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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G03F
管理番号 1353880
審判番号 不服2018-3516  
総通号数 237 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-09-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-03-12 
確定日 2019-08-01 
事件の表示 特願2013-108890「シリカゾルを含んだ感光性樹脂組成物、及びこれを用いた硬化物」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 1月 9日出願公開、特開2014- 2374〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成25年5月23日(優先権主張平成24年5月25日)の出願であって、平成28年12月20日付けで拒絶理由が通知され、平成29年4月18日に意見書の提出とともに手続補正がなされ、さらに同年7月24日付けで拒絶理由が通知され、同年11月15日に意見書の提出とともに手続補正がなされ、同年12月7日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、これに対し、平成30年3月12日に拒絶査定不服審判の請求と同時に手続補正がなされたものである。
その後、平成31年2月19日付けで拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、令和元年5月7日に意見書の提出とともに手続補正(以下、「本件補正」という。)がなされた。


2 本件発明
本願の請求項1?4に係る発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されるとおりのものであり、その請求項1に係る発明は、以下のとおりのものである。
「 表面保護材料として使用されシリカ粒子を含有する感光性樹脂組成物であって、
(i)一般式(1)で表される1分子内にカルボキシル基及び重合性二重結合を有するアルカリ可溶性樹脂、(ii)少なくとも1個の重合性二重結合を有する重合性化合物、(iii)シリカ粒子として一般式(3)で表される表面処理剤で処理され、表面処理度が0.5?4質量%の範囲内である平均粒子径が10?300nmのシリカゾル、(iv)光重合開始剤、(v)シランカップリング剤、及び(vi)2つ以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂又はエポキシ化合物を必須の成分として含有すること、固形分中における必須成分の含有量は、(i)アルカリ可溶性樹脂が20?50質量%、(iii)シリカゾルが15?70質量%、(v)シランカップリング剤が0.1?20質量%であり、かつ、(ii)重合性化合物が(i)/(ii)(質量比)=40/60?90/10、(iv)光重合開始剤が[(iv)/〔(i)+(ii)〕](質量比)=0.01?0.05の範囲であり、(vi)エポキシ樹脂又はエポキシ化合物が(i)成分のアルカリ可溶性樹脂と(ii)成分の重合性化合物の総和に対して[(vi)/〔(i)+(ii)〕](質量比)=0.05?0.3の範囲であることを特徴とする表面保護材料用感光性樹脂組成物。
【化1】

(ただし、R_(1)、R_(2)、R_(3)、及びR_(4)は、独立に水素原子、炭素数1?5のアルキル基、ハロゲン原子又はフェニル基を示し、R_(5)は水素原子又はメチル基を示す。また、Xは9,9-フルオレニレン基を示し、Yは4価の芳香族カルボン酸残基を示す。Zは下記一般式(2)で表される置換基を示し、nは1?20の数を表す。)
【化2】

(但し、Lは2または3価のカルボン酸残基を示し、pは1または2である)
【化3】

(但し、R_(6)は分子内にヘテロ原子を含んでもよい炭素数1?10の炭化水素基を示し、R_(7)はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1?4のアルキル基を示し、R_(8)はそれぞれ独立に炭素数1?4のアルキル基を示し、qは1?3である)」(以下、「本件発明」という。)


3 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由の概要は、本件出願の請求項1?5に係る発明は、その優先権主張の日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明に基づいて、その優先権主張の日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

<引用文献等一覧>
引用文献1:特開2007-334290号公報
引用文献2:特開2001-354735号公報(周知技術)
引用文献3:特開2008-156613号公報(周知技術)
引用文献4:特開2010-229173号公報(周知技術)


4 引用刊行物の記載及び引用発明
(1)引用文献1の記載事項
当審拒絶理由に引用され、本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である特開2007-334290号公報(以下、「引用文献1」という。)には、以下の記載事項がある。なお、下線は合議体が引用発明の認定等に用いた箇所を示す。以下同様である。

ア「【技術分野】
【0001】
本発明は、保護膜用感光性熱硬化性組成物等に関する。詳しくは、ディスプレイ、配線板等のパネルに好ましく用いられる、保護膜用感光性熱硬化性組成物、及びこれを用いて形成された保護膜を有するカラーフィルタ、液晶表示装置に関する。

(中略)

【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、カラーフィルタ基板は、液晶を挟んで薄膜トランジスタ基板と貼り合わせるために、両基板の淵部分がシール剤で接合される構造となっている。また、カラーフィルタ基板に塗設される保護膜層は、通常、特定の保護層パターンにて形成される。そして、特許文献1記載の感光性熱硬化性組成物により保護膜層を形成したカラーフィルタ基板上にITO膜を形成すると、保護膜層の側面(淵部分)上端の角部に当たってITO膜が断線し易い場合があった。
また、保護膜層の硬度が低い場合には、経時により保護膜層表面にしわが発生し、ITO膜がひび割れる場合がある。更に、保護膜中に揮発成分が過度に含まれていると、かかる揮発成分のガス化によりITO膜がひび割れる場合がある。上記特許文献1に記載の感光性熱硬化性組成物にて形成された保護膜層については、これらの点からもなお改善の余地を有するものであった。
【0005】
更に、近年、半透過型のカラーフィルタが増加し、カラーフィルタ上に、カラーフィルタの画素の一部分のみが保護されるような細線状の保護膜パターンを形成する必要が生じてきた。このため、保護膜層の側面上端の角部が過度に鋭角にならないようにすることに加え、高い画像再現性が求められることとなった。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものである。即ち、本発明の主たる目的は、画像再現性の良好な保護層を形成可能な感光性熱硬化性組成物を提供することにある。また、本発明の他の目的は、ITOの断線がなく経時安定性が良好な保護層を形成可能な感光性熱硬化性組成物を提供することにある。更に、本発明の他の目的は、基板及びシール剤との接着性又は平坦性の良好な保護層を形成可能な感光性熱硬化性組成物を提供することにある。また更に、本発明の他の目的は、そのような保護層を有するカラーフィルタ、乃至液晶表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題について鋭意検討した結果、特定の感光性組成物が上記目的を達成可能である事を見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明によれば、熱架橋剤として、エチレン性不飽和化合物及び/又は分子内にエポキシ基を有する化合物を含有し、更に光重合開始剤を含有する保護膜用感光性熱硬化性組成物であって、ガラス基板平面上に保護膜用感光性熱硬化性組成物を膜厚2μmで塗布し、線幅25μmの細線パターンを有するマスクを介して波長365nmの紫外光を100mJ/cm^(2)で照射し、23℃・水圧0.25MPaでシャワー現像処理を施し、更に230℃で30分間の加熱処理を施すことにより、ガラス基板上に凸状に形成される細線画像の凸部側面がガラス基板に対してなすテーパ角が40°以上となることを特徴とする保護膜用感光性熱硬化性組成物が提供される。
また、本発明によれば、熱架橋剤として、エチレン性不飽和化合物及び/又は分子内にエポキシ基を有する化合物を含有し、更に光重合開始剤を含有する保護膜用感光性熱硬化性組成物であって、ガラス基板上に設けた赤、緑、又は青のカラーフィルタ画素平面上に膜厚2μmで塗布し、線幅25μmの細線パターンを有するマスクを介して波長365nmの紫外光を100mJ/cm^(2)で照射し、23℃・水圧0.25MPaでシャワー現像処理を施し、更に230℃で30分間の加熱処理を施すことにより、カラーフィルタ画素上に凸状に形成される細線画像の凸部側面がカラーフィルタ画素平面に対してなすテーパ角は、40°以上となることを特徴とする保護膜用感光性熱硬化性組成物が提供される。

(中略)

【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、画像再現性の良好な保護膜を形成することのできる保護膜用感光性熱硬化性組成物が提供される。また、解像性とテーパ形状の良好な保護層を形成することのできる保護膜用感光性熱硬化性組成物が提供される。更に、基板及びシール剤との接着性が良好な保護層を形成することのできる保護膜用感光性熱硬化性組成物が提供される。また更に、平坦性の良好な保護層を形成することのできる保護膜用感光性熱硬化性組成物が提供される。
また、本発明によれば、ITOの断線が生じるおそれが少なく平坦性の良好な保護膜が用いられているため高品質なカラーフィルタが提供される。
更に、本発明によれば、高品質なカラーフィルタが用いられた、高品質な液晶表示装置が提供される。」

イ 「【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための最良の形態(以下、発明の実施の形態)について詳細に説明する。尚、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。また、使用する図面は本実施の形態を説明するためのものであり、実際の大きさを表すものではない。
【0013】
[1]保護膜用感光性熱硬化性組成物
本実施の形態の保護膜用感光性熱硬化性組成物(以下、単に「感光性熱硬化性組成物」と称することがある。)には、以下の各成分を配合することができる。
[1-1]熱架橋剤
[1-2]硬化剤
[1-3]光重合性モノマー
[1-4]光重合開始剤
[1-5]アルカリ可溶性樹脂
[1-6]その他成分
[1-7]有機溶剤
【0014】
これら各成分のうち、本実施の形態の感光性熱硬化性組成物においては熱架橋剤、及び光重合開始剤が必須成分である。以下、各成分についてまず説明する。
なお、本実施の形態において、「(メタ)アクリル」とは、「アクリル及び/又はメタクリル」を意味するものとし、また、「全固形分」とは、溶剤を除く感光性熱硬化性組成物の成分の全量を意味するものとする。」

ウ 「【0015】
[1-1]熱架橋剤
本実施の形態の感光性熱硬化性組成物は、熱架橋剤として、エチレン性不飽和化合物及び/又は分子内にエポキシ基を有する化合物を含有する。
【0016】
[1-1-1]エチレン性不飽和化合物
エチレン性不飽和化合物とは、エチレン性不飽和結合を分子内に1個以上有する化合物を意味する。本実施の形態においては、重合性、架橋性等の点から、エチレン性不飽和結合を分子内に2個以上有する化合物であることが好ましい。また、同様の観点から、その不飽和結合は(メタ)アクリロイルオキシ基に由来するアクリレート化合物であることが好ましい。
【0017】
エチレン性不飽和結合を分子内に1個有する化合物としては、例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸等の不飽和カルボン酸、及びそのアルキルエステル、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミド、スチレン等が挙げられる。
また、エチレン性不飽和結合を分子内に2個以上有する化合物としては、例えば、不飽和カルボン酸とポリヒドロキシ化合物とのエステル類、(メタ)アクリロイルオキシ基含有ホスフェート類、ヒドロキシ(メタ)アクリレート化合物とポリイソシアネート化合物とのウレタン(メタ)アクリレート類、及び、(メタ)アクリル酸又はヒドロキシ(メタ)アクリレート化合物とポリエポキシ化合物とのエポキシ(メタ)アクリレート類等が挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を併用することができる。

(中略)

