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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B29B
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  B29B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B29B
管理番号 1354067
異議申立番号 異議2018-700490  
総通号数 237 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-09-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-06-13 
確定日 2019-06-27 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6245108号発明「繊維強化プラスチック成形体用基材の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6245108号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?6〕について訂正することを認める。 特許第6245108号の請求項1?4及び6に係る特許を維持する。 特許第6245108号の請求項5に係る特許についての本件特許異議の申立てを却下する。  
理由 第1 手続の経緯
特許第6245108号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?6に係る特許についての出願は、平成29年11月24日に特許権の設定登録(請求項の数6)がされ、同年12月13日に特許掲載公報が発行された。その後、平成30年6月13日に、特許異議申立人藤本一男(以下、「申立人」という。)により、請求項1?6に係る本件特許について特許異議の申立てがされた。
その後、平成30年8月28日付けで取消理由が通知され、同年10月24日に特許権者から意見書及び訂正請求書が提出され、同年12月13日に申立人から意見書が提出され、平成31年1月18日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、同年3月13日に特許権者から意見書が提出されるとともに訂正の請求がされ、同年4月27日付けで申立人から意見書が提出されたものである。
(なお、平成30年10月24日に提出された訂正請求書による訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定より、取り下げられたものとみなされる。)


第2 訂正の適否についての判断
1.請求の趣旨
平成31年3月13日に特許権者が行った訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)は、「特許第6245108号の特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?6について訂正することを求める」ことを請求の趣旨とするものである。

2.訂正の内容
本件訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「前記第1工程は、粘度が0.95mPa・s以下の分散溶媒に前記強化繊維を分散させ、第1の分散液を得る工程であり、
前記第2工程は、前記第1の分散液を用いて分散溶媒粘度が1.01mPa・s以上となるように調液し、前記強化繊維をさらに分散させ、第2の分散液を得る工程である」と記載されているのを、
「前記第1工程は、分散溶媒に前記強化繊維を分散させ、第1の分散液を得る工程であって、前記強化繊維を分散させる前記分散溶媒は、第1の分散液を80meshのフィルター(フルイ)で濾過することで得られる分散溶媒をJIS-Z8803:2011「液体の粘度測定方法」に準拠して、キャノン・フェンスケ粘度計にて測定される粘度が0.95mPa・s以下の分散溶媒である工程であり、
前記第2工程は、調液後の第1の分散液を80meshのフィルター(フルイ)で濾過することで得られる分散溶媒のJIS-Z8803:2011「液体の粘度測定方法」に準拠して、キャノン・フェンスケ粘度計にて測定される粘度が、1.01mPa・s 以上となるように前記第1の分散液を調液し、前記強化繊維をさらに分散させ、第2の分散液を得る工程であり、
前記第2工程では、粘剤が添加される、」に訂正する。
(請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2?4及び6も同様に訂正することになる。)

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に
「前記第2工程Aは、前記第1の分散液を用いて分散溶媒粘度が1.01?1.20mPa・sとなるように調液し、前記強化繊維をさらに分散させ、第2の分散液Aを得る工程であり、
前記第2工程Bは、第2の分散液Aを用いて分散溶媒粘度が1.30mPa・s以上となるように調液し、前記強化繊維をさらに分散させ、第2の分散液Bを得る工程である」と記載されているのを、
「前記第2工程Aは、調液後の前記第1の分散液を80meshのフィルター(フルイ)で濾過することで得られる分散溶媒のJIS-Z8803:2011「液体の粘度測定方法」に準拠して、キャノン・フェンスケ粘度計にて測定される粘度が、1.01?1.20mPa・sとなるように前記第1の分散液を調液し、前記強化繊維をさらに分散させ、第2の分散液Aを得る工程であり、
前記第2工程Bは、調液後の前記第2の分散液Aを80meshのフィルター(フルイ)で濾過することで得られる分散溶媒のJIS-Z8803:2011「液体の粘度測定方法」に準拠して、キャノン・フェンスケ粘度計にて測定される粘度が、1.30mPa・s以上となるように前記第2の分散液A調液し、前記強化繊維をさらに分散させ、第2の分散液Bを得る工程である」に訂正する。
(請求項2の記載を直接又は間接的に引用する請求項3、4及び6も同様に訂正することになる。)

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項5を削除する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項6に「請求項2?5のいずれか1項」と記載されているのを、「請求項2?4のいずれか1項」に訂正する。

(5)一群の請求項について
本件訂正は、訂正前の請求項1?6を訂正するものであるところ、本件訂正前の請求項2?6は、訂正請求の対象である請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する関係にあるから、訂正前の請求項1?6は一群の請求項であって、本件訂正は、一群の請求項〔1?6〕について請求されたものである。

3.訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否

(1)訂正事項1による訂正について
訂正前の請求項1には、繊維強化プラスチック成形体用基材の製造方法における、強化繊維と前記熱可塑性樹脂と分散溶媒とを含む分散液を得る第1工程及び第2工程に関し、「粘度が0.95mPa・s以下」、「分散溶媒粘度が1.01mPa・s以上」と記載されるものの、当該分散溶媒(の)粘度がどのような測定方法で測定される粘度であるかの記載がない点で、訂正前の請求項1の記載は技術的に不明瞭であった。
訂正事項1による訂正は、本件特許の願書に添付した明細書(以下、「本件特許明細書」という。)の【0060】の記載に基づいて、請求項1における分散溶媒(の)粘度が「第1の分散液を80meshのフィルター(フルイ)で濾過することで得られる分散溶媒をJIS-Z8803:2011「液体の粘度測定方法」に準拠して、キャノン・フェンスケ粘度計にて測定される粘度」であり、また、第2工程の粘度は、「(第2工程で)調液後の第1の分散液を80meshのフィルター(フルイ)で濾過することで得られる分散溶媒のTIS-Z8803:2011「液体の粘度測定方法」に準拠して、キャノン・フェンスケ粘度計にて測定される粘度」についての測定粘度であることを明らかにすることで、当該不明瞭な記載を明瞭とすることを目的とするものであるから、これらの訂正事項による訂正は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、訂正事項1による訂正は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(訂正後の請求項1を直接あるいは間接的に引用する請求項2?4及び6についての訂正も同様である。)

(2)訂正事項2による訂正について
訂正前の請求項2には、繊維強化プラスチック成形体用基材の製造方法における、強化繊維と前記熱可塑性樹脂と分散溶媒とを含む分散液を得る第2工程に関し、「第2工程A」として、「第1の分散液を用いて分散溶媒粘度が1.01?1.20mPa・sとなるように調液」、「第2工程B」として、「第2の分散液Aを用いて分散溶媒粘度が1.30mPa・s以上となるように調液」と記載されていたが、当該分散溶媒粘度がどのような測定方法で測定される粘度であるかの記載がない点で、訂正前の請求項2の記載は技術的に不明瞭であった。
訂正事項2による訂正は、本件特許明細書の【0060】の記載に基づいて、請求項2に特定される第2工程Aにおける分散溶媒粘度が、「(第2工程Aで)調液後の第1の分散液を80meshのフィルター(フルイ)で濾過することで得られる分散溶媒」を、「JIS-Z8803:2011「液体の粘度測定方法」に準拠して、キャノン・フェンスケ粘度計にて測定」した粘度であり、また、第2工程Bにおける分散溶媒粘度が、「(第2工程Bで)調液後の第2の分散液Aを80meshのフィルター(フルイ)で濾過することで得られる分散溶媒」を、「JIS-Z8803:2011「液体の粘度測定方法」に準拠して、キャノン・フェンスケ粘度計にて測定」した粘度であることを明らかにすることで、当該不明瞭な記載を明瞭とすることを目的とするものであるから、これらの訂正事項による訂正は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、訂正事項2による訂正は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(訂正後の請求項2を直接あるいは間接的に引用する請求項3、4及び6についての訂正も同様である。)

(3)訂正事項3による訂正について
訂正事項3による訂正は、訂正前の請求項5を削除するものであるから、これは、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるし、また、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(4)訂正事項4による訂正について
訂正事項4による訂正は、訂正前の請求項6では、引用請求項が「請求項2?5のいずれか1項」とされていたのを、訂正事項4による訂正によって訂正前の請求項5が削除されたことに伴い、「請求項2?4のいずれか1項」と訂正するものであるから、これは、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。また、訂正事項4による訂正は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(5)小括
したがって、本件訂正請求による訂正事項1?4は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?6〕について訂正を認める。


第3 本件発明
前記第2で述べたとおり、本件訂正は認められるので、本件特許の請求項1?6に係る発明は、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。(以下、請求項番号に対応して、それぞれ「本件発明1」等といい、本件発明1?4及び6をまとめて「本件発明」ともいう。)

「【請求項1】
強化繊維と熱可塑性樹脂を含む繊維強化プラスチック成形体用基材の製造方法であって、
前記強化繊維と前記熱可塑性樹脂と分散溶媒とを含む分散液を得る工程と、
前記分散液を抄造する工程を含み、
前記分散液を得る工程は、少なくとも第1工程と第2工程とを含み、
前記第1工程は、分散溶媒に前記強化繊維を分散させ、第1の分散液を得る工程であって、前記強化繊維を分散させる前記分散溶媒は、第1の分散液を80meshのフィルター(フルイ)で濾過することで得られる分散溶媒をJIS-Z8803:2011「液体の粘度測定方法」に準拠して、キャノン・フェンスケ粘度計にて測定される粘度が0.95mPa・s以下の分散溶媒である工程であり、
前記第2工程は、調液後の第1の分散液を80meshのフィルター(フルイ)で濾過することで得られる分散溶媒のJIS-Z8803:2011「液体の粘度測定方法」に準拠して、キャノン・フェンスケ粘度計にて測定される粘度が、1.01mPa・s以上となるように前記第1の分散液を調液し、前記強化繊維をさらに分散させ、第2の分散液を得る工程であり、
前記第2工程では、粘剤が添加される、
ことを特徴とする繊維強化プラスチック成形体用基材の製造方法。
【請求項2】
前記第2工程は、第2工程Aと第2工程Bとを含み、
前記第2工程Aは、調液後の前記第1の分散液を80meshのフィルター(フルイ)で濾過することで得られる分散溶媒のJIS-Z8803:2011「液体の粘度測定方法」に準拠して、キャノン・フェンスケ粘度計にて測定される粘度が、1.01?1.20mPa・sとなるように前記第1の分散液を調液し、前記強化繊維をさらに分散させ、第2の分散液Aを得る工程であり、
前記第2工程Bは、調液後の前記第2の分散液Aを80meshのフィルター(フルイ)で濾過することで得られる分散溶媒のJIS-Z8803:2011「液体の粘度測定方法」に準拠して、キャノン・フェンスケ粘度計にて測定される粘度が、1.30mPa・s 以上となるように前記第2の分散液Aを調液し、前記強化繊維をさらに分散させ、第2の分散液Bを得る工程である請求項1に記載の繊維強化プラスチック成形体用基材の製造方法。
【請求項3】
前記強化繊維は、炭素繊維又はガラス繊維である請求項1又は2に記載の繊維強化プラスチック成形体用基材の製造方法。
【請求項4】
前記強化繊維の繊維長は10mm以上である請求項1?3のいずれか1項に記載の繊維強化プラスチック成形体用基材の製造方法。
【請求項5】
(削除)
【請求項6】
前記第1工程、前記第2工程A及び前記第2工程Bでは、撹拌羽を備える撹拌機を用いて撹拌を行い、
前記第2工程Bで用いる撹拌羽の形状は、前記第1工程で用いる撹拌羽の形状及び前記第2工程Aで用いる撹拌羽の形状のいずれとも異なる請求項2?4のいずれか1項に記載の繊維強化プラスチック成形体用基材の製造方法。」


第4 特許異議申立書に記載した申立て理由の概要及び取消理由(決定の予告)の概要

1 特許異議申立書に記載した申立て理由の概要

特許の設定登録時の特許請求の範囲の請求項1?6に係る特許に対して申立人が申立てていた特許異議の申立ての理由は、概略、本件特許の請求項1?6に係る発明についての特許は、以下の(1)?(4)のとおりの理由により、取り消されるべきものであるというものであって、申立人は、特許異議申立書(以下、単に「申立書」ともいう。)に添付して、証拠方法として下記(5)の甲第1号証?甲第13号証を提出した。

(1)申立理由1(進歩性)
請求項1?6に係る発明は、下記の本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1?6に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(主引例は、下記の甲第1号証であり、他の甲号証は副引例である。)

(2)申立理由2(明確性)
請求項1?6に係る本件特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

(3)申立理由3(サポート要件)
請求項1?6に係る本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

(4)申立理由4(実施可能要件)
請求項1?6に係る本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

(5)証拠方法
甲第1号証:特開平1-245029号公報
甲第2号証:特開昭61-146899号公報
甲第3号証:特開平4-298208号公報
甲第4号証:特開2013-119690号公報
甲第5号証:特開2013-119691号公報
甲第6号証:「抄紙用粘剤アクリパーズについて」、中里孝則、紙パルプの技術、社団法人静岡県紙パルプ技術協会、VOL.56、No.1、June 2005、24?30頁及び表紙
甲第7の1号証:「CFRP廃材から抽出された炭素繊維を用いたCFRTPの圧縮成形」、木村照夫ら、Seikei-Kakou、Vol.22、No.3、2010、153?159頁
(https://www.jstage.jst.go.jp/article/seikeikakou/22/3/22_3_153/_pdf)
甲第7の2号証:「CFRP廃材から抽出された炭素繊維を用いたCFRTPの圧縮成形」、木村照夫ら、Seikei-Kakou、Vol.22、No.3、2010
(https://www.jstage.jst.go.jp/article/seikeikakou/22/3/22_3_153/_article/-char/ja)
甲第8号証:特開昭51-133580号公報
甲第9号証:特開平8-209585号公報
甲第10号証:特開2006-103193号公報
甲第11号証:特開2014-2941号公報
甲第12号証:特開2012-36016号公報
甲第13号証:特開2000-72513号公報

なお、文献名等の表記は概略申立書の記載に従った。以下、順に「甲1」のようにいう。

2 取消理由(決定の予告)の概要

当審が、平成31年1月18日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)は、平成30年10月24日提出の訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?6(下記の(1)参照。)に係る特許を対象とするものであり、当該取消理由の要旨は、下記(2)の取消理由1?3であり、より具体的には、下記(3)の取消理由(ア)?(ク)である。

