの視界を妨げることもない。
【0048】尚、第3の実施の形態と同様に、センサ122によってドライバの視点位置を感知し、ドライバがリアアンダーミラー311の反映像を注視する運転状態の時に同時にその周囲のホログラムコンバイナ411にも死角範囲111Aの画像を投影させる構成にすることができる。
【0049】尚、上記の各実施の形態では撮像装置としてCCDカメラを使用したが、死角領域の画像を撮像するためには、超音波やレーダにより障害物を検出し、その物体を表す合成像を生成して、投影装置により投影させる構成とすることもできる。」

以上から、上記引用文献2には次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。

「車両用表示装置において、
ホログラムコンバイナ401又は411に画像を投影する投影装置131及びホログラムコンバイナ402に画像を投影する投影装置132と制御装置120とが設けられており、
前記制御装置120は、
ウィンカーレバーの信号が入力されたこと又はバックポジションにシフトレバーを入れたことをセンサ122が感知したときに、
該センサ122の感知に基づき、投影装置131又は投影装置132のいずれかに動作指令を与え、
投影装置131は右側のCCDカメラ101の撮像画像またはCCDカメラ111の撮像画像をホログラムコンバイナ401又は411に投影し、投影装置132は左側のCCDカメラ102の撮像画像をホログラムコンバイナ402に投影する、
車両用表示装置。」

3 引用文献3
平成30年9月5日付け(発送日:平成30年9月10日)の当審拒絶理由に引用された、本願の優先日に頒布された引用文献3(特開2007-104538号公報)には、次の事項が記載されている。

ア 「【0032】
また、上述した車両用死角映像表示装置では、モニタ1に死角領域の映像を常に表示させることを前提としているが、死角領域の映像の表示/非表示を車両周囲の状況に応じて切り替えられるようにしてもよい。すなわち、死角領域の映像を表示することが特に求められるのは、この死角領域に人や他車両などが存在する場合であるので、例えば、近接センサで車両周囲の状況を検出したり、周囲のインフラとの通信により車両周囲の状況を示す情報を取得したりして、その結果に応じて、モニタ1への死角領域の映像の表示/非表示を切り替えるようにしてもよい。勿論、運転者のスイッチ操作などによって、モニタ1への死角領域の映像の表示/非表示を切り替えるようにしてもよい。このように、死角領域の映像の表示/非表示を車両周囲の状況に応じて切り替えるようにした場合には、消費電力の低減といった効果が期待できる。」

以上から、上記引用文献3には次の事項が記載されていると認められる。

「運転者のスイッチ操作によってモニタ1への映像の表示/非表示を切り替えること。」

4 引用文献4
平成30年9月5日付け(発送日:平成30年9月10日)の当審拒絶理由に引用された、本願の優先日に頒布された引用文献4(特開2011-93454号公報)には、図面(特に図6を参照。)とともに次の事項が記載されている。

ア 「【0028】
図6に示すように、HUD制御部40には操作入力部60が接続され、この操作入力部60により、複数の表示領域、より具体的には上表示領域35および下表示領域36に対して個別に非表示モードが設定可能になっている。この非表示モードを設定する操作はステアリングホイールに設けられた操作スイッチ(不図示)等を介して行われる。なお、操作入力部60により非表示モードを設定する操作は、表示領域を選択する選択操作と、この操作内容を確定する確定操作とからなる。」

以上から、上記引用文献4には次の事項が記載されていると認められる。

「HUD制御部40に接続された操作入力部60により、複数の表示領域35,36に対して非表示モードを設定すること。」

5 引用文献5
平成30年9月5日付け(発送日:平成30年9月10日)の当審拒絶理由に引用された、本願の優先日に頒布された引用文献5(特開2003-341383号公報)には、図面(特に図1及び図3を参照。)とともに次の事項が記載されている。

