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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G05B
管理番号 1353842
審判番号 不服2018-12565  
総通号数 237 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-09-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-09-20 
確定日 2019-08-20 
事件の表示 特願2014-197545「二重化監視制御システム」拒絶査定不服審判事件〔平成28年5月9日出願公開、特開2016-71460、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年9月26日の出願であって、平成29年11月14日付けで拒絶理由通知がされ、平成30年1月12日付けで手続補正がされ、平成30年6月22日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、これに対し、平成30年9月20日に拒絶査定不服審判の請求がされ、同時に手続補正がされたものである。

第2 原査定の概要
原査定の概要は次のとおりである。

本願請求項1、2に係る発明は、以下の引用文献1、2、4、5に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
本願請求項3に係る発明は、以下の引用文献1ないし5に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
本願請求項4に係る発明は、以下の引用文献1、2、6、7に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開平6-217376号公報
2.特開2005-339074号公報
3.特開2003-224623号公報
4.特開2011-61626号公報
5.特開2006-229919号公報
6.特開平8-249049号公報
7.特開平10-124116号公報
なお、引用文献2ないし7は、それぞれ、周知技術を示す証拠として提示されたものである。

第3 本願発明
本願請求項1ないし4に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明4」という。)は、平成30年9月20日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定される発明であるところ、本願発明1、4は以下のとおりである。

「【請求項1】中央監視装置と、監視拠点毎に配設したローカル制御装置とを結ぶ高速のメイン回線、及び、該メイン回線とは独立した低速のバックアップ回線でなる常時二重化回線を通信回線として備え、
各監視拠点の通信回線別にデータ収集周期を独立で設定可能として、
通常時は、メイン回線により短いデータ収集周期でデータを収集すると共に、バックアップ回線により回線診断を行い、
メイン回線不通時は、バックアップ回線により長いデータ収集周期でデータを収集し、
メイン回線復旧時は、バックアップ回線によるデータ収集を停止して、メイン回線によるデータ収集及びバックアップ回線による回線診断を再開するようにした二重化監視制御システムであって、
前記中央監視装置に接続されるサーバを並列状態で二重化し、通常時は、プライマリサーバのみが通信回線を介して監視拠点からデータ収集を行うと共に、通信回線は利用せずにプライマリサーバからセカンダリサーバにデータを供給し、プライマリサーバによるデータ収集機能が停止した場合のみ、セカンダリサーバによる監視拠点からのデータ収集を行うことを特徴とする二重化監視制御システム。」

「【請求項4】中央監視装置と、監視拠点毎に配設したローカル制御装置とを結ぶ高速のメイン回線、及び、該メイン回線とは独立した低速のバックアップ回線でなる常時二重化回線を通信回線として備え、
各監視拠点の通信回線別にデータ収集周期を独立で設定可能として、
通常時は、メイン回線により短いデータ収集周期でデータを収集すると共に、バックアップ回線により回線診断を行い、
メイン回線不通時は、バックアップ回線により長いデータ収集周期でデータを収集し、
メイン回線復旧時は、バックアップ回線によるデータ収集を停止して、メイン回線によるデータ収集及びバックアップ回線による回線診断を再開するようにした二重化監視制御システムであって、
前記データ収集周期を、通信回線単位だけでなく、監視拠点毎に独立して設定可能としたことを特徴とする二重化監視制御システム。」

なお、本願発明2は、本願発明1を引用する発明であり、本願発明1の特定事項をすべて含むものである。また、本願発明3は、本願発明2を引用する発明であり、本願発明2の特定事項をすべて含むものである。

第4 引用文献、引用発明等
1.引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている。なお、下線は理解の便のため当審で付与した。

(1) 「【請求項1】 専用線をデータ伝送路として使用し、中央監視室と遠方のプラント監視制御装置とを結んで構成される遠方監視制御システムにおいて、
前記中央監視室と遠方のプラント監視制御装置との間にバックアップ用の一般電話回線を接続し、
前記プラント監視制御装置側に、プラントのプロセス値を定期的に収集して保存するデータ収集手段と、前記専用線の通信障害発生を検知し、専用線通信から電話網通信に切り替える通信切替手段と、前記通信切替手段がバックアップ用の電話網通信に切り替えているときに、前記データ収集手段の保存しているデータを定期的に伝送し、または前記中央監視室のからの伝送要求に応じて伝送するデータ伝送手段とを設けて成る遠方監視制御システム。」