【0035】
[1-1-1-4](メタ)アクリル酸又はヒドロキシ(メタ)アクリレート化合物と、ポリエポキシ化合物とのエポキシ(メタ)アクリレート類
ポリエポキシ化合物としては、例えば、(ポリ)エチレングリコールポリグリシジルエーテル、(ポリ)プロピレングリコールポリグリシジルエーテル、(ポリ)テトラメチレングリコールポリグリシジルエーテル、(ポリ)ペンタメチレングリコールポリグリシジルエーテル、(ポリ)ネオペンチルグリコールポリグリシジルエーテル、(ポリ)ヘキサメチレングリコールポリグリシジルエーテル、(ポリ)トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、(ポリ)グリセロールポリグリシジルエーテル、(ポリ)ソルビトールポリグリシジルエーテル等の脂肪族ポリエポキシ化合物;
フェノールノボラックポリエポキシ化合物、ブロム化フェノールノボラックポリエポキシ化合物、(o-,m-,p-)クレゾールノボラックポリエポキシ化合物、ビスフェノールAポリエポキシ化合物、ビスフェノールFポリエポキシ化合物等の芳香族ポリエポキシ化合物;
ソルビタンポリグリシジルエーテル、トリグリシジルイソシアヌレート、トリグリシジルトリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレート等の複素環式ポリエポキシ化合物;
等のポリエポキシ化合物が挙げられる。
(メタ)アクリル酸又はヒドロキシ(メタ)アクリレート化合物と、ポリエポキシ化合物とのエポキシ(メタ)アクリレート類としては、これらのようなポリエポキシ化合物と、上記(メタ)アクリル酸又は上記ヒドロキシ(メタ)アクリレート化合物との反応物等が挙げられる。
【0036】
[1-1-1-5]その他のエチレン性不飽和化合物
その他のエチレン性不飽和化合物としては、前記以外に、例えば、エチレンビス(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド類、フタル酸ジアリル等のアリルエステル類、ジビニルフタレート等のビニル基含有化合物類、エーテル結合含有エチレン性不飽和化合物のエーテル結合を5硫化燐等により硫化してチオエーテル結合に変えることにより架橋速度を向上せしめたチオエーテル結合含有化合物類が挙げられる。
また、例えば、特許第3164407号公報及び特開平9-100111号公報等に記載の多官能(メタ)アクリレート化合物と、粒子径5?30nmのシリカゾル〔例えば、イソプロパノール分散オルガノシリカゾル(日産化学社製「IPA-ST」)、メチルエチルケトン分散オルガノシリカゾル(日産化学社製「MEK-ST」)、メチルイソブチルケトン分散オルガノシリカゾル(日産化学社製「MIBK-ST」)、プロピレングリコールモノメチルエーテル分散オルガノシリカゲル(日産化学社製「PGM-ST」)、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート分散オルガノシリカゲル(日産化学社製「PMA-ST」等〕とを、イソシアネート基或はメルカプト基含有シランカップリング剤を用いて結合させた化合物が挙げられる。
更に、エチレン性不飽和基含有ポリシロキサン類とオルガノシラン類の混合物に水を加え、加水分解及び部分縮合させることにより得られる、エチレン性不飽和化合物としてのシロキサンポリマー、更には、このようなシロキサンポリマーにシランカップリング剤を介してシリカゲルを反応させ結合させることにより硬化物としての強度や耐熱性を向上せしめた化合物類、等が挙げられる。

(中略)

【0040】
本実施の形態の感光性熱硬化性組成物中に占める、エチレン性不飽和化合物の含有量としては、全固形分に対して、通常1重量%以上、好ましくは2重量%以上であり、通常60重量%以下、好ましくは40重量%以下である。
【0041】
[1-1-2]分子内にエポキシ基を有する化合物
分子内にエポキシ基を有する化合物(「エポキシ化合物」と略記することがある。)としては、低分子量物から高分子量物にわたる化合物が挙げられる。具体的には、例えば、(i)モノヒドロキシ化合物あるいはポリヒドロキシ化合物とエピクロルヒドリンを反応させて得られる(ポリ)グリシジルエーテル化合物、(ii)(ポリ)カルボン酸化合物とエピクロルヒドリンを反応させて得られるポリグリシジルエステル化合物、(iii)(ポリ)アミン化合物とエピクロルヒドリンを反応させて得られる(ポリ)グリシジルアミン化合物、等が挙げられる。

(中略)

【0048】
本実施の形態の感光性熱硬化性組成物中に占める、エポキシ化合物の含有量は、全透過の保護膜に用いる場合は、全固形分に対して、通常10重量%以上、好ましくは20重量%以上、更に好ましくは30重量%以上であり、通常98重量%以下、好ましくは95重量%以下である。エポキシ化合物の量が過度に少ないと、支持体への接着性、硬度の低下、熱重量変化、熱硬化膜の側面の接触角の増加を招きやすい。
一方、カラーフィルタの赤、青、緑の画素上に光マスク露光、現像処理等の工程を経て、通常線幅30μm程度(20?50μm)の細線形状を形成させる半透過の保護膜及び薄膜トランジスタ用絶縁性保護膜に用いる場合には、全固形分に対して、通常0重量%以上であり、通常40重量%以下、好ましくは20重量%以下である。エポキシ化合物の量が過度に多いと、細線形状の再現性の低下をまねく場合がある。
なお、熱溶融性のエポキシ化合物を適量添加させることにより、カラーフィルタパターンに由来する凹凸を有する基板上に、該凹凸を平坦化させる効果を奏することもできる。このような目的に適用させる場合は、エポキシ化合物の含有量は、全固形分に対して、通常50重量%以下、好ましくは40重量%以下である。エポキシ化合物の量が過度に多いと、加熱処理の際に保護膜の熱溶融性が過多になり、平坦性の低下を招きやすい。」

エ 「【0067】
[1-3]光重合性モノマー
光重合性モノマーは、熱硬化処理前に光露光・現像によるパターニング工程を含む場合に、それに伴う露光部と非露光部の現像液溶解性の差異を拡大できる等の観点から好ましく使用される。
中でも、エチレン性不飽和結合を分子内に2個以上有する化合物であることが好ましく、また、その不飽和結合が(メタ)アクリロイルオキシ基に由来するアクリレート化合物であることが更に好ましい。

(中略)

【0069】
このような光重合性モノマーとしてより具体的には、例えばジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート等が挙げられ、中でも、感度、硬化膜強度の観点から、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートが好ましい。
【0070】
本実施の形態の感光性熱硬化性組成物中に占める光重合性モノマーの含有量としては、全固形分に対して、通常10重量%以上、好ましくは20重量%以上であり、通常80重量%以下、好ましくは60重量%以下である。光重合性モノマーの量が過度に少ないと感度の低下、現像溶解速度の低下をまねく場合がある。一方、光重合性モノマーの量が過度に多いと、画像断面形状の再現性の低下、レジスト(本実施の形態の感光性熱硬化性組成物)の膜減り(膜厚の減少)をまねく場合がある。」

オ 「【0074】
[1-4]光重合開始剤
光重合開始剤としては、公知のいずれのものも用いることができ、紫外線から可視光線によりエチレン性不飽和基を重合させるラジカルを発生させることのできる化合物を発生させる化合物が挙げられる。

(中略)

【0096】
本実施の形態の感光性熱硬化性組成物中に占める光重合開始剤の含有量としては、全固形分に対して、通常0.1重量%以上、好ましくは0.5重量%以上であり、通常40重量%以下、好ましくは30重量%以下、特に好ましくは10重量%以下である。光重合開始剤の量が過度に少ないと、感度の低下を招きやすい。一方、過度に多いと、地汚れ(現像溶解性)の低下を招きやすい。」

カ 「【0097】
[1-5]アルカリ可溶性樹脂
アルカリ可溶性樹脂としては、アルカリ性の溶媒で溶解可能な樹脂であれば特に限定はないが、例えば、カルボキシル基や水酸基を含む樹脂を挙げることができる。
より具体的には、例えば(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、マレイン酸、酢酸ビニル、マレイミド等にエポキシ基を導入した、不飽和基及びカルボキシル基含有エポキシ樹脂;
(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミド、マレイン酸、スチレン、酢酸ビニル、塩化ビニリデン、マレイミド等に水酸基又はカルボキシル基を導入した、水酸基又はカルボキシル基含有ビニル系樹脂;ポリアミド、ポリエステル、ポリエーテル、ポリウレタン、ポリビニルブチラール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、アセチルセルロース等が挙げられる。
【0098】
中でも、アルカリ現像性と画像形成性の面から、不飽和基及びカルボキシル基含有エポキシ樹脂とカルボキシル基含有ビニル系樹脂が好適である。以下、これらの化合物について、更に詳述する。
【0099】
[1-5-1]不飽和基及びカルボキシル基含有エポキシ樹脂
不飽和基及びカルボキシル基含有エポキシ樹脂としては、エポキシ樹脂のα,β-不飽和基含有カルボン酸付加体に、多価カルボン酸及び/又はその無水物が付加された、不飽和基及びカルボキシル基含有エポキシ樹脂が挙げられる。即ち、(i)エポキシ樹脂のエポキシ基に、(ii)α,β-不飽和モノカルボン酸のカルボキシル基が開環付加されることにより、エポキシ樹脂にエステル結合(-COO-)を介してエチレン性不飽和結合が付加されていると共に、その際生じた水酸基に、(iii)多価カルボン酸若しくはその無水物のカルボキシル基が付加されたものが挙げられる。以下、不飽和基及びカルボキシル基含有エポキシ樹脂の構成成分について説明する。
【0100】
[1-5-1-1]エポキシ樹脂
不飽和基及びカルボキシル基含有エポキシ樹脂の原料となるエポキシ樹脂としては、[1-1-2]欄等に例示したエポキシ化合物の中から適宜選択して用いることができる。より具体的には、例えば、ビスフェノールAエポキシ樹脂、ビスフェノールFエポキシ樹脂、ビスフェノールSエポキシ樹脂、フェノールノボラックエポキシ樹脂、クレゾールノボラックエポキシ樹脂、トリスフェノールエポキシ樹脂、フェノールとジシクロペンタンとの重合エポキシ樹脂等が挙げられる。中でも、高い硬化膜強度の観点から、フェノールノボラックエポキシ樹脂、又はクレゾールノボラックエポキシ樹脂、フェノールとジシクロペンタジエンとの重合エポキシ樹脂、グリシジルメタアクリレートとアルキル(メタ)アクリル酸エステルとの共重合体などが好ましい。さらに、光透過性の観点から、グリシジルメタアクリレートとアルキル(メタ)アクリル酸エステルとの共重合体が好ましい。
【0101】
[1-5-1-2]α,β-不飽和モノカルボン酸
α,β-不飽和モノカルボン酸としては、例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸等、及び、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート無水琥珀酸付加物、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートテトラヒドロ無水フタル酸付加物、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート無水琥珀酸付加物、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート無水フタル酸付加物、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレートテトラヒドロ無水フタル酸付加物、(メタ)アクリル酸とε-カプロラクトンとの反応生成物等が挙げられる。
中でも、感度の観点から、(メタ)アクリル酸が好ましい。
【0102】
[1-5-1-3]多価カルボン酸若しくはその無水物
多価カルボン酸若しくはその無水物としては、例えば、琥珀酸、マレイン酸、イタコン酸、フタル酸、テトラヒドロフタル酸、3-メチルテトラヒドロフタル酸、4-メチルテトラヒドロフタル酸、3-エチルテトラヒドロフタル酸、4-エチルテトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、3-メチルヘキサヒドロフタル酸、4-メチルヘキサヒドロフタル酸、3-エチルヘキサヒドロフタル酸、4-エチルヘキサヒドロフタル酸、及びそれらの無水物等が挙げられる。
中でも、画像再現性、現像性の観点から、マレイン酸無水物、テトラヒドロフタル酸無水物、又はヘキサヒドロフタル酸無水物が好ましく、テトラヒドロフタル酸無水物が更に好ましい。
【0103】
本実施の形態において、感光性熱硬化性組成物としての感度、解像性、及び基板に対する密着性等を改良する観点から、不飽和基及びカルボキシル基含有エポキシ樹脂としては、エポキシ樹脂としてフェノールノボラックエポキシ樹脂、ビスフェノールエポキシ樹脂、ヒドロキシフルオレンエポキシ(樹脂)、又はクレゾールノボラックエポキシ樹脂を用い、α,β-不飽和モノカルボン酸として(メタ)アクリル酸を用い、多価カルボン酸若しくはその無水物としてテトラヒドロフタル酸無水物を用いて得られるものが好ましい。
また、不飽和基及びカルボキシル基含有エポキシ樹脂としては、酸価が20?200mg-KOH/gであるものが好ましく、30?180mg-KOH/gであるものが更に好ましい。
更に、不飽和基及びカルボキシル基含有エポキシ樹脂の分子量としては、通常1,000以上、好ましくは1,500以上であり、通常30,000以下、好ましくは20,000以下、更に好ましくは10,000以下である。

(中略)

