ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A01K |
---|---|
管理番号 | 1353882 |
審判番号 | 不服2018-4448 |
総通号数 | 237 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2019-09-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2018-04-03 |
確定日 | 2019-08-01 |
事件の表示 | 特願2013- 83261「鮎釣用曳舟」拒絶査定不服審判事件〔平成26年10月30日出願公開、特開2014-204681〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成25年4月11日の出願であって、平成29年1月13日付けで拒絶理由が通知され、これに対して、同年3月21日に意見書及び手続補正書が提出され、さらに同年6月14日付けで拒絶理由が通知され、これに対して、同年8月18日に意見書及び手続補正書が提出され、その後、同年12月21日付けで拒絶査定がなされ、同査定の謄本は平成30年1月9日に請求人に送達された。これに対して、同年4月3日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に手続補正書が提出され、これに対して、平成31年2月8日付けで拒絶理由が通知され(発送日同年2月12日)、これに対して、同年4月12日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。 第2 本願発明 本願の請求項1ないし4に係る発明は、平成31年4月12日の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるものであって、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりのものである。 「【請求項1】 内部に収容室が区画され且つ上記収容室に連通する開口が上面に設けられた曳舟本体と、 上記開口の位置に設けられ、上記開口及び上記収容室に連通する鮎挿入口が形成された環状の蓋体と、 上記蓋体に設けられ、上記曳舟本体の前後方向を基準に左右対称に回動することによって上記鮎挿入口を開放する開放姿勢と上記鮎挿入口を閉鎖する閉鎖姿勢との間で観音開き式に姿勢変化する第1扉部材および第2扉部材を有する扉とを備え、 上記第1扉部材および上記第2扉部材が上記閉鎖姿勢であるときに上記扉の上面に前方から後端に向かって漸次上記収容室側へ傾斜する案内凹面が形成され、 上記蓋体の後端部は、上記案内凹面上に迫り出したひさしを形成し、 上記案内凹面は、 水平に延びる平坦面と、 当該平坦面に連続して漸次上記収容室側に向かって後端側へ傾斜すると共に上記第1扉部材と上記第2扉部材とが対向する対向面側へ傾斜し、上記蓋体の後端部と協働して鮎を保持しつつ上記収容室へ案内する凹部を区画する傾斜面とを有する鮎釣用曳舟。」 第3 当審拒絶理由の概要 当審が通知した拒絶理由の概要は、以下のとおりである。 (理由1) 本件出願の請求項1ないし4に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の引用文献1に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 引用文献1:特開2010-226990号公報 (理由2) 本件出願は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 第4 引用文献の記載及び引用発明 上記引用文献1(特開2010-226990号公報)には、以下の事項が記載されている(審決で下線を付した。)。 1 「【技術分野】 【0001】 本発明は、魚を入れるための釣り用魚入れ容器に関する。 【背景技術】 【0002】 従来から、おとり缶や引き舟などの釣り用魚入れ容器には、一般に、容器内に魚を入れるための投入口に、閉塞方向に付勢された閉塞板が設けられている。そのような釣り用魚入れ容器において、投入口から魚を容器内に投入する場合には、魚を掴んだまま閉塞板に押し当てて、閉塞板を開けながら魚を投入する。 