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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A61B
管理番号 1353674
審判番号 不服2018-10148  
総通号数 237 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-09-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-07-25 
確定日 2019-08-06 
事件の表示 特願2013-178036「超音波診断装置及びその制御プログラム」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 3月12日出願公開、特開2015- 43928、請求項の数(10)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年8月29日の出願であって、平成29年7月13日付けで拒絶理由が通知され、同年10月25日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成30年3月16日付けで拒絶査定されたところ、同年7月25日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に手続補正がなされたものである。

第2 原査定の概要
原査定(平成30年3月16日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

本願請求項1-10に係る発明は、以下の引用文献1-2に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開2009-183360号公報
2.特開2005-111258号公報

第3 審判請求時の補正について
審判請求時の補正は、特許法第17条の2第3項から第6項までの要件に違反しているものとはいえない。
審判請求時の補正によって請求項1、2、6、10の「対象領域」との記載を「腫瘤の領域」とする補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるか、また、「対象領域」を「腫瘤の領域」とする補正は、新規事項を追加するものではないかについて検討する。「対象領域」を「腫瘤の領域」とすることは、上位概念から下位概念へ変更する補正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また、本願明細書段落【0014】には、「前記対象領域は、本例では被検体における腫瘤の領域であり」と記載されていることから、「腫瘤の領域」が「対象領域」であることは当初明細書等に記載された事項であり、「対象領域」を「腫瘤の領域」とする補正は、新規事項を追加するものではない。

そして、「第4 本願発明」から「第6 対比・判断」までに示すように、補正後の請求項1-10に係る発明は、独立特許要件を満たすものである。

第4 本願発明
本願請求項1-10に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明10」という。)は平成30年7月25日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-10に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1は以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
被検体のBモード画像において、前記被検体における腫瘤の領域の輪郭を特定する対象特定部と、
前記被検体に投与された造影剤が強調された造影画像であって、前記被検体の前記Bモード画像と同一断面の造影画像において、前記腫瘤の領域の輪郭の内側の染影部分と前記腫瘤の領域の輪郭の外側の染影部分とで異なる表示形態の画像を表示させる表示画像制御部と、
を備えることを特徴とする超音波診断装置。」

なお、 本願発明2-10の概要は以下のとおりである。

本願発明2-9は、それぞれ本願発明1を減縮した発明である。

本願発明10は、本願発明1に対応するプログラムの発明として書き直したものである。

第5 引用文献、引用発明等

1.引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(特開2009-183360号公報)には、次の事項が記載されている。(下線は、当審で付した。以下同様)

