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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H04N
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H04N
管理番号 1353796
審判番号 不服2017-17103  
総通号数 237 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-09-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-11-17 
確定日 2019-08-20 
事件の表示 特願2016-546976「ヘッドマウントディスプレイにおける環境的な割り込み、及び非視野リアルエステートの利用」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 7月30日国際公開、WO2015/112361、平成29年 3月 2日国内公表、特表2017-506449、請求項の数(12)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2015年(平成27年)1月12日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2014年5月20日、米国、2014年1月25日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成29年2月1日付けで拒絶理由通知がされ、平成29年7月3日付けで手続補正がされたが、平成29年7月10日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成29年11月17日に拒絶査定不服審判の請求がされ、その後、平成30年7月25日付けで当審より拒絶理由が通知され(以下、「当審拒絶理由(1)」という。)、平成30年11月28日に手続補正がされ、平成31年1月15日付けで当審より拒絶理由(以下、「当審拒絶理由(2)」という。)が通知され、平成31年4月19日に手続補正がされたものである。


第2 原査定の概要
原査定(平成29年7月10日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

理由1 本願請求項1-12に係る発明は、引用文献A-Bに基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
A.特開2013-168910号公報
B.特開2011-228859号公報


第3 当審拒絶理由の概要

1 当審拒絶理由(1)の概要
理由1 本願請求項1-12に係る発明は、引用文献1-5に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開2013-168910号公報(拒絶査定時の引用文献A)
2.特開2011-228859号公報(拒絶査定時の引用文献B)
3.米国特許出願公開第2013/0336629号明細書(当審において新たに引用した文献)
4.米国特許出願公開第2013/0007668号明細書(当審において新たに引用した文献)
5.特開2013-258614号公報(当審において新たに引用した文献)

2 当審拒絶理由(2)の概要
この出願は、特許請求の範囲の請求項1-12の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

第4 本願発明
本願請求項1-12に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明12」という。)は、平成31年4月19日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-12に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1は以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
ヘッドマウントディスプレイにおいてバーチャル環境に割り込むための方法であって、
前記ヘッドマウントディスプレイの位置の所定の変化にメニュー機能を関連付ける少なくとも一つの制御設定についての情報をメモリに保存することと、
前記ヘッドマウントディスプレイを調整して当該ヘッドマウントディスプレイの使用者の開始位置であって前記バーチャル環境を表示するための中立位置に対応する前記開始位置を特定することと、
前記ヘッドマウントディスプレイに表示された前記バーチャル環境において少なくとも一つの活動が存在する間の前記開始位置からの前記ヘッドマウントディスプレイの運動を追跡する位置データを生成することと、
前記制御設定の前記位置の所定の変化を超える前記開始位置からの変化を示すものとして前記ヘッドマウントディスプレイの現在位置を決定することと、
前記ヘッドマウントディスプレイの現在位置が前記制御設定の前記位置の所定の変化を超える前記開始位置からの変化を示すことを契機として、前記バーチャル環境における前記少なくとも一つの活動を一時停止することによって前記ヘッドマウントディスプレイにおける前記バーチャル環境に割り込むことで前記メニュー機能を有効化することにより、前記制御設定に関連する前記メニュー機能を実行することと、
前記バーチャル環境における前記少なくとも一つの活動が一時停止された時点で、実行された前記メニュー機能に関連付けられた対話型メニューを前記バーチャル環境に隣接する周辺領域に表示することと、を含む、前記方法。」

なお、概略、本願発明2-4は、本願発明1を減縮した発明である。
本願発明5は、本願発明1に対応する、カテゴリ表現が異なる「システム」の発明である。
本願発明6-8は、本願発明5を減縮した発明である。
本願発明9は、本願発明1対応する、カテゴリ表現が異なる「プログラム」の発明である。
本願発明10-12は、本願発明9を減縮した発明である。


