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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 B32B 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 B32B |
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管理番号 | 1354062 |
異議申立番号 | 異議2018-700535 |
総通号数 | 237 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2019-09-27 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2018-07-04 |
確定日 | 2019-06-24 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6255846号発明「加飾シート及び加飾樹脂成形品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6255846号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1?8、10?14]、9について訂正することを認める。 特許第6255846号の請求項1?14に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6255846号(以下「本件特許」という。)の請求項1?9に係る特許についての出願は、平成25年9月27日に出願され、平成29年12月15日にその特許権の設定登録(特許掲載公報発行日:平成30年1月10日)がされた。 本件特許異議の申立て以降の経緯は、次のとおりである。 平成30年7月4日 :特許異議申立人松田亘弘(以下「申立人」という。)による請求項1?9に係る特許に対する特許異議の申立て 平成30年8月21日付け :取消理由通知 平成30年10月19日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出 平成30年11月26日 :申立人による意見書の提出 平成31年1月29日付け :取消理由通知(決定の予告) 平成31年3月28日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出 令和元年5月7日 :申立人による意見書の提出 第2 訂正の適否 1.訂正の内容 上記平成31年3月28日に提出された訂正請求書による訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。)がされたので、上記平成30年10月19日に提出された訂正請求書による訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。 本件訂正請求による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである。(訂正箇所に下線を付す。) (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に、「前記表面保護層が、電離放射線硬化性樹脂及び合成樹脂粒子を含む樹脂組成物により形成されており、」とあるのを、 「前記表面保護層が、電離放射線硬化性樹脂及び合成樹脂粒子を含む樹脂組成物(但し、熱可塑性ポリウレタンエラストマー、ポリウレタン粒子及びウレタン(メタ)アクリレートを含むものを除く)により形成されており、」に訂正する。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項7が、「前記合成樹脂粒子が、ウレタンビーズ、ナイロンビーズ、アクリルビーズ、シリコーンビーズ、スチレンビーズ、メラミンビーズ、ウレタンアクリルビーズ、ポリエステルビーズ、及びポリエチレンビーズからなる群から選択された少なくとも1種である、請求項1?6のいずれかに記載の三次元成形用加飾シート。」とあるところ、 そのうち、請求項1の記載を引用するものについて、独立形式による記載に改め、 「少なくとも、基材層と、表面保護層とを有する三次元成形用加飾シートであって、 前記表面保護層は、前記加飾シートの一方側の全面を覆っており、 前記表面保護層が、電離放射線硬化性樹脂及び合成樹脂粒子を含む樹脂組成物により形成されており、 前記表面保護層において、前記合成樹脂粒子が、前記電離放射線硬化性樹脂100質量部に対して、65質量部以上100質量部以下含まれ、 前記合成樹脂粒子が、ウレタンビーズ、ナイロンビーズ、アクリルビーズ、シリコーンビーズ、スチレンビーズ、メラミンビーズ、ウレタンアクリルビーズ、ポリエステルビーズ、及びポリエチレンビーズからなる群から選択された少なくとも1種である、三次元成形用加飾シート。」に訂正する。 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項7が、請求項1?6のいずれかの記載を引用するものであるところ、そのうち、請求項2の記載を引用するものについて、訂正事項2で訂正する請求項7の記載を引用する「前記電離放射線硬化性樹脂が、ポリカーボネート(メタ)アクリレートを含む、請求項7に記載の三次元成形用加飾シート。」に訂正し、新たな請求項10とする。 (4)訂正事項4 特許請求の範囲の請求項7が、請求項1?6のいずれかの記載を引用するものであるところ、そのうち、請求項3の記載を引用するものについて、訂正事項3で訂正する請求項10の記載を引用する「前記電離放射線硬化性樹脂が、多官能(メタ)アクリレートをさらに含む、請求項10に記載の三次元成形用加飾シート。」に訂正し、新たな請求項11とする。 (5)訂正事項5 特許請求の範囲の請求項7が、請求項1?6のいずれかの記載を引用するものであるところ、そのうち、請求項4の記載を引用するものについて、訂正事項4で訂正する請求項11の記載を引用する「前記ポリカーボネート(メタ)アクリレートと、多官能(メタ)アクリレートとの質量比が、98:2?60:40である、請求項11に記載の三次元成形用加飾シート。」