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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01B
管理番号 1353915
審判番号 不服2018-9257  
総通号数 237 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-09-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-07-04 
確定日 2019-08-20 
事件の表示 特願2015-558171「光学スタック」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 8月21日国際公開、WO2014/127297、平成28年 5月26日国内公表、特表2016-515280、請求項の数(30)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2014(平成26)年2月14日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理2013年2月15日、同年3月15日、2014年1月17日、いずれも米国)を国際出願日とする出願であって、平成29年11月16日付けで拒絶理由通知がされ、平成30年2月16日に意見書が提出されるとともに手続補正がされ、同年2月27日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、同年7月4日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされたものである。

第2 原査定の概要
原査定の概要は次のとおりである。

(進歩性)この出願の請求項1?31に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物(引用文献1?8)に記載された発明に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

<引用文献>
1.特表2009-505358号公報
2.特開昭63-256677号公報
3.特表2012-520374号公報
4.特開2011-150316号公報
5.特開2003-041218号公報
6.特開昭61-240573号公報
7.特開2010-153153号公報
8.特開2006-272876号公報


第3 本願発明
本願の請求項1?13、15?19及び21?30に係る発明は、平成30年7月4日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?13、15?19及び21?30に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認める。
また、平成30年7月4日提出の手続補正書の特許請求の範囲の請求項14及び20に記載の「cc/m2*d*atm」が、酸素透過率の単位として従来から汎用される単位「cc/m^(2)*d*atm」(dは、dayを意味する。)を意図する記載であることは当業者に明らかであるから、これらの請求項に係る発明については、下記の請求項14及び20に記載されるとおりものと認める。

(なお、上記手続補正書による補正は、原査定時の特許請求の範囲(請求項数31)から、請求項2を削除するとともに、請求項1に請求項2の発明特定事項を加入して請求項1を減縮し、請求項3以降は、項番を繰り上げるとともに、引用請求項の項番も繰り上げる補正であり、原査定時の請求項2?31が、それぞれ、上記手続補正書の請求項1?30に対応する。)

「【請求項1】
光学スタックであって、
第1の基板と、
前記第1の基板上に相互に接続された複数の銀ナノワイヤを有する銀ナノ構造層と、
光学的にクリアな接着剤(OCA)層と、
を備え、
前記銀ナノ構造層または前記OCA層のうちの少なくとも1つは、前記複数の銀ナノワイヤの酸化または腐食を防止するための光安定剤を1つ以上備えており、
前記光安定剤は、テルペン(ただし、テルペノイドを含む)を含む、
光学スタック。
【請求項2】
前記光安定剤は、リモネンまたはテルピネオールを含む、請求項1に記載の光学スタック。
【請求項3】
光学スタックであって、
第1の基板と、
前記第1の基板上に相互に接続された複数の銀ナノワイヤを有する銀ナノ構造層と、
光学的にクリアな接着剤(OCA)層と、
を備え、
前記銀ナノ構造層または前記OCA層のうちの少なくとも1つは、前記複数の銀ナノワイヤの酸化または腐食を防止するための光安定剤を1つ以上備えており、
前記光安定剤は、ヒンダードフェノールを含む
光学スタック。
【請求項4】
前記光安定剤は、ブチルヒドロキシトルエン、没食子酸アルキル、第3級ブチル化ヒドロキノン、ビタミンE、ブチルヒドロキシアニソールのいずれかを含む、請求項3に記載の光学スタック。
【請求項5】
光学スタックであって、
第1の基板と、
前記第1の基板上に相互に接続された複数の銀ナノワイヤを有する銀ナノ構造層と、
光学的にクリアな接着剤(OCA)層と、
を備え、
前記銀ナノ構造層または前記OCA層のうちの少なくとも1つは、前記複数の銀ナノワイヤの酸化または腐食を防止するための光安定剤を1つ以上備えており、
前記光安定剤は、ホスフィンを含む、
光学スタック。
【請求項6】
光学スタックであって、
第1の基板と、
前記第1の基板上に相互に接続された複数の銀ナノワイヤを有する銀ナノ構造層と、
光学的にクリアな接着剤(OCA)層と、
を備え、
前記銀ナノ構造層または前記OCA層のうちの少なくとも1つは、前記複数の銀ナノワイヤの酸化または腐食を防止するための光安定剤を1つ以上備えており、
前記光安定剤は、チオエーテルを含む、
光学スタック。
【請求項7】
光学スタックであって、
第1の基板と、
前記第1の基板上に相互に接続された複数の銀ナノワイヤを有する銀ナノ構造層と、
光学的にクリアな接着剤(OCA)層と、
を備え、
前記銀ナノ構造層または前記OCA層のうちの少なくとも1つは、前記複数の銀ナノワイヤの酸化または腐食を防止するための光安定剤を1つ以上備えており、
前記光安定剤は、塩化カドミウム、塩化亜鉛、または塩化ロジウムから選択される金属光減感剤を含む、
光学スタック。
【請求項8】
光学スタックであって、
第1の基板と、
前記第1の基板上に相互に接続された複数の銀ナノワイヤを有する銀ナノ構造層と、
光学的にクリアな接着剤(OCA)層と、
を備え、
前記銀ナノ構造層または前記OCA層のうちの少なくとも1つは、前記複数の銀ナノワイヤの酸化または腐食を防止するための光安定剤を1つ以上備えており、
前記光安定剤は、アスコルビン酸ナトリウムまたはアスコルビン酸カリウムを含む、
光学スタック。
【請求項9】
前記銀ナノ構造層は、前記OCA層と接触している、請求項1-8のいずれか一項に記載の光学スタック。
【請求項10】
前記光安定剤は、前記OCA層内に組み込まれている、請求項1-8のいずれか一項に記載の光学スタック。
【請求項11】
前記光安定剤は、前記銀ナノ構造層内に組み込まれている、請求項1-8のいずれか一項に記載の光学スタック。
【請求項12】
前記銀ナノ構造層のシート抵抗は、前記光学スタックを促進光にばく露する前、500Ω/平方未満である、請求項1-11のいずれか一項に記載の光学スタック。
【請求項13】
前記銀ナノ構造層のシート抵抗の変動は、少なくとも800時間、前記光学スタックを365nmで少なくとも200mW/cm^(2)ある光にばく露した後、30%未満である、
請求項2に記載の光学スタック。
【請求項14】
光学スタックであって、
第1のサブスタックと、
第2のサブスタックと、
前記第1のサブスタックと前記第2のサブスタックとの間に配置されている相互に接続された複数の銀ナノワイヤを有する銀ナノ構造層と、を備え、
前記第1のサブスタック、前記第2のサブスタック、および前記複数の銀ナノワイヤを有する銀ナノ構造層のうちの少なくとも1つは、前記複数の銀ナノワイヤの酸化または腐食を防止するための光安定剤を1つ以上備えており、
前記第1のサブスタックおよび前記第2のサブスタックのうちの少なくとも1つは、25℃において10cc/m^(2)*d*atmの酸素透過率を有する酸素障壁膜を含み、
前記光安定剤は、テルペンおよびアスコルビン酸類から選択される、
光学スタック。
【請求項15】
前記酸素障壁膜は、金属またはセラミック層でコーティングされた可撓性基板である、請求項14に記載の光学スタック。
【請求項16】
前記銀ナノ構造層は、前記酸素障壁膜上に直接堆積されている、請求項14又は15に記載の光学スタック。
【請求項17】
前記光安定剤は、リモネン、アスコルビン酸ナトリウム、またはそれらの組み合わせである、請求項14に記載の光学スタック。
【請求項18】
第1の垂直縁と、前記第1の垂直縁を被覆している第1の縁シールとを有する、請求項14-17のいずれか一項に記載の光学スタック。
【請求項19】
光学スタックであって、
第1のサブスタックと、
第2のサブスタックと、
前記第1のサブスタックと前記第2のサブスタックとの間に配置されている相互に接続された複数の銀ナノワイヤを有する銀ナノ構造層と、
第1の垂直縁と、
前記第1の垂直縁を被覆している第1の縁シールと、
を備え、
前記第1のサブスタック、前記第2のサブスタック、および前記複数の銀ナノワイヤを有する銀ナノ構造層のうちの少なくとも1つは、前記複数の銀ナノワイヤの酸化または腐食を防止するための光安定剤を1つ以上備えており、
前記光安定剤は、テルペンおよびアスコルビン酸類から選択される、
光学スタック。
【請求項20】
前記第1のサブスタックおよび前記第2のサブスタックのうちの少なくとも1つは、25℃において10cc/m^(2)*d*atmの酸素透過率を有する酸素障壁膜を含む、請求項19に記載の光学スタック。
【請求項21】
前記酸素障壁膜は、金属またはセラミック層でコーティングされた可撓性基板である、請求項20に記載の光学スタック。
【請求項22】
前記酸素障壁膜は、SiO_(2)、AlO_(2)、ITO、またはそれらの組み合わせでコーティングされているPET膜である、請求項20に記載の光学スタック。
【請求項23】
前記銀ナノ構造層は、前記酸素障壁膜上に直接堆積されている、請求項20-22のいずれか一項に記載の光学スタック。
【請求項24】
前記光安定剤は、リモネン、アスコルビン酸ナトリウム、またはそれらの組み合わせである、請求項19に記載の光学スタック。
【請求項25】
光学スタックであって、
基板と、
複数の銀ナノワイヤを有する銀ナノ構造層と、
前記複数の銀ナノワイヤの酸化または腐食を防止するためのテルペンおよびアスコルビン酸類から選択される1つ以上の光安定剤と、
を備えている、光学スタック。
【請求項26】
前記基板と前記銀ナノ構造層との間に挿入されているアンダーコート層をさらに備え、
前記アンダーコート層は、前記銀ナノ構造層と接触しており、前記光安定剤は、前記アンダーコート層内に組み込まれている、請求項25に記載の光学スタック。
【請求項27】
前記銀ナノ構造層上に配置されているオーバーコート層をさらに備え、前記オーバーコート層は、前記銀ナノ構造層に接触しており、前記光安定剤は、前記オーバーコート層内に組み込まれている、請求項25又は26に記載の光学スタック。
【請求項28】
前記銀ナノ構造層と接触しているOCA層をさらに備え、前記光安定剤は、前記OCA層内に組み込まれている、請求項25に記載の光学スタック。
【請求項29】
前記光安定剤は、アスコルビン酸ナトリウムを含む、請求項25-28のいずれか一項に記載の光学スタック。
【請求項30】
前記アスコルビン酸ナトリウムは、重量比0.1-1%で組み込まれている、請求項29に記載の光学スタック。」

