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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61B
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 A61B
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 A61B
管理番号 1353599
審判番号 不服2018-8959  
総通号数 237 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-09-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-06-29 
確定日 2019-07-18 
事件の表示 特願2016-207861「筋肉面積推定システム、機器、及び筋肉面積推定方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 1月19日出願公開、特開2017- 12875〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年12月22日に出願した特願2014-258585号の一部を平成28年10月24日に新たな特許出願としたものであって、平成29年8月25日付けの拒絶理由が通知され、同年10月31日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされたが、平成30年3月29日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)がなされ、これに対して平成30年6月29日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、それと同時に手続補正(以下「本件補正」という。)がなされたものである。

第2 本件補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]
1 本件補正について
(1)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の平成29年10月31日になされた手続補正により補正された特許請求の範囲の記載は以下のとおりである。
「【請求項1】
人体の輪郭の少なくとも一部から算出された形状特徴に基づいて、前記人体の断面における筋肉面積を推定する制御部
を備える筋肉面積推定システム。
【請求項2】
前記制御部は、前記推定された筋肉面積に対応した画像を表示部に表示する、請求項1に記載の筋肉面積推定システム。
【請求項3】
複数のCTサンプル画像を記憶する記憶部を備え、
前記制御部は、前記複数のCTサンプル画像から、少なくとも前記推定された筋肉面積に対応する1枚のCTサンプル画像を表示部に表示する、請求項2に記載の筋肉面積推定システム。
【請求項4】
人体の輪郭の少なくとも一部から算出された形状特徴に基づいて、前記人体の断面における筋肉面積を推定する制御部
を備える機器。
【請求項5】
前記推定された筋肉面積に対応した画像が表示される表示部を備える、請求項4に記載の機器。
【請求項6】
複数のCTサンプル画像を記憶する記憶部を備え、
前記制御部は、前記複数のCTサンプル画像から、少なくとも前記推定された筋肉面積に対応する1枚のCTサンプル画像を表示部に表示する、請求項5に記載の機器。
【請求項7】
制御部により、人体の輪郭の少なくとも一部を演算するステップと、
当該演算された人体の輪郭の少なくとも一部から形状特徴を算出するステップと、
当該形状特徴に基づいて前記人体の断面における筋肉面積を推定するステップと
を含む筋肉面積推定方法。
【請求項8】
筋肉面積を推定する制御部と、
複数のCTサンプル画像を記憶する記憶部と、を備え、
前記制御部は、前記複数のCTサンプル画像から、少なくとも前記推定された筋肉面積に対応する1枚のCTサンプル画像を表示部に表示する筋肉面積推定システム。
【請求項9】
筋肉面積を推定する制御部と、
複数のCTサンプル画像を記憶する記憶部と、を備え、
前記制御部は、前記複数のCTサンプル画像から、少なくとも前記推定された筋肉面積に対応する1枚のCTサンプル画像を表示部に表示する筋肉面積推定機器。
【請求項10】
筋肉面積を推定するステップと、
記憶部に記憶された複数のCTサンプル画像から、少なくとも前記推定された筋肉面積に対応する1枚のCTサンプル画像を表示部に表示するステップと、を含む筋肉面積推定方法。」

(2)本件補正の特許請求の範囲
本件補正により補正された特許請求の範囲の記載は以下のとおりである。
「【請求項1】
人体に沿って移動させ、少なくともセンサ部を備える測定子と、
前記センサ部からの情報に基づいて演算された人体の輪郭の少なくとも一部から算出された形状特徴に基づいて、前記人体の断面における筋肉面積を推定する制御部を備える筋肉面積推定システム。
【請求項2】
前記制御部は、前記推定された筋肉面積に対応した画像を表示部に表示する、請求項1に記載の筋肉面積推定システム。
【請求項3】
複数のCTサンプル画像を記憶する記憶部を備え、
前記制御部は、前記複数のCTサンプル画像から、少なくとも前記推定された筋肉面積に対応する1枚のCTサンプル画像を表示部に表示する、請求項2に記載の筋肉面積推定システム。
【請求項4】
人体に沿って移動させ、少なくともセンサ部を備える測定子と、
前記センサ部からの情報に基づいて演算された人体の輪郭の少なくとも一部から算出された形状特徴に基づいて、前記人体の断面における筋肉面積を推定する制御部を備える機器。
【請求項5】
前記推定された筋肉面積に対応した画像が表示される表示部を備える、請求項4に記載の機器。
【請求項6】
複数のCTサンプル画像を記憶する記憶部を備え、
前記制御部は、前記複数のCTサンプル画像から、少なくとも前記推定された筋肉面積に対応する1枚のCTサンプル画像を表示部に表示する、請求項5に記載の機器。
【請求項7】
少なくともセンサ部を備える測定子を人体に沿って移動させるステップと、
制御部により、前記センサ部からの情報に基づいて人体の輪郭の少なくとも一部を演算するステップと、
当該演算された人体の輪郭の少なくとも一部から形状特徴を算出するステップと、
当該形状特徴に基づいて前記人体の断面における筋肉面積を推定するステップと
を含む筋肉面積推定方法。」(下線は補正箇所である。)