(1)平成30年10月24日提出の訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲
「【請求項1】
強化繊維と熱可塑性樹脂を含む繊維強化プラスチック成形体用基材の製造方法であって、
前記強化繊維と前記熱可塑性樹脂と分散溶媒とを含む分散液を得る工程と、
前記分散液を抄造する工程を含み、
前記分散液を得る工程は、少なくとも第1工程と第2工程とを含み、
前記第1工程は、JIS-Z8803:2011「液体の粘度測定方法」に準拠して、キャノン・フェンスケ粘度計にて測定される粘度が0.95mPa・s以下の分散溶媒に前記強化繊維を分散させ、第1の分散液を得る工程であり、
前記第2工程は、前記第1の分散液を80meshのフィルター(フルイ)で濾過することで得られる分散溶媒のJIS-Z8803:2011「液体の粘度測定方法」に準拠して、キャノン・フェンスケ粘度計にて測定される粘度が、1.01mPa・s以上となるように前記第1の分散液を調液し、前記強化繊維をさらに分散させ、第2の分散液を得る工程であることを特徴とする繊維強化プラスチック成形体用基材の製造方法。
【請求項2】
前記第2工程は、第2工程Aと第2工程Bとを含み、
前記第2工程Aは、前記第1の分散液を80meshのフィルター(フルイ)で濾過することで得られる分散溶媒のJIS-Z8803:2011「液体の粘度測定方法」に準拠して、キャノン・フェンスケ粘度計にて測定される粘度が、1.01?1.20mPa・sとなるように前記第1の分散液を調液し、前記強化繊維をさらに分散させ、第2の分散液Aを得る工程であり、
前記第2工程Bは、前記第2の分散液Aを80meshのフィルター(フルイ)で濾過することで得られる分散溶媒のJIS-Z8803:2011「液体の粘度測定方法」に準拠して、キャノン・フェンスケ粘度計にて測定される粘度が、1.30mPa・s以上となるように前記第2の分散液A調液し、前記強化繊維をさらに分散させ、第2の分散液Bを得る工程である請求項1に記載の繊維強化プラスチック成形体用基材の製造方法。
【請求項3】
前記強化繊維は、炭素繊維又はガラス繊維である請求項1又は2に記載の繊維強化プラスチック成形体用基材の製造方法。
【請求項4】
前記強化繊維の繊維長は10mm以上である請求項1?3のいずれか1項に記載の繊維強化プラスチック成形体用基材の製造方法。
【請求項5】
前記第2工程には、粘剤が添加される請求項1?4のいずれか1項に記載の繊維強化プラスチック成形体用基材の製造方法。
【請求項6】
前記第1工程、前記第2工程A及び前記第2工程Bでは、撹拌羽を備える撹拌機を用いて撹拌を行い、
前記第2工程Bで用いる撹拌羽の形状は、前記第1工程で用いる撹拌羽の形状及び前記第2工程Aで用いる撹拌羽の形状のいずれとも異なる請求項2?5のいずれか1項に記載の繊維強化プラスチック成形体用基材の製造方法。」

(以下、平成30年10月24日提出の訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?6を、それぞれ、「訂正1の請求項1」?「訂正1の請求項6」、これらをまとめて、「訂正1の請求項」ともいう。)

(2)取消理由
<取消理由1(明確性)>
請求項1?6に係る本件特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
<取消理由2(サポート要件)>
請求項1?6に係る本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
<取消理由3(実施可能要件)>
請求項1?6に係る本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

(3)取消理由1?3についての具体的な取消理由(取消理由(ア)?(ク))
以下の取消理由のうち、取消理由(ア)?(ウ)、(オ)?(ク)は、平成30年10月24日提出の訂正請求書による訂正により生じた取消理由である。

ア 取消理由(ア)(取消理由1(明確性))
訂正1の請求項1の記載によれば、第2工程については、分散溶媒の粘度に関し、分散液を80meshのフィルター(フルイ)で濾過して得られる濾液の粘度である旨の特定がされた上で、粘度計の種類等も特定されており、第2工程の分散溶媒の粘度は、本件特許明細書の【0015】に記載されている「分散液を80meshのフィルター(フルイ)で濾過して得られる濾液」の粘度と理解できる。一方、第1工程では、粘度計の種類等が特定されるのみで、上記特定のフィルターで濾過して得られる濾液の粘度である旨の特定は、発明特定事項とはされていないから、訂正後の請求項1に記載される第1工程の「分散溶媒」は、第2工程等の「分散溶媒」と、その意味内容が異なる可能性がある。
また、「分散溶媒」という用語は、狭義には、分散させるための溶媒そのものであり、他の成分を含まないと解されるし、広義では他の成分を含み得ると解される。
そうすると、訂正1の請求項1に係る発明の第1工程の「分散溶媒」の意味内容が多義的に解釈されるから、訂正1の請求項1に係る発明は明確ではない。訂正1の請求項2?6に係る発明についても同様である。

イ 取消理由(イ)(取消理由1(明確性))
第1工程の「分散溶媒」は、本件特許明細書の【0015】に記載されている「分散液を80meshのフィルター(フルイ)で濾過して得られる濾液」、つまり、濾過により、「分散液から強化繊維、熱可塑性繊維、バインダー等の固形物を除去した液」に相当するものを意味するのか、「JIS-Z8803:2011「液体の粘度測定方法」に準拠して、キャノン・フェンスケ粘度計にて測定される粘度が0.95mPa・s以下」との特定を満足する限り、固形物を含め、分散溶媒に分散させる強化繊維以外の任意の成分を包含する液を意味するのか、それ以外を意味するのか、訂正1の請求項1の記載からは明らかでないから、訂正1の請求項1に係る発明は明確ではない。訂正1の請求項2?6に係る発明についても同様である。

ウ 取消理由(ウ)(取消理由2(サポート要件))
第1工程の「分散溶媒」を広義に解釈する場合、訂正1の請求項に係る発明においては、第1の工程に使用される「分散溶媒」が熱可塑性繊維やバインダー等、80meshのフィルターで濾過することで除かれるような固形分(但し、該分散溶媒に分散させる強化繊維を除く)を含む場合が包含され得るものとなっているが、この場合、訂正1の請求項1に係る発明の課題が達成できることを当業者は理解することができないから、訂正1の請求項1に係る発明は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものとはいえない。訂正1の請求項2?6に係る発明についても同様である。

エ 取消理由(エ)(取消理由1(明確性))
溶媒の粘度が測定温度により変化することは本件特許の出願時の技術常識である(必要なら、申立人が平成30年12月13日付けで提出した参考資料1(JIS一Z8803:2011)の6/43頁の表1参照。)から、当業者は訂正1の請求項1?6に係る発明の第1工程で使用される特定の粘度の分散溶媒の範囲を明確に理解することができない。

オ 取消理由(オ)(取消理由1(明確性))
第2工程、第2工程Aあるいは第2工程B(以下、「第2工程等」という。)における「調液」の意味内容を、当業者は技術的に明確に理解することができないから、訂正1の請求項1?4、6に係る発明は明確ではない。

カ 取消理由(カ)(取消理由2(サポート要件))
本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載から、訂正1の請求項に係る発明の課題が達成できることを当業者が理解できるのは、第2工程等で粘剤が添加される製造方法により製造する場合のみであるところ、粘剤がある場合とない場合で、分散溶媒中での強化繊維の動態に変化はなく、同様の分散性が得られるとの本件特許の出願時の技術常識があるとは解されないから、第2工程等で粘剤が添加されない態様を含む訂正1の請求項1?4、6に係る発明について、本件発明の課題が達成できることを当業者が理解できるとはいえない。

キ 取消理由(キ)(取消理由3(実施可能要件))
訂正1の請求項1?4、6に係る発明おいて、第2工程等において所定の粘度に調整するための「調液」が粘剤を使用することなく、撹拌条件のみをコントロールして行う態様である場合の発明については、本件特許の出願時の技術常識を参酌しても、当業者が本件特許明細書の記載から容易に実施することができるとはいえない。

ク 取消理由(ク)(取消理由3(実施可能要件))
訂正1の請求項1?4、6に係る発明おいて、第2工程等において所定の粘度に調整するための「調液」が粘剤を使用することなく、溶媒の温度条件をコントロールして行う態様である場合の発明について、本件特許の出願時の技術常識を参酌しても、任意の溶媒についてまで、当業者が本件特許明細書の記載から容易に実施することができるとはいえない。


第5 当審の判断
以下に述べるように、訂正後の請求項1?4及び6に係る特許は、申立書に記載された特許異議の申立ての理由及び取消理由通知書(決定の予告)に記載した取消理由によっては取り消すことはできない。

1 取消理由通知(決定の予告)で通知した取消理由について

(1)取消理由(ア)(イ)(エ)(オ)(取消理由1(明確性))についての判断
ア 本件訂正後の本件発明は、上記第3に記載したとおりである。

イ 取消理由(ア)(イ)に関し、訂正後の請求項1の記載によれば、本件発明1の第1工程の「分散溶媒」が、「第1の分散液を80meshのフィルター(フルイ)で濾過することで得られる」ものであり、「分散溶媒をJIS-Z8803:2011「液体の粘度測定方法」に準拠して、キャノン・フェンスケ粘度計」で「測定」した場合の「粘度」が、「0.95mPa・s以下」という条件を満たすものを意味することが明らかであるから、当業者は、本件発明1の「分散溶媒」を一義的に理解できる。

ウ 取消理由(エ)に関し、訂正後の請求項1の記載によれば、第1工程における「分散溶媒」の粘度は、「強化繊維と熱可塑性樹脂を含む繊維強化プラスチック成形体用基材の製造方法」の「前記強化繊維と前記熱可塑性樹脂と分散溶媒とを含む分散液を得る工程」である、第1工程における工程粘度であることが明らかであり、当業者は、本件発明1の第1工程における「分散溶媒」の粘度がどのような測定温度で測定された粘度を意味しているのかを理解でき、そのような粘度で特定される分散溶媒の範囲を一義的に明確に理解することができる。
すなわち、上記分散液を得る工程が(i)第1工程の場合の測定温度は、「第1の分散液を得る工程」により得られた「第1の分散液」を「80meshのフィルター(フルイ)で濾過することで得られる分散溶媒をJIS-Z8803:2011「液体の粘度測定方法」に準拠して、キャノン・フェンスケ粘度計にて測定」する際の温度であり、「第1の分散液を得る工程」の工程温度であることが理解できる。

エ 取消理由(オ)に関し、訂正後の請求項1の記載によれば、本件発明1、2における第2工程等の「調液」は、「粘剤が添加され」ることで粘度調整することを意味することが明らかであり、当業者は、本件発明1、2の「調液」を一義的に理解できる。

オ 以上のとおりであるから、本件発明1(及び2)は明確であるし、請求項1(又は2)を引用する請求項に係る本件発明2?4、6についても同様であり、取消理由(ア)(イ)(エ)(オ)には、理由がない。

(2)取消理由(ウ)(カ)(取消理由2(サポート要件)についての判断
ア サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
そこで、検討する。

イ サポート要件についての検討
(ア)本件発明(本件発明1?4及び6)に関する特許請求の範囲の記載
本件発明(本件発明1?4及び6)に関する特許請求の範囲の記載は、上記第3の請求項1?4及び6のとおりである。

(イ)本件発明が解決しようとする課題
本件発明が解決しようとする課題に関し、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。

「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1及び2においては、分散液を抄造する工程においては、種々の工夫がなされており、均質なウエブを作製する方法が検討されている。しかしながら、従来の製造方法を用いて繊維強化プラスチック成形体用基材を作製しようとした場合、分散液を得る工程において、強化繊維の分散性が悪化する場合があり問題となっていた。
また、従来の分散方法を用いた場合、強化繊維を分散させた後に、強化繊維同士が再凝集する場合があることが本発明者らの検討により明らかとなった。このような場合、繊維強化プラスチック成形体用基材中に再凝集塊が残ることとなり、繊維強化プラスチック成形体用基材中に強化繊維が均一に分散しなくなるため、強度が低下したり、外観が悪化して意匠性に劣るなどの問題を生じる。
【0006】
そこで本発明者らは、このような従来技術の課題を解決するために、強化繊維が均一に分散した繊維強化プラスチック成形体用基材を提供することを目的として検討を進めた。さらに、本発明者らは、繊維強化プラスチック成形体用基材の製造工程において、強化繊維の分散性を高め、かつ強化繊維の再凝集を抑制し得る製造方法を開発することを目的として検討を進めた。」

上記の記載によれば、本件発明が解決しようとする課題は、「繊維強化プラスチック成形体用基材の製造工程において、強化繊維の分散性を高め、かつ強化繊維の再凝集を抑制し得る製造方法を提供すること」(以下、単に「本件発明の課題」という。)であると認められる。

(ウ)本件発明の課題の解決手段に関する、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載
課題解決手段についての記載として、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。

「【0007】
課題を解決するために鋭意検討を行った結果、本発明者らは、強化繊維と熱可塑性樹脂とを含む分散液を得る工程を少なくとも2工程設け、各々の工程の分散液の粘度を所定の範囲内に制御することにより、分散液中の強化繊維の分散性を高め、さらに強化繊維の再凝集を抑制できることを見出した。これにより、強化繊維が均一に分散した繊維強化プラスチック成形体用基材を得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。」

「【0012】
(繊維強化プラスチック成形体用基材の製造方法)
本発明は、強化繊維と熱可塑性樹脂とを含む繊維強化プラスチック成形体用基材の製造方法に関する。繊維強化プラスチック成形体用基材の製造方法は、強化繊維と熱可塑性樹脂と分散溶媒を含む分散液を得る工程と、分散液を抄造する工程を含む。ここで、分散液を得る工程は、少なくとも第1工程と第2工程とを含む。第1工程は、粘度が0.95mPa・s以下の分散溶媒に強化繊維を分散させ、第1の分散液を得る工程である。第2工程は、第1の分散液を用いて分散溶媒粘度が1.01mPa・s以上となるように調液し、強化繊維をさらに分散させ、第2の分散液を得る工程である。第1工程の分散溶媒の粘度は、0.95mPa・s以下であればよい。また、第2工程の分散溶媒の粘度は、1.01mPa・s以上であればよい。
【0013】
第2工程は、第2工程Aと第2工程Bとを含むことが好ましい。ここで、第2工程Aは、第1の分散液を用いて分散溶媒粘度が1.01?1.20mPa・sとなるように調液し、強化繊維をさらに分散させ、第2の分散液Aを得る工程である。第2工程Bは、第2の分散液Aを用いて分散溶媒粘度が1.30mPa・s以上となるように調液し、強化繊維をさらに分散させ、第2の分散液Bを得る工程である。分散液を得る工程は、第1工程と、第2工程Aと、第2工程Bをこの順で含むことが好ましい。」