(以下、本願の請求項1?30に係る発明を、それぞれ「本願発明1」?「本願発明30」という。)

第4 引用文献の記載、引用発明等
1.引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された、「ナノワイヤに基づく透明導電体」に関する引用文献1には、以下の記載がある。(下線は、引用文献1の【0061】及び【0075】の一行目に予め付されていたものを除いて、合議体が付した。以下、この審決中において同様である。)

「【請求項1】
基板と、
該基板上の導電層であって、複数の金属ナノワイヤーを含む導電層と、
を備える透明導電体。
【請求項2】
前記金属ナノワイヤーは、銀ナノワイヤーである、請求項1に記載の透明導電体。
・・・
【請求項15】
一つ以上の反射防止層、防眩層、接着層、障壁、硬質被膜、または保護膜をさらに備える、請求項1に記載の透明導電体。
・・・
【請求項18】
前記導電層上に配置される反射防止層、防眩、および障壁層と、前記導電層と前記基板との間に配置される接着層と、前記基板下の反射防止層とを備える、請求項15に記載の透明導電体。
【請求項19】
一つ以上の腐食防止剤をさらに含む、請求項1に記載の透明導電体。
・・・
【請求項23】
前記腐食防止剤はH_(2)S捕捉剤である、請求項19に記載の透明導電体。」

「【0053】
「導電層」または「導電膜」は、透明導電体の導電性媒体を提供する金属ナノワイヤーの網層を言及する。マトリクスが存在する場合、金属ナノワイヤーの網層とマトリクスとの組み合わせも、「導電層」と呼ばれる。」

「【0061】
性能向上層
上述のように、導電層は、マトリクスにより優れた物理的および機械的特徴を有する。これらの特徴は、透明導電体構造に追加の層を導入することによってさらに向上可能である。したがって、その他の実施形態において、反射防止層、防眩層、接着層、障壁層、および硬質被膜などの一つ以上の層を備える多層の透明導電体が記載される。
【0062】
実例として、図11は、上に記載されるように、導電層12および基板14を備える多層透明半導体20を示す。多層透明導電体20は、導電層12の上に位置する第一の層22、導電層12と基板14との間に位置する第二の層24、および基板14の下に位置する第三の層26をさらに備える。別段表記の無い限り、層22、24、および26の各々は、一つ以上の反射防止層、防眩層、接着層、障壁層、硬質被膜、および保護膜であることが可能である。
【0063】
層22、24、および26は、透明導電体の全体の光学的性能の向上および機械的特性の改善など、さまざまな機能の役割を果たす。これらの追加の層も、「性能向上層」と呼ばれ、一つ以上の反射防止層、防眩層、接着層、障壁層、および硬質被膜であることが可能である。特定の実施形態において、一つの性能向上層によって、多くの利益が提供される。例えば、反射防止層は、硬質被膜および/または障壁層としての役割も果たすことができる。それらの特定の特性に加え、性能向上層は、本明細書で定義されるように、光学的に透明である。
【0064】
一実施形態において、層22は反射防止層であり、層24は接着層であり、層26は硬質被膜である。
【0065】
別の実施形態において、層22は硬質被膜であり、層24は障壁層であり、層26は反射防止層である。
【0066】
さらに別の実施形態において、層22は、反射防止層、防眩、障壁層、および硬質被膜の組み合わせであり、層24は接着層であり、層26は反射防止層である。」