2 補正の適否
(1)補正の目的について
ア 請求項1について
(ア)上記1で記載したとおり、請求項1についての本件補正は、本件補正前の「人体の輪郭の少なくとも一部から算出された形状特徴に基づいて、前記人体の断面における筋肉面積を推定する制御部を備える筋肉面積推定システム。」に、「人体に沿って移動させ、少なくともセンサ部を備える測定子」との特定事項を追加することを含むものである。

(イ)判断
a 限定的減縮について
本件補正前の請求項1に係る発明は、「人体の輪郭の少なくとも一部から算出された形状特徴に基づいて、前記人体の断面における筋肉面積を推定する制御部」との「制御部」についての発明特定事項はあるが、特許法第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項として「測定子」についての事項はない発明である。
「制御部」と「測定子」とは、それらの機能、発揮する作用等が異なるものであり、両者は発明特定事項として概念が異なるものである。
してみれば、本件補正前の請求項1に係る発明に、「人体に沿って移動させ、少なくともセンサ部を備える測定子」との発明特定事項を追加することは、「システム」に「制御部」とは別の概念の「測定子」との発明特定事項を追加するものであるから、本件補正前の請求項における発明特定事項を概念的により下位の発明特定事項とすることにはならない。
よって、本件補正前の請求項1に係る発明に、「人体に沿って移動させ、少なくともセンサ部を備える測定子」との発明特定事項を追加することは、特許法第17条の2第5項第2号の括弧書きの特許法第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものには該当しないことから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる事項を目的とするものには該当しない。

b その余の目的について
本件補正前の請求項1に係る発明に、「人体に沿って移動させ、少なくともセンサ部を備える測定子」との発明特定事項を追加することは、特許法第17条の2第5項第1号に掲げる請求項の削除、同項第3号に掲げる誤記の訂正、同項第4号に掲げる明りょうでない記載の釈明のいずれにも該当しないことは明かである。

(ウ)小括
したがって、請求項1についての本件補正は、特許法第17条の2第5項第1号ないし4号のいずれに掲げる事項を目的とするものに該当しない。

イ 請求項4及び7について
請求項4及び7についての本件補正は、上記1で記載したとおり、請求項4については、「人体に沿って移動させ、少なくともセンサ部を備える測定子」との発明特定事項を追加することを含むものであり、請求項7については「少なくともセンサ部を備える測定子を人体に沿って移動させるステップ」との発明特定事項を追加することを含むものであるが、これらは、上記ア(イ)のaで述べたとおり、前者については「制御部」とは別の概念の「人体に沿って移動させ、少なくともセンサ部を備える測定子」との発明特定事項を追加するもの、後者については「演算するステップ」「算出するステップ」「推定するステップ」とは別の概念の「少なくともセンサ部を備える測定子を人体に沿って移動させるステップ」との発明特定事項を追加するものであるから、本件補正前の請求項における発明特定事項を概念的により下位の発明特定事項とすることにはならない。
よって、特許法第17条の2第5項第2号の括弧書きの特許法第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものには該当しないことから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる事項を目的とするものには該当せず、さらに、特許法第17条の2第5項第1号に掲げる請求項の削除、同項第3号に掲げる誤記の訂正、同項第4号に掲げる明りょうでない記載の釈明のいずれにも該当しないことは明かである。
したがって、請求項4及び7についての本件補正も、特許法第17条の2第5項第1号ないし4号のいずれに掲げる事項を目的とするものに該当しない。

