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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 取り消して特許、登録 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H01L
管理番号 1353558
審判番号 不服2017-18092  
総通号数 237 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-09-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-12-05 
確定日 2019-07-31 
事件の表示 特願2013- 74932「処理システム,および処理方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年10月23日出願公開,特開2014-199878,請求項の数(6)〕について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成25年3月29日の出願であって,平成29年3月13日付け拒絶理由通知に対し,同年5月15日に意見書が提出されるとともに手続補正がされたが,同年8月31日付けで拒絶査定(以下,「原査定」という。)がされ,これに対し,同年12月5日に拒絶査定不服審判の請求がされた。その後,当審からの平成30年11月14日付け拒絶理由通知(以下,当該通知に係る拒絶理由を「当審拒絶理由1」という。)に対し,平成31年1月21日に意見書が提出されるとともに手続補正(以下,「本件補正1」という。)がされ,また,同年1月22日に上申書が提出され,さらに,当審からの同年4月4日付け拒絶理由通知(以下,当該通知に係る拒絶理由を「当審拒絶理由2」という。)に対し,同年4月15日に意見書が提出されるとともに手続補正(以下,「本件補正2」という。)がされたものである。

第2 原査定の概要
原査定の理由の概要は以下のとおりである。
(進歩性)本願の下記の請求項に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
・請求項 1ないし6
・引用文献 1
<引用文献等一覧>
1.特開2009-76495号公報

第3 本願発明
本願の請求項1ないし6に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明6」という。)は,本件補正2で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定される発明であり,本願発明1ないし6は,以下のとおりである。