「【0072】
「接着層」は、いずれの層の物理的、電気的、または光学的特性に影響を及ぼすことなく、二つの隣接する層(例えば、導電層および基板)を接着するいかなる光学的に透明な材料も言及する。光学的に透明な接着材料は、当技術分野においてよく知られており、アクリル樹脂、塩素化オレフィン樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体の樹脂、マイレン酸樹脂、塩化ゴム樹脂、環化ゴム樹脂、ポリアミド樹脂、クマロンインデン樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体の樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、スチレン樹脂、ポリシロキサン、および同様なものを含むがそれだけに限定されない。
【0073】
「障壁層」は、ガスまたは流体の透明導電体への透過を低減または防止する層を言及する。腐食した金属ナノワイヤーは、導電層の大幅な導電率低下ならびに大幅な光透過性低下をもたらす可能性があることが証明されている。障壁層は、大気の腐食性ガスが導電層に入り、マトリクス内の金属ナノワイヤーに接触しないように効果的に抑制することができる。障壁層は、当技術分野においてよく知られており、例えば、米国特許出願第2004/0253463号、米国特許第5,560,998号および4,927,689号、欧州特許第132,565号、日本国特許第57,061,025を参照を含むがそれだけに限定されない。さらに、反射防止層、防眩層、および硬質被膜のいずれも、障壁層としても役割も果たすことができる。
【0074】
特定の実施形態において、多層透明導電体は、導電層上に保護膜をさらに備えてもよい(例えば、層22)。保護膜は、一般的に柔軟性を有し、柔軟性を有する基板と同一材料から形成可能である。・・・
【0075】
腐食防止剤
その他の実施形態において、透明導電体は、上記の障壁層に加えて、またはそれの代わりに腐食防止剤を備えてもよい。異なる腐食防止剤により、異なる機序に基づいて、金属ナノワイヤーに保護が提供されてもよい。
【0076】
一機序によると、腐食防止剤は、金属ナノワイヤーに容易に結合し、金属表面において保護膜を形成する。それらは、障壁形成腐食防止剤とも呼ばれる。
【0077】
一実施形態において、障壁形成腐食防止剤は、芳香族トリアゾール、イミダゾール、およびチアゾールなどの特定の窒素含有および硫黄含有有機化合物を含む。これらの化合物は、金属表面上に安定複合体を形成し、金属とその環境の間に障壁を提供することが立証されている。例えば、ベンゾトリアゾール(BTA)は、銅または銅合金のための一般的な有機腐食防止剤である・・・。トリルトリアゾールおよびブチルベンジルトリアゾールなどのアルキル置換ベンゾトリアゾールも使用可能である(例えば、米国特許第5,270,364号参照)。腐食防止剤の付加的な適切な例として、2-アミノピリミジン、5,6-ジメチルベンゾイミダゾール、2-アミノ-5-メルカプト-1,3,4-チアジアゾール、2-メルカプトピリミジン、2-メルカプトベンゾオキサゾール、2-メルカプトベンゾチアゾール、および2-メルカプトベンゾイミダゾールが挙げられるがそれだけに限定されない。
【0078】
・・・
【0084】
別の機序によれば、腐食防止剤は、金属ナノワイヤーとよりも、腐食要素(例えば、H_(2)S)とより容易に結合する。これらの腐食防止剤は、金属と競合して腐食要素を封鎖する「捕捉剤」または「ゲッター」として知られている。H_(2)S捕捉剤の例として、アクロレイン、グリオキサル、トリアジン、およびn-クロロコハク酸イミドを含むがそれだけに限定されない(例えば、米国公報出願第2006/0006120号参照)。
【0085】
特定の実施形態において、腐食防止剤(例えば、H_(2)S捕捉剤)は、マトリクスに分散可能であるが、但し、その存在が、導電層の光学的または電気的特性に悪影響を及ぼさない場合に限る。
【0086】
その他の実施形態において、金属ナノワイヤーは、基板に蒸着される前または後に、腐食防止剤で調製可能である。例えば、金属ナノワイヤーは、例えばBTAなどの障壁形成腐食防止剤で調製可能である。さらに、金属ナノワイヤーは、錆び止め溶液で処理されることもできる。金属錆び止め処理は当技術分野において既知である。・・・」

「【0159】
その他の実施形態において、接着層が、積層工程中に、導電層と基板との間のより優れた結合を提供するために使用可能である。図17Aは、柔軟性を有するドナー基板240、剥離層244、および導電層250の他に、オーバーコート274および接着層278を備える積層構造270を示す。接着層278は接着表面280を有する。
【0160】
・・・
【0161】
図17Bにおいて、積層構造270は、接着表面280を介して基板260と結合される.その後、図17Cに示されるように、柔軟性を有するドナー基板240は、オーバーコート274から剥離層244を剥離することによって除去される。」











また、【0199】?【0202】の例3には、促進H_(2)S試験が記載され、ポリウレタンマトリクス含有銀ナノワイヤー膜において、ポリウレタンマトリクスは、H_(2)Sガスの透過障壁となることが示されるとともに、金属ナノワイヤーの長期的安定は、マトリクスに一つ以上の腐食防止剤を混入することによってさらに得ることができる旨が記載され、【0203】?【0218】の例4には、銀ナノワイヤー導電膜調製中にベンゾトリアゾール、ジチオチアジアゾール、及びアクロレインのいずれかの腐食防止剤を混入した、基板上に銀ナノワイヤー導電膜を有する透明導電体サンプルにおける、腐食H_(2)Sガスに対する耐性試験及びその結果が記載されるとともに、結果が図24A?Cに示されている。

2.引用文献1に記載の発明
引用文献1の上記記載、特に、基板上に複数の銀ナノワイヤーを含む導電層を備える透明導電体(請求項1、2)の発明の具体的な態様に関する図17C、【0159】?【0161】の図17Cに関する説明の記載、及び、【0053】の導電層が網層であるとの記載によれば、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

「基板260と、
基板260の上に配置される接着層278と、
接着層278の上に配置される銀ナノワイヤー網層を含む導電層250と、
導電層250の上に配置される性能向上層であるオーバーコート274とを備える、
透明導電体。」

また、特に、図11、【0062】?【0066】の図11についての説明の記載、及び、【0066】の実施形態の記載によれば、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。
「基板14と、
基板14の上に配置される接着層24と、
接着層24の上に配置される銀ナノワイヤー網層を含む導電層12と、
導電層12の上に配置される、反射防止層、防眩、障壁層、および硬質被膜の組み合わせである層22と、
基板14の下に配置される反射防止層26とを備える、
透明導電体。」

3.引用文献2?8について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献2?8には、以下の技術的事項が記載されている。