第5 各引用文献及び引用発明

1 引用文献1及び引用発明
当審拒絶理由(1)に引用した引用文献1には、図面とともに、以下の記載がある(下線は、特に着目した箇所を示す。以下同様。)。

ア 段落【0028】-【0029】
「【0028】
筐体104は、情報管理部141、アプリケーション選択部142及び検出部143を収容する。情報管理部141及びアプリケーション選択部142は、プロセッサやメモリ等のハードウェアとプログラムの協働によって実現されている。詳細は後述するが、アプリケーション選択部142は、検出部143の出力に基づいてアプリケーションを選択し、情報管理部141は、選択されたアプリケーションによって生成された画像を表示部103に表示させる。
【0029】
検出部143は、自身の方向(即ち、HMD100の方向)を検出し、その出力を情報管理部141を介してアプリケーション選択部142に供給する。HMD100の方向は、HMD100を装着したユーザが頭部あるいは身体の向きを動かした場合に変動する。検出部143は具体的には、加速度センサ、ジャイロセンサ及び地磁気センサによって構成されたモーションセンサであるものとすることができる。また、検出部143はモーションセンサに限られず、HMD100の方向を検出することが可能なもの、例えば、カメラによって撮像された周囲の画像に対する画像処理によってHMD100の方向を検出するものとすることも可能である。」

イ 段落【0031】-【0036】
「【0031】
[ヘッドマウントディスプレイの動作]
以上のように構成されたHMD100の動作について説明する。図3は、HMD100の動作を示すシーケンス図である。
【0032】
ユーザがHMD100を装着している状態で、アプリケーションAの出力画像が表示部103に表示されているものとする。また、表示部103が透過型ディスプレイである場合には、表示部103になんらの画像も表示されず、ユーザが表示部103を通して外部を見ている状態であってもよい。このときのHMD100の方向を「正面方向」と定義する。
【0033】
情報管理部141は、所定時間毎に検出部143からHMD100の方向を示すセンサ値を取得する。続いて、情報管理部141は、センサ値をアプリケーション選択部142に供給する。
【0034】
アプリケーション選択部142は、センサ値に基づいてアプリケーションを選択する。具体的には、センサ値が「正面方向」の範囲に含まれている場合にはそのままアプリケーションAを選択し、センサ値が「正面方向」の範囲を外れている場合(「非正面方向」とする)には別のアプリケーション(アプリケーションB)を選択するものとすることができる。
【0035】
続いてアプリケーション選択部142は、選択したアプリケーションBを情報管理部141に通知する。情報管理部141は、通知されたアプリケーションBから表示画像を取得し、表示部103に表示させる。
【0036】
以上の動作をユーザ側からみると次のようになる。即ち、ユーザがHMD100を装着して電源を入れるかまたは所定の操作入力を実行すると、そのHMD100の方向が「正面方向」と定義される。このとき、表示部103には、アプリケーションAの出力画像が表示されている。」

ウ 段落【0045】-【0046】
「【0045】
さらに、上述の説明においては、HMD100の方向に応じて表示部103に表示させるアプリケーションが選択されるものとしたが、この際にメニュー選択を利用することも可能である。図6は、メニュー選択の例を示す模式図である。
【0046】
図6(a)に示すように、HMD100が正面方向から所定方向(例えば上方向)に向けられると、表示部103に複数のアプリケーションが並んで表示(メニュー表示)される。ユーザが首をかしげ、HMD100が傾けられると、図6(b)に示すようにメニュー表示されているアプリケーションがスライドして表示される。ユーザは、重力に従ってメニューがスライドする感覚で直感的にアプリケーションを選択することが可能である。また、HMD100が所定方向(例えば右方向)に向けられるとアプリケーションがスライドして表示されてもよい。ユーザが首を戻し、HMD100が正面方向に向けられると、図6(c)に示すようにアプリケーションが選択される。」

エ 段落【0072】-【0080】
「【0072】
(応用例)
本技術に係るHMDの応用例について説明する。

・・・(中略)・・・

【0076】
[通知]
HMDが正面方向に向けられている際には、表示部に何も表示されず、あるいは何らかのアプリケーションの出力画像が表示されている。電子メールやSNS(social networking service)が受信されると、その通知が表示部に表示される。ユーザがHMDを非正面方向に向けると、電子メールやSNSのメッセージが表示部に表示される。メッセージは表示部の全体ではなく端部にのみ表示されてもよい。また、例えば、新着メールがない場合には、HMDが非正面方向に向けられても表示部の表示を変更しないものとすることもできる。

・・・(中略)・・・

【0078】
[作業支援]
HMDが正面方向に向けられている際には表示部に何も表示されず、ユーザは表示部(透過型ディスプレイ)を透過して前方を視認することができる。HMDが非正面方向に向けられると、作業手順(料理のレシピ等)が表示部に表示される。HMDが正面方向に向けられているときには作業手順が表示されないため、ユーザの作業を妨げない。
【0079】
[その他]
HMDの方向によって、シソーラス(単語を関係性に応じて配置した図)における表示範囲を移動させ、ユーザが関連語を検索しやすくする。あるいは、HMDの方向によって天文図における表示範囲を移動させ、ユーザによる疑似天文観察を可能とする。また、HMDの方向によって仮想的なゲーム版(当審注:「ゲーム盤」の誤記と認める。)を傾けるゲームを提供することも可能である。
【0080】
本技術は、上記各実施形態にのみ限定されるものではなく、本技術の要旨を逸脱しない範囲内において変更することが可能である。」