「【請求項1】
被処理物を処理する第1の処理装置と,
前記被処理物を処理する第2の処理装置と,
前記被処理物を収納する収納部と,
前記第1の処理装置および前記第2の処理装置と,前記収納部と,の間に設けられたロードロック部と,
前記収納部と,前記ロードロック部と,の間に設けられ,前記被処理物の受け渡しを行う第1の受け渡し部と,
前記第1の処理装置および前記第2の処理装置と,前記ロードロック部と,の間に設けられ,前記被処理物の受け渡しを行う第2の受け渡し部と,
前記第1の受け渡し部の制御を行う制御部と,
前記被処理物の処理に関する情報を格納する格納部を備え,
前記被処理物1枚あたりの,前記第2の処理装置におけるトータルシーケンス時間が,前記第1の処理装置におけるトータルシーケンス時間より長い場合において,
前記制御部は,
前記格納部に格納された前記被処理物の処理に関する情報から,前記第1の処理装置における処理の前記トータルシーケンス時間と,前記第2の処理装置における処理の前記トータルシーケンス時間と,を抽出し,
抽出された前記第1の処理装置における処理の前記トータルシーケンス時間,および前記第2の処理装置における処理の前記トータルシーケンス時間と,前記第1の処理装置における処理開始時刻,および前記第2の処理装置における処理開始時刻と,から前記第1の処理装置における処理の終了時刻と,前記第2の処理装置における処理の終了時刻と,を求めて,前記第1の処理装置における処理,および前記第2の処理装置における処理のどちらが先に終了するのかを判定し,
前記第2の処理装置における処理が先に終了する,または,前記第2の処理装置における処理と,前記第1の処理装置における処理とが同時に終了する場合には,前記第1の受け渡し部を制御して,前記第2の処理装置において次に処理される前記被処理物を前記ロードロック部に受け渡す処理システム。
【請求項2】
前記制御部はさらに,
前記第1の処理装置における処理が先に終了すると判定された場合には,前記第2の処理装置における処理の終了時刻と,前記第1の処理装置における処理の終了時刻と,の差から終了時刻差を求め,
前記終了時刻差と,前記格納部に収納された処理レシピから抽出される前記ロードロック部における前記被処理物の受け渡し時間である減圧搬送時間と,の差から搬送可能時間を求め,
前記搬送可能時間が0(ゼロ)以下の場合には,前記第1の受け渡し部を制御して,前記第2の処理装置において次に処理される前記被処理物を前記ロードロック部に受け渡し,
前記搬送可能時間が0(ゼロ)を超える場合には,前記第1の受け渡し部を制御して,前記第1の処理装置において次に処理される前記被処理物を前記ロードロック部に受け渡す請求項1記載の処理システム。
【請求項3】
被処理物を処理する第1の処理装置と,
前記被処理物を処理する第2の処理装置と,
前記被処理物を収納する収納部と,
前記第1の処理装置および前記第2の処理装置と,前記収納部と,の間に設けられたロードロック部と,
前記収納部と,前記ロードロック部と,の間に設けられ,前記被処理物の受け渡しを行う第1の受け渡し部と,
前記第1の処理装置および前記第2の処理装置と,前記ロードロック部と,の間に設けられ,前記被処理物の受け渡しを行う第2の受け渡し部と,
前記第1の受け渡し部の制御を行う制御部と,
前記被処理物の処理に関する情報を格納する格納部を備え,
前記被処理物1枚あたりの,前記第2の処理装置におけるトータルシーケンス時間が,前記第1の処理装置におけるトータルシーケンス時間より長い場合において,
前記制御部は,
前記格納部に格納された前記被処理物の処理に関する情報から,前記第1の処理装置における処理の前記トータルシーケンス時間と,前記第2の処理装置における処理の前記トータルシーケンス時間と,を抽出し,
抽出された前記第1の処理装置における処理の前記トータルシーケンス時間,および前記第2の処理装置における処理の前記トータルシーケンス時間と,前記第1の処理装置における処理開始時刻,および前記第2の処理装置における処理開始時刻と,から前記第1の処理装置における処理の終了時刻と,前記第2の処理装置における処理の終了時刻と,を求めて,前記第1の処理装置における処理,および前記第2の処理装置における処理のどちらが先に終了するのかを判定し,
前記第1の処理装置における処理が先に終了する場合には,前記第2の処理装置における処理の終了時刻と,前記第1の処理装置における処理の終了時刻と,の差から終了時刻差を求め,
前記終了時刻差と,前記格納部に収納された処理レシピから抽出される前記ロードロック部における前記被処理物の受け渡し時間である減圧搬送時間と,の差から搬送可能時間を求め,
前記搬送可能時間が0(ゼロ)以下の場合には,前記第1の受け渡し部を制御して,前記第2の処理装置において次に処理される前記被処理物を前記ロードロック部に受け渡し,