(引1ア)
「【実施例】
【0014】
まず、本実施例に係る超音波診断装置が表示する合成画像について説明する。本実施例に係る超音波診断装置は、造影超音波において時相の異なる3つのデータを収集し、合成画像を生成して表示する。図1は、本実施例に係る超音波診断装置が表示する合成画像を説明するための説明図である。
【0015】
図1(a)は、造影剤注入前または注入直後のBモード画像「D1」を示し、図1(b)は、造影剤注入後の動脈相におけるBモード画像「D2」を示し、図1(c)は、造影剤注入後の後期相におけるBモード画像「D3」を示す。
【0016】
これらの画像は、それぞれ異なる特徴を有する。「D1」は通常のBモード画像であり、本実施例において基準となる画像である。「D2」は動脈相のBモード画像であり、「D1」に対して動脈23が高信号となっている。「D3」は後期相のBモード画像であり、実質21がやや高信号、腫瘍22が低信号となっている。
【0017】
そして、本実施例に係る超音波診断装置は、「D2」と「D1」の差分から動脈23を強調した画像「D4」を生成する。また、「D3」の輝度値を反転して腫瘍22を強調した画像「D5」を生成する。そして、「D4」と「D5」を合成して表示する。この時、腫瘍内血流と腫瘍外血流を色分けして表示する。
【0018】
このように、本実施例に係る超音波診断装置は、動脈23を強調した画像「D4」および腫瘍22を強調した画像「D5」を生成し、「D4」と「D5」を合成して表示する。この時、腫瘍内血流と腫瘍外血流を色分けして表示する。したがって、腫瘍と血流動態を同時観察可能とすることができる。また、腫瘍内の血流動態を容易に観察可能とすることができる。
【0019】
次に、本実施例に係る超音波診断装置の構成について説明する。図2は、本実施例に係る超音波診断装置の構成を示す機能ブロック図である。同図に示すように、この超音波診断装置は、超音波プローブ1と、超音波送信部2と、超音波受信部3と、受信信号処理部4と、データ記憶部5と、三次元画像データ生成部6と、差分画像生成部7と、画像合成部8と、表示制御部9と、システム制御部10、モニタ11とを有する。
【0020】
超音波プローブ1は、被検体の二次元あるいは三次元領域に対して超音波パルスを送信し、被検体から得られる超音波反射波を電気信号に変換する複数の圧電振動素子(以下、振動素子と記す)を備える。超音波送信部2は、被検体の所定方向に対して超音波パルスを送信するための駆動信号を超音波プローブ1の振動素子に供給する。
【0021】
超音波受信部3は、超音波プローブ1の振動素子から得られる複数チャンネルの信号を受信する。受信信号処理部4は、超音波受信部3で得られる受信信号を信号処理してBモードデータを生成し、生成したデータをデータ記憶部5に格納する。データ記憶部5は、受信信号処理部4で得られるBモードデータを一次的に記憶・保持する。
【0022】
三次元画像データ生成部6は、データ記憶部5に記憶・保持されたBモードデータから三次元画像データを生成する。差分画像生成部7は、三次元画像データ生成部6で生成される異なる2つの三次元画像データを用い、ボクセルごとに減算を行って差分画像を生成する。また、この差分画像生成部7は、三次元画像データ生成部6で生成される三次元画像の輝度を反転する処理も行う。なお、この差分画像生成部7は、生成した差分画像および輝度を反転した画像をデータ記憶部5に格納することなく、画像合成部8に渡す。
【0023】
画像合成部8は、三次元画像データ生成部6および差分画像生成部7で得られる複数の三次元画像データを合成する。表示制御部9は、画像合成部8で生成された合成画像をモニタ11に表示する。システム制御部10は、超音波診断装置全体の制御を行い、超音波診断装置を一つの装置として機能させる。
【0024】
次に、本実施例に係る超音波診断装置によるデータ収集について説明する。図3は、本実施例に係る超音波診断装置によるデータ収集を説明するための説明図である。同図に示すように、本実施例に係る超音波診断装置は、被検体への造影剤注入直後に「D1」用の三次元データを収集する(ステップS1)。なお、「D1」用のデータ収集は造影剤注入前でもよい。
【0025】
そして、動脈相における画像「D2」用の三次元データを収集する(ステップS2)。そして、後期相における画像「D3」用の三次元データを収集する(ステップS3)。なお、「D1」、「D2」、「D3」の収集タイミングは、ユーザ入力によって与えても良いし、予め定められた造影プロトコルに従って計算される収集タイミングを使って自動的に与えても良い。
【0026】
次に、本実施例に係る超音波診断装置による合成画像表示処理の処理手順について説明する。図4は、本実施例に係る超音波診断装置による合成画像表示処理の処理手順を示すフローチャートである。同図に示すように、この合成画像表示処理では、三次元画像データ生成部6がデータ記憶部5からデータを読み出して三次元画像「D1」と「D2」を生成し、差分画像生成部7が「D1」と「D2」から差分画像「D4」を生成する(ステップS11)。
【0027】
具体的には、差分画像生成部7は、「D2」の各ボクセルに割り当てられたボクセル値から、「D1」の対応する各ボクセルに割り当てられたボクセル値を減算する。この操作により、「D2」において高信号となる動脈部分だけが強調された三次元画像を生成することができる。
【0028】
そして、三次元画像データ生成部6がデータ記憶部5からデータを読み出して三次元画像「D3」を生成し、差分画像生成部7が「D3」に対して、低信号部分が強調される表示となるようにデータ変換を施す(ステップS12)。すなわち、表示輝度を反転した画像「D5」を生成する。これは、「D3」においては、関心領域である肝腫瘍が低信号、それ以外の肝実質がやや高信号となっているためで、データ変換を施すことで、関心領域である肝腫瘍が強調される表示となる。
【0029】
そして、画像合成部8が「D4」と「D5」を合成して合成画像を生成し(ステップS13)、表示制御部9が合成画像をモニタ11に表示する(ステップS14)。図5は、合成画像の一部を拡大した図である。画像合成部8は、画像を合成する際に、腫瘍栄養血管24を腫瘍内と腫瘍外で色が異なって表示されるように画像を合成する。図5では、腫瘍栄養血管24は腫瘍内と腫瘍外で異なる明るさで表示されているが、実際のカラー画像では、異なる色で表示される。
【0030】
図6は、画像合成部8による腫瘍栄養血管24の合成方法を説明するための説明図である。同図は、横軸に「D5」のボクセル値、縦軸に「D4」のボクセル値を配したグラフである。同図に示すように、「D5」のボクセル値と「D4」のボクセル値の組み合わせを示す領域が「閾値1」と「閾値2」を用いてA?Dの4つの領域に分割されている。「閾値1」は、「D5」、すなわち腫瘍画像の腫瘍部分とその他の領域を分ける値であり、画像合成部8は「閾値1」よりボクセル値が大きい領域(B、D)を腫瘍部分と判断する。
【0031】
一方で、「閾値2」は、「D4」、すなわち血管画像の血管部分とその他の領域を分ける値であり、画像合成部8は「閾値2」よりボクセル値が大きい領域(A、B)を血管部分と判断する。ここで、腫瘍内血流が領域Bとして表現される。
【0032】
図7は、画像合成部8による画像合成処理の処理手順を示すフローチャートである。同図に示すように、画像合成部8は、まず、ボクセルを一つ選択し、「D5」のボクセル値を合成画像のボクセル値とする(ステップS21)。
【0033】
そして、「D4」の同位置のボクセルのボクセル値を調べ、「D4」と「D5」のボクセル値の組み合わせが図6のB領域であるか否かを判定する(ステップS22)。その結果、B領域であれば「色1」で表示されるように合成画像のボクセル値を決定し(ステップS23)、B領域でなければ、A領域であるか否かを判定する(ステップS24)。
【0034】
その結果、A領域であれば「色2」で表示されるようにボクセル値を決定する(ステップS25)。A領域でない場合すなわちC、D領域である場合には、「D4」のボクセル値が小さい領域なので、特別の色付けを行わない。
【0035】
そして、全てのボクセルを処理したか否かを判定し(ステップS26)、処理していないボクセルがある場合にはステップS21に戻り、全てのボクセルを処理した場合には、画像合成処理を終了する。この結果、図5に示したような合成画像が得られる。
【0036】
このように、「D4」と「D5」のボクセル値の組み合わせが図6のB領域である場合とA領域である場合とで異なる色で表示されるように画像を合成することによって、腫瘍栄養血管24を腫瘍内外で異なる色で表示することができる。
【0037】
なお、ここでは、閾値処理によりボクセルが腫瘍内にあるか否かを判定して画像合成を行っているが、これ以外にも、Region Growing法などを用いて腫瘍部分を抽出し、その領域の内側・外側で「D4」の表示色を変えるようにすることもできる。
【0038】
また、ここでは、腫瘍栄養血管24を腫瘍内外で異なる色で表示することとしたが、白黒表示の場合には異なる明るさで表示するなど、他の方法で腫瘍栄養血管24を腫瘍内外で異なるように表示することもできる。
【0039】
上述してきたように、本実施例では、差分画像生成部7が動脈23を強調した三次元画像「D4」および腫瘍22を強調した三次元画像「D5」を生成し、画像合成部8が三次元画像「D4」と「D5」を合成し、表示制御部9が合成画像をモニタ11に表示することとしたので、造影超音波の特徴を生かして腫瘍と血流動態を同時に観察可能とすることができる。
【0040】
また、本実施例では、画像合成部8が画像を合成する際に腫瘍栄養血管24が腫瘍内外で異なる色で表示されるように合成することとしたので、腫瘍の悪性度を判断する上で重要な腫瘍内栄養血管の動態の観察を容易にすることができる。」