よって、上記各記載事項を関連図面と技術常識に照らし、下線部に着目すれば、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

「情報管理部141及びアプリケーション選択部142は、プロセッサやメモリ等のハードウェアとプログラムの協働によって実現され、
検出部143は具体的には、加速度センサ、ジャイロセンサ及び地磁気センサによって構成されたモーションセンサであり、
ユーザがHMD100を装着している状態で、
電源を入れるかまたは所定の操作入力を実行すると、そのHMD100の方向が「正面方向」と定義され、このとき、
アプリケーションAの出力画像が表示部103に表示されており、
情報管理部141は、所定時間毎に検出部143からHMD100の方向を示すセンサ値を取得し、続いて、情報管理部141は、センサ値をアプリケーション選択部142に供給し、
アプリケーション選択部142は、センサ値が「正面方向」の範囲に含まれている場合にはそのままアプリケーションAを選択し、センサ値が「正面方向」の範囲を外れている場合(「非正面方向」とする)には、別のアプリケーション(アプリケーションB)を選択するものとすることができ、
ここで、HMD100の方向に応じて、アプリケーションが選択されることに替えて、メニュー選択を利用することも可能であり、
HMD100が正面方向から所定方向(例えば上方向)に向けられると、表示部103に複数のアプリケーションが並んで表示(メニュー表示)され、
ユーザが首をかしげ、HMD100が傾けられると、メニュー表示されているアプリケーションがスライドして表示され、
ユーザが首を戻し、HMD100が正面方向に向けられると、アプリケーションが選択される、
ヘッドマウントディスプレイの動作方法。」

2 引用文献2
引用文献2には、図面とともに、以下の記載がある。
ア 段落【0026】
「【0026】
実施の形態は、3次元テレビ206においてゲームや映画等の3次元映像を含むコンテンツを再生中に、コンテンツを再生するシステムの制御メニューを表示するときの表示の仕方に関する。ここで「制御メニュー」とは、コンテンツの再生装置を統括的に制御してコンテンツ等のアプリケーションプログラムを実行するシステムプログラムが、ユーザに提示する情報のことをいう。制御メニューとしては、例えばコンテンツの再生を停止するか否かの選択メニュー、ゲームのコンテンツにおいてユーザがセーブをしようとするときにメモリカードの空き容量が不足している場合にその旨の通知、内蔵電池で動作する携帯型の再生装置の場合には電池の残量が少なくなった旨の通知等、コンテンツの再生内容とは関係せず再生装置の動作に関わる情報があげられる。」

イ 段落【0039】-【0040】
「【0039】
輝度値制御部14は、割込要求受付部12が割込要求を取得することを契機として、制御メニューのオブジェクト216以外の立体映像の輝度値を下げる。具体的には、3次元コンテンツ再生部10が出力した視差画像の輝度値を半分にして、画像バッファ18に格納する。前述したオブジェクト216を手前から移動させることによるカメラ202を引いて撮像したような錯覚とあいまって、位置関係を無視したことに起因してユーザが受ける視覚的な違和感を低減させうる。他の立体映像に対して制御メニューの視認性を相対的に高めることができる点で効果がある。
【0040】
3次元コンテンツ再生部10は、割込要求受付部12が割込要求を取得することを契機として、再生中のコンテンツを一時停止してもよい。制御メニューのみが動くことから、ユーザが受ける視覚的な違和感をさらに低減させうる点で効果がある。」