ア 「【0012】
【発明の実施の形態】(第1実施形態)図1に、本実施形態における車両用表示装置の構成を示す。図に示すように、車両用表示装置10は、位置検出装置100、表示情報入力装置120、表示制御装置110および表示装置130を備えている。
【0013】位置検出装置100は、赤外線センサを有し、運転者の頭部に赤外線を照射することにより、運転者の頭部位置の変化を検出する。
【0014】表示情報入力装置120には、カーナビゲーションシステム等から建物の陰に隠れている歩行者を知らせたり、交差点等を曲がるときにその位置を知らせる表示情報入力信号が入力される。
【0015】表示制御装置110には、ルームミラー角度検出装置200からルームミラーの角度情報が入力される。表示制御装置110は、ルームミラーの角度情報に基づいて運転者の目の初期座標を計算する。そして、運転者の目の初期座標および位置検出装置100からの頭部位置の変化から目の座標を計算する。また、表示制御装置110は、表示情報入力装置120からの入力信号に従ってウィンドシールドに表示する画像情報を表示装置130に出力する。この場合、表示制御装置110は、運転者の目の位置が変化しても表示情報が位置ずれしないように出力する表示情報を生成する。
【0016】表示装置130は、表示制御装置110からの画像情報を図示しないウィンドシールドに備えられたハーフミラーに投影させて表示するヘッドアップディスプレイである。図2に、このヘッドアップディスプレイの構成を示す。ヘッドアップディスプレイは、光源ユニット131および光学ユニット132で構成されている。光源ユニット131は光源131a、表示器131bおよびレンズ131cを有し、光学ユニット132は、反射鏡132a?132cおよび防塵カバー132dを有している。光源131aが点灯すると、表示器131bを透過した光はレンズ131c、反射鏡132a?132cおよび防塵カバー132dを介してウィンドシールドに備えられたハーフミラーに投影される。ただし、図2に示した光学ユニット132は、反射鏡を用いる反射型であるが、光学ユニット132において、反射鏡132a?132cの少なくとも1つをプリズムなどの光学素子に置き換えて、表示器131bから発せられた光を拡大、縮小する透過型としてもよい。
【0017】次に、上記したヘッドアップディスプレイによって投影されるウィンドシールドの表示について説明する。図3に、ウィンドシールドの表示についての説明図を示す。図において、建物の陰に隠れている歩行者705を予め運転中の運転者に知らせる表示情報703、704と交差点等を曲がるときにその位置を知らせる表示情報701、702が示されている。ウィンドシールドの表示情報703は、建物の陰に隠れている歩行者705の存在を表す画像であるが、運転者の頭800の位置が右方向(矢印C)に移動したときには、表示情報703の位置は左方向(矢印D)にずれ、表示704の位置に移動して見える。また、表示情報701は右折すべき場所を示しているが、同様に運転者の頭800の位置が右方向(矢印E)に移動したときには、表示701の位置が左方向にずれ、表示702の位置に移動して見える。このような位置ずれは運転者の目の座標が変化することによって生じる。図1に示す表示制御装置110は、運転者の目の座標の変化に応じてウィンドシールドに表示される表示情報、即ち表示装置130への画像情報を生成して、この表示情報の位置ずれをなくすようにする。」

以上から、上記引用文献5には次の事項が記載されていると認められる。

「運転者の目の座標を計算し、目の座標の変化に応じて表示情報が位置ずれしないように表示情報を生成すること。」

第5 対比及び判断
1 引用発明1との対比及び判断
(1) 本願発明と引用発明1との対比
本願発明と引用発明1とを対比すると、引用発明1の「車載表示装置」は、その機能、構成及び技術的意義からみて本願発明の「車両用室内ディスプレイ装置」に相当し、以下同様に、「プロジェクタ5」は「投影装置」に、「制御部15」は「コントローラ」に、「ウインカスイッチ16及びバックスイッチ17の検出信号」は「複数の車両パラメータ」に、「入力され」は「受信し」に、「サイドカメラ2又は車体後側のカメラ8の画像」は「画像」に、「向きを変更」は「操作」にそれぞれ相当する。
また、引用発明1の「フロントガラス13の左側端部スクリーン13b、右側端部スクリーン13c又はリアガラス14の上部のスクリーン14bを選択」することは、その機能、構成及び技術的意義からみて本願発明の「車両室内の予想ロケーションを決定」することに相当する。そうすると、引用発明1で選択される「フロントガラス13の左側端部スクリーン13b、右側端部スクリーン13c又はリアガラス14の上部のスクリーン14b」のいずれかの「スクリーン」は、本願発明の「予想ロケーションは、運転者が見ると予想される車両室内エリア」に相当する。

したがって、両者は、
「車両用室内ディスプレイ装置において、
投影装置とコントローラとが設けられており、
前記コントローラは、
複数の車両パラメータを受信し、
該複数の車両パラメータに基づき、車両室内の予想ロケーションを決定し、該予想ロケーションは、運転者が見ると予想される車両室内エリアに該当し、
前記複数の車両パラメータに基づき画像を選択し、
前記投影装置を操作して、前記予想ロケーションに前記画像を投影させる、ように構成されている、
車両用室内ディスプレイ装置。」である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点1]
本願発明の「コントローラ」は、「前記車両の運転者から信号を受信し、該信号の受信に応答して、前記投影装置を操作して、前記予想ロケーションにおける画像表示を停止するように構成されている」のに対し、引用発明1の「制御部15」はかかる事項を備えていない点。

