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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A23D
管理番号 1353561
審判番号 不服2018-11974  
総通号数 237 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-09-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-09-06 
確定日 2019-07-30 
事件の表示 特願2014- 67219「可塑性油中水型乳化油脂組成物。」拒絶査定不服審判事件〔平成27年11月 2日出願公開、特開2015-188357、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年3月27日を出願日とする出願であって、平成29年10月23日付けの拒絶理由に対し同年12月22日に意見書が提出され、平成30年5月29日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年9月6日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

第2 原査定の拒絶理由の概要
原査定の拒絶の理由は、平成29年10月23日付けの拒絶理由通知における理由1であり、その理由1の概要は、この出願の請求項1?5に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された引用文献1?5に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。

引用文献1 特開2009-240261号公報
引用文献2 Milk Science, Vol.61, No.2, 2012, pp.95-103
引用文献3 特開2012-125236号公報
引用文献4 特開2003-189791号公報
引用文献5 特開平3-216143号公報

第3 本願発明
この出願の請求項1?5に係る発明(以下「本願発明1」?「本願発明5」という。)は、願書に最初に添付された特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項によって特定された以下のとおりのものである。

「 【請求項1】
下記(A)、(B)及び(C)成分を固形分として、20?60:30?70:2.5?12の質量比(但し、(A)成分、(B)成分及び(C)成分の質量比の和を100とする)で含有し、カゼインたんぱく質を含有しないことを特徴とする可塑性油中水型乳化油脂組成物。
(A)ホエイたんぱく質
(B)乳糖
(C)乳清ミネラル
【請求項2】
上記(A)、(B)及び(C)成分を合計して、固形分として0.5?7質量%含有することを特徴とする請求項1記載の可塑性油中水型乳化油脂組成物。
【請求項3】
上記乳清ミネラルの固形分中のカルシウム含量が2質量%未満であることを特徴とする請求項1又は2記載の可塑性油中水型乳化油脂組成物。
【請求項4】
請求項1?3のいずれか一項に記載の可塑性油中水型乳化油脂組成物を使用したベーカリー生地。
【請求項5】
請求項4記載のベーカリー生地を使用したベーカリー製品。」

第4 引用文献、引用発明等
1 引用文献
(1)引用文献1について
引用文献1には、次の事項が記載されている。

(1a)「【請求項1】
固形分中のカルシウム含量が2質量%未満である乳清ミネラルを有効成分とする製パン改良剤。
【請求項2】
蛋白質を、乳清ミネラルの固形分1質量部に対し、1?50質量部含有する請求項1記載の製パン改良剤。
【請求項3】
水中油型の形態であることを特徴とする請求項1又は2記載の製パン改良剤。
【請求項4】
請求項1?3のいずれかに記載の製パン改良剤を、パン生地に含まれる穀粉類100質量部に対し、乳清ミネラルの固形分が0.001?1質量%となる量を含有するパン生地。
【請求項5】
請求項4記載のパン生地を加熱処理したパン。
【請求項6】
請求項1?3のいずれかに記載の製パン改良剤を、パン生地に含まれる穀粉類100質量部に対し、乳清ミネラルの固形分が0.001?1質量%となる量を添加することを特徴とする製パン改良方法。」

(1b)「【0008】
本発明の目的は、風味が良好であって、パンのボリュームを増大させ、ソフトで歯切れが良いパンを提供することができる製パン改良剤を提供することにある。」

(1c)「【0018】
本発明の製パン改良剤における上記乳清ミネラルの配合割合は、製パン改良剤のパン生地への添加量に依存するため、特に限定されるものではなく、0.001?100質量%の範囲から適宜選択可能である。」