3 引用文献3
引用文献3には、図面とともに、以下の記載がある。
ア 段落[0045]
「At block 830, a visibility of the video is changed, based on the triggering event. Changing the visibility of the video can allow the user to see the user's surroundings more clearly. Accordingly, changing the visibility of the video can include increasing the transparency of the video, removing the video from the display, reducing the size of the video, and the like. Some embodiments and/or triggering events may provide for reducing the visibility while the video continues to be shown (e.g., showing video playback or a paused image of the video in a transparent and/or reduced-size window without removing the video from the display). Additionally or alternatively, the HMD may pause the video, reduce and/or mute the audio, display at least one additional visual element (e.g., a message, incoming call notification, emergency warning, etc.). Here again, means for manipulating the one or more visual elements can include a processing unit, memory, and/or other computing means coupled to the display. For example, means can include the processor(s) 910, output device(s) 920 (e.g., a display), and/or working memory 935 (including software) of the computer system 900 of FIG. 9.」
(当審訳:ブロック830で、トリガ・イベントに基づき、映像の視認性が変更される。映像の視認性を変更することで、ユーザは、ユーザの周囲環境をより明確に見ることができる。したがって、映像の視認性を変化させることには、映像の透明度を増加させること、ディスプレイから映像を除去すること、映像のサイズを減少させることなどを含み得る。いくつかの実施形態及び/またはトリガーイベントでは、視認性の減少を提供するために、映像を表示し続けてもよい(例えば、ディスプレイから映像を除去することなく、映像のプレイバックまたは映像を一時停止した画像を、透明な、及び/またはサイズを縮小したウィンドウで表示する)。追加的または代替的に、HMDは、映像を一時停止し、音声を減少及び/または消音して、少なくとも1つの付加的な視覚要素(例えば、メッセージ、着信呼出通知、緊急警告など)を表示することができる。ここで再び、1つ又はそれ以上の視覚要素を操作する手段は、ディスプレイと結合された、処理ユニット、メモリ、及び/または他の計算手段を含むことができる。例えば、この手段は、図9のコンピュータ/システム900における(複数の)プロセッサ910、(複数の)出力手段(例えば、ディスプレイ)920、及び/または、(ソフトウェアを含む)作業メモリ935を含むことができる。)

4 引用文献4
引用文献4には、図面とともに、以下の記載がある。
ア 段落[0022]
「Technology is disclosed by which a user's experience when using a near eye display device is enhanced. A user interface is provided for a user to manage single or simultaneous applications in a head mounted device. Applications can be activated or deactivated, as well as overlaid on top of each other for simul-tasking, via the user-interface provided. In one embodiment, the user's total field of view (TFOV) which accounts for a complete range of rotation and translation of the user's head may be determined by tracking the user's head position and rotation relative to determine the user's body and environment associated with the user. One region of the user's TFOV (e.g., the right-hand side of the user's TFOV) may display a "visor menu" to provide visual cues for applications that can be launched or layered, and another region of the user's TFOV (e.g., the left-hand side of the user's TFOV) may display an "active-visors" menu to provide visual cues for applications currently running. The user may activate or deactivate one or more applications in the head mounted device via the menus provided.」
(当審訳:目の近くで使用されるディスプレイ装置を用いるユーザ体験を改善する技術が開示される。ユーザが、ヘッドマウント装置内の単一の又は同時に実行されるアプリケーションを管理するためのユーザインターフェースが提供される。提供されるユーザインタフェースを介して、アプリケーションを同時実行するために、アクティブ化または非アクティブ化したり、互いに重ねることができる。一実施例では、ユーザ周辺の環境とユーザ身体に対する、ユーザ頭部の位置及び回転を追跡することによって、ユーザの頭部が回転運動及び並進運動できる全範囲であるところの全視野(TFOV)を決定してもよい。ユーザのTFOVのある領域(例えば、ユーザのTFOVの右側)に、起動したりまたは重ねることができるアプリケーションの視覚的な手掛かりを提供するための「バイザー型メニュー」を表示し、そして、別の領域(例えば、ユーザのTFOVの左側)に、現在実行中のアプリケーションの視覚的な手掛かりを提供するための「アクティブなバイザー型メニュー」を表示してもよい。ユーザは、提供されたメニューを介して、ヘッドマウントディスプレイにおいて、1つ又は複数のアプリケーションをアクティブ化または非アクティブ化できる。)

イ 段落[0044]
「In one embodiment, the user's total field of view determined in 2202 may be classified as primary, secondary, and tertiary regions based on one or more pre-determined rules. For example, a rule may specify that when user is in walking state, primary region is within +-35 degrees. By classifying the user's TFOV as primary, secondary, and tertiary regions, user interface and/or other virtual elements may be placed and made visible in the secondary or tertiary regions, thereby avoiding obstructing the user's primary field of view region.」
(当審訳:一実施例では、ステップ2222で決定したユーザの全視野(TFOV)を、1つ以上の所定のルールに基づいて、一次、二次、及び三次の領域に分類できる。ルールとは、例えば、ユーザが歩行状態ならば、一次領域は±35度以内であると規定できる。ユーザの全視野(TFOV)を、一次、二次、及び三次の領域に分類することで、ユーザインターフェース及び/または他の仮想構成要素を、二次又は三次領域に表示されるように配置できるので、ユーザの視野の一次領域への妨害を避けることができる。)