(1)引用文献2
ア 「複層の熱硬化性接着フィルム」に関する引用文献2には、以下の記載がある。
(ア)2頁右下欄下から6行?3頁左上欄2行
「〔産業上の利用分野〕
本発明は、エポキシド樹脂および硬化剤としてジシアンジアミドに基づいた、粘着性の外部硬化性層および乾燥外部硬化性層を含む複層の熱硬化性接着フィルムに関し、そして構造部材、特に荷重を支えおよび清浄にされていない金属構造部材を接着するための前記フィルムの用途に関するものである。」
(イ)6頁右上欄下から5行?同頁左下欄2行
「適当である場合に、本発明に係る接着フィルムの熱硬化性層Aおよび熱硬化性層B内に存在し得るその他の慣用の添加剤(h)の例は、湿潤剤、例えばエポキシシラン、流れ調整剤、チキソトロープ剤、可塑剤、接着促進剤、酸化防止剤、腐蝕防止剤例えばα-リモネン、または光安定剤である。」
イ 上記記載によれば、引用文献2には、金属構造部材を接着するための接着フィルムの熱硬化性層内に存在し得る慣用の添加剤の例として、腐食防止剤であるα-リモネンが開示されていると認められる。

(2)引用文献3
ア 「炭化水素含有材料からの炭化水素抽出および/または炭化水素含有材料の処理」に関する引用文献3には、以下の記載がある。
「【0121】
一実施形態においては、この発明は、腐食性表面の腐食を低減する方法を提供する。例えばパイプライン、タンカー、ケーシング、フィッシングツールまたはドリルビットによる炭化水素含有材料の輸送、掘削、ダウンホール作業、探鉱、炭化水素生産、貯蔵または処理中において、炭化水素含有材料の硫黄含有化合物に接触する金属表面は、腐食するかもしれない。この発明は、腐食低減液体を炭化水素含有材料に添加することによって腐食を著しく低減する方法を提供する。この発明の方法によって、一様な孔食を防止することができる。炭化水素含有材料を腐食性低減液体と接触させて混合物を形成するとき、混合物と接触する腐食性表面の腐食速度は、腐食性低減液体がない状態において炭化水素含有材料と接触させた時のそれらの表面の腐食と比較して、実質的に低減される。一実施形態においては、腐食性低減液体は、安定したスルホン化された成分を生成しない。一実施形態においては、硫黄はターペンタイン抽出液において蓄積しない。」

「【0125】
一実施形態においては、腐食性低減液体は、α-テルピネオール、β-テルピネオール、β-ピネン、およびp-シメンを含む。別の実施形態では、腐食性低減液体は、約40%?約60%のα-テルピネオール、約30%?約40%のβ-テルピネオール、約5%?約20%のβ-ピネン、および約0?約10%のp-シメンを含む。さらなる実施形態では、腐食性低減液体は、ターペンタイン液の配合物を含む。」

「【0173】
実施例29。腐食試験。API X-65炭素鋼切取試片(METAL SAMPLES COMPANY,Munford,Alabama,米国)を、pHを酢酸で約4.8に調節した、500ppmのNa_(2)Sを有するASTM代用海水に、2週間の間、連続的な流れの下で晒した。対照試料は、防食剤がない状態において海水のベースライン溶液だけを含有した。試料I、IIおよびIIIは、約0.0005体積%、0.001体積%および0.0015体積%のターペンタイン液の配合物を含有した。直接記録された腐食速度は、各試験片上に観察された隙間腐食の量と一致する。0.0015体積%のターペンタイン液の配合物からなる試料IIIは、最小平均腐食速度・・・を与え、孔食はなかった。」

イ 上記記載によれば、引用文献3には、炭化水素含有材料の硫黄含有化合物に接触する金属表面の腐食防止のために、炭化水素含有材料にα-テルピネオール等を含有する腐食性低減液体液体を添加することが開示されていると認められる。

(3)引用文献4
ア 「太陽熱発電用フィルムミラー、その製造方法及び太陽熱発電用反射装置」に関する引用文献4には、以下の記載がある。
「【請求項1】
銀反射層と、該銀反射層の少なくとも入射光側の隣接層とを有する太陽熱発電用フィルムミラーにおいて、前記入射光側の隣接層が、ヒンダードフェノール系化合物、ヒンダードアミン系化合物、リン系化合物から選ばれる少なくとも1種の酸化防止剤及び、ベンズトリアゾール系化合物、イミダゾール系化合物、イオウ系化合物、テトラザインデン系化合物、チアジアゾール系化合物から選ばれる少なくとも1種の腐食防止剤を含有することを特徴とする太陽熱発電用フィルムミラー。」

「【0024】
本発明者らの検討の結果、特許文献4に記載の技術のように銀反射層の腐食を防止するための腐食防止剤を含有する層を設けた場合であっても、太陽熱発電用フィルムミラーのように過酷な環境下で用いられる場合には、銀反射層に隣接する樹脂層が、太陽光露光時に樹脂層内で発生するペルオキシラジカル(-ROO・)及び酸素ラジカル(O・)により劣化することで変質し、それに伴い、銀反射層に変形が生じることで正反射率の低下を引き起こすことが明らかになった。そこで、銀反射層の腐食を抑制するベンズトリアゾール系化合物、イミダゾール系化合物、チオール系化合物、チオエーテル系化合物、テトラザイデイン系化合物、チアジアゾール系化合物などの腐食防止剤に加えて、ヒンダードアミン系化合物、ヒンダードフェノール系化合物、リン系化合物から選ばれる酸化防止剤を添加することで、上述のペルオキシラジカル(-ROO・)及び酸素ラジカル(O・)を捕捉することが可能となり、銀反射層自体の劣化による反射率の低下だけではなく、樹脂層の劣化による正反射率の低下が抑えることが可能となり、過酷な環境下であっても高い正反射率を維持することができるフィルムミラーを得ることができた。さらに、ラジカルの濃度が低い環境下においてベンズトリアゾール系化合物、イミダゾール系化合物、チオール系化合物、チオエーテル系化合物、テトラザイデイン系化合物、チアジアゾール系化合物などの腐食防止剤の酸化的分解は大きく低減するため、銀反射層表面の金属原子のイオン化も効果的に抑制されるため、銀反射層の腐食防止効果も更に高めることが可能となった。」

イ 上記記載によれば、引用文献4には、太陽熱発電用フィルムミラーの銀反射層の腐食を抑制するために少なくとも入射光側の隣接層に添加される腐食防止剤として、チオエーテル系化合物が使用可能であること、また、ヒンダードフェノール系化合物が樹脂層の劣化を抑える酸化防止剤であることが開示されていると認められる。

(4)引用文献5
ア 「導電性接着剤およびこれを用いた実装構造体」に関する引用文献5には、以下の記載がある。
「【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかし、導電性接着剤は、汎用電極部品や基板を接合した状態での実装信頼性の点では、はんだ合金に劣っている。一般に、電子部品や回路基板の端子電極としては、ハンダ合金やCuなどの卑金属が用いられている。導電性接着剤を用いて卑金属の端子電極を有する電子部品や回路基板を実装すると、高温多湿雰囲気下において接続抵抗が顕著に増大する。導電性接着剤を用いた実装構造体における接続抵抗の増加は、電極に用いた卑金属が水分の存在下で腐食することが主な要因である。すなわち、導電性接着剤に用いられる銀などの金属粒子と卑金属電極とに侵入した水分が接触して一種の電池が形成され、電位が相対的に低い卑金属電極が腐食される。このため、導電性接着剤を用いて耐湿信頼性を確保するためには、汎用の電極ではなく、AuやPdなどの高価な電極を使用する必要があった。
【0005】そこで、本発明は、汎用の卑金属電極を用いた場合でも、耐湿信頼性を維持できる導電性接着剤および実装構造体を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明の導電性接着剤は、電子部品と基板とを電気的に接続するために用いられ、標準電極電位が銀の標準電極電位以上である第1の粒子と、標準電極電位が銀の標準電極電位よりも低い第2の粒子とを含む。
【0007】この導電性接着剤では、電位が低い第2の粒子を添加することにより、この第2の粒子が犠牲腐食するために、電子部品や基板の電極の腐食が抑制される。」