(2) 「【0001】【産業上の利用分野】この発明は、データ伝送に専用線とバックアップ用の一般電話回線とを二重に備えた遠方監視制御システムに関する。」

(3) 「【0003】【発明が解決しようとする課題】・・・従来の遠方監視制御システムでは、データ伝送路に専用線が利用されているだけで、バックアップ用に他の伝送路が並行して設置されていないために、データ伝送路にいったん障害が発生するとデータ伝送路の異常を中央監視室に報知するだけであって、プロセス情報を伝送することがまったくできなくなり、異常対策のためには障害が発生したプラントの現地まで技術員を派遣し、電話あるいは無線機などの通信機器を用いて中央監視室と連絡をとりながらプラントを手動運転する必要があり、異常発生時に対応するために、通常時にはそれほど必要ではないプラントを熟知した運転員を多数必要とし、また障害の発生原因の追求に時間がかかる問題点があった。
【0004】また、データ伝送路に障害が発生している間はプロセス情報のデータ収集が不可能となり、プラントの運転維持管理上重要な測定データが一時的に欠落し、プラントの運転維持管理上に大きな障害をもたらすことになるという問題点もあった。
【0005】この発明はこのような従来の問題点に鑑みなされたもので、専用のデータ伝送路に障害が発生しても、プラントのプロセスデータの収集および中央監視室への伝送をバックアップ用の一般電話回線を使用して継続して行なうことができ、プラントの運転維持管理上もたらされる障害を小さくすることができる遠方監視制御システムを提供することを目的とする。」

(4) 「【0007】【課題を解決するための手段】請求項1の発明は、専用線をデータ伝送路として使用し、中央監視室と遠方のプラント監視制御装置とを結んで構成される遠方監視制御システムにおいて、中央監視室と遠方のプラント監視制御装置との間にバックアップ用の一般電話回線を接続し、プラント監視制御装置側に、プラントのプロセス値を定期的に収集して保存するデータ収集手段と、専用線の通信障害発生を検知し、専用線通信から電話網通信に切り替える通信切替手段と、通信切替手段がバックアップ用の電話網通信に切り替えているときに、データ収集手段の保存しているデータを定期的に伝送し、または中央監視室のからの伝送要求に応じて伝送するデータ伝送手段とを設けたものである。・・・
【0009】【作用】請求項1の発明の遠方監視制御システムでは、中央監視室と遠方のプラント監視制御装置との間に、専用線で構成されるデータ伝送路とは別にバックアップ用の一般電話回線を接続し、専用のデータ伝送路に障害が発生した場合には、通信切替手段によって専用線の通信障害発生を検知して専用線通信から電話網通信に切り替えてプラントのプロセスデータの伝送機能を維持し、データ伝送手段によってデータ収集手段が収集しているデータを定期的に、あるいは中央監視室からの伝送要求に応じて中央監視室に伝送する。
【0010】こうして、専用線に障害が発生しても中央監視室と遠方のプラント監視制御装置との間のデータ伝送機能を一般電話回線を通して維持することができ、プロセスデータの一部の欠落を防止し、プラント監視制御の信頼性を向上させることができる。」