(引1イ)図1

(引1ウ)図3

(引1エ)図4

(引1オ)図5

(引1カ)図6

(引1キ)図7


したがって、上記引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

「造影剤注入前または注入直後のBモード画像「D1」、造影剤注入後の動脈相におけるBモード画像「D2」及び造影剤注入後の後期相におけるBモード画像「D3」からなる時相の異なる3つのデータを収集し、合成画像を生成して表示する超音波診断装置であって、
超音波診断装置は超音波プローブ1と、超音波送信部2と、超音波受信部3と、受信信号処理部4と、データ記憶部5と、三次元画像データ生成部6と、差分画像生成部7と、画像合成部8と、表示制御部9と、システム制御部10、モニタ11とを有しており、
超音波受信部3は、超音波プローブ1の振動素子から得られる複数チャンネルの信号を受信し、受信信号処理部4は、超音波受信部3で得られる受信信号を信号処理してBモードデータを生成し、生成したデータをデータ記憶部5に格納し、
三次元画像データ生成部6がデータ記憶部5からデータを読み出して三次元画像「D1」と「D2」を生成し、差分画像生成部7は、「D2」の各ボクセルに割り当てられたボクセル値から、「D1」の対応する各ボクセルに割り当てられたボクセル値を減算することにより、「D2」において高信号となる動脈部分だけが強調された三次元画像である画像「D4」を生成するとともに、
三次元画像データ生成部6がデータ記憶部5からデータを読み出して三次元画像「D3」を生成し、差分画像生成部7が「D3」に対して、表示輝度を反転させるデータ変換を施し、関心領域である肝腫瘍が強調された画像「D5」を生成し、
横軸に「D5」のボクセル値、縦軸に「D4」のボクセル値を配したグラフにおいて、「D5」のボクセル値と「D4」のボクセル値の組み合わせを示す領域が「閾値1」と「閾値2」を用いてA?Dの4つの領域に分割されており、画像合成部8は腫瘍画像「D5」において腫瘍部分とその他の領域を分ける「閾値1」よりボクセル値が大きい領域(B、D)を腫瘍部分と判断するとともに、血管画像「D4」において血管部分とその他の領域を分ける「閾値2」よりボクセル値が大きい領域(A、B)を血管部分と判断し、ここで、腫瘍内血流がB領域として表現され、
画像合成部8は、ボクセルを一つ選択し、「D5」のボクセル値を合成画像のボクセル値とし、「D4」の同位置のボクセルのボクセル値を調べ、「D4」と「D5」のボクセル値の組み合わせがB領域であるか否かを判定し、B領域であれば「色1」で表示されるように合成画像のボクセル値を決定し、B領域でなければ、A領域であるか否かを判定し、A領域であれば「色2」で表示されるようにボクセル値を決定する一方、A領域でない場合すなわちC、D領域である場合には、「D4」のボクセル値が小さい領域なので、特別の色付けを行わず、全てのボクセルを処理した場合には、画像合成処理を終了し、
表示制御部9が、画像合成部8が腫瘍栄養血管24を腫瘍内と腫瘍外で色が異なって表示されるように三次元画像「D4」と「D5」を合成して生成した合成画像をモニタ11に表示する
超音波診断装置」

2.引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2(特開2005-111258号公報)には、次の事項が記載されている。

(引2ア)
「【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、上記の点に鑑み、本発明は、被検体に関する画像情報に基づいて、被検体の組織に発生した腫瘍が良性であるか悪性であるかについての客観的及び定量的な診断を支援する診断支援機能を備えた超音波診断装置を提供することを目的とする。」

