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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  B60N
管理番号 1354053
異議申立番号 異議2018-700645  
総通号数 237 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-09-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-08-06 
確定日 2019-06-21 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6276042号発明「乗物用シート」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6276042号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、〔2?4〕、5、6、10について訂正することを認める。 特許第6276042号の請求項1、5及び8に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第6276042号の請求項1?9に係る特許についての出願は、平成26年1月22日に出願され、平成30年1月19日にその特許権の設定登録がされ、平成30年2月7日に特許掲載公報が発行された。その後、請求項1、5及び8に係る特許について、平成30年8月6日に特許異議申立人小松純により特許異議の申立てがされ、当審は、平成30年12月11日に取消理由を通知した。特許権者は、その指定期間内である平成31年2月12日に意見書の提出及び訂正の請求を行い、その訂正の請求に対して、特許異議申立人は、平成31年4月9日に意見書を提出した。

2.訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
平成31年2月12日付け訂正請求書による訂正請求(以下「本件訂正請求」という。)による訂正の内容は、以下のア?カのとおりである。
ア.訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「前記シートクッションパッドは、前記凹部の下に補強部材を有していること」と記載されているのを、「前記シートクッションパッドは、前記凹部の下に補強部材を有し、前記補強部材は、前記凹部の下に屈曲した屈曲部があること」に訂正する。
イ.訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に「前記表皮は、前記凹部に対応する第1表皮部と、前記凹部に隣接する位置に対応した第2表皮部とを有し、前記第1表皮部と前記第2表皮部とは、別個の部材により構成されていることを特徴とする請求項1に記載の乗物用シート。」と記載されているのを、独立形式に改め、
「シートクッションおよびシートバックを備え、チャイルドシートの後面側に設けられたアームが前記シートクッションと前記シートバックの間に差し込まれることで前記チャイルドシートが取り付けられる乗物用シートであって、
前記シートクッションは、シートクッションパッドと、当該シートクッションパッドに被さった表皮とを有し、
前記シートクッションパッドは、上面の後部に、前記アームを差し込むための凹部を有し、
前記表皮は、前記凹部の表面に沿って前記凹部の全体を覆うように構成され、
前記シートクッションの着座面は、前方から後方に向けて下方に傾斜した形状を有し、
前記凹部の底面は、前記着座面の傾斜に沿って前方から後方に向けて下方に傾斜した部分を有し、
前記シートクッションパッドは、前記凹部の下に補強部材を有し、
前記表皮は、前記凹部に対応する第1表皮部と、前記凹部に隣接する位置に対応した第2表皮部とを有し、前記第1表皮部と前記第2表皮部とは、別個の部材により構成されていることを特徴とする乗物用シート。」に訂正する(請求項2の記載を引用する請求項3も同様に訂正する)。
ウ.訂正事項3
特許請求の範囲の請求項4に「前記底面は、前記シートバックの下端と対向する位置に頂部を有することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の乗物用シート。」と記載されているのを、「前記底面は、前記シートバックの下端と対向する位置に頂部を有することを特徴とする請求項2または請求項3に記載の乗物用シート。」に訂正する。
エ.訂正事項4
特許請求の範囲の請求項5に「前記第1表皮部は、前記底面に対応する底面部と前記側面に対応する側面部とが別個の部材により構成されていること」と記載されているのを、
「前記第1表皮部は、前記底面に対応する底面部と前記側面に対応する側面部とが別個の部材により構成され、
前記底面は、前記シートバックの下端と対向する位置に頂部を有すること」に訂正する。
オ.訂正事項5
特許請求の範囲の請求項6に「前記底面部と側面部とは、前記底面と前記側面との境界に沿って縫い合わされていることを特徴とする請求項5に記載の乗物用シート。」と記載されているのを、独立形式に改め、
「シートクッションおよびシートバックを備え、チャイルドシートの後面側に設けられたアームが前記シートクッションと前記シートバックの間に差し込まれることで前記チャイルドシートが取り付けられる乗物用シートであって、
前記シートクッションは、シートクッションパッドと、当該シートクッションパッドに被さった表皮とを有し、
前記シートクッションパッドは、上面の後部に、前記アームを差し込むための凹部を有し、
前記表皮は、前記凹部の表面に沿って前記凹部の全体を覆うように構成されるとともに、前記凹部に対応する第1表皮部と、前記凹部に隣接する位置に対応した第2表皮部とを有し、
前記第1表皮部と前記第2表皮部とは、別個の部材により構成され、
前記凹部は、底面と、当該底面から立ち上がった側面とを有し、
前記第1表皮部は、前記底面に対応する底面部と前記側面に対応する側面部とが別個の部材により構成され、
前記底面部と側面部とは、前記底面と前記側面との境界に沿って縫い合わされていることを特徴とする乗物用シート。」に訂正する。
カ.訂正事項6
特許請求の範囲の請求項10は、訂正前の請求項4に「前記底面は、前記シートバックの下端と対向する位置に頂部を有することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の乗物用シート。」とあるうち、請求項1を引用するものについて、独立形式に改め、
「シートクッションおよびシートバックを備え、チャイルドシートの後面側に設けられたアームが前記シートクッションと前記シートバックの間に差し込まれることで前記チャイルドシートが取り付けられる乗物用シートであって、
前記シートクッションは、シートクッションパッドと、当該シートクッションパッドに被さった表皮とを有し、
前記シートクッションパッドは、上面の後部に、前記アームを差し込むための凹部を有し、
前記表皮は、前記凹部の表面に沿って前記凹部の全体を覆うように構成され、
前記シートクッションの着座面は、前方から後方に向けて下方に傾斜した形状を有し、
前記凹部の底面は、前記着座面の傾斜に沿って前方から後方に向けて下方に傾斜した部分を有し、
前記シートクッションパッドは、前記凹部の下に補強部材を有し、
前記底面は、前記シートバックの下端と対向する位置に頂部を有することを特徴とする乗物用シート。」と記載し、新たな請求項10にする。

本件訂正請求は、一群の請求項〔1?4、10〕、〔5、6〕に対して請求されたものである。

(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否等

ア.訂正事項1について
(ア)訂正の目的の適否
訂正前の請求項1に係る発明は、凹部の下に設けられる「補強部材」について、形状等を何ら特定していない。
これに対して、訂正後の請求項1においては、「前記補強部材は、前記凹部の下に屈曲した屈曲部がある」のように、凹部の下に配置された補強部材の形状を特定することで、特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ)特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記(ア)の訂正の目的のとおり、訂正事項1は、発明特定事項を上位概念から下位概念にするものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
(ウ)新規事項の有無
訂正事項1は、願書に添付した明細書中の段落【0043】の記載に基づいて導かれる構成である。段落【0043】には、「補強ワイヤ120は、各凹部110の下を通過しており、各着座部の後方の2つの凹部110のうち、・・・(略)・・・左右内側の凹部110の下に、略直角に屈曲した屈曲部122を有している。」と記載されている。屈曲部122を有することの作用効果についても、段落【0043】に「左右内側の凹部110の下に屈曲部122があることで、補強ワイヤ120の剛性をより高くして、凹部110を形成したことによるシートクッションパッド100の剛性低下を効果的に補うことができる。このため、シートクッションパッド100は、4箇所の凹部110を有しているが、十分な剛性を有しており、シートクッションS1のフレームに取り付けるときに取り付けやすく、シートクッションパッド100の不要な歪みも抑制することができる。」と記載されている。 したがって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
(エ)独立特許要件
本件においては、訂正前の請求項1について特許異議の申立てがされているので、訂正前の請求項1に係る訂正事項1に関して、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。