また、第1工程及び第2工程で特定される分散溶媒及び分散溶媒の粘度並びに粘度調整に関し、以下の記載がある。

「【0015】
本発明で用いられる分散溶媒とは、具体的には、分散液を80meshのフィルター(フルイ)で濾過して得られる濾液を分散溶媒という。すなわち、第1工程及び第2工程における分散溶媒の粘度とは、分散液から強化繊維、熱可塑性繊維、バインダー等の固形物を除去した液の粘度のことをいう。分散溶媒の粘度は、分散液を80meshのフィルター(フルイ)で濾過した濾液を採取し、JIS Z 8803「液体の粘度測定方法」に規定される測定方法に従って測定することができる
【0016】
強化繊維は、通常12000?48000本の束となるように、集束剤で集束されている。第1工程では、この集束した強化繊維の繊維間の結合を弱める。ここでは、強化繊維束が、1本ずつの強化繊維に分散してもよいが、一部に収束した強化繊維が残っていてもよい。
第2工程は、強化繊維を1本ずつの強化繊維となるようにさらに分散する工程であると同時に、1本ずつに分散した強化繊維の分散状態を維持する工程でもある。第2工程が第2工程Aと第2工程Bを有する場合、第2工程Bは、1本ずつに分散した強化繊維の分散状態を維持する工程であることが好ましい。
【0017】
第1工程と第2工程は、1つの分散槽で行うこととしてもよい。第1工程と第2工程を1つの分散槽で行う場合、第1工程が完了した後に、同一の分散槽内において、所定の分散溶媒粘度となるように調液を行う。
また、第1工程と第2工程は、別個の分散槽で行うこととしてもよく、第1工程と第2工程Aを同一の分散槽で行い、第2工程Bのみを別の分散槽で行うこととしてもよく、第1工程、第2工程A及び第2工程Bの3工程全てを異なる分散槽で行ってもよい。
【0018】
図1には、第1工程と第2工程を別個の分散槽で行う場合の分散液を得る工程の概略図が示されている。分散液を得る工程では、少なくとも2つの分散工程(第1工程、第2工程)が設けられ、各工程は、各々の分散槽を用いて行われることが好ましい。例えば、図1に示されているように、第1工程は、第1の分散槽10で行われ、第2工程は、第2の分散槽20で行われる。強化繊維を含む第1の分散液Pは、第1の分散槽10において、水を主成分とする分散溶媒に強化繊維を分散させることによって得られる。第1の分散槽10には、第1の撹拌機12が備え付けられており、第1の撹拌機12によって、強化繊維は分散される。また、第1の分散槽10には、強化繊維供給装置14が備え付けられており、第1の分散槽10に強化繊維供給装置14を通して強化繊維が投入される。第1の分散槽10には、粘剤等の添加剤が投入されてもよいが、強化繊維の分散性を高めるために粘剤は投入されないことが好ましい。
【0019】
第1の分散槽10と第2の分散槽20は流路18で連結されており、第1の分散液Pは、流路18を通って第2の分散槽20に移送される。第2の分散槽20には、第2の撹拌機22が備え付けられており、第2の撹拌機22によって、強化繊維はさらに分散され、第2の分散液Qが得られる。また、第2の分散槽20には、供給装置24が備え付けられており、第2の分散液Qが所定の粘度となるように、第2の分散槽20に粘剤又は、粘剤を含む分散溶媒が投入される。なお、図1では、流路18は第1の分散槽10の底部に連結されているが、連結部位は側部や上部のいずれであってもよい。
【0020】
本発明では、上述したように、分散工程を少なくとも2工程設け、さらに、各分散工程において、分散溶媒の粘度を特定の範囲となるように制御することにより、強化繊維の分散性を高めることができる。さらに、本発明では上記の条件で強化繊維を分散させることにより、強化繊維が再凝集することを抑制することができる。ここで強化繊維の再凝集とは、一旦分散した強化繊維が再び、凝集した凝集体となることをいう。
【0021】
第2工程では、分散槽に粘剤を添加することにより、所望の粘度とすることができる。粘剤としては、ポリアクリルアミド、ポリエチレンオキサイド等を挙げることができる。中でも、ポリアクリルアミドを用いることが好ましく、重量平均分子量が1000?2400万のポリアクリルアミドを用いることがより好ましい。また、ポリアクリルアミドはアニオン性のものが特に好ましい。
【0022】
粘剤は 粉末状のものは、予め溶解し水溶液の状態で添加することが好ましい。例えば、ポリアクリルアミドを使用する場合、0.01?0.3質量%に予め溶解して添加することが好ましい。
【0023】
第1工程では、強化繊維を分散させる分散溶媒に、ポリアクリルアミドを添加しないことが好ましい。また。第2工程では、第1の分散液に重量平均分子量が1500?2000万のポリアクリルアミドを4?11ppm添加することが好ましい。
【0024】
第1工程では、粘剤が2ppm未満添加されることが好ましく、粘剤は添加されないことがより好ましい。第2工程には、重量平均分子量が1500?2000万のポリアクリルアミドを4ppm添加されることが好ましく、6ppm以上添加されることがより好ましく、11ppm以上添加されることがさらに好ましい。また、第2工程が、第2工程A及び第2工程Bを有する場合、第2工程Aでは、重量平均分子量が1500?2000万 のポリアクリルアミドが4?11ppm添加されることが好ましく、6?11ppm添加されることがさらに好ましい。第2工程Bでは、重量平均分子量が1500?2000万のポリアクリルアミドが15?100ppm添加されることが好ましく、20?70ppm添加されることがより好ましく、25?50ppm添加されることがさらに好ましい。
【0025】
なお、第2工程では、熱可塑性樹脂が第2の分散槽20に投入されてもよく、別の分散槽で分散された後に強化繊維の分散液と混合されてもよい。
【0026】
分散液を得る工程は、分散工程を少なくとも2工程設ければよく、3工程以上設けることが好ましい。すなわち、分散液を得る工程では、分散槽を2槽以上設けることが好ましく、3槽以上設けることがより好ましい。
【0027】
図2には、分散槽が3槽設けられた分散工程の概略図が示されている。図2に示されているように、分散液を得る工程では、3つの分散工程が設けられることが好ましい。図2に示されているように、第1工程は、第1の分散槽10で行われ、第2工程Aは、第2の分散槽20で行われ、第2工程Bは、第2の分散槽30で行われる。強化繊維を含む第1の分散液Pは、第1の分散槽10において、強化繊維を分散させることによって得られる。第1の分散槽10には、第1の撹拌機12が備え付けられており、第1の撹拌機12によって、強化繊維は分散される。また、第1の分散槽10には、強化繊維供給装置14が備え付けられており、第1の分散槽10に強化繊維供給装置14を通して強化繊維が投入される。
【0028】
第1の分散槽10と第2の分散槽20は流路18で連結されており、第1の分散液Pは、流路18を通って第2の分散槽20に移送される。第2の分散槽20には、第2の撹拌機22が備え付けられており、第2の撹拌機22によって、強化繊維はさらに分散される。また、第2の分散槽20には、供給装置24が備え付けられており、分散液Q(第2の分散液A)が所定の粘度となるように、第2の分散槽20に、粘剤又は、粘剤を含む分散溶媒が投入される。
【0029】
第2の分散槽20と第2の分散槽30は流路28で連結されており、第2の分散液Qは、流路28を通って第2の分散槽30に移送される。第2の分散槽30には、第2の撹拌機32が備え付けられており、第2の撹拌機32によって、強化繊維はさらに分散される。また、第2の分散槽30には、供給装置34が備え付けられており、分散液R(第2の分散液B)が所定の粘度となるように、第2の分散槽20に、粘剤又は、粘剤を含む分散溶媒がさらに投入される。
【0030】
複数の分散槽では、撹拌機の回転速度を各々異なる速度とすることが好ましい。具体的には、第1工程の回転速度は200?3600rpmであることが好ましく、300?3300rpmであることがより好ましく、350?3000rpmであることがさらに好ましい。第2工程の回転速度は300rpm未満であることが好ましい。さらに、第2工程Aの回転速度は、200rpm以上300rpm未満であることがより好ましく、第2工程Bの回転速度は、200rpm未満であることがさらに好ましい。
本発明では、第1工程において、短時間、速い回転速度で撹拌を行い、集束した強化繊維を水になじませ、1本1本に分散しやすい状態にする。このように分散しやすい状態となった繊維を含む第1の分散液は、第2工程に移送される。また、好ましくは、第2工程Aに移送された後に、第2工程Bに移送される。第2工程Aで繊維は1本1本に分散される。ここで、1度分散した強化繊維は再凝集しやすいという性質を持つ。特に、分散液の撹拌時間が長くなる場合に再凝集が起こりやすい。しかし、本発明では、分散工程を複数工程設け、さらに各工程で分散液の粘度を規定することにより、強化繊維の再凝集を抑制することができる。
【0031】
複数の分散槽では、撹拌羽を備える撹拌機を用いて撹拌を行う。ここで、第2工程Bで用いる撹拌羽の形状は、第1工程で用いる撹拌羽の形状及び第2工程Aで用いる撹拌羽の形状のいずれとも異なることが好ましい。同一の形状の攪拌羽を使用する場合には、第2工程A及び第2工程Bにおける回転数を下げることが好ましく、第2工程Bの回転数を第1工程及び第2工程Aよりも下げることがより好ましい。
【0032】
第1工程及び第2工程Aでは強攪拌を行い、せん断力を発生させられる攪拌羽を用いることが好ましい。このような観点から、製紙用のパルプや古紙等を離解するためのパルパーも好ましく用いることができる。また、プロペラ型やタービン型も好ましく使用することができる。
第2工程Bでは、繊維の沈降防止及び分散状態の維持のために攪拌するので、第1工程及び第2工程Aほどの強い攪拌力は不要である。一方、この工程では長時間攪拌され続けるため、ポリアクリルアミド等の分子鎖が切断されて粘性が経時で低下するという問題が生じやすい。かかる観点から、せん断力が弱いアジテータが好ましく、ダブルリボン型、スクリュー型、ゲートパドル型等が好ましく使用される。また、プロペラ型も使用することができるが、この場合は回転数を第1工程及び第2工程Aよりも低くすることが好ましい。
【0033】
各分散工程で用いられる分散槽には、さらに分散剤、バインダー成分、顔料、着色剤、填量等が添加されてもよい。
分散剤としては、一般的に使用されている界面活性剤が使用でき、ポリエーテル系、ポリエステル系、アルキルベタイン系、ステアリン酸系などを挙げることができる。
バインダー成分としては、アクリル樹脂、スチレン-アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、変性ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、EVA樹脂、ウレタン樹脂、PVA樹脂等が使用できる。なお、これらのバインダー成分は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
分散槽10には、分散液Pの全質量に対して、強化繊維を0.1?2.0質量%となるように添加することが好ましい。また、熱可塑性樹脂は、0.1?2.0質量%となるように添加することが好ましい。なお、強化繊維及び熱可塑性樹脂の含有率は、分散液Q及び分散液Rにおいては上記範囲内であってもよいが、より好ましくは強化繊維及び熱可塑性樹脂の含有量は各々0.1?0.5質量%であることがより好ましい。」

成形体用基材並びにその製造方法に用いられる強化繊維及び熱可塑性樹脂に関し、以下の記載がある。

「【0036】
(強化繊維)
強化繊維供給装置14は、強化繊維を分散槽10に供給する。強化繊維としては、例えば、ガラス繊維や炭素繊維等の無機繊維を挙げることができる。中でも、炭素繊維は好ましく用いられる。なお、これらの無機繊維は、1種を使用してもよく、複数種を使用してもよい。さらに、本発明では、強化繊維は、このような無機繊維の他に、アラミド繊維、PBO(ポリパラフェニレンベンズオキサゾール)繊維等の耐熱性に優れた有機繊維を含有していてもよい。
【0037】
強化繊維は、一定の長さにカットされたチョップドストランドであることが好ましい。このような形態とすることにより、強化繊維を均一に混合することができる。また、繊維強化プラスチック成形体の生産効率を高めることができる。強化繊維を一定の長さにカットする場合には、強化繊維は集束剤によって、幅10?100mm程度の束状にした状態でカットすることが好ましい。これにより、カット長を均一にすることができ、チョップドストランドの生産効率を高めることができる。
集束剤は、エポキシ系、PVA系等一般的なものが使用でき、好ましい添加量は強化繊維の全質量に対して2質量%以下である。
【0038】
強化繊維の繊維長は、10mm以上であることが好ましく、20mm以上であることがより好ましく、30mm以上であることがさらに好ましく、50mm以上であることがよりさらに好ましい。このように本発明では、繊維長の長い強化繊維を用いることが可能であり、このような強化繊維についても分散性を高めることができる。
【0039】
強化繊維の繊維径としては、特に限定されるものではないが、3?25μmが好ましい。強化繊維の繊維径を上記範囲内とすることにより、製造工程あるいは使用中に人体に取り込まれることを防ぐことができ、かつ十分な強度を得ることが可能となる。
【0040】
強化繊維が炭素繊維の場合、炭素繊維の単繊維強度は、4500MPa以上であることが好ましく、4700MPa以上であることがより好ましい。単繊維強度とは、モノフィラメントの引っ張り強度をいう。このような炭素繊維を使用した場合、強度が大幅に向上する。なお、単繊維強度は、JIS R7601「炭素繊維試験方法」に準じて測定することができる。」

「【0041】
(熱可塑性樹脂)
熱可塑性樹脂は、繊維強化プラスチック成形体用基材の加熱加圧処理時にマトリックス、あるいは、繊維成分の交点に結着点を成形するものである。
【0042】
熱可塑性樹脂は、繊維状であることが好ましい。この熱可塑性樹脂繊維は、繊維強化プラスチック成形体用基材に加熱加圧処理が行われるまでは繊維形態を維持しており、これにより基材中には空隙が存在することが好ましい。このような繊維強化プラスチック成形体用基材は、しなやかでドレープ性を有しており、巻き取り形態での保管・輸送が可能であり、ハンドリング性に優れるという特徴を有する。
【0043】
熱可塑性樹脂としては、ポリカーボネート(PC)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリアミド、ポリプロピレン等を例示することができる。これらの熱可塑性樹脂は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。また、これら熱可塑性樹脂の中でも、高強度の繊維強化プラスチック成形体を得るために、ポリカーボネート、ポリエーテルイミド、ポリアミド(ナイロン)、ポリプロピレンを用いることが好ましい。さらに、熱可塑性樹脂は繊維であることが好ましく、繊維分散性が良好なポリカーボネート繊維、ポリエーテルイミド繊維、ポリアミド(ナイロン)繊維、ポリプロピレン繊維を用いることが好ましい。
【0044】
熱可塑性樹脂が繊維の場合、熱可塑性繊維の繊維長は、2?100mmであることが好ましく、5?50mmであることがより好ましく、10?25mmであることがさらに好ましい。熱可塑性繊維の繊維長を上記範囲内とすることにより、繊維強化プラスチック成形体用基材から熱可塑性繊維が脱落することを抑制することができ、かつ、曲げ強度と耐衝撃性に優れた繊維強化プラスチック成形体を成形することが可能となる。また、熱可塑性繊維の繊維長を上記範囲内とすることにより、熱可塑性繊維の分散性を良好にすることができる。これにより、加熱加圧成形後の繊維強化プラスチック成形体は良好な強度と外観を有する。
熱可塑性繊維は、一定の長さにカットされたチョップドストランドであることが好ましい。熱可塑性繊維は、このような形態であることにより、繊維強化プラスチック成形体用基材中に均一に混合することができる。また、繊維の断面形状は円形に限定されず、楕円形等、異形断面のものも使用できる。」

「【0045】
(繊維強化プラスチック成形体用基材)
上記のような製造方法で製造された繊維強化プラスチック成形体用基材においては、強化繊維が均一に分散している。また、上記のような製造方法を用いた場合、分散工程において強化繊維が良好に分散され、かつ分散状態が維持されているため、繊維強化プラスチック成形体用基材に強化繊維を均一に分散させることができる。このため、このような繊維強化プラスチック成形体用基材を加熱加圧成形して得られる繊維強化プラスチック成形体は優れた強度を有する。」