(引2イ)
「【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照しながら詳しく説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る超音波診断装置の構成を示すブロック図である。本実施形態に係る超音波診断装置は、超音波用探触子10と、走査制御部11と、送信遅延パターン記憶部12と、送信制御部13と、駆動信号発生部14とを含んでいる。
被検体に当接させて用いられる超音波用探触子10は、1次元又は2次元のトランスデューサアレイを構成する複数の超音波トランスデューサ10aを備えている。これらの超音波トランスデューサ10aは、印加される駆動信号に基づいて超音波ビームを送信すると共に、伝搬する超音波エコーを受信して検出信号を出力する。
【0012】
各超音波トランスデューサは、例えば、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛:Pb(lead) zirconate titanate)に代表される圧電セラミックや、PVDF(ポリフッ化ビニリデン:polyvinylidene difluoride)に代表される高分子圧電素子等の圧電性を有する材料(圧電体)の両端に電極を形成した振動子によって構成される。このような振動子の電極に、パルス状又は連続波の電気信号を送って電圧を印加すると、圧電体が伸縮する。この伸縮により、それぞれの振動子からパルス状又は連続波の超音波が発生し、これらの超音波の合成によって超音波ビームが形成される。また、それぞれの振動子は、伝搬する超音波を受信することによって伸縮し、電気信号を発生する。これらの電気信号は、超音波の検出信号として出力される。
【0013】
或いは、超音波トランスデューサとして、超音波変換方式の異なる複数種類の素子を用いても良い。例えば、超音波を送信する素子として上記の振動子を用い、超音波を受信する素子として光検出方式の超音波トランスデューサを用いるようにする。光検出方式の超音波トランスデューサとは、超音波信号を光信号に変換して検出するものであり、例えば、ファブリーペロー共振器やファイバブラッググレーティングによって構成される。
【0014】
走査制御部11は、超音波ビームの送信方向及び超音波エコーの受信方向を順次設定する。送信遅延パターン記憶部12は、超音波ビームを形成する際に用いられる複数の送信遅延パターンを記憶している。
送信制御部13は、走査制御部11において設定された送信方向に応じて、送信遅延パターン記憶部12に記憶されている複数の遅延パターンの中から所定のパターンを選択し、そのパターンに基づいて、複数の超音波トランスデューサ10aの駆動信号にそれぞれ与えられる遅延時間を設定する。
【0015】
駆動信号発生部14は、例えば、複数の超音波トランスデューサ10aにそれぞれ対応する複数のパルサによって構成されている。これらのパルサは、送信制御部13において設定された遅延時間に基づいて、駆動信号を発生する。
【0016】
また、本実施形態に係る超音波診断装置は、信号処理部20と、1次記憶部21と、受信遅延パターン記憶部22と、受信制御部23と、Bモード画像用データ生成部24と、ドプラ画像用データ生成部25と、2次記憶部26と、診断支援部27と、画像データ生成部28と、3次記憶部29と、画像処理部30と、表示部31とを含んでいる。
信号処理部20は、複数の超音波トランスデューサ10aに対応して、複数の増幅器20aと、複数のA/D変換器20bとを含んでいる。超音波トランスデューサ10aから出力される検出信号は、増幅器20aにおいて増幅され、これらの検出信号のレベルが、A/D変換器20bの入力信号レベルに整合される。
【0017】
増幅器20aから出力されたアナログ信号は、A/D変換器20bによってそれぞれディジタル信号に変換される。なお、A/D変換器のサンプリング周波数としては、少なくとも超音波の周波数の10倍程度の周波数が必要であり、超音波の周波数の16倍以上の周波数が望ましい。また、A/D変換器の分解能としては、10ビット以上が望ましい。
1次記憶部21は、複数のA/D変換器20bにおいてそれぞれディジタル信号に変換された複数の検出信号を、時系列に記憶する。受信遅延パターン記憶部22は、複数の超音波トランスデューサ10aから出力された複数の検出信号に対して受信フォーカス処理を行う際に用いられる複数の受信遅延パターンを記憶している。
【0018】
受信制御部23は、走査制御部11において設定された受信方向に基づいて、受信遅延パターン記憶部22に記憶されている複数の受信遅延パターンの中から所定のパターンを選択し、そのパターンに基づいて複数の検出信号に遅延を与えて加算することにより、受信フォーカス処理を行う。この受信フォーカス処理により、超音波エコーの焦点が絞り込まれた音線データが形成される。なお、受信フォーカス処理は、A/D変換器20bによるA/D変換の前に行うようにしても良い。受信制御部23によって形成された音線データは、Bモード画像用データ生成部24及びドプラ画像用データ生成部25に入力される。
【0019】
Bモード画像用データ生成部24は、被検体内の組織に関する断層画像情報であるBモード画像用データを生成する。Bモード画像用データ生成部24は、STC(sensitivity time control)部24aと、包括線検波部24bとを含んでいる。STC部24aは、受信制御部23によって形成された音線データに対して、超音波の反射位置の深度に応じて、距離による減衰の補正を施す。包絡線検波部24bは、STC部24aにおいて補正が施された音線データに対して、包絡線検波処理を行うことにより、Bモード画像用データを生成する。
【0020】
ドプラ画像用データ生成部25は、超音波エコーにおけるドプラ効果による周波数変移情報に基づいて、被検体内の血流に関する画像情報であるドプラ画像用データを生成する。ドプラ画像用データ生成部25は、位相検波部25aと、MTI(moving target indicator)フィルタ25bとを含んでいる。位相検波部25aは、受信制御部23によって形成された音線データに基づいて、受信フォーカス処理が施された検出信号から高周波成分を除去すると共に、その検出信号に対して直交位相検波処理を行う。MTIフィルタ25bは、直交位相検波された検出信号から、エコー信号に含まれる血管壁や心臓壁等のスペキュラーエコーの変動によって生じる不要なクラッター成分を取り除く。このようにして、血流からの反射成分のみを抽出したドプラ画像用データが生成される。
【0021】
2次記憶部26は、Bモード画像用データ生成部24において生成されたBモード画像用データと、ドプラ画像用データ生成部25において生成されたドプラ画像用データとを対応させて記憶する。
【0022】
診断支援部27は、判定基準値設定部27aと、判定部27bと、判定基準値記憶部27cとを含んでいる。判定基準値設定部27aは、腫瘍が良性であるか悪性であるかを判定するための判定基準値を設定する。判定基準値としては、後で説明する実施形態において示されるように、オペレータの操作によって入力された値を設定しても良い。或いは、診断部位(ボディマーク情報)に対応した判定基準値や、患者カルテに記載されたバーコードに対応した判定基準値を、判定基準値記憶部27cに予め記憶させておき、判定基準値を設定する際に、記憶されている判定基準値を基準値記憶部27cから読み出して設定するようにしても良い。また、判定部27bは、2次記憶部26に記憶されているBモード画像用データに基づいて腫瘍の輪郭を抽出し、抽出された腫瘍の輪郭と、Bモード画像用データに対応するドプラ画像用データと、判定基準値とに基づいて、腫瘍付近の血管の集中度等を算出することにより、腫瘍が良性であるか悪性であるかを判定する。
【0023】
画像データ生成部28は、2次記憶部26に記憶されているBモード画像用データ及びドプラ画像用データと、診断支援部27から出力されるデータとに基づいて、超音波画像や判定結果等を表示するための画像データを生成する。
3次記憶部29は、画像データ生成部28において生成された画像データを記憶する。画像処理部30は、3次記憶部29に記憶されている画像データに、各種の画像処理を施す。表示部31は、例えば、CRTやLCD等のディスプレイ装置を含んでおり、画像処理部30において画像処理が施された画像データに基づいて超音波画像を表示する。
【0024】
さらに、本実施形態に係る超音波診断装置は、操作部32と、制御部33と、画像記憶部34と、インタフェース35と、ファイリングシステム36とを含んでいる。操作部32は、操作卓32aやポインティングデバイス32b等の入力デバイスを含んでおり、オペレータが命令や情報を入力する際に用いられる。
【0025】