イ.訂正事項2について
(ア)訂正の目的の適否
訂正事項2は、訂正前の請求項2の記載が訂正前の請求項1の記載を引用する記載であったものを、請求項間の引用関係を解消し、請求項1の記載を引用しないものとし、独立形式請求項へ改めるための訂正であって、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とする訂正である。
(イ)特許請求の範囲の拡張・変更の存否、新規事項の有無
訂正事項2は、実質的な内容の変更を伴うものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項に適合するものである。
(ウ)独立特許要件
訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とする訂正であって、同ただし書第1号又は第2号に掲げる事項を目的とする訂正ではないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。

ウ.訂正事項3、6について
(ア)訂正の目的の適否
訂正事項3、6は、いずれも訂正前の請求項4に係る訂正である。
訂正事項6は、訂正前の請求項4の記載が訂正前の請求項1から請求項3のいずれか1項の記載を引用する記載であったものを、請求項間の引用関係を解消し、請求項1の記載を引用する場合の構成について独立形式請求項の請求項10へ改めるための訂正であって、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とする訂正である。
また、訂正事項3は、上記訂正事項6の訂正前の請求項4の請求項1の記載を引用する場合の構成について独立形式請求項へ改める訂正にともなって、訂正前の請求項4が引用する請求項の中から請求項1を除いて、請求項2または請求項3に改める訂正であって、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とする訂正である。
(イ)特許請求の範囲の拡張・変更の存否、新規事項の有無
訂正事項3、6は、実質的な内容の変更を伴うものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項に適合するものである。
(ウ)独立特許要件
訂正事項3、6は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」、及び、第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とする訂正であって、同ただし書第1号又は第2号に掲げる事項を目的とする訂正ではないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。

エ.訂正事項4について
(ア)訂正の目的の適否
訂正前の請求項5に係る発明は、シートクッションパッドの凹部の底面について形状等を何ら特定していない。
これに対して、訂正後の請求項5においては、「前記底面は、前記シートバックの下端と対向する位置に頂部を有する」のように、シートバックの下端と対向するシートクッションパッドの凹部の形状を特定することで、特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから、訂正事項4は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ)特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記(ア)の訂正の目的のとおり、訂正事項4は、発明特定事項を上位概念から下位概念にするものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
(ウ)新規事項の有無
訂正事項4は、願書に添付した明細書中の段落【0040】および図2の記載に基づいて導かれる構成である。段落【0040】には、「凹部110の底面111は、前後方向中央部に左右に延びる頂部115を有し、頂部115より前側の半分111Aが略水平の面となっており、頂部115より後側の半分111Bが着座面S11,S12の傾斜に沿って前方から後方に向けて下方に傾斜している。すなわち、底面111の頂部115の後側は、着座面S11,S12と略平行となっている。そして、底面111の頂部115は、チャイルドシートCSを取り付ける前のシートバックS2の下端S21と対向している。すなわち、底面111の頂部115は、シートバックS2の下端S21の略真下に位置している。」と記載されている。頂部115を有することの作用効果についても、段落【0049】に「また、シートバックS2の下端S21と凹部110の底面111の頂部115が対向しており、頂部115の後方でシートバックS2と底面111の隙間は広がっているので、アーム30がシートバックS2と底面111により不要に拘束されることがなく、アーム30を凹部110にスムーズに差し込むことができる。さらに、車両用シートSの左右内側の凹部110は、その内側にスリット130があるので、下方に撓み易く、アーム30を比較的小さな力で挿入することができる。」と記載されている。
したがって、訂正事項4は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
(エ)独立特許要件
本件においては、訂正前の請求項5について特許異議の申立てがされているので、訂正前の請求項5に係る訂正事項4に関して、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。

オ.訂正事項5について
(ア)訂正の目的の適否
訂正事項5は、訂正前の請求項6の記載が訂正前の請求項5の記載を引用する記載であったものを、請求項間の引用関係を解消し、請求項5の記載を引用しないものとし、独立形式請求項へ改めるための訂正であって、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とする訂正である。
(イ)特許請求の範囲の拡張・変更の存否、新規事項の有無
訂正事項5は、実質的な内容の変更を件うものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項に適合するものである。
(ウ)独立特許要件
訂正事項5は、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とする訂正であって、同ただし書第1号又は第2号に掲げる事項を目的とする訂正ではないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。

(3)小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、〔2?4〕、5、6、10について訂正することを認める。

3.訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1、5及び、訂正されていない請求項8に係る発明(以下「本件発明1」「本件発明5」「本件発明8」等という。)は、訂正請求書に添付された特許請求の範囲の請求項1、5及び8に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認める。

「【請求項1】
シートクッションおよびシートバックを備え、チャイルドシートの後面側に設けられたアームが前記シートクッションと前記シートバックの間に差し込まれることで前記チャイルドシートが取り付けられる乗物用シートであって、
前記シートクッションは、シートクッションパッドと、当該シートクッションパッドに被さった表皮とを有し、
前記シートクッションパッドは、上面の後部に、前記アームを差し込むための凹部を有し、
前記表皮は、前記凹部の表面に沿って前記凹部の全体を覆うように構成され、
前記シートクッションの着座面は、前方から後方に向けて下方に傾斜した形状を有し、
前記凹部の底面は、前記着座面の傾斜に沿って前方から後方に向けて下方に傾斜した部分を有し、
前記シートクッションパッドは、前記凹部の下に補強部材を有し、前記補強部材は、前記凹部の下に屈曲した屈曲部があることを特徴とする乗物用シート。」
「【請求項5】
シートクッションおよびシートバックを備え、チャイルドシートの後面側に設けられたアームが前記シートクッションと前記シートバックの間に差し込まれることで前記チャイルドシートが取り付けられる乗物用シートであって、
前記シートクッションは、シートクッションパッドと、当該シートクッションパッドに被さった表皮とを有し、
前記シートクッションパッドは、上面の後部に、前記アームを差し込むための凹部を有し、
前記表皮は、前記凹部の表面に沿って前記凹部の全体を覆うように構成されるとともに、前記凹部に対応する第1表皮部と、前記凹部に隣接する位置に対応した第2表皮部とを有し、
前記第1表皮部と前記第2表皮部とは、別個の部材により構成され、
前記凹部は、底面と、当該底面から立ち上がった側面とを有し、
前記第1表皮部は、前記底面に対応する底面部と前記側面に対応する側面部とが別個の部材により構成され、
前記底面は、前記シートバックの下端と対向する位置に頂部を有することを特徴とする乗物用シート。」
「【請求項8】
シートクッションおよびシートバックを備え、チャイルドシートの後面側に設けられたアームが前記シートクッションと前記シートバックの間に差し込まれることで前記チャイルドシートが取り付けられる乗物用シートであって、
前記シートクッションは、シートクッションパッドと、当該シートクッションパッドに被さった表皮とを有し、
前記シートクッションパッドは、上面の後部に、前記アームを差し込むための凹部を有し、
前記表皮は、前記凹部の表面に沿って前記凹部の全体を覆うように構成されるとともに、前記凹部に対応する第1表皮部と、前記凹部に隣接する位置に対応した第2表皮部とを有し、
前記第1表皮部と前記第2表皮部とは、別個の部材により構成され、
前記第1表皮部は、前記第2表皮部よりも摩擦抵抗が小さく、
前記凹部は、底面と、当該底面から立ち上がった側面とを有し、
前記第1表皮部は、前記底面に対応する底面部と前記側面に対応する側面部とが別個の部材により構成されていることを特徴とする乗物用シート。」

4.取消理由通知に記載した取消理由について
(1)取消理由の概要
訂正前の請求項1及び5に係る特許に対して、当審が平成30年12月11日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