ウ 補正の目的のまとめ
以上のことから、本件補正は、特許法第17条の2第5項第1号ないし4号のいずれに掲げる事項を目的とするものに該当しない。

(2)独立特許要件について
本件補正は、上記(1)で述べたとおり、特許法第17条の2第5項第1号ないし4号のいずれに掲げる事項を目的とするものに該当しないものであると判断したが、念のため、仮に、請求項1及び4について「人体に沿って移動させ、少なくともセンサ部を備える測定子」の発明特定事項を追加すること、請求項7について「少なくともセンサ部を備える測定子を人体に沿って移動させるステップ」の発明特定事項を追加することを、いわゆる限定的減縮、すなわち特許法第17条の2第5項第2号に掲げる事項を目的とするものに該当するものとし、本件補正後の上記1(2)で摘記した請求項1に記載された発明(以下「補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、特に、原査定の拒絶の理由である特許法第36条第6項第1号に規定する要件(いわゆるサポート要件)を満たしているかどうかについて主に検討する。

ア 発明の詳細な説明の記載
(ア)発明の詳細な説明には、補正発明の課題及びそれを解決するための手段として、
「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、CT及び生体インピーダンス法を用いた測定は、測定できる施設が限られている。
【0005】
上記のような課題に鑑みてなされた本発明の目的は、簡易的な手法により筋肉面積を推定できる筋肉面積推定システム、機器、及び筋肉面積推定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した諸課題を解決すべく、本発明に係る筋肉面積推定システムは、自機の向き情報を得る第1のセンサ部及び自機の移動情報を得るためのデバイス部を備える測定子と、前記向き情報及び前記移動情報に基づいて演算された人体の輪郭の少なくとも一部から算出された形状特徴に基づいて、前記人体の断面における筋肉面積を推定する制御部とを備える。」と記載され、人体の輪郭を測定する実施形態として、
「【0065】
次に、図5、図6を用いて、実施形態に係るスマートフォン1による腹部断面の輪郭の測定について説明する。
【0066】
図5は実施形態に係る腹部断面の輪郭の測定の様子を示す模式図である。
【0067】
図6は実施形態に係る腹部断面の輪郭の測定フロー図である。
【0068】
ステップS101で、利用者は断面の輪郭測定の測定アプリケーション9Zを起動させる。次に、ステップS102で測定を開始する。測定開始時、スマートフォン1は、断面の輪郭を測定する腹部のいずれかの位置に、腹部60の表面に対して当てられる。本実施形態では、利用者のへその高さ(図5のA-Aで図示した位置)における断面の輪郭の測定を示す。断面の輪郭の測定に支障がない範囲で、スマートフォン1は、腹部60の表面へ接触させてもよいし、腹部60の表面へ着衣を介して当ててもよい。測定開始位置は腹部A-A位置のどこから開始してもよく、スマートフォン1にあらかじめ設定された開始アクションを行い、測定を開始する。あらかじめ設定された開始アクションは、スマートフォン1のいずれかのボタン3を押すことでもよいし、タッチスクリーン2B上の特定の位置をタップするなどでもよい。スマートフォン1の腹部の表面へ当てられる対向面は、フロントフェイス1A、バックフェイス1B、サイドフェイス1C1?1C4のどの面でもよいが、操作性を考慮し、本実施形態ではバックフェイス1Bを対向面とした。
【0069】
ステップS103で、利用者は腹部60のA-A位置の表面に沿ってスマートフォン1を移動させ、腹部60を一周させる。ここで、スマートフォン1の移動は、腹部60の表面に対して当てたままで、一定速度で移動させると、各情報の取得間隔が一定となり、輪郭測定の精度を高めることができる。
【0070】
ステップS103では、あらかじめプログラムされた条件で、方位センサ17により向き情報を取得し、加速度センサ16により移動情報を取得する。向き情報と移動情報とは複数回取得される。向き情報と移動情報は、タイマー11から出力されたクロック信号に従って取得される。各情報の取得周期は測定対象部の断面の大きさや複雑さによって、適宜選択される。情報の取得周期は、例えばサンプリング周波数5?60Hz(ヘルツ)の中から適宜選択される。取得された向き情報と移動情報の情報は、スマートフォン1の内部に一時的に記憶される。この測定はステップS102の開始から、ステップS104の終了まで連続して実行される。
【0071】
利用者は、スマートフォン1を腹部60の表面に対して当てたまま一周させたところで、スマートフォン1にあらかじめ設定された終了アクションを行い、測定を終了する(ステップS104)。あらかじめ設定された終了アクションは、スマートフォン1のいずれかのボタン3を押すことでもよいし、タッチスクリーン2B上の特定の位置をタップすることでもよい。あるいは、スマートフォン1の方位センサ17で取得された向き情報が、測定開始時の向き情報と一致した場合、または測定開始時の向き情報から360度変化した場合を一周と自動認識し、スマートフォン1が測定を終了させてもよい。自動認識の場合、利用者は終了アクションを行う必要がなく、測定はより簡略化される。