【0116】
本実施の形態の感光性熱硬化性組成物中に占める、アルカリ可溶性樹脂の含有量としては、全固形分に対して、通常5重量%以上、好ましくは10重量%以上であり、通常80重量%以下、好ましくは70重量%以下である。アルカリ可溶性樹脂の量が過度に少ないと、画像断面形状の再現性不良、耐熱性の低下等を招く場合があり、過度に多いと、感度の低下、現像溶解速度の低下を招く場合がある。
【0117】
また、本実施の形態の感光性熱硬化性組成物は、加熱時のレジスト画像の変形量を大きくする観点から、アルカリ可溶性樹脂の含有量と光重合性モノマーの含有量とが特定の比率で混合されることが好ましい。
全透過の保護膜の場合、そのような混合比率としては、アルカリ可溶性樹脂の含有量/光重合性モノマーの含有量(重量比)として、通常0.5以上、好ましくは0.7以上であり、通常2以下、好ましくは1.5以下である。
また、半透過の保護膜及び薄膜トランジスタ用絶縁性保護膜の場合には、通常0.5以上、好ましくは0.75以上であり、通常2以下、好ましくは1.5以下である。
重量比が過度に大きいと、画像形成性が低下し、非画線部分に保護膜の残渣が発生し易くなる場合がある。一方、過度に低いと、加熱処理時に大きな熱収縮を起こし易くなる場合がある。
【0118】
更に、アルカリ可溶性樹脂としては、本実施の形態の感光性熱硬化性組成物を加熱した場合に発生ガスを抑制する観点、乃至耐熱性を向上させる観点から、以下の関係式を満たすものであることが好ましい。
[関係式]
V2/V3 ≧ 1.3
(V2:ポリスチレンを標準物質とするGPC法により微分分子量分布曲線を得た場合の、最大ピーク値に相当する分子量(M1)の10^(1/2)倍の分子量(M2)を有するアルカリ可溶性樹脂の重量含有率。
V3:最大ピーク値に相当する分子量(M1)の10^(-1/2)倍の分子量(M3)を有するアルカリ可溶性樹脂の重量含有率。)
【0119】
なお、微分分子量分布曲線とは、アルカリ可溶性樹脂に含まれる各分子量に対するその分子量に相当するアルカリ可溶性樹脂の重量含有率を意味する。また、このような微分分子量分布曲線は、上述した分子量測定法と同様、ポリスチレンを標準物質とするGPC法により測定されるものである。
【0120】
上記V2/V3値としては、通常、1.3以上、好ましくは1.5以上、さらに好ましくは1.8以上であり、通常、1,000以下、好ましくは100以下、更に好ましくは50以下である。このように低分子量の成分が少ない分子量分布を有するアルカリ可溶性樹脂を用いることにより、画像形成性が高まると共に、保護膜強度が向上し、保護層上のITO膜のひび割れ欠陥の発生を抑制することができる。」

キ 「【0122】
[1-6]その他成分
[1-6-1]接着助剤
本実施の形態の保護膜用感光性熱硬化性組成物には、基板との密着性を向上させる目的で、接着助剤を配合することができる。接着助剤としては、例えばシランカップリング剤を挙げることができる。
より具体的には、例えば、トリメトキシシリル安息香酸、γ-メチクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、γ-グシリドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルトリエトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等が挙げられる。これらのシランカップリング剤は、1種単独でも2種以上混合して用いてもよい。
【0123】
また、シランカップリング剤は、接着助剤としての機能だけではなく、熱処理において適度な熱溶融性(熱流動性)を保護膜に与え、平坦性を向上させる機能をも有する。このような目的で配合するシランカップリング剤としては、例えば、エポキシ基を有するシランカップリング剤が挙げられる。より具体的には、例えばγ-グリドキシプロピルメトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、トリメトキシシリルプロピルコハク酸(無水物)、テトラメトキシシラン、メチルメトキシシラン、ジメチルトリメトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)と、これらの加水分解及び部分縮合体などが挙げられる。
なお、上記接着助剤の配合量としては、全固形分に対して通常0.1重量%以上であり、通常30重量%以下、好ましくは10重量%以下である。
【0124】
[1-6-2]界面活性剤
本実施の形態の保護膜用感光性熱硬化性組成物には、組成物の塗布液としての塗布性、及び感光性熱硬化性組成物層の現像性の向上等を目的として、ノニオン性、アニオン性、カチオン性、両性界面活性剤、或いは、フッ素系やシリコーン系等の界面活性剤を配合することができる。

(中略)

【0129】
また、シリコーン系界面活性剤としては、例えばトーレシリコーン株式会社製「トーレシリコーンDC3PA」、「トーレシリコーンSH7PA」、「トーレシリコーンDC11PA」、「トーレシリコーンSH21PA」、「トーレシリコーンSH28PA」、「トーレシリコーンSH29PA」、「トーレシリコーンSH30PA」、「トーレシリコーンSH8400」、東芝シリコーン株式会社製「TSF-4440」、「TSF-4300」、「TSF-4445」、「TSF-444(4)(5)(6)(7)6」、「TSF-4460」、「TSF-4452」、シリコーン株式会社製「KP341」、ビッグケミー社製「BYK323」、「BYK330」等の市販品を挙げることができる。
中でも、シリコーン系界面活性剤が好ましく、ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤が更に好ましい。

(中略)

【0131】
本実施の形態の感光性熱硬化性組成物において、界面活性剤の含有割合は、全固形分に対して、10重量%以下であることが好ましく、1?5重量%であることが更に好ましい。
また、本実施の形態の感光性熱硬化性組成物については、主に上記界面活性剤を適宜選択することにより、該樹脂組成物の液滴の清浄ガラス面に対する接触角θ(度)と、表面張力σ(mN/m)が下記式(1)、(2)、又は(3)のいずれか1つ又は2つ以上を満足するように調整するのが好ましい。下記式(1)、(2)、又は(3)のいずれか1つ又は2つ以上を満足させることにより、塗布ムラと乾燥ムラの発生を防ぐことができる。
【0132】
θ≦5×(σ_(0)-σ) (1)
σ≦σ_(0)-1 (2)
θ≦15 (3)
〔但し、前記式中、σ_(0)は樹脂組成物に用いられている溶剤単独の表面張力(mN/m)である。〕

(中略)

【0141】
[1-6-3]その他添加剤
本実施の形態の感光性熱硬化性組成物には、前記成分の他にも、各種添加剤、例えば置換基を有していてもよいo-ハイドロキシベンゾフェノン、ハイドロキノン、p-メトキシフェノール、2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール等の熱重合防止剤を配合することができる。これら化合物の配合割合としては、全固形分に対して、通常10重量%以下、好ましくは2重量%以下である。

(中略)

【0148】
また、本実施の形態の感光性熱硬化性組成物は、更に、硬化物としての強度の向上と共に、アルカリ可溶性樹脂との適度な相互作用(マトリックス構造)により、優れた塗膜の平坦性とテーパ角の向上等を目的として、無機充填剤成分を含有していてもよい。そのような無機充填剤としては、例えば、タルク、シリカ、アルミナ、硫酸バリウム、酸化マグネシウム、前記[1-1-1-5]欄中に記載されたシリカゾルにエチレン性基を付加導入したもの、或いは、このシリカゾルを前記[1-6-1]欄中に記載された各種シランカップリング剤により表面処理したもの、更には無処理のシリカゾル、等が挙げられる。
【0149】
本実施の形態の感光性熱硬化性組成物中に占める無機充填剤成分の含有量としては、全固形分に対して、通常5重量%以上、好ましくは10重量%以上であり、通常80重量%以下、好ましくは70重量%以下である。
【0150】
なお、これら無機充填剤の平均粒子径としては、通常0.005?20μm、好ましくは0.01?10μmである。本実施の形態にいう平均粒子径とは、ベックマン・コールター社製等のレーザ回折散乱粒度分布測定装置にて測定した値である。
特に、上記シリカゾル及びシリカゾル変性物は、分散安定性と共にテーパ角の向上効果に優れるため、好ましく配合される。」

ク 「【0151】
[1-7]有機溶剤
上述した各成分は、通常、有機溶剤を用いて、固形分濃度が5?50重量%、好ましくは10?40重量%の範囲となるように調液して使用される。
有機溶剤としては前述の各成分を溶解・分散させることができ、取り扱い性が良いものであれば特に限定されない。具体的には、例えば、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノアセテート、プロピレングリコールジアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(以下、「PGMAc」と略記することがある。)、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、トルエン、クロロホルム、ジクロロメタン、酢酸エチル、乳酸メチル、乳酸エチル、3-メトキシメチルプロピオネート、3-エトキシエチルプロピオネート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、テトラハイドロフラン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、メトキシブチル酢酸エステル、ソルベスト、カルビトール等が挙げられる。
【0152】
上記有機溶剤の沸点としては、100?200℃の範囲が好ましく、より好ましくは120?170℃の範囲のものである。
また、有機溶剤は1種類を単独で用いることもできるが、2種類以上を混合して用いてもよい。混合して用いる有機溶剤の組合せとしては、例えばPGMAcにジエチレングリコールジメチルエーテル、メトキシブチル酢酸エステル、ソルベスト、カルビトールから選ばれる1種以上の有機溶剤を混合したものが挙げられる。
更に、上記混合溶剤において、ジエチレングリコールジメチルエーテル、メトキシブチル酢酸エステル、ソルベスト、カルビトールから選ばれる1種以上の有機溶剤の配合割合は、PGMAcに対して通常10重量%以上、好ましくは30重量%以上であり、通常80重量%以下、好ましくは70重量%以下である。
また更に、上記混合溶剤の中でも、PGMAcとメトキシブチル酢酸エステルの混合溶剤は、塗布乾燥工程における塗布膜の適度な流動性を誘起するため、カラーフィルタの凹凸を平坦化させるためには好適である。」

ケ 「【実施例】
【0170】
次に、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0171】
(実施例1?8、比較例1,2)
表1に示す配合にて感光性熱硬化性組成物を調製した。得られた感光性熱硬化性樹脂組成物をガラス基板(旭硝子株式会社製カラーフィルタ用ガラス板「AN100」)上に塗布し、ホットプレート上で80℃にて3分間乾燥し、乾燥膜厚2μmの塗布膜を得た。その後、この塗布膜にマスクを介して露光し、露光塗膜を形成した。使用したマスクは、線幅25μm、線間125μmの繰り返し細線パターンを有するマスクであった。マスク設置位置は、塗布面から150μm離れた位置であった。露光光源は3kW高圧水銀であり、波長365nmの紫外光が100mJ/cm^(2)となるように露光した。
【0172】
次いで、上記露光塗膜に現像処理を施し、更に加熱処理を施して細線画像を得た。現像処理は、1重量%の炭酸カリウムを含有する水溶液(現像液)を用い、23℃において水圧0.25MPaのシャワー現像を施した後、純水にて現像を停止し、水洗スプレーにてリンスする方法を用いた。ここで、シャワー現像時間は10?120秒間の間で調整し、感光層が溶解除去される時間(ブレーク時間)の2倍とした。一方、加熱処理は、230℃で30分間の加熱処理とした。
得られた細線画像のテーパ角、及び細線再現性について評価した。結果を表1に併記した。
【0173】
【表1】

【0174】
M-1:日本化薬株式会社製ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA)。[1-1]熱架橋剤、及び[1-3]光重合性モノマーとして機能する。

(中略)

【0176】
P-3:ビスフェノールとエピクロヒドリンとの付加重合エポキシ樹脂にアクリル酸と酸無水物を付加させて得られる、下記式で示されるアルカリ可溶性樹脂(重量平均分子量6000、酸価98)を、イソプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートにいったん溶解させ、固形分62重量%の樹脂溶液とした。その後、この樹脂溶液に、該樹脂溶液の1.5倍量のメタノールを滴下、析出させ、つづいて析出した樹脂をろ過し、40℃にて風乾させたものをP-3とした。V2/V3は5であった。
【0177】
【化8】

(式中、Rは水素原子を示す。mは自然数を示す。)

(中略)

【0179】
S-1:チバスペシャルケミカルズ(株)社製「イルガキュアー907」
S-2:β-イミダゾール(2-(o-クロロフェニル)-4,5-ジフェニルイミダゾール2量体)
S-3:チバスペシャルケミカルズ(株)社製「イルガキュアー369」
【0180】
J-1:2-メルカプトベンズイミダゾール。[1-6-3]その他添加剤に含まれる重合加速剤に該当する。
R-1:グリシジルメタアクリレート/ジシクロペンタニル共重合体(仕込みモル比2:1)。重量平均分子量(Mw)6000。[1-1-2]分子内にエポキシ基を有する化合物に該当する。
SH-1:γ-グシリドキシプロピルトリメトキシシラン。[1-6-1]接着助剤に含まれるシランカップリング剤に該当する。

(中略)