本件特許の請求項1、5に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。


1.特開2000-296733号公報(甲第1号証)
2.特開2002-336091号公報(甲第4号証)
3.特開2013-67344号公報(甲第6号証)
4.実願昭63-105030(実開平2-25350号)のマイクロフィルム(甲第7号証)
5.実願平2-66461(実開平4-24855号)のマイクロフィルム(甲第8号証)

(2)刊行物の記載
ア.刊行物1の記載
本件特許に係る出願前に頒布された刊行物1には、車両用シートに関して、図面とともに、次の記載がある。(下線は、当審で付与。)
(a)「【0008】
【発明の実施の形態】次に本発明の第1の実施の形態を図1?図5に基づいて詳しく説明する。図2及び図4に示すように、車両用シート11は乗員の尻部を受けるシートクッション12と乗員の背部を受けるシートバック13を備える。シートクッション12とシートバック13はリクライニングアジャスタ14を介して連結され、リクライニングアジャスタ14はシートクッション12の後端とシートバック13の下端を連結し、シートバック13の傾斜角度を調節可能に構成される。この車両用シート11は車両のフロアパネル16(図1及び図3)にシートトラック17を介して前後方向にスライド可能に取付けられる。
【0009】図1及び図3に示すように、シートトラック17はシートレッグ17aを介して車両の進行方向に延びてフロアパネル16に取付けられた固定レール17bと、固定レール17bに摺動可能に挿入されシートクッション12のシートクッションフレーム12aにブラケット17cを介して取付けられた可動レール17dとを有する。シートトラック17には図示しないが調節レバーが設けられ、この調節レバーを操作することにより前後方向にスライドさせてシート11を所望の位置でロックできるようになっている。
【0010】シートクッション12はシートクッションフレーム12aとシートクッションパッド12bとシートクッション表皮12cにより構成され、シートクッションフレーム12aは鋼材により形成されシートクッションスプリング12dが架設される。このスプリング12dが架設されたフレーム12aにシートクッションパッド12bが載置され、フレーム12a及びパッド12bを更にシートクッション表皮12cにより被包することによりシートクッション12が作られる。シートバック13はシートバックフレーム13aとシートバックパッド13bとシートバック表皮13cにより構成され、シートバックフレーム13aにはシートバックスプリング13dが架設される。このスプリング13dが架設されたフレーム13aにシートバックパッド13bが載置され、フレーム13a及びパッド13bを更にシートバック表皮13cにより被包することによりシートバック13が作られる。」
(b)「【0011】図1及び図3?図5に示すように、シートクッション12の後端のシートクッションフレーム12aにはアンカ18が固着され、そのアンカ18に対応するシートクッション12の後端には第1切欠き19が形成される。アンカ18は上部が第1切欠き19の内部に突出するように下部がフレーム12aに固着される。図5に詳しく示すように、この実施の形態におけるアンカ18は鋼棒を折曲げ加工することにより作られ、第1切欠き19の内部に突出する鋼棒の上部中央部分にはシート11の幅方向に延びかつチャイルドシート21が係止する水平棒部18aが形成される。
【0012】図3に示すように、チャイルドシート21の後部下端にはこの水平棒部18aに係止可能に構成された被係止部21aが設けられる。図示しないが、被係止部21aの先端にはアンカ21の水平棒部18aに嵌入する凹みが形成され、その凹みの内部にはアンカ18の水平棒部18aに係止するラチェットが設けられる。この図示しないラチェットをその水平棒部18aに係止させることにより、被係止部21aは第1切欠き19の内部に突出されたアンカ18に係止し、このように被係止部21aをアンカ18に係止させることにより、チャイルドシート21は車両用シート11に固定可能に構成される。
【0013】本発明の特徴ある構成は、一端が第1切欠き19の前端近傍のシートクッション12に幅方向に設けられ第1切欠き19を被覆可能な大きさを有する第1カバー表皮22と、第1切欠き19を被覆状態の第1カバー表皮22の他端をシートクッション12の後端に離脱可能に係止する係止手段23とを備えたところにある。この実施の形態における第1カバー表皮22はシートクッション表皮12cと同一材料により作られ、図1及び図3の拡大図に詳しく示すように、シートクッション表皮12cに一端を縫いつけることによりその一端がシートクッション12に幅方向に設けられる。また、係止手段は面ファスナ23であり、図1の拡大図に示すように、面ファスナ23は第1切欠き19を被覆状態の第1カバー表皮22の他端をシートクッション12の後端に離脱可能に係止する。」
(c)「【0014】このように構成された車両用シートの動作を説明する。チャイルドシート21を車両用シート11に固定する状態を図3及び図4に示す。この状態は、係止手段である面ファスナ23(図1)を分離してシートクッション12の後端から第1カバー表皮22の他端を離脱し、第1カバー表皮22の一端を中心に折返してシートクッション12の上にその第1カバー表皮22を載せた状態である。第1カバー表皮22の折返し操作にはリクライニングアジャスタ14によりシートバック13を図1の一点鎖線で示すように倒した状態で行ってもよい。図3に示すように、第1カバー表皮22をシートクッション12の上に載せた後、チャイルドシート21を取付けようとする者はそのチャイルドシート21を前方から抱えるように把持して、その後端下部に設けられた被係止部21aを図の矢印で示すように第1切欠き19に挿入する。被係止部21aを第1切欠き19に挿入すると、被係止部21aの先端が図示しないラチェットによりアンカ18の水平棒部18aに係止され、チャイルドシート21は車両用シート11に固定される。この際、第1カバー表皮22はチャイルドシート21とシートクッション12との間に介挿され、第1カバー表皮22はチャイルドシート21が固定されることによるシートクッション12の傷付きを防止する。
【0015】一方、チャイルドシート21を車両用シート11から取外した場合には、チャイルドシート21を取外すことにより出現する第1切欠き19を第1カバー表皮22により被覆する。第1切欠き19の第1カバー表皮22による被覆は、第1カバー表皮22の一端を中心に折返して他端をシートクッション12の後方にまで移動させることにより行う。図1に示すように折返された第1カバー表皮22の他端をシートクッション12の後端に面ファスナ23により係止すると、第1カバー表皮22は第1切欠き19を被覆し、かつ被覆状態で固定される。この場合、リクライニングアジャスタ14(図4)によりシートバック13を図1の一点鎖線で示すように倒した状態で行っても良い。図2に示すように、第1カバー表皮22が第1切欠き19を被覆すると、その第1切欠き19が乗員の視野に入ることはなく、チャイルドシート21の不使用時における車両用シート11の見栄えを向上することができる。」

(d)【図1】?【図5】には、記載事項(b)の「第1切欠き19」が、シートクッション12の凹部として図示され、また、当該凹部は、底面と、当該底面から立ち上がった側面とを有した形状である。
(e)【図3】には、「第1カバー表皮が折返されて切欠きが出現した車両用シートを示す図4のB-B線断面図」が記載されており、記載事項(b)の「チャイルドシート21の後部下端には・・被係止部21aが設けられる。・・このように被係止部21aをアンカ18に係止させることにより、チャイルドシート21は車両用シート11に固定可能に構成される。」とから、チャイルドシート21の後面側に設けられたアーム(図番無し)がシートクッション12とシートバック13の間の第1切欠き19に差し込まれ、被係止部21aをアンカ18に係止させることによりチャイルドシート21は車両用シート11に固定可能な構成が認定できる。
また【図3】には、シートクッション12の着座面が、前方から後方に向けて下方に傾斜した形状で図示され、第1切欠き19の底面も着座面と連続的に前方から後方に向けて下方に傾斜した形状で図示されている。
また、第1切欠き19の下方にはシートクッション12の後端のシートクッションフレーム12aが図示されている。