(1d)「【0020】
本発明の製パン改良剤は、蛋白質を、乳清ミネラルの固形分1質量部に対し、好ましくは1?50質量部、より好ましくは4?20質量部、さらに好ましくは6?15質量部含有する。
【0021】
蛋白質の割合が1質量部未満であると、パンのボリューム改善効果が、特にリーンな配合のパンで発揮されない問題があり、また50質量部を超えると、得られるパンの食感が硬いものとなってしまったり、パン生地の伸展性が劣るものとなってしまう問題がある。
【0022】
ここで使用する蛋白質としては特に限定されず、例えば、ホエイ蛋白質、カゼイン蛋白質、その他の乳蛋白質、低密度リポ蛋白質、高密度リポ蛋白質、ホスビチン、リベチン、リン糖蛋白質、オボアルブミン、コンアルブミン、オボムコイド等の卵蛋白質、グリアジン、グルテニン等の小麦蛋白質、プロラミン、グルテリン等の米蛋白質、その他動物性及び植物性蛋白質等の蛋白質が挙げられる。これらの蛋白質は、目的に応じて一種ないし二種以上の蛋白質として、あるいは一種ないし二種以上の蛋白質を含有する食品素材の形で添加してもよい。
【0023】
なお、本発明の製パン改良剤では、上記の蛋白質として乳蛋白質を用いるのが好ましい。
【0024】
上記の乳蛋白質としては、ホエイ蛋白質のみ、カゼイン蛋白質のみ、カゼイン蛋白質とホエイ蛋白質との併用のいずれでもよいが、ホエイ蛋白質とカゼイン蛋白質とを併用するのが好ましい。」

(1e)「【0032】
上記糖類としては、ブドウ糖、果糖、ショ糖、麦芽糖、酵素糖化水飴、乳糖、還元澱粉糖化物、異性化液糖、ショ糖結合水飴、オリゴ糖、還元糖ポリデキストロース、ソルビトール、還元乳糖、トレハロース、キシロース、キシリトール、マルチトール、エリスリトール、マンニトール、フラクトオリゴ糖、大豆オリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、乳果オリゴ糖、ラフィノース、ラクチュロース、パラチノースオリゴ糖等が挙げられる。また、上記甘味料としては、スクラロース、アセスルファムカリウム、ステビア、アスパルテーム等が挙げられる。本発明では、上記の糖類・甘味料の中から選ばれた1種または2種以上を用いることができる。」

(1f)「【0033】
本発明の製パン改良剤の形態としては、特に制限されず、固形、顆粒状、粉末状、ペースト状、流動状、液状のいずれの形態であってもよい。
【0034】
また、本発明の製パン改良剤が油分と水分を含有する場合、その乳化型は水中油型であっても油中水型であってもよく、さらには2重乳化型であってもよいが、パン生地への分散性が良好であり、また、ソフト性に優れるパンが得られる点で水中油型の乳化形態であることが好ましい。」

(1g)「【0052】
(実施例2)
パーム油8質量%にレシチン0.1質量%とグリセリン脂肪酸エステル0.1質量%を溶解した油相を用意した。一方、水68質量%に乳糖8質量%、脱脂粉乳(蛋白質含量=36質量%)15質量%、乳清ミネラルA0.5質量%、リン酸塩0.2質量%、香料0.1質量%を溶解した水相を用意した。該油相と水相を65℃で混合し、攪拌して予備乳化物を調製した。該予備乳化物をVTIS殺菌機(アルファラバル社製UHT殺菌機ステリラボ)で143℃で5秒間殺菌し、10MPaの圧力で均質化後、5℃まで冷却し、水中油型の形態である本発明の製パン改良剤Bを得た。
【0053】
得られた製パン改良剤Bの、乳清ミネラルの固形分1質量部に対する蛋白質含有量は11.0質量部であった。」

(1h)「【0064】
(実施例5)
強力粉70質量部、生イースト2質量部、イーストフード0.1質量部及び水40質量部をミキサーボウルに投入し、フックを使用し、低速で2分、中速で2分混合し、中種生地を得た。捏ね上げ温度は24℃であった。この中種生地を生地ボックスに入れ、温度28℃、相対湿度85%の恒温室で、4時間中種醗酵を行なった。終点温度は29℃であった。この中種醗酵の終了した生地を再びミキサーボウルに投入し、さらに、強力粉30質量部、食塩1.5質量部、上白糖3質量部、製パン改良剤B15質量部、及び、水12質量部を添加し、低速で3分、中速で3分ミキシングした。ここで、練込油脂(マーガリン:油分含量80質量%)8質量部を投入し、フックを使用し、低速で3分、中速で3分、高速で1分ミキシングを行ない、食パン生地を得た。得られた食パン生地の捏ね上げ温度は28℃であった。また、食パン生地に含まれる穀粉類100質量部に対する固形分中のカルシウム含量が2質量%未満である乳清ミネラルの固形分含量は0.075質量部であった。
【0065】
ここで、フロアタイムを20分とった後、380gに分割・丸目を行なった。分割・丸目時の食パン生地はべたつかず、作業性は良好であった。次いで、ベンチタイムを20分とった後、モルダー成形し、ワンローフ型に入れ、38℃、相対湿度85%で50分ホイロをとった後、200℃に設定した固定窯に入れ35分焼成してワンローフ型食パンを得た。
【0066】
得られたワンローフ型食パンは実施例4で得られたものと比べ、ボリューム、歯切れ、風味はほぼ同等であったが、ソフト性に優れていた。」