「【0018】・・・第1の粒子としては、Ag粒子が好ましい。
・・・
【0021】第2の粒子は、酸化物を形成しやすい特性を有することが望まれる。具体的には、Zn、Fe、Mg、Cu、V、CaおよびBeから選ばれる少なくとも一つを用いるとよく、Znが特に好適である。」

「【0028】 ・・・本発明は、銀の標準電極電位よりも高い標準電極電位を有する第1の粒子と、銀の標準電極電位よりも低い標準電極電位を有する第2の粒子とを含む導電性接着剤を調製する工程と、この導電性接着剤を用いて電子部品を基板に実装することにより、前記電子部品および/または前記基板の電極の腐食を抑制する工程、とを含む電極の腐食抑制方法としても把握できる。
【0029】
・・・
【0032】金属酸化膜を除去する作用を有する材料を導電性接着剤にさらに添加すると、耐湿信頼性がさらに向上する。第2の粒子の表面に自然酸化膜が形成されることがあるが、この酸化膜は、第2の粒子の表面の活性を低下させる。また、電極の表面にも自然酸化膜が形成されることがあるが、この酸化膜は、第2の粒子の犠牲腐食を抑制し、結果として自己腐食を促進する。したがって、金属酸化膜除去用材料を添加することにより、第2の粒子(および実装の後には電極)の表面の上記酸化膜を除去または減少させれば、第2の粒子の自己腐食を抑制し、犠牲腐食を促進することができる。第2の粒子の自己腐食の抑制は、耐湿性を長期間保持する上でも有効である。金属酸化物は、添加しない場合と比べて減少していればよく、完全に除去する必要はない。
【0033】第2の粒子および/または電極の表面の金属酸化膜を除去または減少するためには、活性剤の添加が有効である。活性剤は、はんだフラックスに添加される成分を用いればよく、例えば、活性化松脂、トリオール系化合物、有機ハロゲン化物などを用いることができる。その他、上記作用を有する各種の有機酸、有機酸塩、無機酸、無機金属酸塩などを活性剤として用いてもよい。活性剤としては、具体的には、オレイン酸、・・・塩化亜鉛、・・・などを用いることができる。
【0034】酸化防止剤を用いても、第2の粒子の表面に形成される金属酸化膜を減少させることができる。酸化防止剤としては、例えば、硫黄系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤を用いればよく、具体的には、フェニルサリチレート、・・・、2,6-ジ-第三ブチル-p-クレゾール、2,6-ジ-第三ブチル-フェノール、トリフェニルフォスファイト、トリデシルフォスファイト、トリオクタデシルフォスファイト、トリラウリルトリチオフォスファイト、アスコルビン酸、グルコース、ジラウリルチオジプロピオネート、ジステアリルチオジプロピオネート、2-メルカプトベンゾイミダゾール、ジラウリルサルファイド、没食子酸プロピル、没食子酸オクチル、没食子酸ドデシル、β,β’-チオジプロピオン酸などを用いることができる。」

イ 上記記載によれば、引用文献5には、汎用の卑金属電極を用いた場合でも、耐湿信頼性を維持できる銀を含有する導電性接着剤および実装構造体を提供することを目的として、銀(第1の粒子)を含む導電性接着剤に、銀の標準電極電位よりも低い標準電極電位を有し、犠牲腐食により電子部品や基板の電極の腐食を抑制する亜鉛等の第2の粒子を添加することが記載され、さらに、第2の粒子(実装後は電極)の表面の上記酸化膜を除去・減少させて、第2の粒子の自己腐食を抑制して犠牲腐食を促進するために、酸化防止剤として、塩化亜鉛、2,6-ジ-第三ブチル-フェノールや没食子酸プロピル等(ヒンダードフェノールに相当)、ジラウリルサルファイド(チオエーテルに相当)、アスコルビン酸等が使用可能であることが開示されていると認められる。

(5)引用文献6
ア 「アルカリ電池」に関する引用文献6には、以下の記載がある。
(ア)2頁右上欄2?8行
「本発明は、負極活物質である亜鉛,カドミウム,アルミニウム,鉄,マグネシウム等の活性金属又は亜鉛合金,カドミウム合金,アルミニウム合金,鉄合金,マグネシウム合金等の化学的溶解を防止し、もって水素ガス発生を抑制して電池内圧の上昇を低減せしめる効果を有した負極合剤が内蔵されているアルカリ電池に関する。」
(イ)5頁左下欄1?4行
「本発明の負極活物質の腐食抑制方法は以上の点を鑑み、ホスフィン化合物(審決注;原文の「ホスフィイ化合物」は誤記と認める。)、酸化ホスフィン化合物および第四アンモニウム塩化合物を同時に、かつ有効に添加するものである。」

イ 上記記載によれば、引用文献6には、アルカリ電池中での亜鉛等の負極活物質の化学的溶解による水素ガス発生とそれによる電池内圧の上昇を低減するための腐食抑制に、ホスフィン化合物が有用であることが開示されていると認められる。

(6)引用文献7
ア 「光透過性導電性材料」に関する引用文献7には、以下の記載がある。
「【請求項1】
光透過性基材上に易接着層と、該易接着層上にパターニングされた金属層と、該易接着層及び該金属層を被覆し、かつ変性エポキシ樹脂を含有する樹脂層と、該樹脂層上に接着剤層とを有することを特徴とする光透過性導電性材料。
【請求項2】
該接着剤層が無溶剤型の(メタ)アクリレート系光重合型接着剤もしくは(メタ)アクリレート系熱重合型接着剤を含有する接着剤層である請求項1記載の光透過性導電性材料。」

「【0045】
本発明に好ましく使用されるアクリレート系接着剤には接着剤組成物自体の加水分解や酸化による老化防止、太陽光や風雨に曝される厳しい条件下での耐熱性、耐侯性などを向上する目的で、光安定剤や酸化防止剤を添加することができる。紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、サリチル酸フェニル系、トリアジン系等が挙げられる。」

イ 上記記載によれば、引用文献7には、光透過性導電性材料を構成するアクリレート系接着剤に、接着剤の酸化等による劣化や太陽光に曝される条件下での耐侯性向上のために、光安定剤や酸化防止剤を添加することができることが開示されていると認められる。

(7)引用文献8
ア 「導電体」に関する引用文献8には、以下の記載がある。
「【0026】
上記導電膜2の上面と周囲側面とを封止している封止材3は、導電膜2と水分を含む外気との接触を遮断して水分の進入を防止し、導電膜2の表面抵抗率の経時的な変化を抑制している。」