(2) 判断
上記相違点1について検討する。
引用文献3の記載事項は以下のとおりである。
「運転者のスイッチ操作によってモニタ1への映像の表示/非表示を切り替えること。」
そして、引用文献4の記載事項は以下のとおりである。
「HUD制御部40に接続された操作入力部60により、複数の表示領域35,36に対して非表示モードを設定すること。」
引用文献3の記載事項及び引用文献4の記載事項からみて、車両用室内ディスプレイ装置において「車両の運転者から信号を受信し、該信号の受信に応答して、投影装置を操作して、画像表示を停止する」ことは周知技術といえる。
そうすると、引用発明1は「フロントガラス13の左側端部スクリーン13b、右側端部スクリーン13c又はリアガラス14の上部のスクリーン14b」のいずれかに画像を表示するものであるから、引用発明1において、周知技術に基づいて制御部15が「車両の運転者から信号を受信し、該信号の受信に応答して、投影装置を操作して、予想ロケーションにおける画像表示を停止する」ことは、当業者が通常の創作能力の範囲で容易になし得たことである。

そうすると、引用発明1及び周知技術に基づいて、相違点1に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易になし得たことである。

また、本願発明は、全体としてみても、引用発明1及び周知技術から予測し得ない格別な効果を奏するものではない。

したがって、本願発明は、引用発明1及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

2 引用発明2との対比及び判断
(1)本願発明と引用文献2との対比
本願発明と引用発明2とを対比すると、引用発明2の「車両用表示装置」は、その機能、構成及び技術的意義からみて本願発明の「車両用室内ディスプレイ装置」に相当し、以下同様に、「ホログラムコンバイナ401又は411に画像を投影する投影装置131及びホログラムコンバイナ402に画像を投影する投影装置132」は「投影装置」に、「制御装置120」は「コントローラ」に、「ウィンカーレバーの信号が入力されたこと又はバックポジションにシフトレバーを入れたこと」は「複数の車両パラメータ」に、「センサ122が感知したときに」は「受信し」にそれぞれ相当する。
また、引用発明2の「投影装置131又は投影装置132のいずれかに動作指令を与え」ることは、ホログラムコンバイナ401、402又は411から画像を投影するホログラムコンバイナを決定することになるから、本願発明の「車両室内の予想ロケーションを決定」することに相当する。そうすると、こうして決定された引用発明2の「ホログラムコンバイナ」は、本願発明1の「予想ロケーションは、運転者が見ると予想される車両室内エリア」に相当する。
そして、引用発明2の「投影装置131は右側のCCDカメラ101の撮像画像またはCCDカメラ111の撮像画像をホログラムコンバイナ401又は411に投影し、投影装置132は左側のCCDカメラ102の撮像画像をホログラムコンバイナ402に投影する」ことは、投影装置131及び投影装置132により投影する画像を選択すること、及び画像をホログラムコンバイナに投影させるよう投影装置131又は投影装置132のいずれかを動作させることであるから、本願発明の「画像を選択」及び「投影装置を操作して、前記予想ロケーションに前記画像を投影させる」ことに相当する事項を備えているといえる。

したがって、両者は、
「車両用室内ディスプレイ装置において、
投影装置とコントローラとが設けられており、
前記コントローラは、
複数の車両パラメータを受信し、
該複数の車両パラメータに基づき、車両室内の予想ロケーションを決定し、該予想ロケーションは、運転者が見ると予想される車両室内エリアに該当し、
前記複数の車両パラメータに基づき画像を選択し、
前記投影装置を操作して、前記予想ロケーションに前記画像を投影させる、ように構成されている、
車両用室内ディスプレイ装置。」である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点2]
本願発明の「コントローラ」は、「前記車両の運転者から信号を受信し、該信号の受信に応答して、前記投影装置を操作して、前記予想ロケーションにおける画像表示を停止するように構成されている」のに対し、引用発明2の「制御装置120」はかかる事項を備えていない点。

(2) 判断
上記相違点2について検討する。
上記相違点2は、「1 引用発明1との対比及び判断」における相違点1と同じである。そして、相違点1については「1 引用発明1との対比及び判断」で上述したとおりである。そうすると、相違点2に係る本願発明の発明特定事項は、相違点1と同様の理由により、引用発明2及び周知技術に基づいて当業者が容易になし得たことである。