制御部33は、操作部32を用いたオペレータの操作に従って、走査制御部11、2次記憶部26、及び、診断支援部27を制御する。例えば、制御部33は、オペレータが入力した信号に基づいて、超音波画像を取得する撮像モードと腫瘍の判定を行う診断支援モードとを切り換える制御信号を生成したり、腫瘍の判定に用いる判定基準値を設定する。診断支援モードにおいては、超音波撮像が停止され、静止した超音波画像や判定結果が、表示部31において表示される。
【0026】
また、制御部33は、オペレータの操作に従って、2次記憶部26に記憶されている音線データを、内蔵のハードディスクやMO(magneto optical)等によって構成される画像記録部34に記録させたり、インタフェース35を介して外部のファイリングシステム36に記録させる。さらに、制御部33は、必要があれば、診断支援部27による腫瘍の判定の際に使用するために、画像記録部34、又は、外部のファイリングシステム36に記録されている音線データや、X線撮影装置等の外部のモダリティによって取得された画像データを2次記憶部26に記憶させる。
【0027】
上記の診断支援部27及び制御部33は、CPUとソフトウェア(プログラム)によって実現することができる。ソフトウェア(プログラム)を記録するための記録媒体としては、内蔵のハードディスクの他に、フレキシブルディスク、MO、MT、RAM、CD-ROM、又は、DVD-ROM等を用いることもできる。
【0028】
次に、本実施形態に係る超音波診断装置の動作について、図2?図10を参照しながら説明する。図2は、本実施形態に係る超音波診断装置の診断支援モードにおける動作を示すフローチャートである。本実施形態においては、被検体内の組織における血流の集中度に基づいて、腫瘍の性質(良性又は悪性)を判定することにより、診断支援を行う。
【0029】
オペレータが操作部32を操作することにより、撮像モードから診断支援モードに切り換えると、Bモード画像用データ及びドプラ画像用データに対応する静止画像が、表示部31に表示される。ここで表示される画像は、図3に示すように、Bモード画像とドプラ画像とが合成された画像である。図3において、斜線部はドプラ画像を表しており、斜線部を除くセクタ内の領域はBモード画像を表している。また、Bモード画像内の点で表す領域は、腫瘍を表している。
【0030】
或いは、表示部31に表示させる画像として、画像記録部34又はファイリングシステム36に記録されている画像を用いても良い。その場合には、Bモード画像及びドプラ画像の替わりに、X線画像とドプラ画像、CT画像とドプラ画像、又は、MRI画像とドプラ画像との組み合わせを用いることができる。この場合には、各モダリティによって取得された画像とドプラ画像との間で位置合わせが為された画像セットを、予めファイリングシステム36に記録しておく必要がある。
【0031】
まず、図2のステップS1において、オペレータは、2次記憶部26に記憶されているBモード画像用データ及びドプラ画像用データに基づいて表示される複数の静止画像の内から、1つの静止画像を選択する。その際には、腫瘍の位置及び腫瘍の性質(良性又は悪性)が明確に判っている画像を選択することが望ましい。
【0032】
次に、ステップS2において、診断支援部27は、腫瘍の判定に用いられる判定基準値が設定されているか否かを判定する。判定基準値が設定されていない場合には、判定基準値設定モードにおいて、判定基準値が設定される。一方、判定基準値が設定されている場合には、判定モードにおいて、腫瘍の性質が判定される。
【0033】
ステップS3?S6は、判定基準値設定モードにおける超音波診断装置の動作を示している。
ステップS3において、オペレータは、表示部31に表示されている静止画像を確認し、図4に示すように、ポインティングデバイス32bを用いて関心領域(ROI:region of interest)を設定する。オペレータによって設定されたROIの情報は、制御部33を介して診断支援部27の判定基準値設定部27aに入力される。
【0034】
次に、ステップS4において、判定基準値設定部27aは、図5に示すように、腫瘍の画像を含むBモード画像用データに基づいて、腫瘍の輪郭を抽出する。
ステップS5において、判定基準値設定部27aは、図6に示すように、ステップS4において抽出された輪郭から距離tだけ離れた線によって囲まれる領域を計測エリアとして設定し、距離tに基づいて、次式(1)に示す評価値Pを算出する。
P=S_(D)/S_(A) …(1)
ここで、S_(D)は、輪郭からの距離tにおける計測エリアの面積を、ドプラ画像における輝度値によって重み付けした値である。この値S_(D)は、単位面積をドプラ強度によって重み付けして積分することによって求められる。一方、S_(A)は、輪郭からの距離tにおける計測エリアの面積である。なお、図6には、t=t_(1)の場合における計測エリアが示されている。
【0035】
図7は、評価値Pと距離tとの関係を示している。ここで、輪郭(t=0)より内側にもドプラ画像は存在しているので、t<0においてもP>0となる範囲が存在する。さらに、判定基準値設定部27aは、画像データ生成部28にデータを出力することにより、図8に示すように、評価値Pと距離tとの関係を示すグラフ及び判定基準値設定欄を超音波画像に合成して表示部31に表示させる。
【0036】
ステップS6において、オペレータは、表示部31に表示されている評価値Pと距離tとの関係を示すグラフを参照しながら、操作卓32a等を用いて判定基準値設定欄に距離tの範囲、及び、評価値Pの範囲の数値を入力する。その際には、例えば、次のような観点から数値を入力すれば良い。悪性の腫瘍においては栄養血管が発達しており、腫瘍には多くの血液が流入しているものと考えられる。従って、腫瘍の輪郭付近(t=0付近)において、血流を表すドプラ画像の範囲及びその輝度値が大きい場合、即ち、評価値Pが大きい場合を、例えば、腫瘍が悪性である可能性が高いA判定と対応づける。
【0037】
図9に示すように、設定された距離tの範囲、及び、評価値Pの範囲が、判定モードにおいて示される判定結果A、B、…に対応する基準値として設定される。
オペレータが判定基準値の範囲を設定すると、設定された判定基準値は、判定基準値設定部27aの制御の下で、Bモード画像用データ及びドプラ画像用データに対応して2次記憶部26に記憶される。また、Bモード画像用データ及びドプラ画像用データを画像記録部34又はファイリングシステム36に記録する場合は、設定された判定基準値は、制御部33の制御の下で、Bモード画像用データ及びドプラ画像用データのヘッダとして記録される。
【0038】
次に、ステップS7?S11は、判定モードにおける超音波診断装置の動作を示している。
ステップS7において、オペレータは、表示部31に表示されている画像を確認し、判定対象である画像(Bモード画像とドプラ画像の合成画像)について、ポインティングデバイス32bを用いてROIを設定する。オペレータによって設定されたROIの情報は、制御部33を介して診断支援部27の判定部27bに入力される。
【0039】
ステップS8において、判定部27bは、表示されたBモード画像に基づいて、腫瘍の輪郭を抽出する。次に、ステップS9において、判定部27bは、ステップS8において抽出された輪郭に基づいて、評価基準設定モードにおいて設定された判定結果A、B、…に対応する計測エリアtを設定し、式(1)を用いて評価値Pを算出する。さらに、ステップS10において、判定部27bは、ステップS9において算出された評価値Pを、予め設定されている判定基準値と比較し、その評価値Pが、判定結果A、B、…に対応する判定基準値の範囲に含まれるか否かを判定する。
【0040】
ステップS11において、判定部27bは、画像データ生成部28に判定結果を表すデータを出力することにより、図10に示すように、判定結果をBモード画像及びドプラ画像に合成して表示部31に表示させる。また、この判定結果は、2次記憶部26に出力され、対応するBモード画像用データ及びドプラ画像用データのヘッダとして記憶される。さらに、Bモード画像用データ及びドプラ画像用データを画像記録部34又はファイリングシステム36に記録する場合には、この判定結果は、制御部33の制御の下で、Bモード画像用データ及びドプラ画像用データのヘッダとして記録される。
【0041】
判定基準値設定モードにおける判定基準値の設定、又は、判定モードにおける1つの静止画像についての判定が終了した後に、ステップS12において、撮像モードを開始するか否かについて判定が為される。撮像モードを再開する場合には、診断支援モードを終了して撮像モードを開始し、撮像モードを開始しない場合には、ステップS1に移行して、診断支援を続行する。
【0042】
このように判定対象である画像について判定された結果A、B、…に基づいて、医師は医療診断を行う。その際の診断手法としては、設定された判定基準値の範囲との関係から、例えば、判定結果A又はBに該当すれば悪性と診断するようにしても良いし、判定結果A?Cの内の2つ以上に該当すれば悪性と診断するようにしても良い。」