具体的な実施例として以下の記載がある。

「【実施例】
【0047】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0048】
(実施例1)
プロペラ型アジテータを備えた古紙離解用パルパー(相川鉄工社製、容量600L)に500Lの水を投入し、繊維長12mmの炭素繊維(台湾プラスチック社製 CS815)を1.0kg投入した。さらに、分散剤としてエマノーン(登録商標)3199V(花王株式会社製)の0.5%水溶液を1kg添加し、プロペラ型アジテータの回転数を600rpmとし90秒間攪拌した(第1工程)。
【0049】
次いで、ポリアクリルアミド系粘剤(MTアクアポリマー社製 FA-40、重量平均分子量1700万)の0.2%溶液を2.5kg投入した。更に、ポリカーボネート繊維(ダイワボウポリテック社製、繊維径30μ、繊維長15mm)1kgと、バインダーであるPVA繊維(クラレ社製 VPB105-2)0.04kgを予め60Lの水に漬けたものを、パルパーに投入した。そして、プロペラ型アジテータの回転数を250rpmとして攪拌を続けた(第2工程)。そして、10分経過時、60分経過時及び120分経過時に、それぞれこの繊維分散液を5.5L/minの速度で傾斜ワイヤー型抄紙機に供給し、幅50cm、坪量22g/m^(2)の繊維強化プラスチック成形体用基材を得た。
【0050】
(実施例2)
プロペラ型アジテータを備えた古紙離解用パルパー(相川鉄工社製、容量600L)に500Lの水を投入し、繊維長12mmの炭素繊維(台湾プラスチック社製 CS815)を1.0kg投入した。さらに、分散剤としてエマノーン(登録商標)3199V(花王株式会社製)の0.5%水溶液を1kg添加し、プロペラ型アジテータの回転数を600rpmとし90秒間攪拌し、攪拌を停止した(第1工程)。
【0051】
次いで、ポリアクリルアミド系粘剤(MTアクアポリマー社製 FA-40、重量平均分子量1700万)の0.2%溶液を2.5kg投入した。更に、ポリカーボネート繊維(ダイワボウポリテック社製、繊維径30μ、繊維長15mm)0.96kgと、バインダーであるPVA繊維(クラレ社製 VPB105-2)0.04kgを予め60Lの水に漬けたものを、パルパーに投入した。そして、プロペラ型アジテータの回転数を250rpmで20秒攪拌した(第2工程A)。
【0052】
その後、ポリアクリルアミド系粘剤(MTアクアポリマー社製 FA-40、重量平均分子量1700万)の0.2%溶液を4kg添加し、回転数を100rpmでの攪拌を続けながら(第2工程B)、10分経過時、60分経過時及び120分経過時に、それぞれこの繊維分散液を5.5L/minの速度で傾斜ワイヤー型抄紙機に供給し、幅50cm、坪量22g/m^(2)の繊維強化プラスチック成形体用基材を得た。
【0053】
(実施例3)
プロペラ型アジテータを備えた古紙離解用パルパー(相川鉄工社製、容量600L)に500Lの水を投入し、繊維長12mmの炭素繊維(台湾プラスチック社製 CS815)を2.5kg投入した。さらに、分散剤としてエマノーン(登録商標)3199V(花王株式会社製)の0.5%水溶液を2.5kg添加し、プロペラ型アジテータの回転数を600rpmとし90秒間攪拌した(第1工程)。
【0054】
次いで、ポリアクリルアミド系粘剤(MTアクアポリマー社製 FA-40、重量平均分子量1700万)の0.2%溶液を1.0kg投入し、60秒間攪拌した(第2工程A)。そして、パルパー内の分散液を全て、プロペラ型アジテータを有する2800Lの容器に移送した。
【0055】
上述した第1工程及び第2工程Aとは別に、上記の古紙離解用パルパーに再度500Lの水を投入し、ポリカーボネート繊維(ダイワボウポリテック社製、繊維径30μ、繊維長15mm)2.4kgと、バインダーであるPVA繊維(クラレ社製 VPB105-2)0.1kgを投入した。そして、分散剤としてエマノーン(登録商標)3199V(花王株式会社製)の0.5%水溶液を2.5kg添加し、プロペラ型アジテータの回転数を600rpmとし90秒間攪拌した。そして、ポリアクリルアミド系粘剤(MTアクアポリマー社製 FA-40、重量平均分子量1700万)の0.2%溶液をパルパーに1.0kg投入し、60秒間攪拌した。その後、このポリカーボネート繊維等を含む分散液を、上記のプロペラ型アジテータを有する2800Lの容器に移送した。この時点で2800L容器には炭素繊維及びポリアクリルアミド系粘剤の分散液と、ポリカーボネート繊維及びPVA繊維の分散液が投入されている状態である。
次に、この2800Lの容器に水を加えて2500Lとして、分散液固形分濃度0.2質量%の分散液を得た。
【0056】
さらに、得られた分散液にポリアクリルアミド系粘剤(MTアクアポリマー社製 FA-40、重量平均分子量1700万)の0.2%溶液を40kg添加し、回転数300rpmでの攪拌を続けながら(第2工程B)、10分経過時、60分経過時及び120分経過時に、それぞれこの繊維分散液を5.5L/minの速度で傾斜ワイヤー型抄紙機に供給し、幅50cm、坪量22g/m^(2)の繊維強化プラスチック成形体用基材を得た。
【0057】
(実施例4)
実施例3における第2工程2Bで用いたアジテータをパドル型に変更した以外は、実施例3と同様に繊維強化プラスチック成形体用基材を得た。
【0058】
(比較例1)
ポリアクリルアミド系粘剤(MTアクアポリマー社製 FA-40、重量平均分子量1700万)の0.2%溶液を添加しない以外は、実施例1と同様に繊維強化プラスチック成形体用基材を得た。
【0059】
(比較例2)
古紙離解用パルパー(相川鉄工社製、容量600L)に500Lの水を投入し、繊維長12mmの炭素繊維(台湾プラスチック社製 CS815)を1.0kg投入した。次いで、分散剤としてエマノーン(登録商標)3199V(花王株式会社製)の0.5%水溶液を1kg添加し、ポリアクリルアミド系粘剤(MTアクアポリマー製 FA-40、重量平均分子量1700万)の0.2%溶液を2.5kg投入した。その後、90秒間600rpmで攪拌し、攪拌を停止した。
更に、ポリカーボネート繊維(ダイワボウポリテック社製、繊維径30μ、繊維長15mm)0.96kgと、バインダーであるPVA繊維(クラレ社製 VPB105-2)0.04kgを予め60Lの水に漬けたものを、パルパーに投入した。そして、回転数を100rpmで20分攪拌した。
その後、粘剤を添加せずに、回転数を100rpmでの攪拌を続けながら、10分経過時、60分経過時及び120分経過時に、それぞれこの繊維分散液を5.5L/minの速度で傾斜ワイヤー型抄紙機に供給し、幅50cm、坪量22g/m^(2)の繊維強化プラスチック成形体用基材を得た。
【0060】
(粘度測定)
各工程における分散溶媒の粘度測定は、以下のように行った。
まず、各工程における分散液を500g採取し、80メッシュのフルイで濾過し、濾液を採取した。次にこの濾液の粘度を、JIS-Z8803:2011液体の粘度測定方法に準拠して、キャノン・フェンスケ粘度計にて測定した。
【0061】
(スラリー濃度)
各工程におけるスラリー濃度は、分散液中の繊維分の濃度である。具体的には、分散液中に含まれる固形分(強化繊維、熱可塑性繊維、バインダー繊維等)の合計の濃度をスラリー濃度とした。
スラリー濃度(質量%)=固形分の乾燥質量/分散液の質量×100
【0062】
(評価)
各撹拌時間の分散液を用いて形成された繊維強化プラスチック成形体用基材の、10cm角中に存在する幅0.5mm以上の繊維束を目視でカウントした。繊維束の幅とは、繊維束の長さ方向を除く2つの長さ(幅方向及び厚み方向の長さ)のうち、長い方(同じ場合は任意の1つの長さ)の長さとする。
A:基材中に、幅0.5mm以上の繊維束が0個?10個含まれるもの
B:基材中に、幅0.5mm以上の繊維束が11個?80個含まれるもの
C:基材中に、幅0.5mm以上の繊維束が81個?150個含まれるもの
D:基材中に、幅0.5mm以上の繊維束が151個以上含まれるもの
表1に評価結果を示す。
【0063】

【0064】
表1に示すように、各分散工程においてそれぞれ所定の粘度に調整することで、炭素繊維が良好に分散され、炭素繊維の凝集が防止され、炭素繊維が良好に分散された分散液を得ることができる。また、分散開始後に長時間経過した分散液においても、炭素繊維の分散状態が良好に維持されていることがわかる。このような分散液を用いて抄紙すると、炭素繊維が均一に分散した繊維強化プラスチック成形体用基材を得ることができる。この繊維強化プラスチック成形体用基材を加熱加圧すると、強度と外観に優れた繊維強化プラスチック成形体を得ることができる。
【符号の説明】
【0065】
10 第1の分散槽
12 第1の撹拌機
14 強化繊維供給装置
18 流路
20 第2の分散槽
22 第2の撹拌機
24 供給装置
28 流路
30 第2の分散槽
32 第2の撹拌機
34 供給装置
P 第1の分散液
Q 第2の分散液A
R 第2の分散液B」







(エ)取消理由(ウ)についての判断
訂正後の請求項1の記載によれば、本件発明1の第1の工程に使用される「分散溶媒」は、「第1の分散液を80meshのフィルター(フルイ)で濾過することで得られる」ものであり、「分散溶媒をJIS-Z8803:2011「液体の粘度測定方法」に準拠して、キャノン・フェンスケ粘度計」で「測定され(た)」場合の粘度が、「0.95mPa・s以下」という条件を満たすものを意味することが明らかであり、当該「分散溶媒」には、熱可塑性繊維やバインダー等、80meshのフィルターで濾過することで除かれるような固形分(但し、該分散溶媒に分散させる強化繊維を除く)はもはや含まれていない。
そして、このような「分散溶媒」を第1の工程に用いた本件発明1に特定される製造方法により、本件発明の課題が達成できることを当業者は特許明細書の発明の詳細な説明の記載(上記(ウ)参照)から理解できる。
請求項1に特定される「分散溶媒」を使用する本件発明2?4及び6についても同様である。

(オ)取消理由(カ)についての判断
訂正後の請求項1の記載によれば、本件発明1の第2工程における「調液」は、「粘剤が添加される」ことでなされるものである。そして、上記(ウ)で摘記した特許明細書の発明の詳細な説明の記載から、当業者は、粘剤を用いて本件発明1に特定されるように粘度を調整することで本件発明の課題が達成できることを理解できる。
第2工程で「粘剤」を使用して調液を行う本件発明2?4及び6についても同様である。

ウ 以上のとおりであるから、本件発明1?4及び6に関する特許請求の範囲の記載は、サポート要件を満足するものであって、取消理由(ウ)及び(カ)には理由がない。

(3)取消理由(キ)(ク)(取消理由3(実施可能要件))についての判断
実施可能要件の判断基準
物を生産する方法(物の製造方法)の発明について、実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その製造方法を使用でき、また、該製造方法により製造した物が使用できる程度の記載があることを要する。
そこで、検討する。

実施可能要件についての検討
訂正により、本件発明1等の第2工程等の「調液」は、撹拌条件、あるいは、溶媒の温度条件をコントロールして行うものではなく、「粘剤が添加される」ことでなされるものであることが明らかとなった。
そして、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、上記(2)イ(ウ)で摘記したとおりの記載があり、第2工程等の粘度調整(調液)に関し、【0021】に「第2工程では、分散槽に粘剤を添加することにより、所望の粘度とすることができる」、【0028】に「分散液Q(第2の分散液A)が所定の粘度となるように、第2の分散槽20に、粘剤又は、粘剤を含む分散溶媒が投入される」、【0029】に「分散液R(第2の分散液B)が所定の粘度となるように、第2の分散槽20に、粘剤又は、粘剤を含む分散溶媒がさらに投入される」と記載され、また、実施例1?4(【0048】?【0064】)には、第2工程等で粘剤を添加して、分散溶媒の粘度が「1.01mPa・s以上」(請求項1の第2工程)、「1.01?1.20mPa・s」(請求項2の第2工程A)、「1.30mPa・s以上」(請求項2の第2工程B)の範囲内の粘度とすることで、繊維強化プラスチック成形体用基材が製造できたことが示されている。
そして、本件発明の繊維強化プラスチック成形体用基材は、【0045】に「このような繊維強化プラスチック成形体用基材を加熱加圧成形して得られる繊維強化プラスチック成形体は優れた強度を有する。」と記載されるように、加熱加圧成形することで繊維強化プラスチック成形体の製造に使用できるものである。

よって、本件発明(本件発明1?4及び6)について、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を製造し、使用することができる程度の記載があるといえ、発明の詳細な説明の記載は実施可能要件を満足する。

ウ よって、取消理由(キ)及び(ク)には、理由がない。

(4)取消理由についてのまとめ
以上のとおり、取消理由(ア)?(ク)(取消理由1?3)には、理由がない。

2 取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由について

特許異議申立理由で、取消理由通知(決定の予告)において採用した理由はないので、全ての特許異議申立理由について検討する。
事案に鑑み、まず記載要件に関する申立理由から検討する。

(1)申立理由2(明確性)についての判断
ア 申立理由2(明確性)について申立人が主張する申立理由の概略
設定登録時の請求項1?6に係る発明について、申立人が申立書において主張していた申立理由2は、具体的には、概略、次の申立理由(2ア)?(2オ)である。

・申立理由(2ア)(申立書における3(4)ウ(4-4)の(ア)?(ウ))
請求項1及び2に記載の「(分散溶媒の)粘度」は、どのような規格にしたがい、どのような温度条件、どのような粘度計を用いて測定したものであるのか不明である。
よって、請求項1及び2、並びにこれらを直接又は間接的に引用する請求項3?6に係る発明は不明確である。

・申立理由(2イ)(申立書における3(4)ウ(4-4)の(エ))
請求項1には、「粘度が0.95mPa・s以下の分散溶媒に前記強化繊維を分散させ」と記載されているが、ここに含まれる分散溶媒の種類が不明である。
例えば、水に「前記強化繊維を分散させ」るという意味であるのか、又は、水と炭素繊維とを混ぜての粘度を意味しているのかが不明である。
よって、請求項1、及び、これを直接又は間接的に引用する請求項2?6に係る発明は不明確である。

・申立理由(2ウ)(申立書における3(4)ウ(4-4)の(オ))
請求項1に、「前記第2工程は、前記第1の分散液を用いて分散溶媒粘度が1.01mPa・s以上となるように調液し」と記載され、請求項2には、「前記第2工程Aは、前記第1の分散液を用いて分散溶媒粘度が1.01?1.20mPa・sとなるように調液し」、「前記第2工程Bは、第2の分散液Aを用いて分散溶媒粘度が1.30mPa・s以上となるように調液し」と記載されているが、「分散溶媒粘度」の測定に関し、本件特許明細書の実施例(【0060】)では、80メッシュのフルイで濾過した「濾液」を測定したことが記載されている。そうすると「分散溶媒粘度」は何を測定しているのかが不明である。
よって、請求項1及び2、並びにこれらを直接又は間接的に引用する請求項3?6に係る発明は不明確である。

・申立理由(2エ)(申立書における3(4)ウ(4-4)の(カ))
請求項1には、「粘度が0.95mPa・s以下」と記載されているが、その下限が不明である。また、請求項1には、「粘度が1.01mPa・s以上」と記載されているが、その上限が不明である。
さらに、請求項2には、「分散溶媒粘度が1.30mPa・s以上」と記載されているが、その上限が不明であるし、請求項4には、「繊維長は10mm以上である」と記載されているが、その上限が不明である。
よって、請求項1、2及び4、並びにこれらを直接又は間接的に引用する請求項3、5及び6に係る発明は不明確である。

・申立理由(2オ)(申立書における3(4)ウ(4-4)の(キ))
請求項6には、「前記第2工程Bで用いる撹拌羽の形状は、前記第1工程で用いる撹拌羽の形状及び前記第2工程Aで用いる撹拌羽の形状のいずれとも異なる」と記載されているが、どのように異なるのか不明であり、異なる羽に含まれる形状の外延が不明である。
よって、請求項6は、特許を受けようとする発明が不明確である。

イ 申立理由(2ア)?(2ウ)についての判断
申立理由(2ア)及び(2イ)に関し、訂正後の請求項1の記載(上記第3参照。)によれば、本件発明1の第1工程で特定される「0.95mPa・s以下」の「(分散溶媒の)粘度」が、「第1の分散液を80meshのフィルター(フルイ)で濾過することで得られる分散溶媒(当審注:すなわち、濾液)をJIS-Z8803:2011「液体の粘度測定方法」に準拠して、キャノン・フェンスケ粘度計にて測定」した場合の粘度を意味し、第2工程で特定される「1.01mPa・s以上」の「粘度」が、「調液後の第1の分散液(当審注:すなわち、第2工程で得られる分散液)を80meshのフィルター(フルイ)で濾過することで得られる分散溶媒」を、「JIS-Z8803:2011「液体の粘度測定方法」に準拠して、キャノン・フェンスケ粘度計にて測定」した場合の粘度を意味することは、明らかである。
また、訂正後の請求項2の記載によれば、本件発明2の第2工程Aで特定される「1.01?1.20mPa・s」の「粘度」が、「調液後の前記第1の分散液(当審注:すなわち、第2工程Aで調液して得られた分散液)を80meshのフィルター(フルイ)で濾過することで得られる分散溶媒」を「JIS-Z8803:2011「液体の粘度測定方法」に準拠して、キャノン・フェンスケ粘度計にて測定」した場合の粘度を意味し、第2工程Bで特定される「1.30mPa・s以上」の「粘度」が、「調液後の第2の分散液A(当審注:すなわち、第2工程Bで調液して得られた分散液)を80meshのフィルター(フルイ)で濾過することで得られる分散溶媒」を、「JIS-Z8803:2011「液体の粘度測定方法」に準拠して、キャノン・フェンスケ粘度計にて測定」した場合の粘度を意味することは、明らかである。