前記搬送可能時間が0(ゼロ)を超える場合には,前記第1の受け渡し部を制御して,前記第1の処理装置において次に処理される前記被処理物を前記ロードロック部に受け渡す処理システム。
【請求項4】
第1の処理装置において被処理物を処理する工程と,
第2の処理装置において前記被処理物を処理する工程と,
ロードロック部と,前記第1の処理装置および前記第2の処理装置と,の間で前記被処理物の受け渡しを行う工程と,
前記ロードロック部と,前記被処理物を収納する収納部と,の間で前記被処理物の受け渡しを行う工程と,
前記被処理物の処理に関する情報から,前記被処理物1枚あたりの,前記第1の処理装置における処理のトータルシーケンス時間と,前記第2の処理装置における処理のトータルシーケンス時間と,を抽出する工程と,
抽出された前記第1の処理装置における処理のトータルシーケンス時間,および前記第2の処理装置における処理のトータルシーケンス時間と,前記第1の処理装置における処理開始時刻,および前記第2の処理装置における処理開始時刻と,から前記第1の処理装置における処理の終了時刻と,前記第2の処理装置における処理の終了時刻と,を求める工程と,
を備え,
前記第2の処理装置におけるトータルシーケンス時間が,前記第1の処理装置におけるトータルシーケンス時間より長い場合において,
前記第1の処理装置における処理の終了時刻と,前記第2の処理装置における処理の終了時刻とから,前記第1の処理装置における処理,および前記第2の処理装置における処理のどちらが先に終了するのかを判定する工程と,
を備え,
前記第2の処理装置における処理が先に終了する,または,前記第2の処理装置における処理と,前記第1の処理装置における処理とが同時に終了する場合には,前記被処理物を収納する収納部から,前記ロードロック部に,前記第2の処理装置において次に処理される前記被処理物を受け渡す処理方法。
【請求項5】
前記判定する工程において,
前記第1の処理装置における処理が先に終了すると判定された場合には,前記第2の処理装置における処理の終了時刻と,前記第1の処理装置における処理の終了時刻と,の差から終了時刻差を求め,
前記終了時刻差と,処理レシピから抽出される前記ロードロック部における前記被処理物の受け渡し時間である減圧搬送時間と,の差から搬送可能時間を求め,
前記搬送可能時間が0(ゼロ)以下の場合には,前記被処理物を収納する収納部から,前記ロードロック部に,前記第2の処理装置において次に処理される前記被処理物を受け渡し,
前記搬送可能時間が0(ゼロ)を超える場合には,前記被処理物を収納する収納部から,前記ロードロック部に,前記第1の処理装置において次に処理される前記被処理物を受け渡す請求項4記載の処理方法。
【請求項6】
第1の処理装置において被処理物を処理する工程と,
第2の処理装置において前記被処理物を処理する工程と,
ロードロック部と,前記第1の処理装置および前記第2の処理装置と,の間で前記被処理物の受け渡しを行う工程と,
前記ロードロック部と,前記被処理物を収納する収納部と,の間で前記被処理物の受け渡しを行う工程と,
前記被処理物の処理に関する情報から,前記被処理物1枚あたりの,前記第1の処理装置における処理のトータルシーケンス時間と,前記第2の処理装置における処理のトータルシーケンス時間と,を抽出する工程と,
抽出された前記第1の処理装置における処理のトータルシーケンス時間,および前記第2の処理装置における処理のトータルシーケンス時間と,前記第1の処理装置における処理開始時刻,および前記第2の処理装置における処理開始時刻と,から前記第1の処理装置における処理の終了時刻と,前記第2の処理装置における処理の終了時刻と,を求めて,前記第1の処理装置における処理,および前記第2の処理装置における処理のどちらが先に終了するのかを判定する工程と,
を備え,
前記第2の処理装置におけるトータルシーケンス時間が,前記第1の処理装置におけるトータルシーケンス時間より長い場合において,
前記第1の処理装置における処理が先に終了する場合には,前記第2の処理装置における処理の終了時刻と,前記第1の処理装置における処理の終了時刻と,の差から終了時刻差を求め,
前記終了時刻差と,処理レシピから抽出される前記ロードロック部における前記被処理物の受け渡し時間である減圧搬送時間と,の差から搬送可能時間を求め,
前記搬送可能時間が0(ゼロ)以下の場合には,前記被処理物を収納する収納部から,前記ロードロック部に,前記第2の処理装置において次に処理される前記被処理物を受け渡し,
前記搬送可能時間が0(ゼロ)を超える場合には,前記被処理物を収納する収納部から,前記ロードロック部に,前記第1の処理装置において次に処理される前記被処理物を受け渡す処理方法。」

