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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B65D
管理番号 1353745
審判番号 不服2018-12404  
総通号数 237 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-09-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-09-14 
確定日 2019-07-22 
事件の表示 特願2016-166072「ポリオレフィン樹脂フィルムを備えるラミネートチューブ」拒絶査定不服審判事件〔平成28年12月15日出願公開、特開2016-210511〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
この出願(以下、「本願」という。)は、平成23年5月31日に特許出願された特願2011-122064号(以下、「原出願」という。)の一部を、平成27年10月27日に新たな特許出願とした特願2015-210635号の一部を、平成28年8月26日に新たな特許出願としたものであって、平成29年9月1日付けで拒絶理由が通知され、平成29年11月2日に意見書の提出及び手続補正がなされ、平成30年2月23日付けで最後の拒絶理由が通知され、平成30年4月23日に意見書の提出及び手続補正がなされ、平成30年6月12日付けで、前記平成30年4月23日になされた手続補正について補正却下の決定がなされるとともに同日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成30年9月14日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に、手続補正がなされ、平成30年10月5日付けで前置報告がなされ、平成30年12月17日に、前記前置報告に対する意見が記載された上申書が提出されたものである。


第2.平成30年9月14日になされた手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成30年9月14日になされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.本件補正
本件補正は、請求項1についての、以下の補正を含む(下線は当審で付与)。

(1)補正前
「バイオマス由来のエチレンの重合体、および/または、バイオマス由来のエチレンとバイオマス由来または化石燃料由来のα-オレフィンの共重合体を含んでなる樹脂組成物からなる樹脂フィルムを備えるラミネートチューブであって、
前記樹脂組成物が、前記バイオマス由来のエチレンを前記樹脂組成物全体に対して5質量%以上含んでなり、前記樹脂組成物が、0.91?0.96g/cm^(3)の密度を有し、前記樹脂組成物が、1?30g/10分のメルトフローレートを有する、ラミネートチューブ。」

(2)補正後
「バイオマス由来のエチレンの重合体、および/または、バイオマス由来のエチレンとバイオマス由来または化石燃料由来のα-オレフィンの共重合体を含んでなる樹脂組成物からなる樹脂フィルムを備えるラミネートチューブであって、
前記樹脂組成物が、前記バイオマス由来のエチレンを前記樹脂組成物全体に対して5質量%以上含んでなり、前記樹脂組成物が、0.91?0.937g/cm^(3)の密度を有し、前記樹脂組成物が、1?30g/10分のメルトフローレートを有する、ラミネートチューブ。」

上記の請求項1に係る補正は、補正前の請求項1に規定された「バイオマス由来のエチレンの重合体、および/または、バイオマス由来のエチレンとバイオマス由来または化石燃料由来のα-オレフィンの共重合体を含んでなる樹脂組成物」の有する「密度」を、「0.91?0.96g/cm^(3)」から「0.91?0.937g/cm^(3)」とその範囲を限定して特定しようとするものであり、かつ、補正前後の発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号に規定される特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当する。

そこで、上記の補正後の請求項1に記載された事項によって特定される発明(以下、「補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について検討する。

2.補正発明
補正発明は、上記1.(2)に記載されたとおりである。

3.引用文献及び引用発明
(1)原査定の拒絶の理由及び当該原査定と同日付の補正却下の決定に引用した特開2002-103490号公報(以下、「引用文献1」という。)の記載事項及び引用発明
引用文献1には、以下の事項が記載されている。
ア.「【特許請求の範囲】
【請求項1】 内側から外側に順に、(1)熱可塑性樹脂からなる内層、(2)熱可塑性樹脂に酸素吸収剤を配合した酸素吸収性樹脂組成物からなる酸素吸収層及び(3)ガスバリア性熱可塑性樹脂又は無機酸化物蒸着熱可塑性樹脂からなるガスバリア層の少なくとも3層が積層されてなる脱酸素性多層チューブであって、(1)内層を構成する熱可塑性樹脂或いは(2)酸素吸収層を構成する熱可塑性樹脂の少なくとも一方が密度0.93?0.97g/cm^(3)のポリエチレンであることを特徴とする脱酸素性多層チューブ。」

イ.「【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、酸素吸収機能を有する多層チューブに関する。・・・」

ウ.「【0008】
【発明の実施の形態】以下に本発明を詳しく説明する。本発明において脱酸素性多層チューブを構成する内層(1)は、内容物と酸素吸収層が直接接触することを防ぐ隔離層としての役割や、チューブ内の酸素が酸素吸収層中の酸素吸収剤に速やかに吸収されるために効率良く酸素透過する酸素透過層としての役割を有し、またチューブの製造方法によっては、口部との接着面になる。」