に訂正し、新たな請求項12とする。 (6)訂正事項6 特許請求の範囲の請求項7が、請求項1?6のいずれかの記載を引用するものであるところ、そのうち、請求項5の記載を引用するものについて、訂正事項2?5で訂正する請求項7、10?12の記載を引用する「前記合成樹脂粒子の粒子径が、2?15μmである、請求項7、10?12のいずれかに記載の三次元成形用加飾シート。」に訂正し、新たな請求項13とする。 (7)訂正事項7 特許請求の範囲の請求項7が、請求項1?6のいずれかの記載を引用するものであるところ、そのうち、請求項6の記載を引用するものについて、訂正事項2?6で訂正する請求項7、10?13の記載を引用する「前記表面保護層の厚みが、1?30μmである、請求項7、10?13のいずれかに記載の三次元成形用加飾シート。」に訂正し、新たな請求項14とする。 (8)訂正事項8 特許請求の範囲の請求項9に、「前記表面保護層が、電離放射線硬化性樹脂及び合成樹脂粒子を含む樹脂組成物により形成されており、」とあるのを、 「前記表面保護層が、電離放射線硬化性樹脂及び合成樹脂粒子を含む樹脂組成物(但し、熱可塑性ポリウレタンエラストマー、ポリウレタン粒子及びウレタン(メタ)アクリレートを含むものを除く)により形成されており、」に訂正する。 2.訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正事項1について 訂正事項1は、本件訂正前の請求項1に特定された表面保護層を形成する樹脂組成物から、「(但し、熱可塑性ポリウレタンエラストマー、ポリウレタン粒子及びウレタン(メタ)アクリレートを含むものを除く)」と、一部の化合物を除外する訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げられた特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。そして、一部の化合物を除外する訂正であるから、新規事項を追加するものではなく、特許請求の範囲の拡張し、又は変更をするものではないことは明らかである。 (2)訂正事項2について 訂正事項2は、本件訂正前の請求項1の記載を引用する請求項7を、独立形式による記載に改め、請求項1を引用しないものとし、さらに、表面保護層における、前記合成樹脂粒子が含まれる量について、本件訂正前の「前記電離放射線硬化性樹脂100質量部に対して、65質量部以上含まれ」とあるのを、「前記電離放射線硬化性樹脂100質量部に対して、65質量部以上100質量部以下含まれ」と数値範囲に上限値を追加して、当該数値範囲を狭くするものである。よって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げられた特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し、同条同項ただし書第4号に掲げられた他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものに該当する。 また、訂正事項2は、本件特許明細書の段落【0049】の「・・・表面保護層2において、合成樹脂粒子8の含有量は、本発明の効果を奏することを限度として、特に制限されないが、表面保護層2を後述の印刷法などにより形成することを考慮すると、電離放射線硬化性樹脂100質量部に対して、好ましくは200質量部以下、より好ましくは150質量部以下、さらに好ましくは100質量部以下が挙げられる。」という記載から、新規事項を追加するものではない。そして、訂正事項2は、特許請求の範囲の拡張し、又は変更をするものではないことは明らかである。 (3)訂正事項3について 訂正事項3は、本件訂正前の請求項2の記載を引用する請求項7について、上記訂正事項2と同様に、請求項7の請求項1の記載を引用するものを、独立形式の記載に改め、合成樹脂粒子が含まれる量に上限値を追加するものとした上で、訂正後の請求項7を引用する形式として新たな請求項10とするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げられた特許請求の範囲の減縮に該当する。そして、訂正事項3が、新規事項を追加するものではなく、特許請求の範囲の拡張し、又は変更をするものでもないことは明らかである。 (4)訂正事項4について 訂正事項4は、本件訂正前の請求項3の記載を引用する請求項7について、上記訂正事項2と同様に、請求項7の請求項1の記載を引用するものを、独立形式の記載に改め、合成樹脂粒子が含まれる量に上限値を追加するものとした上で、訂正後の請求項10を引用する形式として新たな請求項11とするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げられた特許請求の範囲の減縮に該当する。そして、訂正事項4が、新規事項を追加するものではなく、特許請求の範囲の拡張し、又は変更をするものでもないことは明らかである。 (5)訂正事項5について 訂正事項5は、本件訂正前の請求項4の記載を引用する請求項7について、上記訂正事項2と同様に、請求項7の請求項1の記載を引用するものを、独立形式の記載に改め、合成樹脂粒子が含まれる量に上限値を追加するものとした上で、訂正後の請求項11を引用する形式として新たな請求項12とするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げられた特許請求の範囲の減縮に該当する。そして、訂正事項5が、新規事項を追加するものではなく、特許請求の範囲の拡張し、又は変更をするものでもないことは明らかである。 (6)訂正事項6について 訂正事項6は、本件訂正前の請求項1?4のいずれかの記載を引用する請求項5の記載をさらに引用する請求項7について、上記訂正事項2と同様に、請求項7の請求項1の記載を引用するものを、独立形式の記載に改め、合成樹脂粒子が含まれる量に上限値を追加するものとした上で、訂正後の請求項7及び10?12を引用する形式として、新たな請求項13とするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げられた特許請求の範囲の減縮に該当する。