【0182】
F-1:ビックケミカル社製シリコーン系界面活性剤「BYK323」。[1-6-2]界面活性剤に該当する。
TI-1:チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製ヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤「TINUVIN400」。[1-6-3]その他添加剤に含まれる紫外線吸収剤に該当する。
PGMA:イソプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート
MBA:メトキシブチル酢酸エステル
SS-1:PGMA分散シリカゾル溶液「日産化学社製 PMA-ST」。粒径約20nm、固形分濃度30重量%。表1中の重量部は、固形分であるシリカゾルの重量部である。なお、[1-6-3]その他添加剤に含まれるシリカゾルに該当する。
【0183】
エポキシ化合物の配合率:上記R-1成分が、感光性熱硬化性組成物の固形分中に占める割合である。
アルキル化変性メラミンの配合率:上記I-1成分が、感光性熱硬化性組成物の固形分中に占める割合である。
アルカリ可溶性樹脂の分子量分布:アルカリ可溶性樹脂のV2/V3値である。
【0184】
テーパ角:細線画像の断面形状を日立製作所社製走査型電子顕微鏡「S4100」にて観察し、テーパ角(°)を求めた。
細線再現性:加熱後の細線画像の線幅を測定し、露光時に使用したマスクの線幅(25μm)からの太りを測定した。下記基準で評価した。
A:得られた保護膜細線の幅が28μm未満。
B:得られた保護膜細線の幅が28μm以上35未満。
C:得られた保護膜細線の幅が35μm以上。」

(2)引用発明
引用文献1の記載事項イによれば、引用文献1には、[1-1]熱架橋剤、[1-2]硬化剤、[1-3]光重合性モノマー、[1-4]光重合開始剤、[1-5]アルカリ可溶性樹脂、[1-6]その他成分、[1-7]有機溶剤を配合することができる、「保護膜用感光性熱硬化性組成物(以下、単に「感光性熱硬化性組成物」と称することがある。)」の実施の形態が記載されており、記載事項ケには、その感光性熱硬化性組成物の実施の形態にあたる、実施例1?8が示されているといえる。
そうすると、引用文献1には、保護膜用感光性熱硬化性組成物をより具体的に説明した例の一つである実施例6として、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「以下の配合にて調整した保護膜用感光性熱硬化性組成物であって、感光性熱硬化性樹脂組成物を、ガラス板上に塗布し、乾燥し、マスクを介して露光し、現像処理を施し、更に加熱処理を施して得た細線画像について、加熱後の細線画像の線幅を測定し、露光時に使用したマスクの線幅(25μm)からの太りを測定して評価した細線再現性が、得られた保護膜細線の幅が28μm未満となる保護膜用感光性熱硬化性組成物。
[1-1]熱架橋剤(必須成分)、及び[1-3]光重合性モノマーとして機能する化合物として、M-1:ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートを45重量部
[1-5]アルカリ可溶性樹脂として、P-3:ビスフェノールとエピクロヒドリンとの付加重合エポキシ樹脂にアクリル酸と酸無水物を付加させて得られる、【化8】で示されるアルカリ可溶性樹脂を45重量部
【化8】

[1-4]光重合開始剤(必須成分)として、S-1:チバスペシャルケミカルズ(株)社製「イルガキュアー907」を5重量部
[1-6]その他成分として、SH-1:シランカップリング剤に該当するγ-グシリドキシプロピルトリメトキシシランを5重量部
[1-6]その他成分として、F-1:界面活性剤に該当するビックケミカル社製シリコーン系界面活性剤「BYK323」を0.1重量部
[1-7]有機溶剤として、PGMA:イソプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートを200重量部
[1-7]有機溶剤として、MBA:メトキシブチル酢酸エステルを200重量部
[1-6]その他成分として、SS-1:粒径約20nm、固形分濃度30重量%のPGMA分散シリカゾル溶液「日産化学社製 PMA-ST」を固形分であるシリカゾルの重量部として55重量部」

(3)引用文献2の記載事項
当審拒絶理由に周知技術を示す文献として引用され、本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である特開2001-354735号公報(以下、「引用文献2」という。)には、以下の記載事項がある。

ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、新規な光重合性不飽和化合物、その製造方法及びそれを用いたアルカリ可溶型感放射線性樹脂組成物に関する。さらに詳しくは、本発明は、様々な用途に好適に用いられるアルカリ可溶型感放射線性樹脂組成物における光重合性成分などとして有用な光重合性不飽和化合物、このものを効率よく製造する方法、及び該光重合性不飽和化合物を含み、耐熱性、透明性、密着性、耐薬品性などに優れる硬化膜を与え、カラーフィルター、液晶表示素子、集積回路素子、固体撮像素子などの保護膜や層間絶縁膜の形成材料、カラーレジスト用バインダー組成物、あるいはプリント配線板製造の際に用いられるソルダーレジストなどとして好適なアルカリ可溶型感放射線性樹脂組成物に関するものである。

(中略)

【0003】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、このような事情のもとで、上記のような欠点がなく、分子量の制御が容易な光重合性不飽和化合物、このものを効率よく製造する方法、及び該光重合性不飽和化合物を含み、プリベーク後には塗膜がスティッキングフリーとなり、光照射後における硬化膜が耐熱性、透明性、密着性、硬度、耐薬品性等に優れ、かつ弱アルカリ水溶液で現像可能であると共に、適当な溶液粘度になるように粘度調整が容易な感放射線性樹脂組成物を提供することを目的としてなされたものである。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、ビスフェノールフルオレン骨格を有するエポキシアクリレートをテトラカルボン酸二無水物と反応させることによりオリゴマーとした後に、ジカルボン酸無水物で末端水酸基を封鎖する、2段階反応を用いることにより、前記欠点がなく、分子量の制御が容易なカルボキシル基を有する新規な光重合性不飽和化合物が得られること、そして、この光重合性不飽和化合物と、エポキシ基を有する化合物と、光重合開始剤及び/又は光増感剤を含む組成物が、感放射線性樹脂組成物として、その目的に適合し得ることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、(1) 一般式[1]
【化11】

(式中のXは、式
【化12】

で表される基、Yはジカルボン酸無水物の酸無水物基を除いた残基、Zはテトラカルボン酸二無水物の酸無水物基を除いた残基、nは1?20の整数である)で表されることを特徴とする光重合性不飽和化合物、(2)式[2]
【化13】

で表されるエポキシ化合物にアクリル酸を反応させて、式[3]
【化14】

で表されるアクリル酸エステル誘導体を得たのち、これに一般式[4]
【化15】

(式中のZは前記と同じ意味をもつ)で表されるテトラカルボン酸二無水物を反応させ、次いで一般式[5]
【化16】

(式中のYは前記と同じ意味をもつ)で表されるジカルボン酸無水物を反応させることを特徴とする、一般式[1]
【化17】

(式中のX、Y、Z及びnは前記と同じ意味をもつ)で表される光重合性不飽和化合物の製造方法、(3)(A)第1項記載の光重合性不飽和化合物と、(B)エポキシ基を有する化合物と、(C)光重合開始剤及び/又は光増感剤を含むことを特徴とするアルカリ可溶型感放射線性樹脂組成物、及び(4)さらに、(D)光重合性モノマー及びオリゴマーの中から選ばれる少なくとも1種を、(A)成分100重量部当たり、50重量部以下の割合で含む第3項記載のアルカリ可溶型感放射線性樹脂組成物、を提供するものである。」

イ 「【0006】テトラカルボン酸二無水物とアクリル酸エステル誘導体との反応において、反応温度が130℃を超えるとアクリル酸エステル誘導体の重合が一部起こり、分子量が急激に増大する原因となり、また100℃未満では反応がスムーズに進行せず、未反応のテトラカルボン酸二無水物が残存するおそれがある。一方、ジカルボン酸無水物とアクリル酸エステル誘導体との反応において、反応温度が110℃を超えるとカルボキシル基と水酸基との縮合が起こり、分子量が増大する原因となり、また、80℃未満では反応がスムーズに進行せず、未反応のジカルボン酸無水物が残存するおそれがある。この反応においては、アクリル酸エステル誘導体の水酸基100モル部に対し、テトラカルボン酸二無水物とジカルボン酸無水物における酸無水物基の合計量が、通常60?100モル部、好ましくは75モル部以上100モル部未満の割合になるように反応させるのが有利である。ここで、酸無水物基とは-co-o-co-基であり、テトラカルボン酸二無水物の50モル部が、ジカルボン酸無水物の100モル部に相当すると定義される。酸無水物基の合計量が60モル部未満では分子量を十分に増加させて高感度に必要な重合性二重結合基を十分に導入することができにくいし、100モル部を超えて使用しても同様に分子量増加が得られないばかりか、未反応のテトラカルボン酸二無水物やジカルボン酸無水物が残存し、現像性の劣化を招く原因となる。また、ジカルボン酸無水物とテトラカルボン酸二無水物との割合は、モル比で、通常1:99?90:10、好ましくは5:95?80:20の範囲で選定される。ジカルボン酸無水物の割合が、全酸無水物の1モル%未満では樹脂粘度が高くなり作業性が悪くなるだけではなく、分子量が大きくなりすぎるために、未露光部が現像液に対して溶解せず、目的のパターンが得られない。また、ジカルボン酸無水物の割合が、全酸無水物の90モル%を超えると分子量が小さいため、プリベーク後の塗膜にスティッキングが残る問題が生じる。前記一般式[4]で表されるテトラカルボン酸二無水物としては、例えば無水ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ビフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物等の芳香族多価カルボン酸無水物が挙げられる。また、前記一般式[5]で表されるジカルボン酸無水物としては、例えば無水マレイン酸、無水コハク酸、無水イタコン酸、無水フタル酸、無水テトラヒドロフタル酸、無水ヘキサヒドロフタル酸、無水メチルエンドメチレンテトラヒドロフタル酸、無水クロレンド酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、無水グルタル酸などが挙げられる。」

ウ 「【0009】本発明の感放射線性樹脂組成物には、本発明の目的が損なわれない範囲で、必要に応じて、例えばエポキシ基硬化促進剤、熱重合禁止剤、酸化防止剤、密着助剤、界面活性剤、消泡剤等の添加剤を配合させることができる。エポキシ基硬化促進剤としては、アミン化合物類、イミダゾール化合物、カルボン酸類、フェノール類、第4級アンモニウム塩類又はメチロール基含有化合物類等が挙げられ、それらを少量併用して塗膜を加熱することにより、得られるレジスト被膜の耐熱性、耐溶剤性、耐酸性、耐メッキ性、密着性、電気特性及び硬度等の諸特性を向上せしめることができる。また、熱重合禁止剤としては、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、ピロガロール、tert-ブチルカテコール、フェノチアジン等が挙げられる。また、密着助剤を添加することにより、得られる組成物の接着性が向上する。該密着助剤としては、好ましくは、カルボキシル基、メタクリロイル基、イソシアネート基、エポキシ基などの反応性置換基を有するシラン化合物(官能性シランカップリング剤)が挙げられる。該官能性シランカップリング剤の具体例としては、トリメトキシシリル安息香酸、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなどが挙げられる。さらに、消泡剤としては、例えば、シリコーン系、フッ素系、アクリル系などの化合物が挙げられる。また、界面活性剤を添加することにより、得られる組成物が塗布しやすくなり、得られる膜の平担度も向上する。該界面活性剤としては、例えばBM-1000[BMヘミー社製]、メガファックスF142D、同F172、同F173および同F183[大日本インキ化学工業(株)製]、フロラードFC-135、同FC-170C、フロラードFC-430および同FC-431[住友スリーエム(株)製]、サーフロンS-112、同S-113、同S-131、同S-141および同S-145[旭硝子(株)製]、SH-28PA、SH-190、SH-193、SZ-6032、SF-8428、DC-57およびDC-190[東レシリコーン(株)製]などのフッ素系界面活性剤が挙げられる。」