【0003】 しかしながら、魚を閉塞板に押し当てながら投入すると、魚が閉塞板の上を滑って思わぬ方向を向いてしまうことがあり、魚が投入口から逸れて逃げてしまう場合がある。 【0004】 そのため、一対の閉塞板を投入口の左右に開く観音開きの形態で設け、左右両側の閉塞板の合わせ目部分に落とし込み用の窪みを形成した魚入れ容器が提案されている(例えば、特許文献1および特許文献2参照) 【先行技術文献】 【特許文献】 【0005】 【特許文献1】実開平7-17077号 【特許文献2】特開平8-23850号」 2 「【発明が解決しようとする課題】 【0006】 しかしながら、投入口の大きさに対して小さい窪みを閉塞板の合わせ目部分に沿って設けただけでは、魚を投入口のいたる場所から観音開きの開口へと確実に誘導できるとは限らず、窪みに合わせて魚を正確に押し当てなければ、結局のところ、魚が閉塞板の上を滑って思わぬ方向を向いてしまう可能性が依然として残る。 【0007】 本発明は前記事情に着目してなされたものであり、その目的とするところは、魚を投入口からスムーズに誘導して安全且確実に容器内へ投入できる釣り用魚入れ容器を提供することにある。」 3 「【課題を解決するための手段】 【0008】 前記課題を解決するために、請求項1に記載された発明は、一端側が回動可能に支持され他端側が開放される開放端となって閉塞方向に付勢される閉塞板を有する投入口を設けた釣り用魚入れ容器において、前記閉塞板は、少なくとも他端側の上面が略全体にわたって左右両側から中央側に向けて凹状に傾斜する傾斜面を有することを特徴とする。 【0009】 この請求項1に記載の釣り用魚入れ容器によれば、一部の従来技術のように閉塞板上面の中央部の一部だけに窪みを設けるのではなく、閉塞板の少なくとも開放端側の上面が略全体にわたって左右両側から中央側に向けて凹状に傾斜する傾斜面を有するため、この傾斜面によって魚を閉塞板の左右方向の中央側へとスムーズに且つ確実に誘導でき、魚を投入口から安全に容器内に投入することができる。また、上記構成において、閉塞板は、一部の従来技術のような左右の観音開きではなく、前後方向の一端側が回動可能に支持されているため、閉塞板の左右方向の中央側へ誘導された魚をそのまま開放端方向に滑り込ませて閉塞板の開放端から容器内へ投入することができる。すなわち、魚を投入口からスムーズに投入できる。 【0010】 なお、上記構成において、閉塞板の「前後方向」とは、投入口に設けた閉塞板の回動端部から開放端の方向で魚を差し入れる方向を意味し、また、「左右」とは閉塞板の前後方向に対して直交する方向を意味し、また、「中央」とは左右方向での投入口の略中間位置のことである。また、「凹状」とは、直線状の凹状形態および湾曲状の凹状形態の両方を含む。」 4 「【発明を実施するための形態】 【0018】 以下、本発明に係る釣り用魚入れ容器の実施形態について、添付図面を参照して説明する。 図1?図4には本発明の第1の実施形態に係る釣り用魚入れ容器1が示されている。本実施形態の釣り用魚入れ容器1は引き舟として構成されている。この引き舟は、釣り上げた魚を生きたままで泳がせながら収納しておくもので、渓流中に浮かべて使用されるものである。引き舟の船首側面に設けた通水孔を通じて流水が容器内部に入るとともに循環して容器から流出し、絶えず船内の水を更新して内部に収納された魚が弱らないように保持しておくようになっている。 【0019】 図示のように、引き舟としての釣り用魚入れ容器1は容器本体2を備えている。容器本体2は、上面部2aと、底面部2bと、前面部2cと、側面部2dと、後面部2eとを有しており、魚を収納するための収納部Sを内部に形成している。容器本体2の前側(船首側)の上面部2aには、容器内の魚を取り出すための魚取り出し口5が形成されており、この魚取り出し口5には、蓋体12が、魚取り出し口5の後側(船尾側)に設けられたヒンジ6によって開閉可能に蝶着されている。そして、蓋体12は、その前端に設けられた操作体8の係止部8aを容器本体2の前面部2cの内面の係止溝に係脱可能に係止させることにより、容器本体2に取着され、魚取り出し口5を閉塞するようになっている。なお、図2には、操作体8の係止部8aを容器本体2から外して魚取り出し口5を開放させた状態が二点鎖線で示されている。」 5 「【0022】 蓋体12には、船首、船尾方向の引き舟の前後方向を長手方向とする略楕円形の投入口4が形成されており、この投入口4には一対の閉塞板3,3が開閉可能に設けられている。