(引2ウ)
「【0043】
本実施形態においては、ドプラ画像に基づいて血流部の面積を求めているが、造影剤を用いたコントラストエコー法によって血流部の面積を求めることも可能である。その場合には、造影剤投与前の超音波画像と造影剤投与後の超音波画像との差分画像に基づいて、血流部の面積を求めることができる。」

(引2エ)図2

(引2オ)図3

(引2カ)図5

(引2キ)図6

(引2ク)図7

(引2ケ)図8

(引2コ)図9

(引2サ)図10


図5、8、10を総合すると、図10には、腫瘍の輪郭が表示されていると認められる。

したがって、上記引用文献2には、次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。

「信号処理部20と、1次記憶部21と、受信遅延パターン記憶部22と、受信制御部23と、Bモード画像用データ生成部24と、ドプラ画像用データ生成部25と、2次記憶部26と、診断支援部27と、画像データ生成部28と、3次記憶部29と、画像処理部30と、表示部31とを含む超音波診断装置であって、
受信制御部23は、走査制御部11において設定された受信方向に基づいて、受信遅延パターン記憶部22に記憶されている複数の受信遅延パターンの中から所定のパターンを選択し、そのパターンに基づいて複数の検出信号に遅延を与えて加算することにより、受信フォーカス処理を行い、超音波エコーの焦点が絞り込まれた音線データが形成され、受信制御部23によって形成された音線データは、Bモード画像用データ生成部24及びドプラ画像用データ生成部25に入力され、
Bモード画像用データ生成部24は、被検体内の組織に関する断層画像情報であるBモード画像用データを生成し、ドプラ画像用データ生成部25は、超音波エコーにおけるドプラ効果による周波数変移情報に基づいて、被検体内の血流に関する画像情報であるドプラ画像用データを生成し、
2次記憶部26は、Bモード画像用データ生成部24において生成されたBモード画像用データと、ドプラ画像用データ生成部25において生成されたドプラ画像用データとを対応させて記憶し、
診断支援部27は、腫瘍が良性であるか悪性であるかを判定するための判定基準値を設定する判定基準値設定部27aと、2次記憶部26に記憶されているBモード画像用データに基づいて腫瘍の輪郭を抽出し、抽出された腫瘍の輪郭と、Bモード画像用データに対応するドプラ画像用データと、判定基準値とに基づいて、腫瘍付近の血管の集中度等を算出することにより、腫瘍が良性であるか悪性であるかを判定する判定部27bと、判定基準値を記憶している判定基準値記憶部27cとを含んでおり、
画像データ生成部28は、2次記憶部26に記憶されているBモード画像用データ及びドプラ画像用データと、診断支援部27から出力されるデータとに基づいて、超音波画像や判定結果等を表示するための画像データを生成し、
3次記憶部29は、画像データ生成部28において生成された画像データを記憶し、画像処理部30は、3次記憶部29に記憶されている画像データに、各種の画像処理を施し、表示部31は、画像処理部30において画像処理が施された画像データに基づいて超音波画像を表示するものであって、
さらに、超音波診断装置は、操作部32と、制御部33と、画像記憶部34と、インタフェース35と、ファイリングシステム36とを含み、
ここで、操作部32を操作することにより、撮像モードから診断支援モードに切り換えると、Bモード画像とドプラ画像とが合成された画像が、表示部31に表示され、 診断支援部27は、腫瘍の判定に用いられる判定基準値が設定されているか否かを判定し、判定基準値が設定されていない場合には、判定基準値設定モードにおいて、判定基準値が設定され、判定基準値が設定されている場合には、判定モードにおいて、腫瘍の性質が判定され、
判定基準値設定モードにおいては、判定基準値設定部27aは、腫瘍の画像を含むBモード画像用データに基づいて、腫瘍の輪郭を抽出し、抽出された輪郭から距離tだけ離れた線によって囲まれる領域を計測エリアとして設定し、距離tに基づいて、次式(1)に示す評価値Pを算出し、
P=S_(D)/S_(A) …(1)
(ここで、S_(D)は、輪郭からの距離tにおける計測エリアの面積を、ドプラ画像における輝度値によって重み付けした値である。この値S_(D)は、単位面積をドプラ強度によって重み付けして積分することによって求められる。一方、S_(A)は、輪郭からの距離tにおける計測エリアの面積である。)
判定基準値設定部27aは、画像データ生成部28にデータを出力することにより、評価値Pと距離tとの関係を示すグラフ及び判定基準値設定欄を超音波画像に合成して表示部31に表示させ、オペレータは、表示部31に表示されている評価値Pと距離tとの関係を示すグラフを参照しながら、距離tの範囲、及び、評価値Pの範囲の数値を入力し、ここで、設定された距離tの範囲、及び、評価値Pの範囲が、判定モードにおいて示される判定結果A、B、…に対応する基準値として設定され、
判定モードにおいては、判定部27bは、表示されたBモード画像に基づいて、腫瘍の輪郭を抽出し、抽出された輪郭に基づいて、評価基準値設定モードにおいて設定された判定結果A、B、…に対応する計測エリアtを設定し、式(1)を用いて評価値Pを算出し、算出された評価値Pを、予め設定されている判定基準値と比較し、その評価値Pが、判定結果A、B、…に対応する判定基準値の範囲に含まれるか否かを判定し、画像データ生成部28に判定結果を表すデータを出力することにより、判定結果を腫瘍の輪郭を含むBモード画像及びドプラ画像に合成して表示部31に表示させる、
超音波診断装置」

第6 対比・判断
1.引用文献1を主引例とする場合
(1)本願発明1について
ア 対比
本願発明1と引用発明1とを対比する。

(ア)引用発明1の「画像合成部8は腫瘍画像「D5」において腫瘍部分とその他の領域を分ける「閾値1」よりボクセル値が大きい領域(B、D)を腫瘍部分と判断する」ものであり、本願発明1の「被検体のBモード画像において、前記被検体における腫瘤の領域の輪郭を特定する対象特定部」とは、「被検体の画像において、前記被検体における腫瘤の領域を特定する手段」の点で共通する。