そして、訂正事項6が、新規事項を追加するものではなく、特許請求の範囲の拡張し、又は変更をするものでもないことは明らかである。 (7)訂正事項7について 訂正事項7は、本件訂正前の請求項1?5のいずれかの記載を引用する請求項6の記載をさらに引用する請求項7について、上記訂正事項2と同様に、請求項7の請求項1の記載を引用するものを、独立形式の記載に改め、合成樹脂粒子が含まれる量に上限値を追加するものとした上で、訂正後の請求項7及び10?13を引用する形式として、新たな請求項14とするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げられた特許請求の範囲の減縮に該当する。そして、訂正事項7が、新規事項を追加するものではなく、特許請求の範囲の拡張し、又は変更をするものでもないことは明らかである。 (8)訂正事項8について 訂正事項8は、本件訂正前の請求項9に特定された表面保護層を形成する樹脂組成物を、「(但し、熱可塑性ポリウレタンエラストマー、ポリウレタン粒子及びウレタン(メタ)アクリレートを含むものを除く)」と、一部の化合物を除外する訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げられた特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。そして、一部の化合物を除外する訂正であるから、新規事項を追加するものではなく、また、特許請求の範囲の拡張し、又は変更をするものではない。 3.一群の請求項 本件訂正前の請求項1?8は、請求項2?8が訂正事項1に係る請求項1を引用する関係であるから、本件訂正請求は特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項ごとにされたものである。 4.小括 以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げるものを目的とするものであり、かつ、同条第4項、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?8、10?14〕及び9について訂正を認める。 第3 本件特許発明 上記第2に示したように、本件訂正請求が認められるから、本件特許の請求項1?14に係る発明(以下「本件発明1」等という。)は、平成31年3月28日に提出された訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?14に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。 「【請求項1】 少なくとも、基材層と、表面保護層とを有する三次元成形用加飾シートであって、 前記表面保護層は、前記加飾シートの一方側の全面を覆っており、 前記表面保護層が、電離放射線硬化性樹脂及び合成樹脂粒子を含む樹脂組成物(但し、熱可塑性ポリウレタンエラストマー、ポリウレタン粒子及びウレタン(メタ)アクリレートを含むものを除く)により形成されており、 前記表面保護層において、前記合成樹脂粒子が、前記電離放射線硬化性樹脂100質量部に対して、65質量部以上含まれる、三次元成形用加飾シート。 【請求項2】 前記電離放射線硬化性樹脂が、ポリカーボネート(メタ)アクリレートを含む、請求項1に記載の三次元成形用加飾シート。 【請求項3】 前記電離放射線硬化性樹脂が、多官能(メタ)アクリレートをさらに含む、請求項2に記載の三次元成形用加飾シート。 【請求項4】 前記ポリカーボネート(メタ)アクリレートと、前記多官能(メタ)アクリレートとの質量比が、98:2?60:40である、請求項3に記載の三次元成形用加飾シート。 【請求項5】 前記合成樹脂粒子の粒子径が、2?15μmである、請求項1?4のいずれかに記載の三次元成形用加飾シート。 【請求項6】 前記表面保護層の厚みが、1?30μmである、請求項1?5のいずれかに記載の三次元成形用加飾シート。 【請求項7】 少なくとも、基材層と、表面保護層とを有する三次元成形用加飾シートであって、 前記表面保護層は、前記加飾シートの一方側の全面を覆っており、 前記表面保護層が、電離放射線硬化性樹脂及び合成樹脂粒子を含む樹脂組成物により形成されており、 前記表面保護層において、前記合成樹脂粒子が、前記電離放射線硬化性樹脂100質量部に対して、65質量部以上100質量部以下含まれ、 前記合成樹脂粒子が、ウレタンビーズ、ナイロンビーズ、アクリルビーズ、シリコーンビーズ、スチレンビーズ、メラミンビーズ、ウレタンアクリルビーズ、ポリエステルビーズ、及びポリエチレンビーズからなる群から選択された少なくとも1種である、三次元成形用加飾シート。 【請求項8】 前記基材層と前記表面保護層との間に、絵柄層をさらに有する、請求項1?7のいずれかに記載の三次元成形用加飾シート。 【請求項9】 少なくとも、成形樹脂層と、基材層と、表面保護層とがこの順に積層された積層体からなる加飾樹脂成形品であって、 前記表面保護層は、前記加飾樹脂成形品の一方側の全面を覆っており、 前記表面保護層が、電離放射線硬化性樹脂及び合成樹脂粒子を含む樹脂組成物(但し、熱可塑性ポリウレタンエラストマー、ポリウレタン粒子及びウレタン(メタ)アクリレートを含むものを除く)により形成されており、 前記表面保護層において、前記合成樹脂粒子が、前記電離放射線硬化性樹脂100質量部に対して、65質量部以上含まれる、加飾樹脂成形品。 【請求項10】 前記電離放射線硬化性樹脂が、ポリカーボネート(メタ)アクリレートを含む、請求項7に記載の三次元成形用加飾シート。 【請求項11】 前記電離放射線硬化性樹脂が、多官能(メタ)アクリレートをさらに含む、請求項10に記載の三次元成形用加飾シート。 【請求項12】 前記ポリカーボネート(メタ)アクリレートと、前記多官能(メタ)アクリレートとの質量比が、98:2?60:40である、請求項11に記載の三次元成形用加飾シート。 