5 引用文献5
引用文献5には、段落【0077】-【0082】に、図面とともに、以下の記載がある。
「【0077】
イベント特定部930は、対応テーブル記憶部940に保持されたジェスチャとイベントを対応づけたテーブルを参照し、ジェスチャ判定部920により判定されたジェスチャから、発生させるべきイベントを特定する。たとえば、ユーザがうなずいたときは「決定」、首を横に振ったときは「キャンセル」、上下左右のいずれかを向いたときはその方向への「カーソル移動」、首をかしげたときは「メニュー表示」などに対応づけられる。
【0078】
ユーザインタフェース部960は、メニュー情報記憶部970からメニュー画面の情報を読み出し、イベント特定部930により特定されたイベントにもとづいてメニュー画面を表示させたり、メニュー画面から項目を選択させるイベントを発生させるなど、イベントにもとづいた操作画面をヘッドマウントディスプレイ100に提供する。
【0079】
図15(a)?図15(d)は、ヘッドマウントディスプレイ100に表示されるメニュー画面の例を説明する図である。
【0080】
図15(a)は、ヘッドマウントディスプレイ100に表示される画面である。図15(b)は、ユーザが頭を左に傾げたとき表示されるメニュー630を示す。傾き・加速度情報取得部910がユーザの頭部が左に傾いたことを検出すると、ジェスチャ判定部920は、その動作をメニュー630を画面に登場させるイベントに対応づけ、ユーザインタフェース部960は、メニュー630を画面の右端からスライドさせて登場させる(「スライド・イン」動作と呼ぶ)。
【0081】
ユーザが頭を元の位置に戻すと、図15(c)に示すように、画面にメニュー630が表示された状態でメニュー630から項目を選択することができるようになる。たとえば、ユーザが上または下を向くと、メニュー630のいずれかの項目を順に選択することができ、ユーザが右を向くと、選択された項目を実行することができる。ユーザが左を向くと、選択した項目をキャンセルすることができる。
【0082】
図15(d)は、ユーザが頭を右に傾げたときに表示されるメニュー630を示す。傾き・加速度情報取得部910がユーザの頭部が右に傾いたことを検出すると、ジェスチャ判定部920は、その動作をメニュー630を画面から消すイベントに対応づけ、ユーザインタフェース部960は、メニュー630を画面の右端にスライドさせて消去する(「スライド・アウト」動作と呼ぶ)。」


第6 対比・判断
1 対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。

(1) 引用発明の「ヘッドマウントディスプレイの動作方法」において、「アプリケーションAの出力画像」を表示中に、「HMD100が正面方向から所定方向(例えば上方向)に向けられると、表示部103に複数のアプリケーションが並んで表示(メニュー表示)され」ることは、本願発明1の「ヘッドマウントディスプレイにおいてバーチャル環境に割り込むための方法」と、「ヘッドマウントディスプレイにおいて、割り込むための方法」である点で共通するといえる。

(2) 引用発明の「情報管理部141は、所定時間毎に検出部143からHMD100の方向を示すセンサ値を取得し、続いて、情報管理部141は、センサ値をアプリケーション選択部142に供給し、アプリケーション選択部142は、プロセッサやメモリ等のハードウェアとプログラムの協働によって実現され」、「アプリケーション選択部142は、センサ値が「正面方向」の範囲に含まれている場合にはそのままアプリケーションAを選択し、センサ値が「正面方向」の範囲を外れている場合(「非正面方向」とする)には」、「メニュ-表示」が行われるから、引用発明の「アプリケーション選択部」の「メモリ」に、HMD100の方向を示すセンサ値と比較される『「正面方向」の範囲』の値が保存されることは技術常識から明らかである。
よって、引用発明において、センサ値と比較される『「正面方向」の範囲』の値を「メモリ」に保存することは、本願発明1の「前記ヘッドマウントディスプレイの位置の所定の変化にメニュー機能を関連付ける少なくとも一つの制御設定についての情報をメモリに保存すること」に相当する。

