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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 G02B |
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管理番号 | 1354069 |
異議申立番号 | 異議2018-700798 |
総通号数 | 237 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2019-09-27 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2018-10-03 |
確定日 | 2019-06-28 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6307205号発明「ハードコートフィルム」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6307205号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1ないし10〕について訂正することを認める。 特許第6307205号の請求項1ないし7,9,10に係る特許を維持する。 特許第6307205号の請求項8に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6307205号(請求項の数10。以下,「本件特許」という。)に係る出願は,2016年(平成28年)8月23日を国際出願日とする日本語特許出願であって,平成30年3月16日に特許権の設定登録がされたものである。 平成30年4月4日に本件特許の特許掲載公報の発行がなされたところ,同年10月3日に特許異議申立人(以下,「申立人」という。)より請求項1ないし10に係る特許について特許異議の申立てがされ,同年11月26日付けで特許権者に取消理由が通知され,平成31年2月1日に特許権者より意見書が提出され,同年2月26日付けで特許権者に取消理由通知(決定の予告)がされ,同年4月23日に特許権者より意見書が提出されるとともに訂正の請求(以下,当該訂正の請求を「本件訂正請求」といい,本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。)がされ,令和元年6月10日に申立人より意見書が提出された。 第2 本件訂正の適否についての判断 1 本件訂正の内容 本件訂正請求の趣旨は,特許請求の範囲を,訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項1ないし10について訂正することを求めるものであるところ,本件訂正請求は,一群の請求項〔1ないし10〕に対して請求されたものである。 しかるに,本件訂正の前後の特許請求の範囲の記載は次のとおりである。(下線は訂正箇所を示す。) (1)訂正前の特許請求の範囲の記載 「【請求項1】 基材フィルムと,前記基材フィルムの少なくとも一方の主面側に積層された光学調整層と,前記光学調整層における前記基材フィルム側とは反対の主面側に積層されたハードコート層とを備えたハードコートフィルムであって, 前記基材フィルムがポリイミドフィルムであり, 前記光学調整層が,活性エネルギー線硬化性成分を含有する組成物を硬化させた材料からなり, 前記光学調整層の屈折率が,前記ポリイミドフィルムの屈折率と前記ハードコート層の屈折率との間の値であり, 前記光学調整層の厚さが,30nm以上,700nm以下であり, フレキシブルディスプレイを構成する,繰り返し屈曲されるフレキシブル部材として使用される ことを特徴とするハードコートフィルム。 【請求項2】 前記光学調整層の屈折率が,1.45以上,1.75以下であることを特徴とする請求項1に記載のハードコートフィルム。 【請求項3】 前記ハードコート層の屈折率が,1.40以上,1.70以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のハードコートフィルム。 【請求項4】 前記ポリイミドフィルムの屈折率および前記ハードコート層の屈折率の中央値と,前記光学調整層の屈折率との差が,絶対値で0.025以下であることを特徴とする請求項1?3のいずれか一項に記載のハードコートフィルム。 【請求項5】 前記ポリイミドフィルムの厚さが,5μm以上,300μm以下であることを特徴とする請求項1?4のいずれか一項に記載のハードコートフィルム。 【請求項6】 前記ハードコート層の厚さが,0.5μm以上,10μm以下であることを特徴とする請求項1?5のいずれか一項に記載のハードコートフィルム。 【請求項7】 前記光学調整層が,金属酸化物微粒子を含有することを特徴とする請求項1?6のいずれか一項に記載のハードコートフィルム。 【請求項8】 前記活性エネルギー線硬化性成分が,多官能性(メタ)アクリレート系モノマーおよび(メタ)アクリレート系プレポリマーの1種または2種以上であることを特徴とする請求項1?7のいずれか一項に記載のハードコートフィルム。 【請求項9】 前記ハードコート層が,活性エネルギー線硬化性成分を含有する組成物を硬化させた材料からなり, 当該活性エネルギー線硬化性成分が,炭素数2?4のアルキレンオキサイド単位を分子内に含有する多官能(メタ)アクリレート系モノマーと,当該多官能(メタ)アクリレート系モノマー以外の活性エネルギー線硬化性成分とを含有することを特徴とする請求項1?8のいずれか一項に記載のハードコートフィルム。 【請求項10】 前記基材フィルムの少なくとも一方の主面側には,粘着剤層が積層されていることを特徴とする請求項1?9のいずれか一項に記載のハードコートフィルム。」 (2)訂正後の特許請求の範囲の記載 「【請求項1】 基材フィルムと,前記基材フィルムの少なくとも一方の主面側に積層された光学調整層と,前記光学調整層における前記基材フィルム側とは反対の主面側に積層されたハードコート層とを備えたハードコートフィルムであって, 前記基材フィルムがポリイミドフィルムであり, 前記光学調整層が,活性エネルギー線硬化性成分を含有する組成物を硬化させた材料からなり, 前記組成物が,前記活性エネルギー線硬化性成分として,1分子中に(メタ)アクリロイル基を3個以上有する多官能性(メタ)アクリレート系モノマーのみを含有し, 前記光学調整層の屈折率が,前記ポリイミドフィルムの屈折率と前記ハードコート層の屈折率との間の値であり, 前記光学調整層の厚さが,30nm以上,700nm以下であり, フレキシブルディスプレイを構成する,繰り返し屈曲されるフレキシブル部材として使用される ことを特徴とするハードコートフィルム。 【請求項2】 前記光学調整層の屈折率が,1.45以上,1.75以下であることを特徴とする請求項1に記載のハードコートフィルム。 【請求項3】 前記ハードコート層の屈折率が,1.40以上,1.70以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のハードコートフィルム。 【請求項4】 前記ポリイミドフィルムの屈折率および前記ハードコート層の屈折率の中央値と,前記光学調整層の屈折率との差が,絶対値で0.025以下であることを特徴とする請求項1?3のいずれか一項に記載のハードコートフィルム。 【請求項5】 前記ポリイミドフィルムの厚さが,5μm以上,300μm以下であることを特徴とする請求項1?4のいずれか一項に記載のハードコートフィルム。 【請求項6】 前記ハードコート層の厚さが,0.5μm以上,10μm以下であることを特徴とする請求項1?5のいずれか一項に記載のハードコートフィルム。 【請求項7】 前記光学調整層が,金属酸化物微粒子を含有することを特徴とする請求項1?6のいずれか一項に記載のハードコートフィルム。 【請求項8】 (削除) 【請求項9】 前記ハードコート層が,活性エネルギー線硬化性成分を含有する組成物を硬化させた材料からなり, 当該活性エネルギー線硬化性成分が,炭素数2?4のアルキレンオキサイド単位を分子内に含有する多官能(メタ)アクリレート系モノマーと,当該多官能(メタ)アクリレート系モノマー以外の活性エネルギー線硬化性成分とを含有することを特徴とする請求項1?7のいずれか一項に記載のハードコートフィルム。 【請求項10】 前記基材フィルムの少なくとも一方の主面側には,粘着剤層が積層されていることを特徴とする請求項1?7および9のいずれか一項に記載のハードコートフィルム。」 2 訂正事項 本件訂正は,次の訂正事項からなる。 (1)訂正事項1 訂正前の請求項1における「前記光学調整層が,活性エネルギー線硬化性成分を含有する組成物を硬化させた材料からなり,」という記載の後に,「前記組成物が,前記活性エネルギー線硬化性成分として,1分子中に(メタ)アクリロイル基を3個以上有する多官能性(メタ)アクリレート系モノマーのみを含有し,」という記載を挿入する。 なお,請求項1について訂正事項1による訂正がなされることにより,請求項1の記載を引用する形式で記載された請求項2ないし7,9,10についても同様の訂正がなされることになる。 (2)訂正事項2 請求項8を削除する。 (3)訂正事項3 訂正前の請求項9における「請求項1?8のいずれか一項」という記載を,「請求項1?7のいずれか一項」と訂正する。 