【請求項13】 前記合成樹脂粒子の粒子径が、2?15μmである、請求項7,10?12のいずれかに記載の三次元成形用加飾シート。 【請求項14】 前記表面保護層の厚みが、1?30μmである、請求項7,10?13のいずれかに記載の三次元成形用加飾シート。」 第4 取消理由の概要 本件発明7、8、10?14に対して、当審が平成31年1月29日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の概要は、次のとおりである。なお、申立人が特許異議申立書に添付した甲第1号証?甲第3号証を、それぞれ「甲1」等という。 【理由】(特許法第29条第2項) 本件発明7、8、10?14は、甲1に記載された発明、並びに、甲2及び甲3に例示される従来周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、それらの特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであり、特許法第113条第2号の規定に該当することを理由として取り消されるべきものである。 <刊 行 物 一 覧> 甲1:特開2012-219221号公報 甲2:特開2013-75501号公報 甲3:特開2013-82221号公報 第5 当審の判断 1.引用文献の記載 当審が通知した、平成31年1月29日付け取消理由(決定の予告)において引用した甲1には、次の記載がある。 「【請求項1】 樹脂成形体表面の触感を改質するための化粧料であって、熱可塑性ポリウレタンエラストマー、ポリウレタン粒子及びウレタン(メタ)アクリレートを含む化粧料」 「【発明が解決しようとする課題】 【0016】 従って、本発明の目的は、樹脂成形体の表面に、指の引っ掛かりがなく、かつしっとりしたソフトタッチ感(スウェード調)を簡便に付与できる化粧料及び化粧フィルム並びに樹脂成形体及び表面改質方法を提供することにある。 【0017】 本発明の他の目的は、複雑な三次元形状の成形体にも、ザラツキがなく、触り心地の良い触感を付与でき、成形体表面の機械的特性も向上できる化粧料及び化粧フィルム並びに樹脂成形体及び表面改質方法を提供することにある。」 「【0019】 すなわち、本発明の化粧料(又はコーティング組成物)は、樹脂成形体表面の触感を改質するための化粧料であって、熱可塑性ポリウレタンエラストマー、ポリウレタン粒子及びウレタン(メタ)アクリレートを含んでいてもよい。前記ポリウレタン粒子は、1MPa以下の10%圧縮強度及び50%以上の変形回復率を有していてもよい。前記ポリウレタン粒子は、平均粒径が1?100μmの球状(例えば、略真球状粒子)であってもよい。前記ウレタン(メタ)アクリレートは重量平均分子量500以上の脂肪族ウレタン(メタ)アクリレートであってもよい。前記ウレタン(メタ)アクリレートと前記熱可塑性ポリウレタンエラストマーとの割合(重量比)は、前者/後者=1/99?70/30程度であってもよい。前記ポリウレタン粒子の割合は、熱可塑性ポリウレタンエラストマー及びウレタン(メタ)アクリレートの合計100重量部に対して50?150重量部程度であってもよい。本発明の化粧料は、射出成形により形成される樹脂成形体の触感を改質するための化粧料であってもよい。 【0020】 本発明には、前記化粧料の硬化物で形成された化粧フィルムも含まれる。この化粧フィルムにおける荷重50gf、1mm/秒の速度でセラミックで形成された滑り子を移動させたときの動摩擦係数は0.3?0.9であり、動摩擦係数の標準偏差は0.003?0.02であってもよい。また、本発明には、基材フィルムと、この基材フィルムに積層され、かつ前記化粧料の硬化物で形成された硬化物層との積層体で形成された化粧フィルムも含まれる。」 「【発明の効果】 【0022】 本発明では、熱可塑性ポリウレタンエラストマーと、ポリウレタン粒子と、ウレタン(メタ)アクリレートとが組み合わされているため、樹脂成形体の表面に、指の引っ掛かりがなく、かつしっとりしたソフトタッチ感(スウェード調)を簡便に付与できる。さらに、柔軟性と強度とのバランスに優れるため、複雑な三次元形状の成形体にも、ザラツキがなく、触り心地の良い触感を付与でき、成形体表面の機械的特性も向上できる。 【発明を実施するための形態】 【0023】 [化粧料] 本発明の化粧料(又は化粧剤)は、熱可塑性ポリウレタンエラストマーと、ポリウレタン粒子と、ウレタン(メタ)アクリレートとを含み、前記ウレタン(メタ)アクリレートと前記熱可塑性ポリウレタンエラストマーとを特定の割合で組み合わせることにより、ポリウレタン粒子をウレタン(メタ)アクリレートの硬化により強固に硬化膜に保持できるとともに、熱可塑性ポリウレタンが適度な割合で存在し、柔軟性を向上できるためか、樹脂成形体の表面の改質剤として用いると、触感を向上できる。」 「【0050】 ポリウレタン粒子の割合は、熱可塑性ポリウレタンエラストマー及びウレタン(メタ)アクリレートの合計100重量部に対して、例えば、10?200重量部程度の範囲から選択でき、例えば、50?150重量部、好ましくは70?140重量部、さらに好ましくは80?130重量部(特に100?120重量部)程度である。ポリウレタン粒子の割合が少なすぎると、触感を向上する効果が低く、多すぎると、機械的特性が低下する。」 「【0062】 ウレタン(メタ)アクリレートと熱可塑性ポリウレタンエラストマーとの割合(重量比)は、前者/後者=1/99?70/30程度であり、好ましくは10/90?50/50、さらに好ましくは20/80?45/55(特に30/70?40/60)程度である。熱可塑性ポリウレタンエラストマーの割合が少なすぎると、ソフトタッチ感が低下し、多すぎると、しっとりとした触感はあっても、引っ掛かり大きく、タック性が発現する。 【0063】 (他のビニル系化合物) 化粧料は、ウレタン(メタ)アクリレートに加えて、他のビニル系化合物として、多官能(メタ)アクリレートを含んでいてもよい。他の多官能(メタ)アクリレートには、2?8官能(メタ)アクリレート、2官能以上のオリゴマー又は樹脂などが含まれる。」 