具体的に、これらの閉塞板3,3は、投入口4の前側(船首側)に設けられたヒンジ(回動部としての蝶番)15によってその長手方向(前後方向)の一端(前端)側にある回動端部29が回動可能(開閉可能)に蝶着支持されており、ヒンジ15を中心にその長手方向の他端(後端)側の開放端19を収納部S内へ向けて下向きに開放させることができるようになっている。 【0023】 また、閉塞板3,3は閉塞方向に付勢されている。具体的には、閉塞板3,3の回動端部29が、ヒンジ15の回動軸部に巻装された付勢手段としてのバネ35によって常時閉じる方向(上向き)へ付勢されている。 【0024】 また、本実施形態において、閉塞板3,3は、その前後方向の少なくとも一部の上面が略全体にわたって左右両側(左右両端)から中央側に向けて凹状に傾斜する傾斜面3aを有している。このような傾斜面3aは、閉塞板3,3の上面の前後方向全体にわたって(すなわち、閉塞板3,3の上面の全体にわたって)設けられることが好ましいが、閉塞板3,3における投入口4の前後方向(投入口4に設けた閉塞板3,3の回動端部29から開放端19の方向)の中間位置L1よりも後方側(開放端19側)に投入口4の最大幅部(左右方向の寸法が最大の部分)を設け、投入口4のうち魚を収納部S内に落し込む側となる少なくともこの後方側の投入口4内側の上面の略全体に傾斜面3aが設けられていればよい。 【0025】 図4に明確に示されるように、傾斜面3aは、閉塞板3の左右両端である投入口内側縁部(側端部)39から投入口4の左右方向の中央位置L3にある中央部49へ向けて収納部S内方へと下向きに凹状に延びる湾曲線Cを描くように形成されている。更に、傾斜面3aは、図2に明確に示されるように、閉塞板3,3の回動端部29近傍に形成され且つ収納部S側から投入口4内へと略垂直に立ち上がる立ち上がり部20を起点として開放端19まで下向きに傾斜して延在している。なお、図中、L2は、船体である容器本体2が水面と交わる喫水線である。 【0026】 また、本実施形態において、閉塞板3,3の開放端19と対向する投入口4の開口縁部分、具体的には、容器本体2の上面部2aの投入口4を形成する開口縁に沿って形成された収納部Sに向かう壁部には、投入口4の開口が魚入れ容器の内方(収納部S内)に向かって広がるように傾斜面22が形成されている。この場合、傾斜面22の上縁部23は、上面部2aよりも上方に鍔状に突き出て形成されており、傾斜面22の延在長さを稼いでいる。閉塞板3,3の開放端19は上記傾斜面22に当接して投入口4を閉塞している。 【0027】 以上説明したように、本実施形態の釣り用魚入れ容器1は、閉塞板3,3の長手方向の少なくとも一部の上面が略全体にわたって左右両側から中央側に向けて凹状に傾斜する傾斜面3aを有するため、この傾斜面3aによって閉塞板3,3の上面に開放端19側に頭を向けて当てがった魚を閉塞板3,3の左右方向の中央側へとスムーズに且つ確実に誘導でき、魚を投入口4から安全に容器内に投入することができる。また、本実施形態において、閉塞板3,3は、その前後方向の一端側が回動可能に支持されているため、閉塞板3,3の左右方向の中央側へ誘導された魚をそのまま回動端部29側から開放端19まで延設された傾斜面3aの回動端部29側から開放端19方向に下る傾斜面に誘導されて投入口4の後方側の開放端19方向に進行するように滑り込ませて閉塞板3,3の開放端19から容器内へ投入することができる。すなわち、魚を投入口4からスムーズに投入できる(魚を閉塞板3,3の回動端部29側から閉塞板3,3に対して押し当て閉塞板3,3の長手方向に滑り込ませるように閉塞板3,3の開放端19から収納部S内へと投入できる)。また、本実施形態では、傾斜面3aが閉塞板3,3の開放端19まで延在しているため、閉塞板3,3の開放端19側に魚を誘導してスムーズに容器内に投入することができる。更に、本実施形態では、閉塞板3,3の開放端19と対向する投入口4の部分が該投入口4の開口を魚入れ容器の内方に向けて広げるように傾斜する傾斜面22として形成されているため、閉塞板3,3の開放端19側に誘導された魚をこの傾斜面22に当てて(傾斜面22に沿わせて)容器内へとスムーズに誘導(投入)することができる。」 6 図1は次のものである。 7 図2は次のものである。 8 図3は次のものである。 9 図4は次のものである。 