「【0053】
図7は本発明の更に他の実施形態に係る導電体の断面図を示す。
この導電体A6は、基材1と導電膜2と上面材5とがこの順序で重ね合せ若しくは一体に積層され、この四周側端面に封止材3が形成されていて、導電膜2の上下両面が上面材5と基材1とで封止されると共に周囲側面が封止材3にて封止されているものである。」






イ 上記記載によれば、引用文献8には、基材と導電膜と上面材とがこの順序で積層された導電体の周囲側端面を封止材で封止して、導電膜と水分を含む外気との接触を遮断することで、導電膜の表面抵抗率の経時的な変化を抑制することが開示されていると認められる。

第5 対比・判断
以下の対比・判断においては、引用発明1に基づいて対比・判断する本願発明1?13、25?30についてを先に、引用発明2に基づいて対比・判断する本願発明14?24についてを後に記載する。

1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明1とを対比する。
ア 引用発明1の「透明導電体」は、本願発明1の「光学スタック」に相当する。
イ 引用発明1の「基板260」及び「接着層278の上に配置される銀ナノワイヤー網層を含む導電層250」は、それぞれ、本願発明1の「第1の基板」及び「前記第1の基板上に相互に接続された複数の銀ナノワイヤを有する銀ナノ構造層」に相当する。
ウ 引用発明1の透明導電体を構成する要素である「基板260の上に配置される接着層278」が透明(つまり、「光学的にクリア」)であることは明らかであるから、引用発明1の「基板260の上に配置される接着層278」は、本願発明1の「光学的にクリアな接着剤(OCA)層」に相当する。

したがって、本願発明1と引用発明1との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

<一致点>
「光学スタックであって、
第1の基板と、
前記第1の基板上に相互に接続された複数の銀ナノワイヤを有する銀ナノ構造層と、
光学的にクリアな接着剤(OCA)層と、
を備える光学スタック。」
<相違点1>
本願発明1では、「銀ナノ構造層または前記OCA層のうちの少なくとも1つは、前記複数の銀ナノワイヤの酸化または腐食を防止するための光安定剤を1つ以上備えており、前記光安定剤は、テルペン(ただし、テルペノイドを含む)を含む」と特定されているのに対し、引用発明1では、かかる特定はない点。

(2)相違点についての判断
上記相違点1について検討する。
上記第4の1.で摘記したとおり、引用文献1には、透明導電体が金属ナノワイヤ-の保護のための腐食防止剤、より具体的には、H_(2)S捕捉剤を備えてもよいこと(請求項19、23及び【0075】)、一機序によれば、腐食防止剤は金属ナノワイヤーに容易に結合し、金属表面上に安定複合体を形成し、金属表面に、金属とその環境との間の障壁となる保護膜を形成し、障壁形成腐食防止剤とも呼ばれること(同【0076】?【0077】)、別の機序によれば、腐食防止剤は、金属ナノワイヤーとよりも、腐食要素(例えば、H_(2)S)とより容易に結合し、金属と競合して腐食要素を封鎖する「捕捉剤」として知られること(同【0084】)、腐食防止剤は、導電層に用いられること(同【0084】?【0085】)が記載されており、具体的な実施例として、例4に、銀ナノワイヤー導電膜中に腐食防止剤を含有させた透明導電体サンプルの腐食H_(2)Sガスに対する耐性試験及びその結果が示されている(【0203】?【0218】等)。

そうすると、当業者は、上記引用文献1における示唆に従って、導電層中の銀ナノワイヤー網層のH_(2)Sによる腐食が起きないように、引用発明1の透明導電体を構成する導電層中に、金属と容易に結合して金属表面上に安定複合体を形成する障壁形成腐食防止剤、あるいは、H_(2)Sガス捕捉剤として機能する腐食防止剤を含有せしめることについては、容易に想到し得るといえる。

一方、本願発明1において銀ナノワイヤの腐食を防止するために(光安定剤として)使用される「テルペン(ただし、テルペノイドを含む)」に相当する「α-リモネン」が、(金属構造部材の)腐食防止剤であることや、同「α-テルピネオール等」が、炭化水素含有材料の硫黄含有化合物に接触する金属表面の腐食防止作用を有することは従来から既知である(上記第4の3.の引用文献2及び3についての記載参照)。
しかしながら、引用文献2及び3には、「α-リモネン」あるいは「α-テルピネオール等」が、銀ナノワイヤー網層を構成する銀と容易に結合して銀ナノワイヤ金属表面上に安定複合体を形成する障壁形成腐食防止剤としての機能、あるいは、H_(2)Sガス捕捉剤としての機能を有していることについての記載はないし、そのことが、本願の優先日前の技術常識であったともいえない。
また、引用文献2及び3には、上記の化合物が、「光安定剤」として機能することも記載されていない。
さらに、引用文献2は、金属構造部材を接着するための接着フィルムに関する技術、引用文献3は、炭化水素含有材料の処理に関する技術についてのものであり、ナノワイヤに基づく透明導電体に関する技術についてのものである引用文献1とは、技術分野も異なっている。

そうすると、引用発明1において、導電層250中に腐食防止剤を含有せしめることを当業者が想到した場合であっても、腐食防止剤として、引用文献2あるいは3に記載の化合物を採用すること(すなわち、引用発明1の透明導電体を、上記相違点1に係る本願発明1の構成を備えたものとすること)を当業者が動機付けられるとはいえない。

また、本願明細書(【0133】?【0149】(実施例))には、透明導体のOCA層あるいは銀ナノ構造を、テルピネオール、リモネン、1-フェニル-1H-テトラゾール-5-チオールあるいはベンゾチアゾールで処理した場合に、これらの化合物が光安定剤として機能し、促進光試験にばく露された透明導体シートのシート抵抗の経時変動が抑制され、光ばく露に応じた銀腐食をこれらの化合物が未然に防ぐことができたことが示されており、この効果は、引用文献1?3からは示唆されない。

さらに、引用文献4?8は、他の請求項に係る発明の腐食防止剤あるいは透明導電体の構造を開示するものとして審査段階で提示されたものであって、これらの文献に開示されている技術的事項は上記第4の3.で示したとおりであり、これらの文献からも、上記相違点1に係る本願発明1の構成は示唆されない。

以上のとおりであるから、本願発明1は、引用発明1及び引用文献2?8に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

2.本願発明3、5?8について
独立請求項に係る本願発明3、5?8は、本願発明1と光安定剤の種類が、それぞれに異なるのみで、それ以外の点では一致する発明であるから、本願発明3、5?8と引用発明1は、上記1.(1)で本願発明1と引用発明1との対比で記載した一致点で一致する。