エ.「【0010】酸素吸収層(2)を構成する熱可塑性樹脂として密度0.93?0.97g/cm^(3)のポリエチレンを使用する場合、内層(1)を構成する熱可塑性樹脂としては、このポリエチレンと溶融接着し、かつ前述の役割を果たすことが可能である熱可塑性樹脂であれば制限すること無く使用することができる。内層(1)を構成する熱可塑性樹脂としては、上述した密度0.93?0.97g/cm^(3)のポリエチレン以外のものを使用する場合、・・・各種エチレン共重合体、エラストマー類等が挙げられる。これらは単独で、又は組み合わせて使用することができる。この中で、チューブとしての性質上、ポリエチレン、酸変性したポリエチレン類等のポリオレフィン類が好ましく用いられる。・・・」

オ.「【0025】本発明の脱酸素性多層チューブは、押し出しラミネートや共押し出しラミネート、ドライラミネート等の方法で脱酸素性多層フィルムを製造した後チューブ形状に成形し、インジェクション成形により製造した口部をチューブ開口部に接合する方法により製造することができる。また、共押し出しにより成形した酸素吸収層を中間層とする多層パイプとインジェクションにより成形した口部を接合する方法、あるいは、ダイレクト多層ブローにより酸素吸収層を中間層とする多層容器を成形する方法等の従来公知の多層チューブ製造方法により製造することができる。」

カ.「【0033】実施例3
平均粒径30μmの還元鉄粉100重量部、塩化カルシウム3重量部からなる粒状の塩被覆鉄粉系酸素吸収剤30重量部、高密度ポリエチレン(密度;0.95g/cm^(3))65重量部、酸化カルシウム4重量部、硫酸バリウム1重量部を溶融混合した後、ストランドダイ及びカッターを設置した押出機を用いてペレット化し、酸素吸収性コンパウンド2を得た。
【0034】次に、5種6層の多層パイプ押出装置を用い、No.1の押出機から低密度ポリエチレン(密度;0.92g/cm^(3))からなる内層、No.2の押出機から酸素吸収性コンパウンド2からなる酸素吸収層、No.3の押出機から無水マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂からなる接着剤層、No.4の押出機からエチレン-ビニルアルコール共重合体からなるガスバリア層、No.5の押出機から酸化チタンを10重量%含有した低密度ポリエチレン(密度;0.92g/cm^(3))からなる白色外層をそれぞれ押し出し、内層(120μm)/酸素吸収層(100μm)/接着剤層(30μm)/ガスバリア層(50μm)/接着剤層(30μm)/外層(120μm)の構成を有する多層パイプを製造した。次に実施例1と同様にして、口部をパイプ開口部に接合して脱酸素性多層チューブ3を得た後、酸化染毛剤I液保存時のチューブ容器外観の経時変化、包装体の臭気、及び内容物の色調について調査した。結果を表1に示す。」

キ.「【表1】



ク.上記の記載事項ア.?キ.から、実施例3に着目し、補正発明に照らして整理すると、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
《引用発明》
「内側から外側に順に、低密度ポリエチレン(密度;0.92g/cm^(3))からなる内層、酸素吸収性コンパウンド2からなる酸素吸収層、無水マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂からなる接着剤層、エチレン-ビニルアルコール共重合体からなるガスバリア層、酸化チタンを10重量%含有した低密度ポリエチレン(密度;0.92g/cm^(3))からなる白色外層の構成を有する、脱酸素性多層チューブ。」

(2)原査定の拒絶の理由及び当該原査定と同日付の補正却下の決定に引用した特開2010-162748号公報(以下、「引用文献2」という。)の記載事項
引用文献2には、以下の事項が記載されている。(下線は当審にて付与。)
ア.「【背景技術】
【0002】
近年、塩化ビニル製化粧シートに替わる化粧シートとしてオレフィン系樹脂を使用した化粧シートが数多く提案されている。塩化ビニル樹脂を使用しないことにより、焼却時の有毒ガス等の発生は無くなる。しかしながら、これらオレフィン系樹脂を使用した化粧シートであっても、使用する樹脂は石油由来の原料により重合されているため、二酸化炭素排出量は塩化ビニル製化粧シートに対して同等なレベルであり、近年注目されている地球温暖化に対する抑制効果は期待できなかった。
【0003】
そこで最近、石油由来の原料ではなく植物由来の原料からなる樹脂としてポリエステル系樹脂、特にポリ乳酸を使用した化粧シートが開発されている。しかしながら、植物由来のポリエステル系樹脂は、耐加水分解性が悪く、高温多湿下での使用も想定される化粧シートにおいては用途が著しく限定されてしまい、普及には至っていない。
【0004】
一方、サトウキビ由来のバイオエタノールからポリエチレンを重合していく研究が始められている。しかしながら現在はまだ商業ベースでの生産は行われていない。オレフィン系樹脂を使用した化粧シートで用いられている樹脂はポリプロピレンが主でり、ポリエチレンはアイデアはあったものの、ある程度の硬度を必要とする表面側に用いる透明フィルムとして使用するには透明性が足りず、また透明性を優先させると耐傷付き性など、剛性が影響する物性が著しく低下する問題があり、使用することができなかった。」