(5) 「【0013】図1はこの発明の一実施例のシステム構成を示している。この図1に示すように、この実施例の遠方監視制御システムは、中央監視室1と複数の遠方のプラント監視制御装置2とが専用線3とバックアップ用の一般電話回線4とで二重化した通信回線を介して接続された構成である。そして中央監視室1には、プラント監視制御の全体を統括する中央計算機5と、その周辺機器としてのCRT6、プリンタ7が接続されており、データ伝送手段として、通信回線に対する信号の変復調を行なうためのモデム8,9が接続されている。・・・
【0016】また、専用線3の通信バックアップ機能を受け持つ回路として・・・電話網制御のデータ通信制御処理やプロトコルおよびコネクション制御を行なうNCU制御部22を備えている。
【0017】バックアップ用の一般電話回線4に対するモデム11には、自動ダイヤル機能を有するAA形NCUモデムが使用されている。・・・
【0019】通常時には、プラントに対する制御は専用線3を通して中央監視室1と遠方のプラント監視制御装置2とが結ばれていて、プロセス入出力処理部12のアナログ入力(AI)カード12A、ディジタル入力(DI)カード12B、パルス入力(PI)カードを通してプロセスの各種信号を入力し、プロセス入出力データファイル13に保存し、データ送受信制御回路14によりモデム10から専用線3を通して中央監視室1に伝送される。また、中央監視室1から専用線3を通して送られてくる指令信号はモデム10で復調され、データ送受信制御回路14を通してプロセス入出力データファイル13に保存され、ディジタル出力(DO)カード12D、アナログ出力(AO)カード12Eを通してプラントに出力され、必要な操作が実行される。
【0020】このような通常の遠方監視制御機能を実行する専用線3の伝送系が何らかの障害によって伝送不可となれば、通信バックアップと、この遠方監視制御機能全体の故障予防、保全と故障診断、解析の通信のために一般電話回線4とそれに対するNCUモデム11に伝送系が切り替えられることになる。・・・
【0025】こうして、障害検知部17が専用線3の伝送系の障害発生を検知すれば、図3に示す自動発信機能が起動される。すなわち、自身が発呼側となり、送信する場合の自動発信要求信号16Hの生成条件は、障害検知部17の立上り、または障害状態の継続中でプロセス状態変化監視部16Fに出力があり、または障害状態の継続中で計測値の警報値逸脱監視部16Gに出力がある場合である。また、時刻管理部20より毎正時の要求がなされたときにも、NCU制御部22に対してコネクション要求がかけられ、送信手続が開始される。
【0026】図3に示すように、・・・スキャン周期ごとにアナログ入力とディジタル入力を保存する瞬時値収集データ16A、前回スキャンデータを保存する瞬時値保存データ16B、毎正時に瞬時値保存データ16Bから移動し、時報・日報データとして保存する定時値保存データ16C、決められた定周期、例えば数秒から数分周期ごとに瞬時値収集データ16Aを保存するリアルタイム収集データ16D・・・などを保存している。なお、リアルタイム収集データ16Dは、瞬時値収集データ16Aをあらかじめ決められた所定の周期ごとに記憶するもので、その周期は数秒から数分周期を選択することができる。このリアルタイム収集データ16Dは専用線3の伝送系の障害発生時のデータ欠測を防ぐと共に、プロセス解析および運転支援の貴重なデータとなるものである。
【0027】そこで、今回スキャンデータである瞬時値収集データ16Aと前回スキャンデータである瞬時値保存データ16Bをプロセス状態変化監視部16Fで比較し、指定されたディジタル入力の状態変化、またはアナログ値の変化率逸脱を検出し、障害継続中であれば自動発信要求信号16Hを生成して、瞬時値収集データ16AをNCU制御部22へ送り、一般電話回線4を通して中央監視室1側へ伝送する。また、定時値保存データ16Cは時刻管理部20からの要求に対してNCU制御部22へ送り、中央監視室1へ伝送する。さらに計測値警報設定値16Eはプラントの水位、圧力、流量などのアナログ値の警報設定値であり、瞬時値収集データ16Aとの比較を警報値逸脱監視部16Gで行ない、逸脱していれば自動発信要求信号16Hを生成し、瞬時値収集データ16AをNCU制御部22へ送り、一般電話回線4を通して中央監視室1側へ伝送する。
【0028】中央監視室1側において通常の専用線3の伝送系の異常障害発生を検知し、バックアップ用の一般電話回線4に切り替えてデータ伝送を継続しようとする場合には、次のように動作する。・・・
【0030】図4に示すように、コマンド処理部18では、送られてきたコマンドを整理判別して、それぞれ関連するブロックに対してリクエストする。例えば、バックアップデータ要求18Aに対するリクエストには、時報・日報などの定時値保存データ16Cの伝送要求と、定周期で保存格納されているリアルタイム収集データ16Dのプラントヒストリーデータの伝送要求と、計測値警報設定値16Eの伝送要求とがあり、これらを単独に、あるいは一括してNCU制御部22から一般電話回線4を通して中央監視室1側に伝送する。・・・
【0031】こうして、専用線3側の伝送系に障害が発生した場合には、遠方のプラント監視制御装置2側でそれを検出すれば、自動的にバックアップ用の一般電話回線4側に伝送系を切り替え、障害検知時、またプロセス状態の急変時、あるいは警報値逸脱時、さらには毎正時ごとにNCUモデム11で自動ダイヤルして中央監視室1を呼出し、必要なプロセスデータを中央監視室1側にバックアップ用の一般電話回線4を通して伝送する。また中央監視室1側で専用線3の障害検知を行なえば、バックアップ用の一般電話回線4を通してデータ伝送要求を行ない、必要なデータをプラント監視制御装置2側から一般電話回線4を通して伝送させるようにして、専用線3の伝送系の障害発生時にもデータ伝送を継続して行なうようにし、運転に必要な情報をタイミング良く効率的に伝送し、プラント監視制御の信頼性と安全性を向上させ、運転員の負担を軽減する。」

