• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B29C
管理番号 1353807
審判番号 不服2017-12646  
総通号数 237 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-09-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-08-25 
確定日 2019-07-31 
事件の表示 特願2015-250399「リサイクル樹脂組成物及びそれから製造される使い捨て医療機器」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 4月28日出願公開、特開2016- 64668〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2011年(平成23年)8月17日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2010年8月20日、アメリカ合衆国)を国際出願日とする特願2013-525988号の一部を、平成27年12月22日に新たな特許出願としたものであって、平成28年12月20日付けで拒絶理由が通知され、平成29年3月27日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年4月18日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年8月25日に拒絶査定不服審判が請求され、同時に手続補正書が提出され、平成30年8月21日付けで当審より拒絶理由が通知され、同年11月28日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1?12に係る発明は、平成30年11月28日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?12に記載された事項により特定されるものであり、そのうち、請求項1、10?12に係る発明は、以下のとおりである。(以下、請求項1、10?12に係る発明を、項番にあわせて、それぞれ、「本願発明1」、「本願発明10」?「本願発明12」といい、これらをまとめて「本願発明」ともいう。)

「【請求項1】
医療機器を成形する方法であって、
追跡可能な起源から供給される、生体適合性リサイクル樹脂組成物を提供する工程であって、前記生体適合性リサイクル樹脂組成物がリサイクルポリプロピレン樹脂組成物であり、前記リサイクルポリプロピレン樹脂組成物が、50から70重量%の脱工業化(post-industrial)リサイクル樹脂、使用済リサイクル樹脂及びそれらの組み合わせを含む、生体適合性リサイクル樹脂組成物を提供する工程と、
ガンマ線、電子線、X線、エチレンオキシドガス、オートクレーブ、又はプラズマ滅菌から選択される1以上の処理への暴露に耐えるように前記組成物を安定化する工程であって、前記リサイクルポリプロピレン樹脂組成物はゼロ点の細胞毒性スコアを有する工程と、
50から70重量%の前記リサイクル樹脂組成物を、30から50重量%の未使用のポリプロピレン樹脂と機械的に混合する工程であって、前記未使用のポリプロピレン樹脂が、抗酸化剤成分及び溶融安定剤成分を総量で0.3から0.8重量%と、0.2から0.3重量%の酸捕捉剤成分を含み、前記リサイクルポリプロピレン樹脂組成物と前記未使用のポリプロピレン樹脂の総量が100重量%である工程と、
スリップ添加剤成分、静電気防止成分、衝撃改質剤成分、着色剤成分、X線蛍光剤成分、放射線不透過充填剤成分、表面改質剤成分、加工助剤成分、溶融安定剤成分、清澄剤成分、核形成剤及び補強剤成分の1つ以上を提供する工程と、
射出成形法を用いて生体適合性の流体通路接触医療機器を形成する工程と、
前記医療機器を23℃50%相対湿度で40時間コンディショニングする工程、
を含む方法。

【請求項10】
医療処置に使用される構成要素を含み、滅菌安定性のリサイクルポリプロピレン樹脂組成物と未使用のポリプロピレン樹脂から形成された医療機器であって、
前記滅菌安定性のリサイクルポリプロピレン樹脂組成物は、生体適合性であり、50から70重量%の脱工業化(post-industrial)リサイクル樹脂、使用済リサイクル樹脂及びそれらの組み合わせを含む、50から70重量%のリサイクルポリプロピレン樹脂組成物を含み、ゼロ点の細胞毒性スコアを有し、
前記未使用のポリプロピレン樹脂は30から50重量%の量で存在し、抗酸化剤成分及び溶融安定剤成分を総量で0.3から0.8重量%と、0.2から0.3重量%の酸捕捉剤成分を含み、
前記リサイクルポリプロピレン樹脂組成物と前記未使用のポリプロピレン樹脂の総量が100重量%である医療機器。

【請求項11】
医療機器を成形するための組成物であって、
追跡可能な起源から供給されるリサイクルポリプロピレン樹脂組成物と、
未使用のポリプロピレン樹脂と、
抗酸化剤成分、スリップ添加剤成分、静電気防止成分、衝撃改質剤成分、着色剤成分、酸捕捉剤成分、X線蛍光剤成分、放射線不透過充填剤成分、表面改質剤成分、加工助剤成分、溶融安定剤成分、清澄剤成分、核形成剤及び補強剤成分の1つ以上と、
を含み、
前記リサイクルポリプロピレン樹脂組成物は、生体適合性であり、50から70重量%の脱工業化(post-industrial)リサイクル樹脂、使用済リサイクル樹脂及びそれらの組み合わせを含む、50から70重量%のリサイクルポリプロピレン樹脂組成物を含み、ゼロ点の細胞毒性スコアを有し、
前記未使用のポリプロピレン樹脂は30から50重量%の量で存在し、抗酸化剤成分及び溶融安定剤成分を総量で0.3から0.8重量%と、0.2から0.3重量%の酸捕捉剤成分を含み、
前記リサイクルポリプロピレン樹脂組成物と前記未使用のポリプロピレン樹脂の総量が100重量%である組成物。

【請求項12】
医療機器を形成する方法であって、
50重量%から99重量%のリサイクル樹脂成分を含む、生体適合性の溶融ブレンド組成物を提供する工程であって、前記リサイクル樹脂成分が、脱工業化リサイクル樹脂、使用済みのリサイクル樹脂及びこれらの組み合わせを含み、前記組成物がゼロ点の細胞毒性スコアを有する工程と、
ガンマ線、電子線、X線、エチレンオキシドガス、オートクレーブ、又はプラズマ滅菌から選択される1以上の処理への暴露に耐えるように、前記組成物を安定化させる工程と、
前記組成物を予め選択された形状に固化する工程、
を含む方法。」


第3 当審の拒絶理由の概要
当審の拒絶の理由である、平成30年8月21日付け拒絶理由通知の理由は、請求項1、10?12に係る発明に関しては、概略、次のとおりの理由を含むものである。

本願は、以下の点で、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

(1)請求項1には、「追跡可能な起源から供給される、生体適合性リサイクル樹脂組成物」と、また、請求項11には、「追跡可能な起源から供給されるリサイクル樹脂」と記載されるが、「追跡可能な起源」としてどのような範囲のものまでが包含されるのかが、本願明細書の記載を参酌しても明確ではないから、請求項1、11に係る発明は明確ではない。(以下、「理由A」という。)