イ.「【0030】
以下、本発明を実施例に基づき説明する。まず、使用する樹脂組成などを以下に示す。
<ポリエチレンA>
エチレン(サトウキビ原料)97重量%
1-ヘキセン(石化原料)3重量%
重合触媒:チグラー触媒
(MFR:5 密度:0.96 植物由来度:0.96)
【0031】
<ポリエチレンB>
エチレン(サトウキビ原料)94重量%
1-ヘキセン(石油原料)6重量%
重合触媒:メタロセン触媒
(MFR:4 密度:0.93 植物由来度:0.93)」

ウ.「【0038】
<透明フィルムA>
配合比率:ポリエチレンA/ポリエチレンB/核剤A=50/49/1
(厚み:50μm 密度:0.95 ヘイズ:20% 球晶サイズ:1μm 植物由来度:0.93)」

エ.「【実施例1】
【0046】
前記着色フィルムAにコロナ処理を施し、絵柄層2を印刷した。一方、前記透明フィルムAの両面にコロナ処理を施した。そして、前記透明フィルムAの下側面と、前記着色フィルムAの前記絵柄層2を印刷した面とを、ドライラミネートにて貼り合わせた。その後、前記透明フィルムAの上側面にトップコート層5をコーティングして、化粧シートを作成した。」

オ.「【0051】
<評価方法>
実施例、比較例で得られた化粧シートをウレタン系の接着剤を用いて木質基材に貼り合わせた後、鉛筆硬度試験にて表面硬度を測定し、HB以上を合格とした。また目視にて透明フィルムのヘイズにより意匠性の低下が許容限度内にあるかを判定した。さらに原材料の配合比率により植物由来度を計算し0.70以上を合格と判定した。・・・」

カ.上記記載事項イ.?オ.は、要すれば、エチレン(サトウキビ原料)94重量%及び1-ヘキセン(石油原料)6重量%からなり、メタロセン触媒を重合触媒とした、MFR:4、密度:0.93、植物由来度:0.93の<ポリエチレンB>を原料に含む<透明フィルムA>を用いて化粧シートを作成し、その評価を行ったこと旨の記載であるところ、これらの記載事項から、本願の原出願前に、<ポリエチレンB>が存在し、当業者はこの<ポリエチレンB>を利用可能であったことが理解され、把握される。

4.対比
補正発明と引用発明を対比する。
補正発明における「ラミネートチューブ」という用語に関し、本願明細書には、「【0064】用途 本発明による樹脂フィルムは、容器や袋等の包装製品、化粧シートやトレー等のシート成形品、積層フィルム、光学フィルム、樹脂板、各種ラベル材料、蓋材、およびラミネートチューブ等の各種用途に好適に使用することができ、特に、包装製品およびシート成形品が好ましい。」という説明しかないことを踏まえると、当該用語は、ラミネート、すなわち、積層されたフィルムからなるチューブを意味するものと解されるところ、引用発明の「脱酸素性多層チューブ」は、上記3.(1)オ.に摘記したように「押し出しラミネートや共押し出しラミネート、ドライラミネート等の方法で脱酸素性多層フィルムを製造した後チューブ形状に成形し、インジェクション成形により製造した口部をチューブ開口部に接合する方法により製造」されるものを含むものであるから、引用発明の「脱酸素性多層チューブ」という用語は、補正発明の「ラミネートチューブ」という用語に相当する。
また、補正発明の「樹脂組成物」は、「バイオマス由来のエチレンの重合体、および/または、バイオマス由来のエチレンとバイオマス由来または化石燃料由来のα-オレフィンの共重合体を含んでな」り、「バイオマス由来のエチレンを前記樹脂組成物全体に対して5質量%以上含んでなり」、「0.91?0.937g/cm^(3)の密度を有し」、「1?30g/10分のメルトフローレートを有する」ものであり、補正発明は、このような「樹脂組成物」からなる「樹脂フィルム」を備える「ラミネートチューブ」である。
一方、引用発明は、「低密度ポリエチレン(密度;0.92g/cm^(3))からなる内層」を備えた「脱酸素性多層チューブ」であるところ、引用発明の「内層」と、補正発明の「樹脂フィルム」とは、「0.91?0.937g/cm^(3)の密度を有する、樹脂組成物からなる樹脂フィルム」という限りにおいて、一致する。
してみれば、両者の一致点および相違点は以下のとおりである。