(3) 引用発明の「ユーザがHMD100を装着している状態で、電源を入れるかまたは所定の操作入力を実行すると、そのHMD100の方向が「正面方向」と定義され」ることは、本願発明1の「前記ヘッドマウントディスプレイを調整して当該ヘッドマウントディスプレイの使用者の開始位置であって前記バーチャル環境を表示するための中立位置に対応する前記開始位置を特定すること」と、「前記ヘッドマウントディスプレイを調整して当該ヘッドマウントディスプレイの使用者の開始位置であって、中立位置に対応する前記開始位置を特定すること」で共通するといえる。

(4) 引用発明の「情報管理部141は、所定時間毎に検出部143からHMD100の方向を示すセンサ値を取得し」ていることは、本願発明1の「前記ヘッドマウントディスプレイに表示された前記バーチャル環境において少なくとも一つの活動が存在する間の前記開始位置からの前記ヘッドマウントディスプレイの運動を追跡する位置データを生成すること」と、「少なくとも一つの活動が存在する間の前記開始位置からの前記ヘッドマウントディスプレイの運動を追跡する位置データを生成すること」で共通するといえる。

(5) 引用発明の「センサ値が「正面方向」の範囲を外れている場合(「非正面方向」とする)」を検出することは、本願発明1の「前記制御設定の前記位置の所定の変化を超える前記開始位置からの変化を示すものとして前記ヘッドマウントディスプレイの現在位置を決定すること」に相当する。

(6) 引用発明において、「センサ値が「正面方向」の範囲を外れている場合(「非正面方向」とする)」、「表示部103に複数のアプリケーションが並んで表示(メニュー表示)される」ことは、本願発明1の「前記ヘッドマウントディスプレイの現在位置が前記制御設定の前記位置の所定の変化を超える前記開始位置からの変化を示すことを契機として、前記バーチャル環境における前記少なくとも一つの活動を一時停止することによって前記ヘッドマウントディスプレイにおける前記バーチャル環境に割り込むことで前記メニュー機能を有効化することにより、前記制御設定に関連する前記メニュー機能を実行すること」と、「前記ヘッドマウントディスプレイの現在位置が前記制御設定の前記位置の変化を超える前記開始位置からの変化を示すことを契機として、前記ヘッドマウントディスプレイにおける、割り込むことで前記メニュー機能を有効化することにより、前記制御設定に関連する前記メニュー機能を実行すること」である点で共通するといえる。

(7) 引用発明において、「表示部103に複数のアプリケーションが並んで表示(メニュー表示)される」ことは、本願発明1の「前記バーチャル環境における前記少なくとも一つの活動が一時停止された時点で、実行された前記メニュー機能に関連付けられた対話型メニューを前記バーチャル環境に隣接する周辺領域に表示すること」と、「実行された前記メニュー機能に関連付けられた対話型メニューを、表示すること」である点で共通するといえる。

よって、本願発明1と引用発明との一致点・相違点は次のとおりであるといえる。

<一致点>
「ヘッドマウントディスプレイにおいて、割り込むための方法であって、
前記ヘッドマウントディスプレイの位置の所定の変化にメニュー機能を関連付ける少なくとも一つの制御設定についての情報をメモリに保存することと、
前記ヘッドマウントディスプレイを調整して当該ヘッドマウントディスプレイの使用者の開始位置であって、中立位置に対応する前記開始位置を特定することと、
少なくとも一つの活動が存在する間の前記開始位置からの前記ヘッドマウントディスプレイの運動を追跡する位置データを生成することと、
前記制御設定の前記位置の所定の変化を超える前記開始位置からの変化を示すものとして前記ヘッドマウントディスプレイの現在位置を決定することと、
前記ヘッドマウントディスプレイの現在位置が前記制御設定の前記位置の所定の変化を超える前記開始位置からの変化を示すことを契機として、前記ヘッドマウントディスプレイにおける、割り込むことで前記メニュー機能を有効化することにより、前記制御設定に関連する前記メニュー機能を実行することと、
実行された前記メニュー機能に関連付けられた対話型メニューを、表示することと、を含む、前記方法。」

[相違点1]
本願発明1は、「ヘッドマウントディスプレイにおいてバーチャル環境に割り込むための方法であって」、「前記ヘッドマウントディスプレイを調整して当該ヘッドマウントディスプレイの使用者の開始位置であって前記バーチャル環境を表示するための中立位置に対応する前記開始位置を特定することと」、「前記ヘッドマウントディスプレイに表示された前記バーチャル環境において少なくとも一つの活動が存在する間の前記開始位置からの前記ヘッドマウントディスプレイの運動を追跡する位置データを生成すること」を含むのに対して、引用発明では、「アプリケーションAの出力画像が表示部103に表示され」ている状態に対して割り込むものであって、「ヘッドマウントディスプレイに表示された」、「バーチャル環境に」対して、割り込むことは特定されていない点。