(2)請求項1の「リサイクルポリプロピレン樹脂組成物はゼロ点の細胞毒性スコアを有する工程」、及び、請求項12の「組成物がゼロ点の細胞毒性スコアを有する工程」が具体的にどのような処理を行う工程であるのか、本願明細書の記載を参酌しても技術的に明確ではないから、請求項1、12に係る発明は明確ではない。(以下、「理由B」という。)

(3)請求項1、10、11の「溶融安定剤成分」として、具体的にどのような成分が含まれるのか、本願明細書の記載を参酌しても技術的に明確ではないから、請求項1、10、11に係る発明は明確ではない。(以下、「理由C」という。)

(4)請求項12の「ガンマ線、電子線、X線、エチレンオキシドガス、オートクレーブ、又はプラズマ滅菌から選択される処理への暴露に耐えるように、前記組成物を安定化させる工程」が具体的にどのような処理を行う工程であるのか、本願明細書の記載を参酌しても技術的に明確でないから、請求項12に係る発明は明確ではない。(以下、「理由D」という。)


第4 当審の判断
以下に、理由A?Dに関し、本願発明が明確といえるかについて検討するが、事案に鑑み、理由A、理由D、理由B、理由Cの順に検討する。

1 理由Aについて
(1)本願発明1について
ア 本願発明1の発明特定事項
本願発明1は、上記第2の請求項1に記載したとおり、「医療機器を成形する方法」に関するものであり、「追跡可能な起源から供給される、生体適合性リサイクル樹脂組成物を提供する工程」を発明特定事項として含むものである。
そして、本願発明1が明確であるといえるためには、上記工程に使用される「追跡可能な起源から供給される、生体適合性リサイクル樹脂組成物」を当業者が明確に理解できる必要がある。

イ 判断
(ア) そこで、まず、本願の請求項1の記載から、「追跡可能な起源から供給される、生体適合性リサイクル樹脂組成物」を当業者が明確に理解できるかについて検討する。
「生体適合性リサイクル樹脂組成物」について、「追跡可能な起源から供給される」との特定がされているとおり、本願発明1の「生体適合性リサイクル樹脂組成物」は、「追跡可能な起源から供給される」ものに限られる。
そうすると、生体適合性リサイクル樹脂組成物を供給する「追跡可能な起源」の意味内容を当業者が明確に理解できなければ、当業者は、本願発明1の「追跡可能な起源から供給される生体適合性リサイクル樹脂組成物」の範囲を明確に理解できないことになる。そして、生体適合性リサイクル樹脂組成物を供給する「追跡可能な起源」は、多義的に解釈ができるものであり、例えば、使用済みリサイクル樹脂を供給する(樹脂入手元の)病院等の組織名が特定可能であることを意味するのか、シリンジ等の具体的な製品名が特定可能であることを意味するのか、製品の製造元が特定可能であることを意味するのか、あるいは、さらに製品の材料組成等を含め、樹脂材料の詳細な情報が分かることを意味するのか、それ以外であるのか不明であるし、また、脱工業化リサイクル樹脂の場合にも、同様に該樹脂を供給する組織名が特定可能であることを意味するのか、該樹脂の由来となる具体的な製品名が特定可能であることを意味するのか、該樹脂の材料の詳細な情報が分かることを意味するのか、それ以外であるのか不明である。
そうすると、請求項1の記載からは、多義的に解釈し得る「追跡可能な起源から供給される、生体適合性リサイクル樹脂組成物」を一義的に明確に理解できず、当該樹脂組成物を提供する工程を含む本願発明1は当業者が明確に理解できるとはいえない。

(イ) 次に、特許法第36条第6項第2号に規定される明確性要件については、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術的常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきといえるから、この観点からも検討する。

a 本願の願書に添付した明細書及び図面(以下、単に「本願明細書」という。)の記載
本願明細書には、「追跡可能な起源から供給される、生体適合性リサイクル樹脂組成物」に関し、【0012】に、「本発明の第2の側面は、医療機器を成形するための組成物に関する。この組成物は、追跡可能な起源から供給されるリサイクル樹脂を含み」と記載される他、【0023】?【0026】に以下の記載がある。(なお、下線は当審合議体が付した。この審決中において同様である。)

「【0023】
本発明の第1の側面は、追跡可能な供給源からのリサイクル樹脂を含んでいる医療機器を成形する際に使用するための組成物に関連する。本発明の第2の側面は、リサイクル樹脂組成物から作られる医療機器に関連する。本発明の第3の側面は、医療機器を形成する方法に関連する。
【0024】
第1の側面の1つ以上の実施形態のリサイクル樹脂組成物は、脱工業化リサイクル樹脂を含んでもよい。脱工業化リサイクル樹脂の量は、当該リサイクル樹脂組成物の約0.1重量%から約100重量%の範囲で、当該リサイクル樹脂組成物内に存してもよい。1つ以上の実施形態において、当該リサイクル樹脂組成物は、約50重量%から約99重量%までの範囲の量の脱工業化リサイクル樹脂を含む。1つ以上の特定の実施形態において、当該リサイクル樹脂組成物は約20重量%から約80重量%までの範囲の量の脱工業化リサイクル樹脂を含んでもよい。さらに特定の実施形態において、脱工業化リサイクル樹脂の量の下限は、リサイクル樹脂組成物の25重量%、30重量%、35重量%、40重量%、45重量%及び50重量%、及びこれらの間の全範囲及びこれらの間の部分的範囲(sub-range)を含みうる。脱工業化リサイクル樹脂の量の上限は、当該リサイクル樹脂組成物の75重量%、70重量%、65重量%、60重量%、55重量%及び50重量%、及びこれらの間の全範囲及びこれらの間の部分的範囲を含みうる。
【0025】
第1の側面の1つ以上の実施形態のリサイクル樹脂組成物は、使用済み(post-consumer)のリサイクル樹脂を含んでもよい。当該樹脂は、フレーク、チップ、ペレット等の形式のような、適当な形式で提供されてもよい。1つの変形例では、当該リサイクル樹脂組成物が使用済みのリサイクル樹脂及び脱工業化リサイクル樹脂を含みうる。使用済みのリサイクル樹脂の量は、当該リサイクル樹脂組成物の約0.1%から約100重量%の範囲で当該リサイクル樹脂組成物内に存在しうる。1つ以上の実施形態において、当該リサイクル樹脂組成物は、約50重量%から約99重量%までの範囲の量で使用済みのリサイクル樹脂を含む。1つ以上の特定の実施形態において、当該リサイクル樹脂組成物は約20重量%から約80重量%までの範囲の量で使用済みのリサイクル樹脂を含みうる。より具体的な実施形態において、使用済みのリサイクル樹脂の量の下限は、当該リサイクル樹脂組成物の25重量%、30重量%、35重量%、40重量%、45重量%及び50重量%、及びこれらの間の全範囲及びこれらの間の部分的範囲を含みうる。使用済みのリサイクル樹脂の量の上限は、当該リサイクル樹脂組成物の75重量%、70重量%、65重量%、60重量%、55重量%及び50重量%、及びこれらの間の全範囲及びこれらの間の部分的範囲を含みうる。
【0026】
適切な脱工業化リサイクルの樹脂及び使用済みのリサイクルの樹脂の例は、ポリプロピレン、ポリカーボネート類、ナイロン類、ポリエチレンテレフタレート類、ポリエステル類、ポリエチレン類、ポリスチレン類、ポリ乳酸、ポリヒドロキシアルカノエート類、ポリエチレン及びポリプロピレンを含めた生物由来のポリオレフィン類、及びリサイクル可能な当該技術分野で知られている他の樹脂、並びにこれらの組み合わせを含む。当該リサイクル樹脂は、回収されていてもよく、さもなければ、製造工程中(使用される前)又は消費者が使用した後(使用済み)のいずれかの固体廃棄物流れ由来でもよい。」