そして、本願発明3、5?8と引用発明1との相違点も、上記相違点1における光安定剤の種類の違いを除いては同じであり、具体的には、以下のとおりである。

・本願発明3では「銀ナノ構造層または前記OCA層のうちの少なくとも1つは、前記複数の銀ナノワイヤの酸化または腐食を防止するための光安定剤を1つ以上備えており、前記光安定剤は、ヒンダードフェノールを含む」と特定されているのに対し、引用発明1では、かかる特定はない点。(相違点2)
・本願発明5では「銀ナノ構造層または前記OCA層のうちの少なくとも1つは、前記複数の銀ナノワイヤの酸化または腐食を防止するための光安定剤を1つ以上備えており、前記光安定剤は、ホスフィンを含む」と特定されているのに対し、引用発明1では、かかる特定はない点。(相違点3)
・本願発明6では「銀ナノ構造層または前記OCA層のうちの少なくとも1つは、前記複数の銀ナノワイヤの酸化または腐食を防止するための光安定剤を1つ以上備えており、前記光安定剤は、チオエーテルを含む」と特定されているのに対し、引用発明1では、かかる特定はない点。(相違点4)
・本願発明7では「銀ナノ構造層または前記OCA層のうちの少なくとも1つは、前記複数の銀ナノワイヤの酸化または腐食を防止するための光安定剤を1つ以上備えており、前記光安定剤は、塩化カドミウム、塩化亜鉛、または塩化ロジウムから選択される金属光減感剤を含む」と特定されているのに対し、引用発明1では、かかる特定はない点。(相違点5)
・本願発明8では「銀ナノ構造層または前記OCA層のうちの少なくとも1つは、前記複数の銀ナノワイヤの酸化または腐食を防止するための光安定剤を1つ以上備えており、前記光安定剤は、アスコルビン酸ナトリウムまたはアスコルビン酸カリウムを含む」と特定されているのに対し、引用発明1では、かかる特定はない点。(相違点6)

そこで、上記相違点2?6について検討すると、上記1.(2)で説示したとおり、当業者は、上記引用文献1における示唆に従って、導電層中の銀ナノワイヤー網層のH_(2)Sによる腐食が起きないように、引用発明1の透明導電体を構成する導電層中に、金属と容易に結合して金属表面上に安定複合体を形成する障壁形成腐食防止剤やH_(2)Sガス捕捉剤として機能する腐食防止剤を含有せしめることについては、容易に想到し得るといえる。
一方、本願発明3、5?8において銀ナノワイヤの腐食を防止するための光安定剤として特定される「ヒンダードフェノール」、「ホスフィン」、「チオエーテル」、「塩化亜鉛」、「アスコルビン酸ナトリウムまたはアスコルビン酸カリウム」については、腐食防止機能、あるいは、酸化防止機能を有する化合物として既知である(腐食防止剤としてのチオエーテルは引用文献4の【0024】に、ホスフィンは引用文献6の5頁左下欄2行に記載されている。また、樹脂や金属の酸化防止剤としての機能を有するものとしてのヒンダードフェノールは、引用文献4の【0024】に、金属の表面酸化膜の除去や減少のための活性剤としての塩化亜鉛、アスコルビン酸、没食子酸プロピル等の没食子酸アルキルは、引用文献5の【0033】及び【0034】に記載されている。)
しかし、これらの引用文献、さらには、上記2.で記載した引用文献2、3や引用文献7、8にも、これらの化合物が、銀ナノワイヤー網層を構成する銀と容易に結合して銀ナノワイヤ金属表面上に安定複合体を形成する障壁形成腐食防止剤としての機能やH_(2)Sガス捕捉剤としての機能を有していることについての記載はないし、そのことが、本願の優先日前の技術常識であったともいえない。
また、上記の化合物を開示する引用文献4は、太陽熱発電用フィルムミラーに関する技術、引用文献6は、アルカリ電池に関する技術についてのものであり、ナノワイヤに基づく透明導電体に関する技術についてのものである引用文献1とは、技術分野も異なっている。
そうすると、引用発明1において、導電層250中にH_(2)Sによる腐食を防止する腐食防止剤を含有せしめることを当業者が容易に想到し得た場合であっても、腐食防止剤として、引用文献4?6に記載の上記化合物を採用すること(すなわち、引用発明1の透明導電体を、上記相違点2?6に係る本願発明3、5?8の構成を備えたものとすること)を当業者が動機付けられるとはいえない。
一方、本願明細書の記載によれば、光安定剤として機能する化合物を透明導体のOCA層あるいは銀ナノ構造に含有せしめることで、光ばく露された場合の透明導体シートのシート抵抗の経時変動が抑制されることが理解できる。

以上のとおりであるから、本願発明3、5?8は、引用発明1及び引用文献2?8に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

3.本願発明2、4、9?13について
本願発明2、4、9?13は、独立形式の請求項である請求項1、5?8を直接あるいは間接的に引用する請求項に係る発明であるところ、これらの発明はいずれも、本願発明1、5?8の上記相違点1?6のいずれかに係る構成を備えているから、本願発明2、4、9?13と引用発明1とは、少なくとも、上記1.(1)で記載した相違点1?6のいずれかで相違している。
そして、上記相違点1?6についての判断は上記1.及び2.で記載したとおりである。
そうすると、少なくとも上記の相違点1?6のいずれかで引用発明1と相違する本願発明2、4、9?13について、引用発明1及び引用文献2?8に記載の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

4.本願発明25?30について
(1)本願発明25について
ア 対比
上記1.(1)における本願発明1と引用発明1との対比を踏まえて、本願発明25と引用発明1を対比すると、両者の一致点、相違点は次のとおりである。
<一致点>
「光学スタックであって、
基板と、
複数の銀ナノワイヤを有する銀ナノ構造層と、
を備えている、光学スタック。」
<相違点7>
光学スタックについて、本願発明25では、「複数の銀ナノワイヤの酸化または腐食を防止するためのテルペンおよびアスコルビン酸類から選択される1つ以上の光安定剤」を備えることが特定されているのに対し、引用発明1では、かかる特定はない点。

イ 相違点についての判断
相違点7に関し、本願発明25において「複数の銀ナノワイヤの酸化または腐食を防止するための光安定剤」として「テルペン」を用いる場合についての相違点7は、上記1.(1)で記載した相違点1と同じである。
そして、その場合の相違点7についての判断は上記1.(2)で記載したとおりであり、本願発明25は、上記1.(2)で本願発明1について示したのと同様の理由により、引用発明1及び引用文献2?8に記載の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

また、本願発明25において「複数の銀ナノワイヤの酸化または腐食を防止するための光安定剤」として「アスコルビン酸」を使用する場合については、アスコルビン酸が金属の表面酸化膜の除去や減少作用を有することは従来から既知である(引用文献5の【0034】)ものの、当該引用文献、さらには、他の引用文献のいずれにも、アスコルビン酸が銀ナノワイヤー網層を構成する銀と容易に結合して銀ナノワイヤ金属表面上に安定複合体を形成する障壁形成腐食防止剤としての機能、あるいは、H_(2)Sガス捕捉剤としての機能を有していることについての記載はないし、そのことが、本願の優先日前の技術常識であったともいえない。
そうすると、上記1.(2)で記載したとおり、引用発明1において導電層250中にH_(2)Sによる腐食を防止する腐食防止剤を含有せしめることを当業者が容易に想到し得た場合であっても、腐食防止剤として、引用文献5に記載のアスコルビン酸を採用することを当業者が動機付けられるとはいえない。
一方、本願明細書によれば、光安定剤として機能する化合物を透明導体のOCA層あるいは銀ナノ構造に含有せしめることで、光ばく露された場合の透明導体シートのシート抵抗の経時変動が抑制されることが理解できる。
よって、光安定剤として「アスコルビン酸」を採用する場合の本願発明25についても、引用発明1及び引用文献2?8に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはいえない。