つまり、訂正後の請求項1及び2の記載によれば、当業者は、本件発明1および2で特定される「(分散溶媒の)粘度」が、「JIS-Z8803:2011「液体の粘度測定方法」」という規格に準拠して、「キャノン・フェンスケ粘度計」を使用して測定された値であり、また、それらが、それぞれの分散液を得る際の工程温度で測定されたものであることを一義的に明確に理解することができる。
そして、その場合、強化繊維を分散させる「分散溶媒」は、上記特定の規格に従い、「キャノン・フェンスケ粘度計」を使用して、それぞれの工程温度で測定した場合の粘度が、請求項1あるいは2に特定される分散溶媒粘度条件を満たす限りにおいて、任意の分散溶媒であってよいことは当業者に明らかである。
よって、申立理由(2ア)?(2ウ)に関し、本件発明1及び2は明確である。
請求項1及び2を直接又は間接的に引用する請求項に関する本件発明3、4及び6も同様である。

したがって、申立理由(2ア)?(2ウ)には理由がない。

ウ 申立理由(2エ)についての判断
請求項1には、「粘度が0.95mPa・s以下」、「粘度が1.01mPa・s以上」とあり、粘度の下限あるいは上限の記載がないし、請求項2には、「分散溶媒粘度が1.30mPa・s以上」とあり、粘度の上限の記載がない。また、繊維長に関し、請求項4には、「繊維長は10mm以上である」とあり、上限の記載がない。
しかしながら、本件発明1及び2は、粘度の上限や下限のみが特定された発明として、また、本件発明4は、繊維長の下限のみが特定された発明として明確であるといえる。
また、本件発明は、繊維強化プラスチック成形体用基材の製造方法に関する発明であるところ、本件特許明細書(【0002】?【0003】)に背景技術としても記載されている様に、従来から炭素繊維やガラス繊維等の強化繊維と、熱可塑性樹脂を含む不織布(繊維強化プラスチック成形体用基材)を加熱加圧処理し、成形した繊維強化プラスチック成形体は、様々な分野で用いられており、繊維強化プラスチック成形体用基材の製造方法として湿式抄紙技術を応用した抄造法(水性溶媒中で強化繊維と熱可塑性樹脂を分散させ、この分散液をメッシュベルトに供給し、脱水することにより不織布状のウエブを製造する方法)も知られており、本件発明は、従来既知の繊維強化プラスチック成形体用基材の抄造法による製造に関する技術常識を前提とするものである。
そうすると、当業者は、特許請求の範囲に粘度の上限や下限、繊維長の上限の特定がなくとも、従来から繊維強化プラスチック成形体用基材の抄造法による製造において用いられている範囲内のもので、上記の数値範囲を満足するものであることを理解することができる。
したがって、特許請求の範囲に、粘度の上限や下限、繊維長の上限の特定がないとしても、本件特許明細書の記載及び図面の記載を考慮し、また、本件特許の出願時における技術的常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。

よって、申立理由(2エ)に関し、本件発明1、2及び4、並びにこれらを直接又は間接的に引用する本件発明3及び6は明確であり、申立理由(2エ)には理由がない。

エ 申立理由(2オ)についての判断
請求項6に「前記第2工程Bで用いる撹拌羽の形状は、前記第1工程で用いる撹拌羽の形状及び前記第2工程Aで用いる撹拌羽の形状のいずれとも異なる」と記載されているとおり、第2工程Bで用いる撹拌羽の形状は、第1工程で用いる撹拌羽の形状及び第2工程Aで用いる撹拌羽の形状のいずれとも異なる形状である限り(つまり、同じ形状でない限り)、任意の形状で良いことは当業者に明らかであって、その外延は明らかである。
よって、申立理由(2オ)に関し、本件発明6は明確であり、申立理由(2オ)には理由がない。

(2)申立理由3(サポート要件)及び申立理由4(実施可能要件)についての判断

ア 申立理由3(サポート要件)及び申立理由4(実施可能要件)について申立人が主張する申立理由の概略
特許時の請求項1?6に係る発明について申立人が申立書において主張していた申立理由3は、具体的には、概略、次の申立理由(3ア)?(3シ)及び申立理由(4ア)?(4シ)である。なお、申立理由(3ア)?(3シ)及び申立理由(4ア)?(4シ)には、重複した内容が含まれているが、申立書に記載の申立理由との対応が容易となるように、原則として申立書の記載に沿って記載した。

・申立理由(3ア)(4ア)
請求項1及び2の「粘度」の数値限定に関し、これらの請求項には測定温度の特定がないが、一般に液体の粘度は、温度に依存して変化する。
そうすると、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、測定温度の特定のない請求項1及び2、並びに、これらを直接又は間接的に引用する請求項3?6に係る発明について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。
また、温度の特定がない請求項1に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化するための根拠は見いだせないから、請求項1及び2、並びに、これらを直接又は間接的に引用する請求項3?6に係る発明は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものである。

・申立理由(3イ)(4イ)
請求項1及び2の「粘度」の数値限定に関し、これらの請求項には「粘度」を測定するための粘度計の特定がないために、請求項1及び2に記載の粘度の数値にするために、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤を行う必要があると認められる。請求項3?6に係る発明についても同様である。
また、実施例に記載の特定のキャノン・フェンスケ粘度計以外の粘度計も包含する請求項1に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化するための根拠も見いだせないから、請求項1及び2、並びに、これらを直接又は間接的に引用する請求項3?6に係る発明は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものである。

・申立理由(3ウ)(4ウ)
請求項1及び2の「粘度」の数値限定に関し、これらの請求項には「粘度」がどのような規格に基づいて測定されたものであるかの特定がないために、請求項1及び2に記載の粘度の数値にするために、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤を行う必要があると認められる。請求項3?6に係る発明についても同様である。
また、規格が記載されていない全ての温度条件と、上記特定のキャノン・フェンスケ粘度計以外の粘度計をも幅広く包含する請求項1に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化するための根拠も見いだせないから、請求項1及び2、並びに、これらを直接又は間接的に引用する請求項3?6に係る発明は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものである。

・申立理由(3エ)(4エ)
請求項1において、「分散溶媒粘度が1.01mPa・s以上となるように調液」が、どのような方法によりできるのか不明であるし、「粘剤」を添加する場合、実施例に記載されている以外の添加量の場合に、請求項1の数値範囲を満たすのか不明である。
また、粘剤には様々な種類あるところ、実施例の「ポリアクリルアミド系粘剤」以外の粘剤により実施例と同様の効果が得られるのか不明である。
よって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、請求項1、及び、これを直接又は間接的に引用する請求項2?6に係る発明について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。
さらに、実施例のポリアクリルアミド系粘剤以外の粘剤を包含する請求項1に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化するための根拠も見いだせないから、請求項1、及び、これを直接又は間接的に引用する請求項2?6に係る発明は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものである。

・申立理由(3オ)(4オ)
請求項1の「分散液を得る工程」に関し、実施例に記載の特定の分散剤、バインダー等を用いない場合に、実施例と同様の効果が得られるのか不明である。
よって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、請求項1、及び、これを直接又は間接的に引用する請求項2?6に係る発明について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。
また、実施例に記載の特定の分散剤以外の化合物、実施例に記載の特定のバインダー以外の化合物をも包含する請求項1に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化するための根拠も見いだせないから、請求項1、及び、これを直接又は間接的に引用する請求項2?6に係る発明は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものである。

・申立理由(3カ)(4カ)
請求項1の「第1工程」及び「第2工程」に関し、実施例に記載の特定の粘度の値以外の場合に、実施例に記載の値の場合と同様の効果が得られるのか不明である。
よって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、請求項1、及び、これを直接又は間接的に引用する請求項2?6に係る発明について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。
また、実施例に記載の特定の粘度の値以外の値の場合の粘度をも包含する請求項1に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化するための根拠も見いだせないから、請求項1、及び、これを直接又は間接的に引用する請求項2?6に係る発明は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものである。

・申立理由(3キ)(4キ)
請求項1の「熱可塑性樹脂」に関し、実施例で用いられている「ポリカーボネート繊維」以外の「熱可塑性樹脂」を用いた場合に、実施例に記載の効果と同様の効果が得られるのか不明である。
よって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、請求項1、及び、これを直接又は間接的に引用する請求項2?6に係る発明について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。
また、「ポリカーボネート繊維」以外の熱可塑性樹脂をも包含する請求項1に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化するための根拠も見いだせないから、請求項1、及び、これを直接又は間接的に引用する請求項2?6に係る発明は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものである。

・申立理由(3ク)(4ク)
請求項1の「分散溶媒」に関し、本件特許明細書の【0014】には、水系分散溶媒や有機溶媒系の分散溶媒が挙げられているところ、溶媒により性質が異なるから、実施例で用いられている「水」以外の分散溶媒を用いた場合に、実施例に記載の効果と同様の効果が得られるのか不明である。
よって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、請求項1、及び、これを直接又は間接的に引用する請求項2?6に係る発明について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。
また、「水」以外の分散溶媒も包含する請求項1に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化するための根拠も見いだせないから、請求項1、及び、これを直接又は間接的に引用する請求項2?6に係る発明は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものである。

・申立理由(3ケ)(4ケ)
請求項2の「第2工程A」及び「第2工程B」に関し、分散溶媒が、実施例に記載の特定の粘度の値以外の場合に、実施例に記載の値の場合と同様の効果が得られるのか不明である。
よって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、請求項2、及び、これを直接又は間接的に引用する請求項3?6に係る発明について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。
また、実施例に記載の特定の粘度の値以外の値の場合の分散溶媒粘度をも包含する請求項2に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化するための根拠も見いだせないから、請求項2、及び、これを直接又は間接的に引用する請求項3?6に係る発明は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものである。

・申立理由(3コ)(4コ)
請求項4には、「強化繊維の繊維長は10mm以上」と記載されており、繊維長の上限は規定されていないが、繊維長さが、例えば100mm等、長いものを使った場合に同様の効果が得られるとはいえない。よって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、請求項4に係る発明、及び、これらを直接又は間接的に引用する請求項5?6に係る発明について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。
また、繊維の形、大きさ、分布等によって分散性は変わるところ、実施例に記載の繊維長12mmの炭素繊維は、縦方向と横方向の大きさ、太さ、分布等が不明であるから、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、請求項1、及び、これらを直接又は間接的に引用する請求項2?6に係る発明について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。
さらに、強化繊維の種類(大きさ、形等)及びその量が、実施例と大きく異なる場合をも包含する請求項1に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化するための根拠も見いだせないから、請求項1、及び、これを直接又は間接的に引用する請求項2?6に係る発明は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものである。

・申立理由(3サ)(4サ)
請求項6には、「前記第2工程Bで用いる撹拌羽の形状は、前記第1工程で用いる撹拌羽の形状及び前記第2工程Aで用いる撹拌羽の形状のいずれとも異なる」と記載されているが、発明の詳細な説明には、第1工程及び第2工程Aにおいて「プロペラ型アジテータ」、第2工程Bにおいて「パドル型アジテータ」を用いた例が記載されているだけである。そして、第1工程、第2工程A及び第2工程Bで、上記特定の撹拌機以外の撹拌機を用いた場合に、実施例と同様の効果が得られるのか不明である。
よって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、請求項1、及び、これを直接又は間接的に引用する請求項2?6に係る発明について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。
また、撹拌機の種類(大きさ、形等)、回転数等の条件が実施例と大きく異なる場合をも包含する請求項1に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化するための根拠も見いだせないから、請求項1、及び、これを直接又は間接的に引用する請求項2?6に係る発明は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものである。

・申立理由(3シ)(4シ)
発明の詳細な説明の表1には、第1工程、第2工程A及び第2工程Bの(A)「撹拌機の種類」、(B)「スラリー濃度(質量%)」、(C)「粘剤添加量(ppm)」、(D)「分散溶媒の粘度(mPa・S)」及び(E)「繊維束の評価結果」がそれぞれ記載されているが、(A)?(D)が実施例と異なる場合に、実施例に記載の効果と同様の効果が得られるのか不明である。
表1の「分散溶媒の粘度」が、単に、水等の分散溶媒の粘度を意味しているのか、炭素繊維等が分散された後の分散液の粘度を意味しているのか、又はフルイにかけた後の濾液を意味しているのかが不明である。
よって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、請求項1、及び、これを直接又は間接的に引用する請求項2?6に係る発明について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。
また、撹拌機の種類、粘剤の種類及びその量、分散溶媒の種類及びその量、分散剤の種類及びその量、バインダーの種類及びその量等が、大きく異なる場合をも包含する請求項1に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化するための根拠も見いだせないから、請求項1、及び、これを直接又は間接的に引用する請求項2?6に係る発明は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものである。

イ 申立理由(3イ)?(3シ)についての判断
(ア)サポート要件の判断基準及び本件発明の課題
サポート要件の判断基準は、上記1の(2)アで記載したとおりであるところ、本件発明の課題は、上記1の(2)イ(イ)で記載したとおり、「繊維強化プラスチック成形体用基材の製造工程において、強化繊維の分散性を高め、かつ強化繊維の再凝集を抑制し得る製造方法を提供すること」であると認められる。

(イ)申立理由(3ア)?(3エ)、(3カ)、(3ケ)、(3シ)について
まず、上記(1)のイの「申立理由(2ア)?(2エ)についての判断」において説示したとおり、当業者は、請求項1および2で特定される「(分散溶媒の)粘度」は、「JIS-Z8803:2011「液体の粘度測定方法」」という規格に準拠して、「キャノン・フェンスケ粘度計」を使用して測定された値であり、また、それらが、それぞれの分散液を得る際の工程温度で測定されたものであると理解する。