「【0071】 化粧料は、熱硬化性組成物であってもよいが、短時間で硬化できる光硬化性化合物、例えば、紫外線硬化性化合物、EB硬化性化合物であってもよい。特に、実用的に有利な組成物は、紫外線硬化性樹脂である。 【0072】 [化粧フィルム] 本発明の化粧フィルムは、前記化粧料の硬化物で形成されており、通常、基材フィルムと、この基材フィルムに積層され、かつ前記化粧料の硬化物で形成された硬化物層との積層体である。」 「【0076】 硬化物層の厚みは、例えば、1?100μm、好ましくは3?75μm、さらに好ましくは5?50μm(特に10?30μm)程度である。」 「【0080】 [化粧フィルムの製造方法] 本発明の化粧フィルムは、基材フィルムの少なくとも一方の面に化粧料を含む塗工液を塗布した後、硬化することにより得ることができる。 【0081】 化粧料の塗布方法としては、慣用の方法、例えば、ロールコーター、エアナイフコーター、ブレードコーター、ロッドコーター、リバースコーター、バーコーター、コンマコーター、ディップ・スクイズコーター、ダイコーター、グラビアコーター、マイクログラビアコーター、シルクスクリーンコーター法、ディップ法、スプレー法、スピナー法などが挙げられる。これらの方法のうち、バーコーター法やグラビアコーター法などが汎用される。なお、必要であれば、塗布液は複数回に亘り塗布してもよい。」 「【0094】 [化粧料の配合成分] ウレタンエラストマー:一般的な非架橋性ポリエステル型ウレタンポリマー、大日精化工業(株)製 ポリウレタン粒子:大日精化工業(株)製「ダイミックビーズUCN-8070CM」、平均粒径7μm、真球状、ショアA硬度74 PMMA粒子:東洋紡績(株)製「タフチックFH-S 010」 ウレタンアクリレート:3官能ウレタンアクリレート、ダイセル・サイテック(株)製「KRM8296」 6官能アクリレート:六官能アクリル系UV硬化モノマー、ダイセル・サイテック(株)製「DPHA」 開始剤1:光重合開始剤、チバ・ジャパン(株)製「イルガキュア(Irgacure)184」 開始剤2:光重合開始剤、チバ・ジャパン(株)製「イルガキュア(Irgacure)907」。 【0095】 比較例1?4及び実施例1?2 表1に示す樹脂成分、樹脂粒子及び開始剤を、トルエン及びイソプロパノールの混合溶媒に溶解した。この溶液を用いてトリアセチルセルロースフィルム上にワイヤーバー#38を用いて流延したのち、60℃のオーブン内で1分間放置後、コートフィルムを紫外線照射装置(ウシオ電機(株)製、高圧水銀ランプ、紫外線照射量:800mJ/cm^(2))に通して、紫外線硬化処理を行い、塗工膜を硬化させて硬化物層を形成した。得られた化粧フィルムの触感、動摩擦係数及びその標準偏差、鉛筆硬度を測定した結果を表1に示す。 【0096】 【表1】 」 甲1の段落【0080】及び【0081】の記載から、甲1に記載された「硬化物層」が「化粧フィルム」の一方側の全面を覆うものであることは明らかである。 また、甲1の段落【0096】の【表1】に記載された「実施例2」に着目すると、硬化物層において、ウレタンエラストマーが6.8重量%、ポリウレタン粒子が13.5重量%、ウレタンアクリレートが4.5重量%それぞれ含まれる化粧フィルムが記載されている。 そうすると、甲1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。 「基材フィルムと、硬化物層とを有する化粧フィルムであって、 前記硬化物層は、前記化粧フィルムの一方側の全面を覆っており、 前記硬化物層が、ウレタンエラストマー(一般的な非架橋性ポリエステル型ウレタンポリマー、大日精化工業(株)製)、ウレタンアクリレート(3官能ウレタンアクリレート、(ダイセル・サイテック(株)製「KRM8296」)、及び、ポリウレタン粒子(大日精化工業(株)製「ダイミックビーズUCN-8070CM」、平均粒径7μm)により形成されており、 前記硬化物層において、前記ポリウレタン粒子が13.5重量%、前記ウレタンアクリレートが4.5重量%含まれ、 ウレタン(メタ)アクリレートが、多官能(メタ)アクリレートを更に含む化粧フィルム。」 2.対比・判断 2-1.上記平成31年1月29日付け取消理由(決定の予告)について (1)本件発明7について ア.対比 本件発明7と引用発明を対比すると、引用発明の「基材フィルム」、「硬化物層」、「化粧フィルム」は、それぞれ「基材層」、「表面保護層」、「三次元成形用加飾シート」にそれぞれ相当する。 また、甲1の「ウレタン(メタ)アクリレートの硬化により強固に硬化膜が保持できる」(段落【0023】)及び「・・・コートフィルムを紫外線照射装置・・・に通して、紫外線硬化処理を行い、塗工膜を硬化させて硬化物層形成した」(段落【0095】)との記載から、引用発明のウレタン(メタ)アクリレートは、紫外線により硬化する樹脂であり、紫外線は、電離放射線であることが技術常識である。そして、本件特許明細書に「また、電離放射線硬化性樹脂として使用される上記オリゴマーとしては、分子中にラジカル重合性不飽和基を持つ(メタ)アクリレートオリゴマーが好適であり、中でも分子内に重合性不飽和結合を2個以上(2官能以上)有する多官能性(メタ)アクリレートオリゴマーが好ましい。多官能性(メタ)アクリレートオリゴマーとしては、例えば、・・・ウレタン(メタ)アクリレート・・・」(段落【0021】)と記載されていることからみて、引用発明の「ウレタン(メタ)アクリレート」は、本件発明7の「電離放射線硬化性樹脂」に相当する。 また、引用発明のポリウレタン粒子が、合成樹脂粒子であって、「ウレタンビーズ」と呼べることは技術常識である。 そうすると、本件発明7と引用発明とは、少なくとも次の<相違点1>において相違する。 <相違点1> 本件発明7の「表面保護層」において、「前記合成樹脂粒子が、前記電離放射線硬化性樹脂100質量部に対して、65質量部以上100質量部以下含まれる」のに対し、引用発明は、「硬化物層」において、「前記ポリウレタン粒子が13.5質量%、前記ウレタン(メタ)アクリレートが4.5質量%含まれ」るものである点。 イ.相違点についての検討 上記<相違点1>について検討する。 