また、本願発明は、全体としてみても、引用発明2及び周知技術から予測し得ない格別な効果を奏するものではない。

したがって、本願発明は、引用発明2及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6 平成30年12月10日の意見書における審判請求人の主張について
審判請求人は、平成30年12月10日の意見書において、「しかしながら、審判官殿が主要引用文献として提示している引用文献1乃至2のいずれにも、本願発明の上記特徴的構成が開示されていないことは、審判官殿自らが認めておられる。
そして、引用文献1乃至2を補完すべく引用された引用文献3乃至4は、一般的な表示装置における表示/非表示の切換に関する構成が開示されているに過ぎない。」、及び「従って、請求項1及び10に特定されている「前記コントローラは(前記コントローラにより)、前記車両の運転者から信号を受信し、該信号の受信に応答して、前記投影装置を操作して、前記予想ロケーションにおける画像表示を停止する」という本願発明が備える特徴的構成は、新たに引用された引用文献1乃至5のいずれにも、全く開示されておらず、示唆する記載もない。
よって、本願発明は、引用文献1乃至5に記載された発明のいずれに対しても、構成上の明確な相違点を有するものである。
また、本願発明が備える上記特徴的構成は、引用文献1乃至5のいずれにも、全く開示されておらず、示唆する記載もないので、引用文献1乃至5に記載された発明をどのように組み合わせたとしても構成し得ないものである。」、並びに「そして、本願発明は、上記相違点を有する結果、複数の車両パラメータに基づき画像を選択し、運転者が見るであろうと予想される車両室内エリアに該当する予想ロケーションに当該画像を、投影装置を操作して投影することができると共に、運転者の意思に基づいて、予想ロケーションにおける画像の表示/非表示を切り換えることができるので、運転者にとっての画像表示の利便性を向上させることができる、という顕著な作用効果を奏するものである。
本願発明の上記顕著な作用効果は、引用文献1乃至5に記載された発明及びそれらの組合せの構成によっては決して得ることができないものであり、引用文献1乃至5のいずれにも、全く開示されておらず、示唆する記載もないものである。」と主張している。

確かに、「予想ロケーションにおける画像表示を停止する」という本願発明の発明特定事項は上記引用文献1ないし5には明記されていない。

しかしながら、引用発明1が、本願発明の「複数の車両パラメータを受信し、
該複数の車両パラメータに基づき、車両室内の予想ロケーションを決定し、該予想ロケーションは、運転者が見ると予想される車両室内エリアに該当し、
前記複数の車両パラメータに基づき画像を選択し、
前記投影装置を操作して、前記予想ロケーションに前記画像を投影させる」に相当する発明特定事項を備えることは、第5 1 (1)で上述したとおりである。
そして、引用発明1で投影される画像は、予想ロケーションに投影された画像であるから、このような引用発明1において、引用文献3の記載事項及び引用文献4の記載事項から導くことができる周知技術に基づいて「車両の運転者から信号を受信し、該信号の受信に応答して、投影装置を操作して、画像表示を停止する」よう構成する際、「画像表示を停止する」対象となる画像表示は「予想ロケーションにおける画像表示」であることは、当業者であれば容易に理解できることである。
同様に、引用発明2が、本願発明の「該複数の車両パラメータに基づき、車両室内の予想ロケーションを決定し、該予想ロケーションは、運転者が見ると予想される車両室内エリアに該当し、
前記複数の車両パラメータに基づき画像を選択し、
前記投影装置を操作して、前記予想ロケーションに前記画像を投影させる」に相当する発明特定事項をそなえることは、第5 2 (1)で上述したとおりである。
そして、引用発明2で投影される画像もまた、予想ロケーションに投影された画像であるから、このような引用発明2において、引用文献3の記載事項及び引用文献4の記載事項から導くことができる周知技術に基いて「車両の運転者から信号を受信し、該信号の受信に応答して、投影装置を操作して、画像表示を停止する」ようにする際、「画像表示を停止する」対象となる画像表示が「予想ロケーションにおける画像表示」となることは、当業者であれば容易に理解できることである。

さらに、「複数の車両パラメータに基づき画像を選択し、運転者が見るであろうと予想される車両室内エリアに該当する予想ロケーションに当該画像を、投影装置を操作して投影することができると共に、運転者の意思に基づいて、予想ロケーションにおける画像の表示/非表示を切り換えることができるので、運転者にとっての画像表示の利便性を向上させることができる」との効果も、引用発明1及び周知技術から予測しうる効果、並びに引用発明及び周知技術から予測しうる効果を超える、格別顕著なものではない。

したがって、意見書における審判請求人の主張は失当である。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-02-07 
結審通知日 2019-02-12 
審決日 2019-02-25 
出願番号 特願2016-532040(P2016-532040)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B60K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 堀内 亮吾  
特許庁審判長 金澤 俊郎
特許庁審判官 水野 治彦
粟倉 裕二
発明の名称 室内ディスプレイシステム及び室内ディスプレイ方法  
代理人 前川 純一  
代理人 上島 類  
代理人 二宮 浩康  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  

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