(イ)引用発明1の「D4」は、「造影剤注入後の動脈相におけるBモード画像「D2」」「の各ボクセルに割り当てられたボクセル値から、」「造影剤注入前または注入直後のBモード画像「D1」」「の対応する各ボクセルに割り当てられたボクセル値を減算することにより」「生成」された、「動脈部分だけが強調された三次元画像である画像」であり、「動脈部分だけが強調された三次元画像である画像「D4」」は造影画像である。
また、引用発明1の「表示制御部9」と「画像合成部8」とからなる構成は、「腫瘍栄養血管24を腫瘍内と腫瘍外で色が異なって表示されるように「D4」と「D5」を合成して生成した合成画像をモニタ11に表示する」ものである。
すると、引用発明1の「腫瘍栄養血管24を腫瘍内と腫瘍外で色が異なって表示されるように「D4」と「D5」を合成して生成した合成画像をモニタ11に表示する」ことは、本願発明1の「被検体に投与された造影剤が強調された造影画像であって、」「前記腫瘤の領域の」「内側の染影部分と前記腫瘤の領域の」「外側の染影部分とで異なる表示形態の画像を表示させる」ことに相当する。
よって、引用発明1の「腫瘍栄養血管24を腫瘍内と腫瘍外で色が異なって表示されるように「D4」と「D5」を合成して生成した合成画像をモニタ11に表示する」「表示制御部9」と「画像合成部8」とからなる構成は、本願発明1の「被検体に投与された造影剤が強調された造影画像であって、前記被検体の前記Bモード画像と同一断面の造影画像において、前記腫瘤の領域の輪郭の内側の染影部分と前記腫瘤の領域の輪郭の外側の染影部分とで異なる表示形態の画像を表示させる表示画像制御部」とは、「被検体に投与された造影剤が強調された造影画像であって、前記腫瘤の領域の」「内側の染影部分と前記腫瘤の領域の」「外側の染影部分とで異なる表示形態の画像を表示させる表示画像制御部」である点で共通する。

(ウ)引用発明1の「超音波診断装置」は本願発明1の「超音波診断装置」に相当する。

したがって、本願発明1と引用発明1との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

(一致点)
「被検体の画像において、前記被検体における腫瘤の領域を特定する手段と、
前記被検体に投与された造影剤が強調された造影画像であって、前記腫瘤の領域の内側の染影部分と前記腫瘤の領域の外側の染影部分とで異なる表示形態の画像を表示させる表示画像制御部と、
を備えることを特徴とする超音波診断装置。」

(相違点)
(相違点1)被検体の画像において、前記被検体における腫瘤の領域を特定する手段について、本願発明1は「被検体のBモード画像において、前記被検体における腫瘤の領域の輪郭を特定する」(特に、下線部)ものであるのに対して、引用発明1では「腫瘍画像「D5」において腫瘍部分とその他の領域を分ける「閾値1」よりボクセル値が大きい領域(B、D)を腫瘍部分と判断する」ものである点。

(相違点2)表示させる画像が、本願発明1は、「前記被検体の前記Bモ
ード画像と同一断面の造影画像において、前記腫瘤の領域の輪郭の内側の染影部分と前記腫瘤の領域の輪郭の外側の染影部分とで異なる表示形態の画像」であるのに対して、引用発明1は、「腫瘍栄養血管24を腫瘍内と腫瘍外で色が異なって表示されるように三次元画像「D4」と「D5」を合成して生成した合成画像」である点。

イ 相違点についての判断
上記相違点1について検討する。
引用発明1は、「造影剤注入前または注入直後のBモード画像「D1」、造影剤注入後の動脈相におけるBモード画像「D2」及び造影剤注入後の後期相におけるBモード画像「D3」からなる時相の異なる3つのデータを収集し、」「「D2」の各ボクセルに割り当てられたボクセル値から、「D1」の対応する各ボクセルに割り当てられたボクセル値を減算することにより、「D2」において高信号となる動脈部分だけが強調された三次元画像である画像「D4」を生成するとともに、」「「D3」に対して、表示輝度を反転させるデータ変換を施し、関心領域である肝腫瘍が強調された画像「D5」を生成し、」「腫瘍画像「D5」において腫瘍部分とその他の領域を分ける「閾値1」よりボクセル値が大きい領域(B、D)を腫瘍部分と判断するとともに、血管画像「D4」において血管部分とその他の領域を分ける「閾値2」よりボクセル値が大きい領域(A、B)を血管部分と判断し、ここで、腫瘍内血流が領域B」とし、「「D4」と「D5」のボクセル値の組み合わせがB領域であるか否かを判定し、B領域であれば「色1」で表示されるように合成画像のボクセル値を決定し、B領域でなければ、A領域であるか否かを判定し、A領域であれば「色2」で表示されるようにボクセル値を決定」し、「腫瘍栄養血管24を腫瘍内と腫瘍外で色が異なって表示されるように合成した合成画像」を生成するものである。
すなわち、引用発明1は、造影剤注入後に時相を変えて造影画像を取得することによって、時相の異なる造影画像に基づき、腫瘍部分の抽出及び腫瘍内の栄養血管と腫瘍外の栄養血管とを区別するものである。
そうすると、引用発明2のように、「超音波診断装置」において「腫瘍を表すBモード画像と血管を表すドプラ画像とが合成された画像が、表示部31に表示され」る際に、「腫瘍の画像を含むBモード画像用データに基づいて、腫瘍の輪郭を抽出」することが公知であるとしても、引用発明1において、時相の異なる3つのBモード画像「D1」、「D2」及び「D3」に加えて、「腫瘍の画像を含むBモード画像用データ」を取得し、「Bモード画像用データに基づいて、腫瘍の輪郭を抽出」することを採用する動機付けはない。
したがって、その他の相違点について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても、引用発明1及び引用発明2に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

(2)本願発明2-9について
本願発明2-9も、本願発明1の「被検体のBモード画像において、前記被検体における腫瘤の領域の輪郭を特定する対象特定部」と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同一の理由により、当業者であっても、
引用発明1及び引用発明2とに基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

(3)本願発明10について
本願発明10は、本願発明1に対応するプログラムの発明であり、本願発明1の「被検体のBモード画像において、前記被検体における腫瘤の領域の輪郭を特定する対象特定部」に対応する、「被検体のBモード画像において、前記被検体における腫瘤の領域の輪郭を特定する対象特定機能」という構成を備えるものであるから、本願発明1と同様の理由により、当業者であっても、引用発明1及び引用発明2に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