なお,請求項9について訂正事項3による訂正がなされることにより,請求項9の記載を引用する形式で記載された請求項10についても同様の訂正がなされることになる。 (4)訂正事項4 訂正前の請求項10における「請求項1?9のいずれか一項」という記載を,「請求項1?7および9のいずれか一項」と訂正する。 3 訂正の目的の適否について 訂正事項1は,請求項1ないし7,9,10に係る発明において,本件訂正前には,硬化させることで「光学調整層」の材料となる「組成物」が,どのような「活性エネルギー線硬化性成分」を含有するものであるのかは任意であったものを,「1分子中に(メタ)アクリロイル基を3個以上有する多官能性(メタ)アクリレート系モノマーのみ」を含有するものに限定しようとする訂正である。 また,訂正事項2は,特許請求の範囲から請求項8を削除しようとする訂正であり,訂正事項3及び4は,特許請求の範囲から請求項8の記載を引用する請求項9,10を削除しようとする訂正である。 したがって,本件訂正は,特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。 4 新規事項の追加の有無について 訂正事項1によって請求項1ないし7,9,10に追加されることとなる限定事項は,本件訂正前の願書に添付した明細書(特許がされた時点の明細書である。以下,特許がされた時点の明細書,特許請求の範囲及び図面を総称して「特許明細書等」という。)の【0045】の記載,【0124】の記載及び【0138】の【表1】等からみて,当業者に自明な事項であって,特許明細書等に記載した事項との関係において,新たな技術的事項を導入するものではないから,訂正事項1による訂正は,特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。 また,訂正事項2ないし4による訂正が,特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであることは明らかである。 したがって,本件訂正は,特許法120条の5第9項において準用する同法126条5項の規定に適合する。 5 特許請求の範囲の実質的拡張・変更の存否について 訂正事項1ないし4が,いずれも,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでないことは明らかであるから,本件訂正は,特許法120条の5第9項において準用する同法126条6項の規定に適合する。 6 小括 前記3ないし5のとおりであって,本件訂正は特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項を目的とするものであり,かつ,同条9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合するので,訂正後の請求項〔1ないし10〕について訂正を認める。 第3 本件特許の各請求項に係る発明 前記第2 6で述べたとおり,本件訂正は適法になされたものであるから,本件特許の請求項1ないし7,9,10に係る発明(以下,それぞれを「本件訂正発明1」ないし「本件訂正発明7」,「本件訂正発明9」,「本件訂正発明10」といい,これらを総称して「本件訂正発明」という。)は,それぞれ,前記第2 1(2)において,訂正後の特許請求の範囲の記載として示した請求項1ないし7,9,10に記載された事項により特定されるとおりのものと認められる。 第4 取消理由通知(決定の予告)により通知された取消理由について 1 通知された取消理由の概要 平成31年2月26日付けの取消理由通知(決定の予告)により,本件訂正前の請求項1ないし10(以下,本件訂正前の請求項1ないし10に係る発明をそれぞれ「本件特許発明1」ないし「本件特許発明10」という。)に対して通知された取消理由(以下,「本件取消理由」という。)は,概略,次のとおりである。 本件特許発明1ないし8,10は,甲3に記載された発明及び甲1に記載された技術事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,本件特許発明9は,甲3に記載された発明,甲1に記載された技術事項及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,その特許は特許法29条2項の規定に違反してされたものである。 本件取消理由で引用された引用例及び周知例は,次のとおりである。 甲3:国際公開第2016/076243号 甲1:特開2016-90728号公報 周知例1:特開2016-23235号公報 周知例2:特開2015-30213号公報 周知例3:特開2013-163765号公報 2 本件取消理由の成否についての判断 (1) 引用例 ア 甲3 (ア)甲3の記載 甲3(国際公開第2016/076243号)は,本件特許に係る出願の出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったものであるところ,当該甲3には,次の記載がある。(下線は,後述する「甲3発明」の認定に特に関係する箇所を示す。) a 「技術分野 [0001] 本発明は,樹脂フィルム,積層フィルム,光学部材,表示部材,前面板,及び積層フィルムの製造方法に関する。 背景技術 [0002] 従来,太陽電池又はディスプレイ等の各種表示部材の基材材料として,ガラスが用いられてきた。しかしながら,ガラスは,割れやすい,重いとった欠点を有するとともに,近年のディスプレイの薄型化,軽量化及びフレキシブル化に際して,必ずしも充分な材質特性を有していなかった。そのため,ガラスに代わる材料として,アクリル系樹脂,及び樹脂に耐擦傷性を付与した積層フィルムが検討されている。また,ポリイミド及びシリカを含むハイブリッドフィルムのような有機材料と無機材料の複合材料も検討されている・・・(中略)・・・ 発明が解決しようとする課題 [0004] 公知のアクリル系樹脂を基材として有し,基材上に設けられた機能層を有する積層フィルムは,フレキシブルデバイスの表示部材又は前面板として用いるには屈曲性の点で必ずしも充分ではなかった。 [0005] そこで,本発明の一側面は,屈曲性に優れる積層フィルムを提供することを目的とする。 [0006] また,積層フィルムをフレキシブルデバイスの表示部材又は前面板として用いるためには,屈曲時の良好な視認性を有することも求められる。しかし,優れた屈曲性を有する積層フィルムであっても,屈曲時にコントラスト及び色相の変化を生じることがあった。 [0007] そこで,本発明の別の側面は,機能層を有する積層フィルムに関して,屈曲時の視認性を改善することを目的とする。 [0008] ポリイミド系高分子及びシリカを含有するハイブリッドフィルムをフレキシブル部材として使用するためには,一般に,光学調整機能及び粘着機能のような様々な機能を有する機能層をハイブリッドフィルム上に形成する必要がある。しかし,ハイブリッドフィルム上に機能層を形成したときに,機能層とハイブリッドフィルムとの密着性が必ずしも充分ではないことがあった。 [0009] そこで,本発明の更に別の側面は,各種機能層との密着性に優れた樹脂フィルム,及びこれを用いた積層フィルムを提供することを目的とする。 [0010] 本発明によれば,積層フィルムを用いた光学部材,表示部材及びフレキシブルデバイス用前面板も提供される。 課題を解決するための手段 [0011] 本発明の一態様に係る積層フィルムは,ポリイミド系高分子を含有する樹脂フィルム(樹脂基材)と,該樹脂フィルムの少なくとも一方の主面側に設けられた機能層と,を備える。 ・・・(中略)・・・ [0015] 本発明の一態様に係る積層フィルムにおいて,前記機能層は,紫外線吸収及び表面硬度のうち少なくともいずれか一方の機能を有する層であってもよい。 ・・・(中略)・・・ 発明の効果 [0020] 本発明によれば,屈曲性に優れる積層フィルムを提供することができる。本発明の積層フィルムは,フレキシブルデバイスの光学部材,表示部材又は前面板に適用する場合に要求される透明性,耐紫外線特性,及び表面硬度等の機能を有することができる。本発明によれば,屈曲時の視認性に優れた積層フィルムを提供することができる。 [0021] 本発明によれば,各種機能層との密着性に優れた樹脂フィルム,その樹脂フィルムを用いた積層フィルム,及び積層フィルムの製造方法を提供することができる。本発明はさらに,積層フィルムを用いた光学部材,表示部材及び前面板を提供することができる。本発明で得られる樹脂フィルムは,優れた透明性及び屈曲性を有することができる。」 b 「図面の簡単な説明 [0022][図1]第一の実施形態の樹脂フィルムを示す概略断面図である。 [図2]第二の実施形態の積層フィルムを示す概略断面図である。 [図3]第三の実施形態の積層フィルムを示す概略断面図である。」 c 「[0024][第一の実施形態] 図1は,本実施形態の樹脂フィルムを示す概略断面図である。本実施形態の樹脂フィルム10は,ポリイミド系高分子を含有し,対向する一対の主面10a,10bを有する。 [0025] 樹脂フィルム10に含まれるポリイミド系高分子はポリイミドであってもよい。ポリイミドは,例えば,ジアミン類とテトラカルボン酸二無水物とを出発原料として,重縮合によって得られる縮合型ポリイミドである。ポリイミド系高分子として,樹脂フィルム形成のために用いられる溶媒に可溶なものを選択することができる。 ・・・(中略)・・・ [0031] ポリイミド系高分子を使用すれば,特に優れた屈曲性を有し,高い光透過率(例えば,550nmの光に対して85%以上又は88%以上),及び,低い黄色度(YI値,例えば5以下又は3以下),低いヘイズ(例えば1.5%以下又は1.0%以下)の樹脂フィルムが得られ易い。 ・・・(中略)・・・ [0054] 樹脂フィルム10は,無機粒子等の無機材料を更に含有していてもよい。無機材料は,ケイ素原子を含むケイ素材料であってもよい。樹脂フィルム10がケイ素材料等の無機材料を含有することで,屈曲性の点で特に優れた効果が得られる。 ・・・(中略)・・・ [0058] 樹脂フィルム10において,ポリイミドと無機材料(ケイ素材料)の配合比は,質量比で,1:9?10:0又は1:9?9:1であってもよく,3:7?10:0又は3:7?8:2であってもよい。この配合比は,3:7?8:2,又は3:7?7:3であってもよい。ポリイミド及び無機材料の合計質量に対する無機材料の割合は,通常20質量%以上であり,30質量%以上であってもよい。この割合は,通常90質量%以下であり,70質量%以下であってもよい。ポリイミドと無機材料(ケイ素材料)の配合比が上記の範囲内であると,樹脂フィルムの透明性及び機械的強度が向上する傾向がある。 [0059] 樹脂フィルム10は,透明性及び屈曲性を著しく損なわない範囲で,ポリイミド及び無機材料(ケイ素材料)以外の成分を更に含有していてもよい。ポリイミドと無機材料(ケイ素材料)以外の成分としては,例えば,酸化防止剤,離型剤,安定剤,ブルーイング剤,難燃剤,滑剤,及びレベリング剤が挙げられる。ポリイミド及び無機材料(決定注:「実施例1」等についての記載等からみて,当該記載は誤記であり,正しくは「ポリイミドと無機材料以外の成分」と解される。)の合計の割合は,樹脂フィルム10の質量に対して,0%を超えて20質量%以下であってもよく,0%を超えて10質量%以下であってもよい。 ・・・(中略)・・・ [0062] 樹脂フィルム10の厚さは,積層フィルム30が適用されるフレキシブルデバイスに応じて適宜調整されるが,10μm?500μm,15μm?200μm,又は20μm?100μmであってもよい。このような構成の樹脂フィルム10は,特に優れた屈曲性を有することができる。・・・(中略)・・・ [0072][第二の実施形態] 以下,図2を参照して,第二の実施形態に係る積層フィルムを説明する。 図2は,本実施形態の積層フィルムを示す概略断面図である。図2において,図1に示した第一の実施形態の樹脂フィルムと同一の構成要素には同一符号を付して,その説明を省略する。 本実施形態の積層フィルム30は,樹脂フィルム10と,樹脂フィルム10の一方の主面10aに積層された機能層20とから概略構成されている。 [0073] 機能層20は,積層フィルム30をフレキシブルデバイスの光学部材,表示部材又は前面板として用いるときに,積層フィルム30にさらに機能(性能)を付与するための層であり得る。機能層20は,紫外線吸収,表面硬度,粘着性,色相調整,及び屈折率調整からなる群から選択される少なくとも1種の機能を有する層であってもよい。 ・・・(中略)・・・ [0077] 機能層20としての,表面硬度の機能(表面に高硬度を発現する機能)を有する層(ハードコート層)は,例えば,樹脂フィルムの表面の鉛筆硬度よりも高い鉛筆硬度を有する表面を積層フィルムに与える層である。ハードコート層の表面の鉛筆硬度は,例えば2H以上であってもよい。このハードコート層は,特に限定されないが,ポリ(メタ)アクリレート類に代表される,紫外線硬化型,電子線硬化型,又は熱硬化型の樹脂を含む。ハードコート層は,光重合開始剤,有機溶剤を含んでもよい。ポリ(メタ)アクリレート類は,例えば,ポリウレタン(メタ)アクリレート,エポキシ(メタ)アクリレート,及び他の多官能ポリ(メタ)アクリレートから選ばれる1種以上の(メタ)アクリレートから形成され,これらモノマーに由来するモノマ単位を含むポリ(メタ)アクリレートである。ハードコート層は,上記成分の他に,シリカ,アルミナ,ポリオルガノシロキサン等の無機酸化物を含んでもよい。 [0078] 機能層20としての,粘着性の機能を有する層(粘着層)は,積層フィルム30を他の部材に接着させる機能を有する。粘着層の形成材料としては,通常知られたものを用いることができる。例えば,熱硬化性樹脂組成物又は光硬化性樹脂組成物を用いることができる。 ・・・(中略)・・・ [0086] 機能層20は,積層フィルム30の用途に応じて,上記の機能を適宜有する。機能層20は,単層であっても,複数の層であってもよい。各層が1つの機能又は2つ以上の機能を有していてもよい。 ・・・(中略)・・・ [0088] 機能層20の厚さは,積層フィルム30が適用されるフレキシブルデバイスに応じて適宜調整されるが,例えば,1μm?100μm,又は2μm?80μmであってもよい。機能層20は,典型的には,樹脂フィルム10よりも薄い。 ・・・(中略)・・・ [0091] 機能層20としてのハードコート層は,例えば,樹脂フィルム10の主面10aに,ハードコート層を形成する樹脂を含む溶液を塗布して塗膜を形成し,その塗膜を乾燥及び硬化させる方法により,形成することができる。」 d 「[0105][第三の実施形態] 以下,図3を参照して,第三の実施形態に係る積層フィルムを説明する。 図3は,本実施形態の積層フィルムを示す概略断面図である。図3において,図2に示した第二の実施形態の積層フィルムと同一又は対応する構成要素には同一符号を付して,その説明を省略する。本実施形態の積層フィルム30は,樹脂フィルム10と,樹脂フィルム10の一方の主面10a側に設けられた機能層20と,樹脂フィルム10と機能層20との間に設けられたプライマー層25とから概略構成されている。プライマー層25は,樹脂フィルム10の一方の主面10aに積層されている。機能層20は,プライマー層25の樹脂フィルム10と接する主面とは反対側の主面(以下,「一方の主面」ということがある。)25aに積層されている。 [0106] プライマー層25は,プライマー剤から形成された層であり,樹脂フィルム10及び機能層20との密着性を高めることのできる材料を含んでいることが好ましい。プライマー層25に含まれる化合物が,樹脂フィルム10に含まれるポリイミド系高分子又はケイ素材料等と,界面において化学結合していてもよい。 [0107] プライマー剤として,例えば,紫外線硬化型,熱硬化型又は2液硬化型のエポキシ系化合物のプライマー剤がある。プライマー剤は,ポリアミック酸であってもよい。これらは,樹脂フィルム10及び機能層20との密着性を高めるために好適である。 ・・・(中略)・・・ [0111] プライマー層25の厚さは,機能層20に応じて適宜調整されるが,0.01nm?20μmであってもよい。エポキシ系化合物のプライマー剤を用いる場合には,プライマー層25の厚さは0.01μm?20μm,又は0.1μm?10μmであってもよい。シランカップリング剤を用いる場合には,プライマー層25の厚さは0.1nm?1μm,又は0.5nm?0.1μmであってもよい。 [0112] 次に,本実施形態の図3の積層フィルム30の製造方法を説明する。 まず,第一の実施形態と同様にして,樹脂フィルム10を作製する。次いで,公知のロール・ツー・ロールやバッチ方式により,樹脂フィルム10の一方の主面10aに,プライマー剤を溶解した溶液を塗布して第1の塗膜を形成する。第1の塗膜は,必要に応じて,やや硬化させてもよい。 [0113] 次いで,第一の実施形態と同様にして,第1の塗膜上に,機能層20の原料を塗布して第2の塗膜を形成する。第1の塗膜と第2の塗膜を同時に,または個別に硬化させることにより,プライマー層25と機能層20を形成し,積層フィルム30を得る。 [0114] このようにして得られる本実施形態の積層フィルム30は,屈曲性に優れる。樹脂フィルム10と機能層20の間に,プライマー層25が設けられているので,樹脂フィルム10と機能層20の密着性が高い。積層フィルム30は,フレキシブルデバイスの光学部材,表示部材及び前面板に適用する場合に要求される透明性,耐紫外線特性,及び表面硬度等の機能性を有することができる。」 e 「[0134]-検討1- 実施例1 公知文献(例えば,United States Patent; Patent No. US8,207,256B2)に準拠して,ポリイミドとシリカ粒子とを含有する樹脂フィルム(シリカ粒子含有量60質量%)を以下のように作製した。 窒素置換した重合槽に,(1)式の酸無水物,(2)式及び(3)式のジアミン,触媒,溶媒(γブチロラクトン及びジメチルアセトアミド)を仕込んだ。仕込み量は,(1)式の酸無水物75.0g,(2)式のジアミン36.5g,(3)式のジアミン76.4g,触媒1.5g,γブチロラクトン438.4g,ジメチルアセトアミド313.1gとした。(2)式のジアミンと(3)式のジアミンとのモル比は3:7,ジアミン合計と酸無水物とのモル比は,1.00:1.02であった。 [0135][化5] ![]() [0136] 重合槽内の混合物を攪拌して原料を溶媒に溶解させた後,混合物を100℃まで昇温し,その後,200℃まで昇温し,4時間保温して,ポリイミドを重合した。この加熱中に,液中の水を除去した。その後,精製及び乾燥により,ポリイミドを得た。 [0137] 次に,濃度20質量%に調整したポリイミドのγブチロラクトン溶液,γブチロラクトンに固形分濃度30質量%のシリカ粒子を分散した分散液,及び,アミノ基を有するアルコキシシランのジメチルアセトアミド溶液を混合し,30分間攪拌した。 [0138] ここで,シリカ粒子とポリイミドとの質量比を60:40,アミノ基を有するアルコキシシランの量をシリカ粒子及びポリイミドの合計100質量部に対して1.67質量部とした。 [0139] 混合溶液を,ガラス基板に塗布し,50℃で30分,140℃で10分加熱して溶媒を乾燥した。その後,フィルムをガラス基板から剥離し,金枠を取り付けて210℃で1時間加熱することで,厚み80μmの樹脂フィルムを得た。 [0140] 得られた樹脂フィルムの一方の面に,2液硬化型のプライマー(商品名:アラコートAP2510,荒川化学工業社製)を塗布して塗膜を形成し,その塗膜を乾燥及び硬化させて,厚さ1μmのプライマー層を形成した。 次いで,プライマー層の上に,機能層形成用の溶液を塗布して塗膜を形成し,その塗膜を乾燥及び硬化させて,厚さ10μmの機能層(表面硬度及び紫外線吸収の機能を有する層)を形成して,実施例1の積層フィルムを得た。機能層形成用の溶液は,4官能アクリレート(商品名:A-TMMT,新中村化学社製)47.5質量部,3官能アクリレート(商品名:A-TMPT,新中村化学社製)47.5質量部,反応性ウレタンポリマー(商品名:8BR-600,大成ファインケミカル社製,40質量%品)12.5質量部,トリアジン系紫外線吸収剤(TINUVIN(登録商標)479,BASF社製)3質量部,光重合開始剤(IRGACURE(登録商標)184,チバスペシャリティケミカルズ社製)8質量部,レベリング剤(商品名:BYK-350,ビックケミージャパン社製)0.6質量部,及び,メチルエチルケトン107質量部を混合し,攪拌することで調製した。 ・・・(中略)・・・ [0143]屈曲性の評価 実施例1及び比較例1の積層フィルムを1cm×8cmのサイズに切断した。切断後の積層フィルムの機能層の面を内側にして半径r=1mmのロールに巻き付け,積層フィルムにおけるヒビ割れの有無を確認した。以下の基準で屈曲性を判定した。結果を表1に示す。 A:ヒビ割れが入らず,良好な外観を維持した。 C:ヒビ割れが5本以上生じた。 ・・・(中略)・・・ [0148][表1] ![]() 」 f 「請求の範囲 [請求項1] ポリイミド系高分子を含有する樹脂フィルムと, 該樹脂フィルムの少なくとも一方の主面側に設けられた機能層と, を備える積層フィルム。 ・・・(中略)・・・ [請求項10] 前記機能層が,紫外線吸収及び表面硬度のうち少なくともいずれか一方の機能を有する層である,請求項1?5,及び8のいずれか1項に記載の積層フィルム。 [請求項11] 前記樹脂フィルムと前記機能層との間に設けられたプライマー層を更に備える,請求項1?5,及び8?10のいずれか1項に記載の積層フィルム。」 g 「[図1] ![]() [図2] ![]() [図3] ![]() 」 (イ)甲3の記載から把握される発明 前記(ア)aで摘記した[0002]の「ディスプレイの・・・フレキシブル化」という記載から,[0004]に記載された「フレキシブルデバイス」とは,「フレキシブル化されたディスプレイ」のことと理解される。しかるに,前記(ア)aないしc,eないしgで摘記した甲3の記載から,樹脂フィルム10がポリイミドを含有し,機能層20として,紫外線硬化型のポリ(メタ)アクリレート類により形成されたハードコート層を採用した態様の第2の実施形態に係る発明を把握できるところ,当該発明の構成は次のとおりである。 「樹脂フィルム10と,樹脂フィルム10の一方の主面10aに積層された機能層20とから構成された積層フィルム30であって, 前記樹脂フィルム10は,ポリイミドを含有する,厚さが20μm?100μmの樹脂フィルムであり, 前記機能層20は,前記樹脂フィルム10上に紫外線硬化型のポリ(メタ)アクリレート類を含む溶液を塗布して塗膜を形成し,その塗膜を乾燥及び硬化させる方法により形成された,厚さが2μm?80μmのハードコート層であり, フレキシブル化されたディスプレイの表示部材又は前面板として用いるのに適した屈曲性を有する, 積層フィルム30。」(以下,「甲3発明」という。) イ 甲1 (ア)甲1の記載 甲1(特開2016-90728号公報)は,本件特許に係る出願の出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったものであるところ,当該甲1には,次の記載がある。(下線は,後述する「甲1記載事項」の認定に特に関係する箇所を示す。) a 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 基材フィルムの少なくとも一方の面に,アンカー層,ハードコート層が順次積層されたハードコートフィルムにおいて,前記アンカー層が,フルオレン系アクリレート樹脂を含有し,かつアンカー層の屈折率nが,n_(HC)<n<n_(BF)(n_(HC):ハードコート層の屈折率,n_(BF):基材フィルムの屈折率)の関係を満たし,さらに前記アンカー層の厚みが,光学膜厚で100?200nmであることを特徴とするハードコートフィルム。 【請求項2】 前記アンカー層の屈折率nが,1.56?1.62の範囲であることを特徴とする請求項1に記載のハードコートフィルム。 【請求項3】 前記アンカー層における前記フルオレン系アクリレート樹脂の含有量が,5?97重量%であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のハードコートフィルム。」 b 「【技術分野】 【0001】 本発明は,ポリエステルフィルム上にアンカー層,ハードコート層が順次積層されたハードコートフィルムに関し,詳しくは干渉縞の発生が十分に抑制されたハードコートフィルムに関する。 【背景技術】 【0002】 液晶ディスプレイ等の画像表示装置,あるいはタッチパネルにおける画像表示面には,耐擦傷性を向上させるために,基材フィルム上にハードコート層が設けられたハードコートフィルムや,さらに前記ハードコート層上に反射防止層が設けられた反射防止フィルムが通常装着されている。 ・・・(中略)・・・ 【0004】 また,前記のハードコート層は,紫外線硬化性のアクリル樹脂が一般的に用いられており,その屈折率は,通常1.49?1.53程度である。基材フィルムとしてポリエステルフィルムを用いた場合,ポリエステルフィルムの屈折率(通常1.62?1.68程度)とアクリル樹脂からなるハードコート層の屈折率との差が大きいことが,干渉縞を発生させる1つの要因となっていた。 ・・・(中略)・・・ 【発明が解決しようとする課題】 【0008】 本発明は,ハードコート層の接着性,透明性が良好で,かつ干渉縞が十分に抑制されたハードコートフィルムを提供することを目的とする。 【課題を解決するための手段】 【0009】 本発明者らは,上記の問題点に鑑み鋭意検討を重ねた結果,基材フィルムの少なくとも一方の面に,アンカー層,ハードコート層が順次積層されたハードコートフィルムにおいて,前記アンカー層が,フルオレン系アクリレート樹脂からなり,かつアンカー層の屈折率,ハードコート層の屈折率,及び基材フィルムの屈折率の大小関係を規定し,さらに前記アンカー層の厚みを特定範囲の光学膜厚に規定した。前記アンカー層に透明性の良好なフルオレン系アクリレート樹脂を用いることで,透明性,ハードコート層への接着性が極めて良好となる。さらに,特定の屈折率及び膜厚みを有するアンカー層を設けた構成とすることにより,前記基材フィルムと前記ハードコート層の屈折率差に起因する干渉縞を十分に抑制することができ,本発明の目的が達成されることを見出し,本発明をなすに至った。 【0010】 第1発明は,基材フィルムの少なくとも一方の面に,アンカー層,ハードコート層が順次積層されたハードコートフィルムにおいて,前記アンカー層が,フルオレン系アクリレート樹脂からなり,かつアンカー層の屈折率nが,n_(HC)<n<n_(BF)(n_(HC):ハードコート層の屈折率,n_(BF):基材フィルムの屈折率)の関係を満たし,さらに前記アンカー層の厚みが光学膜厚で100?200nmであることを特徴とするハードコートフィルムである。 【0011】 第2発明は,前記アンカー層の屈折率nが,1.56?1.62の範囲であることを特徴とする第1発明に記載のハードコートフィルムである。 ・・・(中略)・・・ 【発明の効果】 【0013】 ・・・(中略)・・・前記アンカー層に透明性の良好なフルオレン系アクリレート樹脂を用いることで,透明性,ハードコート層への接着性が極めて良好なハードコートフィルムとなる。さらに,特定の屈折率及び膜厚みを有するアンカー層を設けた構成とすることにより,前記基材と前記ハードコート層の屈折率差に起因する干渉縞を十分に抑制することができるものである。」 c 「【0015】 本発明における干渉縞は,例えば,ポリエチレンテレフタレートに代表される高屈折率基材フィルム上に,ハードコート層と基材フィルムとの屈折率差が大きい層を設けた場合に,前記ハードコート層と基材フィルムとの界面での反射率が高くなり,前記界面からの反射光とフィルム表面での反射光との干渉により発生するものである。干渉縞はハードコート層や基材の微妙な膜厚変化の影響を受け発生する。