b 検討
上記本願明細書の記載からは、リサイクル樹脂組成物は、フレーク、チップ、ペレット等の形式のような、適当な形式で提供されたリサイクル樹脂を含んでいてもよいこと、回収されていてもよいし、さもなければ、製造工程中(使用される前)又は消費者が使用した後(使用済み)のいずれかの固体廃棄物流れ由来でもよいこと、つまり、文字通りリサイクル樹脂組成物であることは理解できるが、本願発明1で特定される「追跡可能な起源」から供給される生体適合性リサイクル樹脂組成物の意味内容は、依然として明らかではなく、多義的に解釈できる。
また、「追跡可能な起源」の意味内容を一義的に定めるような技術常識が、本願の原出願である特願2013-525988号の国際出願時(以下、単に、「出願時」という。)に存在していたとも解されない。
そして、「追跡可能な起源」の意味内容が一義的に理解できない以上、「追跡可能な起源から供給される、生体適合性リサイクル樹脂組成物」も、当該樹脂組成物を「供給する工程」も、当業者は一義的に明確に理解することができないのであるから、結局、本願発明1の技術的範囲を当業者は一義的には決定できず、そのような生体適合性リサイクル樹脂組成物を提供する工程を発明特定事項として含む本願発明1は、第三者に不測の不利益を及ぼすほど不明確である。

(ウ) 審判請求人(以下、「請求人」という。)の主張について
請求人は、平成30年11月28日付けの意見書(以下、「意見書」という。)の「(3-1-1b)」の「1)」において、以下のとおり主張する。
「本願発明において、『追跡可能な起源』とは、『リサイクルポリプロピレン樹脂組成物』が未使用のポリプロピレン樹脂以外の起源に由来することを意味します。本願の請求項1では、医療機器の形成方法で使用する『生体適合性リサイクル樹脂組成物』の樹脂成分は、追跡可能な起源から供給されることを規定しており、所定量のリサイクルポリプロピレン樹脂組成物(50?70重量%)を含むことを規定しています。また、本願明細書の段落0023、0024、0025、0026、実施例等に記載されているように、本願発明で使用するリサイクルポリプロピレン樹脂組成物は、脱工業化リサイクル樹脂、使用済みのリサイクル樹脂であればよく、特定の入手元などのような具体的ルートまで要求されるものではありません。このように、本願発明における『追跡可能な起源』は、入手元、具体的な製品名、製品の製造元等のような具体的な起源、或いは、製品の材料組成のような詳細な起源を意味しません。
なお、・・・未使用のポリプロピレン樹脂の起源は未使用品の購入などにより明らかとなりますので、両樹脂組成物で起源が関係するのは、リサイクルポリプロピレン樹脂組成物です。このように、本願の請求項1に係る発明では、リサイクルポリプロピレン樹脂組成物の起源が、未使用のポリプロピレン樹脂と区別できればよく、未使用のポリプロピレン樹脂以外であれば十分です。」

上記主張によれば、請求人は、本願発明1における「追跡可能な起源」は、入手元等具体的な起源や製品の材料組成のような詳細な起源を意味せず、「追跡可能な起源から供給される、生体適合性リサイクル(ポリプロピレン)樹脂組成物」は、単に、未使用のポリプロピレン樹脂以外であれば足りるとしている。
しかしながら、請求人が意見書で指摘する、本願明細書の上記【0023】?【0026】の記載や、実施例(【0074】?【0090】)の記載を参酌しても、請求項1に特定される「追跡可能な起源から供給される、生体適合性リサイクル樹脂組成物」を「未使用のポリプロピレン樹脂以外」と解するべき根拠は見当たらない。

また、医療機器の成形に用いられるリサイクル(ポリプロピレン)樹脂組成物に関し、本願明細書の【0008】に「1つ以上の実施形態において、当該医療機器は、滅菌安定性のリサイクル樹脂組成物から形成される。」と記載される様に、本願明細書には、「リサイクル樹脂組成物」が「追跡可能な起源から供給される」ことが規定されない記載がある一方、上述の【0012】に「本発明の第2の側面は、医療機器を成形するための組成物に関する。この組成物は、追跡可能な起源から供給されるリサイクル樹脂を含み」と記載される様に、本願明細書には、「リサイクル樹脂組成物」が「追跡可能な起源から供給される」ことが規定される記載がある。また、本願の請求項1では、リサイクル樹脂組成物が「追跡可能な起源から供給される」ことが特定される一方で、請求項10ではこのような特定はない。
つまり、本願明細書や特許請求の範囲では、「追跡可能な起源から供給される」ことが特定されるリサイクル樹脂組成物と、かかる特定のないリサイクル樹脂組成物とは区別して記載されており、このような明細書や特許請求の範囲の記載に接した当業者は、「追跡可能な起源」から供給されるリサイクル樹脂組成物と、かかる特定のないリサイクル樹脂組成物とは異なるものであると理解する。
そして、当業者は、単なる「生体適合性リサイクル樹脂組成物」ではない、「追跡可能な起源から供給される、生体適合性リサイクル樹脂組成物」を本願明細書の記載からは一義的に明確に理解できない。