《一致点》
「0.91?0.937g/cm^(3)の密度を有する、樹脂組成物からなる樹脂フィルムを備えるラミネートチューブ」

《相違点》
「樹脂組成物」が、補正発明では「バイオマス由来のエチレンの重合体、および/または、バイオマス由来のエチレンとバイオマス由来または化石燃料由来のα-オレフィンの共重合体を含んでな」り、「バイオマス由来のエチレンを前記樹脂組成物全体に対して5質量%以上含んでなり」、「0.91?0.937g/cm^(3)の密度を有し」、「1?30g/10分のメルトフローレートを有する」ものであるのに対し、引用発明では「低密度ポリエチレン(密度;0.92g/cm^(3))」である点。

5.判断
ポリエチレンは、いわゆる汎用樹脂の一種として、補正発明の「ラミネートチューブ」といった包装技術分野を含む様々な技術分野で広く用いられるものであるところ、「石油由来の原料ではなく植物由来の原料からなるポリエチレンを用いることで、地球温暖化に対する二酸化炭素排出量を抑制すること」が、ポリエチレンを用いる様々な技術分野において、本願の原出願前の技術常識であり、一般的な課題であった(例示が必要であれば、特表2010-511634号公報の段落[0008]?[0011]の記載事項や特表2011-506628号公報の段落[0001]?[0021]の記載事項を参照されたい。)と認められる。
また、上記3.(2)カ.に示したように、引用文献2の記載事項イ.?オ.から把握され、本願の原出願前に存在し当業者が利用可能であった、<ポリエチレンB>、すなわち、「エチレン(サトウキビ原料)94重量%及び1-ヘキセン(石油原料)6重量%からなり、メタロセン触媒を重合触媒とした、MFR:4、密度:0.93、植物由来度:0.93のポリエチレン」は、その密度から、低密度ポリエチレンといえるところ、「MFR」は、「10分あたりのメルトマスフローレート」の値を通常意味すること(必要であれば、JIS 7210-1:2014 3.1を参照されたい。)及び「1-ヘキセン(石油原料)」は、化石燃料(石油)由来のα-オレフィンの一種であることを踏まえると、上記<ポリエチレンB>は、本願発明1の「バイオマス由来のエチレンの重合体、および/または、バイオマス由来のエチレンとバイオマス由来または化石燃料由来のα-オレフィンの共重合体を含んでな」り、「バイオマス由来のエチレンを前記樹脂組成物全体に対して5質量%以上含んでなり」、「0.91?0.937g/cm^(3)の密度を有し」、「1?30g/10分のメルトフローレートを有する」「樹脂組成物」に相当することが明らかである。
してみると、汎用樹脂を用いる様々な技術分野の一つに属することが明らかな「ラミネートチューブ」に関する引用発明においても、地球温暖化に対する二酸化炭素排出量を抑制するという、一般的な課題を解決することに着目し、引用発明における「内層」の材料を「低密度ポリエチレン(密度;0.92g/cm^(3))」から、上記<ポリエチレンB>、すなわち、「エチレン(サトウキビ原料)94重量%及び1-ヘキセン(石油原料)6重量%からなり、メタロセン触媒を重合触媒とした、MFR:4、密度:0.93、植物由来度:0.93のポリエチレン」に変更することは、当業者が容易になし得たことというべきである。
そして、補正発明が奏する効果、すなわち、本件補正により補正された明細書の段落[0022]に記載された「本発明によれば、ポリオレフィン樹脂フィルムを備えるラミネートチューブにおいて、ポリオレフィン樹脂フィルムが、バイオマス由来のエチレンを含むモノマーが重合してなるバイオマス由来のポリオレフィンを含んでなる樹脂組成物からなり、バイオマス由来のエチレンを樹脂組成物全体に対して5質量%以上含んでなることで、カーボンニュートラルなポリオレフィン樹脂フィルムを備えるラミネートチューブを実現できる。したがって、従来に比べて化石燃料の使用量を大幅に削減することができ、環境負荷を減らすことができる。また、本発明のポリオレフィン樹脂フィルムを備えるラミネートチューブは、従来の化石燃料から得られる原料から製造されたポリオレフィン樹脂フィルムを備えるラミネートチューブと比べて、機械的特性等の物性面で遜色がないため、従来のポリオレフィン樹脂フィルムを備えるラミネートチューブを代替することができる。」という効果は、引用文献1、2の記載事項及び本願の原出願前の上記技術常識から、当業者が予測し得たものにすぎない。