以上の記載及び図示内容によれば、刊行物1には以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。(なお、当審で「A:」等に分説した。)
「A:乗員の尻部を受けるシートクッション12と乗員の背部を受けるシートバック13を備える車両用シート11であって、
チャイルドシート21の後面側に設けられたアーム(図番無し)がシートクッション12とシートバック13の間の第1切欠き19に差し込まれ、被係止部21aをアンカ18に係止させることによりチャイルドシート21は車両用シート11に固定可能に構成され、
一端が第1切欠き19の前端近傍のシートクッション12に幅方向に設けられ第1切欠き19を被覆可能な大きさを有する第1カバー表皮22と、第1切欠き19を被覆状態の第1カバー表皮22の他端をシートクッション12の後端に離脱可能に係止する係止手段23とを備え、
B:シートクッション12はシートクッションフレーム12aとシートクッションパッド12bとシートクッション表皮12cにより構成され、
C:シートクッション12の後端のシートクッションフレーム12aにはアンカ18が固着され、そのアンカ18に対応するシートクッション12の後端には第1切欠き19が形成され、第1切欠き19は、シートクッション12の凹部であり、
D:フレーム12a及びパッド12bを更にシートクッション表皮12cにより被包することによりシートクッション12が作られ、
E:前記シートクッション12の着座面は、前方から後方に向けて下方に傾斜した形状を有し、
F:第1切欠き19の底面も着座面と連続的に前方から後方に向けて下方に傾斜した形状であり、
G:第1切欠き19の下方にはシートクッション12の後端のシートクッションフレーム12aがあり、
J:前記凹部は、底面と、当該底面から立ち上がった側面とを有する
車両用シート11。」

イ.刊行物2の記載
本件特許に係る出願前に頒布された刊行物2には、自動車のリア・シートに用いるリア・シート・クッションに関して、図面とともに、次の記載がある。
(a)「【0006】・・リア・シート・クッション・パッド12が、そのフレーム・リア・ワイヤ17およびリア・トップ・クロス・ワイヤ18の間で左右の着座面14、14のそれぞれに対応してパッド・リア22に一対の通し穴23、23および23、23を左右方向に所定の間隔を置いて前から後に通り抜けて開口し・・」
(b)「【0009】・・チャイルド・シート(図示せず)がロック装置(図示せず)をその通し穴23、23に通して差し込んでその乗用車のそのボディ・フロア30のチャイルド・シート・アンカー32、32にかみ合わせて固定可能にされる。そのチャイルド・シートはそのロック装置をそのフレーム・リア・ワイヤ17とそのリア・トップ・クロス・ワイヤ18とに案内させてそのロック装置をその通し穴23、23に円滑に差し込まれ、そして、そのロック装置をそのチャイルド・シート・アンカー32、32にかみ合わせてそのリア・シート・クッション10のその着座面14上に取り付ける。一方、そのインナ・ベルト引出し口24、24は、そのフレーム・リア・ワイヤ17、リア・トップ・クロス・ワイヤ18、およびセンタ・ワイヤ19で穴回りを補強され、特に、そのセンタ・ワイヤ19で境界部分を補強され、そして、その引出し口24、24、すなわち、穴の形状崩れが防止されて穴相互の干渉が避けられる。」
(c)図1?4には、チャイルド・シートが差し込まれる通し穴23の下にフレーム・リア・ワイヤ17、上にリア・トップ・クロス・ワイヤ18を有したリア・シート・クッション・パッド12が図示されている。


ウ.刊行物3の記載
本件特許に係る出願前に頒布された刊行物3には、シートのバックル収納構造に関して、図面とともに、次の記載がある。
(a)「【0017】
図1,図4,図8に示すように、シートクッション2の表面の中央後部寄りの位置に、上側が開放した下方に凹む角穴状のバックル収納凹部8が設けられ、このバックル収納凹部8内に、後席1の左右に着座する乗員用のシートベルト装置50の2つのバックル9が左右に並んで収納される(図8には左右一方のバックル9のみを示してある)。バックル9にはシートベルト装置50のタングが嵌合する。」
(b)「【0023】
前記ゴムバンド15は、バックル収納凹部8の底部8Tのシート後方側Rrの端部とバックル収納凹部8のシート後方側Rrの側壁8Sとの合わせ部13に共縫いされている。バックル収納凹部8を形成する場合、バックル収納凹部8の側壁8Sの上端部をシートトリム7に縫製する。また、底部8Tの周部を折り曲げて、バックル収納凹部8の側壁8Sの下端部に縫製する。その際、前記底部8Tの端部を側壁8Sの下端部に重ならせ、帯状のゴムバンド素材の長手方向両端部と、底部8Tと、側壁8Sの下端部とを共縫いする。図5の符号Fは縫着部である。」

エ.刊行物4の記載
本件特許に係る出願前に頒布された刊行物4には、シートベルト用格納装置に関して、第1図および第2図に、リアシートクッション1の後端付近の中央部上面に、シートベルトSを格納するための格納凹部6が設けられ、格納凹部6に隣接する部位は別のシートカバー2により覆われ、格納凹部6の前立壁面6a、後立壁面6b、左右立壁面6c、6dはそれぞれ、前立壁面用カバー7、後立壁面用カバー8、左壁面用カバー9、および右壁面用カバー10で被覆されたものが記載されている。


オ.刊行物5の記載
本件特許に係る出願前に頒布された刊行物5には、自動車用シートベルトのバツクル格納構造に関して、第2図および第3図に、リアシートクッション12の凹部19の内面が、表皮片20a、20b、24aで被覆され、これらの表皮片が別個に形成されたものが記載されている。


(3)当審の判断
(3-1)本件発明1について
ア.対比
(a)引用発明の「乗員の尻部を受けるシートクッション12」は、本件発明1の「シートクッション」に相当し、以下同様に、
「乗員の背部を受けるシートバック13」は、「シートバック」に、
「チャイルドシート21」は、「チャイルドシート」に、
「チャイルドシート21の後面側に設けられたアーム(図番無し)がシートクッション12とシートバック13の間に差し込まれ、被係止部21aをアンカ18に係止させることによりチャイルドシート21は車両用シート11に固定可能」であることは、「チャイルドシートの後面側に設けられたアームが前記シートクッションと前記シートバックの間に差し込まれることで前記チャイルドシートが取り付けられる」ことに相当する。
そして、引用発明の「乗員の尻部を受けるシートクッション12と乗員の背部を受けるシートバック13を備える車両用シート11」は、「チャイルドシート21の後面側に設けられたアーム(図番無し)がシートクッション12とシートバック13の間に差し込まれ、被係止部21aをアンカ18に係止させることによりチャイルドシート21は車両用シート11に固定可能に構成され」たものであるので、本件発明1の「シートクッションおよびシートバックを備え、チャイルドシートの後面側に設けられたアームが前記シートクッションと前記シートバックの間に差し込まれることで前記チャイルドシートが取り付けられる乗物用シート」に相当する。
(b)引用発明の「シートクッションパッド12b」は、本件発明1の「シートクッションパッド」に相当し、以下同様に、
「シートクッション表皮12c」は、「シートクッションパッドに被さった表皮」に相当する。
そして、引用発明の「シートクッション12はシートクッションフレーム12aとシートクッションパッド12bとシートクッション表皮12cにより構成され」たことは、本件発明1の「前記シートクッションは、シートクッションパッドと、当該シートクッションパッドに被さった表皮とを有し」たことに相当する。
(c)引用発明のシートクッション12は、「シートクッションフレーム12aとシートクッションパッド12bとシートクッション表皮12cにより構成され」たものであるので、シートクッション12の凹部は、実質的にシートクッションパッド12bに形成された凹部である。
そうすると、引用発明の「シートクッション12の後端には第1切欠き19が形成され、第1切欠き19は、シートクッション12の凹部であ」る構成は、本件発明1の「前記シートクッションパッドは、上面の後部に、前記アームを差し込むための凹部を有し」た構成に相当する。
(d)引用発明の「前記シートクッション12の着座面は、前方から後方に向けて下方に傾斜した形状を有し」た構成は、本件発明1の「前記シートクッションの着座面は、前方から後方に向けて下方に傾斜した形状を有し」た構成に相当する。
(e)引用発明の「第1切欠き19の底面も着座面と連続的に前方から後方に向けて下方に傾斜した形状であ」ることは、本件発明1の「前記凹部の底面は、前記着座面の傾斜に沿って前方から後方に向けて下方に傾斜した部分を有し」た構成に相当する。