【0072】
スマートフォン1は、ステップS103にて得られた向き情報と移動情報とを、ステップS105において演算する。この演算はコントローラ10によって行われる。コントローラ10は、利用者の腹部の断面の輪郭及び腹囲を演算する。ステップS105における演算については後に詳述する。
【0073】
スマートフォン1は、ステップS105にて演算した結果を、ステップS106において出力する。演算した結果の出力は、例えばディスプレイ2Bへの表示、サーバへの送信など種々の方法が挙げられる。スマートフォン1は、腹部の断面の輪郭及び腹囲の演算結果の出力が終了すると、フローを終了する。
【0074】
本実施形態では、スマートフォン1はバックフェイス1Bを腹部に当て、y軸方向に移動する。このような場合、方位センサ17は、スマートフォン1のy軸方向の向きを測定できる1軸のセンサであればよい。加速度センサ16は、y軸方向の移動量が測定できる1軸のセンサであればよい。
【0075】
次に図7?図9を用いて断面の輪郭の演算方法について、スマートフォン1を例に挙げ
て説明する。
【0076】
図7は実施形態に係る向きと移動量との一例を示す。
【0077】
図7(a)(b)の横軸は時間で、測定開始から測定終了までの時間を示す。時間はタイマー11が出力するクロック信号によりカウントされる。腹部の1周をTn秒で測定した場合、測定開始は0秒、測定終了はTn秒である。スマートフォン1は、0?Tn秒の間に、あらかじめ決められた取得周期で向き情報、移動情報を取得する。nはレコード番号を表す整数である。
【0078】
図7(a)は、横軸に時間、縦軸にスマートフォン1の方位を示す。横軸のスマートフォン1の方位は、方位センサ17で取得された向き情報である。第1のセンサ部として方位センサ17を採用する本実施形態では、向き情報をスマートフォン1の方位とする。スマートフォン1の方位は、0?360度の角度で表わされる。スマートフォン1の方位は、測定の最初の向きから360度の変化した状態で、1周と判定される。本実施形態では、わかりやすくするために、測定の最初の向きを0度と設定したので、1周後の向きは360度となる。
【0079】
図7(b)は、横軸に時間、縦軸にスマートフォン1の移動量を示す。縦軸のスマートフォン1の移動量は、加速度センサ16で取得された移動情報に基づいて演算されたものである。本実施形態のスマートフォン1の移動情報は、加速度センサ16で取得された加速度データである。移動量はコントローラ10によって演算されたものであり、加速度データを2回時間積分して演算される。加速度データのノイズが大きい場合は、デジタルフィルタ処理を行ってもよい。デジタルフィルタは、例えばローパスフィルタ、バンドパスフィルタ等がある。測定終了時のスマートフォン1の移動量は、測定対象部の周りの長さに相当し、本実施形態では腹囲である。腹囲は、スマートフォン1内での加速度センサ16の配置を考慮して演算されることが好ましい。すなわち、本実施形態では、腹部60の表面へ当てられる対向面であるバックフェイス1Bと、加速度センサ16との間隔を、あらかじめ考慮し移動量を補正し、正しい腹囲を演算する。
【0080】
本実施形態では、方位と移動量が同一時間Tnで測定された場合を示したが、方位と移動量はそれぞれ異なる時間Ta、Tbで測定されてもよい。その場合、図7(a)の横軸はTaで規格化した規格化時間0?1を用い、図7(b)の横軸はTbで規格化した規格化時間0?1を用い、互いの横軸の数値をそろえておくことが好ましい。
【0081】
図8は取得された情報から構成されたレコードの一例である。
【0082】
測定開始時をレコード番号R0、測定終了時をレコード番号Rnとした。各レコードは、時間に対応する向き情報と移動情報とが1対で格納されている。さらに各レコードは、移動情報に基づいて演算された移動量が格納されている。方位センサを用いた本実施形態では、向き情報はスマートフォン1の向いている方位である。1対で構成された向き情報及び移動情報に基づいて演算された方位及び移動量は、図7(a)(b)の同一時間に取得された情報である。または同一規格化時間に取得された情報である。各レコードの時間間隔は等間隔でなくてもよい。また、1対のレコードは同一時間に取得された情報であることが断面の輪郭の測定の正確性から好ましいが、多少の時間のずれがあってもよい。時間のずれがある場合、コントローラ10は、時間のずれを無視してもよいし、一方のレコードから他方の時間に対応する情報を演算してもよい。
【0083】
図9は演算された断面の輪郭を示す図である。」と記載され、その効果として、
「【0092】
以上説明した通り、本実施形態に係る機器においては、スマートフォン1に内蔵されたセンサにより対象部の断面の輪郭の測定ができる。スマートフォン1は、CTなどの測定装置に比べて小型である。スマートフォン1は、短時間に断面の輪郭を測定できる。スマートフォン1は、利用者自身でデータの測定ができるので、測定が簡便である。スマートフォン1は、CTなどでは困難な機器の持ち運びが容易である。スマートフォン1は、利用者自身でデータの蓄積ができるので、日々の変化が容易に確認できる。スマートフォン1は、測定時に放射線被爆の恐れが少ない。」と記載されている。