[相違点2]
本願発明1では、「前記ヘッドマウントディスプレイの現在位置が前記制御設定の前記位置の所定の変化を超える前記開始位置からの変化を示すことを契機として、前記バーチャル環境における前記少なくとも一つの活動を一時停止することによって前記ヘッドマウントディスプレイにおける前記バーチャル環境に割り込むことで前記メニュー機能を有効化することにより、前記制御設定に関連する前記メニュー機能を実行すること」を含むのに対して、引用発明では、割り込むときに、「前記バーチャル環境における前記少なくとも一つの活動を一時停止することによって」、「前記バーチャル環境に」割り込むことは特定されていない点。

[相違点3]
本願発明1では、「前記バーチャル環境における前記少なくとも一つの活動が一時停止された時点で、実行された前記メニュー機能に関連付けられた対話型メニューを前記バーチャル環境に隣接する周辺領域に表示すること」を含むのに対して、引用発明では、「前記バーチャル環境における前記少なくとも一つの活動が一時停止された時点で」、対話型メニューを「前記バーチャル環境に隣接する周辺領域に」表示することは特定されていない点。


2 当審の判断
事案に鑑みて、上記[相違点3]について先に検討する。

一般に、ヘッドマウントディスプレイ用の「アプリケーション」として、「バーチャル環境」を表示するアプリケーションそれ自体は、「引用文献1」の段落【0079】に、「疑似天文観察」や「仮想的なゲーム盤」が例示されるように(上記第2、「1 引用文献1及び引用発明」の(エ)項を参照。)、周知技術であるといえる。

また、一般に、立体映像を含む各種映像の再生中に、「メニュー」や、「メッセージ、着信呼出通知、緊急警告」などの付加的な視覚要素を表示する時点で、現在再生中の映像の表示を、「一時停止」させる点は、「引用文献2」(上記第2、「2 引用文献2」を参照。)、「引用文献3」(上記第2、「3 引用文献3」を参照。)に、それぞれ記載されるように、周知技術であるといえる。

さらに、一般に、「メニュー」や、「メッセージ」などの付加的な視覚要素を表示する位置として、画面や視野の「周辺」部分を選択する点は、「引用文献4」(上記第2、「4 引用文献4」を参照。)、「引用文献5」(上記第2、「5 引用文献5」、及び、図15を参照。)、さらに、「引用文献1」の段落【0076】に、「電子メールやSNSのメッセージが表示部に表示される。メッセージは表示部の全体ではなく端部にのみ表示されてもよい」(上記第2、「1 引用文献1及び引用発明」の(エ)項を参照。)に、それぞれ記載されるように、周知技術であるといえる。

しかしながら、上記[相違点3]に係る、「前記バーチャル環境における前記少なくとも一つの活動が一時停止された時点で、実行された前記メニュー機能に関連付けられた対話型メニューを前記バーチャル環境に隣接する周辺領域に表示する」という構成までは、上記引用文献1-5には記載されておらず、本願優先日前において周知技術であるともいえない。

すなわち、引用発明には、「複数のアプリケーションが並んで表示(メニュー表示)され」る際(図6(a)を参照)、アプリケーションが一時停止され、メニュー表示がバーチャル環境に隣接する周辺領域に表示されることは特定されていない。

むしろ、引用発明では、
「HMD100の方向に応じて、アプリケーションが選択されることに替えて、メニュー選択を利用することも可能であり、
HMD100が正面方向から所定方向(例えば上方向)に向けられると、表示部103に複数のアプリケーションが並んで表示(メニュー表示)され、
ユーザが首をかしげ、HMD100が傾けられると、メニュー表示されているアプリケーションがスライドして表示され、
ユーザが首を戻し、HMD100が正面方向に向けられると、アプリケーションが選択される」
ものであって、「複数のアプリケーションが並んで表示(メニュー表示)され」ている状態から(図6(a)を参照。)、(左右どちらかに)「ユーザが首をかしげ」ることによって、(首をかしげた方向に)「メニュー表示されているアプリケーションがスライドして表示され」ることからは(図6(b)を参照。)、引用発明において、メニュー表示がスライドさせるよりも前の、「複数のアプリケーションが並んで表示(メニュー表示)され」ている状態では、「メニュー表示」は、ユーザの正面に表示されるものと解するのが自然である。