したがって、本件発明1と引用発明とは、
一致点:
「シートクッションおよびシートバックを備え、チャイルドシートの後面側に設けられたアームが前記シートクッションと前記シートバックの間に差し込まれることで前記チャイルドシートが取り付けられる乗物用シートであって、
前記シートクッションは、シートクッションパッドと、当該シートクッションパッドに被さった表皮とを有し、
前記シートクッションパッドは、上面の後部に、前記アームを差し込むための凹部を有し、
前記シートクッションの着座面は、前方から後方に向けて下方に傾斜した形状を有し、
前記凹部の底面は、前記着座面の傾斜に沿って前方から後方に向けて下方に傾斜した部分を有した乗物用シート。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1:表皮が、本件発明1は「前記凹部の表面に沿って前記凹部の全体を覆うように構成され」たものであるのに対して、引用発明は、その点が不明である点。

相違点2:本件発明1は「前記シートクッションパッドは、前記凹部の下に補強部材を有し、前記補強部材は、前記凹部の下に屈曲した屈曲部がある」ものであるのに対して、引用発明のシートクッションパッド12bは、補強部材を有してない点。

イ.判断
事案に鑑み上記相違点2から検討する。
(a)引用発明の車両用シートは、「第1切欠き19の下方にはシートクッション12の後端のシートクッションフレーム12aがあり」、シートクッションフレーム12aは、シートクッションパッドよりも強度が高く、補強する機能を有するとはいえるものの、シートクッションフレーム12aとシートクッションパッド12bとは別のものであり、さらに、シートクッションフレーム12aが第1切欠き19の下に屈曲した屈曲部があるものでもないので、引用発明は、本件発明1の「前記シートクッションパッドは、前記凹部の下に補強部材を有し、前記補強部材は、前記凹部の下に屈曲した屈曲部がある」に相当する構成を備えていない。
(b)そこで、引用発明のシートクッションパッド12bを「前記シートクッションパッドは、前記凹部の下に補強部材を有し、前記補強部材は、前記凹部の下に屈曲した屈曲部がある」構成とすることが、当業者が容易に想到し得るものであるか否か検討する。
(c)刊行物2には、自動車のリア・シートに用いるリア・シート・クッションに関して、上記「(2)イ.」の(a)(b)が記載され、図1?4にはチャイルド・シートが差し込まれる通し穴23の下にフレーム・リア・ワイヤ17、上にリア・トップ・クロス・ワイヤ18を有したリア・シート・クッション・パッド12が図示されている。
しかし、図2?4に図示されているフレーム・リア・ワイヤ17は、チャイルド・シートが差し込まれる通し穴23の下に屈曲部があるものではない。
(d)刊行物2記載の「フレーム・リア・ワイヤ17」は、補強機能を備えるものであって、本件発明1の「補強部材」に相当するものであり、刊行物2記載の「チャイルド・シートが差し込まれる通し穴23」と、本件発明1の「アームを差し込むための凹部」とは、チャイルドシートのアームを差し込むための部分である点で共通するものであり、刊行物2記載の「通し穴23の下にフレーム・リア・ワイヤ17・・を有したリア・シート・クッション・パッド12」と、本件発明1の「シートクッションパッドは、前記凹部の下に補強部材を有している」構成とは、「シートクッションパッドは、アームを差し込むための部分の下に補強部材を有している」構成で共通するものである。
(e)また、刊行物2記載の「通し穴23」は、リア・シート・クッション・パッドのチャイルド・シートが差し込まれる部分である点で、引用発明の「チャイルドシート21・・が・・差し込まれ、被係止部21aをアンカ18に係止させることによりチャイルドシート21は車両用シート11に固定可能に構成され」る「シートクッション12の・・第1切欠き19」と共通するものであり、刊行物2記載の「通し穴23の下にフレーム・リア・ワイヤ17・・を有したリア・シート・クッション・パッド12」は、チャイルド・シートが差し込まれる部分を備えたシートクッションのパッドである点で、引用発明の「シートクッションパッド12b」と共通するものである。
そして、引用発明のシートクッション12のチャイルド・シートが差し込まれる部分である第1切欠き19部分も、刊行物2記載の「チャイルド・シートはそのロック装置をそのフレーム・リア・ワイヤ17とそのリア・トップ・クロス・ワイヤ18とに案内させてそのロック装置をその通し穴23、23に円滑に差し込まれ」と同様に円滑に差し込めることが望ましいといえるものであるので、引用発明の「シートクッションパッド12b」を刊行物2記載のもののように、チャイルド・シートが差し込まれる部分(本件発明1の「凹部」に対応する部分)の下にフレーム・リア・ワイヤ17(本件発明1の「補強部材」に相当)を有したものとすることの動機付けも存在する。
しかし、刊行物2記載のフレーム・リア・ワイヤ17は、チャイルド・シートが差し込まれる通し穴23(本件発明1の「凹部」と、「アームを差し込むための部分」である点で共通する部分)の下に屈曲部がないものであって、本件発明1の「補強部材は、前記凹部の下に屈曲した屈曲部がある」に相当する構成を備えたものではない。
さらに、本件発明1の「前記シートクッションパッドは、前記凹部の下に補強部材を有し、前記補強部材は、前記凹部の下に屈曲した屈曲部がある」構成は、刊行物3-5にも記載も示唆もされていない。
(f)特許異議申立人は、平成31年4月9日付け意見書「3 (1-3)」において、「相違点について、甲第5号証(特開2001-199268号)には、以下のように記載されている。
『【0009】本例のチャイルドシート10は、図示のように、チャイルドシート本体11と、チャイルドシート本体11の後部2個所に設けられたコネクタ部13を備えている。一方、チャイルドシート10をシート本体1に装着するときには、図に示す2本の右上向き矢印で示すように、コネクタ部13をシートクッション2のスリット部4に挿入することにより行う。これにより、コネクタ部13が後述する固定バーに係合して、チャイルドシート10がシート本体1に固定されることとなる。』
『【0011】クッションフレーム21の後部車幅方向に延びるフレーム上部には、補強部材24が例えば溶接により固着される。ここで補強部材24の固着先は、クッションフレーム21に限定されることはなく、例えば、図示しないバックシートフレームあるいはフロアに固着してもよい。また、図2(a)に示すように、補強部材24には所定距離を隔てて2個所にガイド部25が設けられており、補強部材24の上部には各ガイド部25を下方に臨むように固定バー26が例えば溶接によりそれぞれ固定されている。
【0012】ガイド部25は、固定バー26にチャイルドシート10のコネクタ部13を導くもので、例えば、断面がコの字状の補強部材24の所定位置に切り込みを入れ、この切り込み部を内側に折り込むことによって製作することができる。また、ガイド部25の前方であってスリット部4に対応する位置には、図のようにプレート27を配置するのが好ましい。プレート27は例えば樹脂製であり、シートクッション2に縫い付けられる。これにより、チャイルドシート10のコネクタ部13が容易にガイド部25及び固定バー26に導かれる。』
以上の記載によれば、スリット部4が、凹部(構成要件C)に相当し、クッションシートフレーム21とは別個の補強部材24が、図3(B)に示すように、スリット部4の下に設けられている。
補強部材24は、断面コの字状であり、図2に示すように、車両幅方向に直交する車両前後方向の断面がコの字状であり、この点において、車両幅方向でなく、車両前後方向に明らかに屈曲部を有する。」旨主張している。
甲第5号証の図2に記載されている補強部材24は、固定バー26にチャイルドシート10のコネクタ部13を導くガイド部25以外の箇所において、図示上方に2箇所の屈曲部を備えたものである。
そうすると、甲第5号証の補強部材24の屈曲部は、特許異議申立人が「凹部(構成要件C)に相当」と主張する「スリット部4」の側方に位置するものであって、本件発明1の「前記凹部の下に屈曲した屈曲部がある」構成をなすものではなく、仮に、引用発明のシートクッション12の凹部である第1切欠き19を、甲第5号証の「断面がコの字状の補強部材24の所定位置に切り込みを入れ」たもので構成したとしても、本件発明1の「前記シートクッションパッドは、前記凹部の下に補強部材を有し、前記補強部材は、前記凹部の下に屈曲した屈曲部がある」構成にはならない。