(6) 「【0042】【発明の効果】以上のように請求項1の発明によれば、中央監視室と遠方のプラント監視制御装置との間に、専用線で構成されるデータ伝送路とは別に、バックアップ用の一般電話回線を接続し、専用のデータ伝送路に障害が発生した場合には通信切替手段によって専用線の通信障害発生を検知して専用線通信から電話網通信に切り替えてプラントのプロセスデータの伝送機能を維持し、データ伝送手段によってデータ収集手段が収集しているデータを定期的に、あるいは中央監視室からの伝送要求に応じて中央監視室に伝送するようにしているので、専用線に障害が発生しても中央監視室と遠方のプラント監視制御装置との間のデータ伝送機能を一般電話回線を通して維持することができ、プロセスデータの欠落を防止し、プラン監視制御の信頼性を向上させることができる。」

上記(1)?(6)から以下の事項が把握できる。
ア 専用のデータ伝送路に障害が発生しても、プラントのプロセスデータの収集および中央監視室への伝送をバックアップ用の一般電話回線を使用して継続して行なうことができ、プラントの運転維持管理上もたらされる障害を小さくすることができる遠方監視制御システムを提供することを目的として、中央監視室と遠方のプラント監視制御装置との間に、専用線で構成されるデータ伝送路とは別に、バックアップ用の一般電話回線を接続し、専用のデータ伝送路に障害が発生した場合には通信切替手段によって専用線の通信障害発生を検知して専用線通信から電話網通信に切り替えてプラントのプロセスデータの伝送機能を維持し、データ伝送手段によってデータ収集手段が収集しているデータを定期的に、あるいは中央監視室からの伝送要求に応じて中央監視室に伝送するようにしたことで、専用線に障害が発生しても中央監視室と遠方のプラント監視制御装置との間のデータ伝送機能を一般電話回線を通して維持することができ、プロセスデータの欠落を防止し、プラント監視制御の信頼性を向上させることができること。(上記(2)?(4)、(6))

イ 遠方監視制御システムであって、中央監視室1と、複数の遠方のプラント監視制御装置2とを結ぶ専用線で構成されるデータ伝送路3、及び、該専用線で構成されるデータ伝送路3とは独立したバックアップ用の一般電話回線4でなる二重化した通信回線を備えること。(上記(1)?(5))

ウ 通常時は、プロセス入出力処理部12のアナログ入力(AI)カード12A、ディジタル入力(DI)カード12B、パルス入力(PI)カードを通してプロセスの各種信号を入力し、プロセス入出力データファイル13に保存し、データ送受信制御回路14によりモデム10から、専用線で構成されるデータ伝送路3によりデータを収集するものであること。(上記(5))

エ 専用線で構成されるデータ伝送路3が何らかの障害によって伝送不能となれば、バックアップ用の一般電話回線4により、障害検知時、またはプロセス状態の急変時、あるいは警報値逸脱時、さらには毎正時ごとに自動ダイヤルして、瞬時値収集データ16A又は定時値保存データ16Cを収集するものであること。(上記(5))