(2)本願発明26?30について
本願発明26?30は、請求項25を直接あるいは間接的に引用する請求項に係る発明であるところ、これらの発明はいずれも、本願発明25の上記相違点7に係る構成を備えているから、本願発明26?30と引用発明1とは、少なくとも、上記(1)で記載した相違点7で相違している。
そして、上記相違点7についての判断は上記(1)で記載したとおりである。
そうすると、少なくとも上記の相違点7で引用発明1と相違する本願発明26?30について、引用発明1及び引用文献2?8に記載の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

5.本願発明14?18について
(1)本願発明14について
ア 対比
本願発明14と引用発明2を対比する。
(ア)引用発明2の「透明導電体」は、本願発明14の「光学スタック」に相当する。
(イ)引用発明2の「基板14と、基板14の上に配置される接着層24」及び「基板14の下に配置される反射防止層26」からなる部分は、本願発明14の「第1のサブスタック」に相当する。
(ウ)引用発明2の「(接着層24の上に配置される)銀ナノワイヤー網層を含む導電層12」及び(「導電層12の上に配置される、)反射防止層、防眩、障壁層、および硬質被膜の組み合わせである層22」は、それぞれ、本願発明14の「(第1のサブスタックと前記第2のサブスタックとの間に配置されている)相互に接続された複数の銀ナノワイヤを有する銀ナノ構造層」及び「第2のサブスタック」に相当する。

したがって、本願発明14と引用発明2との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

<一致点>
「光学スタックであって、
第1のサブスタックと、
第2のサブスタックと、
前記第1のサブスタックと前記第2のサブスタックとの間に配置されている相互に接続された複数の銀ナノワイヤを有する銀ナノ構造層と、を備える、
光学スタック。」
<相違点8>
光学スタックについて、本願発明14では、「前記第1のサブスタック、前記第2のサブスタック、および前記複数の銀ナノワイヤを有する銀ナノ構造層のうちの少なくとも1つは、前記複数の銀ナノワイヤの酸化または腐食を防止するための光安定剤を1つ以上備えており」、「前記光安定剤は、テルペンおよびアスコルビン酸類から選択される」と特定されているのに対し、引用発明2では、かかる特定はない点。
<相違点9>
光学スタックについて、本願発明14では、「前記第1のサブスタックおよび前記第2のサブスタックのうちの少なくとも1つは、25℃において10cc/m^(2)*d*atmの酸素透過率を有する酸素障壁膜を含み」と特定されているのに対し、引用発明2では、かかる特定はない点。

イ 相違点についての判断
まず、相違点8について検討する。
相違点8は、上記4.(1)アで、本願発明25と引用発明1との対比で記載した相違点7と、光学スタックを「複数の銀ナノワイヤの酸化または腐食を防止するためのテルペンおよびアスコルビン酸類から選択される1つ以上の光安定剤」を備えるものとする点で一致している。
そして、この相違点の判断については、上記4.(1)イ(及び上記1.(2))で説示したと同様であり、引用発明2において、透明導電体を構成する導電層に腐食防止剤を含有せしめることを当業者が想到した場合であっても、引用文献2?8を参酌しても、腐食防止剤として、引用文献2、3あるいは5に記載の、本願発明14のテルペンあるいはアスコルビン酸類に相当する化合物を採用すること(すなわち、引用発明2の透明導電体を、上記相違点8に係る本願発明14の構成を備えたものとすること)を当業者が動機付けられるとはいえない。
そうすると、相違点9について検討するまでもなく、本願発明14は、引用発明2及び引用文献2?8に記載の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(2)本願発明15?18について
本願発明15?18は、請求項14を直接あるいは間接的に引用する請求項に係る発明であるところ、これらの発明はいずれも、上記相違点8に係る構成を備えているから、本願発明15?18と引用発明2とは、少なくとも、上記(1)アで記載した上記相違点8で相違している。
そして、上記相違点8についての判断は上記(1)イで記載したとおりである。
そうすると、少なくとも上記の相違点8で引用発明2と相違する本願発明15?18について、引用発明2及び引用文献2?8に記載の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

6.本願発明19?24について
(1)本願発明19について
ア 対比
上記5.(1)における本願発明14と引用発明2との対比を踏まえて、本願発明19と引用発明2を対比すると、両者は、次の一致点、相違点を有する。
<一致点>
「光学スタックであって、
第1のサブスタックと、
第2のサブスタックと、
前記第1のサブスタックと前記第2のサブスタックとの間に配置されている相互に接続された複数の銀ナノワイヤを有する銀ナノ構造層と、
を備える光学スタック。」

<相違点8’>
光学スタックについて、本願発明19では、「前記第1のサブスタック、前記第2のサブスタック、および前記複数の銀ナノワイヤを有する銀ナノ構造層のうちの少なくとも1つは、前記複数の銀ナノワイヤの酸化または腐食を防止するための光安定剤を1つ以上備えており」、「前記光安定剤は、テルペンおよびアスコルビン酸類から選択される」と特定されているのに対し、引用発明2では、かかる特定はない点。
<相違点10>
光学スタックについて、本願発明19では、「第1の垂直縁と、前記第1の垂直縁を被覆している第1の縁シール」を備えることが特定されているのに対し、引用発明2では、かかる特定はない点。

イ 相違点についての判断
まず、相違点8’について検討すると、上記相違点8’は、上記5.(1)アで本願発明14と引用発明2との対比で記載した相違点8と同じである。
そして、相違点8’については、上記5.(2)(さらには、上記1.(2)及び4.(1))で説示したと同様の理由によって、引用発明2の透明導電体を、上記相違点8’に係る本願発明19の構成を備えたものとすることを当業者が動機付けられるとはいえない。
そうすると、相違点10について検討するまでもなく、本願発明19は、引用発明2及び引用文献2?8に記載の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない

(2)本願発明20?24について
本願発明20?24は、請求項19を直接あるいは間接的に引用する請求項に係る発明であるところ、これらの発明はいずれも、本願発明19の上記相違点8’に係る構成を備えているから、本願発明20?24と引用発明2とは、少なくとも、上記(1)で記載した相違点8’で相違している。
そして、上記相違点8’についての判断は上記(1)で記載したとおりである。
そうすると、少なくとも上記の相違点8’で引用発明2と相違する本願発明20?24について、引用発明2及び引用文献2?8に記載の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明1?30は、いずれも、当業者が引用文献1に記載の発明及び引用文献2?8に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるということはできない。
したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-08-05 
出願番号 特願2015-558171(P2015-558171)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 青鹿 喜芳  
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 渕野 留香
土屋 知久
発明の名称 光学スタック  
代理人 家入 健  

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