文献によってはこの現象を干渉縞,ニュートンリングと表現しているが,同じメカニズムで発生するムラの見え方が,必ずしも縞状やリング状とは限らず,特に膜厚が薄い(数μm以下)層があると,斑(まだら)状に観察されることもある。本発明ではこれらを総称して干渉縞と表現することとした。 【0016】 本発明のハードコ-トフィルムは,透明な基材フィルムとハードコートとの間にアンカー層を設け,前記基材フィルム,アンカー層,及びハードコート層の屈折率の大小関係を適正化することにより,各積層界面での反射率を低減させ,干渉縞が生じるのを防ぐようにしたものである。具体的には,基材フィルムの少なくとも一方の面に,アンカー層,ハードコート層が順次積層されてなるハードコートフィルムにおいて,次の条件を満足させればよい。 ・アンカー層がフルオレン系アクリレート樹脂を含有する。 ・アンカー層の屈折率nが,次の関係式を満たす。n_(HC)<n<n_(BF) (n_(HC):ハードコート層の屈折率,n_(BF):基材フィルムの屈折率) ・アンカー層の厚みが,光学膜厚で100?200nmである。 【0017】 (基材フィルム) 本発明で使用するハードコ-トフィルムの基材フィルムは,各種のプラスティックからなるフィルムであれば,特に限定されない。例えば,・・・(中略)・・・ポリイミド・・・(中略)・・・等よりなるフィルムが例示されるが,これらに限定されるものではない。取り扱い性,ハードコート層との接着力の向上,コストの面より好ましくはポリエステルフィルムを用いるとよい。 ・・・(中略)・・・ 【0019】 前記ポリエステルフィルムの屈折率は,1.63?1.70の範囲が好ましく,1.63?1.69の範囲がより好ましい。前記ポリエステルフィルムの屈折率が1.70を超えるとハードコート層の屈折率との差が0.2を超えてしまうので,干渉縞が発生しやすくなる。 ・・・(中略)・・・ 【0021】 (アンカー層) 本発明のハードコートフィルムには,基材フィルムとハードコート層の間にアンカー層を有する。前記アンカー層の屈折率nは,アンカー層上に形成するハードコート層および基材フィルムの屈折率と,n_(HC)<n<n_(BF)(n_(HC):ハードコート層の屈折率,n_(BF):基材フィルムの屈折率)の関係を満たすことが好ましい。また,さらに|n-n_(BF)|≦0.1の関係を満たすことが好ましい。なお,アンカー層は,光学的機能のみならず,ハードコート層との密着性を高める機能も有している。上記関係を満たすことができれば,樹脂材料のみで形成してもよいし,樹脂材料と無機微粒子などのフィラーとの混合材料で形成してもよい。 【0022】 前記アンカー層の屈折率nは,1.56?1.62であることが好ましい。屈折率がこの範囲を外れると,干渉縞の防止効果が発現しなくなる。さらに好ましい屈折率は,1.58?1.61である。 【0023】 前記アンカー層の光学膜厚は,100?200nmであることが好ましい。光学膜厚とは,各層の物理膜厚dと屈折率nを掛け合わせたn×dの値のことをいう。上記のアンカー層の屈折率の範囲と前記アンカー層の光学膜厚との組み合わせにより,干渉縞の防止効果がより高くなる。前記アンカー層の光学膜厚が100nm未満であると,ハードコート層の密着性が低下するだけでなく,干渉縞の防止効果も低減する。一方前記アンカー層の光学膜厚が200nmを超えた場合も,干渉縞の防止効果が低減する。 【0024】 本発明のアンカー層は,屈折率の高いポリマーをバインダーとして用いる。高屈折率バインダーと高屈折率微粒子の併用も勿論可能である。前記のポリマーは,環状基を有するポリマーであることが好ましい。環状基には,芳香族環基,複素環基および脂肪族環基が含まれる。この中で芳香族環基が特に好ましい。前記のポリマーに前記の芳香族環基を導入することにより,樹脂の屈折率を大きくすることができる。また,ベースポリマーとして,アクリル系樹脂を用いることにより,ハードコート層との密着性を向上させることができる。 【0025】 本発明では,透明基材フィルム(決定注:請求項1等の記載からみて,誤記であり,正しくは「ハードコート層」と解される。)より屈折率が高いアンカー層に,高屈折率のバインダーとしてフルオレン骨格を有する(メタ)アクリレート化合物を重合成分とするフルオレン系アクリレート樹脂を用いることが特徴である。 【0026】 本発明のアンカー層を形成する塗工液には,活性エネルギー線により重合する,上記のフルオレン骨格を有する(メタ)アクリレート化合物を含有する。前記フルオレン骨格を有する(メタ)アクリレート化合物は,その分子中に,(メタ)アクリレート基,(メタ)アクリロイルオキシ基を1?2個有しており,モノマーであっても,オリゴマーであってもよく,またその両方を含んでもよい。 【0027】 本発明に好ましく用いられるフルオレン骨格を有する(メタ)アクリレート化合物は下記一般式(1)?(3)で表される。 【0028】 【化1】 ![]() 【0029】 式中,Rは水素原子,メチル基を表し,R2は水素原子,メチル基,エチル基を表し,R3は水素原子または炭素数1?6のアルキル基を表し,炭素数1?6のアルキル基としては,メチル,エチル,n-プロピル,イソプロピル,n-ブチル,sec-ブチル,tert-ブチル,n-ペンチル,n-ヘキシル等の直鎖状または分岐状のアルキル基を表す。nは0?3の整数を表し,mは1?3の整数を表し,kは0?10の整数を表す。 ・・・(中略)・・・ 【0033】 また,アンカー層には,屈折率の調整のため,シリカ,酸化チタン,炭酸カルシウム,ケイ酸カルシウム,硫酸バリウム,リン酸カルシウム,酸化アルミニウム,酸化マグネシウム,酸化ジルコニウム,酸化セリウム,酸化錫,酸化インジウム,などを主成分とする無機微粒子や架橋高分子微粒子を含有してもよい。微粒子の平均粒径は,0.01?1.0μm,好ましくは0.01?0.5μmであることが好ましい。・・・(中略)・・・ 【0037】 (ハードコート層) 本発明のハードコート層を形成する塗工液には,活性エネルギー線により重合する化合物を含有する。活性エネルギー線により重合する化合物としてはラジカル重合反応を形成する(メタ)アクリロイル基を有する化合物や,カチオン重合反応を形成する化合物であることが好ましい。(メタ)アクリロイル基を有する化合物としては分子内に(メタ)アクリロイル基を1以上有する化合物を意味し,モノマーであっても,オリゴマーであってもよく,またその両方を含んでもよい。 ・・・(中略)・・・ 【0050】 ハードコート層の厚みは1μm以上20μm以下,好ましくは3μm以上15μm以下であることが好ましい。1μm未満ではハードコート性が十分得られず,塗膜に傷がつきやすい。一方,20μmを超えると,ハードコートフィルムがカールするなどの不具合が発生したり,製造コストのアップにもつながる。また,基材フィルムの両側にハードコート層を塗工する場合,その両層の膜厚差は30%以内に抑えることが好ましい。該範囲を超えると,ハードコートフィルムのカールが大きくなることで,次工程移行の取り扱い性に悪影響する可能性や,タッチパネルを組んだ際にタッチパネル機能に悪影響を及ぼす可能性がある。 【0051】 前記ハードコート層の屈折率は1.49?1.56の範囲,好ましくは1.51?1.56の範囲が好ましい。このような範囲から選択された屈折率を使用することにより,本発明の好適な実施が可能である。このような比較的低い範囲の屈折率のハードコート層を使用することにより,ハードコート層への多量の充填剤の使用をすることなく,製造費用の上昇をもたらすことがないという本発明の優位性を発揮することができる。」 d 「【0055】 (実施例1?7,比較例1?5) 厚さ100μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(屈折率1.673)上に,表1に記載の各アンカー剤塗工液を,それぞれ表2に記載の光学膜厚になるように塗布し,乾燥した。続いて,高圧水銀灯によりそれぞれ積算光量300mj/cm^(2)の紫外線を照射して塗膜を硬化させ,アンカー層を形成した。 【0056】 【表1】 ![]() 【0057】 その上に下記組成のハードコート層形成用塗工液を,乾燥膜厚3.0μmとなるように塗布し,乾燥した。続いて,高圧水銀灯により,それぞれ積算光量500mj/cm^(2)の紫外線を照射し,塗膜を硬化させてハードコート層(屈折率1.509)を形成し,実施例1?7及び比較例1?5のハードコートフィルムを得た。 【0058】 (ハードコート層形成用塗工液) ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート 100重量部 (6官能アクリル系紫外線硬化型樹脂,固形分100%) ポリメチルメタクリレート(末端メタクリレート) 20重量部 (平均分子量6000,固形分45%,トルエン希釈) 光重合開始剤(チバスペシャルティケミカルズ社製:イルガキュア184) 8重量部 溶剤 120重量部 (メチルエチルケトン/プロピレングリコールモノメチルエーテル=9/1) 合 計 248重量部 【0059】 各実施例,比較例の評価結果を表2に,各評価方法を下記に示す。 【0060】 【表2】 ![]() ・・・(中略)・・・ 【0062】 (アンカー層の光学膜厚) アンカー層の光学膜厚は,上記の膜厚測定により求められた,アンカー層の物理膜厚dと屈折率nを掛け合わせたn×dの値から求めた。 【0063】 (干渉縞の評価) 各実施例,比較例のハードコートフィルムを150mm×150mmのサイズにカットし,ハードコート層面と反対側の面を黒色スプレーで着色し,評価用サンプルを作製した。