そして、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、上記1の(2)イ(ウ)で摘記したとおりの記載があるところ、特に、本件発明において、各分散工程における分散溶媒粘度を特定する点の意義に関し、本件特許明細書の【0016】には、「強化繊維は、通常12000?48000本の束となるように、集束剤で集束されている。第1工程では、この集束した強化繊維の繊維間の結合を弱める。ここでは、強化繊維束が、1本ずつの強化繊維に分散してもよいが、一部に収束した強化繊維が残っていてもよい。
第2工程は、強化繊維を1本ずつの強化繊維となるようにさらに分散する工程であると同時に、1本ずつに分散した強化繊維の分散状態を維持する工程でもある。第2工程が第2工程Aと第2工程Bを有する場合、第2工程Bは、1本ずつに分散した強化繊維の分散状態を維持する工程であることが好ましい。」と記載され、【0017】以降に、各工程での操作が記載され、【0020】には、「本発明では、上述したように、分散工程を少なくとも2工程設け、さらに、各分散工程において、分散溶媒の粘度を特定の範囲となるように制御することにより、強化繊維の分散性を高めることができる。さらに、本発明では上記の条件で強化繊維を分散させることにより、強化繊維が再凝集することを抑制することができる。」と記載され、【0030】には、「第2工程Aで繊維は1本1本に分散される。ここで、1度分散した強化繊維は再凝集しやすいという性質を持つ。特に、分散液の撹拌時間が長くなる場合に再凝集が起こりやすい。しかし、本発明では、分散工程を複数工程設け、さらに各工程で分散液の粘度を規定することにより、強化繊維の再凝集を抑制することができる。」と記載されている。
また、粘度調整の手法に関し、本件特許明細書の【0021】には、「第2工程では、分散槽に粘剤を添加することにより、所望の粘度とすることができる」こと、「粘剤としては、ポリアクリルアミド、ポリエチレンオキサイド等を挙げることができる」ことが、【0022】には、「粘剤は粉末状のものは、予め溶解し水溶液の状態で添加することが好まし」く、「ポリアクリルアミドを使用する場合、0.01?0.3質量%に予め溶解して添加することが好ましい」ことが、【0024】には、「第1工程では、粘剤が2ppm未満添加されることが好ましく、粘剤は添加されないことがより好まし」いこと、「第2工程には、重量平均分子量が1500?2000万のポリアクリルアミドを4ppm添加されることが好ましく」、「第2工程が、第2工程A及び第2工程Bを有する場合、第2工程Aでは、重量平均分子量が1500?2000万 のポリアクリルアミドが4?11ppm添加されることが好ましく」、「第2工程Bでは、重量平均分子量が1500?2000万のポリアクリルアミドが15?100ppm添加されることが好まし」いことが、それぞれ記載されている(上記第5 1(2)イ(ウ)参照。以下同様。)。
そして、図2には、分散槽が3槽設けられた分散工程の概略図が示され、【0028】に「分散液Q(第2の分散液A)が所定の粘度となるように、第2の分散槽20に、粘剤又は、粘剤を含む分散溶媒が投入される」こと、【0029】に「分散液R(第2の分散液B)が所定の粘度となるように、第2の分散槽20に、粘剤又は、粘剤を含む分散溶媒がさらに投入される」ことが記載されている。
さらに、上記第1工程と第2工程等での分散溶媒についての粘度の特定を含む本件発明の製造方法により繊維強化プラスチック成形体用基材を製造することの効果に関し、【0047】?【0064】(特に、【0064】の【表1】)には、ポリアクリルアミド系粘剤を使用し、第1工程の分散溶媒の粘度を0.85mPa・s、第2工程Aの分散溶媒の粘度を1.03?1.11mPa・s、第2工程Bの分散溶媒の粘度を1.11?1.61mPa・sとして製造する実施例1?4(これらは、本件発明の分散溶媒の粘度の条件である「0.95mPa・s以下」(請求項1の第1工程)、「1.01mPa・s以上」(請求項1の第2工程)、「1.01?1.20mPa・s」(請求項2の第2工程A)、「1.30mPa・s以上」(請求項2の第2工程B)の範囲を満足するものである。)がその評価結果と共に記載されている。
そして、表1によれば、第1工程?第2工程Bの分散溶媒の粘度を変化させずに、0.85mPa・s(比較例1)あるいは1.11mPa・s(比較例2)として製造した場合に比べて、本件発明の製造方法では、強化繊維である炭素繊維が良好に均一分散した繊維強化プラスチック成形体用基材を得ることができることが理解できるし、表1に示される結果を受けて、【0064】には、「表1に示すように、各分散工程においてそれぞれ所定の粘度に調整することで、炭素繊維が良好に分散され、炭素繊維の凝集が防止され、炭素繊維が良好に分散された分散液を得ることができる。また、分散開始後に長時間経過した分散液においても、炭素繊維の分散状態が良好に維持されていることがわかる。このような分散液を用いて抄紙すると、炭素繊維が均一に分散した繊維強化プラスチック成形体用基材を得ることができる。この繊維強化プラスチック成形体用基材を加熱加圧すると、強度と外観に優れた繊維強化プラスチック成形体を得ることができる。」と記載されている。

以上の本件特許明細書の発明の詳細な説明に接した当業者は、第1工程の分散溶媒の粘度を「0.95mPa・s以下」とし、第2工程の分散溶媒の粘度を「1.01mPa・s以上」とする工程、あるいは、第2工程を、さらに、第2工程Aの分散溶媒の粘度を「1.01?1.20mPa・s」とする工程と第2工程Bの分散溶媒の粘度を「1.30mPa・s以上」とする工程とする本件発明の製造方法により、繊維強化プラスチック成形体用基材の製造方法を、強化繊維の分散性が高められ、かつ強化繊維の再凝集が抑制された製造方法とすることができ、本件発明の課題が達成できることを理解することができる。
よって、本件発明は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものといえ、サポート要件を満足する。

ここで、申立人は、粘度調整に関する条件が、発明の詳細な説明の実施例(表1)に示されている条件以外の場合、すなわち、第1工程、第2工程A及び第2工程Bにおいて使用される粘剤が実施例で使用されている「ポリアクリルアミド系粘剤」以外の粘剤の場合(申立理由(3エ))、粘度が、実施例に記載の特定の粘度の値以外の場合(申立理由(3カ)、(3ケ)及び申立理由(3シ)の(D))、粘剤の添加量が実施例に記載の添加量以外の場合(申立理由(3シ)の(C))に、実施例に記載の効果と同様の効果が得られるのか不明であって、実施例に記載の特定の条件以外の場合をも包含する請求項1に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化するための根拠も見いだせないから、請求項1、及び、これを直接又は間接的に引用する請求項に係る発明は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものである旨主張する。
しかしながら、サポート要件は、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか、または、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであれば満足するといえるところ、粘剤は粘度の調整という機能を有するものであって、その機能は粘剤の種類に関わらず奏される機能であるし、また粘度調整が、粘剤の添加量を調整することでなされることは、当業者の技術常識である。そして、本件特許明細書には、上述のとおり、各分散工程における分散溶媒粘度を特定する点の意義が記載され、また、本件発明の製造方法により繊維強化プラスチック成形体用基材を製造することの効果が、表1に比較例とともに記載されており、当業者は、これらの記載から、第1工程の分散溶媒の粘度を「0.95mPa・s以下」とし、第2工程の分散溶媒の粘度を「1.01mPa・s以上」とする工程、あるいは、第2工程を、さらに、第2工程Aの分散溶媒の粘度を「1.01?1.20mPa・s」とする工程と第2工程Bの分散溶媒の粘度を「1.30mPa・s以上」とする工程とすることで、分散溶媒の粘度を一定に調整する場合とは異なり、実施例1?4で示されているのと同様に、より強化繊維の分散性が高められ、かつ強化繊維の再凝集が抑制された製造方法となり、本件発明の課題を達成できることを理解することができるといえる。
よって、申立人の上記主張は認められず、申立理由(3エ)、(3カ)、(3ケ)及び申立理由(3シ)の(C)(D)には、理由がない。

(ウ)申立理由(3オ)(3キ)について
申立人は、「分散液を得る工程」に関し、実施例に記載の特定の分散剤及びバインダー以外の化合物をも包含する本件発明は、サポート要件を満たさない(申立理由(3オ))し、「熱可塑性樹脂」として、実施例で用いられている「ポリカーボネート繊維」以外の「熱可塑性樹脂」を用いた場合をも包含する本件発明は、サポート要件を満たさない旨主張する(申立理由(3キ))。
しかしながら、本件特許明細書の実施例と比較例は、分散液を得る工程において、本件発明で特定される特定の粘度調整を行っていない以外は、分散剤やバインダー、熱可塑性樹脂が同じ系において繊維強化プラスチック成形体用基材を製造しており、効果(強化繊維の分散性)の違いは、分散液を得る工程における粘度調整によるものであることが推認でき、分散剤やバインダー、熱可塑性樹脂の種類の違いにより強化繊維の分散性に違いが生じる場合であっても、少なくとも、本件発明で特定される特定の粘度調整を行う場合には、行わない場合に比べて、より強化繊維の分散性や凝集抑制の点で改善された製造方法となり、本件発明の課題が解決できることが推認できる。また、本件発明で特定される特定の粘度調整を行う場合であっても、分散剤やバインダーや熱可塑性樹脂が実施例に記載の特定のものでない場合には、強化繊維の分散性や凝集抑制の点での改善はなされないとの出願時の技術常識があるとも認められない。
よって、申立人の上記主張は認められず、申立理由(3オ)(3キ)には、理由がない。

(エ)申立理由(3ク)について
申立人は、「分散溶媒」に関し、実施例で用いられている「水」以外の分散溶媒も包含する本件発明は、サポート要件を満たさない旨主張する。
しかしながら、本件発明は、2(1)ウで説示したとおり、従来既知の繊維強化プラスチック成形体用基材の抄造法による製造に関する技術常識を前提とするものであって、分散溶媒は、【0014】に記載のとおり「水を用いた水系分散溶媒や、アルコールなどの有機溶媒を用いた有機溶媒系の分散溶媒である」が、「任意の溶媒」であるというものではなく、自ずから、従来既知の繊維強化プラスチック成形体用基材の抄造法による製造に関する技術常識の範囲内のものに収まる。(例えば、熱可塑性樹脂を溶解してしまい、抄造法に適用できないような分散溶媒が包含されないのは当然である。)
そして、かかる技術常識を加味した上で、本件特許明細書の記載(特に、上記(イ)で指摘した本件特許明細書の各分散工程における分散溶媒粘度を特定する点の意義の記載及び実施例、比較例の記載)に接した当業者であれば、本件発明においては、各分散工程における分散溶媒が水以外の場合であっても、各分散工程において所定の範囲に粘度を特定範囲とすることで、少なくとも、本件発明で特定されるような粘度調整を行わない場合に比べて、より強化繊維の分散性や凝集抑制の点で改善された製造方法となり、本件発明の課題が解決できると推認できるし、また、本件発明で特定される特定の粘度調整を行う場合であっても、分散溶媒が抄造法による繊維強化プラスチック成形体用基材の製造において一般に使用されている水以外の他の分散溶媒の場合には、強化繊維の分散性や凝集抑制の点での改善はなされないとの出願時の技術常識があるとも認められない。
よって、申立人の上記主張は認められず、申立理由(3ク)には、理由がない。

(オ)申立理由(3コ)及び申立理由(3シ)の(B)について
申立人は、「強化繊維」に関し、実施例で用いられている強化繊維と、種類(大きさ、形等)及びその量が異なる場合(申立理由(3コ))や、実施例とスラリー濃度が異なる場合(申立理由(3シ)の(B))を包含する本件発明は、サポート要件を満たさない旨主張する。
しかしながら、本件発明は、抄造法による繊維強化プラスチック成形体用基材の製造に関する技術常識を前提とするものであって、本件発明で使用される「強化繊維」の種類(例えば、任意の繊維長)や量(スラリー濃度)は、任意の種類や量であってよいというものではなく、自ずから、従来既知の繊維強化プラスチック成形体用基材の抄造法による製造に関する技術常識の範囲内のものに収まるのであって、抄造法に適さない種類の強化繊維や抄造できないような量(例えば、繊維長が極端に長いあるいは短くて抄造法に適さない)の場合や、スラリー濃度が高すぎあるいは低すぎて抄造物が得られない場合等が包含されないのは当然である。
そして、本件特許明細書の【0036】?【0040】には、強化繊維の種類が記載され、【0034】には、強化繊維及び熱可塑性樹脂の分散液中の含有率が記載されており、かかる明細書の記載及び出願時の技術常識を加味した上で、本件特許明細書の他の記載(特に、上記(イ)で指摘した本件特許明細書の各分散工程における分散溶媒粘度を特定する点の意義の記載及び実施例や比較例の記載)に接した当業者であれば、本件発明においては、各分散工程における分散溶媒が実施例に記載の強化繊維以外の場合や強化繊維の使用量やスラリー濃度が異なる場合であっても、各分散工程において所定の範囲に粘度を特定範囲とすることで、少なくとも、本件発明で特定されるような粘度調整を行わない場合に比べて、より強化繊維の分散性や凝集抑制の点で改善された製造方法となり、本件発明の課題が解決できると推認できる。
また、本件発明で特定される特定の粘度調整を行う場合であっても、強化繊維が実施例で特定される場合以外の種類や量、スラリー濃度である場合には、強化繊維の分散性や凝集抑制の点での改善はなされないとの出願時の技術常識があるとも認められない。
よって、申立人の上記主張は認められず、申立理由(3コ)及び申立理由(3シ)の(B)には、理由がない。

(カ)申立理由(3サ)及び申立理由(3シ)の(A)について
申立人は、撹拌機の種類(大きさ、形等)、回転数等の条件が実施例と大きく異なる場合をも包含する本件発明は、サポート要件を満たさない旨主張する。
しかしながら、各分散工程における撹拌は、本件特許明細書の【0030】にもあるとおり、強化繊維を含む分散液中で分散強化繊維を分散溶媒に分散させるためになされるものであるところ、本件発明は、抄造法による繊維強化プラスチック成形体用基材の製造に関する技術常識を前提とするものであって、本件発明で使用される撹拌機の種類(大きさ、形等)や回転数等の条件撹拌は、任意であってよいというものではなく、自ずから、従来既知の繊維強化プラスチック成形体用基材の抄造法による製造に関する技術常識の範囲内のものに収まるのであって、抄造法に適さない種類(大きさや形)の撹拌機の使用や、分散した繊維の切断や凝集がおこるような過剰な回転数の条件などの場合が包含されないのは当然である。
そして、かかる出願時の技術常識を加味した上で、本件特許明細書の記載(特に、上記(イ)で指摘した本件特許明細書の各分散工程における分散溶媒粘度を特定する点の意義の記載、実施例及び比較例の記載、並びに、【0030】?【0032】、【0035】の撹拌に関する記載)に接した当業者であれば、本件発明においては、実施例に記載の撹拌条件とは異なる場合であっても、各分散工程において所定の範囲に粘度を特定範囲とすることで、少なくとも、本件発明で特定されるような粘度調整を行わない場合に比べて、より強化繊維の分散性や凝集抑制の点で改善された製造方法となり、本件発明の課題が解決できると推認できる。また、本件発明で特定される特定の粘度調整を行う場合であっても、抄造法による繊維強化プラスチック成形体用基材の製造において一般に使用されている撹拌条件の場合には、実施例の条件の場合とは異なり、強化繊維の分散性や凝集抑制の点での改善はなされないとの出願時の技術常識があるとも認められない。
よって、申立人の上記主張は認められず、申立理由(3サ)及び申立理由(3シ)の(A)には、理由がない。

ウ 申立理由(4イ)?(4シ)についての判断
(ア)実施可能要件の判断基準
実施可能要件の判断基準は、上記1の(3)アで記載したとおりである。

(イ)申立理由(4ア)?(4エ)、(4カ)、(4ケ)及び(4シ)について
まず、当業者は、請求項1および2の記載から、これらの請求項において特定される「(分散溶媒の)粘度」は、「JIS-Z8803:2011「液体の粘度測定方法」」という規格に準拠して、「キャノン・フェンスケ粘度計」を使用して測定された値であり、また、それらが、それぞれの分散液を得る際の工程温度で測定されたものであると理解する。

本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件発明の分散工程における粘度調整に関し、上記2の(2)イ(イ)で述べたとおりの記載があり、上記1の(2)イ(ウ)で摘記したとおり、粘度調整の手法に関し、粘度調整に使用する粘剤やその添加量、粘剤の添加方法について記載され、具体的な実施例において、分散工程における分散溶媒の粘度が本件発明で特定される粘度条件を満足するように調整して繊維強化プラスチック成形体用基材を製造したことが示されている。
そして、かかる本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載によれば、当業者は、ポリアクリルアミド等の粘剤を使用することで、過度の試行錯誤を要することなく、分散溶媒の粘度が請求項1及び2に記載の粘度の数値となるように調液を行い、本件発明1及び2の繊維強化プラスチック成形体用基材を製造することができるといえる。また、請求項1及び2を引用する本件発明3、4及び6についても同様である。
さらに、本件特許明細書の【0064】によれば、本件発明(本件発明1?4及び6)の繊維強化プラスチック成形体用基材が繊維強化プラスチック成形体の製造に使用できるものであることは当業者に明らかである。
そうすると、本件発明(本件発明1?4及び6)について、発明の詳細な説明に、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識とに基づいて、当業者が、過度の試行錯誤を要することなく、粘度調整を行うことでその物を製造し、使用することができる程度の記載があるといえるから、発明の詳細な説明の記載は実施可能要件を満足する。
よって、申立理由(4ア)?(4ウ)には、理由がない。