第4 引用文献,引用発明等
1 引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(特開2009-76495号公報)には,図面とともに次の事項が記載されている(下線は当審で加筆した。以下,同じ。)。

(1) 「【技術分野】
【0001】
本発明は,真空処理装置に係り,特に複数の真空処理室を用いて,キャリアカセットに収納された複数種のウエハを処理する真空処理装置に関する。」

(2) 「【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下,最良の実施形態を添付図面を参照しながら説明する。図1は,本実施形態にかかる真空処理装置の構成を説明する図である。
【0013】
本実施形態の真空処理装置は,クリーンルーム等の雰囲気が調節された建屋内に列をなして複数配置されるものであり,いわゆる半導体の製造ラインを構成するものである。
【0014】
真空処理装置は,減圧状態でウエハ等の試料を処理する真空処理部100,大気圧状態で真空処理部にウエハを搬送するための大気処理部20,およびウエハが収納されたキャリアカセットを大気処理部20に搭載するための該大気処理部20に対して脱着可能なキャリアカセット搬入出処理部10を有している。
【0015】
真空処理部100は,ウエハを処理するための処理室101ないし104,真空状態に保たれた真空搬送室201,真空搬送室201内でウエハを搬送するための真空搬送ロボット202,大気処理部20にあるウエハを真空処理室へ搬送するため大気圧状態と真空状態を切り替えて搬送を行うロードロック室301,アンロードロック室302を備えている。
【0016】
大気処理部20は,大気圧状態に保たれた大気搬送室21,大気搬送室21内でウエハを搬送するための大気搬送ロボット23,ウエハの位置合わせを行うアライメントユニット22,ウエハを収納していたキャリアカセットとは別に一時的に収納し待機させることができるウエハ収納室24を備えている。
【0017】
キャリアカセット搬入出処理部10は,真空処理装置の前面側に位置して,オペレータあるいはキャリアカセットを搬送するためのキャリアカセット搬送ロボットの稼動エリア401と隣接し,搬送されたキャリアカセットを設置または回収を行うためのキャリアカセット供給ポート11ないし13を備えている。
【0018】
真空処理装置は,前記の各処理部を制御する制御コントローラ301,および操作入力あるいは装置の状態を表示するためのマンマシン・インターフェイス302を備えており,制御コントローラ301は前記真空処理部100,大気処理部20,キャリアカセット搬入出処理部10の制御および情報収集を常に行っている。
【0019】
制御コントローラ301は,製造ラインの動作の全体を検出してウエハが収納されたキャリアカセットの搬送を調節する。また,生産管理システム303は,真空処理装置に対するキャリアカセットの搬送をコントロールする生産管理システム(ホストコンピュータ)303と接続され,制御コントローラ301は生産管理システム303からの指示および指定された処理条件(キャリアカセットに収納されたそれぞれのウエハに対するレシピ)にしたがってキャリアカセット内のウエハの処理を行う。
【0020】
大気搬送ロボット23によりキャリアカセットから取り出したウエハは,アライメントユニット22を経由してロードロック室301へ搬送し,1つの真空搬送ロボット202によりロードロック室31から処理室101ないし104のいずれかの処理室へ搬送され,その処理室でウエハに処理を施す。処理が完了すると真空搬送ロボット202によりアンロードロック室302へ搬送し,大気搬送ロボット23により元のキャリアカセットに戻す。
・・・
【0025】
図2は,大気搬送室21および大気搬送室21のキャリアカセット供給ポート11に複数枚のウエハ2を収納したキャリアカセット1を装着した状態を示す図である。この図の例では,1つのキャリアカセット内に処理条件の異なるウエハ(ロット)が混在している。 すなわち,1つのキャリアカセット1内には,それぞれの処理条件の異なるウエハの一連の群がロットa,ロットb,ロットcとして格納されている。各ロットを構成する少なくとも1つのウエハは,例えば処理に使用するガス種,機器出力設定値,および処理時間等の処理条件(レシピ)が異なる。また,ウエハを処理する処理室が異なる場合もある。なお,それぞれのロットに属するウエハの構成,膜構造,種類等は同一と見なせる程度に等しくされている。
例えば,ロットaは図1の処理室102,ロットbは図1の処理室103,ロットcは図1の処理室104でそれぞれ処理される。
【0026】
このように,ロット毎に異なる処理室を使用し,更に処理室毎に異なる処理時間で処理を行う場合においても,搬送に際しては,1つの真空搬送ロボットで全てのロットのウエハを搬送することになる。このため,単純に1ロットずつ順(例えばロットa→ロットb→ロットcの順)に搬送を行うと,後続ロットのウエハの処理室への搬送に待ち時間が発生することがある。
【0027】
装置の稼働率の面からは,搬送待ち時間は短縮することが望ましい。この搬送待ち時間を短縮するためには,装置の運用に応じた最適な搬送シーケンスを用いなければならない。例えば,複数のロットを連続して1つの処理室で処理する場合と,それぞれのウエハを別々の処理室で平行して処理する場合とでは,それぞれ異なる搬送シーケンスが用いられる。
【0028】
最適な搬送シーケンスとしては,既に処理が進行中の処理室の処理状態(例えば処理の経過時間)をもとに,次のウエハをキャリアカセットから搬出するタイミングを決定することが望ましく,本実施形態では,次の2つの例を示す。
【0029】
1つは,各処理室の処理残り時間を常に計測することで最初に終了する処理室を判定し,その処理室を使用するロットのウエハを優先的に搬送するものである。もう1つは,処理時間の長いロットのウエハを優先して搬送することにより,処理時間の短いロットのウエハ交換待ちによる処理時間の長いロットへの影響を少なくするものである。
・・・
【0035】
図4は,処理時間の長いロットのウエハを優先して搬送することにより,処理時間の短いロットのウエハの交換待ちによる処理時間の長いロットへの影響を少なくする例を説明する図である。この例では,ロット間の処理時間が大幅に異なる場合,処理時間の短いロットのウエハ交換待ちによる処理時間の長いロットへの影響を少なくすることができる。
【0036】
図4(a)に示すように,処理室1で処理されるロットaと処理室2で処理されるロットbがあり,ロットaのウエハの処理室1での処理時間Taが,ロットbのウエハが処理室2で処理される時間Tbよりも長く,そして1つのロットのみ処理したときのロット全体の処理時間がロットbよりもロットaの方が長いとする。
【0037】
処理室2の処理は,処理室1の処理よりも先に終了するが,処理時間の長いロット(ロットa)のウエハを優先して搬送するため,処理室2で処理する次のウエハが処理室1のウエハ交換のために待ち時間Tδが発生する。このため,ロットbの処理時間はロットb単独で処理する場合の処理時間よりもTδの発生回数に相当する分だけ処理時間が長くなる。
【0038】
キャリアカセットに収容された全てのウエハの終了時刻は,最後のロットが終了する時刻である。また,図4(b)に示すように同一キャリアカセットにあるロットaのウエハの方がロットbのウエハ処理時間より長い。このため,この例によれば,ロットaのウエハ交換によるロットbのウエハの交換待ちが多少発生したとしても,キャリアカセット処理時間を短くすることができる。」