本件特許明細書の記載によると、本件発明7は、「車両内外装部品、建材内装材、家電筐体等には、樹脂成形品の表面に」積層させて用いる「加飾シート」に関する発明であり、「加飾樹脂成形品の形状に十分に追従し得る三次元成形性」、「加飾樹脂成形品の表面材として使用されるため、耐傷付き性などの表面特性」を備ることが要求されるものであるところ、さらに近年は、「加飾樹脂成形品には、手で加飾樹脂成形品の表面を触った際に付着する指紋を目立たなくする耐指紋性が求められ」るものである(段落【0002】、【0003】、【0006】)。 そのため、本件発明7は、そのような課題を解決するためになされたものであり、「加飾シート」を「少なくとも、基材層と、表面保護層とを有し、表面保護層が、電離放射線硬化性樹脂及び合成樹脂粒子を含む樹脂組成物により形成」し、かつ、「表面保護層において、合成樹脂粒子が、電離放射線硬化性樹脂100質量部に対して、65質量部以上含まれる加飾シートは、成形性、耐傷付き性、耐指紋性、及び触感に優れる」との知見に基づいた発明である(段落【0007】)。さらに、「電離放射線硬化樹脂」を基準、すなわち「100質量部」に対して、「ウレタンビーズ」の「添加量」が「100質量部以下」とすることが、「さらに好まし」いものとされる。(段落【0049】)。このことは、実施例1?6及び比較例1?3について、段落【0096】?【0099】の試験を行って評価した結果、「表面保護層」を「樹脂(100質量部)」に対して、「ウレタンビーズ」の「添加量」が、「65質量部」あるいは「100質量部」のものについては、いずれも「成形性評価」、「耐傷付き性評価」、「触感評価」に加えて、「対指紋性評価」の全てにおいて、一定以上の評価が得られたことにより確認されている。 一方、引用発明は、「前記ポリウレタン粒子が13.5質量%、前記ウレタン(メタ)アクリレートが4.5質量%含まれ」るものであるが、これは、引用発明の硬化物層における電離放射線硬化樹脂100質量部に対して、ポリウレタン粒子が300質量部含まれることを意味する。しかし、甲1には、「電離放射線硬化樹脂」の量を基準として、「ウレタンビーズ」の「添加量」を特定することで、「成形性評価」、「耐傷付き性評価」、「触感評価」に加えて、「対指紋性評価」においても良好な「化粧フィルム」を得ることの技術的思想について記載されていないし、示唆する記載もない。さらに、甲2及び甲3にも記載されていないし、示唆する記載もない。 そうすると、本件発明7に係る技術的思想が甲1には記載されてないし、示唆する記載もないから、引用発明の電離放射線硬化樹脂100質量部に対してポリウレタン粒子が300質量部含まれるものを、上記<相違点1>に係る本件発明7の構成を備えたものとすることが、当業者が容易になし得た事項であるとはいえない。 ウ.令和元年5月7日提出の申立人意見書について 当該意見書において申立人は、本件発明7について「第1に、甲1の効果は「触り心地のよい触感(段落0022)」であり、本件発明7の効果は「触感に優れる(段落0009)」であります。つまり、本件発明7の効果は、甲1発明(当審注:「引用発明」)が有する効果とは異質なものではありません。」「第2に、本件発明7の有利な効果は、際だって優れたものではなく、つまり顕著性を有していません。なぜなら、訂正後の本件発明7の「合成樹脂粒子又はシリカ粒子」の添加量「100重量部」については、出願当初の明細書の段落0100及び表1に記載されていますが、その前後において臨界的な意義が存することを示すような本件特許明細書には見当たりません。」(3ページ6?13行)と主張する。 しかし上記イ.に示したように、本件発明7の格別な作用効果は、「表面保護膜」において 「電離放射線硬化性樹脂」の量を基準、すなわち100質量部として、「ウレタンビーズ」の「添加量」を「65質量部以上100質量部以下とすることで、上記【表1】に示されるように、「成形性評価」、「耐傷付き性評価」、「触感評価」に加えて、「対指紋性評価」の全てにおいて、一定以上の評価が得られたものであるところ、甲1には、引用発明が「対指紋性」の効果を発揮することについての記載はないし、示唆する記載もない。 よって、本件発明7の効果は、「対指紋性」の有無において、引用発明のものと相違するから、両者は効果において同質のものとはいえない。 また、上述のように、「ウレタンビーズ」の「添加量」が「65質量部以上100質量部以下」の数値範囲は、本件発明7の効果は実施例において裏付けられている。よって、当該数値範囲に臨界的な意義が存しないとまではいえない。 以上のとおりであるから、申立人の上記主張は採用できない。 エ.小括 以上のとおりであるから、本件発明7は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。 (2)本件発明7を引用する本件発明8、及び、本件発明10?14について 本件発明7を引用する本件発明8、及び、本件発明10?14は、本件発明7の全ての発明特定事項を備え、さらに別の発明特定事項が付加されて技術的に限定されたものである。すると上記(1)に示したように、本件発明7は、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明7を引用する本件発明8、及び、本件発明10?14のいずれも、引用発明及び周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。よって、本件発明7を引用する本件発明8、及び、本件発明10?14は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。 (3)小括 以上のとおり、本件発明7は、引用発明に基いて、また、本件発明7を引用する本件発明8、及び、本件発明10?14は、引用発明及び周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、それらに係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものではないから、特許法第113条第2号の規定に該当することを理由として取り消されるべきものではない。 2-2.