オ 引用文献1には、専用線で構成されるデータ伝送路3が何らかの障害によって伝送不能になった後、復旧した場合の動作についての直接的な記載はないが、バックアップ用の一般電話回線4は、あくまで専用線で構成されるデータ伝送路3が伝送不能の場合に使用されるものであって、専用線で構成されるデータ伝送路3に障害がなくなれば、当然にバックアップ用の一般電話回線4によるデータ収集を停止して、当該データ伝送路3によりデータ収集を再開するものと考えるのが自然である。

したがって、上記を総合すると、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「中央監視室1と、複数の遠方のプラント監視制御装置2とを結ぶ専用線で構成されるデータ伝送路3、及び、該専用線で構成されるデータ伝送路3とは独立したバックアップ用の一般電話回線4でなる二重化した通信回線を備え、
通常時は、プロセス入出力処理部12のアナログ入力(AI)カード12A、ディジタル入力(DI)カード12B、パルス入力(PI)カードを通してプロセスの各種信号を入力し、プロセス入出力データファイル13に保存し、データ送受信制御回路14によりモデム10から、専用線で構成されるデータ伝送路3によりデータを収集し、
専用線で構成されるデータ伝送路3が何らかの障害によって伝送不能となれば、バックアップ用の一般電話回線4により、障害検知時、またはプロセス状態の急変時、あるいは警報値逸脱時、さらには毎正時ごとに自動ダイヤルして、瞬時値収集データ16A又は定時値保存データ16Cを収集し、
専用線で構成されるデータ伝送路3が復旧した際には、バックアップ用の一般電話回線4によるデータ収集を停止して、専用線で構成されるデータ伝送路3によるデータ収集を再開するようにした遠方監視制御システム」

第5 対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。
ア 引用発明における「中央監視室1」、「遠方のプラント監視制御装置2」、「専用線で構成されるデータ伝送路3」、「専用線で構成されるデータ伝送路3とは独立した」、「バックアップ用の一般電話回線4」は、それぞれ、本願発明1における「中央監視装置」、「監視拠点毎に配設したローカル制御装置」、「メイン回線」、「メイン回線とは独立した」、「バックアップ回線」に相当する。

イ 引用発明における「二重化した通信回線」は、通信回線を二重化した限りにおいて、本願発明1における「常時二重化回線」と共通する。

ウ 引用発明における「通常時は、プロセス入出力処理部12のアナログ入力(AI)カード12A、ディジタル入力(DI)カード12B、パルス入力(PI)カードを通してプロセスの各種信号を入力し、プロセス入出力データファイル13に保存し、データ送受信制御回路14によりモデム10から、専用線で構成されるデータ伝送路3によりデータを収集」することは、本願発明1の「通常時は、メイン回線により短いデータ収集周期でデータを収集」することと対比すると、「通常時は、メイン回線によりデータを収集」するものである限りにおいて共通する。

エ 引用発明における「専用線で構成されるデータ伝送路3が何らかの障害によって伝送不能となれば、バックアップ用の一般電話回線4により、障害検知時、またはプロセス状態の急変時、あるいは警報値逸脱時、さらには毎正時ごとに自動ダイヤルして、瞬時値収集データ16A又は定時値保存データ16Cを収集」することは、本願発明1の「メイン回線不通時は、バックアップ回線により長いデータ収集周期でデータを収集」することと対比すると、「メイン回線不通時は、バックアップ回線によりデータを収集」するものである限りにおいて共通する。

オ 引用発明における「専用線で構成されるデータ伝送路3が復旧した際には、バックアップ用の一般電話回線4によるデータ収集を停止して、専用線で構成されるデータ伝送路3によるデータ収集を再開」するようにしたことは、本願発明1の「メイン回線復旧時は、バックアップ回線によるデータ収集を停止して、メイン回線によるデータ収集及びバックアップ回線による回線診断を再開」するようにしたことと対比すると、「メイン回線復旧時は、バックアップ回線によるデータ収集を停止して、メイン回線によるデータ収集を再開」するようにしたものである限りにおいて共通する。

カ 引用発明における「遠方監視システム」は、通信回線を専用線で構成されるデータ伝送路3、及び、該専用線で構成されるデータ伝送路とは独立したバックアップ用の一般電話回線4とで、二重化した監視システムであるから、その限りにおいて、本願発明1における「二重化監視制御システム」に相当する。