2 引用発明
上記1によれば,引用文献1には次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「減圧状態でウエハ等の試料を処理する真空処理部100,大気圧状態で真空処理部にウエハを搬送するための大気処理部20,およびウエハが収納されたキャリアカセットを大気処理部20に搭載するための該大気処理部20に対して脱着可能なキャリアカセット搬入出処理部10を有する真空処理装置において,
真空処理部100は,ウエハを処理するための処理室101ないし104,真空状態に保たれた真空搬送室201,真空搬送室201内でウエハを搬送するための真空搬送ロボット202,大気処理部20にあるウエハを真空処理室へ搬送するため大気圧状態と真空状態を切り替えて搬送を行うロードロック室301,アンロードロック室302を備え,
大気処理部20は,大気圧状態に保たれた大気搬送室21,大気搬送室21内でウエハを搬送するための大気搬送ロボット23を備え,
キャリアカセット搬入出処理部10は,真空処理装置の前面側に位置して,オペレータあるいはキャリアカセットを搬送するためのキャリアカセット搬送ロボットの稼動エリア401と隣接し,搬送されたキャリアカセットを設置または回収を行うためのキャリアカセット供給ポート11ないし13を備えるものであって,
真空処理装置は,前記の各処理部を制御する制御コントローラ301を備えており,制御コントローラ301は前記真空処理部100,大気処理部20,キャリアカセット搬入出処理部10の制御および情報収集を常に行っており,
制御コントローラ301は,製造ラインの動作の全体を検出してウエハが収納されたキャリアカセットの搬送を調節するものであって,生産管理システム303は,真空処理装置に対するキャリアカセットの搬送をコントロールする生産管理システム(ホストコンピュータ)303と接続され,制御コントローラ301は生産管理システム303からの指示および指定された処理条件(キャリアカセットに収納されたそれぞれのウエハに対するレシピ)にしたがってキャリアカセット内のウエハの処理を行うものであり,
大気搬送ロボット23によりキャリアカセットから取り出したウエハは,ロードロック室301へ搬送し,1つの真空搬送ロボット202によりロードロック室31から処理室101ないし104のいずれかの処理室へ搬送され,その処理室でウエハに処理を施し,処理が完了すると真空搬送ロボット202によりアンロードロック室302へ搬送し,大気搬送ロボット23により元のキャリアカセットに戻すものであり,
ロットaは処理室102,ロットbは処理室103でそれぞれ処理され,
処理室1(処理室102)で処理されるロットaと処理室2(処理室103)で処理されるロットbがあり,ロットaのウエハの処理室1(処理室102)での処理時間Taが,ロットbのウエハが処理室2(処理室103)で処理される時間Tbよりも長く,そして1つのロットのみ処理したときのロット全体の処理時間がロットbよりもロットaの方が長いとき,処理室2(処理室103)の処理は,処理室1(処理室102)の処理よりも先に終了するが,処理時間の長いロット(ロットa)のウエハを優先して搬送するため,処理室2(処理室103)で処理する次のウエハが処理室1(処理室102)のウエハ交換のために待ち時間Tδが発生する,
真空処理装置。」