よって、請求人の主張は、採用できない。

(エ) 以上のとおり、当業者は、単なる「生体適合性リサイクル樹脂組成物」ではない、「追跡可能な起源から供給される、生体適合性リサイクル樹脂組成物」を明確に理解できず、当該樹脂組成物を供給する工程を発明特定事項として含む本願発明1は明確とはいえない。

(2)本願発明11について
ア 本願発明11の発明特定事項
本願発明11は、上記第2の請求項11に記載したとおり、「医療機器を成形するための組成物」に関するものであり、「追跡可能な起源から供給されるリサイクルポリプロピレン樹脂組成物」を発明特定事項として含むものである。
そして、本願発明11が明確であるといえるためには、上記組成物の成分である「追跡可能な起源から供給されるリサイクルポリプロピレン樹脂組成物」を当業者が明確に理解できる必要がある。

イ 判断
まず、「追跡可能な起源から供給されるリサイクルポリプロピレン樹脂組成物」を、本願出願時の技術常識を参酌して請求項11の記載から当業者が明確に理解できるかについて検討する。「リサイクルポリプロピレン樹脂組成物」について、「追跡可能な起源から供給される」との特定がされているとおり、本願発明11の「リサイクルポリプロピレン樹脂組成物」は、「追跡可能な起源から供給される」ものに限られる。
そして、上記(1)イ(ア)で本願発明1について説示したとおり、「リサイクルポリプロピレン樹脂組成物」を供給する「追跡可能な起源」は、多義的な解釈が可能であるから、請求項11の記載からは、当業者は、「追跡可能な起源から供給されるリサイクルポリプロピレン樹脂組成物」を明確に理解することはできない。

次に、本願明細書の記載を参酌して検討すると、上記(1)イ(イ)aで指摘した本願明細書の記載を参酌しても、同bで検討したとおり、請求項11の「追跡可能な起源」の意味内容は依然として明らかではなく、多義的に解釈されるものであるし、「追跡可能な起源」の意味内容を一義的に定めるような技術常識が、本願の出願時に存在していたとも解されない。

以上のとおり、単なる「リサイクルポリプロピレン樹脂組成物」ではない、「追跡可能な起源から供給される、リサイクルポリプロピレン樹脂組成物」は、当業者は一義的に明確に理解できない。
そうである以上、「追跡可能な起源から供給される、リサイクルポリプロピレン樹脂組成物」を発明特定事項を含む本願発明11は、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確である。

さらに、請求人は、意見書において、本願発明11に関し、上記(1)イ(ウ)で記載したと同様の主張をしているが、上記(1)イ(ウ)で説示したとおり、請求人の主張は採用できない。

以上のとおり、本願発明11は明確とはいえない。


2 理由Dについて
(1)本願発明12について
ア 本願発明12の発明特定事項
本願発明12は、上記第2の請求項12に記載したとおり、「医療機器を形成する方法」に関するものであり、「ガンマ線、電子線、X線、エチレンオキシドガス、オートクレーブ、又はプラズマ滅菌から選択される1以上の処理への暴露に耐えるように、前記組成物(当審合議体注:請求項12に記載のとおり、「50重量%から99重量%のリサイクル樹脂成分を含む、生体適合性の溶融ブレンド組成物」である。)を安定化させる工程」を発明特定事項として含むものである。
そして、本願発明12が明確であるといえるためには、「ガンマ線、電子線、X線、エチレンオキシドガス、オートクレーブ、又はプラズマ滅菌から選択される1以上の処理への暴露に耐えるように、50重量%から99重量%のリサイクル樹脂成分を含む、生体適合性の溶融ブレンド組成物を安定化させる工程」(以下、「溶融ブレンド組成物の滅菌安定化工程」という。)を当業者が明確に理解できる必要がある。

イ 判断
(ア)そこで、まず、本願発明12の「溶融ブレンド組成物の滅菌安定化工程」を、請求項12の記載から当業者が明確に理解できるかについて検討すると、請求項12には、50重量%から99重量%のリサイクル樹脂成分を含む、生体適合性の溶融ブレンド組成物を滅菌処理に対して安定化する具体的な技術的手法についての特定はなく、当該「溶融ブレンド組成物の滅菌安定化工程」が、具体的にどのような技術的手法を意味するのか当業者は理解できない。
そうすると、請求項12の記載からは、「溶融ブレンド組成物の滅菌安定化工程」を当業者が明確に理解することはできない。

(イ)次に、本願明細書の記載を参酌して、本願発明12の「溶融ブレンド組成物の滅菌安定化工程」を当業者が明確に理解できるかについて検討する。

a 本願明細書の記載
本願明細書には、本願発明12の「溶融ブレンド組成物の滅菌安定化工程」に関し、以下の記載がある。

「【0014】
本発明の第3の側面は、医療機器を形成する方法に関する。1つ以上の実施形態において、当該方法は、50%から99%のリサイクル樹脂成分を含む溶融ブレンド組成物を提供する工程、ガンマ線、電子線、X線、エチレンオキシドガス、オートクレーブ処理、プラズマ滅菌への暴露に耐えるように、前記組成物を安定化する工程、及び、前記組成物をあらかじめ選択した形状に固化する工程を含む。1以上の実施形態において、当該方法は、約5kGysから約75kGysの範囲のガンマ線への暴露に耐えるように前記組成物を安定化することを含む。」