そうすると、相違点1について検討するまでもなく、本件発明1は、当業者であっても引用発明、刊行物2-5に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものといえない。

(3-2)本件発明5について
ア.対比
(a)上記「(3-1)ア.」と同様に、引用発明の「乗員の尻部を受けるシートクッション12」は、本件発明5の「シートクッション」に相当し、以下同様に、
「乗員の背部を受けるシートバック13」は、「シートバック」に、
「チャイルドシート21」は、「チャイルドシート」に、
「チャイルドシート21の後面側に設けられたアーム(図番無し)がシートクッション12とシートバック13の間に差し込まれ、被係止部21aをアンカ18に係止させることによりチャイルドシート21は車両用シート11に固定可能」であることは、「チャイルドシートの後面側に設けられたアームが前記シートクッションと前記シートバックの間に差し込まれることで前記チャイルドシートが取り付けられる」ことに相当する。
そして、引用発明の「乗員の尻部を受けるシートクッション12と乗員の背部を受けるシートバック13を備える車両用シート11」は、本件発明5の「シートクッションおよびシートバックを備え、チャイルドシートの後面側に設けられたアームが前記シートクッションと前記シートバックの間に差し込まれることで前記チャイルドシートが取り付けられる乗物用シート」に相当する。
(b)上記「(3-1)ア.」と同様に、引用発明の「シートクッションパッド12b」は、本件発明5の「シートクッションパッド」に相当し、以下同様に、
「シートクッション表皮12c」は、「シートクッションパッドに被さった表皮」に相当する。
そして、引用発明の「シートクッション12はシートクッションフレーム12aとシートクッションパッド12bとシートクッション表皮12cにより構成され」たことは、本件発明5の「前記シートクッションは、シートクッションパッドと、当該シートクッションパッドに被さった表皮とを有し」たことに相当する。
(c)上記「(3-1)ア.」と同様に、引用発明の「シートクッション12の後端には第1切欠き19が形成され、第1切欠き19は、シートクッション12の凹部であ」る構成は、本件発明5の「前記シートクッションパッドは、上面の後部に、前記アームを差し込むための凹部を有し」た構成に相当する。
(d)引用発明の「前記凹部は、底面と、当該底面から立ち上がった側面とを有する」構成は、本件発明5の「前記凹部は、底面と、当該底面から立ち上がった側面とを有する」構成に相当する。

したがって、本件発明5と引用発明とは、
一致点:
「シートクッションおよびシートバックを備え、チャイルドシートの後面側に設けられたアームが前記シートクッションと前記シートバックの間に差し込まれることで前記チャイルドシートが取り付けられる乗物用シートであって、
前記シートクッションは、シートクッションパッドと、当該シートクッションパッドに被さった表皮とを有し、
前記シートクッションパッドは、上面の後部に、前記アームを差し込むための凹部を有し、
前記凹部は、底面と、当該底面から立ち上がった側面とを有する
乗物用シート。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

相違点3:表皮が、本件発明5は「前記凹部の表面に沿って前記凹部の全体を覆うように構成されるとともに、前記凹部に対応する第1表皮部と、前記凹部に隣接する位置に対応した第2表皮部とを有し、
前記第1表皮部と前記第2表皮部とは、別個の部材により構成され」、「前記第1表皮部は、前記底面に対応する底面部と前記側面に対応する側面部とが別個の部材により構成され」ているものであるのに対して、引用発明は、その点が不明である点。

相違点4:底面が、本件発明5は「シートバックの下端と対向する位置に頂部を有する」ものであるのに対して、引用発明は、当該構成を備えない点。

イ.判断
事案に鑑み上記相違点4から検討する。

本件発明5の「シートバックの下端と対向する位置に頂部を有する」構成は、刊行物2-5にも記載も示唆もされていない。

そうすると、相違点3について検討するまでもなく、本件発明5は、当業者であっても引用発明、刊行物2-5に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものといえない。

5.取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)特許異議申立人は、特許異議申立書において、訂正前の請求項1、5及び8に係る発明について、
甲第1号証(特開2000-296733号公報)、
甲第2号証(特開2002-337579号公報)、
甲第3号証(特開2001-171403号公報)、
甲第4号証(特開2002-336091号公報)、
甲第5号証(特開2001-199268号公報)、
甲第6号証(特開2013-67344号公報)、
甲第7号証(実願昭63-105030(実開平2-25350号)のマイクロフィルム)、
甲第8号証(実願平2-66461(実開平4-24855号)のマイクロフィルム)、
甲第9号証(特開2001-233104号公報)、
甲第10号証(特開平11-244089号公報)、
甲第11号証(特開2009-292426号公報)、
甲第12号証(特開2008-149005号公報)、
を提出して、
(a)請求項1について
本件特許発明1は、甲1発明および周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
本件特許発明1は、甲3発明、甲1発明および周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(b)請求項5について
本件特許発明2は、甲1発明および周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
本件特許発明2は、甲3発明、甲1発明および周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(c)請求項8について
本件特許発明3は、甲1発明および周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
本件特許発明3は、甲3発明、甲1発明および周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
旨主張するので当該主張について検討する。