(イ)図7、8及び9として以下の図面が記載されている。
【図7】

【図8】

【図9】


(ウ)さらに、上記演算された断面の輪郭から、筋肉面積を推定することについて、
「【0132】
スマートフォン1はステップS116の補正の後に、断面の輪郭の特徴係数を抽出する(ステップS117)。本実施形態では、輪郭の特徴を抽出する方法は、フーリエ解析を用いる。断面の輪郭の半周部分の曲線、または反転閉曲線をフーリエ解析することで、フーリエ係数を求めることができる。周知のように、曲線をフーリエ解析したときに求められる各次数のフーリエ係数は曲線の特徴を示す係数として用いられる。何次のフーリエ係数を特徴係数とするかは、後に詳述する各推定式の作成の際に決められており、本実施形態では筋肉面積に影響するフーリエ係数Sa_(1)、Sa_(2)、Sa_(3)、Sa_(4)を輪郭の特徴係数として抽出する。各推定式を作成の際に、推定式の独立変数を主成分とした場合は、主成分を特徴係数として抽出してもよい。
【0133】
スマートフォン1はあらかじめ求められた筋肉面積推定式に、ステップS117で抽出した特徴係数Sa_(1)?Sa_(4)を代入して、利用者の筋肉面積Aを推定する(ステップS118)。筋肉面積推定式の一例を数式1に示す。
【0134】
【数1】

【0135】
筋肉面積推定式の作成方法については後に詳述する。」と記載され、筋肉面積推定式の作成方法について、
「【0142】
ステップS121で、作成者は推定式の作成を実行する。ステップS122で、推定式の作成者は事前に取得された所定の人数分のサンプルデータをコンピュータに入力する。サンプルデータは所定の人数のサンプル被験者から取得されたデータである。一人の被験者のサンプルデータは、CTで得た筋肉面積、巻尺等で測定された腹囲、スマートフォン1で取得された向き情報、移動情報から少なくとも構成される。所定の人数とは、統計的に十分な人数であればよい。被験者は、例えば性別、人種、年齢層等の条件を一定にすると、より推定の精度が向上する。
【0143】
次に、コンピュータは入力された腹囲、向き情報、移動情報から断面の輪郭の半周部分を演算する(ステップS123)。さらに演算された断面の輪郭の半周部分の補正を行う(ステップS124)。ステップS123及びステップS124は、前述のステップS115及びステップS116と同じ処理であるので、詳細の説明は省略する。
【0144】
次に、演算、補正された断面の輪郭の半周部分曲線、または反転閉曲線のフーリエ解析を行う(ステップS125)。断面の輪郭をフーリエ解析することで、複数のフーリエ係数を求めることができる。周知のように、曲線をフーリエ解析して得られる各次数のフーリエ係数は、曲線の特徴を表す係数として用いられる。本実施形態では、所定の人数分のサンプルデータのフーリエ解析を行い、X軸、Y軸、及びそれらの1?k次(kは任意の整数)のフーリエ係数を求める。さらに、フーリエ係数は、周知の主成分分析を行い、その次元数を削減しておいてもよい。なお、主成分分析とは、多変量データ(本実施形態では複数のフーリエ係数)に共通な成分を探って、一種の合成変数(主成分)を作り出す分析手法であり、さらに少ない変数で曲線の特徴を表現することができる。
【0145】
次に、ステップS125で求められた複数のフーリエ係数(または主成分)とCTで得た筋肉面積とで回帰分析を行う(ステップS126)。回帰分析とは、結果となる数値と要因となる数値の関係を調べて、それぞれの関係を明らかにする統計的手法の一つである。フーリエ係数(または主成分)を独立変数として、CTで得た筋肉面積を従属変数として、所定の人数のサンプル被験者のデータを用いて回帰分析を行い、筋肉面積推定式を作成する。」と記載されている。