これらのサンプルを三波長形蛍光ランプ[松下電器産業(株),パルック,20W,昼白色]で照らして,ハードコート層面の,蛍光ランプ像の周りの干渉縞を観察し,下記の基準により干渉縞を判定した。 ◎:干渉縞がまったく認められない。 ○:干渉縞がほとんど認められない。 ×:干渉縞が明瞭に認められる。 「○」以上が実用レベルである。 ・・・(中略)・・・ 【0065】 (密着性の評価) 各実施例,比較例のハードコートフィルムのハードコート層面に,JIS K5600に準拠して,1mm^(2)のクロスカットを100個入れ,ニチバン(株)製セロハンテープを指先でしっかり押し付け,貼り付けた。その後前記テープを60度方向に0.5?1.0秒かけて剥離し,残存した前記ハードコート層の個数を計測し,下記の基準により密着性を評価した。 ◎:クロスカットの残存数が90個以上である。 ○:クロスカットの残存数が80?89個である。 ×:クロスカットの残存数が80個未満である。 「○」以上が実用レベルである。」 (イ)甲1に記載された技術事項 前記(ア)aないしdで摘記した記載から,甲1に次の技術事項が記載されていると認められる。 「基材フィルム上にハードコート層が設けられたハードコートフィルムにおいて,ハードコート層には,通常,屈折率が1.49ないし1.53程度の紫外線硬化性のアクリル樹脂が一般的に用いられているところ,基材フィルムとして,例えば屈折率が1.62ないし1.68程度のポリエステルフィルムを用いると,ハードコート層の屈折率と基材フィルムの屈折率の差が大きいことから,当該屈折率差に起因して干渉縞が生じることがあるが, 基材フィルムとハードコート層の間に,分子中に(メタ)アクリレート基,(メタ)アクリロイルオキシ基を1?2個有し,活性エネルギー線により硬化するフルオレン骨格を有する(メタ)アクリレート化合物を含有する塗工液を塗布,乾燥し,活性エネルギー線を照射して硬化することにより形成されたアンカー層であって,屈折率が基材フィルムの屈折率とハードコート層の屈折率の間にあり,光学膜厚(屈折率×物理膜厚)が100ないし200nmであるアンカー層を設けることによって,前記干渉縞の発生を抑制することができるとともに,基材フィルムとハードコート層の接着性を向上することができること, 及び, 前記アンカー層の屈折率は,酸化チタン,酸化アルミニウム,酸化マグネシウム,酸化ジルコニウム,酸化セリウム,酸化錫,酸化インジウムなどを主成分とする無機微粒子を含有させることによって,調整することができること。」(以下,「甲1記載事項」という。) (2)本件訂正発明1について ア 対比 (ア) 甲3発明の「樹脂フィルム10」,「『ハードコート層』である『機能層20』」,「積層フィルム30」,「フレキシブル化されたディスプレイ」及び「表示部材又は前面板」は,技術的にみて,本件訂正発明1の「基材フィルム」,「ハードコート層」,「ハードコートフィルム」,「フレキシブルディスプレイ」及び「フレキシブル部材」にそれぞれ対応する。 (イ) 甲3発明の「樹脂フィルム10」は,その一方の主面10a上に紫外線硬化型のポリ(メタ)アクリレート類を含む溶液が塗布されて塗膜が形成され,その塗膜を乾燥及び硬化させることで機能層20が形成されるのだから,「基材フィルム」といえる。 そして,甲3発明は,「ハードコート層」である「機能層20」(本件訂正発明1の「ハードコート層」に対応する。以下,「ア 対比」欄において,「」で囲まれた甲3発明の構成に付した()中の文言は,当該甲3発明の構成に対応する本件訂正発明1の発明特定事項を表す。)が,「樹脂フィルム10」(基材フィルム)上に積層されてなるのだから,「ハードコートフィルム」といえる。 したがって,甲3発明は,本件訂正発明1と,「基材フィルムと,ハードコート層とを備えたハードコートフィルム」である点で共通する。 (ウ) 甲3の[0054],[0058],[0059]等の記載からみて,甲3発明の「ポリイミドを含有する,厚さが20μm?100μmの樹脂フィルム」とは,専らポリイミドをバインダーとして用い,バインダー以外の成分(無機材料,酸化防止剤,離型剤,安定剤,ブルーイング剤,難燃剤,滑剤,レベリング剤等)を有していてもよい樹脂フィルムを表していると解されるところ,このような甲3発明の「樹脂フィルム10」は,「ポリイミドフィルム」といえる。 したがって,甲3発明は,本件訂正発明1と,「基材フィルムがポリイミドフィルムであ」る点で一致する。 (エ) 甲3発明は,「フレキシブル化されたディスプレイ」(フレキシブルディスプレイ)の「表示部材又は前面板」(フレキシブル部材)として用いるのに適した屈曲性を有している。ここで,「フレキシブル化されたディスプレイ」の「表示部材又は前面板」が,繰り返し屈曲されることは明らかであるから,甲3発明の「フレキシブル化されたディスプレイの表示部材又は前面板として用いるのに適した屈曲性を有する」とは,すなわち,「フレキシブル化されたディスプレイ」を構成する,繰り返し屈曲される「表示部材又は前面板」として使用するのに適した屈曲性を有することといえる。 そうすると,甲3発明は,本件訂正発明1と,「フレキシブルディスプレイを構成する,繰り返し屈曲されるフレキシブル部材として使用される」点で一致する。 (オ) 前記(ア)ないし(エ)に照らせば,本件訂正発明1と甲3発明は, 「基材フィルムと,ハードコート層とを備えたハードコートフィルムであって, 前記基材フィルムがポリイミドフィルムであり, フレキシブルディスプレイを構成する,繰り返し屈曲されるフレキシブル部材として使用される ハードコートフィルム。」 である点で一致し,次の点で相違する。 相違点1: 本件訂正発明1は,基材フィルムの少なくとも一方の主面側に積層された光学調整層を有し,当該光学調整層における基材フィルム側とは反対の主面側にハードコート層が積層されており,当該光学調整層が,活性エネルギー線硬化性成分を含有する組成物を硬化させた材料からなり,当該組成物が,活性エネルギー線硬化性成分として,1分子中に(メタ)アクリロイル基を3個以上有する多官能性(メタ)アクリレート系モノマーのみを含有し,光学調整層の屈折率が,ポリイミドフィルムの屈折率とハードコート層の屈折率との間の値であり,その厚さが,30nm以上,700nm以下であるのに対して, 甲3発明は,そのような光学調整層を有していない点。 イ 相違点1について (ア) 甲3発明の「樹脂フィルム10」に含有されるポリイミドの屈折率は,通常1.6ないし1.8程度である(例えば,各社のホームページによると,東レ・デュポン株式会社製のポリイミドである商品名「カプトン」の屈折率は1.68であり,三菱ガス化学株式会社製のポリイミドである商品名「ネオプリム」の屈折率は,Sシリーズで1.62,Rシリーズで1.67である。また,特開2005-252229号公報の【0084】には,「ポリイミドは,通常,屈折率が1.6?1.8程度である。」との記載がある。)。一方,紫外線硬化型のポリ(メタ)アクリレート類を含む溶液を塗布して塗膜を形成し,その塗膜を乾燥及び硬化させる方法により形成された甲3発明の「ハードコート層」の屈折率は,甲1記載事項にあるように,通常1.49ないし1.53程度である。したがって,含有成分等によっては,甲3発明の「樹脂フィルム10」と「ハードコート層」の屈折率差が,相当程度に大きくなることがあることは,当業者が容易に把握できる事項であり,そのような甲3発明において,「樹脂フィルム10」と「ハードコート層」の屈折率差に起因して,甲1記載事項にいう干渉縞が生じてしまうおそれがあることは,甲1の記載に接した当業者が当然に認識できることである。 そうすると,甲3発明において,「樹脂フィルム10」と「ハードコート層」の接着性を向上させるとともに,干渉縞の発生を抑制するために,「樹脂フィルム10」と「ハードコート層」の間に,「分子中に(メタ)アクリレート基,(メタ)アクリロイルオキシ基を1?2個有し,活性エネルギー線により硬化するフルオレン骨格を有する(メタ)アクリレート化合物を含有する塗工液を塗布,乾燥し,活性エネルギー線を照射して硬化することにより形成されたアンカー層であって,屈折率が基材フィルムの屈折率とハードコート層の屈折率の間にあり,光学膜厚(屈折率×物理膜厚)が100ないし200nmであるアンカー層」を設けることは,甲1記載事項に基づいて,当業者が容易に想到し得たことといえる。そして,当該構成の変更を行った甲3発明において,「樹脂フィルム10」(基材フィルム)の一方の主面10aには「アンカー層」が積層され,当該「アンカー層」における「基材フィルム10」側とは反対の主面側に「機能層20」(ハードコート層)が積層され,前記「アンカー層」は「分子中に(メタ)アクリレート基,(メタ)アクリロイルオキシ基を1?2個有し,活性エネルギー線により硬化するフルオレン骨格を有する(メタ)アクリレート化合物を含有する塗工液を塗布,乾燥し,活性エネルギー線を照射して硬化」した材料(活性エネルギー線硬化性成分を含有する組成物を硬化させた材料)からなり,その屈折率が,「樹脂フィルム10」(ポリイミドフィルム)の屈折率と「機能層20」(ハードコート層)の屈折率との間の値(最大に見積もっても1.49ないし1.8程度の範囲内にある。)