「【0021】
加えて、本明細書で用いられるとき、用語、「滅菌安定性」とは、機能的性能及び機械的特性の重大な喪失なしに滅菌に耐える、医療機器又は構成要素の能力を意味するものとする。滅菌は、滅菌工程中の放射線、例えば、ガンマ線及び/又はX線への暴露を含む。機能的性能の重大な喪失なく放射線滅菌に耐える能力のある医療機器又はその構成要素は「放射線安定性」と称されてもよい。」

「【0070】
本発明の第3の側面は、医療機器及び構成要素を形成する方法に関する。1つ以上の実施形態では、当該方法は、本明細書に記載のリサイクル樹脂組成物の溶融ブレンド組成物を提供する工程を含む。当該方法は、前記溶融ブレンド組成物を安定化し、プランジャロッド、シリンジバレル、カテーテル、採血機器、外科用刃のハンドル、ニードルシールド及びニードルハブを含みうるあらかじめ選択した形状に前記組成物を固化する工程を含む。1つ以上の実施形態では、溶融ブレンド組成物を安定化する工程は、完成品の機能的性能及び/又は見た目の良さを損なうことなく、ガンマ線、電子線、X線及びエチレンオキシドガスへの暴露に耐えるように溶融ブレンド組成物を安定化することを含む。」

b 検討
上記本願明細書の記載によれば、本願発明12の「溶融ブレンド組成物の滅菌安定化工程」が、50重量%から99重量%のリサイクル樹脂成分を含む生体適合性の溶融ブレンド組成物を、機能的性能及び機械的特性の重大な喪失なしに滅菌に耐えるものとする工程であることは理解できるが、その具体的な技術的工程は、理解できない。
そうすると、本願明細書の記載を参酌しても、本願発明12の「溶融ブレンド組成物の滅菌安定化工程」は依然として当業者に明らかではないのであるし、また、「溶融ブレンド組成物の滅菌安定化工程」の意味内容を一義的に定めるような技術常識が、本願の出願時に存在していたとも解されないから、上記の工程を含む本願発明12は、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確である。
(なお、当審合議体は、拒絶理由通知書の理由1の「5)」において、上記の点に関し、技術常識から明らかであると主張するのであれば、当該技術常識を裏付ける出願時公知の文献等の根拠を示し、意見書等で説明されたい旨コメントしたが、請求人は、そのような技術常識は示さなかった。)

(ウ) 請求人は、意見書の「(3-1-1b)」の「5)」において、以下のとおり主張する。
「本願発明において、リサイクルポリプロピレン樹脂組成物は、ガンマ線、電子線、X線、エチレンオキシドガス、オートクレーブ、又はプラズマ滅菌から選択される1以上の処理への暴露を含む滅菌安定化技術に耐えうる組成物であり、このような滅菌処理を施されるものです(本願明細書の段落0021、0090等参照)。このように、本願の請求項12で特定される『ガンマ線、電子線、X線、エチレンオキシドガス、オートクレーブ、又はプラズマ滅菌から選択される1以上の処理への暴露に耐えうるように、前記組成物を安定化させる工程』は、リサイクルポリプロピレン樹脂組成物が、上記の列記された滅菌処理技術により安定化されることを意味します。ここで、『ガンマ線、電子線、X線、エチレンオキシドガス、オートクレーブ、又はプラズマ滅菌から選択される1以上の処理への暴露』は、滅菌処理として当業者に公知の手順により行われるものです。例えば、本願明細書の段落0012、0052等に記載されているように、放射線への暴露であれば、約5kGysから約75kGysの範囲、又はより具体的には、約25kGysから約50kGysの範囲のガンマ線への暴露、或いは、約30kGysから約80kGys、又はより具体的には、約40kGysから約70kGysの範囲の電子線への暴露であり、当該組成物はこのような処理に耐えることができます。」

請求人は、本願発明12の「溶融ブレンド組成物の滅菌安定化工程」が、「リサイクルポリプロピレン樹脂組成物が、上記の列記された滅菌処理技術により安定化されることを意味」する、すなわち、「溶融ブレンド組成物の滅菌安定化工程」は滅菌処理技術を施す工程を意味するものであると主張していると解されるが、本願明細書には、「溶融ブレンド組成物の滅菌安定化工程」が滅菌処理技術を施す工程であることを裏付けるような記載はなく、請求人の主張には根拠がない。

(エ) 以上のとおり、当業者は、「溶融ブレンド組成物の滅菌安定化工程」を明確に理解できず、当該工程を発明特定事項を含む本願発明12は不明確である。


3 理由Bについて
(1)本願発明1について
ア 請求項1に記載の発明特定事項
本願発明1は、上記第2の請求項1に記載したとおり、「医療機器を成形する方法」に関するものであるところ、当該方法においては、補正前の「リサイクルポリプロピレン樹脂組成物はゼロ点の細胞毒性スコアを有する工程」が、「ガンマ線、電子線、X線、エチレンオキシドガス、オートクレーブ、又はプラズマ滅菌から選択される1以上の処理への暴露に耐えるように前記組成物を安定化する工程であって、前記リサイクルポリプロピレン樹脂組成物はゼロ点の細胞毒性スコアを有する工程」と補正された。
ここで、上記において「前記組成物」は、「生体適合性リサイクル樹脂組成物」であって、「リサイクルポリプロピレン樹脂組成物であり、前記リサイクルポリプロピレン樹脂組成物が、50から70重量%の脱工業化(post-industrial)リサイクル樹脂、使用済リサイクル樹脂及びそれらの組み合わせを含む、生体適合性リサイクル樹脂組成物」である。