2.引用文献2を主引例とする場合
(1)本願発明1について
ア 対比
本願発明1と引用発明2とを対比する。

(ア)引用発明2の「表示されたBモード画像に基づいて、腫瘍の輪郭を抽出」する「判定部27b」は、本願発明1の「被検体のBモード画像において、前記被検体における腫瘤の領域の輪郭を特定する対象特定部」に相当する。

(イ)引用発明2の「腫瘍の輪郭を含むBモード画像及びドプラ画像」を「合成して表示部31に表示させる」「画像データ生成部28」において、引用発明2の「2次記憶部26は、Bモード画像用データ生成部24において生成されたBモード画像用データと、ドプラ画像用データ生成部25において生成されたドプラ画像用データとを対応させて記憶」することは、「Bモード画像データ」と「ドップラ画像データ」が同一断面の画像であることを意味することは明らかである。
してみると、引用発明2の「腫瘍の輪郭を含むBモード画像及びドプラ画像」を「合成して表示部31に表示させる」「画像データ生成部28」と、本願発明1の「前記被検体に投与された造影剤が強調された造影画像であって、前記被検体の前記Bモード画像と同一断面の造影画像において、前記腫瘤の領域の輪郭の内側の染影部分と前記腫瘤の領域の輪郭の外側の染影部分とで異なる表示形態の画像を表示させる表示画像制御部」とは、「前記被検体の前記Bモード画像と同一断面の」「画像において、」「前記腫瘤の領域の輪郭の内側の」「部分と」「前記腫瘤の領域の輪郭の外側の部分」「の画像を表示させる表示画像制御部」である点で共通する。

(ウ)引用発明2の「超音波診断装置」は、本願発明1の「超音波診断装置」に相当する。

したがって、本願発明1と引用発明2との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

(一致点)
「被検体のBモード画像において、前記被検体における腫瘤の領域の輪郭を特定する対象特定部と、
前記被検体の前記Bモード画像と同一断面の画像において、前記腫瘤の領域の輪郭の内側の部分と前記腫瘤の領域の輪郭の外側の部分の画像を表示させる表示画像制御部と、
を備えることを特徴とする超音波診断装置。」

(相違点)表示画像制御部が表示させる画像が、本願発明1では、「被検体における腫瘤の領域の輪郭を特定する」「Bモード画像と同一断面の造影画像において、」「前記被検体に投与された造影剤が強調された造影画像であって、前記被検体の前記Bモード画像と同一断面の造影画像において、前記腫瘤の領域の輪郭の内側の染影部分と前記腫瘤の領域の輪郭の外側の染影部分とで異なる表示形態の画像」であるのに対して、引用発明2では、「腫瘍の輪郭を抽出」する「Bモード画像用データ」と「Bモード画像用データに対応する」「被検体内の血流に関する画像情報であるドプラ画像用データ」を合成した画像である点。

イ 相違点についての判断
引用発明2は、上記第5 2.(引2ア)に記載されているように、「本発明は、被検体に関する画像情報に基づいて、被検体の組織に発生した腫瘍が良性であるか悪性であるかについての客観的及び定量的な診断を支援する診断支援機能を備えた超音波診断装置を提供することを目的と」とし、「判定モードにおいては、判定部27bは、表示されたBモード画像に基づいて、腫瘍の輪郭を抽出し、抽出された輪郭に基づいて、評価基準設定モードにおいて設定された判定結果A、B、…に対応する計測エリアtを設定し、式(1)を用いて評価値Pを算出し、算出された評価値Pを、予め設定されている判定基準値と比較し、その評価値Pが、判定結果A、B、…に対応する判定基準値の範囲に含まれるか否かを判定し、画像データ生成部28に判定結果を表すデータを出力することにより、判定結果をBモード画像及びドプラ画像に合成して表示部31に表示させる、超音波診断装置」に係る発明である。
すなわち、引用発明2は、Bモード画像用データに基づいて腫瘍の輪郭を抽出し、抽出された腫瘍の輪郭と、被検体内の血流に関する画像情報であるドプラ画像とを合成した画像を表示しているとしても、引用発明2は医師が医療診断に用いる、客観的な判定結果A、B、…を提供する機能を備えた超音波診断装置に係る発明である。(引用文献2の段落【0042】参照)
そうすると、引用発明1に示されているように、超音波診断装置において、腫瘍の内外の血管を異なる色で表示することが公知であるとしても、引用発明2において、ドプラ画像によって得られる腫瘍の輪郭の内外の血流を見分けやすい画像を表示しようとする動機付けはない。
したがって、本願発明1は、当業者であっても、引用発明2及び引用発明1に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

(2)本願発明2-9について
本願発明2-9も、本願発明1の「前記被検体に投与された造影剤が強調された造影画像であって」、前記被検体の前記Bモード画像と同一断面の「造影画像において、」「前記腫瘤の領域の輪郭の内側の染影部分」「前記腫瘤の領域の輪郭の外側の染影部分」とで「異なる表示形態の画像」を表示させる「表示画像制御部」と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同一の理由により、当業者であっても、引用発明2及び引用発明1に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

(3)本願発明10について
本願発明10は、本願発明1に対応するプログラムの発明であり、本願発明1の「前記被検体に投与された造影剤が強調された造影画像であって」、前記被検体の前記Bモード画像と同一断面の「造影画像において、」「前記腫瘤の領域の輪郭の内側の染影部分」「前記腫瘤の領域の輪郭の外側の染影部分」とで「異なる表示形態の画像」を表示させる「表示画像制御部」に対応する、「前記被検体に投与された造影剤が強調された造影画像であって」、前記被検体の前記Bモード画像と同一断面の「造影画像において、」「前記腫瘤の領域の輪郭の内側の染影部分」「前記腫瘤の領域の輪郭の外側の染影部分」とで「異なる表示形態の画像」を表示させる「表示画像制御機能」という構成を備えるものであるから、本願発明1と同様の理由により、当業者であっても、引用発明2及び引用発明1に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明1-10は、当業者が引用発明1及び引用発明2、あるいは引用発明2及び引用発明1に基づいて容易に発明をすることができたものではない。したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-07-17 
出願番号 特願2013-178036(P2013-178036)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (A61B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 宮川 哲伸冨永 昌彦  
特許庁審判長 伊藤 昌哉
特許庁審判官 渡戸 正義
三木 隆
発明の名称 超音波診断装置及びその制御プログラム  
代理人 小島 猛  
代理人 澤木 亮一  
代理人 荒川 聡志  

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