イ サポート要件について
(ア)上記アで摘記した発明の詳細な説明には、CT法、生体インピーダンス法等では持ち運びが困難な機器を伴うことから簡易的に筋肉面積推定を推定できないという課題を解決するために、具体的には、スマートフォンを用いて、方位センサにより向き情報を取得し、加速度センサにより移動情報を取得することにより、断面の輪郭を演算し、断面の輪郭から特徴係数(Sa_(1)、Sa_(2)、Sa_(3)、Sa_(4))を抽出し、その特徴係数を上記【数1】に代入することにより、利用者の筋肉面積を推定するという技術的事項が開示されており、この技術的事項を【課題を解決するための手段】として、上記【0006】に「上述した諸課題を解決すべく、本発明に係る筋肉面積推定システムは、自機の向き情報を得る第1のセンサ部及び自機の移動情報を得るためのデバイス部を備える測定子と、前記向き情報及び前記移動情報に基づいて演算された人体の輪郭の少なくとも一部から算出された形状特徴に基づいて、前記人体の断面における筋肉面積を推定する制御部とを備える。」と記載されている。
一方、補正発明は、上記1(2)で摘記したとおり「人体に沿って移動させ、少なくともセンサ部を備える測定子と、前記センサ部からの情報に基づいて演算された人体の輪郭の少なくとも一部から算出された形状特徴に基づいて、前記人体の断面における筋肉面積を推定する制御部を備える筋肉面積推定システム。」と記載され、「測定子」が、「人体に沿って移動させ、少なくともセンサ部を備える」ものと特定されているものの、それが「向き情報を得る手段」及び「移動情報を得る手段」を備えるものであることが特定されていない。

(イ)検討
上記アの(ア)(イ)で摘記したように、発明の詳細な説明に「人体に沿って移動させ、少なくともセンサ部を備える測定子」として記載されているのは、方位センサにより向き情報を取得し、加速度センサにより移動情報を取得するスマートフォン、すなわち「向き情報を得る手段」及び「移動情報を得る手段」を備える「測定子」のみであり、「人体の輪郭」を「演算」するための「情報」を提供する「人体に沿って移動させ、少なくともセンサ部を備える測定子」として、それ以外のものは記載されていない。
また、「人体の輪郭」を「演算」するための「情報」を提供する「人体に沿って移動させ、少なくともセンサ部を備える測定子」として、「向き情報を得る手段」及び「移動情報を得る手段」の両方の手段を有していることによって、上記アの(ア)(イ)に記載されているように、人体の断面の輪郭が得られるものであり、「向き情報を得る手段」又は「移動情報を得る手段」のどちから一方からの「情報」だけからは、人体の断面の輪郭は得られないものである。例えば、「人体に沿って移動させ、少なくともセンサ部を備える測定子」として電子巻尺のようなものもあるが、それは移動情報は得られるが、向き情報が得られないため、輪郭を演算することはできない。
さらに、「向き情報を得る手段」及び「移動情報を得る手段」の両方を備えていない「人体に沿って移動させ、少なくともセンサ部を備える測定子」から、人体の断面の輪郭が得られるという技術常識も本願の遡及する出願日である平成26年12月22日(以下「出願時」という。)に存在していたとはいえない。
してみれば、発明の詳細な説明の記載から、「向き情報を得る手段」及び「移動情報を得る手段」の両方を備えていない「人体に沿って移動させ、少なくともセンサ部を備える測定子」にまで拡張ないし一般化できるものではなく、「向き情報を得る手段」及び「移動情報を得る手段」の両方を備えていない「人体に沿って移動させ、少なくともセンサ部を備える測定子」では、課題を解決できると認識できる範囲のものとはいえない。