ここで、申立人は、粘度調整に関する条件が、発明の詳細な説明の実施例(表1)に示されている条件以外の場合、すなわち、第1工程、第2工程A及び第2工程Bにおいて使用される粘剤が実施例で使用されている「ポリアクリルアミド系粘剤」以外の粘剤の場合(申立理由(4エ))、粘度が、実施例に記載の特定の粘度の値以外の場合(申立理由(4カ)、(4ケ)及び申立理由(4シ)の(D))、粘剤の添加量が実施例に記載の添加量以外の場合(申立理由(4シ)の(C))に、実施例に記載の効果と同様の効果が得られるのか不明であるから、本件発明については、実施可能要件を満たさない旨の主張をしている。
しかしながら、実施可能要件は、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識とに基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を製造し、使用することができる程度の記載があれば満足するといえるところ、粘剤はいずれも粘度の調整という同じ機能を有するものであって、その機能は粘剤の種類に関わらず奏される機能であるし、また粘度調整は、粘剤の添加量を調整することでなされるものであるから、上記の実施例の記載及び、上記の、粘度調整に関する実施例以外の発明の詳細な説明の記載を参酌した当業者であれば、実施例で使用されている粘剤以外の粘剤を使用する場合や実施例での添加量以外の添加量を添加する場合についても、過度の試行錯誤を要することなく、本件発明の繊維強化プラスチック成形体用基材を製造できるといえるし、得られた基材が繊維強化プラスチック成形体の製造に使用可能であることも当業者に明らかである。
よって、申立人の主張する申立理由(4エ)、(4カ)、(4ケ)及び申立理由(4シ)の(C)(D)には、理由がない。

(ウ)申立理由(4オ)(4キ)について
申立人は、「分散液を得る工程」に関し、実施例に記載の特定の分散剤及びバインダー以外の化合物をも包含する本件発明は、実施可能要件を満たさない(申立理由(4オ))し、「熱可塑性樹脂」として、実施例で用いられている「ポリカーボネート繊維」以外の「熱可塑性樹脂」を用いた場合をも包含する本件発明は実施可能要件を満たさない旨主張する(申立理由(4キ))。
しかしながら、本件特許明細書の【0033】には、「各分散工程で用いられる分散槽には、さらに分散剤、バインダー成分・・・等が添加されてもよい。」と記載され、分散槽に添加可能な分散剤やバインダーの具体例が記載されているし、また、【0041】?【0044】には、使用可能な種々の熱可塑性樹脂が具体的に記載されている。
そうすると、当業者は、各分散工程での分散溶媒の粘度条件を満たす範囲内で、実施例以外の種々の分散剤やバインダー、熱可塑性樹脂を使用することで、過度の試行錯誤を要することなく、本件発明の繊維強化プラスチック成形体用基材を製造できるといえるし、得られた基材が繊維強化プラスチック成形体の製造に使用可能であることも当業者に明らかである。
よって、申立人の主張する申立理由(4オ)(4キ)には、理由がない。

(エ)申立理由(4ク)について
申立人は、「分散溶媒」に関し、実施例で用いられている「水」以外の分散溶媒も包含する本件発明は、実施可能要件を満たさない旨主張する。
しかしながら、本件発明は、2(1)ウで説示したとおり、従来既知の繊維強化プラスチック成形体用基材の抄造法による製造に関する技術常識を前提とするものであるところ、分散溶媒について、本件特許明細書の【0014】には、「水を用いた水系分散溶媒や、アルコールなどの有機溶媒を用いた有機溶媒系の分散溶媒である」と記載されているから、当業者は、各分散工程での分散溶媒の粘度条件を満たす範囲内で、適宜粘剤の種類や添加量を変更して、過度の試行錯誤を要することなく、本件発明の繊維強化プラスチック成形体用基材を製造できるといえるし、得られた基材が繊維強化プラスチック成形体の製造に使用可能であることも当業者に明らかである。
よって、申立人の主張する申立理由(4ク)には、理由がない。

(オ)申立理由(4コ)及び申立理由(4シ)の(B)について
申立人は、請求項4には、「強化繊維の繊維長は10mm以上」と記載されており、繊維長の上限は規定されていないし、繊維の形、大きさ、分布等によって分散性は変わるところ、実施例に記載の繊維長12mmの炭素繊維は、縦方向と横方向の大きさ、太さ、分布等が不明であるから、本件発明は、実施可能要件を満たさない(申立理由(4コ))し、実施例とスラリー濃度が異なる場合を包含する点でも本件発明は、実施可能要件を満たさない旨主張する(申立理由(4シ)の(B))。
しかしながら、本件発明は、2(1)ウで説示したとおり、従来既知の繊維強化プラスチック成形体用基材の抄造法による製造に関する技術常識を前提とするものであって、本件発明で使用される「強化繊維」の繊維長やスラリー濃度は、任意であってよいというものではなく、自ずから、従来既知の繊維強化プラスチック成形体用基材の抄造法による製造に関する技術常識の範囲内のものに収まるのであって、本件発明に、抄造法に適さない程に長い繊維長の強化繊維や抄造できないようなスラリー濃度の場合が包含されないのは明らかである。
さらに、実施例で使用される炭素繊維に関しては、実施例に記載の繊維長12mmの炭素繊維は、【0048】に、「繊維長12mmの炭素繊維(台湾プラスチック社製 CS815)」とあるから、市販品であり入手可能と解されるし、仮に実施例の炭素繊維が入手可能でなくとも、本件特許明細書の【0036】?【0040】には、本件発明で使用される強化繊維について記載されており、当該記載によれば、当業者は強化繊維を適宜入手できるといえる。また、強化繊維及び熱可塑性樹脂の分散液中の含有率(スラリー濃度)については【0034】に記載されている。
そうすると、当業者は、各分散工程での分散溶媒の粘度条件を満たす範囲内で、強化繊維の種類やスラリー濃度を適宜変更して、過度の試行錯誤を要することなく、本件発明の繊維強化プラスチック成形体用基材を製造できるといえるし、得られた基材が繊維強化プラスチック成形体の製造に使用可能であることも当業者に明らかである。
よって、申立人の主張する申立理由(4コ)及び申立理由(4シ)の(B)には、理由がない。

(カ)申立理由(4サ)及び申立理由(4シ)の(A)について
申立人は、撹拌機の種類(大きさ、形等)、回転数等の条件が実施例と大きく異なる場合をも包含する本件発明は、実施可能要件を満たさない旨主張する。
しかしながら、上述のとおり、本件発明は、抄造法による繊維強化プラスチック成形体用基材の製造に関する技術常識を前提とするものであって、本件発明で使用される撹拌機の種類(大きさ、形等)や回転数等の条件撹拌は、任意であってよいというものではなく、自ずから、従来既知の繊維強化プラスチック成形体用基材の抄造法による製造に関する技術常識の範囲内のものに収まるのであって、抄造法に適さない種類(大きさや形)の撹拌機の使用や、分散した繊維の切断や凝集がおこるような過剰な回転数の条件などの場合が包含されないのは当然である。
そして、かかる技術常識を加味した上で、本件特許明細書の記載(特に、上記(イ)で指摘した本件特許明細書の各分散工程における分散溶媒粘度を特定する点の意義の記載、実施例及び比較例の記載、並びに、【0030】?【0032】、【0035】の撹拌に関する記載)に接した当業者であれば、本件発明においては、実施例に記載の撹拌条件とは異なる場合についても、過度の試行錯誤を要することなく、本件発明の繊維強化プラスチック成形体用基材を製造できるといえるし、得られた基材が繊維強化プラスチック成形体の製造に使用可能であることも当業者に明らかである。
よって、申立人の主張する申立理由(4サ)及び申立理由(4シ)の(A)には、理由がない。

(3)平成31年4月27日付けの意見書における申立人の主張について
申立人は、平成31年4月27日付けの意見書(以下、単に「意見書」という。)において、本件発明が、明確性、サポート要件及び実施可能要件を満たさないことについて縷々述べている。しかしながら、申立人の主張には、申立書に記載の申立理由と重複する主張や、訂正された事項と関係のない新たな主張であって、しかも、明細書の他の記載もあわせみれば誤記であることが明らかであって、取消理由を構成し得ないような軽微な記載上の不備等に関する主張も多く含まれている。
したがって、以下においては、主張のうち、主立った点についてのみ言及する。

ア まず、申立人の意見書の6?8頁の(3)?(5)の主張に関しては、これらの主張は、申立人が名付けるところの本件発明1の第1工程の「マル1(当審注;この決定においては表記できない文字であるためこのように表記する。以下、この決定において同じである。)の分散溶媒」を、「強化繊維と水とを含む第1の分散液を、フィルター(フルイ)で濾過することで得られる分散溶媒(水と考えられる)を、さらに、キャノン・フェンスケ粘度計にて測定して粘度が0.95mPa・S以下の分散溶媒とする別途第0工程を経て得られた分散溶媒」(申立書の6頁)であると解釈することを前提とする主張である。
しかしながら、訂正後の請求項1の記載によれば、マル1の強化繊維を分散させる分散溶媒が、「強化繊維を分散させて得られた第1の分散液を80meshのフィルタ一(フルイ)で濾過することで得られる分散溶媒をJIS-Z-8803:2011「液体の粘度測定方法」に準拠して、キャノン・フェンスケ粘度計にて測定」した場合の「粘度」が「0.95mPa・s以下」となる条件を満たす任意の分散溶媒を意味することは明らかであり、当業者はそのように一義的に理解できる。(つまり、マル1の分散溶媒は、フルイでのろ過後のろ液の粘度による特定を介して、一義的に定まることになる。)
そうすると、申立人の主張は誤った前提に基づくものであるから採用できない。

イ 申立人は、意見書の13?14頁で、請求項1の記載を参酌しても、実施例の第1工程において、強化繊維に加える分散溶媒(マル1の分散溶媒)が判然とせず、多義的に解され、発明が不明確である旨主張するが、アで記載したとおり、強化繊維に加える分散溶媒は請求項1の記載から、一義的に明確に理解できるから、この点の申立人の主張は失当である。
また、申立人は、意見書の19頁で、「本件請求項1の分散溶媒(又は分散液)として、結局のところ、何が含まれているのかが不明であって、しかも、請求項1に記載する各工程、つまり、第1工程、及び第2工程において、何と何とを加えているのかが不明」であるから、本件発明1は不明確である旨主張する。
しかしながら、アで述べたとおり、強化繊維を分散させるマル1の分散溶媒を、当業者は一義的に明確に理解でき、訂正後の請求項1に特定される粘度条件を満足する限り、分散溶媒に何が加えられていてもかまわないことは明らかであるから、この点の申立人の主張は採用できない。

ウ 申立人は、意見書の17頁で、粘剤の種類によっては発泡が著しくて、キャノン・フェンスケ粘度計で測定は不可能である旨主張するが、仮に、第1分散液の粘度が、キャノン・フェンスケ粘度計で測定不可能であれば、そのような場合が本件発明に含まれないことは当業者に明らかである。

エ 申立人は、意見書の21頁で、「第1工程における分散溶媒の粘度の測定温度が、第1工程における工程温度であるとの説明だけでは、第1工程の工程温度が、当初明細書等には具体的にー切記載されておらず、また、本件特許出願時の技術常識から、その温度が理解できるものともいえません。」と主張する。
しかしながら、第1工程における分散溶媒の粘度の測定温度が、第1工程における工程温度であると明確に理解できる点については、上記(1)イの申立理由(2ア)?(2ウ)についての判断で説示したとおりであるし、工程温度について本件特許明細書の実施例に表記のない工程温度が「室温」であることは、当業者に明らかと認められる。
よって、この点の申立人の主張も採用できない。

オ 申立人は、意見書の24?25頁で、「本発明は、粘剤が第1工程に含まれるのかも不明であり(参考資料9には、エマノーン3199Vが粘剤の作用もあると記載されている)、分散剤と粘剤の用語の違いやそれぞれに含まれる化合物の外延も明確でありません。」と主張する。
しかしながら、「粘剤」と「分散剤」は、技術用語として一般に使用されている明確な概念であり、同じ化合物が複数の機能をもち、異なった用途に使用可能であったとしても、そのことをもってそれぞれの剤の外延が明確でないということはできない。そして、本件発明1の第1工程は、分散溶媒が所定の粘度を満たす限り、粘剤の使用は任意であるから、粘剤が第1工程に含まれるのか不明であっても、本件発明1は明確である。
よって、この点の申立人の主張も採用できない。

カ 以上のとおり、意見書の申立人の主張は採用できない。
なお、意見書には、以上の点以外の主張もあるが、何れも誤記等の軽微な記載不備といえるものであり、意見書における申立人の主張は採用できない。

(4)申立理由1(進歩性)についての判断

ア 本件発明1について
(ア)甲1に記載された発明
甲1には、請求項1及び請求項20の記載からみて、次のとおりの発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認める。

「シート形態にある強化熱可塑性プラスチック半製品を湿式法により製造する方法であって、
前記シート形態にある強化熱可塑性プラスチック半製品は、加圧下、半製品の熱可塑性生物を溶融させるに充分な温度で成形操作に供することで成形品を得るためのものであり、
前記の方法は、
a)分散剤および強化繊維を含む第1の水系分散体を提供する工程、
b)少なくとも1種の熱可塑性ポリマー粉末および該第1の分散体とは反対電荷の少なくとも1種のイオン性ポリマー添加剤を含む第2の水系分散体を提供する工程、
c)上記2つの分散体を混合して混合物を作る工程、
d)上記混合物に、高分子量であり上記混合物とは反対電荷のイオン性ポリマーの形態にある凝集剤を含める工程、および
e)得られた懸濁液を水切りし、その結果得られた半製品を乾燥する工程
を包含する方法。」

(イ)対比
本件発明1と甲1発明を対比する。

a 甲1発明における「加圧下、半製品の熱可塑性生物を溶融させるに充分な温度で成形操作に供することで成形品を得るためのもの」である「シート形態にある強化熱可塑性プラスチック半製品」は、本件発明1の「強化繊維と熱可塑性樹脂を含む繊維強化プラスチック成形体用基材」に相当する。

b 甲1発明における「熱可塑性ポリマー粉末」、「水」、「分散体」は、それぞれ、本件発明1の「熱可塑性樹脂」、「分散溶媒」、「分散液」に相当する。

c 甲1発明における「a)分散剤および強化繊維を含む第1の水系分散体を提供する工程」(以下、「a工程」ともいう。)は、「分散溶媒に前記強化繊維を分散させ、第1の分散液を得る工程」という限りで、本件発明1の「第1工程」に相当する。

d 甲1発明では、「b)少なくとも1種の熱可塑性ポリマー粉末および該第1の分散体とは反対電荷の少なくとも1種のイオン性ポリマー添加剤を含む第2の水系分散体を提供する工程」(以下、「b工程」ともいう。)で得られた、「第2の水系分散体」を「c)上記2つの分散体を混合して混合物を作る工程」(以下、「c工程」ともいう。)において、第1の水系分散体と混合されて「混合物」とされており、当該c工程においては、a工程で得られた「第1の水系分散体」が、b工程で得られた「第2の水系分散体」が混合されることで調液され、また、強化繊維は分散されているといえるから、甲1発明のc工程は、「第1の分散液を調液し、前記強化繊維をさらに分散させ、第2の分散液を得る工程」という限りで、本件発明1の「第2工程」に相当する。

e 甲1発明における「e)得られた懸濁液を水切り」する「工程」は、本件発明1の「分散液を抄造する工程」に相当する。

f 本件発明においては、「分散液を得る工程」は、「少なくとも第1工程と第2工程とを含」んでおれば良く、例えば、甲1発明の「d」のような「凝集剤を含める工程」のような他の工程を含む場合を排除していない。