第5 対比及び判断
1 本願発明1について
(1) 対比
本願発明1と引用発明とを対比すると,次のことがいえる。

ア 引用発明の「ウエハ」,「処理室2(処理室103)」,「処理室1(処理室102)」,「キャリアカセット」,「ロードロック室301,アンロードロック室302」,「大気搬送ロボット23」,「真空搬送ロボット202」及び「制御コントローラ301」は,それぞれ,本願発明1の「被処理物」,「第1の処理装置」,「第2の処理装置」,「収納部」,「ロードロック部」,「第1の受け渡し部」,「第2の受け渡し部」及び「制御部」に相当する。
イ 本願発明1の「格納部」は,「被処理物の処理に関する情報」を格納しており,当該情報から「前記第1の処理装置における処理の前記トータルシーケンス時間と,前記第2の処理装置における処理の前記トータルシーケンス時間と,を抽出」するものであるところ,引用発明の「真空処理装置」においても,「ロットaのウエハの処理室1(処理室102)での処理時間Ta」及び「ロットbのウエハが処理室2(処理室103)で処理される時間Tb」が格納されていることは明らかであるから,引用発明も「被処理物の処理に関する情報を格納する格納部」を備えているということができる。

そうすると,本願発明1と引用発明との間には,次の一致点,相違点があるといえる。

(一致点)
「被処理物を処理する第1の処理装置と,
前記被処理物を処理する第2の処理装置と,
前記被処理物を収納する収納部と,
前記第1の処理装置および前記第2の処理装置と,前記収納部と,の間に設けられたロードロック部と,
前記収納部と,前記ロードロック部と,の間に設けられ,前記被処理物の受け渡しを行う第1の受け渡し部と,
前記第1の処理装置および前記第2の処理装置と,前記ロードロック部と,の間に設けられ,前記被処理物の受け渡しを行う第2の受け渡し部と,
前記第1の受け渡し部の制御を行う制御部と,
前記被処理物の処理に関する情報を格納する格納部を備える,
処理システム。」

(相違点)
本願発明1は,「前記被処理物1枚あたりの,前記第2の処理装置におけるトータルシーケンス時間が,前記第1の処理装置におけるトータルシーケンス時間より長い場合」において,「前記制御部は, 前記格納部に格納された前記被処理物の処理に関する情報から,前記第1の処理装置における処理の前記トータルシーケンス時間と,前記第2の処理装置における処理の前記トータルシーケンス時間と,を抽出し, 抽出された前記第1の処理装置における処理の前記トータルシーケンス時間,および前記第2の処理装置における処理の前記トータルシーケンス時間と,前記第1の処理装置における処理開始時刻,および前記第2の処理装置における処理開始時刻と,から前記第1の処理装置における処理の終了時刻と,前記第2の処理装置における処理の終了時刻と,を求めて,前記第1の処理装置における処理,および前記第2の処理装置における処理のどちらが先に終了するのかを判定し, 前記第2の処理装置における処理が先に終了する,または,前記第2の処理装置における処理と,前記第1の処理装置における処理とが同時に終了する場合には,前記第1の受け渡し部を制御して,前記第2の処理装置において次に処理される前記被処理物を前記ロードロック部に受け渡す」のに対し,引用発明は,「処理室1(処理室102)で処理されるロットaと処理室2(処理室103)で処理されるロットbがあり,ロットaのウエハの処理室1(処理室102)での処理時間Taが,ロットbのウエハが処理室2(処理室103)で処理される時間Tbよりも長く,そして1つのロットのみ処理したときのロット全体の処理時間がロットbよりもロットaの方が長いとき」,「処理室2(処理室103)の処理は,処理室1(処理室102)の処理よりも先に終了するが,処理時間の長いロット(ロットa)のウエハを優先して搬送するため,処理室2(処理室103)で処理する次のウエハが処理室1(処理室102)のウエハ交換のために待ち時間Tδが発生する」点。