(2)引用文献2について
引用文献2には、次の事項が記載されている。

(2a)「スポーツ栄養領域への展開
ホエイ蛋白質は風味がカゼインや大豆蛋白より良好であり,水への溶解性が高い特性と共に,前述のように構成アミノ酸組成が抜群であり,分岐鎖アミノ酸(BCAA)のロイシン,イソロイシン,バリン含量が高い特徴がある。」(第100頁右欄第35行?第40行)

(3)引用文献3について
引用文献3には、次の事項が記載されている。

(3a)「【請求項1】
水相中に下記の(1)及び(2)成分を含有することを特徴とする製パン練り込み用乳化油脂組成物。
(1)オリゴ糖及び/又はデキストリン
(2)グリセリンモノ脂肪酸エステル及び/又はリン脂質」

(3b)「【0027】
本発明の製パン練り込み用乳化油脂組成物が、後述する好ましい実施態様である油中水型(特に高水分含量の油中水型)であり、且つ水相に水分散型のグリセリンモノ脂肪酸エステルを含有する場合、さらに水相及び油相の両者に水分散型でないグリセリンモノ脂肪酸エステルを含有させると、乳化安定性が高まるため好ましい。この場合、水相中の水分散型のグリセリンモノ脂肪酸エステルと水分散型でないグリセリンモノ脂肪酸エステルとの使用比率(前者:後者、質量基準)は20:80?50:50の範囲とすることが好ましい。」

(3c)「【0047】
本発明の製パン練り込み用乳化油脂組成物の乳化形態は油中水型乳化物であっても水中油型乳化物であってもよいが、好ましくは油中水型乳化物とする。油中水型乳化物とすることで、上記(1)及び(2)成分を長期にわたって安定的に配合可能なことに加え、パン生地の添加時に上記(1)及び(2)成分を効率的に均質にパン生地中に分散させることが可能である。」

(3d)「【0050】
本発明の製パン練り込み用乳化油脂組成物は、可塑性を有していることが好ましい。これは、通常、製パン時に油脂を添加するのはグルテン構造が生成してからであり、油脂が可塑性を有していると、そのグルテンをコーティングする形で補強することが可能であるためである。製パン練り込み用乳化油脂組成物が液状であると、潤滑油のように作用して生地がミキサーボウルの中で滑ってしまい、生地に入っていかないという問題もある。
更に、本発明の製パン練り込み用乳化油脂組成物は、油中水型乳化物であって(3)ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを含有するものである場合、特に可塑性を有していることが好ましい。これは、上述のようにポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルの効果がより高く発揮されるためである。」