(ウ)小括
よって、補正発明は、発明の詳細な説明に記載したものとはいえないことから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしているとはいえない。

明確性について
(ア)原査定の理由とはなっていないものの、追補的に、補正発明の「演算された人体の輪郭の少なくとも一部から算出された形状特徴に基づいて、前記人体の断面における筋肉面積を推定する」ことについても検討しておく。
発明の詳細な説明においては、上記ア(ウ)の【0132】?【0134】に記載されているように、断面の輪郭から特徴係数(Sa_(1)、Sa_(2)、Sa_(3)、Sa_(4))を抽出し、その特徴係数を上記【数1】に代入することにより、利用者の筋肉面積を推定しており、当該記載からは、上記補正発明における「形状特徴」は、発明の詳細な説明における「特徴係数」のことをいっているようにも考えられる。
一方、上記ア(ウ)の【0142】?【0145】の筋肉推定式の作成方法を参照するに、【数1】の係数である「20.9」、「108.2」、「345.2」、「72.6」及び「224.5」は、サンプル被検者の人体の輪郭をフーリエ解析をして得た各次数のフーリエ係数とCTで得た筋肉面積とで回帰分析を行うことにより求められたものであるから、「筋肉面積を推定する」際に「基づ」く「人体の輪郭の少なくとも一部から算出された形状特徴」とは、サンプル被検者から求めた【数1】の上記具体的な数値である係数のことをいっているようにも考えられる。
さらには、特徴係数(Sa_(1)、Sa_(2)、Sa_(3)、Sa_(4))と【数1】の係数の両者をまとめて「形状特徴」といっているとの解釈も否定できない。
してみれば、補正発明における「形状特徴」の技術的意味は、一義的に解されないことから不明確である。

(イ)小括
よって、補正発明における「形状特徴に基づいて、前記人体の断面における筋肉面積を推定する」ことは、技術的に不明確であることから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしているとはいえない。

3 本件補正についてのまとめ
以上のとおり、本件補正は、上記2(1)で述べたとおり、特許法第17条の2第5項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
加えて、請求項1、4及び7についての補正が、いわゆる限定的減縮、すなわち特許法第17条の2第5項第2号に掲げる事項を目的とするものに該当するものとしても、上記2(2)で述べたとおり、補正発明が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件あるいは特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしているとはいえず、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?10に係る発明は、平成29年10月31日になされた手続補正により補正された特許請求の範囲である上記第2の1(1)に記載したとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、以下のとおりである。
「明細書の発明の詳細な説明には、コンピュータ断層撮影や生体インピーダンス法を用いた測定のように、測定できる施設が限られることのないように、簡易的な手法により筋肉面積を推定できる筋肉面積推定システム、機器、及び筋肉面積推定方法を提供することを課題として、
自機の向き情報を得る第1のセンサ部及び自機の移動情報を得るためのデバイス部を備える測定子と、前記向き情報及び前記移動情報に基づいて演算された人体の輪郭の少なくとも一部から算出された形状特徴に基づいて、前記人体の断面における筋肉面積を推定する制御部とを備える筋肉面積推定システム、
自機の向き情報を得る第1のセンサ部と、自機の移動情報を得るためのデバイス部と、前記向き情報及び前記移動情報に基づいて演算された人体の輪郭の少なくとも一部から算出された形状特徴に基づいて、前記人体の断面における筋肉面積を推定する制御部とを備える機器、
自機の向き情報及び自機の移動情報を得るステップと、制御部により、前記向き情報及び前記移動情報に基づいて人体の輪郭の少なくとも一部を演算するステップと、当該演算された人体の輪郭の少なくとも一部から形状特徴を算出するステップと、当該形状特徴に基づいて前記人体の断面における筋肉面積を推定するステップとを含む筋肉面積推定方法、
の各発明が記載されている。
ところが、平成29年10月31日付け手続補正書による特許請求の範囲の補正により補正された請求項1?10に係る発明では、人体の輪郭を測定する機器、方法について特定されていない。そして、その上、請求項8?10では、筋肉面積を如何にして推定するのかについて特定がない。そうすると、請求項1?10に係る発明は、コンピュータ断層撮影など、出願人のいう測定できる施設が限られる機器によって人体の輪郭を測定したり、筋肉面積を推定したりすることを含むものであり、これでは、上記出願人のいう課題が解決できないことは明らかである。
したがって、請求項1?10には、発明の詳細な説明に記載された、発明の課題を解決するための手段が反映されておらず、請求項1?10に係る発明は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えることとなる。
よって、依然として、請求項1?10に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。」ということを述べ、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないことを原査定の拒絶の理由としたものである。