一方、上記[相違点3]に関連して、本願の発明の詳細な説明の段落【0034】には、「使用者がHMD200によって表示されたVR環境を一時停止したので、使用者は、ここで、VR環境の直接部分ではなく、通常では使用者の視線の「周辺視野」領域に追いやられるであろうリアルエステート領域における他の活動に注意を向けることができる。」と記載され、要するに、本願発明1では、バーチャル環境を一時停止したので、通常では「周辺視野」領域に追いやられるであろう領域における他の活動、すなわち、メニュー表示に、注意を向けることができるとの効果を奏する旨が開示されていると認められる。

したがって、他の相違点について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても引用発明、引用文献2-5に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

3 請求項2-12について
本願発明2-4は、本願発明1を減縮した発明であり、本願発明5は、本願発明1に対応する、カテゴリ表現が異なる「システム」の発明であり、本願発明6-8は、本願発明5を減縮した発明であり、本願発明9は、本願発明1対応する、カテゴリ表現が異なる「プログラム」の発明であり、本願発明10-12は、本願発明9を減縮した発明であるから、本願発明の上記[相違点3]に係る「前記バーチャル環境における前記少なくとも一つの活動が一時停止された時点で、実行された前記メニュー機能に関連付けられた対話型メニューを前記バーチャル環境に隣接する周辺領域に表示すること」に対応する構成を備えるものであるから、本願発明1と同様の理由により、当業者であっても、引用発明、引用文献2-5に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。


第7 当審拒絶理由(1)、(2)について
1 当審拒絶理由(1)について
平成31年4月19日付けの補正により補正された請求項1-12は、「前記バーチャル環境における前記少なくとも一つの活動が一時停止された時点で、実行された前記メニュー機能に関連付けられた対話型メニューを前記バーチャル環境に隣接する周辺領域に表示する」という技術的事項を有しており、当該技術的事項は、当審拒絶理由(1)における引用文献1-5には記載されておらず、本願優先日前における周知技術でもないので、本願発明1-12は、当業者であっても、当審拒絶理由(1)における引用文献1-5に基づいて容易に発明をすることができたものではない。したがって、この拒絶の理由は解消した。

2 当審拒絶理由(2)について
(1) 当審では、補正前の請求項1-12は、「対話型メニュー表示を前記バーチャル環境における視線領域ではない非視野の周辺領域リアルエステートに提示する」における「視線領域ではない非視野の周辺領域リアルエステート」が不明確である旨の拒絶の理由を通知しているが、平成31年4月19日付けの補正により、補正前の請求項1-12は「実行された前記メニュー機能に関連付けられた対話型メニューを前記バーチャル環境に隣接する周辺領域に表示する」と補正された結果、この拒絶の理由は解消した。

(2) 当審では、補正前の請求項1-12は、「メニュー機能を実行すること」と、「対話型メニュー表示を」「提示すること」との、両者の異同が不明確である旨の拒絶の理由を通知しているが、平成31年4月19日付けの補正により、補正前の請求項1-12は「実行された前記メニュー機能に関連付けられた対話型メニューを前記バーチャル環境に隣接する周辺領域に表示する」と補正され、メニュー機能を実行することと、実行された前記メニュー機能に関連付けられた対話型メニューを表示することとの関係が明確にされた結果、この拒絶の理由は解消した。

第8 原査定についての判断
平成31年4月19日付けの補正により補正された請求項1-12は、「前記バーチャル環境における前記少なくとも一つの活動が一時停止された時点で、実行された前記メニュー機能に関連付けられた対話型メニューを前記バーチャル環境に隣接する周辺領域に表示する」という技術的事項を有しており、当該技術的事項は、原査定における引用文献A、引用文献B(引用文献1、引用文献2)には記載されておらず、本願優先日前における周知技術でもないので、本願発明1-12は、当業者であっても、原査定における引用文献A、引用文献Bに基づいて容易に発明をすることができたものではない。したがって、原査定を維持することはできない。

第9 むすび
以上のとおり、原査定の理由によって、本願を拒絶することはできない。
他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-08-05 
出願番号 特願2016-546976(P2016-546976)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (H04N)
P 1 8・ 121- WY (H04N)
最終処分 成立  
前審関与審査官 間野 裕一  
特許庁審判長 ▲吉▼田 耕一
特許庁審判官 稲葉 和生
白井 亮
発明の名称 ヘッドマウントディスプレイにおける環境的な割り込み、及び非視野リアルエステートの利用  
代理人 森下 賢樹  

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