(4)引用文献4について
引用文献4には、次の事項が記載されている。

(4a)「【請求項1】 油脂、脂質と蛋白質の複合体、糖類及び水を含有する乳化物にイースト及び/又は乳酸菌を添加して発酵させた油脂乳化組成物。」

(4b)「【0005】即ち、本発明の第1は、油脂、脂質と蛋白質の複合体、糖類及び水を含有する乳化物にイースト及び/又は乳酸菌を添加して発酵させた油脂乳化組成物に関する。好ましい実施態様としては、(1)イースト及び/又は乳酸菌を添加する前の乳化物が水中油型である、(2)脂質と蛋白質の複合体が、有機酸モノグリセリドと乳蛋白質との複合体である、(3)有機酸モノグリセリドと乳蛋白質との複合体の有機酸モノグリセリドが、コハク酸モノグリセリド、ジアセチル酒石酸モノグリセリド、クエン酸モノグリセリド、酢酸モノグリセリド、乳酸モノグリセリドからなる群から選ばれる1種又は2種以上である、(4)有機酸モノグリセリドと乳蛋白質との複合体の乳蛋白質が、非ミセル状態の分子構造をもつカゼインを含有する乳蛋白質である、(5)油脂乳化組成物中のイースト及び/又は乳酸菌が生菌である、(6)油脂乳化組成物の性状が粉末である、ことを特徴とする、上記記載の油脂乳化組成物に関する。
【0006】本発明の第2は、油脂に上記記載の油脂乳化組成物を配合してなる油中水型油脂乳化組成物に関する。本発明の第3は、上記記載の油脂乳化組成物をパン生地に添加することを特徴とするパン類の製造方法に関する。」

(4c)「【0026】(実施例1)精製菜種油15重量部、大豆硬化油(融点36℃)50重量部を配合した油相(発酵温度である30℃で液体)に、バターミルクを限外濾過して得た牛乳脂肪球被膜0.2重量部と砂糖1重量部を水32.6重量部に溶解した水相を徐々に添加し予備乳化した。このものを80℃で10分間殺菌後、コンビネータにて40℃まで冷却可塑化し油中水型油脂乳化物とし、イースト(商品名:カネカイーストレッド、鐘淵化学工業(株)製)0.2重量部を水1重量部に懸濁したものを添加した。30℃で緩やかに撹拌しながら発酵させた後、80℃で10分間殺菌し、コンビネータにて急冷可塑化して油中水型油脂乳化組成物を得た。なお、得られた油中水型油脂乳化組成物中のアルコール濃度は1重量%であった。」

(5)引用文献5について
引用文献5には、次の事項が記載されている。

(5a)「また、乳化剤の存在下に適宜水性成分と混合し急冷混捏して油中水型乳化物の状態(マーガリン状態)に調製したもの、あるいは同様に適宜水性成分と混合しホモミキサーや均質機にて乳化して水中油型乳化物の状態(クリーム状態)に調製したものを使用してもよい。」(第2頁右下欄下から第5行?第3頁左上欄第1行)

(5b)「実施例3
パーム油硬化油(融点45℃)10部、精製パーム油15部、精製大豆油15部、パーム油軟質油(融点21℃、トリ飽和グリセリド含量0.6%)60部を混合した混合油(融点33℃)にレシチン0.5部およびグリセリンモノステアレート0.5部を添加混合した油相に水を基質とする水相を重量比で0.05?0.6となるような割合で混合乳化し、コンビネータにより急冷混捏して油中水型乳化油脂を調製した。
この乳化油脂を使用してパンを製造した。」(第4頁左上欄下から第5行?右上欄第6行)

2 引用文献に記載された発明
(1)引用文献1に記載された発明
上記1の(1g)より、引用文献1には、「パーム油8質量%にレシチン0.1質量%とグリセリン脂肪酸エステル0.1質量%を溶解した油相(油相)と、水68質量%に乳糖8質量%、脱脂粉乳(蛋白質含量=36質量%)15質量%、乳清ミネラルA0.5質量%、リン酸塩0.2質量%、香料0.1質量%を溶解した水相(水相)とを乳化してなる、水中油型製パン改良剤」の発明が記載されている(以下「引用発明1」という。)。

第5 対比・判断
1 本願発明1と引用発明1との対比
引用発明1の「乳糖」、「乳清ミネラルA」は、それぞれ本願発明1の「乳糖」、「乳清ミネラル」に相当する。
引用発明1の「水中油型製パン改良剤」は、本願発明1の「油中水型乳化油脂組成物」と「乳化油脂組成物」である点で共通する。
引用発明1の「脱脂粉乳(蛋白質含量=36質量%)15質量%」は、蛋白質含量が36質量%であるから、脱脂粉乳中のたんぱく質含量は、5.4質量%(15×0.36)であるといえる。
そして、食品成分表には、国産の脱脂粉乳において糖質は約53%含まれていることから(必要であれば、四訂食品成分表,平成6年1月初版,女子栄養大学出版部,pp.200-201,脱脂粉乳-国産-の糖質の箇所を参照のこと。)、脱脂粉乳中の乳糖含量は、約8.0質量%(15×0.53)であるといえ、引用発明1における乳糖の含有量は、この脱脂粉乳由来の乳糖約8.0質量%も考慮すると、計約16.0質量%であるといえる。
そうすると、引用発明1におけるたんぱく質、乳糖、乳清ミネラルの質量は、それぞれ5.4質量%、約16.0質量%、0.5質量%であるから、各成分の和を100とした場合のたんぱく質、乳糖、乳清ミネラルの質量比を固形分として算出すると、おおよそ、24.7:73.1:2.2であるといえる。
また、脱脂粉乳中にカゼインたんぱく質が含まれることは技術常識である。