そうすると、本件発明1と甲1発明との対比から、両発明の一致点及び相違点は、それぞれ次のとおりであると認める。

<一致点>
「強化繊維と熱可塑性樹脂を含む繊維強化プラスチック成形体用基材の製造方法であって、
前記強化繊維と前記熱可塑性樹脂と分散溶媒とを含む分散液を得る工程と、
前記分散液を抄造する工程を含み、
前記分散液を得る工程は、少なくとも第1工程と第2工程とを含み、
前記第1工程は、分散溶媒に前記強化繊維を分散させ、第1の分散液を得る工程であり、
前記第2工程は、第1の分散液を調液し、前記強化繊維をさらに分散させ、第2の分散液を得る工程である、
繊維強化プラスチック成形体用基材の製造方法。」

<相違点>
本件発明1の製造方法においては、第1の分散液を得る工程において強化繊維を分散させる分散溶媒が、「第1の分散液を80meshのフィルター(フルイ)で濾過することで得られる分散溶媒をJIS-Z8803:2011「液体の粘度測定方法」に準拠して、キャノン・フェンスケ粘度計にて測定される粘度が0.95mPa・s 以下の分散溶媒」であることが特定され、また、
第2の分散液を得る工程について、「調液後の第1の分散液を80meshのフィルター(フルイ)で濾過することで得られる分散溶媒のTIS-Z8803:2011「液体の粘度測定方法」に準拠して、キャノン・フェンスケ粘度計にて測定される粘度が、1.01mPa・s以上となるように前記第1の分散液を調液」して、前記強化繊維をさらに分散させる工程であり、「第2工程では、粘剤が添加される」ことが特定されているのに対し、甲1発明では、かかる特定はない点。

(ウ)判断
相違点について検討する。
甲1には、甲1発明の製造方法とする点の技術的意義に関し以下の記載がある。(以下、「甲1の記載」という。なお、下線は当審で付した。)

a 2頁左下欄13?15行
「この発明は、強化繊維を含有する熱可塑性半製品(・・・)、および水系媒体中における均質混合によるその製造方法に関する。」

b 3頁左上欄3行?同頁左下欄6行
「強化繊維を、熱可塑性樹脂中で、破壊することなく個々に独立化するための1つの手法は、例えばロービングまたはガラスストランドの形態にある繊維を水相中に分散させ、これを粉末化した樹脂と混合することである。湿式法を用いるこの手法は、製紙の一般原則が適用され、したがって、理想的なシートを得るためには、以下に列挙する多くの技術的条件を満足する必要がある。
1.組成物成分特に粉末、すなわち樹脂および添加剤(例えば、酸化防止剤、染料、静電防止剤、老化防止剤)の保持(・・・)。
2.強化繊維と粉末との良好な分散(繊維はシートの厚さにわたって均質に分布していなければならない)。
3.乾燥およびトランスフォーメーション中の操作を許容するに充分な凝集力を有するシートの形成。
いくつかの解決手段が提案されている。すなわち、・・・自己支持ベースとして使用されるガラスストランドマット中に切断繊維および粉末の混合物を流し込むか、・・・に記載されているように、切断繊維および粉末の混合物に、ラテックスバインダーおよび高比表面積を有する天然もしくは合成繊維を添加することである。
いずれの場合でも、原材料をシートに含めることを含み、材料の性質および品質は最終プラスチック品の性質にとって望ましくないものである。
いくつかの場合において、強化繊維の良好な分・散が、非常に高い稀釈による処理および/または水の粘度を増加させるととにより(EP-A0180863に記載)、あるいは泡状分散体を生成することにより(英国特許第1,263,812号に記載)達成されている。これら手法は、通常の製紙機に対する重大な変更をもたらす(フランス国特許2179204号および米国特許第3,716,449号参照)。
したがって、切断繊維および粉末からラテックスバインダーの添加の必要なしに湿式法により製造され、最終プラスチック用途に好適でありかつ必要な成分のみを実質的に含む強化熱可塑性プラスチックシートを提供することにより上記不利点を最小限にすることが強く望まれている。」

c 5頁左上欄5行?6頁左上欄14行
「強化成分および熱可塑性成分の上記混合物は、好ましくは、この発明の方法により製造された熱可塑性シートの98ないし99.5%例えば約99%を占める。残りは、所定の品質を持つシートを湿式法により製造する際に必要な異なる添加剤の残存痕跡量からなる。
上記シートを上記のような低い添加剤含有率で製造する場合に生じる問題は、したがって、以下その態様を説明するところの連続工程により最小化される。
a)強化繊維の水中分散は、高度稀釈を用いることなく、すなわち、製紙におけるセルロースパルプについて通常用いられている濃度つまり3%またはそれ以上の固形分でおこなうことができる。合成強化繊維は、発泡剤または水の粘度変性剤を用いる必要なく、しかも好ましくは脂肪酸を含有するカチオン性分散剤の存在下に好ましくおこなうことができる。分散剤は、好ましくは、強化繊維の重量の5ないし15重量%の割合で添加される。・・・この発明の一態様によれば、強化繊維は工程(a)において連続的に分散され、ついで工程(b)からの、ポリマー粉末分散体と所定の割合で混合される(工程(c)として)。
b)粉末成分の分散(平行しておこなわれる)。粉末成分は、原則的に熱可塑性グラスチック成分すなわち、樹脂粒子であるが、分散体は、ミネラルフィラーのような非繊維状強化成分を含んでいてもよい。
この発明の利点の1つは、粉末を、それらがある種の添加剤のように非常に細かいものであっても、均質にシート内に閉じ込めることができるということである。さらに、最終シートの少なくとも98重量%が、最終用途に必要な成分(樹脂粉末および強化材)で構成できる。このことは、以下の工程を包含するイオン方法により可能となる。すなわち、まず、樹脂および他の粉末材料を、必要に応じて発泡抑制剤の存在下に水中分散させ、つぎに粉末重量に対して1000部につき2、3部のアニオン性材料例えばポリカルボン酸系ポリマーを添加して粒子に負電荷を与える。工程(a)からのカチオン性繊維分散体と混合した後、荷電粒子は、強化繊維の表面と相互作用する。工程(b)において、樹脂粒子に対して親和性を持つように充分に疎水性であり、かつアニオン相互作用をおこなわせるように充分にアニオン性であるアニオン性ポリカルボン酸系ポリマーを使用することが好ましい。・・・
c)それぞれ繊維および粉末の反対極性の2つの分散体の混合は、既知のいずれの混合技術によりおこなうことができる。・・・
d)工程(d)において、混合分散体を部分凝集に供する。これは、上記混合物とは反対電荷の凝集剤を添加することにより達成できる。そのような凝集剤には、例えば、高分子量のカチオン性有機電解質(例えば、アクリルアミドと4級カチオン性単量体との共重合体のようなカチオン性ポリアクリルアミド)がある。・・・
e)工程(e)は、上記懸濁液を水切りし、半製品を乾燥することを含む。・・・得られた湿潤シートは、実質的に、(水に加えて)最終プラスチック製品用に必要な成分(ポリマー粉末および強化材)のみを含有し、これら成分は、シートの厚さ全体にわたり、初期仕込みの割合で均一に分布している。」

上記甲1の記載によれば、従来、強化繊維を含有する熱可塑性半製品の湿式法による製造方法に関しては、強化繊維および粉末の混合物に、ラテックスバインダーや高比表面積の合成繊維を添加する方法(前者)や強化繊維の良好な分散のために水の粘度を増加させる等の手法(後者)が知られていたが、前者は、添加される強化繊維および粉末以外の原材料をシートに含めることとなり、最終プラスチック品の性質にとって望ましくないという問題があったし、後者は、通常の製紙機に対する重大な変更をもたらすという問題があった。
そして、甲1発明は、かかる問題を解決し、強化繊維および粉末からラテックスバインダーの添加の必要なしに湿式法により、最終プラスチック用途に好適で必要な成分である強化成分および熱可塑性成分のみを実質的に含む強化熱可塑性プラスチックシートを提供する方法を提供することを目的とするものである。
上記甲1の記載によれば、甲1発明においては、上記の目的は、a)工程でカチオン性分散剤の存在下で分散させたカチオン性の繊維分散体が、b)工程により別途アニオン性材料を添加されて負電荷を与えられた状態とされた粒子分散体と、c)工程で混合されることで、アニオン性とされた粒子がカチオン性とされた強化繊維の表面とイオン的に相互作用することができ、ついで、d)工程で上記混合物と反対電荷の凝集剤を加えて混合分散体を部分凝集させ、e)工程で懸濁液を水切り、乾燥することで達成されるものであり、甲1発明の製造方法を採用することで、通常の製紙機に対する重大な変更をもたらすことなく、添加剤含有率の低い半製品が得られ、上記目的が達成出来るものである。

そして、甲1には、上記の目的を、強化繊維を分散させる分散溶媒の粘度を調整することで解決することを示唆する記載はないうえ、甲1は、従来強化繊維の分散のために水の粘度を増加させる技術の問題点を解決する技術に関するものであって、甲1の5頁左上欄下から2?1行にあるとおり、甲1発明では、「水の粘度変性剤を用いる必要(が)な(い)」もの(上記c)である。

そうすると、抄造による繊維シートの製造の際に増粘剤を添加することや、そのことにより分散安定性が改善できることが従来から知られていたとしても(甲2の4頁左下欄12行?同頁右下欄11行、甲3の【0025】、甲5の請求項1、甲6の24頁左欄2?5行、甲7の1の154頁右欄18?23行、甲8の請求項1、甲9の請求項1)、粘剤を用いる必要がない甲1発明において、当業者が、あえて粘剤を添加して粘度を調整を行う動機付けがあるとはいえない。
ましてや、甲1には、甲1発明のa工程(これは、本件発明1の「第1工程」に相当する。)における分散溶媒の粘度を特定の範囲とすることを示唆する記載や、c工程(これは、本件発明1の「第2工程」に相当する。)において、本件発明1で規定される特定の粘度調整を行うことを示唆する記載は全くないし、申立人が提出した他のいずれの証拠(甲2?甲13)の記載を参酌しても、甲1発明において、a工程及びc工程を本件発明1の相違点にかかる構成を備えたものとすることを示唆する記載はない。(なお、甲4は多孔質電極基材前駆体シートを製造する方法に関するもの(請求項1)であるが、粘剤についての言及はないし、甲10は、樹脂含浸シートの製造方法(請求項1)に関するものであり、抄造法による繊維シートの製造技術に関するものではない。さらに、甲11?13は、いずれも撹拌混合機に関する技術を開示するのみである。)
そして、本件発明1に係る構成を備えた本件発明1によれば、本件特許明細書の表1の実施例、比較例の記載から明らかなとおり、強化繊維(炭素繊維)の凝集が防止され、強化繊維が良好に分散された分散液を得ることができ、また、分散開始後に長時間経過した分散液においても、強化繊維の分散状態が良好に維持され、強化繊維が均一に分散した繊維強化プラスチック成形体用基材を得ることができる。

以上のとおりであるから、本件発明1について、甲1発明(甲1に記載された発明)及び従来技術(甲2?甲13)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

イ 本件発明2?4及び6について
本件発明2?4及び6は、請求項1を引用する請求項に係るものであって、これらの発明は、甲1発明と、少なくとも上記ア(イ)で記載した相違点で相違している。
そして、相違点についての判断は、上記ア(ウ)で記載したとおりであるから、本件発明2?4及び6についても、上記ア(ウ)で記載したと同様の理由によって、甲1発明(甲1に記載された発明)及び従来技術(甲2?13)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(5)申立理由についてのまとめ
以上のとおり、申立理由1?4には、理由がない。


第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1?4及び6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1?4及び6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、本件訂正により本件特許の請求項5が削除された結果、同請求項5に係る特許についての本件特許異議の申立ては対象を欠くこととなったため、特許法120条の8第1項において準用する同法135条の規定により、請求項5に係る特許についての本件特許異議の申立ては却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
強化繊維と熱可塑性樹脂を含む繊維強化プラスチック成形体用基材の製造方法であって、
前記強化繊維と前記熱可塑性樹脂と分散溶媒とを含む分散液を得る工程と、
前記分散液を抄造する工程を含み、
前記分散液を得る工程は、少なくとも第1工程と第2工程とを含み、
前記第1工程は、分散溶媒に前記強化繊維を分散させ、第1の分散液を得る工程であって、前記強化繊維を分散させる前記分散溶媒は、第1の分散液を80meshのフィルター(フルイ)で濾過することで得られる分散溶媒をJIS-Z8803:2011「液体の粘度測定方法」に準拠して、キャノン・フェンスケ粘度計にて測定される粘度が0.95mPa・s以下の分散溶媒である工程であり、
前記第2工程は、調液後の第1の分散液を80meshのフィルター(フルイ)で濾過することで得られる分散溶媒のJIS-Z8803:2011「液体の粘度測定方法」に準拠して、キャノン・フェンスケ粘度計にて測定される粘度が、1.01mPa・s以上となるように前記第1の分散液を調液し、前記強化繊維をさらに分散させ、第2の分散液を得る工程であり、
前記第2工程では、粘剤が添加される、
ことを特徴とする繊維強化プラスチック成形体用基材の製造方法。
【請求項2】
前記第2工程は、第2工程Aと第2工程Bとを含み、
前記第2工程Aは、調液後の前記第1の分散液を80meshのフィルター(フルイ)で濾過することで得られる分散溶媒のJIS-Z8803:2011「液体の粘度測定方法」に準拠して、キャノン・フェンスケ粘度計にて測定される粘度が、1.01?1.20mPa・sとなるように前記第1の分散液を調液し、前記強化繊維をさらに分散させ、第2の分散液Aを得る工程であり、
前記第2工程Bは、調液後の前記第2の分散液Aを80meshのフィルター(フルイ)で濾過することで得られる分散溶媒のJIS-Z8803:2011「液体の粘度測定方法」に準拠して、キャノン・フェンスケ粘度計にて測定される粘度が、1.30mPa・s以上となるように前記第2の分散液Aを調液し、前記強化繊維をさらに分散させ、第2の分散液Bを得る工程である請求項1に記載の繊維強化プラスチック成形体用基材の製造方法。
【請求項3】
前記強化繊維は、炭素繊維又はガラス繊維である請求項1又は2に記載の繊維強化プラスチック成形体用基材の製造方法。
【請求項4】
前記強化繊維の繊維長は10mm以上である請求項1?3のいずれか1項に記載の繊維強化プラスチック成形体用基材の製造方法。
【請求項5】
(削除)
【請求項6】
前記第1工程、前記第2工程A及び前記第2工程Bでは、撹拌羽を備える撹拌機を用いて撹拌を行い、
前記第2工程Bで用いる撹拌羽の形状は、前記第1工程で用いる撹拌羽の形状及び前記第2工程Aで用いる撹拌羽の形状のいずれとも異なる請求項2?4のいずれか1項に記載の繊維強化プラスチック成形体用基材の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-06-18 
出願番号 特願2014-162631(P2014-162631)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (B29B)
P 1 651・ 536- YAA (B29B)
P 1 651・ 537- YAA (B29B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 加賀 直人  
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 植前 充司
渕野 留香
登録日 2017-11-24 
登録番号 特許第6245108号(P6245108)
権利者 王子ホールディングス株式会社
発明の名称 繊維強化プラスチック成形体用基材の製造方法  
代理人 特許業務法人特許事務所サイクス  
代理人 特許業務法人特許事務所サイクス  

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