3 当審の判断
(1)請求項1に係る発明について
請求項1に係る発明は、上記第2の1で記載したとおり、補正発明の「人体に沿って移動させ、少なくともセンサ部を備える測定子と、前記センサ部からの情報に基づいて演算された人体の輪郭の少なくとも一部から算出された形状特徴に基づいて、前記人体の断面における筋肉面積を推定する制御部を備える筋肉面積推定システム。」から、その下線部を削除した「人体の輪郭の少なくとも一部から算出された形状特徴に基づいて、前記人体の断面における筋肉面積を推定する制御部を備える筋肉面積推定システム。」であることから、上記第2の2(2)イ「サポート要件について」で述べた検討内容が該当し、発明の詳細な説明に記載したものとはいえない。
そもそも、請求項1に係る発明は、補正発明に対して「人体に沿って移動させ、少なくともセンサ部を備える測定子」すら備えていないものも含むのであるから、「人体の輪郭」には、「人体に沿って移動させ、少なくともセンサ部を備える測定子」でないもの、例えば、CT(コンピュータ断層撮影)、MRI等から求めた人体の輪郭も含まれることになり、このようなCT、MRI等は大がかり機器を伴い簡易的な手法とはいえないことから、課題を解決できると認識できる範囲のものとはいえない。
よって、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものとはいえず、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしているとはいえない。

(2)請求項4及び7について
請求項4及び7に係る発明についても、上記第2の1で記載したとおり、前者については「人体に沿って移動させ、少なくともセンサ部を備える測定子と、前記センサ部からの情報に基づいて演算された」を、後者については「少なくともセンサ部を備える測定子を人体に沿って移動させるステップと」「前記センサ部からの情報に基づいて」との発明特定事項を削除したものであるから、上記第2の2(2)イ「サポート要件について」で述べた検討内容が該当すると同時に、それらは上記(1)で述べたように、CT、MRI等から求めた人体の輪郭も含まれることになり、このようなCT、MRI等は大がかり機器を伴い簡易的な手法とはいえないことから、課題を解決できると認識できる範囲のものとはいえない。
よって、請求項4及び7に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものとはいえず、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしているとはいえない。

(3)請求項8?10について
上記第2の1(1)で記載したとおり、筋肉面積を推定することについて、請求項8及び9に係る発明は「筋肉面積を推定する制御部」、請求項10に係る発明は「筋肉面積を推定するステップ」としか特定されていないことから、上記(1)で述べたCT、MRIなどによる方法の他、人体の輪郭が求まらないインピーダンス法等によって筋肉面積を推定することも含まれることになり、これらのCT、MRI、インピーダンス法等は、大がかり機器を伴い簡易的な手法とはいえないことから、課題を解決できると認識できる範囲のものとはいえない。

(4)小括
よって、請求項1、4、7及び8?10に係る発明、並びに請求項1又は4に従属する請求項2、3、5及び6は、原査定のとおり、発明の詳細な説明に記載したものでないことから、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

第4 むすび
以上のとおり、本願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないことから、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり、審決する。
 
審理終結日 2019-05-16 
結審通知日 2019-05-21 
審決日 2019-06-03 
出願番号 特願2016-207861(P2016-207861)
審決分類 P 1 8・ 572- Z (A61B)
P 1 8・ 537- Z (A61B)
P 1 8・ 575- Z (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 門田 宏  
特許庁審判長 伊藤 昌哉
特許庁審判官 三崎 仁
信田 昌男
発明の名称 筋肉面積推定システム、機器、及び筋肉面積推定方法  

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