(2)請求項1に係る主張についての検討
本件発明1の「前記シートクッションパッドは、前記凹部の下に補強部材を有し、前記補強部材は、前記凹部の下に屈曲した屈曲部がある」構成は、甲第1?12号証のいずれにも記載も示唆もされておらず(甲5号証については、前記「4.(3)(3-1)イ.(f)」参照)、周知技術といえるものでもないので、本件発明1は、甲1発明および周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
また、本件発明1は、甲3発明、甲1発明および周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(3)請求項5に係る主張についての検討
上記「4.(3)(3-2)」で検討したように、本件発明5の「シートバックの下端と対向する位置に頂部を有する」構成は、甲第1?12号証のいずれにも記載も示唆もされておらず、周知技術といえるものでもないので、本件発明5は、甲1発明および周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
また、本件発明5は、甲3発明、甲1発明および周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(4)請求項8に係る主張についての検討
ア.対比
(a)上記「4.(3-1)ア.」と同様に、引用発明の「乗員の尻部を受けるシートクッション12」は、本件発明8の「シートクッション」に相当し、以下同様に、
「乗員の背部を受けるシートバック13」は、「シートバック」に、
「チャイルドシート21」は、「チャイルドシート」に、
「チャイルドシート21の後面側に設けられたアーム(図番無し)がシートクッション12とシートバック13の間に差し込まれ、被係止部21aをアンカ18に係止させることによりチャイルドシート21は車両用シート11に固定可能」であることは、「チャイルドシートの後面側に設けられたアームが前記シートクッションと前記シートバックの間に差し込まれることで前記チャイルドシートが取り付けられる」ことに相当する。
そして、引用発明の「乗員の尻部を受けるシートクッション12と乗員の背部を受けるシートバック13を備える車両用シート11」は、本件発明8の「シートクッションおよびシートバックを備え、チャイルドシートの後面側に設けられたアームが前記シートクッションと前記シートバックの間に差し込まれることで前記チャイルドシートが取り付けられる乗物用シート」に相当する。
(b)上記「4.(3-1)ア.」と同様に、引用発明の「シートクッションパッド12b」は、本件発明8の「シートクッションパッド」に相当し、以下同様に、
「シートクッション表皮12c」は、「シートクッションパッドに被さった表皮」に相当する。
そして、引用発明の「シートクッション12はシートクッションフレーム12aとシートクッションパッド12bとシートクッション表皮12cにより構成され」たことは、本件発明8の「前記シートクッションは、シートクッションパッドと、当該シートクッションパッドに被さった表皮とを有し」たことに相当する。
(c)上記「4.(3-1)ア.」と同様に、引用発明の「シートクッション12の後端には第1切欠き19が形成され、第1切欠き19は、シートクッション12の凹部であ」る構成は、本件発明8の「前記シートクッションパッドは、上面の後部に、前記アームを差し込むための凹部を有し」た構成に相当する。
(d)引用発明の「前記凹部は、底面と、当該底面から立ち上がった側面とを有する」構成は、本件発明8の「前記凹部は、底面と、当該底面から立ち上がった側面とを有する」構成に相当する。

したがって、本件発明8と引用発明とは、
一致点:
「シートクッションおよびシートバックを備え、チャイルドシートの後面側に設けられたアームが前記シートクッションと前記シートバックの間に差し込まれることで前記チャイルドシートが取り付けられる乗物用シートであって、
前記シートクッションは、シートクッションパッドと、当該シートクッションパッドに被さった表皮とを有し、
前記シートクッションパッドは、上面の後部に、前記アームを差し込むための凹部を有し、
前記凹部は、底面と、当該底面から立ち上がった側面とを有する
乗物用シート。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

相違点5:表皮が、本件発明8は「前記表皮は、前記凹部の表面に沿って前記凹部の全体を覆うように構成されるとともに、前記凹部に対応する第1表皮部と、前記凹部に隣接する位置に対応した第2表皮部とを有し、
前記第1表皮部と前記第2表皮部とは、別個の部材により構成され」、「前記第1表皮部は、前記第2表皮部よりも摩擦抵抗が小さく」、「前記第1表皮部は、前記底面に対応する底面部と前記側面に対応する側面部とが別個の部材により構成されている」ものであるのに対して、引用発明は、その点が不明である点。

イ.判断
(ア)本件発明8の「前記凹部に対応する第1表皮部と、前記凹部に隣接する位置に対応した第2表皮部とを有し」、「前記第1表皮部は、前記第2表皮部よりも摩擦抵抗が小さく」する構成は、甲第1?12号証のいずれにも記載も示唆もされておらず、周知技術といえるものでもない。
(イ)特許異議申立人は、平成31年4月9日付け意見書「3 (4)(4-1)」において、「チャイルドシートのアームをシートクッションとバックシートとの間に差し込むに際し、アームとシート間の摩擦に伴う円滑な差込という技術課題自体は、本件特許異議申立書において述べているように、甲第2号証(特開2002-337579号公報))により公知である。であれば、チャイルドシートのアームの差し込みの際、アームに当たる表皮部、すなわち第1表皮部について、アームとシートクッションの凹部の摩擦抵抗に着目することは、その必然に過ぎない。この点、乗物用シートにおいて、多種に亘るチャイルドシートに対して、チャイルドシートのアームをシートクッションとバックシートとの間に円滑に差し込むのに、シートクッション側で対処するのは、当然である。」旨主張している。
(ウ)甲第2号証には、「【0002】
【背景技術】最近の自動車のリア・シートに用いられるところのチャイルド・シートは、背裏の下端にロック装置を突き出し、そして、着座面に対応してリア・シート・クッションのリア・エンドに前後方向に通り抜けて開口される一対の通し穴にそのロック装置を通してその自動車のボディ・フロアのチャイルド・シート・アンカーにかみ合わせてそのリア・シート・クッションに取り付けられるところの構造を採用する傾向にある。したがって、そのロック装置がその通し穴に無理に差し込まれると、トリム・カバーが引っ掛ったりパッドが弾性的に変形されて取付け作業が悪くなる恐れがあった。」
「【0016】
【発明の便益】上述から理解されるように、この発明の自動車のリア・シートに用いるリア・シート・クッションは、リア・シート・クッション・フレームが、フレーム・フロント・ワイヤ、そのフレーム・フロント・ワイヤの両端から伸びる左右のフレーム・サイド・ワイヤ、その左右のフレーム・サイド・ワイヤの後端に一体化されるフレーム・リア・ワイヤ、および適宜の間隔でそのフレーム・リア・ワイヤより上に位置されてそのフレーム・リア・ワイヤあるいはその左右のフレーム・サイド・ワイヤに支持されるリア・トップ・クロス・ワイヤなどでワイヤ構造に作られ、リア・シート・クッション・パッドが、そのフレーム・リア・ワイヤおよびリア・トップ・クロス・ワイヤの間で左右の着座面のそれぞれに対応してパッド・リアに一対の通し穴を左右方向に所定の間隔を置いて前から後に通り抜けて開口し、樹脂から発泡されてそのリア・シート・クッション・フレームを一体的に埋め込んで成形され、そして、表皮が、そのリア・シート・クッション・パッドに被せられてその通し穴の内周面も覆い、そして、そのリア・シート・クッション・フレームに止められるので、この発明の自動車のリア・シートに用いるリア・シート・クッションでは、チャイルド・シートの装着時、そのチャイルド・シートのロック装置がその表皮に引っ掛らずにその通し穴に円滑で簡単に差し込まれてボディ側のチャイルド・シート・アンカにかみ合わせられ、そして、そのチャイルド・シートの取付け作業性が向上され、さらに、構造的に簡略化されてコストが低減され、その結果、自動車のリア・シートにとって非常に有用で実用的である。」(下線は当審で付与。)と記載されている。
しかし、甲第2号証には、「表皮が、そのリア・シート・クッション・パッドに被せられてその通し穴の内周面も覆」う構成が記載され、「チャイルド・シートのロック装置がその表皮に引っ掛らずにその通し穴に円滑で簡単に差し込まれ」ることが記載されていても、当該表皮を他の表皮の部分よりも「摩擦抵抗が小」とすることは、記載も示唆もない。
(エ)そうすると、引用発明の「シートクッションパッドに被さった表皮」を、本件発明8の「前記凹部に対応する第1表皮部と、前記凹部に隣接する位置に対応した第2表皮部とを有し」、「前記第1表皮部は、前記第2表皮部よりも摩擦抵抗が小さく」する構成とすることは、甲1発明および周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
また、本件発明8は、甲3発明、甲1発明および周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(5)小括
したがって、特許異議申立人の(1)の主張は、採用することができない。