であり,その物理的厚さ(=光学厚さ/屈折率)は,少なくとも約56(≒100/1.8)ないし約134(≒200/1.49)nmの範囲内にあるから,前記「アンカー層」は,相違点1に係る本件訂正発明1の「光学調整層」に相当し,前記構成の変更を行った甲3発明は,相違点1に係る本件訂正発明1の発明特定事項のうち,「基材フィルムの少なくとも一方の主面側に積層された光学調整層を有し,当該光学調整層における基材フィルム側とは反対の主面側にハードコート層が積層されており,光学調整層の屈折率が,ポリイミドフィルムの屈折率とハードコート層の屈折率との間の値であり,その厚さが,30nm以上,700nm以下である」との発明特定事項に相当する構成を具備しているといえる。 しかしながら,「分子中に(メタ)アクリレート基,(メタ)アクリロイルオキシ基を1?2個有し,活性エネルギー線により硬化するフルオレン骨格を有する(メタ)アクリレート化合物」は,1分子中に有する「(メタ)アクリレート基」(「(メタ)アクリロイル基」と同義である。)の数が最大で2個であって,本件訂正発明1の「1分子中に(メタ)アクリロイル基を3個以上有する多官能性(メタ)アクリレート系モノマー」には該当しない。したがって,甲3発明において,前記構成の変更を行ったとしても,相違点1に係る本件訂正発明1の発明特定事項のうち,「組成物が,活性エネルギー線硬化性成分として,1分子中に(メタ)アクリロイル基を3個以上有する多官能性(メタ)アクリレート系モノマーのみを含有」するとの発明特定事項に相当する構成には至らない。 (イ) なお,甲3の記載から,甲3発明における樹脂フィルム10とハードコート層の間に,プライマー層25を設けた第3の実施形態の積層フィルム30に係る発明を把握することができるが,当該発明に,甲1記載事項を適用しても,「組成物が,活性エネルギー線硬化性成分として,1分子中に(メタ)アクリロイル基を3個以上有する多官能性(メタ)アクリレート系モノマーのみを含有」するとの本件訂正発明1の発明特定事項に相当する構成には至らないことは,前記(ア)と同様である。 (ウ) 申立人は,令和元年6月10日提出の意見書において,甲1の【0026】の「本発明のアンカー層を形成する塗工液には,活性エネルギー線により重合する,上記のフルオレン骨格を有する(メタ)アクリレート化合物を含有する。前記フルオレン骨格を有する(メタ)アクリレート化合物は,その分子中に,(メタ)アクリレート基,(メタ)アクリロイルオキシ基を1?2個有しており,モノマーであっても,オリゴマーであってもよく,またその両方を含んでもよい。」という記載は,アンカー層を形成する塗工液について,「活性エネルギー線により重合する」「(メタ)アクリレート化合物を含有する」ものであることを記載しており,そのようなものの例として,「(メタ)アクリレート化合物は,その分子中に,(メタ)アクリレート基,(メタ)アクリロイルオキシ基を1?2個有しており,モノマーであっても,オリゴマーであってもよく,またその両方を含んでもよい。」と記載しているにすぎないと解釈するのが相当であり,「その分子中に,(メタ)アクリレート基,(メタ)アクリロイルオキシ基を1?2個有」するものを必須の成分とすることを記載したものとは理解できないなどと主張するとともに,活性エネルギー線硬化性成分として,1分子中に(メタ)アクリロイル基を3個以上有する多官能性(メタ)アクリレート系モノマーは,周知例1ないし周知例3に示されるように,本件特許に係る出願の出願前に周知であるから,相違点1は当業者が容易に想到し得ることである旨主張する。 しかしながら,申立人が指摘する甲1の【0026】は,アンカー層を形成するための塗工液が含有する「フルオレン骨格を有する(メタ)アクリレート化合物」について説明する記載である。また,【0025】の記載によると,前記「フルオレン骨格を有する(メタ)アクリレート化合物」は,アンカー層が含有する「フルオレン系アクリレート樹脂」の重合成分である。 ここで,アンカー層が含有する「フルオレン系アクリレート樹脂」に関して,甲1の記載をみてみると,「アンカー層の屈折率nは,1.56?1.62であることが好ましい。屈折率がこの範囲を外れると,干渉縞の防止効果が発現しなくなる。」(【0022】),「本発明のアンカー層は,・・・ベースポリマーとして,アクリル系樹脂を用いることにより,ハードコート層との密着性を向上させることができる。」(【0024】),「本発明では,・・・アンカー層に,高屈折率のバインダーとしてフルオレン骨格を有する(メタ)アクリレート化合物を重合成分とするフルオレン系アクリレート樹脂を用いることが特徴である。」(【0025】)との記載がある。これらの記載からは,アンカー層が「フルオレン系アクリレート樹脂」を含有することの技術上の意義は,アンカー層の材質として「アクリル系樹脂」を用いることによって,アクリル樹脂により形成されたハードコート層との密着性を向上させ,かつ,アンカー層の材質として用いる前記「アクリル系樹脂」として,高屈折率である「フルオレン系アクリレート樹脂」を選択することで,アンカー層の屈折率を,ハードコート層の屈折率(通常のアクリル樹脂を用いたもので1.49ないし1.53程度)と基材フィルム(ポリエステルフィルムで1.62ないし1.68程度)の屈折率の間の値に設定し,干渉縞の発生を抑制することにあると理解される。したがって,甲1記載事項において,アンカー層を,「フルオレン骨格を有する(メタ)アクリレート化合物」を含有する塗工液を用いて形成することは,「干渉縞の発生を抑制することができるとともに,基材フィルムとハードコート層の接着性を向上する」という効果を得るためには欠くことのできない必須の構成であるといえ(甲1の特許請求の範囲の記載についても参照。),活性エネルギー線硬化性成分としてフルオレン骨格を有しない(メタ)アクリレート化合物(申立人の主張に係る周知例1ないし3に記載された多官能性(メタ)アクリレート系モノマーは,これに該当する。)のみを含有する塗工液を用いて形成することは,甲1に記載された技術思想に反することというほかない。したがって,活性エネルギー線硬化性成分として,1分子中に(メタ)アクリロイル基を3個以上有する多官能性(メタ)アクリレート系モノマーが周知であることをもって,相違点1が当業者が容易に想到し得ることであるということはできない。 また,申立人が指摘する甲1の【0026】には,アンカー層が含有する「フルオレン系アクリレート樹脂」の重合成分である「フルオレン骨格を有する(メタ)アクリレート化合物」に関して,「フルオレン骨格を有する(メタ)アクリレート化合物は,その分子中に,(メタ)アクリレート基,(メタ)アクリロイルオキシ基を1?2個有しており,」と記載されているのであって,「1?2個有していてもよく,」という表現が用いられているわけではない。したがって,文言上,当該【0026】の記載は,アンカー層が含有する「フルオレン系アクリレート樹脂」の重合成分として用いられる「フルオレン骨格を有する(メタ)アクリレート化合物」が,分子中に(メタ)アクリレート基,(メタ)アクリロイルオキシ基を1?2個有するものであることを説明したものと解するのが自然である。また,甲1において例示された「フルオレン骨格を有する(メタ)アクリレート化合物」の具体例は,いずれも,分子中に(メタ)アクリレート基((メタ)アクリロイル基)を2個有するモノマーであって(【0028】),甲1には,アンカー層が含有する「フルオレン系アクリレート樹脂」の重合成分として,「分子中に(メタ)アクリロイル基を3個以上有する『フルオレン骨格を有する(メタ)アクリレート化合物』」を用いることは,記載も示唆もされていない。 そうすると,仮に,申立人が主張するように,甲1の【0026】の記載が,「その分子中に,(メタ)アクリレート基,(メタ)アクリロイルオキシ基を1?2個有」するものを必須の成分とすることを記載したものとまで解することができないとしても,少なくとも,甲1の記載から,活性エネルギー線硬化性成分として,分子中に(メタ)アクリレート基を3個以上有する「フルオレン骨格を有する(メタ)アクリレート化合物」のみを含有する塗工液を用いて形成したアンカー層や,分子中に(メタ)アクリレート基を3個以上有する「フルオレン骨格を有する(メタ)アクリレート化合物」と分子中に(メタ)アクリレート基を3個以上有する「フルオレン骨格を有しない(メタ)アクリレート化合物」のみを用いて形成したアンカー層を,把握することはできないというべきである。また,周知例1ないし3や申立人が提出した各証拠には,いずれにも,「活性エネルギー線硬化性成分として,分子中に(メタ)アクリレート基を3個以上有する「フルオレン骨格を有する(メタ)アクリレート化合物」のみを含有する塗工液を用いて形成したアンカー層や,分子中に(メタ)アクリレート基を3個以上有する「フルオレン骨格を有する(メタ)アクリレート化合物」と分子中に(メタ)アクリレート基を3個以上有する「フルオレン骨格を有しない(メタ)アクリレート化合物」のみを用いて形成したアンカー層が記載も示唆もされていない。したがって,たとえ周知技術を考慮したとしても,甲3発明において,樹脂フィルム10とハードコート層の間に,「活性エネルギー線硬化性成分として,1分子中に(メタ)アクリロイル基を3個以上有する多官能性(メタ)アクリレート系モノマーのみを含有する組成物」を用いて形成したアンカー層を設けることが,甲1の記載に基づいて,当業者が容易に想到し得たことといえないことに変わりはない。 以上のとおりであるから,申立人の主張は採用できない。 