イ 判断
(ア) そこで、まず、上記工程を、請求項1の記載から当業者が明確に理解できるかについて検討すると、補正後の本願発明1は、「ガンマ線、電子線、X線、エチレンオキシドガス、オートクレーブ、又はプラズマ滅菌から選択される1以上の処理への暴露に耐えるように前記組成物を安定化する工程」(以下、「リサイクル樹脂組成物の滅菌安定化工程」という。)であって、「前記リサイクルポリプロピレン樹脂組成物はゼロ点の細胞毒性スコアを有する工程」(以下、「ゼロ点の細胞毒性スコアを有する工程」という。)を有するところ、上記2において、理由Dについて検討したとおり、前者の「リサイクル樹脂組成物の滅菌安定化工程」自体は技術的に明確とはいえない。よって、当該工程を含む本願発明1は、明確とはいえない。
また、「ゼロ点の細胞毒性スコアを有する工程」について、請求項1には、当該工程の内容を具体的に示す記載はなく、当該工程がどのような処理を行う工程であるのかを当業者は技術的に明確に理解することはできない。よって、当該工程を含む本願発明1は、明確とはいえない。
さらに、本願発明1の、「リサイクル樹脂組成物の滅菌安定化工程」であって、「ゼロ点の細胞毒性スコアを有する工程」との特定は、「リサイクル樹脂組成物の滅菌安定化工程」と「ゼロ点の細胞毒性スコアを有する工程」とに何らかの関係があることが前提であると解されるが、両者に何らかの関係があることが本願の出願時に技術常識であったとも解されない。そうすると、「リサイクル樹脂組成物の滅菌安定化工程」であって、「ゼロ点の細胞毒性スコアを有する工程」を当業者は技術的に明確に理解できない。よって、この点でも本願発明1は、明確とはいえない。

(イ) 次に、本願明細書の記載を参酌して、本願発明1の「リサイクル樹脂組成物の滅菌安定化工程」であって、「ゼロ点の細胞毒性スコアを有する工程」を当業者が明確に理解できるかについて検討する。

a 本願明細書の記載
まず、本願発明1の「リサイクル樹脂組成物の滅菌安定化工程」に関し、本願明細書には、上記2(1)イ(イ)aで摘示した記載がある。

また、「ゼロ点の細胞毒性スコアを有する工程」に関し、以下の記載がある。
「【0090】
発明配合物1?6の各々は、米国薬局方のゼロ点スコアによる毒性試験に対する基準に合格するか又は当該基準を満たし、これによって米国薬局方及びISO10-993-5によって確立されている前臨床の毒性学的安全性評価の基準を満たした。全ての生体適合性試験は、当分野で公知の手続きに従って、Good Laboratory Practice又はGLPの原則に従って実施した。」

ここで、上記の「発明配合物1?6」は、以下に記載のとおり、実施例において、リサイクルポリプロピレン樹脂と、抗酸化剤、酸捕捉剤及び溶融安定剤を更に含む未使用のポリプロピレン樹脂とを機械的に混合することによって調製されたものである。

「【実施例】
【0074】
発明配合物1?6を、リサイクルのポリプロピレン樹脂と、抗酸化剤、酸捕捉剤及び溶融安定剤を更に含む未使用のポリプロピレン樹脂とを機械的に混合することによって調製した。
【0075】
発明配合物1は、60重量%のリサイクルのポリプロピレン成分A、及び40重量%の未使用のポリプロピレン成分Aを含んでいた。未使用のポリプロピレン成分Aは、0.8重量%までの抗酸化剤成分及び溶融安定剤成分及び0.3重量%までの酸捕捉剤成分を含んでいた。
【0076】
発明配合物2は、70重量%のリサイクルのポリプロピレン成分B、及び、30重量%の上記のような未使用のポリプロピレン成分Aを含んでいた。
【0077】
発明配合物3は、50重量%のリサイクルのポリプロピレン成分C、及び、50重量%の上記のような未使用のポリプロピレン成分Aを含んでいた。
【0078】
発明配合物4は、60重量%のリサイクルのポリプロピレン成分A、及び40重量%の未使用のポリプロピレン成分Bを含んでいた。未使用のポリプロピレン成分Bは、0.3重量%までの抗酸化剤成分及び0.2重量%までの酸捕捉剤成分を含んでいた。
【0079】
発明配合物5は、50重量%のリサイクルのポリプロピレン成分B、及び、50%の上記のような未使用のポリプロピレン成分Bを含んでいた。
【0080】
発明配合物6は、60重量%のリサイクルのポリプロピレン成分D、及び40重量%の上記のような未使用のポリプロピレン成分Aを含んでいた。」

b 検討
まず、本願発明1の「リサイクル樹脂組成物の滅菌安定化工程」に関しては、2(1)イ(イ)bで説示したと同様の理由で、本願明細書の記載からは、当該工程を技術的に明確に理解できない。
そうすると、本願明細書の記載を参酌しても、「リサイクル樹脂組成物の滅菌安定化工程」であって、「ゼロ点の細胞毒性スコアを有する工程」についても当業者は技術的に明確に理解できない。

また、「ゼロ点の細胞毒性スコアを有する工程」に関し、本願明細書の【0090】には、実施例で調製した、リサイクルポリプロピレン樹脂と、抗酸化材等を含む未使用のポリプロピレン樹脂との混合物である発明配合物1?6が、米国薬局方のゼロ点スコアによる毒性試験に対する基準に合格するか又は当該基準を満たすものであることは記載されるが、実施例の配合物に含まれるリサイクルポリプロピレン樹脂自体の詳細は記載されておらず、これが、未使用の脱工業化リサイクル樹脂に相当するのか、使用済みのリサイクル樹脂であるのかも不明である。
そして、実施例の記載からは、リサイクルポリプロピレン樹脂が、使用済みリサイクル樹脂である場合に、具体的にどのような技術的手法を施すことによってゼロ点の細胞毒性スコアを有するものとするのかを理解することはできない。
そうすると、本願明細書の記載を参酌しても、請求項1の、「ガンマ線、電子線、X線、エチレンオキシドガス、オートクレーブ、又はプラズマ滅菌から選択される1以上の処理への暴露に耐えるように前記組成物を安定化する工程であって、前記リサイクルポリプロピレン樹脂組成物はゼロ点の細胞毒性スコアを有する工程」を、当業者は技術的に明確に理解できない。
また、この工程を明確とするような技術常識が、本願の出願時に存在していたとも解されない。
そうである以上、当該工程を含む本願発明1は、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確である。