6.むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1、5及び8に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1、5及び8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートクッションおよびシートバックを備え、チャイルドシートの後面側に設けられたアームが前記シートクッションと前記シートバックの間に差し込まれることで前記チャイルドシートが取り付けられる乗物用シートであって、
前記シートクッションは、シートクッションパッドと、当該シートクッションパッドに被さった表皮とを有し、
前記シートクッションパッドは、上面の後部に、前記アームを差し込むための凹部を有し、
前記表皮は、前記凹部の表面に沿って前記凹部の全体を覆うように構成され、
前記シートクッションの着座面は、前方から後方に向けて下方に傾斜した形状を有し、
前記凹部の底面は、前記着座面の傾斜に沿って前方から後方に向けて下方に傾斜した部分を有し、
前記シートクッションパッドは、前記凹部の下に補強部材を有し、前記補強部材は、前記凹部の下に屈曲した屈曲部があることを特徴とする乗物用シート。
【請求項2】
シートクッションおよびシートバックを備え、チャイルドシートの後面側に設けられたアームが前記シートクッションと前記シートバックの間に差し込まれることで前記チャイルドシートが取り付けられる乗物用シートであって、
前記シートクッションは、シートクッションパッドと、当該シートクッションパッドに被さった表皮とを有し、
前記シートクッションパッドは、上面の後部に、前記アームを差し込むための凹部を有し、
前記表皮は、前記凹部の表面に沿って前記凹部の全体を覆うように構成され、
前記シートクッションの着座面は、前方から後方に向けて下方に傾斜した形状を有し、
前記凹部の底面は、前記着座面の傾斜に沿って前方から後方に向けて下方に傾斜した部分を有し、
前記シートクッションパッドは、前記凹部の下に補強部材を有し、
前記表皮は、前記凹部に対応する第1表皮部と、前記凹部に隣接する位置に対応した第2表皮部とを有し、前記第1表皮部と前記第2表皮部とは、別個の部材により構成されていることを特徴とする乗物用シート。
【請求項3】
前記第1表皮部と前記第2表皮部とは、前記凹部と前記凹部に隣接する部分の境界に沿って縫い合わされていることを特徴とする請求項2に記載の乗物用シート。
【請求項4】
前記底面は、前記シートバックの下端と対向する位置に頂部を有することを特徴とする請求項2または請求項3に記載の乗物用シート。
【請求項5】
シートクッションおよびシートバックを備え、チャイルドシートの後面側に設けられたアームが前記シートクッションと前記シートバックの間に差し込まれることで前記チャイルドシートが取り付けられる乗物用シートであって、
前記シートクッションは、シートクッションパッドと、当該シートクッションパッドに被さった表皮とを有し、
前記シートクッションパッドは、上面の後部に、前記アームを差し込むための凹部を有し、
前記表皮は、前記凹部の表面に沿って前記凹部の全体を覆うように構成されるとともに、前記凹部に対応する第1表皮部と、前記凹部に隣接する位置に対応した第2表皮部とを有し、
前記第1表皮部と前記第2表皮部とは、別個の部材により構成され、
前記凹部は、底面と、当該底面から立ち上がった側面とを有し、
前記第1表皮部は、前記底面に対応する底面部と前記側面に対応する側面部とが別個の部材により構成され、
前記底面は、前記シートバックの下端と対向する位置に頂部を有することを特徴とする乗物用シート。
【請求項6】
シートクッションおよびシートバックを備え、チャイルドシートの後面側に設けられたアームが前記シートクッションと前記シートバックの間に差し込まれることで前記チャイルドシートが取り付けられる乗物用シートであって、
前記シートクッションは、シートクッションパッドと、当該シートクッションパッドに被さった表皮とを有し、
前記シートクッションパッドは、上面の後部に、前記アームを差し込むための凹部を有し、
前記表皮は、前記凹部の表面に沿って前記凹部の全体を覆うように構成されるとともに、前記凹部に対応する第1表皮部と、前記凹部に隣接する位置に対応した第2表皮部とを有し、
前記第1表皮部と前記第2表皮部とは、別個の部材により構成され、
前記凹部は、底面と、当該底面から立ち上がった側面とを有し、
前記第1表皮部は、前記底面に対応する底面部と前記側面に対応する側面部とが別個の部材により構成され、
前記底面部と側面部とは、前記底面と前記側面との境界に沿って縫い合わされていることを特徴とする乗物用シート。
【請求項7】
シートクッションおよびシートバックを備え、チャイルドシートの後面側に設けられたアームが前記シートクッションと前記シートバックの間に差し込まれることで前記チャイルドシートが取り付けられる乗物用シートであって、
前記シートクッションは、シートクッションパッドと、当該シートクッションパッドに被さった表皮とを有し、
前記シートクッションパッドは、上面の後部に、前記アームを差し込むための凹部を有し、
前記表皮は、前記凹部の表面に沿って前記凹部の全体を覆うように構成され、
前記シートクッションは、前記凹部の左右側方に上下に貫通する開口が設けられており、前記開口は、前記凹部よりも後側の部分から前記凹部よりも前側まで延びていることを特徴とする乗物用シート。
【請求項8】
シートクッションおよびシートバックを備え、チャイルドシートの後面側に設けられたアームが前記シートクッションと前記シートバックの間に差し込まれることで前記チャイルドシートが取り付けられる乗物用シートであって、
前記シートクッションは、シートクッションパッドと、当該シートクッションパッドに被さった表皮とを有し、
前記シートクッションパッドは、上面の後部に、前記アームを差し込むための凹部を有し、
前記表皮は、前記凹部の表面に沿って前記凹部の全体を覆うように構成されるとともに、前記凹部に対応する第1表皮部と、前記凹部に隣接する位置に対応した第2表皮部とを有し、
前記第1表皮部と前記第2表皮部とは、別個の部材により構成され、
前記第1表皮部は、前記第2表皮部よりも摩擦抵抗が小さく、
前記凹部は、底面と、当該底面から立ち上がった側面とを有し、
前記第1表皮部は、前記底面に対応する底面部と前記側面に対応する側面部とが別個の部材により構成されていることを特徴とする乗物用シート。
【請求項9】
前記第1表皮部は、合成皮革により構成され、前記第2表皮部は、トリコットにより構成されていることを特徴とする請求項8に記載の乗物用シート。
【請求項10】
シートクッションおよびシートバックを備え、チャイルドシートの後面側に設けられたアームが前記シートクッションと前記シートバックの間に差し込まれることで前記チャイルドシートが取り付けられる乗物用シートであって、
前記シートクッションは、シートクッションパッドと、当該シートクッションパッドに被さった表皮とを有し、
前記シートクッションパッドは、上面の後部に、前記アームを差し込むための凹部を有し、
前記表皮は、前記凹部の表面に沿って前記凹部の全体を覆うように構成され、
前記シートクッションの着座面は、前方から後方に向けて下方に傾斜した形状を有し、
前記凹部の底面は、前記着座面の傾斜に沿って前方から後方に向けて下方に傾斜した部分を有し、
前記シートクッションパッドは、前記凹部の下に補強部材を有し、
前記底面は、前記シートバックの下端と対向する位置に頂部を有することを特徴とする乗物用シート。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-06-10 
出願番号 特願2014-9926(P2014-9926)
審決分類 P 1 652・ 121- YAA (B60N)
最終処分 維持  
前審関与審査官 古川 峻弘山口 賢一  
特許庁審判長 氏原 康宏
特許庁審判官 中川 真一
中村 泰二郎
登録日 2018-01-19 
登録番号 特許第6276042号(P6276042)
権利者 本田技研工業株式会社 テイ・エス テック株式会社
発明の名称 乗物用シート  
代理人 稲垣 達也  
代理人 小川 啓輔  
代理人 小川 啓輔  
代理人 稲垣 達也  
代理人 稲垣 達也  
代理人 小川 啓輔  
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