エ 「【0014】
【実施例】次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
実施例1
500mL四つ口フラスコ中に、ビスフェノールフルオレン型エポキシ樹脂235g(エポキシ当量235)とテトラメチルアンモニウムクロライド110mg、2,6-ジ-tertブチル-4-メチルフェノール100mg及びアクリル酸72.0gを仕込み、これに25mL/分の速度で空気を吹き込みながら90?100℃で加熱溶解した。次に、溶液が白濁した状態のまま徐々に昇温し、120℃に加熱して完全溶解させた。ここで溶液は次第に透明粘稠になったがそのまま撹拌を継続した。この間、酸価を測定し、1.0mgKOH/g未満になるまで加熱撹拌を続けた。酸価が目標に達するまで12時間を要した。そして室温まで冷却し、無色透明で固体状の式[3]で表されるビスフェノールフルオレン型エポキシアクリレートを得た。次いで、このようにして得られた上記のビスフェノールフルオレン型エポキシアクリレート307.0gにプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート600gを加えて溶解した後、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物80.5g及び臭化テトラエチルアンモニウム1gを混合し、徐々に昇温して110?115℃で4時間反応させた。酸無水物基の消失を確認した後、1,2,3,6-テトラヒドロ無水フタル酸38.0gを混合し、90℃で6時間反応させ、一般式[1]の化合物1(式中のY/Zモル比=50.0/50.0)を得た。酸無水物の消失はIRスペクトルにより確認した。
実施例2
実施例1で製造したビスフェノールフルオレン型エポキシアクリレート307.0gを用い、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート600gを加えて溶液とした後、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物104.7g及び臭化テトラエチルアンモニウム1gを混合し、徐々に昇温して110?115℃で4時間反応させた。酸無水物基の消失を確認した後、1,2,3,6-テトラヒドロ無水フタル酸15.2gを混合し、90℃で6時間反応させ、一般式[1]の化合物2(式中のY/Zモル比=23.5/76.5)を得た。酸無水物の消失は上記実施例1と同様にIRスペクトルにより確認した。
【0015】実施例3
実施例1で製造したビスフェノールフルオレン型エポキシアクリレート307.0gを用い、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート600gを加えて溶液とした後、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物48.3g及び臭化テトラエチルアンモニウム1gを混合し、徐々に昇温して110?115℃で4時間反応させた。酸無水物基の消失を確認した後、1,2,3,6-テトラヒドロ無水フタル酸68.4gを混合し、90℃で6時間反応させ、一般式[1]の化合物3(式中のY/Zモル比=67.0/33.0)を得た。酸無水物の消失はIRスペクトルにより確認した。
実施例4
実施例1で製造したビスフェノールフルオレン型エポキシアクリレート307.0gを用い、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート600gを加えて溶液とした後、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物96.6g及び臭化テトラエチルアンモニウム1gを混合し、徐々に昇温して110?115℃で4時間反応させた。酸無水物基の消失を確認した後、1,2,3,6-テトラヒドロ無水フタル酸45.6gを混合し、90℃で6時間反応させ、一般式[1]の化合物4(式中のY/Zモル比=50.0/50.0)を得た。酸無水物の反応はIRスペクトルにより確認した。」

オ 「【0018】(注)
1)当量比:ビスフェノールフルオレン型エポキシアクリレート/ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物/1,2,3,6-テトラヒドロ無水フタル酸
2)樹脂酸価:試料1gを100ミリリットル三角フラスコに精評し、アセトン30ミリリットルを加えて溶解させたのち、指示薬としてブロモチモールブルー液を用い、0.1モル/リットルNaOH水溶液にて滴定する。
3)数平均分子量:ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法により測定した換算の値である。
4)溶液粘度:第1表の結果から明らかのように、化合物7以外は、樹脂酸価の理論値と実測値がほぼ同じ値を示していることから、反応中に縮合反応が起っておらず、一般式[1]で示されるような構造の化合物が得られていると考えられる。一方、化合物7の合成においては、その物性値(酸価の低下、粘度の上昇)が示すように、酸無水物/酸二無水物の配合比率を同じにしても、縮合反応による分子量増大が起こり、溶液粘度が大きくなってしまう。この傾向は反応時間が伸びるにしたがって大きくなることが確認されている。これに対し、本発明においては、経時で分子量が増大することは確認されず、工業化に際しても安定的な製造方法であることが証明された。
実施例5?10及び比較例4、5
実施例1?4及び比較例1、2で得られた光重合性不飽和化合物(化合物1?6)を用い、第2表に示す配合組成のレジスト溶液を調製した。
【0019】
【表2】

【0020】
【表3】



(4)引用文献3の記載事項
当審拒絶理由に周知技術を示す文献として引用され、本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である特開2008-156613号公報(以下、「引用文献3」という。)には、以下の記載事項がある。

ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線又は電子線を照射することにより硬化して、アルカリ現像処理によるパターン形成が可能なアルカリ可溶性樹脂及びその製造方法、並びにこのアルカリ可溶性樹脂を用いた感光性樹脂組成物に関し、詳しくは、カラーフィルター用のレジストを得るのに好適な感光性樹脂組成物であり、また、この感光性樹脂組成物を形成するのに好適なアルカリ可溶性樹脂に関する。

(中略)

【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明者らは、上述したような、従来の感光性樹脂組成物における課題を解決するために鋭意検討した結果、重合性不飽和基を含有するジオール化合物とテトラカルボン酸又はその酸二無水物とを反応させて得られるカルボキシル基含有共重合体に、重合性不飽和結合基を含有するエポキシ化合物を反応させ、更にジカルボン酸又はその酸一無水物を反応させることにより、感光性樹脂組成物の形成に好適なアルカリ可溶性樹脂が得られることを見出した。そして、このアルカリ可溶性樹脂を用いることで、アルカリ現像液に対する溶解性を制御しつつ架橋密度を向上させ、硬化部と未硬化部のアルカリ現像液に対する溶解度差が大きくなり、細線パターンが綺麗に形成できると共に、高感度で現像密着マージンの広い感光性樹脂組成物を得ることに成功した。
【0008】
従って、本発明の目的は、微細パターンの形成に優れており、高遮光又は高精彩カラーフィルター用材料として好適な感光性樹脂組成物、及びこの感光性樹脂組成物を形成するアルカリ可溶性樹脂を提供することにある。
【0009】
また、本発明の別の目的は、上記の高感度感光性樹脂組成物を用いて形成した塗膜(硬化物)及びカラーフィルターを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、本発明は、下記一般式(1)で表され、分子内にカルボン酸残基及び重合性不飽和基を有することを特徴とするアルカリ可溶性樹脂である。
【化1】

(但し、R_(1)、R_(2)、R_(3)、及びR_(4)は、独立に水素原子、炭素数1?5のアルキル基、ハロゲン原子又はフェニル基を示し、R_(5)は水素原子又はメチル基を示す。また、Xは-CO-、-SO_(2)-、-C(CF_(3))_(2)-、-Si(CH_(3))_(2)-、-CH_(2)-、-C(CH_(3))_(2)-、-O-、9,9-フルオレニレン基又は直結合を示し、Yは4価のカルボン酸残基を示す。Gは下記一般式(2)で表される重合性二重結合とカルボキシル基を有する置換基を示す。Zは下記一般式(3)で表される置換基を示し、nは1?20の数を表す。)
【化2】

(但し、R_(8)は炭素数3?6の脂肪族炭化水素基、R_(6)は2価のアルキレン基、R_(7)は水素原子またはメチル基を示し、Zは下記一般式(3)と同じであり、qは0または1の数を表す。)
【化3】

(但し、Lは2または3価のカルボン酸残基を示し、pは1または2である)
【0011】
また、本発明は、(i)上記のアルカリ可溶性樹脂、(ii)少なくとも1個以上のエチレン性不飽和結合を有する光重合性モノマー、及び(iii)光重合開始剤を必須の成分として含有する感光性樹脂組成物である。」

イ 「【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の感光性樹脂組成物は、一般式(1)で表されるアルカリ可溶性樹脂を主成分として含有するアルカリ現像型感光性樹脂組成物としての性質を有する樹脂組成物である。一般式(1)で表されるアルカリ可溶性樹脂は、(メタ)アクリル酸を有するジオール化合物に由来する光重合性不飽和基を有するためにラジカル重合性を有する他、ジカルボン酸又はその酸一無水物及びテトラカルボン酸又はその酸二無水物に由来する酸性基を含有するためアルカリ可溶性を有する。
【0015】
一般式(1)のアルカリ可溶性樹脂は、ビスフェノール類から誘導される2個のグリシジルエーテル基を有するエポキシ化合物に(メタ)アクリル酸を反応させ、得られた重合性不飽和基を有するジオール化合物(A)にテトラカルボン酸類又はその酸二無水物(B)を反応させ、得られた反応物に更に重合性二重結合を含有するオキシラン化合物(C)を反応させ、更にジカルボン酸又はその酸一無水物(D)を反応させて得られたカルボキシル基含有交互共重合体である。一般式(1)のアルカリ可溶性樹脂は、重合性不飽和二重結合とカルボキシル基とを併せ持つため、アルカリ現像型感光性樹脂組成物に優れた光硬化性、良現像性、パターニング特性を与えて保護膜、遮光膜、赤、緑、青の各画素の物性向上をもたらす。

(中略)

【0031】
また、本発明の感光性樹脂組成物は、上記一般式(1)のアルカリ可溶性樹脂を樹脂成分の主成分として含有する。ここで、樹脂成分とは、重合又は硬化させることにより樹脂となる成分をいい、樹脂の他、オリゴマー、モノマーを含む。また、主成分として含有するとは、一般式(1)のアルカリ可溶性樹脂が樹脂成分中に30wt%以上、好ましくは50wt%以上、より好ましくは60wt%以上含まれることをいう。本発明の感光性樹脂組成物は、一般式(1)で表されるアルカリ可溶性樹脂を必須成分として含めばよく、一般式(1)の樹脂以外の成分は樹脂成分であってもよく、溶剤や充填材や着色剤等の非樹脂成分であってもよい。
【0032】
感光性樹脂組成物としての特徴を生かすためには、下記(i)乃至(iii)成分を必須の成分として含有するのが好ましい。すなわち、(i)前記一般式(1)で表されるアルカリ可溶性樹脂、(ii)少なくとも1個以上のエチレン性不飽和結合を有する光重合性モノマー、及び(iii)光重合開始剤を必須の成分として含む。
【0033】
このうち、(ii)成分である少なくとも1個以上のエチレン性不飽和結合を有する光重合性モノマーとしては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート等の水酸基を有するモノマーや、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、グリセロール(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル類を挙げることができる。これらの化合物は、その1種又は2種以上を使用することができる。
【0034】
これら(ii)成分と(i)一般式(1)で表されるアルカリ可溶性樹脂との配合割合[(i)/(ii)]については、20/80?90/10であるのがよく、好ましくは40/60?80/20であるのがよい。アルカリ可溶性樹脂の配合割合が少ないと、光硬化後の硬化物が脆くなり、また、未露光部において塗膜の酸価が低いためにアルカリ現像液に対する溶解性が低下し、パターンエッジががたつきシャープにならないといった問題が生じる。反対に、アルカリ可溶性樹脂の配合割合が上記範囲より多くなると、樹脂に占める光反応性官能基の割合が少なく架橋構造の形成が十分でなく、また、樹脂成分における酸価度が高過ぎて、露光部におけるアルカリ現像液に対する溶解性が高くなることから、形成されたパターンが目標とする線幅より細くなったり、パターンの欠落が生じや易くなるといった問題が生じるおそれがある。」

ウ 「【0039】
また、本発明の感光性樹脂組成物には、必要に応じて硬化促進剤、熱重合禁止剤、可塑剤、充填材、溶剤、レベリング剤、消泡剤等の添加剤を配合することができる。このうち、熱重合禁止剤としては、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、ピロガロール、tert-ブチルカテコール、フェノチアジン等を挙げることができる。可塑剤としては、ジブチルフタレート、ジオクチルフタレート、トリクレジル等を挙げることができる。充填材としては、グラスファイバー、シリカ、マイカ、アルミナ等を挙げることができる。また、消泡剤やレベリング剤としては、例えば、シリコン系、フッ素系、アクリル系の化合物を挙げることができる。」

(5)引用文献4の記載事項
当審拒絶理由に周知技術を示す文献として引用され、本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である特開2010-229173号公報(以下、「引用文献4」という。)には、以下の記載事項がある。

ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線又は電子線を照射することにより硬化して、アルカリ現像処理によるパターン形成が可能なアルカリ可溶性樹脂及びその製造方法、並びにこのアルカリ可溶性樹脂を用いた感光性樹脂組成物に関し、詳しくは、カラーフィルター用のレジストを得るのに好適な感光性樹脂組成物である。

(中略)