したがって、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

(一致点)
「中央監視装置と、監視拠点毎に配設したローカル制御装置とを結ぶメイン回線、及び、該メイン回線とは独立したバックアップ回線でなる二重化回線を通信回線として備え、通常時は、メイン回線によりデータを収集すると共に、メイン回線不通時は、バックアップ回線によりデータを収集し、メイン回線復旧時は、バックアップ回線によるデータ収集を停止して、メイン回線によるデータ収集を再開するようにした二重化監視制御システム」

(相違点)
相違点1:本願発明1は、常時二重化回線を通信回線として備え、通常時は、バックアップ回線により回線診断を行い、メイン回線復旧時は、バックアップ回線による回線診断を再開するのに対し、引用発明は、バックアップ用の一般電話回線4は、自動ダイヤルして通信回路を確立するものであって、常時二重化していることについての特定がなく、バックアップ用の一般電話回線4により回線診断を行うことについての特定もない点。

相違点2:本願発明1は、各監視拠点の通信回線別にデータ収集周期を独立で設定可能として、通常時は高速のメイン回線により短いデータ収集周期でデータを収集するとともに、メイン回線不通時は、低速のバックアップ回線により長いデータ収集周期でデータを収集するのに対し、引用発明は、専用線で構成されるデータ伝送路3と、バックアップ用の一般電話回線4の速度の関係(高速か低速か)について特定がないとともに、通常時は、プロセスの各種信号を、データ送受信制御回路14によりモデム10から専用線3を通して中央監視室1に伝送し、専用線で構成されるデータ伝送路3が伝送不能の際には、障害検知時、またはプロセス状態の急変時、あるいは警報値逸脱時、さらには毎正時ごとに自動ダイヤルして、瞬時値収集データ16A又は定時値保存データ16Cを収集するものであって、通常時と障害発生時とのデータ収集が周期的に行われるものであるか特定されず、通常時と障害発生時のデータ収集周期の長短の関係についても特定のない点。

相違点3:本願発明1は、中央監視装置に接続されるサーバを並列状態で二重化し、通常時は、プライマリサーバのみが通信回線を介して監視拠点からデータ収集を行うと共に、通信回線は利用せずにプライマリサーバからセカンダリサーバにデータを供給し、プライマリサーバによるデータ収集機能が停止した場合のみ、セカンダリサーバによる監視拠点からのデータ収集を行うのに対し、引用発明は、中央監視室に接続されるサーバを並列状態で二重化することについての特定はなく、したがって、通常時、プライマリサーバによるデータ収集機能が停止した場合の動作についての特定もない点。

(2)相違点についての判断
事案に鑑み、まず上記相違点2について検討する。
引用文献2には、「プラントの遠隔監視を行う場合には、ローカル側及びリモート側のいずれのサイトでも、監視対象とするプロセスの最新の状態を継続的に把握できることが必要である。このためには、ローカル側は状態監視のデータの収集、表示、及び配信等をリアルタイムに実行し、これに対応して、リモート側は配信されたデータに対する表示及びその更新等をリアルタイムに処理できることはもちろん、データ伝送路に対してもリアルタイム伝送に対応できる伝送特性が要求される。」(段落[0006])との記載がある。
これによれば、遠隔監視をする際に、平時においても、リモート側でもリアルタイムにデータ表示等が行えるようにすること、及びそれを可能にする伝送特性を有するデータ伝送路を用いることが望ましいことが理解できる。