10 図1及び図2から、閉塞板3,3に設けられる傾斜面3aは、投入口4を閉鎖する閉鎖姿勢において、解放端19側に向かって傾斜するように形成されることが看て取れる。 11 図1及び図3から蓋体12は環状である点が看て取れる。 12 図2及び図3から、閉塞板3,3は、投入口4の前側(船首側)に、左右方向に対して、前側から後側に向かって末広がりとなるハの字型に傾斜して設けられたヒンジ(回動部としての蝶番)15によってその長手方向(前後方向)の一端(前端)側にある回動端部29が回動可能(開閉可能)に蝶着支持されており、容器本体2の前後方向を基準に左右対称に回動することによって投入口4を開放する開放姿勢と上記投入口4を閉鎖する閉鎖姿勢との間で姿勢変化する点が看て取れる。 前記閉塞板3,3は、前側から後側に向かって末広がりとなるハの字型に傾斜して設けられた前記ヒンジで左右対称に回動することによって、前側に対して後側である他端側が左右に大きく開く観音開き式の開放姿勢となる。 このような開放姿勢は、引用文献1において、先行技術文献として例示されている、特開平8-23850号公報の【0013】に、「さて、魚投入口(5)の船首側端部(5b)には前述のように一対の魚投入扉(10)が扉用蝶番(12)にて蝶着されており、船内側に向けて観音扉状に開く事が出来るようになっている。扉用蝶蝶番(12)の取り付け方向は、図2からも分かるように一対の魚投入扉(10)の合わせ目(L)に対して傾斜して取り付けられており、さらに図31(註:1は○囲い)から分かるように魚投入扉(10)の上面よりHだけ高い位置に扉用蝶番(12)が形成されている。」、【0016】に、「また、前述のように魚投入扉(10)の上面よりHだけ高い位置に扉用蝶番(12)が形成されているので、図31(註:1は○囲い)に示すように、魚投入扉(10)の先端と扉用蝶番(12)とを結ぶ直線が扉用蝶番(12)を結ぶ水平線に対して船内側に倒れこむ事になり、その結果、魚投入扉(10)は少し船内側に向かって押し込まれるだけで大きく開くことになり、より開き易くなって魚(13)の船内側への滑り込みがより確実に行われる事になる。」と記載されて、傾斜して設けられたヒンジによって蝶着される場合にも、回動することによって「観音扉状に開く」と呼ばれている例にも見られるとおり、観音開き式に姿勢変化するものといえる。 13 上記1ないし12からみて、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 (引用発明) 「おとり缶や引き舟として構成される釣り用魚入れ容器であって、 容器本体2を備え、 当該容器本体2は、上面部2aを有し、収納部Sが内部に形成されており、 前記上面部2aには、環状の蓋体12によって閉蓋される魚取り出し口5が形成されており、 前記蓋体12には、投入口4が形成されるとともに、一対の閉塞板3,3が開閉可能に設けられており、 当該閉塞板3,3は、投入口4の前側に、左右方向に対して、前側から後側に向かって末広がりとなるハの字型に傾斜して設けられたヒンジ15によってその回動端部29が回動可能に蝶着支持されており、容器本体2の前後方向を基準に左右対称に回動することによって、前側に対して後側である他端側が左右に大きく開き観音扉状に投入口4を開放する開放姿勢と、前記投入口4を閉鎖する閉鎖姿勢との間で観音開き式に姿勢変化するものであり、また、当該閉塞板3,3は、少なくとも前記投入口4の前後方向の中間位置L1よりも後方側(開放端19側)の上面の略全体に傾斜面3aが設けられ、 当該傾斜面3aは、閉鎖姿勢時に、開放端19に向かって下向きに傾斜して形成されるとともに、左右両側から中央側に向けて凹状に傾斜するように形成され、 前記蓋体12の投入口4を形成する、投入口4のうちの後端側にある開口縁には、投入口4の開口が魚入れ容器の内方(収納部S内)に向かって広がるように傾斜面22が形成され、 前記閉塞板3,3の開放端19側の傾斜面3aに誘導された魚が前記傾斜面22に当たり容器内へと誘導される釣り用魚入れ容器」 第5 対比・判断 1 対比 本願発明と引用発明を対比すると、以下のとおりとなる。 引用発明における「引き舟として構成される釣り用魚入れ容器」に備えられ、「魚取り出し口5」が形成された「上面部2aを有し、収納部Sが内部に形成され」ている「容器本体2」は、本願発明における「内部に収容室が区画され且つ上記収容室に連通する開口が上面に設けられた曳舟本体」に相当する。 