ウ 小括 本件訂正発明1は,甲3に記載された発明及び甲1に記載された事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (3)本件訂正発明2ないし7,9,10について 本件訂正後の請求項2ないし7,9,10は,請求項1の記載を引用する形式で記載されたものであって,本件訂正発明2ないし7,9,10は,本件訂正発明1の全発明特定事項を有し,これに限定を加えたものに相当するところ,本件訂正発明1が,たとえ周知技術を考慮したとしても(前記(2)イ(ウ)を参照。),甲3に記載された発明及び甲1に記載された事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない以上,同様の理由で,本件訂正発明2ないし7,10は,甲3に記載された発明及び甲1に記載された事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではなく,本件訂正発明9は,甲3に記載された発明,甲1に記載された事項及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。 3 まとめ 本件訂正発明1ないし7,9,10について,本件取消理由は成り立たない。 第5 取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議の申立ての理由について 申立人は,特許異議申立書において,本件特許発明1ないし10は,甲1に記載された発明と同一であって,特許法29条1項3号に該当するから,その特許は特許を受けることができない発明に対してされたものであるか,又は本件特許発明1ないし10は,甲1に記載された発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明することができたものであるから,その特許は,同条2項の規定に違反してされたものである(以下,「本件申立理由」という。)と,主張する。 そこで,当該本件申立理由について判断すると,甲1の記載から,概ね,前記第4 2(1)イ(イ)で認定した甲1記載事項におけるハードコートフィルムに対応する発明(以下,「甲1発明」という。)を把握することができる。 そして,本件訂正発明と当該甲1発明とを対比すると,両者は,少なくとも,次の点で相違する。 相違点2: 本件訂正発明では,「光学調整層」を形成するための「組成物」が,活性エネルギー線硬化性成分として,「1分子中に(メタ)アクリロイル基を3個以上有する多官能性(メタ)アクリレート系モノマー」のみを含有するのに対して, 甲1発明では,「アンカー層」を形成するための「塗工液」が,「分子中に(メタ)アクリレート基,(メタ)アクリロイルオキシ基を1?2個有し,活性エネルギー線により硬化するフルオレン骨格を有する(メタ)アクリレート化合物」を含有していることから,「塗工液」が含有する活性エネルギー線硬化性成分は,「1分子中に(メタ)アクリロイル基を3個以上有する多官能性(メタ)アクリレート系モノマー」のみではない点。 しかるに,前記相違点2は実質的な相違点であるから,本件訂正発明と甲1発明が少なくとも相違点2において相違する以上,本件訂正発明と甲1発明は同一ではない。 また,甲1の記載から,活性エネルギー線硬化性成分として,分子中に(メタ)アクリレート基を3個以上有する「フルオレン骨格を有する(メタ)アクリレート化合物」のみを含有する塗工液を用いて形成したアンカー層や,分子中に(メタ)アクリレート基を3個以上有する「フルオレン骨格を有する(メタ)アクリレート化合物」と分子中に(メタ)アクリレート基を3個以上有する「フルオレン骨格を有しない(メタ)アクリレート化合物」のみを用いて形成したアンカー層を,把握することはできないこと,また,周知例1ないし3や申立人が提出した各証拠には,いずれにも,「活性エネルギー線硬化性成分として,分子中に(メタ)アクリレート基を3個以上有する「フルオレン骨格を有する(メタ)アクリレート化合物」のみを含有する塗工液を用いて形成したアンカー層や,分子中に(メタ)アクリレート基を3個以上有する「フルオレン骨格を有する(メタ)アクリレート化合物」と分子中に(メタ)アクリレート基を3個以上有する「フルオレン骨格を有しない(メタ)アクリレート化合物」のみを用いて形成したアンカー層が記載も示唆もされていないことは,前記第4 2(2)イ(ウ)で述べたとおりである。そうすると,甲1発明において,相違点2に係る本件訂正発明の発明特定事項に相当する構成を具備したものとすることが,甲2を含め申立人が提出した証拠や周知例1ないし3の記載から把握される周知技術に基づいて,当業者が容易に想到し得たことであるということはできない。 以上のとおりであって,本件訂正発明は,甲1に記載された発明と同一でなく,かつ,甲1に記載された発明及び周知技術に基づいて,当業者が発明をすることができたものではないから,本件訂正発明について,本件申立理由は成り立たない。 第6 むすび 以上のとおりであるから,取消理由通知(決定の予告)により通知された本件取消理由及び特許異議申立書に記載された本件申立理由によっては,請求項1ないし7,9,10に係る特許を取り消すことはできない。 また,他に請求項1ないし7,9,10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 また,請求項8が訂正により削除されたことにより,請求項8に係る特許異議の申立ては,申立ての対象が存在しないものとなったため,特許法120条の8第1項で準用する同法135条の規定により却下する。 よって,結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 基材フィルムと、前記基材フィルムの少なくとも一方の主面側に積層された光学調整層と、前記光学調整層における前記基材フィルム側とは反対の主面側に積層されたハードコート層とを備えたハードコートフィルムであって、 前記基材フィルムがポリイミドフィルムであり、 前記光学調整層が、活性エネルギー線硬化性成分を含有する組成物を硬化させた材料からなり、 前記組成物が、前記活性エネルギー線硬化性成分として、1分子中に(メタ)アクリロイル基を3個以上有する多官能性(メタ)アクリレート系モノマーのみを含有し、 前記光学調整層の屈折率が、前記ポリイミドフィルムの屈折率と前記ハードコート層の屈折率との間の値であり、 前記光学調整層の厚さが、30nm以上、700nm以下であり、 フレキシブルディスプレイを構成する、繰り返し屈曲されるフレキシブル部材として使用される ことを特徴とするハードコートフィルム。 【請求項2】 前記光学調整層の屈折率が、1.45以上、1.75以下であることを特徴とする請求項1に記載のハードコートフィルム。 【請求項3】 前記ハードコート層の屈折率が、1.40以上、1.70以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のハードコートフィルム。 【請求項4】 前記ポリイミドフィルムの屈折率および前記ハードコート層の屈折率の中央値と、前記光学調整層の屈折率との差が、絶対値で0.025以下であることを特徴とする請求項1?3のいずれか一項に記載のハードコートフィルム。 【請求項5】 前記ポリイミドフィルムの厚さが、5μm以上、300μm以下であることを特徴とする請求項1?4のいずれか一項に記載のハードコートフィルム。 【請求項6】 前記ハードコート層の厚さが、0.5μm以上、10μm以下であることを特徴とする請求項1?5のいずれか一項に記載のハードコートフィルム。 【請求項7】 前記光学調整層が、金属酸化物微粒子を含有することを特徴とする請求項1?6のいずれか一項に記載のハードコートフィルム。 【請求項8】 (削除) 【請求項9】 前記ハードコート層が、活性エネルギー線硬化性成分を含有する組成物を硬化させた材料からなり、 当該活性エネルギー線硬化性成分が、炭素数2?4のアルキレンオキサイド単位を分子内に含有する多官能(メタ)アクリレート系モノマーと、当該多官能(メタ)アクリレート系モノマー以外の活性エネルギー線硬化性成分とを含有することを特徴とする請求項1?7のいずれか一項に記載のハードコートフィルム。 【請求項10】 前記基材フィルムの少なくとも一方の主面側には、粘着剤層が積層されていることを特徴とする請求項1?7および9のいずれか一項に記載のハードコートフィルム。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2019-06-18 |
出願番号 | 特願2017-507031(P2017-507031) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YAA
(G02B)
|
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 山▲崎▼ 和子、吉川 陽吾 |
特許庁審判長 |
中田 誠 |
特許庁審判官 |
関根 洋之 清水 康司 |
登録日 | 2018-03-16 |
登録番号 | 特許第6307205号(P6307205) |
権利者 | リンテック株式会社 |
発明の名称 | ハードコートフィルム |
代理人 | 早川 裕司 |
代理人 | 田岡 洋 |
代理人 | 早川 裕司 |
代理人 | 田岡 洋 |
代理人 | 村雨 圭介 |
代理人 | 村雨 圭介 |