【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明者らは、上述したような、従来の感光性樹脂組成物における課題を解決するために鋭意検討した結果、特定の重合性不飽和基を含有するジオール化合物と、テトラカルボン酸またはその酸二無水物およびジカルボン酸、トリカルボン酸又はそれらの酸一無水物とを反応させて得られる樹脂が、感光性樹脂組成物の形成に好適であることを見出した。そして、このアルカリ可溶性樹脂を用いることで、アルカリ現像液に対する溶解性を制御しつつ光硬化を促進させ、硬化部と未硬化部のアルカリ現像液に対する溶解度差が大きくなり、細線パターンが綺麗に形成できると共に、高感度で現像密着マージンの広い感光性樹脂組成物を得ることに成功した。
【0009】
従って、本発明の目的は、微細パターンの形成に優れるカラーフィルター用材料として好適な感光性樹脂組成物、及びこの感光性樹脂組成物を形成するアルカリ可溶性樹脂を提供することにある。
【0010】
また、本発明の別の目的は、上記の高感度感光性樹脂組成物を用いて形成した塗膜(硬化物)及びカラーフィルターを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、本発明は、下記一般式(1)で表され、分子内にカルボキシル基及び重合性不飽和基を有することを特徴とするアルカリ可溶性樹脂である。
【化1】

(但し、Wは下記一般式(2)で表されるビスフェノール類誘導体を示し、Yは4価のカルボン酸残基を示す。Gは下記一般式(3)または(4)で表される置換基を示し、Zは水素原子または一般式(5)で表される置換基である。nは1?20の数を表す。)
【化2】

(但し、R_(1)、R_(2)、R_(3)、及びR_(4)は、独立に水素原子、炭素数1?6のアルキル基、ハロゲン原子又はフェニル基を示す。Xは-CO-、-SO_(2)-、-C(CF_(3))_(2)-、-Si(CH_(3))_(2)-、-CH_(2)-、-C(CH_(3))_(2)-、-S-、-O-、9,9-フルオレンジイル基又は直結合を示し、mは0?10の数を表す。)
【化3】

(但し、R_(8)は炭素数2?20の脂肪族または芳香族炭化水素基、R_(6)は炭素数2?22の2価のアルキレンまたはアルキルアリーレン基、R_(7)は水素原子またはメチル基を示し、pは0?60の数を表す。)
【化4】

(但し、Lは2又は3価のカルボン酸残基、qは1又は2である。)」

イ 「【0015】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の感光性樹脂組成物は、一般式(1)で表されるアルカリ可溶性樹脂を主成分として含有する樹脂組成物である。一般式(1)で表されるアルカリ可溶性樹脂は、式(3)および(4)で表される(メタ)アクリル酸由来の重合性不飽和基を有するためにラジカル重合性を有する他、ジカルボン酸、トリカルボン酸又はそれらの酸一無水物及びテトラカルボン酸又はその酸二無水物に由来するカルボン酸残基を含有するためアルカリ可溶性を有する。
【0016】
一般式(1)のアルカリ可溶性樹脂は、以下で詳述するように、一般式(6)で表される重合性不飽和基を有するジオール化合物(A)に、テトラカルボン酸又はその酸二無水物(a)およびジカルボン酸、トリカルボン酸又はそれらの酸一無水物(b)を反応させることで、カルボキシル基含有交互共重合体として製造されることが有利である。一般式(1)のアルカリ可溶性樹脂は、重合性不飽和基とカルボン酸残基とを併せ持つため、アルカリ現像型感光性樹脂組成物に優れた光硬化性、良現像性、パターニング特性を与えて保護膜、遮光膜、赤、緑、青の各画素の物性向上をもたらす。

(中略)

【0034】
また、本発明の感光性樹脂組成物は、上記一般式(1)のアルカリ可溶性樹脂を樹脂成分の必須成分として含有する。ここで、樹脂成分とは、重合又は硬化させることにより樹脂となる成分をいい、樹脂の他、オリゴマー、モノマーを含む。また、必須成分として含有するとは、一般式(1)のアルカリ可溶性樹脂が樹脂成分中に20重量%以上、好ましくは30重量%以上、より好ましくは50重量%以上含まれることをいう。本発明の感光性樹脂組成物は、一般式(1)で表されるアルカリ可溶性樹脂を必須成分として含めばよく、一般式(1)の樹脂以外の成分は樹脂成分であってもよく、溶剤や充填材や着色剤等の非樹脂成分であってもよい。
【0035】
感光性樹脂組成物としての特徴を生かすためには、下記(i)乃至(iii)成分を必須の成分として含有するのが好ましい。すなわち、(i)前記一般式(1)で表されるアルカリ可溶性樹脂、(ii)カルボン酸残基を持たずに、少なくとも1個以上の重合性不飽和結合を有する光重合性モノマー、及び(iii)光重合開始剤を必須の成分として含む。
【0036】
このうち、(ii)成分である少なくとも1個以上の重合性不飽和結合を有する光重合性モノマーとしては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート等の水酸基を有するモノマーや、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、グリセロール(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル類を挙げることができる。これらの化合物は、その1種又は2種以上を使用することができる。また、これらの化合物は、いずれも数平均分子量が1000以下であるのが好ましい。
【0037】
これら(ii)成分と(i)一般式(1)で表されるアルカリ可溶性樹脂との配合割合[(i)/(ii)]については、20/80?95/5であるのがよく、好ましくは40/60?90/10であるのがよい。アルカリ可溶性樹脂の配合割合が少ないと、光硬化後の硬化物が脆くなり、また、未露光部において塗膜の酸価が低いためにアルカリ現像液に対する溶解性が低下し、パターンエッジががたつきシャープにならないといった問題が生じる。反対に、アルカリ可溶性樹脂の配合割合が上記範囲より多くなると、樹脂に占める光反応性官能基の割合が少なく架橋構造の形成が十分でなく、また、樹脂成分における酸価度が高過ぎて、露光部におけるアルカリ現像液に対する溶解性が高くなることから、形成されたパターンが目標とする線幅より細くなったり、パターンの欠落が生じや易くなるといった問題が生じるおそれがある。」

ウ 「【0042】
また、本発明の感光性樹脂組成物には、必要に応じて硬化促進剤、熱重合禁止剤、可塑剤、充填材、溶剤、レベリング剤、消泡剤等の添加剤を配合することができる。このうち、熱重合禁止剤としては、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、ピロガロール、tert-ブチルカテコール、フェノチアジン等を挙げることができる。可塑剤としては、ジブチルフタレート、ジオクチルフタレート、トリクレジル等を挙げることができる。充填材としては、グラスファイバー、シリカ、マイカ、アルミナ等を挙げることができる。また、消泡剤やレベリング剤としては、例えば、シリコン系、フッ素系、アクリル系の化合物を挙げることができる。」


5 対比
本件発明と引用発明とを対比する。

ア 引用発明の「保護膜用感光性熱硬化性組成物」は、「感光性」であって、「アルカリ可溶性樹脂」を含むものである。そうすると、引用発明の「保護膜用感光性熱硬化性組成物」は、本件発明の「感光性樹脂組成物」に相当する。加えて、引用発明の「保護膜用感光性熱硬化性組成物」は、保護膜の細線画像の形成に用いられており、また、保護膜が、保護される部材の表面に設けられることは自明である。したがって、引用発明の「保護膜用感光性熱硬化性組成物」は、本件発明の「表面保護材料として使用され」るとする要件を満たしている。さらに、引用発明の「保護膜用感光性熱硬化性組成物」は、「PGMA分散シリカゾル溶液「日産化学社製 PMA-ST」」を含むものであって、引用文献1の記載事項ウの段落【0036】には、日産化学社製「PMA-ST」について、「プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート分散オルガノシリカゲル」と記載されている。当該記載に基づけば、PGMA分散シリカゾル溶液「日産化学社製 PMA-ST」が、シリカ粒子を含有することは明らかである。したがって、引用発明の「保護膜用感光性熱硬化性組成物」は、本件発明の「シリカ粒子を含有する」とする要件を満たしている。

イ 引用発明の「保護膜用感光性熱硬化性組成物」において、「[1-5]アルカリ可溶性樹脂」として配合される「P-3:ビスフェノールとエピクロヒドリンとの付加重合エポキシ樹脂にアクリル酸と酸無水物を付加させて得られる、【化8】で示されるアルカリ可溶性樹脂」は、その化学構造からみて、1分子内にカルボキシル基及び重合性二重結合を有している。したがって、引用発明の「[1-5]アルカリ可溶性樹脂として、P-3:ビスフェノールとエピクロヒドリンとの付加重合エポキシ樹脂にアクリル酸と酸無水物を付加させて得られる、【化8】で示されるアルカリ可溶性樹脂」と、本件発明の「(i)一般式(1)で表される1分子内にカルボキシル基及び重合性二重結合を有するアルカリ可溶性樹脂」とは、「(i)1分子内にカルボキシル基及び重合性二重結合を有するアルカリ可溶性樹脂」である点で共通する。

ウ 引用発明の「保護膜用感光性熱硬化性組成物」において、「[1-1]熱架橋剤(必須成分)、及び[1-3]光重合性モノマーとして機能する化合物」として配合される「M-1:ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート」は、その化学構造からみて、本件発明の「(ii)少なくとも1個の重合性二重結合を有する重合性化合物」に相当する。

エ 引用文献1の記載事項ウの段落【0036】の記載に基づけば、「日産化学社製 PMA-ST」は、「プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート分散オルガノシリカゲル」であるから、「日産化学社製 PMA-ST」は、シリカゲル粒子の表面に存在するシラノール基に、炭化水素基が導入されたものである。そうすると、引用発明において「[1-6]その他成分」として配合される「SS-1:粒径約20nm、固形分濃度30重量%のPGMA分散シリカゾル溶液「日産化学社製 PMA-ST」」に含まれる「PGMA分散シリカゾル」は、技術的にみて、粒子径約20nmのシリカゾルを、本件発明の「(iii)一般式(3)で表される表面処理剤」で処理されたものであるといえる。また、その表面処理度は、「PMA-ST」という型番からみて、0.5?4質量%の範囲内である蓋然性が高い。このことは、本件出願の明細書の段落【0061】における「(iii)-1成分:溶剤分散シリカゾル(日産化学社製PMA-ST、分散媒:PGMEA、・・・熱重量損失から算出された表面処理度=1.6%)」との記載からも裏付けられる。
したがって、引用発明において「[1-6]その他成分」として配合される「SS-1:粒径約20nm、固形分濃度30重量%のPGMA分散シリカゾル溶液「日産化学社製 PMA-ST」」に含まれる「PGMA分散シリカゾル」は、本件発明の「(iii)一般式(3)で表される表面処理剤で処理され、表面処理度が0.5?4質量%の範囲内である平均粒子径が10?300nmのシリカゾル」に相当する。

オ 引用発明の「保護膜用感光性熱硬化性組成物」において「[1-4]光重合開始剤(必須成分)」として配合される「S-1:チバスペシャルケミカルズ(株)社製「イルガキュアー907」」は、技術的にみて、本件発明の「(iv)光重合開始剤」に相当する。

カ 引用発明の「保護膜用感光性熱硬化性組成物」において「[1-6]その他成分」として配合される「SH-1:シランカップリング剤に該当するγ-グシリドキシプロピルトリメトキシシラン」は、技術的にみて、本件発明の「(v)シランカップリング剤」に相当する。

キ 引用発明の「保護膜用感光性熱硬化性組成物」の固形分中におけるP-3:アルカリ可溶性樹脂の含有量は、約29質量%である。したがって、引用発明の「保護膜用感光性熱硬化性組成物」は、本件発明の「固形分中における」「含有量」が「(i)アルカリ可溶性樹脂が20?50質量%」であるとする要件を満たしている。

(合議体注:計算は以下のとおりである。
引用発明における固形分含有量:45重量部(M-1)+45重量部(P-3)+5重量部(S-1)+5重量部(SH-1)+0.1重量部(F-1)+55重量部(SS-1)=155.1重量部

固形分中におけるP-3の含有量:45質量部/155.1質量部×100=約29.0質量% )

ク 引用発明の「保護膜用感光性熱硬化性組成物」の固形分中におけるSS-1:PGMA分散シリカゾルの含有量は、約35.5質量%である。したがって、引用発明の「保護膜用感光性熱硬化性組成物」は、本件発明の「固形分中における」「含有量」が「(iii)シリカゾルが15?70質量%」であるとする要件を満たしている。

(合議体注:計算は以下のとおりである。
固形分中におけるSS-1の含有量:55重量部/155.1質量部×100=約35.5質量% )