一方、引用発明は、通常時は、プロセス入出力処理部12のアナログ入力(AI)カード12A、ディジタル入力(DI)カード12B、パルス入力(PI)カードを通してプロセスの各種信号を入力し、プロセス入出力データファイル13に保存し、データ送受信制御回路14によりモデム10から、専用線で構成されるデータ伝送路3によりデータを収集し、専用線で構成されるデータ伝送路3が何らかの障害によって伝送不能となれば、バックアップ用の一般電話回線4により、障害検知時、またはプロセス状態の急変時、あるいは警報値逸脱時、さらには毎正時ごとに自動ダイヤルして、瞬時値収集データ16A又は定時値保存データ16Cを収集するものである。
ここで、引用発明には、通常時における専用線で構成されるデータ伝送路3によるデータ収集の周期、バックアップ用の一般電話回線4によるデータ収集の周期については特定がないところ、上記引用文献2の記載に鑑みれば、いずれの場合においても、リアルタイムにデータ表示等が行える伝送特性を有するデータ伝送路を用いることが望ましいとはいえるものの、専用線で構成されるデータ伝送路3によるデータ収集の周期を短いものとし、バックアップ用の一般電話回線4によるデータ収集の周期を長いものとするよう、データ収集の周期を異ならせることについては、そのようにする理由も必然性もない。
また、引用発明のバックアップ用の一般電話回線4によるデータ収集に関し、毎正時ごとに定時値保存データ16Cを収集することについては、周期的なデータ収集と言い得るものの、引用発明はこの他に、障害検知時、またはプロセス状態の急変時、あるいは警報値逸脱時にも瞬時値収集データ16Aを収集するものであり、このような障害検知時、プロセス状態の急変時、警報値逸脱時の事象は、周期的に起こるものではないことは明らかである。 そして、引用文献1には、このような障害検知時、プロセス状態の急変時、警報値逸脱時の事象が発生した場合において、瞬時値収集データ16Aを収集する周期を長くすることに関する記載は一切ないところ、このような事象が生じている際には、むしろ平時よりも瞬時値収集データ16Aの動向を注視する必要があることは明らかであるから、引用発明からは、本願発明1のような、メイン回線不通時は、低速のバックアップ回線により長いデータ収集周期でデータを収集するという発想は生じ得ないというべきである。
また、他の証拠を見ても、メイン回線不通時は、低速のバックアップ回線により長いデータ収集周期でデータを収集することについて記載や示唆をするものではない。

そうすると、引用発明を出発点として、上記相違点2に係る構成を採用することは、当業者が容易に想到し得るものとはいえない。

したがって、他の相違点について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても、引用発明及び引用文献2ないし7に記載された技術的事項に基づいて容易に想到し得るものとはいえない。

2.本願発明2、3について
本願発明2、3は、本願発明1の特定事項をすべて含むものであり、引用発明とは、上記相違点1ないし3と同じ相違点を有するものである。
そうすると、上記本願発明1についてと同様の理由により、当業者であっても、引用発明及び引用文献2ないし7に記載された技術的事項に基づいて容易に想到し得るものとはいえない。

3.本願発明4について
本願発明4は、その前段である「中央監視装置と、監視拠点毎に配設したローカル制御装置とを結ぶ高速のメイン回線、及び、該メイン回線とは独立した低速のバックアップ回線でなる常時二重化回線を通信回線として備え、
各監視拠点の通信回線別にデータ収集周期を独立で設定可能として、
通常時は、メイン回線により短いデータ収集周期でデータを収集すると共に、バックアップ回線により回線診断を行い、
メイン回線不通時は、バックアップ回線により長いデータ収集周期でデータを収集し、
メイン回線復旧時は、バックアップ回線によるデータ収集を停止して、メイン回線によるデータ収集及びバックアップ回線による回線診断を再開するようにした二重化監視制御システムであって、」については、本願発明1と同様の特定がなされているところ、引用発明と対比すると、上記相違点1、2及び以下の相違点4で相違する。

相違点4:本願発明4は、データ収集周期を、通信回線単位だけでなく、監視拠点毎に独立して設定可能としたのに対し、引用発明は、データ収集が周期的に行われるものであるか特定されず、データ収集周期を通信回線毎、監視拠点毎に独立して設定可能とすることについての特定がない点。

そして、相違点2に係る構成についての判断は、上記本願発明1についてと同様であるから、本願発明4は、当業者であっても、引用発明及び引用文献2ないし7に記載された技術的事項に基づいて容易に想到し得るものとはいえない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明1ないし4は、当業者が引用発明及び引用文献2ないし7に記載された技術的事項に基づいて容易に想到し得るものとはいえない。したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-07-31 
出願番号 特願2014-197545(P2014-197545)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G05B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 藤島 孝太郎田村 耕作  
特許庁審判長 刈間 宏信
特許庁審判官 見目 省二
小川 悟史
発明の名称 二重化監視制御システム  
代理人 須藤 修三  
代理人 藤田 崇  
代理人 松山 圭佑  
代理人 高矢 諭  
代理人 特許業務法人MTS国際特許事務所  

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