引用発明における「魚取り出し口5」を閉蓋し、前記「魚取り出し口5」および前記「収納部S」に対して魚を入れる「投入口4」が形成された「環状の蓋体12」と、本願発明において「上記開口の位置に設けられ、上記開口及び上記収容室に連通する鮎挿入口が形成された環状の蓋体」とは、「上記開口の位置に設けられ、上記開口及び上記収容室に連通する魚挿入口が形成された環状の蓋体」の点で共通する。 引用発明における「蓋体12」に形成され、「投入口4の前側に、左右方向に対して、前側から後側に向かって末広がりとなるハの字型に傾斜して設けられたヒンジ15によってその回動端部29が回動可能に蝶着支持されており、容器本体2の前後方向を基準に左右対称に回動することによって、前側に対して後側である他端側が左右に大きく開き観音扉状に投入口4を開放する開放姿勢と、前記投入口4を閉鎖する閉鎖姿勢との間で観音開き式に姿勢変化する」「閉塞板3,3」と、本願発明において「上記蓋体に設けられ、上記曳舟本体の前後方向を基準に左右対称に回動することによって上記鮎挿入口を開放する開放姿勢と上記鮎挿入口を閉鎖する閉鎖姿勢との間で観音開き式に姿勢変化する第1扉部材および第2扉部材を有する扉」とは、「上記蓋体に設けられ、上記曳舟本体の前後方向を基準に左右対称に回動することによって上記魚挿入口を開放する開放姿勢と上記魚挿入口を閉鎖する閉鎖姿勢との間で観音開き式に姿勢変化する第1扉部材および第2扉部材を有する扉」の点で共通する。 引用発明における「閉塞板3,3」が、「閉鎖姿勢時に、開放端19に向かって下向きに傾斜して形成されるとともに、左右両側から中央側に向けて凹状に傾斜するように形成され」ることは、本願発明における「上記第1扉部材および上記第2扉部材が上記閉鎖姿勢であるときに上記扉の上面に前方から後端に向かって漸次上記収容室側へ傾斜する案内凹面が形成され」に相当する。 引用発明における「蓋体12の投入口4を形成する、投入口4のうちの後端側にある開口縁には、投入口4の開口が魚入れ容器の内方(収納部S内)に向かって広がるように傾斜面22が形成され」は、本願発明における「上記蓋体の後端部は、上記案内凹面上に迫り出したひさしを形成し」に相当する。 引用発明における「開放端19に向かって下向きに傾斜して形成されるとともに、左右両側から中央側に向けて凹状に傾斜するように形成され」、「魚が前記傾斜面22に当たり容器内へと誘導される」「閉塞板3,3の開放端19側の傾斜面3a」と、本願発明において「漸次上記収容室側に向かって後端側へ傾斜すると共に上記第1扉部材と上記第2扉部材とが対向する対向面側へ傾斜し、上記蓋体の後端部と協働して鮎を保持しつつ上記収容室へ案内する凹部を区画する傾斜面」とは、「漸次上記収容室側に向かって後端側へ傾斜すると共に上記第1扉部材と上記第2扉部材とが対向する対向面側へ傾斜し、上記蓋体の後端部と協働して魚を保持しつつ上記収容室へ案内する凹部を区画する傾斜面」で共通している。 また、引用発明における「閉塞板3,3」が「少なくとも前記投入口4の前後方向の中間位置L1よりも後方側(開放端19側)の上面の略全体に傾斜面3aが設けられ、当該傾斜面3aは、閉鎖姿勢時に、開放端19に向かって下向きに傾斜して形成されるとともに、左右両側から中央側に向けて凹状に傾斜するように形成され」ることと、本願発明において「案内凹面は、水平に延びる平坦面と、当該平坦面に連続して漸次上記収容室側に向かって後端側へ傾斜すると共に上記第1扉部材と上記第2扉部材とが対向する対向面側へ傾斜し、上記蓋体の後端部と協働して鮎を保持しつつ上記収容室へ案内する凹部を区画する傾斜面とを有する」ことは、第1扉部材および第2扉部材の「後端側に漸次上記収容室側に向かって後端側へ傾斜すると共に上記第1扉部材と上記第2扉部材とが対向する対向面側へ傾斜し、上記蓋体の後端部と協働して魚を保持しつつ上記収容室へ案内する凹部を区画する傾斜面とを有する」点で共通する。 