ケ 引用発明の「保護膜用感光性熱硬化性組成物」の固形分中におけるSH-1:シランカップリング剤の含有量は、約3.2質量%である。したがって、引用発明の「保護膜用感光性熱硬化性組成物」は、本件発明の「固形分中における」「含有量」が「(v)シランカップリング剤が0.1?20質量%」であるとする要件を満たしている。

(合議体注:計算は以下のとおりである。
固形分中におけるSH-1の含有量:5質量部/155.1質量部×100=約3.2質量% )

コ 引用発明の「保護膜用感光性熱硬化性組成物」におけるP-3:アルカリ可溶性樹脂とM-1:光重合性モノマーとの質量比は、(P-3)/(M-1)=45/45である。したがって、引用発明の「保護膜用感光性熱硬化性組成物」は、本件発明の「(ii)重合性化合物が(i)/(ii)(質量比)=40/60?90/10」であるとする要件を満たしている。

サ 以上より、本件発明と引用発明とは、
「 表面保護材料として使用されシリカ粒子を含有する感光性樹脂組成物であって、
(i)1分子内にカルボキシル基及び重合性二重結合を有するアルカリ可溶性樹脂、(ii)少なくとも1個の重合性二重結合を有する重合性化合物、(iii)シリカ粒子として一般式(3)で表される表面処理剤で処理され、表面処理度が0.5?4質量%の範囲内である平均粒子径が10?300nmのシリカゾル、(iv)光重合開始剤、(v)シランカップリング剤を含有すること、固形分中における含有量は、(i)アルカリ可溶性樹脂が20?50質量%、(iii)シリカゾルが15?70質量%、(v)シランカップリング剤が0.1?20質量%であり、かつ、(ii)重合性化合物が(i)/(ii)(質量比)=40/60?90/10である表面保護材料用感光性樹脂組成物。
【化3】

(但し、R_(6)は分子内にヘテロ原子を含んでもよい炭素数1?10の炭化水素基を示し、R_(7)はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1?4のアルキル基を示し、R_(8)はそれぞれ独立に炭素数1?4のアルキル基を示し、qは1?3である)」である点で一致し、以下の点で相違又は一応相違する。

[相違点1]本件発明は、(i)?(v)の成分を「必須の成分」として含有するのに対し、引用発明は、熱架橋剤、及び光重合開始剤以外を「必須の成分」としていない点。

[相違点2]「1分子内にカルボキシル基及び重合性二重結合を有するアルカリ可溶性樹脂」が、本件発明は、下記「一般式(1)で表される」アルカリ可溶性樹脂であるのに対し、引用発明は、下記【化8】で示されるアルカリ可溶性樹脂である点。
【化1】

(ただし、R_(1)、R_(2)、R_(3)、及びR_(4)は、独立に水素原子、炭素数1?5のアルキル基、ハロゲン原子又はフェニル基を示し、R_(5)は水素原子又はメチル基を示す。また、Xは9,9-フルオレニレン基を示し、Yは4価の芳香族カルボン酸残基を示す。Zは下記一般式(2)で表される置換基を示し、nは1?20の数を表す。)
【化2】

(但し、Lは2または3価のカルボン酸残基を示し、pは1または2である)
【化8】


[相違点3]本件発明は、「(vi)2つ以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂又はエポキシ化合物を必須の成分として含有する」とともに「(vi)エポキシ樹脂又はエポキシ化合物が(i)成分のアルカリ可溶性樹脂と(ii)成分の重合性化合物の総和に対して[(vi)/〔(i)+(ii)〕](質量比)=0.05?0.3の範囲である」のに対し、引用発明は、2つ以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂又はエポキシ化合物を含有しない点。

[相違点4]本件発明は、「(iv)光重合開始剤が[(iv)/〔(i)+(ii)〕](質量比)=0.01?0.05の範囲である」のに対し、引用発明は、S-1:光重合開始剤が、P-3:アルカリ可溶性樹脂と、M-1:光重合性モノマーとに対して、[(S-1)/〔(P-3)+(M-1)〕](質量比)=約0.056である点。
(合議体注:計算は以下のとおりである。
(S-1)/〔(P-3)+(M-1)〕=5/(45+45)=約0.056 )


6 判断
(1)[相違点1]について
感光性熱硬化性組成物において、どの成分を必須の成分とするかは、発明の捉え方の問題にすぎない。そうしてみると、「必須の成分」である点は、物の発明としての「保護膜用感光性熱硬化性組成物」の構成を左右するものではない。あるいは、本件発明は、本件明細書の段落【0013】に「また、本発明において好ましくは、(i)?(v)の成分に加えて、(vi)2つ以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂又はエポキシ化合物を含むのがよく」と記載されたものも「必須の成分」とするものである。そうしてみると、本件発明は、発明を特定するために必要と認めるものを「必須の成分」と称しているに過ぎない。
したがって、[相違点1]は、事実上の相違点ではない。

(2)[相違点2]について
ア 保護膜の形成に用いられる感放射線性組成物に用いられるアルカリ可溶性樹脂として、上記一般式(1)で表されるアルカリ可溶性樹脂を用いることは、以下(ア)?(ウ)のとおり、様々な引用文献に例示されており、周知技術であるといえる。

(ア)引用文献2の記載事項エには、実施例1?4として、一般式[1]の化合物1?4を得たことが記載されており、この化合物1?4は、いずれも本件発明の一般式(1)に包含される化学構造を有している。そして、記載事項オには、実施例1?4で得られた光重合性不飽和化合物を用い、レジスト溶液を調整したことが記載されており、さらに、記載事項アの段落【0001】には、カラーフィルターなどの保護膜の形成材料として好適なアルカリ可溶型感放射線性樹脂組成物に関するものとの記載がある。なお、記載事項アの段落【0004】の記載に基づけば、一般式[1]で表される化合物は、本件発明の上記一般式(1)におけるR_(1)、R_(2)、R_(3)、R_(4)及びR_(5)が水素原子であり、Xが9,9-フルオレニレン基であり、Yがテトラカルボン酸二無水物の酸無水物基を除いた残基(一般式[1]のZ)であり、Zが「-CO-Y-COOH」であって、この一般式[1]のYはジカルボン酸無水物の酸無水物基を除いた残基にあたる化合物である。そして、記載事項イには、テトラカルボン酸二無水物について、「前記一般式[4]で表されるテトラカルボン酸二無水物としては、例えば無水ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ビフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物等の芳香族多価カルボン酸無水物が挙げられる。」と、いずれも芳香族の多価カルボン酸が記載されている。そして、記載事項エの化合物1?4は、いずれも一般式[4]に該当する化合物として、芳香族多価カルボン酸である、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物を用いている。

(イ)引用文献3の記載事項アの段落【0010】にも、一般式(1)で表され、分子内にカルボン酸残基及び重合性不飽和基を有するアルカリ可溶性樹脂が記載されており、記載事項アの段落【0011】には、上記アルカリ可溶性樹脂を含有する感光性樹脂組成物とすること、記載事項イの段落【0015】には、一般式(1)のアルカリ可溶性樹脂は、重合性不飽和二重結合とカルボキシル基とを併せ持つため、アルカリ現像型感光性樹脂組成物に優れた光硬化性、良現像性、パターニング特性を与えて保護膜等の物性向上をもたらすことが記載されている。

(ウ)引用文献4の記載事項アの段落【0011】にも、一般式(1)で表され、分子内にカルボキシル基及び重合性不飽和基を有するアルカリ可溶性樹脂が記載されており、記載事項イの段落【0016】に、一般式(1)のアルカリ可溶性樹脂は、重合性不飽和基とカルボン酸残基とを併せ持つため、アルカリ現像型感光性樹脂組成物に優れた光硬化性、良現像性、パターニング特性を与えて保護膜等の物性向上をもたらすことが記載されている。

そして、引用発明と上記周知技術は、いずれも保護膜の形成に用いられる感放射線性組成物である点で共通する技術分野に属するものであり、アルカリ可溶性樹脂自体も、ビスフェノール骨格からなり、カルボキシル基と重合性不飽和基を有する点で共通するものである。また、引用文献1の記載事項カの段落【0103】に、「本実施の形態において、感光性熱硬化性組成物としての感度、解像性、及び基板に対する密着性等を改良する観点から、不飽和基及びカルボキシル基含有エポキシ樹脂としては、エポキシ樹脂としてフェノールノボラックエポキシ樹脂、ビスフェノールエポキシ樹脂、ヒドロキシフルオレンエポキシ(樹脂)、又はクレゾールノボラックエポキシ樹脂を用い、α,β-不飽和モノカルボン酸として(メタ)アクリル酸を用い、多価カルボン酸若しくはその無水物としてテトラヒドロフタル酸無水物を用いて得られるものが好ましい。」と記載されているように、引用発明は、基板に対する密着性を改善しようとする発明であるところ、上記周知技術も密着性に優れる硬化膜を得ようとするものであり、課題も共通している。したがって、引用発明のアルカリ可溶性樹脂の代わりに、上記周知のアルカリ可溶性樹脂を採用し、本件発明の上記[相違点2]に係る構成とすることは、単なる周知の樹脂への置き換えに過ぎず、当業者が容易に想到し得ることである。
また、引用文献2のアルカリ可溶性樹脂化合物1?4は、実施例6、8?10の実施例において20重量%の配合でレジスト溶液に含まれており、本件発明における本件発明の(ii)少なくとも1個の重合性二重結合を有する重合性化合物に該当するジペンタエリスリトールヘキサアクリレートを8.6重量%で含んでいる。さらに、引用文献3の記載事項イの段落【0031】には、「一般式(1)のアルカリ可溶性樹脂を樹脂成分の主成分として含有する。・・・また、主成分として含有するとは、一般式(1)のアルカリ可溶性樹脂が樹脂成分中に30wt%以上、・・・含まれることをいう。」と記載されており、段落【0034】に「これら(ii)成分と(i)一般式(1)で表されるアルカリ可溶性樹脂との配合割合[(i)/(ii)]については、20/80?90/10であるのがよく、好ましくは40/60?80/20であるのがよい。」と記載されている。また、引用文献4の記載事項イの段落【0034】にも、「一般式(1)のアルカリ可溶性樹脂を樹脂成分の必須成分として含有する。・・・また、必須成分として含有するとは、一般式(1)のアルカリ可溶性樹脂が樹脂成分中に20重量%以上、・・・含まれることをいう。」と記載されており、段落【0037】に「これら(ii)成分と(i)一般式(1)で表されるアルカリ可溶性樹脂との配合割合[(i)/(ii)]については、20/80?95/5であるのがよく、好ましくは40/60?90/10であるのがよい。」と記載されている。これらの記載に基づけば、一般式(1)で表される周知のアルカリ可溶性樹脂を採用した場合にも、本件発明における、「(i)アルカリ可溶性樹脂が20?50質量%」、「(ii)重合性化合物が(i)/(ii)(質量比)=40/60?90/10」とする要件を満たすものといえる。
さらに、アルカリ可溶性樹脂として、本件請求項1の一般式(1)で表されるアルカリ可溶性樹脂を用いたことにより格別な効果の差異が生じるということもできない。本件請求項1の一般式(1)で表されるアルカリ可溶性樹脂は、上記のとおり保護膜等の硬化物の作製に広く用いられており、耐熱性、透明性、密着性、耐薬品性などに優れる硬化膜を与えることが知られている。また、オルガノシリカゲルである引用発明の「日産化学社製 PMA-ST」が、このようなアルカリ可溶性樹脂との親和性に優れることも、予想される効果に過ぎない。