(ウ) 請求人は、意見書の「(3-1-1b)」の「2)」において、以下のとおり主張する。

「本願発明で規定している『ゼロ点の細胞毒性スコアを有する』について、本願発明では、リサイクルポリプロピレン樹脂組成物が、米国薬局方のゼロ点スコアによる毒性試験、即ち、米国薬局方及びISO10-993-5によって確立されている前臨床の毒性学的安全性評価の基準を満たすことをいいます(例えば本出願の実施例で例示されている配合物1?6など)(本願明細書の段落0090等参照)。そして、このような組成物は、ガンマ線、電子線、X線、エチレンオキシドガス、オートクレーブ、又はプラズマ滅菌から選択される1以上の処理(前記処理には限定されません)への暴露を含む滅菌安定化技術に耐えうる組成物であり、このような滅菌処理を施されるものです(本願明細書の段落0021、0090等参照)。このように、『ゼロ点の細胞毒性スコアを有する』組成物は、所定の配合と所定の滅菌処理により実現されます。具体的には、(i)50から70重量%の前記リサイクルポリプロピレン樹脂組成物、及び、30から50重量%の未使用のポリプロピレン樹脂であって、前記未使用のポリプロピレン樹脂が、0.3から0.8重量%の抗酸化剤成分及び溶融安定剤成分と、0.2から0.3重量%の酸捕捉剤成分を含み、前記リサイクルポリプロピレン樹脂組成物と前記未使用のポリプロピレン樹脂の総量が100重量%であるという特定の配合と、
(ii)ガンマ線、電子線、X線、エチレンオキシドガス、オートクレーブ、又はプラズマ滅菌から選択される1以上の処理(前記処理には限定されません)への暴露を含む滅菌安定化技術、
の両方を組み合わせることによって達成されます。
なお、本願明細書で『滅菌』とは滅菌工程中の放射線、例えば、ガンマ線及び/又はX線への暴露、又は、エチレンオキシド滅菌、電子ビーム滅菌、オートクレーブ(スチーム滅菌)、プラズマ滅菌、乾式加熱滅菌、及びX線ビーム滅菌を含みます(本願明細書の段落0021参照)。
以上のとおり、『ゼロ点の細胞毒性スコアを有する』とは、所定の配合の組成物と所定の滅菌処理により実現されます。」

請求人は、本願発明1の「ゼロ点の細胞毒性スコアを有する(工程)」は、上記(i)の特定の配合と、上記(ii)の特定の滅菌処理により実現できる旨主張する。
しかしながら、本願発明1では、(i)の特定の配合をする工程は、「ゼロ点の細胞毒性スコアを有する工程」とは、別の工程として特定されているから、請求人の主張は、本願発明1の発明特定事項の記載とあわないし、本願発明1は、「リサイクル樹脂組成物の滅菌安定化工程」であって、「ゼロ点の細胞毒性スコアを有する工程」を含むところ、上記(1)イ(ア)(イ)で記載したとおり、当該工程を当業者は技術的に明確に理解できない。
よって、請求人の主張は採用できない。

(エ) 以上のとおり、当業者は、「ガンマ線、電子線、X線、エチレンオキシドガス、オートクレーブ、又はプラズマ滅菌から選択される1以上の処理への暴露に耐えるように前記組成物を安定化する工程であって、前記リサイクルポリプロピレン樹脂組成物はゼロ点の細胞毒性スコアを有する工程」を明確に理解できず、当該発明特定事項を含む本願発明1は明確ではない。

(2)本願発明12について
ア 請求項12に記載の発明特定事項
本願発明12は、上記第2の請求項12に記載したとおり、「医療機器を形成する方法」に関するものであるところ、当該方法においては、(50重量%から99重量%のリサイクル樹脂成分を含む、生体適合性の溶融ブレンド組成物である)「組成物がゼロ点の細胞毒性スコアを有する工程」を発明特定事項として含むものである。
そして、本願発明12が明確であるといえるためには、上記工程を当業者が明確に理解できる必要がある。

イ 判断
そこで、まず、上記工程を、請求項12の記載から当業者が明確に理解できるかについて検討すると、請求項12には、「組成物がゼロ点の細胞毒性スコアを有する工程」の内容を具体的に示す記載はなく、当該工程がどのような処理を行う工程であるのかを当業者は技術的に明確に理解することはできない。

次に、本願明細書の記載を参酌して、「組成物がゼロ点の細胞毒性スコアを有する工程」を当業者が明確に理解できるかについて検討する。
本願明細書には、上記(1)イ(イ)aに摘記した記載があるが、上記(1)イ(イ)bに説示したとおり、本願明細書の記載からは、「組成物がゼロ点の細胞毒性スコアを有する工程」を当業者は理解できないし、そうである以上、当該工程を含む本願発明12は、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確である。また、「組成物がゼロ点の細胞毒性スコアを有する工程」の意味内容を明らかにするような本願出願時の技術常識が存在していたとも認められない。
さらに、上記(1)イ(ウ)で記載した請求人の意見書での主張については、上述のとおり請求人の主張は採用できないし、本願発明12には、請求人の主張する上記(i)の特定の配合、及び、上記(ii)の特定の滅菌処理の特定がなされていない点でも、請求人の主張は請求項12の記載と整合しておらず、失当である。

以上のとおり、本願発明12は明確とはいえない。


4 理由Cについて
(1)本願発明1について
ア 本願発明1の発明特定事項
本願発明1は、上記第2の請求項1に記載したとおり、「医療機器を成形する方法」に関するものであり、「50から70重量%の前記リサイクル樹脂組成物を、30から50重量%の未使用のポリプロピレン樹脂と機械的に混合する工程」であって、「未使用のポリプロピレン樹脂が、抗酸化剤成分及び溶融安定剤成分を総量で0.3から0.8重量%」「含」む工程を発明特定事項として含むものである。
そして、本願発明1が明確であるといえるためには、上記の工程において使用される未使用のポリプロピレン樹脂に含まれる「溶融安定剤成分」の範囲を当業者が明確に理解できる必要がある。

イ 判断
(ア) そこで、まず、「溶融安定剤成分」を、請求項1の記載から当業者が明確に理解できるかについて検討すると、「溶融安定剤成分」という用語は、多義的な解釈が可能であり、「溶融安定剤成分」が溶融時の溶融特性を安定化する成分(つまり、可塑剤や増粘剤)であるのか、溶融時の樹脂組成物の熱劣化を抑制して安定化する成分であるのか、その両方であるのか、あるいはそれ以外であるのか不明である。
そうすると、請求項1の記載からは、「溶融安定剤成分」を当業者が一義的に明確に理解できるとはいえない。