(2) 相違点についての判断
上記相違点について検討するに,引用発明の「処理室1(処理室102)で処理されるロットaと処理室2(処理室103)で処理されるロットbがあり,ロットaのウエハの処理室1(処理室102)での処理時間Taが,ロットbのウエハが処理室2(処理室103)で処理される時間Tbよりも長く,そして1つのロットのみ処理したときのロット全体の処理時間がロットbよりもロットaの方が長いとき」は,本願発明1の「前記被処理物1枚あたりの,前記第2の処理装置におけるトータルシーケンス時間が,前記第1の処理装置におけるトータルシーケンス時間より長い場合」に相当するところ,引用発明では,「第2の処理装置」(処理室1(処理室102))のウエハ交換が常に優先されているから,「第1の処理装置」(処理室2(処理室103))における「トータルシーケンス時間」(処理時間Tb)を抽出する必要はないし,「第1の処理装置における処理の終了時刻」及び「第2の処理装置における処理の終了時刻」に基づいて,「第1の処理装置における処理」と「第2の処理装置における処理」のどちらが先に終了するのかを判定することもない。そして,引用文献1の記載をみても,上記抽出や判定を行うことは記載も示唆もされておらず,周知技術であるということもできない。
これに対し,本願発明1は,上記相違点に係る構成を採用することにより,「処理システム」において,「生産効率の向上を図ることができる」(本願明細書【0006】)という格別の有利な効果を奏するものである。

(3) まとめ
したがって,本願発明1は,当業者であっても引用発明に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

2 本願発明2ないし6について
本願発明2ないし6も,本願発明1と同様の「抽出」や「判定」を行う構成を備えるものであるから,上記1と同じ理由により,当業者であっても,引用発明に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

第6 原査定について
本件補正2で補正された本願発明1ないし6は,上記第5のとおり,当業者であっても,拒絶査定において引用された引用文献1に記載された発明に基づいて,容易に発明できたものとはいえない。したがって,原査定の理由を維持することはできない。

第7 当審拒絶理由について
1 当審拒絶理由1の概要
(1) 特許請求の範囲の請求項1ないし6の記載において,各種の「時間」には,「時刻」の概念を持つものが混在していると解されるから,発明を明確に理解することができず,本願は,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
(2) 特許請求の範囲の請求項1及び4の記載は,「第1の処理装置」又は「第2の処理装置」のいずれの処理が先に終了するのか特定されていないし,いずれの処理装置に受け渡すのかも特定されていないため,発明の課題を解決するための手段が反映されておらず,発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求することになるから,本願は,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
(3) 発明の詳細な説明において,処理時間の短い処理装置50a(第1の処理装置)が先に終了する場合の制御について,何故,発明の課題を解決することができるのか,不明であるから,本願は,特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

2 当審拒絶理由2の概要
特許請求の範囲の請求項4ないし6の記載は,明確でないから,本願は,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

3 判断
上記当審拒絶理由1に対する本件補正1及び上記当審拒絶理由2に対する本件補正2により,上記当審拒絶理由1及び当審拒絶理由2はいずれも解消した。

第8 むすび
以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-07-16 
出願番号 特願2013-74932(P2013-74932)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (H01L)
P 1 8・ 121- WY (H01L)
P 1 8・ 536- WY (H01L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 宮久保 博幸  
特許庁審判長 加藤 浩一
特許庁審判官 小田 浩
梶尾 誠哉
発明の名称 処理システム、および処理方法  

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