イ 請求人は、令和元年5月7日に提出した意見書において、「引用文献2は、そもそも感光性樹脂組成物においてシリカ粒子等の無機フィラーを含有することを教示しておらず、課題も全く異なることから、この引用文献2を、シリカ粒子を55重量部もの多量に配合している引用発明(引用文献1の実施例6)に適用することはできないものと思料します。」、「引用文献3は、そもそも感光性樹脂組成物においてシリカ粒子等の無機フィラーを含有することは任意であり、課題も全く異なることから、この引用文献2を、シリカ粒子を55重量部もの多量に配合している引用発明(引用文献1の実施例6)に適用することはできないものと思料します。」、「引用文献4においても、そもそも感光性樹脂組成物においてシリカ粒子等の無機フィラーを含有することは任意であり、課題も全く異なることから、この引用文献4を、シリカ粒子を55重量部もの多量に配合している引用発明(引用文献1の実施例6)に適用することはできないものと思料します。」及び「当該技術分野においてアルカリ可溶性樹脂の種類は非常に多いのですから、引用文献1において、ことさら引用文献2、3、4に開示されたアルカリ可溶性樹脂だけに着目することも困難であると思料します。」と主張している。
しかしながら、引用発明で用いられたアルカリ可溶性樹脂は、シリカゾルを含む組成物においても含まない組成物においても、問題なく使用されていたものである。そして、周知技術として挙げた一般式(1)で表されるアルカリ可溶性樹脂は、上記のとおり引用発明のアルカリ可溶性樹脂と、ビスフェノール骨格からなり、カルボキシル基と重合性不飽和基を有する点で化学構造が共通するものである。そうすると、上記周知技術として挙げたアルカリ可溶性樹脂も、シリカゾルとともに使用できることは、当業者にとって自明である。そして、周知技術を示す文献として挙げた引用文献2?4は、いずれもカラーフィルターの保護膜に用いるという共通の用途に用いられるものである。共通する用途に用いられているアルカリ可溶性樹脂の適用を試みることは、当業者が適宜なし得ることである。
したがって、出願人の主張は採用できない。

(3)[相違点3]について
まず、「必須の成分」の点については、[相違点1]の判断において述べたとおりである。
次に、引用文献1の記載事項イの段落【0013】には、「保護膜用感光性熱硬化性組成物」には、「[1-1]熱架橋剤」を配合することができると記載されており、段落【0012】には、「本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。」とも記載されている。そして、引用文献1の記載事項ウの段落【0015】には、熱架橋剤について、「分子内にエポキシ基を有する化合物」を含有することが記載されている。また、段落【0041】には、[1-1-2]分子内にエポキシ基を有する化合物として、「分子内にエポキシ基を有する化合物(「エポキシ化合物」と略記することがある。)としては、低分子量物から高分子量物にわたる化合物が挙げられる。具体的には、例えば、(i)モノヒドロキシ化合物あるいはポリヒドロキシ化合物とエピクロルヒドリンを反応させて得られる(ポリ)グリシジルエーテル化合物、(ii)(ポリ)カルボン酸化合物とエピクロルヒドリンを反応させて得られるポリグリシジルエステル化合物、(iii)(ポリ)アミン化合物とエピクロルヒドリンを反応させて得られる(ポリ)グリシジルアミン化合物、等が挙げられる。」と記載されている。さらに、引用文献1の記載事項ケの段落【0173】の【表1】及び段落【0180】には、「[1-1-2]分子内にエポキシ基を有する化合物に該当する。」とされる「R-1:グリシジルメタアクリレート/ジシクロペンタニル共重合体」を配合した実施例4も記載されている。
上記記載に基づけば、引用文献1には、保護膜用感光性熱硬化性組成物に2つ以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂又はエポキシ化合物を、熱架橋剤として含有させることが示唆されているといえる。
さらに、引用文献1の記載事項ウの段落【0048】には、「本実施の形態の感光性熱硬化性組成物中に占める、エポキシ化合物の含有量は、全透過の保護膜に用いる場合は、全固形分に対して、通常10重量%以上、好ましくは20重量%以上、更に好ましくは30重量%以上であり、通常98重量%以下、好ましくは95重量%以下である。エポキシ化合物の量が過度に少ないと、支持体への接着性、硬度の低下、熱重量変化、熱硬化膜の側面の接触角の増加を招きやすい。」及び「一方、カラーフィルタの赤、青、緑の画素上に光マスク露光、現像処理等の工程を経て、通常線幅30μm程度(20?50μm)の細線形状を形成させる半透過の保護膜及び薄膜トランジスタ用絶縁性保護膜に用いる場合には、全固形分に対して、通常0重量%以上であり、通常40重量%以下、好ましくは20重量%以下である。エポキシ化合物の量が過度に多いと、細線形状の再現性の低下をまねく場合がある。」との記載がある。
当該記載に基づけば、引用文献1には、エポキシ化合物の含有量を、支持体への接着性、硬化の程度、細線形状の再現性を考慮して調整することが示されているといえる。そして、引用発明に、カラーフィルターに用いる場合に好ましい上限値とされる上限値20重量%と下限値の0重量%の中央値にあたる、10重量%を加えたとすると、エポキシ化合物の重合性化合物の総和に対する重量比[(vi)/〔(i)+(ii)〕]は、約0.2となる。また、この場合のアルカリ可溶性樹脂の含有量も約26質量%である。
(合議体注:計算は以下のとおりである。
引用発明における固形分含有量155.1重量部に加えて10質量%となるエポキシ化合物の配合量:約17.2=155.1×10/90
エポキシ化合物の重合性化合物の総和に対する重量比[(vi)/〔(i)+(ii)〕]:約0.2=17.2/(45+45)
アルカリ可溶性樹脂の含有量:約26%=45/(155.1+約17.2)×100)

したがって、引用発明においても、保護膜用感光性熱硬化性組成物に2つ以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂又はエポキシ化合物を、熱架橋剤として含有させ、支持体への接着性、硬化の程度、線形形状の再現性が最適化されるように、その含有量を、P-3:アルカリ可溶性樹脂と、M-1:光重合性モノマーとの合計量に対して、質量比として0.05?0.3の範囲とすることは、引用文献1の示唆に従う当業者が容易になし得ることである。

(4)[相違点4]について
引用文献1の記載事項オの段落【0096】には、光重合開始剤の含有量について、「全固形分に対して、通常0.1重量%以上、好ましくは0.5重量%以上であり、通常40重量%以下、好ましくは30重量%以下、特に好ましくは10重量%以下である。光重合開始剤の量が過度に少ないと、感度の低下を招きやすい。一方、過度に多いと、地汚れ(現像溶解性)の低下を招きやすい。」と記載されている。当該記載に基づけば、光重合開始剤の含有量は、必要とする感度と現像溶解性に基づいて当業者が適宜最適化し得ることである。
したがって、引用発明におけるS-1:光重合開始剤の含有量を、感度を保ちつつ現像溶解性が良好となるように少なくし、[(S-1)/〔(P-3)+(M-1)〕](質量比)の値を0.01?0.05の範囲とすることは、当業者が適宜なし得ることである。また、そのような数値範囲としたことにより、格別な効果を生じるということもできない。

(5)効果について
ア 本件出願の段落【0015】に、【発明の効果】として、「本発明の感光性樹脂組成物は、特定の表面処理剤により処理したシリカゾルを含むため、従来、電子材料分野などで使用されていた樹脂組成物に比べて現像性を維持したまま透明性、耐光性、耐候性、耐熱性、平坦性、表面硬度、密着性、耐薬品性等に優れた硬化物を得ることができる。さらに本発明では、感光性樹脂組成物中の特定の表面処理剤により処理したシリカゾルの含有量を増やしても現像性は損なわれない。そのため、本発明の感光性樹脂組成物は、カラーフィルター関連材料をはじめ、半導体デバイス等の保護膜、封止材、絶縁材等を形成するのに極めて有用である。」と記載されている。当該記載に基づけば、本件発明は、現像性を維持したまま透明性、耐光性、耐候性、耐熱性、平坦性、表面硬度、密着性、耐薬品性等に優れた硬化物を得ることができ、シリカゾルの含有量を増やしても現像性は損なわれないという効果を奏するものといえる。
一方、引用発明は、本件出願における「特定の表面処理剤により処理したシリカゾル」にあたる、「PGMA分散シリカゾル溶液」を含むものであるから、本件発明と同様に、現像性を維持したまま透明性、耐光性、耐候性、耐熱性、平坦性、表面硬度、密着性、耐薬品性等に優れた硬化物を得ることができるといえる。また、引用文献1には、記載事項アの段落【0011】に、「本発明によれば、画像再現性の良好な保護膜を形成することのできる保護膜用感光性熱硬化性組成物が提供される。また、解像性とテーパ形状の良好な保護層を形成することのできる保護膜用感光性熱硬化性組成物が提供される。更に、基板及びシール剤との接着性が良好な保護層を形成することのできる保護膜用感光性熱硬化性組成物が提供される。また更に、平坦性の良好な保護層を形成することのできる保護膜用感光性熱硬化性組成物が提供される。」と記載されている。当該記載に基づけば、画像再現性の良好、つまり現像性が良好であって、耐光性等の保護膜としての機能を有し、平坦性、密着性に優れた硬化物を得ることができるといえる。

イ 請求人は、令和元年5月7日に提出した意見書において、「比較実験」を実施したことを示し、「アルカリ可溶性樹脂として、引用発明のアルカリ可溶性樹脂に相当するものを用いた場合、本願実施例1?8[表3]に比べて、塗膜硬度や発ガス性が劣る結果となります。」、と主張している。
請求人の主張について検討すると、請求人が「比較実験」において用いた「アルカリ可溶性樹脂」は、以下に示すとおりの化学構造を有するものであって、カルボン酸及びアクリロイル構造を有さないビスフェノールA骨格からなる繰り返し単位と、ビフェニルテトラカルボン酸に由来する繰り返し単位と、ビスフェノールA骨格とアクリロイル構造を有する繰り返し単位とを、ランダムに有するものであって、酸価が69mgKOH/g、Mwが9000とされるものである。

一方、引用発明の【化8】で示されるアルカリ可溶性樹脂は、カルボン酸とアクリロイル構造を有するビスフェノールA骨格からなる繰り返し単位からなる、酸価98、重量平均分子量6000化合物である(なお、本願の実施例1で用いられたアルカリ可溶性樹脂(i)-1は、カルボン酸とアクリロイル構造を有するビスフェノールAの2つのメチル基がフルオレンに置換された骨格構造とからなる繰り返し単位からなる、酸価103、Mw2600の化合物である。)。請求人が「比較実験」において用いた「アルカリ可溶性樹脂」は、本件発明におけるアルカリ可溶性樹脂や引用発明の【化8】で示されるアルカリ可溶性樹脂とは、化学構造が大きく異なるものであるから、「比較実験」の結果を参酌しても、本件発明の効果が格別なものであると考えることはできない。そして、前記(2)アに記載したとおり、本件請求項1の一般式(1)で表されるアルカリ可溶性樹脂は、上記のとおり保護膜等の硬化物の作製に広く用いられており、耐熱性、透明性、密着性、耐薬品性などに優れる硬化膜を与えることが既に知られている。したがって、本件発明の効果は、周知技術から予測できたものといえる。
また、請求人は、「本願明細書の段落[0061]、及び[表1]?[表4]から明らかなとおり、実施例1?8においては、(iii)シリカ粒子として、(iii)-1成分のシリカゾルを使用しており、このシリカゾルの表面処理度「1.6%」であって請求項1で規定した0.5?4質量%の範囲内である一方、本願比較例3?8においては、(iii)-2成分や(iii)-2成分のシリカゾルを使用しており、これらのシリカゾルの表面処理度はそれぞれ「5.4%」、「4.2%」であって請求項1で規定した0.5?4質量%の範囲から外れています。そのため、シリカ粒子(シリカゲル)を使用したとしても、実施例1?8のようにシリカ粒子の表面処理度が請求項1の規定範囲内である場合に比べて、比較例3?8のようにシリカ粒子の表面処理度が請求項1の規定範囲から外れる場合には、密着性、塗膜硬度、アルカリ現像性において著しく劣る結果となっています。引用文献1?4は、こうした本願発明の知見を教示していないと信じます。」と主張している。しかし、引用発明は、本願の実施例1?8において「(iii)-1成分」として用いられたものと同じ、「日産化学社製 PMA-ST」を配合していることから、同じ効果を奏するものといえる。
よって、請求人の主張は採用できない。


7 むすび
以上のとおりであるから、本件発明は、引用発明、引用文献1の記載事項及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その他の請求項に係る発明について言及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-05-30 
結審通知日 2019-06-04 
審決日 2019-06-17 
出願番号 特願2013-108890(P2013-108890)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G03F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 清水 裕勝川口 真隆  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 高松 大
宮澤 浩
発明の名称 シリカゾルを含んだ感光性樹脂組成物、及びこれを用いた硬化物  
代理人 原 克己  
代理人 久本 秀治  
代理人 成瀬 勝夫  
代理人 佐野 英一  
代理人 佐々木 一也  

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