(イ) 次に、本願明細書の記載を考慮して、本願発明1の「溶融安定剤成分」の範囲を当業者が明確に理解できるかについて検討する。

a 本願明細書の記載
本願明細書には、「溶融安定剤成分」に関し、以下の記載がある。
「【0047】
1以上の実施形態に従ったリサイクル樹脂組成物は、溶融安定剤成分を任意選択的に含むことができる。当該溶融安定剤成分は、溶融工程中にリサイクル樹脂組成物の粘度を調整するための化合物を含みうる。」

b 検討
上記本願明細書の記載によれば、本願発明1に特定される「溶融安定剤成分」に、リサイクル樹脂組成物の粘度を調整するための化合物が含まれることは理解できる。
しかしながら、これ以外に、どのような化合物までが包含されるのか、例えば、上記(ア)で記載したような、リサイクル樹脂の溶融時の熱劣化を抑制して安定化する成分を含み得るのか不明である。
また、「溶融安定剤成分」の意味内容を一義的に定めるような技術常識が、本願の出願時に存在していたとも認められない。

したがって、そのような多義的に解釈できる「溶融安定剤成分」を所定量含有する未使用のポリプロピレン樹脂を混合する工程を発明特定事項として含む本願発明1は、第三者に不測の不利益を及ぼすほど不明確である。

(ウ)審判請求人の主張について
請求人は、意見書の「(3-1-1b)」の「3)」において、以下のとおり主張する。
「本願の請求項1、10及び11の『溶融安定剤成分』は、本願明細書の段落0047に記載されているように、溶融工程中にリサイクル樹脂組成物の粘度を調整するための化合物をいいます。このような溶融安定剤は当業者に周知であり、当業者であれば適切に選択することができ、不明確なものではありません。」
つまり、意見書で請求人は、本願発明1の「溶融安定剤成分」が、溶融工程中のリサイクル樹脂組成物の粘度を調整するための化合物を意味すると主張している。
しかしながら、本願明細書の【0047】には、溶融安定剤成分が、溶融工程中にリサイクル樹脂組成物の粘度を調整するための化合物を含みうることが記載されているのみで、これに限られることは記載されていない。
また、請求項1には「溶融安定剤成分」と記載されるのみで、溶融安定剤成分が溶融工程中にリサイクル樹脂組成物の粘度を調整するための化合物であると特定されているのではないところ、本願明細書の記載によれば、むしろ、「溶融安定剤成分」には、溶融工程中にリサイクル樹脂組成物の粘度を調整するための化合物以外の化合物も含まれ得ると理解し得る。
そうすると、請求人の主張は、本願明細書の記載と整合しないものであって、採用できない。

(エ) 以上のとおり、当業者は、「溶融安定剤成分」を一義的に明確に理解できないのであるから、当該成分を特定量含有する未使用のポリプロピレン樹脂をリサイクル樹脂組成物とを混合する工程を有する本願発明1は、明確とはいえない。

(2)本願発明10について
ア 請求項10に記載の発明特定事項
本願発明10は、上記第2の請求項10に記載したとおり、「医療機器」に関するものであるところ、本願発明10は、当該医療機器を形成する樹脂として、「抗酸化剤成分及び溶融安定剤成分を総量で0.3から0.8重量%」「含」む「未使用のポリプロピレン樹脂」を含むものである。
そして、本願発明10が明確であるといえるためには、上記未使用のポリプロピレン樹脂に含まれる「溶融安定剤成分」を当業者が明確に理解できる必要がある。

イ 判断
そこで、まず、請求項10の記載から当業者が明確に理解できるかについて検討すると、上記(1)イ(ア)でも説示したように、請求項10の記載からは、「溶融安定剤成分」の意味内容を当業者が一義的に明確に理解できるとはいえない。
また、本願明細書の記載を参酌しても、上記(1)イ(イ)に説示したとおり、本願明細書の記載からは、「溶融安定剤成分」の意味内容を当業者が一義的には理解できないし、「溶融安定剤成分」の意味内容を一義的に定めるような技術常識が、本願の出願時に存在していたとも認められない。
そして、一義的に明確に理解できない「溶融安定剤成分」を所定量含有する未使用のポリプロピレン樹脂を発明特定事項として含む本願発明10は、第三者に不測の不利益を及ぼすほど不明確である。
さらに、請求人の意見書での主張については、上記(1)イ(ウ)で記載したとおり採用できない。
よって、本願発明10は、明確とはいえない。

(3)本願発明11について
ア 請求項11に記載の発明特定事項
本願発明11は、上記第2の請求項11に記載したとおり、「医療機器を成形するための組成物」に関するものであるところ、本願発明11は、当該組成物が、「抗酸化剤成分及び溶融安定剤成分を総量で0.3から0.8重量%」「含」む「未使用のポリプロピレン樹脂」を含むものである。
そして、本願発明11が明確であるといえるためには、上記未使用のポリプロピレン樹脂に含まれる「溶融安定剤成分」を当業者が明確に理解できる必要がある。

イ 判断
そこで、まず、請求項11の記載から当業者が明確に理解できるかについて検討すると、上記(1)イ(ア)でも説示したように、請求項11の記載からは、「溶融安定剤成分」の意味内容を当業者が一義的に明確に理解できるとはいえない。
また、本願明細書の記載を参酌しても、上記(1)イ(イ)に説示したとおり、本願明細書の記載からは、「溶融安定剤成分」の意味内容を当業者が一義的には理解できないし、「溶融安定剤成分」の意味内容を一義的に定めるような技術常識が、本願の出願時に存在していたとも解されない。
そして、一義的に明確に理解できない「溶融安定剤成分」を所定量含有する未使用のポリプロピレン樹脂を発明特定事項として含む本願発明11は、第三者に不測の不利益を及ぼすほど不明確である。
さらに、請求人の意見書での主張については、上記(1)イ(ウ)で記載したとおり採用できない。
よって、本願発明11は、明確とはいえない。

第5 むすび
上記のとおりであるから、本願の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、本願は、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-02-22 
結審通知日 2019-02-26 
審決日 2019-03-14 
出願番号 特願2015-250399(P2015-250399)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (B29C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田代 吉成  
特許庁審判長 大島 祥吾
特許庁審判官 加藤 友也
渕野 留香
発明の名称 リサイクル樹脂組成物及びそれから製造される使い捨て医療機器  
代理人 特許業務法人 谷・阿部特許事務所  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