以上より、本願発明と、引用発明とは、 「内部に収容室が区画され且つ上記収容室に連通する開口が上面に設けられた曳舟本体と、 上記開口の位置に設けられ、上記開口及び上記収容室に連通する魚挿入口が形成された環状の蓋体と、 上記蓋体に設けられ、上記曳舟本体の前後方向を基準に左右対称に回動することによって上記魚挿入口を開放する開放姿勢と上記魚挿入口を閉鎖する閉鎖姿勢との間で観音開き式に姿勢変化する第1扉部材および第2扉部材を有する扉とを備え、 上記第1扉部材および上記第2扉部材が上記閉鎖姿勢であるときに上記扉の上面に前方から後端に向かって漸次上記収容室側へ傾斜する案内凹面が形成され、 上記蓋体の後端部は、上記案内凹面上に迫り出したひさしを形成し、 上記案内凹面は、第1扉部材および第2扉部材の後端側に、 漸次上記収容室側に向かって後端側へ傾斜すると共に上記第1扉部材と上記第2扉部材とが対向する対向面側へ傾斜し、上記蓋体の後端部と協働して魚を保持しつつ上記収容室へ案内する凹部を区画する傾斜面とを有する魚釣用曳舟。」 で一致し、以下の点で相違する。 [相違点1] 「魚」について、本願発明は、「鮎」を対象としているのに対し、引用発明では、「鮎」を対象とすることを特定していない点。 [相違点2] 本願発明は、案内凹面が「水平に延びる平坦面」を有し、当該平坦面に連続して「漸次上記収容室側に向かって後端側へ傾斜する傾斜面」とを有する構成を具備しているのに対し、引用発明では、閉塞板3,3のうち、投入口4において魚を収納部S内に落し込む側となる後方側の上面に傾斜面3aが設けられているものの、閉塞板3,3の前方側の上面がどのように形成されるのか特定されていない点。 2 判断 (1)相違点1について おとり缶や引き舟として構成される釣り用魚入れ容器を鮎を対象に使用することは技術常識であり、相違点1は実質的な相違点ではない。 また、例えば引用文献1の【0005】に記載された先行技術文献(実願平5-48045号(実開平7-17077号)のCD-ROM(【0002】、【0021】参照)、特開平8-23850号公報(【0003】参照))にも見られるように、鮎釣りの場合において、曳舟として構成される釣り用魚入れ容器を用いることは周知技術であり、引用発明において、おとり缶や引き舟として構成される釣り用魚入れ容器を使用する際に、魚として鮎を対象とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。 (2)相違点2について 引用発明において、傾斜面が設けられる部分以外がどのような形状に形成されるかを検討する。引用文献1は、【0006】に記載されたように「投入口の大きさに対して小さい窪みを閉塞板の合わせ目部分に沿って設けただけでは、魚を投入口のいたる場所から観音開きの開口へと確実に誘導できるとは限らず、窪みに合わせて魚を正確に押し当てなければ、結局のところ、魚が閉塞板の上を滑って思わぬ方向を向いてしまう可能性が依然として残る。」という課題を解決するものであり、また、引用文献1の【0009】には、「一部の従来技術のように閉塞板上面の中央部の一部だけに窪みを設けるのではなく、閉塞板の少なくとも開放端側の上面が略全体にわたって左右両側から中央側に向けて凹状に傾斜する傾斜面を有するため、この傾斜面によって魚を閉塞板の左右方向の中央側へとスムーズに且つ確実に誘導でき、魚を投入口から安全に容器内に投入することができる」と記載されている。 そして、【0005】に記載された先行技術文献(実願平5-48045号(実開平7-17077号)のCD-ROM(図1ないし図3参照)、特開平8-23850号公報(図2ないし図5参照))は、いずれも平面を有する閉塞板の一部に凹部が設けられた曳舟が示されていることから、引用文献1は、上記課題に対して閉塞板上において、所定の形状の傾斜面を後端側に設けることにより解決するものであると認められる。そうすると、閉塞板において後端側に設ける傾斜面よりも前方を、引用文献1が前提とする従来技術のとおり水平な平坦面とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。 (3)小括 したがって、本願発明は、引用文献1に記載された発明に基いて、当業者であれば容易になし得たものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。 (4)請求人の主張について ア 審判請求書(「三 本願発明が特許されるべき理由 [3]拒絶の理由に係る争点」の「(2)そこで、この点について、出願人は、以下のとおり反論する。」)において、以下の主張がされている。 (ア)「出願当初の請求項1に係る発明と引用文献との相違点は、上記扉に形成された「案内凹面」の形状である。