上記平成31年1月29日付け取消理由(決定の予告)に採用しなかった特許異議申立て理由について (1)特許法第29条第1項第3号の理由について ア.本件発明1、5及び6について (ア)本件発明1について 本件発明1と引用発明とを対比すると、以下の<相違点2>において、本件発明1と引用発明は少なくとも相違する。 <相違点2> 本件発明1の、「表面保護層」を形成する「電離放射線硬化性樹脂及び合成樹脂粒子を含む樹脂組成物」は、「熱可塑性ポリウレタンエラストマー、ポリウレタン粒子及びウレタン(メタ)アクリレートを含むものを除く」ものであるのに対し、引用発明の「硬化物層」は、「ウレタンエラストマー(一般的な非架橋性ポリエステル型ウレタンポリマー、大日精化工業(株)製)、ウレタンアクリレート(3官能ウレタンアクリレート(ダイセル・サイテック(株)製「KRM8296」)、及び、ポリウレタン粒子(大日精化工業(株)製「ダイミックビーズUCN-8070CM」、平均粒径7μm)」を含む、すなわち、「熱可塑性ポリウレタンエラストマー、ポリウレタン粒子及びウレタン(メタ)アクリレートを含む」ものである点。 上記1.に摘記した甲1の段落【0022】には「本発明では、熱可塑性ポリウレタンエラストマーと、ポリウレタン粒子と、ウレタン(メタ)アクリレートとが組み合わされているため、樹脂成形体の表面に、指の引っ掛かりがなく、かつしっとりしたソフトタッチ感(スウェード調)を簡便に付与できる。・・・」との記載がある。すると、引用発明の「ウレタンエラストマー(熱可塑性ポリウレタンエラストマー)」を、「ポリウレタン粒子」及び「ウレタン(メタ)アクリレート」と組み合わせることで、「樹脂成形体の表面に、指の引っ掛かりがなく、かつしっとりしたソフトタッチ感(スウェード調)を簡便に付与できる。」との格別な効果を奏するのである。 そうすると、本件発明1は、引用発明が上記格別な効果を奏するために必須の成分である「熱可塑性ポリウレタンエラストマー、ポリウレタン粒子及びウレタン(メタ)アクリレートを含むもの」を、「表面保護層」を形成する「電離放射線硬化性樹脂及び合成樹脂粒子を含む樹脂組成物」から除くものであるから、上記相違点2は、実質的な相違点である。 よって、本件発明1は、引用発明ではないから、特許法第29条第1項第3号に該当せず、その特許は、特許法第113条第2号の規定に該当することを理由として取り消すことができない。 (イ)本件発明5及び6について 本件発明5及び6は、本件発明1を引用するものであるから、本件発明1の全ての発明特定事項をそなえ、さらに別の発明特定事項が付加されて技術的に限定されたものである。そして上記(ア)に示したように、本件発明1は、引用発明ではないから、本件発明5及び6も引用発明ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当せず、それらの特許は、特許法第113条第2号の規定に該当することを理由として取り消すことはできない。 イ.本件発明9について 上記1.に摘記した甲1の記載から、引用発明の「化粧フィルム」は「複雑な三次元形状の成形体にも、ザラツキがなく、触り心地の良い触感を付与でき、成形体表面の機械的特性も向上できる」(段落【0017】)ものであるから、甲1には、引用発明の「化粧フィルム」を表面に設けるように成形して得た成形体の発明(以下「引用成形体発明」という。)が記載されている。 そして、本件発明9と引用成形体発明とを対比すると、上記<相違点2>において、両者は相違する。 よって、上記ア.(ア)に示したように、上記<相違点2>は、実質的な相違点ではないから、本件発明9は、引用成形体発明ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当せず、その特許は、特許法第113条第2号の規定に該当することを理由として取り消すことはできない。 (2)特許法第29条第2項の理由について ア.本件発明2?4について 本件発明2?4は、いずれも本件発明1の特定事項を全て包含する発明であり、本件発明2?4の各発明と、引用発明を対比すると、少なくとも本件発明1と引用発明との相違点である上記(1)ア.(ア)に示した<相違点2>において相違する。 上記(1)ア.(ア)に示したように、引用発明の「化粧フィルム」は「硬化物層」において「熱可塑性ポリウレタンエラストマーと、ポリウレタン粒子と、ウレタン(メタ)アクリレート」を組み合わせたものを含めることにより、上記「樹脂成形体の表面に、指の引っかかりがなく、かつ、しっとりしたソフトタッチ感(スウェード調)を簡単に付与できる。」との格別な作用効果を奏するものであるから、そのような引用発明において、当該「硬化物層」を「熱可塑性ポリウレタンエラストマー、ポリウレタン粒子及びウレタン(メタ)アクリレート」を除いたものとすることの動機付けがあるとはいえず、かつ、そのような構成を採用すれば、上記甲1に記載された引用発明の格別な作用効果の発揮が妨げられるのであるから、上記化合物を組み合わせたものを除くことに阻害事由が存在するといえる。 そうすると、引用発明において、上記<相違点2>に係る本件発明1の構成を備えたものとすることは、当業者が容易になし得た事項であるとはいえない。 以上のとおりであるから、本件発明2?4は、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 イ.本件発明1?6を引用する本件発明8について 本件発明1?6を引用する本件発明8は、いずれの発明を引用するものにおいても、本件発明1の全ての発明特定事項を備え、さらに別の発明特定事項が付加されて技術的に限定されたものである。そのため、本件発明8と引用発明を対比すると、少なくとも、本件発明1と引用発明の相違点である上記(1)ア.(ア)に示した<相違点2>で相違する。 そうすると、上記ア.に示した理由と同様に、引用発明において上記<相違点2>に係る本件発明1の構成を備えたものとすることは、当業者が容易になし得た事項であるとはいえない。以上のとおりであるから、本件発明1?6を引用する本件発明8は、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 ウ.