したがって、両者は、
「たんぱく質、乳糖、乳清ミネラルを含有する乳化油脂組成物」である点で一致し、以下の点で相違すると認められる。

(相違点1)
たんぱく質、乳糖、乳清ミネラルについて、本願発明1では、三成分の和を100として、20?60:30?70:2.5?12の質量比と特定されているのに対して、引用発明1では、おおよそ、24.7:73.1:2.2であって、乳糖の質量比が高く、乳清ミネラルの質量比が低いため、本願発明1で特定する範囲とは異なる点。
(相違点2)
たんぱく質について、本願発明1では「ホエイたんぱく質」を含有し、「カゼインたんぱく質を含有しないこと」が特定されているのに対して、引用発明1では、ホエイたんぱく質を含有し、カゼインたんぱく質を含有しないことは特定されていない点。
(相違点3)
乳化油脂組成物について、本願発明1では、「油中水型」であるのに対して、引用発明1では、水中油型である点。
(相違点4)
乳化油脂組成物について、本願発明1では、「可塑性」と特定されているのに対して、引用発明1では、可塑性であることは明らかにされていない点。

(2)判断
上記相違点1について検討する。
引用文献1は、たんぱく質と乳清ミネラルの比を特定して、風味が良好であって、パンのボリュームを増大させ、ソフトで歯切れが良いパンを提供することができる製パン改良剤などを提供するものであるところ(摘記(1b))、実施例2では、さらに乳糖を含む組成物が記載されているが、乳糖は糖類として添加可能なものの1例にすぎず(摘記(1e))、たんぱく質もカゼインとホエイの両方を含むものが好ましいと記載されていることから(摘記(1d))、ホエイたんぱく質のみとし、三成分の比を調整する動機付けがあるとはいえない。
加えて、他の文献の記載からも、ホエイたんぱく質のみとし、三成分の質量比を特定の範囲とする動機付けを見出すことができない。
したがって、引用文献1?5には、乳糖の質量比を高め、乳清ミネラルの質量比を低くして本願所定の範囲とする動機付けや示唆がないことから、当業者であっても、本願発明1を容易に想到し得るものとはいえない。
そして、本願発明1は、ホエイたんぱく質、乳糖、乳清ミネラルを特定比で配合することによって、えぐ味のない優れたコクのある乳風味を有する可塑性油中水型乳化油脂組成物を提供できるという効果を奏しているといえる。
したがって、本願発明1は、相違点2?4を検討するまでもなく、引用文献1?5に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

2 本願発明2?5について
本願発明2?5は、本願発明1を直接あるいは間接的に引用し、さらに固形分の含有量、乳清ミネラルの固形分中のカルシウム含量、可塑性油中水型乳化油脂組成物を使用したベーカリー生地やベーカリー製品などを特定したものであるから、本願発明1と同様の理由により、当業者であっても、引用文献1?5に記載された発明に基いて容易に発明することができたものとはいえない。

3 小括
したがって、本願発明1?5は、当業者が引用文献1?5に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものではない。

第6 原査定について
本願発明1?5は、上記第5で検討したとおり、当業者であっても、拒絶査定において引用された引用文献1?5に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明できたものとはいえない。

第7 むすび
以上のとおりであるから、本願発明1?5は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないとすることはできず、原査定の理由によって、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-07-16 
出願番号 特願2014-67219(P2014-67219)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (A23D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 高山 敏充  
特許庁審判長 中島 庸子
特許庁審判官 関 美祝
菅原 洋平
発明の名称 可塑性油中水型乳化油脂組成物。  
代理人 特許業務法人翔和国際特許事務所  

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