審査官は、この案内凹面に相当するものが引用文献にも記載されているとの心証を形成されるが、本願発明の案内凹面は、当該案内凹面が区画する空間の内側に鮎が配置され且つ鮎の鼻先が案内凹面の奥側に向けられることによって、鮎が自重により収容室へ落下するに十分な深さを有するのに対し、引用文献には、そのような作用・機能を奏するような凹部が開示も示唆もされておらず、本願発明の案内凹面は、その点において引用文献に記載されたものと本質的に異なるのである。」 (イ)「同時に出願人は、「案内凹面」に「平坦面」が形成されている点に引用文献との違いがあることを主張した。鮎釣りにおいて、鮎を前述(上記特有の動作)のように扱うからこそ、上記「平坦面」の存在によって、鮎を掴んだ手を案内凹面に押し当てる動作がより容易になる、というさらなる作用効果が奏される。なお、面接において審査官も、この「平坦面」の限定について理解をした。」 これらの主張について検討する。 (ア)および(イ)については、上記(2)で検討したとおり、閉塞板において解放端側に設けられる傾斜面よりも前方を、引用文献1が前提とする従来技術のとおり水平な平坦面とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。したがって、上記主張は採用できない。 イ 平成31年4月12日の意見書(「三 審判請求人の主張(特許法第29条第2項の要件の充足性)」の「(1)判断の留意点」、「(2)本願発明についての判断」)において、以下の主張がされている。 「さて、本願発明の進歩性に関する審判官のご判断には、引用文献に開示された内容、すなわち「閉塞板3、3の長手方向の少なくとも一部の上面が略全体にわたって左右両側から中央側に向けて凹状に傾斜する傾斜面3aを有する」との記載から、直ちに「平坦面」の存在が強く示唆されている、との解釈が存在します。 しかしながら、鮎釣りの実釣では、平成30年4月3日提出の審判請求書にも記載されているとおり、鮎を鮎釣用曳舟の収容室へ落下させる操作については、釣人が片手で鮎の頭部、背部、腹部を囲繞するように握ると共に、親指で鮎の片目を塞いで安静にさせ、当該鮎を掴んだ手を扉に当てて当該扉を開きながらそのまま手を放すという特有の動作が行われます。かかる動作を前提とすると、釣人は鮎を掴んだ指を伸ばして扉を開けることができず、鮎を掴んだままその手を扉に押し当てて扉を開けることになります。この場合、引用文献に記載されている「傾斜面3a」のみでは、この傾斜面3aが凹面であることから、鮎を掴んだ手を扉に当てて容易に且つ迅速に当該扉を開くことはできません。本願発明は、鮎を掴んだまま扉を容易且つ迅速に開くことを可能とするものです。 引用文献には、鮎を曳舟に挿入する際の上記特有の動作を行うときに、扉をより簡単且つ迅速に開放するとの技術的課題の存在を示唆する記載はありません。そうすると、たとえ当業者といえども、かかる技術的課題の存在しない引用発明に基づいて、当該課題を解決するための上記「平坦面」を着想することは容易ではありません。 すなわち、上記審判官のご判断は、引用文献を見て事後分析的に本願発明の技術的課題の存在を認定し、さらに、その課題を解決する手段をいわゆる後知恵的に認定したことに基づきます。そうであるなら、上記「平坦面」の容易想到性に関する審判官のご判断には誤りがあると言わざるを得ません。 したがって、本願発明の特徴点である「平坦面」は、引用文献から決して容易に導かれるものではありません。」 これらの主張についても、上記(1)および(2)に示したとおりであるから、請求人の主張は採用できない。 第6 むすび 以上のとおり、本願発明は、引用文献1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、また、他の当審拒絶理由について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2019-05-31 |
結審通知日 | 2019-06-04 |
審決日 | 2019-06-17 |
出願番号 | 特願2013-83261(P2013-83261) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(A01K)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 門 良成 |
特許庁審判長 |
秋田 将行 |
特許庁審判官 |
有家 秀郎 須永 聡 |
発明の名称 | 鮎釣用曳舟 |
代理人 | 西木 信夫 |
代理人 | 松田 朋浩 |