なお、審判請求人は、審判請求書において、引用文献2に記載された着色フィルムAおよび透明フィルムAの樹脂組成物の密度は、それぞれ、0.96g/cm^(3)および0.945g/cm^(3)であって、補正後の本願請求項1に規定する樹脂組成物の密度(0.91?0.937g/cm^(3))は何ら開示も示唆もされていないし、引用文献2に記載されたポリエチレンが、製造過程においてフィルム状として得られるものであることを理由として、他の動機付けも無く、化粧シートとしての用途しか例示されていない発明を、引用文献1に記載されたラミネートチューブ用の積層フィルムとして用いることは技術常識から鑑みて容易に想到し得ない旨を主張するとともに、平成30年12月17日付け上申書において、引用文献2の発明は化粧シートに関する発明であり、引用文献1の脱酸素性多層チューブの発明とは、技術分野の関連性が低く、課題や作用・機能の共通性もないから、当業者が、引用文献1に記載された発明において、引用文献2に記載の発明を参照することは到底考えられない旨を主張している。
しかしながら、引用文献2に記載された化粧シートにおける着色フィルムAおよび透明フィルムAを、引用文献1に記載された脱酸素性多層チューブの発明へ適用することが容易であるか否かといった議論とは別途に、引用文献2の記載事項からは、本願の原出願前に、<ポリエチレンB>すなわち「エチレン(サトウキビ原料)94重量%及び1-ヘキセン(石油原料)6重量%からなり、メタロセン触媒を重合触媒とした、MFR:4、密度:0.93、植物由来度:0.93のポリエチレン」が存在し、当業者はこの<ポリエチレンB>を利用可能であったことが理解され、把握されることは、上記したとおりである。
また、「石油由来の原料ではなく植物由来の原料からなるポリエチレンを用いることで、地球温暖化に対する二酸化炭素排出量を抑制すること」が、ポリエチレンを用いる様々な技術分野において、本願の原出願前の技術常識であり、一般的な課題であったことを踏まえると、上記3.(2)に示した引用文献2の記載事項ア.からは、化粧シートの技術分野でも、植物由来の原料からなるポリエステル系樹脂を使用した化粧シートが開発され、また、サトウキビ由来のバイオエタノールからポリエチレンを重合していく研究の応用が検討されていたことが理解されるものの、上記<ポリエチレンB>を含む植物由来の原料樹脂の使用が、化粧シートの技術分野に特有のものであったと解すべき理由は、特に見当たらない。
したがって、上記主張はいずれも当を得たものとはいえず、採用できない。
以上のとおりであるから、補正発明は、引用発明及び引用文献2の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

6.むすび
上記のとおり、補正発明は、引用発明及び引用文献2の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。
よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3.本願発明について
1.本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?7に係る発明は、平成29年11月2日になされた手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記第2の1.(1)のとおりである。

2.引用刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献の記載事項、引用発明は、上記第2の3.のとおりである。


3.対比・判断
本願発明は、補正発明の発明特定事項の一部である「バイオマス由来のエチレンの重合体、および/または、バイオマス由来のエチレンとバイオマス由来または化石燃料由来のα-オレフィンの共重合体を含んでなる樹脂組成物」の有する「密度」の範囲について、補正発明の「0.91?0.937g/cm^(3)」を含む「0.91?0.96g/cm^(3)」とするものであって、他の発明特定事項については補正発明と差異がない。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、本願発明をさらに限定したものに相当する補正発明が、上記のとおり、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、引用発明及び引用文献2の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び引用文献2の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-05-23 
結審通知日 2019-05-24 
審決日 2019-06-07 
出願番号 特願2016-166072(P2016-166072)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B65D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 加藤 信秀  
特許庁審判長 千壽 哲郎
特許庁審判官 西尾 元宏
渡邊 豊英
発明の名称 ポリオレフィン樹脂フィルムを備えるラミネートチューブ  
代理人 朝倉 悟  
代理人 小島 一真  
代理人 永井 浩之  
代理人 中村 行孝  
代理人 佐藤 泰和  
代理人 浅野 真理  

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