令和元年5月7日提出の申立人意見書について 当該意見書において、申立人は、「・・・訂正後の本件発明1、9」と甲1発明(当審注:引用発明)は技術的思想として顕著に異なるとはいえないので、進歩性は認められません。」(2ページ1?2行)と主張しているから検討する。 上記アに示したように、引用発明は、本件発明1、9が「硬化物層」を構成する化合物として「除く」とした「熱可塑性ポリウレタンエラストマー、ポリウレタン粒子及びウレタン(メタ)アクリレート」を必須の成分とすることで、「樹脂成形体の表面に、指の引っ掛かりがなく、かつしっとりしたソフトタッチ感(スウェード調)を簡便に付与できる。・・・」との効果を発揮するものである。そうすると、「樹脂成形体の表面」に付与しようとする性状が似通ったものであったとしても、当該性状を発揮せしめるための組成が異なったものである以上、それらの技術的思想が顕著に異ならないとまではいえない。 第6 むすび 以上のとおりであるから、本件発明1?14は、取消理由通知書(決定の予告)に記載した取消理由又は特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、本件発明1?14に係る特許を取り消すことはできない。さらに、他に本件発明1?14に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 したがって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 少なくとも、基材層と、表面保護層とを有する三次元成形用加飾シートであって、 前記表面保護層は、前記加飾シートの一方側の全面を覆っており、 前記表面保護層が、電離放射線硬化性樹脂及び合成樹脂粒子を含む樹脂組成物(但し、熱可塑性ポリウレタンエラストマー、ポリウレタン粒子及びウレタン(メタ)アクリレートを含むものを除く)により形成されており、 前記表面保護層において、前記合成樹脂粒子が、前記電離放射線硬化性樹脂100質量部に対して、65質量部以上含まれる、三次元成形用加飾シート。 【請求項2】 前記電離放射線硬化性樹脂が、ポリカーボネート(メタ)アクリレートを含む、請求項1に記載の三次元成形用加飾シート。 【請求項3】 前記電離放射線硬化性樹脂が、多官能(メタ)アクリレートをさらに含む、請求項2に記載の三次元成形用加飾シート。 【請求項4】 前記ポリカーボネート(メタ)アクリレートと、前記多官能(メタ)アクリレートとの質量比が、98:2?60:40である、請求項3に記載の三次元成形用加飾シート。 【請求項5】 前記合成樹脂粒子の粒子径が、2?15μmである、請求項1?4のいずれかに記載の三次元成形用加飾シート。 【請求項6】 前記表面保護層の厚みが、1?30μmである、請求項1?5のいずれかに記載の三次元成形用加飾シート。 【請求項7】 少なくとも、基材層と、表面保護層とを有する三次元成形用加飾シートであって、 前記表面保護層は、前記加飾シートの一方側の全面を覆っており、 前記表面保護層が、電離放射線硬化性樹脂及び合成樹脂粒子を含む樹脂組成物により形成されており、 前記表面保護層において、前記合成樹脂粒子が、前記電離放射線硬化性樹脂100質量部に対して、65質量部以上100質量部以下含まれ、 前記合成樹脂粒子が、ウレタンビーズ、ナイロンビーズ、アクリルビーズ、シリコーンビーズ、スチレンビーズ、メラミンビーズ、ウレタンアクリルビーズ、ポリエステルビーズ、及びポリエチレンビーズからなる群から選択された少なくとも1種である、三次元成形用加飾シート。 【請求項8】 前記基材層と前記表面保護層との間に、絵柄層をさらに有する、請求項1?7のいずれかに記載の三次元成形用加飾シート。 【請求項9】 少なくとも、成形樹脂層と、基材層と、表面保護層とがこの順に積層された積層体からなる加飾樹脂成形品であって、 前記表面保護層は、前記加飾樹脂成形品の一方側の全面を覆っており、 前記表面保護層が、電離放射線硬化性樹脂及び合成樹脂粒子を含む樹脂組成物(但し、熱可塑性ポリウレタンエラストマー、ポリウレタン粒子及びウレタン(メタ)アクリレートを含むものを除く)により形成されており、 前記表面保護層において、前記合成樹脂粒子が、前記電離放射線硬化性樹脂100質量部に対して、65質量部以上含まれる、加飾樹脂成形品。 【請求項10】 前記電離放射線硬化性樹脂が、ポリカーボネート(メタ)アクリレートを含む、請求項7に記載の三次元成形用加飾シート。 【請求項11】 前記電離放射線硬化性樹脂が、多官能(メタ)アクリレートをさらに含む、請求項10に記載の三次元成形用加飾シート。 【請求項12】 前記ポリカーボネート(メタ)アクリレートと、前記多官能(メタ)アクリレートとの質量比が、98:2?60:40である、請求項11に記載の三次元成形用加飾シート。 【請求項13】 前記合成樹脂粒子の粒子径が、2?15μmである、請求項7,10?12のいずれかに記載の三次元成形用加飾シート。 【請求項14】 前記表面保護層の厚みが、1?30μmである、請求項7,10?13のいずれかに記載の三次元成形用加飾シート。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2019-06-14 |
出願番号 | 特願2013-201311(P2013-201311) |
審決分類 |
P
1
651・
113-
YAA
(B32B)
P 1 651・ 121- YAA (B32B) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 中川 裕文 |
特許庁審判長 |
井上 茂夫 |
特許庁審判官 |
横溝 顕範 久保 克彦 |
登録日 | 2017-12-15 |
登録番号 | 特許第6255846号(P6255846) |
権利者 | 大日本印刷株式会社 |
発明の名称 | 加飾シート及び加飾樹脂成形品 |
代理人 | 山田 威一郎 |
代理人 | 田中 順也 |
代理人 | 田中 順也 |
代理人 | 立花 顕治 |
代理人 | 立花 顕治 |
代理人 | 水谷 馨也 |
代理人 | 松井 宏記 |
代理人 | 山田 威一郎 |
代理人 | 松井 宏記 |
代理人 | 水谷 馨也 |